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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025162714
(43)【公開日】2025-10-28
(54)【発明の名称】水処理装置および水処理方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/44 20230101AFI20251021BHJP
【FI】
C02F1/44 A
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024066094
(22)【出願日】2024-04-16
(71)【出願人】
【識別番号】596136316
【氏名又は名称】三菱ケミカルアクア・ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100142309
【弁理士】
【氏名又は名称】君塚 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】井上 拓
(72)【発明者】
【氏名】田嶋 啓佑
(72)【発明者】
【氏名】山東 丈夫
【テーマコード(参考)】
4D006
【Fターム(参考)】
4D006GA03
4D006GA06
4D006GA07
4D006HA01
4D006HA21
4D006HA41
4D006HA61
4D006JA53Z
4D006JA56Z
4D006JA63Z
4D006JA66C
4D006JA66Z
4D006JA67Z
4D006KA01
4D006KA71
4D006KB12
4D006KB15
4D006KB30
4D006KE01Q
4D006KE16P
4D006PA01
4D006PB05
(57)【要約】
【課題】本発明は、地下水の熱を充分に利用でき、かつ、熱交換部の接液部の腐食を抑制できる水処理装置および水処理方法を提供する。
【解決手段】一例に係る水処理装置20Aは、井戸10の地下水を被処理水W1として汲み上げる揚水配管L1と、揚水配管L1で汲み上げた被処理水W1の熱交換を行う熱交換部1とを備え、揚水配管L1の第1の端部は揚水ポンプ9と接続され、揚水配管L1の第2の端部は熱交換部1と直接的に接続されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地下水を浄化処理する水処理装置であって、
前記地下水を被処理水として汲み上げる揚水配管と、
前記揚水配管で汲み上げた被処理水の熱交換を行う熱交換部と、
を備え、
前記揚水配管の第1の端部は揚水ポンプと接続され、前記揚水配管の第2の端部は前記熱交換部と直接的に接続されている、水処理装置。
【請求項2】
前記被処理水が前記熱交換部で熱交換されることで生じた熱交換水を貯留する貯留槽と、
前記熱交換部から前記貯留槽に、前記熱交換水を通水する熱交換水供給配管と、
をさらに備える、請求項1に記載の水処理装置。
【請求項3】
前記貯留槽から前記貯留槽の後段に、前記熱交換水を導く原水供給配管をさらに備える、請求項2に記載の水処理装置。
【請求項4】
前記熱交換水を後段に供給するための原水ポンプが前記原水供給配管に設けられている、請求項3に記載の水処理装置。
【請求項5】
前記貯留槽に貯留された前記熱交換水の一部を前記熱交換部に返送する循環用配管をさらに備える、請求項2に記載の水処理装置。
【請求項6】
前記貯留槽に貯留された熱交換水の一部を前記熱交換部に返送するための循環用ポンプが、前記循環用配管に設けられている、請求項5に記載の水処理装置。
【請求項7】
前記原水供給配管を流れる前記熱交換水の一部を前記熱交換部に返送する分岐循環配管をさらに備える、請求項3に記載の水処理装置。
【請求項8】
前記原水供給配管を流れる前記熱交換水の一部を前記熱交換部に返送するときの返送流量を変更するための循環バルブが、前記分岐循環配管に設けられている、請求項7に記載の水処理装置。
【請求項9】
地下水を浄化処理する水処理方法であって、
前記地下水を被処理水として汲み上げる揚水工程と、
前記揚水工程で汲み上げた前記被処理水の熱交換を行う熱交換部に、前記被処理水を直接的に供給する熱交換工程と、
を有し、
前記揚水工程で用いる揚水配管の第1の端部は揚水ポンプと接続され、前記揚水配管の第2の端部は前記熱交換部と直接的に接続されている、水処理方法。
【請求項10】
前記被処理水が前記熱交換部で熱交換されることで生じた熱交換水の一部を前記熱交換部に返送し、返送された前記熱交換水を用いて前記熱交換部で再び熱交換を行う、循環工程をさらに有する、請求項9に記載の水処理方法。
【請求項11】
前記循環工程で返送された前記熱交換水の水温に基づいて、前記熱交換水の一部を前記熱交換部に返送するときの返送流量を制御する、制御工程をさらに有する、請求項10に記載の水処理方法。
【請求項12】
請求項1~8のいずれか一項に記載の水処理装置を用いる、水処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水処理装置および水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地下10m以下の帯水層に貯まった地下水は、夏に降った雨がしみ込んだ場合でも、冬の積雪が溶けてしみ込んだ場合でも、いずれの場合でもほぼ一定の水温になる。これを井戸水としてポンプで汲み上げると、井戸水は夏でも冬でもほぼ同じ水温であるため、夏には冷たく感じ、冬には暖かく感じる。
【0003】
日本では、地域により異なるものの、関東平野、濃尾平野、大阪平野では地下水の水温は15~18℃であり、変動する水温の年間の温度差は1℃以内であることが一般的である。もちろん、深さが数mの浅い井戸では、年間の温度差が外気の影響を受けることはある。逆に地下100mを超える深い井戸では、地温の上昇により、地表面から深くなるほど地下水の水温は段々と高くなる。地表面から深くなるほど地下水の水温が高くなるのは、地球内部のマグマの影響を受けるからである。地域により異なるものの、100mにつき約3度上昇する。
【0004】
地下水としては、深井戸水、浅井戸水が一般的に利用しやすい。深井戸水とは、被圧帯水層から汲み上げられた地下10~200mの地下水である。浅井戸水とは、被圧帯水層の上から汲み上げられた地下1~50mの地下水である。水温は深ければ深いほど15~18℃に近づく。本稿における井戸水とは、深井戸または浅井戸から汲み上げられた水とする。
【0005】
深井戸または浅井戸から汲み上げられた地下水はその熱エネルギーも利用できる。例えば、特許文献1では、地下水の熱を利用する熱利用システムが提案されている。特許文献1の熱利用システムは、分離膜を用いて地下水を処理する前処理手段と、前処理手段の後段に設けられ、かつ、前処理手段によって処理された地下水を用いて熱交換を行う熱交換器とを備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2021-113662号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1の熱利用システムにおいては、膜分離装置の後段で熱交換を行うため、深井戸から汲み上げた地下水の熱が配管や各槽および各装置を介して外気の影響を受けてしまう。本来ならば熱交換に利用できるはずであった地下水の熱を損失してしまうため、結果として熱回収の効率が下がる。
【0008】
加えて、特許文献1のように膜分離装置の後段で熱交換を行うと、地下水には溶存酸素が混入しやすい。生活用水や飲用水等の浄化水を製造する際には、次亜塩素酸等の酸化剤で消毒することが多い。このような溶存酸素や酸化剤等の酸化性物質を含む水が後段の熱交換部の接液部(特に銅配管)に接触した場合、接液部の腐食反応が早期に進行する。結果、熱交換部から漏水が起きることや機器損壊が起きることがある。
【0009】
本発明は、地下水の熱を充分に利用でき、かつ、熱交換部の接液部の腐食を抑制できる水処理装置および水処理方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、下記の態様を有する。
[1]地下水を浄化処理する水処理装置であって、
前記地下水を被処理水として汲み上げる揚水配管と、
前記揚水配管で汲み上げた被処理水の熱交換を行う熱交換部と、
を備え、
前記揚水配管の第1の端部は揚水ポンプと接続され、前記揚水配管の第2の端部は前記熱交換部と直接的に接続されている、水処理装置。
[2]前記被処理水が前記熱交換部で熱交換されることで生じた熱交換水を貯留する貯留槽と、
前記熱交換部から前記貯留槽に、前記熱交換水を通水する熱交換水供給配管と、
をさらに備える、[1]に記載の水処理装置。
[3]前記貯留槽から前記貯留槽の後段に、前記熱交換水を導く原水供給配管をさらに備える、[2]に記載の水処理装置。
[4]前記熱交換水を後段に供給するための原水ポンプが前記原水供給配管に設けられている、[3]に記載の水処理装置。
[5]前記貯留槽に貯留された前記熱交換水の一部を前記熱交換部に返送する循環用配管をさらに備える、[2]~[4]のいずれかに記載の水処理装置。
[6]前記貯留槽に貯留された熱交換水の一部を前記熱交換部に返送するための循環用ポンプが、前記循環用配管に設けられている、[5]に記載の水処理装置。
[7]前記原水供給配管を流れる前記熱交換水の一部を前記熱交換部に返送する分岐循環配管をさらに備える、[3]~[6]のいずれかに記載の水処理装置。
[8]前記原水供給配管を流れる前記熱交換水の一部を前記熱交換部に返送するときの返送流量を変更するための循環バルブが、前記分岐循環配管に設けられている、[7]に記載の水処理装置。
【0011】
[9]地下水を浄化処理する水処理方法であって、
前記地下水を被処理水として汲み上げる揚水工程と、
前記揚水工程で汲み上げた前記被処理水の熱交換を行う熱交換部に、前記被処理水を直接的に供給する熱交換工程と、
を有し、
前記揚水工程で用いる揚水配管の第1の端部は揚水ポンプと接続され、前記揚水配管の第2の端部は前記熱交換部と直接的に接続されている、水処理方法。
[10]前記被処理水が前記熱交換部で熱交換されることで生じた熱交換水の一部を前記熱交換部に返送し、返送された前記熱交換水を用いて前記熱交換部で再び熱交換を行う、循環工程をさらに有する、[9]に記載の水処理方法。
[11]前記循環工程で返送された前記熱交換水の水温に基づいて、前記熱交換水の一部を前記熱交換部に返送するときの返送流量を制御する、制御工程をさらに有する、[10]に記載の水処理方法。
[12][1]~[8]のいずれかに記載の水処理装置を用いる、水処理方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、地下水の熱を充分に利用でき、かつ、熱交換部の接液部の腐食を抑制できる水処理装置および水処理方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、水処理装置の一例を示す概略構成図である。
図2図2は、水処理装置の他の一例を示す概略構成図である。
図3図3は、水処理装置の他の一例を示す概略構成図である。
図4図4は、水処理装置の他の一例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
用語の意味は以下の通りである。
数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値および上限値として含むことを意味する。
【0015】
水処理装置および水処理方法の処理対象は、地下水である。地下水は、例えば、深井戸、浅井戸から汲み上げられる。深井戸では、例えば、被圧帯水層の地下水を利用することができる。地下水としては、例えば、地下1~200mの地下水を用いることができる。深井戸、浅井戸から汲み上げられた地下水の水温は、例えば、15~18℃である。
【0016】
地下水は、有機物、アンモニア性窒素、炭酸水素イオン、硝酸イオン、硫酸イオン、塩化物イオン等の陰イオン;鉄イオン、マンガンイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン等の陽イオン;細菌等の不純物等を含有することがある。
【0017】
以下、本発明のいくつかの実施形態について図面を参照しながら説明する。ただし、以下の説明は代表的な例に関するものであり、本発明は以下の記載に限定されない。
各図面の寸法比は説明の便宜上のものであり、実際のものとは異なったものである。以下の図面において、同一の構成については同じ符号を用いて示し、重複する構成について説明を省略することがある。
【0018】
[第1実施形態]
(水処理装置)
まず、図1に例示的に示した水処理装置20Aに関する第1実施形態について説明する。水処理装置20Aは、井戸10の地下水を浄化処理するためのものである。水処理装置20Aは、揚水配管L1と、熱交換部1と、熱交換水供給配管L2と、貯留槽2と、原水供給配管L3と、原水ポンプ3と、酸化処理部4と、砂ろ過処理部5と、活性炭処理部6と、膜処理部7と、消毒処理部8とを備える。
【0019】
揚水配管L1は、井戸10の地下水を被処理水W1として汲み上げるためのものである。揚水配管L1の第1の端部は井戸10内に配置された揚水ポンプ9と接続されている。揚水配管L1の第2の端部は熱交換部1の熱交換器(図示略)と直接的に接続されている。
揚水ポンプ9は、地下水を汲み上げられればよく、特に限定されない。例えば、水中ポンプ、陸上ポンプが挙げられる。
【0020】
ここで、揚水配管L1の第2の端部と熱交換部1とが直接的に接続されているとは、汲み上げた被処理水W1に何ら水処理を施さずに、そのまま熱交換部1に通水可能なように接続されていることを意味する。かかる水処理装置においては、図1に例示するように、揚水配管L1と熱交換部1との間に、除濁処理、化学処理、浄化処理等の種々の水処理を行うための処理部が一切配置されていない。
【0021】
一例において、井戸10の地表面から露出した揚水配管L1から熱交換部1の入口まで延びる揚水配管L1の長さは地下水の熱を効率よく利用する観点から100m以下が好ましく、50m以下がより好ましく、30m以下がさらに好ましい。他の一例において、揚水配管L1は井戸10の地表面から露出していなくてもよく、この場合、熱交換部1は井戸10の地表面より下側(地中側)に配置されてもよい。
【0022】
熱交換部1は、揚水配管L1で汲み上げた被処理水W1の熱交換を行うためのものである。熱交換部1は暖房用途のように熱交換対象の加熱に用いてもよく、冷房用途のように熱交換対象の冷却に用いてもよい。
【0023】
熱交換部1の熱交換器(図示略)としては、例えば、地下水クーラー、空気調和機の室外機、ヒートポンプ、ファンコイル、チラー(冷却水循環装置)等が使用できる。熱交換器としては、空気調和機に用いられる熱交換器が好ましい。熱交換器は、被処理水W1の熱を利用して熱交換を行う。
【0024】
揚水配管L1の第2の端部と接触した熱交換部1の接液部の材質は、特に限定されるものではないが、銅、ステンレス等の金属材料であってもよい。特に、銅配管は腐食しやすいことから、本実施形態の水処理装置および水処理方法を適用する技術的意義がより大きくなる。
【0025】
揚水ポンプ9が一定期間停止するとき、熱交換部1の接液部に被処理水W1が滞留することで、滞留時間の長さに伴い、揚水ポンプ9を運転している時よりも高濃度の銅が溶解する。予め、滞留時間毎に熱交換部に滞留する水の銅濃度を測定しておき、銅濃度が1.0mg/Lを超えない範囲にある滞留時間を測定し、その滞留時間を超える場合に熱交換部に滞留する水を系外に排出する機構を設けてもよい。
熱交換水W2の銅濃度の基準は、1.0mg/Lを超えない範囲であれば特に限定されるものではないが、1.0mg/L以下が好ましく、0.5mg/L以下がより好ましく、0.2mg/L以下がさらに好ましい。
【0026】
一例において、図示略の熱交換器は熱媒体または冷媒体(例えば、空気)と被処理水W1との熱交換により、被処理水W1の熱を利用することができる。被処理水W1は熱利用された後、熱交換水W2となる。被処理水W1が熱交換部1で熱交換されることで熱交換水W2が生じる。
【0027】
熱交換水供給配管L2は、熱交換部1から貯留槽2に熱交換水W2を通水するためのものである。熱交換水供給配管L2の第1の端部は熱交換部1の熱交換器(図示略)と接続され、熱交換水供給配管L2の第2の端部は貯留槽2と接続されている。貯留槽2は、熱交換水W2を貯留するためのものである。
【0028】
熱交換部1の接液部の材質が銅の場合、被処理水W1に銅が溶解する。飲用を目的とする場合、水道水質基準値である銅濃度1.0mg/Lを超えない範囲で運転する必要がある。予め、被処理水W1および熱交換水W2の各銅濃度を測定し、銅濃度が水道水質基準値を超える可能性がある場合、図4に示す変形例が有用である。
【0029】
図4に示す水処理装置1Dは、バイパス配管L6を備える。バイパス配管L6の第1の端部は揚水配管L1の途中と接続され、バイパス配管L6の第2の端部は熱交換水供給配管L2の途中と接続されている。揚水配管L1にはバルブV1が設けられ、バイパス配管L6にはバルブV2が設けられている。また、熱交換水供給配管L2の途中には、排水配管L7が接続され、排水配管L7にはドレインバルブV3が設けられている。
【0030】
バイパス配管L6によれば、熱交換部1を介さずに被処理水W1の一部を貯留槽2に供給することができる。熱交換水W2の銅濃度が1.0mg/Lを超えない範囲内に維持するようにバルブV1およびバルブV2の開閉を変更することができる。
【0031】
再び図1を参照する。原水供給配管L3は、貯留槽2から熱交換水W2を貯留槽2の後段に導くためのものである。原水供給配管L3の第1の端部には、貯留槽2が接続されている。原水供給配管L3には、原水ポンプ3、酸化処理部4、砂ろ過処理部5、活性炭処理部6、膜処理部7、消毒処理部8がこの順に設けられている。原水ポンプ3は、熱交換水W2を後段の酸化処理部4、砂ろ過処理部5、活性炭処理部6、膜処理部7、消毒処理部8に供給するためのものである。
【0032】
酸化処理部4は、酸化剤を用いて熱交換水W2を酸化するためのものである。酸化剤としては、例えば、次亜塩素酸ナトリウム等の次亜塩素酸塩が挙げられるがこれらの例示に限定されない。熱交換水W2は、酸化剤の添加により酸化処理水W3となる。
【0033】
酸化処理部4によれば、地下水中の鉄、マンガン等の不純物を酸化させることができる。水処理装置20Aにおいては、熱交換部1の接液部の腐食を抑えるため、酸化処理部4は熱交換部1の後段に設置されている。
【0034】
砂ろ過処理部5は除濁処理部の一例である。砂ろ過処理部5は、ろ材として砂が充填された砂ろ過装置である。砂ろ過処理部5は、酸化処理水W3中の濁質成分(例えば、固形分)を除去する。砂ろ過処理部5を経た酸化処理水W3は、砂ろ過処理水W4となる。
【0035】
活性炭処理部6も除濁処理部の一例である。活性炭処理部6は、ろ材として活性炭が充填された吸着装置である。活性炭処理部6は砂ろ過処理水W4中の有機物や無機物(残留塩素、金属、金属化合物等)を吸着により除去する。活性炭処理部6を経た砂ろ過処理水W4は、活性炭処理水W5となる。
【0036】
膜処理部7は、活性炭処理水W5の膜処理を行う。膜処理部7は、分離膜を用いて活性炭処理水W5を処理することで、膜処理水W6を得る。膜処理水W6は、分離膜を透過した透過水である。分離膜としては、限外ろ過膜(UF膜)、精密ろ過膜(MF膜)、ナノろ過膜(NF膜)、逆浸透膜(RO膜)等が使用できる。ろ過膜の形態としては、スパイラル膜、中空糸膜、管状膜、平膜等が挙げられる。分離膜の材質としては、ポリアミド、ポリスルフォン、酢酸セルロース、ポリアクリロニトリル等が挙げられる。
【0037】
消毒処理部8は、消毒剤を用いて膜処理水W6を消毒するためのものである。消毒剤としては、例えば、次亜塩素酸ナトリウム等の次亜塩素酸塩が挙げられるがこれらの例示に限定されない。膜処理水W6は、消毒剤の添加により処理水W7となる。
【0038】
(水処理方法)
次に、上述した水処理装置20Aを用いた水処理方法の一例について説明する。
まず、井戸10から地下水を被処理水W1として汲み上げる(揚水工程)。次に、揚水工程で汲み上げた被処理水W1を熱交換部1に直接的に供給する(熱交換工程)。
【0039】
ここで、揚水工程で汲み上げた被処理水W1を熱交換部1に直接的に供給するとは、汲み上げた被処理水W1に何ら水処理を施さずに、そのまま熱交換部1に通水することを意味する。かかる水処理方法においては、図1に例示するように、揚水配管L1と熱交換部1との間に、除濁処理、化学処理、浄化処理等の種々の水処理を行うための処理部が一切配置されていない。
【0040】
揚水配管L1の第1の端部は井戸10の揚水ポンプ9と接続され、揚水配管L1の第2の端部は熱交換部1と直接的に接続されている。そのため、地下水を熱交換部1に供給するまでの間における地下水W1(被処理水W1)の熱損失を最大限に防ぐことができる。
【0041】
井戸10の地下水の水温と、熱交換部1の入口での被処理水W1との温度差は、特に限定されるものではないが、2.0℃以下であってもよく、1.0℃以下であってもよく、0.5℃以下であってもよい。該温度差を低減するために、揚水配管L1の外周面を保温材料で包んでもよい。
【0042】
熱交換部1の入口での被処理水W1の溶存酸素濃度は2.0mg/L以下が好ましく、1.0mg/L以下がより好ましく、0.5mg/L以下がさらに好ましい。地下水の溶存酸素濃度はほぼ0mg/Lであることが多い。そのため、熱交換部1の入口での被処理水W1の溶存酸素濃度は低いほど好ましい。
【0043】
熱交換部1で生じた熱交換水W2は貯留槽2で一時的に貯留された後、原水供給配管L3を流れる。原水ポンプ3の作用により熱交換水W2は、酸化処理部4、砂ろ過処理部5、活性炭処理部6、膜処理部7、消毒処理部8に順次供給される。この間、熱交換水W2は、順次、酸化処理水W3、砂ろ過処理水W4、活性炭処理水W5、膜処理水W6、処理水W7となる。
【0044】
処理水W7の用途は特に限定されるものではないが、例えば、飲用水、浄水として利用することができる。水処理装置20Aによれば、浄化水や飲用水の製造と連動して熱交換を行うことができる。よって、夜間等の停水時には熱交換も停止することになる。このような水処理装置20Aはショッピングモールのような給水と冷暖房とを同時に利用する場所に好適に適用できる。
【0045】
水処理装置20Aによれば、井戸10の地下水から、熱交換部1、酸化処理部4と、砂ろ過処理部5と、活性炭処理部6と、膜処理部7と、消毒処理部8をこの順で経由して飲用水や浄水を製造するまでの過程において、配管の分岐や合流なしにワンパスで処理できる。そのため、飲用水や浄水の製造と地下水の熱利用を両立させながらもシンプルな構造を実現できる。
【0046】
熱交換水W2や処理水W7の水温は水温計等によって監視することが好ましい。水温監視は遠隔監視であってもよく、オンサイト(現場)で実施してもよい。例えば、熱交換部1を暖房用途に使用する場合、熱交換水W2の水温が予め設定された許容温度範囲の下限値より低くなった時、警報を出してもよい。熱交換部1を冷房用途に使用する場合、熱交換水W2の水温が予め設定された許容温度範囲の上限値より高くなった時、警報を出してもよい。警報時には揚水ポンプ9を停止することで熱交換を停止することができる。
【0047】
「許容温度範囲」は、膜処理部7における分離膜の使用可能な温度範囲であり、すなわち、分離膜の性能(例えば、阻止率)を維持できる膜供給水の温度範囲という。
膜処理部7の許容温度範囲は、膜供給水被処理水の温度と、膜処理部7における膜処理の阻止率との関係を測定することによって定めることができる。例えば、膜処理部の許容温度範囲(分離膜の使用温度範囲)は以下の観点から決めることが可能である。
【0048】
i)分離膜の製造元によって規定された膜供給水の温度と阻止率との相関関係、
ii)水処理装置に適用する時に求められた処理水の水質に応じて得られた阻止率に対応する膜供給水の温度、
iii)処理水を提供する時の現実的な問題を考慮して設定した温度。
【0049】
前述したi)とii)について、水温が膜処理部7の許容温度範囲にあるとき、分離膜の孔径は適正範囲となる。水の粘度は比較的低くなる。そのため、分離膜の通水抵抗は低くなる。よって、被処理水を適正に膜処理することができる。一方、被処理水の水温が膜処理部7の許容温度を下回ると、分離膜の孔径は小さくなる。水の粘度は高くなる。そのため、分離膜の通水抵抗は高くなる。被処理水の水温が膜処理部7の許容温度を上回ると、分離膜の孔径は大きくなり、不純物を除去する性能が低下する。
【0050】
前述したiii)について、処理水の水質を考えると、例えば、処理水が水道水の基準値の51項目を満たすように、水道水の温度を上限温度にすることが好ましい。また、凍結問題にならないよう、膜処理部の許容温度範囲の下限は5℃にすることが好ましい。
【0051】
(作用機序)
以上説明した第1実施形態によれば、揚水配管L1の第2の端部は熱交換部1と直接的に接続されている。そのため、地下水を熱交換部1に供給するまでの間における地下水(被処理水W1)の熱損失を最大限に防ぐことができる。加えて、地下水を熱交換部1に供給するまでの間における大気から被処理水W1への酸素の混入も防止しやすい。よって、熱交換部1の熱交換器に供給される被処理水W1の溶存酸素濃度も低減しやすいから、熱交換部の接液部の腐食を抑制できる。
【0052】
[第2実施形態]
図2に示す水処理装置20Bは、以下の2点で図1の水処理装置20Aと異なる。
・水処理装置20Bが、貯留槽2に貯留された熱交換水W2の一部を熱交換部1に返送する循環用配管L4をさらに備えること。
・貯留槽2に貯留された熱交換水W2の一部を熱交換部1に返送するための循環用ポンプ11が循環用配管L4に設けられていること。
・循環用配管L4にバルブV4が設けられていること。
【0053】
水処理装置20Bにおいても、図1の水処理装置20Aと同様の作用機序が働く。これに加えて、水処理装置20Bは、以下に説明する特徴を有する。
【0054】
循環用配管L4の第1の端部は貯留槽2内の熱交換水W2に浸漬され、循環用配管L4の第2の端部は熱交換部1の熱交換器(図示略)と接続されている。水処理装置20Bによれば、貯留槽2に貯留された熱交換水W2の一部を貯留槽2と熱交換部1との間で循環させながら、熱交換を実施できる。より詳細に説明すると、熱交換水W2の一部を熱交換部1に返送し、返送された熱交換水W2を用いて熱交換部1の熱交換器(図示略)で再び熱交換を行うことができる(循環工程)。このように貯留槽2をクッションタンクとして用いることも、地下水や被処理水W1の熱を有効に利用する上では有用である。
【0055】
水処理装置20Bによれば、貯留槽2と熱交換部1との間で循環用ポンプ11を稼働させることで、熱交換を実施できる。そのため、夜間等の停水時に原水ポンプ3が停止していても、循環用ポンプ11を稼働させれば、飲用水や浄水の製造運転とは無関係に、いつでも熱交換を実施することができる。よって、水処理装置20Bは、病院、福祉センター、マンション、一戸建等に好適に適用できる。
【0056】
水処理装置20Bにおいても、熱交換水W2や処理水W7の水温を水温計等によって監視することが好ましいが、返送された熱交換水W2’の水温に基づいて、熱交換水W2の一部を熱交換部1に返送するときの返送流量を制御することも有用である(制御工程)。
【0057】
熱交換水W2’の返送流量は、循環用ポンプ11の出力によって変更することができる。好適例においては、循環用ポンプ11を用いて、循環用配管L4を流れる熱交換水W2’の水温に基づいて熱交換水W2の一部を熱交換部1に返送するときの返送流量を制御することができる。
【0058】
例えば、熱交換水W2’の水温が膜処理部7の許容温度範囲(例えば、5℃以上、25℃未満)内の場合には、貯留槽2の熱交換水W2の一部を熱交換部1に返送して熱交換を行うことができる。一方、熱交換水W2’の水温が膜処理部7の許容温度範囲を外れた場合(例えば、5℃未満、または25℃以上の場合)は、貯留槽2および熱交換部1を用いた熱交換水W2’の循環を行わない。他にも、熱交換水W2’の水温が外気温と一致したときは、貯留槽2および熱交換部1を用いた熱交換水W2’の循環を行わない。
【0059】
例えば、熱交換部1を暖房用途に使用する場合、熱交換水W2’の水温が予め設定された許容温度範囲の下限値より低くなった時、熱交換水W2’の流量が増えるよう、貯留槽2からの熱交換水W2の返送流量を循環用ポンプ11の出力変更によって増やすことが有用である。熱交換部1を冷房用途に使用する場合、熱交換水W2の水温が予め設定された許容温度範囲の上限値より高くなった時、熱交換水W2’の流量が減るよう、貯留槽2からの熱交換水W2の返送流量を循環用ポンプ11の出力変更によって減らすことが有用である。
【0060】
水処理装置20Bにおいては、循環用配管L4を流れる熱交換水W2’の溶存酸素濃度を監視することが好ましい。循環用配管L4の第2の端部と熱交換部1の熱交換器(図示略)との接液部の腐食状況を管理するためである。
【0061】
[第3実施形態]
図3に示す水処理装置20Cは、以下の2点で図1の水処理装置20Aと異なる。
・水処理装置20Cが、原水供給配管L3を流れる熱交換水W2の一部を熱交換部1に返送する分岐循環配管L5をさらに備えること。
・原水供給配管L3を流れる熱交換水W2の一部を熱交換部1に返送するときの返送流量を変更するための循環バルブV5が、分岐循環配管L5に設けられていること。
【0062】
水処理装置20Cにおいても、図1の水処理装置20Aと同様の作用機序が働く。これに加えて、水処理装置20Cは、以下に説明する特徴を有する。
【0063】
分岐循環配管L5の第1の端部は原水供給配管L3の途中と接続され、分岐循環配管L5の第2の端部は熱交換部1の熱交換器(図示略)と接続されている。水処理装置20Cによれば、原水供給配管L3を流れる熱交換水W2の一部を熱交換部1、貯留槽2および原水供給配管L3の順に経由して循環させながら熱交換を実施できる。より詳細に説明すると、熱交換水W2の一部を熱交換部1に返送し、返送された熱交換水W2を用いて熱交換部1の熱交換器(図示略)で再び熱交換を行うことができる(循環工程)。このように貯留槽2をクッションタンクとして用いることも、地下水や被処理水W1の熱を有効に利用する上では有用である。
【0064】
分岐循環配管L5の第1の端部は、原水ポンプ3の下流側で原水供給配管L3と接続されている。水処理装置20Cによれば、原水ポンプ3の作用により熱交換水W2は、酸化処理部4、砂ろ過処理部5、活性炭処理部6、膜処理部7、消毒処理部8に順次供給されるとともに、熱交換水W2の一部を熱交換部1に返送できる。よって、水処理装置20Cにおける飲用水や浄水の製造と熱交換とに原水ポンプ3を共有できる。結果的に設置するポンプ数を節約できる。
【0065】
水処理装置20Cにおいても、熱交換水W2や処理水W7の水温を水温計等によって監視することが好ましいが、返送された熱交換水W2’の水温に基づいて、熱交換水W2の一部を熱交換部1に返送するときの返送流量を制御することも有用である(制御工程)。
【0066】
水処理装置20Cにおいては、返送された熱交換水W2’の流量はバルブV5の開度によって変更することができる。好適例においては、分岐循環配管L5を流れる熱交換水W2’の水温に基づいて熱交換水W2の一部を熱交換部1に返送するときの返送流量を、バルブV5を用いて制御することができる。
【0067】
例えば、熱交換水W2’の水温が膜処理部7の許容温度範囲(例えば、5℃以上、25℃未満)内の場合には、原水供給配管L3を流れる熱交換水W2の一部を熱交換部1に返送して熱交換を行うことができる。一方、熱交換水W2’の水温が膜処理部7の許容温度範囲を外れた場合(例えば、5℃未満、または25℃以上の場合)は、原水供給配管L3、熱交換部1および貯留槽2を用いた熱交換水W2’の循環を行わない。他にも、熱交換水W2’の水温が外気温と一致したときは、原水供給配管L3、熱交換部1および貯留槽2を用いた熱交換水W2’の循環を行わない。
【0068】
例えば、熱交換部1を暖房用途に使用する場合、熱交換水W2’の水温が予め設定された許容温度範囲の下限値より低くなった時、熱交換水W2’の流量が増えるよう、原水供給配管L3からの熱交換水W2の返送流量をバルブV5の開度変更によって増やすことが有用である。熱交換部1を冷房用途に使用する場合、熱交換水W2の水温が予め設定された許容温度範囲の上限値より高くなった時、熱交換水W2’の流量が減るよう、原水供給配管L3からの熱交換水W2の返送流量をバルブV5の開度変更によって減らすことが有用である。
【0069】
水処理装置20Cにおいては、分岐循環配管L5を流れる熱交換水W2’の溶存酸素濃度を監視することが好ましい。分岐循環配管L5の第2の端部と熱交換部1の熱交換器(図示略)との接液部の腐食状況を管理するためである。
【0070】
[他の実施形態例]
以上一実施形態例を示して一実施形態について説明したが、本発明は本明細書に開示の実施形態例に限定されず、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施できる。本明細書に開示の実施形態は、その他の様々な形態で実施可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置換、変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明によれば、地下水の熱を充分に利用でき、かつ、熱交換部の接液部の腐食を抑制できる水処理装置および水処理方法が提供される。
【符号の説明】
【0072】
1 熱交換部
2 貯留槽
3 原水ポンプ
4 酸化処理部
5 砂ろ過処理部
6 活性炭処理部
7 膜処理部
8 消毒処理部
9 揚水ポンプ
10 井戸
11 循環用ポンプ
L1 揚水配管
L2 熱交換水供給配管
L3 原水供給配管
L4 循環用配管
L5 分岐循環配管
図1
図2
図3
図4