(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025016204
(43)【公開日】2025-01-31
(54)【発明の名称】漆喰材料、漆喰及び漆喰材料の調製方法
(51)【国際特許分類】
C04B 28/12 20060101AFI20250124BHJP
C04B 14/22 20060101ALI20250124BHJP
C04B 14/28 20060101ALI20250124BHJP
C04B 18/16 20230101ALI20250124BHJP
【FI】
C04B28/12
C04B14/22
C04B14/28
C04B18/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023119332
(22)【出願日】2023-07-21
(71)【出願人】
【識別番号】515194007
【氏名又は名称】株式会社瀬戸漆喰本舗
(71)【出願人】
【識別番号】523278179
【氏名又は名称】室井光学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100128277
【弁理士】
【氏名又は名称】專徳院 博
(72)【発明者】
【氏名】森村 毅
【テーマコード(参考)】
4G112
【Fターム(参考)】
4G112PA10
4G112PA17
4G112PA30
(57)【要約】
【課題】漆喰の使用先・用途の拡大に資する新規な漆喰材料、その漆喰材料を硬化させてなる漆喰及び漆喰材料の調製方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る漆喰材料は、生石灰及び/又は消石灰と骨材と水とを主成分とし、前記骨材がガラス粉末である。前記水には、Caイオン濃度が2~20g/Lである高Caイオン含有水溶液を好適に使用することができる。また本発明に係る漆喰材料において、生石灰及び/又は消石灰と骨材の重量比は、1:1~1:4がよい。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生石灰及び/又は消石灰と骨材と水とを主成分とし、前記骨材がガラス粉末である漆喰材料。
【請求項2】
前記水がカルシウムイオンを高濃度に含む高Caイオン含有水溶液であり、
前記高Caイオン含有水溶液のCaイオン濃度が2~20g/Lであることを特徴とする請求項1に記載の漆喰材料。
【請求項3】
前記生石灰及び/又は消石灰と骨材の重量比が、1:1~1:4であることを特徴とする請求項1又は2に記載の漆喰材料。
【請求項4】
前記生石灰及び/又は消石灰は、カキ殻を900~1200℃で焼成したものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の漆喰材料。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の漆喰材料からなる漆喰の上塗り材。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の漆喰材料が混錬され硬化した漆喰。
【請求項7】
骨材に石灰製砂を用いた漆喰材料が混錬され硬化した漆喰と比較して透水性が1/2以下であることを特徴とする請求項6に記載の漆喰。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の漆喰材料の水石灰比とJISR5201に準拠したフロー試験におけるフロー値との相関関係を取得し、
前記フロー値に基づき水の添加量を決定することを特徴とする請求項1又は2に記載の漆喰材料の調製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、漆喰材料、その漆喰材料を硬化させてなる漆喰及び漆喰材料の調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
漆喰は、消石灰に麻の繊維や藁の繊維(すさ)、草本や海藻から得る接着剤、水などを混練して作られ、二酸化炭素を吸収しながら硬化する(気硬性)塗壁材料として知られている。近年、合成樹脂や顔料等を混ぜた漆喰が商品化され、また漆喰の強度の向上、強度発現性の改善、あるいは調湿機能やホルムアルデヒドの吸着分解機能など漆喰の本来の特性に着目した新たな製品の開発など、漆喰の使用範囲・用途を拡大するための試みがなされている。
【0003】
例えば、特許文献1に、ひび割れやフレーキングを生じにくく強度発現性を改善した漆喰用組成物として、γ型2CaO・SiO2と水酸化カルシウムとを含有してなる漆喰用組成物が提案されている。また特許文献2に、空中、水中を問わず硬化して高強度になり用途の拡大を図ることができるしっくい系接着硬化材として、消石灰もしくは生石灰、およびその混合粉体を主原料として、これに珪酸アルカリ成分とアルカリ土類金属塩から選ばれた1種または2種以上の成分を配合して成るしっくい系接着硬化材が提案されている。
【0004】
本発明者らは、曲げ強度及び圧縮強度に優れる漆喰材料として高Caイオン含有水溶液を用いた漆喰材料を開発している(例えば特許文献3参照)。また高い強度及び靭性を有すると共に軽量化した漆喰材料及びそれを使用した漆喰パネルとして竹粉末を配合した漆喰材料及び漆喰パネルを開発している(例えば特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006-104039号公報
【特許文献2】特開2000-72520号公報
【特許文献3】特許第4843733号公報
【特許文献4】特許第6524857号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の通り漆喰の使用範囲・用途を拡大するための試みが種々なされているが、漆喰の使用先、用途を拡大すべくさらなる改善が期待されている。
【0007】
本発明の目的は、漆喰の使用先・用途の拡大に資する新規な漆喰材料、その漆喰材料を硬化させてなる漆喰及び漆喰材料の調製方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、生石灰及び/又は消石灰と骨材と水とを主成分とし、前記骨材がガラス粉末である漆喰材料である。
【0009】
本発明に係る漆喰材料において、前記水がカルシウムイオンを高濃度に含む高Caイオン含有水溶液であり、前記高Caイオン含有水溶液のCaイオン濃度が2~20g/Lであることを特徴とする。
【0010】
本発明に係る漆喰材料において、前記生石灰及び/又は消石灰と骨材の重量比が、1:1~1:4であることを特徴とする。
【0011】
本発明に係る漆喰材料において、前記生石灰及び/又は消石灰は、カキ殻を900~1200℃で焼成したものであることを特徴とする。
【0012】
本発明は、前記漆喰材料からなる漆喰の上塗り材である。
【0013】
本発明は、前記漆喰材料が混錬され硬化した漆喰である。
【0014】
本発明に係る漆喰は、骨材に石灰製砂を用いた漆喰材料が混錬され硬化した漆喰と比較して透水性が1/2以下であることを特徴とする。
【0015】
本発明は、前記漆喰材料の水石灰比とJISR5201に準拠したフロー試験におけるフロー値との相関関係を取得し、前記フロー値に基づき水の添加量を決定することを特徴とする前記漆喰材料の調製方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、漆喰の使用先・用途の拡大に資する新規な漆喰材料、その漆喰材料を硬化させてなる漆喰及び漆喰材料の調製方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施例1に記載のガラス粉末漆喰の重量増減率測定結果である。
【
図2】本発明の実施例1に記載のガラス粉末漆喰の体積増減率測定結果である。
【
図3】本発明の実施例1に記載のガラス粉末漆喰の密度測定結果である。
【
図4】本発明の実施例1に記載のガラス粉末漆喰の曲げ強度及び圧縮強度測定結果である。
【
図5】本発明の実施例1に記載のガラス粉末漆喰材料の水石灰比とフロー値との関係を示す図である。
【
図6】本発明の実施例2に記載のガラス粉末高Ca漆喰の重量増減率測定結果である。
【
図7】本発明の実施例2に記載のガラス粉末高Ca漆喰の体積増減率測定結果である。
【
図8】本発明の実施例2に記載のガラス粉末高Ca漆喰の密度測定結果である。
【
図9】本発明の実施例2に記載のガラス粉末高Ca漆喰の曲げ強度及び圧縮強度測定結果である。
【
図10】本発明の実施例2に記載のガラス粉末高Ca漆喰材料のCaイオン濃度とフロー値との関係を示す図である。
【
図11】本発明の実施例2に記載のガラス粉末高Ca漆喰の透水性試験結果である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明において各種漆喰を次のように定義する。従来の漆喰と同様に、石灰、細骨材を含む漆喰材料を混練する液体に水を使用するものを普通漆喰、水の代わりに高Caイオンを含有する水溶液(高Caイオン含有水溶液)を使用するものを高Ca漆喰、ガラス粉末を含有する漆喰材料を混練する液体に水を使用するものをガラス粉末漆喰、ガラス粉末を含有する漆喰材料を混練する液体に高Caイオン含有水溶液を使用するものをガラス粉末高Ca漆喰と呼ぶ。漆喰材料は、各材料が混錬される前のものをいい、各材料が混錬された漆喰組成物も含まれる。漆喰組成物が硬化したものを漆喰という。
【0019】
本発明の第1実施形態の漆喰材料は、生石灰及び/又は消石灰と骨材と水とを主成分とし、骨材がガラス粉末であるガラス粉末漆喰材料である。本漆喰材料は、骨材としてガラス粉末を含有する点に特徴がある。なお、本漆喰材料において、上記成分の他、漆喰において一般に使用される麻の繊維や藁の繊維(すさ)、草本や海藻から得る接着剤又は合成樹脂からなる接着剤等が含まれていてもよい。
【0020】
本漆喰材料において、石灰は、生石灰又は消石灰又は生石灰と消石灰との混合物を使用することができる。生石灰又は消石灰の素材として、カキ殻やホタテ貝などの貝殻を焼成したものを使用することもできる。
【0021】
ガラス粉末の素材は、特に限定されるものではなく光学ガラス、青板ガラス、白板ガラスなど種々のガラス粉末を使用することができる。光学ガラスは、光学機器に使用するレンズなどに使用される。青板ガラスは、ソーダガラスとも呼ばれ、窓ガラス、ガラス食器、自動車ガラス、ルーペ等に使用される。白板ガラスは、液晶パネル、測量計、コピー機、強化ガラスなどに使用される。ガラス粉末は、1種類のガラス粉末からなるものであっても、2種類以上のガラス粉末が混合されたものであってもよい。
【0022】
ガラス粉末の一次粒子径は、特に限定されるものではないが、0.1~1mm程度のものを使用することができる。当該漆喰材料を上塗り材に使用する場合には、ガラス粉末の粒径は小さいものが好ましく、一次粒子径が0.5~100μm程度のものを好適に使用することができる。
【0023】
ガラス粉末は、ガラスを粉砕して製造する他、ガラス製品を製造する過程、例えば研磨する過程で発生するガラス粉末などを使用することができる。例えばレンズ加工工程で発生するレンズ粉末は、光学ガラスの粉末であり、通常、廃棄処分されるものであるが、漆喰材料の原料に用いることで有効活用ができる。
【0024】
レンズ加工工程で発生するレンズ粉末などは、通常、水と混ざった状態で排出されるが、本漆喰材料において使用するガラス粉末は、このような水と混ざったガラス粉末、水と混ざったガラス粉末の脱水物、水と混ざったガラス粉末を乾燥させた乾燥物であってよい。要すればガラス粉末の含水率は、特に限定されるものではない。ガラス粉末の脱水物、乾燥物は、塊りとなっていることが多く、このようなものは解砕し使用することが好ましい。
【0025】
本漆喰材料は、生石灰及び/又は消石灰と骨材であるガラス粉末と水とを主成分とするため、含水率の異なるガラス粉末を使用すれば水石灰比が異なり、漆喰の品質も一定しなくなる。これに関しては、漆喰材料における水石灰比とJISR5201に準拠したフロー試験におけるフロー値との相関関係を取得し、フロー値に基づき水の添加量を決定することで解決することができる。これについては後述する。
【0026】
本漆喰材料は、ガラス粉末の含有量が多くなるに従って硬化させたときの乾燥速度が速くなり、また密度が大きくなる。またガラス粉末の含有量が多くなるに従って中性化が進行し易く、強度が上昇する。
【0027】
本漆喰材料におけるガラス粉末の含有量は、重量比で石灰:ガラス粉末=1:1~1:4が好ましく、重量比で石灰:ガラス粉末=1:3~1:4がより好ましい。この石灰:ガラス粉末の重量比が配合比である。配合比が1:1未満になると漆喰中の石灰の影響が大きくひび割れが生じやすくなる。一方、配合比が1:4を超えると漆喰としての石灰と骨材との結合力が小さくなるため、強度が小さく脆くなる傾向が見られる。
【0028】
本漆喰材料は、石灰、ガラス粉末、水を使用時に混練して使用するものであってもよく、また、予め石灰、ガラス粉末、水を混練したもの(ガラス粉末漆喰組成物)であってもよい。なお、予め石灰、ガラス粉末、水を混錬したものは、気密に梱包して保管され、使用時に練り直したうえで使用される。
【0029】
上記構成からなる漆喰材料を混錬してなる漆喰組成物は、きめ細かく滑らかであり、特に配合比が1:3の漆喰組成物は、練りが非常に滑らかで塗布し易く付着性も大変よい。このため上塗り材として好適に使用することができる。また本漆喰組成物を硬化させてなるガラス粉末漆喰は、普通漆喰に比較して強度に優れる。さらに本漆喰組成物を硬化させてなるガラス粉末漆喰は、防水性に優れ、特に配合比が1:3のガラス粉末漆喰は、殆ど水を通さないことから外壁や水回りの仕上げ材として好適に使用することができる。
【0030】
本発明の第2実施形態の漆喰材料は、本発明の第1実施形態の漆喰材料の水が高Caイオン含有水溶液に置換された漆喰材料である。すなわち、本発明に係る漆喰材料は、生石灰及び/又は消石灰と骨材であるガラス粉末と高Caイオン含有水溶液とを主成分とするガラス粉末高Ca漆喰材料である。ここで高Caイオン含有水溶液とは高濃度のCaイオンを含む液体を言う。なお、本漆喰材料も本発明の第1実施形態の漆喰材料と同様に、上記成分の他、漆喰において一般に使用される麻の繊維や藁の繊維(すさ)、草本や海藻から得る接着剤又は合成樹脂からなる接着剤等が含まれていてもよい。
【0031】
生石灰(CaO)や消石灰(Ca(OH)2)の水に対する溶解度は、0.2%程度である。本実施形態の漆喰材料においては、CaOやCa(OH)2が0.2%よりもさらに多く溶解したものを使用する。このため、例えば、先ずCaOを溶解させやすい酢酸水溶液などに溶解させた原液を製造する。
【0032】
そしてこの原液、又はこの原液を水で希釈した水溶液を製造し、これらを漆喰材料の混練水として使用する。この混練に使用される水溶液は、Caイオンが高い濃度で存在するため、本発明においては、高Caイオン含有水溶液と呼ぶ。なお、高Caイオン含有水溶液の水は特に限定されず、上水、イオン水又は純水などいずれであってもよい。
【0033】
高Caイオン含有水溶液は、例えば、10%酢酸水溶液を用いると重量百分率濃度でCaOを常温で、Caベースで3.2%(32g/L)程度溶解させることができる。CaOやCa(OH)2の溶解が困難である場合は、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)を添加することができる。また、酢酸水溶液以外にクエン酸水溶液、ギ酸水溶液などの酸性水溶液を用いて、CaO及び/又はCa(OH)2を溶解させてもよい。但し、溶解能力等を考えれば酢酸水溶液が好ましい。また、使用に際し、高Caイオン含有水溶液のpHを調整することもできる。
【0034】
高Caイオン含有水溶液の作製の際に使用するCaO及び/又はCa(OH)2は、特定のCaO及び/又はCa(OH)2に限定されるものではなく、後述の実施例で示すように900~1200℃で焼成したカキ殻粉末を使用することができる。カキ殻に代え、他の貝殻を焼成し使用することもできる。
【0035】
高Caイオン含有水溶液を使用して得られるガラス粉末高Ca漆喰は、従来の漆喰に比較して曲げ強度・圧縮強度が高く、また防水性に優れる。高Caイオン含有水溶液のCaイオンの量は、特定の値のものに限定されることなく使用可能であり、Caイオンが約2~20g/Lのものを使用することができ、Caイオン濃度が6~20g/Lが好ましく、軟度・強度・物性・中性化等の総合的な結果、さらには経済性の点からCaイオンが8~10g/LのCaイオン含有水溶液がより好ましい。
【0036】
高Caイオン含有水溶液を含む本漆喰材料においてもガラス粉末の含有量は、第1実施形態の漆喰材料と同様に、配合比が1:1~1:4が好ましく、配合比が1:3~1:4がより好ましい。
【0037】
本漆喰材料は、石灰、ガラス粉末、高Caイオン含有水溶液を個別に在庫しておき、使用時にこれらを混練して使用するものであってもよく、また、予め石灰、ガラス粉末、高Caイオン含有水溶液を混練したもの(ガラス粉末高Ca漆喰組成物)であってもよい。なお、予め石灰、ガラス粉末、高Caイオン含有水溶液を混錬したものは、気密に梱包して保管され、使用時に練り直したうえで使用される。
【0038】
上記構成からなる漆喰材料は、第1実施形態の漆喰材料と同様に、きめ細かく滑らかであり、特に配合比が1:3のガラス粉末高Ca漆喰組成物は、練りが非常に滑らかで塗布し易く付着性も大変よい。このため上塗り材として好適に使用することができる。また本漆喰組成物を硬化させてなるガラス粉末高Ca漆喰は、防水性に優れ、特に石灰比が1:3のガラス粉末高Ca漆喰は、殆ど水を通さないことから外壁や水回りの仕上げ材として好適に使用することができる。また本漆喰組成物を硬化させてなるガラス粉末高Ca漆喰は、曲げ強度・圧縮強度に優れる。
【0039】
次に本発明に係る漆喰材料の調製方法の一実施形態を示す。本漆喰材料は、生石灰及び/又は消石灰と骨材であるガラス粉末と水又は高Caイオン含有水溶液とを主成分とする。本漆喰材料において使用するガラス粉末は、前記の通り種々の形態を有し含水率も一定しない。ガラス粉末の含水率が異なれば当然、漆喰材料の水石灰比が異なり、漆喰の品質も一定しなくなる。本調製方法では、以下の方法で漆喰の品質を安定させる。
【0040】
漆喰材料の水石灰比とJISR5201に準拠したフロー試験におけるフロー値との相関関係を取得し、当該フロー値に基づき水の添加量を決定する。具体例は、後述の実施例に記載する。水石灰比は、石灰に対する水の量(重量比×100%)である。
【0041】
漆喰材料の水石灰比とJISR5201に準拠したフロー試験におけるフロー値との相関関係を取得し、フロー値に基づき水の添加量を決定する方法は、ガラス粉末の種類が代わっても適用することができ、また水に高Caイオン含有水溶液を使用する場合にも適用することができる。
【0042】
種類の異なるガラス粉末を使用する場合には、それを使用した漆喰材料の水石灰比とJISR5201に準拠したフロー試験におけるフロー値との相関関係、高Caイオン含有水溶液を使用する場合には、それを使用した漆喰材料の水石灰比とJISR5201に準拠したフロー試験におけるフロー値との相関関係を予め取得し、それを使用すればよい。
【0043】
以上のとおり、好適な実施形態を説明したが、当業者であれば、本明細書を見て、自明な範囲内で種々の変更及び修正を容易に想定するであろう。従って、そのような変更及び修正は、請求の範囲から定まる発明の範囲内のものと解釈される。
【実施例0044】
実施例1:ガラス粉末漆喰材料及びガラス粉末漆喰
代表的なガラス粉末漆喰材料の作製要領を示す。石灰には、表1に示す生石灰(中山石灰工業株式会社製;粒度0.15mm以下)を使用した。
【表1】
【0045】
ガラス粉末には、光学ガラスレンズを加工する際に発生したレンズ粉末を使用した。ここで使用した光学ガラスレンズは、エコガラスと言われる環境対策ガラス(ECO OPTICAL GLASS)であり、ケイ素を主成分とし、鉛、ヒ素を含まないガラス材である。レンズ粉末の一次粒子径は、電子顕微鏡を用いて写真撮影を行い、そこに撮影された粒子径を測定した結果、小さいもので短軸径(短径)×長軸径(長径)が0.5×1.0μm、大きいもので70×80μm、平均的なもので5~10×10~20μm程度であり、粒子の表面はギザギザであった。
【0046】
レンズ粉末の比重ρは、実測の結果2.64g/cm3であった。この値は、一般的な砂岩・砂等の比重2.65~2.67g/cm3と同等である。当該レンズ粉末は、水を僅かに含み粒状(凝集物)となっていたので乾燥させた後、手でつぶしながら0.5mm篩に掛け、篩通過物を使用した。
【0047】
石灰100重量部と、ガラス粉末300重量部と、水130重量部とを混錬しガラス粉末漆喰材料(ガラス粉末漆喰組成物)を得た。当該漆喰材料は、配合比が1:3、水石灰比が130%である。同じ要領で石灰:ガラス粉末の配合比を1:1~1:4、水石灰比を120~240%の範囲で変化させガラス粉末漆喰材料(ガラス粉末漆喰組成物)を得た。
【0048】
ガラス粉末漆喰の試験体は、以下の要領で作製した。上記手順で得られたガラス粉末漆喰組成物を3連型枠に半分程度まで流し込み、型枠の隅々までガラス粉末漆喰組成物が行き渡るように突き棒で万遍なく突いた後、型枠一杯までガラス粉末漆喰組成物を流し込み、突き棒の底が前回の1/3の深さとなるまで万遍なく突いた。さらに型枠の表面が隠れるまで、ガラス粉末漆喰組成物を流し込み、数時間放置した。その後、型枠の上部を平行棒でカットし、型枠から取り出し、養生ケースに入れ、気中養生室で所定の日数、気中養生し、試験体を得た。試験体は、40×40×160mmの角柱状である。
【0049】
ガラス粉末漆喰の重量増減率、体積増減率、密度の測定結果を
図1~
図3に示した。
図1及び
図2におけるキーの説明における表示は、配合比及び試験体の番号を意味する。例えば1:2-2は、配合比が1:2の2本目の試験体を意味する。重量増減率は、脱型時の試験体の重量に対する気中養生35~37日後の重量割合とした。密度は、気中養生40日後の試験体の重量を、試験体の長さと幅と高さをディジタルノギスを用いて測定した体積で除算し求めた。
【0050】
図1に示すように重量増減率は、配合比に大きく影響されず同じような減少カーブを示し、気中養生35日後の試験体の重量減少率は約24~28%であった。体積増減率は、配合比に係わらず経過日数に対して若干減少し、気中養生35日後の試験体の体積収縮率は、
図2に示すように配合比が1:2で-4%となっているが、他は-2~-0.5%であった。ガラス粉末漆喰の密度は、
図3に示すようにガラス粉末の配合比に比例して増加し、配合比が1:1で約1.16g/cm
3、配合比が1:4で約1.34g/cm
3であった。
【0051】
強度試験の結果を
図4に示した。試験体の養生期間は40日間である。強度試験は、JISA1171(ポリマーセメントモルタルの試験方法)に準じた方法で行った。
【0052】
曲げ強度は、
図4に示すように配合比が1:1で約0.23N/mm
2、配合比が1:4で約0.96N/mm
2であり、配合比に比例して増加した。圧縮強度は、
図4に示すように配合比が1:2で0.8N/mm
2であったが、配合比が1.1で約1.28N/mm
2、配合比が1.4で約1.62N/mm
2であり、全体的には配合比に比例して増加した。
【0053】
図5は、配合比を1:3とし、漆喰材料の水石灰比を80~260%の範囲で変化させ取得したフロー値(mm)である。フロー値は、JISR5201に規定されたフロー試験に準拠して行った。具体的には以下の手順でフロー値を得た。内径35mm、高さ50mmの塩ビパイプをテーブルの上に立て、塩ビパイプ内に漆喰組成物を匙で静かに満杯になるまで充填した。その後、塩ビパイプ内の漆喰組成物を突き棒で15回満遍なく突いた。その後、塩ビパイプの上端の盛り上がった漆喰組成物を、突き棒を用いてカットし平らにした後、素早くかつ静かに塩ビパイプを引き上げ抜いた。テーブル上に広がった漆喰組成物の最大径とその径の直角方向の径を測定し、その平均値を1回目とし、同じ試験を2回繰り返し、1回目と2回目の平均値をフロー値とした。
【0054】
図5から水石灰比が大きくなるに従ってフロー値が指数関数的に大きくなることが分かる。
図5の水石灰比とフロー値との関係は、式(1)で表される。
Y=13.55exp(0.0082X)・・・(1)
ここでY:フロー値(mm)
X:水石灰比(%)
【0055】
この結果から水石灰比が130%の場合、フロー値は39.35(mm)となる。よってガラス粉末の含水率が不明な場合であって、水石灰比が130%の漆喰材料を製造する場合には、フロー値が39.35(mm)となるように水を添加すればよい。
【0056】
実施例2:ガラス粉末高Ca漆喰材料及びガラス粉末高Ca漆喰
ガラス粉末高Ca漆喰材料の作製要領を示す。表1に示す生石灰(中山石灰工業株式会社製;粒度0.15mm以下)100重量部と、実施例1に示したガラス粉末300重量部と、高Caイオン含有水溶液200重量部とを混練し、ガラス粉末高Ca漆喰材料を得た。高Caイオン濃度は、0,4,8,12,16及び20g/Lとした。ガラス粉末高Ca漆喰の試験体は、実施例1に記載のガラス粉末漆喰と同じ要領で作製した。
【0057】
高Caイオン含有水溶液は、以下の要領で作製した。酢酸(和光純薬工業株式会社製一級、コードNo.014-00266)100gを900gの純水に加えた酢酸水溶液(10重量%濃度)に、カキ殻を1200℃で焼成して得られた白色の粉末30gを数回に分けて加え完全に溶解させた。この溶液を半日放置した後に上澄み液を採取し、これを高Caイオン含有水溶液(原液)とした。上記原液に水を加え、高Caイオン含有水溶液を得た。カキ殻の焼成温度は、900~1200℃とすることができる。カキ殻を1200℃で焼成して得られた白色の粉末の成分分析結果を表2に示す。
【0058】
【0059】
ガラス粉末高Ca漆喰の重量増減率、体積増減率、密度の測定結果を
図6~
図8に示した。重量増減率、体積増減率、密度の定義、測定要領は実施例1に記載のガラス粉末漆喰と同じである。重量増減率、体積増減率の測定は、気中養生30日後に実施し、密度の測定は、気中養生35日後に実施した。
【0060】
図6に示すように重量増減率は、Caイオン濃度が0g/Lで約-27.5%、Caイオン濃度が20g/Lで約-21.6%であり、Caイオン濃度が増加するに伴い減少率が小さくなる傾向を示した。
【0061】
図7に示すように体積増減率は、Caイオン濃度が0で約-0.6%、Caイオン濃度が20g/Lで約-8.0%であり、Caイオン濃度が増加するに伴い体積減少率が増加する傾向を示した。
【0062】
図8に示すように密度は、Caイオン濃度が0g/Lで約1.24g/cm
3、Caイオン濃度が20g/Lで約1.50g/cm
3であり、Caイオン濃度が増加するに伴い密度は増加した。
【0063】
曲げ強度及び圧縮強度を
図9に示した。曲げ強度は、Caイオン濃度が0g/Lで約0.6N/mm
2、Caイオン濃度が20g/Lで約0.92N/mm
2であり、Caイオン濃度の増加に伴い増加した。圧縮強度は、Caイオン濃度が0g/Lで約1.36N/mm
2、Caイオン濃度が12g/Lで約1.5N/mm
2、Caイオン濃度が20g/Lで約2.13N/mm
2であった。圧縮強度は、Caイオン濃度が12g/L以降急激に増加した。
【0064】
図10にCaイオン濃度とフロー値との関係を示した。このガラス粉末高Ca漆喰組成物は、配合比が1:3,水石灰比が200%である。フロー試験は、実施例1と同じ要領で直径(内径)が55mmと35mmの2種類の塩ビパイプを用いて行った。Caイオン濃度とフロー値との関係を表す曲線の傾向は、塩ビパイプの直径55mmと35mmとで非常によく似ており、共にフロー値は、Caイオン濃度に比例して上昇した。
【0065】
Caイオン濃度が20g/Lのフロー値は、Caイオン濃度が0g/Lのフロー値に比較して、内径が55mmの場合には1.3倍、内径が35mmの場合には約1.7倍であった。この原因は、Caイオンが2価の陽イオンであるためイオン同士が磁石のように反発し、漆喰組成物が軟らかくなったと考えられる。
【0066】
以下の要領でガラス粉末高Ca漆喰の透水性試験を行った。配合比が1:3、水石灰比が200%、Caイオン濃度6g/Lのガラス粉末高Ca漆喰組成物を型枠に流し込み、型枠を外し30日間気中養生し、ガラス粉末高Ca漆喰を得た。縦100mm×横100mm×厚さ10mmのガラス粉末高Ca漆喰の上部に透明アクリルパイプを立て、透明アクリルパイプとガラス粉末高Ca漆喰との接続部から水が漏れないように接続部をコーキング剤でシールし、透水試験装置を製作した。
【0067】
透明アクリルパイプに50cmの水を充填し、この50cmの水がガラス粉末高Ca漆喰を透過する時間を測定した。比較対象には、骨材に石灰製砂を用い、配合比が1:3、水石灰比が130%、Caイオン濃度6g/Lの高Ca漆喰組成物を型枠に流し込み、型枠を外し30日間気中養生し得た高Ca漆喰を用いた。
【0068】
試験結果を
図11に示した。
図11に示すように高さ50cmの水を透過するに要する時間は、ガラス粉末高Ca漆喰で約1900min、高Ca漆喰で925minであった。これから分かるようにガラス粉末高Ca漆喰の透水速度は、高Ca漆喰の約1/2である。ガラス粉末高Ca漆喰と高Ca漆喰との違いは、骨材であり、透水速度の違いは、ガラス粉末と石灰製砂の粒径の違いに起因していると言える。ガラス粉末高Ca漆喰では透水する流道が非常に細かくなっており、透過させる水の汚染度によっては水を殆ど通さなくなる。