(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025016389
(43)【公開日】2025-01-31
(54)【発明の名称】dxCas9と、CRP誘導体とを含む標的遺伝子発現調節システム及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/09 20060101AFI20250124BHJP
C12N 15/70 20060101ALI20250124BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20250124BHJP
C12N 15/31 20060101ALN20250124BHJP
【FI】
C12N15/09 110
C12N15/70 Z ZNA
C12N1/21
C12N15/70 Z
C12N15/31
【審査請求】有
【請求項の数】23
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024116299
(22)【出願日】2024-07-19
(31)【優先権主張番号】10-2023-0095429
(32)【優先日】2023-07-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(71)【出願人】
【識別番号】514266091
【氏名又は名称】コリア リサーチ インスティチュート オブ ケミカル テクノロジー
【氏名又は名称原語表記】KOREA RESEARCH INSTITUTE OF CHEMICAL TECHNOLOGY
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100152308
【弁理士】
【氏名又は名称】中 正道
(74)【代理人】
【識別番号】100201558
【弁理士】
【氏名又は名称】亀井 恵二郎
(72)【発明者】
【氏名】イ、ジュ ヨン
(72)【発明者】
【氏名】キム、ミ リ
(72)【発明者】
【氏名】ノ、ミョン ヒョン
(72)【発明者】
【氏名】ムン、ス ヨン
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA01X
4B065AA01Y
4B065AA26X
4B065AA26Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA60
(57)【要約】
【課題】本発明は、dxCas9と、CRP誘導体とを含む標的遺伝子発現調節用プラスミドを提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、dxCas9と、CRP誘導体とを含む標的遺伝子発現調節用プラスミド、前記プラスミドで形質転換された組換え菌株、その製造方法、標的遺伝子調節システム、及び標的遺伝子発現調節方法に関し、本発明によるプラスミド、組換え菌株及び発現調節システムは、標的遺伝子の発現を同時・多重調節するシステムを構築することにより、高付加価値物質の生産を向上させることができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
dxCas9と、CRP誘導体とを含む標的遺伝子発現調節用プラスミド。
【請求項2】
前記CRP誘導体は、CRPAR1、CRPAR3、CRPAR23又はCRPAR123である、請求項1に記載の標的遺伝子発現調節用プラスミド。
【請求項3】
前記CRP誘導体はCRPAR123である、請求項2に記載の標的遺伝子発現調節用プラスミド。
【請求項4】
前記CRPAR123は、配列番号5からなる野生型CRPWTからC末端のDNA結合モチーフが除去され、AR1、AR2及びAR3ドメインを含み、1番目~180番目のアミノ酸で構成されるものである、請求項3に記載の標的遺伝子発現調節用プラスミド。
【請求項5】
前記CRPAR123誘導体は、配列番号6の配列を含む、請求項3に記載の標的遺伝子発現調節用プラスミド。
【請求項6】
前記dxCas9は、配列番号1の配列を含む、請求項1に記載の標的遺伝子発現調節用プラスミド。
【請求項7】
前記発現調節は、標的遺伝子の発現強化又は発現抑制を行うものである、請求項1に記載の標的遺伝子発現調節用プラスミド。
【請求項8】
前記dxCas9は、配列番号2のアミノ酸配列を含むリンカーが結合されたものである、請求項1に記載の標的遺伝子発現調節用プラスミド。
【請求項9】
前記プラスミドは、標的遺伝子配列を含む少なくとも1つのガイドRNA(gRNA)を含む、請求項1に記載の標的遺伝子発現調節用プラスミド。
【請求項10】
前記ガイドRNAは、配列番号23~25の塩基配列からなる群から選択される少なくとも1つである、請求項9に記載の標的遺伝子発現調節用プラスミド。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載のプラスミドで形質転換された組換え菌株。
【請求項12】
前記菌株は、遺伝子発現を調節することを特徴とする、請求項11に記載の組換え菌株。
【請求項13】
前記菌株は、単一又は多重標的遺伝子発現を強化又は抑制するものである、請求項11に記載の組換え菌株。
【請求項14】
前記菌株はエシェリキア属(Escherichia genus)である、請求項11に記載の組換え菌株。
【請求項15】
前記菌株はエシェリキア・コリ(Escherichia coli)である、請求項11に記載の組換え菌株。
【請求項16】
dxCas9と、CRP誘導体とを含む標的遺伝子発現調節用システム。
【請求項17】
i)dxCas9タンパク質とCRPタンパク質を結合したdxCas9-CRPシステムを作製するステップと、
ii)前述したように作製したdxCas9-CRPシステムに蛍光レポータープラスミドをクローニングするステップと、
iii)前記ii)ステップで作製したdxCas9-CRPシステムにガイドRNAをさらにクローニングするステップと、
iv)前記dxCas9-CRP-gRNAを菌株に形質転換するステップとを含む、標的遺伝子発現を調節する組換え菌株の製造方法。
【請求項18】
前記ガイドRNAは標的遺伝子を含む、請求項17に記載の組換え菌株の製造方法。
【請求項19】
前記dxCas9は、配列番号2のアミノ酸配列を含むリンカーが結合されたものである、請求項17に記載の組換え菌株の製造方法。
【請求項20】
前記菌株はエシェリキア属(Escherichia genus)である、請求項17に記載の組換え菌株の製造方法。
【請求項21】
前記菌株はエシェリキア・コリ(Escherichia coli)である、請求項17に記載の組換え菌株の製造方法。
【請求項22】
前記蛍光レポーターは、ルシフェラーゼ(Luciferase)、β-ガラクトシダーゼ、緑色蛍光タンパク質(Green Fluorescent Protein: GFP)、増強緑色蛍光タンパク質(enhanced Green Fluorescent Protein: eGFP)、mプラム(mPlum)、mチェリー(mCherry)、tdトマト(tdTomato)、mストロベリー(mStrawberry)、J-レッド(J-Red)、Dsレッド(DsRed)、mオレンジ(mOrange)、mKO、mシトリン(mCitrine)、ビーナス(Venus)、YPet、増強黄色蛍光タンパク質(enhanced yellow fluorescent protein: EYFP)、エメラルド(Emerald)、CyPet、シアン蛍光タンパク質(cyan fluorescent protein: CFP)、セルリアン(Cerulean)、T-サファイア(T-Sapphire)、アルカリホスファターゼからなる群から選択されるものである、請求項17に記載の組換え菌株の製造方法。
【請求項23】
dxCas9にCRP誘導体を適用するステップを含むことを特徴とする標的遺伝子発現調節方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、dxCas9と、CRP誘導体とを含む標的遺伝子発現調節用プラスミド、前記プラスミドで形質転換された組換え菌株、その製造方法、標的遺伝子調節システム、及び標的遺伝子発現調節方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、バイオ産業においては、高付加価値産物を生産するために、産業微生物を代謝工学的に操作し、野生型が生産できない産物を効率的に生産する技術が広く用いられている。それらの技術の核心は、ターゲット物質を効率的かつ経済的に生産することにある。それに用いられる代謝工学的方法としては、プラスミド又はゲノム上に異型遺伝子を挿入する技術や、特定遺伝子の突然変異を起こす技術が挙げられる。特に、近年、CRISPRを用いて、標的遺伝子の挿入や突然変異を迅速に行う技術が脚光を浴びている。
【0003】
CRISPR技術は、大腸菌の内在遺伝子又は外部遺伝子を同時、多重に標的とする可能性を有するので、CRISPRベースの遺伝子発現調節システムの開発は、大腸菌による高付加価値物質の生産を向上させることのできる合成生物学ツールとしての潜在力が大きい。しかし、現在まで、真核生物においてCRISPRベースの遺伝子発現調節ツールが開発された事例はあるが、大腸菌において遺伝子発現活性/抑制を同時に行う調節システムについては相対的に報告が少ない現状である。
【0004】
こうした背景の下、本発明者らは、大腸菌において同時に多重遺伝子を標的とし、転写活性/抑制の機能を備えた新たなCRISPRベースの遺伝子発現調節システムを開発し、本発明を完成するに至った。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Pearson et al (1988)[Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85]: 2444
【非特許文献2】Rice et al., 2000, Trends Genet. 16: 276-277
【非特許文献3】Needleman and Wunsch, 1970, J. Mol. Biol. 48: 443-453
【非特許文献4】Devereux, J., et al, Nucleic Acids Research 12: 387 (1984)
【非特許文献5】Atschul, [S.] [F.,] [ET AL, J MOLEC BIOL 215]: 403 (1990)
【非特許文献6】Guide to Huge Computers, Martin J. Bishop, [ED.,] Academic Press, San Diego,1994
【非特許文献7】[CARILLO ETA/.](1988) SIAM J Applied Math 48: 1073
【非特許文献8】Smith and Waterman, Adv. Appl. Math (1981) 2:482
【非特許文献9】Schwartz and Dayhoff, eds., Atlas Of Protein Sequence And Structure, National Biomedical Research Foundation, pp. 353-358 (1979)
【非特許文献10】Gribskov et al(1986) Nucl. Acids Res. 14: 6745
【非特許文献11】Cheng dong et al., 2018, Nature Communications, 9:2489
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、dxCas9と、CRP誘導体とを含む標的遺伝子発現調節用プラスミドを提供することを目的とする。
【0007】
また、本発明は、前記プラスミドで形質転換された組換え菌株を提供することを目的とする。
【0008】
さらに、本発明は、dxCas9と、CRP誘導体とを含む標的遺伝子発現調節用システムを提供することを目的とする。
【0009】
さらに、本発明は、i)dxCas9タンパク質とCRPタンパク質を結合したdxCas9-CRPシステムを作製するステップと、ii)前述したように作製したdxCas9-CRPシステムに蛍光レポータープラスミドをクローニングするステップと、iii)前記ii)ステップで作製したdxCas9-CRPシステムにガイドRNAをさらにクローニングするステップと、iv)前記dxCas9-CRP-gRNAを菌株に形質転換するステップとを含む、標的遺伝子発現を調節する組換え菌株の製造方法を提供することを目的とする。
【0010】
さらに、本発明は、dxCas9にCRP誘導体を適用するステップを含むことを特徴とする標的遺伝子発現調節方法を提供することを目的とする。
【0011】
さらに、本発明は、dxCas9と、CRP誘導体とを含むプラスミドの標的遺伝子発現調節用途を提供することを目的とする。
【0012】
さらに、本発明は、dxCas9と、CRP誘導体とを含むシステムの標的遺伝子発現調節用途を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
以下、これらを具体的に説明する。なお、本発明で開示される各説明及び実施形態はそれぞれ他の説明及び実施形態にも適用される。すなわち、本発明で開示される様々な要素のあらゆる組み合わせが本発明に含まれる。また、以下の具体的な記述に本発明が限定されるものではない。
【0014】
また、当該技術分野における通常の知識を有する者であれば、通常の実験のみを用いて本発明に記載された本発明の特定の態様の多くの等価物を認識し、確認することができるであろう。さらに、その等価物も本発明に含まれることが意図されている。
【0015】
本発明の一態様は、dxCas9と、CRP誘導体とを含む標的遺伝子発現調節用プラスミドを提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によるプラスミド、組換え菌株及び発現調節システムは、標的遺伝子の発現を同時・多重調節するシステムを構築することにより、高付加価値物質の生産を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】CRISPRベースの遺伝子発現調節システムのプラスミド、及びシステム性能検証のためのGFP蛍光発現プラスミドの設計図である。
【
図2】CRISPRベースの遺伝子発現調節システムの標的遺伝子発現強化/抑制調節過程を示す模式図である。
【
図3】pMW7-P
J23117-GFPのプラスミドのマップを示す図である。
【
図4】pMW7-P
J23119-GFPのプラスミドのマップを示す図である。
【
図5】pMW7-P
J23117-GFP-P
J23119-mCherryのプラスミドのマップを示す図である。
【
図6】蛍光プラスミド(標的遺伝子)上のgRNA標的位置を示す図である。
【
図7】gRNA発現のためのクローニング設計図である。
【
図8】pdxCas9-CRP
AR123-gRNA(A)のプラスミドのマップを示す図である。
【
図9】pdxCas9-CRP
AR123-gRNA(R1)のプラスミドのマップを示す図である。
【
図10】pdxCas9-CRP
AR123-gRNA(A/R2)のプラスミドのマップを示す図である。
【
図11】dxCas9-結合CRP誘導体の標的遺伝子転写活性効率を比較したグラフである。
【
図12】dxCas9-結合CRP誘導体の標的遺伝子転写抑制効率を比較したグラフである。
【
図13】dxCas9-CRP
AR123のGFP/mCherry遺伝子同時発現強化/抑制調節の模式図、及びdxCas9-CRP
AR123システムの多重標的可能性検証結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明における「dCas9(dead Cas9)」とは、配列特異的認識/結合は可能であるが、核酸分解活性が不活性化されているので、標的とするDNAを切断することなく、遺伝子発現を調節することのできるタンパク質を意味する。前記dCas9は、標的とする遺伝子配列中のNGG配列で構成されるPAM配列を認識/結合することにより、ターゲット遺伝子発現を調節することができる。
【0019】
本発明における「dxCas9」とは、dCas9がターゲット遺伝子配列上の標的位置を選定するには標的部位の末端にNGG配列が存在しなければならないという限界を有するので、突然変異を起こさせて広い範囲のPAM配列(NG,NNG,GAA,GAT,CAA)における特異的認識効率を高くした進化型変異Cas9であって、PAM互換性を向上させたタンパク質を意味する。
【0020】
本発明において、dxCas9は、配列番号1で表されるアミノ酸配列を含むが、これに限定されるものではない。
【0021】
本発明において、前記dxCas9は、配列番号2のアミノ酸配列を含むリンカー(linker)が結合されたものであるが、これに限定されるものではない。
【0022】
本発明において、前記dxCas9とCRP又はCRP誘導体は、リンカーにより互いに連結されたものであってもよい。
【0023】
前記リンカーをコードする塩基配列は、十分な長さでなければならない。具体的には、本発明のリンカーをコードする塩基配列は、20bp以上の長さ、例えば30又は40bp以上の長さを有するものである。また、前記リンカーをコードする塩基配列は、線形ベクターと少なくとも約80%の相同性を有し、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%の相同性を有するものであってもよい。
【0024】
本発明において、前記リンカーは、結合タンパク質が構造的柔軟性を有するように、小さく単純な構造のグリシンとアラニンのアミノ酸で構成されるGGGAGGGGAG(配列番号2)のアミノ酸配列を含むが、これに限定されるものではない。
【0025】
本発明における「CRP(cAMP Receptor Protein)」とは、cAMP受容体タンパク質であって、バクテリアにおいて約100個以上の遺伝子転写を促進又は抑制する転写調節タンパク質を意味する。CRPのDNA結合は、RNAポリメラーゼをもたらしてターゲット遺伝子の転写活性を促進する。CRPは、構造的にRNA polymeraseのα-subunitに結合して遺伝子転写を活性化するAR1、AR2、AR3(Activating region)で構成されている。CRPは、カタボライト遺伝子活性化タンパク質(catabolite gene activator protein, CAP)ともいう。本発明において、CRPは、dxCas9のエフェクトドメインとして用いられるが、これに限定されるものではない。
【0026】
本発明における「誘導体」とは、野生型タンパク質において特定ドメインの除去、付加及び/又は置換により新たな組み合わせに派生した類似タンパク質を意味する。特に、前記アミノ酸又は化学残基の除去、付加及び/又は置換により生体内安定性、保存性又は活性が向上したものであってもよく、他成分との結合部位を含むなどの別途の機能の追加により標的タンパク質としての有利な特性が向上したもの又は新たに追加されたものであってもよい。本発明において、「CRP誘導体」は、CRP野生型において特定アミノ酸配列が除去されたか、欠失したものであり、具体的には、C末端のDNA結合モチーフが除去されたか、AR1、AR2及び/又はAR3を含むものであるが、これらに限定されるものではない。
【0027】
本発明において、CRP誘導体は、CRPAR1、CRPAR3、CRPAR23又はCRPAR123であり、より具体的にはCRPAR123であるが、これらに限定されるものではない。前記CRPAR123は、配列番号5の配列からなる野生型CRPwtからC末端のDNA結合モチーフが除去され、AR1、AR2及びAR3ドメインを含み、1番目~180番目のアミノ酸で構成されるものであり、具体的には配列番号6の配列を含むものであるが、これらに限定されるものではない。
【0028】
本発明における「標的遺伝子」とは、タンパク質融合体の導入により発現レベルを調節しようとする標的の遺伝子を意味する。本発明において、標的遺伝子は、単一遺伝子又は多重遺伝子であり、具体的にはdxCas9-CRP又は-CRP誘導体で構成される遺伝子であるが、これらに限定されるものではない。本発明の「標的遺伝子」は、「ターゲット遺伝子」と混用される。
【0029】
本発明における「標的遺伝子発現調節」とは、標的遺伝子の発現レベルを強化又は増加させるか、発現レベルを抑制又は減少させるものを意味することもあり、同時に標的遺伝子の発現強化及び抑制を行う二重機能が可能な調節システムを意味することもある。本発明において、発現調節は、発現制御と混用される。
【0030】
本発明の一実施例によれば、単一標的遺伝子発現強化効果を確認したところ、dxCas9-CRP
AR123誘導体発現菌株において、対照菌株に比べて、GFP発現量が約4倍以上に増加し(
図11)、発現抑制効果実験においては、対照菌株に比べて、GFP発現量が約84%以上減少することが確認された(
図12)。
【0031】
それだけでなく、多重遺伝子発現強化及び抑制効果を確認したところ、dxCas9-CRP
AR123は、GFP発現量が対照菌株の約13倍以上に増加し、mCherry発現量が約93%以上減少することが確認された(
図13)。
【0032】
本発明における「ガイドRNA(gRNA)」とは、ターゲット領域のDNA塩基配列を含むことにより標的遺伝子に特異的に結合し、dxCas9を当該標的地点に誘導する機能のRNAを意味する。
【0033】
通常、ガイドRNAは、2つのRNA、すなわちcrRNA(CRISPR RNA)及びtracrRNA(trans-activating crRNA)を構成要素として含む二重RNA(dual RNA)であるか、又は標的DNA内の配列と全部もしくは一部が相補的な配列を含む第1部位と、RNAガイドヌクレアーゼと相互作用する配列を含む第2部位とを含む形態である。一例として、前記ガイドRNAをCpf1に適用する場合、ガイドRNAはcrRNAであってもよい。他の例として、Cas9に適用する場合は、crRNA及びtracrRNAを構成要素として含む二重RNAの形態であってもよく、crRNA及びtracrRNAの主要部分が融合された形態である一本鎖ガイドRNA(single-chain guide RNA; sgRNA)の形態であってもよい。
【0034】
本発明において、gRNAは、配列番号23~25の塩基配列からなる群から選択される少なくとも1つのgRNAであるが、これに限定されるものではない。
【0035】
本発明において、特定配列を有する(having)という表現には、特定配列で表される配列を含むことや、前記配列から実質的に構成される(consisting essentially of)ことや、前記配列からなる(consisting of)ことが含まれる。なお、本発明において、ガイド領域の配列を配列番号23~25の塩基配列からなる群から選択される1つと表したが、標的DNA配列と相補的に結合する能力を有するものであれば、前記ガイド領域の一部に改変、例えば付加、欠失、置換などが行われた配列も本発明におけるガイド配列に含まれる。
【0036】
本発明における「プラスミド」とは、細菌の細胞質内に存在し、複製可能な遺伝子、染色体外遺伝子の総称を意味する。本発明のプラスミドは、標的遺伝子配列を含む1つ以上のgRNAを含むものであり、具体的には配列番号23~25の塩基配列からなる群から選択される少なくとも1つのgRNAを発現させるものであるが、これらに限定されるものではない。
【0037】
本発明にDNA、RNA、ポリヌクレオチド、遺伝子又はタンパク質が特定配列番号の塩基配列又はアミノ酸配列を有すると記載されていても、当該配列番号の塩基配列又はアミノ酸配列からなるDNA、RNA、ポリヌクレオチド、遺伝子又はタンパク質と同一又は相当する活性を有するものであれば、一部の配列が欠失、改変、置換、保存的置換又は付加された配列を有するDNA、RNA、ポリヌクレオチド、遺伝子又はタンパク質であっても本発明に用いられることは言うまでもない。
【0038】
また、特定配列番号で表される塩基配列又はアミノ酸配列のDNA、RNA、ポリヌクレオチド、遺伝子又はタンパク質と同一又は相当する活性を有するものであれば、特定配列番号で表される塩基配列又はアミノ酸配列と80%以上の相同性(homology)又は同一性(identity)を有する配列も本発明に含まれるが、これに限定されるものではない。具体的には、特定配列番号の塩基配列又はアミノ酸配列と少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%又は99%以上の相同性又は同一性を有するものや、相当する効能又は活性を示し、一部の配列が欠失、改変、置換又は付加された配列も本発明に含まれることは言うまでもない。
【0039】
本発明における「相同性(homology)」又は「同一性(identity)」とは、2つの与えられたアミノ酸配列又は塩基配列が互いに関連する程度を意味し、百分率で表される。
【0040】
相同性及び同一性は、しばしば互換的に用いられる。
【0041】
保存されている(conserved)ポリヌクレオチド又はポリペプチドの配列相同性又は同一性は標準配列アルゴリズムにより決定され、用いられるプログラムにより確立されたデフォルトギャップペナルティが共に用いられてもよい。実質的には、相同性を有するか(homologous)又は同じ(identical)配列は、中程度又は高いストリンジェントな条件(stringent conditions)下において、一般に配列全体又は全長の少なくとも約50%、60%、70%、80%又は90%以上とハイブリダイズする。ハイブリダイゼーションは、ポリヌクレオチドがコドンの代わりに縮退コドンを有するようにするものであってもよい。
【0042】
任意の2つのポリヌクレオチド又はポリペプチド配列が相同性、類似性又は同一性を有するか否かは、例えば非特許文献1のようなデフォルトパラメーターと「FASTA」プログラムなどの公知のコンピュータアルゴリズムを用いて決定することができる。あるいは、EMBOSSパッケージのニードルマンプログラム(EMBOSS: The European Molecular Biology Open Software Suite, 非特許文献2)(バージョン5.0.0又はそれ以降のバージョン)で行われるように、ニードルマン=ウンシュ(Needleman-Wunsch)アルゴリズム(非特許文献3)を用いて決定することができる(GCGプログラムパッケージ(非特許文献4)、BLASTP、BLASTN、FASTA(非特許文献5、6及び7)を含む)。例えば、国立生物工学情報センターのBLAST又はClustal Wを用いて相同性、類似性又は同一性を決定することができる。
【0043】
ポリヌクレオチド又はポリペプチドの相同性、類似性又は同一性は、例えば非特許文献8に開示されているように、非特許文献3などのGAPコンピュータプログラムを用いて、配列情報を比較することにより決定することができる。要約すると、GAPプログラムは、2つの配列のうち短いものにおける記号の総数で、類似する配列記号(すなわち、ヌクレオチド又はアミノ酸)の数を割った値と定義している。GAPプログラムのためのデフォルトパラメーターは、(1)二進法比較マトリックス(同一性は1、非同一性は0の値をとる)及び非特許文献9に開示されているように、非特許文献10の加重比較マトリックス(又はEDNAFULL(NCBI NUC4.4のEMBOSSバージョン)置換マトリックス)と、(2)各ギャップに3.0のペナルティ、及び各ギャップの各記号に追加の0.10ペナルティ(又はギャップオープンペナルティ10、ギャップ延長ペナルティ0.5)と、(3)末端ギャップに無ペナルティとを含む。よって、本発明における「相同性」又は「同一性」は、配列間の関連性(relevance)を示すものである。
【0044】
本発明における「相補的」とは、互いにハイブリダイゼーションが可能なヌクレオチド塩基間の関係を表すために用いられるものである。例えば、DNAにおいて、アデノシンはチミンに相補的であり、シトシンはグアニンに相補的である。よって、本発明には、実質的に類似する核酸配列だけでなく、全配列に相補的な単離された核酸フラグメントが含まれてもよい。
【0045】
本発明の他の態様は、前記プラスミドで形質転換された組換え菌株を提供する。
【0046】
本発明における前記組換え菌株は、遺伝子発現を調節することを特徴とし、前記菌株は、単一又は多重標的遺伝子発現を強化又は弱化するものであるが、これらに限定されるものではない。
【0047】
前記「プラスミド」、「標的遺伝子」については前述した通りである。
【0048】
本発明における「形質転換」とは、標的タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むベクターを宿主細胞内に導入することにより、宿主細胞内で前記ポリヌクレオチドがコードするタンパク質を発現させることを意味する。形質転換されたポリヌクレオチドは、宿主細胞内で発現するものであれば、宿主細胞の染色体内に挿入されて位置するか、染色体外に位置するかに関係なく、いかなるものでもよい。また、前記ポリヌクレオチドは、標的タンパク質をコードするDNAやRNAを含むものである。前記ポリヌクレオチドは、宿主細胞内に導入されて発現するものであれば、いかなる形態で導入されるものでもよい。例えば、前記ポリヌクレオチドは、自ら発現する上で必要な全ての要素を含む遺伝子構造体である発現カセット(expression cassette)の形態で宿主細胞に導入されるものでもよい。通常、前記発現カセットは、前記ポリヌクレオチドに作動可能に連結されたプロモーター(promoter)、転写終結シグナル、リボソーム結合部位及び翻訳終結シグナルを含む。前記発現カセットは、自己複製可能な発現ベクターの形態であってもよい。また、前記ポリヌクレオチドは、それ自体の形態で宿主細胞に導入され、宿主細胞において発現に必要な配列と作動可能に連結されたものであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0049】
また、本発明における「作動可能に連結」されたものとは、本発明の標的タンパク質をコードするポリヌクレオチドの転写を開始及び媒介するプロモーター配列と前記遺伝子配列が機能的に連結されたものを意味する。
【0050】
本発明のベクターを形質転換する方法は、核酸を細胞内に導入するいかなる方法であってもよく、当該分野において公知であるように、宿主細胞に適した標準技術を選択して行うことができる。例えば、エレクトロポレーション(electroporation)、リン酸カルシウム(CaPO4)沈殿、塩化カルシウム(CaCl2)沈殿、微細注入法(microinjection)、ポリエチレングリコール(PEG)法、DEAE-デキストラン法、カチオン性リポソーム法、酢酸リチウム-DMSO法などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0051】
本発明における「組換え菌株」とは、目的とする組換えタンパク質を発現及び生産できるように、前記組換えタンパク質をコードするポリヌクレオチドが発現ベクターの形態又は染色体に挿入される形態で導入された菌株を意味する。具体的には、本発明において、組換え菌株は、dxCas9-CRP又はdxCas9-CRP誘導体を用いて菌株の単一標的遺伝子だけでなく、多重遺伝子を強化及び/又は抑制した菌株であるが、これに限定されるものではない。
【0052】
本発明において、前記菌株は、エシェリキア(Escherichia)属であり、具体的にはエシェリキア・コリ(大腸菌,Escherichia coli)であるが、これらに限定されるものではない。
【0053】
本発明のさらに他の態様は、dxCas9と、CRP誘導体とを含む標的遺伝子発現調節用システムを提供する。
【0054】
前記「dxCas9」、「CRP誘導体」、「標的遺伝子」、「発現調節」については前述した通りである。
【0055】
本発明における標的遺伝子発現調節用システムとは、単一標的遺伝子の発現を強化又は抑制するシステムや、多重遺伝子において、一部の遺伝子は強化し、他の一部の遺伝子は抑制調節するシステムを意味し、すなわち多重遺伝子に対する発現強化及び抑制を同時に行うことのできるシステムを意味するが、これに限定されるものではない。
【0056】
本発明の一実施例においては、標的遺伝子gRNA(A)のGFP蛍光発現が対照群に比べて増加することが確認され、標的遺伝子gRNA(R2)のmCherry蛍光発現は対照群に比べて減少することが確認されたので、本発明のシステムは、多重遺伝子において、一部の遺伝子は発現を強化し、他の一部の遺伝子は抑制することが確認され、遺伝子の発現強化及び抑制調節が同時に可能であることが分かった(
図13)。
【0057】
本発明は、単一又は多重遺伝子の転写活性及び抑制機能が行える標的遺伝子発現調節システムを開発したことに技術的意義がある。
【0058】
本発明のさらに他の態様は、i)dxCas9タンパク質とCRPタンパク質を結合したdxCas9-CRPシステムを作製するステップと、ii)前述したように作製したdxCas9-CRPシステムに蛍光レポータープラスミドをクローニングするステップと、iii)前記ii)ステップで作製したdxCas9-CRPシステムにガイドRNAをさらにクローニングするステップと、iv)前記dxCas9-CRP-gRNAを菌株に形質転換するステップとを含む、標的遺伝子発現を調節する組換え菌株の製造方法を提供する。
【0059】
本発明において、前記ガイドRNAは、標的遺伝子を含むものであってもよい。
【0060】
本発明において、前記dxCas9は、配列番号2のアミノ酸配列を含むリンカーが結合されたものであるが、これに限定されるものではない。
【0061】
本発明において、前記菌株は、エシェリキア属であり、具体的にはエシェリキア・コリであるが、これに限定されるものではない。
【0062】
前記「dxCas9」、「CRP」、「システム」、「ガイドRNA」、「形質転換」、「組換え菌株」については前述した通りである。
【0063】
本発明において、蛍光レポーターは、dxCas9-CRPシステムの性能検証のためのものであってもよい。前記蛍光レポーターは、例えばルシフェラーゼ(Luciferase)、β-ガラクトシダーゼ、緑色蛍光タンパク質(Green Fluorescent Protein: GFP)、増強緑色蛍光タンパク質(enhanced Green Fluorescent Protein: eGFP)、mプラム(mPlum)、mチェリー(mCherry)、tdトマト(tdTomato)、mストロベリー(mStrawberry)、J-レッド(J-Red)、Dsレッド(DsRed)、mオレンジ(mOrange)、mKO、mシトリン(mCitrine)、ビーナス(Venus)、YPet、増強黄色蛍光タンパク質(enhanced yellow fluorescent protein: EYFP)、エメラルド(Emerald)、CyPet、シアン蛍光タンパク質(cyan fluorescent protein: CFP)、セルリアン(Cerulean)、T-サファイア(T-Sapphire)又はアルカリホスファターゼであり、具体的にはGFP又はmCherryであるが、これらに限定されるものではない。
【0064】
本発明のさらに他の態様は、dxCas9にCRP誘導体を適用するステップを含むことを特徴とする標的遺伝子発現調節方法を提供する。
【0065】
前記「dxCas9」、「CRP」、「標的遺伝子」、「発現調節」については前述した通りである。
【0066】
以下、実施例及び実験例を挙げて本発明をより詳細に説明する。しかし、これらの実施例及び実験例は本発明を例示するものにすぎず、本発明がこれらの実施例及び実験例に限定されるものではない。
【0067】
実験例1.CRISPRベース遺伝子発現調節dxCas9-CRPAR123システムの構築
実験例1-1.pdxCas9-linkerの作製
dxCas9の過剰発現は細胞毒性を引き起こすことがあるので、pAR-mlacI[rhaPBAD,p15A ori,CmR]ベクターにdxCas9の遺伝子を挿入し、精巧な発現調節を行うことのできるL-ラムノース誘導性プロモーターシステム(L-Rhamnose inducible system)を導入した。
【0068】
具体的には、dxCas9(配列番号1)及びlinker(配列番号2)から構成されるdxCas9-linkerを作製するために、dxCas9(3.7)-VPR(Addgene plasmid #108383)プラスミドを鋳型とし、配列番号3及び4のプライマーを用いて、dxCas9-linker DNAをPCRで増幅した。この実験に用いたプライマー配列を表1に示す。
【0069】
【0070】
次に、NdeI及びSpeI制限酵素で切断したpAR-mlacIベクターと、dxCas9-linker PCR産物の相同組換えにより、pdxCas9-linkerプラスミドを作製し、前述したように作製した組換えプラスミドを熱ショックによりE.coli DH5α菌株に形質転換し、25μg/mlのクロラムフェニコール(chloramphenicol)抗生剤を含む固体LB培地で培養し、その後前記プライマー(配列番号3,4)を用いて、組換えプラスミドが挿入された細胞をPCRにより選択した。その後、前述したように選択した細胞からプラスミドを抽出し、最終的に組換えpdxCas9-linkerプラスミドを得た。
【0071】
実験例1-2.dxCas9とCRP(WT及び誘導体)の結合タンパク質発現プラスミドの作製
CRPは、構造的にRNAポリメラーゼ(RNA polymerase)のα-subunitに結合して遺伝子転写を活性化するAR1、AR2、AR3(Activating region)から構成されており、C末端に存在するDNA結合モチーフを介してCRPのレギュロン遺伝子に結合する。このようなCRPのドメインのうち、dxCas9に結合してエフェクター(effector)として機能し、最大の効果を発揮するドメインを選択するために、大腸菌のWT(Wild type, CRPWT, 配列番号5)CRPと4種のCRP誘導体であるCRPAR123(配列番号6)、CRPAR23(配列番号7)、CRPAR1(配列番号8)及びCRPAR3(配列番号9)をエフェクタードメイン(Effector domain)として選択し、遺伝子発現調節効果を確認した。
【0072】
具体的には、CRPWTは、計210個のアミノ酸で構成される45kDaの野生型転写調節因子であり、N末端にRNAポリメラーゼのα-subunitに結合するactivating regionであるAR2(20、22、97、102番目の残基)、AR3(53~56、59番目の残基)が存在し、C末端にAR1(157~165番目の残基)と、CRPのレギュロン遺伝子を認識及び結合するDNA結合モチーフ(182~194)が存在し、前記N末端とC末端は、短いhinge region(136~139)により連結されている。また、CRPAR123は、前述した野生型CRPWTからC末端のDNA結合モチーフが除去され、activating region(AR1,AR2,AR3)ドメインを全て含み、1番目のアミノ酸から180番目のアミノ酸までの計180個のアミノ酸で構成されている。さらに、CRPAR23は、野生型CRPWTからC末端が全て除去され、N末端のAR2、AR3ドメインと、hinge regionとを含み、1番目のアミノ酸から139番目のアミノ酸までの計139個のアミノ酸で構成されており、CRPAR1は、野生型CRPのC末端のAR1ドメインのみ含み、136番目のアミノ酸から180番目のアミノ酸までの計45個のアミノ酸で構成されている。最後に、CRPAR3は、野生型CRPWTのN末端のAR3のみ含み、28番目のアミノ酸から92番目のアミノ酸までの計60個のアミノ酸で構成されている。これらを選択して、次のように実験を行った。
【0073】
実験例1-1.で作製したpdxCas9-linkerプラスミドにWT CRP及びCRP誘導体をそれぞれ挿入するために、E.coli MG1655(DE3)のゲノムを鋳型とし、CRPの各ドメインを部分的に発現するようにプライマーを設計した。CRPWTは配列番号10と13、CRPAR123は配列番号10と14、CRPAR23は配列番号10と15、CRPAR1は配列番号11と14、CRPAR3は配列番号12と16のプライマーをそれぞれ用いてPCRを行い、その後各PCR産物を得た。実験に用いたプライマー配列を表2に示す。
【0074】
【0075】
次に、NgoMIV制限酵素で処理したdxCas9-linkerプラスミドと、増幅したCRP誘導体(CRPAR123,CRPAR23,CRPAR1,CRPAR3)PCR産物の各相同組換え反応により、pdxCas9-CRPWT、pdxCas9-CRPAR123、pdxCas9-CRPAR23、pdxCas9-CRPAR1、pdxCas9-CRPAR3の組換えプラスミドを作製した。次に、実験例1-1.の方法と同様に組換え反応物を形質転換し、その後組換えプラスミドWT CRP及び各CRP誘導体PCR産物を増幅する際に用いた各プライマー(配列番号10~16)を用いて、組換えプラスミドを選択した。
【0076】
実験例2.dxCas9-CRP
AR123システム検証のための蛍光レポータープラスミドの作製
dxCas9-CRPシステムの転写調節(強化/抑制)性能を試験及び検証するために(
図1及び
図2)、発現量の測定が容易なGFP蛍光遺伝子とmCherry蛍光遺伝子をレポーター遺伝子として選定した。
【0077】
まず、転写強化の有無を検証するためには、dxCas9-CRPが標的遺伝子のupstream regionを認識及び結合しなければならないので、NGG配列を内包するPAM-rich upstreamである170bpの遺伝子配列J1(非特許文献11)、P
J23119又はP
J23117、RBSが連結された配列を遺伝子合成により得た。前述したように得られた合成遺伝子をPCR反応の鋳型とし、J1-P
J23119-RBSは配列番号17と18のプライマー、J1-P
J23117-RBSは配列番号19と20のプライマーを用いてPCRを行い、NdeI制限酵素で切断したpMW7-GFPプラスミドと、前述したように得られた各PCR産物の相同組換えを行い、合成プロモーターによりGFPの発現強度を人為的に調節したpMW7-P
J23117-GFP(弱いGFP発現)とpMW7-P
J23119-GFP(強いGFP発現)組換えプラスミドを作製した(
図3及び
図4)。
【0078】
また、一細胞においてdxCas9-CRPシステムの多重遺伝子転写強化及び抑制の同時調節が行われるか否かを検証するために、合成プロモーターにより蛍光遺伝子の発現強度を人為的に調節し、持続的に弱いGFP発現と強いmCherry発現を誘導するpMW7-P
J23117-GFP-P
J23119-mCherryプラスミドを作製した。配列番号21と22のプライマーを用いてPCRを行い、増幅したP
J23119-mCherryのPCR産物と、AatIIの制限酵素で切断したpMW7-P
J23117-GFPプラスミドの相同組換えを行い、pMW7-P
J23117-GFP-P
J23119-mCherryプラスミドを作製した(
図5)。配列番号21と22のプライマーを用いて、P
J23119-mCherryが挿入されたプラスミドをPCRにより選択した。
【0079】
蛍光レポータープラスミドの作製に用いたプライマー配列を表4に示す。
【0080】
【0081】
実験例3.蛍光遺伝子発現強化及び抑制のための標的位置の選択及びgRNAの作製
dxCas9が実施例2.で作製した蛍光レポータープラスミドの蛍光遺伝子を認識及び結合するように、遺伝子上のgRNA標的位置を選択し、実験例1-2.で作製した各pdxCas9-linker-CRP(又はCRP誘導体)プラスミドにさらなるgRNA発現のためのクローニングを行った。
【0082】
具体的には、gRNAは標的とする遺伝子の配列を含み、gRNAが標的遺伝子に結合する位置に応じて遺伝子の転写強化又は抑制反応が決定されるので、PAM(5’-NGG-3’)配列に隣接し、転写開始点からそれぞれ-191bpに位置するGFP発現強化のためのgRNA(A)(配列番号23)、+66bpに位置するGFP発現抑制のためのgRNA(R1)(配列番号24)の結合位置を選定し、mCherry遺伝子の転写開始点から+28bpに位置するmCherry発現抑制のためのgRNA(R2)(配列番号25)の標的位置を選定した(
図6)。それに用いたgRNA配列情報を表5に示す。
【0083】
【0084】
次に、gRNAは標的遺伝子と相補的な結合を行う20bpの配列と共に、共通してdxCas9に結合する42bpのヘアピン構造を有するdxCas9 handle配列と、化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)菌株に由来する40bpのterminatorとから構成されるsgRNA scaffoldが連結された構造を有して発現、作用するので、全てのgRNAに持続的に強い発現強度を示すP
J23119プロモーターを導入して過剰発現を誘導した(
図7)。
【0085】
各gRNAを発現するためのpdxCas9-CRP-gRNAプラスミドを作製するために、まずgRNA(A)、gRNA(R1)、gRNA(R2)を増幅するpgRNA-bacteria(Addgene #44251)を鋳型とし、gRNA(A)は配列番号26と27のプライマー組み合わせ、配列番号28と33のプライマー組み合わせ、gRNA(R1)は配列番号26と29のプライマー組み合わせ、配列番号30と33のプライマー組み合わせ、gRNA(R2)は配列番号26と31のプライマー組み合わせ、配列番号32と33のプライマー組み合わせによりPCRを行い、それぞれ2種のPCR産物を得た。前述したように得られた2種のPCR産物の重複配列に基づいてoverlap PCRを行い、標的遺伝子配列を含むgRNA(A)、gRNA(R1)、gRNA(R2)のPCR産物を得た。次に、実験例1-2.で作製したpdCas9-CRP(又はCRP誘導体)プラスミドをSpeI及びNotI制限酵素で切断した線形DNAと、gRNA(A)、gRNA(R1)PCR産物の相同組換え反応により、組換えpdxCas9-CRP(又はCRP誘導体)-gRNA(A)プラスミド(
図8,配列番号34)、pdxCas9-CRP(又はCRP誘導体)-gRNA(R1)プラスミド(
図9,配列番号35)を作製した。組換え反応物を形質転換して組換えプラスミドを選択する過程は実験例1-1.の方法と同様に行い、組換えプラスミドは配列番号26と33のプライマーによりPCRを行って選択した。前記NotIの制限酵素で切断した線形pdxCas9-CRP-gRNA(A)プラスミドと、gRNA(R2)のPCR産物の相同組換え反応により、pdxCas9-CRP-gRNA(A)にさらにgRNA(R2)を挿入した組換えプラスミドを作製した。その後、前述したように作製したプラスミドをNotI及びNcoI制限酵素で切断してアガロースゲル電気泳動を行い、gRNA(R2)のサイズに相当するDNAバンドが検出されたプラスミドを選択してpdxCas9-CRP-gRNA(A/R2)プラスミド(
図10,配列番号36)を得た。
【0086】
この実験に用いたプライマー配列を表6に示す。
【0087】
【0088】
【実施例0089】
dxCas9-CRPシステムの遺伝子発現強化/抑制調節の検証
実施例1-1.dxCas9-CRPの単一標的遺伝子発現強化効果の確認及びCRP誘導体の選定
実験例3.で構築した組換えpdxCas9-CRP(又はCRP誘導体)-gRNA(A)プラスミドと、実験例2.で構築したGFPレポータープラスミドを共に大腸菌MG1655菌株に熱ショック方法により形質転換し、その後25μg/mlのchloramphenicolと、100μg/mlのampicillinとを含む固体LB培地で培養し、形質転換された菌株を選択した。次に、1mMのL-Rhamnoseを含む液体LB培地で前述したように選択した菌株を培養し、24時間培養した細胞を共焦点蛍光顕微鏡で撮影し、その後個別の細胞のGFP発現量を蛍光強度で測定した(
図11)。
【0090】
その結果、
図11に示すように、dxCas9と非標的gRNAを発現する対照菌株(control)において、相対的に低いレベルのGFP蛍光強度で発現することが観察され、dxCas9-CRP
AR123誘導体発現菌株において、対照菌株に比べてGFP蛍光発現量が約4倍以上に増加することが確認され、他のCRP誘導体発現菌株に比べて最も優れた蛍光発現であることが確認された。
【0091】
よって、CRPAR123誘導体がdxCas9のエフェクターとして最大の転写強化効果を有することが確認され、CRPAR123誘導体はタンパク質構造上、RNAポリメラーゼに結合するactivating regionであるAR1、AR2、AR3を全て含むので、優れた転写強化調節活性を示すCRPAR123誘導体を最も適したCRP誘導体として選定し、実験を行った。
【0092】
実施例1-2.dxCas9-CRPの単一標的遺伝子発現抑制効果の確認及びCRP誘導体の選定
dxCas9タンパク質は標的遺伝子のプロモーター及びORF位置に結合するとRNAポリメラーゼのアクセスを阻害することにより高い効率で転写を抑制するので、dxCas9とCRP(又はCRP誘導体)の融合における、CRP(又はCRP誘導体)によるdxCas9自体の遺伝子転写抑制効果に対する影響及びdxCas9-CRPシステムの標的遺伝子発現抑制効率を確認するために実験を行った。
【0093】
具体的には、実験例3.で構築した各組換えpdxCas9-CRP(又はCRP誘導体)-gRNA(R1)プラスミドと、実験例2.で構築したGFPレポータープラスミドを共に大腸菌MG1655菌株に熱ショックにより形質転換し、その後25μg/mlのchloramphenicolと、100μg/mlのampicillinとを含む固体LB培地で培養し、形質転換された菌株を選択した。次に、1mMのL-Rhamnoseを含む液体LB培地で前述したように選択した菌株を培養し、24時間培養した細胞を共焦点蛍光顕微鏡で撮影し、その後個別の細胞のGFP発現量を蛍光強度で測定した(
図12)。
【0094】
その結果、
図12に示すように、CRP(又はCRP誘導体)が融合されていないdxCas9とgRNA(R1)を同時に発現する菌株は、dxCas9と非標的gRNAを発現する対照菌株(control)に比べて、GFP蛍光値が約75%以上減少し、dxCas9自体の遺伝子が転写抑制効果を有することが確認された。特に、本発明のdxCas9-CRP
AR123誘導体発現菌株においては、GFP発現が約84%以上阻害されることが確認された。
【0095】
よって、CRP誘導体の融合によるdxCas9の転写阻害効果が検証されたので、実施例1-1.及び1-2.の遺伝子発現強化及び抑制実験により、CRP誘導体のうち、CRPAR123が転写強化活性において優れるだけでなく、抑制活性においても最も高い活性を示し、最終的にdxCas9-CRPAR123が新たな遺伝子発現調節システムとなることが確認された。
以上の説明から、本発明の属する技術分野の当業者であれば、本発明がその技術的思想や必須の特徴を変更することなく、他の具体的な形態で実施できることを理解するであろう。なお、上記実施例はあくまで例示的なものであり、限定的なものでないことを理解すべきである。本発明には、明細書ではなく請求の範囲の意味及び範囲とその等価概念から導かれる変更又は変形された形態が全て含まれるものと解釈すべきである。