IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ナノ アンド アドヴァンスト マテリアルズ インスティテュート リミテッドの特許一覧

特開2025-16383動的架橋を有する再加工可能なポリマー組成物
<>
  • 特開-動的架橋を有する再加工可能なポリマー組成物 図1
  • 特開-動的架橋を有する再加工可能なポリマー組成物 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025016383
(43)【公開日】2025-01-31
(54)【発明の名称】動的架橋を有する再加工可能なポリマー組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 83/06 20060101AFI20250124BHJP
   C08K 9/06 20060101ALI20250124BHJP
   C08J 3/24 20060101ALI20250124BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20250124BHJP
【FI】
C08L83/06
C08K9/06
C08J3/24 Z CFH
C08K3/013
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024115533
(22)【出願日】2024-07-19
(31)【優先権主張番号】63/514804
(32)【優先日】2023-07-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】514284958
【氏名又は名称】ナノ アンド アドヴァンスト マテリアルズ インスティテュート リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Nano and Advanced Materials Institute Ltd.
(74)【代理人】
【識別番号】100163991
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 慎司
(72)【発明者】
【氏名】ウィング ニエン ウィリー オー
(72)【発明者】
【氏名】チー イン ロン
(72)【発明者】
【氏名】シウ キット ロー
【テーマコード(参考)】
4F070
4J002
【Fターム(参考)】
4F070AA60
4F070AB02
4F070AB07
4F070AB22
4F070AB24
4F070AC23
4F070AC36
4F070AC52
4F070AC55
4F070AE01
4F070AE08
4F070GA10
4F070GB03
4F070GB08
4F070GB09
4J002CP051
4J002CP061
4J002DE106
4J002DJ016
4J002EN137
4J002EW177
4J002EX037
4J002FB146
4J002FD016
4J002FD147
4J002FD207
(57)【要約】      (修正有)
【課題】高い引張強度、熱安定性、食品接触安全性などの市販シリコーンの利点を維持しながら、用途の要求範囲を超えた温度で熱的に再処理可能な、シリコン酸素骨格を使用した新しいクラスのポリマーエラストマーを提供する。
【解決手段】熱活性化結合交換によって変化して動的架橋を形成する共有結合ネットワークを有するポリマー組成物であって、ポリマーネットワークを形成するためのケイ素-酸素骨格鎖エラストマーと;ポリマーネットワーク内に分散され結合された非凝集性充填剤と;縮合反応を促進する触媒と;メトキシ基又はエトキシ基を含むシラン系架橋剤と;隣接するケイ素-酸素骨格鎖エラストマー間に形成される動的架橋が三次元架橋ポリマーネットワークを形成するように、ポリマーネットワークの隣接するケイ素-酸素骨格鎖エラストマー間のSi-O結合交換を促進する少なくとも1つの動的結合活性化剤と;を含む、ポリマー組成物とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱活性化結合交換によって変化して動的架橋を形成する共有結合ネットワークを有するポリマー組成物であって、
ポリマーネットワークを形成するためのケイ素-酸素骨格鎖エラストマーと;
前記ポリマーネットワーク内に分散され結合された非凝集性充填剤と;
縮合反応を促進する触媒と;
1つ又は複数のメトキシ基又はエトキシ基を含む1つ又は複数のシランから選択される架橋剤と;
隣接するケイ素-酸素骨格鎖エラストマー間に形成される動的架橋が三次元架橋ポリマーネットワークを形成するように、ポリマーネットワークの隣接するケイ素-酸素骨格鎖エラストマー間のSi-O結合交換を促進する少なくとも1つの動的結合活性化剤と;
を含み、
バルク形態において、前記ポリマー組成物は、周囲条件で熱硬化性ポリマーの特性を有し、約170℃を超える温度で粘弾性液体として再形成可能である、ポリマー組成物。
【請求項2】
前記ケイ素-酸素骨格鎖エラストマーは、トリメチルシリル末端ポリジメチルシロキサン及びシラノール末端ポリジメチルシロキサンの1つ又は複数から選択される、請求項1に記載のポリマ-組成物。
【請求項3】
前記ケイ素-酸素骨格鎖エラストマーは、分子量が5,970~139,000g/モルであり、粘度が100~150,000cStであり、組成物中に49.6~65.6重量%の量で存在している、請求項2に記載のポリマー組成物。
【請求項4】
前記充填剤は、ヘキサメチルジシラザン処理シリカを24.9~36.9重量%の量で含んでいる、請求項2に記載のポリマー組成物。
【請求項5】
前記少なくとも1つの動的結合活性化剤は、アンモニウム塩又はホスホニウム塩から選択されるイオン塩であり、その含有量が0.09~2.5重量%である、請求項1に記載のポリマー組成物。
【請求項6】
前記少なくとも1つの動的結合活性剤は、テトラブチルホスホニウムヒドロキシドである、請求項5に記載のポリマー組成物。
【請求項7】
前記少なくとも1種の触媒は、ジブチルスズジラウレート又はジブチルスズジオクトエートを0.12~2.3重量%の量で含んでいる、請求項1に記載のポリマー組成物。
【請求項8】
前記架橋剤は、エトキシ基を有するシラン及びメトキシ基を有するシランを、2.7~25.0重量%の量で含んでいる、請求項1に記載のポリマー組成物。
【請求項9】
前記架橋剤は、1,2-ビス(トリエトキシシリル)エタン、ポリ(ジメトキシシロキサン)、ポリ(ジエトキシシロキサン)、及びテトラエチルシリケートの1つ又は複数から選択される、請求項8に記載のポリマー組成物。
【請求項10】
再成形されたポリマー組成物は、周囲条件での引張強度の少なくとも60%の引張強度及び周囲条件での破断時の伸びの少なくとも70%の引張強度を保持している、請求項1に記載のポリマー組成物。
【請求項11】
請求項1に記載のポリマー組成物の製造方法であって、
第1のケイ素-酸素骨格鎖エラストマーを充填剤及び架橋剤と組み合わせて第1の混合物を形成することと
第2のケイ素-酸素骨格鎖エラストマーを充填剤及び触媒と組み合わせて第2の混合物を形成することと;
前記第1の混合物と前記第2の混合物とを組み合わせて第3の混合物を形成し、ここで、前記第1の混合物と前記第2の混合物は1.1:1~8.3:1の重量比で組み合わせられることと;
前記第3の混合物を少なくとも1つの動的結合活性剤と組み合わせて第4の混合物を形成することと;
前記第4の混合物を硬化させてポリマー組成物を形成することと;
を含んだ製造方法。
【請求項12】
前記ポリマー組成物を真空中で50~80℃の温度で加熱することを更に含んだ請求項11に記載の方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照:
【0002】
本出願は、2023年7月21日に出願された米国仮出願第63/514,804号の優先権を主張し、その開示の全体は参照により本明細書に組み込まれる。
【0003】
技術分野:
【0004】
本発明は、動的架橋を形成する熱活性化結合交換(thermally-activated bond exchanges)によって変更可能な(alterable)共有結合ネットワークを有するポリマー組成物に関する。 このポリマー組成物は、再加熱によって再形成できるため、再処理が可能である。
【背景技術】
【0005】
背景技術:
【0006】
シリコーンは、ポリマー市場の大部分を占めている。 中国での年間生産量は約37万トンで、世界市場では2019年から2025年までの年平均成長率(CAGR)が6.1%で推移し、2025年には20億1000万USドルに達すると予想されている。シリコーンゴムは、熱可塑性ポリウレタン(TPU)などのエラストマーに比べて、引張強度、熱安定性、及び食品接触安全性に優れているため、一般消費財及び食品接触製品に広く使用されている。
【0007】
生産量が膨大であるため、製造段階又は最終ユーザから大量のシリコンスクラップ及び廃棄物が発生する。市販のシリコーンは、熱硬化性によって再処理できないため、生産コスト及び環境の両方に悪影響を及ぼす。現在、製造時の脱型によるスクラップ率は最大 5% に達し、年間400万~1,100万人民元の損失につながっている。現在のシリコ-ンのリサイクルコストは1kgあたり4~7人民元であるが、再処理可能なシリコ-ンのような材料の開発は、生産コストを節約する解決策となると同時に、リサイクル設備及び資源を節約できるため、持続可能な解決策を提供することにもなる。
【0008】
シリコ-ンのスクラップ及び廃棄物を再処理する従来の方法には、物理的分解若しくは化学的分解の何れか又はその両方の組み合わせが含まれる。これらには、以下が含まれる:
1)複合材料の強化材として充填材を機械的に粉砕する;
2)ダウコーニングが開発したポリジメチルシロキサン(PDMS)の脱重合による工業用潤滑油へのダウンサイクリング(WO2014130948A1);
3)機械的特性が著しく劣るシリコーンゴムを再形成する水熱法。
【0009】
これらの付加価値の低いプロセスは、生産に余分なコストと時間がかかり、持続可能ではなく、高付加価値の用途にシリコーンゴムの強みを活かすことができない。
【0010】
市販されている「熱可塑性シリコーンエラストマー」には、デュポン社が販売している熱可塑性シリコーン加硫物TPSiVなどがある。この製品は、架橋シリコーンゴム(PDMSを含む加硫シリコーンモジュール)を熱可塑性ポリウレタン(TPU)の熱可塑性連続相に、プラチナヒドロシリル化触媒を使用して分散させることによって形成される。この複合材料は、溶かして再成形することで再加工できると言われている。ほとんどの場合、シリコーン含有量は50%w/w未満であり、高い引張強度を備えた高品質の TPSiVを得るには、製造プロセスで無水条件が必要になる。更に、TPSiVは、TPUの複合材料にアミン又はアミドが含まれている可能性があるため、食品接触用途には使用できない。
【0011】
高付加価値用途向けに、高い引張強度、熱安定性、食品接触安全性などの市販シリコーンの利点を維持しながら、用途の要求範囲を超えた温度で熱的に再処理可能な、シリコン酸素骨格を使用した新しいクラスのポリマーエラストマーが求められている。本発明は、この必要性に対処するものである。
【発明の概要】
【0012】
発明の概要:
【0013】
本発明は、熱的に活性化された結合交換反応によって材料のトポロジーの変化を促進するケイ素-酸素骨格エラストマーに基づく新しいポリマー系を提供する。それらの再処理可能な温度では、本発明のポリマー系は粘弾性液体として流れる一方で、低温では結合交換反応は計り知れないほど遅いため、本発明のポリマー系は、熱硬化性エラストマーとして挙動する。
【0014】
市販のシリコーンゴムと同様の材料特性、即ち高い引張強度、熱安定性、及び食品接触安全性を実現するために、本発明は、以下を含んでいる。1)本発明のポリマーネットワーク用の異なる鎖長及びPDMSポリマーの分岐を選択することで、高い引張強度への調整が可能になる;2)PDMSベースのポリマーネットワーク用の新しい架橋剤の開発と選択により、最適な再処理温度を選択できる;3)シリコン酸素ポリマー含有量が高く、配合時にTPUの使用を回避することで、食品接触への適合性が保証される。
【0015】
本発明は、ポリマーネットワーク内の隣接するケイ素-酸素骨格鎖エラストマー間のSi-O結合を促進する少なくとも1つの動的結合活性化剤を使用して、可逆的な架橋を有するポリシロキサンベースのポリマーを提供する。これらポリマーは可逆的な架橋及び脱架橋プロセスが可能であり、再処理することができるように設計されている。
【0016】
一態様では、本発明は、熱活性化結合交換によって変化して動的架橋を形成する共有結合ネットワークを有するポリマー組成物を提供する。ポリマー組成物は、ポリマーネットワークを形成するケイ素-酸素骨格鎖エラストマーから形成される。非凝集性充填剤は、ポリマーネットワーク内に分散され、結合されている。触媒は縮合反応を促進する。架橋剤は、架橋のために使用され、1つ又は複数のメトキシ基又はエトキシ基を含む1つ又は複数のシランであってもよい。
【0017】
少なくとも1つの動的結合活性化剤は、隣接するケイ素-酸素骨格鎖エラストマー間に形成される動的架橋が三次元架橋ポリマーネットワークを形成するように、ポリマーネットワークの隣接するケイ素-酸素骨格鎖エラストマー間のSi-O結合交換を促進する。
【0018】
バルク形態において、前記ポリマー組成物は、周囲条件(ambient conditions)で熱硬化性ポリマーの特性を有し、約170℃を超える温度で粘弾性液体として再形成可能である。幾つかの実施形態では、周囲条件での(ambient)引張強度の少なくとも60%の引張強度及び破断時の周囲条件での(ambient)伸びの少なくとも70%の引張強度が保持される。
【0019】
一側面において、ケイ素-酸素骨格鎖エラストマーは、トリメチルシリル末端ポリジメチルシロキサン及びシラノール末端ポリジメチルシロキサンの1つ又は複数から選択される。
【0020】
一側面において、前記ケイ素-酸素骨格鎖エラストマーは、分子量が5,970~139,000g/モルであり、粘度が100~150,000cStであり、組成物中に49.6~65.6重量%の量で存在している。
【0021】
一側面において、充填剤は、フュームドシリカ(fumed silica)、炭酸カルシウム、又は酸化亜鉛を、24.9~36.9重量%の量で含んでいる。
【0022】
一側面において、前記少なくとも1つの動的結合活性化剤は、アンモニウム塩又はホスホニウム塩から選択されるイオン塩であり、その含有量が0.09~2.5重量%である。
【0023】
一側面において、動的結合活性化剤は、テトラブチルホスホニウム水酸化物である。
【0024】
一側面において、前記少なくとも1種の触媒は、ジブチルスズジラウレート又はジブチルスズジオクトエートを0.12~2.3重量%の量で含んでいる。
【0025】
一側面において、架橋剤は、エトキシ基を有するシラン又はメトキシ基を有するシランであり、その量は2.7~25.0重量%である。
【0026】
一側面において、前記架橋剤は、1,2-ビス(トリエトキシシリル)エタン、ポリ(ジメトキシシロキサン)、ポリ(ジエトキシシロキサン)、及びテトラエチルシリケートの1つ又は複数から選択される。
【0027】
本発明は、更に、ポリマー組成物の製造方法を提供する。第1のケイ素-酸素骨格鎖エラストマーは、充填剤及び架橋剤と組み合わせて第1の混合物を形成する。第2のケイ素-酸素骨格鎖エラストマーは、充填剤及び触媒と組み合わされて、第2の混合物を形成する。 前記第1の混合物と前記第2の混合物とが組み合わされて第3の混合物を形成し、ここで、前記第1の混合物と前記第2の混合物は1.1:1~8.3:1の重量比で組み合わせられる。第3の混合物は、少なくとも1つの動的結合活性化剤と組み合わされて第4の混合物を形成し、これが硬化されてポリマー組成物を形成する。任意付加的な加熱ステップで、真空中、50~80℃の温度で、溶媒を除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図面の簡単な説明:
【0029】
図1は、ポリマーの再処理可能性のメカニズムを概略的に示している。
【0030】
図2は、本発明のポリマー組成物の形成に関与する反応を示している。
【発明を実施するための形態】
【0031】
発明の詳細:
【0032】
ポリシロキサンなどのシリコン-酸素骨格鎖エラストマーは、シロキサン(-Si-O-)結合の繰り返し単位を有している。これらのポリマーは、優れた熱安定性、耐薬品性、柔軟性を備えているため、様々な用途に使用することができる。隣接する主鎖の間にSi-O結合を組み込むことで、ポリマーの再成形や再加工の能力を犠牲にすることなく、様々な機械的特性を向上させることができる。
【0033】
これらのポリマーの再処理可能性は、廃棄物の削減及び持続可能性の促進に特に役立つ。架橋を破壊して再形成することにより、材料の特性に大きな劣化を与えることなく、加工、成形、再形成を繰り返し行うことができる。この再処理可能性により、材料を効率的に再利用できる可能性が広がり、新しいポリマーを製造する必要性が減少する。
【0034】
ポリマー組成物は、ポリマーネットワークを形成するケイ素-酸素骨格鎖エラストマーから形成される。一側面において、前記ケイ素-酸素骨格鎖エラストマーは、分子量が5,970~139,000g/モルであり、粘度が100~150,000cStであり、組成物中に49.6~65.6重量%の量で存在している。特に、これらは、トリメチルシリル末端ポリジメチルシロキサン(PDMS)及びシラノール末端ポリジメチルシロキサン(PDMS)の1つ又は複数であってもよい。
【0035】
非凝集性充填剤は、ポリマーネットワーク内に分散され、結合されている。一側面において、充填剤は、フュームドシリカ(fumed silica)、炭酸カルシウム、又は酸化亜鉛を、24.9~36.9重量%の量で含んでいる。
【0036】
触媒は縮合反応を促進し、ジブチルスズジラウレート又はジブチルスズジオクトエートなどを0.12~2.3重量%の量で含んでいる。架橋剤は、架橋のために使用され、1つ又は複数のメトキシ基又はエトキシ基を含む1つ又は複数のシランであってもよい。一側面において、架橋剤は、エトキシ基を有するシラン又はメトキシ基を有するシランであり、その量は2.7~25.0重量%である。適切な架橋剤の例としては、1,2-ビス(トリエトキシシリル)エタン、ポリ(ジメトキシシロキサン)、ポリ(ジエトキシシロキサン)、及びテトラエチルシリケートの1つ又は複数が挙げられる。
【0037】
本発明は、動的活性剤を使用して、ポリマーネットワークの隣接するケイ素-酸素骨格鎖エラストマー間のSi-O結合を促進する。これらの結合は、特定の特性を実現したり、再処理を最適化するために調整できるシリルエーテル基の形をとることができる。隣接するSi-O主鎖エラストマー間の架橋を可逆的に切断及び再形成する能力は、高温では粘弾性液体として流動するポリマー系を形成するが、低温では結合交換反応は計り知れないほど遅いため、ポリマー系は熱硬化性エラストマーとして挙動する。この現象は図1に示されている。その結果、可逆的な架橋を有する再処理可能なポリシロキサンベースのポリマーが形成され、ポリマーを、それらの固有の特性を著しく損なうことなく加工及び再成形することができる。隣接するSi-O主鎖エラストマー間に形成された動的架橋の結果として、熱などの外部刺激下で改質可能でありながら、強度及び弾性が増大した三次元架橋ポリマーネットワークが形成される。
【0038】
本明細書中で使用される場合、「動的結合活性化剤」という表現は、ポリマーネットワークに組み込まれた場合、温度、pH、又は特定の化学物質の存在の変化に応答して切断及び再形成することができるポリマー鎖間の可逆的な接続又は架橋を促進することができる任意の材料を指す。動的結合により、ポリマーは自己修復特性、適応性、及び強化された機械的性能を発揮できるようになる。
【0039】
動的結合の種類には、可逆的な共有結合だけでなく、水素結合、イオン相互作用、金属-配位子配位などの非共有結合相互作用も含まれる。
【0040】
動的結合活性化剤は、ポリマーが環境の変化や機械的ストレスに適応できるようにするだけでなく、損傷後にポリマーが自己修復するのを助けることができる可能性がある。即ち、活性化イベントの後、ポリマーは、多くの場合、最小限の外部介入で、構造的完全性及び機械的特性を取り戻す。
【0041】
本発明において、動的結合活性化剤は、ポリマーネットワークの隣接するケイ素-酸素骨格鎖エラストマー間のSi-O結合を促進することができる。これらの結合は、特定の特性を実現したり、ポリマーの再処理を最適化するために調整できるシリルエーテル基の形をとることができる。隣接するSi-O主鎖エラストマー間の架橋を可逆的に切断及び再形成する能力は、高温では粘弾性液体として流動するポリマー系を形成するが、低温では結合交換反応は計り知れないほど遅いため、ポリマー系は熱硬化性エラストマーとして挙動する。この現象は図1に示されている。その結果、可逆的な架橋を有する再処理可能なポリシロキサンベースのポリマーが形成され、ポリマーを、それらの固有の特性を著しく損なうことなく加工及び再成形することができる。
【0042】
一側面において、少なくとも1つの動的結合活性化剤は、イオン性塩であってもよい。このようなイオン塩の例としては、アンモニウム塩又はホスホニウム塩が挙げられる。約0.09~2.5wt%のオーダーの量を使用してもよい。動的結合活性化剤の具体的な例としては、テトラブチルホスホニウム水酸化物が挙げられる。動的結合活性化剤としてテトラブチルホスホニウム水酸化物を使用すると、隣接するケイ素-酸素骨格鎖エラストマー間で交換される形成されたSi-O結合は、シリルエーテルである。動的結合活性化剤のもう一つの具体例は、トリメチルシラノレートカリウムである。異なるシロキサン鎖間のシリルエーテル交換により、異なるバックボーンポリマー鎖間に可逆的な架橋が形成され、3次元ネットワークが形成される。結果として得られるネットワーク構造により、材料に機械的強度及び安定性がもたらされる。
【0043】
図2は、ポリマー組成物の形成に関与する反応を示している。架橋剤及び充填剤を含むポリシロキサンは、触媒の存在下で縮合反応を起こす。動的結合活性化剤(この場合はテトラブチルホスホニウム水酸化物)は、異なるシロキサン鎖間のシリルエーテル交換を引き起こす。図2は、3次元ネットワークを形成する結合の形成及び分解を示している。
【0044】
バルク形態において、前記ポリマー組成物は、周囲条件において熱硬化性ポリマーの特性を有し、約170℃を超える温度で粘弾性液体として再形成可能であり、それと同時に、周囲条件での(ambient)引張強度の少なくとも60%の引張強度及び破断時の周囲条件での(ambient)伸びの少なくとも70%の引張強度が保持される。
【0045】
本発明は、更に、ポリマー組成物の製造方法を提供する。第1のケイ素-酸素骨格鎖エラストマーは、充填剤及び架橋剤と組み合わせて第1の混合物を形成する。、第2のケイ素-酸素骨格鎖エラストマーは、充填剤及び触媒と組み合わされて、第2の混合物を形成する。前記第1の混合物と前記第2の混合物とが組み合わされて第3の混合物を形成し、ここで、前記第1の混合物と前記第2の混合物は1.1:1~8.3:1の重量比で組み合わせられる。第3の混合物は、少なくとも1つの動的結合活性化剤と組み合わされて第4の混合物を形成し、これが硬化されてポリマー組成物を形成する。任意付加的な加熱ステップで、真空中、50~80℃の温度で、溶媒を除去することができる。
【実施例0046】
実施例:
【0047】
比較組成物を含む様々な組成物を調製して試験した。以下に成分及びその特性を示し、その後に組成物の製造方法を示す。最後に、実験の概要、調製した組成物の成分及び特性を表1~6に示す。
【0048】
シラノール末端PDMS
【0049】
末端シラノール(SiOH)基を持つポリジメチルシロキサン(PDMS)が、末端シラノール基の縮合によりポリマーネットワークを形成するためのSi-O骨格鎖エラストマー成分を形成するために使用された。
【表1】
【0050】
充填剤(フィラー)
【0051】
充填剤は、引張強度、破断伸び、及び引き裂き強度など、ポリマー組成物の機械的強度を高める。充填剤には、フュームドシリカ及び酸化亜鉛などが含まれる。実施例の未処理シリカとは対照的に、ヘキサメチルジシラザン処理シリカは、シリカ表面のOH基を置換して疎水性を増加させ、製造プロセス中のシリコーン配合物の望ましくない粘度の増加なしに充填剤の良好な耐沈降性を促進するために、充填剤として使用される。
【0052】
架橋剤
【0053】
架橋剤は、シラノール末端PDMSと共にポリマーネットワークを形成するのに役立つ。エトキシ基又はメトキシ基を持つシランは、シラノール末端PDMSと縮合するように選択される。エトキシ基又はメトキシ基は、シラノール末端PDMSの存在下での縮合反応中にエタノール又はメタノールとして除去される。実施例では、ポリ(ジエトキシシロキサン)(SiOを40~42%含む;PSI-021と略記)及び/又は1,2-ビス(トリエトキシシリル)エタンが使用される。
【0054】
トリメチルシリル末端PDMS
【0055】
末端トリメチルシリル基を有するポリジメチルシロキサン(PDMS)は粘度調整のための添加剤であり、これらのトリメチルシリル末端PDMS鎖は縮合及び架橋PDMS網目に浸透し、得られた材料の柔軟性を提供する。
【0056】
【表2】
【0057】
触媒
【0058】
ジブチルスズジラウレートは、シラノール末端PDMS及びその架橋剤を含む縮合システムに使用された。
【0059】
動的結合活性化剤
【0060】
再処理を可能にするために、アンモニウム塩又はホスホニウム塩などのイオン塩が選択された。これらの例では、テトラブチルホスホニウム水酸化物(40%)が使用された。
【0061】
製造手順
【0062】
実施例の組成物を混合するために、通常は遊星遠心ミキサーが使用される。シラノール末端PDMSに架橋剤を添加し、2000rpmで20秒間混合し、続いてヘキサメチルジシラザン処理したフュームドシリカを2000rpmで2分間添加して第1の混合物を形成した。
【0063】
トリメチルシリル末端PDMSにジブチルスズジラウレートを加え、2000rpmで20秒間混合し、続いてヘキサメチルジシラザン処理したフュームドシリカを2000rpmで2分間混合して、第2の混合物を形成した。
【0064】
第2の混合物を第1の混合物に表3~6に示す重量比で添加し(5分;2000rpm)、第3の混合物を形成した。
【0065】
動的結合活性化剤を第3の混合物に加え、混合(5分;2000rpm)して、第4の混合物を形成した。
【0066】
第4の混合物を型に注ぎ、温度及び湿度が制御されたチャンバ(25℃;95%RH)内に置いた。
【0067】
得られた硬化ポリマーは、任意選択的な後硬化ステップとして、真空オーブン内で60℃で4時間放置された。
【0068】
機械的性質
【0069】
サンプルは、ASTM国際規格に従って標準試験片サイズ(ダンベル形状)に切断された。
【0070】
再処理可能性
【0071】
サンプルは、成形条件下で170℃で6時間再処理された。再処理されたシリコーンは、機械的特性の測定のために標準試験片サイズに切断された。
【0072】
表3、4、5、及び6は、実施例によって形成された様々な組成物及びそれらの測定された機械的特性を示す。
【0073】
シリコーンゴムの機械的特性はその組成物中の粘度と全体的な固形分含有量に依存することはよく知られている。粘度及び全体の固形分含有量は、第1の混合物と第2の混合物の成分量の比率を調整することによって最適化できる。実施例1~4では、表3に示すように、引張強度が1.17~5MPaの範囲にある様々な組成物が形成されている。これらの組成物は、ショアA硬度(Shore A hardness)が20~50単位の範囲にある。実施例1~4を実施例5と比較すると、組成物中のヘキサメチルジシラザン処理フュームドシリカの量が増加すると、組成物全体の固形分が増加し、引張強度が4.21MPaから5MPa、6.03MPaに増加した。
【0074】
表4のDMS-S51のような高分子量のシラノール末端PDMSは、より多くのポリマー鎖の絡み合いを持つことが予想される一方、DMS-S33のような低分子量のシラノール末端PDMSは、より高い架橋密度と高密度を持つことが予想される。DMS-S51を含む組成物は、当該分野の常識に従って、柔軟なゴムの形態で高い破断伸びを有するものとする。しかしながら、表3の例1と表4の例6とを比較すると、これは当てはまらない(例1の破断伸びは1178%であるのに対し、例6では570%)。低分子量シラノール末端PDMS(DMS-S33)を使用した表5の実施例7、8、9、10を参照すると、破断時の伸びは、トリメチルシリル末端PDMSと架橋剤、ポリ(ジエトキシシロキサン)(40~42%SiOを含む;PSI-021と略記)及び1,2-ビス(トリエトキシシリル)エタンを適量添加することによって調整することができる。トリメチルシリル末端PDMS鎖は、凝縮され架橋されたPDMSネットワークに浸透し、結果として得られる材料に柔軟性をもたらす。表5の実施例7及び8、並びに表6の実施例13及び14を比較すると、架橋剤としての1,2,-ビス(トリエトキシシリル)エタンの使用は、破断点での伸び(elongation at break)の357%から69.1%への減少をもたらした。実施例7及び10を比較すると、表2の高分子量(DMS-T31)よりも低分子量(DMS-T21)のトリメチルシリル末端PDMSを使用すると、破断点での伸びが357%から170%に減少した。
【0075】
比較例16及び17を参照すると、第1の混合物及び第2の混合物が24:1の重量比で組み合わされているが、これらの組成物は、約170℃を超える温度で粘弾性液体として再成形する特性を欠いている。
【0076】
表3の実施例5、表4の実施例6、表5の実施例8及び9、並びに、表6の実施例14及び15は、周囲条件で熱硬化性ポリマーの特性を有し、周囲引張強度(ambient tensile strength)の60%以下及び周囲破断伸び(ambient elongation at break)の70%以下の引張強度を保持しながら、約170℃を超える温度で粘弾性液体として再成形することができる。
【表3】
【表4】
【表5】
【表6】
【産業上の利用可能性】
【0077】
産業上の利用可能性:
【0078】
隣接するシリコン-酸素骨格鎖間のSi-O交換を促進する動的結合活性剤を使用することにより、本発明のポリマーは、熱にさらされたときに再形成及び再成形することができる。しかしながら、このポリマーは、周囲条件では、熱硬化性材料に典型的な特性を示す。それは、安定した架橋構造を有し、形状及び機械的特性を維持する。一側面において、約170℃を超える温度に加熱されると、動的結合活性化剤は、Si-O結合の交換を促進する。このプロセスにより、ポリマーは、粘弾性液体のように動作し、再形成及び再処理が可能になる。重要なのは、この再形成プロセスによって材料の特性が著しく低下しないことである。その代わりに、少なくとも一部のポリマー組成物は、再成形後も、通常時の(ambient)特性と比較して、少なくとも60%の引張強度と70%の破断点伸びを維持する。この機械的特性の保持により、熱処理後も材料の機能性及び信頼性が維持される。その結果、このポリマーは、リサイクル性及び再処理性が求められる様々な用途に使用することができる。これらの応用には、定期的に再形成する必要があるかもしれない金型(molds)及びシール(seals)を作成することを含む、再利用可能な金型及びシールが含まれます。本材料は、食品接触に対して安全であり、シリコン製食品保存容器に使用することができる。このポリマーは、自己修復材料及びフレキシブル電子機器に使用される可能性もある。このポリマーは、生体適合性があり、滅菌したり再成形したりできるため、医療機器をポリマーから製造することも可能である。
【0079】
本発明の上述の説明は、例示及び説明の目的で提供されたものである。網羅的であること、又は、開示された正確な形態に本発明を限定することは意図されていない。当業者には、多くの修正及び変形が明らかであろう。
【0080】
実施形態は、本発明の原理及びその実際の応用を最もよく説明するために選択及び説明され、それにより、当業者は、様々な実施形態及び考えられる特定の用途に適した様々な修正で本発明を理解できるようになる。
【0081】
本書で使用され、別途定義されていない限り、「substantially」、「substantial」、「approximately」、及び「about」という用語は、小さな変動を記載及び説明するために使用されます。事象又は状況と関連して使用される場合、これら用語は、事象又は状況が正確に発生する場合だけでなく、事象又は状況が近似して発生する場合も含むことができる。例えば、数値と組み合わせて使用する場合、これらの用語は、その数値の±10%以下の変動範囲、例えば±5%以下、±4%以下、±3%以下、±2%以下、±1%以下、±0.5%以下、±0.1%以下、±0.05%以下などを含むことができる。
【0082】
本明細書において、単数形「a」、「an」、及び「the」は、文脈が明確にそうでないと示さない限り、複数への参照を含んでいる。幾つかの実施形態の説明において、別の構成要素の上に(例えば、…と物理的に接触して)又は上に設けられる構成要素は、前者の構成要素が後者の構成要素の上に直接存在する場合だけでなく、1つ又は複数の介在する構成要素が前者の構成要素と後者の構成要素との間に位置する場合を含むことができる。
【0083】
本開示は、その特定の実施形態を参照して説明及び図示されてきたが、これらの説明及び図示は限定的ではない。添付の特許請求の範囲によって定義される本開示の真の精神及び範囲から逸脱することなく、様々な変更を行うことができ、均等物を代用することができることを当業者は理解すべきである。図面は必ずしも一定の縮尺で描かれているとは限らない。製造プロセス及び公差により、本開示における芸術的演出(artistic renditions)と実際の装置との間に区別があり得る。特に図示されていない本開示の他の実施形態が存在し得る。明細書及び図面は、限定的なものではなく、例示的なものと見なされるべきである。特定の状況、材料、物質の組成、方法、又はプロセスに関して、本開示の目的、精神、及び範囲に適合させるために変更を加えることができる。そのような変更はすべて、添付の特許請求の範囲内に含まれることが意図されている。本明細書に開示された方法は、特定の順序で実行される特定の操作を参照して説明されてきたが、これらの操作は、本開示の教示から逸脱することなく、同等の方法を形成するために結合、再分割、又は再順序付けされ得ることが理解されるであろう。したがって、本明細書で具体的に示されない限り、操作の順序及びグループ化は、限定的なものではない。

図1
図2
【外国語明細書】