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特開2025-163519浸炭鋼部品の製造方法及び浸炭鋼部品
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  • 特開-浸炭鋼部品の製造方法及び浸炭鋼部品 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025163519
(43)【公開日】2025-10-29
(54)【発明の名称】浸炭鋼部品の製造方法及び浸炭鋼部品
(51)【国際特許分類】
   C23C 8/22 20060101AFI20251022BHJP
   C21D 1/06 20060101ALI20251022BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20251022BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20251022BHJP
【FI】
C23C8/22
C21D1/06 A
C22C38/00 301N
C22C38/60
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024066859
(22)【出願日】2024-04-17
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001553
【氏名又は名称】アセンド弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】藤堂 尚二
(72)【発明者】
【氏名】出口 拓海
【テーマコード(参考)】
4K028
【Fターム(参考)】
4K028AA01
4K028AB01
4K028AC03
(57)【要約】
【課題】浸炭鋼部品のエッジ部の過剰浸炭を抑制可能な浸炭鋼部品の製造方法を提供する。
【解決手段】本開示の浸炭鋼部材の製造方法では、第1浸炭拡散工程で、浸炭ガスを真空浸炭炉内に供給しながら、鋼素形材を930~1100℃の高温浸炭温度で保持する高温浸炭期と、鋼素形材を高温浸炭温度で真空又は不活性ガス雰囲気で保持する高温拡散期とを、交互に実施する。第1浸炭拡散工程後の第2浸炭拡散工程では、鋼素形材を真空浸炭炉内で800~880℃の範囲の低温浸炭温度まで降温する降温工程を実施した後、浸炭ガスを供給しながら、鋼素形材を低温浸炭温度で保持する低温浸炭期と、鋼素形材を低温浸炭温度で真空又は不活性ガス雰囲気で保持する低温拡散期とを、交互に実施する。降温工程後の鋼素形材の平坦部の炭素濃度Cs21(質量%)は、焼入れ工程後の鋼素形材の平坦部の炭素濃度Cs3(質量%)に対して0.08%以上低い。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
浸炭鋼部品の製造方法であって、
浸炭鋼部品の素材である鋼素形材を真空浸炭炉内で浸炭する第1浸炭拡散工程と、
前記第1浸炭拡散工程後に前記鋼素形材を前記真空浸炭炉内で浸炭する第2浸炭拡散工程と、
前記第2浸炭拡散工程後、冷媒を用いて前記鋼素形材を300℃以下まで冷却する焼入れ工程と、を備え、
前記第1浸炭拡散工程は、
前記鋼素形材を前記真空浸炭炉内で930~1100℃の範囲の高温浸炭温度に加熱する加熱工程と、
前記加熱工程後、前記鋼素形材を前記高温浸炭温度で均熱する高温均熱工程と、
前記高温均熱工程後、前記鋼素形材に対して浸炭処理及び拡散処理を実施する高温浸炭拡散工程とを含み、
前記高温浸炭拡散工程は、
浸炭ガスを前記真空浸炭炉内に供給しながら、前記鋼素形材を前記高温浸炭温度で保持する高温浸炭期と、
前記真空浸炭炉内への前記浸炭ガスの供給を停止し、前記鋼素形材を前記高温浸炭温度で10Pa以下の真空又は100kPa以下の不活性ガス雰囲気で保持する高温拡散期とを、交互に1回以上実施し、
前記第2浸炭拡散工程は、
前記鋼素形材を前記真空浸炭炉内で800~880℃の範囲の低温浸炭温度まで降温する降温工程と、
前記降温工程後、前記鋼素形材を前記低温浸炭温度で均熱する低温均熱工程と、
前記低温均熱工程後、前記鋼素形材に対して浸炭処理及び拡散処理を実施する低温浸炭拡散工程とを含み、
前記低温浸炭拡散工程は、
前記浸炭ガスを前記真空浸炭炉内に供給しながら、前記鋼素形材を前記低温浸炭温度で保持する低温浸炭期と、
前記真空浸炭炉内への前記浸炭ガスの供給を停止し、前記鋼素形材を前記低温浸炭温度で10Pa以下の真空又は100kPa以下の不活性ガス雰囲気で保持する低温拡散期とを、交互に1回以上実施し、
前記降温工程後の前記鋼素形材の平坦部の炭素濃度Cs21(質量%)は、前記焼入れ工程後の前記鋼素形材の前記平坦部の炭素濃度Cs3(質量%)に対して0.08%以上低い、
浸炭鋼部品の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の浸炭鋼部品の製造方法であって、
前記低温浸炭拡散工程の処理時間を、前記高温浸炭拡散工程の処理時間の0.03倍以上0.30倍以下とする、
浸炭鋼部品の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の浸炭鋼部品の製造方法であって、
前記鋼素形材の化学組成は、質量%で、
C:0.10~0.25%、
Si:0.02~2.00%、
Mn:0.30~2.50%、
P:0.030%以下、
S:0.060%以下、
Cr:0.30~3.00%、
Al:0.010~0.060%、
N:0.025%以下、
Cu:0~0.50%、
Ni:0~1.00%、
Mo:0~1.00%、
V:0~0.20%、
Sn:0~0.10%、
Sb:0~0.02%、
Nb:0~0.10%、
Ti:0~0.10%、及び、
B:0~0.0040%、を含有し、
残部はFe及び不純物からなる、
浸炭鋼部品の製造方法。
【請求項4】
浸炭鋼部品であって、
平坦部と、エッジ部とを含み、
前記浸炭鋼部品の表層に形成された浸炭硬化層と、
前記浸炭硬化層よりも内部の芯部とを備え、
前記芯部の化学組成は、質量%で、
C:0.10~0.25%、
Si:0.02~2.00%、
Mn:0.30~2.50%、
P:0.030%以下、
S:0.060%以下、
Cr:0.30~3.00%、
Al:0.010~0.060%、
N:0.025%以下、
Cu:0~0.50%、
Ni:0~1.00%、
Mo:0~1.00%、
V:0~0.20%、
Sn:0~0.10%、
Sb:0~0.02%、
Nb:0~0.10%、
Ti:0~0.10%、及び、
B:0~0.0040%、を含有し、
残部はFe及び不純物からなり、
前記エッジ部の表面から80μm深さ位置までの領域であるエッジ部表層領域において、Cr濃化領域の面積率が1.00%以下である、
浸炭鋼部品。
【請求項5】
請求項4に記載の浸炭鋼部品であって、
前記芯部の化学組成は、質量%で、
Cu:0.01~0.50%、
Ni:0.01~1.00%、
Mo:0.01~1.00%、
V:0.01~0.20%、
Sn:0.01~0.10%、
Sb:0.01~0.02%、
Nb:0.01~0.10%、
Ti:0.01~0.10%、及び、
B:0.0001~0.0040%、からなる群から選択される1種以上を含有する、
浸炭鋼部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、浸炭鋼部品の製造方法及び浸炭鋼部品に関し、さらに詳しくは、真空浸炭処理を実施する浸炭鋼部品の製造方法及び浸炭鋼部品に関する。
【背景技術】
【0002】
ギヤやシャフト、CVT用プーリに代表される鋼部品には、高い面疲労強度が求められる。このような鋼部品は、表面硬化処理を実施して製造される。表面硬化処理として、真空浸炭処理がある。真空浸炭処理は、加熱工程、浸炭工程、及び、拡散工程を含む。加熱工程では、高周波誘導加熱や電気加熱ヒーター等で、浸炭鋼部品の素材である鋼素形材がオーステナイトに変態する温度以上に加熱する。浸炭工程では、炭化水素ガスである浸炭ガスを導入して、浸炭温度に加熱された鋼素形材の表層の炭素濃度を高める。拡散工程では、浸炭ガスの導入を停止して鋼素形材内部で炭素を拡散させる。浸炭工程及び拡散工程の時間等を調整することにより、浸炭鋼部品の表面の炭素濃度を調整する。
【0003】
真空浸炭処理により浸炭鋼部品を製造する場合、浸炭鋼部品のエッジ部の炭素濃度が、浸炭鋼部品の平坦部と比較して高くなりやすい。このため、浸炭鋼部品のエッジ部が過剰浸炭になりやすい。過剰浸炭部分は、セメンタイトが析出することにより、Cr濃化領域が多く形成される場合がある。Cr濃化領域が多く形成されると、Cr希薄領域が形成される。真空浸炭処理時において、Cr希薄領域は、破壊の起点となる不完全焼入れ組織を形成する。このような不完全焼入れ組織を含む浸炭鋼部品では、面疲労強度が低下する。したがって、歯車、シャフト、CVT用プーリ等のエッジ部が多く存在する浸炭鋼部品では、過剰浸炭を抑制できることが求められる。
【0004】
浸炭鋼部品のエッジ部における過剰浸炭の抑制に関する技術が、特開2011-117027号公報(特許文献1)、特開2004-115893号公報(特許文献2)、特開2005-350729号公報(特許文献3)、及び、国際公開第2014/034150号(特許文献4)に提案されている。
【0005】
特許文献1に記載された真空浸炭方法は、浸炭処理を施した後、アルゴンに代表される不活性ガスを含む中性又は還元性のガスプラズマ処理により、鋼素形材の表層の炭素を芯部に拡散させる。この真空浸炭方法では、浸炭鋼部品のエッジ部と平坦部との炭素濃度の差を小さくできる、と特許文献1には記載されている。
【0006】
特許文献2に記載された真空浸炭方法は、浸炭処理を実施した後、拡散処理の初期において、脱炭性ガスを炉内に導入して炉内の鋼素形材の表層に対して脱炭処理を実施する。この真空浸炭方法では、脱炭処理により、過剰浸炭したエッジ部を脱炭する。その結果、鋼素形材の表層のセメンタイトを減少又は除去することができ、過剰浸炭が抑制される、と特許文献2には記載されている。
【0007】
特許文献3に記載された真空浸炭方法では、浸炭工程の浸炭前期において、浸炭処理に必要な浸炭ガスの理論流量よりも十分多くかつスーティングの発生しない流量である浸炭時流量V1を供給する。さらに、浸炭後期において、理論流量Vよりも少ない拡散時流量V2を供給する。この真空浸炭方法では、大幅な浸炭ガス消費量を削減でき、鋼素形材の表面の過剰浸炭を抑制でき、浸炭硬化層に悪影響を及ぼすセメンタイトの生成を抑制できる、と特許文献3には記載されている。
【0008】
特許文献4に記載された真空浸炭処理では、高温浸炭後、500℃以下に冷却し、再加熱焼入れを実施する。これにより、過剰浸炭を無害化し、浸炭硬化層に悪影響を及ぼす粗大なセメンタイトの残存を防止することができる、と特許文献4には記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2011-117027号公報
【特許文献2】特開2004-115893号公報
【特許文献3】特開2005-350729号公報
【特許文献4】国際公開第2014/034150号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1~特許文献4以外の他の手段を用いて浸炭鋼部品のエッジ部の過剰浸炭を抑制してもよい。
【0011】
本開示の目的は、浸炭鋼部品のエッジ部の過剰浸炭を抑制可能な浸炭鋼部品の製造方法及び浸炭鋼部品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本開示の浸炭鋼部品の製造方法は、
浸炭鋼部品の素材である鋼素形材を真空浸炭炉内で浸炭する第1浸炭拡散工程と、
前記第1浸炭拡散工程後に前記鋼素形材を前記真空浸炭炉内で浸炭する第2浸炭拡散工程と、
前記第2浸炭拡散工程後、冷媒を用いて前記鋼素形材を300℃以下まで冷却する焼入れ工程と、を備え、
前記第1浸炭拡散工程は、
前記鋼素形材を前記真空浸炭炉内で930~1100℃の範囲の高温浸炭温度に加熱する加熱工程と、
前記加熱工程後、前記鋼素形材を前記高温浸炭温度で均熱する高温均熱工程と、
前記高温均熱工程後、前記鋼素形材に対して浸炭処理及び拡散処理を実施する高温浸炭拡散工程とを含み、
前記高温浸炭拡散工程は、
浸炭ガスを前記真空浸炭炉内に供給しながら、前記鋼素形材を前記高温浸炭温度で保持する高温浸炭期と、
前記真空浸炭炉内への前記浸炭ガスの供給を停止し、前記鋼素形材を前記高温浸炭温度で10Pa以下の真空又は100kPa以下の不活性ガス雰囲気で保持する高温拡散期とを、交互に1回以上実施し、
前記第2浸炭拡散工程は、
前記鋼素形材を前記真空浸炭炉内で800~880℃の範囲の低温浸炭温度まで降温する降温工程と、
前記降温工程後、前記鋼素形材を前記低温浸炭温度で均熱する低温均熱工程と、
前記低温均熱工程後、前記鋼素形材に対して浸炭処理及び拡散処理を実施する低温浸炭拡散工程とを含み、
前記低温浸炭拡散工程は、
前記浸炭ガスを前記真空浸炭炉内に供給しながら、前記鋼素形材を前記低温浸炭温度で保持する低温浸炭期と、
前記真空浸炭炉内への前記浸炭ガスの供給を停止し、前記鋼素形材を前記低温浸炭温度で10Pa以下の真空又は100kPa以下の不活性ガス雰囲気で保持する低温拡散期とを、交互に1回以上実施し、
前記降温工程後の前記鋼素形材の平坦部の炭素濃度Cs21(質量%)は、前記焼入れ工程後の前記鋼素形材の前記平坦部の炭素濃度Cs3(質量%)に対して0.08%以上低い。
【0013】
本開示の浸炭鋼部品は、
平坦部と、エッジ部とを含み、
前記浸炭鋼部品の表層に形成された浸炭硬化層と、
前記浸炭硬化層よりも内部の芯部とを備え、
前記芯部の化学組成は、質量%で、
C:0.10~0.25%、
Si:0.02~2.00%、
Mn:0.30~2.50%、
P:0.030%以下、
S:0.060%以下、
Cr:0.30~3.00%、
Al:0.010~0.060%、
N:0.025%以下、
Cu:0~0.50%、
Ni:0~1.00%、
Mo:0~1.00%、
V:0~0.20%、
Sn:0~0.10%、
Sb:0~0.02%、
Nb:0~0.10%、
Ti:0~0.10%、及び、
B:0~0.0040%、を含有し、
残部はFe及び不純物からなり、
前記エッジ部の表面から80μm深さ位置までの領域であるエッジ部表層領域において、Cr濃化領域の面積率が1.00%以下である。
【発明の効果】
【0014】
本開示の浸炭鋼部品の製造方法は、浸炭鋼部品のエッジ部の過剰浸炭を抑制可能である。本開示の浸炭鋼部品は、エッジ部の過剰浸炭が抑制されている。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、浸炭鋼部品の一例を示す斜視図である。
図2図2は、図1とは異なる浸炭鋼部品の一例を示す斜視図である。
図3図3は、図1及び図2中の断面CSの模式図である。
図4図4は、本実施形態の浸炭鋼部品の製造方法の工程を示すヒートパターン図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明者らは、上述の課題を解決するために調査及び検討を行った。その結果、次の知見を得た。
(A)真空浸炭処理において、930~1100℃で浸炭工程及び拡散工程を実施する。さらに、焼入れ工程前に800~880℃に降温して、鋼素形材の表面の炭素濃度を質量%で0.8%程度に調整して焼入れする。この場合、浸炭鋼部品のエッジ部に過剰浸炭が発生する。
(B)一方、真空浸炭処理において、930~1100℃で浸炭工程及び拡散工程の時間を調整して、鋼素形材の平坦部の炭素濃度を低くしておく。この場合、浸炭工程及び拡散工程後に800~880℃に降温しても、鋼素形材のエッジ部に顕著な過剰浸炭が発生しにくい。しかしながらこの場合、浸炭鋼部品の平坦部において、十分な炭素濃度が得られない場合がある。
(C)930~1100℃で浸炭工程及び拡散工程を実施し、次いで、800~880℃において浸炭工程及び拡散工程を実施する。つまり、分割して浸炭工程及び拡散工程を実施する。この場合、鋼素形材のエッジ部にCrが濃化せずに、過剰浸炭が発生しにくい。さらに、浸炭鋼部品の平坦部においても、十分な炭素濃度が得られる。
【0017】
以上の知見により完成した本実施形態の浸炭鋼部品の製造方法、及び、浸炭鋼部品は、次の構成を有する。
【0018】
第1の構成の浸炭鋼部品の製造方法は、
浸炭鋼部品の素材である鋼素形材を真空浸炭炉内で浸炭する第1浸炭拡散工程と、
前記第1浸炭拡散工程後に前記鋼素形材を前記真空浸炭炉内で浸炭する第2浸炭拡散工程と、
前記第2浸炭拡散工程後、冷媒を用いて前記鋼素形材を300℃以下まで冷却する焼入れ工程と、を備え、
前記第1浸炭拡散工程は、
前記鋼素形材を前記真空浸炭炉内で930~1100℃の範囲の高温浸炭温度に加熱する加熱工程と、
前記加熱工程後、前記鋼素形材を前記高温浸炭温度で均熱する高温均熱工程と、
前記高温均熱工程後、前記鋼素形材に対して浸炭処理及び拡散処理を実施する高温浸炭拡散工程とを含み、
前記高温浸炭拡散工程は、
浸炭ガスを前記真空浸炭炉内に供給しながら、前記鋼素形材を前記高温浸炭温度で保持する高温浸炭期と、
前記真空浸炭炉内への前記浸炭ガスの供給を停止し、前記鋼素形材を前記高温浸炭温度で10Pa以下の真空又は100kPa以下の不活性ガス雰囲気で保持する高温拡散期とを、交互に1回以上実施し、
前記第2浸炭拡散工程は、
前記鋼素形材を前記真空浸炭炉内で800~880℃の範囲の低温浸炭温度まで降温する降温工程と、
前記降温工程後、前記鋼素形材を前記低温浸炭温度で均熱する低温均熱工程と、
前記低温均熱工程後、前記鋼素形材に対して浸炭処理及び拡散処理を実施する低温浸炭拡散工程とを含み、
前記低温浸炭拡散工程は、
前記浸炭ガスを前記真空浸炭炉内に供給しながら、前記鋼素形材を前記低温浸炭温度で保持する低温浸炭期と、
前記真空浸炭炉内への前記浸炭ガスの供給を停止し、前記鋼素形材を前記低温浸炭温度で10Pa以下の真空又は100kPa以下の不活性ガス雰囲気で保持する低温拡散期とを、交互に1回以上実施し、
前記降温工程後の前記鋼素形材の平坦部の炭素濃度Cs21(質量%)は、前記焼入れ工程後の前記鋼素形材の前記平坦部の炭素濃度Cs3(質量%)に対して0.08%以上低い。
【0019】
第2の構成の浸炭鋼部品の製造方法は、
第1の構成の浸炭鋼部品の製造方法であって、
前記低温浸炭拡散工程の処理時間を、前記高温浸炭拡散工程の処理時間の0.03倍以上0.30倍以下とする。
【0020】
第3の構成の浸炭鋼部品の製造方法は、
第1又は第2の構成の浸炭鋼部品の製造方法であって、
前記鋼素形材の化学組成は、質量%で、
C:0.10~0.25%、
Si:0.02~2.00%、
Mn:0.30~2.50%、
P:0.030%以下、
S:0.060%以下、
Cr:0.30~3.00%、
Al:0.010~0.060%、
N:0.025%以下、
Cu:0~0.50%、
Ni:0~1.00%、
Mo:0~1.00%、
V:0~0.20%、
Sn:0~0.10%、
Sb:0~0.02%、
Nb:0~0.10%、
Ti:0~0.10%、及び、
B:0~0.0040%、を含有し、
残部はFe及び不純物からなる。
【0021】
第1の構成の浸炭鋼部品は、
平坦部と、エッジ部とを含み、
前記浸炭鋼部品の表層に形成された浸炭硬化層と、
前記浸炭硬化層よりも内部の芯部とを備え、
前記芯部の化学組成は、質量%で、
C:0.10~0.25%、
Si:0.02~2.00%、
Mn:0.30~2.50%、
P:0.030%以下、
S:0.060%以下、
Cr:0.30~3.00%、
Al:0.010~0.060%、
N:0.025%以下、
Cu:0~0.50%、
Ni:0~1.00%、
Mo:0~1.00%、
V:0~0.20%、
Sn:0~0.10%、
Sb:0~0.02%、
Nb:0~0.10%、
Ti:0~0.10%、及び、
B:0~0.0040%、を含有し、
残部はFe及び不純物からなり、
前記エッジ部の表面から80μm深さ位置までの領域であるエッジ部表層領域において、Cr濃化領域の面積率が1.00%以下である。
【0022】
第2の構成の浸炭鋼部品は、
第1の構成の浸炭鋼部品であって、
前記芯部の化学組成は、質量%で、
Cu:0.01~0.50%、
Ni:0.01~1.00%、
Mo:0.01~1.00%、
V:0.01~0.20%、
Sn:0.01~0.10%、
Sb:0.01~0.02%、
Nb:0.01~0.10%、
Ti:0.01~0.10%、及び、
B:0.0001~0.0040%、からなる群から選択される1種以上を含有する。
【0023】
以下、本実施形態の浸炭鋼部品の製造方法、及び、浸炭鋼部品について説明する。
【0024】
[鋼素形材及び浸炭鋼部品の形状について]
初めに、浸炭鋼部品、及び、浸炭鋼部品の素材となる鋼素形材について説明する。
浸炭鋼部品は、浸炭硬化層と、芯部とを備える。浸炭硬化層は、浸炭鋼部品の表層に形成されている。芯部は、浸炭鋼部品のうち、浸炭硬化層よりも内部の部分である。芯部には、真空浸炭により浸炭鋼部品に導入された炭素が拡散されていない。したがって、芯部の化学組成は、鋼素形材の化学組成と同じである。
【0025】
図1は、浸炭鋼部品の一例を示す斜視図である。図1では、浸炭鋼部品100は、一例として円柱状の形状を有する。図2は、図1とは異なる浸炭鋼部品100の一例を示す斜視図である。図2に示す浸炭鋼部品100は、歯車を想定している。
【0026】
図1及び図2を参照して、浸炭鋼部品100はさらに、平坦部3及びエッジ部4を含む。平坦部3は浸炭鋼部品100のうち平坦な領域である。エッジ部4は浸炭鋼部品100のうちの角を含む領域である。
【0027】
ここで、本明細書において、平坦部3及びエッジ部4を次のとおり定義する。図1及び図2を参照して、浸炭鋼部品100の端面の辺2に注目する。辺2上における任意の位置に存在する点を、点Pcと定義する。そして、図1及び図2に示すように、点Pcを含み、辺2の点Pcでの接線と垂直な断面CSを想定する。
【0028】
図3は、図1及び図2中の断面CSの模式図である。図3を参照して、断面CSにおいて、浸炭鋼部品100の表面の任意の点XPから、表面の(点XPでの接線の)垂直方向に1.0mmの深さの仮想点Pを想定する。仮想点Pの集合体15を図3の破線で示す。仮想点Pを中心とする半径1.0mmの仮想円を想定する。この仮想球が浸炭鋼部品100の表面と接する(つまり、仮想円と断面CS上での浸炭鋼部品100の表面とが1点で交わる)場合、仮想点Pを点P1とする。点P1を中心とする仮想円と浸炭鋼部品100の表面との接点を点XP1とする。浸炭鋼部品100の表面のうち、点XP1で構成される領域を平坦部3と定義する。
【0029】
さらに、浸炭鋼部品100の表面のうち、平坦部3以外の部分、つまり、図3において、断面CS上の辺のうち、仮想円と接することがない領域を、エッジ部4と定義する。
【0030】
エッジ部4のうち、平坦部3との境界に近い領域ほど、過剰浸炭が発生しにくい。一方、エッジ部4のうち、平坦部3との境界から遠い領域(つまり、図3における点Pc近傍の領域)ほど、過剰浸炭が発生しやすい。
【0031】
なお、浸炭鋼部品100の素材である鋼素形材は、浸炭鋼部品100と同じ形状を有する。したがって、鋼素形材も、平坦部3及びエッジ部4を含む。鋼素形材における平坦部3及びエッジ部4の定義は、浸炭鋼部品100の平坦部3及びエッジ部4の定義と同じである。
【0032】
鋼素形材の化学組成、及び、浸炭鋼部品の芯部の化学組成は、特に限定されない。浸炭処理が実施される周知の化学組成を有する鋼素形材を用いれば足りる。鋼素形材の化学組成、及び、浸炭鋼部品100の芯部の化学組成は例えば、JIS G 4053:2018で規定された、機械構造用合金鋼鋼材に相当する化学組成であってもよい。鋼素形材の化学組成、及び、浸炭鋼部品100の芯部の化学組成は例えば、JIS G 4053:2018に規定された、SCr415、SCr420及びSCM415等である。
【0033】
[鋼素形材の化学組成の一例]
鋼素形材の化学組成、及び、浸炭鋼部品の芯部の化学組成は例えば、次の元素を含有してもよい。以降の説明において、元素の含有量に関する「%」は、質量%を意味する。
【0034】
C:0.10~0.25%
炭素(C)は、浸炭鋼部品の芯部硬さを高める。C含有量が低すぎれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。C含有量が低すぎればさらに、真空浸炭処理時に浸炭により上昇させるC濃度を高める必要が生じる。この場合、浸炭鋼部品のエッジ部で過剰浸炭が発生しやすくなる。
一方、C含有量が高すぎれば、浸炭鋼部品の芯部硬さが過剰に高くなる。この場合、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、浸炭鋼部品の靭性が低下する。
したがって、C含有量は0.10~0.25%である。
C含有量の好ましい下限は0.11%であり、さらに好ましくは0.12%であり、さらに好ましくは0.13%である。
C含有量の好ましい上限は0.24%であり、さらに好ましくは0.23%であり、さらに好ましくは0.22%である。
【0035】
Si:0.02~2.00%
珪素(Si)は、セメンタイトの析出を抑制して、過剰浸炭の発生を抑制する。Si含有量が少なすぎれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。
一方、Si含有量が高すぎれば、浸炭鋼部品の芯部に軟質なフェライトが生成する。この場合、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、芯部の硬さが低下する。
したがって、Si含有量は0.02~2.00%である。
Si含有量の好ましい下限は0.05%であり、さらに好ましくは0.08%であり、さらに好ましくは0.10%である。
Si含有量の好ましい上限1.80%であり、さらに好ましくは1.10%であり、さらに好ましくは0.50%である。
【0036】
Mn:0.30~2.50%
マンガン(Mn)は、焼入れ性を高め、浸炭鋼部品の硬さを高める。Mn含有量が低すぎれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。
一方、Mn含有量が高すぎれば、浸炭鋼部品に残留オーステナイトが過剰に残存する。この場合、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、浸炭鋼部品の硬さが低下する。
したがって、Mn含有量は0.30~2.50%である。
Mn含有量の好ましい下限は0.35%であり、さらに好ましくは0.40%であり、さらに好ましくは0.45%である。
Mn含有量の好ましい上限は2.20%であり、さらに好ましくは2.00%であり、さらに好ましくは1.50%である。
【0037】
P:0.030%以下
りん(P)は不純物である。Pは、粒界偏析して粒界を脆化させる。そのため、P含有量が高すぎれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、浸炭鋼部品の曲げ疲労強度及び面疲労強度が低下する。
したがって、P含有量は0.030%以下である。
P含有量はなるべく低い方が好ましい。しかしながら、P含有量の過度の低減は、製造コストを高める。したがって、通常の工業生産を考慮した場合、P含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.001%であり、さらに好ましくは0.003%であり、さらに好ましくは0.006%である。
P含有量の好ましい上限は0.025%であり、さらに好ましくは0.023%であり、さらに好ましくは0.020%である。
【0038】
S:0.060%以下
硫黄(S)は不純物である。Sは鋼材の被削性を高める。しかしながら、S含有量が高すぎれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、浸炭鋼部品の疲労強度(曲げ疲労強度及び面疲労強度)が低下する。
したがって、S含有量は0.060%以下である。
S含有量はなるべく低い方が好ましい。しかしながら、S含有量の過度の低減は、製造コストを高める。したがって、通常の工業生産を考慮した場合、S含有量の好ましい下限は0.001%であり、さらに好ましくは0.005%であり、さらに好ましくは0.010%である。
S含有量の好ましい上限は0.050%であり、さらに好ましくは0.040%であり、さらに好ましくは0.030%である。
【0039】
Cr:0.30~3.00%
クロム(Cr)は、鋼材の焼入れ性を高め、浸炭鋼部品の硬さを高める。Cr含有量が少なすぎれば、上記効果が十分に得られない。
一方、Cr含有量が高すぎれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、過剰浸炭が発生しやすい。
したがって、Cr含有量は0.30~3.00%である。
Cr含有量の好ましい下限は0.40%であり、さらに好ましくは0.50%であり、さらに好ましくは0.60%である。
Cr含有量の好ましい上限は2.70%であり、さらに好ましくは2.50%であり、さらに好ましくは2.00%である。
【0040】
Al:0.010~0.060%
アルミニウム(Al)は、Nと結合してAlNを形成して、結晶粒の粗大化を抑制する。そのため、浸炭鋼部品の疲労強度が高まる。Al含有量が少なすぎれば、上記効果が十分に得られない。
一方、Al含有量が高すぎれば、粗大な酸化物が過剰に生成する。この場合、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、浸炭鋼部品の疲労強度が低下する。
したがって、Al含有量は0.010~0.060%である。
Al含有量の好ましい下限は0.012%であり、さらに好ましくは0.015%であり、さらに好ましくは0.020%である。
Al含有量の好ましい上限は0.050%であり、さらに好ましくは0.040%であり、さらに好ましくは0.030%である。
【0041】
N:0.025%以下
窒素(N)は、Alと結合してAlNを形成し、結晶粒の粗大化を抑制する。そのため、浸炭鋼部品の疲労強度が高まる。Nが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、N含有量が高すぎれば、その効果が飽和する。
したがって、N含有量は0.025%以下である。
N含有量はなるべく低い方が好ましい。しかしながら、N含有量の過度の低減は製造コストを高める。したがって、通常の工業生産を考慮すれば、N含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.001%であり、さらに好ましくは0.005%であり、さらに好ましくは0.007%である。
N含有量の好ましい上限は0.023%であり、さらに好ましくは0.020%であり、さらに好ましくは0.015%であり、さらに好ましくは0.011%である。
【0042】
本実施形態の鋼素形材の化学組成の残部、及び、浸炭鋼部品の芯部の化学組成の残部は、Fe及び不純物からなる。ここで、不純物とは、鋼素形材及び浸炭鋼部品の素材である鋼材を工業的に製造する際に、原料としての鉱石、スクラップ、又は製造環境などから混入されるものであって、鋼素形材及び浸炭鋼部品の芯部に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
【0043】
[任意元素]
上述の浸炭鋼部品の芯部及び鋼素形材の化学組成はさらに、Feの一部に代えて、Cu:0~0.50%、Ni:0~1.00%、Mo:0~1.00%、V:0~0.20%、Sn:0~0.10%、Sb:0~0.02%、Nb:0~0.10%、Ti:0~0.10%、及びB:0~0.0040%、からなる群から選択される1種以上、を含有してもよい。これらの元素はいずれも任意元素である。
【0044】
Cu:0~0.50%
銅(Cu)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Cu含有量は0%であってもよい。
含有される場合、つまり、Cu含有量が0%超である場合、銅(Cu)は鋼材の焼入れ性を高め、浸炭鋼部品の硬さを高める。Cuが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。
しかしながら、Cu含有量が高すぎれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼素形材の素材となる鋼材の熱間加工性が低下する。
したがって、Cu含有量は0~0.50%であり、含有される場合、Cu含有量は0.50%以下である。
Cu含有量の好ましい下限は0.01%であり、さらに好ましくは0.03%であり、さらに好ましくは0.05%である。
Cu含有量の好ましい上限は0.45%であり、さらに好ましくは0.40%であり、さらに好ましくは0.35%であり、さらに好ましくは0.30%である。
【0045】
Ni:0~1.00%
ニッケル(Ni)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Ni含有量は0%であってもよい。
含有される場合、つまり、Ni含有量が0%超である場合、Niは浸炭鋼部品の靭性を高め、疲労強度を高める。Niが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。
しかしながら、Ni含有量が高すぎれば、その効果が飽和し、さらに、製造コストが高まる。
したがって、Ni含有量は0~1.00%であり、含有される場合、1.00%以下である。
Ni含有量の好ましい下限は0.01%であり、さらに好ましくは0.05%であり、さらに好ましくは0.10%である。
Ni含有量の好ましい上限は0.90%であり、さらに好ましくは0.80%であり、さらに好ましくは0.70%であり、さらに好ましくは0.60%であり、さらに好ましくは0.50%である。
【0046】
Mo:0~1.00%
モリブデン(Mo)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Mo含有量は0%であってもよい。
含有される場合、つまり、Mo含有量が0%超である場合、Moは浸炭鋼部品の靭性を高め、疲労強度を高める。Moが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。
しかしながら、Mo含有量が1.00%超であれば、その効果が飽和し、さらに、製造コストが高くなる。
したがって、Mo含有量は0~1.00%であり、含有される場合、1.00%以下である。
Mo含有量の好ましい下限は0.01%であり、さらに好ましくは0.02%であり、さらに好ましくは0.10%であり、さらに好ましくは0.25%である。
Mo含有量の好ましい上限は0.70%であり、さらに好ましくは0.50%であり、さらに好ましくは0.30%であり、さらに好ましくは0.25%である。
【0047】
V:0~0.20%
バナジウム(V)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、V含有量は0%であってもよい。
含有される場合、V含有量が0.20%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、過剰浸炭が発生する場合がある。
したがって、V含有量は0~0.20%である。
V含有量の好ましい下限は0.01%であり、さらに好ましくは0.03%であり、さらに好ましくは0.05%である。
Cr含有量の好ましい上限は0.16%であり、さらに好ましくは0.14%であり、さらに好ましくは0.12%である。
【0048】
Sn:0~0.10%
すず(Sn)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Sn含有量は0%であってもよい。Snはスクラップ等に含有される、いわゆるトランプエレメントである。Sn含有量が高すぎれば、Snが粒界に過度に偏析する。この場合、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、浸炭鋼部品が脆化し、疲労強度が低下する。
したがって、Sn含有量は0~0.10%であり、含有される場合、0.10%以下である。
Sn含有量の好ましい下限は0.01%であり、さらに好ましくは0.02%であり、さらに好ましくは0.03%である。
Sn含有量の好ましい上限は0.09%であり、さらに好ましくは0.08%であり、さらに好ましくは0.07%である。
【0049】
Sb:0~0.02%
アンチモン(Sb)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Sb含有量は0%であってもよい。
含有される場合、つまり、Sb含有量が0%超である場合、Sbは、熱間圧延工程又は熱間鍛造工程での粒界酸化及び表面割れを抑制する。Sbが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。
しかしながら、Sb含有量が高すぎれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、浸炭鋼部品の靭性が低下し、疲労強度が低下する。
したがって、Sb含有量は0~0.02%であり、含有される場合、0.02%以下である。
Sb含有量の好ましい上限は0.01%である。
【0050】
Nb:0~0.10%
ニオブ(Nb)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Nb含有量は0%であってもよい。
含有される場合、つまり、Nb含有量が0%超である場合、Nbは析出物を形成して、ピン止め効果により、結晶粒の粗大化を抑制する。これにより、浸炭鋼部品の靭性が高まり、疲労強度が高まる。Nbが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。
しかしながら、Nb含有量が高すぎれば、その効果が飽和する。
したがって、Nb含有量は0~0.10%であり、含有される場合、0.10%以下である。
Nb含有量の好ましい下限は0.01%であり、さらに好ましくは0.02%であり、さらに好ましくは0.03%である。
Nb含有量の好ましい上限は0.09%であり、さらに好ましくは0.07%であり、さらに好ましくは0.06%である。
【0051】
Ti:0~0.10%
チタン(Ti)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Ti含有量は0%であってもよい。
含有される場合、つまり、Ti含有量が0%超である場合、Tiは析出物を形成して、ピン止め効果により、結晶粒の粗大化を抑制する。これにより、浸炭鋼部品の靭性が高まり、疲労強度が高まる。Tiが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。
しかしながら、Ti含有量が高すぎれば、その効果が飽和する。
したがって、Ti含有量は0~0.10%であり、含有される場合、0.10%以下である。
Ti含有量の好ましい下限は0.01%であり、さらに好ましくは0.02%であり、さらに好ましくは0.03%である。
Ti含有量の好ましい上限は0.09%であり、さらに好ましくは0.08%であり、さらに好ましくは0.07%である。
【0052】
B:0~0.0040%
ボロン(B)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、B含有量は0%であってもよい。
含有される場合、つまり、B含有量が0%超である場合、Bは、粒界に偏析して粒界を強化し、浸炭鋼部品の疲労強度を高める。Bが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。
しかしながら、B含有量が0.0040%を超えれば、その効果が飽和する。
したがって、B含有量は0~0.0040%である。
B含有量の好ましい下限は0.0001%であり、さらに好ましくは0.0003%であり、さらに好ましくは0.0005%である。
B含有量の好ましい上限は0.0035%であり、さらに好ましくは0.0030%であり、さらに好ましくは0.0025%である。
【0053】
以下、上述の鋼素形材を用いた本実施形態の浸炭鋼部品の製造方法について詳述する。
【0054】
図4は、本実施形態の浸炭鋼部品の製造方法の工程を示すヒートパターン図である。図4を参照して、本実施形態の浸炭鋼部品の製造方法は、第1浸炭拡散工程(S1)と、第2浸炭拡散工程(S2)と、焼入れ工程(S3)とを含む。つまり、本実施形態の浸炭鋼部品の製造方法では、浸炭拡散工程を分割して2段階で実施した後、焼入れ工程を実施する。
【0055】
分割された2段階の浸炭拡散工程のうち、最初に実施する第1浸炭拡散工程では、所望の硬化深さに応じた炭素の侵入深さを確保するために、炭素の拡散速度が速い高温の浸炭温度で浸炭及び拡散を実施する。さらに、浸炭鋼部品のエッジ部にCr濃化領域が残存しないように、高温拡散期を実施して、平坦部の表面の炭素濃度を十分に低くする。一方、第1浸炭拡散工程後の第2浸炭拡散工程では、Crの拡散速度が遅い低温の浸炭温度で浸炭拡散処理を実施する。これにより、エッジ部での過剰浸炭を抑制する。
以下、本実施形態の浸炭鋼部品の製造方法の各工程について詳述する。
【0056】
[第1浸炭拡散工程(S1)]
図4を参照して、第1浸炭拡散工程(S1)は、加熱工程(S11)、高温均熱工程(S12)、及び、高温浸炭拡散工程(S13)を含む。
【0057】
[加熱工程(S11)]
加熱工程では、鋼素形材を真空浸炭炉内で高温浸炭温度T1に加熱する。具体的には、初めに、鋼素形材を真空浸炭炉に挿入する。鋼素形材は、第三者から提供されたものであってもよいし、真空浸炭処理を実施する者が製造したものであってもよい。準備される鋼素形材は熱間加工されて成形された鋼素形材であってもよいし、冷間加工されて成形された鋼素形材であってもよい。熱間加工は例えば、熱間圧延、熱間押出、熱間鍛造等である。冷間加工は例えば、冷間圧延、冷間抽伸、冷間鍛造等である。鋼素形材は、熱間加工又は冷間加工された後、切削加工に代表される機械加工を施されたものであってもよい。
【0058】
加熱工程(S11)では、真空浸炭炉内に鋼素形材を装入して、鋼素形材を高温浸炭温度T1(℃)まで加熱する。加熱工程での真空浸炭炉内の圧力は特に限定されない。好ましくは、真空浸炭炉内の圧力は100Pa以下である。この場合、鋼素形材に付着している油分等が除去されやすくなる。真空浸炭炉内に鋼素形材を装入する前に、鋼素形材の表面の油分等を十分に除去している場合、真空浸炭炉内の雰囲気を、100kPa以下の不活性ガス雰囲気としてもよい。ここで、不活性ガスとは、鋼素形材と反応しにくいガスである。不活性ガスは例えば、窒素、水素、ヘリウム、アルゴンからなる群から選択される1種以上からなる。真空浸炭炉内の雰囲気が不活性ガス雰囲気であれば、鋼素形材中の合金成分が酸化物を生成するのを抑制する。そのため、加熱工程での加熱速度を速くすることができる。
【0059】
[高温浸炭温度T1(℃)について]
高温浸炭温度T1(℃)は、930~1100℃の範囲とする。高温浸炭温度T1が低すぎれば、真空浸炭処理に必要な時間が長くなる。さらに、第1浸炭拡散工程において、鋼素形材のエッジ部で濃化したCrが十分に拡散せずにエッジ部に残存する場合がある。一方、高温浸炭温度T1(℃)が高すぎれば、真空浸炭処理に必要な時間は短くなるものの、結晶粒が粗大化して浸炭鋼部品の疲労強度が低下する。したがって、高温浸炭温度T1を930~1100℃とする。
高温浸炭温度T1の好ましい下限は940℃であり、さらに好ましくは950℃である。高温浸炭温度T1の好ましい上限は1080℃であり、さらに好ましくは1060℃である。
【0060】
[高温均熱工程(S12)]
高温均熱工程(S12)では、加熱工程後の鋼素形材を、高温浸炭温度T1(℃)で均熱する。高温浸炭温度T1での均熱時間(保持時間)は例えば10~240分である。高温均熱工程では、鋼素形材の温度ばらつきを抑制する。好ましくは、高温均熱工程において、鋼素形材の温度ばらつきを20℃以内に抑える。上述のとおり、高温浸炭温度T1での均熱時間を10~240分とすることにより、鋼素形材の温度ばらつきを20℃以内に抑えることができる。
【0061】
なお、高温均熱工程における真空浸炭炉内の圧力は、加熱工程と同じ範囲内でよい。好ましくは、高温均熱工程における真空浸炭炉内の圧力は100Pa以下である。この場合、鋼素形材に付着している油分等が除去されやすくなる。真空浸炭炉内に鋼素形材を装入する前に、鋼素形材の表面の油分等を十分に除去している場合、真空浸炭炉内の雰囲気を、100kPa以下の不活性ガス雰囲気としてもよい。
【0062】
[高温浸炭拡散工程(S13)]
高温均熱工程後、高温浸炭拡散工程(S13)を実施する。高温浸炭拡散工程では、高温浸炭期と高温拡散期とを交互に少なくとも1回以上実施する。以下、高温浸炭期及び高温拡散期について説明する。
【0063】
[高温浸炭期]
高温浸炭期では、浸炭ガスを真空浸炭炉内に供給しながら、鋼素形材を高温浸炭温度T1(℃)で保持する。高温浸炭期は、上述の真空下又は減圧下での炉内で浸炭ガスを供給する工程を意味する。つまり、高温均熱工程後、真空下又は減圧下の炉内に浸炭ガスの供給を開始した時が、高温浸炭期の開始時である。高温浸炭期では、浸炭ガス流量と真空ポンプによる排気速度によって炉内の圧力が変化する。
【0064】
浸炭ガス流量は鋼素形材での所望の炭素濃度分布や表面積、温度、鋼材の化学組成等に応じて適宜設定することが出来る。また、真空ポンプによる排気速度は、真空ポンプの能力や配管の内径、炉内圧力等によって調整される。高温浸炭期の炉内圧力は特に限定されない。好ましい炉内圧力は1.3kPa以下である。この場合、煤の発生が抑制される。浸炭ガスは例えば、アセチレン、メタン、プロパン、エタン等である。好ましくは、浸炭ガスはアセチレンである。
【0065】
高温浸炭期の時間は、鋼素形材での所望の炭素濃度分布、温度、鋼材の化学組成等に応じて適宜設定することができる。
【0066】
[高温拡散期]
高温拡散期では、真空浸炭炉内への浸炭ガスの供給を停止し、鋼素形材を高温浸炭温度T1(℃)で10Pa以下の真空又は100kPa以下の不活性ガス雰囲気で保持する。つまり、真空浸炭炉内への浸炭ガスの供給を停止したとき、高温浸炭期から高温拡散期に移行する。
【0067】
高温拡散期の炉内雰囲気が10Pa以下の真空であれば、鋼素形材の合金成分が酸化しにくい。また、高温拡散期の炉内雰囲気が100kPa以下の不活性ガス雰囲気であれば、鋼素形材の合金成分が、疲労強度の低下の要因となる酸化物及び窒化物を形成しにくい。したがって、高温拡散期の炉内雰囲気は、10Pa以下の真空、又は、100kPa以下の不活性ガス雰囲気とする。
【0068】
不活性ガス雰囲気は、真空ポンプによる排気と不活性ガスの導入をそれぞれ連続的又は断続的に行うことで保持できる。100Pa以上の不活性ガス雰囲気で連続的に排気を行うと炉内雰囲気を清浄にしやすい。また、真空ポンプで連続的に排気する場合、1000Paを超えると真空ポンプの負荷が大きくなる。したがって、高温拡散期の好ましい炉内雰囲気は、100Pa以上1000Pa以下の不活性ガス雰囲気である。
【0069】
なお、高温拡散工程での保持時間は、高温浸炭期後の鋼素形材の表層の目標とする炭素濃度分布に応じて適宜設定される。したがって、高温拡散期での保持時間は特に限定されない。
【0070】
[高温浸炭拡散工程での高温浸炭期と高温拡散期との交互実施]
高温浸炭拡散工程では、上述の高温浸炭期と高温拡散期とを交互に、少なくとも1回以上実施する。
【0071】
高温浸炭期と高温拡散期とを交互に実施する回数を増やせば、浸炭鋼部品のエッジ部での過剰浸炭を抑制しやすい。一方、高温浸炭期と高温拡散期とを交互に実施する回数が多くなれば、第1浸炭拡散工程の時間が長くなる。したがって、高温浸炭期及び高温拡散期の交互の繰り返し実施回数は、好ましくは3回以下であり、さらに好ましくは2回であり、さらに好ましくは1回である。
【0072】
[高温浸炭期及び高温拡散期の時間]
高温浸炭期の時間を長くすれば、鋼素形材の炭素の拡散深さが大きくなる。その結果、浸炭鋼部品での硬化深さが大きくなりやすい。一方、高温浸炭期の時間を長くすれば、鋼素形材の表層の炭素濃度が過度に高くなり、エッジ部に顕著なCr濃化領域が残存しやすくなる。
【0073】
高温拡散期の時間を長くすれば、鋼素形材の炭素の拡散深さが大きくなる。その結果、浸炭鋼部品での硬化深さが大きくなりやすい。さらに、拡散により表層の炭素濃度が低減し、エッジ部のCr濃化領域が残存し難くなる。
【0074】
[高温浸炭拡散工程での高温浸炭期と高温拡散期の時間設定について]
高温浸炭拡散工程での高温浸炭期の時間、及び、高温拡散期の時間は、後述の降温工程(S21)後であって、低温均熱工程(S22)前の鋼素形材の表面炭素濃度、及び、表面から所定深さ位置での炭素濃度が所望の値となるように適宜設定できる。表面から所定深さの表層領域は、芯部よりも高い硬さが必要となる領域である。表層領域が所定の硬さ以上となるのに必要な、所定深さ位置での炭素濃度は、事前に真空浸炭処理を実施して予め求めておくことができる。
【0075】
降温工程(S21)後であって、低温均熱工程(S22)前の鋼素形材の平坦部の表面の炭素濃度は、降温工程(S21)後であって、低温均熱工程(S22)前まで本実施形態と同じ工程を実施する真空浸炭試験を実施した後、焼入れを実施して、当該鋼素形材の平坦部の表面の炭素濃度を求めることにより、得ることができる。これにより、表層領域が所定の硬さ以上となるのに必要な、所定深さ位置での炭素濃度は、事前に浸炭処理を実施して予め求めることができる。なお、降温工程後の鋼素形材のエッジ部に過剰浸炭が発生しないように、高温浸炭期及び高温拡散期の時間を適宜設定する。
実際の真空浸炭試験に代えて、周知の拡散シミュレーションを実施して、降温工程(S21)後であって、低温均熱工程(S22)前の鋼素形材の平坦表層部の炭素濃度を求めることもできる。
【0076】
[第2浸炭拡散工程(S2)]
図4を参照して、第2浸炭拡散工程(S2)は、降温工程(S21)、低温均熱工程(S22)、及び、低温浸炭拡散工程(S23)を含む。
【0077】
[降温工程(S21)]
第1浸炭拡散工程後、降温工程(S21)では、真空浸炭炉内で鋼素形材の温度を高温浸炭温度T1(℃)から低温浸炭温度T2(℃)に降温する。降温工程での真空浸炭炉内の圧力は特に限定されない。好ましくは、真空浸炭炉内の圧力を100Pa以下の真空にするか、真空浸炭炉内の雰囲気を、100kPa以下の不活性ガス雰囲気とする。降温工程での冷却速度(降温速度)は特に限定されない。冷却速度を小さくすれば、低温均熱工程を短くすることができる。
【0078】
[低温浸炭温度T2について]
低温浸炭温度T2は、800~880℃とする。低温浸炭温度T2が低ければ、浸炭処理に必要な時間が長くなる。さらに、第2浸炭拡散工程において、浸炭鋼部品の芯部にフェライトが生成して、浸炭鋼部品の疲労強度が低下する場合がある。一方、低温浸炭温度T2が高すぎれば、浸炭鋼部品のエッジ部に顕著なCr濃化領域が生成する場合がある。したがって、低温浸炭温度T2は800~880℃である。
低温浸炭温度T2の好ましい下限は810℃であり、さらに好ましくは820℃であり、さらに好ましくは830℃である。
低温浸炭温度T2の好ましい上限は870℃であり、さらに好ましくは860℃であり、さらに好ましくは850℃である。
【0079】
[低温均熱工程(S22)]
低温均熱工程(S22)では、降温工程後の鋼素形材を、低温浸炭温度T2(℃)で均熱する。低温浸炭温度T2(℃)での均熱時間(保持時間)は炉温が低温浸炭温度T2の10℃以内になってからの時間である。均熱時間は例えば3~30分である。なお、鋼素形材の温度が低温浸炭温度T2の10℃以内になった時点は、シミュレーション及び実機での事前試験により求めることができる。
低温均熱工程では、鋼素形材の温度ばらつきを抑制する。低温均熱工程での均熱時間が適切であれば、鋼素形材の温度ばらつきが小さい。そのため、後述の低温浸炭拡散工程での炭素の侵入挙動及び拡散挙動のばらつきが抑制される。例えば、鋼素形材のうち、相対的に温度が高い領域では表層の炭素濃度が高くなり、相対的に温度が低い領域では表層の炭素濃度が低くなる。その結果、表層の炭素濃度が高い領域にCr濃化領域が生成しやすい。低温均熱工程では、このような炭素濃度のばらつきを抑制する。低温均熱工程後の鋼素形材の温度ばらつきは好ましくは3℃以内である。低温浸炭温度T2での均熱時間を3~30分とすれば、低温均熱工程後の鋼素形材の温度ばらつきが10℃以内になる。
【0080】
なお、低温均熱工程における真空浸炭炉内の圧力は、降温工程と同じ範囲内でよい。好ましくは、低温均熱工程における真空浸炭炉内の圧力を100Pa以下にする、又は、真空浸炭炉内の雰囲気を、100kPa以下の不活性ガス雰囲気とする。
【0081】
[低温浸炭拡散工程(S23)]
低温均熱工程後、低温浸炭拡散工程(S23)を実施する。低温浸炭拡散工程では、低温浸炭期と低温拡散期とを交互に少なくとも1回以上実施する。以下、低温浸炭期及び低温拡散期について説明する。
【0082】
[低温浸炭期]
低温浸炭期では、浸炭ガスを真空浸炭炉内に供給しながら、鋼素形材を低温浸炭温度T2(℃)で保持する。低温浸炭期は、上述の真空下又は減圧下での炉内で浸炭ガスを供給する工程を意味する。つまり、低温均熱工程後、真空下又は減圧下の炉内に浸炭ガスの供給を開始した時が、低温浸炭期の開始時である。低温浸炭期では、浸炭ガス流量と真空ポンプによる排気速度によって炉内の圧力が変化する。
【0083】
浸炭ガス流量は鋼素形材での所望の炭素濃度分布や表面積、温度、鋼材の化学組成等に応じて適宜設定することが出来る。また、真空ポンプによる排気速度は、真空ポンプの能力や配管の内径、炉内圧力などによって調整される。高温浸炭期の炉内圧力は特に限定されない。好ましい炉内圧力は0.2kPa以下である。この場合、煤の発生が抑制される。
【0084】
低温浸炭期の保持時間は、鋼素形材での所望の炭素濃度分布、温度、鋼材の化学組成等に応じて適宜設定することができる。
【0085】
[低温拡散期]
低温拡散期では、真空浸炭炉内への浸炭ガスの供給を停止し、鋼素形材を低温浸炭温度T2(℃)で10Pa以下の真空又は100kPa以下の不活性ガス雰囲気で保持する。つまり、真空浸炭炉内への浸炭ガスの供給を停止したとき、低温浸炭期から低温拡散期に移行する。
【0086】
低温拡散期の炉内雰囲気が10Pa以下の真空であれば、鋼素形材の合金成分が酸化しにくい。また、低温拡散期の炉内雰囲気が100kPa以下の不活性ガス雰囲気であれば、鋼素形材の合金成分が、疲労強度低下の要因となる酸化物及び窒化物を形成しにくい。したがって、低温拡散期の炉内雰囲気は、10Pa以下の真空、又は、100kPa以下の不活性ガス雰囲気で保持する。
【0087】
不活性ガス雰囲気は、真空ポンプによる排気と不活性ガスの導入をそれぞれ連続的又は断続的に行うことで保持できる。100Pa以上の不活性ガス雰囲気で連続的に排気を行うと炉内雰囲気を清浄にしやすい。また、真空ポンプで連続的に排気する場合、1000Paを超えると真空ポンプの負荷が大きくなる。したがって、低温拡散期の好ましい炉内雰囲気は、100Pa以上1000Pa以下の不活性ガス雰囲気である。
【0088】
なお、低温拡散工程での保持時間は、低温浸炭期後の鋼素形材の表層の目標とする炭素濃度分布に応じて適宜設定される。したがって、低温拡散期での保持時間は特に限定されない。
【0089】
[低温浸炭拡散工程での低温浸炭期と低温拡散期との交互実施]
低温浸炭拡散工程では、上述の低温浸炭期と低温拡散期とを交互に、少なくとも1回以上実施する。
【0090】
低温浸炭期と低温拡散期とを交互に実施する回数を増やせば、浸炭鋼部品の表層の炭素濃度のばらつきが小さくなる。一方、低温浸炭期と低温拡散期とを交互に実施する回数が多くなれば、第2浸炭拡散工程の時間が長くなる。この場合、浸炭鋼部品のエッジ部において顕著なCr濃化領域が残存する場合がある。したがって、低温浸炭期及び低温拡散期の交互の繰り返し実施回数は、好ましくは2回以下であり、さらに好ましくは1回である。
【0091】
低温浸炭拡散工程において低温浸炭期と低温拡散期とを交互に繰り返し複数回実施する場合、低温拡散期において、800~880℃に加熱してもよい。好ましくは最後の低温拡散期に加熱を実施する。この場合、Cr濃化領域が拡散しやすく、消滅しやすい。当該加熱は低温拡散期の初期に実施してもよいし、低温拡散期の途中で実施してもよい。
【0092】
[低温浸炭拡散工程での低温浸炭期と低温拡散期の時間設定について]
低温浸炭拡散工程での低温浸炭期の時間、及び、低温拡散期の時間は、浸炭鋼部品の表面炭素濃度、及び、表面から所定深さ位置での炭素濃度が所望の値となるように適宜設定できる。表層領域が所定の硬さ以上となるのに必要な、所定深さ位置での炭素濃度は、事前に真空浸炭処理を実施して予め求めておくことができる。
【0093】
[低温浸炭拡散工程の処理時間について]
低温浸炭拡散工程の処理時間は特に限定されない。好ましくは、低温浸炭拡散工程の処理時間P2は、高温浸炭拡散工程の処理時間P1の0.03倍以上0.30倍以下である。つまり、P2/P1は0.03~0.30である。P2/P1が0.03以上であれば、炭素濃度のばらつきがさらに低減できる。また、P2/P1が0.30以下であれば、Cr濃化領域をより低減できる。
【0094】
[焼入れ工程(S3)]
第2浸炭拡散工程を実施した後、焼入れ工程(S3)を実施する。
焼入れ工程では、低温浸炭拡散工程後、真空浸炭炉内から鋼素形材を抽出する。そして、抽出した鋼素形材を、冷媒を用いて速やかに300℃以下まで急冷(焼入れ)する。これにより、C濃度が高まった鋼素形材の表層がマルテンサイトに変態し、浸炭硬化層を形成する。
【0095】
焼入れ工程は、真空浸炭処理において周知の工程である。焼入れ工程では、周知の冷媒を用いればよい。周知の冷媒は例えば、ガス、水、油等である。つまり、焼入れ工程での急冷方法は例えば、ガス冷、水冷、油冷等である。
【0096】
焼入れ前に急冷せずに緩冷却を行った後、高周波誘導加熱を行い、水焼入れを実施してもよい。この場合、高周波誘導加熱により、急冷(焼入れ)前の鋼素形材のオーステナイト粒径を小さくできる。その結果、浸炭鋼部品の強度を高めることができる。また、高周波誘導加熱前に緩冷却すれば、熱処理ひずみを小さくできる。高周波誘導加熱前の緩冷却での好ましい冷却速度は1.0℃/s以下である。
【0097】
[降温工程後の鋼素形材の表層の炭素濃度と、焼入れ工程後の鋼素形材の表層の炭素濃度とについて]
上述の真空浸炭処理では、降温工程後(であって低温均熱工程前)の鋼素形材の平坦部の炭素濃度Cs21(質量%)が、焼入れ工程後の鋼素形材の平坦部の炭素濃度Cs3(質量%)に対して0.08%以上低い。つまり、炭素濃度Cs21と炭素濃度Cs3との差分ΔCは、次式(1)が成立する。
ΔC=Cs3-Cs21≧0.08 (1)
【0098】
ΔCが0.08以上であれば、浸炭鋼部品のエッジ部の過剰浸炭が抑制される。そのため、ΔCを0.08以上とする。
【0099】
ΔCの好ましい下限は0.09であり、さらに好ましくは0.10であり、さらに好ましくは0.11である。
ΔCが0.50を超える場合、第1浸炭拡散工程の時間が過度に長くなる。そのため、ΔCの好ましい上限は0.50である。
【0100】
[差分ΔCの測定方法]
差分ΔCは次の方法により測定できる。
製造された浸炭鋼部品の平坦部において、表面から0.05mm深さ位置までの切粉を旋削加工により採取する。採取した切粉を用いて、周知の高周波燃焼法(燃焼-赤外線吸収法)により、炭素濃度(質量%)を求める。得られた炭素濃度を、炭素濃度CS3(質量%)とする。
【0101】
さらに、製造された浸炭鋼部品と同じ化学組成の鋼素形材を用いて、同じ製造条件で第1浸炭拡散工程(S1)及び降温工程(S21)を実施した鋼素形材を、降温工程終了後に焼入れする。焼入れ後の鋼素形材の表面から0.05mm深さ位置までの切粉を旋削加工により採取する。採取した切粉を用いて、採取された切粉を酸に溶解させて溶液を得る。溶液に対して、周知の高周波燃焼法(燃焼-赤外線吸収法)により、炭素濃度(質量%)を求める。得られた炭素濃度を、炭素濃度CS21(質量%)とする。
【0102】
得られた炭素濃度Cs21(質量%)及び炭素濃度Cs3(質量%)に基づいて、差分ΔCを求める。
【0103】
[差分ΔCの調整方法]
例えば、高温浸炭拡散工程及び低温浸炭拡散工程の時間を調整することにより、式(1)を満たすようにすることができる。具体的には、例えば、高温拡散期の時間を高温浸炭期の時間よりも長く設定して、降温工程後の鋼素形材の平坦部の炭素濃度を低くする。さらに、低温浸炭期及び低温拡散期の時間を短くして、低温浸炭拡散工程後の鋼素形材の平坦部の炭素濃度を高める。これにより、差分ΔCを0.08以上に調整できる。
【0104】
[焼入れ工程(S3)後の工程]
本実施形態の浸炭鋼部品の製造方法は、焼入れ工程(S3)後に、周知の焼戻し工程を実施してもよい。焼戻し工程での焼戻し温度は例えば、150~250℃である。焼戻し温度での保持時間は例えば、0.5時間~4.0時間である。
【0105】
以上のとおり、本実施形態の浸炭鋼部品の製造方法では、第1浸炭拡散工程及び第2浸炭拡散工程の2段階に分割された浸炭拡散工程を実施する。これにより、浸炭鋼部品のエッジ部における過剰浸炭を十分に抑制することができる。
【0106】
[本実施の浸炭鋼部品の製造方法で製造された浸炭鋼部品について]
上述の製造方法で製造された浸炭鋼部品は、図1図3に示すとおり、平坦部とエッジ部とを含む。浸炭鋼部品はまた、表層に形成されている浸炭硬化層と、浸炭硬化層よりも内部の芯部とを含む。
【0107】
浸炭硬化層は周知の組織である。浸炭硬化層は主としてマルテンサイト及び残留オーステナイトからなる。浸炭鋼部品の表面に対して垂直な方向の断面をミクロ組織観察した場合、当業者であれば、浸炭硬化層と芯部とを容易に区別可能である。
【0108】
浸炭鋼部品ではさらに、エッジ部の表面から80μm深さ位置までの領域であるエッジ部表層領域において、Cr濃化領域の面積率が1.00%以下である。
【0109】
[Cr濃化領域の面積率の測定方法]
ここで、Cr濃化領域の面積率は次の方法で測定できる。
具体的には、上述の図1図3に示す断面CSを観察面とする試験片を採取する。試験片を樹脂に埋め込み、観察面を研磨する。観察面のエッジ部のうち、表面から80μm深さまでの領域であるエッジ部表層領域において、エッジ部の表面の長さの中央位置(図3では点Pc)を特定する。特定された中央位置を中心とした幅250μm、深さ80μmの領域50を、測定領域50とする。
【0110】
FE-EPMAを用いて、測定領域50を含む測定領域50よりも広い領域に対して元素分析を実施して、測定領域50のCr濃度(質量%)の分布を求める。EPMAの測定では、加速電圧:15kV、照射電流:50nA、ビーム径0.5μmとして、特性X線の波長分散分光により、測定領域50全体を、0.5μm間隔で上下左右に測定する。分析対象元素をCrとする。Cr濃度が既知の物質を用いてCrのX線強度とCr濃度との関係を予め検量線として求めておく。上述の測定領域50の全ての測定点で得られたX線強度と上述の検量線とから、各測定点でのCr濃度(質量%)を求める。
【0111】
測定領域50のうち、芯部のCr含有量の1.6倍以上のCr濃度を有する領域をCr濃化領域と特定する。測定領域50の面積と、Cr濃化領域の総面積とに基づいて、Cr濃化領域の面積率(%)を求める。なお、評価対象とした測定領域50の総面積を12800~35000μmの範囲内とする。つまり、1又は複数の測定領域50を用いて、測定領域50の総面積が12800~35000μmとなるようにする。
【0112】
なお、EPMA分析計として、例えば、日本電子データム社製の電子線マイクロプローブX線分析計(Electron Probe X-ray Micro Analyzer:EPMA、商品名「JXA-8230」)を用いることができる。
【0113】
Cr濃化領域の面積率が1.00%以下であれば、エッジ部表層領域でのCr濃化領域が十分に少ない。そのため、当該浸炭鋼部品では、エッジ部での過剰浸炭が十分に抑制されている。
Cr濃化領域の面積率の好ましい上限は0.80%であり、さらに好ましくは0.60%であり、さらに好ましくは0.50%であり、さらに好ましくは0.45%である。
【実施例0114】
表1(表1A及び表1B)に示す化学組成を有する棒鋼を準備した。準備した棒鋼に対して、切削加工及び研削加工を施して、直径26mm、長さ100mmの丸棒を製造した。各丸棒は、図1に示す形状であり、端面に角部の角度が90°であるエッジ部を有した。
【0115】
【表1A】
【0116】
【表1B】
【0117】
各試験番号の丸棒に対して、表2(表2A~表2C)に示す条件の真空浸炭処理及び焼入れ処理を実施した。
【0118】
【表2A】
【0119】
【表2B】
【0120】
【表2C】
【0121】
具体的には、各試験番号の丸棒を、10Pa以下に減圧した真空浸炭炉内で、表2Aに示す高温浸炭温度T1(℃)まで真空排気しながら加熱した。加熱した丸棒に対して、高温浸炭温度T1(℃)で60分間均熱した。試験番号1では真空排気しながら窒素を間欠的に導入し、圧力を100~150Paに制御した。試験番号2~48では、窒素を導入せずに真空排気し、真空浸炭炉内の圧力は10Pa以下であった。
【0122】
均熱後、真空浸炭炉内に、浸炭ガスとして、アセチレンガスを導入した。均熱後の丸棒に対して、表2Aに示す高温浸炭温度T1(℃)で高温浸炭拡散工程を実施した。高温浸炭期と高温拡散期の時間(分)はそれぞれ、表2Aに示すとおりであった。表2Aの「高温浸炭拡散繰返し数」には、高温浸炭期と高温拡散期の交互の繰り返し実施数を示す。
【0123】
高温浸炭期における浸炭ガス圧は1kPa以下であった。試験番号1では高温拡散期に真空排気しながら窒素を間欠的に導入し、圧力を100~150Paに制御した。試験番号2~48における高温拡散期の圧力は10Pa以下であった。
【0124】
高温浸炭拡散工程後、表2Bに示す低温浸炭温度T2(℃)まで降温した。降温工程の処理時間は20分以上であった。その後、低温浸炭温度T2で10分均熱した。試験番号1では真空排気しながら窒素を間欠的に導入し、圧力を100~150Paに制御した。試験番号2~48では、窒素を導入せずに真空排気し、均熱後半における圧力は10Pa以下であった。
【0125】
均熱後、真空浸炭炉内に、浸炭ガスとして、アセチレンガスを導入した。均熱後の丸棒に対して、表2Bに示す低温浸炭温度T2(℃)で低温浸炭拡散工程を実施した。低温浸炭期と低温拡散期の時間(分)はそれぞれ、表2Bに示すとおりであった。表2Bの「低温浸炭拡散繰返し数」には、低温浸炭期と低温拡散期の交互の繰り返し実施数を示す。
【0126】
低温浸炭期における浸炭ガス圧は1kPa以下であった。試験番号1では低温拡散期に真空排気しながら窒素を間欠的に導入し、圧力を100~150Paに制御した。試験番号2~46における低温拡散期の圧力は10Pa以下であった。試験番号47では、低温拡散期を省略した。試験番号48については、第2浸炭拡散工程を実施しなかった。つまり、試験番号48では、従来の真空浸炭処理を実施した。
【0127】
第2浸炭拡散工程後、丸棒に対して、120℃の焼入れ油を用いて油焼入れを実施した。焼入れ後、丸棒に対して、焼戻しを実施した。焼戻し温度は180℃、焼戻し温度での保持時間は2時間であった。以上の工程により、各試験番号の浸炭鋼部品を製造した。
【0128】
なお、各試験番号の浸炭鋼部品を製造した工程とは別に、表2Aの条件で第1浸炭拡散工程を実施した後、上述と同じ条件で降温工程を実施し、その後、低温均熱工程及び低温浸炭拡散工程を実施せずに、上述と同じ条件の焼入れ及び焼戻しを実施した、各試験番号の鋼素形材(以下、中間鋼素形材という)を製造した。
【0129】
[評価試験]
製造された各試験番号の浸炭鋼部品及び鋼素形材を用いて、次の評価試験を実施した。
(試験1)差分ΔC測定試験
(試験2)エッジ部のCr濃化領域面積測定試験
(試験3)粗大セメンタイト確認試験
以下、試験1~試験3について説明する。
【0130】
[(試験1)差分ΔC測定試験]
各試験番号の浸炭鋼部品及び中間鋼素形材を用いて、上述の[差分ΔCの測定方法]の記載の方法に基づいて、各試験番号の差分ΔCを求めた。得られた差分ΔCを表2Cに示す。
【0131】
[(試験2)エッジ部のCr濃化領域面積測定試験]
各試験番号の浸炭鋼部品を用いて、上述の[Cr濃化領域の面積率の測定方法]に記載の方法に準拠して、エッジ部のCr濃化領域の面積率を測定した。得られたCr濃化領域の面積率(%)を表2Cに示す。
【0132】
[(試験3)粗大セメンタイト確認試験]
各試験番号の浸炭鋼部品のエッジ部における粗大セメンタイト確認試験を以下の方法で実施した。
【0133】
図1に示す円柱状の浸炭鋼部品から、断面CSを観察面とする試験片を採取した。断面CSは、2mm×2mm以上とした。試験片を樹脂に埋め込んだ後、断面CSを鏡面研磨した。鏡面研磨後の断面CSを3%ナイタール液でエッチングして、ミクロ組織を現出させた。走査電子顕微鏡(SEM)を用いて、1000倍の倍率で、断面CSのうち、浸炭鋼部品の表面から80μm深さまでの領域であるエッジ部表層領域(図3中の測定領域50に相当)を観察して、エッジ部表層領域中に最大長さが5.0μmを超えるセメンタイトの有無を観察した。
【0134】
表2Cの「粗大セメンタイト有無」欄に結果を示す。「有」はエッジ部表層領域に最大長さが5.0μmを超えるセメンタイトが1つ以上観察されたことを意味する。「無」は、エッジ部表層領域に最大長さが5.0μmを超えるセメンタイトが観察されなかったことを意味する。
【0135】
[評価結果]
表1及び表2を参照して、試験番号1~42の浸炭鋼部品の製造方法は適切であった。そのため、浸炭鋼部品のエッジ部でのCr濃化領域の面積率が1.00%以下であった。その結果、浸炭鋼部品のエッジ部に粗大なセメンタイトが観察されず、過剰浸炭の発生が十分に抑制された。
【0136】
一方、試験番号43では、高温浸炭温度T1が低すぎた。そのため、浸炭鋼部品のエッジ部でのCr濃化領域の面積率が1.00%を超えた。その結果、浸炭鋼部品のエッジ部に粗大なセメンタイトが観察され、過剰浸炭の発生が十分に抑制できなかった。
【0137】
試験番号44では、低温浸炭温度T2が低すぎた。そのため、浸炭鋼部品のエッジ部でのCr濃化領域の面積率が1.00%を超えた。その結果、浸炭鋼部品のエッジ部に粗大なセメンタイトが観察され、過剰浸炭の発生が十分に抑制できなかった。
【0138】
試験番号45では、低温浸炭温度T2が高すぎた。そのため、浸炭鋼部品のエッジ部でのCr濃化領域の面積率が1.00%を超えた。その結果、浸炭鋼部品のエッジ部に粗大なセメンタイトが観察され、過剰浸炭の発生が十分に抑制できなかった。
【0139】
試験番号46では、ΔCが0.08未満であった。そのため、浸炭鋼部品のエッジ部でのCr濃化領域の面積率が1.00%を超えた。その結果、浸炭鋼部品のエッジ部に粗大なセメンタイトが観察され、過剰浸炭の発生が十分に抑制できなかった。
【0140】
試験番号47では、第2浸炭拡散工程での低温浸炭拡散工程の低温拡散期を実施しなかった。そのため、浸炭鋼部品のエッジ部でのCr濃化領域の面積率が1.00%を超えた。その結果、浸炭鋼部品のエッジ部に粗大なセメンタイトが観察され、過剰浸炭の発生が十分に抑制できなかった。
【0141】
試験番号48では、第2浸炭拡散工程を実施しなかった。そのため、浸炭鋼部品のエッジ部でのCr濃化領域の面積率が1.00%を超えた。その結果、浸炭鋼部品のエッジ部に粗大なセメンタイトが観察され、過剰浸炭の発生が十分に抑制できなかった。
【0142】
以上、本開示の実施の形態を説明した。しかしながら、上述した実施の形態は本開示を実施するための例示に過ぎない。したがって、本開示は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変更して実施することができる。
図1
図2
図3
図4