IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社東芝の特許一覧 ▶ 東芝エネルギーシステムズ株式会社の特許一覧

特開2025-163428吸着処理方法、および、吸着処理システム
<>
  • 特開-吸着処理方法、および、吸着処理システム 図1A
  • 特開-吸着処理方法、および、吸着処理システム 図1B
  • 特開-吸着処理方法、および、吸着処理システム 図2A
  • 特開-吸着処理方法、および、吸着処理システム 図2B
  • 特開-吸着処理方法、および、吸着処理システム 図3
  • 特開-吸着処理方法、および、吸着処理システム 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025163428
(43)【公開日】2025-10-29
(54)【発明の名称】吸着処理方法、および、吸着処理システム
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/28 20230101AFI20251022BHJP
   C02F 1/58 20230101ALI20251022BHJP
【FI】
C02F1/28 A
C02F1/58 H
C02F1/58 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024066664
(22)【出願日】2024-04-17
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】弁理士法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】角谷 玲菜
(72)【発明者】
【氏名】富田 祐介
(72)【発明者】
【氏名】田嶋 直樹
(72)【発明者】
【氏名】大村 恒雄
(72)【発明者】
【氏名】岡部 寛史
【テーマコード(参考)】
4D038
4D624
【Fターム(参考)】
4D038AA02
4D038AA03
4D038AB24
4D038AB36
4D038AB81
4D038BB06
4D624AA01
4D624AA05
4D624AA09
4D624AB12
4D624AB14
4D624AB15
4D624DA04
4D624DB12
4D624DB30
(57)【要約】
【課題】吸着対象物質を吸着材に効率的に吸着させることを容易に実現可能な吸着処理方法等を提供する。
【解決手段】実施形態の吸着処理方法は、処理対象水から吸着対象物質を吸着材に吸着させる吸着処理を実行する吸着処理工程と、吸着処理の実行前に処理対象水に析出化剤を添加することで吸着阻害物質を析出させる析出化処理を実行する析出化処理工程とを有する。処理対象水は、硫酸イオンと炭酸水素イオンとの両者を吸着阻害物質として含むと供に、硫酸イオンおよび炭酸水素イオン以外のオキソ酸イオンを吸着対象物質として含む。析出化剤は、処理対象水において吸着阻害物質として含有する硫酸イオンおよび炭酸水素イオンの両者と反応して析出させる水溶性金属塩である。
【選択図】図1B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸着対象物質を含む処理対象水から前記吸着対象物質を吸着材に吸着させる吸着処理を実行する、吸着処理工程
を有し、
前記吸着材が前記吸着対象物質を吸着する吸着性能を阻害する吸着阻害物質を前記処理対象水が更に含む、
吸着処理方法であって、
前記吸着処理の実行前に、前記処理対象水に析出化剤を添加することで前記吸着阻害物質を析出させる析出化処理を実行する、析出化処理工程
を有し、
前記処理対象水は、少なくとも硫酸イオンと炭酸水素イオンとの両者を前記吸着阻害物質として含むと供に、硫酸イオンおよび炭酸水素イオン以外のオキソ酸イオンを前記吸着対象物質として含み、
前記析出化剤は、前記処理対象水において前記吸着阻害物質として含有する硫酸イオンおよび炭酸水素イオンの両者と反応して析出させる水溶性金属塩である、
吸着処理方法。
【請求項2】
前記析出化処理の実行前に、前記処理対象水における前記吸着阻害物質の濃度を測定する、吸着阻害物質濃度測定工程
を有し、
前記析出化処理工程では、前記吸着阻害物質濃度測定工程において測定された濃度に基づいて、前記析出化剤を前記処理対象水に添加する、
請求項1に記載の吸着処理方法。
【請求項3】
前記析出化剤は、硫酸塩および炭酸水素塩以外の水溶性金属塩である、
請求項1に記載の吸着処理方法。
【請求項4】
前記析出化処理工程では、前記吸着阻害物質である硫酸イオンSO 2-と、前記析出化剤が前記処理対象水において溶解することによって生ずる2価金属イオンM2+との間が下記(反応式1)に示すように反応することで、前記析出化処理が実行され、
前記析出化処理は、前記吸着阻害物質である硫酸イオンSO 2-の物質量n1(mol)と、前記析出化剤において硫酸イオンSO 2-と反応する金属イオンM2+の物質量n2(mol)とが、下記(式A)に示す関係になるように、実行される、
請求項3に記載の吸着処理方法。
SO 2-+M2+→MSO ・・・(反応式1)
1≦n2/n1≦1.2 ・・・(式A)
【請求項5】
吸着対象物質を含む処理対象水から前記吸着対象物質を吸着材に吸着させる吸着処理を実行する、吸着処理部
を有し、
前記吸着材が前記吸着対象物質を吸着する吸着性能を阻害する吸着阻害物質を前記処理対象水が含む、
吸着処理システムであって、
前記吸着処理の実行前に、前記処理対象水において前記吸着阻害物質を析出させる析出化剤を前記処理対象水に添加する析出化処理を実行する、析出化処理部
を有し、
前記処理対象水は、少なくとも硫酸イオンと炭酸水素イオンとの両者を前記吸着阻害物質として含むと供に、硫酸イオンおよび炭酸水素イオン以外のオキソ酸イオンを前記吸着対象物質として含み、
前記析出化剤は、前記処理対象水において前記吸着阻害物質として含有する硫酸イオンおよび炭酸水素イオンの両者と反応して析出させる水溶性金属塩である、
吸着処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、吸着処理方法、および、吸着処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
環境に有害なオキソ酸イオン(オキソアニオン)を含有する水からオキソ酸イオンを除去することが求められている。例えば、原子力関連施設では、ヨウ素酸イオン(IO )等の除去が求められている。また、一般的な環境では、ヒ酸イオン(AsO 3-,AsO 3-)等を河川水から除去することが求められている。オキソ酸イオンの除去は、例えば、吸着材を用いた吸着処理によって実行される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-127990号公報
【特許文献2】特開2018-23952号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
吸着処理を施す処理対象水には、ヨウ素酸イオン等の吸着対象物質以外に、複数種のイオン成分が含有している。例えば、処理対象水が海水や地下水を含む場合、処理対象水には硫酸イオン(SO 2-)が多く含有している。この他に、気中から処理対象水に二酸化炭素等が溶解するために、処理対象水には炭酸水素イオン(HCO )が含有している場合が多い。
【0005】
図4は、ヨウ素酸イオンが吸着対象物質として含有する処理対象水に硫酸イオンおよび炭酸水素イオンが含まれている場合における吸着材の吸着性能を評価した結果を示す図である。
【0006】
図4において、縦軸は、吸着材を収容する吸着塔に処理対象水が導入されたときの入口濃度DAと、吸着塔から処理対象水が排出されたときの出口濃度DBとの比(DB/DA)である。横軸は、吸着塔に導入された処理対象水の吸着材充填量に対する累積流量BV(Bed volume:積算通水量/吸着材充填容積)である。図4では、硫酸イオン及び炭酸水素イオンの濃度が高い高濃度条件(海水原水における硫酸イオン及び炭酸水素イオンの濃度相当)である場合と、硫酸イオン及び炭酸水素イオンの濃度が低い低濃度条件(海水を250倍希釈した場合における硫酸イオン及び炭酸水素イオンの濃度相当)である場合について示している。
【0007】
図4に示すように、吸着材の吸着性能は、硫酸イオンおよび炭酸水素イオンの濃度が高い場合の方が低い場合よりも低い。このことから、硫酸イオンおよび炭酸水素イオンは、吸着材の吸着性能を阻害する吸着阻害物質として作用することが確認された。
【0008】
吸着処理の実行前に処理対象水に析出化剤を添加することで吸着阻害物質を析出させる析出化処理を実行し、処理対象水から吸着阻害物質を除去すること等が提案されている。
【0009】
しかしながら、従来においては、硫酸イオン(SO 2-)と炭酸水素イオン(HCO )との両者を、吸着処理の実行前に処理対象水から十分かつ効率的に除去することが困難であった。その結果、吸着処理の実行の際に吸着対象物質を吸着材に効率的に吸着させることが容易でなかった。
【0010】
したがって、本発明が解決しようとする課題は、吸着対象物質を吸着材に効率的に吸着させることを容易に実現可能な、吸着処理方法、および、吸着処理システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
実施形態の吸着処理方法は、吸着対象物質を含む処理対象水から吸着対象物質を吸着材に吸着させる吸着処理を実行する、吸着処理工程を有し、吸着材が吸着対象物質を吸着する吸着性能を阻害する吸着阻害物質を処理対象水が更に含む。実施形態の吸着処理方法は、吸着処理の実行前に、処理対象水に析出化剤を添加することで吸着阻害物質を析出させる析出化処理を実行する、析出化処理工程を有する。処理対象水は、少なくとも硫酸イオンと炭酸水素イオンとの両者を吸着阻害物質として含むと供に、硫酸イオンおよび炭酸水素イオン以外のオキソ酸イオンを吸着対象物質として含む。析出化剤は、処理対象水において吸着阻害物質として含有する硫酸イオンおよび炭酸水素イオンの両者と反応して析出させる水溶性金属塩である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、吸着対象物質を吸着材に効率的に吸着させることを容易に実現可能な、吸着処理方法、および、吸着処理システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1A図1Aは、第1実施形態に係る吸着処理システムを模式的に示す機能ブロック図である。
図1B図1Bは、第1実施形態の吸着処理方法を示すフロー図である。
図2A図2Aは、第2実施形態に係る吸着処理システムを模式的に示す機能ブロック図である。
図2B図2Bは、第2実施形態の吸着処理方法を示すフロー図である。
図3図3は、実施例の結果を示す図である。
図4図4は、ヨウ素酸イオンが吸着対象物質として含有する処理対象水に硫酸イオンおよび炭酸水素イオンが含まれている場合における吸着材の吸着性能を評価した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<第1実施形態>
【0015】
[A]吸着処理システムの構成
図1Aは、第1実施形態に係る吸着処理システムを模式的に示す機能ブロック図である。
【0016】
本実施形態の吸着処理システムは、図1Aに示すように、処理対象水貯蔵部20と析出化剤貯蔵部21と析出化処理部30と吸着処理部50と吸着処理済水貯蔵部70とを有する。本実施形態の吸着処理システムは、処理対象水から吸着対象物質を吸着材501に吸着させる吸着処理を実行すると供に、その吸着処理の実行前に処理対象水において吸着阻害物質を析出させる析出化剤を処理対象水に添加する析出化処理を実行するように構成されている。
【0017】
吸着処理システムを構成する各部について順次説明する。
【0018】
[A-1]処理対象水貯蔵部20
処理対象水貯蔵部20は、例えば、タンクを含み、処理対象水を貯蔵するように構成されている。
【0019】
詳細については後述するが、処理対象水は、吸着対象物質と供に吸着阻害物質を含む。
【0020】
[A-2]析出化剤貯蔵部21
析出化剤貯蔵部21は、例えば、タンクを含み、析出化剤を貯蔵するように構成されている。
【0021】
詳細については後述するが、析出化剤は、析出化処理の実行において、処理対象水に含有する吸着阻害物質と反応して析出させる水溶性金属塩である。
【0022】
[A-3]析出化処理部30
析出化処理部30は、例えば、タンクを含み、処理対象水貯蔵部20から供給管L20を介して処理対象水が導入されると供に、析出化処理部30には、析出化剤貯蔵部21から供給管L21を介して析出化剤が導入されることによって、析出化処理を実行するように構成されている。
【0023】
詳細については後述するが、析出化処理部30において析出化処理が実行されることで、吸着阻害物質と析出化剤との間において反応が生じて析出物が生成される。その結果、析出化処理部30では、処理対象水から吸着阻害物質が除去される。そして、吸着阻害物質が反応して析出した析出物はフィルタ、ストレーナ等を介して配管から系外に排出される図示しない除去装置からタンク系外に排出される。
【0024】
[A-4]吸着処理部50
吸着処理部50は、例えば、吸着材501が内部空間に収容された吸着塔である。吸着処理部50は、析出化処理によって吸着阻害物質が除去された処理対象水が、析出化処理部30から供給管L30を介して導入されることで、吸着処理を実行するように構成されている。
【0025】
詳細については後述するが、吸着処理部50において吸着処理が実行されることで、処理対象水から吸着対象物質が除去される。
【0026】
[A-5]吸着処理済水貯蔵部70
吸着処理済水貯蔵部70は、例えば、タンクを含む。吸着処理済水貯蔵部70は、吸着処理によって吸着対象物質が除去された処理対象水(吸着処理済水)が、供給管L50を介して、吸着処理部50から導入されて貯蔵される。
【0027】
[B]吸着処理方法
上記の吸着処理システム(図1A参照)を用いて、吸着対象物質を含む処理対象水から吸着対象物質を除去する吸着処理方法について説明する。
【0028】
図1Bは、第1実施形態の吸着処理方法を示すフロー図である。
【0029】
本実施形態の吸着処理方法では、図1Bに示すように、析出化処理工程(ST10)と吸着処理工程(ST20)とを順次実行する。析出化処理工程(ST10)および吸着処理工程(ST20)は、バッチ式で順次実行されてもよく、フロー式で順次実行されてもよい。
【0030】
各工程の詳細について順次説明する。
【0031】
[B-1]析出化処理工程(ST10)
析出化処理工程(ST10)では、析出化処理部30(図1A参照)において析出化処理が実行される。
【0032】
[B-1-1]処理対象水
析出化処理を実行する際、析出化処理部30には、処理対象水貯蔵部20から処理対象水が、所定量、導入される。処理対象水貯蔵部20から導入される処理対象水は、吸着対象物質と供に吸着阻害物質を含む。
【0033】
[B-1-1-1]吸着対象物質
吸着対象物質は、吸着処理の際に吸着材501によって吸着される物質である。ここでは、処理対象水は、吸着阻害物質以外のオキソ酸イオンが吸着対象物質として含有している。本実施形態において、吸着対象物質は、例えば、ヨウ素酸イオン(IO )である。吸着対象物質は、ヨウ素酸イオン等のハロゲン酸イオン(XO ;X=I,F,Cl,Br,At)、ルテニウム酸イオン(RuO 2-)、ヒ酸イオン(AsO 3-、AsO 3-)、テクネチウム酸イオン(TcO )、ホウ酸イオン(BO 3-)、リン酸イオン(PO 3-)の少なくとも1つである。
【0034】
[B-1-1-2]吸着阻害物質
吸着阻害物質は、吸着処理の際に吸着材501が吸着対象物質を吸着する吸着性能を阻害する物質である。本実施形態では、硫酸イオン(SO 2-)と炭酸水素イオン(HCO )との両者が吸着阻害物質として処理対象水に含有している。
【0035】
[B-1-2]析出化剤
析出化処理部30には、処理対象水と供に、析出化剤貯蔵部21から析出化剤が、所定量、導入される。
【0036】
析出化剤貯蔵部21から導入される析出化剤は、析出化処理の実行において、処理対象水に吸着阻害物質として含有する硫酸イオンおよび炭酸水素イオンの両者と反応して析出させる水溶性金属塩である。
【0037】
析出化剤は、処理対象水において析出物が効率的に生ずるように、硫酸イオンとの反応で生ずる生成物の溶解度、および、炭酸水素イオンとの反応で生ずる生成物の溶解度が低い方が好ましい。また、析出化剤は、硫酸塩および炭酸水素塩以外であることが好ましい。析出化剤が硫酸塩および炭酸水素塩以外である場合には、析出化剤の添加によって、吸着阻害物質として作用する、硫酸イオンおよび炭酸水素イオンが増加することを防止可能である。
【0038】
例えば、析出化剤は、塩化バリウム(BaCl)、水酸化バリウム(Ba(OH))、塩化鉛(PbCl)、塩化ストロンチウム(SrCl)、水酸化ストロンチウム(Sr(OH))のうちの少なくとも1つであることが好ましい。
【0039】
[B-1-3]析出化処理
析出化処理工程では、例えば、吸着阻害物質である硫酸イオン(SO 2-)と、析出化剤が処理対象水において溶解することによって生ずる2価金属イオンM2+との間が、下記(反応式1)に示すように反応することで、析出化処理が実行される。また、例えば、吸着阻害物質である炭酸水素イオン(HCO )と、析出化剤が処理対象水において溶解することによって生ずる2価金属イオンM2+との間が、下記(反応式2)に示すように反応することで、析出化処理が実行される。なお、本実施例において2価金属イオンM2+で説明しているが、2価に限定せず析出反応が起こる他の価数でも問題ない。
【0040】
SO 2-+M2+→MSO ・・・(反応式1)
CO 2-+M2+→MCO ・・・(反応式2)
【0041】
上記のように、析出化処理の実行により、吸着阻害物質である硫酸イオン(SO 2-)と析出化剤との間において反応が生ずることで析出物が生成されると供に、吸着阻害物質である炭酸水素イオン(HCO )と析出化剤との間において反応が生ずることで析出物が生成される。その結果、吸着対象物質と吸着阻害物質とを含む処理対象水から吸着阻害物質が除去される。なお、添加剤によってはPhosgenite(Pb(CO)Cl)の形で析出するため反応式1、2ともに記載した式は一例であり他の反応式でも硫酸イオン、炭酸イオンが析出可能である。
【0042】
[B-2]吸着処理工程(ST20)
吸着処理工程(ST20)では、吸着処理部50(図1A参照)において吸着処理が実行される。
【0043】
吸着処理は、析出化処理によって吸着阻害物質が除去された処理対象水が吸着処理部50に導入されることで実行される。吸着処理の実行により、処理対象水に含まれる吸着対象物質が吸着材501に吸着され、処理対象水から吸着対象物質が除去される。吸着処理によって吸着対象物質が除去された処理対象水(吸着処理済水)は、吸着処理済水貯蔵部70に排出され、貯蔵される。
【0044】
[C]まとめ
以上のように、本実施形態では、処理対象水は、硫酸イオン(SO 2-)と炭酸水素イオン(HCO )との両者を吸着阻害物質として含む。しかし、本実施形態では、吸着処理の実行前に、処理対象水に析出化剤を添加することで吸着阻害物質を析出させる析出化処理を実行する。本実施形態の析出化剤は、処理対象水において吸着阻害物質として含有する硫酸イオンおよび炭酸水素イオンの両者と反応して析出させる水溶性金属塩である。このため、本実施形態では、硫酸イオンと炭酸水素イオンとの両者を、吸着処理の実行前に処理対象水から十分かつ効率的に除去することが可能である。その結果、本実施形態では、吸着処理の実行の際に吸着対象物質を吸着材に効率的に吸着させることができる。これは、上述した図4に示す結果からも明らかである。
【0045】
なお、吸着阻害物質である硫酸イオン(SO 2-)と、析出化剤が処理対象水において溶解することによって生ずる2価金属イオンM2+との間が上記(反応式1)に示すように反応することで析出化処理が実行される場合には、硫酸イオン(SO 2-)の物質量n1(mol)と、金属イオンM2+の物質量n2(mol)とが、下記(式A)に示すモル当量(n2/n1)の関係になることが好ましい。下記(式A)の下限値を満たすことで、吸着阻害物質である硫酸イオン(SO 2-)を十分に析出させることができる。また、下記(式A)の上限値を満たすことで、析出化剤の溶解によって生ずる2価金属イオンM2+等が処理対象水に残存する量を抑制することができる。これにより、各処理を安定的に運用可能である。
【0046】
1≦n2/n1≦1.2 ・・・(式A)
【0047】
<第2実施形態>
[A]吸着処理システムの構成
図2Aは、第2実施形態に係る吸着処理システムを模式的に示す機能ブロック図である。
【0048】
本実施形態の吸着処理システムは、図2Aに示すように、第1実施形態の場合(図1A参照)と異なり、吸着阻害物質濃度測定部200と析出化剤添加量調整部210とを含む。この点、および、関連する点を除き、本実施形態は、上記実施形態の場合と同様である。
このため、重複する事項については、説明を適宜省略する。
【0049】
[A-1]吸着阻害物質濃度測定部200
吸着阻害物質濃度測定部200は、濃度測定器を含み、処理対象水貯蔵部20から析出化剤貯蔵部21へ導入される処理対象水に含有する吸着阻害物質の濃度を測定するように構成されている。吸着阻害物質濃度測定部200が吸着阻害物質の濃度を測定したときには、その吸着阻害物質の濃度データが析出化剤添加量調整部210へ出力される。
【0050】
[A-2]析出化剤添加量調整部210
析出化剤添加量調整部210は、例えば、演算器(コンピュータ)と記憶装置とを含み、記憶装置が記憶するプログラムを用いて、析出化剤貯蔵部21から析出化処理部30へ導入する析出化剤の量を演算器が調整するように構成されている。
【0051】
析出化剤添加量調整部210は、例えば、処理対象水に含有する吸着阻害物質の濃度と、析出化処理部30へ導入する析出化剤の量とを関連付けたルックアップテーブルを用いて、吸着阻害物質濃度測定部200から入力された吸着阻害物質の濃度データに対応する析出化剤の量を求める。なお、当然ながら、処理対象水貯蔵部20から析出化処理部30に導入された処理対象水の量が、予め定めた所定量から変動させた場合には、その変動させた量に応じて、析出化剤の量を変動させる。
【0052】
[B]吸着処理方法
上記の吸着処理システム(図2A参照)を用いて、吸着対象物質を含む処理対象水から吸着対象物質を除去する吸着処理方法について説明する。
【0053】
図2Bは、第2実施形態の吸着処理方法を示すフロー図である。
【0054】
本実施形態の吸着処理方法では、図2Bに示すように、第1実施形態の場合(図1B参照)と異なり、析出化処理工程(ST10)と吸着処理工程(ST20)とを順次実行する前に、吸着阻害物質濃度測定工程(ST1)を実行する。
【0055】
[B-1]吸着阻害物質濃度測定工程(ST1)
吸着阻害物質濃度測定工程(ST1)は、吸着阻害物質濃度測定部200(図2A参照)で実行される。上述したように、吸着阻害物質濃度測定部200では、処理対象水に含有する吸着阻害物質の濃度が測定される。
【0056】
[B-2]析出化処理工程(ST10)・吸着処理工程(ST20)
そして、析出化処理工程(ST10)では、吸着阻害物質濃度測定工程(ST1)において測定された濃度に基づいて、析出化剤を処理対象水に添加する。本実施形態では、上述したように、測定された吸着阻害物質の濃度データに対応する析出化剤の量が析出化剤添加量調整部210において求められる。そして、その求めた析出化剤の量に基づいて、析出化剤貯蔵部21から析出化剤が析出化処理部30へ供給される。その後、第1実施形態の場合と同様に、吸着処理工程(ST20)が実行される。
【0057】
[C]まとめ
以上のように、本実施形態では、析出化処理の実行前に、処理対象水における吸着阻害物質の濃度を測定する。そして、その測定された濃度に基づいて、析出化剤を処理対象水に添加することで、析出化処理を実行する。このため、本実施形態では、析出化処理を効率的に実行可能である。
【実施例0058】
図3は、実施例の結果を示す図である。
【0059】
図3において、縦軸は、溶存S濃度及び溶存C濃度の全量が硫酸イオン(SO42-),炭酸水素イオン(HCO3-)であると仮定した、析出化処理の実行前における吸着阻害物質(溶存S濃度,溶存C濃度[D0]に対する、析出化処理の実行後における吸着阻害物質の濃度[D1]の割合(D1/D0)を示している。横軸は、各例の析出化処理で使用した析出化剤の種類を列挙している。図3では、(式A)に示したモル当量(n2/n1)が1.2になる条件(n2/n1=1.2)で析出化処理を実行したときの結果を示している。また、図3において、[*]マークは、D1/D0≦0.005であることを示している。
【0060】
図3に示すように、(Ex.1)から(Ex.5)のそれぞれにおいては、塩化バリウム(BaCl)、水酸化バリウム水和物(Ba(OH)・8HO)、塩化鉛(PbCl)、塩化ストロンチウム(SrCl)、水酸化ストロンチウム(Sr(OH))のそれぞれを、析出化剤として使用することで、析出化処理を実行した。(Ex.1)から(Ex.5)のそれぞれでは、吸着阻害物質である溶存S濃度,溶存C濃度は、析出化処理の実行により、大きく低下している。(Ex.1)から(Ex.5)のそれぞれでは、吸着処理の実行前に処理対象水から吸着阻害物質を効率的に除去することが可能であるため、吸着処理の実行の際に吸着対象物質を吸着材に効率的に吸着させることができる。特に、(Ex.2)のように、水酸化バリウム水和物(Ba(OH)・8HO)を析出化剤として使用することで析出化処理を実行する場合には、硫酸イオン(SO 2-)と炭酸水素イオン(HCO )との両者を十分に除去可能であるため、好適である。
【0061】
(Ex.6)および(Ex.7)のそれぞれにおいては、塩化ラジウム水和物(RaCl・2HO)、塩化カルシウム(CaCl)のそれぞれを、析出化剤として使用することで、析出化処理を実行した。(Ex.6)では、吸着阻害物質のうち硫酸イオン(SO 2-)については析出化処理の実行により大きく低下したが、吸着阻害物質のうち炭酸水素イオン(HCO )については、析出化処理を実行しても殆ど低下しなかった。(Ex.7)では、吸着阻害物質である硫酸イオン(SO 2-),炭酸水素イオン(HCO )の濃度は、析出化処理の実行により、大きくは低下しなかった。(Ex.6)および(Ex.7)のそれぞれでは、吸着処理の実行前に処理対象水から吸着阻害物質である硫酸イオン(SO 2-)および炭酸水素イオン(HCO )の両者が同時に十分に除去されない。
【0062】
上記結果から、析出化処理の実行では、塩化バリウム(BaCl)、水酸化バリウム(Ba(OH))、塩化鉛(PbCl)、塩化ストロンチウム(SrCl)、水酸化ストロンチウム(Sr(OH))のそれぞれを、析出化剤として使用することが好適であることがわかった。
【0063】
【表1】
【0064】
表1は、(Ex.1)から(Ex.5)のそれぞれにおいて、析出化剤のモル当量(n2/n1)を変えたときの結果を示している。ここでは、析出化剤のモル当量(n2/n1)が1.2または37になる条件で析出化剤を添加することによって析出化処理を実行した。析出化処理は、処理対象水に吸着対象物質として含有する硫酸イオン(SO 2-)および炭酸水素イオン(HCO )の濃度が海水原水と同様である条件で実行した。
【0065】
析出化処理の実行後、吸着処理の実行をした処理対象水に吸着対象物質として含有するヨウ素イオンの濃度が1ppmである。吸着処理では、カラムへの通水流量[ml/h]/吸着材体積[ml]である空間速度SVが下記条件になるように、析出化処理後の処理対象水を通水した。
【0066】
SV=30[1/h]
【0067】
表1では、(Ex.1)から(Ex.5)のそれぞれにおいて吸着処理の実行をしたときに、吸着塔の出口における出口濃度と、吸着塔の入口における入口濃度とが同じになった処理対象水の供給量の割合を示している(析出化処理の実行無し(n2/n1=0)の場合を基準)。
【0068】
表1から判るように、析出化剤のモル当量(n2/n1)が1.2以上である条件で析出化処理を実行した場合には、吸着処理では吸着性能が同等である。析出化剤のモル当量(n2/n1)が1.2を超えた場合には、析出化剤による金属イオンが過剰に存在することになり、吸着性能の阻害等を招く可能性が高まる。このため、既に述べたように、析出化剤のモル当量(n2/n1)は、(式A)に示す関係を満たすことが好ましい。
【0069】
<その他>
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0070】
20:処理対象水貯蔵部、21:析出化剤貯蔵部、30:析出化処理部、50:吸着処理部、70:吸着処理済水貯蔵部、200:吸着阻害物質濃度測定部、210:析出化剤添加量調整部、501:吸着材、L20:供給管、L21:供給管、L30:供給管、L50:供給管
図1A
図1B
図2A
図2B
図3
図4