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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025163605
(43)【公開日】2025-10-29
(54)【発明の名称】乗用型苗植機
(51)【国際特許分類】
   A01B 69/00 20060101AFI20251022BHJP
【FI】
A01B69/00 303V
A01B69/00 303M
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024067039
(22)【出願日】2024-04-17
(71)【出願人】
【識別番号】000000125
【氏名又は名称】井関農機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003834
【氏名又は名称】弁理士法人新大阪国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石山 和宏
(72)【発明者】
【氏名】荒井 毅
【テーマコード(参考)】
2B043
【Fターム(参考)】
2B043AB16
2B043BA02
2B043BA09
2B043BB06
2B043DA01
2B043DA04
2B043EA03
2B043EA12
2B043EB05
2B043EB10
2B043EB15
2B043EC12
2B043ED12
2B043EE05
2B043EE06
(57)【要約】
【課題】作業車両は、走行経路を算出し、GNSSにて自車位置を算出しながら走行経路に沿った自動走行を行なう。然しながら、圃場毎に自動走行を行うためのティーチングと作業による走行を行なうことで圃場が荒れる問題や圃場毎のティーチング作業が煩雑であるという課題がある。そこで、圃場の荒れを減らしティーチング作業を簡略化した乗用型苗植機を提供する。
【解決手段】制御装置が畦A1~A3にて区切られた複数の圃場F1~F6の内周部を走行するティーチング工程にて圃場情報を取得して自律走行で苗植作業を行なう自律走行経路を算出する際に、傾斜センサ37が所定角度以上に前上がりになった後に前下がりになった前後傾斜を検知した場所を畦A1~A3と認識して畦越え地点として登録し、対向する畦越え地点をつないだラインを畦A1~A3として登録する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行車体(2)に苗植付部(4)を装着し、衛星測位システム、制御装置(25)及び機体の前後傾斜を検出する傾斜センサ(37)を設けた乗用型苗植機において、制御装置(25)が畦(A1~A3)にて区切られた複数の圃場(F1~F6)の内周部を走行するティーチング工程にて圃場情報を取得して自律走行で苗植作業を行なう自律走行経路を算出する際に、傾斜センサ(37)が所定角度以上に前上がりになった後に前下がりになった前後傾斜を検知した場所を畦(A1~A3)と認識して畦越え地点として登録し、対向する畦越え地点をつないだラインを畦(A1~A3)として登録することを特徴とする乗用型苗植機。
【請求項2】
圃場(F1~F6)のティーチング工程の2辺目で畦越え地点を登録しない場合は3辺目のティーチング工程終了時に自動モードに移行可で、ティーチング工程の2辺目で畦越え地点を登録した場合は3辺目のティーチング工程終了時に自動モードに移行不可で4辺目のティーチング工程終了時に自動モードに移行可とし、3辺目のティーチング工程終了時に自動モードの移行可否を報知することを特徴とする請求項1記載の乗用型苗植機。
【請求項3】
自動モードで自律走行経路を進行中に畦(A1~A3)に近づくと減速しデフロック機構を作動させ、畦(A1~A3)直前で停止し苗植付部(4)を上昇し自動モードから手動モードに切り換え、畦越え終了後に苗植付部(4)を下降し苗植付部(4)の駆動を開始し手動モードから自動モードに切り換えデフロック機構のデフロックを解除することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の乗用型苗植機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行車体に苗植付部を装着した乗用型苗植機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動走行により作業を行なう作業車両(作業機)は、走行経路を算出し、GNSS等にて自車位置を算出しながら走行経路に沿った自動走行を行なう(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-116608号公報
【特許文献2】特開2019-154394号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
圃場毎に自動走行を行うためのティーチングと作業による走行を行なうことで圃場が荒れる問題や圃場毎のティーチング作業が煩雑であるという課題がある。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、圃場の荒れを減らしティーチング作業を簡略化した乗用型苗植機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の発明は、走行車体2に苗植付部4を装着し、衛星測位システム、制御装置25及び機体の前後傾斜を検出する傾斜センサ37を設けた乗用型苗植機において、制御装置25が畦A1~A3にて区切られた複数の圃場F1~F6の内周部を走行するティーチング工程にて圃場情報を取得して自律走行で苗植作業を行なう自律走行経路を算出する際に、傾斜センサ37が所定角度以上に前上がりになった後に前下がりになった前後傾斜を検知した場所を畦A1~A3と認識して畦越え地点として登録し、対向する畦越え地点をつないだラインを畦A1~A3として登録する乗用型苗植機である。
【0007】
請求項1記載の発明によれば、畦A1~A3にて区切られた複数の圃場F1~F6の内周部を走行するティーチング工程にて圃場情報を取得して自律走行で苗植作業を行なう自律走行経路を算出するので、複数の圃場F1~F6毎にティーチング工程を行なう場合に比して、圃場F1~F6の荒れを減らすことができ、また、ティーチング作業を簡略化して作業効率が良くなる。
【0008】
また、傾斜センサ37が所定角度以上に前上がりになった後に前下がりになった前後傾斜を検知した場所を畦A1~A3と認識して畦越え地点として登録し、対向する畦越え地点をつないだラインを畦A1~A3として登録するので、傾斜センサ37にて適切に畦A1~A3を認識して登録することができる。
【0009】
請求項2記載の発明は、圃場F1~F6のティーチング工程の2辺目で畦越え地点を登録しない場合は3辺目のティーチング工程終了時に自動モードに移行可で、ティーチング工程の2辺目で畦越え地点を登録した場合は3辺目のティーチング工程終了時に自動モードに移行不可で4辺目のティーチング工程終了時に自動モードに移行可とし、3辺目のティーチング工程終了時に自動モードの移行可否を報知する請求項1記載の乗用型苗植機である。
【0010】
請求項3記載の発明は、自動モードで自律走行経路を進行中に畦A1~A3に近づくと減速しデフロック機構を作動させ、畦A1~A3直前で停止し苗植付部4を上昇し自動モードから手動モードに切り換え、畦越え終了後に苗植付部4を下降し苗植付部4の駆動を開始し手動モードから自動モードに切り換えデフロック機構のデフロックを解除する請求項1または請求項2に記載の乗用型苗植機である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明における実施の形態の乗用型田植機の側面図である。
図2】本発明における実施の形態の乗用型田植機の作用説明図である。
図3】本発明における実施の形態の乗用型田植機の作用説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の乗用型苗植機の一例である施肥装置を装着した乗用型田植機1について図面を参照しながら詳細に説明する。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、あるいは実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の骨子を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
【0013】
図1は、実施形態に係る乗用型苗植機としての乗用型田植機1を示す側面図である。なお、以下においては、乗用型田植機1を8条植としており、乗用型田植機1を指して機体と記す場合がある。また、実施形態中、前後、左右の方向を規定するに際し、運転席31からみて走行車体2の走行方向を基準とする。
【0014】
図1に示すように、乗用型田植機1は、走行車体2の後側に昇降リンク機構3を介して苗植付部4が昇降可能に装着され、走行車体2の後部上側には施肥装置60の本体部分が設けられる。
【0015】
走行車体2は、駆動輪である左右一対の前輪10および左右一対の後輪11を走行輪として備える四輪駆動車両である。機体の前部にはミッションケース12が配置され、そのミッションケース12の左右側方に、走行伝動ケースとしての前輪ファイナルケース13が設けられる。そして、かかる左右の前輪ファイナルケース13からそれぞれ外向きに突出する左右の前車軸に前輪10がそれぞれ取り付けられている。
【0016】
左右前輪10及び左右後輪11は、それぞれ前輪デフ装置及び後輪デフ装置を介して差動回転自在に構成され、且つ、前輪デフ装置及び後輪デフ装置には各々電磁ソレノイドで作動する前輪デフロック機構及び後輪デフロック機構が設けられ、同一回転可能に設けられている。
【0017】
また、左右前輪10の左右前車軸部には、進行中の機体下方位置の土壌(泥土)に突入する電極としての円板状の左右電極板15aにて進行工程(現工程)の肥沃度を測定する肥沃度センサ15が設けられている。
【0018】
従って、肥沃度センサ15の一対の左右電極板15aに電気を流すと、一対の左右電極板15a間の土壌(泥土)に含有される肥料濃度によって電気抵抗が変化するので、電気抵抗の変化がその地点の肥料濃度の信号として制御装置としてのコントローラ25へ送られ、田植及び施肥作業を行なっている現工程の圃場F(F1~F6)の肥沃度が検出できる。なお、電気抵抗は、肥料濃度が高い、即ち電解質が多い状態では電気が流れやすいので低くなり、肥料濃度が低い、即ち電解質が少ない状態では電気が流れにくいので高くなる。
【0019】
ミッションケース12の背面部には、メインフレーム18の前端部が固着されており、メインフレーム18の後部の左右両側には後輪ギアケース19が設けられ、後輪ギアケース19からそれぞれ外向きに突出する左右の後車軸に後輪11が各々取り付けられている。
【0020】
また、車体前部には、エンジン20が搭載される。かかるエンジン20の回転動力が、ベルト伝動装置および油圧無段変速装置(HST)21を介してミッションケース12に伝達される。ミッションケース12に伝達された回転動力は、ミッションケース12内のトランスミッションにより変速された後、走行動力と外部取出動力に分離して取り出される。
【0021】
ミッションケース12に伝達された回転動力から分離して取り出される外部取出動力は、走行車体2の後部に設けた植付クラッチケースに伝達される。そして、かかる植付クラッチケースから植付伝動軸によって苗植付部4へ伝達される。
【0022】
走行車体2の中央上部には、運転席31が設置される。運転席31の前方には各種操作機構を備えるボンネット32が設けられ、その上部に前輪10を操舵する操縦ハンドル34が設けられる。
【0023】
また、ボンネット32には、油圧無段変速装置(HST)21を中立位置から前進側と後進側に増減速する操作する主変速レバーと、走行車体2の走行伝動を圃場F内で作業をする際の「作業速」と路上を移動する際の「移動速」に切り替える副変速切替レバーが設けられている。
【0024】
主変速レバーは、作業者の手動操作以外に、コントローラ25の指示により作動するステッピングモータにて自動操作される。
【0025】
即ち、コントローラ25の指示によりステッピングモータが作動して主変速レバーを前進側または後進側の操作位置から中立位置に戻して機体を停止させると共に、中立位置から前進側または後進側の所定の操作位置にして機体を進行させる。
【0026】
機体の前端部で左右中央位置に基部が固定されたフロントマスト33の上部には、衛星測位システムであるGNSS制御装置を構成するGNSS受信アンテナ(以下、単に受信アンテナと記す場合がある)81が搭載されている。受信アンテナ81の受信信号は、コントローラ25へ送られる。
【0027】
コントローラ25は、前輪デフロック機構及び後輪デフロック機構を作動させる電磁ソレノイド、主変速レバーを自動操作するステッピングモータや施肥装置60の動作等を制御する制御装置であり、ボンネット32の内部に収納される。なお、コントローラ25は、例えばCPU、ROMおよびRAMを有し、ROMに記憶されたプログラムを実行することにより、乗用型田植機1の各部を制御する。
【0028】
また、運転席31下方の機体左右中心位置には、機体の前後傾斜及び左右傾斜を検出する傾斜センサ37が設けられており、該傾斜センサ37の機体の前後傾斜角度及び左右傾斜角度の検出値がコントローラ25に送られる。
【0029】
ボンネット32の下部における左右両側及び後方は、略水平なフロアステップ35が形成されている。フロアステップ35は、一部格子状になっており、フロアステップ35を歩く作業者の靴についた泥が圃場Fに落下する構成となっている。
【0030】
走行車体2の後部に連結される苗植付部4を昇降させる昇降リンク機構3は、平行リンク構成であって、1本の上リンク39と左右一対の下リンク40を備える。上リンク39および下リンク40は、それらの基部側がメインフレーム18の後端部に立設した背面視門形のリンクベースフレーム41に回動自在に取り付けられ、先端側には縦リンク42が連結されている。そして、縦リンク42の下端部に、苗植付部4に回転自在に支承された連結軸が挿入連結され、連結軸を中心として苗植付部4がローリング自在に連結される。
【0031】
メインフレーム18に設けたシリンダ支持部材と上リンク39に一体形成したスイングアームの先端部との間に昇降油圧シリンダ46が設けられる。かかる昇降油圧シリンダ46を油圧で伸縮させることにより、上リンク39が上下に回動し、苗植付部4がほぼ一定姿勢を保持したまま昇降する。
【0032】
苗植付部4は、前述したように8条植の構成であり、フレームを兼ねる植付伝動ケース47と、苗載せ台51と、植付装置52等を備えている。
【0033】
苗載せ台51は、マット状土付き苗を載せて左右往復動し苗を一株分ずつ各条の苗取出口に供給するとともに、横一列分の苗を全て苗取出口に供給すると、苗送りベルトにより苗を下方に移送する。
【0034】
植付装置52は、苗取出口に供給された苗を苗植付具52aによって圃場Fに植付ける。なお、苗植付具52aは、1条に付き2つ設けられ、回転ケース52bに装着されて交互に苗を取って圃場Fに植え付けることができる。
【0035】
また、苗植付部4の下部には、中央のセンターフロート53と、左右のサイドフロート54が各々回動可能に設けられる。これらフロート53,54を圃場Fの泥面に接地させた状態で機体を進行させると、フロート53,54が泥面を整地しつつ滑走し、その整地跡に植付装置52により苗が植え付けられる。
【0036】
センターフロート53には、圃場深さの変化によるセンターフロート53の回動量を検出するフロートセンサが設けられる。かかるフロートセンサが角度変化を検出すると、コントローラ25は、圃場Fの深さが変化したと判断し、検出された角度に合わせて苗植付部4の高さが適切な高さとなるように昇降油圧シリンダ46を伸縮させ、苗植付部4の作業高さを自動的に調節する。
【0037】
そして、フロートセンサの検出値は、センターフロート53が圃場面に略水平姿勢で接地するときを0度としている。そして、検出値が仰角方向(上方)であるときは、コントローラ25は、圃場深さが浅くなり、苗植付部4と圃場面の間隔が狭くなったと判断し、昇降油圧シリンダ46を収縮させて苗植付部4を上昇させ、苗の植付深さが深くなり過ぎることを防止する。一方、検出値が俯角方向(下方)であるときは、コントローラ25は、圃場深さが深くなり、苗植付部4と圃場面の間隔が広くなったと判断し、昇降油圧シリンダ46を伸張させて苗植付部4を下降させ、苗の植付深さが浅くなり過ぎることを防止する。
【0038】
また、コントローラ25は、上記のフロートセンサの検出値や手動による上下作動操作以外に、後述の所定の条件を満たした時に自動的に電磁昇降バルブを切り換えて昇降油圧シリンダ46を伸縮させて苗植付部4を上下作動させる。
【0039】
また、ボンネット32後部上面に設けた操作パネルには、圃場情報を取得するティーチングモードとコントローラ25の自動制御により算出された進路に沿って自律走行して田植作業を行なう自動モードと作業者の手動操作によって田植作業を行なう手動モードに切り換える自動切り換えダイヤル38を設けている。
【0040】
施肥装置60は、左側肥料ホッパ60Lと右側肥料ホッパ60Rに一定の隙間を空けて分離された肥料ホッパと、繰出部61と、施肥ホース62と、施肥ガイド63と、エアダクト68とを備える。
【0041】
左右側肥料ホッパ60L,60Rは、それぞれ4条分が共用であり、上部に開閉可能な蓋が取り付けられる。左右側肥料ホッパ60L,60Rの下部は施肥条数分(4条分)に分岐して漏斗状の流下部を形成しており、この流下部の下部が各繰出部61の上端に接続される。
【0042】
肥料を施肥ホース62に移動させる搬送風が通過するエアダクト68の左端部はエア切替管を介して、ブロア用電動モータで駆動するブロアに接続されている。そして、ブロアからのエアがエアダクト68を経由し接続管から繰出部61の吐出口を通過する際に、肥料を巻き込みながら施肥ホース62側に吹き込まれる構成としている。
【0043】
そして、肥料ホッパ60L,60Rに貯留されている粒状の肥料を、各苗植付条毎に設けられている繰出部61によって一定量ずつ繰り出すようにしている。繰り出した肥料は、施肥ホース62でセンターフロート53及びサイドフロート54に取り付けた施肥ガイド63まで導かれる。そして、施肥ガイド63の前側に設けた作溝体64により苗植付条の側部近傍に形成される施肥溝内に落とし込むことができる。
【0044】
繰出部61は、右側肥料ホッパ60R(あるいは左側肥料ホッパ60L)に収容された肥料を下方に繰り出す2個の第1繰出ロールおよび第2繰出ロールを内蔵している。第1および第2繰出ロール7は、外周部に溝状の凹部が形成された回転体で、左右方向に設けた共通の繰出軸にそれぞれ一体回転する構成で嵌合する。
【0045】
そして、第1繰出ロールおよび第2繰出ロールが回転することにより、左側肥料ホッパ60L(又は、右側肥料ホッパ60R)から落下供給される肥料が凹部に収容されて下方に繰り出される。第1繰出ロールおよび第2繰出ロールにより繰り出された肥料は、下端の吐出口から吐出される。繰出部61の吐出口には、前端部がエアダクト68の背面部に前後方向に挿入連結されて、後端部が繰出部61の吐出口に連通する接続管(図示省略)が接続される。
【0046】
また、左側肥料ホッパ60Lの左右方向の中央部付近の下方には、施肥量調節装置として、正逆自在に高速回転する施肥量調節モータが配置されている。かかる施肥量調節モータは、運転席31の右側後方に間隔を空けて配置される。
【0047】
また、後輪ギアケース19に設ける施肥伝動出力軸から繰出軸を回転駆動する施肥伝動機構に伝動することにより、後輪11への駆動力を用いて施肥装置60を作動させることができる。
【0048】
ところで、施肥量調節モータには、ボールネジを回転可能に設け、このボールネジの表面に形成された螺旋形状の溝に螺合して高速で機体前後方向に移動するボールナットを設け、該ボールナットの前後移動で繰出軸の回転数を変化させて肥料の繰出し量調節が行なえる。
【0049】
施肥量調節モータを取付けたモータステーには、回転センサが設けられている。
【0050】
回転センサは、施肥量調節モータの回転数及び回転角度を検出する。
【0051】
回転センサは、回転数及び回転角度の検出値をコントローラ25に送る。コントローラ25は、該回転数及び回転角度の検出値からボールネジの回転数及び回転角度を計算し、施肥量を計算する。
【0052】
左右側肥料ホッパ60L,60Rの後側下部には、排出通路から排出された肥料を機体側方の排出口に移動させる排出ダクトが左右方向に配置される。排出ダクトの一側端部はブロアに接続されており、前述の作業切替レバーを施肥側に操作するとエアダクト68に搬送風が吹き込まれ、排出側に操作すると排出ダクトに搬送風が吹き込まれる。
【0053】
かかる構成により、作業切替レバーを排出側に操作して各条の切替シャッタを開くと、肥料が各排出通路を通じて排出ダクトに移動し、排出ダクト内に吹き込む搬送風により肥料が排出口に運ばれて排出される。なお、排出口には回収用の袋やバケツを臨ませておくが、吹き出される肥料の拡散を抑えるために、細かい網目の排出ホースなどを設けておくと、肥料の散らばりが防止され、肥料の回収量が増加する。
【0054】
次に、乗用型田植機1の制御系について説明する。
【0055】
コントローラ25は、CPU等を有する処理部、ROMやRAM等の記憶部、さらには入出力部が設けられ、これらは互いに接続されて互いに信号の受け渡しが可能である。記憶部には、乗用型田植機1を制御するコンピュータプログラムが格納される。
【0056】
コントローラ25には、モータ等のアクチュエータ類や、各部の情報を取得するセンサ類等が接続される。
【0057】
例えば、コントローラ25には、アクチュエータ類として、前輪デフロック機構及び後輪デフロック機構を作動させる電磁ソレノイド、主変速レバーを自動操作するステッピングモータ、施肥量を調節するための施肥量調節モータ、エンジン20の吸気量を調節するスロットルを作動させることにより、エンジン20の回転数を増減させるスロットルモータ、さらには苗植付部4を昇降させる昇降油圧シリンダ46への給排油を切り替える電磁昇降バルブなどが接続される。
【0058】
また、コントローラ25に接続されるセンサ類としては、傾斜センサ37、肥沃度センサ15、回転センサ、フロートセンサ、リンクセンサ、植付深さ調節位置センサ等が接続される。
【0059】
回転センサは、施肥量調節モータの回転数及び回転角度を検出する。
【0060】
フロートセンサは、センターフロート53前部の回動量を検出する。
【0061】
リンクセンサは、昇降リンク機構3の上下作動位置を検出する。
【0062】
植付深さ調節位置センサは、センターフロート53及び左右のサイドフロート54の上下設定位置を検出する。
【0063】
傾斜センサ37は、走行車体2の前後傾斜及び左右傾斜を検出する。
【0064】
田植作業時に苗植付部4を下降させてセンターフロート53が接地したことをフロートセンサが検出すると、リンクセンサが昇降リンク機構3の上下作動位置を検出して、コントローラ25が苗植付部4の耕盤からの高さ、即ち、耕盤深さを算出する。その時に、植付深さ調節位置センサのセンターフロート53及び左右のサイドフロート54の上下設定位置から耕盤深さを補正して算出する。
【0065】
そして、コントローラ25は、算出された耕盤深さが所定値内及び所定値よりも深い場合、肥沃度センサ15により取得した土壌(泥土)の肥料濃度に基づいて施肥量調節モータを作動させて施肥量を自動調節する。
【0066】
また、算出された耕盤深さが所定値よりも浅い場合は、肥沃度センサ15により取得した土壌(泥土)の肥料濃度に基づいた施肥量よりも所定量少ない施肥量になるように施肥量調節モータを作動させて施肥量を自動調節する。
【0067】
コントローラ25は、傾斜センサ37が検出した走行車体2の左右傾斜に応じて、ローリング電動モータを作動させて苗植付部4を左右水平になるようにローリング制御し、前後傾斜の検出により後述のように機体が畦Aを越えたことを検出する。
【0068】
また、乗用型田植機1は、コントローラ25に接続されるGNSS制御装置を備える。
【0069】
GNSS制御装置は、GNSSを用いることにより乗用型田植機1の位置情報、あるいは座標情報を取得することができ、GNSS制御装置で取得した位置情報は、コントローラ25に伝達する。GNSS制御装置は、このようにGNSSを用いることにより乗用型田植機1の位置情報を取得するため、GNSSで使用される人工衛星からの信号を受信する受信アンテナ81を有する。
【0070】
次に、図2に示すように、畦A1,A2,A3を越えて複数の圃場F1,F2,F3,F4,F5,F6を連続して田植作業を行なう場合の自動制御について説明する。
【0071】
先ず、圃場F1,F2,F3,F4,F5,F6の周囲を手動操作で走行して圃場F1,F2,F3,F4,F5,F6の圃場情報を取得する(ティーチング工程)。
【0072】
作業者は、乗用型田植機1を圃場F1のスタート位置Sに位置させて自動切り換えダイヤル38をティーチングモードに操作する。
【0073】
すると、コントローラ25は、GNSS制御装置が取得した乗用型田植機1のスタート位置Sの位置情報を記憶する。
【0074】
そして、ティーチング工程の1辺目(図2の圃場F1,F2,F3の上辺)に沿って乗用型田植機1を前進させるとGNSS制御装置が乗用型田植機1の位置情報を順次取得し、コントローラ25が圃場F1,F2,F3の上辺の位置情報を記憶して圃場形状(圃場位置情報)を算出する。
【0075】
その際に、乗用型田植機1が圃場F1と圃場F2間の畦A1及び圃場F2と圃場F3間の畦A2をのり越えて移動すると、傾斜センサ37は、機体の所定角度以上の大きな前後傾斜角度(所定角度以上前上がりになった後に前下がりになる前後傾斜)を検出する。
【0076】
すると、コントローラ25は、該所定角度以上の大きな前後傾斜の検出により検出した場所を畦A1,A2と認識し、畦越え地点として登録する。
【0077】
次に、ティーチング工程の2辺目(図2の圃場F3,F4の左辺)に沿って乗用型田植機1を前進させるとGNSS制御装置が乗用型田植機1の位置情報を順次取得し、コントローラ25が圃場F3,F4の左辺の位置情報を記憶して圃場形状(圃場位置情報)を算出する。
【0078】
その際に、乗用型田植機1が圃場F3と圃場F4間の畦A3をのり越えて移動すると、傾斜センサ37は、機体の所定角度以上の大きな前後傾斜角度(所定角度以上前上がりになった後に前下がりになる前後傾斜)を検出する。
【0079】
すると、コントローラ25は、該所定角度以上の大きな前後傾斜の検出により検出した場所を畦A3と認識し、畦越え地点として登録する。
【0080】
次に、ティーチング工程の3辺目(図2の圃場F4,F5,F6の下辺)に沿って乗用型田植機1を前進させるとGNSS制御装置が乗用型田植機1の位置情報を順次取得し、コントローラ25が圃場F4,F5,F6の下辺の位置情報を記憶して圃場形状(圃場位置情報)を算出する。
【0081】
その際に、乗用型田植機1が圃場F4と圃場F5間の畦A2及び圃場F5と圃場F6間の畦A1をのり越えて移動すると、傾斜センサ37は、機体の所定角度以上の大きな前後傾斜角度(所定角度以上前上がりになった後に前下がりになる前後傾斜)を検出する。
【0082】
すると、コントローラ25は、該所定角度以上の大きな前後傾斜の検出により検出した場所を畦A2,A1と認識し、畦越え地点として登録する。
【0083】
そこで、コントローラ25は、圃場F1,F2,F3の上辺(1辺目)で登録した一番目の畦越え地点と圃場F4,F5,F6の下辺で登録した二番目の畦越え地点を結んで畦A1と登録し、圃場F1,F2,F3の上辺(1辺目)で登録した二番目の畦越え地点と圃場F4,F5,F6の下辺で登録した一番目の畦越え地点を結んで畦A2と登録する。
【0084】
次に、ティーチング工程の4辺目(図2の圃場F6,F1の右辺)に沿って乗用型田植機1を前進させるとGNSS制御装置が乗用型田植機1の位置情報を順次取得し、コントローラ25が圃場F6,F1の右辺の位置情報を記憶して圃場形状(圃場位置情報)を算出する。
【0085】
その際に、乗用型田植機1が圃場F6と圃場F1間の畦A3をのり越えて移動すると、傾斜センサ37は、機体の所定角度以上の大きな前後傾斜角度(所定角度以上前上がりになった後に前下がりになる前後傾斜)を検出する。
【0086】
すると、コントローラ25は、該所定角度以上の大きな前後傾斜の検出により検出した場所を畦A3と認識し、畦越え地点として登録する。
【0087】
そこで、コントローラ25は、圃場F3,F4の左辺(2辺目)で登録した一番目の畦越え地点と圃場F6,F1の右辺で登録した一番目の畦越え地点を結んで畦A3と登録する。
【0088】
そして、乗用型田植機1がスタート位置Sに到達すると、コントローラ25は、圃場F1,F2,F3,F4,F5,F6の圃場情報を算出した結果として圃場形状(圃場位置情報)及び畦A1,A2,A3の位置情報から自律走行で往復して田植作業を行なう自律走行経路を算出して登録すると共に、自律走行して田植作業を行なう自動モードに切り換えることをモニタ又は/及び音声報知で作業者に知らせる(例えば、自動モードに切り換えていい場合に相当するので、「自動往復工程を始めてください」と作業者に知らせる)。
【0089】
なお、ティーチング工程の3辺目(図3の圃場F3,F2,F1の下辺)終了時には、自動モードに切り換えてはいけない場合に相当するので、モニタ又は/及び音声報知で「ティーチングしてください」と作業者に知らせる。
【0090】
そこで、作業者が自動切り換えダイヤル38を自律走行して田植作業を行なう自動モードに操作すると、コントローラ25は、GNSS制御装置にて自車位置を算出しながら乗用型田植機1を上記算出した自律走行経路に沿って進行させて田植作業及び施肥作業を行なう。
【0091】
そして、自律走行経路に沿って進行させて田植作業及び施肥作業を行なう際に、コントローラ25は、GNSS制御装置が算出する自車の位置情報と登録した畦A1,A2,A3の位置情報から乗用型田植機1が畦A1,A2,A3に接近した判断すると、ステッピングモータを作動させて主変速レバーを減速位置に自動操作して進行速度を減速し、電磁ソレノイドを作動して前輪デフロック機構及び後輪デフロック機構をデフロック作動させ、畦A1,A2,A3直前に達したと判断すると、ステッピングモータを作動させて主変速レバーを中立位置に自動操作して機体を停止し、苗植付部4及び施肥装置60の駆動を停止し、電磁昇降バルブを切り換えて昇降油圧シリンダ46を伸長させて苗植付部4を上動し、自動モードから手動モードに切り換える。
【0092】
そこで、作業者は、手動操作にて畦A1,A2,A3をのり越える。
【0093】
そして、コントローラ25は、傾斜センサ37の機体前後傾斜の検出にて畦越えが終了したことを認識すると、電磁昇降バルブを切り換えて昇降油圧シリンダ46を縮小させて苗植付部4を植付け位置まで下動して自動昇降制御状態とし、苗植付部4及び施肥装置60の駆動を開始し、電磁ソレノイドを作動して前輪デフロック機構及び後輪デフロック機構をデフロック解除し、手動モードから自動モードに切り換えて引き続き乗用型田植機1を自律走行経路に沿って進行させて田植作業及び施肥作業を行なう。
【0094】
なお、コントローラ25は、畦越え終了後の車速が畦越え前に設定していた車速よりも遅い場合は、ステッピングモータを作動させて主変速レバーを増速位置に自動操作して徐々に加速して設定していた車速にする。
【0095】
そして、コントローラ25は、ティーチング工程の2辺目に畦A3がある場合は、畦A3までの残り条数を算出し、畦A3の畦際を田植えする前の工程で畦クラッチを作動させて畦際では全条植えできるようにする。なお、その畦A3畦際での全条植えの走行は、畦A3と平行に走行して田植作業及び施肥作業を行なう。
【0096】
また、図3に示すように、圃場F1、圃場F2及び圃場F3のように直列した圃場のみの場合、コントローラ25は、ティーチング工程の2辺目(図3の圃場F3の左辺)に畦を認識せず畦越え地点を登録していないので、ティーチング工程の3辺目(図3の圃場F3,F2,F1の下辺)終了時に、圃場F1,F2,F3の圃場情報を算出した結果として圃場形状(圃場位置情報)及び畦A1,A2の位置情報から自律走行で往復して田植作業を行なう自律走行経路を算出して登録すると共に、自動モードに切り換えていい場合に相当するので、自律走行して田植作業を行なう自動モードに切り換えることをモニタ又は/及び音声報知で「自動往復工程を始めてください」と作業者に知らせる。
【0097】
そこで、作業者が自動切り換えダイヤル38を自律走行して田植作業を行なう自動モードに操作すると、コントローラ25は、GNSS制御装置にて自車位置を算出しながら乗用型田植機1を算出した自律走行経路に沿って進行させて田植作業及び施肥作業を行なう。
【符号の説明】
【0098】
2 走行車体
4 苗植付部
25 制御装置(コントローラ)
37 傾斜センサ
A1~A3 畦
F1~F6 圃場
図1
図2
図3