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特開2025-16201高機能性モルタル組成物及びモルタル硬化体
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  • 特開-高機能性モルタル組成物及びモルタル硬化体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025016201
(43)【公開日】2025-01-31
(54)【発明の名称】高機能性モルタル組成物及びモルタル硬化体
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/04 20060101AFI20250124BHJP
   C04B 18/14 20060101ALI20250124BHJP
   C04B 22/06 20060101ALI20250124BHJP
   C04B 24/26 20060101ALI20250124BHJP
   C04B 20/00 20060101ALI20250124BHJP
   C04B 16/06 20060101ALI20250124BHJP
   C04B 14/48 20060101ALI20250124BHJP
【FI】
C04B28/04
C04B18/14 A
C04B22/06 Z
C04B24/26 E
C04B20/00 B
C04B16/06 Z
C04B14/48 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023119328
(22)【出願日】2023-07-21
(71)【出願人】
【識別番号】504159235
【氏名又は名称】国立大学法人 熊本大学
(71)【出願人】
【識別番号】000232922
【氏名又は名称】日油技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002251
【氏名又は名称】弁理士法人眞久特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 あゆみ
(72)【発明者】
【氏名】河村 涼央
【テーマコード(参考)】
4G112
【Fターム(参考)】
4G112MA00
4G112MD00
4G112PA15
4G112PA24
4G112PA29
4G112PB05
4G112PB31
(57)【要約】
【課題】所定形状に打設したモルタル打設体に常温養生のみを施すことで十分な圧縮強度を発現ができる高炉セメント含有の高機能性モルタル組成物を提供する。
【解決手段】高機能性モルタル組成物は、ポルトランドセメント、高炉スラグ微粉末、強度増進剤、減水剤、及び細骨材を含有するモルタル組成物であって、前記ポルトランドセメント100質量部に対し、比表面積が2250cm/g以上の前記高炉スラグ微粉末が最大でも70質量部、カルシュウムアルミネート含有の前記強度増進剤が3~20質量部、ポリカルボン酸エーテル含有の前記減水剤が0.2~1.0質量部、及び粒径が0.2mm以下の前記細骨材が5~30質量部配合されているものである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポルトランドセメント、高炉スラグ微粉末、強度増進剤、減水剤、及び細骨材を含有するモルタル組成物であって、
前記ポルトランドセメント100質量部に対し、比表面積が2250cm/g以上の前記高炉スラグ微粉末が最大でも70質量部、カルシュウムアルミネート含有の前記強度増進剤が3~10質量部、ポリカルボン酸エーテル含有の前記減水剤が0.2~1.0質量部、及び粒径が0.2mm以下の前記細骨材が5~30質量部配合されていることを特徴とする高機能性モルタル組成物。
【請求項2】
前記ポルトランドセメント、前記高炉スラグ微粉末、前記強度増進剤、前記減水剤、及び前記細骨材が粉末状であることを特徴とする請求項1に記載の高機能性モルタル組成物。
【請求項3】
請求項1に記載の高機能性モルタル組成物に、前記ポルトランドセメント、前記高炉スラグ微粉末、及び前記強度増進剤から成る結合材に対する水結合材比が28~33%となるように水が添加されていることを特徴とするモルタル。
【請求項4】
前記モルタル100体積部に対し、補強短繊維が繊維体積率0.5~1%添加されていることを特徴とする請求項3に記載のモルタル。
【請求項5】
請求項3に記載の前記モルタルが所定形状に打設固化されたモルタル打設体であって、
前記モルタル打設体が20℃±3℃で28日間気中養生されたときの圧縮強度が88N/mm以上に硬化されていることを特徴とするモルタル硬化体。
【請求項6】
請求項3に記載の前記モルタルが所定形状に打設固化されたモルタル打設体であって、
前記モルタル打設体が20℃±3℃で1日間の気中養生された後、20℃±3℃の水中で3~7日間水中養生され、更に20℃±3℃で28日間気中養生されたときの圧縮強度が150N/mm以上に硬化されていることを特徴とするモルタル硬化体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炉スラグ微粉末とポルトランドセメントとが混合された高炉セメントを用いた高機能性モルタル組成物、モルタル及びモルタル硬化体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高炉スラグ微粉末とポルトランドセメントとが混合された高炉セメントに水を加えたモルタルは、下記非特許文献1に記載されているように、長期強度が高く且つアルカリシリカ反応や塩分浸透の抑制に優れており、土木構造物等に用いられている。しかし、高炉セメントを用いたモルタルは、強度発現が遅れるため、その特性を十分に発揮するには、初期養生に手間をかける等の配慮が必要である。また、高炉セメントを用いたモルタルは、下記特許文献1に記載されているように、ポルトランドセメントのみを用いたモルタルに比較して、得られるモルタル打設体の圧縮強度が低くなる傾向がある。モルタル打設体の圧縮強度を向上するには、蒸気養生等の常温よりも高い温度での養生を要する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-125371号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】新日鉄住金技法第399号(2014)第115~120頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、所定形状に打設したモルタル打設体に常温養生のみを施すことで十分な圧縮強度を発現ができる高炉セメント含有の高機能性モルタル組成物、モルタル及びモルタル硬化体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の目的を達成するためになされた本発明は、ポルトランドセメント、高炉スラグ微粉末、強度増進剤、減水剤、及び細骨材を含有するモルタル組成物であって、前記ポルトランドセメント100質量部に対し、比表面積が2250cm/g以上の前記高炉スラグ微粉末が最大でも70質量部、カルシュウムアルミネート含有の前記強度増進剤が3~20質量部、ポリカルボン酸エーテル含有の前記減水剤が0.2~1.0質量部、及び前記細骨材が5~30質量部配合されていることを特徴とする高機能性モルタル組成物である。
【0007】
前記ポルトランドセメント、前記高炉スラグ微粉末、前記強度増進剤、前記減水剤、及び前記細骨材が粉末状であることにより、モルタル組成物の保存が容易となり好ましい。
【0008】
また、本発明は、前述したモルタル組成物に、前記ポルトランドセメント、前記高炉スラグ微粉末、及び前記強度増進剤から成る結合材に対する水結合材比が28~33%となるように水が添加されていることを特徴とするモルタルである。
【0009】
前記モルタル100体積部に対し、補強短繊維が繊維体積率0.5~1%添加されているモルタルにより、補強短繊維がモルタル硬化体に分散してモルタル硬化体の曲げタフネスの向上を図ることができる。
【0010】
更に、本発明は、前述したモルタルが所定形状に打設固化されたモルタル打設体であって、前記モルタル打設体が20℃±3℃で28日間気中養生されたときの圧縮強度が88N/mm以上に硬化されていることを特徴とするモルタル硬化体である。
【0011】
本発明は、前述したモルタルが所定形状に打設固化されたモルタル打設体であって、前記モルタル打設体が20℃±3℃で1日間の気中養生された後、20℃±3℃の水中で3~7日間水中養生され、更に20℃±3℃で28日間気中養生されたときの圧縮強度が150N/mm以上に硬化されていることを特徴とするモルタル硬化体である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高炉セメント含有のモルタル組成物から得られるモルタル打設体に気中養生のみを施すことにより高い圧縮強度を有するモルタル硬化体を得ることができ、現場での養生管理を簡単化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に係るモルタル硬化体について、鋼短繊維の混入の有無による曲げモーメントの相違を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明で用いるポルトランドセメントは、普通ポルトランドセメントを用いることができる。施工対象によっては、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、耐硫酸ポルトランドセメントのいずれかを選択して用いることができる。
【0015】
ポルトランドセメントと併用される高炉スラグ微粉末としては、比表面積が2250cm/g以上のものを用いる。高炉スラグ微粉末は、比表面積で4クラスに分けられており、クラス3000(2250cm/g以上、3500cm/g未満)、クラス4000(3500cm/g以上、5000cm/g未満)、クラス6000(5000cm/g以上、7000cm/g未満)、クラス8000(7000cm/g以上、10000cm/g未満)である。このような高炉スラグ微粉末は、比表面積が大きいほど反応性が高く、得られるモルタル硬化体の強度や耐久性等の要求特性に応じて選択することができる。本発明では、高炉スラグ微粉末として、クラス6000が好ましく、日鉄高炉セメント株式会社製のエスメントスーパー60P(商品名)を好適に用いることができる。この高炉スラグ微粉末の配合量は、ポルトランドセメント100質量部に対し、高炉スラグ微粉末を最大でも70質量部である。その下限は5質量部とすることが好ましい。好ましくは10~70質量部、更に好ましくは10~40質量部、更に一層好ましくは20~30質量部である。高炉スラグ微粉末の配合量が70質量部を超える場合、モルタルの混練性が著しく低下する。
【0016】
ポルトランドセメント及び高炉スラグ微粉末と併用される強度増進剤としては、カルシュウムアルミネート含有のものを用いることができる。このような強度増進剤としては、デンカ株式会社製のデンカES-Lを好適に用いることができる。このような強度増進剤の配合量は、ポルトランドセメント100質量部に対し、強度増進剤を3~10質量部、好ましくは5~6質量部である。強度増進剤の配合量が3質量部未満の場合、モルタル打設体の初期圧縮強度が低下し、配合量が10質量部を超えた場合、モルタルの硬化速度が著しく速くなり、モルタルの取り扱い性が低下する。
【0017】
また、減水剤としては、ポリカルボン酸エーテル含有のものを用いる。その他減水剤を用いたモルタル組成物に水を加えて混練すると、水がブリードアウトするブリージングは発生し易くなる。ポリカルボン酸エーテル含有の減水剤としては、ライオンスペシャルティケミカルズ株式会社製のレオパックG―200,G-200(いずれも商品名)やSKWイーストアジア株式会社製のMELFLUX6681F,MELFLUX5581F(いずれも商品名)を挙げることができる。特に、ライオンスペシャルティケミカルズ株式会社製のレオパックG-200を好適に用いることができる。このような減水剤の使用量は、ポルトランドセメント100質量部に対して0.2~1.0質量部、好ましくは0.2~0.5質量部、更に好ましくは0.2~0.3質量部である。この減水剤の使用量が、0.2質量部未満の場合、混練性が著しく低下し、1.0質量部を超える場合、ブリージングが発生し易くなる。
尚、ポリカルボン酸エーテル含有の減水剤に代えて、メラミンスルホン酸系減水剤を用いたとき、ブリージングが発生し易くなる。
【0018】
更に、細骨材としては、粒径が0.3mm以下の粒子が85%以上の珪砂を好ましく用いることができ、粒径が0.2mm以下の7号珪砂を好適に用いることができる。細骨材の使用量は、ポルトランドセメント100質量部に対して5~30質量部である。細骨材が5質量部未満の場合、水を加えて混練したモルタルが高粘度となって取り扱いが困難となり易く、30質量部を超える場合、ブリージングが発生し易くなる。
【0019】
これらモルタル組成物を構成する材料は粉末状であることが、材料を混合した状態での貯蔵や運搬での取り扱いが容易となり好ましい。また、粉末状の所定材料が混合されているので、現場で水を加えて混練するだけで簡単にペースト状のモルタルとすることができる。
【0020】
粉末状のモルタル組成物に加える水量は、ポルトランドセメント、高炉スラグ微粉末、及び強度増進剤から成る結合材(水硬材)に対する水結合材比が28~33%、好ましくは28~31%、更に好ましくは29~30%となる量である。水結合材比が28%未満の場合、混練性が低下し、水結合材比が33%を超える場合、得られるモルタル硬化体の圧縮強度が低下する。
【0021】
このように所定量の水が加えられて混練されたペースト状のモルタル100体積部に対し、補強短繊維を繊維体積率0.5~2%、好ましくは繊維体積率0.8~1.2%添加することにより、最終的に得られるモルタル硬化体の曲げタフネスを著しく向上でき好ましい。この補強短繊維は、鋼等の金属繊維、高分子繊維、天然繊維であってもよく、繊維長は5~15mm、好ましくは9~15mm、更に好ましくは10~13mmとすることがペースト状のモルタルに均一に補強短繊維を混練できる。尚、補強短繊維は、粉末状のモルタル組成物に加えておいてもよい。
【0022】
粉末状のモルタル組成物に所定量の水を加えて混練したペースト状のモルタルは、所定形状に打設し、直ちに養生されて硬化される。本発明に係るモルタルの打設体は、20℃±3℃で28日間気中養生されてモルタル硬化体となる。得らえたモルタル硬化体の圧縮強度は、88N/mm以上である。このように、本発明に係るモルタルの打設体が短時間の気中養生により硬化が進行する理由は、モルタル組成物中の強度増進材に含まれるカルシウムアルミネートが短期間で硬化し強度を発揮すると共に、高炉スラグ微粉末に含まれているCaOやAl等の成分によるエトリンガイト(3CaO・AL・3CaOSO・32HO)の生成とが相まって、強度発現がなされるものと推察される。但し、モルタル打設体に発生したエトリンガイトは、モルタル打設体の強度を早期に発現させるが、その発生量が過大となると、得られるモルタル硬化体を膨張させてヒビ割れの原因となるおそれがある。
【0023】
このような気中養生を施したモルタル硬化体よりも圧縮強度を増加するには、短期間の水中養生と気中養生とを併用することが好ましい。すなわち、ペースト状のモルタルを所定形状に打設固化したモルタル打設体を、20℃±3℃で1日間の気中養生した後、20℃±3℃の水中で3~7日間水中養生し、更に20℃±3℃で21日間気中養生することにより硬化する。このようにして硬化したモルタル硬化体の圧縮強度は150N/mm以上とすることができる。このように、本発明に係るモルタルの打設体が短期間の水中養生と気中養生とを併用することにより硬化が進行する理由は以下のように推察される。
すなわち、モルタルの硬化反応に水は必須である。モルタル打設体を打設後に直ちに空気に曝されてれ乾燥すると、硬化反応に必要な水が不足し、十分な強度を発現しない。そこで、モルタル打設体を打設後に水中養生して乾燥を防止した後、気中養生により十分な強度発現を達成している。モルタル打設体は、打設後数日間水中養生することにより、ある程度硬化反応が進行して構造が緻密化し、水中から取り出しても乾燥が抑制されて長期にわたって硬化反応が進行し強度が増進するからである。
【0024】
また、ペースト状のモルタル打設体が硬化するとき、水結合材成分と水との水和反応等により打設体が収縮することがあるが、本発明に係るモルタルでは、ペースト状の打設体から硬化体となるとき、収縮せずに微膨張を示すことから、収縮に起因するモルタル硬化体のヒビ割れを防止できる。
【実施例0025】
以下、本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0026】
実施例1
(原材料)
モルタル組成物の原材料は下記表1に示すものを用いた。これらは粉末状であって、各原材料を表2に示す割合で混合してモルタル組成物を調整した。
【0027】
【表1】
【0028】
【表2】
【0029】
表2に示す割合で各原材料を混合して調整した各モルタル組成物の合計量に対する水量の比率(水モルタル比)が27%となるように水を添加して混練したペースト状のモルタルを得た。このときの水結合材比を表3に示す。このペースト状のモルタルについて、JIS R5201の「セメントの物理試験方法」の凝結試験に準拠して凝結始発時間を測定し、表3に併記する。凝結始発時間は、モルタルが水和反応により流動性を失い、次第に硬くなりつつある初期時間を示すものである。この凝結始発時間が長すぎると、モルタルをアンカー用接着剤として使用した場合、アンカー筋の打設後に、アンカー筋に横打を受けたとき、アンカー筋の傾きが発生するおそれがあることから、70分以下であることが好ましい。また、このペースト状のモルタルを50mm×100mmの円柱状の形状に打設したモルタル打設物を1日静置して固化した後、20℃±3℃で28日間気中養生してモルタル硬化体とした。その圧縮強度をJIS-R 5210:2015に準拠して測定した。その結果を表3に「28D圧縮強度」として併記する。
【0030】
【表3】
表3から明らかなように、凝結始発時間が27分以下と短く、且つモルタル硬化体の圧縮強度は88N/mm以上であった。このように本実施例のモルタル硬化体は常温の気中養生のみで高い圧縮強度を得ることができる。また、ペースト状のモルタルから硬化するときの体積変化を測定すべく、調合1のモルタル打設物について、20℃±3℃で7日間気中養生して硬化したモルタル硬化体の体積変化をJSCE-F532-2013に準拠して測定したところ、0.17%と僅かに膨張していた。尚、表3の水結合材比は、水結合成分に対する水量の比率である。
【0031】
実施例2
表2の調合1のモルタル組成物に水モルタル比が27%となるように水を添加して混練したペースト状のモルタルを実施例1と同様にして打設して所定形状のモルタル打設体を得た。このモルタル打設体を20℃±3℃で1日間の気中養生した後、20℃±3℃の水中で3~7日間水中養生し、更に20℃±3℃で28日間気中養生してモルタル硬化体を得た。このモルタル硬化体の圧縮強度を実施例1と同様にして測定したところ、153N/mmであった。このように本実施例のモルタル硬化体は、常温養生のみで150N/mmを超える圧縮強度を得ることができる。
【0032】
実施例3
表2の調合1のモルタル組成物に水モルタル比が27%となるように水を添加して混練したペースト状のモルタル100体積部に対し、繊維長が13mmの鋼短繊維を繊維体率1%となるように添加し混練して繊維入りモルタルを得た。この繊維入りモルタルを所定形状に打設したモルタル打設体の断面を観察したところ、鋼短繊維の分散は良好であり、鋼短繊維の偏りやダマは見られなかった。
【0033】
繊維入りモルタルの流動性をJIS―R 5201:2015に準拠して測定した。ペースト状の繊維入りモルタルに振動・衝撃を与えないで測定した0打フロー値は275mmであった。同様にして、表2の調合1のモルタル組成物に水モルタル比が27%となるように水を添加して混練した、鋼短繊維添加前のペースト状のモルタルの0打フロー値は277mmであった。このように、繊維入りモルタルの流動性は良好であった。
【0034】
繊維入りモルタルを表2の調合1と同様にモルタル打設物を1日静置して固化した後、20℃±3℃で気中養生中の曲げタフネスを測定した。この曲げタフネスは、JIS―R 5201:2015に準拠して測定した。
その結果を図1に示す。同様にして表2の調合1のモルタル打設物についても同様にして気中養生中の曲げタフネスを測定し、その結果を図1に併記した。図1から明らかなように繊維入りモルタルのモルタル打設物は、繊維無添加のモルタルのモルタル打設物に比較して曲げタフネスは向上されている。
【0035】
実施例4、比較例1
表2に示す調整割合を表4に示すように変更し、水モルタル比が27%(水結合比29%)となるように水を添加して混練したペースト状のモルタルを実施例1と同様にして凝結始発時間を測定し、その結果を表4に併記する。また、ペースト状のモルタルを実施例1と同様にして打設して所定形状のモルタル打設体を得た。このペースト状のモルタルを50mm×100mmの円柱状の形状に打設したモルタル打設物を1日静置して固化した後、20℃±3℃で28日間気中養生してモルタル硬化体とした。その圧縮強度をJIS-R 5210:2015に準拠して測定した。その結果を表4に併記する。
【0036】
【表4】
【0037】
表4から明らかなように、本願発明の範囲内にある調合8~13は、凝結始発時間が70分以下で且つモルタル硬化体の圧縮強度が88N/mm以上であった。但し、強度増進剤が本願発明の範囲外となる比較例1の調合14では、凝結始発時間が130分以上と異常に長くなり実用に供し得ないものであり、且つ圧縮強度も88N/mm未満である。
ここで、高炉スラグ微粉末の配合量が普通ポルトランドセメント100質量部に対して70質量部超える配合量の場合、モルタルの混練性が著しく低下し、十分に混練でき難く且つ円柱状の形状にも打設できなかったのでモルタル硬化体の圧縮強度の測定は中止した。また、強度増進剤の配合量が10質量部を超えた場合、モルタルの硬化速度が著しく速くなり、モルタルの取り扱い性が著しく低下して円柱状の形状にも打設できなかったのでモルタル硬化体の圧縮強度の測定は中止した。
【0038】
比較例2
表2の調合1において、強度増進剤として、メタカオリン系強度増進剤であるメタマックス(MetaMax(商品名):SKWイーストアジア株式会社製)を用いた他は表2と同様の組成で表3と同様にしてモルタル硬化体の圧縮強度を測定した。その結果、66.8N/mmであり、88N/mm以下であった。
【0039】
比較例3
表2の調合1において、減水剤として、メラミンスルホン酸系減水剤であるMELMENT F10M(商品名(BASF社製))を用いた他は表2と同様の組成で表3と同様にしてモルタル打設物を成形したところ、ブリージングが発生したので以後の操作を中止した。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明に係る機能性モルタル組成物は、アンカー用、グラウト用に用いることができる。
図1