(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025162598
(43)【公開日】2025-10-28
(54)【発明の名称】ペレット
(51)【国際特許分類】
B29B 9/12 20060101AFI20251021BHJP
C08L 23/06 20060101ALI20251021BHJP
C08K 5/14 20060101ALI20251021BHJP
C08J 3/12 20060101ALI20251021BHJP
B29K 23/00 20060101ALN20251021BHJP
【FI】
B29B9/12
C08L23/06
C08K5/14
C08J3/12 Z CES
B29K23:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024065843
(22)【出願日】2024-04-16
(71)【出願人】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100187643
【弁理士】
【氏名又は名称】白鳥 昌宏
(72)【発明者】
【氏名】細水 康平
(72)【発明者】
【氏名】山名 健司
(72)【発明者】
【氏名】泉 直毅
(72)【発明者】
【氏名】山崎 孝則
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 智
【テーマコード(参考)】
4F070
4F201
4J002
【Fターム(参考)】
4F070AA13
4F070AC56
4F070AE08
4F070DA60
4F070DC05
4F070DC11
4F201AA04
4F201AB03
4F201AG03
4F201AH35
4F201AR20
4F201BA02
4F201BC02
4F201BC12
4F201BC29
4F201BC37
4F201BL08
4F201BL43
4J002BB031
4J002EK006
4J002EK036
4J002FD146
4J002GQ01
(57)【要約】
【課題】絶縁樹脂と架橋剤を含むペレットの改良を提供する。
【解決手段】ペレットは、不飽和ポリエチレンを含む樹脂成分と架橋剤とを含むペレットであって、中心部分と中心部分の外周に位置する外周部分とを備え、中心部分および外周部分は、式(1)を満たす。0.32≦(C/A)/(D/B)≦0.91 ・・・(1)。ここで、Aは、中心部分に含まれる樹脂成分100質量%あたりの架橋剤の含有量であり、単位が質量%であり、Bは、外周部分に含まれる樹脂成分100質量%あたりの架橋剤の含有量であり、単位が質量%であり、Cは、中心部分に含まれる樹脂成分中の炭素1000個あたりの炭素-炭素二重結合の含有量であり、Dは、外周部分に含まれる樹脂成分中の炭素1000個あたりの炭素-炭素二重結合の含有量である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
不飽和ポリエチレンを含む樹脂成分と架橋剤とを含むペレットであって、
中心部分と前記中心部分の外周に位置する外周部分とを備え、
前記中心部分および前記外周部分は、式(1)を満たす、
0.32≦(C/A)/(D/B)≦0.91 ・・・(1)
ここで、
Aは、前記中心部分に含まれる樹脂成分100質量%あたりの前記架橋剤の含有量であり、単位が質量%であり、
Bは、前記外周部分に含まれる樹脂成分100質量%あたりの前記架橋剤の含有量であり、単位が質量%であり、
Cは、前記中心部分に含まれる樹脂成分中の炭素1000個あたりの炭素-炭素二重結合の含有量であり、
Dは、前記外周部分に含まれる樹脂成分中の炭素1000個あたりの炭素-炭素二重結合の含有量である
ペレット。
【請求項2】
前記中心部分および前記外周部分は、式(2)を満たす、
0.32≦B/A≦0.91 ・・・(2)
請求項1に記載のペレット。
【請求項3】
前記中心部分および前記外周部分は、式(3)を満たす、
0.66≦D/C≦1.89 ・・・(3)
請求項1または請求項2に記載のペレット。
【請求項4】
前記外周部分は、以下の式を満たす、
1.45≦B≦2.86
請求項1または請求項2に記載のペレット。
【請求項5】
前記外周部分は、以下の式を満たす、
0.25≦D≦0.70
請求項1または請求項2に記載のペレット。
【請求項6】
前記外周部分の厚さは、0.1mm以上1mm以下である
請求項1または請求項2に記載のペレット。
【請求項7】
AおよびBは、前記ペレットを切断した切断面をフーリエ変換赤外分光法またはラマン散乱法により測定することにより算出される
請求項1または請求項2に記載のペレット。
【請求項8】
CおよびDは、前記ペレットを切断した切断面をフーリエ変換赤外分光法により測定することにより算出される
請求項1または請求項2に記載のペレット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ペレットに関する。
【背景技術】
【0002】
架橋ポリエチレンは電力ケーブルの絶縁層として広く用いられている(例えば、特許文献1)。
【0003】
絶縁層は、ポリエチレンや架橋剤を含む樹脂組成物を含むペレットが用いて形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電力ケーブルは、電気絶縁層を有する。以下、電気絶縁層は「絶縁層」と称する。絶縁層は、絶縁樹脂と架橋剤を含むペレットから形成される。絶縁樹脂は、例えば、不飽和ポリエチレンを含んでいる。ペレットは、電力ケーブルを製造する前に製造されて、保管される。ペレットが長期間にわたり保管された場合、ペレットは長期間空気にさらされる。ペレットが長期間空気にさらされることで、ペレットの表層は、ペレットの表層に含まれる架橋剤によって、絶縁樹脂の一部が架橋してしまい、架橋異物が形成されることがある。さらに、ペレットの樹脂成分としての不飽和ポリエチレン中の炭素-炭素二重結合は、反応し易い。このため、ペレットが長期間空気にさらされることで、ペレットの表層において、樹脂成分中の炭素-炭素二重結合を基点として、樹脂成分が劣化することがある。この場合においても、ペレット中に異物が形成されることがある。電力ケーブルの絶縁層を製造する際、ペレットは加熱される。ペレットが加熱されることにより、ペレットに含まれる絶縁樹脂は、架橋剤により架橋される。したがって、電力ケーブルは、架橋された絶縁層を有する。しかしながら、架橋された絶縁層が異物を含むペレットから形成される場合、架橋された絶縁層は異物を含む。当該ペレットを長期保管した場合には、当該異物が絶縁層の電気絶縁性の低下を招くことを、発明者は見出した。
【0006】
さらに、ペレット中の架橋剤および炭素-炭素二重結合の分布に起因して、以下のような課題も生じることを発明者は見出した。ペレットの外側に架橋剤が過剰に少ない場合では、ケーブルコアを押し出す線速を速くした押出工程において、押出機内で架橋剤が充分に分散せず、架橋剤が不足した部分生じる。架橋剤が不足した部分では、架橋工程において、架橋剤による架橋反応が生じにくい。或いは、ペレットの外側に炭素-炭素二重結合が過剰に少ない場合においても、線速を速くした押出工程において、押出機内で炭素-炭素二重結合が不足した部分が生じる。炭素-炭素二重結合が不足した部分では、架橋工程において、炭素-炭素二重結合による架橋反応が生じにくい。上述のような2つの場合では、電力ケーブルの絶縁層の一部において、架橋度が低くなる。その結果、絶縁層が加熱された際に、絶縁層に過剰な伸びが生じるおそれがある。
【0007】
本開示の目的は、絶縁樹脂と架橋剤を含むペレットの改良を提供することである。本開示の目的は、特に、長期保管が可能であり、且つ、絶縁層における局所的な架橋度の低下を抑制可能なペレットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一態様によれば、不飽和ポリエチレンを含む樹脂成分と架橋剤とを含むペレットであって、中心部分と前記中心部分の外周に位置する外周部分とを備え、前記中心部分および前記外周部分は、式(1)を満たす、
0.32≦(C/A)/(D/B)≦0.91 ・・・(1)
ここで、Aは、前記中心部分に含まれる樹脂成分100質量%あたりの前記架橋剤の含有量であり、単位が質量%であり、Bは、前記外周部分に含まれる樹脂成分100質量%あたりの前記架橋剤の含有量であり、単位が質量%であり、Cは、前記中心部分に含まれる樹脂成分中の炭素1000個あたりの炭素-炭素二重結合の含有量であり、Dは、前記外周部分に含まれる樹脂成分中の炭素1000個あたりの炭素-炭素二重結合の含有量であるペレットが提供される。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、ペレットの長期保存性を向上させるとともに、絶縁層において局所的な架橋度の低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本開示の一実施形態に係るペレットの概略構成図である。
【
図2】
図2は、ペレットの加速劣化試験での評価方法を説明するための図である。
【
図3】
図3は、サンプル16において冷却を行った際の外周部分と中心部分の予想温度推移を示す図である。
【
図4】
図4は、サンプル18において冷却を行った際の外周部分と中心部分の予想温度推移を示す図である。
【
図5】
図5は、サンプル20において冷却を行った際の外周部分と中心部分の予想温度推移を示す図である。
【
図6】
図6は、サンプル17のペレットについて深さ方向での架橋剤の含有量および炭素-炭素二重結合の含有量の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[本開示の実施態様]
次に、本開示の実施態様を列記して説明する。
【0012】
[1]本開示の一態様のペレットは、
不飽和ポリエチレンを含む樹脂成分と架橋剤とを含むペレットであって、
中心部分と前記中心部分の外周に位置する外周部分とを備え、
前記中心部分および前記外周部分は、式(1)を満たす、
0.32≦(C/A)/(D/B)≦0.91 ・・・(1)
ここで、
Aは、前記中心部分に含まれる樹脂成分100質量%あたりの前記架橋剤の含有量であり、単位が質量%であり、
Bは、前記外周部分に含まれる樹脂成分100質量%あたりの前記架橋剤の含有量であり、単位が質量%であり、
Cは、前記中心部分に含まれる樹脂成分中の炭素1000個あたりの炭素-炭素二重結合の含有量であり、
Dは、前記外周部分に含まれる樹脂成分中の炭素1000個あたりの炭素-炭素二重結合の含有量である。
この構成によれば、ペレットの長期保存性を向上させるとともに、絶縁層において局所的な架橋度の低下を抑制できる。
【0013】
[2]上記[1]に記載のペレットにおいて、
前記中心部分および前記外周部分は、式(2)を満たす、
0.32≦B/A≦0.91 ・・・(2)。
この構成によれば、ペレットの長期保存性を安定的に向上させるとともに、絶縁層において局所的な架橋度の低下を安定的に抑制できる。
【0014】
[3]上記[1]または[2]に記載のペレットにおいて、
前記中心部分および前記外周部分は、式(3)を満たす、
0.66≦D/C≦1.89 ・・・(3)。
この構成によれば、ペレットの長期保存性を安定的に向上させるとともに、絶縁層において局所的な架橋度の低下を安定的に抑制できる。
【0015】
[4]上記[1]から[3]のいずれか1つに記載のペレットにおいて、
前記外周部分は、以下の式を満たす、
1.45≦B≦2.86。
この構成によれば、ペレットの長期保存性を安定的に向上させるとともに、絶縁層において局所的な架橋度の低下を安定的に抑制できる。
【0016】
[5]上記[1]から[4]のいずれか1つに記載のペレットにおいて、
前記外周部分は、以下の式を満たす、
0.25≦D≦0.70。
この構成によれば、ペレットの長期保存性を安定的に向上させるとともに、絶縁層において局所的な架橋度の低下を安定的に抑制できる。
【0017】
[6]上記[1]から[5]のいずれか1つに記載のペレットにおいて、
前記外周部分の厚さは、0.1mm以上1mm以下である。
この構成によれば、ペレットの長期保存性を安定的に向上させるとともに、絶縁層において局所的な架橋度の低下を安定的に抑制できる。
【0018】
[7]上記[1]から[6]のいずれか1つに記載のペレットにおいて、
AおよびBは、前記ペレットを切断した切断面をフーリエ変換赤外分光法またはラマン散乱法により測定することにより算出される。
この構成によれば、AおよびBが安定的に求められる。
【0019】
[8]上記[1]から[7]のいずれか1つに記載のペレットにおいて、
CおよびDは、前記ペレットを切断した切断面をフーリエ変換赤外分光法により測定することにより算出される。
この構成によれば、CおよびDが安定的に求められる。
【0020】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、本開示の一実施形態を説明する。なお、本開示はこれらの例示に限定されるものではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0021】
[実施形態1]
図1は、実施形態1のペレット1を示している。
ペレット1は、中心部分10と外周部分11とを有する。外周部分11は、中心部分10の外側に位置する。
【0022】
ペレット1は、不飽和ポリエチレンを含む樹脂成分と、架橋剤とを含む。樹脂成分としての不飽和ポリエチレンは、少なくとも一部に炭素-炭素二重結合(以下、C=C結合と記載する場合がある)を含む。不飽和ポリエチレンは、例えば、不飽和低密度ポリエチレン(不飽和LDPE)である。架橋剤は例えば有機過酸化物である。ペレット1は、さらに添加剤を含む。添加剤は例えば無機充填剤、酸化防止剤、滑剤である。架橋剤や添加剤は、例えば特開2020-132819、US2020/279672A、特開2020-132818、US2020/273598A、特開2020-132817、US2020/270426A、特開2019-189842、US2021/032434Aにおいて開示されているので説明は省略する。
【0023】
中心部分10および外周部分11は、式(1)を満たす。
0.32≦(C/A)/(D/B)≦0.91 ・・・(1)
ここで、
Aは、中心部分10に含まれる樹脂成分100質量%あたりの架橋剤の含有量であり、単位が質量%である。
Bは、外周部分11に含まれる樹脂成分100質量%あたりの架橋剤の含有量であり、単位が質量%である。
Cは、中心部分10に含まれる樹脂成分中の炭素1000個あたりの炭素-炭素二重結合の含有量である。
Dは、外周部分11に含まれる樹脂成分中の炭素1000個あたりの炭素-炭素二重結合の含有量である。
【0024】
このように、中心部分10および外周部分11が式(1)を満たすことで、ペレット1の長期保存性を向上させるとともに、電力ケーブルの絶縁層において局所的な架橋度の低下を抑制できる。
【0025】
このペレット1は、コーティング法で製造される。コーティング法は、以下のステップを有する。
・樹脂準備ステップ
・第1成型ステップ
・第2成型ステップ
【0026】
(樹脂準備ステップ)
まず、樹脂準備ステップでは、高圧法によりモノマを重合して、樹脂成分として不飽和ポリエチレン(不飽和LDPE)を準備する。モノマとしては、例えば、エチレンである。このとき、連鎖移動剤の使用、重合条件(温度、圧力)の調整などのうち少なくともいずれか1つを行うことにより、樹脂成分としての不飽和ポリエチレン中の炭素-炭素二重結合の含有量を調整する。
【0027】
樹脂成分を準備したら、第1組成物と、第2組成物を準備する。第1組成物は、中心部分10を形成するためのものである。第2組成物は、外周部分11を形成するためのものである。第1組成物および第2組成物は、上述の不飽和ポリエチレンと架橋剤とを含む。本実施形態の樹脂準備ステップでは、予め、第1組成物および第2組成物は、それぞれ、中心部分10および外周部分11が上述の式(1)を満たすように構成される。
【0028】
(第1成型ステップ)
樹脂準備ステップに続いて、第1成型ステップが行われる。まず、第1組成物を例えば80℃で加熱して、溶融させた第1組成物を作製する。溶融させた第1組成物を押出機で押し出して、線状の第1組成物を作製する。続いて、線状の第1組成物を所定の長さに切断する。これにより粒状の樹脂成型体を形成する。続いて、粒状の樹脂成型体を、例えば25℃の空気中で自然冷却する。この粒状の樹脂成型体は、中心部分10に対応する。
【0029】
(第2成型ステップ)
第1成型ステップに続いて、第2成型ステップが行われる。まず、第2組成物を例えば80℃で加熱して、溶融させた第2組成物を作製する。続いて、溶融させた第2組成物を中心部分10の周囲に付与することで、中心部分10の周囲に外周部分11を形成する。外周部分11は、例えば、溶融させた第2組成物を中心部分10に対して塗布したりスプレーしたりすることで形成してもよい。また、第2組成物は、外周部分11が所望の厚みとなるように、中心部分10に対して複数回付与されてもよい。続いて第2組成物を、例えば25℃の空気中で自然冷却する。これにより実施形態1のペレット1が得られる。
【0030】
このように、実施形態1のペレットは、第1組成物を含む中心部分10の周囲に、第2組成物を含む外周部分11を有する。当該ペレット1の中心部分10および外周部分11は、上述の式(1)を満たすものとなる。
【0031】
[実施形態2]
実施形態2のペレット1は、実施形態1のペレット1と同様に、中心部分10と外周部分11とを有する。実施形態2のペレット1は熱拡散法により製造される。熱拡散法は、次のステップを含む。
・樹脂準備ステップ
・成型ステップ
・冷却ステップ
【0032】
(樹脂準備ステップ)
まず、実施形態1と同様の方法により、樹脂成分として不飽和ポリエチレンを準備する。
【0033】
樹脂成分を準備したら、第1組成物を用意する。第1組成物は、不飽和ポリエチレンと架橋剤を含む。
【0034】
(成型ステップ)
樹脂準備ステップに続いて、成型ステップが行われる。成型ステップでは、まず、第1組成物を加熱することにより、溶融した第1組成物を作製する。例えば、第1組成物を、80℃に加熱することにより、溶融した第1組成物を作製する。続いて、溶融した第1組成物を押出成形することにより、高温で線状の第1組成物を製造する。続いて、高温で線状の第1組成物を所望の長さで切断し、高温のペレット1を形成する。
【0035】
(冷却ステップ)
成型ステップに続いて、冷却ステップが行われる。冷却ステップは、次のサブステップを含む。
・一次冷却サブステップ
・二次冷却サブステップ
【0036】
(一次冷却サブステップ)
一次冷却サブステップでは、高温のペレット1の表面を急冷する。具体的には、一次冷却サブステップでは、高温のペレット1の表面に対して、一次冷却温度の流体を所定の時間供給することにより、ペレット1の表面を急冷する。例えば、一次冷却サブステップでは、5℃のCO2ガスを30秒間、高温のペレット1に吹き付けることにより急冷する。急冷により、ペレット1の中心部分10と外周部分11の間に温度差が生じる。なお、流体の温度および流体を吹き付ける時間は適宜調整できる。
【0037】
(二次冷却サブステップ)
一次冷却サブステップの直後に、二次冷却サブステップを行う。二次冷却サブステップでは、二次冷却温度の空気中にペレット1を置く。二次冷却温度は、例えば10℃から40℃である。これにより、ペレット1は徐々に冷却される。ペレットが徐々に冷却されるとき、ペレット1の中心部分10と外周部分11の温度差が一定期間維持される。この温度差に起因して、架橋剤がペレット1内で熱拡散する。具体的には、架橋剤は、冷却された外周部分11から、高温の中心部分10へ拡散する。このとき、中心部分10および外周部分11が式(2)を満たすように、二次冷却温度および二次冷却時間のうち少なくともいずれかを調整する。
0.32≦B/A≦0.91 ・・・(2)
一方で、樹脂成分中の炭素-炭素二重結合は熱拡散しないため、中心部分10と外周部分11とにおいて、樹脂成分中の炭素-炭素二重結合の含有量は同一となり、すなわち、C≒Dとなる。
その結果、当該ペレット1の中心部分10および外周部分11は、上述の式(1)を満たすものとなる。
【0038】
なお、中心部分10と外周部分11の架橋剤の含有量(AおよびB)は、フーリエ変換赤外分光(FT-IR)法やラマン散乱法で測定できる。
中心部分10と外周部分11の樹脂成分中の炭素-炭素二重結合の含有量(CおよびD)は、FT-IR法で測定できる。
【0039】
また、ペレット1の外径や体積、適宜設定できる。
【0040】
[実施形態のまとめ]
0.32≦(C/A)/(D/B)により、外周部分11における架橋剤の含有量が中心部分10における架橋剤の含有量よりも過少となっておらず、且つ、外周部分11の樹脂成分中の炭素-炭素二重結合の含有量が中心部分10の樹脂成分中の炭素-炭素二重結合の含有量よりも過多となっていない。
【0041】
外周部分11における架橋剤の含有量が過少となっていないことで、線速を速くした押出工程においても、押出機内で架橋剤を充分に分散させることができ、架橋剤が不足した部分の発生を抑制できる。これにより、架橋工程において、架橋剤による架橋反応を均一に生じさせることができる。その結果、絶縁層における局所的な架橋度の低下を抑制できる。
【0042】
外周部分11の樹脂成分中の炭素-炭素二重結合の含有量が過多となっていないことで、ペレット1が長時間空気にさらされたとしても、ペレット1の表層において、反応し易い炭素-炭素二重結合を基点とした樹脂成分の劣化を抑制できる。これにより、架橋された絶縁層における異物の発生を抑制できる。すなわち、ペレット1の長期保存性を向上させることができる。
【0043】
一方で、(C/A)/(D/B)≦0.91により、外周部分11における架橋剤の含有量が中心部分10における架橋剤の含有量よりも少なく、且つ、外周部分11の樹脂成分中の炭素-炭素二重結合の含有量が中心部分10の樹脂成分中の炭素-炭素二重結合の含有量よりも過少となっていない。
【0044】
外周部分11における架橋剤の含有量が中心部分10における架橋剤の含有量よりも少ないことで、ペレット1が長時間空気にさらされたとしても、架橋剤によるペレット1の表層の一部の架橋を抑制できる。これにより、架橋された絶縁層における異物の発生を抑制できる。すなわち、ペレット1の長期保存性を向上させることができる。
【0045】
外周部分11の樹脂成分中の炭素-炭素二重結合の含有量が過少となっていないことで、線速を速くした押出工程においても、押出機内で炭素-炭素二重結合を充分に分散させることができ、炭素-炭素二重結合が不足した部分の発生を抑制できる。これにより、架橋工程において、炭素-炭素二重結合による架橋反応を均一に生じさせることができる。その結果、絶縁層における局所的な架橋度の低下を抑制できる。
【実施例0046】
次に、本開示に係る実施例を説明する。これらの実施例は本開示の一例であって、本開示はこれらの実施例により限定されない。
【0047】
(1)ペレットのサンプル1~8
サンプル1~8を、上述のコーティング法で製造した。表1は、コーティング法における樹脂準備ステップ、第1成型ステップ、第2成型ステップの条件を示している。サンプル1~8は、不飽和低密度ポリエチレン(以下では単にLDPEとも記載)と、次の架橋剤とを含む。
・架橋剤CA1:ジクミルパーオキサイド(以下、DCPともいう)
【0048】
【0049】
(炭素-炭素二重結合の含有量)
サンプル1~8では、第1樹脂組成物および第2樹脂組成物において、樹脂成分の原料として同様のLDPEを配合した。サンプル1~8において配合したLDPE中の炭素1000個あたりの炭素-炭素二重結合の含有量は、FT-IRにより測定し、炭素-炭素二重結合の含有量が1H核磁気共鳴(1H-NMR)分析により既知であるLDPEを標準サンプルとして作成された検量線に基づいて求めた。
【0050】
(評価)
サンプル1~8は、以下に示す加速劣化試験、ホットセット試験1および2で評価した。
【0051】
(評価方法1:加速劣化試験)
サンプル1~8のペレットは、加速劣化試験により評価した。加速劣化試験では、各ペレットを恒温槽で保管した。保管条件は次のとおりである。
・恒温槽の温度:80℃
・恒温槽の雰囲気:空気
・恒温槽で保管する時間:48時間
【0052】
続いて、所定時間保管した後のペレットを、
図2のように切断し、切断面1aを得た。切断面1aにおいて、以下の観察部分を光学顕微鏡で観察し、異物を確認した。観察部分は、ペレットの外周面から0.15mmの部分(
図2中の1b)の1か所とした。本実施例では、観察部分において、琥珀色であって、大きさが0.01mm以上のものを、架橋または樹脂劣化により生じた異物とした。ペレットの表面で異物が観察されない場合を長期保存性に優れるとして「2A」、異物が観察された場合を長期保存性に劣るとして「1A」と評価した。1Aと評価されたサンプルは、以下のホットセット試験1および2を行わなかった。
【0053】
(評価方法2:ホットセット試験1)
加速劣化試験を行った後のペレットを用い、シートサンプル(試験片)を作成した。シートサンプルは、ペレットを120℃で加熱し溶融させて、厚さ1mmでシート状に押出成形した。このとき、評価方法2では、シートサンプルの押出時間を5分とした。次に、シートを180℃に30分保持することで、架橋されたシートサンプルを作製した。
【0054】
架橋後、JISC3667:2008に準拠して、ホットセット試験1を行った。200℃に加熱されたオーブン内にシートサンプルを吊り下げ、20N/cm2の荷重をシートサンプルに印加するおもりをシートサンプルの下部に取り付けた。オーブン内の温度が回復した後に15分間、シートサンプルをオーブン内に保持した。このとき、ホットセット試験1前のシートサンプルに対する、ホットセット試験1でのシートサンプルの伸びを測定した。評価方法2では、シートサンプルの伸びが175%未満である場合を合格品として「2B」、シートサンプルの伸びが175%以上である場合を不合格として「1B」と評価した。
【0055】
(評価方法3:ホットセット試験2)
評価方法3では、シートサンプルの押出時間を30秒とした点を除いて、評価方法2と同様に、シートサンプルを作製した。評価方法3は、押出時間が短いことから、実際の電力ケーブルの絶縁層の押出工程において線速を速くした状況に相当する。
【0056】
評価方法3では、ホットセット試験1と同様に、ホットセット試験2を行った。評価方法3では、シートサンプルの伸びが175%未満である場合を合格品として「2C」、シートサンプルの伸びが175%以上である場合を不合格として「1C」と評価した。
【0057】
サンプル1~8の評価結果を表2に示す。
【0058】
【0059】
(サンプル1および2)
サンプル1および2では、外周部分11における架橋剤の含有量が中心部分10における架橋剤の含有量よりも過少となっており、すなわち、(C/A)/(D/B)<0.32であった。このため、サンプル1および2では、押出時間を30秒としたホットセット試験2の伸びが過剰に大きくなっていた。
【0060】
(サンプル3~6)
サンプル3~6では、外周部分11における架橋剤の含有量および炭素-炭素二重結合の含有量が適正量であり、すなわち、0.32≦(C/A)/(D/B)≦0.91であった。これにより、サンプル3~6では、加速劣化試験後の外周部分11は異物を含んでいなかった。さらに、サンプル3~6では、シートサンプルの押出時間を30秒とした場合であっても、その後の架橋工程において、シートサンプルは充分に架橋されていた。その結果、サンプル3~6では、ホットセット試験2での過剰な伸びが抑制されていた。
【0061】
(サンプル7および8)
サンプル7および8では、外周部分における架橋剤の含有量が中心部分における架橋剤の含有量以上となっており、(C/A)/(D/B)>0.91であった。このため、サンプル7および8では、加速劣化試験後の外周部分11は異物を含んでいた。
【0062】
(2)ペレットのサンプル4-0~4-7
まず、高圧法において、連鎖移動剤の使用、重合条件(温度、圧力)の調整などのうち少なくともいずれか1つを行うことにより、炭素-炭素二重結合の含有量が異なる複数のLDPEを準備した。
【0063】
上記サンプル4と同様に配合したペレットを、サンプル4-0とした。一方で、サンプル4-1~4-7では、外周部分11の炭素-炭素二重結合の含有量がサンプル4-0の外周部分11の炭素-炭素二重結合の含有量と異なるLDPEを配合した点を除いて、サンプル4-0と同様にペレットを作製した。具体的には、サンプル4-0~4-7では、B/A=0.6としつつ、D/Cを0.59以上2.16以下の範囲内で変更した。これらのサンプルについて、(1)と同様に評価を行った。サンプル4-0~4-7の評価結果を表3に示す。
【0064】
【0065】
(サンプル4-1)
サンプル4-1では、外周部分11における炭素-炭素二重結合の含有量が中心部分10における炭素-炭素二重結合の含有量よりも過少となっており、すなわち、(C/A)/(D/B)>0.91であった。このため、サンプル4-1では、押出時間を30秒としたホットセット試験2の伸びが過剰に大きくなっていた。
【0066】
(サンプル4-0、4-2~4-6)
サンプル4-0、4-2~4-6では、外周部分11における架橋剤の含有量および炭素-炭素二重結合の含有量が適正量であり、すなわち、0.32≦(C/A)/(D/B)≦0.91であった。これにより、サンプル4-0、4-2~4-6では、加速劣化試験後の外周部分11は異物を含んでいなかった。さらに、サンプル4-0、4-2~4-6では、シートサンプルの押出時間を30秒とした場合であっても、その後の架橋工程において、シートサンプルは充分に架橋されていた。その結果、サンプル4-0、4-2~4-6では、ホットセット試験2での過剰な伸びが抑制されていた。
【0067】
(サンプル4-7)
サンプル4-7では、外周部分における炭素-炭素二重結合の含有量が中心部分における炭素-炭素二重結合の含有量よりも過多となっており、すなわち、(C/A)/(D/B)<0.32であった。このため、サンプル4-7では、加速劣化試験後の外周部分11は異物を含んでいた。
【0068】
(3)ペレットのサンプル9~14
サンプル9~14を、上述のコーティング法で製造した。表3は、コーティング法における樹脂準備ステップ、第1成型ステップ、第2成型ステップの条件を示している。サンプル9~サンプル14は、サンプル4と同様のLDPEと、次の架橋剤を含む。
サンプル9の架橋剤CA2:t-ブチルジクミルパーオキサイド
サンプル10の架橋剤CA3:ジ(t-ブチルパーオキサイド)
サンプル11の架橋剤CA4:2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン
サンプル12の架橋剤CA5:1,3-ビス(t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン
サンプル13の架橋剤CA6:4,4-ビス[(t-ブチル)ペルオキシ]ペンタン酸ブチル
サンプル14の架橋剤CA7:1,1-ビス(1,1-ジメチルエチルペルオキシ)シクロヘキサン
【0069】
【0070】
サンプル9~14は、(1)および(2)と同様に評価した。表5は、評価結果を示す。
【0071】
【0072】
(サンプル9~14)
サンプル9~14では、架橋剤の種類が互いに異なるが、外周部分11における架橋剤の含有量および炭素-炭素二重結合の含有量が適正量であり、すなわち、0.32≦(C/A)/(D/B)≦0.91であった。これにより、サンプル9~14では、加速劣化試験後の外周部分11は異物を含んでいなかった。さらに、サンプル9~14では、ホットセット試験2での過剰な伸びが抑制されていた。
【0073】
(4)ペレットのサンプル15~22
サンプル15~22を、上述の熱拡散法で製造した。表6は、熱拡散法における樹脂準備ステップ、成型ステップ、冷却ステップの条件を示している。
【0074】
【0075】
サンプル15~22は、(1)~(3)と同様に評価した。表7は、サンプル15~22の評価結果を示す。
【0076】
なお、サンプル15~22では、中心部分10および外周部分11における架橋剤の含有量および炭素-炭素二重結合の含有量は、FT-IRにより測定した。具体的には、
図2に示すように各ペレットを切断し、切断面1aにおいて外周面から深さ0.15mmの位置(
図2中の1b)と、外周面から深さ0.90mmの位置(
図2中の1c)とをそれぞれFT-IRにより測定し、各位置での架橋剤の含有量および炭素-炭素二重結合の含有量を求めた。深さ0.15mmの位置での含有量を外周部分11での含有量とし、深さ0.90mmの位置での含有量を中心部分10での含有量とした。各位置での炭素-炭素二重結合の含有量は、炭素-炭素二重結合の含有量が
1H-NMR分析により既知であるLDPEを標準サンプルとして作成された検量線に基づいて求めた。
【0077】
【0078】
(サンプル15、16)
表7に示すように、サンプル15、16では、外周部分11における架橋剤の含有量が中心部分10と同じであった。この原因は、中心部分10および外周部分11での温度が
図3に示すように推移したためと考えられる。
図3は、サンプル16において冷却(一次冷却サブステップと二次冷却サブステップ)を施した際の、外周部分と中心部分の予想温度推移を示す図である。図中、破線は中心部分10の予想温度推移を、実線は外周部分11の予想温度推移をそれぞれ示す。
【0079】
具体的には、
図3に示すように、一次冷却サブステップの時間が短いため、一次冷却サブステップにおいて外周部分11の温度が十分に低下しなかった。具体的には、一次冷却サブステップにおいて、中心部分10および外周部分11の温度は、冷却開始後、10秒まで急低下したが、中心部分10及び外周部分11とも温度が比較的高い。二次冷却サブステップでは、中心部分10と外周部分11はともに緩やかに低下し、外周部分11と中心部分10の温度差が小さく、外周部分11から中心部分10への架橋剤の熱拡散が生じないものと推測される。
【0080】
サンプル15、16では、B/A=1かつD/C=1であり、すなわち、(C/A)/(D/B)>0.91であった。このため、サンプル15、16では、加速劣化試験後の外周部分11は異物を含んでいた。
【0081】
(サンプル17~19)
サンプル17について、FT-IRにより、ペレットの表面から深さ方向に向かって、架橋剤の含有量および炭素-炭素二重結合の含有量の変化を測定したところ、
図6に示すように変化が確認された。
図6は、
図2に示すようにペレットを切断し、その切断面1aにおいて外周面から深さ0.15mm、0.3mm、0.5mm、0.7mm、0.9mm、1.2mm、1.5mmの各位置をFT-IRにより測定し、架橋剤の含有量および炭素-炭素二重結合の含有量を求めたものである。各位置での炭素-炭素二重結合の含有量は上述のように検量線に基づいて求めた。
図6中、実線は架橋剤の含有量の変化を、破線は炭素-炭素二重結合の含有量の変化をそれぞれ示す。
図6に示すように、サンプル17では、ペレット表面ほど架橋剤の含有量が少なく、ペレットの中心にむかうにしたがい架橋剤の含有量が増えることが確認された。一方、炭素-炭素二重結合の含有量はペレットの深さ方向で大きな変化がないことが確認された。なお、サンプル18、サンプル19でもサンプル17と同様に架橋剤の含有量が深さ方向で変化することが確認された。
【0082】
サンプル17~19では、架橋剤の含有量がペレット全体での平均値以下となる領域を外周部分、平均値を超える領域を中心部分とした。「ペレット全体での平均値」とは、各サンプルのペレット全体を80℃で溶融させて自然冷却させたときの、ペレット全体におけるLDPE100質量%あたりの架橋剤の含有量を意味し、サンプル17~19では3質量%である。サンプル17~19では、架橋剤の含有量が3質量%以下の領域がペレットの表面から深さ0.3mmまでの領域であったため、厚さ0.3mmの領域を外周部分とした。そして、外周部分を除いた、直径2.4mmの領域を中心部分とした。
【0083】
表7および
図6に示すように、サンプル17~19では、外周部分11におけるペレット表面から深さ0.15mmの位置での架橋剤の含有量が、中心部分10におけるペレット表面から深さ0.90mmの位置での架橋剤の含有量よりも少なかった。この原因は、中心部分10および外周部分11での温度が
図4に示すように推移したためと考えられる。
図4は、サンプル18において冷却(一次冷却サブステップと二次冷却サブステップ)を施した際の、外周部分11と中心部分10の予想温度推移を示す図である。図中、破線は中心部分10の予想温度推移を、実線は外周部分11の予想温度推移をそれぞれ示す。
【0084】
具体的には、
図4に示すように、一次冷却サブステップの時間が適切であったため、一次冷却サブステップにおいて外周部分11の温度が大きく低下した。具体的には、一次冷却サブステップにおいて、冷却開始後から60秒までの間に外周部分11の温度は5℃まで低下した。一方、中心部分10の温度は外周部分11ほど低下せず、外周部分11と中心部分10の温度差が大きい。外周部分11と中心部分10で温度差が大きかったため、一次冷却サブステップにおいて、外周部分11から中心部分10への架橋剤の熱拡散が生じるものと推測される。
【0085】
サンプル17~19は、0.32≦B/A≦0.91かつD/C=1であり、すなわち、0.32≦(C/A)/(D/B)≦0.91であった。このため、サンプル17~19では、加速劣化試験後の外周部分11は異物を含んでいなかった。さらに、サンプル17~19では、ホットセット試験2での過剰な伸びが抑制されていた。
【0086】
(サンプル20~22)
サンプル20~22では、表7に示すように、外周部分11における架橋剤の含有量が中心部分10と同じであった。この原因は、中心部分10および外周部分11での温度が
図5に示すように推移したためと考えられる。
図5は、サンプル20において冷却(一次冷却サブステップと二次冷却サブステップ)を施した際の、外周部分と中心部分の予想温度推移を示す図である。図中、破線は中心部分10の予想温度推移を、実線は外周部分11の予想温度推移をそれぞれ示す。
【0087】
具体的には、
図5に示すように、一次冷却サブステップにおいて、冷却開始後から300秒までの間に中心部分10および外周部分11の温度が5℃まで低下した。このとき、中心部分10の温度は外周部分11よりも緩やかに低下し、外周部分11の温度が5℃まで低下した後、時間をおいて中心部分10の温度も5℃まで低下した。そのため、外周部分11と中心部分10で温度差が大きくなる時間帯があったため、外周部分11から中心部分10への架橋剤の熱拡散が生じる。一方、二次冷却サブステップにおいては、外周部分11の温度が5℃から25℃まで上昇した後、時間をおいて、中心部分10の温度も25℃まで上昇した。この過程で、外周部分11の温度が中心部分10の温度よりも高くなり、また所定の温度差が生じたため、中心部分10から外周部分11への架橋剤の熱拡散が生じる。結果、冷却ステップとしては、架橋剤の熱拡散が生じないものと推測される。
【0088】
サンプル20~22では、B/A=1かつD/C=1であり、すなわち、(C/A)/(D/B)>0.91であった。このため、サンプル20~22では、加速劣化試験後の外周部分11は異物を含んでいた。
【0089】
以上より、本明細書が開示するペレットは、
不飽和ポリエチレンを含む樹脂成分と架橋剤とを含むペレットであって、
中心部分と前記中心部分の外周に位置する外周部分とを備え、
前記中心部分および前記外周部分は、式(1)を満たす。
0.32≦(C/A)/(D/B)≦0.91 ・・・(1)
【0090】
中心部分10および外周部分11が式(1)を満たすことにより、ペレットを長期保管しても劣化しにくい。また、そのようなペレットを用いて製造した電力ケーブルは、良好な電気絶縁性を有する。なお、電力ケーブルの製造方法は、例えば特開2020-132817やUS2020/0270426に開示されているため、説明は省略する。
【0091】
中心部分10および外周部分11が式(1)を満たすことにより、線速を速くした押出工程においても、押出機内で架橋剤および樹脂成分の炭素-炭素二重結合を充分に分散させることができる。これにより、絶縁層における局所的な架橋度の低下を抑制できる。その結果、絶縁層が加熱された際においても、絶縁層の過剰な伸びを抑制できる。
【0092】
ペレット1において、中心部分10における架橋剤の含有量Aに対する、外周部分11における架橋剤の含有量Bの比率B/Aは、実施例の数値に限定されない。ただし、中心部分10および外周部分11は、式(2)を満たしてもよい。
0.32≦B/A≦0.91 ・・・(2)
【0093】
ペレット1において、中心部分10における炭素-炭素二重結合の含有量Cに対する、外周部分11における炭素-炭素二重結合の含有量Dの比率D/Cは、実施例の数値に限定されない。ただし、中心部分10および外周部分11は、式(3)を満たしてもよい。
0.66≦D/C≦1.89 ・・・(3)
【0094】
ペレット1において、外周部分11における架橋剤の含有量Bは、特に限定されない。ただし、外周部分11は、1.45≦B≦2.86を満たしてもよい。
【0095】
ペレット1において、外周部分11における炭素-炭素二重結合の含有量Dは、特に限定されない。ただし、外周部分11は、0.25≦D≦0.70を満たしてもよい。
【0096】
上述のように、B/A、D/C、BおよびDのうち少なくともいずれか1つを調整することにより、式(1)を満たす中心部分10および外周部分11を安定的に形成することができる。その結果、ペレット1の長期保存性を安定的に向上させるとともに、電力ケーブルの絶縁層において局所的な架橋度の低下を安定的に抑制できる。
【0097】
樹脂成分を十分に架橋させるために、中心部分10の架橋剤の含有量Aは、中心部分に含まれる樹脂成分100質量%に対して1質量%以上であるとよい。また、架橋後の樹脂成分が多くの架橋副生成物を含むことを防ぐために、中心部分10の架橋剤の含有量Aは、中心部分に含まれる樹脂成分100質量%に対して1質量%以上10質量%以下であるとよい。
【0098】
外周部分11の厚さは、実施例に開示する0.3mmに限定されない。中心部分10が劣化することを防ぐために、外周部分11は0.1mm以上1mm以下の厚さを有すればよい。中心部分10の大きさ(直径)は、実施例に開示する2.4mmに限定されない。中心部分10の直径は1.8mm以上6.0mm以下であることが好ましい。また、ペレット1の直径は、実施例に開示する3mmに限定されない。ペレット1の直径は2.0mm以上8.0mm以下であることが好ましい。
【0099】
熱拡散法により作製されたペレットにおける外周部分および中心部分それぞれの架橋剤の含有量について、実施例では、ペレット表面から深さ0.15mmの位置、深さ0.9mmの位置をそれぞれ選択したが、これに限定されない。外周部分の測定位置としては、外周部分の厚さの中間を選択するとよい。中心部分の測定位置としては、中心部分の表面と中心との中間を選択するとよい。