(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025163743
(43)【公開日】2025-10-30
(54)【発明の名称】芳香族ポリアミドフィルムおよび芳香族ポリアミドフィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J   5/18        20060101AFI20251023BHJP        
   B29C  55/06        20060101ALI20251023BHJP        
   G11B   5/73        20060101ALI20251023BHJP        
   G11B   5/78        20060101ALI20251023BHJP        
【FI】
C08J5/18 CFG
B29C55/06 
G11B5/73 
G11B5/78 
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024067231
(22)【出願日】2024-04-18
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】佐藤  信行
【テーマコード(参考)】
4F071
4F210
【Fターム(参考)】
4F071AA56
4F071AF55
4F071AG28
4F071AG34
4F071AH14
4F071BA02
4F071BB02
4F071BB08
4F071BC01
4F210AA29
4F210AG01
4F210AH38
4F210AJ05
4F210AR06
4F210AR11
4F210QA03
4F210QC02
4F210QG01
4F210QG18
4F210QM08
4F210QM15
(57)【要約】
【課題】磁気テープ用芳香族ポリアミドフィルムにおいて、磁性層等の塗布ムラの発生を抑制する。
【解決手段】少なくとも一方の表面が、質量分析計により測定される芳香族ポリアミド基本骨格に由来するフラグメントのピーク強度(K)に対する、ポリジメチルシロキサンに由来するフラグメントのピーク強度(P)の比(P/K)が0.20以下である磁気記録材料テープのベースに使用する芳香族ポリアミドフィルム。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一方の表面が、質量分析計により測定される芳香族ポリアミド基本骨格に由来するフラグメントのピーク強度(K)に対する、ポリジメチルシロキサンに由来するフラグメントのピーク強度(P)の比(P/K)が0.20以下である磁気記録材料テープのベースに使用する芳香族ポリアミドフィルム。
【請求項2】
溶液製膜においてフィルムを複数の延伸ロールの周速差でフィルムの走行方向に延伸する工程を有する芳香族ポリアミドフィルムの製造方法であって、前記延伸ロールはフィルムを押圧する芯金上にシリコーンゴムが被覆されたニップロールを備えてなり、前記ニップロールは、雰囲気温度Tが150度以上300度未満で、ニップロールのロール幅方向中央で測定した、ロール表面に積層されたシリコーンゴムの厚さ方向での平均温度が温度Tに到達してから温度Tにて処理時間tが10時間以上20時間以下経化後に、ニップロール表面のポリジメチルシロキサンを除去されたニップロールである芳香族ポリアミドフィルムの製造方法。
【請求項3】
ニップロール表面のポリジメチルシロキサンの除去が、ニップロールを加熱処理した後にニップロール表面を研磨しニップロール表面に析出したポリジメチルシロキサンを除去する工程を含む請求項2に記載の芳香族ポリアミドフィルムの製造方法。
         
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
  本発明は、テラバイト級の高記録容量が必要とされる磁気記録媒体用途、特に磁気テープ用途に最適な、磁性層および/またはバックコート層の塗布ムラ抑制に優れた芳香族ポリアミドフィルムおよび芳香族ポリアミドフィルムの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
  近年、テラバイト級の情報を高速に伝達するための手段が著しく発達し、莫大な情報をもつ画像およびデータ転送が可能となる一方、それらを記録、再生および保存するための高度な技術が要求されるようになってきた。記録媒体、再生媒体には、フレキシブルディスク、磁気ドラム、ハードディスクおよび磁気テープ(以下、本発明の磁気記録媒体とも称する)が挙げられるが、特に、磁気テープは1巻あたりの記録容量が大きく、ハードディスク等と比較して管理コストが安価なためデータバックアップ用、アーカイブ用途としてその役割を担うところが大きい。また、ビッグデータの取り扱いにより、磁気テープの使用用途の広がりによる幅広い環境条件下(特に、高温高湿条件下など)でのデータ保存に対する信頼性、更に高速での繰り返し使用による多数回走行におけるデータの安定した記録、読み出し等の性能に対する信頼性、磁気テープカートリッジの1巻あたりの記録容量の増大により長尺及び薄手化なども従来に増して要求される。磁気テープは、一般に各層の塗布液を調製する工程、得られた塗布液を非磁性支持体上に塗布する工程、乾燥工程、カレンダー処理(平滑化処理)工程、所定の寸法に裁断する加工工程、そして得られたテープをカートリッジに巻き込む包装工程を経て製造される。
【0003】
  前記磁気テープに至る工程においては、原反ロールから引き出されたフィルムの処理がその処理工程に応じて一定の張力下で実施されるため、フィルムが長手方向に伸ばされ易く、また製造後時間の経過と共に、カートリッジに巻き込まれた磁気テープが徐々に収縮して巻き締まりが生じ、テープが変形し易いとの問題がある。このような問題を解決するために、特許文献1および2では、PET、PENと比較して高強度ゆえに薄手化、長尺化が可能なポリアミドフィルムを非磁性支持体として用いることで、フィルム長手方向、幅方向および厚み方向の熱膨張係数や湿度膨張係数に代表される可逆的な寸法変化を抑制することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
               【特許文献1】特開2004-67872号公報(2004年3月4日公開)
               【特許文献2】特開平9-71669号公報(1997年3月18日公開)
               【特許文献3】特開2020-146889号公報(2020年9月17日公開)
               【特許文献4】特開2020-192805号公報(2020年12月3日公開)
             
【0005】
  更なるデータストレージシステムの高容量化へのニーズに対して、カートリッジ1巻中のテープ長さを長く巻くため、更なる磁気テープの薄手化が進んでいる。
【0006】
  更なる薄膜化に伴い、支持体に塗布する磁性層および非磁性層の総厚さも薄膜化となったことで、塗布ムラが顕在化した。
【0007】
  この塗布ムラは、光透過にて視認できる、長径1mm以上の円形状であり、磁気記録媒体として使用した場合に、ドライブヘッドを摩耗させる懸念があった。
塗布ムラの発生は、シリコーンゴムが被覆されたニップロールから付着したシリコーンゴム由来のポリジメチルシロキサンが原因であった。
【0008】
  一般的にシリコーンゴムは、シロキサン結合からなるシリコーンの主骨格によって構成されている。
【0009】
  シリコーンゴムが被膜されたニップロール表面からフィルム表面に転写されるポリジメチルシロキサン量を制御する技術として、特許文献3および4では、事前にシリコーンゴムが被膜されたニップロールを加熱処理する方法が提示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
  しかしながら、特許文献3および4は、溶融製造工程特有の方法であり、製造工程でニップロールを加熱しない溶液製膜においてポリジメチルシロキサンの転写を防ぎ、塗布ムラの発生を抑制することが望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0011】
  掛かる問題を解決するために、本発明は以下の構成からなる。
(1)少なくとも一方の表面が、質量分析計により測定される芳香族ポリアミド基本骨格に由来するフラグメントのピーク強度(K)に対する、ポリジメチルシロキサンに由来するフラグメントのピーク強度(P)の比(P/K)が0.20以下である磁気記録材料テープのベースに使用する芳香族ポリアミドフィルム
(2)溶液製膜においてフィルムを複数の延伸ロールの周速差でフィルムの走行方向に延伸する工程を有する芳香族ポリアミドフィルムの製造方法であって、前記延伸ロールはフィルムを押圧する芯金上にシリコーンゴムが被覆されたニップロールを備えてなり、前記ニップロールは、雰囲気温度Tが150度以上300度未満で、ニップロールのロール幅方向中央で測定した、ロール表面に積層されたシリコーンゴムの厚さ方向での平均温度が温度Tに到達してから温度Tにて処理時間tが10時間以上20時間以下経化後に、ニップロール表面のポリジメチルシロキサンを除去されたニップロールである芳香族ポリアミドフィルムの製造方法。
(3)ニップロール表面のポリジメチルシロキサンの除去が、ニップロールを加熱処理した後にニップロール表面を研磨しニップロール表面に析出したポリジメチルシロキサンを除去する工程を含む(2)に記載の芳香族ポリアミドフィルムの製造方法
【発明の効果】
【0012】
  本発明の芳香族ポリアミドフィルムは、芳香族ポリアミドフィルムが支持体とする磁気テープにおいて、支持体に塗布する磁性層および非磁性層の総厚さが1μm以下になっても塗布ムラの抑制に優れた磁気テープに最適な芳香族ポリアミドフィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
  以下に本発明について、望ましい実施の形態とともに詳細を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0014】
  本発明の芳香族ポリアミドフィルムは、例えば、次の化学式(1)及び/又は化学式(2)で表される繰り返し単位を有するものが好ましい。
【0015】
【0016】
【0017】
ここで、Ar1、Ar2、Ar3の基としては、例えば、次の化学式(3)で表されるもの等が挙げられる。
【0018】
【0019】
  また、上記X、Yの基は、-O-、-CH2-、-CO-、-CO2-、-S-、-SO2-、-C(CH3)2-等から選ばれるが、これらに限定されるものではない。更に、これらの芳香環上の水素原子の一部が、フッ素や臭素、塩素等のハロゲン基(特に塩素)、ニトロ基、メチルやエチル、プロピル等のアルキル基(特にメチル基)、メトキシやエトキシ、プロポキシ等のアルコキシ基等の置換基で置換されているものが、吸湿率を低下させ、湿度変化による寸法変化が小さくなるため好ましい。また、重合体を構成するアミド結合中の水素が他の置換基によって置換されていてもよい。本発明に用いられる芳香族ポリアミドは、上記の芳香環がパラ配向性を有しているものが、全芳香環の80モル%以上、より好ましくは90モル%以上を占めていることが好ましい。ここでいうパラ配向性とは、芳香環上主鎖を構成する2価の結合手が互いに同軸又は平行にある状態をいう。このパラ配向性が80モル%未満の場合、フィルムの剛性及び耐熱性が不十分となる場合がある。更に、芳香族ポリアミドが次の化学式(4)で表される繰り返し単位を60モル%以上含有する場合、延伸性及びフィルム物性が特に優れることから好ましい。
【0020】
【0021】
  また、本発明のフィルムは、波長領域400nmから750nmの範囲の光線透過率の平均が70%以上100%以下とすることでフィルムの黄色味が抑えられ、ガラス代替用途として好ましい。
【0022】
  波長領域400nmから750nmの範囲の光線透過率の平均が70%以上100%以下とするため、下記化学式(5)~(9)のいずれかで示される構造単位を有することが好ましい。
【0023】
【0024】
R1、R2は、-H、炭素数1~5の脂肪族基、-CF3、-CCl3、-OH、-F、-Cl、-Br、-OCH3、シリル基、または芳香環を含む基である。好ましくは、-CF3、-F、-Cl、または芳香環を含む基である。
【0025】
【0026】
R3は、Siを含む基、Pを含む基、Sを含む基、ハロゲン化炭化水素基、芳香環を含む基、またはエーテル結合を含む基(ただし、分子内において、これらの基を有する構造単位が混在していてもよい)である。好ましくは、Siを含む基、ハロゲン化炭化水素基、芳香環を含む基、またはエーテル結合を含む基である。
【0027】
【0028】
R4は任意の基である。特に限定されないが、好ましくは、-H、-Cl、-Fである。
【0029】
【0030】
R5は任意の芳香族基、任意の脂環族基である。特に限定されないが、より好ましくはフェニル、ビフェニル、シクロヘキサン、デカリンである。
【0031】
  また、上記のなかでも、化学式(5)あるいは(6)で示される構造単位を有すると、薄膜でも剛性に優れるフィルムが得られやすく、かつ中間層が形成されやすいため、硬化層を設けた後に優れた表面硬度、耐衝撃性および耐屈曲性を実現しやすい。
上記のなかでも特に好ましくは、下記化学式(9)で示される構造単位を有することである。
【0032】
【0033】
R6は任意の基である。特に限定されないが、好ましくは、-H、-Cl、-Fである。
上記化学式(9)で示される構造単位が、本発明のフィルムを構成する芳香族含窒素ポリマーの20~100モル%であることが好ましい。より好ましくは50~100モル%、さらに好ましくは80~100モル%である。
【0034】
  本発明のフィルムの製造方法について、以下に芳香族ポリアミドフィルムを例示するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0035】
  芳香族ポリアミドを得る方法は例えば、酸クロリドとジアミンから得る場合には、N-メチルピロリドン(NMP)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルホルムアミド(DMF)などの非プロトン性有機極性溶媒中で溶液重合したり、水系媒体を使用する界面重合などで合成される。ポリマー溶液は、単量体として酸クロリドとジアミンを使用すると塩化水素が副生するが、これを中和する場合には水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸リチウムなどの無機の中和剤、またエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、アンモニア、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、ジエタノールアミンなどの有機の中和剤が使用される。また、イソシアネートとカルボン酸との反応から芳香族ポリアミドを得る場合には、非プロトン性有機極性溶媒中、触媒の存在下で行われる。
【0036】
  これらのポリマー溶液はそのまま製膜原液として使用してもよく、あるいはポリマーを一度単離してから上記の有機溶媒や、硫酸等の無機溶剤に再溶解して製膜原液を調製してもよい。
【0037】
  本発明の芳香族ポリアミドフィルムを得るためには、ポリマーの固有粘度ηjnh(ポリマー0.5gを98%硫酸中で100mlの溶液として30℃で測定した値)は、0.5(dl/g)以上であることが好ましい。
【0038】
  粒子の添加方法は、粒子を予め溶媒中に十分スラリー化した後、重合用溶媒または希釈用溶媒として使用する方法や、製膜原液を調製した後に直接添加する方法などがある。
製膜原液には溶解助剤として無機塩、例えば塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化リチウム、硝酸リチウムなどを添加する場合もある。また、製膜原液としては、中和後のポリマー溶液をそのまま用いてもよいし、一旦、ポリマーを単離後、溶剤に再溶解したものを用いてもよい。溶剤としては、取り扱いやすいことからN-メチル-2-ピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド等の有機極性溶媒が好ましいが、濃硫酸、濃硝酸、ポリリン酸等の強酸性溶媒を用いてもかまわない。製膜原液中のポリマー濃度は2~40質量%程度が好ましい。
【0039】
  上記のように調製された製膜原液は、いわゆる溶液製膜法によりフィルム化が行なわれる。溶液製膜法には乾湿式法、乾式法、湿式法などがあり、ポリマー溶液中に無機塩が含まれる場合には、これを抽出するために湿式工程が必要であり乾湿式法を用いる。
【0040】
  乾湿式法で製膜する場合は該原液を口金から支持体であるエンドレスベルトの上に押し出してシート状とし、次いでかかるシートから溶媒を飛散させシートが自己支持性をもつポリマー濃度(PC)35~60質量%まで乾燥する。乾式工程を終えたシートは冷却された後、支持体から剥離されて次の湿式工程の湿式浴に導入され、脱塩、脱溶媒が行われる。湿式浴組成は、ポリマーに対する貧溶媒であれば特に限定されないが、水、あるいは有機溶媒/水の混合系を用いることができる。この際、シート中の不純物を減少させるために有機溶媒/水混合系の組成比(以下の数値は質量基準)は、有機溶媒/水=70/30~0/100であるが、好ましくは60/40~30/70、浴温度40℃以上であることが好ましい。湿式浴中には無機塩が含まれていてもよいが最終的には多量の水でシート中に含まれる溶媒や無機塩を抽出することが好ましい。
【0041】
  湿式工程を通ったシートは、続いて、テンター内で水分の乾燥と熱処理が行なわれるが、テンター内で熱処理されるまでにシート中の溶媒含有量が5質量%未満になるまで乾燥させることが好ましい。溶媒含有量が5質量%以上の状態で熱処理工程に入ると、熱処理ムラが生じやすく、フィルム幅方向で物性に斑が生じたり、延伸工程中にシートが破断しやすくなる。この溶媒含有量は少ない方がより好ましく、0質量%付近まで完全に乾燥させることが望ましい。
【0042】
  以上のようにして形成されるシートは、湿式工程中、熱処理工程で目的とする機械的性質、寸法安定性向上のため延伸が行なわれる。延伸は、最初にシート長手方向、次いで幅方向に延伸、あるいは最初に幅方向、次いで長手方向に延伸する逐次二軸延伸法や長手方向、幅方向を同時に延伸する同時二軸延伸法などを用いることができる。これらの延伸方法は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステルなどのフィルム化で行われている溶融製膜における延伸法としてよく知られているが、本発明のような溶液製膜で得るフィルムの場合には、シート中に溶媒や湿式浴成分が含有されており、またそれらはシート外への移動を含んだプロセスであるため目的とするフィルムを得るためには後述する手法を採ることが好ましい。
【0043】
  延伸方法としては、逐次二軸延伸法が装置上および操作性の点から好ましい。延伸条件としては、ポリマー組成等により適正な条件を選択することが必要であるが、シートの長手方向の延伸倍率は1.0~1.5倍、幅方向の延伸倍率は1.2~2.0倍であることが、目的の寸法安定性を得るうえで好ましい。また、幅方向の延伸温度は270℃以上の温度で3秒以上行われるのが好ましく、270~320℃の温度で3秒以上行われることがより好ましい。幅方向の延伸温度が270℃未満であると結晶化不足となり、十分な吸湿率及び抗張力性等の寸法特性が得られないことがある。なお、延伸温度が320℃を超えると結晶化度が上がりすぎるためフィルムが脆くなり、フィルム破れが生じ易くなる。また、延伸の際のシート中の溶媒含有量は5質量%未満であることが好ましい。なお、延伸あるいは熱処理後のフィルムを徐冷することが有効であり、50℃/秒以下の速度で冷却することが熱収縮率を低減させるのに有効である。
【0044】
  なお、本発明における芳香族ポリアミドフィルムは単層フィルムでもよいが、積層フィルムであってもよい。例えば2層の場合には、重合した芳香族ポリアミド溶液を二分し、それぞれ異なる粒子を添加した後、積層する方法が一つの例として挙げられる。さらに3層以上の場合も同様である。これら積層の方法としては、たとえば、口金内での積層、複合管での積層や、一旦1層を形成しておいて、その上に他の層を形成する方法などがある。
【0045】
  本発明の芳香族ポリアミドフィルムの少なくとも一方の表面が、質量分析計により測定される芳香族ポリアミド基本骨格に由来するフラグメントのピーク強度(K)に対する、ポリジメチルシロキサンに由来するフラグメントのピーク強度(P)の比(P/K)が0.20以下であることが重要である。より好ましくは0.15以下である。
【0046】
  比(P/K)が0.20を超えると、磁気テープを製造する工程において、塗布液を非磁性支持体である芳香族ポリアミドフィルム上に塗布した際に、光透過にて視認できる長径1mm以上の円形状の塗布ムラが発生する場合がある。
【0047】
  この長径1mm以上の円形状の塗布ムラは、磁気記録媒体として使用した場合に、ドライブヘッドを摩耗させる場合がある。
【0048】
  本発明の芳香族ポリアミドフィルムの少なくとも一方の表面が、質量分析計により測定される芳香族ポリアミド基本骨格に由来するフラグメントのピーク強度(K)に対する、ポリジメチルシロキサンに由来するフラグメントのピーク強度(P)の比(P/K)が0.20以下とする方法としては、フィルムを複数の延伸ロールの周速差でフィルムの走行方向に延伸する工程において、前記延伸ロールはフィルムを押圧する芯金上にシリコーンゴムが被覆されたニップロールを備えてなり、前記ニップロールは、ニップロール表面のポリジメチルシロキサンを除去したロールであることが好ましい。
【0049】
  ニップロール表面のポリジメチルシロキサンを除去する方法としては、被覆されたシリコーンゴムの内部に含有するポリジメチルシロキサンの多くが表面に析出するように加熱処理した後、ニップロール表面に析出したポリジメチルシロキサンを除去する工程を有することが好ましい。
【0050】
  シリコーンゴムが被覆されたニップロールを加熱処理する方法としては、雰囲気温度Tが150度以上300度未満で、ニップロールの幅方向中央のシリコーンゴムの厚さ方向での平均温度が温度Tに到達してから温度Tで処理時間tが10時間以上20時間以下となる間加熱し続けることが好ましい。
【0051】
  温度Tが150度未満では、シリコーンゴム内部のポリジメチルシロキサンが表面に析出するまで時間が掛かるため、経済的に好ましくない。
【0052】
  また、温度Tが300度を超えると、シリコーンゴムが熱劣化し、フィルムにキズが入りやすくなる場合がある。
【0053】
  処理時間tは10時間以上20時間以下が好ましい。処理時間tが10時間未満では、シリコーンゴム内部のポリジメチルシロキサンが表面に析出しきれず、延伸ニップロールとして使用した際に、芳香族ポリアミドフィルムの表面にポリジメチルシロキサンが付着し、比(P/K)が0.20を超える場合がある。
【0054】
  時間tが20時間を超えると、シリコーンゴムが熱劣化し、フィルムにキズが入りやすくなる場合がある。
【0055】
  ニップロール表面に析出したポリジメチルシロキサンを除去する方法は特に限られるものでは無く、サンドペーパーで表層を研磨する方法、不織布や、ガーゼなどの布類でニップロール表面を拭き取る方法、水洗浄やエタノールといった薬液でニップロール表面を洗い流す方法などが挙げられる。
【実施例0056】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0057】
  (芳香族ポリアミド基本骨格に由来するフラグメントのピーク強度(K)ポリジメチルシロキサンに由来するフラグメントのピーク強度ピーク強度(P))
  芳香族ポリアミドフィルムをA4サイズに切り出し、試料とした。試料表面のポリジメチルシロキサンピーク強度を飛行時間型2次イオン質量分析(TOF-SIMS)を用いて測定した。芳香族ポリアミドフィルムの基本骨格を表すフラグメントのピーク(C6H3Cl+(Mass110)、C7H3OCl+(Mass138)、C14H6O2Cl2
               +(Mass276))のピーク強度(K)とポリジメチルシロキサンの存在を示すフラグメントSi(CH3)3
               +(Mass73)のピーク強度(P)の比(P/K)をランダムに10点測定し、平均値をポリジメチルシロキサンピーク強度として評価した。
装置;Physical  Electronics社製  TFS-2000
一次イオン;69Ga+
測定面積(ラスターサイズ);180μm角
測定時間;3分間
測定真空度;4×10-7Pa
ポリジメチルシロキサンピーク強度(P/K)=
ポリジメチルシロキサン(Si(CH3)3
               +(Mass73))のピーク強度(counts)/芳香族ポリアミドフィルムの骨格を表すピーク強度(counts)。
【0058】
  (塗布ムラ)
  芳香族ポリアミドフィルム上に下記組成の非磁性塗料を芳香族ポリアミドフィルム上に乾燥後の厚さが0.8μmになるように塗布し、100℃で乾燥させた。更にその直後に下記組成の磁性塗料を乾燥後の厚さが0.08μmになるように塗布し、100℃で乾燥した。このとき、磁性層がまだ湿潤状態にあるうちに交流磁場発生装置の中を通過させ配向処理を行った。また、この支持体の非磁性下層及び磁性層の形成面とは反対面側に、上記バックコート塗料を乾燥後の厚さが0.5μmとなるように塗布・乾燥し、磁気記録積層原反ロールを得た。得られた磁気記録積層原反ロールを温度130℃の熱処理ゾーンにて張力3.0kg/mで走行させ(熱処理ゾーンの滞在時間は15秒である)、テープを作成した。テープの塗布ムラを以下の基準で評価した。
×:光透過にて視認できる、長径1mm以上の円形状の塗布ムラが30個/10cm角以上。
○:光透過にて視認できる、長径1mm以上の円形状の塗布ムラが30個/10cm角未満。
【0059】
  (上層磁性塗料液の調製)
強磁性板状六方晶フェライト粉末  100質量部
ポリウレタン樹脂  15質量部
フェニルホスホン酸  3質量部
α-Al2O3(粒子サイズ0.15μm)  5質量部
板状アルミナ粉末(平均粒径:50nm)  1質量部
カーボンブラック(粒子サイズ  20nm)  2質量部
シクロヘキサノン  110質量部
メチルエチルケトン  100質量部
トルエン  100質量部
ブチルステアレート  2質量部
ステアリン酸  1質量部。
【0060】
  (下層用非磁性塗料液の調製)
非磁性無機質粉体  85質量部
α-酸化鉄、表面処理剤:Al2O3、SiO2
               
カーボンブラック  20質量部
ポリウレタン樹脂  15質量部
フェニルホスホン酸  3質量部
α-Al2O3(平均粒径0.2μm)  5質量部
シクロヘキサノン  140質量部
メチルエチルケトン  170質量部
ブチルステアレート  2質量部
ステアリン酸  1質量部。
【0061】
  (バックコート用塗料液の調整)
カーボンブラック(平均粒径:25nm)  40.5質量部
カーボンブラック(平均粒径:370nm)  0.5質量部
硫酸バリウム  4.05質量部
ニトロセルロース  28質量部
ポリウレタン樹脂(SO3Na基含有)  20質量部
シクロヘキサノン  100質量部
トルエン  100質量部
メチルエチルケトン  100質量部。
【0062】
  (芳香族ポリアミド溶液A)
  N-メチル-2-ピロリドン(以下NMP)に、85モル%に相当する2-クロロパラフェニレンジアミン(以下CPA)と15モル%に相当するジフェニルエーテル(以下DPE)を溶解させ、この溶液を濾過精度1.0μmのポリプロピレンからなるフィルターに通して濾過した後、重合槽へ移送し、これに濾過精度1.0μmのポリプロピレンからなるフィルターに通した98.5モル%に相当するクロロテレフタル酸クロライド(以下CTPC)を添加して、重合前に平均粒径80nmのシリカ粒子を芳香族ジアミン成分に対して0.02質量%、平均粒径100nmの有機粒子を芳香族ジアミン成分に対して6.0質量%になるように添加して、30℃以下で2時間の撹拌を行い、重合ポリマーを得た。
【0063】
  次に、重合ポリマー中の塩化水素に対して98.5モル%の炭酸リチウムを添加して4時間の中和を行い、重合ポリマー中の塩化水素に対して10モル%のトリエタノールアミンを添加して1時間の撹拌を行い、ポリマー濃度10.8質量%の芳香族ポリアミド溶液Aを得た。
【0064】
  (芳香族ポリアミド溶液B)
  NMPに、85モル%に相当するCPAと15モル%に相当するDPEを溶解させ、この溶液を濾過精度1.0μmのポリプロピレンからなるフィルターに通して濾過した後、重合槽へ移送し、これに濾過精度1.0μmのポリプロピレンからなるフィルターに通した98.5モル%に相当するCTPCを添加して、30℃以下で2時間の撹拌を行い、重合ポリマーを得た。
【0065】
  次に、重合ポリマー中の塩化水素に対して98.5モル%の炭酸リチウムを添加して4時間の中和を行い、平均1次粒径が16nmのシリカ(日本アエロジル株式会社製“AEROSIL”R972タイプ)をポリマーに対して1.6質量%添加して1時間の攪拌を行った後、重合ポリマー中の塩化水素に対して10モル%のトリエタノールアミンを添加して1時間の撹拌を行い、ポリマー濃度10.8質量%の芳香族ポリアミド溶液Bを得た。
【0066】
  (シリコーンゴムが被覆されたニップロールの加熱処理)
  芯金上にシリコーンゴムを被覆したニップロールを、雰囲気温度Tで規定時間加熱できる装置に投入する。
【0067】
  雰囲気温度Tとなるように熱風にて装置内及びニップロールを昇温し、ニップロールの幅方向中央のシリコーンゴム厚さ方向での平均温度が温度Tに到達後に処理時間t加熱する。
【0068】
  ここで、ニップロールの幅方向中央のシリコーンゴム厚さ方向の平均温度を測定するに当たり、ニップロールの芯金とシリコーンゴムの表面温度と、シリコーンゴムの厚さ、芯金のサイズ、芯金とシリコーンゴム各々の熱伝導率、密度、比熱より算出した。
【0069】
  (実施例1)
  芳香族ポリアミド溶液Aを濾過精度1.2μmのステンレスからなる金属繊維フィルターに通し、また、芳香族ポリアミド溶液Bを濾過精度5.0μmのステンレスからなる金属繊維フィルターに通した後に口金内部で積層した。この時の芳香族ポリアミド溶液AとBの積層比率(厚み比)は、50%ずつになるようにした。次に、積層したポリマー溶液を表面が鏡面状のステンレス製ベルト上にキャストし、口金より走行方向下流側のベルト上において180℃の熱風で2分間加熱して溶媒を蒸発させ、自己保持性を得た膜体をベルトから連続的に剥離した。この時ステンレス製ベルトに接する層として芳香族ポリアミド溶液Bとなるように積層した。
【0070】
  次に、溶媒抽出処理装置の槽内へ、温度T200℃、規定時間t20時間で加熱処理したシリコーンゴムで被覆したニップロールで膜体を圧着ニップ延伸して導入して残存溶媒と中和で生じた無機塩の水抽出を行いながらMD方向に1.15倍延伸した。
【0071】
  その後、得られた膜体を横延伸機のクリップに把持させて、1.70倍横延伸を行ないながら延伸温度が280℃になるように熱風にて3秒間延伸処理を行なった後、更に熱処理温度が200℃になるように熱風にて3秒間、弛緩率3%で熱処理を行った。
【0072】
  20℃/秒の速度で徐冷し、フィルムエッジを除去し、オシレーション60mmでコア上に巻き取って平均厚みが3.0μmの芳香族ポリアミドフィルムロールを得た。
【0073】
  芳香族ポリアミドフィルムロールの結果を表1に示す。
【0074】
  (実施例2~5,比較例1)
  シリコーンゴムで被覆したニップロールの温度Tと、規定時間tを表1に記載の条件に変更すること以外は実施例1と同様にして平均厚みが3.0μmの芳香族ポリアミドフィルムロールを得た。芳香族ポリアミドフィルムロールの結果を表1に示す。
【0075】
  比較例2および比較例3では、P/Kが0.20以下および塗布ムラが○であったが、シリコーンゴムニップロール起因のキズが発生した。これはシリコーンゴムが加熱処理により劣化したことが起因である。
【0076】