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特開2025-164714金属ナノ粒子層を備える基板の製造方法
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  • 特開-金属ナノ粒子層を備える基板の製造方法 図1
  • 特開-金属ナノ粒子層を備える基板の製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025164714
(43)【公開日】2025-10-30
(54)【発明の名称】金属ナノ粒子層を備える基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 7/04 20060101AFI20251023BHJP
   B22F 1/05 20220101ALI20251023BHJP
   B22F 9/24 20060101ALI20251023BHJP
   G01N 21/65 20060101ALI20251023BHJP
   G01N 21/64 20060101ALI20251023BHJP
【FI】
B22F7/04 D
B22F1/05
B22F9/24 E
G01N21/65
G01N21/64 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2025060248
(22)【出願日】2025-04-01
(31)【優先権主張番号】P 2024068261
(32)【優先日】2024-04-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和6年8月22~23日に大学見本市2024~イノベーション・ジャパンにて「低コストで再利用できる光電場増強基板」について公開した
(71)【出願人】
【識別番号】504409543
【氏名又は名称】国立大学法人秋田大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】趙 旭
(72)【発明者】
【氏名】村岡 幹夫
【テーマコード(参考)】
2G043
4K017
4K018
【Fターム(参考)】
2G043DA06
2G043EA03
2G043GA07
2G043GB16
2G043HA08
2G043HA15
4K017AA02
4K017BA02
4K017CA07
4K017CA08
4K017DA07
4K017EJ01
4K017FB03
4K017FB04
4K017FB11
4K018BA01
4K018BB04
4K018BD04
4K018JA01
(57)【要約】
【課題】金属ナノ粒子層が強固に基板に付着している安価なSERS基板の製造方法を提供する。
【解決手段】金属ナノ粒子層を備える基板の製造方法が、金属塩、水溶性高分子、及び触媒を含む溶液をスピンコート法により薄膜状にして基板上に薄膜を形成する薄膜形成工程、及び、この薄膜形成工程を経て得られたこの薄膜中のこの金属塩を還元させる還元工程を含む。この金属塩は、好ましくは、硝酸銀及び塩化金からなる群から選ばれる少なくとも1つを含む。この水溶性高分子は、好ましくはポリビニルアルコールを含む。この触媒は、好ましくは白金を含む。この基板は、好ましくは表面増強ラマン散乱法で使用される基板である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属ナノ粒子層を備える基板の製造方法であって、
金属塩、水溶性高分子、及び触媒を含む溶液をスピンコート法により薄膜状にして基板上に薄膜を形成する薄膜形成工程、及び、
当該薄膜形成工程を経て得られた当該薄膜中の当該金属塩を還元させる還元工程を含む、金属ナノ粒子層を備える基板の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載された金属ナノ粒子層を備える基板の製造方法において、前記金属塩が、硝酸銀及び塩化金からなる群から選ばれる少なくとも1つを含む、金属ナノ粒子層を備える基板の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載された金属ナノ粒子層を備える基板の製造方法において、前記水溶性高分子がポリビニルアルコールを含む、金属ナノ粒子層を備える基板の製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載された金属ナノ粒子層を備える基板の製造方法において、前記触媒が白金を含む、金属ナノ粒子層を備える基板の製造方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載された金属ナノ粒子層を備える基板の製造方法において、前記基板が表面増強ラマン散乱法で使用される基板である、金属ナノ粒子層を備える基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属ナノ粒子層を備える基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
表面増強ラマン散乱(surface-enhanced Raman scattering: SERS)法は、微弱なラマン散乱光(物質の固有情報となる)を103~106倍に増強し、物質を容易に検出する方法である。SERS法は、微量な物質(単分子レベル)を迅速かつ高感度で検出できるので、幅広い分野に応用されている。金属ナノ粒子層を備えるSERS基板がSERS法で使用される。
【0003】
非特許文献1は、電子ビームリソグラフィー法によるSERS基板の製造方法を、非特許文献2は、金属蒸着法によるSERS基板の製造方法を、非特許文献3は、湿式化学合成法によるSERS基板の製造方法を開示している。高価な装置、高度な操作技術、及び真空環境が、電子ビームリソグラフィー法及び金属蒸着法において必要とされ、これらの方法で製造されたSERS基板はほとんどが使い捨てにされるにもかかわらず非常に高価である。
【0004】
湿式化学合成法で使用される溶液の取り扱いは煩雑である。さらに前記溶液中の金属ナノ粒子同士は凝集しやすいので、その均一な分散が困難であり、基板への付着性が弱い。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Hatab et al., ACS Nano 2 (2008), 377
【非特許文献2】Hulteen et al., J. Phys. Chem. B 103 (1999), 3854
【非特許文献3】Dzhagan et al., J. Nanopart. Res. 25 (2023), 37
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、金属ナノ粒子層が強固に基板に付着している安価なSERS基板の製造方法が希求されている。
【0007】
したがって、本発明が解決しようとする課題は、金属ナノ粒子層が強固に基板に付着している安価なSERS基板の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題に鑑み検討を重ね、金属塩、水溶性高分子、及び触媒を含む水溶液をスピンコート法により薄膜状にして基板上に薄膜を形成し、当該薄膜中の当該金属塩を還元させるSERS基板の製造方法が、金属ナノ粒子層が強固に基板に付着している安価なSERS基板の製造方法を提供することを見出した。本発明はこれらの知見に基づき完成されるに至ったものである。
【0009】
本発明は、金属ナノ粒子層を備える基板の製造方法であって、金属塩、水溶性高分子、及び触媒を含む溶液をスピンコート法により薄膜状にして基板上に薄膜を形成する薄膜形成工程、及び、当該薄膜形成工程を経て得られた当該薄膜中の当該金属塩を還元させる還元工程を含む、金属ナノ粒子層を備える基板の製造方法に関する。
前記金属塩は、好ましくは、硝酸銀及び塩化金からなる群から選ばれる少なくとも1つを含む。
前記水溶性高分子は、好ましくはポリビニルアルコールを含む。
前記触媒は、好ましくは白金を含む。
前記基板は、好ましくは表面増強ラマン散乱法で使用される基板である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の金属ナノ粒子層を備える基板の製造方法は、金属ナノ粒子層が強固に基板に付着している安価なSERS基板を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】3種類の基板上の銀ナノ粒子層の電界放射型走査電子顕微鏡画像。
図2】3種類の基板の表面自由エネルギーと銀ナノ粒子の平均粒子径及び粒子間距離(ナノギャップ)の関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明について更に詳細に説明する。
なお、数値範囲の「~」は、断りがなければ、以上から以下を表し、両端の数値をいずれも含む。また、数値範囲を示したときは、上限値および下限値を適宜組み合わせることができ、それにより得られた数値範囲も開示したものとする。
【0013】
本発明の金属ナノ粒子層を備える基板の製造方法は、金属塩、水溶性高分子、及び触媒を含む溶液をスピンコート法により薄膜状にして基板上に薄膜を形成する薄膜形成工程を含む。
前記金属塩として、例えば硝酸銀、塩化金、ホウ酸銀が挙げられる。前記金属塩は、好ましくは、硝酸銀及び塩化金からなる群から選ばれる少なくとも1つを含み、より好ましくは硝酸銀及び塩化金からなる群から選ばれる少なくとも1つである。
前記溶媒中の前記金属塩の含有量は、好ましくは5~50質量%の範囲である。
【0014】
前記水溶性高分子として、例えばポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリエチレンオキシド、ポリビニルアミド、ポリアミン等の合成高分子、タンパク質、デンプン等の天然高分子が挙げられる。前記水溶性高分子は、好ましくはポリビニルアルコールを含み、より好ましくはポリビニルアルコールである。
前記溶媒中の前記水溶性高分子の含有量は、好ましくは5~20質量%の範囲である。
【0015】
前記触媒として、例えば白金、パラジウム、ロジウムが挙げられる。前記触媒は、好ましくは白金を含み、より好ましくは白金である。
前記溶媒中の前記触媒の含有量は、好ましくは0.005~0.1質量%の範囲である。
【0016】
前記溶液の溶媒は、例えば水、ジメチルホルムアミド、エタノールが挙げられる。前記溶媒は、好ましくは水を含み、より好ましくは水である。
【0017】
前記基板の構成材料として、例えばガラス、金属、樹脂、シリコン、サファイアが挙げられる。前記基板は、好ましくは円盤状ガラス基板である。前記基板の表面自由エネルギーの分散成分が大きくなると、前記基板上の前記金属ナノ粒子層を構成する金属ナノ粒子の粒子径は大きくなり、ナノギャップは小さくなる傾向がある。したがって、前記基板の材質により、前記金属ナノ粒子層の微細構造が制御される。前記基板の表面自由エネルギーは、好ましくは40~80(mJ/m)、前記分散成分は、好ましくは20~50(mJ/m)の範囲である。
【0018】
前記溶液が高速回転されている円板状基板に滴下されると、前記溶液は薄膜状にされる。その結果、前記基板上に薄膜が形成される。前記基板の回転速度は、好ましくは3000~9000rpmの範囲である。前記基板1cm2に滴下される前記溶液の質量は、好ましくは0.02~2gの範囲である。
【0019】
本発明の金属ナノ粒子層を備える基板の製造方法は、前記薄膜形成工程を経て得られた前記薄膜中の前記金属塩を還元させる還元工程を含む。例えば、前記薄膜が形成されている前記基板が加熱されたセラミックヒータ等の加熱ユニットに載置され、前記薄膜が前記基板と共に大気中で加熱される。前記薄膜中の前記金属塩が還元され、金属ナノ粒子層が前記基板上に形成される。加熱されている前記基板の温度は、好ましくは200~300℃の範囲であり、加熱時間は、好ましくは5~60分の範囲である。
【0020】
前記金属ナノ粒子層を構成する金属ナノ粒子の平均粒子径は、好ましくは1~100nmの範囲であり、より好ましくは5~50nmの範囲であり、更に好ましくは20~50nmの範囲である。前記金属ナノ粒子のナノギャップは、好ましくは1~50nmの範囲であり、より好ましくは5~25nmの範囲であり、更に好ましくは5~15nmの範囲である。
【0021】
前記平均粒子径は、レーザー回折法により測定されてよく、前記ナノギャップは画像解析計測法により測定されてよい。
【0022】
前記金属ナノ粒子層を備える基板は、好ましくは表面増強ラマン散乱法で使用される基板として使用される。前記金属ナノ粒子層は強固に前記基板に付着しており、前記金属ナノ粒子層を備える基板は、市販SERS基板と同程度の優れたラマン散乱増強効果、均一性、及び高検出感度を有する。前記金属塩が硝酸銀である場合、銀ナノ粒子層は特に強固に前記基板に付着する。さらに本発明の金属ナノ粒子層を備える基板の製造方法は、高価な装置、及び高度な操作技術を必要としないので、前記金属ナノ粒子層を備える基板を安価に(前記金属ナノ粒子層を備える基板の値段は、従来のSERS基板の値段の1/170程度である)短時間で製造できる。
【実施例0023】
以下、本発明を実施例に基づき更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0024】
実施例及び比較例において、各種物性は以下のとおりに測定ないし算出された。
<銀ナノ粒子の平均粒子径>
電界放射型走査電子顕微鏡による銀ナノ粒子の高倍率(×200,000倍)観察画像と画像解析ソフトウェアを用いて、銀ナノ粒子の投影直径を粒子径として測定した。サンプリング数は100個とした。
【0025】
<ナノギャップ>
電界放射型走査電子顕微鏡による銀ナノ粒子の高倍率(×200,000倍)観察画像と画像解析ソフトウェアを用いて、ナノ粒子間距離をギャップとして測定した。サンプリング数は100個とした。
【0026】
[実施例1]
10質量%の硝酸銀、9.4質量%のポリビニルアルコール、及び0.014質量%の白金ナノ粒子を純水に溶解して水溶液を調製した。前記水溶液を、6000rpmで回転している直径12mmのガラス基板上に0.23g/cmとなるように滴下し、当該ガラス基板上に薄膜を形成した。前記薄膜が形成された前記ガラス基板が230℃に加熱されたセラミックヒータに載置され、前記薄膜が前記ガラス基板と共に大気中で30分間加熱され、SERS基板が製造された。平均粒子径34nm、ナノギャップ8.9nmの銀ナノ粒子層が前記ガラス基板上に形成された。
【0027】
[比較例1]
ガラス基板が回転されていなかった以外、実施例1と同様にして薄膜がガラス基板上に形成された。しかしながら、銀ナノ粒子層は形成されなかった。
【0028】
[実施例2~4]
前記ガラス基板に代えて、合成マイカ基板(基板A)、シリコン基板(基板B)、サファイア基板(基板C)のそれぞれが使用された以外、実施例1と同様にしてSERS基板が製造された。基板A~Cのそれぞれの上の銀ナノ粒子層の電界放射型走査電子顕微鏡画像(図1)と、各基板の表面自由エネルギーと銀ナノ粒子の平均粒子径及びナノギャップの関係を示す(図2)。図2に示される棒の上部分は表面自由エネルギーの分散成分、下部分は表面自由エネルギーの極性成分である。
なお、表面自由エネルギーは下記式(1)により算出される。
表面自由エネルギー=分散成分+極性成分 (1)
前記分散成分は、分子間に働くファンデルワールス力に由来するエネルギー成分である。前記分散成分は、非極性分子間で支配的であり、基板の疎水性及び非極性の性質により評価される。前記極性成分は、分子間で働く双極子間相互作用、水素結合など、極性相互作用に由来するエネルギー成分である。前記極性成分は、基板の親水性及び極性特性により評価される。銀などの金属ナノ粒子と基板との結合(基板への付着)は、ファンデルワールス力による相互作用が支配的であると考えられる。それゆえ、基板の表面自由エネルギーの分散成分が注目される。
図1
図2