(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025164786
(43)【公開日】2025-10-30
(54)【発明の名称】二次電池の作製方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20251023BHJP
H01G 11/86 20130101ALI20251023BHJP
H01G 11/46 20130101ALI20251023BHJP
C01G 51/82 20250101ALI20251023BHJP
【FI】
H01M4/525
H01G11/86
H01G11/46
C01G51/82
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2025131283
(22)【出願日】2025-08-06
(62)【分割の表示】P 2022531097の分割
【原出願日】2021-06-15
(31)【優先権主張番号】P 2020110840
(32)【優先日】2020-06-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000153878
【氏名又は名称】株式会社半導体エネルギー研究所
(72)【発明者】
【氏名】門馬 洋平
(72)【発明者】
【氏名】三上 真弓
(72)【発明者】
【氏名】落合 輝明
(57)【要約】
【課題】充放電容量の大きい正極活物質を提供する。または、充放電電圧の高い正極活物質を提供する。または、劣化が少ない正極活物質を提供する。
【解決手段】複数回の加熱工程を経て正極活物質を作製する。2回目以降の加熱工程は、742℃以上920℃以下、1時間以上10時間以下で行うことが好ましい。該加熱により、マグネシウム、フッ素等が正極活物質の表層部に好ましい濃度で分布する。一般的なコバルト酸リチウムは4.6V充電時にH1-3相型結晶構造となるため結晶構造が崩れやすいが、本発明の正極活物質は4.6V充電時にH1-3型が少なく、放電時と結晶構造の変化の比較的少ないO3’型結晶構造を有するため、サイクル特性が極めて良好である。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次電池の作製方法であって、
前記二次電池は、正極を有し、
前記正極は、正極活物質を有し、
前記正極活物質は、第1の作製工程乃至第3の作製工程を経て作製され、
前記第1の作製工程は、炭酸リチウムと、炭酸コバルトと、酸化マグネシウムと、フッ化リチウムと、を混合し混合物を作製する工程であり、
前記第2の作製工程は、前記混合物を900℃以上1100℃以下、5時間以上20時間以下で加熱し複合酸化物を作製する工程であり、
前記第3の作製工程は、前記複合酸化物を742℃以上920℃以下、1時間以上10時間以下で加熱する工程である、
二次電池の作製方法。
【請求項2】
二次電池の作製方法であって、
前記二次電池は、正極を有し、
前記正極は、正極活物質を有し、
前記正極活物質は、第1の作製工程乃至第3の作製工程を経て作製され、
前記第1の作製工程は、炭酸リチウムと、炭酸コバルトと、酸化マグネシウムと、フッ化リチウムと、を混合し混合物を作製する工程であり、
前記第2の作製工程は、前記混合物を容器に入れ、その後蓋をして900℃以上1100℃以下、5時間以上20時間以下で加熱し複合酸化物を作製する工程であり、
前記第3の作製工程は、前記複合酸化物を容器に入れ、その後蓋をして742℃以上920℃以下、1時間以上10時間以下で加熱する工程である、
二次電池の作製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一様態は、正極活物質を用いる二次電池及びその作製方法に関する。または、二次電池を有する携帯情報端末、車両等に関する。
【0002】
また本発明の一様態は、物、方法、又は、製造方法に関する。または、本発明の一態様は、プロセス、マシン、マニュファクチャ、又は、組成物(コンポジション・オブ・マター)に関する。本発明の一態様は、半導体装置、表示装置、発光装置、蓄電装置、照明装置、電子機器、またはそれらの製造方法に関する。
【0003】
なお、本明細書等において電子機器とは、蓄電装置を有する装置全般を指し、蓄電装置を有する電気光学装置、蓄電装置を有する情報端末装置などは全て電子機器である。
【0004】
なお、本明細書等において、蓄電装置とは、蓄電機能を有する素子及び装置全般を指すものである。例えば、リチウムイオン二次電池などの蓄電装置(二次電池ともいう)、リチウムイオンキャパシタ、及び電気二重層キャパシタなどを含む。
【背景技術】
【0005】
近年、リチウムイオン二次電池、リチウムイオンキャパシタ、空気電池等、種々の蓄電装置の開発が盛んに行われている。特に高出力、高エネルギー密度であるリチウムイオン二次電池は、携帯電話、スマートフォン、もしくはノート型コンピュータ等の携帯情報端末、携帯音楽プレーヤ、デジタルカメラ、医療機器、又は、ハイブリッド車(HV)、電気自動車(EV)、もしくはプラグインハイブリッド車(PHV)等の次世代クリーンエネルギー自動車など、半導体産業の発展と併せて急速にその需要が拡大し、繰り返し充電可能なエネルギーの供給源として現代の情報化社会に不可欠なものとなっている。
【0006】
そのため、リチウムイオン二次電池の充放電サイクル特性の向上および高容量化のために、正極活物質の改良が検討されている(たとえば特許文献1および非特許文献1)。また、正極活物質の結晶構造に関する研究も行われている(非特許文献2乃至非特許文献4)。
【0007】
また、蓄電装置に要求されている特性としては、様々な動作環境での安全性、長期信頼性の向上などがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Jae-Hyun Shim et al, “Characterization of Spinel LixCo2O4・CoatedLiCoO2 Prepared with Post-Thermal Treatment as a Cathode Material for Lithium Ion Batteries”, CEMISTRY OF MATERIALS, 2015, 27, p.3273-3279
【非特許文献2】Toyoki Okumura et al,“Correlation of lithium ion distribution and X-ray absorption near-edge structure in 03-and 02・lithium cobalt oxides from first-principle calculation”, Journal of Materials Chemistry, 2012, 22, p.17340-17348
【非特許文献3】Motohashi, T. et al,“Electronic phase diagram of the layered cobalt oxide system LixCoO2 (0.0≦x≦1.0)”, Physical Review B, 80(16);165114
【非特許文献4】Zhaohui Chen et al, “Staging Phase Transitions in LixCoO2”, Journal of The Electrochemical Society, 2002, 149(12) A1604-A1609
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の一態様は、高エネルギー密度で、かつ充放電容量の大きい正極活物質を提供することを課題の一とする。または、充放電電圧の高い正極活物質を提供することを課題の一とする。または、劣化が少ない正極活物質を提供することを課題の一とする。または、新規な正極活物質を提供することを課題の一とする。または、高エネルギー密度で、かつ充放電容量の大きい二次電池を提供することを課題の一とする。または、充放電電圧の高い二次電池を提供することを課題の一とする。または、安全性または信頼性の高い二次電池を提供することを課題の一とする。または、劣化が少ない二次電池を提供することを課題の一とする。または、長寿命の二次電池を提供することを課題の一とする。
【0011】
また本発明の一態様は、活物質、蓄電装置、又はそれらの作製方法を提供することを課題の一とする。
【0012】
なお、これらの課題の記載は、他の課題の存在を妨げるものではない。なお、本発明の一態様は、これらの課題の全てを解決する必要はないものとする。なお、明細書、図面、請求項の記載から、これら以外の課題を抽出することが可能である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一態様は、正極を有する二次電池であって、正極が有する正極活物質は、リチウムと、第1の金属と、第2の金属と、酸素と、フッ素と、を有し、第1の金属はコバルト、ニッケル、マンガンのうち少なくとも一であり、第2の金属はマグネシウム、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、ニオブ、ランタン、イットリウム、ハフニウムのうち少なくとも一であり、第2の金属およびフッ素は正極活物質の表層部に偏在する、二次電池である。
【0014】
上記において、第2の金属はマグネシウムであり、正極活物質の表層部におけるマグネシウムの濃度は4.5原子%以上であり、マグネシウムおよびフッ素は、正極活物質の表面に近いほど濃度が高く、表面から深さ10nmまでに濃度が1/4以下に低下する濃度勾配を有することが好ましい。
【0015】
また本発明の別の一態様は、二次電池の作製方法であって、二次電池は、正極を有し、正極は、正極活物質を有し、正極活物質は、第1の作製工程乃至第3の作製工程を経て作製され、第1の作製工程は、リチウム源と、第1の金属源と、第2の金属源と、フッ素源と、を混合し混合物を作製する工程であり、第2の作製工程は、第1の作製工程で得られた混合物を加熱し複合酸化物を作製する工程であり、第3の作製工程は、第2の作製工程で得られた複合酸化物を加熱する工程である、二次電池の作製方法である。
【0016】
また本発明の別の一態様は、二次電池の作製方法であって、二次電池は、正極を有し、正極は、正極活物質を有し、正極活物質は、第1の作製工程乃至第3の作製工程を経て作製され、第1の作製工程は、リチウム源と、第1の金属源と、第2の金属源と、フッ素源と、を混合し混合物を作製する工程であり、第2の作製工程は、第1の作製工程で得られた混合物を容器に入れ、その後蓋をして加熱し複合酸化物を作製する工程であり、第3の作製工程は、第2の作製工程で得られた複合酸化物を容器に入れ、その後蓋をして加熱する工程である、二次電池の作製方法である。
【0017】
また上記において、第2の作製工程の加熱する工程は、900℃以上1100℃以下、5時間以上20時間以下であり、第3の作製工程の加熱する工程は、742℃以上920℃以下、1時間以上10時間以下であることが好ましい。
【0018】
また本発明の別の一態様は、正極を有する二次電池であって、当該正極と、負極として金属リチウムと、を用いたリチウムイオン二次電池を、25℃環境下において電池電圧が4.6Vとなるまで定電流充電し、その後電流値が0.01Cとなるまで定電圧充電した後、正極をCuKα1線による粉末X線回折で分析し、2θが18.00°以上19.30°未満の積算を面積強度IH1-3(006)とし、2θが19.30°以上20.00°以下の積算を面積強度IO3’+O3(003)としたとき、面積強度IH1-3(006)/IO3’+O3(003)は60%以下である、二次電池である。
【0019】
また上記において、2θが18.5°以上20°以下に存在するピークの半値幅が0.2°以下であり、2θが45°以上46°以下に存在するピークの半値幅が0.2°以下であることが好ましい。
【0020】
また本発明の別の一態様は、上記に記載の二次電池を有する電子機器である。
【0021】
また本発明の別の一態様は、上記に記載の二次電池を有する車両である。
【発明の効果】
【0022】
本発明の一態様により、高エネルギー密度で、かつ充放電容量の大きい正極活物質を提供することができる。または、高エネルギー密度であり、且つ、充放電電圧の高い正極活物質を提供することができる。または、劣化が少ない正極活物質を提供することができる。または、新規な正極活物質を提供することができる。または、高エネルギー密度で、かつ充放電容量の大きい二次電池を提供することができる。または、充放電電圧の高い二次電池を提供することができる。または、安全性または信頼性の高い二次電池を提供することができる。または、劣化が少ない二次電池を提供することができる。または、長寿命の二次電池を提供することができる。または、新規な二次電池を提供することができる。
【0023】
また本発明の一態様により、新規な物質、活物質、蓄電装置、又はそれらの作製方法を提供することができる。
【0024】
なお、これらの効果の記載は、他の効果の存在を妨げるものではない。なお、本発明の一態様は、必ずしも、これらの効果の全てを有する必要はない。なお、これら以外の効果は、明細書、図面、請求項などの記載から、自ずと明らかとなるものであり、明細書、図面、請求項などの記載から、これら以外の効果を抽出することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図3】
図3は結晶の配向が概略一致しているTEM像の例である。
【
図4】
図4Aは結晶の配向が概略一致しているSTEM像の例である。
図4Bは岩塩型結晶RSの領域のFFT、
図4Cは層状岩塩型結晶LRSの領域のFFTを示す。
【
図5】
図5は本発明の一態様の正極活物質の充電深度と結晶構造を説明する図である。
【
図6】
図6は結晶構造から計算されるXRDパターンである。
【
図7】
図7は比較例の正極活物質の充電深度と結晶構造を説明する図である。
【
図8】
図8は結晶構造から計算されるXRDパターンである。
【
図13】
図13Aは円筒型の二次電池の例であり、
図13Bは円筒型の二次電池の例であり、
図13Cは複数の円筒型の二次電池の例であり、
図13Dは複数の円筒型の二次電池を有する蓄電システムの例である。
【
図22】
図22Aは本発明の一態様に係る電池パックの斜視図であり、
図22Bは電池パックのブロック図であり、
図22Cはモータを有する車両のブロック図である。
【
図29】
図29は実施例の正極活物質のXRDパターンを示すグラフである。
【
図31】
図31は実施例の正極活物質のXRDパターンを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下では、本発明の実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。ただし、本発明は以下の説明に限定されず、その形態および詳細を様々に変更し得ることは、当業者であれば容易に理解される。また、本発明は以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0027】
二次電池は例えば正極および負極を有する。正極を構成する材料として、正極活物質がある。正極活物質は例えば、充放電の容量に寄与する反応を行う物質である。なお、正極活物質は、その一部に、充放電の容量に寄与しない物質を含んでもよい。つまり正極活物質は必ずしもすべてが充放電の容量に寄与するリチウムサイトを有する領域でなくてもよい。
【0028】
本明細書等において、本発明の一態様の正極活物質は、正極材料、あるいは二次電池用正極材、複合酸化物、等と表現される場合がある。また本明細書等において、本発明の一態様の正極活物質は、化合物を有することが好ましい。また本明細書等において、本発明の一態様の正極活物質は、組成物を有することが好ましい。また本明細書等において、本発明の一態様の正極活物質は、複合体を有することが好ましい。
【0029】
本明細書等において、偏在とは、複数の元素からなる固体において、特定の元素の濃度が不均一であることをいう。特に、ある場所において特定の元素の濃度が高い現象をいう。
【0030】
また本明細書等において結晶面および方向の表記にはミラー指数を用いる。結晶面を示す個別面は( )で表す。結晶面、方向および空間群の表記は、結晶学上、数字に上付きのバーを付すが、本明細書等では出願表記の制約上、数字の上にバーを付す代わりに、数字の前に-(マイナス符号)を付して表現する場合がある。また、結晶内の方向を示す個別方位は[ ]で、等価な方向すべてを示す集合方位は< >で、結晶面を示す個別面は( )で、等価な対称性を有する集合面は{ }でそれぞれ表現する。また空間群R-3mで表される三方晶は、構造の理解のしやすさのため、一般に六方晶の複合六方格子で表され、ミラー指数として(hkl)だけでなく(hkil)を用いることがある。ここでiは-(h+k)である。
【0031】
本明細書等において、正極活物質の理論容量とは、正極活物質が有する挿入脱離可能なリチウムが全て脱離した場合の電気量をいう。例えば、LiCoO2の理論容量は274mAh/g、LiNiO2の理論容量は274mAh/g、LiMn2O4の理論容量は148mAh/gである。
【0032】
本明細書等において、充電深度とは正極活物質の理論容量を基準として、どれほどの容量が充電された状態か、換言すると、どれほどの量のリチウムが正極から脱離した状態か、を示す値である。例えばコバルト酸リチウム(LiCoO2)及びニッケル-コバルト-マンガン酸リチウム(LiNixCoyMnzO2(x+y+z=1))などの層状岩塩型構造の正極活物質の場合は、理論容量の274mAh/gを基準として、充電深度が0の場合は正極活物質からLiが脱離していない状態をいい、充電深度が0.5の場合は137mAh/gに相当するリチウムが正極から脱離した状態をいい、充電深度が0.8の場合は219.2mAh/gに相当するリチウムが正極から脱離した状態をいう。また、LiaCoO2(0≦a≦1)のように表記する場合、充電深度が0の場合はaが1のLiCoO2と表記され、充電深度が0.5の場合はaが0.5のLi0.5CoO2と表記され、充電深度が0.8の場合は、aが0.2のLi0.2CoO2と表記される。
【0033】
また本明細書等において、ある数値Xの近傍の値とは、特に言及のない場合0.9X以上1.1X以下の値をいうこととする。
【0034】
また本明細書等において、本発明の一態様の正極および正極活物質を用いた二次電池として、負極にリチウム金属を用いる例を示す場合があるが、本発明の一態様の二次電池はこれに限らない。負極に他の材料、例えば黒鉛、チタン酸リチウム等を用いてもよい。本発明の一態様の正極および正極活物質の、充放電を繰り返しても結晶構造が崩れにくく、良好なサイクル特性を得られる等の性質は、負極の材料に影響されない。また本発明の一態様の二次電池について、負極にリチウムを用い、該二次電池を充電電圧4.6V程度の充電電圧よりも高い電圧で充放電する例を示す場合があるが、より低い電圧で充放電をしてもよい。より低い電圧で充放電する場合は本明細書等で示すよりもさらにサイクル特性がよくなることが見込まれる。
【0035】
(実施の形態1)
本実施の形態では、本発明の一態様の正極活物質について
図1A乃至
図4を用いて説明する。
【0036】
【0037】
図1A、
図1B、
図1C1および
図1C2に示すように、正極活物質100は、表層部100aと、内部100bを有する。これらの図中に破線で表層部100aと内部100bの境界を示す。また
図1Aに一点破線で結晶粒界の一部を示す。
【0038】
本明細書等において、正極活物質100等の表層部100aとは、例えば、表面から内部に向かって50nm以内、より好ましくは表面から内部に向かって35nm以内、さらに好ましくは表面から内部に向かって20nm以内、最も好ましくは表面から内部に向かって10nm以内の領域をいう。ひび、クラックにより生じた面および空孔の内側も表面といってよい。また表層部100aより深い領域を、活物質等の粒子の内部100bという。また正極活物質100の表面とは、上記表層部100aおよび内部100b等を含む複合酸化物の表面をいうこととする。そのため正極活物質100は、作製後に化学吸着した炭酸、ヒドロキシ基等は含まないとする。また正極活物質100に付着した電解液、バインダ、導電材、またはこれら由来の化合物も含まないとする。また断面STEM像等における正極活物質100の表面とは、最初にリチウムより原子番号の大きな金属元素が観察される面とする。より詳細には最初にリチウムより原子番号の大きな金属元素の原子核、つまり断面STEM像等における輝度のピークが存在する点とする。
【0039】
また、本明細書等において粒界とは、たとえば粒子同士が固着している部分、粒子内部で結晶方位が変わる部分、結晶欠陥を多く含む部分、結晶構造が乱れている部分等をいう。なお本明細書等において、結晶欠陥とはTEM像等で観察可能な欠陥、つまり結晶中に他の元素の入り込んだ構造、空洞等をいうこととする。粒界は、面欠陥の一つといえる。また粒界の近傍とは、粒界から10nm以内の領域をいうこととする。なお粒界は、例えば断面観察(断面TEM、断面STEM)などにより、観察することができる。
【0040】
また、本明細書等において粒子とは球形(断面形状が円)のみを指すことに限定されず、個々の粒子の断面形状が楕円形、長方形、台形、錐形、角が丸まった四角形、非対称の形状などが挙げられ、さらに個々の粒子は不定形であってもよい。
【0041】
<含有元素>
正極活物質100は、リチウムと、第1の金属M1と、第2の金属M2と、酸素と、フッ素と、を有する。正極活物質100はLiM1O2で表される複合酸化物にM2およびフッ素が添加されたものといってもよい。ただし本発明の一態様の正極活物質はLiM1O2で表されるリチウム複合酸化物を有すればよく、その組成が厳密にLi:M1:O=1:1:2に限定されるものではない。
【0042】
正極活物質100が有する第1の金属M1としては、リチウムとともに空間群R-3mに属する層状岩塩型の複合酸化物を形成しうる遷移金属を用いることが好ましい。たとえばマンガン、コバルト、ニッケルのうち少なくとも一を用いることができる。つまり正極活物質100が有する第1の金属M1としてコバルトのみを用いてもよいし、ニッケルのみを用いてもよいし、コバルトとマンガンの2種、またはコバルトとニッケルの2種を用いてもよいし、コバルト、マンガン、ニッケルの3種を用いてもよい。つまり正極活物質100は、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、コバルトの一部がマンガンで置換されたコバルト酸リチウム、コバルトの一部がニッケルで置換されたコバルト酸リチウム、ニッケル-マンガン-コバルト酸リチウム等の、リチウムと第1の金属M1を含む複合酸化物を有することができる。
【0043】
なお本明細書等において、リチウムと遷移金属を含む複合酸化物が有する層状岩塩型の結晶構造とは、陽イオンと陰イオンが交互に配列する岩塩型のイオン配列を有し、遷移金属とリチウムが規則配列して二次元平面を形成するため、リチウムの二次元的拡散が可能である結晶構造をいう。なお陽イオンまたは陰イオンの欠損等の欠陥があってもよい。また、層状岩塩型結晶構造は、厳密に言えば、岩塩型結晶の格子が歪んだ構造となっている場合がある。
【0044】
また本明細書等において、岩塩型の結晶構造とは、陽イオンと陰イオンが交互に配列している構造をいう。なお陽イオンまたは陰イオンの欠損があってもよい。
【0045】
また正極活物質が有する遷移金属としてコバルトを75原子%以上、好ましくは90原子%以上、さらに好ましくは95原子%以上用いると、合成が比較的容易で取り扱いやすく、優れたサイクル特性を有するなど利点が多い。
【0046】
さらに第1の金属M1としてコバルトだけでなく一部ニッケルを有すると、コバルトと酸素の八面体からなる層状構造のずれを抑制する場合がある。そのため特に高温での充電状態において結晶構造がより安定になる場合があり好ましい。これは、ニッケルがコバルト酸リチウム中の内部まで拡散しやすく、また放電時はコバルトサイトに存在しつつも充電時はカチオンミキシングしてリチウムサイトに位置しうると考えられるためである。充電時にリチウムサイトに存在するニッケルは、コバルトと酸素の八面体からなる層状構造を支える柱として機能し、結晶構造の安定化に寄与すると考えられる。
【0047】
なお第1の金属M1として、必ずしもマンガンを含まなくてもよい。また必ずしもニッケルを含まなくてもよい。
【0048】
正極活物質100が有する第2の金属M2としては、マグネシウム、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、バナジウム、鉄、クロム、ニオブ、ランタン、イットリウム、ハフニウム、または亜鉛のうち少なくとも一を用いることが好ましい。また第2の金属M2と共にケイ素、硫黄、リン、ホウ素、またはヒ素を加えてもよい。特にリンを加えると、連続充電耐性を向上させることができ、安全性の高い二次電池とすることができ好ましい。
【0049】
これらの第2の金属およびフッ素が、後述するように正極活物質100が有する結晶構造をより安定化させる場合がある。つまり正極活物質100は、マグネシウムおよびフッ素が添加されたコバルト酸リチウム、マグネシウム、フッ素およびチタンが添加されたコバルト酸リチウム、マグネシウムおよびフッ素が添加されたニッケル-コバルト酸リチウム、マグネシウムおよびフッ素が添加されたコバルト-アルミニウム酸リチウム、ニッケル-コバルト-アルミニウム酸リチウム、マグネシウムおよびフッ素が添加されたニッケル-コバルト-アルミニウム酸リチウム、マグネシウムおよびフッ素が添加されたニッケル-マンガン-コバルト酸リチウム等を有することができる。なお本明細書等において第2の金属M2の代わりに添加物、混合物、原料の一部、不純物などといってもよい。
【0050】
マンガン、チタン、バナジウムおよびクロムは安定に4価を取りやすい場合があり、構造安定性への寄与が高い場合がある。
【0051】
また第2の金属M2は、LiM1O2で表される複合酸化物の結晶性を大きく変えることのない濃度で添加されることが好ましい。例えば、後述するヤーン・テラー効果等を発現しない程度の量であることが好ましい。
【0052】
なお第2の金属として、必ずしもアルミニウム、チタン、ジルコニウム、バナジウム、鉄、クロム、ニオブ、ランタン、イットリウム、ハフニウムまたは亜鉛を含まなくてもよい。
【0053】
<元素の分布>
表層部100aは内部100bよりも第2の金属M2およびフッ素の濃度が高いことが好ましい。また第2の金属M2およびフッ素は濃度勾配を有していることが好ましい。また第2の金属M2が複数ある場合は、元素によって濃度のピーク位置が異なっていることが好ましい。第2の金属M2およびフッ素が表層部100aに偏在するといってもよい。
【0054】
例えば、ある第2の金属M2(1)は
図1C1にグラデーションで示すように、内部100bから表面に向かって高くなる濃度勾配を有することが好ましい。このような濃度勾配を有することが好ましい第2の金属M2(1)として、例えばマグネシウムおよびチタン等が挙げられる。
【0055】
フッ素も
図1C1にグラデーションで示すように、内部100bから表面に向かって高くなる濃度勾配を有することが好ましい。
【0056】
別の第2の金属M2(2)は
図1C2にグラデーションで示すように、濃度勾配を有しかつ第2の金属M2(1)よりも深い領域に濃度のピークを有することが好ましい。濃度のピークは表層部100aに存在してもよいし、表層部100aより深くてもよい。たとえば表面から5nm以上30nmまでの領域に濃度のピークを有することが好ましい。このような濃度勾配を有することが好ましい第2の金属M2(2)として、例えばアルミニウムおよびマンガンが挙げられる。
【0057】
また第2の金属M2およびフッ素の上述のような濃度勾配に起因して、内部100bから表層部100aに向かって結晶構造が連続的に変化することが好ましい。たとえば内部100bが有する層状岩塩型の結晶構造から、表層部100aにむかって岩塩型の結晶構造の特徴が強くなっていることが好ましい。さらに表層部100aと内部100bの結晶の配向が概略一致していることが好ましい。
【0058】
本発明の一態様の正極活物質100では、充電により正極活物質100からリチウムが抜けても、第1の金属M1と酸素の八面体からなる層状構造が崩れないよう、第2の金属M2およびフッ素の濃度の高い表層部100a、すなわち粒子の外周部により補強されている。
【0059】
また第2の金属M2の濃度勾配は、正極活物質100の表層部100aに均質に存在することが好ましい。第2の金属M2の濃度勾配が、正極活物質100の表層部100aに均質に存在することで、粒子に局所的に生じうる応力集中を抑制することができる。例えば、第2の金属M2の濃度勾配が、表層部100aに均質に存在しない場合、第2の金属M2の濃度勾配がない領域から粒子に応力が集中する恐れがある。粒子の一部に応力が集中すると、そこからクラック等の欠陥が生じ、粒子の割れおよび充放電容量の低下につながる恐れがある。
【0060】
【0061】
正極活物質100の表層部100aには、
図2A1および
図2A2に示すように、第2の金属M2(1)および第2の金属M2(2)のいずれも有さない領域があってもよい。また
図2B1および
図2B2に示すように、第2の金属M2(1)を有するものの、第2の金属M2(2)を有さない領域があってもよい。また
図2C1および
図2C2に示すように、第2の金属M2(1)を有さないものの、第2の金属M2(2)を有する領域があってもよい。
【0062】
なお第1の金属M1としてコバルトおよびニッケルを用いる場合、コバルトおよびニッケルは正極活物質100の全体に均一に固溶していることが好ましい。なお一部の第1の金属M1、たとえばニッケルの濃度が低い場合、XPS、EDX等の分析において検出下限以下となる場合がある。
【0063】
たとえばニッケルの原子数がコバルトの原子数と比較して2%以下であるならば、リチウム複合酸化物中のニッケルは0.5原子%以下となる。一方XPSおよびEDXの検出下限はおおむね1原子%程度である。この場合、正極活物質100の全体にニッケルが均一に固溶していれば、XPS、EDX等の分析方法で検出下限以下となりうる。この場合検出下限以下となることは、ニッケルの濃度が1原子%以下であること、また正極活物質100の全体に固溶していることを示唆するともいえる。
【0064】
一方で、ICP-MS、GD-MS等を用いればニッケルの濃度が1原子%以下でも定量することが可能である。
【0065】
なお正極活物質100が有する第1の金属M1の一部、たとえばマンガンは内部100bから表面に向かって濃くなる濃度勾配を有していてもよい。
【0066】
このように本発明の一態様の正極活物質100の表層部100aは内部100bよりも、第2の金属M2およびフッ素の濃度が高い、内部100bと異なる組成であることが好ましい。またその組成として室温(25℃)で安定な結晶構造をとることが好ましい。そのため、表層部100aは内部100bと異なる結晶構造を有していてもよい。例えば、本発明の一態様の正極活物質100の表層部100aの少なくとも一部が、岩塩型の結晶構造を有していてもよい。また表層部100aと内部100bが異なる結晶構造を有する場合、表層部100aと内部100bの結晶の配向が概略一致していることが好ましい。
【0067】
層状岩塩型結晶、および岩塩型結晶の陰イオンは立方最密充填構造(面心立方格子構造)をとる。
【0068】
なお、本明細書等にでは、陰イオンがABCABCのように3層が互いにずれて積み重なる構造であれば、立方最密充填と呼ぶこととする。そのため陰イオンは厳密に立方格子でなくてもよい。同時に現実の結晶は必ず欠陥を有するため、分析結果が必ずしも理論通りでなくてもよい。たとえば電子線回折またはTEM像等のFFT(高速フーリエ変換)において、理論上の位置と若干異なる位置にスポットが現れてもよい。たとえば理論上の位置との方位が5度以下、または2.5度以下であれば立方最密充填構造をとるといってよい。
【0069】
層状岩塩型結晶と岩塩型結晶が接するとき、陰イオンにより構成される立方最密充填構造の向きが揃う結晶面が存在する。
【0070】
または、以下のように説明することもできる。立方晶の結晶構造の(111)面における陰イオンは三角格子を有する。層状岩塩型は空間群R-3mであって、菱面体構造であるが、構造の理解を容易にするため一般に複合六方格子で表現され、層状岩塩型の(000l)面は六角格子を有する。立方晶(111)面の三角格子は、層状岩塩型の(000l)面の六角格子と同様の原子配列を有する。両者の格子が整合性を持つことを、立方最密充填構造の向きが揃うということができる。
【0071】
ただし、層状岩塩型結晶の空間群はR-3mであり、岩塩型結晶の空間群Fm-3m(一般的な岩塩型結晶の空間群)およびFd-3mとは異なるため、上記の条件を満たす結晶面のミラー指数は層状岩塩型結晶と、岩塩型結晶では異なる。本明細書では、層状岩塩型結晶および岩塩型結晶において、陰イオンにより構成される立方最密充填構造の向きが揃うとき、結晶の配向が概略一致する、と言う場合がある。
【0072】
二つの領域の結晶の配向が概略一致することは、TEM(Transmission Electron Microscope、透過電子顕微鏡)像、STEM(Scanning Transmission Electron Microscope、走査透過電子顕微鏡)像、HAADF-STEM(High-angle Annular Dark Field Scanning TEM、高角散乱環状暗視野走査透過電子顕微鏡)像、ABF-STEM(Annular Bright-Field Scanning Transmission Electron Microscopy、環状明視野走査透過電子顕微鏡)像、電子線回折、TEM像等のFFT等から判断することができる。XRD(X-ray Diffraction、X線回折)、中性子線回折等も判断の材料にすることができる。
【0073】
図3に、層状岩塩型結晶LRSと岩塩型結晶RSの配向が概略一致しているTEM像の例を示す。TEM像、STEM像、HAADF-STEM像、ABF-STEM像等では、結晶構造を反映した像が得られる。
【0074】
たとえばTEMの高分解能像等では、結晶面に由来するコントラストが得られる。電子線の回折および干渉によって、たとえば層状岩塩型のc軸と垂直に電子線が入射した場合、(0003)面に由来するコントラストが明るい帯(明るいストリップ)と暗い帯(暗いストリップ)の繰り返しとして得られる。そのためTEM像において明線と暗線の繰り返しが観察され、明線同士(たとえば
図3に示すL
RSとL
LRS)の角度が5度以下、または2.5度以下である場合、結晶面が概略一致している、すなわち結晶の配向が概略一致していると判断することができる。同様に、暗線同士の角度が5度以下、または2.5度以下である場合も、結晶の配向が概略一致していると判断することができる。
【0075】
またHAADF-STEM像では、原子番号に応じたコントラストが得られ、原子番号が大きい元素ほど明るく観察される。たとえば空間群R-3mに属する層状岩塩型のコバルト酸リチウムの場合、コバルト(原子番号27)が最も原子番号が大きいため、コバルト原子の位置で電子線が強く散乱され、コバルト原子の配列が明線もしくは強い輝度の点の配列として観察される。そのため層状岩塩型の結晶構造を有するコバルト酸リチウムをc軸と垂直となる方向から観察した場合、c軸と垂直にコバルト原子の配列が明線もしくは強い輝度の点の配列として観察され、リチウム原子、酸素原子の配列は暗線もしくは輝度の低い領域として観察される。コバルト酸リチウムの添加物元素としてフッ素(原子番号9)およびマグネシウム(原子番号12)を有する場合も同様である。
【0076】
そのためHAADF-STEM像において、結晶構造の異なる二つの領域で明線と暗線の繰り返しが観察され、明線同士の角度が5度以下、または2.5度以下である場合、原子の配列が概略一致している、すなわち結晶の配向が概略一致していると判断することができる。同様に、暗線同士の角度が5度以下、または2.5度以下である場合も、結晶の配向が概略一致していると判断することができる。
【0077】
なおABF-STEMでは原子番号が小さい元素ほど明るく観察されるが、原子番号に応じたコントラストが得られる点ではHAADF-STEMと同様であるため、HAADF-STEM像と同様に結晶の配向を判断することができる。
【0078】
図4Aに層状岩塩型結晶LRSと岩塩型結晶RSの配向が概略一致しているSTEM像の例を示す。岩塩型結晶RSの領域のFFTを
図4Bに、層状岩塩型結晶LRSの領域のFFTを
図4Cに示す。
図4Bおよび
図4Cの左に組成、JCPDSのカードナンバー、およびこれから計算されるd値および角度を示す。右に実測値を示す。Oを付したスポットは0次回折である。
【0079】
図4BでAを付したスポットは立方晶の11-1反射に由来するものである。
図4CでAを付したスポットは層状岩塩型の0003反射に由来するものである。
図4Bおよび
図4Cから、立方晶の11-1反射の方位と、層状岩塩型の0003反射の方位と、が概略一致していることがわかる。すなわち
図4BのAOを通る直線と、
図4CのAOを通る直線と、が概略平行であることがわかる。ここでいう概略一致および概略平行とは、角度が5度以下、または2.5度以下であることをいう。
【0080】
このようにFFTおよび電子線回折では、層状岩塩型結晶と岩塩型結晶の配向が概略一致していると、層状岩塩型の〈0003〉方位と、岩塩型の〈11-1〉方位と、が概略一致する場合がある。このとき、これらの逆格子点はスポット状であること、つまり他の逆格子点と連続していないことが好ましい。逆格子点がスポット上で、他の逆格子点と連続していないことは、結晶性が高いことを意味する。
【0081】
また、上述のように立方晶の11-1反射の方位と、層状岩塩型の0003反射の方位と、が概略一致している場合、電子線の入射方位によっては、層状岩塩型の0003反射の方位とは異なる逆格子空間上に、層状岩塩型の0003反射由来ではないスポットが観測されることがある。例えば
図4CでBを付したスポットは、層状岩塩型の1014反射に由来するものである。これは、層状岩塩型の0003反射由来の逆格子点(
図4CのA)の方位から、52°以上56°以下の角度であり(すなわち∠AOBが52°以上56°以下であり)、dが0.19nm以上0.21nm以下の箇所に観測されることがある。なおこの指数は一例であり、必ずしもこれに一致している必要は無い。例えば、それぞれにおける等価な逆格子点でも良い。
【0082】
同様に立方晶の11-1反射が観測された方位とは別の逆格子空間上に、立方晶の11-1反射由来ではないスポットが観測されることがある。例えば、
図4BでBを付したスポットは、立方晶の200反射に由来するものである。この立方晶の200反射由来のスポットは、立方晶の11-1由来の反射(
図4BのA)の方位から、54°以上56°以下の角度である(すなわち∠AOBが54°以上56°以下である)箇所に観測されることがある。なおこの指数は一例であり、必ずしもこれに一致している必要は無い。例えば、それぞれにおける等価な面でも良い。
【0083】
なお、コバルト酸リチウムをはじめとする層状岩塩型の正極活物質は、(0003)面およびこれと等価な面、並びに(10-14)面およびこれと等価な面が結晶面として現れやすいことが知られている。そのため正極活物質の形状をSEM等でよく観察することで、(0003)面が観察しやすいように、たとえばTEM等において電子線が[12-10]入射となるように観察サンプルをFIB等で薄片加工することが可能である。結晶の配向の一致について判断したいときは、層状岩塩型の(0003)面が観察しやすいよう薄片化することが好ましい。
【0084】
ただし表層部100aがMgOのみ、またはMgOとCoO(II)が固溶した構造のみでは、リチウムの挿入脱離が難しくなってしまう。そのため表層部100aは少なくともコバルトを有し、放電状態においてはリチウムも有し、リチウムの挿入脱離の経路を有している必要がある。また、マグネシウムよりもコバルトの濃度が高いことが好ましい。
【0085】
<内部の結晶構造>
コバルト酸リチウム(LiCoO2)などの層状岩塩型の結晶構造を有する材料は、放電容量が高く、二次電池の正極活物質として優れることが知られている。
【0086】
遷移金属化合物におけるヤーン・テラー効果は、遷移金属のd軌道の電子の数により、その効果の強さが異なることが知られている。
【0087】
ニッケルを有する化合物においては、ヤーン・テラー効果により歪みが生じやすい場合がある。よって、LiNiO2において高電圧における充放電を行った場合、歪みに起因する結晶構造の崩れが生じる懸念がある。LiCoO2においてはヤーン・テラー効果の影響が小さいことが示唆され、高電圧で充電されたときの耐性がより優れる場合があり好ましい。
【0088】
図5乃至
図8を用いて、正極活物質について説明する。
図5乃至
図8では、正極活物質が有する第1の金属M1としてコバルトを用いる場合について述べる。
【0089】
≪従来の正極活物質≫
図7に示す正極活物質は、後述する作製方法にてフッ素およびマグネシウムが添加されないコバルト酸リチウム(LiCoO
2)である。
図7に示すコバルト酸リチウムは、非特許文献1および非特許文献2等で述べられているように、充電深度によって結晶構造が変化する。
【0090】
図7に示すように、充電深度0(放電状態)であるコバルト酸リチウムは、空間群R-3mの結晶構造を有する領域を有し、ユニットセル中にCoO
2層が3層存在する。そのためこの結晶構造を、O3型結晶構造と呼ぶ場合がある。なお、CoO
2層とはコバルトに酸素が6配位した八面体構造が、稜共有の状態で平面に連続した構造をいうこととする。
【0091】
また充電深度1のときは、空間群P-3m1の結晶構造を有し、ユニットセル中にCoO2層が1層存在する。そのためこの結晶構造を、O1型結晶構造と呼ぶ場合がある。
【0092】
また充電深度が0.76程度のときのコバルト酸リチウムは、空間群R-3mの結晶構造を有する。この構造は、P-3m1(O1)のようなCoO
2の構造と、R-3m(O3)のようなLiCoO
2の構造と、が交互に積層された構造ともいえる。そのためこの結晶構造を、H1-3型結晶構造と呼ぶ場合がある。なお、実際にはH1-3型結晶構造は、ユニットセルあたりのコバルト原子の数が他の構造の2倍となっている。しかし
図7をはじめ本明細書では、他の構造と比較しやすくするためH1-3型結晶構造のc軸をユニットセルの1/2にした図で示すこととする。
【0093】
H1-3型結晶構造は一例として、非特許文献3に記載があるように、ユニットセルにおけるコバルトと酸素の座標を、Co(0、0、0.42150±0.00016)、O1(0、0、0.27671±0.00045)、O2(0、0、0.11535±0.00045)と表すことができる。O1およびO2はそれぞれ酸素原子である。このようにH1-3型結晶構造は、1つのコバルトおよび2つの酸素を用いたユニットセルにより表される。一方、後述するように、本発明の一態様のO3’型の結晶構造は好ましくは、1つのコバルトおよび1つの酸素を用いたユニットセルにより表される。これは、O3’の構造とH1-3型構造では、コバルトと酸素との対称性が異なり、O3’の構造の方が、H1-3型構造に比べてO3の構造からの変化が小さいことを示す。正極活物質が有する結晶構造をいずれのユニットセルを用いて表すべきかは、例えばXRDのリートベルト解析により判断することができる。この場合はGOF(goodness of fit)の値が小さくなるユニットセルを採用すればよい。
【0094】
充電電圧がリチウム金属の酸化還元電位を基準に4.6V以上になるような高電圧の充電、あるいは充電深度が0.8以上になるような深い深度の充電と、放電とを繰り返すと、コバルト酸リチウムはH1-3型結晶構造と、放電状態のR-3m(O3)の構造と、の間で結晶構造の変化(つまり、非平衡な相変化)を繰り返すことになる。
【0095】
しかしながら、これらの2つの結晶構造は、CoO
2層のずれが大きい。
図7に点線および矢印で示すように、H1-3型結晶構造では、CoO
2層がR-3m(O3)から大きくずれている。このようなダイナミックな構造変化は、結晶構造の安定性に悪影響を与えうる。
【0096】
さらに体積の差も大きい。同数のコバルト原子あたりで比較した場合、H1-3型結晶構造と放電状態のO3型結晶構造の体積の差は3.0%以上である。
【0097】
加えて、H1-3型結晶構造が有する、P-3m1(O1)のようなCoO2層が連続した構造は不安定である可能性が高い。
【0098】
そのため、高電圧の充放電を繰り返すとコバルト酸リチウムの結晶構造は崩れていく。結晶構造の崩れが、サイクル特性の悪化を引き起こす。これは、結晶構造が崩れることで、リチウムが安定して存在できるサイトが減少し、またリチウムの挿入脱離が難しくなるためである。
【0099】
≪本発明の一態様の正極活物質≫
本発明の一態様の正極活物質100は、高電圧の充放電の繰り返しにおいて、CoO2層のずれを小さくすることができる。さらに、体積の変化を小さくすることができる。よって、本発明の一態様の正極活物質は、優れたサイクル特性を実現することができる。また、本発明の一態様の正極活物質は、高電圧の充電状態において安定な結晶構造を取り得る。よって、本発明の一態様の正極活物質は、高電圧の充電状態を保持した場合において、ショートが生じづらい場合がある。そのような場合には安全性がより向上するため、好ましい。
【0100】
本発明の一態様の正極活物質では、十分に放電された状態と、充電深度の高い状態における、結晶構造の変化および同数の遷移金属原子あたりで比較した場合の体積の差が小さい。
【0101】
正極活物質100の充放電前後の結晶構造を、
図5に示す。正極活物質100はリチウムと、第1の金属M1としてコバルトと、酸素と、を有する複合酸化物である。上記に加えて第2の金属M2としてマグネシウムを有することが好ましい。またフッ素を有することが好ましい。
【0102】
図5の充電深度0(放電状態)の結晶構造は、
図7と同じR-3m(O3)である。一方正極活物質100は、充電深度の高いときH1-3型結晶構造とは異なる構造の結晶を有する。本構造は、空間群R-3mに帰属され、コバルト、マグネシウム等のイオンが酸素6配位位置を占める。また、本構造のCoO
2層の対称性はO3型と同じである。よって、本構造を本明細書等ではO3’型の結晶構造と呼ぶ。また、O3型結晶構造およびO3’型の結晶構造のいずれの場合も、CoO
2層の間、つまりリチウムサイトに、希薄にマグネシウムが存在することが好ましい。また、酸素サイトに、ランダムかつ希薄に、フッ素が存在することが好ましい。
【0103】
なおO3’型結晶構造では、リチウムなどの軽元素は酸素4配位位置を占める場合がある。
【0104】
また
図5ではリチウムが全てのリチウムサイトに同じ確率で存在するように示したが、本発明の一態様の正極活物質はこれに限らない。一部のリチウムサイトに偏って存在していてもよい。例えば空間群P2/mに属するLi
0.5CoO
2のように、整列した一部のリチウムサイトに存在していてもよい。リチウムの分布は、たとえば中性子回折により分析することができる。
【0105】
またO3’型の結晶構造は、層間にランダムにリチウムを有するもののCdCl2型の結晶構造に類似する結晶構造であるということもできる。このCdCl2型に類似した結晶構造は、ニッケル酸リチウムを充電深度0.94まで充電したとき(Li0.06NiO2)の結晶構造と近いが、純粋なコバルト酸リチウム、またはコバルトを多く含む層状岩塩型の正極活物質では通常この結晶構造を取らないことが知られている。
【0106】
本発明の一態様の正極活物質100では、高電圧で充電し多くのリチウムが離脱したときの、結晶構造の変化が、従来の正極活物質よりも抑制されている。例えば、
図5中に点線で示すように、これらの結晶構造ではCoO
2層のずれがほとんどない。
【0107】
より詳細に説明すれば、本発明の一態様の正極活物質100は、充電深度が高い場合にも構造の安定性が高い。例えば、従来の正極活物質においてはH1-3型結晶構造となる充電電圧、例えばリチウム金属の電位を基準として4.6V程度の電圧においてもR-3m(O3)の結晶構造を保持でき、さらに充電電圧を高めた領域、例えばリチウム金属の電位を基準として4.65V乃至4.7V程度の電圧においてもO3’型の結晶構造を保持できる。さらに充電電圧を高めるとようやく、H1-3型結晶が観測される場合がある。
【0108】
そのため、本発明の一態様の正極活物質100においては、高電圧で充放電を繰り返しても結晶構造が崩れにくい。
【0109】
なお結晶構造の空間群はXRD、電子線回折、中性子線回折等によって同定されるものである。そのため本明細書等において、ある空間群に属する、またはある空間群であるとは、ある空間群に同定されると言い換えることができる。
【0110】
また二次電池において例えば負極活物質として黒鉛を用いる場合には、上記よりも黒鉛の電位の分だけ二次電池の電圧が低下する。黒鉛の電位はリチウム金属の電位を基準として0.05V乃至0.2V程度である。そのため例えば負極活物質に黒鉛を用いた二次電池の電圧が4.3V以上4.5V以下においても本発明の一態様の正極活物質100はR-3m(O3)の結晶構造を保持でき、さらに充電電圧を高めた領域、例えば二次電池の電圧が4.5Vを超えて4.6V以下においてもO3’型結晶構造を取り得る。さらには、充電電圧がより低い場合、例えば二次電池の電圧が4.2V以上4.3V未満でも、本発明の一態様の正極活物質100はO3’型結晶構造を取り得る。
【0111】
なおO3’型の結晶構造は、ユニットセルにおけるコバルトと酸素の座標を、Co(0,0,0.5)、O(0,0,x)、0.20≦x≦0.25の範囲内で示すことができる。またユニットセルの格子定数は、a軸は2.797≦a≦2.837(Å)が好ましく、2.807≦a≦2.827(Å)がより好ましく、代表的にはa=2.817(Å)である。c軸は13.681≦c≦13.881(Å)が好ましく、13.751≦c≦13.811がより好ましく、代表的にはc=13.781(Å)である。
【0112】
CoO2層間、つまりリチウムサイトにランダムかつ希薄に存在する第2の金属M2、たとえばマグネシウムは、高電圧で充電したときにCoO2層のずれを抑制する効果がある。そのためCoO2層間にマグネシウムが存在すると、O3’型の結晶構造になりやすい。そのためマグネシウムは本発明の一態様の正極活物質100の全体(つまり表層部100aおよび内部100b)に適度な濃度で分布していることが好ましい。またマグネシウムを全体に分布させるために、本発明の一態様の正極活物質100の作製工程において、加熱処理を行うことが好ましい。
【0113】
しかしながら、加熱処理の温度が高すぎると、カチオンミキシングが生じて第2の金属M2、たとえばマグネシウムがコバルトサイトに入る可能性が高まる。コバルトサイトに存在するマグネシウムは、高電圧充電時においてR-3mの構造を保つ効果がない。さらに、加熱処理の温度が高すぎると、コバルトが還元されて2価になってしまう、リチウムが蒸散するなどの悪影響も懸念される。
【0114】
そこで、マグネシウムを全体に分布させるための加熱処理よりも前に、コバルト酸リチウムにフッ素化合物等のハロゲン化合物を加えておくことが好ましい。ハロゲン化合物を加えることでコバルト酸リチウムの融点降下が起こる。融点降下させることで、カチオンミキシングが生じにくい温度で、マグネシウムを粒子全体に分布させることが容易となる。さらにフッ素化合物が存在すれば、電解液が分解して生じたフッ酸に対する耐食性が向上することが期待できる。
【0115】
なお、マグネシウム濃度を所望の値以上に高くすると、結晶構造の安定化への効果が小さくなってしまう場合がある。マグネシウムが、リチウムサイトに加えて、コバルトサイトにも入るようになるためと考えられる。加えて、リチウムサイトにもコバルトサイトにも置換しない、不要なマグネシウム化合物(たとえば酸化物やフッ化物)が正極活物質の表面等に偏在し、抵抗成分となる恐れがある。本発明の一態様の正極活物質が有するマグネシウムの原子数は、第1の金属M1の原子数の0.001倍以上0.1倍以下が好ましく、0.01倍より大きく0.04倍未満がより好ましく、0.02倍程度がさらに好ましい。または0.001倍以上0.04倍未満が好ましい。または0.01倍以上0.1倍以下が好ましい。ここで示すマグネシウムの濃度は例えば、ICP-MS等を用いて正極活物質の全体の元素分析を行った値であってもよいし、正極活物質の作製の過程における原料の配合の値に基づいてもよい。
【0116】
図5中の凡例に示すように、ニッケルはコバルトサイトに存在することが好ましいが、一部がリチウムサイトに存在していてもよい。またマグネシウムはリチウムサイトに存在することが好ましい。また酸素は一部がフッ素と置換されていてもよい。
【0117】
本発明の一態様の正極活物質100のマグネシウム濃度が高くなるのに伴って正極活物質100の充放電容量が減少することがある。その要因として例えば、リチウムサイトにマグネシウムが入ることにより、充放電に寄与するリチウム量が減少する可能性がある。また、過剰なマグネシウムが、充放電に寄与しないマグネシウム化合物を生成する場合もある。本発明の一態様の正極活物質100がニッケルを有することにより、重量あたりおよび体積あたりの充放電容量を高めることができる場合がある。また本発明の一態様の正極活物質100がアルミニウムを有することにより、重量あたりおよび体積あたりの充放電容量を高めることができる場合がある。また本発明の一態様の正極活物質100がニッケルおよびアルミニウムを有することにより、重量あたりおよび体積あたりの充放電容量を高めることができる場合がある。
【0118】
以下に、本発明の一態様の正極活物質が有するニッケルおよびアルミニウムの元素の濃度を、原子数を用いて表す。
【0119】
本発明の一態様の正極活物質が有するニッケルの原子数は、コバルトの原子数を100%としたとき、コバルトの原子数に対して0%を超えて7.5%以下が好ましく、0.05%以上4%以下が好ましく、0.1%以上2%以下がより好ましい。または0%を超えて4%以下が好ましい。または0%を超えて2%以下が好ましい。または0.05%以上7.5%以下が好ましい。または0.05%以上2%以下が好ましい。または0.1%以上7.5%以下が好ましい。または0.1%以上4%以下が好ましい。ここで示すニッケルの濃度は例えば、ICP-MS等を用いて正極活物質の粒子全体の元素分析を行った値であってもよいし、正極活物質の作製の過程における原料の配合の値に基づいてもよい。
【0120】
本発明の一態様の正極活物質が有するアルミニウムの原子数は、コバルトの原子数を100%としたとき、コバルトの原子数に対して0.05%以上4%以下が好ましく、0.1%以上2%以下がより好ましい。または0.05%以上2%以下が好ましい。または0.1%以上4%以下が好ましい。ここで示すアルミニウムの濃度は例えば、ICP-MS等を用いて正極活物質の粒子全体の元素分析を行った値であってもよいし、正極活物質の作製の過程における原料の配合の値に基づいてもよい。
【0121】
マグネシウムは本発明の一態様の正極活物質100の全体(つまり表層部100aおよび内部100b)に分布していることが好ましいが、これに加えて上述したように表層部100aの第2の金属M2およびフッ素の濃度が、粒子全体の平均よりも高いことが好ましい。より具体的には、XPS等で測定される表層部100aの第2の金属M2およびフッ素の濃度が、ICP-MS等で測定される粒子全体の平均の第2の金属M2およびフッ素の濃度よりも高いことが好ましい。
【0122】
本発明の一態様の正極活物質100が有する第2の金属M2およびフッ素の一部は
図1Aに示すように結晶粒界101に偏在していることがより好ましい。
【0123】
換言すれば、本発明の一態様の正極活物質100の結晶粒界101およびその近傍の第2の金属M2およびフッ素の濃度は、内部の他の領域よりも高いことが好ましい。
【0124】
結晶粒界101は面欠陥の一つである。そのため粒子表面と同様不安定になりやすく結晶構造の変化が始まりやすい。そのため、結晶粒界101およびその近傍の第2の金属M2およびフッ素の濃度が高ければ、結晶構造の変化をより効果的に抑制することができる。
【0125】
また、結晶粒界およびその近傍の第2の金属M2およびフッ素の濃度が高い場合、本発明の一態様の正極活物質100の粒子の結晶粒界101に沿ってクラック102が生じた場合でも、クラック102により生じた表面の近傍で第2の金属M2およびフッ素の濃度が高くなる。そのためクラック102が生じた後の正極活物質においてもフッ酸に対する耐食性を高めることができる。
【0126】
なお本明細書等において、結晶粒界101の近傍とは、粒界から10nm程度までの領域をいうこととする。
【0127】
<粒径>
本発明の一態様の正極活物質100の粒径は、大きすぎるとリチウムの拡散が難しくなる、集電体に塗工したときに活物質層の表面が粗くなりすぎる、等の問題がある。一方、小さすぎると、集電体への塗工時に活物質層を担持しにくくなる、電解液との反応が過剰に進む等の問題点も生じる。そのため、平均粒子径(D50:メディアン径ともいう。)が、1μm以上100μm以下が好ましく、2μm以上40μm以下であることがより好ましく、5μm以上30μm以下がさらに好ましい。または1μm以上40μm以下が好ましい。または1μm以上30μm以下が好ましい。または2μm以上100μm以下が好ましい。または2μm以上30μm以下が好ましい。または5μm以上100μm以下が好ましい。または5μm以上40μm以下が好ましい。
【0128】
また、2つ以上の異なる粒径を有する正極活物質100を混合して用いてもよい。換言すれば、レーザ回折・散乱法により粒度分布を測定したとき複数のピークが生じる正極活物質を用いてもよい。このとき、粉体パッキング密度が大きくなるような混合比とすると、二次電池の体積あたりの容量を向上させることができ好ましい。
【0129】
<分析方法>
ある正極活物質が、充電深度の高いときO3’型の結晶構造を示す本発明の一態様の正極活物質100であるか否かは、充電深度の高い正極活物質を有する正極を、XRD、電子線回折、中性子線回折、電子スピン共鳴(ESR)、核磁気共鳴(NMR)等を用いて解析することで判断できる。特にXRDは、正極活物質が有するコバルト等の遷移金属の対称性を高分解能で解析できる、結晶性の高さおよび結晶の配向性を比較できる、格子の周期性歪みおよび結晶子サイズの解析ができる、二次電池を解体して得た正極をそのまま測定しても十分な精度を得られる、等の点で好ましい。
【0130】
本発明の一態様の正極活物質100は、これまで述べたように充電深度の高い状態と放電状態とで結晶構造の変化が少ないことが特徴である。高電圧で充電した状態で、放電状態との変化が大きな結晶構造が50wt%以上を占める材料は、高電圧の充放電に耐えられないため好ましくない。そして第2の金属M2およびフッ素を添加するだけでは目的の結晶構造をとらない場合があることに注意が必要である。例えばマグネシウムおよびフッ素を有するコバルト酸リチウム、という点で共通していても、高電圧で充電した状態でH1-3型の面積強度IH1-3が60%を超える場合と、そうでない場合がある。また、所定の電圧では、O3’型の結晶構造がほぼ100wt%になり、さらに当該所定の電圧をあげるとH1-3型結晶構造が生じる場合もある。そのため、本発明の一態様の正極活物質100であるか否かを判断するには、XRDをはじめとする結晶構造についての解析が必要である。
【0131】
ただし、高電圧で充電した状態または放電状態の正極活物質は、大気に触れると結晶構造の変化を起こす場合がある。例えばO3’型の結晶構造からH1-3型結晶構造に変化する場合がある。そのため、サンプルはすべてアルゴン雰囲気等の不活性雰囲気でハンドリングすることが好ましい。
【0132】
≪充電方法≫
ある複合酸化物が、本発明の一態様の正極活物質100であるか否かを判断するための高電圧充電は、例えばリチウムを負極に用いたコインセル(CR2032タイプ、直径20mm高さ3.2mm)を作製して行うことができる。
【0133】
より具体的には、正極には、正極活物質、導電助剤およびバインダを混合したスラリーを、アルミニウム箔の正極集電体に塗工したものを用いることができる。
【0134】
負極にはリチウム金属を用いることができる。なお負極にリチウム金属以外の材料を用いたときは、二次電池の電圧と正極の電位が異なる。本明細書等における電圧および電位は、特に言及しない場合、正極の電位である。
【0135】
電解液が有する電解質には、1mol/Lの六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)を用い、電解液には、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)がEC:DEC=3:7(体積比)、ビニレンカーボネート(VC)が2wt%で混合されたものを用いることができる。
【0136】
セパレータには厚さ25μmのポリプロピレン多孔質フィルムを用いることができる。
【0137】
正極缶及び負極缶には、ステンレス(SUS)で形成されているものを用いることができる。
【0138】
上記条件で作製したコインセルを、4.6V、0.5Cで定電流充電し、その後電流値が0.01Cとなるまで定電圧充電する。なおここでは1Cは137mA/gとする。そのためコインセル一個の正極の活物質量が10mgであった場合、0.685mAで充電することに相当する。正極活物質の相変化を観測するためには、このような小さい電流値で充電を行うことが望ましい。温度は25℃とする。このようにして充電した後に、コインセルをアルゴン雰囲気のグローブボックス中で解体して正極を取り出せば、高電圧で充電された正極活物質を得られる。この後に各種分析を行う際、外界成分との反応を抑制するため、解体した正極をアルゴン雰囲気で密封することが好ましい。例えばXRDは、解体した正極をアルゴン雰囲気のXRD測定用密閉容器内に封入して行うことができる。また充電完了後、速やかに正極を取り出し分析に供することが好ましい。具体的には充電完了後1時間以内が好ましく、30分以内がより好ましい。
【0139】
なお放電レートとは、電池容量に対する放電時の電流の相対的な比率であり、単位Cで表される。定格容量X(Ah)の電池において、1C相当の電流は、X(A)である。2X(A)の電流で放電させた場合は、2Cで放電させたといい、X/5(A)の電流で放電させた場合は、0.2Cで放電させたという。また、充電レートも同様であり、2X(A)の電流で充電させた場合は、2Cで充電させたといい、X/5(A)の電流で充電させた場合は、0.2Cで充電させたという。
【0140】
また定電流充電とは例えば、充電レートを一定として充電を行う方法を指す。定電圧充電とは例えば、充電が上限電圧に達したら、電圧を一定とし、充電を行う方法を指す。定電流放電とは例えば、放電レートを一定として放電を行う方法を指す。
【0141】
≪XRD≫
XRD測定の装置および条件は特に限定されない。たとえば下記のような装置および条件で測定することができる。
XRD装置 :Bruker AXS社製、D8 ADVANCE
X線源 :CuKα線
出力 :40KV、40mA
スリット系 :Div.Slit、0.5°
検出器:LynxEye
スキャン方式 :2θ/θ連続スキャン
測定範囲(2θ) :15°以上90°以下
ステップ幅(2θ) :0.01°設定
計数時間 :1秒間/ステップ
試料台回転 :15rpm
【0142】
測定サンプルが粉末の場合は、ガラスのサンプルフォルダーに入れる、またはグリースを塗ったシリコン無反射板にサンプルを振りかける、等の手法でセッティングすることができる。測定サンプルが正極の場合は、正極を基板に両面テープで貼り付け、正極活物質層を装置の要求する測定面に合わせてセッティングすることができる。
【0143】
O3’型の結晶構造と、H1-3型結晶構造のモデルから計算される、CuKα1線による理想的な粉末XRDパターンを
図6および
図8に示す。また比較のため充電深度0のLiCoO
2(O3)と、充電深度1のCoO
2(O1)の結晶構造から計算される理想的なXRDパターンも示す。なお、LiCoO
2(O3)およびCoO
2(O1)のパターンはICSD(Inorganic Crystal Structure Database)(非特許文献5参照)より入手した結晶構造情報からMaterials Studio(BIOVIA)のモジュールの一つである、Reflex Powder Diffractionを用いて作成した。2θの範囲は15°から75°とし、Step size=0.01、波長λ1=1.540562×10
-10m、λ2は設定なし、Monochromatorはsingleとした。H1-3型結晶構造のパターンは非特許文献3に記載の結晶構造情報から同様に作成した。O3’型の結晶構造のパターンは本発明の一態様の正極活物質のXRDパターンから結晶構造を推定し、TOPAS ver.3(Bruker社製結晶構造解析ソフトウェア)を用いてフィッティングし、O3、O1、H1-3と同様にXRDパターンを作成した。
【0144】
図6に示すように、O3’型の結晶構造では、2θ=19.30±0.20°(19.10°以上19.50°以下)、および2θ=45.55±0.10°(45.45°以上45.65°以下)に回折ピークが出現する。より詳しく述べれば、2θ=19.30±0.10°(19.20°以上19.40°以下)、および2θ=45.55±0.05°(45.50°以上45.60以下)に鋭い回折ピークが出現する。しかし
図8に示すように、H1-3型結晶構造およびCoO
2(P-3m1、O1)ではこれらの位置にピークは出現しない。そのため、高電圧で充電された状態で2θ=19.30±0.20°、および2θ=45.55±0.10°のピークが出現することは、本発明の一態様の正極活物質100の特徴であるといえる。
【0145】
これは、充電深度0の結晶構造と、高電圧充電したときの結晶構造で、XRDの回折ピークが出現する位置が近いということもできる。より具体的には、両者の主な回折ピークのうち2つ以上、より好ましくは3つ以上において、ピークが出現する位置の差が、2θ=0.7°以下、より好ましくは2θ=0.5°以下であるということができる。
【0146】
またXRDパターンにおける回折ピークの鋭さは結晶性の高さを示す。そのため、充電後の各回折ピークは鋭い、すなわち半値幅が狭い方が好ましい。半値幅は、同じ結晶相から生じたピークでも、XRDの測定条件や2θの値によっても異なる。上述した測定条件の場合は、2θが43°以上46°以下に観測されるピークにおいて、半値幅は例えば0.2°以下が好ましく、0.15°以下がより好ましく、0.12°以下がさらに好ましい。なお必ずしも全てのピークがこの要件を満たしていなくてもよい。一部のピークがこの要件を満たせば、その結晶相の結晶性が高いことがいえる。そのため十分に充電後の結晶構造の安定化に寄与する。
【0147】
なお、本発明の一態様の正極活物質100は高電圧で充電したときO3’型の結晶構造を有するが、粒子内のすべてがO3’型の結晶構造でなくてもよい。他の結晶構造を含んでいてもよいし、一部が非晶質であってもよい。
【0148】
たとえば4.6V充電したときのXRDパターンにおいてH1-3型とO3’型のピークの面積強度比を比較して、H1-3型が一定以下であればよい。またはH1-3型のピークの面積強度比と、O3’型およびO3型のピークの面積強度比が一定以上であればよい。
【0149】
たとえばH1-3型は2θ=19.69°±0.2°に(006)面に相当するピークが観測される。またO3’型およびLiCoO2のO3型は2θ=19.30±0.20°に(003)面に相当するピークが観測される。そのため2θが18°以上20°以下の範囲の面積強度のうち、19.30°以下がO3’型およびO3型のピークの面積強度であると考えることができる。これらの面積強度比IH1-3(006)/IO3’+O3(003)が60%以下であることが好ましく、50%以下であることがより好ましく、40%以下であることがさらに好ましい。このような面積強度比であると、十分に充放電サイクル特性に優れた正極活物質とすることができる。
【0150】
またH1-3型は2θ=43.83°±0.2°に(107)面に相当するピークが観測される。またO3’型およびO3型は2θ=45.55°±0.2°に(104)面に相当するピークが観測される。そのため2θが43°以上46°以下の範囲の面積強度のうち、44.50°以上をO3’型およびO3型のピークの面積強度であると考えることができる。これらの面積強度比IH1-3(107)/IO3’+O3(104)が50%以下であることが好ましく、40%以下であることがより好ましく、30%以下であることがさらに好ましい。このような面積強度比であると、十分に充放電サイクル特性に優れた正極活物質とすることができる。
【0151】
なお2θが43°以上46°以下のピークはブロードになりやすいが、18°以上20以下のピークは比較的鋭いピークが得られるため、面積強度比の解析には18°以上20以下のピークを用いることがより好ましい。
【0152】
本発明の一態様の正極活物質100においては、前述の通り、ヤーン・テラー効果の影響が小さいことが好ましい。本発明の一態様の正極活物質100は、層状岩塩型の結晶構造を有し、遷移金属としてコバルトを主として有することが好ましい。また、本発明の一態様の正極活物質100において、ヤーン・テラー効果の影響が小さい範囲であれば、コバルトの他に、先に述べた第2の金属M2、ニッケルおよびマンガンを有してもよい。
【0153】
なお粉体XRDパターンに出現するピークは、正極活物質100の体積の大半を占める、正極活物質100の内部100bの結晶構造を反映したものである。表層部100aの結晶構造は、正極活物質100の断面の電子線回折等で分析することができる。
【0154】
≪XPS≫
X線光電子分光(XPS)では、表面から2乃至8nm程度(通常5nm程度)の深さまでの領域の分析が可能であるため、表層部100aの深さについて約半分の領域について、各元素の濃度を定量的に分析することができる。また、ナロースキャン分析をすれば元素の結合状態を分析することができる。なおXPSの定量精度は多くの場合±1原子%程度、検出下限は元素にもよるが約1原子%である。
【0155】
本発明の一態様の正極活物質100についてXPS分析をしたとき、第2の金属M2の原子数は第1の金属M1の原子数の1.6倍以上6.0倍以下が好ましく、1.8倍以上4.0倍未満がより好ましい。第2の金属M2がマグネシウム、第1の金属M1がコバルトである場合は、マグネシウムの原子数はコバルトの原子数の1.6倍以上6.0倍以下が好ましく、1.8倍以上4.0倍未満がより好ましい。またフッ素等のハロゲンの原子数は、第1の金属M1の原子数の0.2倍以上6.0倍以下が好ましく、1.2倍以上4.0倍以下がより好ましい。
【0156】
XPS分析を行う場合には例えば、X線源として単色化アルミニウムを用いることができる。また、取出角は例えば45°とすればよい。たとえば下記の装置および条件で測定することができる。
測定装置 :PHI 社製QuanteraII
X線源 :単色化Al Kα(1486.6eV)
検出領域 :100μmφ
検出深さ :約4~5nm(取出角45°)
測定スペクトル :ワイドスキャン,各検出元素のナロースキャン
【0157】
また、本発明の一態様の正極活物質100についてXPS分析したとき、フッ素と他の元素の結合エネルギーを示すピークは682eV以上685eV未満であることが好ましく、684.3eV程度であることがさらに好ましい。これは、フッ化リチウムの結合エネルギーである685eV、およびフッ化マグネシウムの結合エネルギーである686eVのいずれとも異なる値である。つまり、本発明の一態様の正極活物質100がフッ素を有する場合、フッ化リチウムおよびフッ化マグネシウム以外の結合であることが好ましい。
【0158】
さらに、本発明の一態様の正極活物質100についてXPS分析したとき、マグネシウムと他の元素の結合エネルギーを示すピークは、1302eV以上1304eV未満であることが好ましく、1303eV程度であることがさらに好ましい。これは、フッ化マグネシウムの結合エネルギーである1305eVと異なる値であり、酸化マグネシウムの結合エネルギーに近い値である。つまり、本発明の一態様の正極活物質100がマグネシウムを有する場合、フッ化マグネシウム以外の結合であることが好ましい。
【0159】
表層部100aに多く存在することが好ましい第2の金属M2、たとえばマグネシウムおよびアルミニウムは、XPS等で測定される濃度が、ICP-MS(誘導結合プラズマ質量分析)、あるいはGD-MS(グロー放電質量分析法)等で測定される濃度よりも高いことが好ましい。
【0160】
マグネシウムおよびアルミニウムは、加工によりその断面を露出させ、断面をTEM-EDXを用いて分析する場合に、表層部100aの濃度が、内部100bの濃度に比べて高いことが好ましい。たとえば、TEM-EDX分析において、マグネシウムの濃度はピークトップから深さ1nmの点でピークの60%以下に減衰することが好ましい。またピークトップから深さ2nmの点でピークの30%以下に減衰することが好ましい。加工は例えばFIB(Focused Ion Beam)により行うことができる。
【0161】
XPS(X線光電子分光)の分析において、マグネシウムの原子数はコバルトの原子数の0.4倍以上1.5倍以下であることが好ましい。一方ICP-MSの分析によるマグネシウムの原子数の比Mg/Coは0.001以上0.06以下であることが好ましい。
【0162】
≪ESR≫
上述したように本発明の一態様の正極活物質では、遷移金属としてコバルトおよびニッケルを有し、第2の金属M2としてマグネシウムを有することが好ましい。その結果一部のCo3+がNi3+に置換され、また一部のLi+がMg2+に置換されることが好ましい。Li+がMg2+に置換されることに伴い、当該Ni3+は還元されて、Ni2+になることがある。また、一部のLi+がMg2+に置換され、それに伴い近傍のCo3+が還元されてCo2+になる場合がある。また、一部のCo3+がMg2+に置換され、それに伴い近傍のCo3+が酸化されてCo4+になる場合がある。
【0163】
したがって、本発明の一態様である正極活物質は、Ni2+、Ni3+、Co2+及びCo4+のいずれか一以上を有することが好ましい。また、正極活物質の重量当たりのNi2+、Ni3+、Co2+及びCo4+のいずれか一以上に起因するスピン密度が、2.0×1017spins/g以上1.0×1021spins/g以下であることが好ましい。前述のスピン密度を有する正極活物質とすることで、特に充電状態での結晶構造が安定となり好ましい。なお、マグネシウム濃度が高すぎると、Ni2+、Ni3+、Co2+及びCo4+のいずれか一以上に起因するスピン密度が低くなる場合がある。
【0164】
正極活物質中のスピン密度は、例えば、電子スピン共鳴法(ESR:Electron Spin Resonance)などを用いて分析することができる。
【0165】
≪EPMA≫
EPMA(電子プローブ微小分析)は元素の定量が可能である。面分析ならば各元素の分布を分析することができる。
【0166】
EPMAでは表面から約1μm程度の深さまでの領域を分析する。そのため、各元素の濃度は他の分析法を用いた測定結果と異なる場合がある。たとえば正極活物質100の表面分析を行ったとき、表層部100aに存在する第2の金属M2の濃度が、XPSの結果より低くなる場合がある。また表層部100aに存在する第2の金属M2の濃度が、ICP-MSの結果または正極活物質の作製の過程における原料の配合の値より高くなる場合がある。
【0167】
本発明の一態様の正極活物質100の断面についてEPMA面分析をしたとき、第2の金属M2の濃度が内部から表層部100aに向かって高くなる濃度勾配を有することが好ましい。より詳細には、
図1C1に示すようにマグネシウム、フッ素、チタンは内部から表面に向かって高くなる濃度勾配を有することが好ましい。また
図2C2に示すようにアルミニウムは上記元素の濃度のピークよりも深い領域に濃度のピークを有することが好ましい。アルミニウム濃度のピークは表層部100aに存在してもよいし、表層部100aより深くてもよい。
【0168】
なお本発明の一態様の正極活物質100の表面および表層部100aには、正極活物質作製後に化学吸着した炭酸、ヒドロキシ基等は含まないとする。また正極活物質の表面に付着した電解液、バインダ、導電材、またはこれら由来の化合物も含まないとする。そのため正極活物質100が有する元素を定量するときは、XPSおよびEPMAをはじめとする表面分析で検出されうる炭素、水素、過剰な酸素、過剰なフッ素等を除外する補正をしてもよい。例えば、XPSでは結合の種類を解析で分離することが可能であり、バインダ由来のC-F結合を除外する補正をおこなってもよい。
【0169】
さらに各種分析に供する前に、正極活物質の表面に付着した電解液、バインダ、導電材、またはこれら由来の化合物を除くために、正極活物質および正極活物質層等の試料に対して洗浄等を行ってもよい。このとき洗浄に用いる溶媒等にリチウムが溶け出す場合があるが、たとえその場合であっても、第1の金属M1および第2の金属M2は溶け出しにくいため、第1の金属M1および第2の金属M2の原子数比に影響があるものではない。
【0170】
≪表面粗さと比表面積≫
本発明の一態様の正極活物質100は、表面がなめらかで凹凸が少ないことが好ましい。表面がなめらかで凹凸が少ないことは、表層部100aにおける第2の金属M2の分布が良好であることを示す一つの要素である。
【0171】
表面がなめらかで凹凸が少ないことは、たとえば正極活物質100の断面SEM像または断面TEM像、正極活物質100の比表面積等から判断することができる。
【0172】
たとえば以下のように、正極活物質100の断面SEM像または断面TEM像から表面のなめらかさを数値化することができる。
【0173】
まず正極活物質100をFIB等により加工して断面を露出させる。このとき保護膜、保護剤等で正極活物質100を覆うことが好ましい。次に保護膜等と正極活物質100との界面のSEM像を撮影する。該SEM像に画像処理ソフトでノイズ処理を行う。たとえばガウスぼかし(σ=2)を行った後、二値化を行う。さらに画像処理ソフトで界面抽出を行う。さらにmagic handツール等で保護膜等と正極活物質100との界面ラインを選択し、データを表計算ソフト等に抽出する。表計算ソフト等の機能を用いて、回帰曲線(二次回帰)から補正を行い、傾き補正後データからラフネス算出用パラメータを求め、標準偏差を算出した二乗平均平方根表面粗さ(RMS)を求めた。また、この表面粗さは、正極活物質は少なくとも粒子表層部を含む400nm四方における表面粗さである。
【0174】
本実施の形態の正極活物質100の粒子表面においては、ラフネスの指標である粗さ(RMS:二乗平均平方根表面粗さ)は3nm未満、好ましくは1nm未満、さらに好ましくは0.5nm未満の二乗平均平方根表面粗さ(RMS)であることが好ましい。
【0175】
なおノイズ処理、界面抽出等を行う画像処理ソフトについては特に限定されないが、たとえば「ImageJ」を用いることができる。また表計算ソフト等についても特に限定されないが、たとえばMicrosoft Office Excelを用いることができる。
【0176】
またたとえば、定容法によるガス吸着法にて測定した実際の比表面積ARと、理想的な比表面積Aiとの比からも、正極活物質100の表面のなめらかさを数値化することができる。
【0177】
理想的な比表面積Aiは、すべての粒子の直径がD50と同じであり、重量が同じであり、形状は理想的な球であるとして計算して求める。
【0178】
メディアン径D50は、レーザ回折・散乱法を用いた粒度分布計等によって測定することができる。比表面積は、たとえば定容法によるガス吸着法を用いた比表面積測定装置等によって測定することができる。
【0179】
本発明の一態様の正極活物質100は、メディアン径D50から求めた理想的な比表面積Aiと、実際の比表面積ARの比AR/Aiが2以下であることが好ましい。
【0180】
本実施の形態は他の実施の形態と組み合わせて用いることができる。
【0181】
(実施の形態2)
本実施の形態では、
図9A、
図9Bおよび
図10を用いて本発明の一態様の正極活物質の作製方法の例について説明する。
【0182】
<ステップS11>
図9AのステップS11として、リチウム源、第1の金属M1源、第2の金属M2源およびフッ素源を用意する。
【0183】
リチウム源としては、例えば炭酸リチウム、フッ化リチウム等を用いることができる。
【0184】
第1の金属Mとしては先の実施の形態で述べた通り、リチウムとともに空間群R-3mに属する層状岩塩型の複合酸化物を形成しうる金属を用いることが好ましい。たとえばマンガン、コバルト、ニッケルのうち少なくとも一を用いることができる。
【0185】
第1の金属M1源としては、第1の金属M1として例示した上記金属の酸化物、水酸化物等を用いることができる。コバルト源としては、例えば酸化コバルト、水酸化コバルト等を用いることができる。マンガン源としては、酸化マンガン、水酸化マンガン等を用いることができる。ニッケル源としては、酸化ニッケル、水酸化ニッケル等を用いることができる。
【0186】
第2の金属M2としては先の実施の形態で述べた通りマグネシウム、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、ニオブ、ランタン、イットリウム、ハフニウム等を用いることができる。
【0187】
第2の金属M2源としては、第2の金属M2として例示した上記金属の酸化物、水酸化物、フッ化物、アルコキシド等を用いることができる。
【0188】
マグネシウム源としては、例えばフッ化マグネシウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム等を用いることができる。アルミニウム源としては、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、フッ化アルミニウム、アルミニウムイソプロポキシドをはじめとするアルミニウムアルコキシド等を用いることができる。チタン源としては、酸化チタン、水酸化チタン、フッ化チタン、チタンイソプロポキシドをはじめとするチタンアルコキシド等を用いることができる。ジルコニウム源としては、酸化ジルコニウム、水酸化ジルコニウム、フッ化ジルコニウム、ジルコニウムイソプロポキシドをはじめとするジルコニウムアルコキシド等を用いることができる。ニオブ源としては、酸化ニオブ、水酸化ニオブ、フッ化ニオブ、ニオブアルコキシド等を用いることができる。ランタン源としては、酸化ランタン、水酸化ランタン、フッ化ランタン、ランタンアルコキシド等を用いることができる。
【0189】
<ステップS12>
次にステップS12として、上記のリチウム源、第1の金属M1源、第2の金属M2源およびフッ素源を混合する。混合は乾式または湿式で行うことができる。混合には例えばボールミル、ビーズミル等を用いることができる。ボールミルを用いる場合は、例えば粉砕メディアとして酸化ジルコニウム製ボールを用いることが好ましい。なお第2の金属M2源としてアルコキシドを用いる場合は、アルコキシドのゲル化を経て混合することができる。このとき粉砕メディアはなくてもよい。
【0190】
<ステップS13>
上記で混合した材料を回収し、混合物900を得る。
【0191】
<ステップS14>
次にステップS14として、混合物900を加熱する。本工程は、後の加熱工程との区別のために第1の加熱という場合がある。
【0192】
このとき、一部の元素源、たとえばフッ素源およびリチウム源となりうるLiFは酸素よりも軽いため、加熱によりLiFが揮発し混合物900中のLiFが減少する場合がある。そのため混合物900を加熱する際は、雰囲気中のフッ素またはフッ化物の分圧を適切な範囲に制御することが好ましい。たとえば加熱用るつぼに蓋をするといった方法がある。
【0193】
加熱温度は複合酸化物901の融点の2/3以上から融点以下が好ましい。たとえば複合酸化物901の有する第1の金属M1の80原子%以上がコバルトである場合は、800℃以上1100℃未満で行うことが好ましく、900℃以上1000℃以下で行うことがより好ましく、950℃程度がさらに好ましい。または800℃以上1000℃以下が好ましい。または900℃以上1100℃以下が好ましい。温度が低すぎると、混合物900の分解および溶融が不十分となるおそれがある。一方温度が高すぎると、第1の金属M1として用いる、酸化還元反応を担う金属が過剰に還元される、リチウムが蒸散するなどの原因で欠陥が生じるおそれがある。
【0194】
加熱時間は、上記の目的とする加熱温度に達した後の時間をいうこととする。加熱時間はたとえば1時間以上100時間以下とすることができ、2時間以上20時間以下とすることが好ましい。または1時間以上20時間以下が好ましい。または2時間以上100時間以下が好ましい。第1の加熱は、乾燥空気等の水が少ない雰囲気(例えば露点-50℃以下、より好ましくは-100℃以下)で行うことが好ましい。例えば1000℃で10時間加熱することとし、昇温は200℃/h、乾燥雰囲気の流量は10L/minとすることが好ましい。その後加熱した材料を室温(25℃)まで冷却することができる。例えば規定温度から室温までの降温時間を10時間以上50時間以下とすることが好ましい。
【0195】
ただし、ステップS14における室温までの冷却は必須ではない。その後のステップS15およびステップS16の工程を行うのに問題がなければ、冷却は室温より高い温度までとしてもよい。たとえば100℃以下まで冷却すればその後の工程が可能であり、また加熱装置を傷める可能性が低く好ましい。
【0196】
<ステップS15>
上記の工程で複合酸化物901を得る。
【0197】
<ステップS16>
次にステップS16として、複合酸化物901を加熱する。本工程は先の加熱工程との区別のために第2の加熱という場合がある。
【0198】
本工程の加熱を経ることで、第2の金属M2およびフッ素を、正極活物質100の表層部100aに適度な濃度で分布させることができる。
【0199】
2回の加熱を経て正極活物質100を作製するため、本作製方法は2ステップ法と呼ぶこともできる。
【0200】
本工程を経ることでマグネシウム等の第2の金属M2およびフッ素が適度な濃度で分布する理由は、まずこれらが正極活物質100の内部100bを含む粒子全体に固溶しない理由、次にこれらが加熱を経ても表層部にとどまる理由、の2つの側面に分けられる。
【0201】
まず、第2の金属M2およびフッ素が粒子全体に固溶しにくいのは、コバルト酸リチウムなどの層状岩塩型の結晶構造中で、第2の金属M2およびフッ素がエネルギー的に不安定であることによる。しかし不安定といっても、第2の金属M2と他の元素(リチウムおよびコバルト等の第1の金属M1)との安定化エネルギーの差は小さい。そのため第2の加熱温度が高すぎると、エントロピーの利得の方が大きくなり、MgCo2O4等の他の化合物になってしまう。そのため本工程の第2の加熱温度は極めて重要である。
【0202】
次に第2の金属M2およびフッ素が表層部にとどまるのは、まず第2の金属M2と酸素との結合距離が、コバルト酸リチウム中の金属と酸素との結合距離よりも大きいためである。そのため複数回の加熱を経て元素の相互拡散が起こった場合でも、さらには粒子の一部が溶融した場合でも、第2の金属M2およびフッ素は表面および表層部100aにとどまる方が安定である。また表層部では1価のリチウムと、2価の第2の金属M2、たとえばマグネシウムが置換している。そのため2価の酸素の一部を1価であるフッ素と置換すると電荷のバランスが取れ、より結晶構造が安定となり好ましい。
【0203】
ステップS16もステップS14と同様の理由で、雰囲気中のフッ素またはフッ化物の分圧を適切な範囲に制御することが好ましい。たとえば加熱用るつぼに蓋をして加熱することが好ましい。
【0204】
ステップS16における加熱温度は、複合酸化物901の有する元素の相互拡散が起こる温度にする必要がある。例えば500℃以上であればよく、742℃以上が好ましく、830℃以上がより好ましい。第2の加熱温度は高い方が反応が進みやすく、第2の加熱時間が短く済み、生産性が高く好ましい。
【0205】
ただし第2の加熱の温度は少なくともLiM1O2の分解温度(LiCoO2の場合は1130℃)以下である必要がある。また分解温度の近傍の温度では、微量ではあるがLiMO2の分解が懸念される。そのため、第2の加熱温度としては、1130℃以下であることが好ましく、1000℃以下であるとより好ましく、950℃以下であるとさらに好ましく、900℃以下であるとさらに好ましい。
【0206】
よって、第2の加熱温度としては、500℃以上1130℃以下が好ましく、500℃以上1000℃以下がより好ましく、500℃以上950℃以下がさらに好ましく、500℃以上900℃以下がさらに好ましい。また、742℃以上1130℃以下が好ましく、742℃以上1000℃以下がより好ましく、742℃以上950℃以下がさらに好ましく、742℃以上900℃以下がさらに好ましい。また、830℃以上1130℃以下が好ましく、830℃以上1000℃以下がより好ましく、830℃以上950℃以下がさらに好ましく、830℃以上900℃以下がさらに好ましい。
【0207】
第2の加熱は、適切な時間で行うことが好ましい。適切な第2の加熱の時間は、温度、複合酸化物901の粒子の大きさおよび組成等の条件により変化する。粒子が小さい場合は、大きい場合よりも低い温度または短い時間がより好ましい場合がある。
【0208】
例えば複合酸化物901の平均粒子径(D50)が12μm程度の場合、第2の加熱温度は例えば600℃以上950℃以下が好ましい。第2の加熱時間は例えば3時間以上が好ましく、10時間以上がより好ましく、60時間以上がさらに好ましい。
【0209】
一方、複合酸化物901の平均粒子径(D50)が5μm程度の場合、第2の加熱温度は例えば600℃以上950℃以下が好ましい。第2の加熱時間は例えば1時間以上10時間以下が好ましく、2時間程度がより好ましい。
【0210】
第2の加熱後の降温時間は、例えば10時間以上50時間以下とすることが好ましい。
【0211】
<ステップS17>
上記で加熱した材料を回収し、正極活物質100を得る。
【0212】
次に
図9Bを用いて
図9Aと異なる作製方法について説明する。なお、
図9Aと共通する部分が多いため、異なる部分について主に説明する。共通する部分については
図9Aについての説明を参酌することができる。
【0213】
図9BのステップS26およびステップS28に示すように、第2の加熱は1回でもよいし、複数回行ってもよい。また、第2の加熱の前に固着抑制操作を行うことが好ましい。固着抑制操作としては、乳棒で解砕する、ボールミルを用いて混合する、自転交転式ミキサーを用いて混合する、ふるいにかける、複合酸化物の入った容器を振動させる、等があげられる。
【0214】
このような第2の加熱を複数回経る作製方法は、一度に加熱する量が多い場合(たとえば複合酸化物901が5g以上の場合)に特に効果を発揮する。一度に加熱する量が多いと粒子同士が固着しやすく、表層部100aの第2の金属M2およびフッ素の分布が好ましい状態にならない恐れがあるためである。
【0215】
図10は、
図9Aをより具体的にした作製方法である。
図10では、第1の金属としてコバルト、第2の金属としてマグネシウムを用いる場合の作製方法の例である。
【0216】
本実施の形態は、他の実施の形態と組み合わせて用いることができる。
【0217】
(実施の形態3)
本実施の形態では、本発明の一態様の正極活物質を含むリチウムイオン二次電池について説明する。二次電池は、外装体、集電体、活物質(正極活物質、或いは負極活物質)、導電助剤、及びバインダを少なくとも有している。また、リチウム塩などを溶解させた電解液を有している。電解液を用いる二次電池の場合、正極と、負極と、正極と負極の間にセパレータとを設ける。
【0218】
[正極]
正極は、正極活物質層および正極集電体を有する。正極活物質層は実施の形態1で示した正極活物質を有することが好ましく、さらにバインダ、導電助剤等を有していてもよい。
【0219】
また正極作製後、二次電池に組み込む作製する過程において、正極活物質層に電解液を十分に浸み込ませる。そのため二次電池中の正極活物質層は、電解液を有する。正極活物質層中に十分に電解液が浸み込んでいる場合、電解液が有する元素が正極活物質同士の隙間、正極活物質の表面、集電体表面等から検出されうる。たとえば電解液がLiPF6を有する場合、リンがこれらの場所から検出されうる。
【0220】
【0221】
集電体550は金属箔であり、金属箔上にスラリーを塗布して乾燥させることによって正極を形成する。乾燥後、さらにプレスを加える場合もある。正極は、集電体550上に活物質層を形成したものである。
【0222】
スラリーとは、集電体550上に活物質層を形成するために用いる材料液であり、少なくとも活物質とバインダと溶媒を少なくとも含有し、好ましくはさらに導電助剤を混合させたものを指している。スラリーは電極用スラリーや活物質スラリーと呼ばれることもあり、正極活物質層を形成する場合には正極用スラリーを用い、負極活物質層を形成する場合には負極用スラリーと呼ばれることもある。
【0223】
導電助剤は、導電付与剤、導電材とも呼ばれ、炭素材料が用いられる。複数の活物質の間に導電助剤を付着させることで複数の活物質同士が電気的に接続され、導電性が高まる。なお、「付着」とは、活物質と導電助剤が物理的に密着していることのみを指しているのではなく、共有結合が生じる場合、ファンデルワールス力により結合する場合、活物質の表面の一部を導電助剤が覆う場合、活物質の表面凹凸に導電助剤がはまりこむ場合、互いに接していなくとも電気的に接続される場合などを含む概念とする。
【0224】
導電助剤として用いられる炭素材料として代表的なものにカーボンブラック(ファーネスブラック、アセチレンブラック、黒鉛など)がある。
【0225】
図11Aでは、導電助剤としてアセチレンブラック553を図示している。また、
図11Aでは、実施の形態1で示した正極活物質100よりも粒径の小さい第2の活物質562を混合している例を示している。大きさの異なる粒子を混合することで高密度の正極活物質層とすることができ、二次電池の充放電容量を大きくすることができる。なお、実施の形態1で示した正極活物質100は、
図11Aの活物質561に相当する。
【0226】
二次電池の正極として、金属箔などの集電体550と、活物質と、を固着させるために、バインダ(樹脂)を混合している。バインダは結着剤とも呼ばれる。バインダは高分子材料であり、バインダを多く含ませると正極における活物質の割合が低下して、二次電池の放電容量が小さくなる。そこでバインダの量は最小限に混合させている。
図11Aにおいて、活物質561、第2の活物質562、アセチレンブラック553で埋まっていない領域は、空隙またはバインダを指している。
【0227】
なお、
図11Aでは活物質561を球形として図示した例を示しているが、特に限定されず、色々な形状であってもよい。活物質561の断面形状は楕円形、長方形、台形、錐形、角が丸まった四角形、非対称の形状であってもよい。
【0228】
【0229】
また、
図11Bの正極では、導電助剤として用いられる炭素材料として、グラフェン554を用いている。
【0230】
グラフェンは電気的、機械的または化学的に驚異的な特性を有することから、グラフェンを利用した電界効果トランジスタや太陽電池等様々な分野の応用が期待される炭素材料である。
【0231】
また本明細書等においてグラフェン化合物とは、多層グラフェン、マルチグラフェン、酸化グラフェン、多層酸化グラフェン、マルチ酸化グラフェン、還元された酸化グラフェン、還元された多層酸化グラフェン、還元されたマルチ酸化グラフェン、グラフェン量子ドット等を含む。グラフェン化合物とは、炭素を有し、平板状、シート状等の形状を有し、炭素6員環で形成された二次元的構造を有するものをいう。該炭素6員環で形成された二次元的構造は炭素シートといってもよい。グラフェン化合物は官能基を有してもよい。またグラフェン化合物は屈曲した形状を有することが好ましい。またグラフェン化合物は丸まってカーボンナノファイバーのようになっていてもよい。
【0232】
本明細書等において酸化グラフェンとは、炭素と、酸素を有し、シート状の形状を有し、官能基、特にエポキシ基、カルボキシ基またはヒドロキシ基を有するものをいう。
【0233】
本明細書等において還元された酸化グラフェンとは、炭素と、酸素を有し、シート状の形状を有し、炭素6員環で形成された二次元的構造を有するものをいう。炭素シートといってもよい。還元された酸化グラフェンは1枚でも機能するが、複数枚が積層されていてもよい。還元された酸化グラフェンは、炭素の濃度が80atomic%より大きく、酸素の濃度が2atomic%以上15atomic%以下である部分を有することが好ましい。このような炭素濃度および酸素濃度とすることで、少量でも導電性の高い導電材として機能することができる。また還元された酸化グラフェンは、ラマンスペクトルにおけるGバンドとDバンドの強度比G/Dが1以上であるであることが好ましい。このような強度比である還元された酸化グラフェンは、少量でも導電性の高い導電材として機能することができる。
【0234】
グラフェン化合物は、高い導電性を有するという優れた電気特性と、高い柔軟性および高い機械的強度を有するという優れた物理特性と、を有する場合がある。また、グラフェン化合物はシート状の形状を有する。グラフェン化合物は、湾曲面を有する場合があり、接触抵抗の低い面接触を可能とする。また、薄くても導電性が非常に高い場合があり、少ない量で効率よく活物質層内で導電パスを形成することができる。そのため、グラフェン化合物を導電材として用いることにより、活物質と導電材との接触面積を増大させることができる。なお、グラフェン化合物が活物質粒子の少なくとも一部にまとわりついていると好ましい。また、グラフェン化合物が活物質粒子の少なくとも一部の上に重なっていると好ましい。また、グラフェン化合物の形状が活物質粒子の形状の少なくとも一部に一致していると好ましい。該活物質粒子の形状とは、たとえば、単一の活物質粒子が有する凹凸、または複数の活物質粒子によって形成される凹凸をいう。また、グラフェン化合物が活物質粒子の少なくとも一部を囲んでいることが好ましい。また、グラフェン化合物は穴が空いていてもよい。
【0235】
また複数のグラフェンまたはグラフェン化合物同士が結合することにより、網目状のグラフェン化合物シート(以下グラフェン化合物ネットまたはグラフェンネットと呼ぶ)を形成することができる。活物質をグラフェンネットが被覆する場合に、グラフェンネットは活物質同士を結合するバインダとしても機能することができる。よって、バインダの量を少なくすることができる、又は使用しないことができるため、電極体積や電極重量に占める活物質の比率を向上させることができる。すなわち、二次電池の充放電容量を増加させることができる。
【0236】
またグラフェン化合物と共に、グラフェン化合物を形成する際に用いる材料を混合して活物質層200に用いてもよい。たとえばグラフェン化合物を形成する際の触媒として用いる粒子を、グラフェン化合物と共に混合してもよい。グラフェン化合物を形成する際の触媒としてはたとえば、酸化ケイ素(SiO2、SiOx(x<2))、酸化アルミニウム、鉄、ニッケル、ルテニウム、イリジウム、プラチナ、銅、ゲルマニウム等を有する粒子が挙げられる。該粒子はD50が1μm以下であると好ましく、100nm以下であることがより好ましい。
【0237】
図11Bは集電体550上に活物質561、グラフェン554、アセチレンブラック553を有する正極活物質層を形成している。
【0238】
なお、グラフェン554、アセチレンブラック553を混合し、電極スラリーを得る工程において、混合するカーボンブラックの重量はグラフェンの1.5倍以上20倍以下、好ましくは2倍以上9.5倍以下の重量とすることが好ましい。
【0239】
また、グラフェン554とアセチレンブラック553の混合を上記範囲とすると、スラリー調製時に、アセチレンブラック553の分散安定性に優れ、凝集部が生じにくい。また、グラフェン554とアセチレンブラック553の混合を上記範囲とすると、アセチレンブラック553のみを導電助剤に用いる正極よりも高い電極密度とすることができる。電極密度を高くすることで、重量単位当たりの容量を大きくすることができる。具体的には、重量測定による正極活物質層の密度は、3.5g/ccより高くすることができる。また、実施の形態1で示した正極活物質100を正極に用い、且つ、グラフェン554とアセチレンブラック553の混合を上記範囲とすると、二次電池がより高容量となることについて相乗効果が期待でき好ましい。
【0240】
また、グラフェンのみを導電助剤に用いる正極に比べると電極密度は低いが、第1の炭素材料(グラフェン)と第2の炭素材料(アセチレンブラック)の混合を上記範囲とすることで、急速充電に対応することができる。また、実施の形態1で示した正極活物質100を正極に用い、且つ、グラフェン554とアセチレンブラック553の混合を上記範囲とすると、二次電池がより安定性を増し、さらなる急速充電に対応できることについて相乗効果が期待でき好ましい。
【0241】
これらのことは、車載用の二次電池として有効である。
【0242】
二次電池の数を増やして車両の重量が増加すると、移動させるエネルギーが増加するため、航続距離も短くなる。高密度の二次電池を用いることで同じ重量の二次電池を搭載する車両の総重量をほとんど変えることなく航続距離を維持できる。
【0243】
また、車両の二次電池が高容量になると充電する電力が必要とされるため、短時間で充電を終了させることが望ましい。また、車両のブレーキをかけた時に一時的に発電させて、それを充電する、いわゆる回生充電において高レート充電条件での充電が行われるため、良好なレート特性が車両用二次電池に求められている。
【0244】
実施の形態1で示した正極活物質100を正極に用い、且つ、アセチレンブラックとグラフェンの混合比を最適範囲とすることで、電極の高密度化とイオン電導に必要な適切な隙間を作り出すことの両立が可能となり、高エネルギー密度かつ良好な出力特性をもつ車載用の二次電池を得ることができる。
【0245】
また、携帯情報端末においても本構成は有効であり、実施の形態1で示した正極活物質100を正極に用い、且つ、アセチレンブラックとグラフェンの混合比を最適範囲とすることで二次電池を小型化し、高容量とすることもできる。また、アセチレンブラックとグラフェンの混合比を最適範囲とすることで携帯情報端末の急速充電も可能である。
【0246】
なお、
図11Bにおいて、活物質561、グラフェン554、アセチレンブラック553で埋まっていない領域は、空隙またはバインダを指している。空隙は電解液の浸み込みに必要であるが、多すぎると電極密度が低下し、少なすぎると電解液が浸み込まず、二次電池とした後も空隙として残ってしまうとエネルギー密度が低下してしまう。
【0247】
実施の形態1で得られる正極活物質100を正極に用い、且つ、アセチレンブラックとグラフェンの混合比を最適範囲とすることで電極の高密度化とイオン電導に必要な適切な隙間を作り出すことの両立が可能となり、高エネルギー密度かつ良好な出力特性をもつ二次電池を得ることができる。
【0248】
図11Cでは、グラフェンに代えてカーボンナノチューブ555を用いる正極の例を図示している。
図11Cは、
図11Bと異なる例を示している。カーボンナノチューブ555を用いるとアセチレンブラック553などのカーボンブラックの凝集を防ぎ、分散性を高めることができる。
【0249】
なお、
図11Cにおいて、活物質561、カーボンナノチューブ555、アセチレンブラック553で埋まっていない領域は、空隙またはバインダを指している。
【0250】
また、他の正極の例として、
図11Dを図示している。
図11Cでは、グラフェン554に加えてカーボンナノチューブ555を用いる例を示している。グラフェン554及びカーボンナノチューブ555の両方を用いると、アセチレンブラック553などのカーボンブラックの凝集を防ぎ、分散性をより高めることができる。
【0251】
なお、
図11Dにおいて、活物質561、カーボンナノチューブ555、グラフェン554、アセチレンブラック553で埋まっていない領域は、空隙またはバインダを指している。
【0252】
図11A乃至
図11Dのいずれか一の正極を用い、正極上にセパレータを重ね、セパレータ上に負極を重ねた積層体を収容する容器(外装体、金属缶など)などに入れ、容器に電解液を充填させることで二次電池を作製することができる。
【0253】
また、上記構成は、電解液を用いる二次電池の例を示したが特に限定されない。
【0254】
例えば、実施の形態1で示した正極活物質100を用いて半固体電池や全固体電池を作製することもできる。
【0255】
本明細書等において半固体電池とは、電解質層、正極、負極の少なくとも一に、半固体材料を有する電池をいう。ここでいう半固体とは、固体材料の比が50%であることは意味しない。半固体とは、体積変化が小さいといった固体の性質を有しつつも、柔軟性を有する等の液体に近い性質も一部持ち合わせることを意味する。これらの性質を満たせば、単一の材料でも、複数の材料であってもよい。たとえば液体の材料を、多孔質の固体材料に浸潤させた物であってもよい。
【0256】
また本明細書等において、ポリマー電解質二次電池とは、正極と負極の間の電解質層にポリマーを有する二次電池をいう。ポリマー電解質二次電池は、ドライ(または真性)ポリマー電解質電池、およびポリマーゲル電解質電池を含む。またポリマー電解質二次電池を半固体電池と呼んでもよい。
【0257】
実施の形態1で示した正極活物質100を用いて半固体電池を作製した場合、半固体電池は、充放電容量の大きい二次電池となる。また、充放電電圧の高い半固体電池とすることができる。または、安全性または信頼性の高い半固体電池を実現することができる。
【0258】
また実施の形態1で説明した正極活物質と、他の正極活物質を混合して用いてもよい。
【0259】
他の正極活物質としてはたとえばオリビン型の結晶構造、層状岩塩型の結晶構造、またはスピネル型の結晶構造を有する複合酸化物等がある。例えば、LiFePO4、LiFeO2、LiNiO2、LiMn2O4、V2O5、Cr2O5、MnO2等の化合物があげられる。
【0260】
また、他の正極活物質としてLiMn2O4等のマンガンを含むスピネル型の結晶構造を有するリチウム含有材料に、ニッケル酸リチウム(LiNiO2やLiNi1-xMxO2(0<x<1)(M=Co、Al等))を混合すると好ましい。該構成とすることによって、二次電池の特性を向上させることができる。
【0261】
また、他の正極活物質として、組成式LiaMnbMcOdで表すことができるリチウムマンガン複合酸化物を用いることができる。ここで、元素Mは、リチウム、マンガン以外から選ばれた金属元素、またはシリコン、リンを用いることが好ましく、ニッケルであることがさらに好ましい。また、リチウムマンガン複合酸化物の粒子全体を測定する場合、放電時に0<a/(b+c)<2、かつc>0、かつ0.26≦(b+c)/d<0.5を満たすことが好ましい。なお、リチウムマンガン複合酸化物の粒子全体の金属、シリコン、リン等の組成は、例えばICP-MS(誘導結合プラズマ質量分析計)を用いて測定することができる。またリチウムマンガン複合酸化物の粒子全体の酸素の組成は、例えばEDX(エネルギー分散型X線分析法)を用いて測定することが可能である。また、ICPMS分析と併用して、融解ガス分析、XAFS(X線吸収微細構造)分析の価数評価を用いることで求めることができる。なお、リチウムマンガン複合酸化物とは、少なくともリチウムとマンガンとを含む酸化物をいい、クロム、コバルト、アルミニウム、ニッケル、鉄、マグネシウム、モリブデン、亜鉛、インジウム、ガリウム、銅、チタン、ニオブ、シリコン、およびリンなどからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素を含んでいてもよい。
【0262】
<バインダ>
バインダとしては、例えば、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、スチレン-イソプレン-スチレンゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体などのゴム材料を用いることが好ましい。またバインダとして、フッ素ゴムを用いることができる。
【0263】
また、バインダとしては、例えば水溶性の高分子を用いることが好ましい。水溶性の高分子としては、例えば多糖類などを用いることができる。多糖類としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ジアセチルセルロース、再生セルロースなどのセルロース誘導体や、澱粉などを用いることができる。また、これらの水溶性の高分子を、前述のゴム材料と併用して用いると、さらに好ましい。
【0264】
または、バインダとしては、ポリスチレン、ポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メチル(ポリメチルメタクリレート、PMMA)、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド、ポリイミド、ポリ塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイソブチレン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリアクリロニトリル(PAN)、エチレンプロピレンジエンポリマー、ポリ酢酸ビニル、ニトロセルロース等の材料を用いることが好ましい。
【0265】
バインダは上記のうち複数を組み合わせて使用してもよい。
【0266】
例えば粘度調整効果の特に優れた材料と、他の材料とを組み合わせて使用してもよい。例えばゴム材料等は接着力や弾性力に優れる反面、溶媒に混合した場合に粘度調整が難しい場合がある。このような場合には例えば、粘度調整効果の特に優れた材料と混合することが好ましい。粘度調整効果の特に優れた材料としては、例えば水溶性高分子を用いるとよい。また、粘度調整効果に特に優れた水溶性高分子としては、前述の多糖類、例えばカルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースおよびジアセチルセルロース、再生セルロースなどのセルロース誘導体や、澱粉を用いることができる。
【0267】
なお、カルボキシメチルセルロースなどのセルロース誘導体は、例えばカルボキシメチルセルロースのナトリウム塩やアンモニウム塩などの塩とすることにより溶解度が上がり、粘度調整剤としての効果を発揮しやすくなる。溶解度が高くなることにより電極のスラリーを作製する際に活物質や他の構成要素との分散性を高めることもできる。本明細書等においては、電極のバインダとして使用するセルロースおよびセルロース誘導体としては、それらの塩も含むものとする。
【0268】
水溶性高分子は水に溶解することにより粘度を安定化させ、また活物質や、バインダとして組み合わせる他の材料、例えばスチレンブタジエンゴムなどを、水溶液中に安定して分散させることができる。また、官能基を有するために活物質表面に安定に吸着しやすいことが期待される。また、例えばカルボキシメチルセルロースなどのセルロース誘導体は、例えば水酸基やカルボキシル基などの官能基を有する材料が多く、官能基を有するために高分子同士が相互作用し、活物質表面を広く覆って存在することが期待される。
【0269】
活物質表面を覆う、または表面に接するバインダが膜を形成する場合には、不動態膜としての役割を果たして電解液の分解を抑える効果も期待される。ここで、不動態膜とは、電気の伝導性のない膜、または電気伝導性の極めて低い膜であり、例えば活物質の表面に不動態膜が形成された場合には、電池反応電位において、電解液の分解を抑制することができる。また、不動態膜は、電気の伝導性を抑えるとともに、リチウムイオンは伝導できるとさらに望ましい。
【0270】
<正極集電体>
集電体としては、ステンレス、金、白金、アルミニウム、チタン等の金属、及びこれらの合金など、導電性が高い材料をもちいることができる。また正極集電体に用いる材料は、正極の電位で溶出しないことが好ましい。また、シリコン、チタン、ネオジム、スカンジウム、モリブデンなどの耐熱性を向上させる元素が添加されたアルミニウム合金を用いることができる。また、シリコンと反応してシリサイドを形成する金属元素で形成してもよい。シリコンと反応してシリサイドを形成する金属元素としては、ジルコニウム、チタン、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、コバルト、ニッケル等がある。集電体は、箔状、板状、シート状、網状、パンチングメタル状、エキスパンドメタル状等の形状を適宜用いることができる。集電体は、厚みが5μm以上30μm以下のものを用いるとよい。
【0271】
[負極]
負極は、負極活物質層および負極集電体を有する。また、負極活物質層は負極活物質を有し、さらに導電助剤およびバインダを有していてもよい。
【0272】
<負極活物質>
負極活物質としては、例えば合金系材料や炭素系材料等を用いることができる。
【0273】
負極活物質として、リチウムとの合金化・脱合金化反応により充放電反応を行うことが可能な元素を用いることができる。例えば、シリコン、スズ、ガリウム、アルミニウム、ゲルマニウム、鉛、アンチモン、ビスマス、銀、亜鉛、カドミウム、インジウム等のうち少なくとも一つを含む材料を用いることができる。このような元素は炭素と比べて容量が大きく、特にシリコンは理論容量が4200mAh/gと高い。このため、負極活物質にシリコンを用いることが好ましい。また、これらの元素を有する化合物を用いてもよい。例えば、SiO、Mg2Si、Mg2Ge、SnO、SnO2、Mg2Sn、SnS2、V2Sn3、FeSn2、CoSn2、Ni3Sn2、Cu6Sn5、Ag3Sn、Ag3Sb、Ni2MnSb、CeSb3、LaSn3、La3Co2Sn7、CoSb3、InSb、SbSn等がある。ここで、リチウムとの合金化・脱合金化反応により充放電反応を行うことが可能な元素、および該元素を有する化合物等を合金系材料と呼ぶ場合がある。
【0274】
本明細書等において、SiOは例えば一酸化シリコンを指す。あるいはSiOは、SiOxと表すこともできる。ここでxは1または1近傍の値を有することが好ましい。例えばxは、0.2以上1.5以下が好ましく、0.3以上1.2以下が好ましい。
【0275】
炭素系材料としては、黒鉛、易黒鉛化性炭素(ソフトカーボン)、難黒鉛化性炭素(ハードカーボン)、カーボンナノチューブ、グラフェン、カーボンブラック等を用いればよい。
【0276】
黒鉛としては、人造黒鉛や、天然黒鉛等が挙げられる。人造黒鉛としては例えば、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、コークス系人造黒鉛、ピッチ系人造黒鉛等が挙げられる。ここで人造黒鉛として、球状の形状を有する球状黒鉛を用いることができる。例えば、MCMBは球状の形状を有する場合があり、好ましい。また、MCMBはその表面積を小さくすることが比較的容易であり、好ましい場合がある。天然黒鉛としては例えば、鱗片状黒鉛、球状化天然黒鉛等が挙げられる。
【0277】
黒鉛はリチウムイオンが黒鉛に挿入されたとき(リチウム-黒鉛層間化合物の生成時)にリチウム金属と同程度に低い電位を示す(0.05V以上0.3V以下 vs.Li/Li+)。これにより、黒鉛を用いたリチウムイオン二次電池は高い作動電圧を示すことができる。さらに、黒鉛は、単位体積当たりの容量が比較的高い、体積膨張が比較的小さい、安価である、リチウム金属に比べて安全性が高い等の利点を有するため、好ましい。
【0278】
また、負極活物質として、二酸化チタン(TiO2)、リチウムチタン酸化物(Li4Ti5O12)、リチウム-黒鉛層間化合物(LixC6)、五酸化ニオブ(Nb2O5)、酸化タングステン(WO2)、酸化モリブデン(MoO2)等の酸化物を用いることができる。
【0279】
また、負極活物質として、リチウムと遷移金属の複窒化物である、Li3N型構造をもつLi3-xMxN(M=Co、Ni、Cu)を用いることができる。例えば、Li2.6Co0.4N3は大きな充放電容量(900mAh/g、1890mAh/cm3)を示し好ましい。
【0280】
リチウムと遷移金属の複窒化物を用いると、負極活物質中にリチウムイオンを含むため、正極活物質としてリチウムイオンを含まないV2O5、Cr3O8等の材料と組み合わせることができ好ましい。なお、正極活物質にリチウムイオンを含む材料を用いる場合でも、あらかじめ正極活物質に含まれるリチウムイオンを脱離させることで、負極活物質としてリチウムと遷移金属の複窒化物を用いることができる。
【0281】
また、コンバージョン反応が生じる材料を負極活物質として用いることもできる。例えば、酸化コバルト(CoO)、酸化ニッケル(NiO)、酸化鉄(FeO)等の、リチウムとの合金を作らない遷移金属酸化物を負極活物質に用いてもよい。コンバージョン反応が生じる材料としては、さらに、Fe2O3、CuO、Cu2O、RuO2、Cr2O3等の酸化物、CoS0.89、NiS、CuS等の硫化物、Zn3N2、Cu3N、Ge3N4等の窒化物、NiP2、FeP2、CoP3等のリン化物、FeF3、BiF3等のフッ化物でも起こる。
【0282】
負極活物質層が有することのできる導電助剤およびバインダとしては、正極活物質層が有することのできる導電助剤およびバインダと同様の材料を用いることができる。
【0283】
<負極集電体>
負極集電体には、正極集電体と同様の材料に加え、銅なども用いることができる。なお負極集電体は、リチウム等のキャリアイオンと合金化しない材料を用いることが好ましい。
【0284】
[セパレータ]
正極と負極の間にセパレータを配置する。セパレータとしては、例えば、紙をはじめとするセルロースを有する繊維、不織布、ガラス繊維、セラミックス、或いはナイロン(ポリアミド)、ビニロン(ポリビニルアルコール系繊維)、ポリエステル、アクリル、ポリオレフィン、ポリウレタンを用いた合成繊維等で形成されたものを用いることができる。セパレータは袋状に加工し、正極または負極のいずれか一方を包むように配置することが好ましい。
【0285】
セパレータは多層構造であってもよい。例えばポリプロピレン、ポリエチレン等の有機材料フィルムに、セラミック系材料、フッ素系材料、ポリアミド系材料、またはこれらを混合したもの等をコートすることができる。セラミック系材料としては、例えば酸化アルミニウム粒子、酸化シリコン粒子等を用いることができる。フッ素系材料としては、例えばPVDF、ポリテトラフルオロエチレン等を用いることができる。ポリアミド系材料としては、例えばナイロン、アラミド(メタ系アラミド、パラ系アラミド)等を用いることができる。
【0286】
セラミック系材料をコートすると耐酸化性が向上するため、高電圧充放電の際のセパレータの劣化を抑制し、二次電池の信頼性を向上させることができる。またフッ素系材料をコートするとセパレータと電極が密着しやすくなり、出力特性を向上させることができる。ポリアミド系材料、特にアラミドをコートすると、耐熱性が向上するため、二次電池の安全性を向上させることができる。
【0287】
例えばポリプロピレンのフィルムの両面に酸化アルミニウムとアラミドの混合材料をコートしてもよい。また、ポリプロピレンのフィルムの、正極と接する面に酸化アルミニウムとアラミドの混合材料をコートし、負極と接する面にフッ素系材料をコートしてもよい。
【0288】
多層構造のセパレータを用いると、セパレータ全体の厚さが薄くても二次電池の安全性を保つことができるため、二次電池の体積あたりの容量を大きくすることができる。
【0289】
[電解液]
電解液は、溶媒と電解質を有する。電解液の溶媒としては、非プロトン性有機溶媒が好ましく、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、酪酸メチル、1,3-ジオキサン、1,4-ジオキサン、ジメトキシエタン(DME)、ジメチルスルホキシド、ジエチルエーテル、メチルジグライム、アセトニトリル、ベンゾニトリル、テトラヒドロフラン、スルホラン、スルトン等の1種、又はこれらのうちの2種以上を任意の組み合わせおよび比率で用いることができる。
【0290】
また、電解液の溶媒として、難燃性および難揮発性であるイオン液体(常温溶融塩)を一つ又は複数用いることで、蓄電装置の内部短絡や、過充電等によって内部温度が上昇しても、蓄電装置の破裂や発火などを防ぐことができる。イオン液体は、カチオンとアニオンからなり、有機カチオンとアニオンとを含む。電解液に用いる有機カチオンとして、四級アンモニウムカチオン、三級スルホニウムカチオン、および四級ホスホニウムカチオン等の脂肪族オニウムカチオンや、イミダゾリウムカチオンおよびピリジニウムカチオン等の芳香族カチオンが挙げられる。また、電解液に用いるアニオンとして、1価のアミド系アニオン、1価のメチド系アニオン、フルオロスルホン酸アニオン、パーフルオロアルキルスルホン酸アニオン、テトラフルオロボレートアニオン、パーフルオロアルキルボレートアニオン、ヘキサフルオロホスフェートアニオン、またはパーフルオロアルキルホスフェートアニオン等が挙げられる。
【0291】
また、上記の溶媒に溶解させる電解質としては、例えばLiPF6、LiClO4、LiAsF6、LiBF4、LiAlCl4、LiSCN、LiBr、LiI、Li2SO4、Li2B10Cl10、Li2B12Cl12、LiCF3SO3、LiC4F9SO3、LiC(CF3SO2)3、LiC(C2F5SO2)3、LiN(CF3SO2)2、LiN(C4F9SO2)(CF3SO2)、LiN(C2F5SO2)2、リチウムビス(オキサレート)ボレート(Li(C2O4)2、LiBOB)等のリチウム塩を一種、又はこれらのうちの二種以上を任意の組み合わせおよび比率で用いることができる。
【0292】
蓄電装置に用いる電解液は、粒状のごみや電解液の構成元素以外の元素(以下、単に「不純物」ともいう。)の含有量が少ない高純度化された電解液を用いることが好ましい。具体的には、電解液に対する不純物の重量比を1%以下、好ましくは0.1%以下、より好ましくは0.01%以下とすることが好ましい。
【0293】
また、電解液にビニレンカーボネート、プロパンスルトン(PS)、tert-ブチルベンゼン(TBB)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、リチウムビス(オキサレート)ボレート(LiBOB)、またスクシノニトリル、アジポニトリル等のジニトリル化合物などの添加剤を添加してもよい。添加剤の濃度は、例えば溶媒全体に対して0.1wt%以上5wt%以下とすればよい。
【0294】
また、ポリマーを電解液で膨潤させたポリマーゲル電解質を用いてもよい。
【0295】
ポリマーゲル電解質を用いることで、漏液性等に対する安全性が高まる。また、二次電池の薄型化および軽量化が可能である。
【0296】
ゲル化されるポリマーとして、シリコーンゲル、アクリルゲル、アクリロニトリルゲル、ポリエチレンオキサイド系ゲル、ポリプロピレンオキサイド系ゲル、フッ素系ポリマーのゲル等を用いることができる。例えばポリエチレンオキシド(PEO)などのポリアルキレンオキシド構造を有するポリマーや、PVDF、およびポリアクリロニトリル等、およびそれらを含む共重合体等を用いることができる。例えばPVDFとヘキサフルオロプロピレン(HFP)の共重合体であるPVDF-HFPを用いることができる。また、形成されるポリマーは、多孔質形状を有してもよい。
【0297】
また、電解液の代わりに、硫化物系や酸化物系等の無機物材料を有する固体電解質や、PEO(ポリエチレンオキシド)系等の高分子材料を有する固体電解質を用いることができる。固体電解質を用いる場合には、セパレータやスペーサの設置が不要となる。また、電池全体を固体化できるため、漏液のおそれがなくなり安全性が飛躍的に向上する。
【0298】
よって、実施の形態1で得られる正極活物質100は全固体電池にも応用が可能である。全固体電池に該正極スラリーまたは電極を応用することによって、安全性が高く、特性が良好な全固体電池を得ることができる。
【0299】
[外装体]
二次電池が有する外装体としては、例えばアルミニウムなどの金属材料や樹脂材料を用いることができる。また、フィルム状の外装体を用いることもできる。フィルムとしては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、アイオノマー、ポリアミド等の材料からなる膜上に、アルミニウム、ステンレス、銅、ニッケル等の可撓性に優れた金属薄膜を設け、さらに該金属薄膜上に外装体の外面としてポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂等の絶縁性合成樹脂膜を設けた三層構造のフィルムを用いることができる。
【0300】
本実施の形態は、他の実施の形態を組み合わせて用いることができる。
【0301】
(実施の形態4)
本実施の形態では、先の実施の形態で説明した作製方法によって作製された正極または負極を有する二次電池の複数種類の形状の例について説明する。
【0302】
[コイン型二次電池]
コイン型の二次電池の一例について説明する。
図12Aはコイン型(単層偏平型)の二次電池の分解斜視図であり、
図12Bは、外観図であり、
図12Cは、その断面図である。コイン型の二次電池は主に小型の電子機器に用いられる。
【0303】
図12Aでは、わかりやすくするために部材の重なり(上下関係、及び位置関係)がわかるように模式図としている。従って
図12Aと
図12Bは完全に一致する対応図とはしていない。
【0304】
図12Aでは、正極304、セパレータ310、負極307、スペーサ322、ワッシャー312を重ねている。これらを負極缶302と正極缶301で封止している。なお、
図15Aにおいて、封止のためのガスケットは図示していない。スペーサ322、ワッシャー312は、正極缶301と負極缶302を圧着する際に、内部を保護または缶内の位置を固定するために用いられている。スペーサ322、ワッシャー312はステンレスまたは絶縁材料を用いる。
【0305】
正極集電体305上に正極活物質層306が形成された積層構造を正極304としている。
【0306】
正極と負極の短絡を防ぐため、セパレータ310と、リング状絶縁体313を正極304の側面及び上面を覆うようにそれぞれ配置する。セパレータ310は、正極304よりも広い平面面積を有している。
【0307】
図12Bは、完成したコイン型の二次電池の斜視図である。
【0308】
コイン型の二次電池300は、正極端子を兼ねた正極缶301と負極端子を兼ねた負極缶302とが、ポリプロピレン等で形成されたガスケット303で絶縁シールされている。正極304は、正極集電体305と、これと接するように設けられた正極活物質層306により形成される。また、負極307は、負極集電体308と、これに接するように設けられた負極活物質層309により形成される。また、負極307は、積層構造に限定されず、リチウム金属箔またはリチウムとアルミニウムの合金箔を用いてもよい。
【0309】
なお、コイン型の二次電池300に用いる正極304および負極307は、それぞれ活物質層は片面のみに形成すればよい。
【0310】
正極缶301、負極缶302には、電解液に対して耐食性のあるニッケル、アルミニウム、チタン等の金属、又はこれらの合金やこれらと他の金属との合金(例えばステンレス鋼等)を用いることができる。また、電解液などによる腐食を防ぐため、ニッケルやアルミニウム等を被覆することが好ましい。正極缶301は正極304と、負極缶302は負極307とそれぞれ電気的に接続する。
【0311】
これら負極307、正極304およびセパレータ310を電解液に浸し、
図12Cに示すように、正極缶301を下にして正極304、セパレータ310、負極307、負極缶302をこの順で積層し、正極缶301と負極缶302とをガスケット303を介して圧着してコイン形の二次電池300を製造する。
【0312】
二次電池とすることで、高容量、且つ、充放電容量が高く、且つ、サイクル特性に優れたコイン型の二次電池300とすることができる。なお、負極307、正極304の間に二次電池とする場合にはセパレータ310を不要とすることもできる。
【0313】
[円筒型二次電池]
円筒型の二次電池の例について
図13Aを参照して説明する。円筒型の二次電池616は、
図13Aに示すように、上面に正極キャップ(電池蓋)601を有し、側面及び底面に電池缶(外装缶)602を有している。これら正極キャップ601と電池缶(外装缶)602とは、ガスケット(絶縁パッキン)610によって絶縁されている。
【0314】
図13Bは、円筒型の二次電池の断面を模式的に示した図である。
図13Bに示す円筒型の二次電池は、上面に正極キャップ(電池蓋)601を有し、側面および底面に電池缶(外装缶)602を有している。これら正極キャップと電池缶(外装缶)602とは、ガスケット(絶縁パッキン)610によって絶縁されている。
【0315】
中空円柱状の電池缶602の内側には、帯状の正極604と負極606とがセパレータ605を間に挟んで捲回された電池素子が設けられている。図示しないが、電池素子は中心軸を中心に捲回されている。電池缶602は、一端が閉じられ、他端が開いている。電池缶602には、電解液に対して耐腐食性のあるニッケル、アルミニウム、チタン等の金属、又はこれらの合金やこれらと他の金属との合金(例えば、ステンレス鋼等)を用いることができる。また、電解液による腐食を防ぐため、ニッケルやアルミニウム等を電池缶602に被覆することが好ましい。電池缶602の内側において、正極、負極およびセパレータが捲回された電池素子は、対向する一対の絶縁板608、609により挟まれている。また、電池素子が設けられた電池缶602の内部は、非水電解液(図示せず)が注入されている。非水電解液は、コイン型の二次電池と同様のものを用いることができる。
【0316】
円筒型の蓄電池に用いる正極および負極は捲回するため、集電体の両面に活物質を形成することが好ましい。
【0317】
実施の形態1で得られる正極活物質100を正極604に用いることで、高容量、且つ、充放電容量が高く、且つ、サイクル特性に優れた円筒型の二次電池616とすることができる。
【0318】
正極604には正極端子(正極集電リード)603が接続され、負極606には負極端子(負極集電リード)607が接続される。正極端子603および負極端子607は、ともにアルミニウムなどの金属材料を用いることができる。正極端子603は安全弁機構613に、負極端子607は電池缶602の底にそれぞれ抵抗溶接される。安全弁機構613は、PTC素子(Positive Temperature Coefficient)611を介して正極キャップ601と電気的に接続されている。安全弁機構613は電池の内圧の上昇が所定の閾値を超えた場合に、正極キャップ601と正極604との電気的な接続を切断するものである。また、PTC素子611は温度が上昇した場合に抵抗が増大する熱感抵抗素子であり、抵抗の増大により電流量を制限して異常発熱を防止するものである。PTC素子には、チタン酸バリウム(BaTiO3)系半導体セラミックス等を用いることができる。
【0319】
図13Cは蓄電システム615の一例を示す。蓄電システム615は複数の二次電池616を有する。それぞれの二次電池の正極は、絶縁体625で分離された導電体624に接触し、電気的に接続されている。導電体624は配線623を介して、制御回路620に電気的に接続されている。また、それぞれの二次電池の負極は、配線626を介して制御回路620に電気的に接続されている。制御回路620として、充放電などを行う充放電制御回路や過充電または過放電を防止する保護回路を適用することができる。
【0320】
図13Dは、蓄電システム615の一例を示す。蓄電システム615は複数の二次電池616を有し、複数の二次電池616は、導電板628及び導電板614の間に挟まれている。複数の二次電池616は、配線627により導電板628及び導電板614と電気的に接続される。複数の二次電池616は、並列接続されていてもよいし、直列接続されていてもよいし、並列に接続された後さらに直列に接続されていてもよい。複数の二次電池616を有する蓄電システム615を構成することで、大きな電力を取り出すことができる。
【0321】
複数の二次電池616が、並列に接続された後、さらに直列に接続されてもよい。
【0322】
複数の二次電池616の間に温度制御装置を有していてもよい。二次電池616が過熱されたときは、温度制御装置により冷却し、二次電池616が冷えすぎているときは温度制御装置により加熱することができる。そのため蓄電システム615の性能が外気温に影響されにくくなる。
【0323】
また、
図13Dにおいて、蓄電システム615は制御回路620に配線621及び配線622を介して電気的に接続されている。配線621は導電板628を介して複数の二次電池の正極に、配線622は導電板614を介して複数の二次電池の負極に、それぞれ電気的に接続される。
【0324】
[二次電池の他の構造例]
二次電池の構造例について
図14及び
図15を用いて説明する。
【0325】
図14Aに示す二次電池913は、筐体930の内部に端子951と端子952が設けられた捲回体950を有する。捲回体950は、筐体930の内部で電解液中に浸される。端子952は、筐体930に接し、端子951は、絶縁材などを用いることにより筐体930に接していない。なお、
図14Aでは、便宜のため、筐体930を分離して図示しているが、実際は、捲回体950が筐体930に覆われ、端子951及び端子952が筐体930の外に延在している。筐体930としては、金属材料(例えばアルミニウムなど)又は樹脂材料を用いることができる。
【0326】
なお、
図14Bに示すように、
図14Aに示す筐体930を複数の材料によって形成してもよい。例えば、
図14Bに示す二次電池913は、筐体930aと筐体930bが貼り合わされており、筐体930a及び筐体930bで囲まれた領域に捲回体950が設けられている。
【0327】
筐体930aとしては、有機樹脂など、絶縁材料を用いることができる。特に、アンテナが形成される面に有機樹脂などの材料を用いることにより、二次電池913による電界の遮蔽を抑制できる。なお、筐体930aによる電界の遮蔽が小さければ、筐体930aの内部にアンテナを設けてもよい。筐体930bとしては、例えば金属材料を用いることができる。
【0328】
さらに、捲回体950の構造について
図14Cに示す。捲回体950は、負極931と、正極932と、セパレータ933と、を有する。捲回体950は、セパレータ933を挟んで負極931と、正極932が重なり合って積層され、該積層シートを捲回させた捲回体である。なお、負極931と、正極932と、セパレータ933と、の積層を、さらに複数重ねてもよい。
【0329】
また、
図15に示すような捲回体950aを有する二次電池913としてもよい。
図15Aに示す捲回体950aは、負極931と、正極932と、セパレータ933と、を有する。負極931は負極活物質層931aを有する。正極932は正極活物質層932aを有する。
【0330】
実施の形態1で得られる正極活物質100を正極932に用いることで、高容量、且つ、充放電容量が高く、且つ、サイクル特性に優れた二次電池913とすることができる。
【0331】
セパレータ933は、負極活物質層931aおよび正極活物質層932aよりも広い幅を有し、負極活物質層931aおよび正極活物質層932aと重畳するように捲回されている。また正極活物質層932aよりも負極活物質層931aの幅が広いことが安全性の点で好ましい。またこのような形状の捲回体950aは安全性および生産性がよく好ましい。
【0332】
図15Bに示すように、負極931は端子951と電気的に接続される。端子951は端子911aと電気的に接続される。また正極932は端子952と電気的に接続される。端子952は端子911bと電気的に接続される。
【0333】
図15Cに示すように、筐体930により捲回体950aおよび電解液が覆われ、二次電池913となる。筐体930には安全弁、過電流保護素子等を設けることが好ましい。安全弁は、電池破裂を防止するため、筐体930の内部が所定の内圧で開放する弁である。
【0334】
図15Bに示すように二次電池913は複数の捲回体950aを有していてもよい。複数の捲回体950aを用いることで、より充放電容量の大きい二次電池913とすることができる。
図15Aおよび
図15Bに示す二次電池913の他の要素は、
図14A乃至
図14Cに示す二次電池913の記載を参酌することができる。
【0335】
<ラミネート型二次電池>
次に、ラミネート型の二次電池の例について、外観図の一例を
図16A及び
図16Bに示す。
図16A及び
図16Bは、正極503、負極506、セパレータ507、外装体509、正極リード電極510及び負極リード電極511を有する。
【0336】
図17Aは正極503及び負極506の外観図を示す。正極503は正極集電体501を有し、正極活物質層502は正極集電体501の表面に形成されている。また、正極503は正極集電体501が一部露出する領域(以下、タブ領域という)を有する。負極506は負極集電体504を有し、負極活物質層505は負極集電体504の表面に形成されている。また、負極506は負極集電体504が一部露出する領域、すなわちタブ領域を有する。正極及び負極が有するタブ領域の面積や形状は、
図17Aに示す例に限られない。
【0337】
<ラミネート型二次電池の作製方法>
ここで、
図16Aに外観図を示すラミネート型二次電池の作製方法の一例について、
図17B及び
図17Cを用いて説明する。
【0338】
まず、負極506、セパレータ507及び正極503を積層する。
図17Bに積層された負極506、セパレータ507及び正極503を示す。ここでは負極を5組、正極を4組使用する例を示す。負極とセパレータと正極からなる積層体とも呼べる。次に、正極503のタブ領域同士の接合と、最表面の正極のタブ領域への正極リード電極510の接合を行う。接合には、例えば超音波溶接等を用いればよい。同様に、負極506のタブ領域同士の接合と、最表面の負極のタブ領域への負極リード電極511の接合を行う。
【0339】
次に外装体509上に、負極506、セパレータ507及び正極503を配置する。
【0340】
次に、
図17Cに示すように、外装体509を破線で示した部分で折り曲げる。その後、外装体509の外周部を接合する。接合には例えば熱圧着等を用いればよい。この時、後に電解液を入れることができるように、外装体509の一部(または一辺)に接合されない領域(以下、導入口という)を設ける。
【0341】
次に、外装体509に設けられた導入口から、電解液(図示しない。)を外装体509の内側へ導入する。電解液の導入は、減圧雰囲気下、或いは不活性雰囲気下で行うことが好ましい。そして最後に、導入口を接合する。このようにして、ラミネート型の二次電池500を作製することができる。
【0342】
実施の形態1で得られる正極活物質100を正極503に用いることで、高容量、且つ、充放電容量が高く、且つ、サイクル特性に優れた二次電池500とすることができる。
【0343】
[電池パックの例]
アンテナを用いて無線充電が可能な本発明の一態様の二次電池パックの例について、
図18を用いて説明する。
【0344】
図18Aは、二次電池パック531の外観を示す図であり、厚さの薄い直方体形状(厚さのある平板形状とも呼べる)である。
図18Bは二次電池パック531の構成を説明する図である。二次電池パック531は、回路基板540と、二次電池513と、を有する。二次電池513には、ラベル529が貼られている。回路基板540は、シール515により固定されている。また、二次電池パック531は、アンテナ517を有する。
【0345】
二次電池513の内部は、捲回体を有する構造にしてもよいし、積層体を有する構造にしてもよい。
【0346】
二次電池パック531において例えば、
図18Bに示すように、回路基板540上に、制御回路590を有する。また、回路基板540は、端子514と電気的に接続されている。また回路基板540は、アンテナ517、二次電池513の正極リード及び負極リードの一方551、正極リード及び負極リードの他方552と電気的に接続される。
【0347】
あるいは、
図18Cに示すように、回路基板540上に設けられる回路システム590aと、端子514を介して回路基板540に電気的に接続される回路システム590bと、を有してもよい。
【0348】
なお、アンテナ517はコイル状に限定されず、例えば線状、板状であってもよい。また、平面アンテナ、開口面アンテナ、進行波アンテナ、EHアンテナ、磁界アンテナ、誘電体アンテナ等のアンテナを用いてもよい。又は、アンテナ517は、平板状の導体でもよい。この平板状の導体は、電界結合用の導体の一つとして機能することができる。つまり、コンデンサの有する2つの導体のうちの一つの導体として、アンテナ517を機能させてもよい。これにより、電磁界、磁界だけでなく、電界で電力のやり取りを行うこともできる。
【0349】
二次電池パック531は、アンテナ517と、二次電池513との間に層519を有する。層519は、例えば二次電池513による電磁界を遮蔽することができる機能を有する。層519としては、例えば磁性体を用いることができる。
【0350】
本実施の形態は他の実施の形態と自由に組み合わせることができる。
【0351】
(実施の形態5)
本実施の形態では、実施の形態1で得られる正極活物質100を用いて全固体電池を作製する例を示す。
【0352】
図19Aに示すように、本発明の一態様の二次電池400は、正極410、固体電解質層420および負極430を有する。
【0353】
正極410は正極集電体413および正極活物質層414を有する。正極活物質層414は正極活物質411および固体電解質421を有する。正極活物質411には、実施の形態1で得られる正極活物質100を用いており、コア領域とシェル領域の境界を点線で示している。また正極活物質層414は、導電助剤およびバインダを有していてもよい。
【0354】
固体電解質層420は固体電解質421を有する。固体電解質層420は、正極410と負極430の間に位置し、正極活物質411および負極活物質431のいずれも有さない領域である。
【0355】
負極430は負極集電体433および負極活物質層434を有する。負極活物質層434は負極活物質431および固体電解質421を有する。また負極活物質層434は、導電助剤およびバインダを有していてもよい。なお、負極430に金属リチウムを用いる場合は、
図19Bのように、固体電解質421を有さない負極430とすることができる。負極430に金属リチウムを用いると、二次電池400のエネルギー密度を向上させることができ好ましい。
【0356】
固体電解質層420が有する固体電解質421としては、例えば硫化物系固体電解質、酸化物系固体電解質、ハロゲン化物系固体電解質等を用いることができる。
【0357】
硫化物系固体電解質には、チオシリコン系(Li10GeP2S12、Li3.25Ge0.25P0.75S4等)、硫化物ガラス(70Li2S・30P2S5、30Li2S・26B2S3・44LiI、63Li2S・38SiS2・1Li3PO4、57Li2S・38SiS2・5Li4SiO4、50Li2S・50GeS2等)、硫化物結晶化ガラス(Li7P3S11、Li3.25P0.95S4等)が含まれる。硫化物系固体電解質は、高い伝導度を有する材料がある、低い温度で合成可能、また比較的やわらかいため充放電を経ても導電経路が保たれやすい等の利点がある。
【0358】
酸化物系固体電解質には、ペロブスカイト型結晶構造を有する材料(La2/3-xLi3xTiO3等)、NASICON型結晶構造を有する材料(Li1-YAlYTi2-Y(PO4)3等)、ガーネット型結晶構造を有する材料(Li7La3Zr2O12等)、LISICON型結晶構造を有する材料(Li14ZnGe4O16等)、LLZO(Li7La3Zr2O12)、酸化物ガラス(Li3PO4-Li4SiO4、50Li4SiO4・50Li3BO3等)、酸化物結晶化ガラス(Li1.07Al0.69Ti1.46(PO4)3、Li1.5Al0.5Ge1.5(PO4)3等)が含まれる。酸化物系固体電解質は、大気中で安定であるといった利点がある。
【0359】
ハロゲン化物系固体電解質には、LiAlCl4、Li3InBr6、LiF、LiCl、LiBr、LiI等が含まれる。また、これらハロゲン化物系固体電解質を、ポーラス酸化アルミニウムやポーラスシリカの細孔に充填したコンポジット材料も固体電解質として用いることができる。
【0360】
また、異なる固体電解質を混合して用いてもよい。
【0361】
中でも、NASICON型結晶構造を有するLi1+xAlxTi2-x(PO4)3(0<x<1)(以下、LATP)は、アルミニウムとチタンという、本発明の一態様の二次電池400に用いる正極活物質が有してもよい元素を含むため、サイクル特性の向上について相乗効果が期待でき好ましい。また、工程の削減による生産性の向上も期待できる。なお本明細書等において、NASICON型結晶構造とは、M2(XO4)3(M:遷移金属、X:S、P、As、Mo、W等)で表される化合物であり、MO6八面体とXO4四面体が頂点を共有して3次元的に配列した構造を有するものをいう。
【0362】
〔外装体と二次電池の形状〕
本発明の一態様の二次電池400の外装体には、様々な材料および形状のものを用いることができるが、正極、固体電解質層および負極を加圧する機能を有することが好ましい。
【0363】
例えば
図20は、全固体電池の材料を評価するセルの一例である。
【0364】
図20Aは評価セルの断面図であり、評価セルは、下部部材761と、上部部材762と、それらを固定する固定ねじや蝶ナット764を有し、押さえ込みねじ763を回転させることで電極用プレート753を押して評価材料を固定している。ステンレス材料で構成された下部部材761と、上部部材762との間には絶縁体766が設けられている。また上部部材762と、押さえ込みねじ763の間には密閉するためのOリング765が設けられている。
【0365】
評価材料は、電極用プレート751に載せられ、周りを絶縁管752で囲み、上方から電極用プレート753で押されている状態となっている。この評価材料周辺を拡大した斜視図が
図20Bである。
【0366】
評価材料としては、正極750a、固体電解質層750b、負極750cの積層の例を示しており、断面図を
図20Cに示す。なお、
図20A乃至
図20Cにおいて同じ箇所には同じ符号を用いる。
【0367】
正極750aと電気的に接続される電極用プレート751および下部部材761は、正極端子に相当するということができる。負極750cと電気的に接続される電極用プレート753および上部部材762は、負極端子に相当するということができる。電極用プレート751および電極用プレート753を介して評価材料に押圧をかけながら電気抵抗などを測定することができる。
【0368】
また、本発明の一態様の二次電池の外装体には、気密性に優れたパッケージを使用することが好ましい。例えばセラミックパッケージや樹脂パッケージを用いることができる。また、外装体を封止する際には、外気を遮断し、密閉した雰囲気下、例えばグローブボックス内で行うことが好ましい。
【0369】
図21Aに、
図20と異なる外装体および形状を有する本発明の一態様の二次電池の斜視図を示す。
図21Aの二次電池は、外部電極771、772を有し、複数のパッケージ部材を有する外装体で封止されている。
【0370】
図21A中の一点破線で切断した断面の一例を
図21Bに示す。正極750a、固体電解質層750bおよび負極750cを有する積層体は、平板に電極層773aが設けられたパッケージ部材770aと、枠状のパッケージ部材770bと、平板に電極層773bが設けられたパッケージ部材770cと、で囲まれて封止された構造となっている。パッケージ部材770a、770b、770cには、絶縁材料、例えば樹脂材料やセラミックを用いることができる。
【0371】
外部電極771は、電極層773aを介して電気的に正極750aと電気的に接続され、正極端子として機能する。また、外部電極772は、電極層773bを介して電気的に負極750cと電気的に接続され、負極端子として機能する。
【0372】
実施の形態1で得られる正極活物質100を用いることで、高エネルギー密度かつ良好な出力特性をもつ全固体二次電池を実現することができる。
【0373】
本実施の形態は、他の実施の形態と適宜組み合わせて用いることができる。
【0374】
(実施の形態6)
本実施の形態では、円筒型の二次電池である
図13Dとは異なる例である。
図22Cを用いて電気自動車(EV)に適用する例を示す。
【0375】
電気自動車には、メインの駆動用の二次電池として第1のバッテリ1301a、1301bと、モータ1304を始動させるインバータ1312に電力を供給する第2のバッテリ1311が設置されている。第2のバッテリ1311はクランキングバッテリー(スターターバッテリーとも呼ばれる)とも呼ばれる。第2のバッテリ1311は高出力できればよく、大容量はそれほど必要とされず、第2のバッテリ1311の容量は第1のバッテリ1301a、1301bと比較して小さい。
【0376】
第1のバッテリ1301aの内部構造は、
図14Aまたは
図15Cに示した巻回型であってもよいし、
図16Aまたは
図16Bに示した積層型であってもよい。また、第1のバッテリ1301aは、実施の形態5の全固体電池を用いてもよい。第1のバッテリ1301aに実施の形態5の全固体電池を用いることで高容量とすることができ、安全性が向上し、小型化、軽量化することができる。
【0377】
本実施の形態では、第1のバッテリ1301a、1301bを2つ並列に接続させている例を示しているが3つ以上並列に接続させてもよい。また、第1のバッテリ1301aで十分な電力を貯蔵できるのであれば、第1のバッテリ1301bはなくてもよい。複数の二次電池を有する電池パックを構成することで、大きな電力を取り出すことができる。複数の二次電池は、並列接続されていてもよいし、直列接続されていてもよいし、並列に接続された後、さらに直列に接続されていてもよい。複数の二次電池を組電池とも呼ぶ。
【0378】
また、車載用の二次電池において、複数の二次電池からの電力を遮断するため、工具を使わずに高電圧を遮断できるサービスプラグまたはサーキットブレーカを有しており、第1のバッテリ1301aに設けられる。
【0379】
また、第1のバッテリ1301a、1301bの電力は、主にモータ1304を回転させることに使用されるが、DCDC回路1306を介して42V系の車載部品(電動パワステ1307、ヒーター1308、デフォッガ1309など)に電力を供給する。後輪にリアモータ1317を有している場合にも、第1のバッテリ1301aがリアモータ1317を回転させることに使用される。
【0380】
また、第2のバッテリ1311は、DCDC回路1310を介して14V系の車載部品(オーディオ1313、パワーウィンドウ1314、ランプ類1315など)に電力を供給する。
【0381】
また、第1のバッテリ1301aについて、
図22Aを用いて説明する。
【0382】
図22Aでは9個の角型二次電池1300を一つの電池パック1415としている例を示している。また、9個の角型二次電池1300を直列接続し、一方の電極を絶縁体からなる固定部1413で固定し、もう一方の電極を絶縁体からなる固定部1414で固定している。本実施の形態では固定部1413、1414で固定する例を示しているが電池収容ボックス(筐体とも呼ぶ)に収納させる構成としてもよい。車両は外部(路面など)から振動または揺れが加えられることを想定されているため、固定部1413、1414や。電池収容ボックスなどで複数の二次電池を固定することが好ましい。また、一方の電極は配線1421によって制御回路部1320に電気的に接続されている。またもう一方の電極は配線1422によって制御回路部1320に電気的に接続されている。
【0383】
また、制御回路部1320は、酸化物半導体を用いたトランジスタを含むメモリ回路を用いてもよい。酸化物半導体を用いたトランジスタを含むメモリ回路を有する充電制御回路、又は電池制御システムを、BTOS(Battery operating system、又はBattery oxide semiconductor)と呼称する場合がある。
【0384】
酸化物半導体として機能する金属酸化物を用いることが好ましい。例えば、酸化物として、In-M-Zn酸化物(元素Mは、アルミニウム、ガリウム、イットリウム、銅、バナジウム、ベリリウム、ホウ素、チタン、鉄、ニッケル、ゲルマニウム、ジルコニウム、モリブデン、ランタン、セリウム、ネオジム、ハフニウム、タンタル、タングステン、又はマグネシウム等から選ばれた一種、又は複数種)等の金属酸化物を用いるとよい。特に、酸化物として適用できるIn-M-Zn酸化物は、CAAC-OS(C-Axis Aligned Crystal Oxide Semiconductor)、CAC-OS(Cloud-Aligned Composite Oxide Semiconductor)であることが好ましい。また、酸化物として、In-Ga酸化物、In-Zn酸化物を用いてもよい。CAAC-OSは、複数の結晶領域を有し、当該複数の結晶領域はc軸が特定の方向に配向している酸化物半導体である。なお、特定の方向とは、CAAC-OS膜の厚さ方向、CAAC-OS膜の被形成面の法線方向、またはCAAC-OS膜の表面の法線方向である。また、結晶領域とは、原子配列に周期性を有する領域である。なお、原子配列を格子配列とみなすと、結晶領域とは、格子配列の揃った領域でもある。さらに、CAAC-OSは、a-b面方向において複数の結晶領域が連結する領域を有し、当該領域は歪みを有する場合がある。なお、歪みとは、複数の結晶領域が連結する領域において、格子配列の揃った領域と、別の格子配列の揃った領域と、の間で格子配列の向きが変化している箇所を指す。つまり、CAAC-OSは、c軸配向し、a-b面方向には明らかな配向をしていない酸化物半導体である。また、CAC-OSとは、例えば、金属酸化物を構成する元素が、0.5nm以上10nm以下、好ましくは、1nm以上3nm以下、またはその近傍のサイズで偏在した材料の一構成である。なお、以下では、金属酸化物において、一つまたは複数の金属元素が偏在し、該金属元素を有する領域が、0.5nm以上10nm以下、好ましくは、1nm以上3nm以下、またはその近傍のサイズで混合した状態をモザイク状、またはパッチ状ともいう。
【0385】
さらに、CAC-OSとは、第1の領域と、第2の領域と、に材料が分離することでモザイク状となり、当該第1の領域が、膜中に分布した構成(以下、クラウド状ともいう。)である。つまり、CAC-OSは、当該第1の領域と、当該第2の領域とが、混合している構成を有する複合金属酸化物である。
【0386】
ここで、In-Ga-Zn酸化物におけるCAC-OSを構成する金属元素に対するIn、Ga、およびZnの原子数比のそれぞれを、[In]、[Ga]、および[Zn]と表記する。例えば、In-Ga-Zn酸化物におけるCAC-OSにおいて、第1の領域は、[In]が、CAC-OS膜の組成における[In]よりも大きい領域である。また、第2の領域は、[Ga]が、CAC-OS膜の組成における[Ga]よりも大きい領域である。または、例えば、第1の領域は、[In]が、第2の領域における[In]よりも大きく、且つ、[Ga]が、第2の領域における[Ga]よりも小さい領域である。また、第2の領域は、[Ga]が、第1の領域における[Ga]よりも大きく、且つ、[In]が、第1の領域における[In]よりも小さい領域である。
【0387】
具体的には、上記第1の領域は、インジウム酸化物、インジウム亜鉛酸化物などが主成分である領域である。また、上記第2の領域は、ガリウム酸化物、ガリウム亜鉛酸化物などが主成分である領域である。つまり、上記第1の領域を、Inを主成分とする領域と言い換えることができる。また、上記第2の領域を、Gaを主成分とする領域と言い換えることができる。
【0388】
なお、上記第1の領域と、上記第2の領域とは、明確な境界が観察できない場合がある。
【0389】
例えば、In-Ga-Zn酸化物におけるCAC-OSでは、エネルギー分散型X線分光法(EDX:Energy Dispersive X-ray spectroscopy)を用いて取得したEDXマッピングにより、Inを主成分とする領域(第1の領域)と、Gaを主成分とする領域(第2の領域)とが、偏在し、混合している構造を有することが確認できる。
【0390】
CAC-OSをトランジスタに用いる場合、第1の領域に起因する導電性と、第2の領域に起因する絶縁性とが、相補的に作用することにより、スイッチングさせる機能(On/Offさせる機能)をCAC-OSに付与することができる。つまり、CAC-OSとは、材料の一部では導電性の機能と、材料の一部では絶縁性の機能とを有し、材料の全体では半導体としての機能を有する。導電性の機能と絶縁性の機能とを分離させることで、双方の機能を最大限に高めることができる。よって、CAC-OSをトランジスタに用いることで、高いオン電流(Ion)、高い電界効果移動度(μ)、および良好なスイッチング動作を実現することができる。
【0391】
酸化物半導体は、多様な構造をとり、それぞれが異なる特性を有する。本発明の一態様の酸化物半導体は、非晶質酸化物半導体、多結晶酸化物半導体、a-like OS、CAC-OS、nc-OS、CAAC-OSのうち、二種以上を有していてもよい。
【0392】
また、高温環境下で使用可能であるため、制御回路部1320は酸化物半導体を用いるトランジスタを用いることが好ましい。プロセスを簡略なものとするため、制御回路部1320は単極性のトランジスタを用いて形成してもよい。半導体層に酸化物半導体を用いるトランジスタは、動作周囲温度が単結晶Siよりも広く-40℃以上150℃以下であり、二次電池が加熱しても特性変化が単結晶に比べて小さい。酸化物半導体を用いるトランジスタのオフ電流は、150℃であっても温度によらず測定下限以下であるが、単結晶Siトランジスタのオフ電流特性は、温度依存性が大きい。例えば、150℃では、単結晶Siトランジスタはオフ電流が上昇し、電流オン/オフ比が十分に大きくならない。制御回路部1320は、安全性を向上することができる。また、実施の形態1で得られる正極活物質100を正極に用いた二次電池と組み合わせることで安全性についての相乗効果が得られる。実施の形態1で得られる正極活物質100を正極に用いた二次電池及び制御回路部1320は、二次電池による火災等の事故撲滅に大きく寄与することができる。
【0393】
酸化物半導体を用いたトランジスタを含むメモリ回路を用いた制御回路部1320は、マイクロショート等の10項目の不安定性の原因に対し、二次電池の自動制御装置として機能させることもできる。10項目の不安定性の原因を解消する機能としては、過充電の防止、過電流の防止、充電時過熱制御、組電池でのセルバランス、過放電の防止、残量計、温度に応じた充電電圧及び電流量自動制御、劣化度に応じた充電電流量制御、マイクロショート異常挙動検知、マイクロショートに関する異常予測などが挙げられ、そのうちの少なくとも一つの機能を制御回路部1320が有する。また、二次電池の自動制御装置の超小型化が可能である。
【0394】
また、マイクロショートとは、二次電池の内部の微小な短絡のことを指しており、二次電池の正極と負極が短絡して充放電不可能の状態になるというほどではなく、微小な短絡部でわずかに短絡電流が流れてしまう現象を指している。比較的短時間、且つ、わずかな箇所であっても大きな電圧変化が生じるため、その異常な電圧値がその後の推定に影響を与える恐れがある。
【0395】
マイクロショートの原因の一つは、充放電が複数回行われることによって、正極活物質の不均一な分布により、正極の一部と負極の一部で局所的な電流の集中が生じ、セパレータの一部が機能しなくなる箇所が発生、または副反応による副反応物の発生によりミクロな短絡が生じていると言われている。
【0396】
また、マイクロショートの検知だけでなく、制御回路部1320は、二次電池の端子電圧を検知し、二次電池の充放電状態を管理するとも言える。例えば、過充電を防ぐために充電回路の出力トランジスタと遮断用スイッチの両方をほぼ同時にオフ状態とすることができる。
【0397】
【0398】
制御回路部1320は、少なくとも過充電を防止するスイッチと、過放電を防止するスイッチを含むスイッチ部1324と、スイッチ部1324を制御する制御回路1322と、第1のバッテリ1301aの電圧測定部と、を有する。制御回路部1320は、使用する二次電池の上限電圧と下限電圧が設定されており、外部からの電流上限や、外部への出力電流の上限などを制限している。二次電池の下限電圧以上上限電圧以下の範囲内は、使用が推奨されている電圧範囲内であり、その範囲外となるとスイッチ部1324が作動し、保護回路として機能する。また、制御回路部1320は、スイッチ部1324を制御して過放電や過充電を防止するため、保護回路とも呼べる。例えば、過充電となりそうな電圧を制御回路1322で検知した場合にスイッチ部1324のスイッチをオフ状態とすることで電流を遮断する。さらに充放電経路中にPTC素子を設けて温度の上昇に応じて電流を遮断する機能を設けてもよい。また、制御回路部1320は、外部端子1325(+IN)と、外部端子1326(-IN)とを有している。
【0399】
スイッチ部1324は、nチャネル型のトランジスタやpチャネル型のトランジスタを組み合わせて構成することができる。スイッチ部1324は、単結晶シリコンを用いるSiトランジスタを有するスイッチに限定されず、例えば、Ge(ゲルマニウム)、SiGe(シリコンゲルマニウム)、GaAs(ガリウムヒ素)、GaAlAs(ガリウムアルミニウムヒ素)、InP(リン化インジウム)、SiC(シリコンカーバイド)、ZnSe(セレン化亜鉛)、GaN(窒化ガリウム)、GaOx(酸化ガリウム;xは0より大きい実数)などを有するパワートランジスタでスイッチ部1324を形成してもよい。また、OSトランジスタを用いた記憶素子は、Siトランジスタを用いた回路上などに積層することで自由に配置可能であるため、集積化を容易に行うことができる。またOSトランジスタは、Siトランジスタと同様の製造装置を用いて作製することが可能であるため、低コストで作製可能である。即ち、スイッチ部1324上にOSトランジスタを用いた制御回路部1320を積層し、集積化することで1チップとすることもできる。制御回路部1320の占有体積を小さくすることができるため、小型化が可能となる。
【0400】
第1のバッテリ1301a、1301bは、主に42V系(高電圧系)の車載機器に電力を供給し、第2のバッテリ1311は14V系(低電圧系)の車載機器に電力を供給する。第2のバッテリ1311は鉛蓄電池がコスト上有利のため採用されることが多い。鉛蓄電池はリチウムイオン二次電池と比べて自己放電が大きく、サルフェーションとよばれる現象により劣化しやすい欠点がある。第2のバッテリ1311をリチウムイオン二次電池とすることでメンテナンスフリーとするメリットがあるが、長期間の使用、例えば3年以上となると、製造時には判別できない異常発生が生じる恐れがある。特にインバータを起動する第2のバッテリ1311が動作不能となると、第1のバッテリ1301a、1301bに残容量があってもモータを起動させることができなくなることを防ぐため、第2のバッテリ1311が鉛蓄電池の場合は、第1のバッテリから第2のバッテリに電力を供給し、常に満充電状態を維持するように充電されている。
【0401】
本実施の形態では、第1のバッテリ1301aと第2のバッテリ1311の両方にリチウムイオン二次電池を用いる一例を示す。第2のバッテリ1311は鉛蓄電池や全固体電池や電気二重層キャパシタを用いてもよい。例えば、実施の形態5の全固体電池を用いてもよい。第2のバッテリ1311に実施の形態5の全固体電池を用いることで高容量とすることができ、小型化、軽量化することができる。
【0402】
また、タイヤ1316の回転による回生エネルギーは、ギア1305を介してモータ1304に送られ、モータコントローラ1303やバッテリーコントローラ1302から制御回路部1321を介して第2のバッテリ1311に充電される。またはバッテリーコントローラ1302から制御回路部1320を介して第1のバッテリ1301aに充電される。またはバッテリーコントローラ1302から制御回路部1320を介して第1のバッテリ1301bに充電される。回生エネルギーを効率よく充電するためには、第1のバッテリ1301a、1301bが急速充電可能であることが望ましい。
【0403】
バッテリーコントローラ1302は第1のバッテリ1301a、1301bの充電電圧及び充電電流などを設定することができる。バッテリーコントローラ1302は、用いる二次電池の充電特性に合わせて充電条件を設定し、急速充電することができる。
【0404】
また、図示していないが、外部の充電器と接続させる場合、充電器のコンセントまたは充電器の接続ケーブルは、バッテリーコントローラ1302に電気的に接続される。外部の充電器から供給された電力はバッテリーコントローラ1302を介して第1のバッテリ1301a、1301bに充電する。また、充電器によっては、制御回路が設けられており、バッテリーコントローラ1302の機能を用いない場合もあるが、過充電を防ぐため制御回路部1320を介して第1のバッテリ1301a、1301bを充電することが好ましい。また、接続ケーブルまたは充電器の接続ケーブルに制御回路を備えている場合もある。制御回路部1320は、ECU(Electronic Control Unit)と呼ばれることもある。ECUは、電動車両に設けられたCAN(Controller Area Network)に接続される。CANは、車内LANとして用いられるシリアル通信規格の一つである。また、ECUは、マイクロコンピュータを含む。また、ECUは、CPUやGPUを用いる。
【0405】
充電スタンドなどに設置されている外部の充電器は、100Vコンセントや、200Vコンセントや、3相200V且つ50kWなどがある。また、非接触給電方式等により外部の充電設備から電力供給を受けて、充電することもできる。
【0406】
急速充電を行う場合、短時間での充電を行うためには、高電圧での充電に耐えうる二次電池が望まれている。
【0407】
また、上述した本実施の形態の二次電池は、実施の形態1で得られる正極活物質100を用いることで高密度な正極を有している。さらに、導電助剤としてグラフェンを用い、電極層を厚くして担持量を高くしても容量低下を抑え、高容量を維持することが相乗効果として大幅に電気特性が向上された二次電池を実現できる。特に車両に用いる二次電池に有効であり、車両全重量に対する二次電池の重量の割合を増加させることなく、航続距離が長い、具体的には一充電走行距離が500km以上の車両を提供することができる。
【0408】
特に上述した本実施の形態の二次電池は、実施の形態1で説明した正極活物質100を用いることで二次電池の動作電圧を高くすることができ、充電電圧の増加に伴い、使用できる容量を増加させることができる。また、実施の形態1で説明した正極活物質100を正極に用いることでサイクル特性に優れた車両用の二次電池を提供することができる。
【0409】
次に、本発明の一態様である二次電池を車両、代表的には輸送用車両に実装する例について説明する。
【0410】
また、
図13D、
図15C、
図22Aのいずれか一に示した二次電池を車両に搭載すると、ハイブリッド車(HV)、電気自動車(EV)、又はプラグインハイブリッド車(PHV)等の次世代クリーンエネルギー自動車を実現できる。また、農業機械、電動アシスト自転車を含む原動機付自転車、自動二輪車、電動車椅子、電動カート、小型又は大型船舶、潜水艦、固定翼機や回転翼機等の航空機、ロケット、人工衛星、宇宙探査機や惑星探査機、宇宙船などの輸送用車両に二次電池を搭載することもできる。本発明の一態様の二次電池は高容量の二次電池とすることができる。そのため本発明の一態様の二次電池は、小型化、軽量化に適しており、輸送用車両に好適に用いることができる。
【0411】
図23A乃至
図23Dにおいて、本発明の一態様を用いた輸送用車両を例示する。
図23Aに示す自動車2001は、走行のための動力源として電気モータを用いる電気自動車である。または、走行のための動力源として電気モータとエンジンを適宜選択して用いることが可能なハイブリッド自動車である。二次電池を車両に搭載する場合、実施の形態4で示した二次電池の一例を一箇所または複数個所に設置する。
図23Aに示す自動車2001は、電池パック2200を有し、電池パックは、複数の二次電池を接続させた二次電池モジュールを有する。さらに二次電池モジュールに電気的に接続する充電制御装置を有すると好ましい。
【0412】
また、自動車2001は、自動車2001が有する二次電池にプラグイン方式や非接触給電方式等により外部の充電設備から電力供給を受けて、充電することができる。充電に際しては、充電方法やコネクタの規格等はCHAdeMO(登録商標)やコンボ等の所定の方式で適宜行えばよい。二次電池は、商用施設に設けられた充電ステーションでもよく、また家庭の電源であってもよい。例えば、プラグイン技術によって、外部からの電力供給により自動車2001に搭載された蓄電装置を充電することができる。充電は、ACDCコンバータ等の変換装置を介して、交流電力を直流電力に変換して行うことができる。
【0413】
また、図示しないが、受電装置を車両に搭載し、地上の送電装置から電力を非接触で供給して充電することもできる。この非接触給電方式の場合には、道路や外壁に送電装置を組み込むことで、停車中に限らず走行中に充電を行うこともできる。また、この非接触給電の方式を利用して、2台の車両どうしで電力の送受電を行ってもよい。さらに、車両の外装部に太陽電池を設け、停車時や走行時に二次電池の充電を行ってもよい。このような非接触での電力の供給には、電磁誘導方式や磁界共鳴方式を用いることができる。
【0414】
図23Bは、輸送用車両の一例として電気により制御するモータを有した大型の輸送車2002を示している。輸送車2002の二次電池モジュールは、例えば公称電圧3.0V以上5.0V以下の二次電池を4個セルユニットとし、48セルを直列に接続した170Vの最大電圧とする。電池パック2201の二次電池モジュールを構成する二次電池の数などが違う以外は、
図23Aと同様な機能を備えているので説明は省略する。
【0415】
図23Cは、一例として電気により制御するモータを有した大型の輸送車両2003を示している。輸送車両2003の二次電池モジュールは、例えば公称電圧3.0V以上5.0V以下の二次電池を百個以上直列に接続した600Vの最大電圧とする。従って、特性バラツキの小さい二次電池が求められる。実施の形態1で説明した正極活物質100を正極に用いた二次電池を用いることで、安定した電池特性を有する二次電池を製造することができ、歩留まりの観点から低コストで大量生産が可能である。また、電池パック2202の二次電池モジュールを構成する二次電池の数などが違う以外は、
図23Aと同様な機能を備えているので説明は省略する。
【0416】
図23Dは、一例として燃料を燃焼するエンジンを有した航空機2004を示している。
図23Dに示す航空機2004は、離着陸用の車輪を有しているため、輸送車両の一部とも言え、複数の二次電池を接続させて二次電池モジュールを構成し、二次電池モジュールと充電制御装置とを含む電池パック2203を有している。
【0417】
航空機2004の二次電池モジュールは、例えば4Vの二次電池を8個直列に接続した32Vの最大電圧とする。電池パック2203の二次電池モジュールを構成する二次電池の数などが違う以外は、
図23Aと同様な機能を備えているので説明は省略する。
【0418】
本実施の形態は、他の実施の形態と適宜組み合わせて用いることができる。
【0419】
(実施の形態7)
本実施の形態では、本発明の一態様である二次電池を建築物に実装する例について
図24Aおよび
図24Bを用いて説明する。
【0420】
図24Aに示す住宅は、本発明の一態様である二次電池を有する蓄電装置2612と、ソーラーパネル2610を有する。蓄電装置2612は、ソーラーパネル2610と配線2611等を介して電気的に接続されている。また蓄電装置2612と地上設置型の充電装置2604が電気的に接続されていてもよい。ソーラーパネル2610で得た電力は、蓄電装置2612に充電することができる。また蓄電装置2612に蓄えられた電力は、充電装置2604を介して車両2603が有する二次電池に充電することができる。蓄電装置2612は、床下空間部に設置されることが好ましい。床下空間部に設置することにより、床上の空間を有効的に利用することができる。あるいは、蓄電装置2612は床上に設置されてもよい。
【0421】
蓄電装置2612に蓄えられた電力は、住宅内の他の電子機器にも電力を供給することができる。よって、停電などにより商用電源から電力の供給が受けられない時でも、本発明の一態様に係る蓄電装置2612を無停電電源として用いることで、電子機器の利用が可能となる。
【0422】
図24Bに、本発明の一態様に係る蓄電装置700の一例を示す。
図24Bに示すように、建物799の床下空間部796には、本発明の一態様に係る蓄電装置791が設置されている。また、蓄電装置791に実施の形態6に説明した制御回路を設けてもよく、実施の形態1で得られる正極活物質100を正極に用いた二次電池を蓄電装置791に用いることで安全性についての相乗効果が得られる。実施の形態6に説明した制御回路及び実施の形態1で説明した正極活物質100を正極に用いた二次電池は、二次電池を有する蓄電装置791による火災等の事故撲滅に大きく寄与することができる。
【0423】
蓄電装置791には、制御装置790が設置されており、制御装置790は、配線によって、分電盤703と、蓄電コントローラ705(制御装置ともいう)と、表示器706と、ルータ709と、に電気的に接続されている。
【0424】
商業用電源701から、引込線取付部710を介して、電力が分電盤703に送られる。また、分電盤703には、蓄電装置791と、商業用電源701と、から電力が送られ、分電盤703は、送られた電力を、コンセント(図示せず)を介して、一般負荷707及び蓄電系負荷708に供給する。
【0425】
一般負荷707は、例えば、テレビやパーソナルコンピュータなどの電気機器であり、蓄電系負荷708は、例えば、電子レンジ、冷蔵庫、空調機などの電気機器である。
【0426】
蓄電コントローラ705は、計測部711と、予測部712と、計画部713と、を有する。計測部711は、一日(例えば、0時から24時)の間に、一般負荷707、蓄電系負荷708で消費された電力量を計測する機能を有する。また、計測部711は、蓄電装置791の電力量と、商業用電源701から供給された電力量と、を計測する機能を有していてもよい。また、予測部712は、一日の間に一般負荷707及び蓄電系負荷708で消費された電力量に基づいて、次の一日の間に一般負荷707及び蓄電系負荷708で消費される需要電力量を予測する機能を有する。また、計画部713は、予測部712が予測した需要電力量に基づいて、蓄電装置791の充放電の計画を立てる機能を有する。
【0427】
計測部711によって計測された一般負荷707及び蓄電系負荷708で消費された電力量は、表示器706によって確認することができる。また、ルータ709を介して、テレビやパーソナルコンピュータなどの電気機器において、確認することもできる。さらに、ルータ709を介して、スマートフォンやタブレットなどの携帯電子端末によっても確認することができる。また、表示器706、電気機器、携帯電子端末によって、予測部712が予測した時間帯ごと(または一時間ごと)の需要電力量なども確認することができる。
【0428】
本実施の形態は、他の実施の形態と適宜組み合わせて用いることができる。
【0429】
(実施の形態8)
本実施の形態では、二輪車、自転車に本発明の一態様である蓄電装置を搭載する例を示す。
【0430】
また、
図25Aは、本発明の一態様の蓄電装置を用いた電動自転車の一例である。
図25Aに示す電動自転車8700に、本発明の一態様の蓄電装置を適用することができる。本発明の一態様の蓄電装置は例えば、複数の蓄電池と、保護回路と、を有する。
【0431】
電動自転車8700は、蓄電装置8702を備える。蓄電装置8702は、運転者をアシストするモータに電気を供給することができる。また、蓄電装置8702は、持ち運びができ、
図25Bに自転車から取り外した状態を示している。また、蓄電装置8702は、本発明の一態様の蓄電装置が有する蓄電池8701が複数内蔵されており、そのバッテリ残量などを表示部8703で表示できるようにしている。また蓄電装置8702は、実施の形態6に一例を示した二次電池の充電制御または異常検知が可能な制御回路8704を有する。制御回路8704は、蓄電池8701の正極及び負極と電気的に接続されている。また、制御回路8704に
図21A及び
図21Bで示した小型の固体二次電池を設けてもよい。
図21A及び
図21Bで示した小型の固体二次電池を制御回路8704に設けることで制御回路8704の有するメモリ回路のデータを長時間保持することに電力を供給することもできる。また、実施の形態1で得られる正極活物質100を正極に用いた二次電池と組み合わせることで安全性についての相乗効果が得られる。実施の形態1で得られる正極活物質100を正極に用いた二次電池及び制御回路8704は、二次電池による火災等の事故撲滅に大きく寄与することができる。
【0432】
また、
図25Cは、本発明の一態様の蓄電装置を用いた二輪車の一例である。
図25Cに示すスクータ8600は、蓄電装置8602、サイドミラー8601、方向指示灯8603を備える。蓄電装置8602は、方向指示灯8603に電気を供給することができる。また、実施の形態1で得られる正極活物質100を正極に用いた二次電池を複数収納された蓄電装置8602は高容量とすることができ、小型化に寄与することができる。
【0433】
また、
図25Cに示すスクータ8600は、座席下収納8604に、蓄電装置8602を収納することができる。蓄電装置8602は、座席下収納8604が小型であっても、座席下収納8604に収納することができる。
【0434】
(実施の形態9)
本実施の形態では、本発明の一態様である二次電池を電子機器に実装する例について説明する。二次電池を実装する電子機器として、例えば、テレビジョン装置(テレビ、又はテレビジョン受信機ともいう)、コンピュータ用などのモニタ、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ、デジタルフォトフレーム、携帯電話機(携帯電話、携帯電話装置ともいう)、携帯型ゲーム機、携帯情報端末、音響再生装置、パチンコ機などの大型ゲーム機などが挙げられる。携帯情報端末としてはノート型パーソナルコンピュータ、タブレット型端末、電子書籍端末、携帯電話機などがある。
【0435】
図26Aは、携帯電話機の一例を示している。携帯電話機2100は、筐体2101に組み込まれた表示部2102の他、操作ボタン2103、外部接続ポート2104、スピーカ2105、マイク2106などを備えている。なお、携帯電話機2100は、二次電池2107を有している。実施の形態1で説明した正極活物質100を正極に用いた二次電池2107を備えることで高容量とすることができ、筐体の小型化に伴う省スペース化に対応できる構成を実現することができる。
【0436】
携帯電話機2100は、移動電話、電子メール、文章閲覧及び作成、音楽再生、インターネット通信、コンピュータゲームなどの種々のアプリケーションを実行することができる。
【0437】
操作ボタン2103は、時刻設定のほか、電源のオン、オフ動作、無線通信のオン、オフ動作、マナーモードの実行及び解除、省電力モードの実行及び解除など、様々な機能を持たせることができる。例えば、携帯電話機2100に組み込まれたオペレーティングシステムにより、操作ボタン2103の機能を自由に設定することもできる。
【0438】
また、携帯電話機2100は、通信規格された近距離無線通信を実行することが可能である。例えば無線通信可能なヘッドセットと相互通信することによって、ハンズフリーで通話することもできる。
【0439】
また、携帯電話機2100は外部接続ポート2104を備え、他の情報端末とコネクタを介して直接データのやりとりを行うことができる。また外部接続ポート2104を介して充電を行うこともできる。なお、充電動作は外部接続ポート2104を介さずに無線給電により行ってもよい。
【0440】
携帯電話機2100はセンサを有することが好ましい。センサとして例えば、指紋センサ、脈拍センサ、体温センサ等の人体センサや、タッチセンサ、加圧センサ、加速度センサ、等が搭載されることが好ましい。
【0441】
図26Bは複数のローター2302を有する無人航空機2300である。無人航空機2300はドローンと呼ばれることもある。無人航空機2300は、本発明の一態様である二次電池2301と、カメラ2303と、アンテナ(図示しない)を有する。無人航空機2300はアンテナを介して遠隔操作することができる。実施の形態1で得られる正極活物質100を正極に用いた二次電池は高エネルギー密度であり、安全性が高いため、長期間に渡って長時間の安全な使用ができ、無人航空機2300に搭載する二次電池として好適である。
【0442】
図26Cは、ロボットの一例を示している。
図26Cに示すロボット6400は、二次電池6409、照度センサ6401、マイクロフォン6402、上部カメラ6403、スピーカ6404、表示部6405、下部カメラ6406および障害物センサ6407、移動機構6408、演算装置等を備える。
【0443】
マイクロフォン6402は、使用者の話し声及び環境音等を検知する機能を有する。また、スピーカ6404は、音声を発する機能を有する。ロボット6400は、マイクロフォン6402およびスピーカ6404を用いて、使用者とコミュニケーションをとることが可能である。
【0444】
表示部6405は、種々の情報の表示を行う機能を有する。ロボット6400は、使用者の望みの情報を表示部6405に表示することが可能である。表示部6405は、タッチパネルを搭載していてもよい。また、表示部6405は取り外しのできる情報端末であっても良く、ロボット6400の定位置に設置することで、充電およびデータの受け渡しを可能とする。
【0445】
上部カメラ6403および下部カメラ6406は、ロボット6400の周囲を撮像する機能を有する。また、障害物センサ6407は、移動機構6408を用いてロボット6400が前進する際の進行方向における障害物の有無を察知することができる。ロボット6400は、上部カメラ6403、下部カメラ6406および障害物センサ6407を用いて、周囲の環境を認識し、安全に移動することが可能である。
【0446】
ロボット6400は、その内部領域に本発明の一態様に係る二次電池6409と、半導体装置または電子部品を備える。実施の形態1で得られる正極活物質100を正極に用いた二次電池は高エネルギー密度であり、安全性が高いため、長期間に渡って長時間の安全な使用ができ、ロボット6400に搭載する二次電池6409として好適である。
【0447】
図26Dは、掃除ロボットの一例を示している。掃除ロボット6300は、筐体6301上面に配置された表示部6302、側面に配置された複数のカメラ6303、ブラシ6304、操作ボタン6305、二次電池6306、各種センサなどを有する。図示されていないが、掃除ロボット6300には、タイヤ、吸い込み口等が備えられている。掃除ロボット6300は自走し、ゴミ6310を検知し、下面に設けられた吸い込み口からゴミを吸引することができる。
【0448】
例えば、掃除ロボット6300は、カメラ6303が撮影した画像を解析し、壁、家具または段差などの障害物の有無を判断することができる。また、画像解析により、配線などブラシ6304に絡まりそうな物体を検知した場合は、ブラシ6304の回転を止めることができる。掃除ロボット6300は、その内部領域に本発明の一態様に係る二次電池6306と、半導体装置または電子部品を備える。実施の形態1で得られる正極活物質100を正極に用いた二次電池は高エネルギー密度であり、安全性が高いため、長期間に渡って長時間の安全な使用ができ、掃除ロボット6300に搭載する二次電池6306として好適である。
【0449】
図27Aは、ウェアラブルデバイスの例を示している。ウェアラブルデバイスは、電源として二次電池を用いる。また、使用者が生活または屋外で使用する場合において、防沫性能、耐水性能または防塵性能を高めるため、接続するコネクタ部分が露出している有線による充電だけでなく、無線充電も行えるウェアラブルデバイスが望まれている。
【0450】
例えば、
図27Aに示すような眼鏡型デバイス4000に本発明の一態様である二次電池を搭載することができる。眼鏡型デバイス4000は、フレーム4000aと、表示部4000bを有する。湾曲を有するフレーム4000aのテンプル部に二次電池を搭載することで、軽量であり、且つ、重量バランスがよく継続使用時間の長い眼鏡型デバイス4000とすることができる。実施の形態1で得られる正極活物質100を正極に用いた二次電池は高エネルギー密度であり、筐体の小型化に伴う省スペース化に対応できる構成を実現することができる。
【0451】
また、ヘッドセット型デバイス4001に本発明の一態様である二次電池を搭載することができる。ヘッドセット型デバイス4001は、少なくともマイク部4001aと、フレキシブルパイプ4001bと、イヤフォン部4001cを有する。フレキシブルパイプ4001b内やイヤフォン部4001c内に二次電池を設けることができる。実施の形態1で得られる正極活物質100を正極に用いた二次電池は高エネルギー密度であり、筐体の小型化に伴う省スペース化に対応できる構成を実現することができる。
【0452】
また、身体に直接取り付け可能なデバイス4002に本発明の一態様である二次電池を搭載することができる。デバイス4002の薄型の筐体4002aの中に、二次電池4002bを設けることができる。実施の形態1で得られる正極活物質100を正極に用いた二次電池は高エネルギー密度であり、筐体の小型化に伴う省スペース化に対応できる構成を実現することができる。
【0453】
また、衣服に取り付け可能なデバイス4003に本発明の一態様である二次電池を搭載することができる。デバイス4003の薄型の筐体4003aの中に、二次電池4003bを設けることができる。実施の形態1で得られる正極活物質100を正極に用いた二次電池は高エネルギー密度であり、筐体の小型化に伴う省スペース化に対応できる構成を実現することができる。
【0454】
また、ベルト型デバイス4006に本発明の一態様である二次電池を搭載することができる。ベルト型デバイス4006は、ベルト部4006aおよびワイヤレス給電受電部4006bを有し、ベルト部4006aの内部領域に、二次電池を搭載することができる。実施の形態1で得られる正極活物質100を正極に用いた二次電池は高エネルギー密度であり、筐体の小型化に伴う省スペース化に対応できる構成を実現することができる。
【0455】
また、腕時計型デバイス4005に本発明の一態様である二次電池を搭載することができる。腕時計型デバイス4005は表示部4005aおよびベルト部4005bを有し、表示部4005aまたはベルト部4005bに、二次電池を設けることができる。実施の形態1で得られる正極活物質100を正極に用いた二次電池は高エネルギー密度であり、筐体の小型化に伴う省スペース化に対応できる構成を実現することができる。
【0456】
表示部4005aには、時刻だけでなく、メールや電話の着信等、様々な情報を表示することができる。
【0457】
また、腕時計型デバイス4005は、腕に直接巻きつけるタイプのウェアラブルデバイスであるため、使用者の脈拍、血圧等を測定するセンサを搭載してもよい。使用者の運動量および健康に関するデータを蓄積し、健康を管理することができる。
【0458】
図27Bに腕から取り外した腕時計型デバイス4005の斜視図を示す。
【0459】
また、側面図を
図27Cに示す。
図27Cには、内部領域に二次電池913を内蔵している様子を示している。二次電池913は実施の形態4に示した二次電池である。二次電池913は表示部4005aと重なる位置に設けられており、高密度、且つ、高容量とすることができ、小型、且つ、軽量である。
【0460】
腕時計型デバイス4005においては、小型、且つ、軽量であることが求められるため、実施の形態1で得られる正極活物質100を二次電池913の正極に用いることで、高エネルギー密度、且つ、小型の二次電池913とすることができる。
【0461】
本実施の形態は、他の実施の形態と適宜組み合わせて実施することが可能である。
【実施例0462】
本実施例では本発明の一態様の正極活物質を作製し、XPSを用いて元素分析を行い、サイクル特性を評価し、充電後の結晶構造を分析した。
【0463】
<正極活物質の作製>
図10に示す作製方法を参照しながら本実施例で作製したサンプルについて説明する。
【0464】
ステップS11のリチウム源として炭酸リチウム、コバルト源として炭酸コバルト、マグネシウム源として酸化マグネシウム、フッ素源およびリチウム源としてフッ化リチウムを用いた。これらをLi1.02Co0.99Mg0.01O1.98F0.02の組成となるよう秤量した。次にステップS12に示すようにこれらを混合し、混合物900を得た(ステップS13)。
【0465】
次にステップS14に示すように混合物900に第1の加熱をした。酸化アルミニウム製るつぼに混合物900を入れ、蓋をして、マッフル炉にて加熱した。加熱温度は1000℃、加熱時間は10時間とし、乾燥空気をマッフル炉内に10L/分フローしながら加熱した。昇温速度は200℃/時間とした。加熱終了後、10時間以上かけて室温まで徐冷した。このようにして複合酸化物901を得た(ステップS15)。この第1の加熱のみ経たサンプルを、サンプル1(比較例)とした。
【0466】
次にステップS16に示すように複合酸化物901に第2の加熱をした。酸化アルミニウム製るつぼに複合酸化物901を入れ、蓋をして、マッフル炉にて加熱した。加熱温度は800℃、時間は2時間とし、乾燥空気をマッフル炉内に10L/分フローしながら加熱した。加熱終了後、10時間以上かけて室温まで徐冷した。このようにして正極活物質100を得た(ステップS17)。この第1の加熱および第2の加熱を経たサンプルを、サンプル2とした。
【0467】
また、Li1.01Co0.995Mg0.005O1.99F0.01の組成となるように秤量した他はサンプル1と同様に加熱工程1度のみで作製したものを、サンプル3とした。またLi1.01Co0.995Mg0.005O1.99F0.01の組成となるように秤量した他はサンプル2と同様に加熱工程を2度経て作製したものを、サンプル4とした。
【0468】
また、Li1.04Co0.98Mg0.02O1.96F0.04の組成となるように秤量した他はサンプル2と同様に作製したものを、サンプル5とした。
【0469】
また、第1の加熱温度を950℃とし、第2の加熱時に酸素ガスを10L/分フローしながら加熱した他はサンプル2と同様に作製したものを、サンプル6とした。
【0470】
サンプル1乃至サンプル6の作製条件を表1に示す。
【0471】
【0472】
<XPS>
上記で作製したサンプル1およびサンプル2について、XPSを用いて元素分析を行った。XPS分析の条件は下記の通りとした。
測定装置:PHI社製QuanteraII
X線源:単色化Al Kα(1486.6eV)
検出領域:100μmφ
検出深さ:約4~5nm(取出角45°)
測定スペクトル:ワイド,Li1s,Co2p,Ti2p,O1s,C1s,F1s,S2p,Ca2p,Mg1s,Na1s,Zr3d
【0473】
XPSの結果を表2に、さらにコバルトの原子数を1とした場合の相対値を表3に示す。
【0474】
【0475】
【0476】
表2に示すように、マグネシウム濃度はサンプル1では4.5原子%未満、サンプル2では4.5原子%以上だった。
【0477】
<サイクル特性>
次にサンプル1乃至サンプル6を用いて二次電池を作製し、サイクル特性を評価した。
【0478】
まず正極活物質、ABおよびPVDFを、正極活物質:AB:PVDF=95:2.5:2.5(重量比)で混合してスラリーを作製し、該スラリーをアルミニウムの集電体に塗工した。スラリーの溶媒としてNMPを用いた。
【0479】
集電体にスラリーを塗工した後、溶媒を揮発させた。以上の工程により、正極を得た。正極の活物質担持量はおよそ7.1mg/cm2とした。
【0480】
作製した正極を用いて、CR2032タイプ(直径20mm、高さ3.2mm)のコイン型の電池セルを作製した。
【0481】
対極にはリチウム金属を用いた。
【0482】
電解液が有する電解質には、1mol/Lの六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)を用い、電解液には、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)をEC:DEC=3:7(体積比)で混合したものに、添加材としてビニレンカーボネート(VC)を2wt%加えたものを用いた。
【0483】
セパレータには厚さ25μmのポリプロピレンを用いた。
【0484】
正極缶及び負極缶には、ステンレス(SUS)で形成されているものを用いた。
【0485】
サイクル試験は以下の条件で行った。充電電圧は4.6Vとした。測定温度は25℃とした。充電はCC/CV(0.5C,0.05Ccut)、放電はCC(0.5C,2.5Vcut)とし、次の充電の前に10分休止時間を設けた。なお本実施例等において1Cは137mA/gとした。
【0486】
図28Aにサンプル1乃至サンプル6の放電容量のサイクル試験の結果を示す。第2の加熱を行わなかったサンプル1およびサンプル3と比較して、第2の加熱をしたサンプル2、サンプル4、サンプル5およびサンプル6は極めて良好なサイクル特性を示した。第2の加熱を行ったものの中では、焼成温度を950℃としたサンプル6が最も良好であった。
【0487】
図28Bにサンプル1乃至サンプル6の平均放電電圧のサイクル試験の結果を示す。サンプル5とサンプル6は50サイクルを経ても平均放電電圧の低下が抑制され、50サイクル目の平均放電電圧は、サンプル6が.06V、サンプル5が4.02Vであった。平均放電電圧が高いと、高い電気エネルギーを供給でき好ましい。
【0488】
一方、サンプル1の50サイクル目の平均放電電圧は3.32V、サンプル2は3.58V、サンプル3は3.17V、サンプル4は3.47Vであった。第2の加熱をしていないサンプル1およびサンプル3は平均放電電圧の低下が著しかった。これは電池の内部抵抗が高くなったためと推測された。
【0489】
以上からサンプル6は放電容量、平均放電電圧共に非常に良好なサイクル特性を示すといえる。サンプル5は放電容量でサンプル2、サンプル4、サンプル6に及ばないものの、平均放電電圧のサイクル特性が良好で、充放電サイクルを経ても高い電気エネルギーを供給できる正極活物質であることが示された。
【0490】
また第2の加熱を経ることで表層部のマグネシウム濃度が上昇し、マグネシウム濃度が4.5原子%以上、マグネシウムとコバルト濃度の比Mg/Coが0.30以上となることが確認された。また、第2の加熱を経ることでサイクル特性が極めて良好になることが明らかとなった。
【0491】
<充電後の結晶構造>
次に第2の加熱を経て作製されたサンプル1乃至サンプル6について二次電池を作製し、XRDを用いて充電後の結晶構造を分析した。
【0492】
まずサンプル1乃至サンプル6の正極活物質を用いて、サイクル試験と同様にコインセルを作製した。
【0493】
初回充電(1st充電)後の結晶構造を分析するコインセルには、4.6VでCCCV充電した。より具体的には0.5C(68.5mA/g)で定電流充電した後、電流値が0.01C(1.37mA/g)となるまで定電圧充電した。
【0494】
また2回目充電(2nd充電)後の結晶構造を分析するコインセルには、サイクル試験と同様の条件で1回充放電した後、4.6VでCCCV充電した。より具体的には0.5C(68.5mA/g)で定電流充電した後、電流値が0.01C(1.37mA/g)となるまで定電圧充電した。
【0495】
初回充電と2回目充電の充電容量を表4に示す。
【0496】
【0497】
そして充電状態のコインセルをアルゴン雰囲気のグローブボックス内で解体して正極を取り出し、DMC(ジメチルカーボネート)で洗浄して電解液を取り除いた。そしてアルゴン雰囲気中でXRD測定用の密封容器に正極をいれた。そしてCuKα1線による粉末XRD(Bruker社製D8 ADVANCE)により解析を行った。XRD装置は粉末サンプル用のセッティングとしたが、サンプルの高さは装置の要求する測定面に合わせた。また、サンプルを湾曲させず平らにしてセッティングした。
【0498】
図29にサンプル1乃至サンプル6の正極活物質を用いたコインセルの初回充電後の正極のXRDパターンを示す。比較のため、
図4と同じO3’型、
図6と同じH1-3型およびLiCoO
2のパターンもあわせて示す。2θが18°以上20以下の領域を拡大したものを
図30Aに示す。この領域はO3およびO3’型の結晶構造の(003)面およびH1-3型における(006)面に相当するピークが出現する領域である。また43°以上46°以下の領域を拡大したものを
図30Bに示す。この領域はO3およびO3’型の結晶構造の(104)面およびH1-3型における(107)面に相当するピークが出現する領域である。
【0499】
また初回充電後の2θが18°以上20以下のピークと、43°以上46°以下のピークについて、それぞれ極大値、半値幅および面積強度比を算出した。算出にはTOPAS ver.3(Bruker社製結晶構造解析ソフトウェア)を用い、single profile fitting、peak typeはPV(position value)、Backgroundのchebychev orderは20とした。結果を表5に示す。
【0500】
【0501】
図31にサンプル2、サンプル4乃至サンプル6の正極活物質を用いたコインセルの2回目充電後の正極のXRDパターンを示す。同様に2θが18°以上20以下の領域を拡大したものを
図32Aに示す。また43°以上46°以下の領域を拡大したものを
図32Bに示す。
【0502】
また2回目充電後の2θが18°以上20以下のピークと、43°以上46°以下のピークについて、それぞれ極大値、半値幅および面積強度比を同様に算出した結果を表6に示す。
【0503】
【0504】
表5に示すように、初回充電後の解析において、第2の加熱を経ないサンプル1の面積強度IH1-3(006)/IO3’+O3(003)は62%、サンプル3では61%といずれも60%を超えていた。一方第2の加熱を経たサンプル2、サンプル4乃至サンプル6はいずれも面積強度IH1-3(006)/IO3’+O3(003)は37%以下であり、40%以下であった。
【0505】
また表6に示すように、2回目充電後の解析では面積強度IH1-3(006)/IO3’+O3(003)が増加する傾向にあるものの、サンプル2、サンプル5およびサンプル6はいずれも面積強度IH1-3(006)/IO3’+O3(003)が40%以下であった。
【0506】
以上から、第2の加熱を経た正極活物質は充電後にO3’構造を有することが確認された。また、H1-3型の(006)面に相当するピークとO3’型およびO3型の(003)面に相当するピークの面積強度比は初回充電後の解析において60%以下、より詳細には40%以下であることが明らかとなった。
【0507】
また第2の加熱を経ない場合でも、部分的にマグネシウム等の添加元素がリチウムサイトに入ることで、充電後のc軸方向の変形を多少抑制できるものの、その効果は不十分であった。これは添加元素が表層部の一部にしか良好に分布していないためと考えられた。