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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025016347
(43)【公開日】2025-01-31
(54)【発明の名称】組成物及びスプレー装置
(51)【国際特許分類】
   C11D 3/22 20060101AFI20250124BHJP
   C11D 3/48 20060101ALI20250124BHJP
   C11D 3/50 20060101ALI20250124BHJP
   C11D 17/04 20060101ALI20250124BHJP
【FI】
C11D3/22
C11D3/48
C11D3/50
C11D17/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024090353
(22)【出願日】2024-06-04
(31)【優先権主張番号】P 2023118886
(32)【優先日】2023-07-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】399072749
【氏名又は名称】無臭元工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304040072
【氏名又は名称】丸住製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003557
【氏名又は名称】弁理士法人レクシード・テック
(72)【発明者】
【氏名】田崎 雄大
(72)【発明者】
【氏名】堀江 大介
【テーマコード(参考)】
4H003
【Fターム(参考)】
4H003AC05
4H003BA20
4H003DA06
4H003EB08
4H003EB42
4H003ED02
4H003FA04
4H003FA06
4H003FA16
4H003FA26
4H003FA27
4H003FA28
4H003FA34
(57)【要約】
【課題】安全性が高く、スプレー装置による噴霧も可能な組成物を提供する。
【解決手段】本発明の組成物は、微細セルロース繊維と、水と、を含み、前記微細セルロース繊維の水酸基の少なくとも一部は、硫酸エステル基で置換されている。
【選択図】なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微細セルロース繊維と、水と、を含み、
前記微細セルロース繊維の水酸基の少なくとも一部は、硫酸エステル基で置換されている、組成物。
【請求項2】
さらに、除菌剤と、界面活性剤と、を含む、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
さらに、香料を含む、請求項1又は2記載の組成物。
【請求項4】
さらに、pH調整剤を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
pHが、3以上5未満である、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
スプレー用である、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
請求項6記載の組成物が充填された、スプレー装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組成物及びスプレー装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、トイレ等の洗浄に、塩酸やスルファミン酸等の強酸や、塩素系漂白剤等を含む液状組成物が用いられている。
【0003】
また、スプレー用組成物に、ポリエチレングリコール、ポリアルキレンオキシド、ポリビニルアルコール等の増粘剤を添加することが知られている(例えば、特許文献1及び2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2022-78252号公報
【特許文献2】特開2022-88549号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、塩酸やスルファミン酸等の強酸や、塩素系漂白剤は、人体への悪影響等の安全面における問題を生じさせ、薬剤の知識に乏しい人が扱った場合、事故を起こす危険性がある。また、ポリエチレングリコール等の増粘剤も、安全性に優れ、環境にやさしいものとは言い難い。
【0006】
そこで、本発明は、安全性が高く、また、スプレー装置による噴霧も可能な組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明の組成物は、
微細セルロース繊維と、水と、を含み、
前記微細セルロース繊維の水酸基の少なくとも一部は、硫酸エステル基で置換されている。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、前記所定の微細セルロース繊維を用いることで、安全性が高く、また、スプレー装置による噴霧も可能な組成物を提供可能である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施例における防汚性能確認試験結果を示す写真である。
図2図2は、実施例における防汚性能確認試験結果を示す別の写真である。
図3図3は、実施例における液垂れ試験結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[実施形態1:組成物]
本発明の組成物は、微細セルロース繊維と、水と、を含む。
【0011】
(微細セルロース繊維)
前記微細セルロース繊維は、その水酸基の少なくとも一部が、硫酸エステル基で置換されたものである。具体的には、前記微細セルロース繊維は、それを構成するセルロース(D-グルコースがβ(1→4)グルコシド結合した鎖状の高分子)の水酸基(-OH基)の少なくとも一部が、式(1)で示される硫酸エステル基で置換されたものである。
【0012】
(-OSO ・Zr+ (1)
式(1)において、
rは、独立した1~7の自然数であり、
r+は、r=1のとき、水素イオン、アルカリ金属イオン、1価の遷移金属イオン、アンモニウムイオン、脂肪族アンモニウムイオン、芳香族アンモニウムイオン、及び、カチオン性高分子からなる群から選択される少なくとも1つであり、r=2以上のとき、アルカリ土類金属イオン、多価金属イオン、及び、カチオン性官能基(例えば、ジアミン等)を分子内に2つ以上含む化合物からなる群から選択される少なくとも1つである。
【0013】
前記微細セルロース繊維は、硫酸エステル基を有することによって、親水性が向上する。その結果、前記微細セルロース繊維を前記組成物に分散させた際の分散性が向上する。さらに、導入された硫酸エステル基の電子的反発によって、前記組成物における分散状態を維持しやすくなる。
【0014】
前記微細セルロース繊維における硫酸エステル基の導入量は、硫酸エステル基に基づく硫黄導入量で表すことができる。前記微細セルロース繊維1g(質量)当たりの硫黄導入量は、例えば、0.4mmol/gよりも高く、0.42mmol/g~9.9mmol/g、0.5mmol/g~9.9mmol/g、0.6mmol/g~9.9mmol/gである。
【0015】
前記硫黄導入量が0.42mmol/gよりも高ければ、繊維間の水素結合が強固になりすぎず、前記組成物における分散性が向上する傾向にあり、0.5mmol/g以上とすれば電子的反発性をより強くさせることができるので、分散状態を安定して維持させやすくなる。一方、前記硫黄導入量を9.9mmol/g以下とすれば、結晶性低下及び硫黄を導入する際のコスト増加を抑制できる。
【0016】
特に、分散性の維持に着目すれば、前記硫黄導入量は、例えば、0.42mmol/gよりも高く3mmol/g以下、0.5mmol/g~3mmol/g、0.5mmol/g~2mmol/g、0.5mmol/g~1.5mmol/gである。
【0017】
前記微細セルロース繊維における硫黄導入量(すなわち、硫酸エステル基の導入量)は、例えば、CHNS/O元素分析装置を用いて測定可能である。また、前記硫黄導入量は、例えば、電気伝導度測定により算出することもできる。
【0018】
前記微細セルロース繊維の平均繊維長は、例えば、重合度で間接的に表すことができる。前記微細セルロース繊維の平均繊維長は、例えば、重合度で280以上、300~1000、300~600である。
【0019】
前記微細セルロース繊維の重合度が280以上であれば、繊維長の低下により繊維のからまりが弱くなるのを抑制できる。一方、前記微細セルロース繊維の重合度が600以下であれば、前記組成物における分散性が高くなる傾向にある。
【0020】
前記重合度の測定方法は、特に限定されないが、例えば、銅エチレンジアミン法を用い得る。具体的には、前記微細セルロース繊維を0.5Mの銅エチレンジアミン溶液に溶解させて、かかる溶液の粘度を粘度法によって測定すれば、前記微細セルロースの重合度を測定できる。
【0021】
前記微細セルロース繊維の平均繊維幅は、特に限定されないが、例えば、電子顕微鏡で観察した際に、1nm~1000nm、2nm~500nm、2nm~100nm、2nm~30nm、2nm~20nmである。
【0022】
前記微細セルロース繊維の平均繊維幅は、公知の技術を用いて測定し得る。例えば、微細セルロース繊維を純水等の分散媒に分散させて、所定の質量%となるように分散液を調製する。そして、この分散液を、PEI(ポリエチレンイミン)をコーティングしたシリカ基盤上にスピンコートし、このシリカ基盤上の微細セルロース繊維を観察する。観察方法としては、例えば、走査型プローブ顕微鏡(例えば、(株)島津製作所製:SPM9700)を用い得る。得られた観察画像中の微細セルロース繊維をランダムに20本選び、各繊維幅を測定し平均化すれば、前記微細セルロースの平均繊維幅を求めることができる。
【0023】
前記微細セルロース繊維の調製方法は、特に限定されないが、例えば、以下に示す方法により、硫酸エステル基を導入したパルプ(以下、「硫酸エステル基導入パルプ」という。)から調製し得る。本発明において、「硫酸エステル基導入パルプ」とは、複数のセルロース繊維が集合した繊維状の部材であり、含まれるセルロース繊維を構成するセルロース(D-グルコースがβ(1→4)グルコシド結合した鎖状の高分子)の水酸基(-OH基)の少なくとも一部が硫酸エステル基で置換されたものである。
【0024】
なお、前記微細セルロース繊維は、繊維原料を直接、微細化処理に供することで微細セルロース繊維を得て、かかる微細セルロース繊維を構成するセルロースの水酸基の少なくとも一部を硫酸エステル基で置換して調製することもできるし、以下に示すように、硫酸エステル基導入パルプを微細化して調製することもできる。後者の方法を採用すれば、微細化処理工程を行うだけで前記微細セルロース繊維を調製できるという利点がある。
【0025】
前記硫酸エステル基導入パルプは、例えば、以下に示す方法により得ることができるが、この方法に限定されない。
【0026】
この方法の概略は、セルロースを含む繊維原料(例えば、木材系のパルプ(以下、単に「木材パルプ」という。)等)を化学処理に供することによって硫酸エステル基導入パルプを調製するものである。この化学処理工程は、前記繊維原料を、後述する硫酸エステル基供与化合物と、尿素又は尿素誘導体(以下、「尿素等」という。前記尿素誘導体としては、例えば、チオ尿素、ビウレット、フェニル尿素、ベンジル尿素、ジメチル尿素、ジエチル尿素、テトラメチル尿素、ベンゾレイン尿素、ヒダントイン等が挙げられ、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。)とに接触させる接触工程と、この接触工程後の繊維原料を加熱反応に供してセルロースの水酸基の少なくとも一部を硫酸エステル基で置換する反応工程と、を含む。
【0027】
なお、本明細書において、繊維原料とは、セルロース分子を含む繊維状のパルプ等をいう。パルプとは、複数のセルロース繊維が集合した繊維状の部材である。このセルロース繊維は、複数の微細繊維(例えば、ミクロフィブリル等)が集合したものである。そして、この微細繊維とは、D-グルコースがβ(1→4)グルコシド結合した鎖状の高分子であるセルロース分子(以下、単に「セルロース」ということがある。)が複数集合したものである。また、繊維原料は、事前に洗浄することが好ましい。例えば、200メッシュ若しくは235メッシュのふるい上で水を使ってろ過脱水することで、細かすぎる微細繊維やゴミをふるい落とすことができ、調製時の取扱性が向上するため望ましい。言い換えれば、200メッシュや235メッシュの残渣となり得るサイズのセルロース繊維が集合したものがパルプである。
【0028】
この方法に用いられる繊維原料は、前述したようにセルロースを含むものであれば、特に限定されず、例えば、一般的にパルプといわれるものを用いてもよいし、ホヤや海藻等から単離されるセルロース等を含むものを用いることもでき、セルロース分子で構成されたものであれば、どのようなものであってもよい。前記パルプとしては、例えば、木材パルプ、溶解パルプ、コットンリンタ等の綿系のパルプ、麦わら、バガス、楮、三椏、麻、ケナフ、果物等の非木材系のパルプ、新聞古紙、雑誌古紙やダンボール古紙等から調製された古紙系のパルプ等が挙げられるが、これらに限定されない。なお、入手のしやすさの観点から、木材パルプが繊維原料として用いやすい。
【0029】
この木材パルプには、様々な種類が存在するが、使用に際して特に限定されず、例えば、針葉樹クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹クラフトパルプ(LBKP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)等の製紙用パルプ等が挙げられる。なお、繊維原料として前記パルプを用いる場合、1種類のパルプを単独で用いてもよいし、2種類以上のパルプを併用してもよい。
【0030】
このように、前記微細セルロース繊維は、天然素材に由来するものであり、安全性が高く、環境にもやさしい。
【0031】
前記硫酸エステル基供与化合物は、繊維原料に硫酸エステル基を供与可能な化合物であれば特に限定されず、例えば、スルファミン酸、スルファミン酸塩、硫黄と共有結合する2つの酸素を持つスルホニル基を有するスルフリル化合物等が挙げられ、これらの化合物の1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。前記硫酸エステル基供与化合物は、硫酸等と比べて酸性度が低く、硫酸エステル基の導入効率が高く、安価で、安全性が高いことから、スルファミン酸が好ましい。これ以降、前記硫酸エステル基供与化合物として、スルファミン酸を、前記尿素等として、尿素を用いた場合を例にとり、説明する。
【0032】
<接触工程>
接触工程は、セルロースを含む繊維原料を、スルファミン酸と、尿素とに接触させる工程である。この接触工程は、前記接触を起こさせることができる方法であれば、特に限定されない。例えば、スルファミン酸及び尿素を溶媒に溶解させた反応液に繊維原料を浸漬等して反応液を繊維原料に含浸させてもよいし、繊維原料に対してかかる反応液を塗布してもよいし、繊維原料に対してスルファミン酸及び尿素をそれぞれ別々に塗布したり、含浸させたり、スプレー噴霧してもよい。これらのうち、反応液に繊維原料を浸漬させて繊維原料に反応液を含浸させる方法を用いれば、均質にスルファミン酸及び尿素を繊維原料に接触させやすい。
【0033】
なお、スルファミン酸及び尿素を溶解させる溶媒は、特に限定されず、例えば、水、エタノール、メタノール、酢酸、ギ酸、2-プロパノール、ニトロメタン、アンモニア水等のプロトン性極性溶媒、アセトン、酢酸エチル、テトラヒドロフラン(THF)、ジメチルホルムアミド(DMF)、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルスルフィド(DMS)、ジメチルアセトアミド(DMA)等の非プロトン性極性溶媒、ジエチルエーテル、ベンゼン、トルエン、ヘキサン、クロロホルム、1,4-ジオキサン等の非極性溶媒等が挙げられる。前記溶媒は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。特に、スルファミン酸及び尿素を溶かしやすい観点から、水が好ましい。
【0034】
なお、この接触工程により繊維原料にスルファミン酸及び尿素を接触させた状態のものを「反応液含浸繊維」ということがある。
【0035】
<反応液の接触量>
繊維原料への反応液の接触においては、繊維原料に対して反応液中のスルファミン酸及び尿素が所定の割合となるようにすることが好ましい。具体的には、反応工程に供する反応液含浸繊維中の繊維原料に対する反応液中のスルファミン酸の量及び尿素の量が適切な量となるように接触させる。より具体的には、反応工程の加熱反応に供する直前の反応液含浸繊維中の繊維原料(乾燥質量である固形分質量)に対するスルファミン酸の接触量が、尿素の接触量と同程度かそれよりも多くなるように調整する。
【0036】
例えば、反応液は、スルファミン酸及び尿素の混合比が、質量比において、前記加熱反応に供する直前の反応液含浸繊維中の繊維原料の固形分質量100質量部に対するスルファミン酸の質量部を、前記加熱反応に供する直前の反応液含浸繊維中の繊維原料の固形分質量100質量部に対する尿素の質量部で除した値(スルファミン酸/尿素)が0.8以上、0.85以上、1以上となるように調製する。
【0037】
また、例えば、スルファミン酸の接触量は、前記加熱反応に供する直前の反応液含浸繊維中の繊維原料の固形分質量100質量部に対して、70質量部以上、100質量部以上、200質量部以上となるように調整する。
【0038】
また、例えば、尿素の接触量、すなわち、前記加熱反応に供する直前の反応液含浸繊維中の繊維原料の固形分質量に対する尿素の接触量は、スルファミン酸との前記関係を維持しつつ、繊維原料の固形分質量100質量部に対して、20質量部以上、30質量部以上、50質量部以上となるように調整する。また、尿素の接触量の上限値は、特に限定されないが、例えば、前記繊維原料の固形分質量100質量部に対して、350質量部以下、300質量部以下、250質量部以下である。
【0039】
前記繊維原料の固形分質量100質量部に対するスルファミン酸の接触量及び尿素の接触量は、例えば、反応工程に供する反応液含浸繊維の状態に応じて適宜算出できる。
【0040】
<反応液含浸繊維の状態>
前述した、次工程の反応工程に供する反応液含浸繊維の状態としては、例えば、反応液含浸繊維をそのままの状態、すなわち、繊維原料と反応液を接触させたままで積極的な水分除去を行わない状態のものや、繊維原料と反応液を接触させた状態のものから水分を積極的に除去した状態のもの、等を挙げることができる。
【0041】
前者(積極的な水分除去を行わない状態)の反応液含浸繊維とは、繊維原料と反応液を接触させた状態(例えば、スラリー状の状態等を含む)のものや、反応液と繊維原料を接触させた状態のものから繊維原料を取り出して静置して調製したもの等を含む。
【0042】
一方、後者(積極的な水分除去を行った状態)の反応液含浸繊維とは、繊維原料と反応液を接触させた状態から水分を意識的に除去したものをいう。例えば、反応液と繊維原料を接触させた状態から繊維原料を取り出して風乾等により自然乾燥させて調製したものや、反応液と繊維原料を接触させた状態のものをろ過脱水して調製したもの、このろ過脱水したものをさらに風乾して調製したもの、このろ過脱水したものをさらに循環送風式の乾燥機を用いて乾燥して調製したもの、このろ過脱水したものをさらに加熱式の乾燥機を用いて乾燥して調製したもの、反応液と繊維原料を接触させた状態のものを循環送風式の乾燥機や加熱式の乾燥機を用いて乾燥して調製したもの、等を含む。
【0043】
このように、反応工程に供する反応液含浸繊維は、前述した積極的な水分除去を行わない状態のものや、積極的な水分除去を行ってある程度の水分を除去した状態のものであってもよい。また、乾燥により水分を除去する場合には、乾燥後の水分率が1%程度であっても特に問題がない。特に、後者の方法を用いれば、反応工程に供する反応液含浸繊維中の水分を低くできるので、反応工程の加熱反応における反応時間を短くできる。このため、硫酸エステル基導入パルプの生産性を向上し得るという利点がある。また、脱水処理を行う方法を用いれば、反応液を多量に処理する際より効率よく反応液含浸繊維を調製し得るという利点がある。
【0044】
なお、積極的に乾燥する方法を用いる場合、反応液含浸繊維の水分率が1%程度まで乾燥してもよく、1%よりもかなり低い絶乾状態にまで乾燥する方法で水分を除去してもよい。
【0045】
なお、本明細書では、反応液含浸繊維の水分率が1%以上の非絶乾状態のものを湿潤状態ともいう。例えば、反応液を含浸等させたままの状態のものやある程度脱水処理した状態のものはもちろん、ある程度乾燥処理した状態のものも、本明細書では湿潤状態ということがある。
【0046】
また、本明細書にいう絶乾とは、例えば、塩化カルシウムや五酸化二リン等の乾燥剤を入れたデシケータ等で減圧したり、長時間加熱乾燥処理を行って水分率を1%よりも低くした状態のものを意味する。
【0047】
したがって、接触工程において、前述の後者の方法(積極的な水分除去を行った状態での反応方法)を用いる場合には、反応液含浸繊維の水分率を非絶乾状態にする方法を用いてもよいし、絶乾状態にする方法を用いてもよいが、好ましくは非絶乾状態にする方法を用いるのがよい。
【0048】
なお、本明細書における反応液含浸繊維の水分率は、下記式を用いて算出される。
反応液含浸繊維の水分率(%)=100-(反応液含浸繊維の固形分質量(g)/水分率測定時における反応液含浸繊維の質量(g))×100={(水分率測定時における反応液含浸繊維の質量(g)-反応液含浸繊維の固形分質量(g))/水分率測定時における反応液含浸繊維の質量(g)}×100
【0049】
上記式中の反応液含浸繊維の固形分質量(g)とは、反応液含浸繊維の乾燥質量をいう。具体的には、乾燥機等を用いて試料を乾燥させて恒量となるように調整された乾燥質量をいう。例えば、反応液含浸繊維を乾燥機に入れ、所定の乾燥条件(例えば、温度105℃、2時間)で乾燥して質量を測定することにより、反応液含浸繊維から水分が除去された後の乾燥したもの(すなわち、前記乾燥条件で除去されないもの。例えば、繊維原料や反応液中の試薬等を含むもの)の質量を算出できる。また、恒量とは、処理施設内における雰囲気中の水分と原料中の水分が見かけ上出入りしなくなる状態のことを意味する。具体的には、一定時間(例えば、2時間)乾燥させた後、連続して測定した2回の質量の変化量が乾燥開始時の質量に対して1%以内となった状態を意味する(ただし、2回目の質量測定は、1回目に要した乾燥時間の半分以上とする)。
【0050】
なお、反応液を接触させる際の繊維原料の状態は、特に限定されず、例えば、乾燥した状態であってもよいし、ウェットの状態(すなわち、湿潤状態)であってもよい。
【0051】
<接触工程における予備乾燥工程>
前記例で、接触工程における反応液含浸繊維の調製方法において、積極的な水分除去を行った状態の反応液含浸繊維を調製する方法について説明したが、この方法で加熱しながら水分を除去する方法(予備乾燥工程)を用いる場合(例えば、反応液と繊維原料を接触させた状態のものを直接加熱乾燥したり、脱水処理したものを加熱乾燥するような場合等)には、加熱温度が所定の温度以下となるように調整するのが望ましい。この予備乾燥工程における乾燥温度は、特に限定されないが、反応液含浸繊維に含まれる水分や周囲の水分を除去でき、且つ、前記反応が進行しない温度となるように調整されていることが好ましい。例えば、予備乾燥工程における乾燥温度として、反応液含浸繊維の雰囲気温度が100℃以下となるように調整できる。一方、作業性の観点では、50℃以上となるように調整するのが好ましい。したがって、接触工程における予備乾燥工程の乾燥温度は、好ましくは50℃~100℃、70℃~100℃である。
【0052】
<接触工程における水分調整工程>
接触工程は、反応液と接触させる繊維原料の水分率を所定の範囲内に入るように調整する水分調整工程を含んでもよい。この水分調整工程は、繊維原料が所定の水分率となるように乾燥したり、加湿したりして調整する工程である。この水分調整工程を含むことにより、反応液と接触させる際の繊維原料中の水分量をある程度均質にできるので、連続操業における製品安定性を向上させる可能性がある。また、繊維原料をある程度乾燥して水分量を少なくすれば(例えば、水分率が1%~10%)、保管性を向上させ得るという利点がある。
【0053】
<反応工程>
前述のごとく、接触工程で調製された反応液含浸繊維は、次工程の反応工程に供される。この反応工程は、接触工程から供された反応液含浸繊維中の、繊維原料に含まれるセルロース繊維と、スルファミン酸と、尿素とを反応させて、セルロース繊維中の水酸基の少なくとも一部を硫酸エステル基に置換させて、繊維原料に含まれるセルロース繊維に硫酸エステル基を導入する工程である。すなわち、この反応工程は、反応液含浸繊維に含まれるセルロース繊維中の水酸基の少なくとも一部を、硫酸エステル基に置換する反応を行う工程である。
【0054】
この反応工程は、反応液含浸繊維中のセルロース繊維の水酸基の少なくとも一部を硫酸エステル基で置換する反応が可能な方法であれば、特に限定されず、例えば、反応液含浸繊維を加熱することにより反応を促進させる方法を用い得る。以下、この加熱方法により反応を行う場合を例にとり、説明する。
【0055】
<反応工程における反応温度>
反応工程における反応温度は、特に限定されないが、繊維の熱分解や加水分解反応を抑えながら、前記繊維原料を構成するセルロース繊維に硫酸エステル基を導入できる温度であることが好ましい。例えば、反応工程に供した反応液含浸繊維の雰囲気温度が、100℃~200℃、120℃~200℃、120℃~180℃、120℃~160℃となるように調整する。加熱時における雰囲気温度が200℃以下であれば、繊維の熱分解及び変色を抑制できる。
【0056】
なお、反応工程に用いられる加熱器等は、特に限定されず、例えば、接触工程後の反応液含浸繊維を直接的又は間接的に前記要件を満たしながら加熱可能なものを用いることができ、公知の乾燥機、減圧乾燥機、マイクロ波加熱装置、オートクレーブ、赤外線加熱装置、熱プレス機(例えば、アズワン(株)製のAH-2003C)を用いたホットプレス法等を用い得る。特に、操作性の観点では、反応工程でガスが発生する可能性があるので、循環送風式の乾燥機を用いるのが好ましい。
【0057】
<反応工程における反応時間>
反応工程として前記加熱方法を用いる場合の加熱時間(すなわち、反応時間)は、特に限定されないが、例えば、反応温度を前記範囲となるように調整した場合、1分以上、5分以上、10分以上、15分以上であり、操作性及びコストの観点からは、5分~300分、5分~120分である。
【0058】
以上のごとき工程を行うことにより、硫酸エステル基導入パルプを調製できる。
【0059】
<反応工程後の洗浄工程>
反応工程の後に、硫酸エステル基導入パルプを洗浄する洗浄工程を含んでもよい。硫酸エステル基導入パルプは、スルファミン酸(硫酸エステル基供与化合物)の影響により表面が酸性になっている。また、未反応の反応液も存在した状態となっている。このため、反応を確実に終了させ、余分な反応液を除去して中性状態にする洗浄工程を設ければ、取扱性を向上できる。
【0060】
この洗浄工程は、特に限定されず、例えば、硫酸エステル基導入パルプがほぼ中性になるようにできればよい。例えば、硫酸エステル基導入パルプが中性になるまで純水等で洗浄するという方法を用い得る。また、アルカリ溶液等を用いた中和洗浄を行ってもよい。かかる中和洗浄を行う場合、アルカリ溶液に含まれるアルカリ化合物としては、無機アルカリ化合物、有機アルカリ化合物等が挙げられる。そして、無機アルカリ化合物としては、例えば、アルカリ金属の水酸化物、炭酸塩、リン酸塩等が挙げられる。有機アルカリ化合物としては、例えば、アンモニア、脂肪族アミン、芳香族アミン、脂肪族アンモニウム、芳香族アンモニウム、複素環式化合物、複素環式化合物の水酸化物等が挙げられる。
【0061】
なお、洗浄工程における硫酸エステル基導入パルプの分取は、特に限定されず、例えば、硫酸エステル基導入パルプと洗浄水との濾別ができればよい。例えば、反応後の硫酸エステル基導入パルプの洗浄は、目開き243μm(70メッシュ)~20μm(635メッシュ)、目開き132μm(120メッシュ)~45μm(300メッシュ)、目開き75μm(200メッシュ)~45μm(300メッシュ)のステンレスふるいを用いて洗浄するという方法を用い得る。
【0062】
<硫酸エステル基導入パルプの物性>
このようにして調製された硫酸エステル基導入パルプの物性は、特に限定されないが、例えば、つぎのとおりである。
【0063】
<硫酸エステル基の導入量>
硫酸エステル基導入パルプ1g(固形分質量)当たりの硫酸エステル基の導入量は、例えば、0.6mmol/g以上、0.8mmol/g以上、1mmol/g以上、1.2mmol/g以上となるように調整されていることが好ましい。
【0064】
なお、上限値は、特に限定されないが、結晶性が低下することに起因する繊維の崩壊及びコストの増加を抑制する観点から、例えば、硫酸エステル基導入パルプ1g(固形分質量)当たりの硫酸エステル基の導入量が、9.9mmol/g以下、5mmol/g以下である。
【0065】
また、硫酸エステル基導入パルプは、粘度の観点では、以下のように調製されていることが好ましい。硫酸エステル基導入パルプ1g(固形分質量)当たりの硫酸エステル基の導入量を下記範囲内とすることにより、分散液における粘度の低下を抑制し得る。例えば、硫酸エステル基導入パルプ1g(固形分質量)当たりの硫酸エステル基の導入量の上限値は、3.5mmol/g以下、2mmol/g以下である。また、下限値は、例えば、0.6mmol/g以上、1mmol/g以上、1.5mmol/g以上である。例えば、硫酸エステル基導入パルプにおいて、硫酸エステル基導入パルプ1g(固形分質量)当たりの硫酸エステル基の導入量は、0.6mmol/g~3.5mmol/g、1mmol/g~2.5mmol/g、1.5mmol/g~2mmol/gとなるように調整し得る。
【0066】
硫酸エステル基導入パルプの分散液を構成する分散媒は、特に限定されないが、前述のごとき粘度等を発揮させることができるものが好ましい。例えば、分散媒としては、水、エタノール、メタノール、酢酸、ギ酸、2-プロパノール、ニトロメタン、アンモニア水等のプロトン性極性溶媒、アセトン、酢酸エチル、テトラヒドロフラン(THF)、ジメチルホルムアミド(DMF)、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルスルフィド(DMS)、ジメチルアセトアミド(DMA)等の非プロトン性極性溶媒、ジメチルエーテル、ベンゼン、トルエン、ヘキサン、クロロホルム、1,4-ジオキサン等の非極性溶媒等を挙げることができ、これらの1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。なお、取扱性の観点では、例えば、水、エタノール、メタノール、酢酸、ギ酸、アンモニア水等のプロトン性極性溶媒等を用い得る。
【0067】
<硫酸エステル基の導入量の測定方法>
硫酸エステル基導入パルプに対する硫酸エステル基の導入量は、硫酸エステル基に起因する硫黄導入量で評価したり、直接的に硫酸エステル基を測定することで評価し得る。例えば、パルプに対する硫酸エステル基の導入量は、CHNS/O元素分析装置で測定し得る。また、パルプに対する硫酸エステル基の導入量は、電気伝導度測定により算出することもできる。
【0068】
<結晶化度>
硫酸エステル基導入パルプは、例えば、結晶構造としてセルロースI型結晶構造を有しており、その結晶化度が75%以下であってもよい。また、繊維形状を維持する観点では、硫酸エステル基導入パルプの結晶化度は、30%以上が好ましい。そして、粘度の観点では、硫酸エステル基導入パルプの結晶化度は、例えば、70%以下、65%以下、60%以下である。さらに、硫酸エステル基導入パルプの調製方法における取扱性の観点では、硫酸エステル基導入パルプの結晶化度は、例えば、30%以上、40%以上である。
【0069】
<結晶化度の測定方法>
硫酸エステル基導入パルプの結晶化度は、例えば、X線回折装置を用いて測定し得る。
【0070】
硫酸エステル基導入パルプは、例えば、所定の結晶化度を有することで優れた粘度を有する。具体的には、一般的なI型結晶構造を有するパルプの粘度は、B型粘度計を用いて、20℃、6rpmで3分間回転させることで測定した場合に数十mPa・s~数百mPa・s程度であるのに対して、硫酸エステル基導入パルプは、従来の一般的なパルプでは想定されることがなかった優れた粘度(例えば、数千mPa・s以上)を発揮し得る。
【0071】
<平均繊維長>
硫酸エステル基導入パルプの平均繊維長は、特に限定されず、例えば、0.2mm~2mm、0.2mm~1.8mm、0.2mm~1.5mm、0.2mm~1mmである。
【0072】
<短繊維率(%)>
また、硫酸エステル基導入パルプは、以下のような繊維長が短いパルプを含んでもよい。この繊維長が短いパルプ(以下、「短繊維」という。)としては、例えば、繊維長分布において、0.04mm以上0.2mm以下の繊維長を有するパルプが挙げられる。硫酸エステル基導入パルプにおける短繊維の含有率(%)(すなわち、短繊維率(%))は、例えば、10%以上、15%以上である。
【0073】
硫酸エステル基導入パルプは、取扱性の観点では、前記短繊維の含有率(%)(すなわち、短繊維率(%))が、繊維長分布において、例えば、10%~70%、10%~60%、10%~50%、10%~45%、15%~45%である。
【0074】
<平均繊維幅>
硫酸エステル基導入パルプの平均繊維幅は、特に限定されず、例えば、5μm~100μm、10μm~50μm、20μm~40μm、20μm~30μmである。
【0075】
<平均繊維長、平均繊維幅及び繊維分布の測定方法>
硫酸エステル基導入パルプの平均繊維長及び平均繊維幅は、例えば、ISO16065-2:2007に準拠したローレンツェン&ベットレー社製のファイバーテスターや繊維長分布測定器を用いて測定し得る。また、硫酸エステル基導入パルプにおける繊維長分布及び繊維幅分布は、例えば、ISO16065-2:2007に準拠した繊維長分布測定器を用いて測定し得る。
【0076】
<粘度>
硫酸エステル基導入パルプは、結晶化度が前述の値以下の場合、例えば、分散液が所定の粘度を有する。例えば、硫酸エステル基導入パルプは、結晶化度が70%以下の場合において、硫酸エステル基導入パルプを水に分散させた分散液(固形分濃度1質量%)における粘度が、1000mPa・s以上、5000mPa・s以上、10000mPa・s以上である。特に、硫酸エステル基導入パルプは、結晶化度が60%以下であれば、分散液の粘度が増加する傾向にある。また、平均繊維長が1mm以下であれば、その傾向がより強くなる。
【0077】
<粘度の測定方法>
硫酸エステル基導入パルプの粘度(mPa・s)は、例えば、測定温度20℃で、B型粘度計を用いて測定でき、回転数6rpmと回転数60rpmで測定を行い、各々の粘度値からチキソトロピー性指数TI値を算出することもできる。
TI値=(回転数6prmの粘度)/(回転数60rpmの粘度)
【0078】
TI値は、適宜調整することができ、高いTI値が必要とされる場合には、TI値の下限値は、例えば、3以上、4以上、5以上である。また、TI値の上限値は、例えば、10以下、8以下、6以下、5以下である。一方で、低いTI値が好適な場合には、下限値は、例えば、1以上であり、上限値は、例えば、3以下、2.5以下である。
【0079】
<微細セルロース繊維の調製方法>
前記微細セルロース繊維は、前述のように調製した硫酸エステル基導入パルプを微細化する微細化処理工程に供することによって得られる。
【0080】
<微細化処理工程>
本方法の微細化処理工程は、硫酸エステル基導入パルプを微細化して所定の大きさ(例えば、ナノレベル)の微細繊維にする工程である。この微細化処理工程に用いられる処理装置は、前記機能を有するものであれば、特に限定されない。例えば、前記処理装置は、低圧ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、グラインダー(石臼型粉砕機)、ボールミル、カッターミル、ジェットミル、短軸押出機、2軸押出機、超音波撹拌機、家庭用のミキサー等を用い得るが、これらに限定されない。これらのうち、材料に均等に力を加えることができ、均質化に優れているという点で、高圧ホモジナイザーを用いるのが望ましい。
【0081】
微細化処理工程において、高圧ホモジナイザーを用いる場合、硫酸エステル基導入パルプを水等の水系分散媒に分散させた状態で供給する。なお、以下では、硫酸エステル基導入パルプを分散させた状態の分散液をスラリーということがある。このスラリーにおける硫酸エステル基導入パルプの固形分濃度は、特に限定されず、例えば、0.1質量%~20質量%である。
【0082】
例えば、硫酸エステル基導入パルプの固形分濃度を0.5質量%に調整したスラリーを高圧ホモジナイザー等の処理装置に供給すれば、同じ固形分濃度の微細セルロース繊維が水系分散媒に分散した状態の分散液を得ることができる。すなわち、この場合であれば、固形分濃度が0.5質量%の分散液を得ることができる。
【0083】
また、微細化処理工程に供する硫酸エステル基導入パルプの保水度は、特に限定されないが、前記装置等で微細化されやすいように調整されていることが好ましい。例えば、微細化の処理効率や使用エネルギーの削減といった観点では、保水度が高くなるように調製した硫酸エステル基導入パルプを用いるのが望ましい。このような観点からは、硫酸エステル基導入パルプとしては、保水度が150%以上、200%以上、250%以上、300%以上、500%以上となるように調製されたものを用いるのがよい。また、微細セルロース繊維の回収率の観点では、前記保水度は、例えば、10000%以下である。このように、微細化処理効率及び回収率の観点から、微細化処理工程に供する硫酸エステル基導入パルプの保水度は、150%~10000%、200%~10000%、220%~10000%、250%~5000%、250%~2000%である。
【0084】
前記組成物全量における前記微細セルロース繊維の配合量は、例えば、0.0005質量%~0.5質量%である。後述のように、前記組成物がスプレー用(スプレー用組成物)である場合、前記微細セルロース繊維の配合量を多くすれば、スプレー(噴霧)時の液垂れを抑制し得る。例えば、前記組成物をトイレの洗浄に用いる場合には、スプレー(噴霧)時に液垂れせずに前記組成物がその場に留まれば、防汚効果等を得やすいと考えられる。一方、スプレー(噴霧)箇所から液垂れさせて下部へと広げた方が望ましい場合には、前記微細セルロース繊維の配合量を少なくすればよい。なお、この液垂れは、例えば、後述の界面活性剤等の他の成分の配合等によっても調整し得る。
【0085】
(水)
前記水は、イオン交換水又は純水であることが好ましい。前記組成物全量における前記水の配合量は、例えば、他の成分の残部としてもよい。
【0086】
(除菌剤)
前記組成物は、さらに、除菌剤を含んでもよい。前記除菌剤としては、例えば、2,2-ジブロモ-2-ニトロエタノール、2-ブロモ-2-ニトロプロパン-1,3-ジオール、2,2-ジブロモ-3-ニトリロプロピオンアミド、安息香酸、デヒドロ酢酸、ソルビン酸、パラオキシ安息香酸エステル類、ブチルヒドロキシアニソール、ブチルヒドロキシトルエン、エタノール等が挙げられる。前記除菌剤は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。また、先に例示の除菌剤は、防腐剤としても機能し得る。
【0087】
前記組成物をトイレの洗浄に用いる場合、前記除菌剤は、2,2-ジブロモ-2-ニトロエタノール、2-ブロモ-2-ニトロプロパン-1,3-ジオール、及び、2,2-ジブロモ-3-ニトリロプロピオンアミドのうちの1種又は2種以上を含むことが好ましい。これらの除菌剤は、ウレアーゼ阻害効果を有することから、トイレの床や壁、便器の内側のリム等に飛散した尿中の尿素が微生物のウレアーゼ酵素で分解されることによるアンモニアの発生を抑制することができる。また、尿素の酵素的分解作用によるアンモニア発生が抑制される結果、アンモニア発生によるpH上昇に伴うアルカリ土類金属やケイ酸塩によるアルカリ性の金属スケールの成長も抑制することができる。さらに、先に例示の除菌剤は、尿石やバイオフィルムを産生する緑膿菌等のアンモニアを発生するバクテリアを除菌することができる。
【0088】
前記組成物全量における前記除菌剤の配合量は、例えば、0.005質量%~0.5質量%、0.01質量%~0.1質量%、0.05質量%~0.1質量%である。
【0089】
(界面活性剤)
前記組成物は、さらに、界面活性剤を含んでもよい。前記界面活性剤としては、例えば、ノニオン界面活性剤、両性界面活性剤、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤等が挙げられる。前記界面活性剤は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0090】
<ノニオン界面活性剤>
前記ノニオン界面活性剤としては、例えば、D-グルコピラノースオリゴマーの(デシル、オクチル)=グリコシド、ポリオキシアルキレン(付加モル数1モル~50モル)アルキル(炭素数6~18)エーテル、ポリオキシアルキレン(付加モル数1モル~50モル)アシル(炭素数6~18)エステル、アルキル(炭素数6~18)ジエタノールアミド、ポリオキシアルキレン(付加モル数1モル~100モル)トリグリセリド(脂肪酸炭素数6~18)エーテル、ソルビタン脂肪酸(炭素数6~18)エステル、ショ糖脂肪酸(炭素数6~18)エステル、ポリオキシアルキレン(付加モル数1モル~50モル)ソルビタン脂肪酸(炭素数6~18)エステル、アルキル(炭素数6~18)ポリグリコシド、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー等が挙げられる。
【0091】
<両性界面活性剤>
前記両性界面活性剤としては、例えば、ナトリウムアルキルジ(アミノエチル)グリシン、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン、アルキル(炭素数6~18)ベタイン、脂肪酸(炭素数6~18)アミドプロピルベタイン、2-アルキル(炭素数6~18)-N-カルボキシメチル-N-ヒドロキシエチル-イミダゾリニウムベタイン、アルキル(炭素数6~18)ジエチレントリアミノ酢酸、ジアルキル(炭素数6~18)ジエチレントリアミノ酢酸、アルキル(炭素数6~18)アミンオキシド等が挙げられる。
【0092】
<アニオン界面活性剤>
前記アニオン界面活性剤としては、例えば、アルキル(炭素数10~15)ベンゼンスルホン酸塩、アルキル(炭素数6~18)硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレン(付加モル数1モル~30モル)アルキル(炭素数6~18)エーテル硫酸エステル塩、アルカン(炭素数6~18)スルホン酸塩、オレフィン(炭素数8~18)スルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩縮合物、アルキル(炭素数6~18)スルホコハク酸エステル塩、ポリオキシアルキレン(付加モル数1モル~30モル)アルキル(炭素数6~18)エーテルスルホコハク酸塩、アルキル(炭素数6~18)リン酸エステル塩、ポリオキシアルキレン(付加モル数1モル~30モル)アルキル(炭素数6~18)エーテルリン酸エステル塩、ポリオキシアルキレン(付加モル数1モル~30モル)アルキル(炭素数6~18)エーテル酢酸塩等が挙げられる。前記塩としては、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属の塩、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属の塩、アンモニア、アルカノールアミン等のアミンの塩等が挙げられる。
【0093】
<カチオン界面活性剤>
前記カチオン界面活性剤としては、例えば、モノアルキル(炭素数6~18)アミン塩、ジアルキル(炭素数6~18)アミン塩、トリアルキル(炭素数6~18)アミン塩、アルキル(炭素数6~18)トリメチルアンモニウム塩、ジアルキル(炭素数6~18)ジメチルアンモニウム塩、アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩、アルキル(炭素数6~18)ジメチルアミノプロピルアミド等が挙げられる。
【0094】
前記組成物をトイレの洗浄に用いる場合、前記界面活性剤は、両性界面活性剤であるナトリウムアルキルジ(アミノエチル)グリシン及び塩酸アルキルジアミノエチルグリシンの少なくとも一方を含むことが好ましい。これらは、除菌効果及び洗浄効果を有する両性界面活性剤であり、カビや酵母等の真菌類や不完全菌体に対する除菌効果が高いことから、真菌類や不完全菌体による有機物の異化作用の結果、自然に発生するアンモニアや代謝産物由来の臭気の発生を抑制することができる。また、これらの両性界面活性剤は、界面活性効果により、金属スケールやソフトスケールの内部にも浸透してスケール内部に生息する菌体を除菌することができるので、スケールの成長を抑制することができる。さらに、これらの両性界面活性剤は、有機物の洗浄除去に寄与するので、前述のウレアーゼ阻害効果及び除菌効果を有する除菌剤と併用すれば、有機物の残存による前記効果の低下を抑制し得る。
【0095】
前記組成物全量における前記界面活性剤の配合量は、例えば、0.01質量%~4質量%、0.01質量%~1.5質量%である。
【0096】
(香料)
前記組成物は、さらに、香料を含んでもよい。前記組成物は、前記微細セルロース繊維を含むことで、香料を含む場合にその分散性が向上し、優れた消臭効果を発揮し得る。
【0097】
前記香料としては、特に限定されず、例えば、合成香料化合物、天然製油、及びそれらから調合された調合香料等が挙げられ、ペパーミント、ジャスミン調、ブーケ、ローズ調、ミューゲ調、アルデハイディック、グリーン、シトラス、ウッディー、アニマル、フルーティ、スパイス等の香料が挙げられる。前記香料は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0098】
前記組成物全量における前記香料の配合量は、例えば、0.001質量%~1質量%である。
【0099】
(pH調整剤)
前記組成物は、さらに、pH調整剤を含んでもよい。前記pH調整剤としては、例えば、酸、又は、アルカリ等が挙げられる。前記組成物を酸性、アルカリ性のいずれにするのがよいかは、前記組成物の用途によって変わるので、それに応じて酸又はアルカリのいずれを用いるかを決定すればよい。例えば、前記組成物を油汚れの洗浄に用いる場合には、前記組成物をアルカリ性にするのがよいので、前記pH調整剤としてアルカリを用いればよい。
【0100】
前記酸としては、例えば、クエン酸、乳酸、シュウ酸、酒石酸、グルコン酸等の有機酸類、リン酸等の無機酸類等が挙げられる。前記酸は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。なお、前記組成物をトイレの洗浄に用いる場合には、前記酸は、尿石、水垢、尿及び水の飛び散りによる汚れの除去、スケール抑制、アンモニア臭の低減等の効果も奏し得る。
【0101】
前記アルカリとしては、例えば、アルカノールアミン等の有機アルカリ類、炭酸ナトリウム等の無機アルカリ類等が挙げられる。前記アルカリは、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0102】
前記組成物全量における前記pH調整剤の配合量は、例えば、0.01質量%~10質量%、0.05質量%~0.2質量%である。
【0103】
前記組成物は、例えば、前記除菌剤と、前記界面活性剤と、前記微細セルロース繊維と、前記水と、必要に応じて他の添加成分とを、従来公知の方法で均一に混合することにより調製できる。
【0104】
前記組成物をトイレの洗浄に用いる場合、前記組成物のpHは、3以上5未満であることが好ましい。この場合、前記組成物は、弱酸性となる。前記組成物のpHは、前述の酸(pH調整剤)を用いて調整されてもよい。前記酸を用いて前記組成物を弱酸性とすれば、前述の尿石、水垢、尿及び水の飛び散りによる汚れの除去、スケール抑制、アンモニア臭の低減等の効果に加え、塩酸等の強酸を用いた場合と比べ、安全性に優れ、肌に触れたときに肌荒れを起こしにくく、前記組成物に含まれる前記微細セルロース繊維を傷つけることもない。
【0105】
[実施形態2:スプレー装置]
本発明の組成物は、スプレー用(スプレー用組成物)であってもよい。本発明のスプレー装置は、前述の本発明のスプレー用組成物が充填されたものである。
【0106】
前記スプレー装置は、本発明のスプレー用組成物を容易に充填できるものが好ましく、ポンプ式ノズルを装着したディスペンサー式スプレー装置、トリガー式スプレー装置、エアゾール式スプレー装置等が挙げられる。
【0107】
ポンプ式ノズルを装着したディスペンサー式スプレー装置は、大気圧でスプレーでき、加圧ガス等を必要とせず、且つ、装置構造が単純であるので安全性が高く、携帯用にも適したものである。その構造は、吸い上げ式のチューブを装着した押し出しポンプ式のノズルと、これを固定し、内容物を充填するねじ式容器とを含む。
【0108】
トリガー式スプレー装置は、内容物を充填する容器本体の口部にピストル状のトリガー式スプレーが装着されたものであり、大気圧でスプレーを操作でき、汎用性の高いものである。
【0109】
エアゾール式スプレー装置は、容器内に噴射剤を充填することによって、前記2つのスプレー装置では実現困難な連続噴霧を可能とするものである。前記噴射剤としては、特に限定されず、例えば、ジメチルエーテル、液化石油ガス、炭酸ガス、窒素ガス、アルゴンガス、空気、酸素ガス、フロンガス等が挙げられる。前記噴射剤は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0110】
本発明の組成物及びスプレー装置の用途は、特に限定されず、例えば、業務用、家庭用の洗浄剤等として用い得る。具体的には、本発明の組成物及びスプレー装置は、例えば、トイレ用洗浄剤、浴室用洗浄剤、台所用洗浄剤等、多様な用途に用い得る。特に、トイレ用洗浄剤として用いる場合、本発明の組成物又はスプレー装置のみでトイレ全体を洗浄可能である。
【実施例0111】
(実施例1-1~1-5)
組成物組成(表1)の各成分を均一に混合することで、表1に示す実施例1-1~1-5の組成物を得た。
【0112】
【表1】
【0113】
なお、表1における微細セルロース繊維は、つぎのようにして調製した。
【0114】
(硫酸エステル基導入パルプの調製)
丸住製紙(株)製の平均繊維長が2.54mmの針葉樹クラフトパルプ(NBKP)(以下、単に「パルプ」ということがある。)を、大量のイオン交換水で洗浄後、目開き75μm(200メッシュ)のふるいで水を切った。このようにして得たパルプの一部をとりわけ固形分濃度を測定したところ、21.6質量%であった。前記イオン交換水としては、オルガノ(株)製のイオン交換水生成装置(型番:G-5DSTEST)で測定される電気伝導度が0.1μS/cm~0.2μS/cmのものを用い、これ以降、それを純水という。その後、湿潤状態のパルプをアルミバットに広げ、105℃雰囲気下の乾燥機に入れ、水分率が約1%に達するまで約1時間乾燥させた。
【0115】
<接触工程>
パルプ20g(固形分質量)に反応液1000gを加え、反応液をパルプに含浸させた。前記反応液としては、スルファミン酸と尿素の混合比が、濃度比(g/L)において、スルファミン酸:尿素=2:1(180g/L:90g/L)となるように混合した水溶液を用いた。前記スルファミン酸としては、扶桑化学工業(株)製、純度99.8%を、前記尿素としては、富士フイルム和光純薬(株)製、純度99.0%、型番:特級試薬を用いた。
【0116】
反応液を含浸させたパルプを吸引ろ過により脱水して、アルミバットに広げた。ついで、このアルミバットを80℃雰囲気下の乾燥機に入れて乾燥し、反応液含浸パルプを調製した。この反応液含浸パルプの水分率は、5%以下であった。前記吸引ろ過には、ろ紙(Advantech社製、型番:No.2)を用いた。
【0117】
<反応工程>
前記反応液含浸パルプを、乾燥機を用いて加熱反応に供した。前記乾燥機の恒温槽の温度は、140℃、加熱時間は、30分とした。加熱後の前記反応液含浸パルプを中性になるまで洗浄して、硫酸エステル基の導入量が1.39mmol/gの硫酸エステル基導入パルプを調製した。前記洗浄は、前記反応液含浸パルプに多量の純水を加えスラリーとした後、炭酸水素ナトリウム(ナカライテスク(株)製、純度99.5%)を泡が生じなくなるまで加えて中和することで実施した。
【0118】
(微細セルロース繊維の調製)
高圧ホモジナイザー(吉田機械興業(株)製「ナノヴェイタ」、圧力:60MPa)を用いて前記硫酸エステル基導入パルプを5回解繊処理に供し、1.05質量%の微細セルロール繊維の分散液を調製した。
【0119】
[防汚及び汚れ除去試験]
実施例1-1~1-5の組成物を、ブリリアントブルーFCF(食用青色1号)で着色し、これらをABS樹脂板に各1mL滴下後、24時間静置した。その後、組成物の滴下部及び非滴下部に、製菓用チョコレート及びハチミツを約0.5g滴下し、1時間静置した。
【0120】
その後、水道水で板面を流水洗浄し、製菓用チョコレート及びハチミツの落ち具合を目視確認した。その結果、実施例1-4及び1-5の組成物の滴下部では、乾燥付着した組成物ごと剥がれ、跡形なく流れ落ちた。実施例1-3の組成物の滴下部では、徐々に剥離し流れ落ちた。実施例1-1及び1-2の組成物の滴下部では、同様に流れ落ちたが、僅かながら製菓用チョコレートの残存が見られた。一方、非滴下部では、ハチミツは流れ落ちたが、製菓用チョコレートはほぼ残存していた。また、非滴下部及び実施例1-1~1-3の組成物の滴下部では、板面に流れたチョコレート跡の付着が見られ、その量は、微細セルロース繊維の配合量が少ないほど多く見られた。このように、実施例1-1~1-5の組成物が付着した部位は、汚れが付きにくく、落としやすいことが確認された。
【0121】
つぎに、ABS樹脂板を紙やすり(120)で粗面とし、ハチミツを使用せず、製菓用チョコレートのみを使用したこと以外は前述と同様にして試験を行った。その結果、実施例1-2~1-5の組成物の滴下部では、乾燥付着した組成物ごと剥がれ、跡形なく流れ落ちた。実施例1-1の組成物の滴下部では、一部製菓用チョコレートの残存が見られ、非滴下部では、製菓用チョコレートがほぼ残存していた。このように、樹脂板粗面においても、実施例1-1~1-5の組成物が付着した部位は、汚れが付きにくく、落としやすいことが確認された。なお、この防汚及び汚れ除去試験では、樹脂板でのはじきを考慮して組成物を滴下したが、これらの組成物をスプレー装置でスプレー(噴霧)可能であることを確認しており、スプレーした場合にも、同様の結果が得られると考えられる。
【0122】
(実施例2-1~2-5、3-1~3-5、4-1~4-5、5-1~5-5及び6-1~6-3)
組成物組成(表2~表6)の各成分を均一に混合することで、表2~表6に示す実施例2-1~2-5、3-1~3-5、4-1~4-5、5-1~5-5及び6-1~6-3の組成物を得た。なお、表2~表6における微細セルロース繊維は、表1における微細セルロース繊維と同様にして調製した。なお、表2~表6において、pHは、各実施例の組成物のpHの値を示す。
【0123】
【表2】
【0124】
【表3】
【0125】
【表4】
【0126】
【表5】
【0127】
【表6】
【0128】
[第三者使用評価]
表2~表6に示す組成物を充填したポンプ式ノズルを装着したディスペンサー式スプレー装置について、第三者に、店舗のトイレ清掃への使用を依頼した。その結果、臭い及び汚れが低減した、前記スプレー装置のみでトイレ全体を洗浄でき清掃が楽になったとの評価が得られた。
【0129】
[防汚性能確認試験]
表2~表6に示す組成物を、白色のABS樹脂板の上に各0.5mLずつ滴下し、24時間静置し自然乾燥させた。その後、前記滴下部の上を黒の油性マーカー(ゼブラ(株)製のマッキー)で帯状に塗りつぶした後、水道水で洗い流しながらティッシュペーパーで拭き取った。その結果を、図1に示す。
【0130】
図1に示すとおり、いずれの実施例の組成物の滴下部でも油性マーカーの剥離が見られ、微細セルロース繊維の配合量の増加に伴い、油性マーカーの剥離が多く見られた。特に、微細セルロース繊維の配合量が0.1質量%以上である実施例2-4、2-5、3-4、3-5、4-4、4-5、5-4、5-5及び6-1~6-3の組成物の滴下部では、油性マーカーが略全て剥離し、高い防汚性能が確認された。
【0131】
[ルミテスターによる清浄度測定]
ABS樹脂板の上に乳製品乳酸菌飲料((株)ヤクルト本社製のY1000(乳酸菌シロタ株(L.カゼイ YIT 9029)1,100億個含有))を1mL塗布した後の清浄度を、細菌や微生物に含まれるATP(アデノシン3リン酸)をホタル由来の酵素であるルシフェラーゼに反応させることにより発光させ、その発光量をルミテスターで測定することにより評価した。ルミテスターによる測定の結果、水洗乾燥後のABS樹脂板の値は、0RLUであり、前記乳製品乳酸菌飲料1mL塗布後の値は、10,061RLUであった。そして、前記塗布部に、水(比較例)又は表2~表6に示す組成物の一部を充填したポンプ式ノズルを装着したディスペンサー式スプレー装置で5回スプレー(噴霧量約1mL)してからペーパータオルで一方向に5回拭き取った後の値は、表7に示すとおりであった。なお、表7に示す各実施例及び比較例の測定値は、3回行った測定の平均値である。
【0132】
【表7】
【0133】
表7に示すとおり、いずれの実施例の組成物の噴霧でも、比較例である水の噴霧時よりも大幅に低い値となり、優れた汚れ除去効果が確認された。
【0134】
[アンモニア消臭試験]
プラスチックバック(旭化成ホームプロダクツ(株)製のジップロック(登録商標))に入れた2.5cm×2.5cmの不織布に、pH指示薬で青色に着色したアンモニア水0.25mLをしみ込ませ、北川式検知管法によりアンモニア濃度を測定した(初期濃度測定)。初期濃度測定後、水(比較例)又は表2~表6に示す組成物をpH指示薬の青色(アルカリ性)が黄色(酸性)に変化するところまで添加した後、北川式検知管法によりアンモニア濃度を測定した。その結果を、表8に示す。なお、表8に示す各実施例及び比較例の測定値は、5回行った測定の平均値である。
【0135】
【表8】
【0136】
表8に示すとおり、比較例である水の添加時ではアンモニア濃度の減少が12ppmから9ppmであったのに対し、いずれの実施例の組成物の添加でもアンモニア濃度が検出限界以下となり、アンモニア消臭効果が得られることが確認された。
【0137】
(実施例7-1~7-3)
組成物組成(表9)の各成分を均一に混合することで、実施例7-1~7-3の組成物を得た。なお、表9における微細セルロース繊維は、表1における微細セルロース繊維と同様にして調製した。なお、表9において、pHは、各実施例の組成物のpHの値を示す。
【0138】
【表9】
【0139】
[アンモニア消臭試験]
表9に示す実施例7-1~7-3の組成物についても、前述と同様にしてアンモニア消臭試験を実施した。その結果を、表10に示す。なお、表10に示す各実施例の測定値は、3回行った測定の平均値である。
【0140】
【表10】
【0141】
表10に示すとおり、実施例7-1~7-3の組成物の添加でもアンモニア濃度が検出限界以下となり、アンモニア消臭効果が得られることが確認された。
【0142】
[防汚性能確認試験]
表9に示す実施例7-1~7-3の組成物についても、前述と同様にして防汚性能確認試験を実施した。その結果を、図2に示す。
【0143】
図2に示すとおり、いずれの実施例の組成物の滴下部でも油性マーカーの剥離が見られ、微細セルロース繊維の配合量の増加に伴い、油性マーカーの剥離が多く見られた。
【0144】
(実施例8-1~8-7)
組成物組成(表11)の各成分を均一に混合することで、実施例8-1~8-7の組成物を得た。なお、表11における微細セルロース繊維は、表1における微細セルロース繊維と同様にして調製した。また、実施例8-1及び8-3の組成物は、表2に示す実施例2-4及び2-5の組成物と同一組成であるが、下記液垂れ試験用に別途調製したものである。
【0145】
【表11】
【0146】
[液垂れ試験]
実施例8-1~8-7の組成物を、ブリリアントブルーFCF(食用青色1号)で着色し、これらを白色のABS樹脂板(247mm×332mm)の端部に各10μL、15μL、20μL、25μL、30μL又は35μL滴下した。その後、組成物を滴下した端部が上となるように前記ABS樹脂板をゆっくりと垂直に立て1分間静置した後、液垂れの程度を目視にて確認した。その結果を、図3に示す。なお、図3においては、液垂れが略無いか中程度のものを破線の四角で、液垂れの程度が大きいものを実線の四角で囲っている。なお、前記組成物の滴下には、Thermo Fisher Scientific社製のフィンピペット F3 10-100μLを用いた。
【0147】
図3(A)に示すとおり、滴下量10μLでは、実施例8-2でやや液垂れが見られたものの、実施例8-1及び8-3~8-7では、液垂れが見られず、組成物が滴下部にそのまま留まった。また、図3(B)に示すとおり、滴下量15μLでは、実施例8-1~8-3では、液垂れが見られ、組成物が前記ABS樹脂板の他端まで流れ落ちたのに対し、実施例8-4~8-7では、液垂れが見られず、組成物が滴下部にそのまま留まった。そして、図3(C)及び図3(D)に示すとおり、滴下量20μL又は25μLでは、実施例8-1~8-5では、液垂れが見られ、組成物が前記ABS樹脂板の下方又は他端まで流れ落ちたのに対し、実施例8-6及び8-7では、液垂れが見られず、組成物が滴下部にそのまま留まった。さらに、図3(E)に示すとおり、実施例8-6及び8-7のみ実施した滴下量30μLでは、実施例8-6でやや液垂れが見られたものの、実施例8-7では、液垂れが見られず、組成物が滴下部にそのまま留まった。一方、図3(F)に示すとおり、同様に実施例8-6及び8-7のみ実施した滴下量35μLでは、実施例8-6では、液垂れが見られ、組成物が前記ABS樹脂板の他端まで流れ落ちたのに対し、実施例8-7では、液垂れが見られず、組成物が滴下部にそのまま留まった。このように、組成物における前記微細セルロース繊維の配合量により、液垂れの程度を調整可能であることが確認された。なお、この液垂れ試験では、樹脂板でのはじきを考慮して組成物を滴下したが、これらの組成物をスプレー装置でスプレー(噴霧)可能であることを確認しており、スプレーした場合にも、同様の結果が得られると考えられる。
図1
図2
図3