(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025163685
(43)【公開日】2025-10-29
(54)【発明の名称】ポリアミド樹脂組成物および成形品
(51)【国際特許分類】
C08L 77/00 20060101AFI20251022BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20251022BHJP
C08K 7/04 20060101ALI20251022BHJP
C08K 5/5399 20060101ALI20251022BHJP
【FI】
C08L77/00
C08K3/22
C08K7/04
C08K5/5399
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2025067364
(22)【出願日】2025-04-16
(31)【優先権主張番号】P 2024066461
(32)【優先日】2024-04-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】八巻 研太
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 洋一
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 真琴
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002CL011
4J002CL031
4J002CL051
4J002DA017
4J002DE076
4J002DE107
4J002DE147
4J002DE187
4J002DG057
4J002DJ007
4J002DJ027
4J002DK007
4J002DL007
4J002DM007
4J002EW158
4J002FA047
4J002FD017
4J002FD136
4J002FD138
4J002GM00
4J002GN00
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】
ポリアミド樹脂が本来有する優れた機械的強度、すなわち引張強さおよび衝撃強さ、耐トラッキング性を大きく損なうことなく、熱伝導率、流動性、難燃性に優れるポリアミド樹脂組成物とその成形品を提供する。また、本発明のポリアミド樹脂組成物は、上記性能を有しながら耐ヒートサイクル性に優れ、金属インサート成形品に好適に用いることができる。
【解決手段】
(A)ポリアミド樹脂100重量部に対して、(B)水酸化マグネシウムを60~170重量部、(C)無機繊維状充填材を60~170重量部、および(D)ホスファゼン化合物を5~35重量部配合してなる、ポリアミド樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリアミド樹脂100重量部に対して、(B)水酸化マグネシウムを60~170重量部、(C)無機繊維状充填材を60~170重量部、および(D)ホスファゼン化合物を5~35重量部配合してなる、ポリアミド樹脂組成物。
【請求項2】
前記(D)ホスファゼン化合物の配合量が10~25重量部である、請求項1に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項3】
前記(B)水酸化マグネシウムの平均一次粒子径が0.1μmから10μmである、請求項1または2に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項4】
前記(B)水酸化マグネシウムのゆるめかさ密度が0.3g/mL以上である、請求項1または2に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項5】
前記(A)ポリアミド樹脂が、ポリアミド66/6I/6共重合体および/または66/6I共重合体を含む、請求項1または2に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項6】
前記(A)ポリアミド樹脂が、ポリアミド66/6I/6共重合体である、請求項1または2に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1または2に記載のポリアミド樹脂組成物からなる、成形品。
【請求項8】
前記成形品が、ISO22007-2に準拠したホットディスク法にて測定した熱伝導率が0.8W/(m・K)以上である、請求項7に記載の成形品。
【請求項9】
前記成形品が、UL94に準拠した方法にて測定した燃焼性が試験片厚み1.5mm以下においてV-0である、請求項7に記載の成形品。
【請求項10】
前記成形品が、IEC60112(2003)に準拠した方法にて測定した耐トラッキング性が600V以上である、請求項7に記載の成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミド樹脂組成物および成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気自動車においては、バッテリーの高容量化、モーターの高出力化に伴い、バッテリーやモーターの発熱量が増えており、それに伴いインバーターやDirect Current-Direct Current(以下、DC-DCという)コンバーターなど、高圧電流が流れる電装部品の発熱量が増えている。また、モーターは、省スペースや効率向上を目的としてギヤ、インバーターとの複合化、さらにはDC-DCコンバーター、配電ユニット、Positive Temperature Coefficientヒーター、車載充電器などとの統合も検討されている。
【0003】
放熱性の樹脂組成物の一例として、特許文献1には、ポリアミド樹脂に水酸化マグネシウム、ガラス繊維を配合してなる樹脂組成物が記載されている。
【0004】
また、難燃性の樹脂組成物の一例として、特許文献2には、ポリアミド樹脂に架橋ホスファゼン、無機繊維状物質、水酸化マグネシウムを配合してなる樹脂組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6079490号公報
【特許文献2】特開2001-131409号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
電気自動車のモーターを含む製品、いわゆる電動アクスルにおいては、発熱量の増加と省スペース化により、システム全体の環境温度の上昇が問題となる。中でも自動車部品に樹脂組成物を適用するにあたっては、環境温度の上昇を抑制するため、樹脂組成物の高熱伝導率化が求められる。しかしながら、ポリアミド樹脂は、元来高い熱伝導率を保有していない。
【0007】
加えて、自動車部品は軽量化を目的に薄肉化の要求が高まっているが、一般的に樹脂成形品は、薄肉部ほど機械的強度および難燃性が低下しやすく、これらの特性が向上した樹脂組成物が求められる。しかしながら、ポリアミド樹脂はPPS樹脂等の他のエンジニアリングプラスチックに比べて難燃性に劣る。
【0008】
更に、電気電動車は高出力化に伴い、定格電圧が上昇する傾向にあるため、絶縁体表面へ高電圧を印加した際に生じるトラッキング破壊にも耐え得る樹脂成形品が求められる。
【0009】
また、自動車用途においては金属インサート部品としての使用が多いことから、前記特性に加えて耐ヒートサイクル性も求められる。一般的にはエラストマーを添加することにより靭性を向上させる手法が知られているが、エラストマーを添加すると燃焼しやすくなるため、耐ヒートサイクル性と難燃性との両立が困難である。
【0010】
上記のような課題に対して、特許文献1に開示された樹脂組成物は、熱伝導率は向上しているものの、難燃性が不十分である。また、当該樹脂組成物の耐ヒートサイクル性については言及されていない。
【0011】
また、特許文献2に開示された樹脂組成物は、難燃性が改善されているものの、機械的強度と熱伝導率が不十分と推定される。さらに、当該樹脂組成物の耐ヒートサイクル性については言及されていない。
【0012】
本発明は、かかる従来技術の欠点を解消したポリアミド樹脂組成物ならびにこれを用いた成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、本発明に至った。すなわち本発明は、以下の構成を有する。
(1)(A)ポリアミド樹脂100重量部に対して、(B)水酸化マグネシウムを60~170重量部、(C)無機繊維状充填材を60~170重量部、および(D)ホスファゼン化合物を5~35重量部配合してなる、ポリアミド樹脂組成物。
(2)前記(D)ホスファゼン化合物の配合量が10~25重量部である、上記(1)に記載のポリアミド樹脂組成物。
(3)前記(B)水酸化マグネシウムの平均一次粒子径が0.1μmから10μmである、上記(1)または(2)に記載のポリアミド樹脂組成物。
(4)前記(B)水酸化マグネシウムのゆるめかさ密度が0.3g/mL以上である、上記(1)または(2)に記載のポリアミド樹脂組成物。
(5)前記(A)ポリアミド樹脂が、ポリアミド66/6I/6共重合体および/または66/6I共重合体を含む、上記(1)または(2)に記載のポリアミド樹脂組成物。
(6)前記(A)ポリアミド樹脂が、ポリアミド66/6I/6共重合体である、上記(1)または(2)に記載のポリアミド樹脂組成物。
(7)上記(1)または(2)に記載のポリアミド樹脂組成物からなる、成形品。
(8)前記成形品が、ISO22007-2に準拠したホットディスク法にて測定した熱伝導率が0.8W/(m・K)以上である、上記(7)に記載の成形品。
(9)前記成形品が、UL94に準拠した方法にて測定した燃焼性が試験片厚み1.5mm以下においてV-0である、上記(7)に記載の成形品。
(10)前記成形品が、IEC60112(2003)に準拠した方法にて測定した耐トラッキング性が600V以上である、上記(7)に記載の成形品。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、ポリアミド樹脂が本来有する優れた機械的強度、すなわち引張強さおよび衝撃強さ、耐トラッキング性を大きく損なうことなく、熱伝導率、流動性、難燃性に優れるポリアミド樹脂組成物とその成形品を提供することができる。また、本発明のポリアミド樹脂組成物は、上記性能を有しながら耐ヒートサイクル性に優れ、金属インサート成形品に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0016】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、(A)ポリアミド樹脂100重量部に対して、(B)水酸化マグネシウムを60~170重量部、(C)無機繊維状充填材を60~170重量部、および(D)ホスファゼン化合物を5~35重量部配合してなる。なお、本発明において、(A)ポリアミド樹脂を単に(A)成分という場合がある。他の成分についても同様である。
【0017】
以下、各成分について説明する。
【0018】
(A)ポリアミド樹脂
本発明の実施形態で用いられる(A)ポリアミド樹脂とは、(i)アミノ酸、(ii)ラクタム、または(iii)ジアミンとジカルボン酸からなる群から選ばれる1種以上の原料を重合して得られる繰り返し単位の含有量が、全繰り返し単位中70モル%以上である樹脂をいう。前記含有量は90モル%以上であることが好ましく、100モル%であることがさらに好ましい。(A)ポリアミド樹脂の原料の代表例としては、6-アミノカプロン酸、11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸、パラアミノメチル安息香酸などのアミノ酸、ε-カプロラクタム、ω-ラウロラクタムなどのラクタム、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、2-メチルペンタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4-/2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン、5-メチルノナメチレンジアミン、2-メチルオクタメチレンジアミンなどの脂肪族ジアミン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミンなどの芳香族ジアミン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1-アミノ-3-アミノメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(3-メチル-4-アミノシクロヘキシル)メタン、2,2-ビス(4-アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノプロピル)ピペラジン、アミノエチルピペラジンなどの脂環族ジアミン、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸などの脂肪族ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、2-クロロテレフタル酸、2-メチルテレフタル酸、5-メチルイソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロペンタンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸などが挙げられる。本発明の実施形態において、(A)ポリアミド樹脂の原料として、これらの原料から誘導されるポリアミドホモポリマーまたはポリアミドコポリマーを2種以上配合してもよい。
【0019】
本発明において、(A)ポリアミド樹脂の融点が200~300℃であることが好ましい。ここで融点とは、示差走査熱量計(DSC)を用いて、窒素雰囲気下、溶融状態から20℃/分の降温速度で20℃まで降温して2分間保持した後、20℃/分の昇温速度で昇温した際に現れる吸熱ピークの温度と定義する。なお、融点の異なる複数のポリアミド樹脂を併用する場合の融点は、最も融点の高いポリアミド樹脂の融点とする。融点が200℃以上の(A)ポリアミド樹脂を配合することにより、ポリアミド性樹脂組成物の耐熱性を向上させることができる。例えば、コネクター等の電気・電子部品に電極をつないで長時間電気を流した場合、場合によっては200℃付近にまで発熱するが、耐熱性の高いポリアミド性樹脂組成物を用いることにより、電気・電子部品の熱劣化を抑制することができ、長時間使用後の落下耐性も向上させることができる。(A)ポリアミド樹脂の融点は220℃以上であることがより好ましい。一方、(A)ポリアミド樹脂の融点を300℃以下とすることにより、溶融混練および射出成形時に、(A)ポリアミド樹脂の劣化および水酸化マグネシウムの脱水反応を抑制することができるため、熱可塑性樹脂組成物を射出成形して作製した電気・電子部品内の空洞の形成などを抑制して、成形品の充填率と熱伝導率をより向上させることができる。(A)ポリアミド樹脂の融点は280℃以下であることがより好ましい。
【0020】
(A)ポリアミド樹脂の具体的な例としては、ポリカプロアミド(ナイロン6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリテトラメチレンセバカミド(ナイロン410)、ポリペンタメチレンアジパミド(ナイロン56)、ポリペンタメチレンセバカミド(ナイロン510)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリデカメチレンアジパミド(ナイロン106)、ポリデカメチレンセバカミド(ナイロン1010)、ポリデカメチレンドデカミド(ナイロン1012)、ポリウンデカンアミド(ナイロン11)、ポリドデカンアミド(ナイロン12)、ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンアジパミドコポリマー(ナイロン6/66)、ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン6/6T)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6T)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6I)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミド/ポリカプロアミドコポリマー(ナイロン66/6I/6)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン6T/6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリウンデカンアミドコポリマー(ナイロン6T/11)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリドデカンアミドコポリマー(ナイロン6T/12)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6T/6I)、ポリキシリレンアジパミド(ナイロンXD6)、ポリキシリレンセバカミド(ナイロンXD10)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリペンタメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン6T/5T)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリ-2-メチルペンタメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン6T/M5T)、ポリペンタメチレンテレフタルアミド/ポリデカメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン5T/10T)、ポリノナメチレンテレフタルアミド(ナイロン9T)、ポリデカメチレンテレフタルアミド(ナイロン10T)、ポリドデカメチレンテレフタルアミド(ナイロン12T)などが挙げられる。また、ポリアミド樹脂の具体例としては、これらの混合物や共重合体なども挙げられる。ここで、「/」は共重合体を示す。以下、同様とする。これらのポリアミド樹脂を、機械的物性、流動性、離型性、表面外観、耐熱性などの必要特性に応じて2種以上配合することも実用上好適である。
【0021】
これらの中でも、ポリアミド6/66、ポリアミド66/6I、ポリアミド66/6I/6、ポリアミド6T/6I、ポリアミド6T/12、ポリアミド66/6T/6I、ポリアミドMXD6、ポリアミド6T/M5T、ポリアミド9T/M8T、ポリアミド10T/66、ポリアミド10T/612は、機械的強度、ヒートサイクル性、溶融粘度の剪断速度依存性、成形時の離型性、成形品の表面外観、耐熱性の特性をバランス良く発現できるため好ましく使用される。本発明のポリアミド樹脂組成物において、(A)ポリアミド樹脂が、ポリアミド66/6I/6共重合体および/またはポリアミド66/6I共重合体を含むことがさらに好ましく、ポリアミド66/6I/6共重合体であることが最も好ましい。
【0022】
(A)ポリアミド樹脂の合計100重量部中、ポリアミド66/6I/6を70~100重量部含むことが好ましい。(A)ポリアミド樹脂中のポリアミド66/6I/6の含有量が70重量部以上であれば、機械的強度、押出加工性、流動性、溶融粘度の剪断速度依存性、成形時の離型性、成形品の表面外観、耐熱性の特性をよりバランス良く発現できる。80重量部以上がより好ましい。
【0023】
(A)ポリアミド樹脂の重合度には特に制限がないが、ISO307に準拠して96%(質量分率)硫酸溶液で測定した粘度数が70~140ml/gであることが好ましい。粘度数が70ml/g以上であれば、得られる成形品の機械的強度をより向上させることができる。一方、粘度数が140ml/g以下であれば、押出加工性および流動性を向上させることができる。粘度数は100ml/g以下であることがより好ましい。
【0024】
(A)成分~(D)成分の合計配合量は、樹脂組成物100重量%中、60重量%以上であることが好ましく、90重量%以上であることがより好ましい。
【0025】
(B)水酸化マグネシウム
本発明のポリアミド樹脂組成物は、(A)ポリアミド樹脂100重量部に対して、(B)水酸化マグネシウムを60~170重量部配合してなる。かかる水酸化マグネシウムを配合することにより、ポリアミド樹脂組成物の熱伝導率を向上させ、難燃性を付与することができる。(B)水酸化マグネシウムの配合量は、60重量部以上であり、80重量部を超えることが好ましい。また、(B)水酸化マグネシウムの配合量は、170重量部以下であり、150重量部以下であることが好ましい。(A)ポリアミド樹脂100重量部に対して、60重量部未満では、熱伝導率および難燃性が低下する。また、170重量部を超えると機械的強度が低下し、また、押出加工性が低下する傾向にある。
【0026】
本発明において、(B)水酸化マグネシウムは、化学式Mg(OH)2で示される無機物を80重量部以上含むことが好ましい。前記無機物を80重量部以上含むことにより、ポリアミド樹脂組成物の熱伝導率、および難燃性をより向上させることができる。
【0027】
(B)水酸化マグネシウムの形状は、粒子状、フレーク状、繊維状いずれでもよいが、押出溶融混練時の原料の搬送性、分散性などの観点から、粒子状、フレーク状が好ましい。
【0028】
本発明のポリアミド樹脂組成物において、(B)水酸化マグネシウムの平均一次粒子径に関して特に限定はないが、ポリアミド性樹脂組成物の機械的強度、熱伝導率、押出加工性をより向上させる点から、(B)水酸化マグネシウムの平均一次粒子径が0.1μmから10μmであることが好ましく、0.3μmから4μmであることがより好ましい。
【0029】
本発明のポリアミド樹脂組成物において、(B)水酸化マグネシウムのゆるめかさ密度に関して特に限定はないが、押出溶融混練時原料の搬送性を向上させる点から、(B)水酸化マグネシウムのゆるめかさ密度が0.3g/mL以上であることが好ましい。ゆるめかさ密度の上限は特に限定されないが、通常、2.0g/mL程度であり、1.5g/mLがより好ましい。
【0030】
(B)水酸化マグネシウムは、例えば、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリクロロシランなどのビニルシラン化合物、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどのエポキシシラン化合物、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノシラン化合物、ステアリン酸、オレイン酸、モンタン酸、ステアリルアルコールなどの長鎖脂肪酸または長鎖脂肪族アルコールなどにより表面処理が施されていてもよい。
【0031】
(C)無機繊維状充填材
本発明のポリアミド樹脂組成物は、(A)ポリアミド樹脂100重量部に対して、(C)無機繊維状充填材を60~170重量部配合してなる。(C)無機繊維状充填材の配合量は、60重量部以上であり、80重量部を超えることが好ましい。また、(C)無機繊維状充填材の配合量は、170重量部以下であり、150重量部以下が好ましい。(A)ポリアミド樹脂100重量部に対して、60重量部未満では機械的強度が低下し、170重量部を超えると押出加工性が低下する。
【0032】
(C)無機繊維状充填材は、特に制限はなく、公知のものが使用できる。本発明のポリアミド樹脂組成物にガラス繊維を配合することにより、機械的強度、離型性、耐熱性を高めることができる。
【0033】
(C)無機繊維状充填材としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、チタン酸カリウムウィスカ、酸化亜鉛ウィスカ、硼酸アルミニウムウィスカ、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、石コウ繊維、金属繊維などの無機繊維状充填材が挙げられ、これらは中空であってもよい。これら無機繊維状充填材を2種以上併用することも可能である。また、これら無機繊維状充填材は、イソシアネート系化合物、有機シラン系化合物、有機チタネート系化合物、有機ボラン系化合物、エポキシ化合物などのカップリング剤で予備処理されていてもよく、高速圧縮時の荷重をより向上させることができる。
【0034】
上記無機繊維状充填材の中でも、ガラス繊維、炭素繊維が好ましい。さらに、ガラス繊維は、角柱形状の成形品の高速圧縮において、高荷重の矩形波を発現させやすくなるため、より好ましく用いられる。
【0035】
本発明に用いられるガラス繊維には特に制限はなく、公知のものが使用できる。ガラス繊維は、所定長さにカットしたチョップドストランド、ロービングストランド、ミルドファイバーなどの形状のものがあり、一般的に、平均繊維径5~15μmのものが好ましく使用される。チョップドストランドを使用する場合、繊維長に特に制限はないが、押出混練作業性の高いストランド長3mmのガラス繊維が好ましく使用される。ロービングストランドを使用する場合、押出機にロービングストランドを直接投入する公知の技術により複合することができる。これらのガラス繊維を2種以上併用してもよい。
【0036】
本発明に用いられる炭素繊維には特に制限がなく、公知の各種炭素繊維、例えば、ポリアクリロニトリル(PAN)、ピッチ、レーヨン、リグニン、炭化水素ガス等を用いて製造される炭素質繊維や黒鉛質繊維、これらの繊維を金属でコートした繊維などが使用できる。中でも、機械的特性向上が可能なPAN系炭素繊維が好ましく使用できる。炭素繊維は通常、所定長さにカットしたチョップドストランド、ロービングストランド、ミルドファイバーなどの形状があり、直径15μm以下、好ましくは5~10μmである。チョップドストランドを使用する場合、繊維長に特に制限はないが、押出混練作業性の高いストランド長のものを使用することが好ましい。ロービングストランドを使用する場合、押出機にロービングストランドを直接投入する公知の技術により複合することができる。本発明ではチョップドストランドを用いることが好ましく、チョップド炭素繊維の前駆体である炭素繊維ストランドのフィラメント数は、製造コストおよび生産工程における安定性の観点から、1,000~150,000本が好ましい。
【0037】
(D)ホスファゼン化合物
本発明のポリアミド樹脂組成物は、(A)ポリアミド樹脂100重量部に対して、(D)ホスファゼン化合物を5~35重量部配合してなる。かかるホスファゼン化合物を配合することにより、衝撃強さ、難燃性、流動性に優れたポリアミド樹脂を提供することができる。また、衝撃強さが向上することによりヒートサイクル時のクラックを抑制し、流動性が向上することにより成形時の残留応力が低下することから、成形品の耐ヒートサイクル性が向上する。耐ヒートサイクル性は、後述の方法により測定する。
【0038】
本発明において、(D)ホスファゼン化合物とは、分子中に-P=N-結合を有する化合物を表す。例えば、下記構造式(1)で示される構造を有する環状のホスファゼン化合物が挙げられる。
【0039】
【0040】
上記の一般式(1)中、nは1~1000の整数を表す。R1およびR2は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1以上18以下の直鎖状、分岐状または環状のアルキル基、炭素数1以上30以下の直鎖状、分岐状または環状のアルコキシル基、炭素数6以上30以下のアリール基または炭素数6以上30以下のアリールオキシ基を表す。
【0041】
上記の一般式(1)において、アルキル基としては、例えば、メチル基およびエチル基などが挙げられる。アルコキシル基としては、例えば、メトキシ基やエトキシ基などが挙げられる。アリール基としては、例えば、フェニル基などが挙げられる。アリールオキシ基としては、例えば、フェニルオキシ基などが挙げられる。nは3~30が好ましく、上記の一般式(1)で示される構造が環状に結合した環状ホスファゼン化合物を少なくとも含むことが好ましい。
【0042】
また、(D)ホスファゼン化合物は、架橋ホスファゼン化合物であってもよい。このような架橋ホスファゼン化合物は、例えば、上記の一般式(1)に示す鎖状または環状のホスファゼン化合物を2価の架橋基を介して架橋することにより得ることができ、下記一般式(2)で示される構造を有するホスファゼン化合物が挙げられる。
【0043】
【0044】
上記一般式(2)中、mおよびoは1~1000の整数を表す。R3およびR4は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1以上18以下の直鎖状、分岐状または環状のアルキル基、炭素数1以上30以下の直鎖状、分岐状または環状のアルコキシル基、炭素数6以上30以下のアリール基または炭素数6以上30以下のアリールオキシ基を表す。Xは2価の架橋基を表す。
【0045】
上記一般式(2)において、アルキル基としては、例えば、メチル基およびエチル基などが挙げられる。アルコキシル基としては、例えば、メトキシ基やエトキシ基などが挙げられる。アリール基としては、例えば、フェニル基などが挙げられる。アリールオキシ基としては、例えば、フェニルオキシ基などが挙げられる。
【0046】
上記一般式(2)において、Xは2価の架橋基を表しており、架橋基として-O-C6H4-O-の構造で示されるジアルコキシベンゼン基(o-ジアルコキシベンゼン基、m-ジアルコキシベンゼン基、p-ジアルコキシベンゼン基)、および次の一般式(3)で示されるビスフェニレン基などが挙げられる。2価の架橋基は、単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。前記の架橋ホスファゼン化合物は、例えば、特開2003-192792号公報の実施例1~7に記載の方法や、その他公知の方法で得ることができる。
【0047】
【0048】
一般式(3)中、Aは直接結合、-C(CH3)2-、-SO2-、-S-または-O-を表す。
【0049】
(D)ホスファゼン化合物は、合成したものを用いてもよいし、市販品を用いることもできる。ホスファゼン化合物は、『ホスファゼン化合物の合成と応用』(梶原鳴雪著、シーエムシー出版、1986年)などに記載されている公知の方法で合成することができる。例えば、リン源として五塩化リンあるいは三塩化リン、窒素源として塩化アンモニウムあるいはアンモニアガスを公知の方法で反応させ、または、それから得られる環状物を精製して、得られた物質をアルコール、フェノールおよびアミン類で置換することで合成することができる。また、市販品として、「HPCTP」(ハイケム株式会社製)などが好ましく用いられる。
【0050】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、上述のとおり、(D)ホスファゼン化合物を5~35重量部配合してなる。(D)ホスファゼン化合物の配合量は10~25重量部であるであることが好ましい。(D)ホスファゼン化合物の配合量の下限値は、(A)ポリアミド樹脂100重量部に対して、5重量部以上である必要があり、10重量部を超えることが好ましい。上限としては、35重量部以下である必要があり、25重量部以下が好ましい。(A)ポリアミド樹脂100重量部に対して、5重量部未満では、難燃性、流動性が低下し、35重量部を超えると、押出溶融混練時や射出成形時に熱分解によりガスが発生するとともに低粘度化するため、押出加工性および射出成形時の計量性が低下するほか、難燃性、耐ヒートサイクル性も低下する。
【0051】
本発明のポリアミド性樹脂組成物には、その特性を損なわない範囲で、必要に応じて、前記(A)成分~(D)成分以外の成分を配合しても構わない。
【0052】
例えば、その特性を損なわない範囲で、必要に応じて、(A)ポリアミド樹脂以外の熱可塑性樹脂を配合してもよい。(A)ポリアミド樹脂以外の熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエステル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリスルホン樹脂、四フッ化ポリエチレン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリチオエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂やABS樹脂等のスチレン系樹脂、ポリアルキレンオキサイド樹脂等が挙げられる。かかる熱可塑性樹脂を2種以上配合することも可能である。かかる熱可塑性樹脂を用いる場合、その配合量は、特に制限はないが、(A)成分~(D)成分の合計100重量部に対して、0.01~20重量部が好ましい。
【0053】
また、本発明のポリアミド樹脂組成物には、その特性を損なわない範囲で、必要に応じて、ゴム質重合体を配合してもよい。ゴム質重合体とは、ガラス転移温度が室温より低い重合体であって、分子間の一部が共有結合・イオン結合・ファンデルワールス力・絡み合い等により、互いに拘束されている重合体を指す。ゴム質重合体としては、例えば、ポリブタジエン、ポリイソプレン、スチレン/ブタジエンのランダム共重合体およびブロック共重合体、該ブロック共重合体の水素添加物、アクリロニトリル/ブタジエン共重合体、ブタジエン/イソプレン共重合体などのジエン系ゴム、エチレン/プロピレンのランダム共重合体およびブロック共重合体、エチレン/ブテンのランダム共重合体およびブロック共重合体、エチレン/α-オレフィンの共重合体、エチレン/アクリル酸エステル、エチレン/メタクリル酸エステルなどのエチレン/不飽和カルボン酸エステル共重合体、ブチルアクリレート/ブタジエン共重合体などのアクリル酸エステル/ブタジエン共重合体、エチレン/酢酸ビニル共重合体などのエチレン/脂肪酸ビニル共重合体、エチレン/プロピレン/エチリデンノルボルネン共重合体、エチレン/プロピレン/ヘキサジエン共重合体などのエチレン/プロピレン/非共役ジエン3元共重合体、ブチレン/イソプレン共重合体、塩素化ポリエチレン、ポリアミドエラストマー、ポリエステルエラストマーなどの熱可塑性エラストマーなどが挙げられる。これらの中でも、(A)ポリアミド樹脂との相溶性の観点から、エチレン/不飽和カルボン酸エステル共重合体が好ましく用いられる。不飽和カルボン酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸エステルが挙げられ、好ましくは(メタ)アクリル酸とアルコールとのエステルである。(メタ)アクリル酸エステルの具体的な例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸-2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ステアリル等が挙げられる。
【0054】
前記ゴム質重合体は、(A)ポリアミド樹脂との反応性の観点から、反応性官能基を有することが好ましい。反応性官能基としては、例えば、エポキシ基、酸無水物基、アミノ基、カルボキシル基、カルボキシル金属塩、オキサゾリン基、水酸基、イソシアネート基、メルカプト基、スルホン酸基等が挙げられる。これらを2種以上有してもよい。これらの中でも、エポキシ基、酸無水物基、アミノ基、カルボキシル基、カルボキシル金属塩、オキサゾリン基は反応性が高く、しかも分解、架橋などの副反応が少ないため好ましく用いられる。反応性官能基をゴム質重合体に導入する方法としては、通常公知の技術が挙げられ、特に制限はないが、例えば、反応性官能基を有する単量体とゴム質重合体の原料である単量体とを共重合する方法、反応性官能基を有する化合物をゴム質重合体にグラフトさせる方法などを用いることができる。
【0055】
かかるゴム質重合体を2種類以上配合することも可能である。かかるゴム質重合体を用いる場合、その配合量は、特に制限はないが、(A)成分~(D)成分の合計100重量部に対して、0.01~20重量部が好ましい。
【0056】
また、本発明のポリアミド樹脂組成物には、その特性を損なわない範囲で、必要に応じて、(C)無機繊維状充填材以外の無機充填材を配合してもよい。(C)無機繊維状充填材以外の無機充填材としては、例えば、ワラステナイト、ゼオライト、セリサイト、カオリン、マイカ、クレー、パイロフィライト、ベントナイト、アスベスト、タルク、アルミナシリケートなどの金属珪酸塩、アルミナ、酸化珪素、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化鉄などの金属酸化物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイトなどの炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどの金属硫酸塩、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウムなどの金属水酸化物、ガラスビーズ、セラミックビーズ、窒化ホウ素および炭化珪素などの無機非繊維状充填材が挙げられ、これらは中空であってもよい。また、これら無機充填材は、イソシアネート系化合物、有機シラン系化合物、有機チタネート系化合物、有機ボラン系化合物、エポキシ化合物などのカップリング剤で予備処理されていてもよい。かかる無機充填材は2種類以上併用することも可能である。かかる無機充填材を用いる場合、その配合量は、特に制限はないが、(A)成分~(D)成分の合計100重量部に対して、0.01~20重量部が好ましい。
【0057】
また、本発明のポリアミド樹脂組成物には、その特性を損なわない範囲で、必要に応じて、各種添加剤を配合してもよい。各種添加剤としては、例えば、結晶核剤、着色防止剤、酸化防止剤(熱安定剤)、耐候剤、離型剤、可塑剤、滑剤、染料系着色剤、顔料系着色剤、帯電防止剤、難燃剤、発泡剤などを挙げることができる。これらを2種以上配合してもよい。その配合量に特に制限はないが、(A)成分~(D)成分の合計100重量部に対して、0.01~20重量部が好ましい。
【0058】
酸化防止剤(熱安定剤)としては、ヒンダードフェノール系化合物、ヒンダードアミン系化合物、ヒドロキノン系化合物、リン系化合物およびこれらの置換体、ハロゲン化銅、ヨウ化化合物などが好ましく使用される。特にヒンダードフェノール系化合物、リン系化合物が好ましく用いられる。
【0059】
ヒンダードフェノール系化合物の具体例としては、トリエチレングリコール-ビス[3-t-ブチル-(5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N,N’-ヘキサメチレンビス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシ-ヒドロシンナミド)、N,N’-ヘキサメチレンビス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオンアミド]、テトラキス[メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、ペンタエリスリチルテトラキス[3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,3,5-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-s-トリアジン-2,4,6-(1H,3H,5H)-トリオン、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)ブタン、4,4’-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、n-オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシ-フェニル)プロピオネート、3,9-ビス[2-(3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ)-1,1-ジメチルエチル]-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼンなどが挙げられる。中でも、アミド型高分子ヒンダードフェノールタイプが好ましく、具体的には、N,N’-ヘキサメチレンビス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオンアミド]が好ましく用いられる。
【0060】
リン系化合物の具体例としては、ビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトール-ジ-ホスファイト、ビス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ペンタエリスリトール-ジ-ホスファイト、ビス(2,4-ジ-クミルフェニル)ペンタエリスリトール-ジ-ホスファイト、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト、テトラキス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)-4,4’-ビスフェニレンホスファイト、ジ-ステアリルペンタエリスリトール-ジ-ホスファイト、トリフェニルホスファイトなどのホスファイト系化合物;3,5-ジ-ブチル-4-ヒドロキシベンジルホスフォネートジエチルエステルなどが挙げられる。
【0061】
耐候剤としては、レゾルシノール系化合物、サリシレート系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物、ヒンダードアミン系化合物などが好ましく使用される。
【0062】
離型剤としては、脂肪族アルコール、脂肪族アミド、脂肪族ビスアミド、エチレンビスステアリルアミドや高級脂肪酸エステルなどが好ましく使用される。
【0063】
可塑剤としては、p-オキシ安息香酸オクチル、N-ブチルベンゼンスルホンアミドなどが好ましく使用される。
【0064】
染料系着色剤としては、ニグロシン、アニリンブラックなどが好ましく使用される。
【0065】
顔料系着色剤としては、硫化カドミウム、フタロシアニン、カーボンブラックなどが好ましく使用される。
【0066】
帯電防止剤としては、アルキルサルフェート型アニオン系帯電防止剤、4級アンモニウム塩型カチオン系帯電防止剤、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレートなどの非イオン系帯電防止剤、ベタイン系両性帯電防止剤などが好ましく使用される。
【0067】
本発明のポリアミド樹脂組成物を製造する方法としては、溶融状態での製造や溶液状態での製造等が使用でき、生産性の観点から、溶融状態での製造が好ましく使用できる。溶融状態での製造については、押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、ミキシングロールによる溶融混練等が使用でき、生産性の点から、連続的に製造可能な押出機による溶融混練が好ましく使用できる。押出機としては、単軸押出機、二軸押出機、四軸押出機等の多軸押出機、二軸単軸複合押出機等が挙げられる。これらの押出機を複数組み合わせてもよい。混練性、反応性、生産性の向上の点から、二軸押出機、四軸押出機等の多軸押出機が好ましく、二軸押出機がより好ましい。
【0068】
二軸押出機を用いた溶融混練方法としては、例えば、(A)ポリアミド樹脂と、(B)水酸化マグネシウム、(C)無機繊維状充填材、(D)ホスファゼン化合物および必要に応じて(A)成分~(D)成分以外の成分を予備混合して、シリンダー温度が(A)ポリアミド樹脂の融点以上に設定された二軸押出機に供給して溶融混練する手法が挙げられる。原料の混合順序に特に制限はなく、全ての原料を上記の方法により溶融混練する方法、一部の原料を上記の方法により溶融混練し、さらに残りの原料を配合して溶融混練する方法、あるいは一部の原料を溶融混練中にサイドフィーダーを用いて残りの原料を混合する方法など、いずれの方法を用いてもよい。(A)ポリアミド樹脂と、(B)水酸化マグネシウム、(D)ホスファゼン化合物および必要により(A)成分~(D)成分以外のその他成分を押出機根元(原材料が供給される側を上流、溶融樹脂が吐出される側を下流とし、スクリューの上流側端部の位置)から投入して溶融混練後、サイドフィーダーを用いて(C)無機繊維状充填材を押出機途中から投入し、溶融混練する方法が好ましい。また押出機途中で真空状態に曝して発生するガスを除去する方法も好ましく使用される。
【0069】
本発明の成形品は、本発明のポリアミド樹脂組成物からなる。
【0070】
本発明の成形品は、本発明のポリアミド樹脂組成物を、例えば、通常の成形方法(射出成形、押出成形、プレス成形、ブロー成形、インジェクションプレス成形など)により、溶融成形することにより得ることができる。なかでも量産性の点から射出成形、インジェクションプレス成形により成形することが好ましく、射出成形により成形することが最も好ましい。
【0071】
本発明の成形品は、ISO22007-2に準拠したホットディスク法にて測定した熱伝導率が0.8W/(m・K)以上であることが好ましい。これにより、ポリアミド樹脂組成物からなる成形品が、電気自動車のバッテリーの高容量化、モーターの高出力化に伴い放熱性が求められた製品にも適用可能となる。熱伝導率を上記範囲とする方法としては、例えば、放熱性を有する水酸化マグネシウムの量を増やす方法などが挙げられる。熱伝導率の上限は特に限定されないが、通常、2.5W/(m・K)程度である。
【0072】
本発明の成形品は、UL94に準拠した方法にて測定した燃焼性が試験片厚み1.5mm以下においてV-0であることが好ましく、0.8mm以下においてV-0であることがさらに好ましい。ここで、UL94とは、米国Under Writer Laboratories Incで定められた規格である。これにより、ポリアミド樹脂組成物からなる成形品が、難燃性が求められ、かつ軽量化を目的とした薄肉部を含む製品にも適用可能となる。試験片厚み1.5mm以下においてV-0の難燃性を発現する方法としては、例えば、難燃剤である水酸化マグネシウムやホスファゼン、および不燃成分である無機繊維状充填材の配合量を増やす方法や、燃焼成分であるポリアミド樹脂の配合量を減らす方法などが挙げられる。
【0073】
本発明の成形品は、IEC60112(2003)に準拠した方法にて測定した耐トラッキング性が600V以上であることが好ましい。耐トラッキング性を上記範囲とすることにより、成形品がより高電圧に耐えることができることから沿面距離の短縮が可能となり、最終製品の小型化に寄与することができる。耐トラッキング性を上記範囲とする方法としては、例えば、耐トラッキング性に優れるポリアミド樹脂の配合量を増やす方法などが挙げられる。
【0074】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、ポリアミド樹脂が本来有する優れた機械的強度、耐トラッキング性を大きく損なうことなく、熱伝導率、流動性、難燃性に優れることから、薄肉部を含む成形品および金属インサート成形品、特に電気・電子部品や自動車・車両関連部品などへ適用できる。
【0075】
その他、本発明のポリアミド樹脂組成物の適用可能な用途としては、例えば、バッテリーやモーター、パワーコントロールユニット、センサー類の周辺部品などに代表される電気自動車向けの電装部品、燃料関係・冷却系・ブレーキ系・ワイパー系・排気系・吸気系各種パイプ・ホース・チューブ、エアーインテークノズルスノーケル、インテークマニホールド、燃料ポンプ、燃料タンク、エンジン冷却水ジョイント、キャブレターメインボディー、キャブレタースペーサー、排気ガスセンサー、冷却水センサー、油温センサー、ブレーキパットウェアーセンサー、スロットルポジションセンサー、クランクシャフトポジションセンサー、エアーフローメーター、ブレーキパッド摩耗センサー、電池周辺部品、エアコン用サーモスタットベース、暖房温風フローコントロールバルブ、ラジエーターモーター用ブラッシュホルダー、ウォーターポンプインペラー、タービンベイン、ワイパーモーター関係部品、デュストリビューター、スタータースイッチ、スターターリレー、トランスミッション用ワイヤーハーネス、トランスミッション用オイルパン、トランスミッション用オイルフィルター、ウィンドウォッシャーノズル、エアコンパネルスイッチ基板、燃料関係電磁気弁用コイル、ワイヤーハーネスコネクター、SMJコネクター、プリント基板コネクター、ドアグロメットコネクター、ヒューズ用コネクター等の各種コネクター、ホーンターミナル、電装部品絶縁板、ステップモーターローター、ランプソケット、ランプリフレクター、ランプハウジング、ブレーキピストン、ソレノイドボビン、エンジンオイルパン、エンジンオイルフィルター、点火装置ケース、トルクコントロールレバー、安全ベルト部品、レジスターブレード、ウォッシャーレバー、ウインドレギュレーターハンドル、ウインドレギュレーターハンドルのノブ、パッシングライトレバー、サンバイザーブラケット、インストルメントパネル、エアバッグ周辺部品、ドアパッド、ピラー、コンソールボックス、各種モーターハウジング、ルーフレール、フェンダー、ガーニッシュ、ルーフパネル、フードパネル、トランクリッド、ドアミラーステー、スポイラー、フードルーバー、ホイールカバー、ホイールキャップ、グリルエプロンカバーフレーム、ランプベゼル、ドアハンドル、ドアモール、リアフィニッシャー、ワイパーなどの自動車・車両関連周辺の電気部品、コネクター、リレーケース、リレーベース、リレー用スプール、スイッチ、コイル、センサー、各種ギヤ、LEDランプ、ソケット、抵抗器、コイルボビン、コンデンサー、バリコンケース、光ピックアップ、発振子、各種端子板、変成器、プラグ、プリント基板、チューナー、スピーカー、マイクロフォン、ヘッドフォン、小型モーター、磁気ヘッドベース、パワーモジュール、半導体、液晶、フロッピーディスクドライブキャリッジ、フロッピーディスクドライブシャーシ、モーターブラッシュホルダー、パラボラアンテナ、サーマルプロテクター、コンピューター関連部品などに代表される電子部品、発電機、電動機、変圧器、変流器、電圧調整器、整流器、インバーター、継電器、電力用接点、開閉器、遮断機、ナイフスイッチ、他極ロッド、電気部品キャビネットなどの電気機器部品、VTR部品、テレビ部品、アイロン、ヘアードライヤー、炊飯器部品、電子レンジ部品、音響部品、オーディオ・レーザーディスク(登録商標)・コンパクトディスクなどの音声機器、照明部品、冷蔵庫部品、エアコン部品、タイプライター部品、ワードプロセッサー部品、パソコン部品、パソコン筐体、携帯電話部品、携帯電話筐体、スマートフォン部品、スマートフォン筐体、電池部品、電池筐体などに代表される家庭・事務用電気製品部品、オフィスコンピューター関連部品、電話機関連部品、ファクシミリ関連部品、複写機関連部品、洗浄用治具、オイルレス軸受、船尾軸受、水中軸受などの各種軸受、モーター部品、ライター、タイプライターなどに代表される機械関連電気部品、顕微鏡部品、双眼鏡部品、カメラ部品、時計部品などに代表される光学機器・精密機械関連電気部品、オルタネーターターミナル、オルタネーターコネクター、ICレギュレーター、ライトディマー用ポテンショメーターベース、排気ガスバルブなどの各種バルブ周辺の電気部品、などに用いることができ、特にコネクター、リレー、スイッチ、パソコン筐体、携帯電話筐体、電池筐体などに有用である。
【実施例0076】
以下、実施例により本発明をさらに詳述するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。特性評価は下記の方法に従って行った。
【0077】
[参考例で製造したポリアミド樹脂の評価方法]
(1)融点
ロボットDSC-RDC220(セイコーインスツル社製)を用い、試料を約5mg採取し、窒素雰囲気下、次の条件で測定した。融点+40℃に昇温して溶融状態とした後、20℃/分の降温速度で、30℃まで降温し、30℃で3分間保持した後、20℃/分の昇温速度で融点+40℃まで昇温したときに観測される吸熱ピークの温度(融点:Tm)を求めた。
【0078】
(2)引張強さ
各実施例および比較例により得られた樹脂組成物ペレットを80℃にて真空乾燥し、”EC75”射出成形機(芝浦機械株式会社製)に供し、シリンダー温度:280℃、金型温度:80℃、射出速度:23mm/秒、保圧:50MPa、冷却時間:15秒の条件で、ISO 20753(2008)に規定されるタイプA1試験片を射出成形した。得られた成形品を用いて、ISO527-1、-2に従って試料標点間距離64mm、引張速度5mm/min.で引張強さを測定した。測定はそれぞれ5本の試験片について行い、数平均値を算出した。
【0079】
(3)衝撃強さ
上記成形条件で得られたISO 20753(2008)に規定されるタイプA1試験片の平行部から、長さ80mm×幅10mm×厚さ4mmのシャルピー衝撃試験片(ノッチ有り)を切り出した。このシャルピー衝撃試験片を用いて、ISO179に従ってシャルピー衝撃強さ(ノッチ有り)を測定した。測定はそれぞれ7本の試験片について行い、数平均値を算出した。
【0080】
(4)熱伝導率
各実施例および比較例により得られた樹脂組成物ペレットを80℃にて真空乾燥し、”EC75”射出成形機(芝浦機械株式会社製)に供し、シリンダー温度:280℃、金型温度:80℃、下限圧(最低充填圧力)+10MPaの条件で、射出成形して角板成形品(80mm×80mm×厚み3mm、フィルムゲート)を作製した。この成形品を用いて、“TPS-2500S”(京都電子工業株式会社製)によりISO22007-2に従って熱伝導率をホットディスク法で測定した。測定はそれぞれ3回実施し、数平均値を算出した。
【0081】
(5)難燃性
難燃性は、以下のUL94に準拠した方法にて測定した燃焼性により評価した。すなわち、各実施例および比較例により得られた樹脂組成物ペレットを80℃にて真空乾燥し、”SE50EV”射出成形機(住友重機械工業株式会社製)に供し、シリンダー温度:280℃、金型温度:80℃、下限圧(最低充填圧力)+10MPaの条件で、射出成形して角板成形品(13mm×125mm×厚み0.8mm、フィルムゲートおよび、13mm×125mm×厚み1.5mm、ピンゲート)を作製した。この成形品を用いて、UL94垂直試験に定められている評価基準に従い、難燃性を評価した。難燃性はV-0>V-1>V-2の順に低下しランク付けされる。また、難燃性に劣り上記V-2に達せず、上記難燃性ランクに該当しなかった材料は規格外(V-out)とした。
【0082】
(6)耐トラッキング性
各実施例および比較例により得られた樹脂組成物ペレットを80℃にて真空乾燥し、”EC75”射出成形機(芝浦機械株式会社製)に供し、シリンダー温度:280℃、金型温度:80℃、下限圧(最低充填圧力)+10MPaの条件で、射出成形して角板成形品(80mm×80mm×厚み3mm、フィルムゲート)を作製した。この成形品を用いて、IEC60112(2003)に準拠して、トラッキング破壊が生じない最大電圧を測定した。電解液は0.1%塩化アンモニウム水溶液を用いた。この最大電圧が大きいほど耐トラッキング性に優れ、600Vが好ましい。
【0083】
(7)押出加工性
各実施例および比較例の配合組成で二軸押出機上流の原料供給口から各原料を投入して溶融混練し、押し出されたストランドをペレタイズしてペレット状の樹脂組成物を得た。30分以上の連続生産が可能であり、かつストランド切れが5分に1度未満の頻度で発生する場合はA、10分から30分の間に原料の供給が止まる、あるいはストランド切れが1分から5分に1度以上の頻度で発生する場合はB、10分以内に原料の供給が止まる、あるいはストランド切れが1分に1度以上の頻度で発生する場合はCと判定した。
【0084】
(8)流動性
各実施例および比較例により得られた樹脂組成物ペレットを80℃にて真空乾燥し、”EC75”射出成形機(芝浦機械株式会社製)に供し、シリンダー温度:280℃、金型温度:80℃、射出圧力:100MPa、射出速度:100mm/min.の条件で成形した時の幅10mm、厚み1mmの成形品の流動長を測定した。測定はそれぞれ10回行い、数平均値を算出した。この流動長が大きいほど成形性に優れる。
【0085】
(9)耐ヒートサイクル性
各実施例および比較例により得られた樹脂組成物を用いて、住友重機械工業株式会社製射出成形機SE50-DUZを用い、シリンダー温度280℃、金型温度80℃の条件で、金属ブロック(S45C)に対して厚み1.5mmで樹脂組成物をオーバーモールドした金属インサート成形品を得た。得られた金属インサート成形品を130℃×1時間で処理後、-40℃×1時間で処理することを1回として、TSA-73ES-W(エスペック株式会社製)を用いて冷熱衝撃処理し、2回毎に目視によりクラックの発生有無を確認した。クラック発生が認められた冷熱衝撃処理数を耐ヒートサイクル性とした。クラック発生までの処理回数が多いほど耐ヒートサイクル性(耐冷熱衝撃性)に優れ、好ましい。
【0086】
本実施例および比較例に用いた(A)ポリアミド樹脂、(B)水酸化マグネシウム、(B’)(B)成分に該当しない無機充填材、(C)無機繊維状充填材、(D)ホスファゼン化合物、(D’)(D)成分に該当しない難燃剤は以下の通りである。
【0087】
(A)ポリアミド樹脂
(A-1):融点228℃、ISO307に準拠して測定した粘度数が85ml/gであるポリアミド66/6I/6(=76/17/7重量部)樹脂
(A-2):融点225℃、ISO307に準拠して測定した粘度数が108ml/gであるポリアミド6樹脂
(A-3):融点263℃、ISO307に準拠して測定した粘度数が117ml/gであるポリアミド66樹脂
(A-4):融点225℃、ISO307に準拠して測定した粘度数が112ml/gであるポリアミド610樹脂
(A-5):融点220℃、ISO307に準拠して測定した粘度数が85ml/gであるポリアミド66/6I(=70/30重量部)樹脂。
【0088】
(B)水酸化マグネシウム
(B-1):平均一次粒子径が0.7μm、ゆるめかさ密度が0.6g/mLの水酸化マグネシウム「“KISUMA”(登録商標)5EU」(協和化学工業株式会社製)
(B-2):平均一次粒子径が4.0μm、ゆるめかさ密度が0.6g/mLの水酸化マグネシウム「“ジュンマグ”(登録商標)4S」(株式会社ファイマテック製)
(B-3):平均一次粒子径が15.0μmゆるめかさ密度が0.6g/mLの水酸化マグネシウム「サンプルA」
(B-4):平均一次粒子径が0.05μm、ゆるめかさ密度が0.6g/mLの水酸化マグネシウム「サンプルB」
(B-5):平均一次粒子径が0.7μm、ゆるめかさ密度が0.2g/mLの水酸化マグネシウム「“KISUMA”(登録商標)5P」(協和化学工業株式会社製)。
(B’)(B)成分に該当しない無機充填材
(B’-1):平均一次粒子径が21.0μm、ゆるめかさ密度が1.16g/mLの炭酸マグネシウム「“マグサーモ”(登録商標)MS-PS」(神島化学株式会社製)。
【0089】
(C)無機繊維状充填材
(C-1):チョップドストランド「ECS10-03-568H」(巨石JAPAN株式会社製)
(C-2):チョップドストランド「T-275H」(日本電気硝子株式会社製)。
【0090】
(D)ホスファゼン化合物
(D-1):「HPCTP」(ハイケム株式会社製)。
【0091】
(D’)(D)成分に該当しない難燃剤
(D’-1):「OP1312」(クラリアントジャパン株式会社製)
(D’-2):「MC25」(イタルマッチ社製)
(D’-3):「PATOX-MK」(日本精鉱株式会社製)
(D’-4):「“SAYTEX”(登録商標)HP-7010G」(アルベマール日本株式会社製)。
【0092】
(実施例1~15、比較例1~7)
表1、2、3に示す配合組成で二軸押出機上流の原料供給口から各原料を投入して溶融混練し、押し出されたストランドをペレタイズしてペレット状の樹脂組成物を得た。二軸押出機は株式会社日本製鋼所社製のTEX44αIIを使用し、シリンダー温度をポリアミド樹脂の融点+15℃、スクリュー回転数を転数は185rpm、吐出量は160kg/hrで溶融混練を行った。各実施例および比較例の評価結果を表1~3に示す。
【0093】
【0094】
【0095】
【0096】
表1、2に示す実施例1~15より、(B)水酸化マグネシウム、(C)無機繊維状充填材および(D)ホスファゼン化合物を特定量含有していることにより、引張強さ、衝撃強さ、熱伝導率、難燃性、耐トラッキング性、流動性、耐ヒートサイクル性に優れることがわかる。
【0097】
表1に示す実施例2は、実施例1から(C)無機繊維状充填材の種類を変更している。(C)無機繊維状充填材の種類によらず、引張強さ、衝撃強さ、熱伝導率、難燃性、耐トラッキング性、流動性、耐ヒートサイクル性に優れることがわかる。
【0098】
表1に示す実施例3~6は、実施例1から(D)ホスファゼン化合物の含有量を変更している。(D)ホスファゼン化合物の含有量が少ないほど、引張強さが向上する一方で、衝撃強さ、難燃性、流動性が低下する。(D)ホスファゼン化合物の含有量が多いほど、衝撃強さ、流動性が向上する一方で、引張強さが低下することがわかる。
【0099】
表1に示す実施例7および表2に示す実施例8は、実施例1から(B)水酸化マグネシウムの平均一次粒子径を変更している。平均一次粒子径を大きくすると熱伝導率、流動性が向上する一方で、引張強さ、衝撃強さが低下することがわかる。
【0100】
表2に示す実施例9は、実施例1から(B)水酸化マグネシウムの平均一次粒子径を変更している。平均一次粒子径を小さくすると引張強さ、衝撃強さが向上する一方で、熱伝導率、押出加工性、流動性が低下することがわかる。押出加工性では、ストランド切れが頻繁に発生した。
【0101】
表2に示す実施例10は、実施例1から(B)水酸化マグネシウムのゆるめかさ密度を変更している。ゆるめかさ密度を小さくすると押出加工性が低下することがわかる。押出加工性では、原料の搬送性が低下した。
【0102】
表2に示す実施例11~15は、実施例1から(A)ポリアミド樹脂の種類を変更している。ポリアミド6樹脂、ポリアミド66樹脂およびポリアミド610樹脂を使用すると、引張強さ、衝撃強さ、流動性が低下することがわかる。特に、ポリアミド66樹脂およびポリアミド610樹脂を使用すると、押出時の樹脂の流動性が低下し、トルクが高くなる。ポリアミド66/6I樹脂を使用すると、引張強さ、衝撃強さ、流動性が低下することがわかる。
【0103】
表3に示す比較例1は、実施例1から(D)ホスファゼン化合物を除いている。(D)ホスファゼン化合物を用いていないため、難燃性が劣っており、押出時のトルクが高くなり押出加工性も低下、流動性も低下することがわかる。また、耐ヒートサイクル性は不十分なものであった。
【0104】
表3に示す比較例2は、実施例1から(D)ホスファゼン化合物を除き、(B)水酸化マグネシウムの含有量を増加させている。1.5mmで優れた難燃性を有するが、0.8mmでは難燃性不足であり、引張強さ、衝撃強さ、押出加工性、流動性にも劣ることがわかる。また、耐ヒートサイクル性は著しく低い。
【0105】
表3に示す比較例3は、実施例1から(B)水酸化マグネシウムを炭酸マグネシウムに変更している。難燃性、耐ヒートサイクル性に劣ることがわかる。
【0106】
表3に示す比較例4は、実施例1から(B)水酸化マグネシウムおよび(C)無機繊維状充填材を減らし、(D)ホスファゼン化合物を増やしている。引張強さ、衝撃強さ、熱伝導率、押出加工性、耐ヒートサイクル性に劣ることがわかる。
【0107】
表3に示す比較例5~7は、実施例1から(D)ホスファゼン化合物の代わりに(D)成分に該当しない難燃剤を使用している。ホスファゼン化合物以外の難燃剤を使用すると、引張強さ、衝撃強さ、難燃性、押出加工性、耐ヒートサイクル性に劣ることがわかる。
本発明の樹脂組成物は、ポリアミド樹脂が本来有する優れた機械的強度、耐トラッキング性を大きく損なうことなく、難燃性、熱伝導率、流動性に優れるため、薄肉部を含み、放熱性、難燃性を要求される自動車部品や電気・電子部品などの成形品に好適である。さらに、前記特性に加えて耐ヒートサイクル性に優れることから、金属インサート成形に好適に用いることができる。