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特開2025-1665中空柱状物の繊維強化コンクリート補強材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025001665
(43)【公開日】2025-01-08
(54)【発明の名称】中空柱状物の繊維強化コンクリート補強材
(51)【国際特許分類】
   E04G 23/02 20060101AFI20241225BHJP
【FI】
E04G23/02 F
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024099877
(22)【出願日】2024-06-20
(31)【優先権主張番号】P 2023100433
(32)【優先日】2023-06-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】515179358
【氏名又は名称】衛藤 武志
(71)【出願人】
【識別番号】305035093
【氏名又は名称】株式会社ビルドランド
(74)【代理人】
【識別番号】110003476
【氏名又は名称】弁理士法人瑛彩知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】衛藤 武志
【テーマコード(参考)】
2E176
【Fターム(参考)】
2E176AA01
2E176AA13
2E176BB12
2E176BB15
2E176BB18
(57)【要約】
【課題】中空柱状物をより簡便に補強する仕組みを提供する。
【解決手段】中空柱状物の補強部材であって、中空柱状の袋状シートと、前記袋状シートを前記中空柱状物の内部に挿通させるための押込棒と、前記袋状シートの一端に備えられ、膨張することで前記袋状シートを前記中空柱状物の内部に固定する膨張固定体と、前記膨張固定体と前記押込棒の先端とを着脱可能に連結する連結部材と、を備える、中空柱状物用補強部材。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空柱状物の補強部材であって、
中空柱状の袋状シートと、
前記袋状シートを前記中空柱状物の内部に挿通させるための押込棒と、
前記袋状シートの一端に備えられ、膨張することで前記袋状シートを前記中空柱状物の内部に固定する膨張固定体と、
前記膨張固定体と前記押込棒の先端とを着脱可能に連結する連結部材と、
を備える、中空柱状物用補強部材。
【請求項2】
前記袋状シートは、フィラメント糸を束ねた無撚または有撚の繊維束を緯糸で連結した織物と、前記織物に含浸されて硬化された樹脂と、により構成されている、
請求項1に記載の中空柱状物用補強部材。
【請求項3】
前記袋状シートは、流動性硬化材が注入される前の状態において、前記中空柱状物の中空に対応する筒状体が扁平に畳まれ、さらに折り目が筒軸方向に沿うように折畳まれている、
請求項1に記載の中空柱状物用補強部材。
【請求項4】
前記袋状シートは、板状の隔壁によって前記一端が封止されているとともに、当該隔壁を介して前記膨張固定体に固定されている、
請求項1に記載の中空柱状物用補強部材。
【請求項5】
前記押込棒は、可撓性を有する樹脂材料または金属材料から構成されている、
請求項1に記載の中空柱状物用補強部材。
【請求項6】
前記押込棒は、長手方向について複数の部分に分割可能に構成されている、
請求項1に記載の中空柱状物用補強部材。
【請求項7】
前記膨張固定体は、弾性材料からなり空気が導入されることで膨張する膨張部と、前記膨張部に接続され前記膨張部に空気を導入するためのエアチューブと、を備え、
前記エアチューブは、前記袋状シートの内部で長手方向に沿うように配設されている、
請求項1に記載の中空柱状物用補強部材。
【請求項8】
前記袋状シートに備えられ、流動性硬化材を注入するための注入管部材をさらに備える、請求項1に記載の中空柱状物用補強部材。
【請求項9】
前記注入管部材は、前記袋状シートの内部と外部を連通する第1の流路と、前記第1の流路に連通し前記袋状シートの長手方向に沿って前記一端の側に延びる第2の流路と、他端の側に延びる第3の流路と、からなるT字型の流路を有し、
前記第3の流路は、前記袋状シートが前記中空柱状物の中空内部に挿入された場合に、前記中空柱状物の中空の底部近傍に至る長さとされている、
請求項8に記載の中空柱状物用補強部材。
【請求項10】
中空柱状物を補強するための補強キットであって、
中空柱状の袋状シートと、
前記袋状シートの一端に備えられ、膨張することで前記袋状シートを前記中空柱状物の内部に固定する膨張固定体と、
前記膨張固定体と、前記袋状シートを前記中空柱状物の内部に挿通させるための押込棒の先端と、を着脱可能に連結する連結部材と、
を備える、中空柱状物用補強キット。
【請求項11】
中空柱状物の補強部材であって、
中空柱状の袋状シートと、
前記袋状シートを前記中空柱状物の内部に挿通させるための押込棒と、
前記袋状シートの一端に備えられ、膨張することで前記袋状シートを前記中空柱状物の内部に固定する膨張固定体と、
前記膨張固定体と前記押込棒の先端とを着脱可能に連結している連結部材と、
を備える、中空柱状物用補強部材を用意する工程、
前記中空柱状物に設けられた外部と中空部とを連通する孔部を介して、前記中空部内に、前記中空柱状物用補強部材を挿入する工程、
前記膨張固定体を膨張させて、前記袋状シートを、前記中空部内の所定の位置に固定する工程、
前記中空柱状物用補強部材から、前記押込棒を脱離させて前記中空部から回収する工程、および
前記袋状シートに流動性硬化材を注入する工程、
を含む、中空柱状物の補強方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに開示する発明は、中空柱状物の繊維強化コンクリート補強材に関する。
【背景技術】
【0002】
中空柱状物を補強するには、例えば、特許文献1に記載の中空柱状物の補強方法がある。特許文献1には、「補強材1を中空パイプ4で下から押し上げて電柱100内に配置し、中空パイプ4に充填材を供給して下から順に貫通孔10を使用して電柱100内に充填材を注入する」ことが開示されている(要約参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-4546号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の補強方法では、中空パイプの連結を狭い補強シートの空間内でおこなう必要があり作業性が悪い。
【0005】
本発明は、中空柱状物をより簡便に補強する仕組みを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、例えば特許請求の範囲に記載の構成を採用する。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、中空柱状物をより簡便に補強する仕組みが提供される。
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】一実施形態に係る中空柱状物の補強方法の挿入工程を例示する概略図である。
図2】一実施形態に係る中空柱状物の補強方法の固定工程を例示する概略図である。
図3】一実施形態に係る中空柱状物の補強方法の充填工程を例示する概略図である。
図4】挿入工程における中空柱状物用補強部材を部分的に詳細に例示する部分概略図である。
図5】固定工程における中空柱状物用補強部材を部分的に詳細に例示する部分概略図である。
図6】他の実施形態に係る中空柱状物の補強方法の挿入工程を例示する概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、適宜図面を参照し、本開示に係る中空柱状物の補強方法および中空柱状物用補強部材について説明する。本開示では、中空柱状物を、中空柱状物用補強部材を用いて補強する。中空柱状物としては、これに限定されるものではないが、例えば、コンクリート製の配線用ポール(電信柱、通信柱などを含む概念である。)、支持ポール(照明・カメラ・ネット等の支持用ポール)、煙突、等の中空コンクリート柱を対象とすることができる。
【0010】
図1~3は、一実施形態に係る中空柱状物用補強部材20を用いた中空柱状物1の補強方法における挿入工程、固定工程、充填工程の様子をそれぞれ例示する概要図である。図4は、挿入工程における中空柱状物用補強部材20を部分的に詳細に示す部分概略図である。図5は、充填工程における中空柱状物用補強部材20を部分的に詳細に示す部分概略図である。各図では、中空柱状物用補強部材20の構成および動作を理解するために、中空柱状物1および中空柱状物用補強部材20の一部を透視図として示している。
【0011】
本開示に係る中空柱状物1の補強方法は、概して、(1)中空柱状物用補強部材20を用意する工程、(2)中空柱状物用補強部材20を中空柱状物1の中空部に挿入する工程、(3)膨張固定体5によって袋状シート3を所定の位置に固定する工程、(4)押込棒4を回収する工程、および(5)流動性硬化材を注入する工程、を含む。
【0012】
本発明に係る中空柱状物の繊維強化コンクリート補強材20(中空柱状物用補強部材の一例)は、高ヤング率のシートを筒状に成形してその上下端を封止した袋状シート3であってシートの長辺方向に沿って二つ折りに畳まれておりシートには流動性硬化材6の注入管7(注入管部材の一例)が連通して配設されその吐出口にはビニルホース8(注入管部材の一例)が接続され、袋状シート3の底部にかけて延伸して配設してある。袋状シート3の頭頂部の表面には、袋状シート3を保持するための膨張固定体5が連結されており、膨張固定体5の頭頂部の表面には、中空柱状物1内に袋状シート3を挿入する押込棒4の連結部材10を備えている。また、袋状シート3の保持後に押込棒4は連結部材10より分離して中空柱状物1の外に引き抜かれることを特徴とする。
【0013】
本発明に係る中空柱状物の繊維強化コンクリート補強材20は、高ヤング率のフィラメント糸を所定の本数に束ねた無撚または有撚の繊維束を緯糸で連結した織物に一定量の熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂を繊維に含侵して編成したシートを筒状に成形してその上下端を封止した袋状シート3の長辺方向に沿って二つ折りに畳まれて格納されている。
【0014】
本発明に係る中空柱状物の繊維強化コンクリート補強材20は、前記袋状シート3に隔壁9を隔て連結された膨張固定体5の頭頂部の表面に中空柱状物1の所定の位置に挿入するための押込棒4の連結部材10が配設されている。連結部材10の先端キャップ13のなかで、前記袋状シート3は、連結部材10とプラスチックベルト、金属ベルト、接着材あるいはその両方により係合または嵌合されている。
【0015】
前記押込棒は前記袋状シートの表面の長辺方向に沿わし挿入の長さに応じて前記押込棒4の分割部を係合して延伸できその先端は雄ネジあるいは雌ネジが形成され前記連結部材には雌ネジあるいは雄ネジが形成され連結時にネジは互い違いに使用する。挿入時は押込棒を正回転で係合して使用して所定の位置で前記押込棒を逆回転させて前記連結部材から押込棒が分離して前記中空柱状物1の外へ前記押込棒が引き抜かれる。
【0016】
本発明に係る中空柱状物の繊維強化コンクリート補強材20の、前記押込棒は前記中空柱状物1の削孔2(孔部の一例)の巾より細い径の可撓性の樹脂棒あるいは金属棒が使われ断面欠損がない形状で編成されている。
【0017】
本発明に係る中空柱状物の繊維強化コンクリート補強材20は、前記袋状シートに流動性硬化材を充填するためのT字の注入管が前記袋状シートを連通して配設されプラスチックベルト、金属ベルト、接着材あるいはその両方により前記袋状シートに係合されている。また、前記注入管のT字の一方の吐出口にはビニルホースがプラスチックベルト、金属ベルト、接着材あるいはその両方により係合され前記袋状シートの底部にかけて延伸して配設されている。
【0018】
本発明に係る中空柱状物の繊維強化コンクリート補強材20は、前記袋状シート3の頭頂部の表面に、中空柱状物1内で前記袋状シート3を保持するための膨張固定体5が連結されており、前記膨張固定体5は、ラテックスあるいはフィルムの風船を内封しており、前記風船には遠隔から空気を注入するためのエアチューブ11が接続され前記袋状シート3の頭頂部を連通して前記袋状シート3の中空部を通り、前記注入管7の連通部の近傍から、前記袋状シート3の外へ配設しており前記風船の外皮は低伸度繊維を所定の容積に成形したカバーで編成されている。
【0019】
なお、特許文献1の補強方法では、中空柱状物の地際より筒状に成形してある補強シートの中空部に配設した可撓性の中空パイプを使い補強シートを挿入し押し上げて所定の位置に配置した後に補強シートの最上部の内側にある膨張材で補強シートと中空パイプとを中空柱状物内壁に押圧して固定した後に中空パイプの貫通孔からモルタルを補強シート内部に注入して充填する方法が開示されている。
したがって、特許文献1の補強方法は、鉛直方向に押し上げる中空パイプと膨張材を補強シート内部に配設しているから中空パイプの連結を狭い補強シートの空間内でおこなう必要があり作業性が悪い。また、補強シートには中空パイプの連結作業のための連通孔を開けるので補強シートの一部を鉛直方向に数十センチメートルを複数個所切断しなくてはならないから密閉が保てず流動性硬化材の漏出と繊維の強度低下が発生する。また、モルタルの中には中空パイプと膨張材が異物として残留するのでモルタルの強度の低下も発生する。
【0020】
これに対し、本発明に係る中空柱状物の繊維強化コンクリート補強材は、高ヤング率の袋状シートであって注入管に連結されたビニルホースは流動性硬化材の分離を防止して強度を安定させる。また、膨張固定体と押込棒は袋状シートの外に配設されているから袋状シートに連通孔などの大がかりな加工が不要となりシートの切断もないから密閉性と強度が高い。また、挿入時の押込棒の連結作業も袋状シートの外で作業ができて押込棒には吐出口などの断面欠損もないから強度も高く挿入作業が楽におこなえる。また、袋状シートの中には押込棒や膨張固定体が残留物として残らないから流動性硬化材の圧縮強度も低下しない強度安定性に優れた中空柱状物の繊維強化コンクリート補強材。
【0021】
本発明に関する中空柱状物の繊維強化コンクリート補強材20の実施形態について、図1に示した挿入工程では、膨張固定体5の頭頂部に連結された押込棒4を、袋状シート3の表面の長辺方向に押込棒4を沿わせ中空柱状物1の削孔2から挿入する形態を示す。
【0022】
本発明に関する中空柱状物の繊維強化コンクリート補強材20の実施形態について、図2に示した固定工程では、袋状シート3が所定の位置で延伸が止まり、膨張固定体5が膨張して袋状シート3が中空柱状物1に固定された形態を示す。
【0023】
本発明に関する中空柱状物の繊維強化コンクリート補強材20の実施形態について、図3に示した充填工程では、押込棒4が中空柱状物1の外に引き抜かれ袋状シート3に流動性硬化材6が充填されて膨張固定体5が収縮した形態を示す。
【0024】
本発明に関する中空柱状物の繊維強化コンクリート補強材20の実施形態について、図4に示した挿入工程の詳細では、膨張固定体5の頭頂部にある連結部材10のネジ部と押込棒4のネジ部を正回転させて係合して連結した後に中空柱状物1の削孔2より袋状シート3の表面の長辺方向に押込棒4を沿わして挿入する。延伸長さに応じて追加する押込棒4の先端を押込棒の下端ネジ部に正回転させて係合して連結した後に延伸している形態を示す。
【0025】
本発明に関する中空柱状物の繊維強化コンクリート補強材20の実施形態について、図5に示した固定工程と充填工程の詳細では、袋状シート3が所定の位置で延伸が止まり、膨張固定体5にエアチューブ11から空気が充填され膨張して袋状シートが中空柱状物に固定された後に押込棒4を逆回転させて連結部材10から切り離して引き抜かれる。注入管7から流動性硬化材6を充填するとT字のビニルホース8側の吐出口より袋状シート3の底部から流動性硬化材は分離せずに充填され、注入管7のレベルを超えると、T字の一方の吐出口から流動性硬化材6が袋状シート3ないに充填され、満充填後に膨張固定体5の気密を解放して収縮させるか膨張のまま補強が完了する。
【0026】
図1~5を参照しつつ、中空柱状物用補強部材20について改めて説明する。
本開示に係る中空柱状物用補強部材20は、例えば図1に示すように、概して、袋状シート3と、押込棒4と、膨張固定体5と、連結部材10と、注入管7(注入管部材の一例)と、を備える。
【0027】
袋状シート3は、補強対象である中空柱状物1を補強する要素である。袋状シート3は、例えば、中空柱状物1に対し、曲げモーメントに対する抗力や水平荷重に対する抗力を付与する。袋状シート3は、概して、中空柱状物1の中空形状に対応した中空柱状の袋状をなしている。換言すると、袋状シート3は、中空柱状物の中空に対応する筒状体をなしている。袋状シート3を中空柱状物1の内表面に一体的に固定することで、中空柱状物1が補強される。なお、袋状シート3を中空柱状物1の内表面に一体的に固定するための固定材には、流動性硬化材6が用いられる。
【0028】
袋状シート3は、高ヤング率のシートから構成されている。袋状シート3は、例えば、このシートを筒状に成形し、その上下端を封止することで構成されている。袋状シート3の上端は、例えば図4に示すように、隔壁9によって封止されていてもよい。また、袋状シート3の上端および/または下端は、接着剤やミシン縫製等によって封止されていてもよい。
【0029】
本明細書において「高ヤング率」とは、袋状シート3の少なくとも長手方向の弾性率(引張弾性率)が、補修対象の中空柱状物1の軸方向の弾性率(引張弾性率)よりも高いことをいう。袋状シート3の弾性率は、中空柱状物1に求められる弾性率よりも高いことが好ましく、例えば、製造当初の中空柱状物1の弾性率と同程度あるいはそれよりも高いことが好ましい。なお、参考までに、コンクリート構造物の引張弾性率は、一般に、圧縮弾性率と同等ないしは幾分小さいと見積もられる。そして、鉄筋コンクリートの圧縮弾性率(ヤング率)は設計基準強度等によって様々に規定されているものの、設計基準強度80において3.80×104N/mm2以上、PHC杭において4.00×104N/mm2以上である。
【0030】
袋状シート3は、例えば、高弾性率繊維によって構成することができる。袋状シート3は、好ましくは、高弾性率繊維からなる織物である。高弾性率繊維からなる織物は、例えば、高弾性率の繊維(例えば、フィラメント糸)を所定の本数に束ねた無撚または有撚の繊維束(経糸)を緯糸で連結した織物である。高弾性率繊維からなる織物は、必須ではないものの、さらに樹脂材料(例えば、熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂)を含侵させて硬化させたものであってもよい。なお、本明細書において、高弾性率繊維とは、引張強度20g/d(17.7cN/dtex)以上、引張弾性率400g/d(50GPa、凡そ353cN/dtex)以上のものをいう。これに限定されるものではないが、高弾性率繊維の引張弾性率は、500cN/dtex以上、700cN/dtex以上、700cN/dtex以上、1000cN/dtex以上、1200cN/dtex以上であることがより好ましい。また、織物を構成する繊維束は、例えば、10,000本以上とすることが挙げられる。このような高弾性率繊維としては、例えば、アラミド繊維、炭素繊維、高密度ポリエチレン繊維、ポリベンズアゾール系繊維等が挙げられる。
【0031】
袋状シート3は、施工の前の段階において、略筒状のものを扁平な略2次元の帯状に潰して畳み、これを折り目(折部12)が長手方向(例えば筒軸の方向)に沿うようにより細い帯状に折り畳まれていることが好ましい。袋状シート3は、例えば、縦に(折り目が長手方向に沿うように)二つ折りにされていてもよいし、屏風のように多重折りにされていてもよい。このように展開容易な形態に細く折り畳まれていることで、施工時の挿入工程において、中空柱状物1の中空に中空柱状物用補強部材20を容易に挿入することができる。なお、後述するエアチューブ11を、筒状の袋状シート3の内部に挿通した状態で、袋状シート3を折り畳むとよい。また、細い帯状に折り畳まれた袋状シート3は、例えば、折り畳み状態で上端を隔壁9に固定し、下端を封止しておくとよい。この場合、後述するが、エアチューブ11を隔壁9に挿通させておくとよい。これにより、折り畳み形状を安定して維持することができる。さらに、細い帯状に折り畳まれた袋状シート3は、収納・保管・運搬等に便利なように、巻き取られたり、長さ方向について折りたたまれたりしていてもよい。
【0032】
注入管7は、袋状シート3に流動性硬化材6を注入するための流路を提供する要素である。注入管7は、付加的な要素であって、例えば、補強対象の中空柱状物1に補強作業用の削孔2を設け、中空柱状物1の中空に袋状シート3を挿入した場合に、袋状シート3の削孔2に対応する位置に装着される。注入管7は、任意のタイミングで、袋状シート3に装着される。例えば、注入管7は、施工時に、あるいは施工よりも前(中空柱状物用補強部材20の製造時を含む)に、あるいは注入工程において、袋状シート3に装着される。
【0033】
注入管7は、袋状シート3の内部と外部を連通する第1の流路と、この第1の流路に連通し袋状シート3の長手方向に沿って上端の側に延びる第2の流路と、下端の側に延びる第3の流路と、からなるT字型の流路を有する。本実施形態の注入管7は、T字管である。T字管からなる注入管7の第3の流路には、ビニルホース8が接続されている。ビニルホース8は、例えば、補強対象の中空柱状物1の中空に袋状シート3を挿入した場合に、中空柱状物1の中空底部(袋状シート3の底部であってもよい)ないしはその近傍にまで配設可能な長さである。
【0034】
押込棒4は、袋状シート3を中空柱状物1の内部に挿通させるための要素である。押込棒4は、可撓性を有する材料(例えば、樹脂材料または金属材料)から構成される棒状体である。押込棒4は、これに限定されるものではないが、例えば、直径は30ミリ以上40ミリ以下程度であるとよい。施工に際しては、押込棒4の先端に、連結部材10を用いて袋状シート3の上端が連結される。本実施形態の押込棒4は、長手方向について複数の部分(分割部)に分割可能に構成されている。図2に示す例では、押込棒4は、長手方向について3つの部材から構成されている。それぞれの部材は、例えばねじ構造によって、着脱可能に構成されている。押込棒4は、先端が中空柱状物1の内部の中空の上端に到達した場合に、下端が削孔2から外部に留まる程度の長さとされる。
【0035】
膨張固定体5は、袋状シート3の上端側に連結され、袋状シート3を中空柱状物1の内部に固定(位置決め)する要素である。膨張固定体5は、中空柱状物1の内部で膨張して内壁に膨張圧を加えることで、鉛直下方に作用する重力に対する抗力を得ることができ、これによって中空柱状物1に対する上下方向の位置を固定することができる。延いては、膨張固定体5は、中空柱状物1の内部で袋状シート3を所定の高さ位置で吊り下げ支持することができるようになっている。
【0036】
膨張固定体5は、例えば、弾性材料からなり空気が導入されることで膨張する膨張部と、この膨張部に接続されて膨張部に空気を導入するためのエアチューブ11と、膨張部を押込棒4の先端および袋状シート3に連結する連結部と、を備える。本実施形態では、膨張固定体5の膨張部は弾性を有するゴム材料または樹脂フィルム材料からなる風船によって構成されている。膨張固定体5の膨張部は、中空柱状物1の中空の直径(内径)よりも大きく膨張できるように設計されている。膨張固定体5の膨張部は、膨張時に袋状シート3を吊り下げ支持するに十分な効力が得られるように、中空柱状物1の内壁と十分な面積で接することができるような、素材、寸法および形状に設計されているとよい。なお、連結部は、膨張部と一体的に構成されていてもよいし、膨張部とは別の要素として備えられていてもよい。連結部が膨張部とは別の要素である場合、例えば、連結部は、膨張部を保持するとともに押込棒4の先端および袋状シート3に連結し、膨張部の膨張を妨げない部材(例えば、シート状体、織物状体、網状体、紐状体等)により構成することができる。
【0037】
膨張固定体5の膨張部は、例えば、低伸度繊維からなる層を外皮として備える2層構造の風船であっってもよい。低伸度繊維とは、風船の構成材料よりも相対的に伸度が低い繊維材料であればよく、例えば、低伸度ナイロン繊維、ポリアリレート系繊維、低伸度ポリエステル繊維、低伸度アラミド繊維、ポリフッ化ビニリデン繊維等が挙げられる。膨張部をこのような2層構造とすることで、袋状シート3を吊り下げ支持可能なように膨張させた場合に、中空柱状物1の内壁との間の摩擦等で膨張部が破損することを防止できる。また、中空柱状物1の内壁に対するグリップ力が高められる点においても好ましい。
伸度は、例えば、JIS L1096:2020に規定される「伸び率」によって評価することができる。
【0038】
エアチューブ11の一端(上端)は、風船の開口に接続されている。エアチューブ11は、例えば、隔壁9に挿通されて固定されている。エアチューブ11は、隔壁9を通って袋状シート3の内部に長手方向に沿うように配設されている。エアチューブ11は、例えば、中空柱状物1の中空に袋状シート3を挿入した場合に、他端(下端)の側を袋状シート3の削孔2に対応する位置で袋状シート3の外部に導出し、削孔2の外に延出できる長さとされている。
【0039】
連結部材10は、膨張固定体5と押込棒4の先端とを連結する要素である。連結部材10は、例えば、押込棒4の先端を着脱可能に連結する。連結部材10は、例えば図4等に示すように、先端キャップ13と、押込棒連結部14と、を備える。先端キャップ13は、膨張固定体5および押込棒連結部14を固定する。押込棒連結部14は、可撓性を有する棒状体である。押込棒連結部14は、長手方向(上下方向)の寸法が膨張固定体5よりも長く、膨張固定体5よりも下方において押込棒4を着脱可能に連結する。これにより、膨張固定体5が膨張して袋状シート3を吊り下げ支持した後に、押込棒4の脱離が可能とされる。なお、押込棒連結部14と押込棒4の間の連結構造は、例えば、ねじ構造であってよい。ここで、押込棒連結部14と押込棒4の間のねじ構造は、例えば、分割可能な押込棒4の各分割部間に設けられるねじ構造と比較して、より小さい力で脱離できる構成(例えば、締め付けトルクおよび/または呼び径がより小さい等)であるか、ねじ切り方向が逆の逆ねじ構造であってもよい。
【0040】
次に、中空柱状物用補強部材20を用いた中空柱状物1の補強方法の、各工程について説明する。なお、予め、(2)挿入工程よりも前に、中空柱状物1に対し、作業用の穴部(削孔2)を設けておく。削孔2は、例えば、作業性が良好な位置であってよく、例えば、地上50cm~1m程度の位置とすることができる。
【0041】
(1)中空柱状物用補強部材20を用意する工程では、上述の中空柱状物用補強部材20を組み立てる(図1図4参照)。すなわち、袋状シート3の上端側に膨張固定体5を取り付け、この膨張固定体5を連結部材10の先端キャップ13に固定する。また、連結部材10の先端キャップ13に押込棒連結部14を固定し、押込棒連結部14と押込棒4を連結する。なお、押込棒4が分割式である場合、一番先端側の分割部のみを装着すればよい。また、必要に応じて、袋状シート3の削孔2に対応する位置からエアチューブ11を導出したり、削孔2に対応する位置に、ビニルホース8を連結した注入管7を装着したりするとよい。
【0042】
(2)中空柱状物用補強部材20を中空柱状物1の中空部に挿入する工程では、組み立てた中空柱状物用補強部材20を先端から、すなわち、連結部材10の先端キャップ13から、削孔2を介して中空柱状物1の中空上方に向けて挿入する(図1参照)。このとき、押込棒4の部材の全長が挿入される前に次の分割部を継ぎ足すことで、中空柱状物1の内部に所定の長さの押込棒4を作業性良く構築することができる。押込棒4が延長されて挿入されるにつれて、袋状シート3の上端が中空柱状物1の上方に吊り上げられる。袋状シート3の下端側は、適切なタイミングで、中空柱状物1の内部に挿入してもよい。連結部材10の先端キャップ13が中空柱状物1の中空の所定の位置(例えば、足場釘を基準とした所定の位置)に到達すると、挿入工程は完了する。
【0043】
(3)膨張固定体5によって袋状シート3を所定の位置に固定する工程では、膨張部を膨張させる(図2図5参照)。具体的には、例えば、エアチューブ11の下端を削孔2から引出し、コンプレッサー等によりエアチューブ11を介してエアを膨張固定体5の膨張部に送り、膨張部を膨張させる。膨張部を所定の圧力まで膨張させた後、エアチューブ11の下端を気密に封止する。これにより、袋状シート3は、押込棒4によってではなく、膨張固定体5によって、吊り下げ支持される。また、連結部材10は、上下方向および水平方向について、中空柱状物1の内壁と膨張固定体5との間に挟まれ、位置決めされる。
【0044】
(4)押込棒4を回収する工程では、まず、連結部材10の押込棒連結部14から押込棒4を脱離させる。例えば、押込棒4の下端を回転させることで、押込棒連結部14から押込棒4を脱離させる。その後、削孔2から押込棒4を抜き出すことで、押込棒4を回収することができる。
【0045】
(5)流動性硬化材6を注入する工程では、注入管7およびビニルホース8を介して、袋状シート3に流動性硬化材6を注入する。流動性硬化材6としては、例えば、モルタルやコンクリートを採用することができる。ビニルホース8は、削孔2より下方の中空柱状物1の中空底部までの流路を提供する。これにより、削孔2よりも下方のレベルに流動性硬化材6を安定して供給することができる。特に、流動性硬化材6がモルタルやコンクリートである場合は、落下による骨材の分離を抑制しながら袋状シート3に流動性硬化材6を供給することができる。また、削孔2よりも上方には、骨材の分離なく袋状シート3に流動性硬化材6を供給することができる。このとき、流動性硬化材6の自重によって、袋状シート3は中空柱状物1の内壁に押し付けられ、かかる状態で流動性硬化材6は硬化する。これにより、中空柱状物1の内部を、袋状シート3で強化された硬化物(例えば、繊維強化コンクリート/モルタル)で補強することができる。なお、流動性硬化材6が硬化する前に、注入管7およびビニルホース8の少なくとも一方を回収してもよい。
【0046】
上記構成によると、押込棒4および膨張固定体5は袋状シート3の外に配置される。そのため、施工時に袋状シート3の下端からその内部に押込棒4および膨張固定体5を挿通させる必要がなく、また、押込棒4に分割部材を継ぎ足す場合も袋状シート3を挿通させる必要がない。したがって、中空柱状物1を作業性よく補修することができる。また、押込棒4および膨張固定体5は、流動性硬化材6(延いてはその硬化物)の内部に存在せず、押込棒4および膨張固定体5の介在とその劣化や体積変形に伴う硬化物の強度(例えば、圧縮強度および引張強度)の低下を抑制することができる。さらに、押込棒4は中空柱状物1の内部から回収されるため、強度等に問題がない範囲で、繰り返し使用することができる。したがって、コスト面においても有利である。
【0047】
なお、本開示の中空柱状物1の補強方法においては、押込棒4と、必要に応じて注入管7およびビニルホース8の少なくとも一方と、を回収して繰り返し使用できる。したがって、本開示は、中空柱状物用補強部材20の消耗品として、例えば、袋状シート3と、膨張固定体5と、連結部材10と、を備える、中空柱状物用補強キットを提供することができる。
【0048】
なお、本開示は上記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施形態は本開示を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成を追加・削除・置換することが可能である。
【0049】
例えば、図6に示す通り、隔壁9は必ずしも必要ではない。また、膨張固定体5と連結部材10および膨張固定体5と袋状シート3の接続の構成はこの例に限定されない。本開示に接した当業者であれば、様々に改変した形態を考慮することができる。
【0050】
本開示は、以下の構成1~8のいずれか1つまたは2つ以上の組み合わせを開示する。
[構成1]
本発明に係る中空柱状物の繊維強化コンクリート補強材は、高ヤング率のシートを筒状に成形してその上下端を封止した袋状シートであってシートの長辺方向に沿って二つ折りに畳まれて格納される折部と袋状シートには流動性硬化材の注入管が連通して配設されその吐出口にはビニルホースが接続され袋状シートの底部にかけて延伸して配設してある。袋状シートの頭頂部の表面にはシートを保持するための膨張固定体が連結されておりその固定体の頭頂部の表面には中空柱状物内にシートを挿入する押込棒の連結部材を備えている。また、袋状シートの保持後に押込棒は連結部材より分離して中空柱状物の外に引き抜かれることを特徴とする中空柱状物の繊維強化コンクリート補強材
[構成2]
前記袋状シートは、高ヤング率のフィラメント糸を所定の本数に束ねた無撚または有撚の繊維束を緯糸で連結した織物に一定量の熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂を繊維に含侵して編成したシートで上記構成1に記載の中空柱状物の繊維強化コンクリート補強材
[構成3]
前記袋状シートはシートの長辺方向に沿って均等に二つ折りにされて畳まれて格納する折部とをもつ上記構成1または2に記載の中空柱状物の繊維強化コンクリート補強材
[構成4]
前記袋状シートの隔壁を隔て連結された膨張固定体の頭頂部の表面に中空柱状物の所定の位置に挿入するための押込棒の連結部材が配設されている上記構成1~3のいずれか1つに記載の中空柱状物の繊維強化コンクリート補強材
[構成5]
前記押込棒は袋状シートの表面の長辺方向に沿わし挿入の長さに応じて押込棒の分割部を係合して延伸できその先端は雄ネジあるいは雌ネジが形成され連結部材には雌ネジあるいは雄ネジが形成され連結時にネジは互い違いに使用する。挿入時は押込棒を正回転で係合して使用して所定の位置で押込棒を逆回転させて連結部材から押込棒が分離して中空柱状物の外へ押込棒が引き抜かれる上記構成1~4のいずれか1つに記載の中空柱状物の繊維強化コンクリート補強材
[構成6]
前記袋状シートに流動性硬化材を充填するためのT字の注入管が袋状シートを連通して配設されプラスチックベルト、金属ベルト、接着材あるいはその両方により袋状シートに係合されて注入管のT字の一方の吐出口にはビニルホースがプラスチックベルト、金属ベルト、接着材あるいはその両方で係合され袋状シートの底部にかけて延伸して配設されている。上記構成1~5のいずれか1つに記載の中空柱状物の繊維強化コンクリート補強材
[構成7]
前記膨張固定体はラテックスあるいはフィルムの風船を内封しており風船は空気を注入するエアチューブが接続され袋状シートの頭頂部を連通して袋状シートの中空部を通り注入管の連通部からシートの外へ配設しており風船の外皮は低伸度繊維を所定の容積に成形したカバーで編成されている上記構成1~6のいずれか1つに記載の中空柱状物の繊維強化コンクリート補強材
[構成8]
前記押込棒は前記中空柱状物の削孔の巾より細い径の可撓性の樹脂棒あるいは金属棒が使われ断面欠損がない形状で編成されている上記構成1~7のいずれか1つに記載の中空柱状物の繊維強化コンクリート補強材
高ヤング率のシートを筒状に成形してその上下端を封止した袋状シート3であってシートの長辺方向に沿って二つ折りに畳まれて格納される折部12と流動性硬化材6の注入管7が連通して配設されその吐出口にはビニルホース8が接続され袋状シートの底部にかけて延伸して配設してある。袋状シートの頭頂部の表面にはシートを保持するための膨張固定体5が連結されており膨張固定体の頭頂部の表面には中空柱状物内に袋状シートを挿入する押込棒4の連結部材10を備えている。また、シートの保持後に押込棒4は連結部材10より分離して中空柱状物の外に引き抜かれることを特徴とする。
【符号の説明】
【0051】
1 中空柱状物
2 削孔
3 袋状シート
4 押込棒
5 膨張固定体
6 流動性硬化材
7 注入管
8 ビニルホース
9 隔壁
10 連結部材
11 エアチューブ
12 折部
13 先端キャップ
14 押込棒連結部
20 繊維強化コンクリート補強材(中空柱状物用補強部材)
図1
図2
図3
図4
図5
図6