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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025016429
(43)【公開日】2025-02-04
(54)【発明の名称】光ネットワーク用量子中継器及び方法
(51)【国際特許分類】
   H04B 10/70 20130101AFI20250128BHJP
   G06N 10/40 20220101ALI20250128BHJP
   G06E 3/00 20060101ALI20250128BHJP
   G06F 7/38 20060101ALI20250128BHJP
   H04B 10/291 20130101ALI20250128BHJP
【FI】
H04B10/70
G06N10/40
G06E3/00
G06F7/38 510
H04B10/291
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024108660
(22)【出願日】2024-07-05
(31)【優先権主張番号】18/348,603
(32)【優先日】2023-07-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】523117915
【氏名又は名称】株式会社Nanofiber Quantum Technologies
(74)【代理人】
【識別番号】110003476
【氏名又は名称】弁理士法人瑛彩知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】碁盤 晃久
(72)【発明者】
【氏名】加藤 真也
(72)【発明者】
【氏名】井上 遼太郎
(72)【発明者】
【氏名】青木 隆朗
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ノイズやデコヒーレンスの影響を受けづらい量子中継器ネットワークを提供する。
【解決手段】複数のノードを含む量子中継器システムであって、各中継器デバイスは、第1の端部領域と、第2の端部領域と、該第1の端部領域と該第2の端部領域との間に結合されたナノファイバー領域及びテーパー領域から形成されるキャビティと、該ナノファイバー領域においてエバネッセント結合している複数の原子と、撮像システムを備え、光ピンセットアレイおよび光アドレス指定ピンセットアレイを備える光学システムと、を有し、該複数の量子中継器デバイスを直列接続し、最初の量子中継器デバイスから隣接する中間中継器デバイスへ、そして隣接する最後の量子中継器デバイスへ1つ以上の光子を伝送して隣接する量子中継器の対の間で量子エンタングルメントを伝搬する光ケーブルと、を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
量子コンピュータデバイスに結合されたエンドノードを含む、複数のノードを含む量子中継器システムであって、
1からNまでの番号が付された1つ以上の中継器デバイス(Nは1より大きい整数)を含み、
各中継器デバイスは、
第1の端部領域および第2の端部領域を有し、該第1の端部領域は第1の端部を有し、該第2の端部領域は第2の端部を有する、第1の光ファイバーケーブルと、
該第1の端部領域上に構成された第1のファイバーブラッググレーティングと、
該第2の端部領域上に構成された第2のファイバーブラッググレーティングと、
光ファイバーケーブルの中心部分から構成され、該第1の端部領域と該第2の端部領域との間に結合されたナノファイバー領域と、
該第1のファイバーブラッググレーティングの近傍内の該ナノファイバー領域の第1の部分から構成された第1のテーパー領域と、該第2のファイバーブラッググレーティングの近傍内の該ナノファイバー領域の第2の部分から構成された第2のテーパー領域と、
該第1のファイバーブラッググレーティングと該第2のファイバーブラッググレーティングとの間の該ナノファイバー領域および該テーパー領域から形成されるキャビティと、
セシウムおよびルビジウムを含むアルカリ金属原子、イッテルビウムまたはストロンチウムを含むアルカリ土類金属およびアルカリ土類似の原子、ならびに他のレーザー冷却可能な原子を含み、該原子の数は1から10万の範囲であり、少なくとも該第1のファイバーブラッググレーティングと第2のファイバーブラッググレーティングの間の該ナノファイバー領域においてエバネッセント結合している、複数の原子と、
撮像システムを備える光学システムであって、該複数の原子のうちの2つ以上を捕捉および操作するための光ピンセットアレイおよび光アドレス指定ピンセットアレイを備える光学システムと、
最初の量子中継器デバイス、中間中継器デバイス、および最後の量子中継器デバイスを直列接続し、最初の量子中継器デバイスから隣接する中間中継器デバイスへ、そして隣接する最後の量子中継器デバイスへ1つ以上の光子を伝送して隣接する量子中継器の対の間で量子エンタングルメントを伝搬するように構成された光ケーブルと、
含む量子中継器システム。
【請求項2】
前記光アドレス指定ピンセットアレイを使用して前記原子の共鳴周波数をシフトさせることにより、前記量子中継器デバイスの1つにある前記複数の原子のうち少なくとも1つをキャビティに共鳴させ、少なくともキャビティ補助光子生成を用いて原子-光子エンタングルメントを生成し、これにより、前記原子の1つ以上の内部状態と単一光子の1つ以上の偏光状態、または異なる時点での2つの光子パルスと原子の内部状態がエンタングルメントされ、該キャビティ補助光子生成は、励起された原子が前記ナノファイバー領域の前記キャビティ内で光子を生成する、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記原子-光子エンタングルメントを生成し、その後、少なくとも1つ以上の光子が隣接する中継器デバイスに伝搬し、前記光学アドレス指定ピンセットアレイで前記原子の前記共振周波数をシフトすることにより、前記キャビティに共振するように選択された前記原子の1つに結合し、
その後、原子-光子発生プロセスの時間反転操作により、遠隔原子-原子エンタングルメントが生じ、1つ以上の遠隔部位にある少なくとも2つの原子の1つ以上の内部状態がエンタングルメントされ、該原子-光子発生プロセスの時間反転操作により、光子が前記原子に吸収される、請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
前記遠隔原子-原子エンタングルメントが、O個のエンタングルメント対を生成するために、各中継器デバイスのM個の原子に生成プロトコルを使用して順次提供され、前記遠隔原子-原子エンタングルメントが隣接する中継器デバイスの対の間で生成され、Mは1以上の範囲である、請求項3に記載のシステム。
【請求項5】
2N個の前記中継器デバイス間で、N組の前記中継器デバイス対に対して遠隔原子-原子エンタングルメント生成プロトコルを同時または逐次的に適用し、その後、N組の前記中継器デバイス対に対して(N-1)の遠隔原子-原子エンタングルメント生成プロトコルを同時または順次に適用して各隣接中継器デバイス間でエンタングルメントを生成し、これにより、全ての隣接中継器デバイスに対する該エンタングルメント生成プロトコルがエンタングルメント交換の初期条件を提供する、請求項3に記載のシステム。
【請求項6】
前記中継器デバイスの各対が直接隣接しており、遠隔原子-原子エンタングルメントプロトコルによって、前記中継器デバイスの複数の対の1つからのM原子の少なくとも1つが、中継器デバイスの同じ対内の他方の中継器デバイスからのM原子の少なくとも1つとエンタングルメントするように構成され、
同じ前記中間量子中継器内の異なるエンタングルメント対からの前記2つの原子間に制御NOTゲートを適用し、その後の単一量子ビット制御と前記中間量子中継器内の2つの原子の状態読み出しにより、前記隣接する量子中継器内の他の2つの原子が直接エンタングルメントされ、エンタングルメントスワッピングを引き起こす、請求項1記載のシステム。
【請求項7】
前記原子-原子エンタングルメントスワッピングプロトコルは、光子を直接伝送することなく、エンタングルメント対の範囲を拡張し、
前記N個の中継器デバイスのうちM-1個のエンタングルメント対に対して、前記エンタングルメントスワッピングを前記N-1個の中継器デバイスに同時に適用することができる、請求項6に記載のシステム。
【請求項8】
前記光ケーブルは、1メートルから数十キロメートル以上の長さを有し、前記量子中継器間のエンタングルメントを容易にするための所定の長さを有する、請求項1に記載のデバイス。
【請求項9】
直接隣接する各一対の量子中継器デバイスは、原子-原子エンタングルメントプロトコルを遠隔操作することにより、前記複数の量子中継器デバイスの対のうち1つの対において、前記M原子のうちの少なくともO個が、前記一対の量子中継器デバイスのうちの他方の量子中継器デバイスからの前記M原子のうちの少なくともO個とエンタングルメントするように構成されており、
同じ前記中間量子中継器内の異なるエンタングルメント対からの前記2つの原子間に制御NOTゲートを適用し、その後の単一量子ビット制御と前記中間量子中継器内の2つの原子の状態読み出しにより、前記隣接する量子中継器内の他の2つの原子を直接エンタングルメントする、請求項1に記載のシステム。
【請求項10】
Oが2以上であり、MがOより大きく、N個の原子間の前記エンタングルメントは、量子中継器内のN個の原子のうちの2個の原子に、前記制御NOTゲートを、局所的にアドレス指定するピンセットアレイからの前記周波数シフトによる前記キャビティへの選択的結合と、それに続く前記ターゲット原子の状態読み出しによって順次適用することによって、Lが1からO-1の範囲にある、改善されたエンタングルメント忠実度でL個の原子に精製される、請求項9に記載のシステム。
【請求項11】
前記2つ以上の原子は、少なくとも2つの原子間のエンタングルメント生成を促進して接続を形成し、エンタングルメント対を維持したままエンタングルメントスワッピングおよび精製を可能にするために、1マイクロ秒より長い量子メモリ時間によって特徴付けられる、請求項1に記載のシステム。
【請求項12】
前記撮像システムは、第1レンズから第n番目のレンズ(nは1より大きい整数)を含み、10倍から50倍の範囲の画像を拡大するように構成され、少なくとも1000×1000画素で構成される画素アレイを使用して、1ミリメートル×1ミリメートルの空間領域にわたって0.5ミクロンから2ミクロンの範囲の空間分解能で拡大画像を捕捉するように構成されるシステムであり、
前記撮像システムは画像処理デバイスに結合されており、該画像処理デバイスは、該捕捉された画像からなるデータストリームを受信するように構成されており、該捕捉された画像をグレースケール画像マップに処理し、グレースケール画像マップを閾値処理して、該捕捉された画像の2値表現を出力して、前記複数の原子のうちの1つ以上を特定するように構成され、
該画像処理デバイスは、該捕捉された画像からなるデータストリームを受信するように構成され、該捕捉された画像を処理して、ナノファイバー領域の一部の空間的位置を特定するように構成され、前記ナノファイバーの一部の空間的位置を変更して、前記撮像システムを前記ナノファイバー領域に位置合わせするためのフィードバックを提供するように構成され、そして、
前記撮像システムは、所定の波長範囲に構成されたレーザー光源を含み、該レーザービームを反射または透過するダイクロイックミラーと、前記ナノファイバー領域の選択された部分に焦点を当てる対物レンズとを備え、該レーザービームの一部がダイクロイックミラーに反射して戻り、画素アレイ上に結像されるように、該ビームは、300nmから2.0ミクロンまでの波長を有するシングルモードであることを特徴とする、請求項1に記載のシステム。
【請求項13】
前記撮像システムは、所定の波長範囲に構成されたレーザー光源を含み、該レーザー光源は、前記光ピンセットアレイとして構成された複数のレーザービームを形成するように構成された空間光変調器と対物レンズとを備え、該レーザービームの一部がダイクロイックミラーを通して反射され、画素アレイ上に結像されるように、前記ナノファイバー領域の選択された部分に集光するように構成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項14】
少なくとも前記ナノファイバー領域を所定の真空環境、室温から4ケルビンまでの所定の温度環境、および前記複数の原子のうちの1つ以上と相互作用する可能性のある磁場から実質的に自由な環境に維持するように構成された真空チェンバーをさらに備え、
該磁場は、該真空チェンバーとともに構成された磁場シールドデバイスを使用して該真空チェンバーの内部から遮断される、請求項1に記載のシステム。
【請求項15】
前記キャビティは真空環境に維持され、
前記複数の原子は、磁場勾配の組み合わせから発生する光磁気捕捉により、1ミリケルビン以下の温度に冷却され、そして、
直交する3方向からレーザーを照射し、その後にピンセットアレイに捕捉された複数の原子をレーザー冷却することで、前記原子の運動の自由度が基底状態または基底状態に近い状態まで冷却される、請求項1に記載のシステム。
【請求項16】
前記光ピンセットアレイが、1つ以上の光ピンセットスポットを生成するように構成された光ピンセットデバイスを備え、該光ピンセットデバイスが前記ナノファイバー領域と空間的に整合し、前記ナノファイバー領域から派生する光信号をモニタリングするフィードバックプロセスによって安定化される、請求項1に記載のシステム。
【請求項17】
前記複数の原子のうちの1つ以上が、前記光ピンセットアレイからの光ピンセットデバイスを使用して捕捉され、該光ピンセットデバイスは、前記ナノファイバー領域から結合された光信号を受信して、前記1つ以上の原子を前記ナノファイバー領域から100ナノメートルから1マイクロメートルの距離に整列させるフィードバックプロセスで構成される、請求項1に記載のシステム。
【請求項18】
前記複数の原子のうちの1つ以上が、前記ナノファイバー領域で収集され、前記ナノファイバー領域に結合された前記光ファイバーケーブルに伝送されるように構成された前記複数の光子を放出する、または、前記複数の原子のうちの少なくとも1つと前記キャビティからの反射光子が制御位相フリップゲートを作動させるように構成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項19】
前記複数の原子のうち少なくとも2つが、単一光子を反射することにより制御位相フリップゲートを作動させるように構成されており、N個の原子が、該単一光子を反射することによりN量子ビットのトッフォリゲートを作動させるように構成されている(Nは3より大きい整数)、請求項1に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
量子中継器は、量子力学を利用して古典中継器よりも効率的かつ安全に特定のタスクを実行する量子情報処理デバイスの一種である。古典的な中継器では、ビットは0または1の2つの状態のいずれかに存在することができ、必要に応じてビットを増幅することができるが、量子中継器では、量子ビットは0と1の両方の状態の重ね合わせに同時に存在することができ、ノー・クローン定理によりコピーすることも増幅することもできない。このため、量子中継器は原理的に盗聴されることなく、ある特定の量子通信を堅牢かつ安全に行うことができる。さらに、量子中継器デバイスは、大数の因数分解、最適化問題、量子システムのシミュレーションなどの特定のタスクにおいて、古典コンピューティングよりも指数関数的に高速な分散量子コンピューティングを容易にする。
【0002】
しかしながら、量子中継器にはいくつかの欠点もある。1つの大きな課題は、量子ビットがノイズやデコヒーレンスの影響を非常に受けやすく、中継器の動作中にエラーを引き起こす可能性があることである。
【0003】
さらに、光ファイバーケーブルは、光子の長距離伝送中に有限の損失を持つため、量子中継器は量子情報を完全に失う前に設置される必要がある。したがって、量子中継器ネットワークは、量子状態転送とエンタングルメント生成の精度を維持するために、注意深いエラー緩和および/またはエラー訂正技術を必要とする。さらに、量子中継器に必要な物理的ハードウェアは、構築および維持に複雑かつ高価であるため、量子中継器の規模を拡大することは困難であり、コストがかかる。
【0004】
以上のことから、量子中継器を改善する技術が望まれていることが分かる。
【発明の概要】
【0005】
本発明によれば、一般に量子中継器に関連する技術が提供される。特に、本発明は、量子情報処理デバイス用のキャビティ(cavity:共振器)を可能にするために、光ケーブルおよび一対の反射器を用いて構成されたナノファイバ領域を含むシステムおよび方法を提供する。単なる例として、本発明は、創薬、最適化、機械学習および人工知能、金融、天気予報、化学、機械、電気、土木、核融合および核分裂、経済学、材料、および他のあらゆる複雑な人間または人間以外の事柄に向けた安全な量子通信、量子センシングネットワークおよび分散量子コンピューティングなどの様々な用途に適用することができる。
【0006】
一例では、本発明は量子中継器システムとその量子ネットワークへの応用を提供する。量子中継器システムは、ナノファイバーベースの量子コンピュータデバイスを含む。
【0007】
一例では、本発明は、量子中継器システムとその量子ネットワークへの応用を提供する。一例では、システムは、第1の端部領域と第2の端部領域とを有するファイバー光ケーブルを有する。第1の端部領域は第1の端部を有し、第2の端部領域は第2の端部を有する。一例では、システムは、第1の端部領域に構成された第1のファイバーブラッググレーティングと、第2の端部領域に構成された第2のファイバーブラッググレーティングとを有する。一例では、システムは、光ファイバーケーブルの中央部分から構成され、第1の端部領域と第2の端部領域との間に結合されたナノファイバー領域を有する。一例では、システムは、第1のファイバーブラッググレーティングの近傍内のナノファイバー領域の第1の部分から構成された第1のテーパー領域と、第2のファイバーブラッググレーティングの近傍内のナノファイバー領域の第2の部分から構成された第2のテーパー領域とを有する。一例では、システムは、第1のファイバーブラッググレーティングと第2のファイバーブラッググレーティングとの間のナノファイバー領域から形成されたキャビティを有する。一例では、システムは、第1のファイバーブラッググレーティングと第2のファイバーブラッググレーティングの間の少なくともナノファイバー領域にエバネッセント結合された複数の原子を有する。一例では、撮像システムは、光ピンセットアレイを生成し、1つ以上の原子からの1つ以上の光子を空間分解能で検出するように構成される。
【0008】
一例によっては、本発明は、これらの利益及び/又は利点の1つ以上を達成することができる。一例では、本発明は、ナノファイバー領域と一対の反射器とを含む光ケーブルで構成されたナノファイバーキャビティQEDシステムを使用し、ナノファイバー領域に原子をエバネッセント結合して量子中継器用の原子キャビティシステムを形成する量子中継器デバイスを提供する。一例では、このデバイスは従来の光学技術を用い、光ファイバーデバイスを使用することでコンパクトかつ効率的に集積される。一例では、本発明は、長距離量子通信や離れた量子中継器システム間の効率的な相互接続に適した原子と光子を利用することにより、静止量子ビットと飛行量子ビット間のコヒーレント状態転送の利点を提供する。好ましい一例では、本システムは、本撮像システムを用いて個々の原子を1つずつ制御することができ、これによりエンタングルメントの生成と精製が可能となる。これら及び/又は他の利益及び/又は利点は、本発明のデバイス及び関連する方法により達成可能である。これらの利益及び/又は利点の更なる詳細は、本明細書全体を通じて、より詳細には以下に見出すことができる。
【0009】
本発明の性質および利点のさらなる理解は、本明細書の後半部分および添付図面を参照することによって実現され得る。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一例による量子中継器システムを示す簡略図である。
図2】本発明の一例による量子コンピューティングセルデバイスで構成された真空チェンバーの簡略図である。
図3】本発明の一例による量子中継器ネットワークの動作方法の簡略図である。
図4】量子中継器ノード間の遠隔原子-原子エンタングルメント生成方法の簡略図である。
図5】本発明の一例による量子中継器ネットワークにおけるエンタングルメントスワッピングの方法を簡略化して示す図である。
図6】本発明の一例による量子中継器ネットワークにおけるエンタングルメント精製方法の簡略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は、本発明の一例による量子中継器セルデバイスを示す簡略図である。一例では、この図は量子中継器システムを示しており、これについては以下でさらに詳細に説明する。図示のように、この図はデバイスと関連システムを含む。デバイスは、直径がより細いナノファイバー領域を含む。複数の原子がナノファイバー領域の表面よりわずかに上に配置されている。一例では、原子は、400から1000ナノメートルのナノファイバー直径に対して、ナノファイバー表面の約200から400ナノメートル上方に局在しているが、変動はあり得る。一例では、ナノファイバー領域の各面は、ファイバーブラッググレーティング構造に接続されるテーパー領域で構成される。ファイバーブラッググレーティング構造の各端部は、光子検出システムに設けられた光検出デバイスを有する光ケーブルに接続される。
【0012】
一例では、システムは撮像システムを有する。撮像システムは撮像デバイスと光源を有する。デバイスはまた、対物レンズと、撮像デバイスと光源との間に構成されたダイクロイックミラーデバイスとを含む様々な光学系を有する。撮像デバイスは、画素アレイを含むCMOS又は荷電結合素子カメラを含む。
【0013】
一例では、システムはまた、撮像システム及び光源に結合されたコントローラを有する。コントローラはまた、コンピューティングデバイス、人工知能エンジン、及び画像プロセッサに結合される。コントローラは、コンピュータとインターフェースで接続するように構成された複数のアナログ-デジタル/デジタル-アナログ変換デバイスを含む任意の適切なコントローラデバイスとすることができる。このように、量子コンピュータデバイスからの信号を制御するコントローラは、量子コンピューティングシステムとインターフェースで接続し、デバイスが送受信する信号を操作するように設計された特殊な電子システムである。コントローラは、量子アルゴリズムや量子測定の実行に必要な複雑な操作を指揮する役割を担うため、量子コンピューティングにおいて重要な役割を果たす。
【0014】
一例では、コントローラは通常、入出力インターフェース、デジタル信号処理回路、制御ロジックを含む複数の構成要素を有する。入出力インターフェースは、量子デバイスとの通信に使用され、量子デバイスから信号を受信し、デバイスに制御信号を送信する。これらの信号は通常、電気信号、マイクロ波信号、ラジオ周波信号の形をしている。デジタル信号処理回路は、量子デバイスから受信した信号を処理し、エラーやノイズを補正し、パルス整形やタイミングなどの演算を行う。これには、量子コンピューティングアプリケーションに最適化された特殊なアルゴリズムと処理技術が必要となる。制御ロジックは、コントローラと量子デバイスの操作を調整し、量子アルゴリズムや量子計測を実行するための適切な操作順序を決定する。制御ロジックは、通常、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)やカスタムASIC(特定用途向け集積回路)を含むソフトウェアとハードウェアの組み合わせで実装される。
【0015】
好ましい例では、システムは、原子や分子などの微視的物体を捕捉し操作するために集束レーザービームを使用するデバイスである光ピンセットを含む。一例では、光ピンセットの基本原理は、レーザービームが光の強度の勾配に比例した力を物体に与えることである。原子を操作する例では、光ピンセットには通常、高開口数の対物レンズを使用して回折限界スポットまで集光されたレーザービームが使用される。レーザービームは通常、赤外又は可視域のもので、固体レーザーやダイオードレーザー、その他の種類のレーザーによって生成される。適切な波長のレーザービームが原子に集光されると、原子をビームの中心に引き寄せる力が生じる。これは光トラッピング、又は"光ピンセット"として知られている。捕捉力の強さは、レーザービームの強度と原子の分極率に依存する。レーザービームの位置と強度を操作することで、入射ピンセットビームとナノファイバーからの散乱との干渉により、ナノファイバー表面から一定の距離に原子を捕捉することができる。
【0016】
一例では、システムは、アルカリ土類金属及び/又はアルカリ土類類似原子を含むアルカリ金属原子及び/又はセシウム及び/又はルビジウム及び/又はイッテルビウム及び/又はストロンチウム及び/又は他のレーザー冷却可能原子を含む他のレーザー冷却可能原子からなる複数の原子を、原子の数が1~100,000(及びそれ以上)の範囲にあるように備え、ナノファイバー領域にエバネッセント結合する。
【0017】
一例では、システムは、バリエーションがあり得るが、0.1以上の開口数によって特徴付けられる撮像システムを有する。一例では、撮像システムは、光ピンセットアレイを生成し、400ナノメートル以上の範囲の空間分解能で1つ以上の原子からの1つ以上の光子を検出するように構成されるが、バリエーションが存在し得る。
【0018】
一例では、システムは、コンピュータシステムに結合された人工知能(AI)エンジンを有する。AIエンジンは、学習プロセスと推論エンジンの2つの主要構成要素を含む。一例では、学習プロセスは、AIエンジンを訓練し、データから知識またはスキルを獲得できるようにする役割を担う。これにはいくつかのステップが含まれ、以下にさらに説明するが、これにはバリエーションも含まれる。
【0019】
データ収集:関連性のある代表的なデータが、データベース、インターネット、ユーザーとのやり取りなど、さまざまなソースから収集される。データの質と多様性は、AIエンジンの有効性において重要な役割を果たす。
【0020】
データの前処理:収集されたデータは、さらなる分析に適した形式に、クリーニングされ、整理され、変換される。このステップには、ノイズの除去、欠損値の処理、データの標準化などの作業が含まれる。
【0021】
特徴の抽出:前処理されたデータから重要な特徴やパターンが抽出される。このステップは、AIエンジンが正確な予測や決定を行う際に役立つ、最も関連性の高い情報を取得することを目的とする。
【0022】
モデルの選択:問題の性質と利用可能なデータに基づいて、適切な機械学習モデルまたはディープラーニングモデルが選択される。このステップでは、学習タスクに最も適したアーキテクチャ、アルゴリズム、およびパラメータを選択する。
【0023】
モデルのトレーニング:選択されたモデルは、前処理済みのデータを使用してトレーニングされる。トレーニング中、モデルは予測と実際の出力の差異を最小化するために、その内部パラメータを反復的に調整する。このプロセスには、モデルのパラメータを更新するための勾配降下法などの最適化アルゴリズムが含まれる。
【0024】
評価と検証:トレーニング済みのモデルは、その性能を評価するために、別の検証データセットを使用して評価される。さまざまな測定基準が、問題領域に応じて、正確性、精密性、再現性、またはその他の関連測定基準を測定するために使用される。
【0025】
反復的な改善:モデルの性能が満足のいくものでない場合、学習プロセスは、満足のいくレベルの性能が達成されるまで、データを改良し、モデルを調整し、または異なるアルゴリズムを試すために、以前のステップを繰り返すことがある。
【0026】
一例では、AIシステムは推論エンジンも含む。一例では、推論エンジンは予測または意思決定構成要素とも呼ばれ、取得した知識を適用して、新しい未確認データについて予測または意思決定を行う役割を担う。学習プロセスが完了すると、訓練されたモデルは推論エンジン内に展開される。推論エンジンは、以下に述べるステップを実行する。
【0027】
データ前処理:学習プロセスと同様に、入力データは推論に備えて前処理される。通常、これは、トレーニング中に適用されたのと同じ前処理ステップを使用して、データのクリーニング、変換、正規化を伴う。
【0028】
特徴の抽出:必要に応じて、関連する特徴が前処理されたデータから抽出され、トレーニング中に使用された特徴との一貫性が確保される。
【0029】
モデルの推論:前処理済みのデータは、学習済みのモデルに供給され、学習済みのパターンおよび関係に基づいて予測または決定が生成される。モデルは、その内部パラメータを利用して正確な推論を行う。
【0030】
後処理:モデルによって生成された出力は、結果を改良したり、エンドユーザーまたは下流アプリケーションに適した形式で提示するために、追加の後処理ステップを受ける場合がある。
【0031】
推論エンジンは、量子コンピューティングシステムから派生したデータを処理するなど、さまざまなアプリケーションに統合することができる。一例では、多くのアプリケーションが存在し得る。
【0032】
様々なタイプのピンセットアレイの詳細は、2023年7月5日に出願された米国特許出願第18/347,121号(特許文献1)に記載されており、共通の譲受人により出願され、本明細書に参照として組み込まれる。他の出願では、2023年5月30日提出の米国特許出願第18/325,901号(特許文献2)および2023年7月5日提出の米国特許出願第18/347,174号(特許文献3)に、構成要素の様々な態様が記載されており、共通の譲受人により出願され、本明細書に参照として組み込まれる。
【0033】
図2は、本発明の一実施例による量子中継器デバイスで構成された真空チェンバーの簡略化された図である。図示されているように、真空チェンバーはナノファイバーキャビティデバイスを中心に構成されている。一例では、真空チェンバーはナノファイバー領域を所定の真空環境、例えば10-10Torrに維持するように構成されている。一例では、チェンバーは室温から4ケルビンまでの所定の温度環境に維持されるが、これ以外もあり得る。一例では、チェンバーは、複数の原子のうちの1つ以上と相互作用し得る磁場変動を実質的に受けない。好ましくは、真空チェンバーとともに構成された磁場シールドデバイスを用いて、周囲からの磁場変動が真空チェンバーの内部から遮断される。一例では、磁場勾配と直交する3方向からのレーザー照射の組み合わせにより発生する光磁気捕捉により、複数の原子を絶対零度に近い1ミリケルビン以下の温度まで冷却し、ピンセットアレイに捕捉された原子の運動の自由度が基底状態またはそれに近い状態まで冷却される。
【0034】
図3は、本発明の一例による量子中継器ネットワークの動作方法の簡略化された説明図である。量子中継器ネットワークは、複数の量子中継器デバイスを含み、各端は、量子コンピュータデバイス、単一光子またはエンタングルメント源を含むエンドノードに接続される。一例では、量子ネットワークにおける中継器デバイスには、エンドノード、および中間ノードを含む、1からNまでの番号が付けられ、ここでNは3以上の整数である。
【0035】
一例では、量子中継器システムは複数のノードを含み、そのうちのエンドノードは、単一光子源またはエンタングルメント源を含む量子コンピュータデバイスで構成されている。一例では、システムは、図示されているように、初期の量子中継器デバイスと最終の量子中継器デバイスを有する。
【0036】
一例では、システムは、1からNまでの番号が付された1つ以上の中間量子中継器デバイスを有する。ここで、Nは1より大きい整数である。
【0037】
各中継器デバイスは、様々な要素を有する。一例では、デバイスは、第1の端部領域および第2の端部領域を有する第1の光ファイバーケーブルを有する。第1の端部領域は第1の端部を有し、第2の端部領域は第2の端部を有する。一例では、第1の端部領域上に第1のファイバーブラッググレーティングが構成され、第2の端部領域上に第2のファイバーブラッググレーティングが構成される。
【0038】
一例では、ナノファイバー領域は光ファイバーケーブルの中心部分から構成され、第1の端部領域と第2の端部領域との間に結合される。第1のテーパー領域は、第1のファイバーブラッググレーティングの近傍内のナノファイバー領域の第1の部分から構成され、第2のテーパー領域は、第2のファイバーブラッググレーティングの近傍内のナノファイバー領域の第2の部分から構成される。
【0039】
一例では、第1のファイバーブラッググレーティングと第2のファイバーブラッググレーティングとの間に、ナノファイバー領域およびテーパ領域から形成されたキャビティが設けられている。
【0040】
一例では、アルカリ金属原子及び/又はアルカリ土類金属又はアルカリ土類様原子(セシウム及び/又はルビジウム及び/又はイッテルビウム及び/又はストロンチウム及び/又は他のレーザ冷却可能な原子を含む)の少なくとも1つ以上の原子を備える複数の原子を含む。原子の数は1から100,000の範囲であり、第1のファイバーブラッググレーティングと第2のファイバーブラッググレーティングとの間のナノファイバー領域にエバネッセント結合している。一例では、原子は任意のレーザー冷却可能な原子とすることができる。
【0041】
一例では、レーザ冷却可能な原子とは、レーザ冷却技術を用いて極低温まで冷却可能な原子を指す。レーザ冷却は、原子とレーザ光の相互作用を利用して、原子の運動エネルギーを低減し、原子の運動を減速させる方法である。
【0042】
一般的に使用されるレーザ冷却技術の1つにドップラー冷却と呼ばれるものがあり、これは特定の種類の原子を冷却するのに有効である。ドップラー冷却はドップラー効果の原理を利用しており、光源(原子)と観測者(レーザー)が相対運動している場合、光の周波数が変化する。レーザーの周波数を原子の共鳴周波数よりわずかに下回るように慎重に調節すると、原子は光子を吸収し再放出するため、運動量が全体として失われ、運動エネルギーが減少する。
【0043】
レーザー冷却が効果的に行われるためには、特定の原子特性が必要である。レーザー冷却可能な原子の主要な特性の一つとして、冷却プロセスの初期状態と最終状態が同じ原子エネルギーレベルに関与する閉じた遷移を持つことが挙げられる。これにより、原子が励起状態または他の中間状態に陥ることなく、光子を複数回吸収および再放出できることが保証される。一例では、原子はレーザー冷却に適切なエネルギー準位構造を持つことができる。原子は、レーザー光によって操作可能な適切なエネルギー準位間隔を有している必要がある。さらに、原子は比較的狭い自然線幅を持つことが望ましい場合がある。一例では、原子は原子遷移が可能な狭い範囲を有している必要がある。これにより、光子の選択的な吸収と放出が可能となり、効率的な冷却につながる。
【0044】
レーザ冷却可能な原子の例としては、ルビジウムやセシウムなどのアルカリ金属、およびストロンチウムやイッテルビウムなどのアルカリ土類金属やアルカリ土類金属のような原子が含まれる。これらの原子は、上に述べたような必要な特性を備えており、レーザ冷却およびトラップを伴う実験や応用において広範囲にわたって使用されている。
【0045】
一例では、中継器デバイスは、撮像システムを備える光学システムを有する。一例では、光学システムは、複数の原子のうちの2つ以上をトラップし操作するための光ピンセットアレイおよび光アドレス指定アレイを備える。
【0046】
各中継器デバイスの対の間には光ケーブルが接続されており、量子コンピュータデバイスを含む初期の量子ノードデバイス、中間中継器デバイス、および最終の量子ノードデバイスを直列接続するように構成されてる。これにより、初期の量子ノードデバイスから隣接する中間中継器デバイスへ、さらに隣接する最終の量子ノードデバイスへと1つ以上の光子が伝送され、隣接する量子中継器デバイス間および初期/終端ノード間でのエンタングルメント生成が促進される。
【0047】
一例では、量子もつれは量子コンピューティングにおける基本概念であり、2つ以上の量子システム間の独特な相関関係を説明するものである。古典的コンピューティングでは、ビットは0または1の状態のみで存在し得る。しかし、量子コンピューティングでは、量子ビット(qubit)は重ね合わせ状態に存在し、0と1の両方を同時に表すことができる。
【0048】
量子ビットがエンタングルメント(量子もつれ)すると、量子ビットの状態は相互に連結し、互いに依存するようになる。これは、たとえ物理的に大きな距離で隔てられていても、一方の量子ビットの状態に関する情報は他方の量子ビットの状態に直接関係することを意味する。この相関関係は量子ビットが物理的に分離されていても持続し、非局在性の現象につながる。
【0049】
量子ビットのエンタングルメントにより、古典的な手段では効率的に表現できない高度に相互接続された量子状態の生成が可能になる。この特性は、量子テレポーテーション、超密度符号化、量子エラー訂正など、量子コンピューティングの多くの強力な応用の基礎となる。
【0050】
一例では、エンタングルメントは、大きな数を因数分解するショアのアルゴリズムや、未整理のデータベースを検索するグローバーのアルゴリズムを含む量子アルゴリズムにおいて役割を果たしている。指数関数的な高速化を可能にし、古典的なコンピュータよりも効率的に特定の計算を実行できる。一例では、エンタングルメントにより高度に相互接続された量子状態の生成が可能になり、古典的なコンピュータでは達成できない強力な計算能力を実現できる。
【0051】
図4は、遠隔原子間エンタングルメント生成方法の簡略化された説明図である。光学アドレス指定用ピンセットアレイによって引き起こされる周波数シフト、いわゆる交流シュタルクシフトによって、直接隣接するキャビティの各原子はキャビティと共鳴するように選択される。次に、一方のキャビティ内の原子は、キャビティ補助光子放出を利用することで、原子-光子エンタングルメントを生成する。ここで、原子の内部状態と放出光子の偏光状態がエンタングルメントされるか、あるいは原子の内部状態と異なるタイミングの2つの単一光子パルスがエンタングルメントされる。その後、光子は対のもう一方のキャビティに伝搬し、原子-光子生成プロセスの時間反転操作により原子と結合し、その結果、遠隔の原子-原子エンタングルメントが生成される。
【0052】
一例では、一対の中継器デバイスのうちの1つのデバイス内のN個の原子に、遠隔原子間エンタングルメント生成プロトコルを順次適用することで、N個のエンタングルメントの対が生成される。一例では、一組の中継器デバイスは、中間中継器タデバイスを介さずに互いに隣接させることができるが、バリエーションはあり得る。
【0053】
一例では、2N個の量子中継器のうち、N個の独立した中継器の対に遠隔原子間エンタングルメント生成プロトコルを同時に適用し、その後、N個の中継器の対間で(N-1)個の遠隔原子間エンタングルメント生成プロトコルを同時に適用することで、すべての直接隣接する中継器間でエンタングルメントを生成する。これは、エンタングルメント交換の初期条件である。
【0054】
一例では、量子中継器デバイスのうちの1つの複数の原子のうちの少なくとも1つが、光学アドレス指定用ピンセットアレイを用いて原子の共鳴周波数をシフトさせることにより、キャビティに共鳴するように選択され、少なくともキャビティ補助光子生成を用いて原子光子エンタングルメントを生成する。原子の1つ以上の内部状態と単一光子の1つ以上の偏光状態がエンタングルメントされるか、または原子の内部状態と異なる時間における一組の光子の少なくとも2つのパルスがエンタングルメントされる。一例では、キャビティ補助光子発生は、励起された原子がナノファイバー領域のキャビティ内に光子を発生させることによって特徴付けられる。
【0055】
一例では、原子-光子エンタングルメントが一旦生成されると、その後少なくとも1つ以上の光子が隣接する中継器デバイスに伝搬し、原子共鳴周波数を光学アドレス指定ピンセットアレイでシフトさせることにより、キャビティと共鳴するように選択された原子の1つに結合する。すると、原子-光子生成プロセスの時間反転操作により、遠隔の原子-原子エンタングルメントが生成される。1つ以上の遠隔サイトにおける少なくとも2つの原子の1つ以上の内部状態がエンタングルメントされる。一例では、原子-光子生成プロセスの時間反転操作により、光子が原子に吸収される。
【0056】
一例では、遠隔の原子間エンタングルメントは、各中継器デバイス内のM個の原子に対して生成プロトコルを使用して順次提供され、O個のエンタングルメント対が生成される。ここで、MおよびOは整数である。一例では、遠隔の原子間エンタングルメントは、隣接する一対の中継器デバイス間で生成される。
【0057】
直接隣接する量子中継器デバイスの各対が考慮される構成の一例として、特定のプロトコルが採用される。このプロトコルは、1つの量子中継器デバイス対のM個の原子のうち少なくともO個が、同じ対の他の量子中継器デバイスのM個の原子のうち少なくともO個とエンタングルメントされることを保証する。このエンタングルメントは、遠隔原子間エンタングルメントプロトコルによって実現される。中継量子中継器内の異なるエンタングルメント対の原子間にエンタングルメントを確立するために、制御NOTゲートが適用される。このゲートは、異なるエンタングルメント対のそれぞれの原子に対して作用し、それらの間にエンタングルメントを確立する。このステップに続いて、量子中継器内の2つの原子の単一量子ビット制御と状態読み出しが実行される。これらの操作の結果、直接隣接する量子中継器内の残りの2つの原子が直接エンタングルメントされる。OとMの値は整数であり、その特定の値がプロトコルに必要なエンタングルメントされた原子の最小数を決定するという点に注目することが重要である。
【0058】
一例では、互いに直接隣接する中継器デバイス各対において、そのようなデバイスは、遠隔原子間エンタングルメントプロトコルによって、一方の対の中継器デバイスからのM個の原子のうち少なくとも1つが、同じ対の中継器デバイスからのもう一方のM個の原子のうち少なくとも1つとエンタングルメントするように構成される。同じ中間量子中継器内の異なるエンタングルメント対の2つの原子間に制御NOTゲートを適用し、その後の中間量子中継器内の2つの原子の単一量子ビット制御および状態読み出しを行うことにより、隣接する量子中継器内の他の2つの原子が直接エンタングルメントし、エンタングルメントスワッピングが引き起こされる。
【0059】
もちろん、バリエーション、修正、代替もあり得る。
【0060】
図5は、本発明の一例による量子中継器ネットワークにおけるエンタングルメントスワッピングの方法の簡略図を示す。各量子中継器は、隣接する中継器の原子の1つがエンタングルメントされる2つ以上の原子を組み込む。その後、制御NOTゲートを適用し、中間中継器で単一量子ビットゲートと状態読み出しを実行することで、エンタングルメントスワッピングが実行される。一例では、制御NOTゲートは制御ビットと、1または0であるターゲットビットとを有する。
【0061】
一例では、制御NOTゲートは一般的にCNOTゲートと略記され、量子コンピューティングおよび可逆コンピューティングで使用される論理ゲートである。これは、制御量子ビットとターゲット量子ビットの2つの量子ビット上で操作する2量子ビットゲートである。制御量子ビットが状態|1〉にある場合、CNOTゲートはターゲット量子ビットの状態を反転させる(0を1に、1を0に変更する)。一例では、CNOTゲートは4×4の行列で表すことができる。
【0062】
図6は、本発明の一例による量子中継器ネットワークにおけるエンタングルメント精製方法の簡略化された説明図である。隣接する中継器間のN個のエンタングルメント対は、量子中継器内のN個の原子のうちの2つの原子に制御NOTゲートを順次適用し、その後にターゲット原子の状態を読み出すことにより、以前よりも高い忠実度で1つまたは複数の量子ビットに精製される。
【0063】
一例では、システムにはバリエーションがある。
【0064】
一例では、互いに直接隣接する各々の量子中継器デバイスの対は、複数の量子中継器デバイスの対のうちの一方の量子中継器デバイスからの2つの原子のうちの少なくとも1つが、他方の量子中継器デバイスの対からの2つの原子のうちの少なくとも1つとエンタングルメントするように構成される。このようなデバイスは、量子中継器の対の一方の2つの原子の間に制御NOTゲートを適用し、量子中継器の対の他方の2つの原子に接続する単一量子ビット制御を行い、さらに量子中継器の一方の2つの原子の状態読み出しを行うことで構成される。
【0065】
一例では、エンタングルメントスワッピングプロトコルは、光子の直接伝送を行わずに、エンタングルメント対の範囲を拡張する。
【0066】
一例では、光ケーブルは、1メートルから数十キロメートル以上の長さを有する。一例では、光ケーブルは、量子中継器デバイスの対間のエンタングルメントを容易にするために、所定の長さを有する。他の変形例も存在し得る。
【0067】
一例では、互いに直接隣接する各々の量子中継器デバイスの対は、複数の量子中継器デバイスの対のうちの一方の量子中継器デバイスからの2つの原子のうちの少なくとも1つが、他方の量子中継器デバイスの対の2N個の原子のうちの少なくともN個の原子とエンタングルメントするように構成される。このようなデバイスは、量子中継器の対の一方のN個の原子の間に制御NOTゲートを適用して、もう一方の量子中継器の対のN個の原子に接続し、量子中継器の対の一方の状態読み出しを適用することで構成される。ここで、Nは1以上の整数である。一例では、Nは2以上であり、N個の原子間のエンタングルメントは、エンタングルメントの忠実度が向上した状態で、M個の原子にまで精製される。ここで、Mは1からN-1までの範囲である。
【0068】
一例では、2つ以上の原子は、少なくとも2つの原子間のエンタングルメント生成を促進して接続を形成し、維持されたエンタングルメント対でのエンタングルメントスワッピングおよび精製を可能にするために、1マイクロ秒より長い量子メモリ時間によって特徴付けられる。
【0069】
一例では、システムは、第1のレンズから第nのレンズ(ただし、nは1より大きい整数)を備える撮像システムを備える。撮像システムは、10倍から50倍の範囲で画像を拡大し、1000×1000以上の画素で構成される画素アレイを使用して、所定のスペクトル範囲内で拡大画像を捕捉し、特に、1ミリメートル×1ミリメートルの空間領域にわたって0.5ミクロンから2ミクロンの空間分解能を生成するように構成される。
【0070】
一例では、撮像システムは画像処理デバイスに結合される。画像処理デバイスは、取得された画素を含むデータストリームを受信するように構成され、取得された画像をグレースケール画像マップに処理し、グレースケール画像マップを閾値処理して、取得された画像の2値表現を出力し、複数の原子のうちの1つ以上を識別するように構成される。一例では、画像処理デバイスは、取得画像を含むデータストリームを受信するように構成され、取得画像を処理して、ナノファイバー領域の一部の空間的位置を特定するように構成され、ナノファイバー領域の一部の空間的位置を変更して、撮像システムをナノファイバー領域に位置合わせするようにフィードバックを提供するように構成される。一例では、撮像システムは所定の波長範囲に構成されたレーザー光源を備える。レーザー光源は、レーザービームを反射または透過させるためにダイクロイックミラーを備え、対物レンズを通過してナノファイバー領域の選択された部分に焦点を合わせるように構成され、レーザービームの一部がダイクロイックミラーを反射して戻り、画素アレイ上に画像化される。一例では、ビームは、300nmから2.0ミクロンまでの波長を有するシングルモードであることを特徴とする。
【0071】
一例では、撮像システムは、所定の波長範囲に構成されたレーザー光源を備える。一例では、レーザー光源は、光学ピンセットアレイとして構成された複数のレーザービームをナノファイバー領域の選択された部分に集光するように、ダイクロイックミラーを介して反射されて画素アレイ上に結像されるレーザービームの部分が形成される対物レンズを備える空間光変調器で構成される。
【0072】
一例では、システムは、ナノファイバー領域を少なくとも所定の真空環境、室温から4ケルビンまでの所定の温度環境に維持するように構成された真空チェンバーをさらに備える。チェンバーは、複数の原子のうちの1つ以上の原子と相互作用し得る磁場を実質的に含まない。一例では、磁場は、真空チェンバーとともに構成された磁場シールドデバイスを使用して真空チェンバーの内部から遮断される。
【0073】
一例では、システムは、ナノファイバー領域のコア領域に結合されたレーザーデバイスを備える。一例では、レーザーデバイスは、ナノファイバー領域の温度を変化させることによって、選択された原子の遷移周波数にキャビティ共振周波数を制御するように構成される。
【0074】
一例では、キャビティは真空環境で維持され、磁場勾配と直交する空間方向からのレーザー照射の組み合わせから発生する光磁気捕捉により、複数の原子は1ミリケルビン以下の温度まで冷却され、その後のレーザー冷却により、運動の自由度が基底状態または基底状態の近傍まで冷却される。
【0075】
一例では、光ピンセットアレイは、1つ以上の光ピンセットスポットを生成するように構成された光ピンセットデバイスを備え、光ピンセットデバイスは、ナノファイバー領域と空間的に整合し、ナノファイバー領域から派生する光信号をモニタリングするフィードバックプロセスによって安定化される。
【0076】
一例では、複数の原子のうちの1つ以上が、光ピンセットアレイの光ピンセットデバイスを使用して捕捉される。一例では、光ピンセットデバイスは、フィードバックプロセスを備え、ナノファイバー領域から結合された光信号を受信して、1つ以上の原子をナノファイバー領域から100ナノメートルから1マイクロメートルの距離に位置合わせするように構成される。
【0077】
一例では、光アドレス指定アレイは、1つ以上の光ビームスポットを生成するように構成された光アドレス指定デバイスを含み、光アドレス指定デバイスがナノファイバー領域と空間的に整合し、ナノファイバー領域から派生する光信号をモニタリングすることでフィードバックプロセスにより安定化される。
【0078】
一例では、システムは、原子とキャビティの結合に依存せずに、1つ以上の原子の温度を下げ、1つ以上の原子を撮像するために、直交する3つの空間方向から1つ以上の複数の原子を照射するレーザーデバイスを備える。レーザーデバイスは、原子キャビティ共鳴から1テラヘルツ以上の差がある動作波長によって特徴付けられる。
【0079】
一例では、複数の原子のうちの1つ以上が、ナノファイバー領域で収集され、ナノファイバー領域に結合された光ファイバーケーブルに伝送されるように構成された複数の光子を放出する。
【0080】
一例では、複数の原子のうちの少なくとも1つと、キャビティからのは反射光子とが、制御された位相フリップゲートを作動させるように構成される。
【0081】
一例では、複数の原子のうち少なくとも2つは、単一光子を反射することにより制御位相フリップゲートを作動させるように構成され、N個の原子は、単一光子を反射することによりN量子ビットのトッフォリゲートを作動させるように構成され、ここでNは整数であり、3より大きい。
【0082】
一例では、複数の原子のうち少なくとも2つは、キャビティを通して仮想光子を交換することにより、制御位相フリップゲートを含むスピン-スピン相互作用を操作するように構成される。
【0083】
一例では、システムは光ファイバーケーブルに結合された光フィルタリングデバイスを備える。一例では、光フィルタリングデバイスは、原子からの光子を結合し、原子から放出されず、他のレーザーデバイスおよび材料からの発光に由来する追加の光子を光ファイバーケーブルから除去するように構成される。
【0084】
一例では、本発明は、本明細書で説明した技術のいずれかを使用する様々な方法を含み、これには他の方法も含まれる。これらの方法には、前述の技術のいずれかを実行するためにネットワークで構成された量子中継器デバイスの使用が含まれる。もちろん、様々なバリエーション、修正、代替が存在し得る。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0085】
【非特許文献1】H. J. Briegel, W. Dur, J. I. Cirac, and P. Zoller, Phys. Rev. Lett. 81, 5932(1998).
【非特許文献2】L.-M. Duan and H. J. Kimble Phys. Rev. Lett. 92, 127902 (2004).
【非特許文献3】L.-M. Duan, B. Wang, and H. J. Kimble Phys. Rev. A 72, 032333 (2005)
【非特許文献4】C-. L. Hung, A. Gonzalez-Tudela, J. I. Cirac and H. J. Kimble, Proceeding of National Academy of Science, 113, E4946 (2016).
【特許文献】
【0086】
【特許文献1】米国特許出願第18/347,121号明細書
【特許文献2】米国特許出願第18/325,901号明細書
【特許文献3】米国特許出願第18/347,174号明細書
【0087】
上記は具体的な例の完全な説明であるが、様々な修正、代替構造、および同等物が使用され得る。一例として、デバイスは、本明細書で説明した要素の任意の組み合わせ、および本明細書の範囲外の要素を含むことができる。さらに、「第1」、「第2」、「第3」、および「最終」という用語は、本例の1つまたは複数における順序を意味するものではない。一例では、説明では「N」「O」「M」などの用語を整数として表すために使用しているが、部分エンティティを含むバリエーションも含むことができる。したがって、上記の説明および図は、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【外国語明細書】