(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025016367
(43)【公開日】2025-01-31
(54)【発明の名称】ダブルペロブスカイト材料とその製造方法、および可逆的プロトンセラミック電気化学電池
(51)【国際特許分類】
C01G 51/00 20250101AFI20250124BHJP
H01M 4/86 20060101ALI20250124BHJP
H01M 4/88 20060101ALI20250124BHJP
H01M 8/1246 20160101ALI20250124BHJP
C04B 35/01 20060101ALI20250124BHJP
H01M 8/12 20160101ALN20250124BHJP
【FI】
C01G51/00 A
H01M4/86 T
H01M4/88 T
H01M8/1246
C04B35/01
H01M8/12 101
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024113691
(22)【出願日】2024-07-16
(31)【優先権主張番号】2023109027140
(32)【優先日】2023-07-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】524269538
【氏名又は名称】紫金鉱業新能源新材料科技(長沙)有限公司
(71)【出願人】
【識別番号】512000569
【氏名又は名称】華南理工大学
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(74)【代理人】
【識別番号】100215142
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 徹
(72)【発明者】
【氏名】劉 瑛
(72)【発明者】
【氏名】陳 宇
(72)【発明者】
【氏名】許 陽森
【テーマコード(参考)】
4G048
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
4G048AA04
4G048AA05
4G048AB02
4G048AC06
4G048AD03
4G048AD08
4G048AE07
4G048AE08
5H018AA06
5H018AS02
5H018AS03
5H018BB01
5H018BB12
5H018EE13
5H018HH03
5H018HH05
5H018HH08
5H018HH10
5H126AA06
5H126BB06
5H126GG13
(57)【要約】 (修正有)
【課題】可逆的プロトンセラミック電気化学電池の分野に関与し、特に、ダブルペロブスカイト材料とその製造方法、および可逆的プロトンセラミック電気化学電池を提供する。
【解決手段】ダブルペロブスカイト材料の一般式は、PrBa
0.9Cs
0.1Co
2O
6-δであり、ここで、δは酸素空孔含有量である。本発明は、前記ダブルペロブスカイト材料の製造方法及び前記ダブルペロブスカイト材料を含む可逆的プロトンセラミック電気化学電池をさらに提供する。本発明が提供するCs
+がドープされたダブルペロブスカイト材料は、良好な安定性、比較的に低い分極インピーダンスおよび比較的に高いORR/OER活性を有する。本発明が提供する可逆的プロトンセラミック電気化学電池は、良好な安定性、電気触媒活性および電気化学的性能を有する。
【選択図】
図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式が、PrBa1-xCsxCo2O6-δであり、ここで、δが酸素空孔含有量である
ことを特徴とする、ダブルペロブスカイト材料。
【請求項2】
xの値の範囲が、0.01~0.15であり、好ましくは、xの値の範囲が0.05~0.125である
ことを特徴とする、請求項1に記載のダブルペロブスカイト材料。
【請求項3】
前記ダブルペロブスカイト材料が、正方層状のペロブスカイト構造であり、好ましくは、格子定数について、aが3.9045±0.1Åであり、bが3.9045±0.1Åであり、cが7.6572±0.1Åである
ことを特徴とする、請求項1に記載のダブルペロブスカイト材料。
【請求項4】
一般式が、PrBa0.9Cs0.1Co2O6-δである
ことを特徴とする、請求項1に記載のダブルペロブスカイト材料。
【請求項5】
(1)硝酸プラセオジム、硝酸バリウム、硝酸セシウムおよび硝酸コバルトを水に溶解し、混合液を得た後、前記混合液、エチレンジアミン四酢酸、クエン酸およびアンモンニア水を混合し、pHを7~8に調整して、混合溶液を得るステップ、および
(2)前記混合溶液をゲル状になるまで加熱し、200~250℃で高温処理を行い、前駆体を得、前記前駆体を焼成するステップ
を含むことを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載のダブルペロブスカイト材料の製造方法。
【請求項6】
ステップ(1)において、金属元素、エチレンジアミン四酢酸、クエン酸のモル比が0.5~1.5:0.5~1.5:1~2であり、ここで、前記金属元素がPr、Ba、CsおよびCoの合計である
ことを特徴とする、請求項5に記載のダブルペロブスカイト材料の製造方法。
【請求項7】
ステップ(2)において、前記混合溶液の加熱温度が80~100℃であり、及び/または、前記高温処理の時間が2~6時間であり、及び/または、前記焼成の温度が950~1050℃であり、前記焼成の時間が2~4時間である
ことを特徴とする、請求項5に記載のダブルペロブスカイト材料の製造方法。
【請求項8】
可逆的プロトンセラミック電気化学電池におけるダブルペロブスカイト材料の空気電極としての使用である
ことを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載のダブルペロブスカイト材料の使用。
【請求項9】
順次に接続された陽極支持層、電解質および空気電極を含み、前記空気電極が、請求項1~4のいずれか一項に記載のダブルペロブスカイト材料によって製造されたものである
ことを特徴とする、可逆的プロトンセラミック電気化学電池。
【請求項10】
前記電解質の材料に、BaZr0.1Ce0.7Y0.1Yb0.1O3-δを含み、ここで、δが酸素空孔含有量であり、及び/または
前記陽極支持層の材料に、NiOとBaZr0.1Ce0.7Y0.1Yb0.1O3-δを含み、ここで、NiOとBaZr0.1Ce0.7Y0.1Yb0.1O3-δの質量比が5.5~6.5:3.5~4.5であり、及び/または
前記可逆的プロトンセラミック電気化学電池が遷移層をさらに含み、前記遷移層が前記陽極支持層と前記電解質との間に設けられ、好ましくは、前記遷移層に、NiOとBaZr0.1Ce0.7Y0.1Yb0.1O3-δを含み、ここで、NiOとBaZr0.1Ce0.7Y0.1Yb0.1O3-δの質量比が5.5~6.5:3.5~4.5である
ことを特徴とする、請求項9に記載の可逆的プロトンセラミック電気化学電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可逆的プロトンセラミック電気化学電池の分野に関するものであり、特に、ダブルペロブスカイト材料とその製造方法、および可逆的プロトンセラミック電気化学電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
化石燃料貯蔵の有限性および温室ガス排出の激化により、目下のエネルギーと環境の危機を緩和するために、クリーンで汚染のないエネルギー変換装置を見つけることが強く求められている。可逆的プロトンセラミック電気化学電池(R-PCEC;reversible proton ceramic electrochemical cell)技術を、目下の問題を解決するための有効な手段の一つとすることができ、可逆的プロトンセラミック電気化学電池が燃料電池モードで動作する場合、化学エネルギーを電気エネルギーに変換することができ、そして、電解モードで動作する場合、電気エネルギーを化学エネルギーに変換することができる。また、プロトン伝導体電解質に基づくR-PCECは比較的に高いプロトン伝導度を有するため、中低温(400~700℃)で動作できる。R-PCECの比較的に低い動作温度は電池自身の寿命を延ばすことにとって有利であるだけでなく、製造コストの削減にも有利である。しかしながら、R-PCECの動作温度の低下につれ、空気電極の反応動力学も遅くなり、R-PCECの電気化学的性能が著しく低下する。従って、酸素還元反応(ORR)/酸素発生反応(OER)に高い触媒活性を有し、かつ中低温で動作する条件下において十分な化学的安定性を有する空気電極材料を設計することは、R-PCECが直面する最も重大な課題の一つである。
【0003】
近年、研究者等は、多くの空気電極材料を設計したが、そのほとんどはR-PCECにおいて中程度の電気化学的性能を示すものである。ダブルペロブスカイト材料であるPrBaCo2O6-δ(PBC)は、優れる電気伝導率、酸素イオン伝導率、優れる酸素表面交換係数、及び酸素イオン拡散動力学を有し、固体酸化物燃料電池(SOFC)の空気電極として、優れる電気化学的性能を示す。セシウム(Cs)は、ペロブスカイト太陽電池材料の設計に用いられることがあるが、これは、Csのドープにより、材料の結晶構造の熱安定性と耐湿性を高められるからである。密度汎関数理論(DFT)の計算によれば、Csをドープした後に空気電極のORR活性が向上する主な原因は、ルイス酸強度のAサイトとBサイトでの分極分布による電子対のシフトであり、これにより、酸化物の酸素空孔形成エネルギーがさらに低下する。現在、AサイトのCsのドープによって設計される空気電極のR-PCECへの応用に関する報告はあまりない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の課題を解決するために、本発明は、ダブルペロブスカイト材料とその製造方法、及び可逆的プロトンセラミック電気化学電池を提供する。本発明が提供する(低ルイス酸強度のカチオンCs+がドープされた)ダブルペロブスカイト材料は、良好な電気化学的安定性、比較的に低い分極インピーダンス、及び比較的に高いORR/OER活性を有するものである。本発明は、上記の低ルイス酸強度のカチオンCs+がドープされたダブルペロブスカイト材料の製造方法をさらに提供する。前記ダブルペロブスカイト材料に基づいて、本発明は、優れる電気化学的性能を有するとともに良好な安定性を示す可逆的プロトンセラミック電気化学電池をさらに提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
具体的には、第1の態様において、本発明はダブルペロブスカイト材料を提供し、前記ダブルペロブスカイト材料の一般式は、PrBa1-xCsxCo2O6-δであり、ここで、δは酸素空孔含有量である。
【0006】
本発明によれば、酸度が比較的に低いAサイトドーパントをドープする場合、ペロブスカイト酸化物の水和能力の向上に有利である。また、燃料電池の空気電極において、AサイトカチオンドーパントとしてCsを適用し、空気電極の酸化還元反応の動力学とドープされたイオンのルイス酸強度とは密接に関連する。Cs+をAサイトドーパントとする場合、AサイトイオンとBサイトイオンのルイス酸強度の分極分布による電子対のシフトのため、酸化物における酸素空孔含有量が向上し、電極表面の酸素交換動力学を改善して酸化還元反応プロセスを加速することに有利である。従って、Cs+のドープにより、空気電極の触媒活性を効果的に向上させ、さらにR-PCECの中低温における電気化学的性能を向上させることができ、そして、ダブルペロブスカイト酸化物PBCにおけるBaの一部を低ルイス酸強度のカチオンCs+で置換することができる。さらに、本発明では、R-PCECの空気電極として、新規なダブルペロブスカイト材料PrBa1-xCsxCo2O6-δ(PBCsC)を設計して製造し、それの中低温における電気触媒活性および水分解能力を評価した。これは、高い触媒活性および安定性を備える空気電極の設計と実現、そしてそれをR-PCECに適用することに対し、重要な実用的意義を有する。
【0007】
好ましくは、xの値の範囲が、0.01~0.15である。
【0008】
さらに好ましくは、xの値の範囲が、0.05~0.125である。
【0009】
好ましくは、前記ダブルペロブスカイト材料は、正方層状のペロブスカイト構造である。前記ダブルペロブスカイト材料は、CsがAサイトにドープされたペロブスカイト構造を有する。本発明において、Csのイオン半径は、167pmであり、Baのイオン半径は、135pmであり、Baのイオン半径はCsと最も近い(Pr3+とPr4+のイオン半径は99と85pmであり、Co2+、Co3+、Co4+のイオン半径は74.5、61、53pmである)ものであり、構造中のBaイオンがCs+によって置換される。
さらに好ましくは、格子定数は、aが3.9045±0.1Åであり、bが3.9045±0.1Åであり、cが7.6572±0.1Åである。
【0010】
さらに好ましくは、前記ダブルペロブスカイト材料の一般式は、PrBa0.9Cs0.1Co2O6-δであり、ここで、0.1≦δ≦0.3である。
【0011】
本発明によれば、試験研究により、本発明における上記のx値を採用したPBCsCが優れる電気触媒性能を有することがさらに発見され、特に、好ましいx=0.1を採用してBaの一部置換を行った場合、意外にも、他の値をとる場合と比べて、可逆的プロトンセラミック電気化学電池により優れる電気化学的性能及び安定性を持たせることができる。
【0012】
第2の態様において、本発明が提供する前記ダブルペロブスカイト材料の製造方法は、
(1)硝酸プラセオジム、硝酸バリウム、硝酸セシウムおよび硝酸コバルトを水に溶解し、混合液を得た後、前記混合液、エチレンジアミン四酢酸、クエン酸およびアンモンニア水を混合し、pHを7~8に調整して、混合溶液を得るステップ、および
(2)前記混合溶液をゲル状になるまで加熱し、200~250℃で高温処理を行い、前駆体を得た後、前記前駆体を焼成するステップ
を含む。
【0013】
好ましくは、ステップ(1)において、金属元素、エチレンジアミン四酢酸、クエン酸のモル比が0.5~1.5:0.5~1.5:1~2であり、1:1:1.5であることが好ましく、ここで、前記金属元素がPr、Ba、CsおよびCoの合計である。試験研究により、本発明が、特定の割合の金属元素、エチレンジアミン四酢酸およびクエン酸を用い、本発明における好ましい焼成温度を組み合わせることで、PrBa0.9Cs0.1Co2O6-δの相形成效果(結晶強度)を顕著に改善でき、PrBa0.9Cs0.1Co2O6-δがより優れる結晶構造を示すことができることが発見された。
【0014】
好ましくは、ステップ(2)において、前記混合溶液の加熱温度が80~100℃である。
【0015】
好ましくは、ステップ(2)において、前記高温処理の時間が2~6時間であり、2時間であることが好ましい。
【0016】
好ましくは、ステップ(2)において、前記焼成の温度が950~1050℃であり、1000℃であることが好ましく、前記焼成の時間が2~4時間であり、2時間であることが好ましい。
【0017】
本発明において、用いられる原料と好ましい製造条件とを組み合わせることで、相形成効果をより好適なものとすることができ、より優れる結晶強度および結晶構造を有するPrBa0.9Cs0.1Co2O6-δを製造するのに有利であり、さらに、製造される可逆的プロトンセラミック電気化学電池も、電気化学的性能及び安定性等の面においてより優れる総合的な性能を有することができる。
【0018】
第3の態様において、本発明は、前記ダブルペロブスカイト材料の使用を提供し、可逆的プロトンセラミック電気化学電池における前記ダブルペロブスカイト材料の空気電極としての使用を提供する。
【0019】
第4の態様において、本発明は、陽極支持の可逆的プロトンセラミック電気化学電池をさらに提供し、当該可逆的プロトンセラミック電気化学電池は、順次に接続された陽極支持層、電解質および空気電極を含み、前記空気電極は、上記の(低ルイス酸強度のカチオンCs+がドープされた)ダブルペロブスカイト材料によって製造されたものである。
【0020】
好ましくは、前記電解質の材料に、BaZr0.1Ce0.7Y0.1Yb0.1O3-δ(BZCYYb1711)を含み、ここで、δが酸素空孔含有量(0≦δ≦0.2)である。
【0021】
好ましくは、前記陽極支持層の材料に、NiOとBaZr0.1Ce0.7Y0.1Yb0.1O3-δとを含み、ここで、NiOとBaZr0.1Ce0.7Y0.1Yb0.1O3-δの質量比が5.5~6.5:3.5~4.5であり、6:4であることが好ましく、δが酸素空孔含有量である。
【0022】
好ましくは、前記可逆的プロトンセラミック電気化学電池が、遷移層をさらに含み、前記遷移層が陽極支持層と電解質との間に設けられる。好ましくは、前記遷移層にNiOとBaZr0.1Ce0.7Y0.1Yb0.1O3-δ(BZCYYb1711)とを含む。ここで、NiOとBaZr0.1Ce0.7Y0.1Yb0.1O3-δの質量比が5.5~6.5:3.5~4.5であり、6:4であることが好ましく、δが酸素空孔含有量である。
【0023】
本発明によれば、可逆的プロトンセラミック電気化学電池の各層における用語δは、いずれも酸素空孔含有量を意味し、本発明においてその範囲を限定していない限り、当分野での通常の酸素空孔含有量の範囲、例えば、0~0.5、0.1~0.4または0.1~0.2を採用してもよいことを意味する。
【0024】
本発明において、陽極支持のプロトンセラミック電気化学電池は共流延法を用いることにより、電解質層と遷移層、陽極層とが層間分離せずに密接に接続され、半電池構造の安定性を顕著に向上させ、半電池の接続による抵抗を改善・低下させることができ、陽極支持のプロトンセラミック電気化学電池がより優れる電気化学的性能を示すことができる。
【0025】
さらに好ましくは、前記陽極支持の可逆的プロトンセラミック電気化学電池の製造方法は、
(1)陽極支持層の材料、遷移層の材料、電解質の材料及び空気電極の材料を、それぞれスラリーとするステップ、
(2)流延装置にて、順次に電解質スラリー、遷移層スラリー、陽極支持層スラリーを流延した後、10~14時間自然乾燥し、自然乾燥後の共流延シートに対して脱脂処理を行い、高温焼成し、陽極支持の半電池を得るステップ(好ましくは、前記熱処理脱脂の条件として、500~700℃で1~3時間熱処理する。前記高温焼成の条件として、1400~1500℃で4~6時間高温焼成する。)、および
(3)前記空気電極の材料をスラリーとし、前記半電池の電解質の表面に塗布して、高温焼成し、陽極支持の可逆プロトンセラミック電気化学全電池を得るステップ(好ましくは、前記高温焼成の条件として、800~1000℃で1~3時間焼成する。)
を含む。
【0026】
さらに好ましくは、前記基材がポリマーフィルムである。
【0027】
さらに好ましくは、電解質層スラリーが、BZCYYb1711粉末、分散剤及び無水エタノールをボールミル粉砕して得られるものである。
【0028】
さらに好ましくは、遷移層スラリーが、BZCYYb1711粉末、ナノ酸化ニッケル、黒鉛、分散剤、無水エタノールおよび酢酸ブチルをブレンドして12時間ボールミル粉砕して得られるものである。
【0029】
さらに好ましくは、前記陽極支持層スラリーが、BZCYYb1711、酸化ニッケル、黒鉛、分散剤、無水エタノール、酢酸ブチルをブレンドして10~14時間ボールミル粉砕して得られるものである。
【0030】
さらに好ましくは、前記空気電極スラリーが、PrBa0.9Cs0.1Co2O6-δ材料とテルピネオールとをブレンドして得られるものであり、スラリーの組成が1g:0.5~0.7gのPrBa0.9Cs0.1Co2O6-δとテルピネオールである。
【0031】
さらに好ましくは、前記陽極支持の半電池において、電解質層の厚さが7~9μmであり、陽極支持層の厚さが600~700μmであり、遷移層の厚さが16~22μmである。
【0032】
本発明において、試験研究により、上記の好ましい高温焼成の温度および時間のパラメータを採用して陽極支持の半電池の製造を行う場合、陽極支持層の厚さを調整することで、半電池の機械的強度を向上させることができ、陽極支持の半電池がより優れる構造安定性を示すことが発見された。
【発明の効果】
【0033】
本発明の有益な效果は、少なくとも以下の通りである。本発明の低ルイス酸強度のカチオンCs+がドープされたダブルペロブスカイト材料は、ダブルペロブスカイト材料PrBaCo2O6-δに基づいて、Aサイトにおいて元素のドープを行ったものである。ゾルゲル法を用いて、陽極支持の可逆的プロトンセラミック電気化学電池の空気電極材料PrBa0.9Cs0.1Co2O6-δ(PBCsC)を製造する。本発明の陽極支持の可逆的プロトンセラミック電気化学電池の空気電極材料は、比較的に低い分極インピーダンスおよび比較的に高い電気触媒活性を有する。本発明で製造した陽極支持の単電池、即ちNiO-BZCYYb1711||遷移層NiO-BZCYYb1711||BZCYYb1711||PBCsCは、650℃、600℃、550℃および500℃での分極抵抗が、それぞれ0.045Ωcm2、0.094Ωcm2、0.273Ωcm2および1.037Ωcm2であり、最高出力密度が1.66Wcm-2、1.19Wcm-2、0.72Wcm-2および0.41Wcm-2である。空気電極側に加湿された空気を供給した後、R-PCECを電解モードで動作させた場合、650℃、600℃、550℃、および500℃で、1.3Vの電圧条件での電流密度が、それぞれ-2.85Acm-2、-1.48Acm-2、-0.71Acm-2、および-0.31Acm-2である。本発明の陽極支持の可逆的プロトンセラミック電気化学電池は、優れる安定性、酸素イオン交換動力学、電気触媒活性および電気化学的性能を有するものである。
【0034】
本発明の実施例及び従来技術における技術案をより明確に説明するために、以下では、実施例または従来技術の説明において使用する必要がある図面を簡単に説明する。以下の説明における図面が本発明の一部の実施例であり、当業者にとって、創造的な労働を行わずとも、これらの図面に基づいて他の図面を獲得できることは自明である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】本発明の実施例1にかかる空気電極材料PrBa
0.9Cs
0.1Co
2O
6-δ(PBCsC)を1000℃で2時間焼成した後の精密化されたXRDパターンである。
【
図2】本発明の実施例1にかかる空気電極材料PrBa
0.9Cs
0.1Co
2O
6-δ(PBCsC)と電解質BZCYYb粉体を、高温マッフル炉において950℃で2時間同時焼成した後のXRDパターンである。
【
図3】本発明の実施例1にかかる空気電極材料PrBa
0.9Cs
0.1Co
2O
6-δ(PBCsC)を600℃で30%水処理を10時間行った後のXRDパターンである。
【
図4】本発明の実施例1にかかる空気電極材料PrBa
0.9Cs
0.1Co
2O
6-δ(PBCsC)を1000℃で2時間焼成した後の高温in situ XRDパターンである。
【
図5】本発明の実施例1にかかる空気電極材料PBCsCおよびPBCのX線光電子スペクトル(XPS)であり、ここで、aはPr 3dであり、bはCo 2pである。
【
図6】本発明の実施例1にかかる空気電極材料PBCsC(6a)およびPBC(6b)のO 1s X線光電子スペクトルである。
【
図7】本発明の実施例1にかかる空気電極材料PBCsCおよびPBCの緩和特性評価図である。
【
図8】本発明の実施例1にかかる対称電池(PBCsCが電極であり、BZCYYb1711が電解質支持体であるもの)の、湿潤空気(3%H
2O)での面積比インピーダンス(8a)およびインピーダンス安定性(8b)を示す図である。
【
図9】本発明の実施例1にかかる対称電池(PBCsCおよびPBCが電極であり、BZCYYb1711が電解質支持体であるもの)の、湿潤空気(3%H
2O)での電気化学的安定性を示す図である。
【
図10】本発明の実施例1にかかるPBCsCおよびPBC酸化物を600℃で、30%の水蒸気を含む空気で50時間処理した後の赤外線スペクトルである。
【
図11】本発明の実施例2がPBCsCを空気電極として用いた場合、Ni-BZCYYb1711を燃料極支持として製造した単電池(Ni-BZCYYb1711||遷移層Ni-BZCYYb1711||BZCYYb1711||PBCsC)を650~500℃の範囲内においてFCモード(陽極側に加湿された水素ガスを供給し、酸素電極側に大気を供給する)で測定した時の最大出力密度を示す図である。
【
図12】本発明の実施例2がPBCsCを空気電極として用いた場合、Ni-BZCYYb1711を燃料極支持として製造した単電池(Ni-BZCYYb1711||遷移層Ni-BZCYYb1711||BZCYYb1711||PBCsC)を650~500℃の範囲内においてECモード(陽極側に加湿された水素ガスを供給し、酸素電極側に加湿された空気を供給する)で測定した際に、1.3Vに対応する電流密度を示す図である。
【
図13】本発明の実施例2にかかるPBCsCを空気電極とし、Ni-BZCYYb1711を陽極支持として製造した単電池(Ni-BZCYYb1711||遷移層Ni-BZCYYb1711||BZCYYb1711||PBCsC)を650℃で測定した時の単電池の燃料電池モードおよび電解槽モードでの動作安定性を示す図である。
【
図14】本発明の実施例2にかかるPBCsCを空気電極とし、Ni-BZCYYb1711を燃料極支持として製造した単電池(Ni-BZCYYb1711||遷移層Ni-BZCYYb1711||BZCYYb1711||PBCsC)を600℃で測定した時の単電池のサイクル安定性を示す図である。
【
図15】本発明の実施例2にかかるPBCsCを空気電極とし、Ni-BZCYYb1711を陽極支持層として製造した単電池(Ni-BZCYYb1711||遷移層Ni-BZCYYb1711||BZCYYb1711||PBCsC)の印加電流密度に伴う単電池のファラデー効率の変化を示す図である。
【
図16】本発明の実施例2にかかるPBCsCを空気電極とし、Ni-BZCYYb1711を陽極支持層として製造した単電池(Ni-BZCYYb1711||遷移Ni-BZCYYb1711||BZCYYb1711||PBCsC)の印加電流密度に伴う水素生成速度の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
発明の実施例の目的、技術案および利点をより明確にするために、以下では、本発明の実施例における技術案を明確かつ完全に説明する。説明する実施例が、本発明の一部の実施例であり、全部の実施例ではないことは自明である。本発明における実施例に基づいて、当業者が創造的な労働を行わずとも獲得できる他のすべての実施例は、いずれも本発明の保護範囲に属する。
【0037】
特に断りがない限り、以下の実施例で使用される原料および試薬はいずれも市販品であるか、あるいは既知の方法で製造できるものである。実施例において、具体的な技術または条件が明記されていないものは、いずれも常法や当分野の文献に記述された技術または条件に従って行うか、あるいは製品の説明書に従って行うものとする。使用される試薬または装置等のメーカーが明記されていないものは、いずれも正規ルートから購入できる通常の製品である。
【0038】
以下では、実施例を組み合わせて本発明をより詳しく説明する。
【0039】
本発明の実施例は、低ルイス酸強度のカチオンCs+がドープされた空気電極材料の製造及び特性評価に関し、当該空気電極材料の組成分子式はPrBa0.9Cs0.1Co2O6-δ(PBCsC)である。ペロブスカイト材料であるPrBaCo2O6-δ中のAサイトにCsイオンのドープを行うことにより、陽極支持の可逆的プロトンセラミック電気化学電池の酸素還元/発生反応活性及び安定性を向上させる。Cs+のAサイトでのドープにより、PrBa0.9Cs0.1Co2O6-δ(PBCsC)空気電極の触媒活性、安定性がいずれも向上する。650℃で、組成がNi-BZCYYb1711|遷移層Ni-BZCYYb1711|BZCYYb1711|PBCsCである単電池は、FCモードでの最大出力パワーが1.66Wcm-2に達するとともに、電池の分極抵抗がわずか0.045Ωcm2である。空気電極側に3%の水蒸気を含有する空気を供給した後、650℃、1.3Vの電圧条件で-2.85Acm-2の電流密度が得られる。本発明は、低ルイス酸強度のカチオンCs+のドープにより、PrBaCo2O6-δ空気電極の分極インピーダンスを顕著に低減させ、そして全電池の電気化学的性能を向上させることができる。電解モードにおいても、電流密度を大幅に向上させるとともに優れる安定性を示すことができる。
【0040】
なお、現在、中低温陽極支持の可逆的プロトンセラミック電気化学電池のサイクル安定性に関する研究は比較的に少なく、可逆的プロトンセラミック電気化学電池の安定性の特性評価方法も極めて希少であり、本発明にかかる可逆的プロトンセラミック電気化学電池のサイクル安定性の特性評価を行うために、本発明の実施例では、特性評価の手段をさらに提供する。主なステップでは、空気電極材料を陽極支持のプロトン伝導体単電池の電解質膜上に塗布し、陽極側に3%の水蒸気を含有する水素ガスを供給し、空気電極側に3%の水蒸気を含有する空気を供給する。単電池に対し、サイクル安定性測定を行い、すなわち、±0.5Acm-2の電流を印加することで、陽極支持の可逆的プロトンセラミック電気化学電池を、それぞれ燃料電池モードおよび電解槽モードで交互に繰り返し動作させ、さらに、空気電極の電気化学的安定性を評価する。
【0041】
以下の実施例において、PBCを比較サンプルとし、その成分は、PrBaCo2O6-δであり、その製造プロセスは実施例と同様である。
【0042】
実施例1
本実施例では、陽極支持の可逆的プロトンセラミック電気化学電池の空気電極材料であるPrBa0.9Cs0.1Co2O6-δの製造方法を提供し、具体的なステップは以下の通りである。
【0043】
(1)化学量論比として、硝酸プラセオジム、硝酸バリウム、硝酸セシウムおよび硝酸コバルトを、PrBa0.9Cs0.1Co2O6-δ(PBCsC)の化学計量比で、順次に脱イオン水溶液に添加した。その後、金属イオンのモル数の1.5倍の量でクエン酸を添加し、金属イオンのモル数の1倍の量でエチレンジアミン四酢酸を添加した。ここで、硝酸プラセオジム、硝酸バリウム、硝酸セシウム、硝酸コバルト、クエン酸およびエチレンジアミン四酢酸は、アラジン化学試薬のホームページから入手したものである。
【0044】
(2)金属イオンが溶解された溶液に錯化剤を添加した後、アンモンニア水を添加し、pH値を7~8に調整し、その後、磁力攪拌の条件下で水分が蒸発乾固するまで加熱攪拌し、ゲル状の物質を得た。
【0045】
(3)ゲル状の物質を送風式オーブンに置き、250℃で2時間乾燥し、嵩高い多孔質の前駆体を得た。
【0046】
(4)前駆体を高温マッフル炉に置き、1000℃で2時間焼成し、所望の空気電極材料粉体であるPrBa0.9Cs0.1Co2O6-δ(PBCsCと記する)を得た。ここで、0.1≦δ≦0.3である。
【0047】
実施例2
本実施例では、実施例1が提供するPrBa0.9Cs0.1Co2O6-δ(PBCsC)を電池の空気電極として製造した、Ni-BZCYYb1711|遷移層Ni-BZCYYb1711|BZCYYb1711|PBCsCの陽極支持の可逆的プロトンセラミック電気化学電池を提供し、具体的には、以下のステップを含む。
【0048】
(1)電解質層スラリーの製造:3gのBZCYYb1711粉末、0.1gの魚油分散剤、0.8gの無水エタノール、0.8gの酢酸ブチルを均一に混合し、BZCYYb1711電解質層スラリーを得た。遷移層スラリーの製造:1.2gのBZCYYb1711粉末、1.8gのナノ酸化ニッケル、0.3gの黒鉛、0.1gの魚油分散剤、0.75gの無水エタノール、0.75gの酢酸ブチルを均一に混合し、Ni-BZCYYb1711遷移層スラリーを得た。陽極支持層スラリーの製造:10gのBZCYYb1711、15gの酸化ニッケル、1.5gの黒鉛、1gの魚油分散剤、3gの無水エタノール、3gの酢酸ブチルを均一に混合し、陽極スラリーを得た。上記のスラリーをそれぞれドラム回転式ボールミルに投入し、30~40時間ボールミル粉砕した。
【0049】
(2)ボールミル粉砕してブレンドした電解質スラリー、遷移層スラリーおよび陽極スラリーを順次にPET(ポリエチレンテレフタレート)離型フィルムであるポリマーフィルムに流延させた後、共流延した電解質層-遷移層-陽極支持層フィルムを空気中において12時間自然乾燥させ、その後、直径15mmの成形金型を用い、いくつかの直径15mmのシートにカットし、それらをマッフル炉に置き、600℃で2時間の脱脂処理を行った。最後に、脱脂したシートを高温マッフル炉に置き、1450℃で5時間焼成し、所望の陽極支持の半電池を得た。ここで、製造した陽極支持の半電池は、BZCYYb1711電解質層(厚さ7~9μm)、Ni-BZCYYb1711遷移層(厚さ30μm)およびNi-BZCYYb1711陽極支持層(厚さ600~700μm)を含む。
【0050】
(3)1gの実施例1で製造した空気電極粉体PrBa0.9Cs0.1Co2O6-δと、0.6gのテルピネオールを秤量して均一に混合し、所望の空気電極スラリーを得た。
【0051】
(4)製造した空気電極スラリーを半電池の電解質膜上に塗布した後、70℃のオーブンに置き、陰極スラリーが乾燥した後、組み立てた全電池を高温マッフル炉において950℃で2時間焼成し、FCおよびECモードでの電気化学的性能の測定に用いた。
【0052】
特性評価の結果
1、XRDによる特性評価
図1はPrBa
0.9Cs
0.1Co
2O
6-δ(PBCsC)粉末を1000℃で2時間焼成した後の精密化されたXRDパターンであり、合成したPBCsCが単一のダブルペロブスカイト相構造を示すことを表している。それとともに、XRD精密化の結果は、合成したPBCsCが正方層状のペロブスカイト構造であり、その格子定数が、a=b=3.9045Å、c=7.6572Å(精密化パラメータ:GOF=2.13)であることを表している。
【0053】
図2は合成した空気電極材料PBCsCと電解質BZCYYb1711粉体との化学的適合性を示すものである。図面から分かるように、PBCsCとBZCYYb1711とを混合した後、高温マッフル炉において950℃で2時間焼成した後でも、化学反応が生じておらず、これはPBCsC材料とBZCYYb1711粉体とが良好な化学的適合性を有することを表している。
【0054】
図3はPrBa
0.9Cs
0.1Co
2O
6-δ(PBCsC)粉末を600℃で30%の水蒸気を含む空気中で10時間処理した後のXRDパターンであり、ここで、処理後のPBCsCのXRDパターンのメインピークが明らかに低角度側にシフトし、これは、水蒸気が格子に侵入することにより、格子が膨張したためと考えられる。
【0055】
図4はPrBa
0.9Cs
0.1Co
2O
6-δ(PBCsC)粉末の高温in situ XRDパターンである。図面から分かるように、PBCsC粉末を100~700℃で連続的に昇温させる測定において(各温度の保温時間は1時間である)、不純物相の生成がなく、これはPBCsC酸化物が高温下で良好な相構造安定性および化学的安定性を示すことを表している。PBCsC酸化物の高温in situ XRD測定において、測定温度が上昇することにつれ、PBCsCのメインピークが低角度側にシフトし、これは、温度の上昇に伴う格子の膨張に起因すると考えられる。
【0056】
2、X線光電子スペクトル(XPS)による特性評価
フィッティングデータによれば、PBCにおけるAサイトのBa元素の一部がCsによって置換された後、材料は自身の電気的中性を維持するために、Pr(
図5(a))とCo(
図5(b))の高原子価状態が占める割合がさらに増加する。
図5(a)に示すように、PBCにおけるPr
4+の含有量が37.9%である一方で、PBCsCにおけるPr
4+の含有量は41.1%まで増加した。
図5(b)に示すように、Co元素も同様に類似の変化傾向が生じた。PBCにおいて、Co
3+とCo
4+の含有量はそれぞれ36.7%と35.0%であるが、PBCsCにおいて、それらの含有量は、それぞれ41.8%および43.5%まで上昇した。XPSの結果は、PBCにCsをドープすることにより、PrとCoの高原子価状態のカチオンの含有量が増加することを表している。
対応するPBCとPBCsCのO 1s XPSフィッティングデータは、
図6(a、b)に示す通りである。ここで、PBCとPBCsCのO 1sは四つの従属ピークに分けられる。結合エネルギーが528.3、530.0、531.4および533.4eV近傍にある従属ピークは、それぞれ格子酸素(O
lat)、高酸化酸素(O
-/O
2
2-)、吸着酸素(O
ads)および水酸基環境における酸素(OH
-)に関与する。ここで、O
-/O
2
2とO
latの比が、酸素空孔の含有量を反映し、PBCとPBCsCの比はそれぞれ1.49と2.03であった。また、酸化物におけるO
-/O
2
2-の割合は、通常、ORR過程において重要な役割を果たすものであると考えられている。
【0057】
3、緩和特性評価
図7は550~650℃の測定温度におけるPBCsCとPBCの表面交換係数k
*
chemとバルク拡散係数D
*
chemを示すものである。ここで、計算によれば、650℃の測定温度におけるPBCsCの表面交換係数は、7.98×10
-4cms
-1であり、同じ条件下で測定したPBCの表面交換係数(2.31×10
-4cms
-1)より高かった。k
*
chem値の増加は、PBCsC空気電極が比較的に速い酸素表面交換動力学を有することを表しており、これにより、ORR反応の進行が速められる。D
*
chemの結果も同様に類似の傾向を呈している。650℃の測定条件で、PBCとPBCsCのD
*
chem値はそれぞれ2.64×10
-5および9.01×10
-5cm
2s
-1であった。PBCsCのD
*
chem値が大きいほど、PBCsCがより良い酸素拡散動力学を有することを意味する。以上により、PBCsC空気電極の電気触媒活性の増加は、Aサイトドーパント(Cs)のドープにより、より多くの酸素空孔が生じ、表面交換動力学が改善されたことによるものと考えられる。
【0058】
4、電気化学インピーダンス及び安定性の研究
最初に、BZCYYb1711支持の対称電池の、700~500℃の湿潤空気(3%H
2O)における面積比抵抗を測定することにより、PBCsC空気電極の電気触媒活性を検討した。
図8(a)に示すように、700、650、600、550及び500℃の場合、PBCsC空気電極の面積比抵抗値は、それぞれ0.067、0.184、0.276、0.575および1.588Ωcm
2に達している。
図8(b)に、PBC空気電極の電気触媒活性を示す。同じ測定条件下において、PBC空気電極の面積比抵抗値は700、650、600、550および500℃で、それぞれ0.113、0.258、0.372、0.977および2.443Ωcm
2に達している。PBC空気電極と比べ、PBCsC空気電極は比較的に高い電気触媒活性を有する。
【0059】
図9はPBCsCとPBCの湿潤空気(3%H
2O)での安定性を示すものである。湿潤空気に晒される場合、PBC空気電極の面積比抵抗値は測定時間の延長に伴って顕著に増加した。一方、同じ測定条件下において、PBCsC空気電極の面積比抵抗値がより良い安定性を示した。上記の分析に基づいて、PBCsC空気電極を有する対称電池は、良好な安定性と比較的に高い電気触媒活性を有する。
【0060】
7、フーリエ変換赤外線スペクトル(FTIR)による特性評価
図10はPBCsCとPBC空気電極を600℃で、30%の水蒸気を含有する湿潤空気で50時間処理した後のフーリエ変換赤外線スペクトルを示すものである。FTIR測定は、酸化物における水酸基のシグナルの値を識別することができ、その特徴的なピークは3400~3800cm
-1の範囲内に現れる。測定の結果は、30%水蒸気処理されたPBCsCの水酸基のピーク強度が、PBC酸化物よりやや高く、PBCsCがより良い水和挙動を示すことを表している。
【0061】
8、電気化学的性能の測定
実施例2で製造した電池を用いて、燃料電池モード(FCモード)で電気化学出力密度の測定を行い、そして、電解モード(ECモード)で電流密度の測定を行った。
図11は、本発明にかかるPBCsCを空気電極としてなる全電池を、燃料電池モードで、陽極側に加湿された水素ガスを供給し、空気電極側の雰囲気を空気とした条件で測定した時の結果を示すものである。650~500℃の範囲内で測定した出力密度はそれぞれ1.66Wcm
-2、1.19Wcm
-2、0.72Wcm
-2、および0.41Wcm
-2であった。
【0062】
図12は、本発明にかかるPBCsCを空気電極とし、Ni-BZCYYb1711を燃料極支持として製造した単電池(Ni-BZCYYb1711||BZCYYb1711||PBCsC)を650~500℃の範囲内においてECモード(陽極側に加湿された水素ガスを供給し、酸素電極側に加湿された空気を供給する)で測定した時のI-V曲線を示すものである。ここで、PBCsC空気電極の電解槽もより優れる電解性能を示し、650、600、550および500℃である場合、1.3Vの電圧条件での電流密度は、それぞれ-2.85Acm
-2、-1.48Acm
-2、-0.71Acm
-2、および-0.31Acm
-2であった。
【0063】
9、単電池の安定性およびサイクル試験
図13は、PBCsC空気電極を650℃で0.5Acm
-2の電流密度で、FCモードにて170時間動作させた時の電池の長期安定性を示すものである。また、R-PCEC空気電極室に湿潤空気が存在するため、蒸気に対する空気電極の耐性は電池の安定性にとって非常に重要である。PBCsCを空気電極とする全電池は、湿潤空気(3%H
2O)を酸化剤として使用する電解モードで良好な安定性を示しており、-0.5Acm
-2および650℃で安定的に200時間動作した。±0.5Acm
-2および600℃の温度で、2時間間隔でFCモードとECモードの切り替えを行うサイクル試験を行った(
図14)。PBCsC空気電極付きの電池は、80時間の可逆的な操作期間において、良好な安定性を示した。
【0064】
10、ファラデー効率(Faradaic efficiency)と水素生成速度の測定
【0065】
ファラデー効率は、R-PCEC電気化学過程における水素生成にとって極めて重要であり、ファラデー効率を、実際のH
2の生成速度(ガスクロマトグラフより検出)と理論上のH
2の生成速度(印加電流から計算)の比と定める。
図15及び
図16は、異なる電流密度および600℃の湿潤空気(蒸気濃度30%)でのファラデー効率および水素生成速度を示すものである。
図15に示すように、当該電池を-0.5、-0.75および-1.0Acm
-2といった異なる電流密度で適用する場合、ファラデー効率は85.37%から60.86%および48.88%まで下がった。また、
図16に示すように、電流密度が-0.5、-0.75および-1.0Acm
-2である場合、対応するH
2の生成率は2.98から3.18および3.41まで上昇した。
【0066】
なお、以上の実施例は、本発明の技術案を説明するためのものにすぎず、それを制限するためのものではない。上記の実施例を参照して本発明を詳細に説明したが、当業者は、上記の各実施例に記載の技術案を修正し、もしくは、その一部の技術的特徴を等価置換してもよいことと、これらの修正または置換により、対応する技術案の趣旨が本発明の各実施例の技術案の思想および範囲から逸脱することはないことを理解できるはずである。