(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025164310
(43)【公開日】2025-10-30
(54)【発明の名称】タイヤ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B60C  19/08        20060101AFI20251023BHJP        
   B29D  30/06        20060101ALI20251023BHJP        
【FI】
B60C19/08 
B29D30/06 
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024068166
(22)【出願日】2024-04-19
(71)【出願人】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間  孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤  正夫
(72)【発明者】
【氏名】丹野  篤
(72)【発明者】
【氏名】佐藤  峻
【テーマコード(参考)】
3D131
4F501
【Fターム(参考)】
3D131AA30
3D131BC31
3D131BC45
3D131KA07
3D131LA15
4F501TA01
4F501TB02
4F501TC25
4F501TE10
4F501TV21
(57)【要約】
【課題】  電子デバイスの信号通信や電力供給に使用される導電部材を内表面ゴム層上に設置するにあたって、その導電部材の耐久性を改善することを可能にしたタイヤ及びその製造方法を提供する。
【解決手段】  タイヤ内表面を構成する内表面ゴム層10と、内表面ゴム層10上に配置された導電部材20とを備えたタイヤにおいて、導電部材20は、少なくとも一部が導電性糸23により構成された伸縮性を有する編地からなり、内表面ゴム層10に対して接着された接着領域A1と、内表面ゴム層10に対して接着されない非接着領域A2とを有し、導電性糸23の少なくとも一部が非接着領域A2に含まれる。
【選択図】  
図2
 
【特許請求の範囲】
【請求項1】
  タイヤ内表面を構成する内表面ゴム層と、前記内表面ゴム層上に配置された導電部材とを備えたタイヤにおいて、
前記導電部材は、少なくとも一部が導電性糸により構成された伸縮性を有する編地からなり、前記内表面ゴム層に対して接着された接着領域と、前記内表面ゴム層に対して接着されない非接着領域とを有し、前記導電性糸の少なくとも一部が前記非接着領域に含まれることを特徴とするタイヤ。
【請求項2】
  前記接着領域において、前記編地の少なくとも一部が前記内表面ゴム層に埋没していることを特徴とする請求項1に記載のタイヤ。
【請求項3】
  前記導電性糸からなる導電部が前記導電部材の長手方向に沿って形成され、前記導電部が配置された導電部配置領域を前記導電部材の幅方向において包含するように前記非接着領域が形成され、前記非接着領域の前記導電部配置領域を包含する部分の合計長さが前記導電部材の長さの30%以上であることを特徴とする請求項1に記載のタイヤ。
【請求項4】
  前記非接着領域の幅は、前記導電部配置領域の幅の1.2~4.5倍であることを特徴とする請求項3に記載のタイヤ。
【請求項5】
  前記導電性糸からなる導電部が前記導電部材の長手方向に沿って形成され、前記非接着領域が前記導電部材の長手方向の一部において前記導電部材の幅方向の全域にわたって形成されていることを特徴とする請求項1に記載のタイヤ。
【請求項6】
  前記非接着領域が前記導電部材の幅方向の全域にわたって形成されている部分の長さLfが前記導電部材の長さの15%以上であり、
トレッド部に埋設されたベルト層の端部から前記タイヤ内表面に下した垂線と、前記垂線から前記タイヤ内表面に沿ってビード部側へタイヤ断面高さの0.12倍に相当する長さだけ離間した位置との間に規定されるベルト隣接領域の少なくとも一部が前記非接着領域の前記長さLfを有する部分と重複することを特徴とする請求項5に記載のタイヤ。
【請求項7】
  前記非接着領域の前記長さLfを有する部分はその全体が、タイヤ内面がタイヤ幅方向に最も広くなる位置よりもタイヤ径方向外側に配置されていることを特徴とする請求項6に記載のタイヤ。
【請求項8】
  前記ベルト隣接領域のビード部側端部におけるタイヤ厚さTsと前記ベルト隣接領域のベルト層側端部におけるタイヤ厚さTbとの平均値Tに対して、前記非接着領域の前記長さLfを有する部分と前記ベルト隣接領域との重複長さLfxが0.5≦Lfx/T≦3.2の関係を満足することを特徴とする請求項7に記載のタイヤ。
【請求項9】
  前記非接着領域が前記導電部材の幅方向の全域にわたって形成されている部分の長さLfがタイヤ断面高さShに対して0.02≦Lf/Sh≦0.15の関係を満足することを特徴とする請求項7に記載のタイヤ。
【請求項10】
  前記非接着領域が前記導電部材の幅方向の全域にわたって形成されている部分の長さLfと、前記非接着領域の前記長さLfを有する部分における前記導電部材の最大幅Woとが0.8≦Lf/Wo≦6.5の関係を満足することを特徴とする請求項7に記載のタイヤ。
【請求項11】
  前記非接着領域において、前記導電部材と前記内表面ゴム層との間にフィルム層が介在し、前記フィルム層の摩擦係数が前記内表面ゴム層の摩擦係数よりも低いことを特徴とする請求項1に記載のタイヤ。
【請求項12】
  前記導電部材の少なくとも一部は、トレッド部に埋設されたベルト層の端部から前記タイヤ内表面に下した垂線と、ビード部に埋設されたビードコアの外径側の端部から前記タイヤ内表面に下した垂線との間に規定されるフレックスゾーンに配置されていることを特徴とする請求項1に記載のタイヤ。
【請求項13】
  前記導電部材は、前記フレックスゾーンを横断するように配置され、前記フレックスゾーンの外側に前記導電性糸に対して電気的に接続された端子を有することを特徴とする請求項12に記載のタイヤ。
【請求項14】
  請求項1~13のいずれかに記載のタイヤを製造する方法であって、
  前記内表面ゴム層を備えた未加硫タイヤを成形する工程と、
  前記内表面ゴム層に対して前記導電部材を貼り付ける一方で前記導電部材の一部と前記  内表面ゴム層との間にフィルム層を挿入する工程と、
  前記導電部材及び前記フィルム層と共に前記未加硫タイヤを加硫し、前記導電部材の前記フィルム層と当接する部位に前記非接着領域を形成し、前記導電部材の前記フィルム層から外れた部位に前記接着領域を形成する工程とを含むことを特徴とするタイヤの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
  本発明は、電子デバイスの信号通信や電力供給に使用される導電部材を内表面ゴム層上に備えたタイヤ及びその製造方法に関し、更に詳しくは、導電部材の耐久性を改善することを可能にしたタイヤ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
  従来、空気入りタイヤにおいて、タイヤ内表面に電子デバイスが設置され、電子デバイスに導電部材が電気的に接続され、その導電部材を介して通信や電力供給が行われることがある。このような導電部材として、金属線のような導電性を有する配線がタイヤ内表面に設けられている(例えば、特許文献1~5参照)。
【0003】
  しかしながら、タイヤは走行時に変形するため、タイヤ変形に伴って配線に対して過大な張力が掛かると、その配線が破断することがある。そして、このような断線が生じると、電子デバイスの機能が損なわれてしまう。また、タイヤ内表面に設置された配線を修復するにはタイヤをリムから外す必要がある。そのため、電子デバイスの配線には優れた耐久性が求められている。
【0004】
  このような状況に鑑みて、導電性糸を含む編地からなる導電部材を構成し、導電部材に伸縮性を持たせることにより、導電性糸に掛かる張力を低減することが提案されている(例えば、特許文献6参照)。しかしながら、このような構造であっても導電性糸の破断が生じることがあり、更なる改善が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
               【特許文献1】特表2007-537090号公報
               【特許文献2】特開2016-203829号公報
               【特許文献3】特開2017-217953号公報
               【特許文献4】特開2015-205528号公報
               【特許文献5】特開2019-77296号公報
               【特許文献6】特許第7173141号公報
             
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
  本発明の目的は、電子デバイスの信号通信や電力供給に使用される導電部材を内表面ゴム層上に設置するにあたって、その導電部材の耐久性を改善することを可能にしたタイヤ及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
  上記目的を達成するための本発明のタイヤは、タイヤ内表面を構成する内表面ゴム層と、前記内表面ゴム層上に配置された導電部材とを備えたタイヤにおいて、
前記導電部材は、少なくとも一部が導電性糸により構成された伸縮性を有する編地からなり、前記内表面ゴム層に対して接着された接着領域と、前記内表面ゴム層に対して接着されない非接着領域とを有し、前記導電性糸の少なくとも一部が前記非接着領域に含まれることを特徴とするものである。
【0008】
  また、本発明のタイヤの製造方法は、上述のタイヤを製造する方法であって、
前記内表面ゴム層を備えた未加硫タイヤを成形する工程と、
前記内表面ゴム層に対して前記導電部材を貼り付ける一方で前記導電部材の一部と前記内表面ゴム層との間にフィルム層を挿入する工程と、
前記導電部材及び前記フィルム層と共に前記未加硫タイヤを加硫し、前記導電部材の前記フィルム層と当接する部位に前記非接着領域を形成し、前記導電部材の前記フィルム層から外れた部位に前記接着領域を形成する工程とを含むことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
  本発明において、導電部材は、少なくとも一部が導電性糸により構成された伸縮性を有する編地であることにより、導電部材がタイヤの変形に伴って伸長しても編地を構成する導電性糸に掛かる張力は小さくなるので、導電性糸の断線を抑制することができる。しかも、導電部材は、内表面ゴム層に対して接着された接着領域と、内表面ゴム層に対して接着されない非接着領域とを有し、導電性糸の少なくとも一部が非接着領域に含まれるので、タイヤの変形が相対的に大きい部位に非接着領域を配置することで、導電性糸に掛かる張力を更に低減することができる。これにより、導電部材の耐久性を改善することができる。
【0010】
  本発明では、接着領域において、編地の少なくとも一部が内表面ゴム層に埋没していることが好ましい。即ち、編地の少なくとも一部が内表面ゴム層に埋没することで導電部材が内表面ゴム層に対して接着されていることが好ましい。この場合、接着剤を用いずに導電部材を内表面ゴム層に対して機械的に固定することができるため、固定強度が高く製造コストが低いという利点がある。
【0011】
  本発明において、導電性糸からなる導電部が導電部材の長手方向に沿って形成され、導電部が配置された導電部配置領域を導電部材の幅方向において包含するように非接着領域が形成され、非接着領域の導電部配置領域を包含する部分の合計長さが導電部材の長さの30%以上であることが好ましい。非接着領域の導電部配置領域を包含する部分の合計長さが導電部材の長さの30%以上であることにより、導電性糸からなる導電部がある程度自由に動くことができるので、タイヤの変形に伴って導電性糸に掛かる張力を緩和し、導電部材の耐久性を効果的に改善することができる。
【0012】
  導電性糸からなる導電部が配置された導電部配置領域を導電部材の幅方向において包含するように非接着領域が形成される場合、非接着領域の幅は、導電部配置領域の幅の1.2~4.5倍であることが好ましい。これにより、導電性糸からなる導電部がある程度自由に動くことができるので、タイヤの変形に伴って導電性糸に掛かる張力を緩和し、導電部材の耐久性を効果的に改善することができる。
【0013】
  本発明において、導電性糸からなる導電部が導電部材の長手方向に沿って形成され、非接着領域が導電部材の長手方向の一部において導電部材の幅方向の全域にわたって形成されていることが好ましい。このように非接着領域が導電部材の長手方向の一部において導電部材の幅方向の全域にわたって形成されていることにより、タイヤの変形に伴って導電性糸に掛かる張力を緩和し、導電部材の耐久性を効果的に改善することができる。
【0014】
  非接着領域が導電部材の長手方向の一部において導電部材の幅方向の全域にわたって形成されている場合、非接着領域が導電部材の幅方向の全域にわたって形成されている部分の長さLfが導電部材の長さの15%以上であり、トレッド部に埋設されたベルト層の端部からタイヤ内表面に下した垂線と、その垂線からタイヤ内表面に沿ってビード部側へタイヤ断面高さの0.12倍に相当する長さだけ離間した位置との間に規定されるベルト隣接領域の少なくとも一部が非接着領域の長さLfを有する部分と重複することが好ましい。上述のベルト隣接領域はタイヤ内表面の曲げ変形が最も大きい箇所であるので、ベルト隣接領域の少なくとも一部が非接着領域の長さLfを有する部分と重複するように導電部材を配置することにより、タイヤの変形に伴って導電性糸に掛かる張力を緩和し、導電部材の耐久性を効果的に改善することができる。
【0015】
  非接着領域の長さLfを有する部分はその全体が、タイヤ内面がタイヤ幅方向に最も広くなる位置よりもタイヤ径方向外側に配置されていることが好ましい。タイヤ内面がタイヤ幅方向に最も広くなる位置付近ではタイヤが撓んだ際の曲率変化が大きいため、その位置を跨ぐように非接着領域の長さLfを有する部分が配置されると導電部材が必要以上に動くことになり、導電部材の耐久性が低下する恐れがある。これに対して、非接着領域の長さLfを有する部分の全体をタイヤ内面がタイヤ幅方向に最も広くなる位置よりもタイヤ径方向外側に配置することにより、導電部材の耐久性を効果的に改善することができる。
【0016】
  ベルト隣接領域のビード部側端部におけるタイヤ厚さTsとベルト隣接領域のベルト層側端部におけるタイヤ厚さTbとの平均値Tに対して、非接着領域の長さLfを有する部分とベルト隣接領域との重複長さLfxは0.5≦Lfx/T≦3.2の関係を満足することが好ましい。これにより、導電部材の耐久性を効果的に改善することができる。
【0017】
  非接着領域が導電部材の幅方向の全域にわたって形成されている部分の長さLfはタイヤ断面高さShに対して0.02≦Lf/Sh≦0.15の関係を満足することが好ましい。これにより、導電部材の耐久性を効果的に改善することができる。
【0018】
  非接着領域が導電部材の幅方向の全域にわたって形成されている部分の長さLfと、非接着領域の長さLfを有する部分における導電部材の最大幅Woとは0.8≦Lf/Wo≦6.5の関係を満足することが好ましい。これにより、導電部材の耐久性を効果的に改善することができる。
【0019】
  本発明では、非接着領域において、導電部材と内表面ゴム層との間にフィルム層が介在し、フィルム層の摩擦係数が内表面ゴム層の摩擦係数よりも低いことが好ましい。導電部材と内表面ゴム層との間に摩擦係数が低いフィルム層が介在することにより、擦れに起因する導電性糸の破断を防止し、導電部材の耐久性を改善することができる。
【0020】
  本発明において、導電部材の少なくとも一部は、トレッド部に埋設されたベルト層の端部からタイヤ内表面に下した垂線と、ビード部に埋設されたビードコアの外径側の端部からタイヤ内表面に下した垂線との間に規定されるフレックスゾーンに配置されていることが好ましい。本発明では、タイヤの変形に伴って導電性糸に掛かる張力を緩和することができるので、タイヤ内表面の変形が比較的大きいフレックスゾーンに導電部材の少なくとも一部が配置される場合に顕著な効果を発揮することができる。
【0021】
  導電部材は、フレックスゾーンを横断するように配置される場合、フレックスゾーンの外側に導電性糸に対して電気的に接続された端子を有することが好ましい。導電性糸に対して電気的に接続された端子は他の部分に比べてタイヤ変形を受けて断線し易いため、端子をフレックスゾーンの外側に配置することにより、導電部材の耐久性を高めることができる。
【0022】
  また、本発明のタイヤの製造方法によれば、前記内表面ゴム層を備えた未加硫タイヤを成形する工程と、前記内表面ゴム層に対して前記導電部材を貼り付ける一方で前記導電部材の一部と前記内表面ゴム層との間にフィルム層を挿入する工程と、前記導電部材及び前記フィルム層と共に前記未加硫タイヤを加硫し、前記導電部材の前記フィルム層と当接する部位に前記非接着領域を形成し、前記導電部材の前記フィルム層から外れた部位に前記接着領域を形成する工程とを含むことにより、上述のタイヤを製造することができ、導電部材の耐久性を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
            【
図1】本発明の実施形態からなる空気入りタイヤを示す子午線半断面図である。
 
            【
図2】本発明で使用される導電部材の一例を示す斜視図である。
 
            【
図3】本発明で使用される導電部材の変形例を示す斜視図である。
 
            【
図4】本発明で使用される導電部材の編地を示す平面図である。
 
            【
図5】(a)~(c)はそれぞれ本発明で使用される導電部材の変形例を示す斜視図である。
 
            【
図6】(a)~(b)はそれぞれ本発明で使用される導電部材の変形例を示す斜視図である。
 
            【
図7】(a)~(b)はそれぞれ本発明で使用される導電部材の変形例を示す斜視図である。
 
            【
図8】本発明で使用される導電部材の変形例を示し、(a)は斜視図であり、(b)はVIII-VIII線による矢視断面図である。
 
            【
図9】本発明で使用される導電部材の変形例を示し、(a)は斜視図であり、(b)はIX-IX線による矢視断面図である。
 
            【
図10】空気入りタイヤにおける電子デバイスの配置例を示す子午線半断面図である。
 
            【
図11】電子デバイスと導電部材との接続構造を示す斜視図である。
 
            【
図12】空気入りタイヤにおける電子デバイスの他の配置例を示す斜視断面図である。
 
            【
図13】空気入りタイヤにおける電子デバイスの他の配置例を示す斜視断面図である。
 
            【
図14】空気入りタイヤにおける電子デバイスの他の配置例を示す斜視断面図である。
 
          
【発明を実施するための形態】
【0024】
  以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は本発明の実施形態からなる空気入りタイヤを示し、
図2~
図4は本発明で使用される導電部材を示すものである。
図1において、CLはタイヤ中心線である。
 
【0025】
  図1に示すように、本実施形態の空気入りタイヤは、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部1と、該トレッド部1の両側に配置された一対のサイドウォール部2,2と、これらサイドウォール部2のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部3,3とを備えている。この空気入りタイヤは、タイヤ中心線CLの両側で実質的に対称構造を有するものであるが、非対称構造を有していても良い。
 
【0026】
  一対のビード部3,3間にはカーカス層4が装架されている。このカーカス層4は、タイヤ径方向に延びる複数本のカーカスコードを含み、各ビード部3に配置されたビードコア5の廻りにタイヤ内側から外側へ折り返されている。カーカス層4のカーカスコードとしては、ポリエステル繊維コード等の有機繊維コードが好ましく使用される。ビードコア5の外周上には断面三角形状のゴム組成物からなるビードフィラー6が配置されている。
【0027】
  一方、トレッド部1におけるカーカス層4の外周側には複数層のベルト層7が埋設されている。これらベルト層7はタイヤ周方向に対して傾斜する複数本のベルトコードを含み、かつ層間でベルトコードが互いに交差するように配置されている。ベルト層7において、ベルトコードのタイヤ周方向に対する傾斜角度は例えば10°~40°の範囲に設定されている。ベルト層7のベルトコード7としては、スチールコードが好ましく使用される。トレッド部1には、タイヤ周方向に延びる複数本の主溝11とタイヤ幅方向に延びる複数本のラグ溝12とが形成されている。トレッド部1には、必要に応じて、主溝11やラグ溝12以外の溝やサイプを設けることが可能である。
【0028】
  ベルト層7の外周側には、高速耐久性の向上を目的として、補強コードをタイヤ周方向に対して例えば5°以下の角度で配列してなるベルトカバー層8が配置されている。ベルトカバー層8としては、ベルト層7の幅方向の全域を覆うフルカバー層や、ベルト層7のタイヤ幅方向の両端部を局所的に覆う一対のエッジカバー層をそれぞれ単独で、またはこれらを組み合わせて設けることができる。ベルトカバー層8は、例えば、少なくとも1本の補強コードを引き揃えてコートゴムで被覆したストリップ材をタイヤ周方向に螺旋状に巻回して構成することができる。
【0029】
  なお、上述したタイヤ内部構造は空気入りタイヤにおける代表的な例を示すものであるが、これに限定されるものではない。カーカス層4の内側には、タイヤ内表面Sを構成する内表面ゴム層(インナーライナー層)10が配置されている。内表面ゴム層10は空気透過防止層であり、ブチルゴムを主体とするゴム組成物から構成されている。
【0030】
  上述した空気入りタイヤにおいて、
図1に示すように、内表面ゴム層10上には帯状の導電部材20がタイヤ径方向に延在するように配置されている。導電部材20は、電子デバイス(不図示)に対して電気的に接続され、その電子デバイスの信号通信や電力供給に使用される。電子デバイスは、電気エネルギーによって作動する装置であり、例えば、発電素子、圧力・温度・加速度・電界・磁界・電位・電気抵抗、ガス濃度等の物理量を測定するセンサ、モータやポンプ等のアクチュエータ、通信モジュール、無線タグ、受信用又は送信用のアンテナ、2次電池、非接触給電用のコイル、電子回路基板等から構成される。
 
【0031】
  導電部材20は、
図2~
図4に示すように、少なくとも一部が導電性糸23により構成された伸縮性を有する編地から構成されている。より具体的には、導電部材20は、導電性糸23と非導電性糸24が成編された編地であり、導電性糸23からなる導電部21及び非導電性糸24からなる非道電部22が導電部材20の長手方向に沿って延在し、これら導電部21及び非道電部22が導電部材20の幅方向に交互に配置されている。各導電部23は導電部材20の長手方向に沿って連続する導電性糸23を含むため、各導電部21は導電部材20の長手方向の導電経路として機能する。また、隣り合う導電部21,21の絶縁性を確保するために、隣り合う導電部21,21の間に位置する非道電部22の幅は0.5mm以上であると良い。導電部材20の編地の編み方は特に限定されるものではなく、導電性糸23が連続性を有すると共に、編地が伸縮性を有するものであれば良い。編地が伸縮性を有するとは、非伸長状態からの破断伸びが50%以上である場合を意味する。編地の破断伸びは100%以上であると良い。
 
【0032】
  導電性糸23は、絶縁被覆を施した金属線、特に絶縁被覆を施した銅線であると良い。絶縁被覆により、導電部材20が構成する電気配線において意図しない位置での短絡を防ぐことができる。また、熱を加えることによって融解する絶縁被覆であれば、ハンダ付けによって導電部材20と電子デバイスとの電気的な接続が可能となる。絶縁被覆としては、例えば、ポリウレタン、ポリエステル、ポリビニルホルマール、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリエステルイミド、ポリイミド等の樹脂材料が好ましい。
【0033】
  導電性糸23は、単一の金属線で構成されるもの(モノフィラメント)であっても良いが、複数本の金属線を束ねたもの(マルチフィラメント)であることが好ましい。金属線の直径は、絶縁被覆を含んで、例えば、10μm~100μmの範囲、より好ましくは、20μm~80μmの範囲にあると良い。そして、3本~12本の金属線を束ねて1本の導電性糸23を構成すると良い。例えば、直径が30μmである金属線を7本束ねた導電性糸23が例示される。非導電性糸24としては、例えば、ポリエステル繊維、アラミド繊維等の合成繊維からなる糸を使用することができる。非導電性糸24は、複数本の繊維を束ねたものであっても良い。その場合、導電性糸23の金属線よりも細い繊維を、より多く束ねた糸を用いると良い。これにより、導電性糸23が編み込まれていても編地の柔軟性を確保することができる。
【0034】
  導電部材20は、内表面ゴム層10に対して接着された接着領域A1と、内表面ゴム層10に対して接着されない非接着領域A2とを有し、導電性糸23の少なくとも一部が非接着領域A2に含まれるように構成されている。
図2の例では、導電部材20の長手方向の両端部に接着領域A1が配置され、導電部材20の長手方向の中央部に非接着領域A2が配置されている。
図3の例では、導電部材20の幅方向の両端部に接着領域A1が配置され、導電部材20の幅方向の中央部に非接着領域A2が配置されている。接着領域A1において、導電部材20が接着剤により内表面ゴム層10に対して接着されていても良く、或いは、導電部材20が内表面ゴム層10に対して機械的に係合されていても良い。
 
【0035】
  上述したタイヤにおいて、導電部材20は、少なくとも一部が導電性糸23により構成された伸縮性を有する編地であることにより、導電部材23がタイヤの変形に伴って伸長しても編地を構成する導電性糸23に掛かる張力は小さくなるので、導電性糸23の断線を抑制することができる。しかも、導電部材20は、内表面ゴム層10に対して接着された接着領域A1と、内表面ゴム層10に対して接着されない非接着領域A2とを有し、導電性糸23の少なくとも一部が非接着領域A2に含まれるので、タイヤの変形が相対的に大きい部位に非接着領域A2を配置することで、導電性糸23に掛かる張力を更に低減することができる。これにより、導電部材20の耐久性を改善することができる。
【0036】
  接着領域A1において、導電部材20が内表面ゴム層10に対して機械的に係合される構造として、導電部材20の編地の少なくとも一部が内表面ゴム層10に埋没していると良い。即ち、導電部材20の編地を構成する導電性糸23及び非導電性糸24の一部又は全部が内表面ゴム層10に埋没していると良い。この場合、接着剤を用いずに導電部材20を内表面ゴム層10に対して機械的に固定することができるため、導電部材20と内表面ゴム層10との間の固定強度が高くなり、しかも製造コストが低くなる。
【0037】
  上記タイヤにおいて、
図5(a)~(c)に示すように、導電性糸23からなる導電部21が導電部材20の長手方向に沿って形成され、導電部21が配置された導電部配置領域Cを導電部材20の幅方向において包含するように非接着領域A2が形成される場合、非接着領域A2の導電部配置領域Cを包含する部分の合計長さLcは導電部材20の長さLの30%以上であると良い。ここで、導電部配置領域Cとは、導電部材20に含まれる全ての導電部21を包含する領域である。
図5(a)において、Lc=Lである。
図5(b)において、Lc<Lである。
図5(c)において、Lc=Lc1+Lc2であり、Lc<Lである。非接着領域A2の導電部配置領域Cを包含する部分の合計長さLcが導電部材20の長さLの30%以上であることにより、導電性糸23からなる導電部21がある程度自由に動くことができるので、タイヤの変形に伴って導電性糸23に掛かる張力を緩和し、導電部材20の耐久性を効果的に改善することができる。
 
【0038】
  ここで、非接着領域A2の導電部配置領域Cを包含する部分の合計長さLcが導電部材20の長さLの30%よりも小さいと導電性糸23が破断し易くなる。特に、非接着領域A2の導電部配置領域Cを包含する部分の合計長さLcは導電部材20の長さLの40%以上、より好ましくは、50%以上であると良い。この場合、接着領域A1は導電部材20の全長において導電部材20の幅方向の少なくとも片側に存在することが好ましい。
【0039】
  図6(a)~(b)に示すように、導電性糸23からなる導電部21が配置された導電部配置領域Cを導電部材20の幅方向において包含するように非接着領域A2が形成される場合、非接着領域A2の幅Wfは、導電部配置領域Cの幅Wcの1.2~4.5倍であると良い。これにより、導電性糸23からなる導電部21がある程度自由に動くことができるので、タイヤの変形に伴って導電性糸23に掛かる張力を緩和し、導電部材20の耐久性を効果的に改善することができる。
 
【0040】
  ここで、非接着領域A2の幅Wfが導電部配置領域Cの幅Wcの1.2倍よりも小さいと導電性糸23が破断し易くなり、逆に4.5倍よりも大きいと非導電糸22からなる非導電部24が損傷し易くなる。特に、非接着領域A2の幅Wfは、導電部配置領域Cの幅Wcの1.3~4.2倍、より好ましくは、1.4~4.0倍であると良い。いずれの場合も、導電性糸23からなる導電部21の両側にはそれぞれ導電部配置領域Cの幅Wcの0.1倍以上の範囲にわたって非接着領域A2が存在することが好ましい。
【0041】
  上記タイヤにおいて、
図7(a)~(b)に示すように、導電性糸23からなる導電部21が導電部材20の長手方向に沿って形成される場合、非接着領域A2が導電部材20の長手方向の一部において導電部材20の幅方向の全域にわたって形成されていると良い。このように非接着領域A2が導電部材20の長手方向の一部において導電部材20の幅方向の全域にわたって形成されていることにより、タイヤの変形に伴って導電性糸23に掛かる張力を緩和し、導電部材20の耐久性を効果的に改善することができる。
 
【0042】
  非接着領域A2が導電部材20の長手方向の一部において導電部材20の幅方向の全域にわたって形成されている場合、非接着領域A2が導電部材20の幅方向の全域にわたって形成されている部分の長さLfが導電部材20の長さLの15%以上であることが好ましい。そして、
図1に示すように、トレッド部1に埋設されたベルト層7の端部からタイヤ内表面Sに下した垂線と、その垂線からタイヤ内表面Sに沿ってビード部3側へタイヤ断面高さShの0.12倍に相当する長さだけ離間した位置との間にベルト隣接領域Bxを規定したとき、ベルト隣接領域Bxの少なくとも一部が非接着領域A2の長さLfを有する部分と重複することが好ましい。ベルト隣接領域Bxはタイヤ内表面Sの曲げ変形が最も大きい箇所であるので、ベルト隣接領域Bxの少なくとも一部が非接着領域A2の長さLfを有する部分と重複するように導電部材20を配置することにより、タイヤの変形に伴って導電性糸23に掛かる張力を緩和し、導電部材20の耐久性を効果的に改善することができる。特に、非接着領域A2が導電部材20の幅方向の全域にわたって形成されている部分の長さLfの範囲内にベルト隣接領域Bxの全体が含まれることが望ましい。タイヤ断面高さShは、タイヤ外径とリム径との差の1/2の距離であり、タイヤを規定リムに装着して規定内圧を付与すると共に無負荷状態として測定される。規定リムとは、JATMAに規定される「適用リム」、TRAに規定される「Design Rim」、あるいはETRTOに規定される「Measuring Rim」をいう。また、規定内圧とは、JATMAに規定される「最高空気圧」、TRAに規定される「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」の最大値、あるいはETRTOに規定される「INFLATION PRESSURES」をいう。
 
【0043】
  図1において、タイヤ内面Sがタイヤ幅方向に最も広くなる位置を最大幅位置Pmaxとしたとき、非接着領域A2の長さLfを有する部分はその全体が最大幅位置Pmaxよりもタイヤ径方向外側に配置されていると良い。最大幅位置Pmaxの近傍ではタイヤが撓んだ際の曲率変化が大きいため、その最大幅位置Pmaxを跨ぐように非接着領域A2の長さLfを有する部分が配置されると導電部材20が必要以上に動くことになり、導電部材20の耐久性が低下する恐れがある。これに対して、非接着領域A2の長さLfを有する部分の全体を最大幅位置Pmaxよりもタイヤ径方向外側に配置することにより、導電部材20の耐久性を効果的に改善することができる。なお、タイヤ内面Sがタイヤ幅方向に最も広くなる位置は、タイヤを正規リムにリム組みし、正規内圧を充填し、非接地の状態で、タイヤをCTスキャンで撮像した画像に基づいて特定される。
 
【0044】
  図1に示すように、ベルト隣接領域Bxのビード部3側端部におけるタイヤ厚さTsとベルト隣接領域Bxのベルト層7側端部におけるタイヤ厚さTbとの平均値T(T=(Ts+Tb)/2)に対して、
図7に示すように、非接着領域A2の長さLfを有する部分とベルト隣接領域Bxとの重複長さLfxは0.5≦Lfx/T≦3.2の関係を満足すると良い。これにより、導電部材の耐久性を効果的に改善することができる。タイヤ厚さの平均値Tに対して重複長さLfxが短過ぎると、非接着領域A2による効果が低下し、逆に長過ぎると、タイヤの変形に対する導電部材20の動きが過剰となり、導電部材20の耐久性が低下する。タイヤ厚さTs,Tbはそれぞれタイヤ内面Sの法線方向に沿って測定されるタイヤ厚さであって、導電部材20の厚さは含まれない。
 
【0045】
  非接着領域A2が導電部材20の幅方向の全域にわたって形成されている部分の長さLfはタイヤ断面高さShに対して0.02≦Lf/Sh≦0.15の関係を満足すると良い。これにより、導電部材20の耐久性を効果的に改善することができる。タイヤ断面高さShに対して長さLfが短過ぎると、非接着領域A2による効果が低下し、逆に長過ぎると、タイヤの変形に対する導電部材20の動きが過剰となり、導電部材20の耐久性が低下する。
【0046】
  非接着領域A2が導電部材20の幅方向の全域にわたって形成されている部分の長さLfと、非接着領域A2の長さLfを有する部分における導電部材20の最大幅Woとは0.8≦Lf/Wo≦6.5の関係を満足すると良い。これにより、導電部材20の耐久性を効果的に改善することができる。導電部材20の最大幅Woに対して長さLfが短過ぎると、非接着領域A2による効果が低下し、逆に長過ぎると、タイヤの変形に対する導電部材20の動きが過剰となり、導電部材20の耐久性が低下する。導電部21の設置本数あたりの導電部材20の最大幅Woは1.0mm~3.5mmの範囲にあると良い。導電部21の設置本数あたりの導電部材20の最大幅Woが1.0mmよりも小さいと導電部21又はその間隔が狭くなるため、部材の強度が低下し、或いは、許容電流が小さくなって安定した電力供給や信号通信に支障が出る恐れがある。一方、導電部21の設置本数あたりの導電部材20の最大幅Woが3.5mmよりも大きいと導電部材20が必要以上に大きくなり、非接着領域A2での導電部材20の動きが大きくなって導電部材20の耐久性が低下する。なお、単一の導電部材20に設置される導電部21の本数は2~5本が好ましい。導電部21に設置本数が少な過ぎるとタイヤ全体での導電部材20の設置効率が悪くなり、逆に多過ぎると導電部材20の幅が広くなり過ぎて質量増加に起因する耐久性の低下が起こり易くなる。
【0047】
  上記タイヤにおいて、非接着領域A2において、導電部材20と内表面ゴム層10との間にフィルム層25が介在していると良い。
図8(a)~(b)においては、導電部材20と内表面ゴム層10との間であって、導電部材20の長手方向の中央部に配置された非接着領域A2の全域にフィルム層25が挿入されている。
図9(a)~(b)においては、導電部材20と内表面ゴム層10との間であって、導電部材20の幅方向の中央部に配置された非接着領域A2の全域にフィルム層25が挿入されている。フィルム層25の摩擦係数は内表面ゴム層10の摩擦係数よりも低い。摩擦係数は、JIS-K7125「プラスチック-フィルム及びシート-摩擦係数試験方法」に準拠して測定されるものである。このように導電部材20と内表面ゴム層10との間に摩擦係数が低いフィルム層25が介在することにより、擦れに起因する導電性糸23の破断を防止し、導電部材20の耐久性を改善することができる。
 
【0048】
  フィルム層25の素材としては、例えば、ポリオレフィン、ポリアセタール、ポリアミド、ポリエステル、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリオレフィンケトン(POK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリサルフォン(PSU)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂等の樹脂材料、熱可塑性エラストマー(スチレン系、水添スチレン系、オレフィン系、ポリエステル系、ポリウレタン系、ポリアミド系、塩化ビニル系)等が挙げられる。
【0049】
  上記タイヤにおいて、
図1に示すように、導電部材20の少なくとも一部は、トレッド部1に埋設されたベルト層7の端部からタイヤ内表面Sに下した垂線と、ビード部3に埋設されたビードコア5の外径側の端部からタイヤ内表面Sに下した垂線との間に規定されるフレックスゾーンFxに配置されていると良い。本発明では、タイヤの変形に伴って導電性糸23に掛かる張力を緩和することができるので、タイヤ内表面Sの変形が比較的大きいフレックスゾーンFxに導電部材20の少なくとも一部が配置される場合に顕著な効果を発揮することができる。
 
【0050】
  導電部材20は、フレックスゾーンFXを横断するように配置される場合、フレックスゾーンFxの外側に導電性糸23に対して電気的に接続された端子30を有していると良い。
図1では、導電部材20のフレックスゾーンFXよりもタイヤ径方向外側の部位とフレックスゾーンFXよりもタイヤ径方向内側の部位にそれぞれ端子30が設けられている。導電性糸23に対して電気的に接続された端子30はタイヤ変形を受けて断線し易い部分であるため、端子30をフレックスゾーンFxの外側に配置することにより、導電部材20の耐久性を高めることができる。
 
【0051】
  次に、上述した空気入りタイヤの製造方法について説明する。先ず、カーカス層4、ビードコア5、ビードフィラー6、ベルト層7、ベルトカバー層8に加えて、内表面ゴム層10を備えた未加硫タイヤを成形する。そして、未加硫タイヤにおいて、内表面ゴム層10に対して導電部材20を貼り付ける一方で導電部材20の一部と内表面ゴム層10との間にフィルム層25を挿入する。導電部材20とフィルム層25とは予め圧着されたアセンブリとして貼り付けることも可能である。次いで、導電部材20及びフィルム層25と共に未加硫タイヤを加硫することにより、導電部材20のフィルム層25と当接する部位に非接着領域A2を形成し、導電部材20のフィルム層25から外れた部位に接着領域A2を形成する。つまり、加硫前に導電部材20及びフィルム層25を内表面ゴム層10に対して貼り付けることにより、フィルム層25が存在する部位では導電部材20を非接着状態とし、フィルム層25が存在しない部位では導電部材20を内表面ゴム層10に対して埋没させて接着状態とする。これにより、導電部材20を備えたタイヤを効率良く製造することができ、しかも、導電部材20が内表面ゴム層10に対して機械的に係合するので、導電部材20の耐久性を高めることができる。
【0052】
  上述のタイヤの製造方法は好ましい方法であるが、これに限定されるものではない。例えば、タイヤを通常の手法により加硫した後、導電部材20を内表面ゴム層10に対して貼り付けることも可能である。
【0053】
  図10は空気入りタイヤにおける電子デバイスの配置例を示し、
図11は電子デバイスと導電部材との接続構造を示すものである。
図10において、タイヤ内表面Sには電子デバイス40が設置され、この電子デバイス40はタイヤ中心線CLの位置に配置されている。内表面ゴム層10上に配置された導電部材20は、一方の端部が電子デバイス40に対して電気的に接続され、他方の端部がビード部3側に向かって延在している。
図11に示すように、電子デバイス40は、基板41と、基板41上に搭載された一対の端子42と、基板41上に搭載された各種の電子部品43と、これら端子42及び電子部品43を相互に接続する配線44とを備えている。電子デバイス40は、一対の端子42を介して導電部材20の一対の導電部21に対して電気的に接続されている。電子デバイス40における一対の端子42の相互間隔は導電部材20における一対の導電部21の相互間隔と等しいことが好ましい。この場合、電子デバイス40の端子42と導電部材20の導電部21とを他の電線を介することなくハンダ付け等により直接接続することができる。
 
【0054】
  図12~
図14はそれぞれ空気入りタイヤにおける電子デバイスの配置例を示すものである。
図12~
図14に示すように、電子デバイス40はタイヤ内表面S上に設置され、導電部材20は電子デバイス40からタイヤ内表面Sに沿って延在するように配置されている。
図12では、比較的大きい電力を必要とする大型の電子デバイス40に対してタイヤ幅方向の両側から幅広の導電部材20を接続し、各導電部材20を正極又は負極の配線として利用している。
図13及び
図14では、比較的小さい電力で駆動する小型の電子デバイス40に対してタイヤ幅方向の片側から導電部材20を接続し、導電部材20の各導電部21を正極又は負極の配線として利用している。
図13では導電部材20がタイヤ幅方向に延在しているのに対して、
図14では導電部材20がタイヤ幅方向に対して傾斜する方向に延在している。
 
【実施例0055】
  タイヤサイズが245/40R19であり、タイヤ内表面を構成する内表面ゴム層と、内表面ゴム層上に配置された導電部材とを備えたタイヤにおいて、導電性糸からなる導電部と非導電性糸からなる非導電部とを含む伸縮性を有する編地からなる導電部材を使用し、該導電部材の内表面ゴム層に対する接着状態を異ならせた比較例1及び実施例1~12のタイヤを製作した。
【0056】
  比較例1は、導電部材を全域にわたって接着したものである。実施例1~12は、導電部材が、内表面ゴム層に対して接着された接着領域と、内表面ゴム層に対して接着されない非接着領域とを有し、導電性糸の少なくとも一部が非接着領域に含まれるものである。実施例1~12において、導電部材の接着形態、非接着領域の導電部配置領域を包含する部分の合計長さLcと導電部材の長さLとの比(Lc/L)、非接着領域の幅Wfと導電部配置領域の幅Wcとの比(Wf/Wc)、非接着領域が導電部材の幅方向の全域にわたって形成されている部分の長さLfと導電部材の長さLとの比(Lf/L)、非接着領域の長さLfを有する部分とベルト隣接領域との重複長さLfxとタイヤ厚さの平均値Tとの比(Lfx/T)、非接着領域が導電部材の幅方向の全域にわたって形成されている部分の長さLfとタイヤ断面高さShとの比(Lf/Sh)、非接着領域が導電部材の幅方向の全域にわたって形成されている部分の長さLfと導電部材の最大幅Woとの比(Lf/Wo)、導電部材と内表面ゴム層との間に介在するフィルム層の有無は表1のように設定した。接着領域において、導電部材の編地の少なくとも一部を内表面ゴム層に埋没させた。導電部材は、フレックスゾーンを横切るように配置し、ベルト隣接領域の少なくとも一部が非接着領域と重複するようにした。
【0057】
  これら試験タイヤについて、下記の評価方法により、導電部材の耐久性を評価し、その結果を表1に併せて示した。
【0058】
  導電部材の耐久性:
  各試験タイヤをリムサイズ19×8Jのホイールに組み付けて、空気圧を150kPaとして、ドラム表面が平滑な鋼製でかつ直径が1707mmであるドラム試験機に装着し、周辺温度を38±3℃に制御しながら、速度を120km/hとし、荷重をJATMA最大荷重の100%とする条件下で3000kmの走行試験を実施した。走行試験後、導電部材全体の電気抵抗(全ての導電部の端部同士を短絡した状態で導電部材の両端間にて測定される抵抗値)を測定した。評価結果は、測定値の逆数を用い、比較例1を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほど導電部材の耐久性が優れていることを意味する。
【0059】
【0060】
  表1から判るように、実施例1~12のタイヤでは、比較例1との対比において、導電部材の耐久性を改善することができた。
【0061】
  本開示は、以下の発明[1]~[14]を包含する。
  発明[1]は、タイヤ内表面を構成する内表面ゴム層と、前記内表面ゴム層上に配置された導電部材とを備えたタイヤにおいて、
  前記導電部材は、少なくとも一部が導電性糸により構成された伸縮性を有する編地からなり、前記内表面ゴム層に対して接着された接着領域と、前記内表面ゴム層に対して接着されない非接着領域とを有し、前記導電性糸の少なくとも一部が前記非接着領域に含まれることを特徴とするタイヤである。
  発明[2]は、前記接着領域において、前記編地の少なくとも一部が前記内表面ゴム層に埋没していることを特徴とする発明[1]に記載のタイヤである。
  発明[3]は、前記導電性糸からなる導電部が前記導電部材の長手方向に沿って形成され、前記導電部が配置された導電部配置領域を前記導電部材の幅方向において包含するように前記非接着領域が形成され、前記非接着領域の前記導電部配置領域を包含する部分の合計長さが前記導電部材の長さの30%以上であることを特徴とする発明[1]又は[2]に記載のタイヤである。
  発明[4]は、前記非接着領域の幅は、前記導電部配置領域の幅の1.2~4.5倍であることを特徴とする発明[3]に記載のタイヤである。
  発明[5]は、前記導電性糸からなる導電部が前記導電部材の長手方向に沿って形成され、前記非接着領域が前記導電部材の長手方向の一部において前記導電部材の幅方向の全域にわたって形成されていることを特徴とする発明[1]又は[2]に記載のタイヤである。
  発明[6]は、前記非接着領域が前記導電部材の幅方向の全域にわたって形成されている部分の長さLfが前記導電部材の長さの15%以上であり、
トレッド部に埋設されたベルト層の端部から前記タイヤ内表面に下した垂線と、前記垂線から前記タイヤ内表面に沿ってビード部側へタイヤ断面高さの0.12倍に相当する長さだけ離間した位置との間に規定されるベルト隣接領域の少なくとも一部が前記非接着領域の前記長さLfを有する部分と重複することを特徴とする発明[5]に記載のタイヤである。
  発明[7]は、前記非接着領域の前記長さLfを有する部分はその全体が、タイヤ内面がタイヤ幅方向に最も広くなる位置よりもタイヤ径方向外側に配置されていることを特徴とする発明[6]に記載のタイヤである。
  発明[8]は、前記ベルト隣接領域のビード部側端部におけるタイヤ厚さTsと前記ベルト隣接領域のベルト層側端部におけるタイヤ厚さTbとの平均値Tに対して、前記非接着領域の前記長さLfを有する部分と前記ベルト隣接領域との重複長さLfxが0.5≦Lfx/T≦3.2の関係を満足することを特徴とする発明[6]又は[7]に記載のタイヤである。
  発明[9]は、前記非接着領域が前記導電部材の幅方向の全域にわたって形成されている部分の長さLfがタイヤ断面高さShに対して0.02≦Lf/Sh≦0.15の関係を満足することを特徴とする発明[6]~[8]のいずれかに記載のタイヤである。
  発明[10]は、前記非接着領域が前記導電部材の幅方向の全域にわたって形成されている部分の長さLfと、前記非接着領域の前記長さLfを有する部分における前記導電部材の最大幅Woとが0.8≦Lf/Wo≦6.5の関係を満足することを特徴とする発明[6]~[9]のいずれかに記載のタイヤである。
  発明[11]は、前記非接着領域において、前記導電部材と前記内表面ゴム層との間にフィルム層が介在し、前記フィルム層の摩擦係数が前記内表面ゴム層の摩擦係数よりも低いことを特徴とする発明[1]~[10]のいずれかに記載のタイヤである。
  発明[12]は、前記導電部材の少なくとも一部は、トレッド部に埋設されたベルト層の端部から前記タイヤ内表面に下した垂線と、ビード部に埋設されたビードコアの外径側の端部から前記タイヤ内表面に下した垂線との間に規定されるフレックスゾーンに配置されていることを特徴とする発明[1]~[11]のいずれかに記載のタイヤである。
  発明[13]は、前記導電部材は、前記フレックスゾーンを横断するように配置され、前記フレックスゾーンの外側に前記導電性糸に対して電気的に接続された端子を有することを特徴とする発明[12]に記載のタイヤである。
  発明[14]は、発明[1]~[13]のいずれかに記載のタイヤを製造する方法であって、
  前記内表面ゴム層を備えた未加硫タイヤを成形する工程と、
  前記内表面ゴム層に対して前記導電部材を貼り付ける一方で前記導電部材の一部と前記内表面ゴム層との間にフィルム層を挿入する工程と、
  前記導電部材及び前記フィルム層と共に前記未加硫タイヤを加硫し、前記導電部材の前記フィルム層と当接する部位に前記非接着領域を形成し、前記導電部材の前記フィルム層から外れた部位に前記接着領域を形成する工程とを含むことを特徴とするタイヤの製造方法である。