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特開2025-162663射出成形用材料とその樹脂の選定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025162663
(43)【公開日】2025-10-28
(54)【発明の名称】射出成形用材料とその樹脂の選定方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 1/00 20060101AFI20251021BHJP
   B29C 45/00 20060101ALI20251021BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20251021BHJP
【FI】
C08L1/00
B29C45/00
C08L101/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024065987
(22)【出願日】2024-04-16
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.ブルートゥース
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】堀内 雄太
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 弘
(72)【発明者】
【氏名】岩上 欧史
(72)【発明者】
【氏名】藤田 智博
【テーマコード(参考)】
4F206
4J002
【Fターム(参考)】
4F206AA01
4F206AE10
4F206AR01
4F206AR15
4F206AR20
4F206JA07
4F206JF01
4F206JL02
4J002AA01X
4J002AA02X
4J002AB01W
4J002BB03Y
4J002BC03Y
4J002CF03X
4J002CF06X
4J002CF19X
4J002FA04W
(57)【要約】
【課題】高い耐衝撃性を有する材料を提供すること。
【解決手段】 セルロースと、樹脂と、を含み、前記樹脂と水とのCOSMO-RS法を用いて計算される、25℃における親和性パラメータLn(gamma)が、-5以下である、射出成形用材料。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースと、樹脂と、を含み、
前記樹脂と水とのCOSMO-RS法を用いて計算される、25℃における親和性パラメータLn(gamma)が、-5以下である、
射出成形用材料。
【請求項2】
前記樹脂の含有量が、前記セルロース100質量部に対して、15~60質量部である、
請求項1に記載の射出成形用材料。
【請求項3】
射出成形用材料のシャルピー衝撃強度の目標値を設定する第1ステップと、
前記射出成形用材料に含めるセルロースの含水量を取得する第2ステップと、
前記セルロースの含水量と、親和性パラメータLn(gamma)に基づいて、前記シャルピー衝撃強度の目標値を満たす樹脂を出力する第3ステップと、を有し、
前記親和性パラメータLn(gamma)は、前記樹脂と水とのCOSMO-RS法を用いて計算される、25℃における親和性パラメータLn(gamma)である、
射出成形用材料の樹脂の選定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形用材料とその樹脂の選定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、樹脂製品の機械的物性を高めるために、樹脂にガラス繊維、炭素繊維、セルロース繊維等の強化繊維を配合した繊維強化樹脂が知られている。例えば、特許文献1には、樹脂中にセルロース繊維を分散してなるセルロース繊維分散樹脂複合材からなり、かつ肉厚が0.1mm以上である樹脂成形体であって、前記セルロース繊維の含有量が1質量%以上70質量%未満であり、下記測定条件により測定される前記セルロース繊維の長さ加重平均繊維長をLL、数平均繊維長をLNとしたとき、LLとLNが所定の条件満たす樹脂成形体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-193263号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、セルロースを混合すれば複合材の機械特性が必ず向上するというわけではなく、セルロースと複合させる樹脂の種類によっては、複合材の機械特性が向上しない場合があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の射出成形用材料は、セルロースと、樹脂と、を含み、前記樹脂と水とのCOSMO-RS法を用いて計算される、25℃における親和性パラメータLn(gamma)が、-5以下である。
【0006】
本発明の射出成形用材料の樹脂の選定方法は、射出成形用材料のシャルピー衝撃強度の目標値を設定する第1ステップと、前記射出成形用材料に含めるセルロースの含水量を取得する第2ステップと、前記セルロースの含水量と、親和性パラメータLn(gamma)に基づいて、前記シャルピー衝撃強度の目標値を満たす樹脂を出力する第3ステップと、を有し、前記親和性パラメータLn(gamma)は、前記樹脂と水とのCOSMO-RS法を用いて計算される、25℃における親和性パラメータLn(gamma)である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】各樹脂中でのH2Oの活量係数を表す図である。
図2】樹脂の組成とそのLn(gamma)、セルロースの含水量と混合率、そしてシャルピー強度が対応付けて記録されているデータの例を示す。
図3】本実施形態の選定装置を示すブロック図である。
図4A】本実施形態の処理の一例を示すフローチャートである。
図4B】本実施形態の処理の一例を示すフローチャートである。
図4C】本実施形態の処理の一例を示すフローチャートである。
図5】実施例のデータを示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、上下左右などの位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。さらに、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0009】
1.射出成形用材料の樹脂の選定方法
本実施形態の射出成形用材料の樹脂の選定方法は、射出成形用材料のシャルピー衝撃強度の目標値を設定する第1ステップと、前記射出成形用材料に含めるセルロースの含水量を取得する第2ステップと、前記セルロースの含水量と、親和性パラメータLn(gamma)に基づいて、前記シャルピー衝撃強度の目標値を満たす樹脂を出力する第3ステップと、を有し、前記親和性パラメータLn(gamma)は、前記樹脂と水とのCOSMO-RS法を用いて計算される、25℃における親和性パラメータLn(gamma)である。
【0010】
近年、環境対応の射出成形用材料が求めれており、樹脂に添加するフィラーとしてセルロースが検討されている。一般に、環境対応の樹脂材料は石油由来の樹脂材料に比べて、機械的強度や耐衝撃性が劣るといわれることがある。衝撃試験では、樹脂とフィラー界面が破壊の起点となるため、樹脂とフィラーの接触面に高い接着強度が求められるが、耐衝撃性に優れた環境対応の樹脂材料を開発するためには、フィラーに対して適切な樹脂を選択しこの接着強度を高めることが望まれる。
【0011】
そこで、本実施形態の射出成形用材料の樹脂の選定方法においては、フィラーであるセルロースの表面状態と、そのセルロースの表面状態と各種樹脂との親和性を評価し、シャルピー衝撃強度の目標値を満たす樹脂を出力するようにする。
【0012】
1.1.第1ステップ
第1ステップは、射出成形用材料のシャルピー衝撃強度の目標値を設定するステップである。シャルピー衝撃強度の目標値は、絶対値として指定してもよい。この場合には、特定の強度以上のシャルピー衝撃強度を満たす樹脂が、第3ステップにより出力される。また、シャルピー衝撃強度の目標値は、相対値として指定してもよい。この場合には、フィラーであるセルロースと混合する前の樹脂のシャルピー衝撃強度を、例えば100%として、セルロースと混合した後の複合材のシャルピー衝撃強度の値を指定してもよい。この場合には、特定のシャルピー衝撃強度の上昇率を満たす樹脂が、第3ステップにより出力される。
【0013】
1.2.第2ステップ
第2ステップは、射出成形用材料に含めるセルロースの含水量を取得する。本実施形態においては、この含水量がセルロースの表面状態に関する値となる。セルロースは水酸基を有し乾燥状態のものでも部分的に水和していることがある。このような水和している水分も含めて含水量と定義する。
【0014】
すなわち、同じセルロースであっても、その水和の度合いによって表面の親水性と疎水性のバランスが異なることがある。そして、その表面の親水性と疎水性のバランスは、複合材として混合する樹脂がセルロース表面に近接することができるかどうかに影響する。樹脂がセルロース表面に近接できる場合には、セルロースと樹脂の間にファンデルワールス力が働き、高い接着強度が発揮されるため、高いシャルピー衝撃強度が得られる。一方で、樹脂がセルロース表面に近接できない場合には、セルロースと樹脂の間に接着強度が発揮されず、シャルピー衝撃強度が低くなる。
【0015】
なお、含水量の測定方法としては、特に制限されないが、例えば、セルロースを150℃で48時間保持した時の重量減少率として定義してもよい。
【0016】
1.3.第3ステップ
第3ステップは、前記セルロースの含水量と、親和性パラメータLn(gamma)に基づいて、前記シャルピー衝撃強度の目標値を満たす樹脂を出力するステップである。親和性パラメータLn(gamma)は、樹脂と水とのCOSMO-RS法を用いて計算される、25℃における親和性パラメータLn(gamma)である。
【0017】
親和性パラメータLn(gamma)は、活量係数γの自然対数を表す。本実施形態において、Ln(gamma)を得るための最初のステップとしては、密度汎関数法に基づく量子化学計算により、分子の表面におけるscreening charge σを求める。次いで、screening charge σの度数分布関数であるσ profile、px(σ)から、COSMO-RS法により統計力学に基づき分子Xの活量係数γを求めLn(gamma)を得る。各ステップに用いるソフトウェアは、特に限定されないが、好ましくは、最初のステップにおいてTURBOMOLE(COSMOlogic社製)であり、次のステップにおいてはCOSMOtherm(COSMOlogic社製)である。
【0018】
例えば、図1に、各樹脂中でのH2Oの活量係数を示す。ここで、PBSはポリブチレンサクシネート、PETはポリエチレンテレフタレート、PLAはポリ乳酸、PSはポリスチレン、PPはポリプロピレンを意味する。ここで、Ln(gamma)が低い値であるほど水との親和性がよい。
【0019】
ポリ乳酸(PLA)またはポリプロピレン(PP)と、所定の含水量を有するセルロースとの親和性について、分子シミュレーションを行った。その結果、水との親和性が低いポリプロピレンの場合は、セルロースとポリプロピレンの間に水がある状態となり、ポリプロピレンがセルロースに十分に近づけない部分があるという結果となった。一方で、水との親和性が高いポリ乳酸の場合は、セルロースの表面近傍に水分子が存在したとしても、水分子がポリ乳酸側に浸透することで、ポリ乳酸とセルロースは十分に近接する結果となった。すなわち、水との親和性パラメータLn(gamma)の高いものよりも、低いものを用いることで、セルロースは十分に近接することができ、ファンデルワールス力が働くということが示された。
【0020】
1.3.1.モデル
親和性パラメータLn(gamma)に基づく、シャルピー衝撃強度の目標値を満たす樹脂の出力は、学習モデルによって実現してもよい。このようなモデルは、図2に示すような学習データにより作成することができる。図2には、樹脂の組成とそのLn(gamma)、セルロースの含水量と混合率、そしてシャルピー強度が対応付けて記録されている。
【0021】
このような、特定の樹脂と特定のセルロースとを混合したときのシャルピー衝撃強度のデータをもとにモデルを学習することにより、セルロースの含水量と、各樹脂が有する親和性パラメータLn(gamma)に基づいて、シャルピー衝撃強度の目標値を満たす樹脂を出力することができる。
【0022】
また、当該モデルは、特定のシャルピー衝撃強度を入力として、そのシャルピー衝撃強度を達成可能な特定の樹脂と特定のセルロースの組み合わせを出力可能することもできる。
【0023】
さらに、当該モデルは、特定の樹脂と特定のセルロースを入力として、シャルピー衝撃強度の推定値を出力することもできる。
【0024】
図2に示すように、樹脂はPLAなどの1種であってもよいし、PLA50%とPP50%からなる2種以上を含んでもよい。このように複数の樹脂を任意の割合で含む場合のシャルピー衝撃強度を学習データが含むことにより、射出成形用材料の樹脂の選定方法においては、単独の樹脂のみならず、複数の樹脂の組み合わせを出力することもできる。
【0025】
また、図1に示す、PLAとPPのように親和性パラメータLn(gamma)が一定程度乖離しているものは、樹脂自体が相溶しない恐れがある。そのため、第3ステップにおいては、親和性パラメータLn(gamma)が一定程度乖離している樹脂の組み合わせは出力結果から除外してもよい。
【0026】
さらに、第3ステップにおいては、樹脂の融点をさらに考慮してもよい。樹脂とセルロースを混合する際には樹脂を融点付近まで加熱するが、その際に加熱温度が高いとセルロースが劣化しフィラーとしての機能が低下する恐れがある。そのため、第3ステップにおいて提示する樹脂は融点が低いものを優先することが好ましい。このような観点から、第3ステップにおいては、より融点の低いものが出力されるようにしてもよい。なお、2種以上の樹脂を含む場合には、上記融点としては、低い融点を有する樹脂の融点を使用してもよし、2種以上の樹脂を混合した樹脂アロイの融点を使用してもよい。
【0027】
1.3.2.COSMO-RS法
【数1】
【数2】
【数3】
【0028】
【数4】
【0029】
上記計算において、活量係数の計算には、以下の文献を参照することができる。なお、COSMO-RS法の計算で使用したソフトウェアは、BIOVIA COSMOtherm 2023(パラメータセット:BP_TZVPD_FINE_23.ctd)である。
・Klamt, A. J. Phys. Chem. 99, 2224 (1995).
・Klamt, A.; Jonas, V.; Burger, T.; Lohrenz, J. C. J. Phys. Chem. A 102, 5074 (1998).
・Eckert, F. and A. Klamt, AIChE Journal, 48, 369 (2002).
また、樹脂中の自由体積によるコンビナトリアル項は、以下の文献に記載されているElbroの手法により化学ポテンシャルへ取り入れることができる。
・Elbro, H. S.; Fredenslund, A.; Rasmussen, P. A. Macromolecules 23, 4707 (1990).
【0030】
2.選定装置
選定装置100は、選定プログラムによって実現される情報処理装置であり、通信インターフェース120及びネットワークNを介して、ユーザからの処理要求に応じて、処理を実行してもよい。例えば、選定装置100は、ユーザの入力などから目標とするシャルピー衝撃強度の値とセルロースの含水量の情報を取得する。そして、これら情報に基づいて、当該セルロースとの組み合わせで目標とするシャルピー衝撃強度の値を達成可能な樹脂を推定し、出力してもよい。
【0031】
選定装置100は、選定処理を実行するユーザが利用する情報処理装置であり、例えば、コンピュータ、スマートフォン、タブレット端末、パーソナルコンピュータ等であってもよい。
【0032】
以下、図3を参照しつつ、選定装置100のハードウェア構成及び機能構成について説明し、その後、選定装置100の機能構成と対応付けて、各制御について詳説する。
【0033】
図1Bに示すように、選定装置100は、例えば、プロセッサ110、通信インターフェース120、入出力インターフェース130、メモリ140、ストレージ150、及びこれらの構成要素を相互接続するための1つ又は複数の通信バス160を含む。
【0034】
プロセッサ110は、ストレージ150に記憶されるプログラムに含まれるコード、又は、命令によって実現する処理、機能、又は、方法を実行する。プロセッサ110は、限定でなく例として、1又は複数の中央処理装置(CPU)、MPU、GPU等を含み、集積回路等に形成された論理回路(ハードウェア)や専用回路によって各実施形態に開示されるそれぞれの、処理、機能、又は、方法を実現してもよい。
【0035】
図1Bに示すように、本実施形態のプロセッサ110は、取得部111、出力部112として機能するよう構成されてもよい。
【0036】
通信インターフェース120は、ネットワークNを介して他の装置と各種データの送受信を行う。当該通信は、有線、無線のいずれで実行されてもよく、互いの通信が実行できるのであれば、どのような通信プロトコルを用いてもよい。例えば、通信インターフェース120は、ネットワークアダプタ等のハードウェア、各種の通信用ソフトウェア、又はこれらの組み合わせとして実装される。
【0037】
ネットワークNは、限定でなく例として、アドホック・ネットワーク、イントラネット、エクストラネット、仮想プライベート・ネットワーク(VPN)、ローカル・エリア・ネットワーク(LAN)、ワイヤレスLAN(WLAN)、広域ネットワーク(WAN)、ワイヤレスWAN(WWAN)、大都市圏ネットワーク(MAN)、インターネットの一部、公衆交換電話網(PSTN)の一部、携帯電話網、ISDNs(Integrated Service Digital Networks)、無線LANs、LTE(Long Term Evolution)、CDMA(Code Division Multiple Access)、ブルートゥース、衛星通信等であってよく、これらが組み合わせられてもよい。ネットワークは、1つまたは複数のネットワークを含むことができる。
【0038】
入出力インターフェース130は、選定装置100に対する各種操作を入力する入力装置、及び、選定装置100で処理された処理結果を出力する出力装置を含む。例えば、入出力インターフェース130は、キーボード、マウス、及びタッチパネル等の情報入力装置、及びディスプレイ等の情報出力装置を含む。なお、選定装置100は、外付けの入出力インターフェース130を接続することで、所定の入力を受け付けてもよいし、所定の出力を実行してもよい。
【0039】
メモリ140は、ストレージ150からロードしたプログラムを一時的に記憶し、プロセッサ110に対して作業領域を提供する。メモリ140には、プロセッサ110がプログラムを実行している間に生成される各種データも一時的に格納される。メモリ140は、例えば、DRAM、SRAM、DDR RAM又は他のランダムアクセス固体記憶装置などの高速ランダムアクセスメモリであってよく、これらが組み合わせられてもよい。
【0040】
ストレージ150は、プログラム、各機能部、及び各種データを記憶する。ストレージ150は、例えば、1つ又は複数の磁気ディスク記憶装置、光ディスク記憶装置、フラッシュメモリデバイス、又は他の不揮発性固体記憶装置などの不揮発性メモリ等であってよく、これらが組み合わせられてもよい。ストレージ150の他の例としては、プロセッサ110から遠隔に設置される1つ又は複数の記憶装置を挙げることができる。また、ストレージ150には、上記学習用データ151が記録されていてもよい。
【0041】
通信バス160は、ハードウェア構成間で、データや制御情報などをやり取りするための専用の通信路として公知のものであれば特に制限されない。
【0042】
図4Aに示すように、取得部111は、ユーザからの射出成形用材料のシャルピー衝撃強度の目標値や射出成形用材料に含めるセルロースの含水量を取得する(S11,S12)。そして、出力部112は、セルロースの含水量と、親和性パラメータLn(gamma)に基づいて、シャルピー衝撃強度の目標値を満たす樹脂を出力する(S13)。
【0043】
この際、出力部112は、セルロースの含水量と、親和性パラメータLn(gamma)に基づいて、規則的又は不規則に、その親和性パラメータLn(gamma)を有する樹脂とセルロースを混合した混合物のシャルピー衝撃強度を複数出力し、その複数のシャルピー衝撃強度のうち、目標値を満たす樹脂を出力するようにしてもよい。
【0044】
また、上記のとおり、本実施形態はシャルピー衝撃強度の目標値を満たす樹脂の出力に限らない。例えば、図4Bに示すように、取得部111が特定のシャルピー衝撃強度を取得し(S21)、出力部112がそのシャルピー衝撃強度を達成可能な特定の樹脂と特定のセルロースの組み合わせを出力してもよい(S22)。このとき、出力部112はそのシャルピー衝撃強度を達成可能なセルロースの含水量やそのセルロースの混合割合について出力してもよい。
【0045】
さらに、例えば、図4Cに示すように、取得部111が特定の樹脂と特定のセルロースを取得し(S31)、出力部112がそのシャルピー衝撃強度の推定値を出力してもよい(S32)。
【0046】
3.射出成形用材料
本実施形態の射出成形用材料は、セルロースと、樹脂と、を含み、前記樹脂と水とのCOSMO-RS法を用いて計算される、25℃における親和性パラメータLn(gamma)が、-5以下である。
【0047】
セルロースとしては、従来公知のものであれば、特に制限されない。セルロースの含水量は任意のものを用いることができる。
【0048】
樹脂としては、特に制限されないが、例えば、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ポリスチレン、ポリプロピレンなどが挙げられる。
【0049】
樹脂と水とのCOSMO-RS法を用いて計算される、25℃における親和性パラメータLn(gamma)は、-5以下であり、好ましくは、-30~-7.5であり、-20~-10である。
【0050】
また、複数種の樹脂を含む場合には、それら複数の樹脂のうち最大の親和性パラメータLn(gamma)と、最小の親和性パラメータLn(gamma)の差は、好ましくは、0~10であり、0~7.5であり、0~5.0であり、0~2.5である。
【0051】
樹脂の含有量は、セルロース100質量部に対して、好ましくは、15~60質量部であり、20~55質量部であり、25~50質量部である。
【実施例0052】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いてより具体的に説明する。本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0053】
1.混合物の調整
図5に示す組成で、樹脂とセルロースを混合した。そして、図1のデータを参照して、樹脂と水とのCOSMO-RS法を用いて計算される、25℃における親和性パラメータLn(gamma)を推定した。このとき、例1のようにPBS56質量部とPLA24質量部を含む場合には、その加重平均として親和性パラメータLn(gamma)を算出した。
【0054】
2.判定処理
シャルピー衝撃強度の目標値を、樹脂のみの状態を100%とした場合に対する相対値50%として設定し、本実施形態の選定方法を汎用PCに実行させた。なお、当該汎用PCには、図2で示すような学習用データで学習したモデルがあらかじめ記録されている。
【0055】
その判定結果を、図5に示す。図5では、シャルピー衝撃強度が50%以上となる場合を〇とし、50%未満となる場合を×として表記している。
【0056】
3.検証
さらに、図5に示す組成で樹脂とセルロースを混合して得た混合物について、シャルピー衝撃強度を実測した。また、樹脂のみの状態のシャルピー衝撃強度についても実測した。そして、樹脂のみの状態のシャルピー衝撃強度を100%とした時の混合物のシャルピー衝撃強度の比率を図5に示した。図5に示すシャルピー衝撃強度比率は実測値である。
【0057】
上記のようにして得た判定処理の結果と、実測値であるシャルピー衝撃強度比率とを比較し、判定結果が一致しているか否かを判定した。その結果、本発明の選定方法によれば、精度よくシャルピー衝撃強度の目標値を推定できることが確認された。
【0058】
また、上記結果から、樹脂と水とのCOSMO-RS法を用いて計算される、25℃における親和性パラメータLn(gamma)が、-5以下である場合には、優れたシャルピー衝撃強度を有することが示された。
【0059】
4.まとめ
セルロースの表面には水が存在する。その水の影響によって、樹脂とセルロースの接触面積は影響を受ける。水との親和性が高い樹脂を採用した場合には、水分子は樹脂中に吸収され、樹脂とセルロース間の接触面積を増大することができる。一方で、水との親和性が低い樹脂を選定した場合、樹脂とセルロース間には水分子が残存し、接触面積が減少すする。接触面積が大きいほど接着強度は増加するため、本実施形態の方法により水との親和性が高い樹脂を選定することで、高い耐衝撃性を有する材料を提供することができることが示された。
【符号の説明】
【0060】
100…選定装置、110…プロセッサ、111…取得部、112…出力部、120…通信インターフェース、130…入出力インターフェース、140…メモリ、150…ストレージ、151…学習用データ、160…通信バス
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図5