(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025164705
(43)【公開日】2025-10-30
(54)【発明の名称】高濃度スチレンスルホン酸アンモニウム水溶液組成物とその製造方法、並びにその用途
(51)【国際特許分類】
C08F 12/30 20060101AFI20251023BHJP
C07C 309/29 20060101ALI20251023BHJP
C08J 5/22 20060101ALI20251023BHJP
H01M 8/1081 20160101ALI20251023BHJP
H01M 8/1044 20160101ALI20251023BHJP
H01M 10/0565 20100101ALN20251023BHJP
【FI】
C08F12/30
C07C309/29
C08J5/22 101
C08J5/22 CET
H01M8/1081
H01M8/1044
H01M10/0565
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2025044307
(22)【出願日】2025-03-19
(31)【優先権主張番号】P 2024068324
(32)【優先日】2024-04-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】301005614
【氏名又は名称】東ソー・ファインケム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100182073
【弁理士】
【氏名又は名称】萩 規男
(72)【発明者】
【氏名】尾添 真治
(72)【発明者】
【氏名】重田 優輔
【テーマコード(参考)】
4F071
4H006
4J100
5H029
5H126
【Fターム(参考)】
4F071AA22
4F071FA05
4F071FB01
4F071FD01
4H006AA01
4H006AB46
4J100AB07P
4J100BA56P
4J100DA28
4J100DA38
4J100FA00
4J100FA02
4J100FA03
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4J100HB39
4J100HC43
4J100JA15
4J100JA16
4J100JA43
5H029AJ14
5H029AM16
5H029HJ01
5H029HJ02
5H126AA05
5H126BB06
5H126GG18
5H126HH03
5H126HH04
5H126HH08
5H126HH10
5H126JJ05
5H126JJ08
(57)【要約】 (修正有)
【課題】高濃度スチレンスルホン酸アンモニウム水溶液組成物、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】水と、スチレンスルホン酸アンモニウムと、スチレンスルホン酸アンモニウムに対して10.0モル%~120.0モル%の塩基と、を含むスチレンスルホン酸塩水溶液組成物であって、スチレンスルホン酸塩の25℃における濃度が、スチレンスルホン酸アンモニウム換算で、水溶液全量に対し30.0重量%~60.0重量%である、高濃度スチレンスルホン酸アンモニウム水溶液組成物が提供される。前記塩基が、アミン類、水酸化リチウム、及び水酸化テトラアルキルアンモニウムからなる群から選ばれる1以上であることが好ましく、炭素数9以下の脂肪族アミンであることがより好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と、
スチレンスルホン酸アンモニウムと、
スチレンスルホン酸アンモニウムに対して10.0モル%~120.0モル%の塩基と、を含むスチレンスルホン酸塩水溶液組成物であって、
スチレンスルホン酸塩の25℃における濃度が、スチレンスルホン酸アンモニウム換算で、水溶液全量に対し30.0重量%~60.0重量%である、高濃度スチレンスルホン酸アンモニウム水溶液組成物。
【請求項2】
前記塩基が、アミン類、水酸化リチウム、及び水酸化テトラアルキルアンモニウムからなる群から選ばれる1以上である、請求項1に記載の水溶液組成物。
【請求項3】
前記アミン類が、炭素数9以下の脂肪族アミンである、請求項2に記載の水溶液組成物。
【請求項4】
前記アミン類が、1-アザビシクロ[2.2.2.]オクタン、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、エチルアミン、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]-5-ノネン、ジイソプロパノールアミン、ジエタノールイソプロパノールアミン、ジエチルアミン、ジエタノールアミン、ジエタノールイソプロパノールアミン、N,N-ジエチルエタノールアミン、2-[(2-ジメチルアミノ)エトキシ]エタノール、N,N-ジメチルエタノールアミン、N,N-ジメチルシクロヘキシルアミン、トリエチルアミン、2-ヒドロキシエチルアミン、N-メチルエタノールアミン、N-メチル-N,N-ジエタノールアミン、およびモノイソプロパノールアミンからなる群から選ばれる1以上のアミン類である、請求項2に記載の水溶液組成物。
【請求項5】
容器に水を入れ、
これにスチレンスルホン酸アンモニウムと、スチレンスルホン酸アンモニウムに対して10.0モル%~120.0モル%の塩基を加え、
撹拌して溶解する、
又は
容器にスチレンスルホン酸アンモニウムを入れ、
これにスチレンスルホン酸アンモニウムに対して10.0モル%~120.0モル%の塩基を加えた後、
水を投入し、
撹拌して溶解する、
請求項1に記載した高濃度スチレンスルホン酸アンモニウム水溶液組成物の製造方法。
【請求項6】
請求項1~4のいずれかに記載した高濃度スチレンスルホン酸アンモニウムの水溶液組成物、架橋性モノマー、及び
重合開始剤
を含むモノマー溶液を、
支持体に塗布又は含侵させ、重合する、
カチオン交換膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高濃度スチレンスルホン酸アンモニウム水溶液組成物とその製造方法、並びにその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
スチレンスルホン酸塩は、界面活性を有する強酸塩型のアニオン性モノマーであり、耐熱性とラジカル重合性に優れることから、乳化重合用の反応性乳化剤として使用される他、水系分散剤、水系洗浄剤、及び導電性ポリマーのドーパント等を製造するための原料として古くから使用されている。工業的に広く使用されているのは、主にスチレンスルホン酸ナトリウム(以下、NaSSと略記する)だが、各種溶媒への溶解性に乏しく、且つアルカリ金属を含むため用途に制限があった。
【0003】
上記背景から、アルカリ金属を含まないスチレンスルホン酸アンモニウム(以下、AmSSと略記する)が古くから注目されたが(例えば、非特許文献1)、製造方法や保存安定性に大きな課題があり、工業化に至らなかった。そこで、本発明者らがAmSSの物性と製造方法とについて研究を続けた結果、良好な保存安定性を有するAmSSの安価な製造方法を見出した。保存安定性が向上したAmSS無水塩の物性を詳しく調べた結果、N-メチルピロリドンやジメチルスルホキシドなど、特定の極性有機溶媒に対する溶解度はNaSSよりも遥かに高いことが判ったが、非特許文献1に記載されているように、水に対する溶解度はNaSSと顕著な差がないことを確認した。
【0004】
ところで、アニオン性モノマーの水溶液を用いたカチオン交換膜の製造法が知られており、有機溶媒を必要としないため、環境負荷が小さいメリットを有する(例えば、特許文献1、特許文献2)。該方法によりアニオン性モノマー、架橋性モノマー及び光重合開始剤を含む水溶液を、支持体に塗布又は含侵させて重合することにより、カチオン交換膜を簡便に製造できるが、緻密な膜を得るために高濃度のモノマー水溶液が必要とされる(例えば、特許文献1の段落0030、特許文献2の段落0063)。
【0005】
しかし、AmSSは水への溶解度が不十分なため、該カチオン交換膜製造プロセスへの適用は困難であり、AmSSを可能な限り高濃度で水に溶解させる方法が強く求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2023-519746号公報
【特許文献2】特表2022-502522号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】東洋曹達研究報告、第24巻、第1号、1980年、3~11頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記背景と課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、高濃度のスチレンスルホン酸塩を含む水溶液組成物およびその製造方法を提供することにある。また本発明は、当該高濃度スチレンスルホン酸塩水溶液を用いたカチオン交換膜の製造方法、特に緻密なカチオン交換膜の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らが水に対するスチレンスルホン酸アンモニウム(AmSS)の溶解性を詳しく調べた結果、AmSSを溶解させる際に、特定の塩基を添加することによって、水への溶解度が著しく増大することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち本発明は以下の発明に係る。
[1]水と、
スチレンスルホン酸アンモニウムと、
スチレンスルホン酸アンモニウムに対して10.0モル%~120.0モル%の塩基と、を含むスチレンスルホン酸塩水溶液組成物であって、
スチレンスルホン酸塩の25℃における濃度が、スチレンスルホン酸アンモニウム換算で、水溶液全量に対し30.0重量%~60.0重量%である、高濃度スチレンスルホン酸アンモニウム水溶液組成物。
[2]前記塩基が、アミン類、水酸化リチウム、及び水酸化テトラアルキルアンモニウムからなる群から選ばれる1以上である、項[1]に記載の水溶液。
[3]前記アミン類が、炭素数9以下の脂肪族アミンである、項[2]に記載の水溶液。
[4]前記アミン類が、1-アザビシクロ[2.2.2.]オクタン、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、エチルアミン、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]-5-ノネン、ジイソプロパノールアミン、ジエタノールイソプロパノールアミン、ジエチルアミン、ジエタノールアミン、ジエタノールイソプロパノールアミン、N,N-ジエチルエタノールアミン、2-[(2-ジメチルアミノ)エトキシ]エタノール、N,N-ジメチルエタノールアミン、N,N-ジメチルシクロヘキシルアミン、トリエチルアミン、2-ヒドロキシエチルアミン、N-メチルエタノールアミン、N-メチル-N,N-ジエタノールアミン、およびモノイソプロパノールアミンからなる群から選ばれる1以上のアミン類である、項[2]に記載の水溶液。
[5]容器に水を入れ、
これにスチレンスルホン酸アンモニウムと、スチレンスルホン酸アンモニウムに対して10.0モル%~120.0モル%の塩基を加え、
撹拌して溶解する、
又は
容器にスチレンスルホン酸アンモニウムを入れ、
これにスチレンスルホン酸アンモニウムに対して10.0モル%~120.0モル%の塩基を加えた後、
水を投入し、
撹拌して溶解する、
項[1]に記載した高濃度スチレンスルホン酸アンモニウム水溶液組成物の製造方法。
[6]項[1]~項[4]のいずれかに記載の高濃度スチレンスルホン酸アンモニウムの水溶液組成物、架橋性モノマー、及び
重合開始剤を含むモノマー溶液を、支持体に塗布又は含侵させ、重合する、
カチオン交換膜の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、特定の塩基を添加することによってスチレンスルホン酸アンモニウムの水への溶解度を著しく増大できるため、従来困難だった高濃度のスチレンスルホン酸塩を含む水溶液組成物及びその製造方法を提供することができる。
また本発明により従来困難だった高濃度モノマー水溶液を必要とするカチオン交換膜製造プロセスへのスチレンスルホン酸アンモニウムの適用が可能となり、スチレンスルホン酸をベースとするカチオン交換膜の製造方法であって、有機溶剤を使用しない環境に配慮したカチオン交換膜の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】参考例1で測定したAmSSの溶解度の温度依存性を示し、横軸は温度(℃)であり、縦軸はAmSSの溶解度(wt%、重量%)を示す。尚、図中、三角▲で示した値は参考例1で得られたデータであり、丸〇で示した値は非特許文献1に記載されたデータである。
【
図2】実施例1における塩基の添加量とAmSSの溶解度の関係を示し、横軸はAmSSに対するN,N-ジメチルアミノエタノール(図中、DMAEと表示)のモル%であり、縦軸はAmSSの溶解度(wt%、重量%)を表す。尚、図中、丸●で示した値は25℃での溶解度であり、三角▲で示した値は40℃での溶解度である。
【
図3】AmSSの溶解度の温度依存性を示し、横軸は温度(℃)であり、縦軸はAmSSの溶解度(wt%、重量%)を示す。尚、図中、三角▲で示した値は塩基を添加しなかった場合のAmSSの溶解度であり、丸〇で示した値はN,N-ジメチルアミノエタノール(図中、DMAEと表示)をAmSSに対して39.6mol%添加した際のAmSSの溶解度である。
【
図4】実施例2における塩基の添加量とAmSSの溶解度の関係を示し、横軸はAmSSに対するN,N-ジメチルシクロヘキシルアミン(図中、DMCHAと表示)のモル%であり、縦軸は25℃でのAmSSの溶解度(wt%、重量%)を表す。
【
図5】実施例3における塩基の添加量とAmSS水溶液濃度の関係を示し、横軸はAmSSに対する水酸化リチウム一水和物(図中、LiOHと表示)のモル%であり、縦軸はAmSSの溶解度(wt%、重量%)を表す。尚、図中、丸●で示した値は25℃での溶解度であり、三角▲で示した値は40℃での溶解度である。
【
図6】実施例4における塩基の添加量とAmSS水溶液濃度の関係を示し、横軸はAmSSに対するトリエチルアミン(図中、TEAと表示)のモル%であり、縦軸は25℃でのAmSSの溶解度(wt%、重量%)を表す。
【
図7】比較例1における塩基の添加量とAmSS水溶液濃度の関係を示し、横軸はAmSSに対するトリエタノールアミン(図中、TEAOHと表示)のモル%であり、縦軸は25℃でのAmSSの溶解度を表す。
【
図8】比較例2における塩基の添加量とAmSS水溶液濃度の関係を示し、横軸はAmSSに対する水酸化ナトリウム(図中、NaOHと表示)のモル%であり、縦軸は25℃でのAmSSの溶解度(wt%、重量%)を表す。
【
図9】比較例3における塩化リチウムの添加量とAmSS水溶液濃度の関係を示し、横軸はAmSSに対する塩化リチウム(図中、LiClと表示)のモル%であり、縦軸は25℃でのAmSSの溶解度(wt%、重量%)を表す。
【
図10】比較例4における4-メチルモルホリンの添加量とAmSS水溶液濃度の関係を示し、横軸はAmSSに対する4-メチルモルホリン(図中、M-MORと表示)のモル%であり、縦軸は25℃でのAmSSの溶解度(wt%、重量%)を表す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0014】
本発明の高濃度スチレンスルホン酸塩水溶液組成物は、水、スチレンスルホン酸アンモニウム、および以下で示す特定の塩基を含んでいる。
塩基については、スチレンスルホン酸アンモニウムに対して10.0モル%~120.0モル%を添加等して含まれる。また、水溶液中のスチレンスルホン酸塩の25℃における濃度はスチレンスルホン酸アンモニウム換算で、水溶液全量に対し30.0重量%~60.0重量%である。
【0015】
さらに、本発明の高濃度でスチレンスルホン酸アンモニウムを含む水溶液組成物の製造方法としては、
・適正な反応器や溶解槽などの容器に水を入れ、これにスチレンスルホン酸アンモニウムと、スチレンスルホン酸アンモニウムに対して10.0モル%~120.0モル%の塩基を加え、撹拌して溶解する方法
又は、
・適正な反応器や溶解槽などの容器にスチレンスルホン酸アンモニウムを入れ、これにスチレンスルホン酸アンモニウムに対して10.0モル%~120.0モル%の塩基を加えた後、水を投入し、撹拌して溶解する方法
が挙げられる。
【0016】
ここで、スチレンスルホン酸塩は界面活性を有するアニオン性モノマーであり、例えば、スチレンスルホン酸ナトリウム(NaSS)、スチレンスルホン酸リチウム(以下、LiSSと略記する)、スチレンスルホン酸アンモニウム(AmSS)が知られている。
【0017】
これらの内、量産化され、幅広い用途で利用されているのはNaSSのみである。NaSSは熱分解温度が極めて高い特長を持つが、各種溶媒に対する溶解度が低く、且つ高濃度のアルカリ金属を含むという課題がある。
【0018】
LiSSはNaSSよりも優れた溶解性を示し、且つNaSSと同じ高い熱分解温度を持つが、高価格、且つ高濃度のアルカリ金属を含むため用途は限定されている。また、LiSSは原料コストが高く、且つ製造プロセスにも課題があるため未だ大量生産には至っていない。
【0019】
スチレンスルホン酸アンモニウム(AmSS)は製造方法や保存安定性に大きな課題があり、工業化に至っていなかったが、本発明者らがAmSSの物性と製造方法について研究を続けた結果、良好な保存安定性を有するAmSSの安価な製造方法を見出した。保存安定性が改良されたAmSS無水塩の物性を詳しく調べた結果、N-メチルピロリドンやジメチルスルホキシドなど、特定の極性有機溶媒に対する溶解性はNaSSよりも遥かに高いことが判ったが、上記した非特許文献1に記載されているように、水への溶解度はNaSSと顕著な差がないことを確認した。
【0020】
ところで、スチレンスルホン酸塩の用途の一つとして、カチオン交換膜がある。例えば、アニオン性モノマー、架橋性モノマー及びラジカル重合開始剤を含むモノマー溶液を支持体に塗布又は含侵させて重合することにより、簡便にカチオン交換膜を製造することが出来る(例えば、特許文献1、特許文献2、特許第5924282号公報を参照されたい)。この際、緻密なカチオン交換膜を得るためには、高濃度のモノマー溶液を使用する必要があるが、モノマー溶液としては、環境負荷の観点から水溶液がトレンドとなっている。すなわち、高濃度のモノマー水溶液が必要とされるが、AmSSは水への溶解度が低いため、当該カチオン交換膜製造プロセスへのAmSSの適用は困難だった。
【0021】
そこで本発明者らが、AmSSを可能な限り高濃度で水に溶解させる方法を検討したところ、AmSSの水溶液を調製する際に、特定の塩基を添加することによってAmSSの溶解度を著しく増大できることを見出した。
【0022】
特定の塩基とは、AmSSの水溶液に溶解するものであり、より具体的にはアミン類、水酸化リチウム、水酸化テトラアルキルアンモニウムなどの塩基である。これらの塩基は単独でも併用して添加しても良い。
【0023】
アミン類の内、AmSS水溶液の着色や添加重量当たりの溶解度向上効果を考慮すると、炭素数9以下の脂肪族アミンが好ましく、例えば、1-アザビシクロ[2.2.2.]オクタン、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、エチルアミン、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]-5-ノネン、ジイソプロパノールアミン、ジエタノールイソプロパノールアミン、ジエチルアミン、ジエタノールアミン、ジエタノールイソプロパノールアミン、N,N-ジエチル-2-ヒドロキシエチルアミン、2-[(2-ジメチルアミノ)エトキシ]エタノール、N,N-ジメチル-2-ヒドロキシエチルアミン、N,N-ジメチルシクロヘキシルアミン、2,2’-ジモルホリノジエチルエーテル、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、トリエチレンジアミン、2-ヒドロキシエチルアミン、ピペリジン、ビス(2-ジメチルアミノエチル)エーテル、N-メチルエタノールアミン、N-メチル-N,N-ジエタノールアミン、N-メチルピペラジン、N-メチルピペリジン、N-メチルモルホリン、モルホリン、モノイソプロパノールアミン等が挙げられる。炭素数9以下の脂肪族アミンの内、添加重量当たりの溶解度向上効果を考慮すると、酸解離定数pKaが9.25を超えるアミン類がさらに好ましく、例えば、1-アザビシクロ[2.2.2.]オクタン、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、エチルアミン、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]-5-ノネン、ジイソプロパノールアミン、ジエタノールイソプロパノールアミン、ジエチルアミン、ジエタノールアミン、ジエタノールイソプロパノールアミン、N,N-ジエチルエタノールアミン、2-[(2-ジメチルアミノ)エトキシ]エタノール、N,N-ジメチルエタノールアミン、N,N-ジメチルシクロヘキシルアミン、トリエチルアミン、2-ヒドロキシエチルアミン、N-メチルエタノールアミン、N-メチル-N,N-ジエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン等が挙げられる。
【0024】
水酸化リチウムとしては、水酸化リチウム無水物、水酸化リチウム一水和物等が挙げられ、水酸化テトラアルキルアンモニウムとしては、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラプロピルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム等が挙げられる。
【0025】
AmSSに対する塩基の添加量は、10.0モル%~120.0モル%であり、通常、添加モル数が多いほど溶解度は増大するが、多すぎると塩析効果によってむしろ溶解度が低下することがある。また、AmSS水溶液の安全性や臭気を考慮すると、塩基の過剰量は少ない方が好ましいため、20.0モル%~110.0モル%が好ましく、20.0モル%~100.0モル%がさらに好ましい。
【0026】
適正な塩基の添加量は、塩基の強さ、分子量、価数、水溶性などで異なるため、使用目的に応じて添加量を決定することが出来る。例えばAmSS1モルに対して塩基を1モル添加した場合、100モル%である。25℃の水に対するAmSSの溶解度は26.2wt%(重量%)だが、塩基の種類と添加量によっては、AmSS換算の濃度は50wt%を超えるまで増大する。
【0027】
例えば、飽和濃度を超えたAmSSと水からなるスラリー液に所定量のN,N-ジメチル-2―エタノールアミンを添加すると、AmSSが溶解して透明な水溶液となる。未溶解のAmSSがスチレンスルホン酸のN,N-ジメチル-2―エタノールアミン塩に変換されたためと考えられる。よって該水溶液中にはスチレンスルホン酸のアンモニウム塩とN,N-ジメチル-2―エタノールアミン塩が平衡混合物として共存し、その比率はN,N-ジメチル-2―エタノールアミンの添加量によって変化する。
上記したAmSS換算の濃度とは、これらスチレンスルホン酸塩を全てAmSS(分子量201.25g/mol)と見なした濃度を意味する。
【0028】
高濃度のAmSSを含む水溶液組成物を製造する際、AmSSの溶解法は特に制限はなく、
・適正な反応器又は溶解槽などの容器に水を入れ、これにスチレンスルホン酸アンモニウムと、スチレンスルホン酸アンモニウムに対して10.0モル%~120.0モル%の塩基を加え、撹拌して溶解する方法、又は
・適正な反応器又は溶解槽などの容器にスチレンスルホン酸アンモニウムを入れ、これにスチレンスルホン酸アンモニウムに対して10.0モル%~120.0モル%の塩基を加えた後、水を投入し、撹拌、溶解する方法
を挙げることができる。
容器としては、高濃度のAmSSを含む水溶液組成物を製造できるものであれば特に制限はなく、大きさ、容量、形状などは目的に応じたものを用いればよい。
【0029】
溶解温度は常温で良いが、吸熱するため加熱しても良い。AmSSの自然重合(自発重合、無触媒重合とも言う)を考慮すれば、通常、0℃~60℃である。加熱溶解したり、長時間貯蔵する場合は、自然重合を避けるため、容器空間に酸素や一酸化窒素を導入するか、もしくは少量の重合禁止剤を添加することが出来るが、空気存在下での攪拌、溶解が最も簡便である。
【0030】
また、AmSS水溶液組成物を調製する際、もしくは調製した後、以下に記載する重合禁止剤、連鎖移動剤、AmSS以外のモノマー及び重合開始剤等の添加剤を加える場合、これらを溶解させるために水以外の水溶性溶媒を添加しても良い。
【0031】
水溶性溶媒としては、AmSSと上記添加剤の溶解を妨げないものであれば特に制限はないが、例えば、メタノール、エタノール、メトキシエタノール、エトキシエタノール、プロパノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、エチレングリコール等のアルコール類、メトキシエタノール、エトキシエタノール、1-メトキシ-2-プロパノール、1,2-ジメトキシプロパン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジヒドロレボグルコセノン等のエーテル類、アセトニトリル、アセトン、N-メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンなどが挙げられる。
これら水溶性溶媒はあくまで補助的な溶媒であり、全溶媒中の50重量%以下であり、20重量%以下がより好ましく、10重量%以下がさらに好ましい。
【0032】
重合禁止剤としては、上記モノマー水溶液に溶解し、重合を抑制するものであれば制限はなく、フェノール系重合防止剤、安定ニトロキシルラジカルなどが使用できる。
フェノール系重合防止剤としては、例えば、2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール、2,4,6-トリ-tert-ブチルフェノール、2,6-ジ-tert-ブチル-4-エチルフェノール、4-sec-ブチル-2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、2-メトキシフェノール、3-メトキシフェノール、4-メトキシフェノール、4-エトキシフェノール、4-シアノフェノール、4-ブトキシフェノール、3-エトキシフェノール、2,5-ジメトキシフェノール、2,6-ジメトキシフェノール、4-tert-ブチルカテコール、ハイドロキノン、メチルハイドロキノン、2-メトキシハイドロキノン、4,4’-メチレンビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール)、2,4,6-トリス(3’,5’-ジ-tert-ブチル-4’-ヒドロキシベンジル)メシチレン、2,2’,6,6’-テトラ-tert-ブチル-4,4’-ジヒドロキシビフェニル、3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸メチル、3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸オクタデシル、1,6-ヘキサンジオールビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート]、ペンタエリトリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート]、3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシ安息香酸ヘキサデシル、N,N’-(ヘキサン-1,6-ジイル)ビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパンアミド、ビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン酸][オキサリルビス(アザンジイル)]ビス(エタン-2,1-ジイル)、イソシアヌル酸トリス(3,5-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)、3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジルホスホン酸ジエチル、2,2-チオジエチルビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート
などが挙げられ、安定ニトロキシルラジカルとしては、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシル、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシル、4-(2-ヒドロキシプロポキシ-3-(2-ヒドロキシエトキシ))-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オール、4-(3-ヒドロキシプロポキシ-2-(2-ヒドロキシエトキシ))-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オール等が挙げられる。上記の他、臭化リチウム、臭化ナトリウム、臭化アンモニウムなど、弱いながらもスチレンスルホン酸塩に対して重合抑制効果を有する臭素化合物が挙げられる。
添加量は重合禁止剤の強さで異なるため一概には言えないが、通常、AmSSに対して1.0モル%以下であり、イオン交換膜製造時の重合阻害を考慮すると、0.20モル%以下が好ましく、0.10モル%がさらに好ましい。
【0033】
上記方法で得られるAmSS水溶液組成物は高濃度でAmSSを含むため、環境に優しい水を溶媒に用いたカチオン交換膜の製造に特に有用である。
【0034】
すなわち本発明のカチオン交換膜の製造方法としては、上記した高濃度のAmSSを含む水溶液組成物と、架橋性モノマー、及びアゾ化合物や有機過酸化物などの重合開始剤などを含むモノマー水溶液を、支持体に塗布又は含侵させ、重合する方法が挙げられる。
【0035】
その他、カチオン交換膜の製造法の一部に公知の方法を利用することができる(例えば、特許文献1、特許文献2を参照されたい)。
例えば、該AmSS水溶液にジビニルベンゼンスルホン酸リチウムやリチウム ビス-(4-スチレンスルホニル)イミドなどの水溶性の架橋性モノマー及びフレオロセインナトリウム塩などの水溶性光重合開始剤を加えて硬化性組成物を調製し、支持体に塗布、あるいは多孔質の支持体に含侵させた後、紫外線を照射してラジカル重合することにより、簡便にカチオン交換膜を製造することが出来る。
【0036】
支持体としては本発明の目的に適合する者であれば制限されることなく使用することができる。例えば、紙、不織布、芳香族ポリアミドやポリオレフィンなどのプラスチック、多孔性無機物など、高濃度のAmSSを含む水溶液、架橋剤、および開始剤を含む組成物が、支持体に塗布あるいは含侵後に重合でき、好適に使用できる。
【0037】
上記ラジカル重合の際に、急激で不均一な重合反応を抑制し、架橋構造の均一性を高めるために連鎖移動剤(分子量調節剤ともいう)を添加することが出来る。
【0038】
連鎖移動剤としては、上記モノマー溶液に溶解するものであれば特に制限はなく、例えば、チオグリコール酸、チオリンゴ酸、2-メルカプトプロピオン酸、3-メルカプトプロピオン酸、チオサリチル酸、3-メルカプト安息香酸、4-メルカプト安息香酸、チオマロン酸、ジチオコハク酸、チオマレイン酸、チオマレイン酸無水物、ジチオマレイン酸、チオグルタール酸、システイン、ホモシステイン、5-メルカプトテトラゾール酢酸、3-メルカプト-1-プロパンスルホン酸、3-メルカプトプロパン-1,2-ジオール、メルカプトエタノール、1,2-ジメチルメルカプトエタン、2-メルカプトエチルアミン塩酸塩、6-メルカプト-1-ヘキサノール、2-メルカプト-1-イミダゾール、3-メルカプト-1,2,4-トリアゾール、システイン、N-アシルシステイン、グルタチオン、N-ブチルアミノエタンチオール、N,N-ジエチルアミノエタンチオールなどのメルカプタン類、ジイソプロピルキサントゲンジスルフィド、ジエチルキサントゲンジスルフィド、ジエチルチウラムジスルフィド、2,2’-ジチオジプロピオン酸、3,3’-ジチオジプロピオン酸、4,4’-ジチオジブタン酸、2,2’-ジチオビス安息香酸などのジスルフィド類、ヨードホルムなどのハロゲン化炭化水素、ベンジルジチオベンゾエート、2-シアノプロプ-2-イルジチオベンゾエート、4-シアノ-4-(チオベンゾイルチオ)ペンタン酸、4-シアノ-4-(ドデシルスルファニルチオカルボニル)スルファニルペンタン酸、S,S-ジベンジルトリチオカーボネート、3-((((1-カルボキシエチル)チオ)カーボノチオイル)チオ)プロパン酸、シアノメチル(3,5-ジメチル-1H-ピラゾール)カルボジチオエートなどのチオカルボニルチオ化合物、α-ヨードベンジルシアニド、1-ヨードエチルベンゼン、エチル2-ヨード-2-フェニルアセテート、2-ヨード-2-フェニル酢酸、2-ヨードプロパン酸、2-ヨード酢酸などの沃化アルキル化合物、ジフェニルエチレン、p-クロロジフェニルエチレン、p-シアノジフェニルエチレン、α-メチルスチレンダイマー、有機テルル化合物、イオウなどが挙げられる。
【0039】
本発明で得られる高濃度のAmSSを含む水溶液組成物の用途は、上記した電気透析、水処理及び燃料電池用のカチオン交換膜に限定されない。
例えば、電気化学的CO2還元反応に用いるカチオン交換膜の原料としても期待されている(例えば、特開2023-29893号公報、特開2024-39016号公報)。
その他、例えば、水にスチレンスルホン酸アンモニウムとスチレンスルホン酸アンモニウムに対して100モル%の塩基を加えて溶解した後、減圧下、アンモニアを留去することにより、簡便にスチレンスルホン酸アミン塩やリチウム塩の水溶液を得ることができる。
【0040】
スチレンスルホン酸アミン塩は、ポリマー型帯電防止剤等の原料として有用であり(例えば、特開2023-170327号公報、特開平8-104787号公報)、スチレンスルホン酸リチウムはリチウム二次電池用の部材(例えば、特開2024-3753号公報、特開2024-33219号公報、特表2020-514961号公報、国際公開WO2019/131347号、特許第6195153号)、半導体基板のプラズマダイシング用の部材(例えば、特表2022-522345号公報、特許第7138297号公報)、光学フィルム用の部材(例えば、特許第5970815号公報)等の原料として有用である。
【実施例0041】
以下の実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何らの制限を受けるものではない。
【0042】
<使用薬剤>
AmSS:スチレンスルホン酸アンモニウム(東ソー・ファインケム株式会社製、純度97.5%)
N,N-ジメチル-2-ヒドロキシエチルアミン(富士フイルム和光純薬株式会社製、特級、純度≧99.0%)
N,N-ジメチルシクロヘキシルアミン(富士フイルム和光純薬株式会社製、特級、純度≧98.0%)
トリエチルアミン(富士フイルム和光純薬株式会社製、特級、純度≧99.0%)
4-メチルモルホリン(富士フイルム和光純薬株式会社製、特級、純度≧99.0%)
水酸化リチウム一水和物(富士フイルム和光純薬株式会社製、特級、純度≧98.0%)
トリエタノールアミン(富士フイルム和光純薬株式会社製、特級)
水酸化ナトリウム(富士フイルム和光純薬株式会社製、特級)
塩化リチウム(富士フイルム和光純薬株式会社製、特級、純度≧99.0%)
【0043】
<AmSS水溶液の調製と濃度測定>
50mlガラス規格瓶にAmSS、塩基、及びイオン交換水を採取し、密閉した後、磁気撹拌子を用いて25℃で60分間攪拌し、スラリー液を得た。その後、25℃で60分静置し、過剰なAmSS結晶を沈殿させた後、メンブレンフィルター〔アドバンテック東洋株式会社製、DSMIC(登録商標)13HP045AN〕を取付けたシリンジで上澄み液を採取し、下記GPC溶離液で希釈した後、ゲル浸透クロマトグラフ(GPC)測定することにより上澄み液のAmSS濃度(即ち、溶解度)を算出した。
AmSS濃度の異なる溶液を調製し、溶出時間14.8分のピーク面積から、横軸AmSS濃度(ppm)及び縦軸AmSSピーク面積(mV・sec)からなる検量線を作成した。上記サンプル液で14.8分に現れるピークの面積からサンプル液中のAmSS濃度を算出した。尚、ピーク面積はGPC内臓システムによって算出される。
【0044】
GPCの測定条件は下記の通りである。
装置:東ソー株式会社製HLC-8320
カラム:TSKgel(登録商標) guard column AW-H/TSKgel(登録商標) AW-6000/TSKgel(登録商標) AW-3000/TSKgel(登録商標) AW-2500
溶離液:0.05M硫酸ナトリウム水溶液/アセトニトリル=65/35(体積比)溶液
流速・注入量・カラム温度:0.6ml/min、注入量:10μl、カラム温度:40℃
検出器:UV検出器(波長230nm)
検量線:上記条件で下記の検量線を得た。
AmSS濃度(ppm)=0.0972×AmSSピーク面積(mV・sec)
なお、検量線の傾き0.0972は上記条件で得られたものであるが、必ず同じ数値となるものではなく、誤差や、検量線におけるAmSS濃度範囲、検出器による強度などの上記の条件で示されていないパラメータで変動することがある。このため、検量線の適用は、測定対象のAmSSを測定する際、適用可能な範囲で使用するとよい。
【0045】
参考例1
50mlガラス規格瓶にAmSSとイオン交換水を採取し、密閉した後、磁気撹拌子を用いて所定温度で60分間撹拌した。その後、25℃で60分静置し、溶解していない過剰なAmSS結晶を沈殿させた後、メンブレンフィルター〔アドバンテック東洋株式会社製、DSMIC(登録商標)13HP045AN〕を取付けたシリンジで上澄み液を採取し、上記GPC溶離液で希釈した後、ゲル浸透クロマトグラフ(GPC)測定することにより上澄み液のAmSS濃度(即ち、溶解度)を算出した。
その結果を表1及び
図1に示した。非特許文献1に記載されたAmSS溶解度の測定条件は不明だが、非特許文献1に記載されたデータとほぼ一致した。
【0046】
【0047】
実施例1
50mlガラス規格瓶にAmSS(7.02g、34.01mmol)、N,N-ジメチル-2-ヒドロキシエチルアミン(1.20g、13.46mmol、pKa=9.31、以下、DMAEと略記する)及びイオン交換水(10.05g)を採取し、密閉した後、磁気撹拌子を用いて所定温度で60分間撹拌した。該スラリー液中のAmSS濃度は37.46wt%である。その後、所定温度で60分静置し、溶解していない過剰なAmSS結晶を沈殿させた後、メンブレンフィルター〔アドバンテック東洋株式会社製、DSMIC(登録商標)13HP045AN〕を取付けたシリンジで上澄み液を採取し(0.4647g)、上記GPC溶離液で希釈した(希釈後の溶液重量37.3758g)。希釈した上澄み液を2.14g採取し、さらに溶離液で再希釈した後(希釈後の溶液重量16.009g、トータル希釈倍率601.68倍)、ゲル浸透クロマトグラフ(GPC)測定した。
溶出時間14.8分に現れたピークの面積5731.608mV・secから、下式(1)の計算によりを用いて上澄み液(希釈前)のAmSSとしての濃度(即ち、溶解度)を算出した。
AmSS濃度=ピークの面積(mV・sec)×検量線の傾き×トータル希釈倍率 (1)
すなわち、式(1)にあてはめ、AmSS濃度は、5731.608×0.0972×601.68/10,000=33.52重量% となる。
以下同様に、AmSS、DMAE及びイオン交換水の採取量を変えて上澄み液のAmSS濃度を測定した。
【0048】
AmSSに対するDMAEのモル%と25℃及び40℃でのAmSS濃度の関係を表2と
図2に示した。
DMAEの添加によってAmSSの溶解度が著しく増大したことが明らかである。
また、AmSS溶解度の温度依存性を
図3に示した。AmSSは通常、温度が高いほど水への溶解度は増大するが、DMAEを添加しても同様であり、温度が高いほど溶解度は増大した。
【0049】
実施例2
実施例1において、塩基であるDMAEをN,N-ジメチルシクロヘキシルアミン(pKa=10.0、以下、DMCHAと略記する)へ変更した他は、全て実施例1と同じ方法でAmSS水溶液を調製し、上澄み液のAmSSとしての濃度を測定した。
AmSSに対するDMCHAのモル%とAmSS濃度の関係を表1と
図4に示した。DMCHAの添加によってAmSSの溶解度が著しく増大したことが明らかである。
【0050】
実施例3
実施例1において、塩基であるDMAEを水酸化リチウム一水和物(pKa=14)へ変更した他は、全て実施例1と同じ方法でAmSS水溶液を調製し、上澄み液のAmSSとしての濃度を測定した。
AmSSに対するLiOHのモル%とAmSS濃度の関係を表1と
図5に示した。LiOHの添加によってAmSSの溶解度が著しく増大したことが明らかである。また、DMAEと同様、温度が高いほど溶解度は増大した。
【0051】
【0052】
実施例4
実施例1において、塩基であるDMAEをトリエチルアミン(pKa=10.7、以下、TEAと略記する)へ変更した他は、全て実施例1と同じ方法でAmSS水溶液を調製し、上澄み液の濃度を測定した。
AmSSに対するTEAのモル%とAmSS濃度の関係を表1と
図6に示した。TEAの添加によってAmSSの溶解度が著しく増大したことが明らかである。
【0053】
比較例1
実施例1において、塩基であるDMAEをトリエタノールアミン(pKa=7.77、以下、TEAOHと略記する)へ変更した他は、全て実施例1と同じ方法でAmSS水溶液を調製し、上澄み液の濃度を測定した。
AmSSに対するTEAOHのモル%とAmSS濃度の関係を表2と
図7に示したが、TEAOHの添加によってAmSSの溶解度は増大しなかった。TEAOHのpKaが小さ過ぎることが主要因と考えられる。
【0054】
比較例2
実施例1において、塩基であるDMAEを水酸化ナトリウム(pKa=14)へ変更した他は、全て実施例1と同じ方法でAmSS水溶液を調製し、上澄み液の濃度を測定した。
AmSSに対するNaOHのモル%とAmSS濃度の関係を表2と
図8に示したが、pKaが大きいにも関わらずAmSSの溶解度は増大せず、逆に低下した。理由は定かではないが、AmSSの溶解度を増大させるためには、塩基のpKaだけでなく、その種類が重要なことが明らかである。
【0055】
比較例3
実施例1において、塩基であるDMAEを塩化リチウム(pKa=2.26)へ変更した他は、全て実施例1と同じ方法でAmSS水溶液を調製し、上澄み液の濃度を測定した。
AmSSに対するLiClのモル%とAmSS濃度の関係を表2と
図9に示したが、LiClを添加してもAmSSの溶解度は増大しなかった。塩化リチウムのpKaが小さ過ぎるため、塩化リチウムが単なる塩析剤として作用したためと考えられる。
【0056】
比較例4
実施例1において、塩基であるDMAEを4-メチルモルホリン(pKa=7.38、以下、M-MORと略記する)へ変更した他は、全て実施例1と同じ方法でAmSS水溶液を調製し、上澄み液の濃度を測定した。
AmSSに対するM-MORのモル%とAmSS濃度の関係を表2と
図10に示したが、M-MORを添加してもAmSSの溶解度はほとんど増大しなかった。M-MORのpKaが小さ過ぎることが主要因と考えられる。
【0057】
従来の課題だった水に対するAmSSの溶解度を著しく増大できるため、従来困難だった、環境に優しい水を溶媒として用いたカチオン交換膜製造プロセスへのAmSSの適用が可能となる。