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特開2025-164135プラント異常検知システム、プラント異常検知方法およびプラント異常検知プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025164135
(43)【公開日】2025-10-30
(54)【発明の名称】プラント異常検知システム、プラント異常検知方法およびプラント異常検知プログラム
(51)【国際特許分類】
   G05B 23/02 20060101AFI20251023BHJP
【FI】
G05B23/02 302R
G05B23/02 302Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024067941
(22)【出願日】2024-04-19
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】塚田 圭祐
【テーマコード(参考)】
3C223
【Fターム(参考)】
3C223AA01
3C223AA02
3C223AA03
3C223AA05
3C223AA11
3C223BA03
3C223FF02
3C223FF03
3C223FF04
3C223FF05
3C223FF12
3C223FF13
3C223FF22
3C223FF23
3C223FF24
3C223FF26
3C223FF33
3C223FF35
3C223FF42
3C223GG01
3C223HH02
3C223HH03
3C223HH29
(57)【要約】
【課題】過去の正常データおよび異常データの蓄積を不要とし、新規に設計された機器または設備にであっても、異常を検知する。
【解決手段】プラント異常検知システム1は、プラントにおいて特定の挙動に影響を与えるパラメータの確率密度分布をプラントの挙動を予測する解析モデルに入力し、解析モデルを実行することで、プラントにおいて特定の挙動が発生する確率である発生確率を計算する機能を有し、プラントに設けられた計測器8で実測した監視値を受け取り、確率密度分布から、監視値が発生する確率である発生確率を算出し、算出した監視値の発生確率に基づいてプラントの異常を検知する、ように構成されている1つ以上のコンピュータ2を備える。
【選択図】図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラントにおいて特定の挙動に影響を与えるパラメータの確率密度分布を前記プラントの挙動を予測する解析モデルに入力し、前記解析モデルを実行することで、前記プラントにおいて前記特定の挙動が発生する確率である発生確率を計算する機能を有し、
前記プラントに設けられた計測器で実測した監視値を受け取り、
前記確率密度分布から、前記監視値が発生する確率である前記発生確率を算出し、
算出した前記監視値の前記発生確率に基づいて前記プラントの異常を検知する、
ように構成されている1つ以上のコンピュータを備える、
プラント異常検知システム。
【請求項2】
前記解析モデルは、前記プラントの物理的な状態を再現する物理モデルに基づいて前記プラントの挙動を解析するものである、
請求項1に記載のプラント異常検知システム。
【請求項3】
前記解析モデルは、前記プラントの運転データを再現する挙動予測モデルと前記物理モデルとの組み合わせに基づいて前記プラントの挙動を解析するものである、
請求項2に記載のプラント異常検知システム。
【請求項4】
前記監視値の前記発生確率が予め設定された設定値を下回る場合に異常と判定する、
請求項1または請求項2に記載のプラント異常検知システム。
【請求項5】
前記監視値の前記発生確率が予め設定された設計値、前記プラントを管理するための管理値、前記プラントの設計上許容される設計許容値の少なくともいずれかの値に基づいて前記確率密度分布を推定する、
請求項1または請求項2に記載のプラント異常検知システム。
【請求項6】
プラントにおいて特定の挙動に影響を与えるパラメータの確率密度分布を前記プラントの挙動を予測する解析モデルに入力し、前記解析モデルを実行することで、前記プラントにおいて前記特定の挙動が発生する確率である発生確率を計算する機能を有する1つ以上のコンピュータが、
前記プラントに設けられた計測器で実測した監視値を受け取り、
前記確率密度分布から、前記監視値が発生する確率である前記発生確率を算出し、
算出した前記監視値の前記発生確率に基づいて前記プラントの異常を検知する、
処理を実行する、
プラント異常検知方法。
【請求項7】
プラントにおいて特定の挙動に影響を与えるパラメータの確率密度分布を前記プラントの挙動を予測する解析モデルに入力し、前記解析モデルを実行することで、前記プラントにおいて前記特定の挙動が発生する確率である発生確率を計算する機能を1つ以上のコンピュータに付与し、
前記プラントに設けられた計測器で実測した監視値を受け取り、
前記確率密度分布から、前記監視値が発生する確率である前記発生確率を算出し、
算出した前記監視値の前記発生確率に基づいて前記プラントの異常を検知する、
処理を前記コンピュータに実行させる、
プラント異常検知プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、プラント異常検知技術に関する。
【背景技術】
【0002】
発電所、化学プラントなどの施設において、運転状態を監視し、通常と異なる挙動を観測した際に、異常として検知し、報告する手法が広く知られている。これは、計測しているデータから逸脱するような挙動を検出する外れ値検出と呼ばれる手法である。広く使われる外れ値検出手法は、統計的な確率理論に基づいて外れ値の評価を実施するものである。この手法は、正常時の監視値の確率密度分布を推定し、この確率密度分布から、観測された監視値が発生する確率を推定することで、その確率の小ささから異常度を定量化するものである。さらに、この手法は、閾値を設定することで、正常な監視値と異常な監視値の分別を可能とする。
【0003】
例えば、非特許文献1に記載されている古典的な方法であるホテリングのT2法がある。この手法は、過去の正常な監視値の組合せから、多変量正規分布の平均値と共分散行列をあらかじめ計算しておき、新たに得られた監視値の組合せとの距離を計算することで、距離が閾値を上回った場合に警報を出す。この手法は、半導体の製造プロセスの監視業務などの用途に適用されている。
【0004】
さらに、近年の機械学習手法は、その進化に伴い、ホテリングのT2法のように正常時の監視値の分布を多変量正規分布と仮定することなく、ライブラリ化することが可能である。例えば、特許文献1のように、潜在変数モデルと同時確率モデルをあらかじめ学習することで、正常データと異常データを機械学習により分別する技術が提案されている。
【0005】
一方、監視データの特徴量と異常原因の傾向を紐づける異常診断方法において、特許文献2のように、シミュレーションにより異常を再現する手法がある。この手法は、異常モードを想定したうえで、その応答をシミュレーションで提供し、計測値との適合度を評価するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第6740247号公報
【特許文献2】特許第5768834号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】井手剛、杉山将、「異常検知と変化検知」、講談社、2015年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
異常診断技術として、計測されているデータから、機器が正常運転の範囲にあるか、異常状態にあるかを診断する異常検知技術が開発されている。この技術は、過去の正常データを大量に集め、その特徴を分析することで、それから外れるデータを計測した際に異常として検知する技術である。異常検知技術は、近年の機械学習の進化とともに、発展しているが、原理的には、過去のデータから、出現確率の大きい観測値は異常度が低く、出現確率が小さな観測値は異常度が高くなるという性質を利用している。そのため、過去のデータの蓄積を基に観測値の出現確率を評価することが前提となる。例えば、新規に立ち上げた生産設備においては、その観測値が充分に蓄積されておらず、出現確率を正当に評価することができない。
【0009】
加えて、経年変化のように、機器の特性が緩やかに変化することで、観測値が変化するような状況においても、観測値の出現確率がデータの蓄積とともに緩やか変化することから、検知することは難しくなる。特に、経年変化による緩やかな監視値の変化を異常による変化と分別する必要がある。
【0010】
特許文献1は、事象がそもそも稀な事象であり、複合的な要因が重なる場合、モデル、ルール、または、閾値の設定が非常に困難であったので、より汎化性、適応性の高いシステムが求められることを指摘している。すなわち、機器と設備が取り扱う現象が非線形である場合、監視値の確率密度分布が正規分布する保証はなく、妥当な確率密度分布を設定することが必要である。
【0011】
特許文献2で示されている解析モデルを使用した異常診断方法も、予め想定された異常のみにしか対応できない。また、複数の要因が重なった条件または個々の分がそれぞれ少しずつ経年劣化した条件においても、異常を検出することが難しい。
【0012】
本発明の実施形態は、このような事情を考慮してなされたもので、過去の正常データおよび異常データの蓄積を不要とし、新規に設計された機器または設備にであっても、異常を検知することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の実施形態に係るプラント異常検知システムは、プラントにおいて特定の挙動に影響を与えるパラメータの確率密度分布を前記プラントの挙動を予測する解析モデルに入力し、前記解析モデルを実行することで、前記プラントにおいて前記特定の挙動が発生する確率である発生確率を計算する機能を有し、前記プラントに設けられた計測器で実測した監視値を受け取り、前記確率密度分布から、前記監視値が発生する確率である前記発生確率を算出し、算出した前記監視値の前記発生確率に基づいて前記プラントの異常を検知する、ように構成されている1つ以上のコンピュータを備える。
【発明の効果】
【0014】
本発明の実施形態により、過去の正常データおよび異常データの蓄積を不要とし、新規に設計された機器または設備にであっても、異常を検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】プラント異常検知システムを示すブロック図。
図2】解析モデルを示すブロック図。
図3】解析モデルとモデルパラメータを示すブロック図。
図4】モデルパラメータが解析モデルに入力される態様を示すブロック図。
図5】監視値の不確かさを仮定した確率密度分布を示すグラフ。
図6】監視値の不確かさを仮定した一様確率密度分布を示すグラフ。
図7】経変変化を考慮した監視値の不確かさを仮定した確率密度分布を示すグラフ。
図8】監視値の確率密度分布の算出処理を示すフローチャート。
図9】異常検知処理を示すフローチャート。
図10】解析モデルと計測値を示すブロック図。
図11】配管長のサンプル点を取得する過程を示すグラフ。
図12】配管内径のサンプル点を取得する過程を示すグラフ。
図13】配管表面性状のサンプル点を取得する過程を示すグラフ。
図14】サンプル点で解析を実行して解析結果点を取得する処理を示す説明図。
図15】タンク圧力の確率密度分布を推定する処理を示すヒストグラム。
図16】タンク液送温度の確率密度分布を推定する処理を示すヒストグラム。
図17】タンク気相温度の確率密度分布を推定する処理を示すヒストグラム。
図18】タンク圧力の異常検知をした状態を示すグラフ。
図19】タンク液送温度の異常検知をした状態を示すグラフ。
図20】タンク気相温度の異常検知をした状態を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら、プラント異常検知システム、プラント異常検知方法およびプラント異常検知プログラムの実施形態について詳細に説明する。
【0017】
図1の符号1は、本実施形態のプラント異常検知システムである。このプラント異常検知システム1を用いてプラント異常検知方法が実施される。
【0018】
プラント異常検知システム1は、診断対象となるプラントから得られる計測器データに基づいて、プラントの異常を検知するものである。プラントは、例えば、原子力発電プラント、火力発電プラント、工場設備、または生産設備などである。なお、異常の検知には、その予兆の検知も含まれる。
【0019】
図1に示すように、プラント異常検知システム1は、コンピュータ2を備える。このコンピュータ2は、処理回路3と記憶部4と通信部5と入力部6と出力部7とを備える。コンピュータ2は、各種プログラムを実行することで、ソフトウェアによる情報処理がハードウェア資源を用いて実現される装置である。さらに、本実施形態のプラント異常検知方法は、各種プログラムをコンピュータ2に実行させることで実現する。
【0020】
なお、プラント異常検知システム1の各構成は、必ずしも1つのコンピュータ2に設ける必要はない。例えば、1つのプラント異常検知システム1が、ネットワークで互いに接続された複数のコンピュータ2で実現されてもよい。例えば、解析モデルを記憶する機能と、これを実行する機能とが、それぞれ個別のコンピュータ2に搭載されてもよい。
【0021】
処理回路3は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、専用または汎用のプロセッサを備える回路である。このプロセッサは、記憶部4に記憶した各種のプログラムを実行することにより各種の機能を実現する。また、処理回路3は、FPGA(Field Programmable Gate Array)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)などのハードウェアで構成されてもよい。これらのハードウェアによっても各種の機能を実現することができる。また、処理回路3は、プロセッサとプログラムによるソフトウェア処理と、ハードウェア処理とを組み合わせて、各種の機能を実現することもできる。
【0022】
記憶部4は、処理回路3が実行する所定のプログラムを記憶する。また、記憶部4には、プラント異常検知方法を実行するときに必要な各種情報が記憶される。
【0023】
通信部5は、プラントを構成する各種機器にそれぞれ設けられた複数の計測器8が実測した監視値を含む計測器データを受信する。コンピュータ2は、これら計測器データに含まれる各種の監視値に基づいて、プラントの異常の有無を検知(判定)する。診断対象の機器の計測器8は、例えば、圧力計または温度計などのセンサである。
【0024】
また、通信部5は、インターネットなどの通信回線を介して他の情報処理装置と通信を行う。なお、本実施形態では、コンピュータ2と他の情報処理装置がインターネットを介して互いに接続されているが、その他の態様でもよい。例えば、コンピュータ2と他の情報処理装置がLAN(Local Area Network)、WAN(Wide Area Network)または携帯通信網を介して互いに接続されてもよい。また、それぞれのデバイスがバスを介して互いに接続されてもよい。
【0025】
入力部6には、コンピュータ2を使用するユーザの操作に応じて所定の情報が入力される。この入力部6には、マウス、キーボード、タッチパネルなどの入力装置が含まれる。つまり、これら入力装置の操作に応じて所定の情報がコンピュータ2に入力される。
【0026】
出力部7は、所定の情報の出力を行う。出力部7には、解析結果の出力を行うディスプレイなどの画像の表示を行う装置が含まれる。なお、ディスプレイはコンピュータ2の本体と別体でもよいし、一体でもよい。追加的または代替的に、ネットワークを介して接続される他のコンピュータ2が備えるディスプレイが解析結果の出力を行ってもよい。
【0027】
なお、本実施形態では、出力部7としてディスプレイが例示されているが、その他の態様でもよい。例えば、ヘッドマウントディスプレイまたはプロジェクタが出力部7でもよい。さらに、紙媒体に情報を印字するプリンタが出力部7でもよい。
【0028】
本実施形態のコンピュータ2は、プラントにおいて特定の挙動に影響を与えるパラメータの確率密度分布をプラントの挙動を予測する解析モデルに入力する機能を有する。さらに、コンピュータ2は、解析モデルを実行することで、プラントにおいて特定の挙動が発生する確率である発生確率を計算する機能を有する。そして、コンピュータ2は、プラントに設けられた計測器8で実測した監視値を受け取り、確率密度分布から、監視値が発生する確率である発生確率を算出し、算出した監視値の発生確率に基づいてプラントの異常を検知する。
【0029】
図2は、蒸気を熱媒体とした発電プラントの解析モデル群の一例である。解析モデルは、プラントの物理的な状態を再現する物理モデルに基づいてプラントの挙動を解析するものである。
【0030】
解析モデルは、例えば、流入境界モデル11、配管モデル12、バルブモデル13、タンクモデル14、流出境界モデル15を含む、それぞれの解析モデルは、代表的な例であり、入力に対して非線形な応答を返すモデルであれば他のモデルでも適用可能である。
【0031】
例えば、解析モデルは、発電プラントの起動または低出力運転などの過渡的な挙動を評価するために開発された1DCAEモデルである。ただし、解析モデルを1次元に限定する必要はなく、2次元または3次元のモデルとしても構わない。
【0032】
1DCAEモデルは、経験則、実験式などより構成されたモデル、または、物理モデルを解くことにより、パラメータに対する応答を与える。パラメータは、境界条件に加えて、それぞれの解析モデルの物理情報、パラメータを入力することが可能である。
【0033】
例えば、解析モデルは、流入境界モデル11から配管モデル12を通り蒸気が流れる。そして、蒸気は、バルブモデル13で流量を制御し、タンクモデル14に貯留した後に流出境界モデル15から出ていくようになっている。
【0034】
図3は、単純化された解析モデルに対しての入力されるパラメータとその上流側に設定されている物理モデルおよび制御モデル21を示している。物理モデルは、例えば、圧損モデル16,19,23と伝熱モデル17,20,24を含む。
【0035】
制御モデル21は、プラントの運転データを再現する挙動予測モデルである。つまり、解析モデルは、挙動予測モデルと物理モデルとの組み合わせに基づいてプラントの挙動を解析するものである。
【0036】
配管モデル12には、その上流に圧損モデル16と伝熱モデル17が接続されており、配管への圧損係数と熱流束を与える構造となっている。これらの物理モデルのモデルパラメータ18がさらに上流側から入力される。モデルパラメータ18は、単一のパラメータではなく、複数のパラメータを内包したパラメータセットである。
【0037】
バルブモデル13も配管モデル12と同様に、上流側には圧損モデル19、伝熱モデル20に加えて制御モデル21が接続しており、バルブの開度を与えている。タンクモデル14には配管モデル12と同様に、圧損モデル23と伝熱モデル24が接続されている。また、これらの物理モデルのモデルパラメータ22,25がさらに上流側から入力される。
【0038】
また、それぞれの物理モデルに、そのモデルを制御するためのモデルパラメータ26,27,28,29,30のセットが入力される。これらは、それぞれの物理モデルに対して、形状情報または物性値情報を入力するものである。例えば、配管モデル12に入力されるモデルパラメータ27は、配管径、配管長さ、配管壁厚さ、配管セル数、初期圧力、初期温度、初期流速などである。
【0039】
図4は、パラメータセットが圧損モデル16と伝熱モデル17とに入力する流れを示す。入力されるモデルパラメータ18は、複数のパラメータを内包する。例えば、配管長、配管内径、配管内面性状、配管肉厚、管材熱伝導率が設定されている。配管モデル12(図3)の圧力損失係数、配管の熱伝導係数が決定されており、これらが圧損モデル16と伝熱モデル17に入力される。
【0040】
図8から図9のフローチャートを参照して異常検知の流れを説明する。なお、前述の図面を参照する場合がある。以下のステップは、異常検知の流れに含まれる少なくとも一部の処理であり、他のステップが異常検知の流れに含まれていてもよい。
【0041】
図8は、監視値の確率密度分布を推定する処理を示す。まず、ステップS1において、コンピュータ2(図1)は、診断対象の設備の図面または仕様書に基づいて、解析モデルを作成する。
【0042】
つぎのステップS2において、コンピュータ2は、構築した解析モデルから監視値に影響を与えるモデルパラメータを抽出する。モデルパラメータは、解析モデルの計算に使用する物理量である。物理量は、例えば、配管の長さ、内径、表面性状、熱伝達率などである。
【0043】
つぎのステップS3において、コンピュータ2は、それぞれのモデルパラメータに対して、仕様書または機器特性の少なくとも一方に基づいて、不確かさを仮定することで、モデルパラメータの確率密度分布を仮定する。ここで、経年変化、劣化しないと考えられるモデルパラメータは、機器の仕様書または機器特性から確率密度分布を仮定することができる。
【0044】
また、診断対象となる機器の経年劣化を考慮する場合には、コンピュータ2は、変化、劣化すると仮定した場合のモデルパラメータに対して、劣化モードまたは設計許容値の少なくとも一方に基づいて、モデルパラメータの確率密度分布を仮定する。
【0045】
ここで、設計許容値は、正常値として許容できる限界値である。具体的には、配管の腐食モードを想定すると、耐圧の観点から最小配管肉厚を決定することが可能であり、正常時に許容できる最大配管内径を仮定することが可能である。
【0046】
つぎのステップS4において、コンピュータ2は、仮定したモデルパラメータの確率密度分布に従い、サンプル点P(図11図13)を取得する。ここで、サンプル点Pは、複数のモデルパラメータ(物理量)に対する点である。
【0047】
つぎのステップS5において、コンピュータ2は、解析モデルを実行する。
【0048】
つぎのステップS6において、コンピュータ2は、監視値に対応する値であってサンプル点Pにおける解析値の確率密度分布が収束しているか否かを判定する。ここで、解析値の確率密度分布が収束している場合(ステップS6でYESの場合)は、ステップS7に進む。一方、解析値の確率密度分布が収束していない場合(ステップS6でNOの場合)は、ステップS4に戻る。
【0049】
つまり、コンピュータ2は、サンプル点Pにおける解析値を、解析モデルを実行することで取得する。そして、コンピュータ2は、解析値の確率密度分布が収束するまでサンプル点Pを動かし、徐々に監視値のヒストグラムの積み重なりを収束させていくことで、解析値の確率密度分布を取得することが可能である。
【0050】
ステップS6でYESの場合に進むステップS7において、コンピュータ2は、解析モデルから得られた監視値のヒストグラムから、監視値の確率密度分布を推定し、処理を完了する。
【0051】
図9は、プラントの異常を検知する処理を示す。まず、ステップS11において、コンピュータ2(図1)は、診断対象となるプラントにおける監視対象の機器に設けられた計測器8(図1)から監視値を取得する。
【0052】
つぎのステップS12において、コンピュータ2は、事前に推定した監視値の確率密度分布に基づいて、計測器8から取得した監視値の発生確率を推定する。
【0053】
つぎのステップS13において、コンピュータ2は、監視値の発生確率が予め設定された設定値以上か否かを判定する。ここで、監視値の発生確率が設定値以上である場合(ステップS13でYESの場合)は、ステップS11に戻る。一方、監視値の発生確率が設定値未満である場合(ステップS13でNOの場合)、つまり監視値の発生確率が設定値を下回った場合は、ステップS14に進む。つまり、コンピュータ2は、監視値の発生確率が予め設定された設定値を下回る場合に異常と判定する。
【0054】
つぎのステップS14において、コンピュータ2は、異常検知の通報の出力を行い、処理を完了する。
【0055】
つぎに、圧力損失係数を例にモデルパラメータの確率密度分布を推定する手順を説明する。コンピュータ2(図1)は、監視値の発生確率が予め設定された設計値、プラントを管理するための管理値、プラントの設計上許容される設計許容値の少なくともいずれかの値に基づいて確率密度分布を推定する。
【0056】
圧力損失係数は、配管長、配管径、配管内面性状によって決定される。配管長は、設計値(または管理値)が決まっており、実際の施工により不確かさが存在すると仮定する。なお、以下の説明において、設計値は、管理値であってもよい。
【0057】
不確かさは、設計上(管理上)、許容することができる長さであり、配管施工図面の仕様書などの情報を参照することで決定することが可能である。前述したもの以外に、実際の配管長を計測するなどの方法によって、その不確かさを確定させることが可能である。例えば、設計許容値から確率密度分布を推定することができる。
【0058】
図5は、監視値としての配管長の確率密度分布の一例を示す。確率密度分布の形状が正規分布であると仮定する。正規分布の中央値を設計値40とし、標準偏差を設計許容値としての設計許容下限値41および設計許容上限値42とすることで、確率密度分布を改定することが可能である。
【0059】
また、監視値が配管径の場合、監視値が配管内面性状の場合、監視値が配管の表面粗さの場合についても、同様に、正規分布を仮定し、その中央値を設計値40とし、標準偏差を設計許容下限値41および設計許容上限値42として持つ分布を仮定する。
【0060】
なお、正規分布の標準偏差を設計許容値とするのは一例であり、設計許容値を正規分布の一定存在区間、例えば、93%区間の上限値または下限値となるように設定することも可能である。
【0061】
また、図6に示すように、一様分布を仮定し、その分布を設計値43とし、設計許容値としての設計許容下限値44と設計許容上限値45との間に、一様な確率密度分布を仮定することが可能である。さらに、ベータ分布などの分布形状を仮定することで、設定することが可能である。なお、経年劣化も含めて仮定する分布が現象に即して適切なものを選んでもよいのは勿論である。
【0062】
前述の説明は、設計値に対して、施工上または製造上存在する不確かさを仮定したが、機器が経年変化、劣化する場合がある。例えば、監視値として配管径が減肉するとした場合の確率密度分布の仮定方法を示す。配管が減肉しても正常として許容できる最大配管内径を仮定する。
【0063】
正常として許容できる最大配管内径は、配管肉厚の耐圧と、それに対する安全係数から理論的に算出することが可能である。減肉以外にも、配管内部に堆積物が滞留し、閉塞する条件を考慮する。また、堆積による配管径の変化として許容できる最小配管内径を推定することができる。最小配管内径は、配管断面積の10%までの閉塞を許容するなどの条件を設定することで決定できる。
【0064】
最小配管内径の決定方法は、前述の方法に限定されず、配管流量の上限値から算出する。例えば、体積状態をオリフィスとして考慮し圧力損失の上限値を決定することから算出する方法がある。
【0065】
図6に示すように、監視値としての配管内径の確率密度分布は、一様分布を仮定し、正常として許容できる最大配管内径を上限として持ち、最小配管内径を下限として持つような分布を仮定することができる。なお、確率密度分布は、一様分布に限定されず、正規分布またはベータ分布として仮定することも可能である。
【0066】
つぎに、配管の劣化として内面に腐食による表面性状の変化または堆積物により表面性状が変化した場合の確率密度分布の推定方法を示す。表面性状についても、配管内径と同様に、性状として考えたときに、例えば、許容できる表面粗さを仮定することができる。具体的には、配管内部のさび状態を考慮し、孔食が発生しない程度の表面状態であると仮定することで、許容できる最大表面粗さを決定することができる。また、配管表面粗さが小さくなることはないと仮定すれば、カイ二乗分布に従った確率密度分布となると仮定することができる。
【0067】
図7は、腐食の影響を考慮した配管表面粗さの確率密度分布を示す。設計値46を原点とし、標準偏差を許容できる最大表面粗さを設計許容値としての設計許容上限値47とすることで、確率密度分布を仮定することができる。なお、確率密度分布の形状は、カイ二乗分布に限定されず、ガンマ分布または対数正規分布を仮定することが可能である。なお、前述した仮定する分布形状には制約はないのは勿論である。
【0068】
図10に示すように、パラメータの確率密度分布を設定した後に、解析モデルに従い、監視値の確率密度分布を推定することができる。ここで、監視値としてタンク圧力50、タンク液相温度51、タンク気相温度52を計算することができる。ただし、監視値は、3つに限定する必要はない。一例として、モンテカルロ法を使用する場合がある。それ以外にも、マルコフ連鎖モンテカルロ法、ラテン超方格、Sobol’順列などが適用可能である。
【0069】
図11図12図13に示すように、確率密度分布を決定したパラメータに対してランダムにサンプル点Pを取得することができる。ここで、サンプル点Pは、確率密度分布に従うように発生させる。
【0070】
図14に示すように、サンプル点Pに対して解析を実行した場合に監視値を推定することが可能である。それぞれのサンプル点Pに対して、解析を実行し、解析結果点Rを得ることができる。
【0071】
図15図16図17に示すように、コンピュータ2は、解析結果点Rを複数集めることで、ヒストグラムを作成する。具体的には、タンク圧力50の区間を区切り、解析結果点Rがどの区間に存在するかカウントすることで、ヒストグラムを作成する。コンピュータ2は、監視点の確率密度分布を推定するために、サンプル点Pを数千から数万まで増加させる。
【0072】
図18図19図20は、監視値の確率密度分布を使用した異常検知方法の一例を示す。実際の機器において監視値が得られた場合、監視値の発生確率を確率密度分布から推定する。
【0073】
例えば、タンク圧力50の発生確率を確率密度分布から計算し、確率密度分布の93%区間の範囲に存在する場合には、正常として判断することが可能である。
【0074】
なお、正常として判定する確率密度分布の区間は、検出精度に応じて変更してもよく、確率密度分布の66%区間を設定することで、軽微な異常であっても検出することが可能である。また、確率密度分布の99%区間を設定することで、明確な異常のみを検出し、外れ値または計測値のノイズの影響を小さくすることが可能である。
【0075】
同様に、タンク液相温度51に対して監視値の発生確率を推定し、正常範囲内に存在する場合には正常として判断することができる。
【0076】
また、タンク気相温度52に対して監視値の発生確率を確率密度分布から推定することができる。発生確率が設定した区間の外側に存在することから、コンピュータ2は、異様であると判定し、異常発生を通知する。
【0077】
なお、異常検知方法は、確率密度分布の存在区間を評価する手法に限定されるものではない。例えば、確率密度分布の中央値からの距離を基準に、一定以上の距離のある監視値を異常値と判定する方法が適用可能である。
【0078】
なお、前述の実施形態において、基準値(設定値)を用いた任意の値(発生確率)の判定は、「任意の値が基準値以上か否か」の判定でもよい。また、この判定は、「任意の値が基準値を超えているか否か」の判定でもよい。また、この判定は、「任意の値が基準値以下か否か」の判定でもよい。また、この判定は、「任意の値が基準値未満か否か」の判定でもよい。また、基準値が固定されるものでなく、変化するものでもよい。従って、基準値の代わりに所定範囲の値を用い、任意の値が所定範囲に収まるか否かの判定でもよい。また、予め装置に生じる誤差が解析され、基準値を中心として誤差範囲を含めた所定範囲が判定に用いられてもよい。
【0079】
なお、前述の実施形態のフローチャートにおいて、各ステップが直列に実行される形態を例示しているが、必ずしも各ステップの前後関係が固定されるものでなく、一部のステップの前後関係が入れ替わってもよい。また、一部のステップが他のステップと並列に実行されてもよい。
【0080】
前述の実施形態のプラント異常検知システム1は、制御デバイスと記憶デバイスと出力デバイスと入力デバイスと通信インターフェースとを備える。ここで、制御デバイスは、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、専用のチップなどの高集積化させたプロセッサを含む。記憶デバイスは、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)などを含む。出力デバイスは、ディスプレイパネル、ヘッドマウントディスプレイ、プロジェクタ、プリンタなどを含む。入力デバイスは、マウス、キーボード、タッチパネルなどを含む。このプラント異常検知システム1は、通常のコンピュータ2を利用したハードウェア構成で実現できる。
【0081】
なお、前述の実施形態のプラント異常検知システム1で実行されるプログラムは、ROMなどに予め組み込んで提供される。追加的または代替的に、このプログラムは、インストール可能な形式または実行可能な形式のファイルとして、コンピュータ2で読み取り可能な非一時的な記憶媒体に記憶されて提供される。この記憶媒体は、CD-ROM、CD-R、メモリカード、DVD、フレキシブルディスク(FD)などを含む。
【0082】
また、このプラント異常検知システム1で実行されるプログラムは、インターネットなどのネットワークに接続されたコンピュータ2に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせて提供するようにしてもよい。つまり、プログラムがクラウドコンピューティングのリソースから提供されてもよい。また、クラウド上のサーバがプログラムを実行し、その処理結果のみがクラウドを介して提供されてもよい。また、このシステムは、構成要素の各機能を独立して発揮する別々のモジュールを、ネットワークまたは専用回線で相互に接続し、組み合わせて構成することもできる。
【0083】
以上説明した実施形態によれば、確率密度分布から、監視値が発生する確率である発生確率を算出し、算出した監視値の発生確率に基づいてプラントの異常を検知する。これにより、過去の正常データおよび異常データの蓄積を不要とし、新規に設計された機器または設備にであっても、異常を検知することができる。
【0084】
特に、非線形な現象を取り扱う機器または設備であっても、解析モデルを使用することで数値解析的に妥当な確率密度分布を提供することができる。また、解析モデルに基づき、確率密度分布を提供することができる。加えて、機器または設備の経年変化を考慮した監視値の変化を解析モデルから予測することを可能にし、経年変化または劣化による監視値の確率密度分布の変化も検知することができる。
【0085】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。これら実施形態またはその変形は、発明の範囲と要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0086】
1…プラント異常検知システム、2…コンピュータ、3…処理回路、4…記憶部、5…通信部、6…入力部、7…出力部、8…計測器、11…流入境界モデル、12…配管モデル、13…バルブモデル、14…タンクモデル、15…流出境界モデル、16…圧損モデル、17…伝熱モデル、18…モデルパラメータ、19…圧損モデル、20…伝熱モデル、21…制御モデル、22…モデルパラメータ、23…圧損モデル、24…伝熱モデル、25,26,27,28,29,30…モデルパラメータ、40…設計値、41…設計許容下限値、42…設計許容上限値、43…設計値、44…設計許容下限値、45…設計許容上限値、46…設計値、47…設計許容上限値、50…タンク圧力、51…タンク液相温度、52…タンク気相温度、P…サンプル点、R…解析結果点。
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