(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025163319
(43)【公開日】2025-10-29
(54)【発明の名称】鞍乗り車両
(51)【国際特許分類】
   B62K  23/04        20060101AFI20251022BHJP        
   B60K   6/48        20071001ALI20251022BHJP        
   B60K   6/50        20071001ALI20251022BHJP        
   B60W  20/15        20160101ALI20251022BHJP        
   B60W  10/00        20060101ALI20251022BHJP        
   B60W  10/08        20060101ALI20251022BHJP        
   B60W  10/06        20060101ALI20251022BHJP        
   B60K   6/22        20071001ALI20251022BHJP        
   B62J  45/42        20200101ALI20251022BHJP        
   B62M  23/02        20100101ALI20251022BHJP        
   B60L   3/00        20190101ALI20251022BHJP        
   B60L   1/00        20060101ALI20251022BHJP        
   B60W  50/16        20200101ALI20251022BHJP        
【FI】
B62K23/04 
B60K6/48 ZHV
B60K6/50 
B60W20/15 
B60W10/00 900 
B60W10/08 900 
B60W10/06 900 
B60K6/22 
B62J45/42 
B62M23/02 110 
B60L3/00 N 
B60L1/00 L 
B60W50/16 
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022148661
(22)【出願日】2022-09-19
(71)【出願人】
【識別番号】599161580
【氏名又は名称】株式会社デンソートリム
(74)【代理人】
【識別番号】100096998
【弁理士】
【氏名又は名称】碓氷  裕彦
(72)【発明者】
【氏名】岩崎  辰哉
(72)【発明者】
【氏名】小寺  優太
(72)【発明者】
【氏名】金光  憲太郎
【テーマコード(参考)】
3D013
3D202
3D241
5H125
【Fターム(参考)】
3D013CH01
3D202AA08
3D202BB00
3D202BB01
3D202BB11
3D202CC01
3D202CC08
3D202CC12
3D202CC37
3D202DD00
3D202DD01
3D202EE08
3D241AA72
3D241AB01
3D241AD10
3D241AD51
3D241AE02
3D241AE45
3D241BA59
3D241BB05
3D241BB21
3D241BC01
3D241CA12
3D241CC02
3D241CC03
3D241DA13Z
3D241DB02Z
5H125AA01
5H125AB03
5H125AC12
5H125BA00
5H125BA09
5H125CA01
5H125CA11
5H125CD02
5H125DD14
5H125EE42
5H125EE52
5H125FF29
(57)【要約】
【課題】乗員に電動モータが起動可能であることを通知して、電動二輪車等の鞍乗り車両が乗員の意図に反して動き出すことが無いようにする。
【解決手段】乗員がスロットルグリップを把持していることを検知する把持センサと、スロットルグリップの回動量を検知する回転角センサと、スロットルグリップを振動させる振動子を備える。車速が零ないし電動モータの駆動速度である第1所定車速より低速である第2所定車速以下の状態で、把持センサがスロットルグリップの把持を検知した際に、振動子を起動してスロットルグリップを振動させる。乗員が坂道で鞍乗り車両の位置を保持するようにハンドルを押したり、鞍乗り車両を押し歩きしたりしている状態では、振動子を起動してスロットルグリップを振動させ、乗員に電動モータが起動可能出ることを直感的に知らせることができ、意図に反して鞍乗り車両が発進することを防止することが可能となる。
【選択図】
図3
 
【特許請求の範囲】
【請求項1】
  スロットルグリップと把持グリップとを左右に有するハンドルと、
  乗員が着座するシートと、
  駆動輪と、
  少なくとも第1所定車速以下の走行状態では、前記駆動輪を単独で駆動する電動モータとを備える鞍乗り車両であって、
  前記スロットルグリップは、乗員が前記スロットルグリップを把持していることを検知する把持センサと、前記スロットルグリップの回動量を検知する回転角センサと、前記スロットルグリップを振動させる振動子を備え、
  鞍乗り車両の走行後であって、車速が零ないし前記第1所定車速より低速である第2所定車速以下の状態で、前記把持センサが乗員による前記スロットルグリップの把持を検知した際に、前記振動子を起動して前記スロットルグリップを振動させる
  ことを特徴とする鞍乗り車両。
【請求項2】
  前記シートには乗員の着座を検知する着座センサを備えている
  ことを特徴とする請求項1に記載の鞍乗り車両。
【請求項3】
  前記鞍乗り車両は、前記鞍乗り車両の停車状態を保持するスタンドを更に備え、このスタンドの収納状態を検知するスタンドセンサが設けられ、
  前記振動子は前記スタンドセンサが収納状態であることを検知した時に前記振動子を起動して前記スロットルグリップを振動させる
  ことを特徴とする請求項1に記載の鞍乗り車両。
【請求項4】
  前記把持センサは乗員が前記鞍乗り車両を前進方向に押していることを検知する機能を備え、
  前記把持センサが、乗員が前記鞍乗り車両を前進方向に押していることを検知した際には、前記電動モータに前記鞍乗り車両を進行させる前進アシスト力を生じさせる
  ことを特徴とする請求項1に記載の鞍乗り車両。
【請求項5】
  前記把持センサは乗員が前記鞍乗り車両を後退方向に引いていることを検知する機能を備え、
  前記把持センサが、乗員が前記鞍乗り車両を後退方向に引いていることを検知した際には、前記電動モータに前記鞍乗り車両を後退させる後退アシスト力を生じさせる
  ことを特徴とする請求項1に記載の鞍乗り車両。
【請求項6】
  前記把持グリップは、乗員が前記把持グリップを把持していることを検知する把持グリップセンサと、前記把持グリップを振動させる把持グリップ振動子を備え、
  鞍乗り車両の走行後であって、車速が零ないし第2所定車速以下の状態で、前記把持グリップセンサが乗員による前記把持グリップの把持を検知した際に、前記把持グリップ振動子を起動して前記把持グリップを振動させる
  ことを特徴とする請求項1に記載の鞍乗り車両。
【請求項7】
  前記鞍乗り車両は、前記第1所定車速以上の車速の際に前記駆動輪を駆動する内燃機関と、この内燃機関のスロットルバルブを開閉する電子スロットルを更に備える
  ことを特徴とする請求項1に記載の鞍乗り車両。
【請求項8】
  前記電子スロットルは、前記スロットルバルブを開閉駆動するスロットルモータを備えており、
  前記振動子は、このスロットルモータの駆動力を利用する
  ことを特徴とする請求項7に記載の鞍乗り車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
  本明細書の記載は、例えば二輪車等の鞍乗り車両に関し、特に、少なくとも第1所定車速以下の走行状態では、駆動輪を電動モータ単独で駆動する鞍乗り車両に関する。
【背景技術】
【0002】
  特許文献1では、電動二輪車で電源を入れた際に、起動音、メータ上への表示、音声ブザーなどでユーザに車両が走行可能状態であることを知らせている。また、特許文献2では、電動二輪車の押し歩きモードに着目し、押し歩きモードでは電動モータでアシストすることを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
               【特許文献1】特許第6776455号公報
               【特許文献2】特開2006-51853号公報
             
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
  特許文献1に記載の電動二輪車では、起動後初回しか走行可能通知をしない為、起動後に走行して、停車した時には、乗員はモニターを見ていないと電動モータが起動可能状態であることを忘れてしまう可能性がある。その状態で乗員がスロットル操作すると、二輪車が意図せず発進してしまう恐れがある。特に、停車後電動二輪車を押し歩きしている際に誤ってスロットル操作をすると、乗員の意図に反して電動二輪車が動き出すこととなる。
【0005】
  特許文献2に記載の電動二輪車は、押し歩きモードで電動モータのアシストは開示しているが、これは乗員が電動モータのアシストを受けることを前提としている。その為、例えば着座していない状態において、乗員がバランスを崩して、その状態から立て直す際に誤ってスロットル操作をしてしまった場合には、押し歩きモードで電動二輪車が乗員の意図に反して動き出してしまう恐れがある。
【0006】
  本開示は、起動時のみでなく、走行後停車した後でも乗員に電動モータが起動可能であることを通知して、電動二輪車等の鞍乗り車両が乗員の意図に反して動き出すことが無いようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
  本開示の第1は、スロットルグリップと把持グリップとを左右に有するハンドルと、乗員が着座するシートと、駆動輪と、少なくとも第1所定車速以下の走行状態では、駆動輪を単独で駆動する電動モータとを備える鞍乗り車両に関する。
【0008】
  本開示の第1の鞍乗り車両のスロットルグリップは、乗員がスロットルグリップを把持していることを検知する把持センサと、スロットルグリップの回動量を検知する回転角センサと、スロットルグリップを振動させる振動子を備えている。そして、鞍乗り車両の走行後であって、車速が零ないし第1所定車速より低速である第2所定車速以下の状態で、把持センサが乗員によるスロットルグリップの把持を検知した際に、振動子を起動してスロットルグリップを振動させるようにしている。
【0009】
  乗員が坂道で鞍乗り車両の位置を保持するようにハンドルを押したり、鞍乗り車両を押し歩きしたりしている状態は、車速が零ないし第1所定車速より低速である第2所定車速以下の状態である。かつ、位置保持や押し歩きの状態は、把持センサで乗員によるスロットルグリップの把持を検知することができる。そこで、その状態で振動子を起動してスロットルグリップを振動させれば、乗員に電動モータが起動可能であることを直感的に知らせることが可能となる。これにより、乗員の意図に反して鞍乗り車両が発進することを防止することが可能となる。
【0010】
  なお、押し歩きモードは鞍乗り車両を前進させることが多いが、前進には限らない。上述のように、坂道で乗員がハンドルを握って鞍乗り車両をその位置に保持する状態も含む。かつ、乗員が鞍乗り車両を後方に引っ張る状態も含む。本開示の第1は、押し歩きモードでの意図に反する鞍乗り車両の移動を防ぐことができればよく、乗員が鞍乗り車両に乗車して意図して鞍乗り車両を発進させようとする際にも、車速が零ないし第2所定車速以下の状態である時に振動子を起動してスロットルグリップを振動させることがあっても良い。
【0011】
  本開示の第2では、シートには乗員の着座を検知する着座センサを備えている。着座センサにより、乗員が着座して走行しようとしているのか、鞍乗り車両を手押ししようとしているのかを判断することができる。そして、振動子は着座センサが乗員の着座を検知していない時に振動子を起動してスロットルグリップを振動させるようにしている。本開示の第1では乗員が乗車しており意図的にスロットル操作を行う状態を含んでいた。一方、本開示の第2では、乗員が乗車している場合での振動子の振動は行わないようにすることも可能である。即ち、本開示の第2では、乗員による鞍乗り車両の押し歩き状態を積極的に検出している。これにより、押し歩き状態での意図しないスロットルグリップの回動を防ぐことができる。それと共に、乗員が乗車状態で意図してスロットル操作を行なおうとする際に振動子が振動する煩わしさを防ぐことも可能である。
【0012】
  但し、本開示の第2は着座か手押しかの判断ができればよく、着座中に振動子を起動してスロットルグリップを振動させることを除外していない。着座中のスロットルグリップの振動と手押し中のスロットルグリップの振動を異ならすことも可能である。この場合には、乗員に対してよりきめ細かな報知をすることができる。
【0013】
  本開示の第3の鞍乗り車両は、鞍乗り車両の停車状態を保持するスタンドを更に備えている。そして、このスタンドにはスタンドの収納状態を検知するスタンドセンサが設けられている。振動子はスタンドセンサがスタンドの収納状態を検知している時に振動子を起動してスロットルグリップを振動させるようにしている。
【0014】
  押し歩きや走行開始のモードでは、スタンドは収納されている。その為、スタンドセンサを用いることで、鞍乗り車両が押し歩きや走行開始のモードであるのか、停車状態であるのかを判断することができる。
【0015】
  本開示の第4では、把持センサは乗員が鞍乗り車両を前進方向に押していることを検知する機能を備えている。そして、把持センサが、乗員が鞍乗り車両を前進方向に押していることを検知した際には、電動モータに鞍乗り車両を第2所定車速以下の速度で進行させる前進アシスト力を生じさせる。なお、この前進アシスト力は上り坂で鞍乗り車両の位置を保持する際にも用いることができる。
【0016】
  本開示の第5では、第4とは逆に把持センサは乗員が鞍乗り車両を後退方向に引いていることを検知する機能を備えている。そして、把持センサが、乗員が鞍乗り車両を後退方向に引いていることを検知した際には、電動モータに鞍乗り車両を第2所定車速以下の速度で進行させる後退アシスト力を生じさせる。この後退アシスト力も、第4と同様、下り坂で鞍乗り車両の位置を保持する際にも用いることができる。
【0017】
  本開示の第6では、把持グリップは、乗員が把持グリップを把持していることを検知する把持グリップセンサと、把持グリップを振動させる把持グリップ振動子を備えている。そして、鞍乗り車両の走行後であって、車速が零ないし第1所定車速より低速である第2所定車速以下の状態で、把持グリップセンサが乗員による把持グリップの把持を検知した際に、把持グリップ振動子を起動して把持グリップを振動させる。
【0018】
  本開示の第6では、スロットルグリップと把持グリップの双方により、乗員にグリップの振動を知らせることができる。乗員は両手で振動を感知することができ、意図しない鞍乗り車両の発進をより効果的に防止することができる。
【0019】
  本開示の第7の鞍乗り車両は、第1所定車速以上の車速の際に駆動輪を駆動する内燃機関と、この内燃機関のスロットルバルブを開閉駆動する電子スロットルを更に備えている。即ち、本開示の第7の鞍乗り車両は、発進時電動モータが駆動し、第1所定車速以上の車速では内燃機関が駆動するハイブリッド車両である。
【0020】
  本開示の第8では、電子スロットルはスロットルバルブを開閉駆動するスロットルモータを備えている。そして、振動子はスロットルモータの駆動力を利用している。内燃機関用に設置されたスロットルモータでスロットルグリップを振動させることで、モータの使用数を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
            
            【
図2】
図2は、スロットルグリップを示す斜視図である。
 
            【
図3】
図3は、
図2図示スロットルグリップよりカバーの一部を外した斜視図である。
 
            
            
            【
図6】
図6は、鞍乗り車両のセンサ搭載位置を示す斜視図である。
 
            【
図7】
図7は、電動鞍乗り車両の駆動系を示す構成図である。
 
            【
図8】
図8は、電動鞍乗り車両の制御系を示す構成図である。
 
            【
図9】
図9は、スロットルグリップの回動量とアシスト力の関係を説明する図である。
 
            【
図10】
図10は、走行可能通知を説明するフローチャートである。
 
            【
図11】
図11は、ハイブリッド鞍乗り車両の駆動系を示す構成図である。
 
            【
図12】
図12は、ハイブリッド鞍乗り車両の制御系を示す構成図である。
 
            
            
            
            
            
          
【発明を実施するための形態】
【0022】
  以下、本開示の一例を図に基づいて説明する。
図1は、鞍乗り車両100の側面図で、
図1の鞍乗り車両は二輪スクータを示す。ただ、二輪スクータは鞍乗り車両100の一例で、鞍乗り車両はモータサイクルでも良く、スノーモービルや4輪バギー車(ATV)でも良い。また、二輪である必要はなく、前輪101を複数にしても良く、後輪102を複数にしても良い。
 
【0023】
  前輪101はフロントフォーク110に軸支されており、フロントフォーク110はヘッドパイプ111に支持されている。フロントフォーク110の上部はハンドル112に連結しており、ハンドル112により前輪101は左右に回動できる。ハンドル112の左右にはグリップが設けられ(
図6図示)、右側のグリップが駆動力の調整を行うスロットルグリップ200となる。乗員がスロットルグリップ200を時計方向に回動させることで鞍乗り車両100を加速させ、逆に反時計方向に回動させれば鞍乗り車両100は減速する。左側のグリップは把持グリップ113である。
 
【0024】
  なお、前後方向は鞍乗り車両100の進行方向を前、後退方向を後とする。また、左右方向は鞍乗り車両100の前進方向に対して右側か左側かで判断する。上下方向も鞍乗り車両100に対して天側を上とし地側を下とする。
【0025】
  ハンドル112の略中央には、メータ115が配置されている。そして、このメータ115の前方にはヘッドライト116が配置されている。また、ハンドル112にはスタートスイッチ300が配置されており、メータ115の近傍にはキースイッチ301が配置されている。なお、キーを用いずに駆動する鞍乗り車両100では、メインスイッチが配置されている。本開示でキースイッチ301はメインスイッチも含んでいる。
【0026】
  ヘッドパイプ111は、車体フレーム120の一部をなしている。車体フレーム120は、前方フレーム121、中間フレーム122、及び後方フレーム123からなる。前方フレーム121は上述のヘッドパイプ111を保持している。中間フレーム122は略水平に配置され、乗員が足を置くフットレスト130を支持している。また、中間フレーム122には、鞍乗り車両100を停車するのに用いるスタンド119が回動可能に取り付けられている。
【0027】
  後方フレーム123は斜め上方に延び、パワーユニット140を支持している。具体的には、パワーユニット140の前方を支持ボルト124で回動自在に保持し、パワーユニット140の後方をショックアブソーバー125により保持している。
【0028】
  パワーユニット140には、電動モータ141とインバータ142(
図7図示)が配置されている。電動モータ141は走行時には後輪102を回転駆動する。従って、後輪102がこの例では駆動輪となる。以下、後輪を駆動輪102と呼ぶ。鞍乗り車両100が回生ブレーキをかける際には、電動モータ141は発電機として作動する。
 
【0029】
  電動モータ141が回転駆動している際の回転数はインバータ142により制御される。具体的には、バッテリ143の直流電流をインバータ142によって三相交流電流として、その周波数を可変することで電動モータ141の回転数を制御する。インバータ142は電動モータ141の回転方向も制御することができる。従って、鞍乗り車両100は前進方向にも後退方向にも移動することが可能である。電動モータ141が発電機として動作する際には、インバータ142で直流電流に変換してバッテリ143に充電する。なお、バッテリ143には様々なタイプがあり、燃料電池も含んでいる。
【0030】
  パワーユニット140には減速ギヤ144も配置されている。電動モータ141の回転はこの減速ギヤ144で所定の比率に減速されて駆動輪102に伝達される。換言すれば、電動モータ141の駆動トルクは減速ギヤ144によって高められて駆動輪102に伝達される。
【0031】
  後方フレーム123の周囲は車体カバー190によって覆われている。車体カバー190の略中央の上部は乗員が着座するシート191が固定されている。そして、このシート191の下方にはヘルメット等の荷物を収納することができるユーティリティスペースが設けられている。更に、ユーティリティスペースの下方にはバッテリ143が配置されている。
【0032】
  図2に示すように、スロットルグリップ200には円柱状のグリップ部201が配置され、このグリップ部201はハンドル112に対して回動可能である。
図3は
図2のグリップカバー202を外した斜視図であるが、
図3に示すように、グリップカバー202内には、回転角センサ210と振動子220が配置されている。
 
【0033】
  振動子220は振動子モータ221と、この振動子モータ221により回転する小ギヤ222と、この小ギヤ222と歯合する大ギヤ223を備える。振動子モータ221は正転、逆転するように回転制御され、この振動子モータ221の回転が小ギヤ222を介して大ギヤ223に伝達される。大ギヤ223はグリップ部201に固定されており、大ギヤ223の移動に応じてグリップ部201が振動する。
【0034】
  グリップ部201の振動は、スロットルグリップ200の中心軸周りに回動方向の正転(時計方向回動)と逆転(反時計方向回動)を繰り返す振動であり、その振動角度は3度~10度程度である。振動回数は1秒間に5回程度の速さである。1秒程度連続して振動させ、1秒程度振動を停止する。尤も、振動のパターンや周期は一例であり、スロットルグリップ200を握っている乗員に振動が伝わればよい。
【0035】
  回転角センサ210は、
図4に示すように、第1マグネット211と、第2マグネット212と、これらの第1マグネット211及び第2マグネット212の間に配置されるホールセンサ213を備える。第1マグネット211及び第2マグネット212はグリップ部201に固定されており、グリップ部201の回動に応じて位置が移動する。一方、ホールセンサ213はハンドル112に固定され位置は変化しない。従って、乗員がグリップ部201を回動すると第1マグネット211及び第2マグネット212とホールセンサ213との相対位置が変化する。ホールセンサ213はこの位置変化に伴う磁束の変化を検知してグリップ部201の回動量を検出する。
 
【0036】
  なお、回転角センサ210の検出角度は0.1度程度である。但し、乗員によるスロットルグリップ200回動を検出する角度は10度としている。これはスロットルグリップ200の遊びを考慮し、また、乗員の無意識なグリップ部201操作を検知しないようにするためである。従って、振動子220がグリップ部201を振動させても、振動子220による角度変化は回転角センサ210の不感帯内である。その為、回転角センサ210により振動子220の角度変化が検知されても、乗員がスロットルグリップ200を操作して駆動力を調整しようとしていると判断することはない。
【0037】
  グリップ部201には把持センサ230も配置されている。把持センサ230は、
図3に実線で示す第1把持センサ231と、破線で示す第2把持センサ232とで構成される。第1把持センサ231は乗員の掌が当接する位置に配置され、第2把持センサ232は乗員の指が当接する位置に配置される。
 
【0038】
  図5に示すように、把持センサ230はひずみゲージや圧電素子等の感圧センサである。センシング部233に受ける圧力に応じて、入力線234と出力線235との間の電圧が変化する。この電圧の変化により、グリップ部201が把持されているか否か、及び、どの程度の力で把持されているのかを検出する。
 
【0039】
  図2及び
図3では、スロットルグリップ200に配置された把持センサ230を説明したが、把持センサ230は把持グリップ113にも配置されている。把持センサ230はスロットルグリップ200でも把持グリップ113でも同様であるが、把持グリップ113の把持センサ230を把持グリップセンサと呼ぶ。また、把持グリップ113には、振動子220も配置されている。従って、振動子220が振動する際には、左右のグリップで振動することとなり、乗員に振動子220の振動を的確に伝達することができる。なお、把持グリップ113の振動子220もスロットルグリップ200の振動子220と同様であるが、把持グリップ113の振動子220を把持グリップ振動子と呼ぶ。把持グリップ振動子の振動のパターン及び周期はスロットルグリップ200の振動子220と同じにしている。
 
【0040】
  以上は、スロットルグリップ200及び把持グリップ113に配置されるセンサを説明したが、鞍乗り車両100は他にも多くのセンサを備える。
図6を用いて各種センサの配置位置と、センシング対象を説明する。スタートスイッチ300がスロットルグリップ200の近傍にあるのは上述の通りである。スタートスイッチ300は鞍乗り車両100をスタートさせる際に押圧するボタンスイッチである。また、メータ115の近傍にキースイッチ301が配置されるのも上述の通りである。鞍乗り車両100をスタートさせるには、キースイッチ301とスタートスイッチ300の両方をオンとする必要がある。
 
【0041】
  シート191には乗員がシート191に着座しているか否かを検知する着座センサ302が配置されている。着座センサ302は把持センサ230と同様な感圧センサを用いる。但し、感圧センサに代えて、オンオフを検知する接点スイッチとしてもよい。この場合、乗員がシートに着座すればスイッチがオンとなり、降りればオフとなる。
【0042】
  シート191には、傾斜角センサ303も配置されている。傾斜角センサ303はジャイロセンサからなり、鞍乗り車両100が左右方向に傾斜しているか否か、また、どの程度傾斜しているのかを検出する。また、重心位置センサ304がヘッドパイプ111に配置されている。この重心位置センサ304もジャイロセンサからなり、鞍乗り車両100の重心位置が前方に移動したか後方に移動したかを検出する。重心位置センサ304により乗員が前傾姿勢となっているかどうかが検出できる。
【0043】
  フットレスト130にはステップセンサ305が配置されている。ステップセンサ305も感圧センサで、乗員の足がフットレスト130に載っているか否かを判断する。感圧センサに代えて接点スイッチを用いても良く、光電管を用いても良い。いずれのセンサでも、乗員の足がフットレストにあるか否かを検知出来れば良い。
【0044】
  上述のように中間フレーム122には、鞍乗り車両100を駐車する際に用いるスタンド119が取り付けられている。そして、中間フレーム122にこのスタンド119が駐車位置にあるのか収納位置にあるのかを検知するスタンドセンサ306が配置されている。このスタンドセンサ306はスタンド119の位置を検知する接点スイッチで、駐車位置か収納位置のいずれか一方でオンとなり、他方でオフとなる。
【0045】
  バッテリ143には、バッテリ残量をバッテリ残量センサ307が配置されている。バッテリ残量センサ307はバッテリ143の電圧値若しくは電流値を検知する。
【0046】
  車速センサ308で計測された車速を示す表示はメータ115で行われる。車速センサ308は電動モータ141の回転数に基づいて鞍乗り車両100の車速を計算する。尤も、前輪101の回転数から車速を計算しても良い。
【0047】
  図8に示すように、キースイッチ301、スタートスイッチ300、把持センサ230、回転角センサ210、着座センサ302、スタンドセンサ306、ステップセンサ305、バッテリ残量センサ307、傾斜角センサ303、重心位置センサ304、車速センサ308からの信号はコントロールユニット350の制御部351に入力する。制御部351は、キースイッチ301とスタートスイッチ300との信号に基づいて、鞍乗り車両100を起動して良いかを判断する。また、回転角センサ210からの信号に基づき、車速を上げるか下げるかを計算してインバータ142に速度信号を出力する。インバータ142は制御部351からの指示に基づいて電動モータ141の回転数を制御する。
 
【0048】
  制御部351は、通常の走行時以外で乗員が意図せずにスロットルグリップ200を操作することが無いように、各種センサからの信号を利用して鞍乗り車両100が停車状態であるか否かを判断する。乗員が鞍乗り車両100を押し歩きしている状態では、アシスト可能であるか否かを、振動子220を用いて乗員に通知する。また、乗員が着座して走行開始しようとしている状態でも、振動子220を用いて走行可能であることを乗員に通知する。
【0049】
  図10にそのフローチャートを示す。制御開始ステップS400の後、キースイッチ301がオン(S401)であれば制御部351は起動する(S402)。次いで、スタートスイッチ300がオンであるかを判断する(S403)。スタートスイッチ300がオフであれば走行禁止となる(S404)。
 
【0050】
  スタートスイッチ300がオンであれば、把持センサ230の信号を検出する(S405)。信号が検出できなければ、乗員がハンドル112を握っていない状態であるので走行禁止となる(S404)。把持センサ230からの信号で、乗員がハンドル112を握っていることを確認すると、次に停車判定ステップS406に進む。
【0051】
  停車判定ステップS406では、A移動可能状態か、B走行中状態か、C走行禁止状態かを判断する。また、A移動可能状態の場合には、A-1鞍乗り車両100の走行を許可する状態と、A-2鞍乗り車両100の手押し移動をアシストする状態とがある。
【0052】
  まず、A-1鞍乗り車両100の走行を許可する状態を説明する。車速センサ308の信号に基づいて、鞍乗り車両100の車速が零であるか、若しくは、低速の所定車速より低い速度であるかを判断する。この低速の所定速度が、第2所定車速であり、例えば時速1キロメートル程度の速度である。また、停車判定ステップS406では、スタンドセンサ306からの信号を用いて、スタンド119が収納位置にあることを確認する。かつ、着座センサ302により乗員がシート191に着座していることを確認する。また、傾斜角センサ303で鞍乗り車両100が大きく傾いていないことを確認する。
【0053】
  これにより、鞍乗り車両100がスタンドによって停車している状態でもなく、バランスを崩して鞍乗り車両100が傾いている状態でもなく、乗員がスロットルグリップ200を操作して発進しようとしている状態であることが判断できる。この場合には、走行可能通知S4071を乗員に対して行う。この走行可能通知S4071は振動子220を起動して、スロットルグリップ200及び把持グリップ113を振動させることで行う。振動パターンとしては、上述の1秒間振動、1秒間停止を繰り返す。走行可能通知S4071を行った後、鞍乗り車両100は走行許可S4081となる。乗員はスロットルグリップ200を時計方向に回動操作することで鞍乗り車両100を発進させることができる。
【0054】
  次に、A-2鞍乗り車両100の手押しアシスト可能状態を説明する。この状態も車速センサ308からの信号が第2所定車速以下であることを判断する。そして、スタンドセンサ306からの信号を用いて、スタンド119が収納位置にあることを確認する。また、傾斜角センサ303で鞍乗り車両100が大きく傾いてもいないことを確認する。しかし、着座センサ302による判断は、乗員がシート191に着座していないことを確認する。これにより、乗員がシート191に着座してスタートさせようとしている状態でもないことを確認する。典型的な状態としては、乗員が鞍乗り車両100から降りて押し歩きしようとしている状態を検出する。かつ、押し歩き状態でも乗員がバランスを崩して鞍乗り車両100が傾いていないことを確認する。
【0055】
  以上の確認ができれば、手押しアシスト可能通知S4072を乗員に対して行う。この手押しアシスト可能通知S4072も振動子220を起動して、スロットルグリップ200及び把持グリップ113を振動させることで行う。但し、振動のパターンは走行許可通知S4071とは異なるパターンとしている。例えば、0.5秒振動と0.5秒停止の繰り返しとしている。
【0056】
  手押しアシスト可能通知S4072は乗員に電動モータ141によるアシストが可能であることの通知となる。また、手押しアシスト可能通知S4072は、電動モータ141が回転可能であることの通知ともなる。これにより、乗員が意図せずにスロットルグリップ200を回動させて鞍乗り車両100が発進するのを防止する通知とすることができる。
【0057】
  手押しアシスト可能通知S4072を行った後に、手押しアシスト許可S4082の状態とする。この手押しアシスト許可S4082はスロットルグリップ200の開度に応じて、
図9に示すように、3段階のアシストを行う。
 
【0058】
  アシスト1は、坂道で鞍乗り車両100が転がって行かないための弱いアシストである。スロットルグリップ200が回動していなくても、把持センサ230の検出した把持力から必要なアシスト力を計算する。掌側の第1把持センサ231と指側の第2把持センサ232との圧力の差から、坂道が上り坂であるのか、下り坂であるのかを検知する。また、圧力差に応じて坂の傾斜角を計算し、坂の傾斜角に応じて必要となるアシスト力を制御部351で計算する。第1把持センサ231及び第2把持センサ232からの信号に加え、重心位置センサ304からの信号も加えることでアシスト力の計算精度を高めることが可能である。インバータ142は制御部351の計算結果に応じたアシスト力を電動モータ141に出力する。
【0059】
  この状態は、鞍乗り車両100の停車状態であるので、手押しアシスト可能通知S4072は通知条件が解消されるまで定期的に行う。本例では、振動パターンは0,5秒振動と0.5秒停止の繰り返しで、その振動パターンを3秒程度継続した後、2秒程度振動パターンを停止し、その後振動パターンを再開するようにして手押しアシスト可能通知S4072を行う。尤も、この定期的なパターンも種々に変更可能である。例えば、振動パターンを5秒継続、5秒停止としてもよい。また、定期的でなく、振動パターンを連続しても良い。
【0060】
  アシスト2は、鞍乗り車両100を駐車させるときに移動させる程度の遅いスピードで、例えば時速1キロメートル程度である。制御部351は時速1キロメートルの車速をインバータ142に指示し、インバータ142は時速1キロメートルの制御を電動モータ141に出力する。この遅いスピードでは、第2所定車速以下であるので、やはり定期的に手押しアシスト可能通知S4072を乗員に対して行う。アシスト2は弱いアシスト力であるので、乗員がアシストを受けていることを忘れる恐れもある。しかし、定期的に手押しアシスト可能通知S4072を行うことで、乗員が意図せずにスロットルグリップ200を回動させるのを防ぐことができる。手押しアシスト可能通知S4072は通知条件が解消されるまで継続する。
【0061】
  アシスト3は、住宅街等での押し歩きのレベルのスピードで、歩行速度である時速5キロメートル未満の速度である。制御部351は回転角センサ210の出力に応じて時速5キロメートル未満の速度をインバータ142に指示する。インバータ142は指示速度に応じて電動モータ141を回転させる。この状態では、第2所定車速より早く移動しているので、走行可能通知S4071は行わない。乗員はアシスト力を受けて鞍乗り車両100を押し歩きしていることを理解しているので、走行可能通知S4071は不要であるからである。徒に走行可能通知S4071を行って、乗員を煩わせることもない。尤も、第2所定車速を時速6キロメートル程度として、アシスト3であっても走行可能通知S4071を行うことは可能である。
【0062】
  図9に示すように、アシスト1からアシスト2へ移行する際のスロットルグリップ200の回動量に対して、アシスト2からアシスト3へ移行する際のスロットルグリップ200の回動量は大きくなっている。例えば、アシスト2からアシスト3へ移行する際のスロットルグリップ200の回動量を45度程度以上の大きな回動量としている。その為、乗員はアシスト3に移行するには意図的に大きくスロットルグリップ200を回動させる必要がある。これは、乗員の意思に反してアシスト2からアシスト3に移行しないようにするためである。
 
【0063】
  停車判定S406でA移動可能状態でなく、B鞍乗り車両100の走行中状態であることを判断すれば、乗員の意図に応じて車速を制御する。このB走行中状態は、車速センサ308から得られる車速が、第2所定車速より早い状態である。また、スタンドセンサ306はスタンドの収納位置を検知し、着座センサ302は乗員の着座を検知している。B走行中状態では、走行可能通知S4071や手押しアシスト可能通知S4072は行わないので、乗員を煩わせることはない。
【0064】
  乗員がスロットルグリップ200を回動させると、回転角センサ210の出力に応じて制御部351は車速を演算し、演算結果をインバータ142に指示する。そして、インバータ142は指示された車速となるよう電動モータ141を回転させる。
【0065】
  車速は、専ら回転角センサ210の出力に応じて定められるが、乗員が更に加速をしようとしているのかを検知する補助手段として、ステップセンサ305や重心位置センサ304を用いることも可能である。ステップセンサ305は、スクータで用いられ、乗員が正しい乗車位置であることの確認を行う。重心位置センサ304は主にモータサイクルで用いられ、乗員が前傾姿勢であることの確認に用いられる。
【0066】
  停車判定S406において、A-1走行許可S4081でもなく、A-2手押しアシスト許可S4082でもなく、かつ、B走行中でもない状態は、通常は想定されない状態である。センサが誤った信号を出力している可能性もある。この場合、制御部351はC走行禁止S404とする。
【0067】
  図10の制御フローで、停車判定S406でA移動可能と判断したり、B走行中であると判断したり、C走行禁止を判断したり(S404)した後は、キースイッチ301がオンを維持しているかを確認する(S409)。ここで、キースイッチ301がオンしていることが確認できれば、スタートスイッチ300がオンであるかの判定ステップS403からのフローを繰り返す。キースイッチ301がオフとなっていれば、鞍乗り車両100の運転は終了したと判断して、制御フローを終了する(S410)。但し、キースイッチ301をオフとしても自己保持電源を用いて、制御部351の判断を暫くの間継続することも可能である。
 
【0068】
  なお、以上は鞍乗り車両100が電動モータ141のみで駆動される電動車両である例であったが、電動モータ141と内燃機関150とで駆動されるハイブリッド車両としても良い。
図11に示すように、内燃機関150はシリンダブロック151内をピストン152が往復移動する。ピストン152の往復移動は、コンロッド153を介して駆動軸154を回転させる。駆動軸154の回転は駆動プーリー155、ベルト156、従動プーリー157を介して駆動シャフト158に伝達される。駆動シャフト158には内燃機関150からの駆動力と電動モータ141からの駆動力が入力可能であり、いずれの駆動力を利用するかはクラッチ160により切替られる。駆動シャフト158の駆動力は、電動車両と同様、減速ギヤ144を介して駆動輪102に伝達される。
 
【0069】
  なお、
図11はハイブリット車両の駆動力伝達機構の一例である。電動モータ141と内燃機関150の双方で鞍乗り車両100を駆動できれば、ハイブリット車両の駆動形態は他の動力伝達の例を含んでも良い。
 
【0070】
  内燃機関150の回転は第2モータ170にも伝達される。内燃機関150を始動する際には第2モータ170はスタータとして機能し、第2モータ170が回転して内燃機関150の駆動軸154を回転させる。その際には、バッテリ143からの直流電流を第2インバータ171で三相交流電流に変換して第2モータを回転させる。バッテリ143の残量が減った際には、第2モータは発電機として機能する。第2インバータ171は交流電流を直流電流に変換して、バッテリ143に給電する。バッテリ143の残量はバッテリ残量センサ307で検知する。
【0071】
  図12に示すように、ハイブリッド車両では制御部351は、駆動輪102の駆動を電動モータ141のみで行うのか内燃機関150のみで行うのか、電動モータ141と内燃機関150の双方で行うのかを判断する。この判断は、車速センサ308からの車速信号と、回転角センサ210からの乗員によるスロットルグリップ200の回動を主な基準として行う。
 
【0072】
  スタート時は電動モータ141のみで駆動輪102を駆動する。低速時には電動モータ141の方が内燃機関150よりトルクが高いので、電動モータ141によるスムーズな発進が可能である。スタートから所定の低速度までは、電動モータ141のみにより駆動輪102を駆動する。この所定の低速度は、例えば、時速10~15キロメートル程度である。これが、第1所定車速となる。従って、第1所定車速はハイブリッド車両での所定低速である。電動車両では第1所定車速は鞍乗り車両100の走行できる全ての車速となる。
【0073】
  従って、ハイブリッド車両と電動車両の双方において第1所定車速以下の走行状態では電動モータ141のみによって鞍乗り車両100は走行されることとなる。この状態は鞍乗り車両100に着座して始動させる状態や、鞍乗り車両100を押し歩きしている状態を含んでいる。内燃機関150を用いる場合には、内燃機関150の作動音や振動を、ハンドル112を持ったりシート191に座ったりすることで触感的に感じることができる。それに対し、電動モータ141のみの駆動では駆動音が小さく、内燃機関150のアイドリング状態のような動作音や振動がない。その為、乗員は鞍乗り車両100が起動可能状態であることに気付かず、意図しないでスロットルグリップ200を回動させる恐れがある。しかし、上述のように、そのような状態では走行可能通知S4071や手押しアシスト可能通知S4072を行って、乗員の注意を喚起することができている。
【0074】
  ハイブリッド車両で車速が第1所定車速以上となると、電動モータ141に代わり内燃機関150が駆動シャフト158を駆動する。内燃機関150は高速で一定速度の運転とする運転状態が効率の良い運転状態であるので、鞍乗り車両100を高効率で運転することができる。
【0075】
  ハイブリッド車両が第1所定車速以上で内燃機関150によって運転されている状態で、乗員が鞍乗り車両100を加速させるためにスロットルグリップ200を更に回動させると、電動モータ141による駆動力を利用することができる。この電動モータ141の駆動力の利用には、内燃機関150の回転数を上昇させると共に、電動モータ141も回転させて駆動力を付加することで行う。若しくは、内燃機関150の回転数は一定回転を保持したまま、電動モータ141の駆動力を付加することで駆動シャフト158の回転数を高めることもできる。
【0076】
  内燃機関150の回転数は、電子スロットル180を制御して内燃機関150への吸入空気量を調整することで行う。且つ、シリンダブロック151への燃料の供給量を調整して、内燃機関150の回転数を制御する。電子スロットル180は、
図13に示すように、スロットルバルブ181を回動制御して吸気通路の面積を可変する。
 
【0077】
  スロットルバルブ181の回動はスロットルモータ183により行う。スロットルモータ183はハウジング184の中に収納されているので、
図13で示す符号183はスロットルモータの収納位置を表している。このスロットルモータ183の動きをメカニカルワイヤ185でスロットルグリップ200のグリップ部201に伝達することにより、振動子モータ221の機能を電子スロットル180のスロットルモータ183に担わせることも可能である。なお、ハウジング184の開口部はケース186により閉じられている。
 
【0078】
  尤も、内燃機関150の場合、常に電子スロットル180を用いる訳ではない。メカニカルワイヤでスロットルグリップ200の回動量をスロットルバルブ181に伝達する例もある。そのような例では、スロットルモータ183を備えないので、振動子モータ221が必要となる。
【0079】
  ハイブリッド車両であっても、鞍乗り車両100の車速が零か第2所定車速以下の時に、停車判定S406を行うことは、
図10の例と同様である。また、走行可能通知S4071や手押しアシスト可能通知S4072を、スロットルグリップ200と把持グリップ113を振動させることで行うことも同様である。走行可能通知S4071や手押しアシスト可能通知S4072の振動に、
図3に示す振動子モータ221を用いても良く、
図13に示す電子スロットル180のスロットルモータ183でスロットルグリップ200を振動させても良い。但し、把持グリップ113の振動は、電動車両でもハイブリッド車両でも振動子モータ221を用いる。
 
【0080】
  スロットルグリップ200や把持グリップ113の振動には、振動子モータ221の正転、逆転以外にも色々な手段を用いることができる。
図14に示すように、振動子モータ221を一定方向に回転させ、リンク機構225を用いて小ギヤ222を回動させても良い。
図15はリンク機構225を拡大図示するが、リンク機構225を用いることで、所定位置に保持された小ギヤ222を正転、逆転させることができるようになっている。クランク機構225を追加はコストアップ要因となるが、振動子モータ221は一定方向の回転のみで済むので、振動子モータ221の制御は容易となる。
 
【0081】
  また、
図16に示すように、グリップ部201の内部に振動子モータ221を配置し、この振動子モータ221により偏芯ウェイト226を回転させるようにしても良い。偏芯ウェイト226が回転することで、グリップ部201を振動させることができる。
 
【0082】
  図17に示すように、グリップ部201の内部に振動子ソレノイド227を配置してもよい。この例では、振動子ソレノイド227のソレノイドシャフト228をグリップ部201と連結する。
図17の例ではグリップ部201はハンドル112に対して軸方向に移動可能に係止されている。振動子ソレノイド227は通電すると励磁力で一方向に変位し、通電しない時はバネ力で他方向に変位する。振動子ソレノイド227への通電、遮断を所定間隔で繰り返すことで、グリップ部201をハンドル112の軸方向に振動させることができる。
 
【0083】
  なお、
図14ないし
図17では、スロットルグリップ200で説明しているが、振動子220の構成は、把持グリップ113でも同様である。様々な構造の振動子220を把持グリップ113に用いることが可能である。乗員は通常、鞍乗り車両100のハンドル112は左右両方で握っている。その為、右側のスロットルグリップ200のみでなく、左側の把持グリップ113にも把持グリップ113用の把持センサ230を設けるのが望ましい。これにより、乗員が正しく左右のグリップを把持していることを検知できる。
 
【0084】
  尤も、振動子220の配置が必須となるのは、スロットルグリップ200である。把持グリップ113は、必要に応じて振動子220を配置すればよい。振動子220を配置しない把持グリップ113とすることも可能である。把持グリップ113とスロットルグリップ200の双方を振動させた方が、乗員に走行可能通知S4071を的確に通知することができる。しかし、スロットルグリップ200のみの通知であっても、乗員は走行可能通知S4071を感知することは可能である。
【0085】
  振動子220を把持グリップ113に配置しない場合でも、把持センサ230を把持グリップ113に設置しても良い。鞍乗り車両100の押し歩きは、通常左右のグリップを握って行うので、押し歩き状態を的確に検知することが可能である。但し、把持グリップ113の把持センサ230は必須ではない。スロットルグリップ200のみに把持センサ230を配置することも可能である。
【0086】
  また、上述の例では、停車判定S406に着座センサ302からの信号とスタンドセンサ306からの信号を用いた。乗員が鞍乗り車両100を押し歩きしようとしている状態を的確に検出でき、望ましい。ただ、スタンドセンサ306を廃止しても、把持センサ230と車速センサ308と着座センサ302で、乗員の押し歩きを判断することは可能である。
【0087】
  更に、必要に応じて着座センサ302も廃止してもよい。この場合、乗員が鞍乗り車両100に乗っているのか、降りて押し歩きをしようとしているかの判別は困難となる。しかし、把持センサ230と車速センサ308から少なくとも乗員が押し歩きをしようとしている状態は検知することが可能である。また、この場合でも、乗員が鞍乗り車両100に乗車していて、第2所定車速以下であれば走行可能通知S4071が通知されることになる。従って、着座センサ302を廃止した場合であっても、乗員に対して鞍乗り車両100が起動可能な事の通知となる。予期せぬ起動を防ぐ効果は乗車中でも発揮できる。
【0088】
  なお、鞍乗り車両100の押し歩き状態は、一般的には一旦走行を終え、停車してから鞍乗り車両100を押し歩くのが一般的である。ただ、本開示は、キースイッチ301及びスタートスイッチ300がオンになった後直ちに押し歩きを行う使用態様を除外するものではない。通常の走行後の押し歩きに意図しないスロットルグリップ200の回動操作が阻止できるのであれば、鞍乗り車両100の走行前の押し歩きでも走行可能通知S4071が乗員に知らされることとなっても良い。
【0089】
  更に、上述の例では、把持センサ230を鞍乗り車両100の押し歩き状態で、前進方向の押圧力を検知できる第1把持センサ231と引張状態を検出できる第2把持センサ232との2つのセンサとしていた。これは、アシスト力を前進方向とするのか後退方向とするのかを判断する上で望ましい。しかし、必要に応じ、把持センサ230を一つとすることは可能である。その場合、押し歩きを検知しやすい第1把持センサ231を残すのが合理的である。
【0090】
  また、上述の例では、A-1走行可能通知S4071と手押しアシスト可能通知S4072とで、振動子220の振動パターンを異ならせていた。乗員には乗車中か手押し中かが分かり望ましい。ただ、振動子220の振動パターンをA-1走行可能通知S4071と手押しアシスト可能通知S4072で同じにしても良い。
【0091】
  また、上述の例では、A移動可能状態を更にA-1走行可能通知S4071と手押しアシスト可能通知S4072とに区別していた。A-1走行可能通知S4071を乗員に対して行うことができて望ましい。しかし、本開示が特に必要としているのは、手押しアシスト可能通知S4072である。必要に応じ、A-1走行可能通知S4071は廃止しても良い。
【0092】
  なお、この明細書には、以下に列挙する複数の技術的思想と、それらの複数の組み合わせが開示されている。
【0093】
(技術的思想1)
  スロットルグリップと把持グリップとを左右に有するハンドルと、
  乗員が着座するシートと、
  駆動輪と、
  少なくとも第1所定車速以下の走行状態では、前記駆動輪を単独で駆動する電動モータとを備える鞍乗り車両であって、
  前記スロットルグリップは、乗員が前記スロットルグリップを把持していることを検知する把持センサと、前記スロットルグリップの回動量を検知する回転角センサと、前記スロットルグリップを振動させる振動子を備え、
  鞍乗り車両の走行後であって、車速が零ないし前記第1所定車速より低速である第2所定車速以下の状態で、前記把持センサが乗員による前記スロットルグリップの把持を検知した際に、前記振動子を起動して前記スロットルグリップを振動させる
  ことを特徴とする鞍乗り車両。
【0094】
(技術的思想2)
  前記シートには乗員の着座を検知する着座センサを備えている
  ことを特徴とする技術的思想1に記載の鞍乗り車両。
【0095】
(技術的思想3)
  前記鞍乗り車両は、前記鞍乗り車両の停車状態を保持するスタンドを更に備え、このスタンドの収納状態を検知するスタンドセンサが設けられ、
  前記振動子は前記スタンドセンサが収納状態であることを検知した時に前記振動子を起動して前記スロットルグリップを振動させる
  ことを特徴とする技術的思想1若しくは2に記載の鞍乗り車両。
【0096】
(技術的思想4)
  前記把持センサは乗員が前記鞍乗り車両を前進方向に押していることを検知する機能を備え、
  前記把持センサが、乗員が前記鞍乗り車両を前進方向に押していることを検知した際には、前記電動モータに前記鞍乗り車両を進行させる前進アシスト力を生じさせる
  ことを特徴とする技術的思想1ないし3のいずれかに記載の鞍乗り車両。
【0097】
(技術的思想5)
  前記把持センサは乗員が前記鞍乗り車両を後退方向に引いていることを検知する機能を備え、
  前記把持センサが、乗員が前記鞍乗り車両を後退方向に引いていることを検知した際には、前記電動モータに前記鞍乗り車両を後退させる後退アシスト力を生じさせる
  ことを特徴とする技術的思想1ないし4のいずれかに記載の鞍乗り車両。
【0098】
(技術的思想6)
  前記把持グリップは、乗員が前記把持グリップを把持していることを検知する把持グリップセンサと、前記把持グリップを振動させる把持グリップ振動子を備え、
  鞍乗り車両の走行後であって、車速が零ないし第2所定車速以下の状態で、前記把持グリップセンサが乗員による前記把持グリップの把持を検知した際に、前記把持グリップ振動子を起動して前記把持グリップを振動させる
  ことを特徴とする技術的思想1ないし5のいずれかに記載の鞍乗り車両。
【0099】
(技術的思想7)
  前記鞍乗り車両は、前記第1所定車速以上の車速の際に前記駆動輪を駆動する内燃機関と、この内燃機関のスロットルバルブを開閉する電子スロットルを更に備える、
  ことを特徴とする技術的思想1ないし6のいずれかに記載の鞍乗り車両。
【0100】
(技術的思想8)
  前記電子スロットルは前記スロットルバルブを開閉駆動するスロットルモータを備えており、
  前記振動子は、このスロットルモータの駆動力を利用する
  ことを特徴とする技術的思想7に記載の鞍乗り車両。
【符号の説明】
【0101】
  100    鞍乗り車両
  102    駆動輪
  141    電動モータ
  150    内燃機関
  191    シート
  200    スロットルグリップ
  210    回転角センサ
  220    振動子
  230    把持センサ
  302    着座センサ
  306    スタンドセンサ
  308    車速センサ