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特開2025-16583マグネシア及びその製造方法、及び高熱伝導性マグネシア組成物、これを用いたマグネシアセラミックス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025016583
(43)【公開日】2025-02-04
(54)【発明の名称】マグネシア及びその製造方法、及び高熱伝導性マグネシア組成物、これを用いたマグネシアセラミックス
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/053 20060101AFI20250128BHJP
   C01F 5/02 20060101ALI20250128BHJP
【FI】
C04B35/053
C01F5/02
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024188426
(22)【出願日】2024-10-25
(62)【分割の表示】P 2021521100の分割
【原出願日】2019-12-13
(31)【優先権主張番号】10-2018-0161252
(32)【優先日】2018-12-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(71)【出願人】
【識別番号】521103510
【氏名又は名称】コリア インスティテュート オブ マテリアルズ サイエンス
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 誠一
(72)【発明者】
【氏名】アン・チョルウー
(72)【発明者】
【氏名】チェ・チョンチン
(72)【発明者】
【氏名】ハーン・ビョンドン
(57)【要約】      (修正有)
【課題】耐吸湿性に優れ、熱界面素材用セラミックフィラーに適用し得るマグネシア及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、粉末から多様な形状と大きさのグラニュールを製造することができ、ドナーの添加によって熱処理後、耐吸湿性のある表面酸化物層が形成されることにより、MgOの低い耐吸湿性が改善するマグネシア及びその製造方法について開示する。また、本発明は、MgOにドナーを添加して焼結温度を低くし、熱拡散係数を向上させる高熱伝導性マグネシア組成物、及びこれを用いたマグネシアセラミックスについて開示する。本発明によるマグネシアの製造方法は、(a)MgO粉末にドナーと有機溶媒を添加して混合物を形成する段階;(b)前記混合物からドナーの添加されたMgOグラニュールを形成する段階;及び(c)前記ドナーの添加されたMgOグラニュールを熱処理する段階;とを含むことを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)マグネシア(MgO)にドナー(donor)を添加及び混合して、マグネシア組成物を製造する段階;
(b)前記マグネシア組成物を乾燥する段階;
(c)前記乾燥したマグネシア組成物を焼結する段階;とを含むマグネシアセラミックスの製造方法であって、工程(a)において、MgO粉末とドナーの総量100wt%に対して、ドナーを0wt%超2.0wt%以下で添加する過程を含み、前記工程(c)が1200℃以上1500℃未満で焼結過程を含み、マグネシアセラミックスの製造方法。
ここでドナーとは、MgOに比べて、金属原子価の高い金属酸化物であって、3価以上の原子価を有する金属の酸化物を意味する。
【請求項2】
請求項1に記載の製造方法で調製したマグネシアセラミックスであって、
マグネシア(MgO)とドナーとを含むマグネシア組成物の焼結体を含み、
前記マグネシア(MgO)の理論密度(3.58g/cm)に対して、93%~99.9%の相対密度値を有するマグネシアセラミックス。
【請求項3】
請求項1に記載の製造方法で調製したマグネシアセラミックスであって、
マグネシア組成物の焼結体を含み、
10.4mm/s~21.9mm/sの熱拡散度値を有するマグネシアセラミックス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MgO粉末にドナーを添加して熱処理するうちに、MgOグラニュールの表面にグラニュールの内部とは異なるMgO-ドナーを含む表面酸化物層が形成されつつ、耐吸湿性が改善して、熱界面素材として用いられるセラミックフィラー用マグネシア及びその製造方法に関する。また、本発明は、MgOにドナーを添加して焼結温度を低くし、熱拡散係数を向上させる高熱伝導性マグネシア組成物、及びこれを用いたマグネシアセラミックスに関する。
【背景技術】
【0002】
高出力LEDやパワーデバイス等の高電力が消耗され、熱が多く発生する部品の製作において、部品の信頼性及び長寿命を保障するために放熱パッケージが使用されている。
【0003】
通常、放熱パッケージは、高熱伝導性絶縁基板、金属ヒートシンク(Metal
Heat Sink)からなっている。高熱伝導性絶縁基板と金属ヒートシンクとの間には、放熱接着剤である熱界面素材(TIM:Thermal Interface Material)が使用される。
【0004】
熱界面素材は、高熱伝導性絶縁基板と金属ヒートシンクとを互いに密着させる接着剤として役割するか、放熱部品として単独使用される。このような熱界面素材は、ポリマーと高熱伝導性金属又はセラミックフィラー素材の複合体からなる。
【0005】
熱界面素材は、主にポリマーにAlフィラーを含ませて使用されている。
【0006】
しかし、Alフィラー素材は、熱伝導度が20-30W/mKと、多少低くて、改善する必要がある。
【0007】
一方、MgOは、原料コストがAlと同等な水準であり、熱伝導度が30-60W/mKと、Alフィラー素材に比べて熱伝導性に優れている。のみならず、MgOは、1014Ohm・cm以上の比抵抗を示して、電気絶縁性に優れている。これによって、Alフィラーの代わりにMgOフィラーが使用されると、Alに基づく熱界面素材の熱伝導度を改善することができるため、TIM用フィラーとして有用である。
【0008】
しかし、MgOは、吸湿性が比較的に高いため、水分の吸収によって熱伝導度が低下する。そして、水分の吸収によってMgOの表面に発生するMg(OH)は、高分子との複合を難しくして、TIMとして製造が難しいだけでなく、体積の膨脹によってポリマー素材と分離される可能性が高い点等の問題が発生しやすい。かかる点がMgOを熱伝導性セラミックフィラーへの実用化における障害要素となっている。これによって、MgOをTIM用熱伝導性セラミックフィラーとして開発するためには、耐吸湿性を改善し得る技術の開発が先行すべきである。
【0009】
一方、MgOは、アルミナ(Al)に比べて、熱伝導度が30-60W/mKと、高い長所がある。
【0010】
しかし、アルミナ(Al)が約1500~1600℃で焼結される反面、マグネシア(MgO)は、1700℃以上の高温で焼結される短所があり、マグネシア(MgO)の焼結条件が改善する必要がある。そのうちに、マグネシア(MgO)の低温焼結の試みはあったが、熱伝導度を保持しながら焼結温度を低くする放熱セラミック素材の研究はなかった。
【0011】
したがって、マグネシア(MgO)の高熱伝導の特性は保持しつつ、アルミナ(Al)の焼結温度である1500℃よりも低い温度で焼結可能にして、コスト競争力のある安値の高熱伝導性酸化物新素材の開発研究が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】韓国公開特許公報10-2016-0014590号(2016年2月11日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、耐吸湿性に優れ、熱界面素材用セラミックフィラーに適用し得るマグネシア及びその製造方法を提供することである。
【0014】
本発明の他の目的は、低温焼結(<1500℃)と高熱伝導性の特性を共に確保し得るマグネシア(MgO)組成物及びマグネシア(MgO)セラミックスを提供することである。
【0015】
本発明の目的は、以上に言及した目的に制限されないし、言及していない本発明の他の目的及び長所は、下記の説明によって理解することができ、本発明の実施例によってより明らかに理解することができる。また、本発明の目的及び長所は、特許請求の範囲に示した手段及びその組み合わせによって実現できることが分かりやすい。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、(a)MgO粉末にドナーと有機溶媒を用いて混合物を形成する段階;(b)前記混合物を乾燥させる段階;(c)前記乾燥した混合物からドナーの添加されたMgOグラニュールを形成する段階;及び(d)前記ドナーの添加されたMgOグラニュールを熱処理する段階;とを含み、前記ドナーの添加されたMgOグラニュールを熱処理して、前記MgOグラニュールの表面にMgOグラニュールの内部と組成が異なる表面酸化物層を形成するマグネシア(MgO)の製造方法を提供する。
【0017】
また、本発明は、(a)Mg(OH)粉末にドナーと蒸留水を添加して混合物を形成する段階;(b)前記混合物を乾燥させる段階;(c)前記乾燥した混合物からドナーの添加されたMg(OH)グラニュールを形成する段階;及び(d)前記ドナーの添加されたMg(OH)グラニュールを熱処理する段階;とを含み、前記ドナーの添加されたMg(OH)グラニュールを熱処理して、MgOグラニュールの表面にMgOグラニュールの内部と組成が異なる表面酸化物層を形成するマグネシア(MgO)の製造方法を提供する。
【0018】
また、本発明は、MgOグラニュール;及び前記MgOグラニュールの表面に形成された表面酸化物層;を含み、前記表面酸化物層の組成と、前記MgOグラニュールの内部の組成とが互いに異なるマグネシア(MgO)を提供する。
【0019】
また、本発明は、MgO基地内にTiO、Nb、ZrO又はAlを含み、下記の数式1、数式2、数式3又は数式4を満たすマグネシア(MgO)組成物を提供する。
【0020】
数式1 MgO+xwt.%TiO
数式2 MgO+ywt.%Nb
数式3 MgO+zwt.%ZrO
数式4 MgO+wwt.%Al
(上記数式1~4におけるx、y、z、wは、0<x、y、z、w≦10.0である。)
【発明の効果】
【0021】
本発明によるマグネシアの製造方法は、熱処理中、MgOグラニュールの表面にグラニュールの内部とは異なる「MgOとドナー素材」を含む表面酸化物層が形成されることにより、MgOの低い耐吸湿性を改善させる効果がある。このようなマグネシアは、熱界面素材用セラミックフィラーに活用されうる。
【0022】
また、本発明は、TiO、Nb、ZrO、Ga、Mn、B、Fe、SnO、MnO、SiO、V、Ta、Sb、Y、Eu、Er及びAlのうち1種以上を含むセラミック組成物をマグネシア(MgO)に添加することにより、熱伝導度の高いマグネシア(MgO)を1500℃よりも低い温度で焼結可能にしつつ、熱拡散係数を向上させたマグネシア(MgO)素材を安値の放熱セラミック素材として活用することができる。
【0023】
上述した効果とともに、本発明の具体的な効果は、以下の発明を実施するための具体的な事項を説明すると共に記述する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明のMgOグラニュールの製造時、熱処理による表面酸化物層の形成概念図、及び表面と内部の微細構造の写真。
図2】本発明の製造方法に従って製造されたMgOグラニュールの形状及び大きさを示す微細構造の写真と、熱処理(1400℃、2h)前後の表面の微細構造の写真。
図3】MgO原料粉末と、MgO粉末にドナーを添加して、熱処理(1400℃、2h)されたMgOグラニュールの水反応に対する抵抗性差を示す写真。
図4】1400℃で2時間熱処理したMgO+0.3wt.%TiO+0.3wt.%Nb+0.2wt.%SiO試片(左側)と、MgO+0.3wt.%TiO+0.3wt.%Nb試片(右側)の表面酸化物層の厚さを確認し得る破断面微細構造の写真。
図5】1400℃で2時間熱処理したMgO+0.3wt.%TiO+0.3wt.%Nb+0.2wt.%SiO試片において、MgO-ドナーを含む表面酸化物層の形成を確認し得るEnergyDispersive X-Ray Spectroscopy(EDS)の分析結果及び微細構造の写真。
図6】マグネシア(MgO)にTiO組成物を添加して焼結した試片の熱拡散度の変化を示すグラフ。
図7】マグネシア(MgO)にNb組成物を添加して焼結した試片の熱拡散度の変化を示すグラフ。
図8】マグネシア(MgO)にTiO(又はNb)組成物を微量添加して焼結した試片の熱拡散度の変化及び密度の変化を示すグラフ。
図9】マグネシア(MgO)に0.3wt.%TiO+微量のNb組成物を添加して焼結した試片の熱拡散度の変化及び密度の変化を示すグラフ。
図10】マグネシア(MgO)にZrO組成物を添加して焼結した試片の熱拡散度の変化を示すグラフ。
図11】マグネシア(MgO)に0.3wt.%TiO+0.3wt.%Nb+ZrO組成物を添加して焼結した試片の熱拡散度の変化を示すグラフ。
図12】マグネシア(MgO)にAl組成物を添加して焼結した試片の熱拡散度の変化を示すグラフ。
図13】マグネシア(MgO)に0.3wt.%TiO+0.3wt.%Nb+微量のAl組成物を添加して焼結した試片の熱拡散度の変化及び密度の変化を示すグラフ。
図14】マグネシア(MgO)に2.0wt.%TiO組成物を添加した試片と、マグネシア(MgO)に2.0wt.%ZrO組成物を添加した試片とを、それぞれ1400℃で2時間焼結した後、その破断面を電子顕微鏡で観察した微細構造の写真。
【発明を実施するための形態】
【0025】
前述した目的、特徴及び長所は、添付の図面を参照して詳細に後述され、これによって、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者は、本発明の技術的思想を容易に実施することができる。本発明の説明において、本発明に係る公知の技術に対する具体的な説明が本発明の要旨を曖昧にすると判断される場合には詳細な説明を省略する。以下では、添付の図面を参照して、本発明による好ましい実施例を詳説する。図面における同じ参照符号は、同一又は類似の構成要素を示すことに使われる。
【0026】
以下では、本発明の幾つの実施例によるマグネシア及びその製造方法、及び高熱伝導性マグネシア組成物、これを用いたマグネシアセラミックスを説明する。
【0027】
本発明のマグネシアの製造方法は、MgO粉末にドナーと有機溶媒を添加して混合物を形成する段階、前記混合物を乾燥させる段階、前記乾燥した混合物からドナーの添加されたMgOグラニュールを形成する段階、及び前記ドナーの添加されたMgOグラニュールを熱処理する段階、とを含む。
【0028】
そして、前記ドナーの添加されたMgOグラニュールを熱処理することにより、前記MgOグラニュールの表面にMgOグラニュールの内部と組成が異なる表面酸化物層を形成することを特徴とする。
【0029】
本発明におけるドナーは、MgOに比べて、金属原子価の高い金属酸化物であって、3価以上の原子価を有する酸化物を意味する。
【0030】
一方、本発明のマグネシアの製造方法は、前記MgO粉末の代わりにMg(OH)が用いられる。Mg(OH)が用いられる場合、熱処理後、焼結体及びグラニュールの収縮率(linear
shrinkage)が20~40%と示される。この収縮率は、MgOを用いた場合に収縮率が10~30%であるのに対して、高い収縮率差がある。
【0031】
MgO粉末の代わりにMg(OH)粉末を出発原料としてマグネシアを製造する場合、有機溶媒の代わりに蒸留水を添加することが好ましい。後述するMgO粉末を用いたマグネシアの製造方法の条件において、出発原料Mg(OH)と蒸留水を用いることを除いては、同じ条件でマグネシアを製造することができる。
【0032】
下記の製造方法は、MgO粉末を用いてマグネシアを製造する方法として説明する。
【0033】
MgO粉末にドナーと有機溶媒を添加して混合物を形成する段階において、ドナーを有機溶媒に溶解及び分散させて設けられた溶液にMgO粉末を混合して混合物を形成することができる。
【0034】
前記MgO粉末とドナーの全体100wt.%にTiO、Nb、ZrO、Ga、Mn、B、Fe、SnO、MnO、SiO、V、Ta、Sb、Y、Eu、Er及びAlのうち1種以上を含むドナーを0.01~10.0wt.%少量添加する。
【0035】
ドナーの添加量がこの範囲を外れる場合、マグネシアは、熱界面素材用セラミックフィラーとしてマグネシアの耐吸湿性及び熱伝導特性を確保しにくいことがある。
【0036】
MgO粉末にドナーと有機溶媒を添加した後、ボールミリングによって混合及び粉碎して混合物を形成する。
【0037】
混合物を形成する段階において、0.5~72時間粉砕が行われうる。
【0038】
粉砕時間が0.5時間未満と短過ぎる場合、MgOとドナー添加剤の混合及び粉砕効果が足りないことがある。逆に、72時間を超える場合、粉砕時間が長過ぎて、工程が非効率的でありうる。
【0039】
前記有機溶媒は、2-プロパノール、無水アルコールなどを用いることができ、蒸留水も用いることができる。蒸留水が用いられる場合、Mg(OH)の形成により20~40%の収縮率を示す。この収縮率は、2-プロパノール又は無水アルコールを用いる場合、熱処理後、焼結体及びグラニュールの収縮率が10~30%であるのに対して、高い収縮率差がある。
【0040】
前記混合物を乾燥させる段階は、有機溶媒を除去するために行われる。有機溶媒は、25±5℃での自然乾燥又は25℃以上での乾燥によって除去されうる。
【0041】
前記乾燥した混合物からドナーの添加されたMgOグラニュールを形成する段階において、様々な方法を利用してMgO粉末からMgOグラニュールを形成することができる。
【0042】
例えば、円柱状の容器を使って、10~500rpmの回転速度で回転させることにより、MgO粉末から多様な大きさのMgOグラニュールを形成するとともに、ドナーの添加されたMgOグラニュールを形成することができる。ここで、粉末とグラニュールとの差を比較すれば、粉末の粒径よりもグラニュールの粒径がさらに大きい。
【0043】
ドナーの添加されたMgOグラニュールも、前記MgOグラニュールの形成方法と同様の方法により製造することができ、ドナーの添加されたMgOグラニュールは、MgOグラニュールの表面にドナーが分散されて存在する形態に製造することもできる。
【0044】
ドナーの添加されたMgOグラニュールを熱処理する段階は、800~1800℃で行われうる。
【0045】
熱処理中、ドナーの一部がグラニュールの表面へ移動され、MgOとドナーを含む表面酸化物層を形成する。これによって、熱処理する段階において、MgOグラニュールの表面にMgO-ドナーを含む表面酸化物層が形成される。
【0046】
前記熱処理温度は、800~1800℃で行われることが好ましいし、この範囲を外れる場合、MgOグラニュールの表面に表面保護層として酸化物層が十分形成されないことがある。
【0047】
前述した製造方法と同様、Mg(OH)粉末を出発原料にしてマグネシアを製造する場合、Mg(OH)粉末にドナーと蒸留水を添加して混合物を形成する段階、前記混合物を乾燥させる段階、前記乾燥した混合物からドナーの添加されたMg(OH)グラニュールを形成する段階、及びドナーの添加されたMg(OH)グラニュールを熱処理する段階、とを含み、マグネシアを製造することができる。ドナー及び熱処理に対する事項は、前述したとおりである。
【0048】
図1は、本発明のMgOグラニュールの製造時、熱処理による表面酸化物の形成概念図、及び表面と内部の微細構造の写真である。
【0049】
図1に示したように、熱処理工程における一部のドナー等が粒界に沿って移動し、グラニュールの表面に集まるようになる。その結果、グラニュールの表面には、MgOグラニュールの内部と組成が異なる表面酸化物層が形成される。
【0050】
本発明において、MgOの低い耐吸湿性は、表面酸化物層の形成によって改善し得る。
【0051】
このように、本発明では、MgO粉末原料又はMg(OH)粉末原料を用いて、ドナーの添加されたMgOグラニュール又はMg(OH)グラニュールを形成した後、熱処理して、マグネシアを製造する方法によって、MgOグラニュールの表面に保護層のようなMgOとドナーを含む表面酸化物層が形成されて、耐吸湿性と、優れた熱特性を確保することができる。
【0052】
例えば、MgとMgのほか、金属元素が一つ以上含まれたMgTiO、Zr0.904Mg0.0961.904などの金属酸化物を含む表面酸化物層は、吸湿性の問題における自由な点を活用して、MgOの耐吸湿性を改善する効果がある。
【0053】
本発明のMgO粉末原料又はMg(OH)粉末原料から製造されるマグネシアは、MgOグラニュール、及び前記MgOグラニュールの表面に形成された表面酸化物層を含む。ここで、マグネシアは、表面酸化物層の組成と、前記MgOグラニュールの内部の組成とが互いに異なり、表面酸化物層は、MgOとドナーを含むことを特徴とする。
【0054】
前記ドナーは、MgOに比べて金属原子価の高い金属酸化物であって、TiO、Nb、ZrO、Ga、Mn、B、Fe、SnO、MnO、SiO、V、Ta、Sb、Y、Eu、Er及びAlのうち1種以上を含む。
【0055】
前記マグネシアの全体100wt.%に対して、前記ドナー(金属酸化物)素材は、0.01~10.0wt.%で含まれてもよく、好ましくは、0.01~2.0wt.%で含まれてもよい。
【0056】
具体的には、前記マグネシア(MgO)は、TiOとNbを含み、下記の数式6を満たす。
【0057】
数式6 MgO+xwt.%TiO+ywt.%Nb
【0058】
上記数式6におけるx、yは、0<x、y≦2.0である。
【0059】
図2は、本発明の製造方法に従って製造されたMgOグラニュールの形状及び大きさを示す微細構造の写真と、熱処理(1400℃、2h)前後の表面の微細構造の写真である。
【0060】
図2を参照すれば、製造条件(rpm)によって多様な大きさのMgOグラニュールを製造することができる。熱処理の前のMgOグラニュールに比べて、熱処理後、MgOグラニュールの表面酸化物層は、緻密な微細構造を示す。
【0061】
図3は、MgO原料粉末と、MgO粉末にドナーを添加して、熱処理(1400℃、2h)されたMgOグラニュールの水反応に対する抵抗性差を示す写真である。
【0062】
MgO原料粉末は、ドナーの添加されていない粉末であって、温度85℃、湿度85%の環境で72時間維持させた場合、粉末の表面でMg(OH)が観察された。
【0063】
一方、本発明の製造方法に従ってドナーの添加されたMgO粉末で製造して、1400℃で熱処理したグラニュールは、温度85℃、湿度85%の環境で72時間維持させた場合、グラニュールの表面でMg(OH)が観察されていない。
【0064】
かかる結果は、本発明のように、MgO粉末原料にドナーを添加して、MgOグラニュールを形成した後、熱処理した場合、水と反応せず、耐吸湿性が改善したことを示す。
【0065】
図4は、1400℃で2時間熱処理したMgO+0.3wt.%TiO+0.3wt.%Nb+0.2wt.%SiO試片(左側)と、MgO+0.3wt.%TiO+0.3wt.%Nb試片(右側)の表面酸化物層の厚さを確認することができる破断面の微細構造の写真である。
【0066】
ドナーの添加されたMgOは、熱処理後、試片(グラニュール)の内部と区分される表面酸化物層を形成した。MgO+0.3wt.%TiO+0.3wt.%Nb+0.2wt.%SiO試片では、MgO-ドナーを含む0.1μm~3μm厚の表面酸化物層が形成されたことを確認することができる。MgO+0.3wt.%TiO+0.3wt.%Nb試片を観察したTEMイメージでは、0.1μmよりも薄い表面酸化物層も観察される。
【0067】
図5は、1400℃で2時間熱処理したMgO+0.3wt.%TiO+0.3wt.%Nb+0.2wt.%SiO試片において、MgO-ドナーを含む表面酸化物層の形成が確認できるEnergy
Dispersive X-Ray Spectroscopy(EDS)の分析結果及び微細構造の写真である。
【0068】
ドナーの添加されたMgOは、熱処理時、内部と異なる相の表面酸化物層が形成された。
【0069】
焼結試片の表面よりも試片の内部のMgO含量が高いことが確認された。これは、焼結体の表面にMgO-ドナーを含む表面酸化物層が形成されることを意味する。
【0070】
そして、表面酸化物層の内部のドナーの含量がMgOグラニュールの内部のドナーの含量よりも濃度がさらに高かった。これは、マグネシア100wt.%に対して、ドナーは、2.0wt.%以下で添加されており、表面酸化物層内のドナーの濃度は、全体(グラニュールと表面酸化物)ドナーの平均濃度よりも高く、それによって、グラニュール内のドナーよりも表面酸化物層内のドナーの含量がさらに高いことを示す。その差は、表面酸化物層内のドナーの含量がグラニュールの内部のドナーの含量よりも少なくとも2倍以上、好ましくは、3倍以上、より好ましくは、10倍以上高い濃度と測定された。
【0071】
本発明による高熱伝導性マグネシア(MgO)組成物は、MgO基地内にTiO、Nb、ZrO又はAlを含み、下記の数式1、数式2、数式3又は数式4を満たす。
【0072】
数式1 MgO+xwt.%TiO
数式2 MgO+ywt.%Nb
数式3 MgO+zwt.%ZrO
数式4 MgO+wwt.%Al
(上記数式1~4におけるx、y、z、wは、0<x、y、z、w≦10.0である。)
【0073】
好ましくは、上記数式1におけるxは、0<x≦10.0であり、上記数式2におけるyは、0<y≦5.0であり、上記数式3におけるzは、0<z≦4.0であり、上記数式4におけるwは、0<w≦0.8を満たし得る。より好ましくは、上記数式2におけるyは、0<y≦1.0の範囲を満たし得る。
【0074】
図6と表1を参照すれば、前記マグネシア(MgO)にドナーとして、前記二酸化チタン(TiO)は、0wt.%超~10.0wt.%以下が添加されると、本発明によるマグネシア(MgO)セラミックスの熱拡散度が増加することが分かる。
【0075】
特に、図6図8及び表1を参照すれば、前記マグネシア(MgO)にドナーとして、前記二酸化チタン(TiO)は、0wt.%超~2.0wt.%以下を添加して、1400℃で焼結した場合、1700℃で焼結されたマグネシア(MgO)セラミックスの熱拡散度と類似であるかより優れることが分かる。
【0076】
また、図6図8及び表1を参照すれば、前記マグネシア(MgO)にドナーとして、前記二酸化チタン(TiO)は、0wt.%超~10.0wt.%以下を添加して、1300℃~1400℃で焼結した場合、あらゆる組成において、96%以上の高い相対密度を示し、同焼結温度で焼結されたマグネシア(MgO)セラミックスの相対密度である80-90%に比べて著しく改善することを確認することができる。
【0077】
のみならず、1300℃~1400℃の低温で焼結された前記マグネシア(MgO)に0wt.%超~10.0wt.%以下の二酸化チタン(TiO)が添加された組成の熱拡散度が、同焼結温度で焼結されたマグネシア(MgO)の熱拡散度に比べて、いずれも高く示されることを確認することができる。
【0078】
図7及び図8を参照すれば、前記マグネシア(MgO)にドナーとして、前記五酸化ニオビウム(Nb)は、0wt.%超~5.0wt.%以下が添加されると、本発明によるマグネシア(MgO)セラミックスを1300℃~1400℃で焼結した場合も、1700℃で焼結されたマグネシア(MgO)セラミックスの熱拡散度と類似であるかより優れることが分かる。
【0079】
特に、図7及び図8を参照すれば、前記マグネシア(MgO)にドナーとして、前記五酸化ニオビウム(Nb)は、1.0wt.%以下が添加される場合、1400℃で焼結した試片は、1700℃で焼結されたマグネシア(MgO)セラミックスの熱拡散度よりも優れることが分かる。
【0080】
図9では、0.3wt.%TiOを固定し、またNbをさらに添加すれば、1.0wt.%まで熱伝導特性の向上が観察されることを確認することができる。
【0081】
図10を参照すれば、前記マグネシア(MgO)にドナーとして、前記酸化ジルコニウム(ZrO)は、0wt.%超~4.0wt.%以下が添加されると、本発明によるマグネシア(MgO)セラミックスを1400℃で焼結した場合も、1700℃で焼結されたマグネシア(MgO)セラミックスの熱拡散度と類似であることが分かる。
【0082】
図11を参照すれば、前記マグネシア(MgO)にドナーとして、前記二酸化チタン(TiO)、前記五酸化ニオビウム(Nb)及び前記酸化ジルコニウム(ZrO)は、共に添加されても、1300℃~1400℃の焼結した試片の熱拡散度が、1700℃で焼結されたマグネシア(MgO)セラミックスの熱拡散度と類似であるか優れることが分かる。
【0083】
特に、図11を参照すれば、前記マグネシア(MgO)にドナーとして、前記二酸化チタン(TiO)0.3wt.%、前記五酸化ニオビウム(Nb)0.3wt.%及び前記酸化ジルコニウム(ZrO)は、0wt.%超~0.05wt.%以下が添加される場合、本発明によるマグネシア(MgO)セラミックスの熱拡散度が、1700℃で焼結されたマグネシア(MgO)セラミックスの熱拡散度よりも著しく高いことが分かる。
【0084】
図12を参照すれば、前記マグネシア(MgO)にドナーとして、前記アルミナ(Al)0wt.%超~0.8wt.%以下が添加されると、本発明によるマグネシア(MgO)セラミックスの熱拡散度が増加することが分かる。
【0085】
図13では、0.3wt.%TiOと0.3wt.%Nbを固定し、またAlをさらに添加しても、熱伝導特性が大きく低下せず、類似する熱伝導特性の傾向が表された。
【0086】
本発明による高熱伝導性マグネシア(MgO)組成物は、MgO基地内にTiO、Nb及びZrOを含み、下記の数式5を満たす。
【0087】
数式5 MgO+0.3wt.%TiO+0.3wt.%Nb+zwt.%ZrO
【0088】
上記数式5におけるzは、0<z≦0.05である。
【0089】
前述したように、図6図13、表1を参照すれば、MgOにドナーとして作用し得る3価以上のTiO、Nb、ZrO、Ga、Mn、B、Fe、SnO、MnO、SiO、V、Ta、Sb、Y、Eu、Er及びAlのうち1種以上の金属酸化物組成物を少量添加した試片は、MgOにドナーが添加されていない試片に比べて熱特性が向上したことを示す。
【0090】
本発明のマグネシアセラミックスを製造する方法は、マグネシア(MgO)にドナーを添加及び混合して、高熱伝導性マグネシア(MgO)組成物のうちいずれかの組成物を製造する段階、前記組成物を乾燥する段階、及び前記組成物を焼結する段階、とを含む。前記焼結は、1200℃~1500℃で行うことができる。
【0091】
マグネシア(MgO)の低温焼結において、ドナー(Donor)として作用し得る一つ以上の物質を添加することにより、焼結性の向上による低温焼結を達成することができる。
【0092】
前記ドナーは、TiO、Nb、ZrO、Ga、Mn、Fe、SnO、MnO、SiO、V、Ta、Sb、Y、Eu、Er及びAlのうち1種以上を含む。
【0093】
本発明のマグネシア(MgO)セラミックスは、マグネシア(MgO)にドナーとして二酸化チタン(TiO)、五酸化ニオビウム(Nb)、酸化ジルコニウム(ZrO)及び/又はアルミナ(Al)を適量添加して、ボールミルで2-プロパノールを溶媒として混合し、その後、これらを粉碎して乾燥させる。乾燥した混合粉末を径が15mmである円形の金属モールドで100MPaの圧力で成形した後、電気炉又はガス炉を用いて1200℃~1500℃の温度で2時間焼結して製造される。
【0094】
本発明の製造方法により製造された高熱伝導性マグネシア(MgO)セラミックスは、マグネシア(MgO)の理論密度(3.58g/cm)に対して、93%~100%の相対密度値を示し得る。または、Mgよりも重いドナー元素が添加される場合、3.58g/cmよりも高い密度を示し得る。高熱伝導性マグネシア(MgO)セラミックスは、10.4mm/s~21.9mm/sの熱拡散度値を示し得る。
【0095】
図14は、マグネシア(MgO)に2.0wt.%TiO組成物を添加した試片と、マグネシア(MgO)に2.0wt.%ZrO組成物を添加した試片とを、それぞれ1400℃で2時間焼結した後、その破断面を電子顕微鏡で観察した微細構造の写真である。
【0096】
図14を参照すれば、1400℃で焼結された場合、非常に緻密な微細構造を示す。
【0097】
このように、マグネシア及びその製造方法、及び高熱伝導性マグネシア組成物、これを用いたマグネシアセラミックスについてその具体的な実施例を検討すれば、次のとおりである。
【0098】
1.密度
キシレンを用いてアルキメデス法により測定した。
【0099】
2.熱拡散度
Laser flash methodを用いて測定した。(LFA
457,MicroFlash,Netzsch Instruments Inc.,Germany)
【0100】
表1は、本発明で提供される温度範囲でマグネシア(MgO)組成物の焼結した試片の密度及び熱拡散度の特性を示したものである。
【0101】
【表1】
【0102】
実施例1:マグネシア(MgO)にドナーとして0.5wt.%二酸化チタン(TiO)を添加して、ボールミルで2-プロパノールを溶媒として混合し、その後、これらを粉碎して乾燥させる。
【0103】
乾燥した混合粉末を径が15mmである円形の金属モールドで100MPaの圧力で成形した後、電気炉を用いて1300℃の温度で2時間焼結する。
【0104】
実施例2~32:実施例1のマグネシア(MgO)にドナーとして二酸化チタン(TiO)、五酸化ニオビウム(Nb)、酸化ジルコニウム(ZrO)、アルミナ(Al)、V、B、Y、SiO、Eu、Er、Feなどを表1に示した添加量で添加し、これらを1300℃又は1400℃温度で焼結したことを除いては、実施例1と同様の過程で高熱伝導性マグネシアセラミックスを製造した。
【0105】
比較例1:実施例1のマグネシア(MgO)にドナーを添加していないことを除いては、実施例1と同様の過程でマグネシアセラミックスを製造した。
【0106】
比較例2:実施例1のマグネシア(MgO)にドナーを添加しておらず、前記マグネシア(MgO)を1400℃温度で焼結したことを除いては、実施例1と同様の過程でマグネシアセラミックスを製造した。
【0107】
比較例3:実施例1のマグネシア(MgO)にドナーを添加しておらず、前記マグネシア(MgO)を1700℃温度で焼結したことを除いては、実施例1と同様の過程でマグネシアセラミックスを製造した。
【0108】
上記表1を参照すれば、1300℃~1400℃温度範囲でマグネシア(MgO)組成物の焼結が十分に行われることが分かり、ドナー組成比によってマグネシア(MgO)セラミックスの密度及び熱拡散度が変化することが分かる。
【0109】
具体的には、前記実施例1~実施例32を参照すれば、焼結温度である1300℃~1400℃の温度範囲で、マグネシア(MgO)に前記二酸化チタン(TiO)、五酸化ニオビウム(Nb)、酸化ジルコニウム(ZrO)、アルミナ(Al)、V、B、Y、SiO、Eu、Er及びFeのうち1種以上を添加する場合、本発明によるマグネシア(MgO)セラミックスは、3.02g/cm~3.59g/cmの優れた焼結密度値を示すことが分かり、10.4mm/s~21.9mm/sの優れた熱拡散度値を示すことが分かる。
【0110】
このように、従来のマグネシア(MgO)セラミックスに比べて、本発明による製造方法により製造された高熱伝導性マグネシア(MgO)セラミックスは、高い焼結密度値を示すことが分かる。これによって、本発明による製造方法により製造された高熱伝導性マグネシア(MgO)セラミックスは、従来のマグネシア(MgO)セラミックスに比べて、高い熱拡散度値を示し、放熱セラミック素材に適用可能である。
【0111】
以上のように、本発明について例示した図面を参照にして説明したが、本明細書に開示の実施例と図面によって本発明が限定されるものではなく、本発明の技術思想の範囲内で通常の技術者によって様々な変形が行われることは自明である。
また、上記で本発明の実施例を説明しながら本発明の構成による作用効果を明示的に記載して説明しなかったとしても、該構成によって予測可能な効果も認めるべきであることは当然である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14