(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025016698
(43)【公開日】2025-02-04
(54)【発明の名称】動力伝達装置
(51)【国際特許分類】
F16D 43/08 20060101AFI20250128BHJP
F16D 13/52 20060101ALI20250128BHJP
【FI】
F16D43/08
F16D13/52 A
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024193548
(22)【出願日】2024-11-05
(62)【分割の表示】P 2024540757の分割
【原出願日】2023-12-21
(31)【優先権主張番号】P 2023002564
(32)【優先日】2023-01-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000128175
【氏名又は名称】株式会社エフ・シー・シー
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【弁理士】
【氏名又は名称】山根 広昭
(74)【代理人】
【識別番号】100189887
【弁理士】
【氏名又は名称】古市 昭博
(72)【発明者】
【氏名】近藤 宏之
(72)【発明者】
【氏名】小澤 嘉彦
(72)【発明者】
【氏名】曾 恒香
(72)【発明者】
【氏名】志水 亮太
(57)【要約】 (修正有)
【課題】任意に入力部材の回転力を出力部材に伝達させ又は遮断させ得る動力伝達装置に関する。
【解決手段】動力伝達装置は、クラッチハウジングの回転に伴う遠心力により内径側位置から外径側位置に移動可能とされた複数のウェイト部材と、ウェイト部材が内径側位置から外径側位置に移動することにより駆動側クラッチ板および被動側クラッチ板を圧接させる方向に移動する圧接部材12と、を有する遠心クラッチ手段を備え、ウェイト部材は、ウェイト部材が内径側位置から外径側位置に移動する過程において圧接部材12を介して駆動側クラッチ板と被動側クラッチ板とを圧接させるように構成され、圧接部材12は、円環状の本体部と、本体部の周方向に並ぶ複数の凸部K2とを有し、複数の凸部K2の数は、複数のウェイト部材の数の整数倍であり、複数の凸部K2は、周方向に関して相互に離隔して配置されている。
【選択図】
図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源の駆動力で回転する入力部材と共に回転し、かつ、複数の駆動側クラッチ板を保持するクラッチハウジングに収容され、かつ、車輪を回転させ得る出力部材と連結されたクラッチ部材と、
前記クラッチ部材に対して接近または離隔可能に設けられ、かつ、前記駆動側クラッチ板と交互に配置された複数の被動側クラッチ板および複数の前記駆動側クラッチ板を押圧可能なプレッシャ部材と、
前記クラッチハウジングの回転に伴う遠心力により内径側位置から外径側位置に移動可能とされた複数のウェイト部材と、前記ウェイト部材と接触可能に設けられかつ前記ウェイト部材が前記内径側位置から前記外径側位置に移動することにより前記駆動側クラッチ板および前記被動側クラッチ板を圧接させる方向に移動する圧接部材と、を有し、かつ、前記ウェイト部材が前記外径側位置にあるときに前記駆動側クラッチ板と前記被動側クラッチ板とを圧接させて前記駆動源の駆動力を前記車輪に伝達可能な状態とするとともに、前記ウェイト部材が前記内径側位置にあるときに前記駆動側クラッチ板と前記被動側クラッチ板との圧接力を解放させて前記駆動源の駆動力が前記車輪に伝達されるのを遮断し得る遠心クラッチ手段と、を備え、
前記ウェイト部材は、前記ウェイト部材が前記内径側位置から前記外径側位置に移動する過程において前記圧接部材を介して前記駆動側クラッチ板と前記被動側クラッチ板とを圧接させるように構成され、
前記圧接部材は、
円環状の本体部と、
前記本体部から前記出力部材の軸方向に突出し、かつ、前記本体部の周方向に並ぶ複数の凸部と、を有し、
複数の前記凸部の数は、複数の前記ウェイト部材の数の整数倍であり、
複数の前記凸部は、前記周方向に関して相互に離隔して配置されている、動力伝達装置。
【請求項2】
複数の前記凸部は、前記周方向に関して隣接する第1凸部および第2凸部を含み、
前記出力部材の前記軸方向に見たときに、前記第1凸部のうち径方向に延びる前記周方向の両端部のそれぞれの一部と、前記第2凸部のうち前記径方向に延びる前記周方向の両端部のそれぞれの一部とは、互いに平行である、請求項1に記載の動力伝達装置。
【請求項3】
前記圧接部材は、前記本体部の外周縁から径方向外側に向けて突出する突起部を有し、
前記出力部材の前記軸方向に見たときに、前記本体部の中心と前記突起部の前記周方向の中心とを通過する直線は、前記凸部とは重ならない、請求項1に記載の動力伝達装置。
【請求項4】
前記本体部は、隣り合う前記凸部の間に形成された平面を備え、
前記出力部材の前記軸方向に見たときに、前記平面の径方向外側の部分の前記周方向の長さは、前記平面の径方向内側の部分の前記周方向の長さよりも長い、請求項1に記載の動力伝達装置。
【請求項5】
前記平面の前記周方向の長さは、前記径方向内側から前記径方向外側に向けて徐々に長くなる、請求項4に記載の動力伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、任意に入力部材の回転力を出力部材に伝達させ又は遮断させ得る動力伝達装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の動力伝達装置として、例えば特許文献1で開示されているように、クラッチハウジングの回転に伴う遠心力で内径側位置から外径側位置に移動することにより圧接部材を介して駆動側クラッチ板と被動側クラッチ板とを圧接させ得るウェイト部材を具備した遠心クラッチ手段について提案されている。かかる従来の動力伝達装置によれば、エンジン等の駆動源の駆動に伴ってクラッチハウジングが回転することにより、ウェイト部材に遠心力を付与させることができ、駆動側クラッチ板と被動側クラッチ板とを圧接部材を介して圧接させてエンジンの駆動力を車輪に伝達させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2013/183588号公報
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明に係る動力伝達装置は、駆動源の駆動力で回転する入力部材と共に回転し、かつ、複数の駆動側クラッチ板を保持するクラッチハウジングに収容され、かつ、車輪を回転させ得る出力部材と連結されたクラッチ部材と、前記クラッチ部材に対して接近または離隔可能に設けられ、かつ、前記駆動側クラッチ板と交互に配置された複数の被動側クラッチ板および複数の前記駆動側クラッチ板を押圧可能なプレッシャ部材と、前記クラッチハウジングの回転に伴う遠心力により内径側位置から外径側位置に移動可能とされた複数のウェイト部材と、前記ウェイト部材と接触可能に設けられかつ前記ウェイト部材が前記内径側位置から前記外径側位置に移動することにより前記駆動側クラッチ板および前記被動側クラッチ板を圧接させる方向に移動する圧接部材と、を有し、かつ、前記ウェイト部材が前記外径側位置にあるときに前記駆動側クラッチ板と前記被動側クラッチ板とを圧接させて前記駆動源の駆動力を前記車輪に伝達可能な状態とするとともに、前記ウェイト部材が前記内径側位置にあるときに前記駆動側クラッチ板と前記被動側クラッチ板との圧接力を解放させて前記駆動源の駆動力が前記車輪に伝達されるのを遮断し得る遠心クラッチ手段と、を備え、前記ウェイト部材は、前記ウェイト部材が前記内径側位置から前記外径側位置に移動する過程において前記圧接部材を介して前記駆動側クラッチ板と前記被動側クラッチ板とを圧接させるように構成され、前記圧接部材は、円環状の本体部と、前記本体部から突出し、かつ、前記本体部の周方向に並ぶ複数の凸部と、を有し、複数の前記凸部の数は、複数の前記ウェイト部材の数の整数倍であり、複数の前記凸部は、前記周方向に関して相互に離隔して配置されている。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係る動力伝達装置を示す外観図である。
【
図3】
図3は、
図1のIII-III線に沿った断面図である。
【
図4】
図4は、第1実施形態に係る動力伝達装置の分解斜視図である。
【
図5】
図5は、第1実施形態に係る動力伝達装置の分解斜視図である。
【
図6】
図6は、第1実施形態に係る遠心クラッチ手段の分解斜視図である。
【
図7】
図7は、第1実施形態に係るウェイト部材を示す斜視図である。
【
図8】
図8は、第1実施形態に係るウェイト部材を示す平面図および背面図である。
【
図10】
図10は、第1実施形態に係る圧接部材を示す斜視図である。
【
図11】
図11は、第1実施形態に係る圧接部材を示す平面図および側面図である。
【
図13】
図13は、第1実施形態に係る保持部材を示す斜視図である。
【
図14】
図14は、第1実施形態に係る遠心クラッチ手段の作用(ウェイト部材が内径側位置)を示す断面図である。
【
図15】
図15は、第1実施形態に係る遠心クラッチ手段の作用(ウェイト部材が内径側位置と外径側位置との間の位置)を示す断面図である。
【
図16】
図16は、第1実施形態に係る遠心クラッチ手段の作用(ウェイト部材が外径側位置)を示す断面図である。
【
図17】
図17は、第1実施形態に係る動力伝達装置が適用される車両を示す模式図である。
【
図18】
図18は、第2実施形態に係るウェイト部材を示す斜視図である。
【
図19】
図19は、第2実施形態に係るウェイト部材を示す平面図および背面図である。
【
図21】
図21は、第2実施形態に係る遠心クラッチ手段の作用(ウェイト部材が内径側位置)を示す断面図である。
【
図22】
図22は、第2実施形態に係る遠心クラッチ手段の作用(ウェイト部材が内径側位置と外径側位置との間の位置)を示す断面図である。
【
図23】
図23は、第2実施形態に係る遠心クラッチ手段の作用(ウェイト部材が外径側位置)を示す断面図である。
【
図24】
図24は、第3実施形態に係るウェイト部材を示す斜視図である。
【
図25】
図25は、第3実施形態に係るウェイト部材を示す平面図および背面図である。
【
図27】
図27は、第3実施形態に係る遠心クラッチ手段の作用(ウェイト部材が内径側位置)を示す断面図である。
【
図28】
図28は、第3実施形態に係る遠心クラッチ手段の作用(ウェイト部材が内径側位置と外径側位置との間の位置)を示す断面図である。
【
図29】
図29は、第3実施形態に係る遠心クラッチ手段の作用(ウェイト部材が外径側位置)を示す断面図である。
【
図30】
図30は、第4実施形態に係る遠心クラッチ手段の作用(ウェイト部材が内径側位置)を示す断面図である。
【
図31】
図31は、第4実施形態に係る遠心クラッチ手段の作用(ウェイト部材が内径側位置と外径側位置との間の位置)を示す断面図である。
【
図32】
図32は、第4実施形態に係る遠心クラッチ手段の作用(ウェイト部材が外径側位置)を示す断面図である。
【
図33】
図33は、第5実施形態に係る遠心クラッチ手段の作用(ウェイト部材が内径側位置)を示す断面図である。
【
図34】
図34は、第5実施形態に係る遠心クラッチ手段の作用(ウェイト部材が内径側位置と外径側位置との間の位置)を示す断面図である。
【
図35】
図35は、第5実施形態に係る遠心クラッチ手段の作用(ウェイト部材が外径側位置)を示す断面図である。
【
図36】
図36は、第6実施形態に係る遠心クラッチ手段の作用(ウェイト部材が内径側位置)を示す断面図である。
【
図37】
図37は、第6実施形態に係る遠心クラッチ手段の作用(ウェイト部材が内径側位置と径側位置との間の位置)を示す断面図である。
【
図38】
図38は、第6実施形態に係る遠心クラッチ手段の作用(ウェイト部材が外径側位置)を示す断面図である。
【
図39】
図39は、エンジンの回転数と圧接部材の移動量との関係を示すグラフである。
【
図40】
図40は、エンジンの回転数とウェイト部材による推力との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0006】
<第1実施形態>
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら具体的に説明する。
図17に示すように、動力伝達装置Kは、車両に配設されて任意にエンジンEの駆動力をミッションMを介して駆動輪T側へ伝達し又は遮断するためのものである。エンジンEは、駆動源の一例である。駆動輪Tは、車輪の一例である。
図1~16に示すように、動力伝達装置Kは、車両のエンジンEの駆動力で回転する入力ギア1が形成されたクラッチハウジング2と、ミッションMに接続された出力シャフト3と、クラッチ部材4と、プレッシャ部材5と、複数の駆動側クラッチ板6及び複数の被動側クラッチ板7と、ウェイト部材10を有する遠心クラッチ手段9と、を有している。なお、図中符号8は固定部材、符号Sはクラッチスプリング、符号fはリターンスプリング、符号Bはボルトをそれぞれ示している。入力ギア1は、入力部材の一例である。出力シャフト3は、出力部材の一例である。
【0007】
入力ギア1は、エンジンEから伝達された駆動力(回転力)が入力されると出力シャフト3を中心として回転可能に構成されている。入力ギア1は、リベット等によりクラッチハウジング2と連結されている。クラッチハウジング2は、
図4、5に示すように、一方の端部が開口した円筒状に形成されている。クラッチハウジング2は、エンジンEの駆動力により入力ギア1と共に回転する。
【0008】
図4、5に示すように、クラッチハウジング2には、周方向に亘って複数の切欠き2aが形成されている。複数の駆動側クラッチ板6は、切欠き2aに嵌合して取り付けられている。即ち、クラッチハウジング2は、複数の駆動側クラッチ板6を保持する。駆動側クラッチ板6は、略円環状を有する板材から構成されている。駆動側クラッチ板6は、クラッチハウジング2の軸線方向(即ち出力シャフト3の軸線方向)に沿って移動可能かつクラッチハウジング2と一体的に回転可能に構成されている。
【0009】
図2に示すように、クラッチ部材4は、クラッチハウジング2に収容されている。クラッチ部材4は、駆動側クラッチ板6と交互に配置された複数の被動側クラッチ板7を保持する。クラッチ部材4は、車両のミッションMを介して駆動輪Tを回転させ得る出力シャフト3と連結されている。
図4および
図5に示すように、クラッチ部材4は、第1クラッチ部材4aと第2クラッチ部材4bとを含む。第1クラッチ部材4aは、第2クラッチ部材4bに嵌合する。
【0010】
図4および
図5に示すように、第1クラッチ部材4aは、中央に形成された挿通孔4acを有する。挿通孔4acには、出力シャフト3が挿通され、互いに形成されたスプラインが噛み合って回転方向に連結されている。即ち、第1クラッチ部材4aは、出力シャフト3と連結されている。第2クラッチ部材4bは、円環状に形成された外周壁4bcと、外周壁4bcから径方向外側に延びるフランジ部4bbとを備えている。外周壁4bcには、スプライン嵌合部4baが形成されている。スプライン嵌合部4baは、外周壁4bcの略全周に亘って一体的に形成された凹凸形状を有する。スプライン嵌合部4baの凹溝には、被動側クラッチ板7がスプライン嵌合にて取り付けられる。即ち、第2クラッチ部材4bは、被動側クラッチ板7を保持する。被動側クラッチ板7は、クラッチ部材4(例えば第2クラッチ部材4b)の軸線方向(即ち出力シャフト3の軸線方向)に沿って移動可能かつクラッチ部材4(例えば第1クラッチ部材4aおよび第2クラッチ部材4b)と一体的に回転可能に構成されている。第2クラッチ部材4bは、出力シャフト3の軸方向に移動可能に構成されている。
【0011】
図4に示すように、プレッシャ部材5は、周縁部にフランジ部5aが形成された円板状部材から構成されている。プレッシャ部材5は、クラッチ部材4に組み付けられている。プレッシャ部材5は、クラッチ部材4に対して接近または離隔可能に設けられている。プレッシャ部材5は、駆動側クラッチ板6および被動側クラッチ板7を圧接可能に構成されている。プレッシャ部材5は、クラッチ部材4と共に駆動側クラッチ板6および被動側クラッチ板7を圧接可能に構成されている。プレッシャ部材5が駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7とを圧接させることにより、エンジンEの駆動力を駆動輪Wに伝達することができる。すなわち、プレッシャ部材5のフランジ部5aと第2クラッチ部材4bのフランジ部4bbとの間には駆動側クラッチ板6および被動側クラッチ板7が積層状態に配置されており、第2クラッチ部材4bがプレッシャ部材5に接近する方向(
図2の矢印DR2方向)に移動すると、駆動側クラッチ板6および被動側クラッチ板7が圧接されて、クラッチハウジング2の回転力が第2クラッチ部材4bおよび第1クラッチ部材4aを介して出力シャフト3に伝達される状態となる。一方、第2クラッチ部材4bがプレッシャ部材5から離隔する方向(
図2の矢印DR1方向)に移動すると、駆動側クラッチ板6および被動側クラッチ板7の圧接力が解放されて第1クラッチ部材4aおよび第2クラッチ部材4bがクラッチハウジング2の回転に追従しなくなり、出力シャフト3へクラッチハウジング2の回転力が伝達されなくなる。駆動側クラッチ板6および被動側クラッチ板7は、第2クラッチ部材4bに対して出力シャフト3の軸方向に移動可能に設けられている。
【0012】
このように、駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7とが圧接された状態では、クラッチハウジング2に入力された回転力(即ちエンジンEの駆動力)は出力シャフト3を介して駆動輪T側(即ちミッションM)に伝達される。また、駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7との圧接が解放された状態では、クラッチハウジング2に入力された回転力が出力シャフト3に伝達されない。
【0013】
図2に示すように、遠心クラッチ手段9は、クラッチハウジング2の回転に伴う遠心力により内径側位置(
図14参照)から外径側位置(
図16参照)に移動可能とされたウェイト部材10を有する。遠心クラッチ手段9は、クラッチハウジング2の開口側(
図2中右側)に配置されている。遠心クラッチ手段9は、駆動側クラッチ板6および被動側クラッチ板7を挟んでプレッシャ部材5の反対側に配置されている。ここでは、遠心クラッチ手段9は、プレッシャ部材5よりも
図2の矢印DR1方向側に配置されている。遠心クラッチ手段9は、ウェイト部材10が外径側位置にあるときに駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7とを圧接させてエンジンEの駆動力を駆動輪Tに伝達可能な状態とする。遠心クラッチ手段9は、ウェイト部材10が内径側位置から外径側位置に移動する過程において駆動側クラッチ板6および被動側クラッチ板7に圧接力を付与するように構成されている。遠心クラッチ手段9は、ウェイト部材10が内径側位置にあるときに、駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7との圧接力を解放させてエンジンEの駆動力が駆動輪Tに伝達されるのを遮断し得るように構成されている。即ち、遠心クラッチ手段9は、ウェイト部材10が内径側位置にあるときに、駆動側クラッチ板6および被動側クラッチ板7に付与された圧接力を解放させてエンジンEの駆動力が駆動輪Tに伝達されるのを遮断し得るように構成されている。
【0014】
図6に示すように、遠心クラッチ手段9は、複数のウェイト部材10と、ウェイト部材10を内径側位置と外径側位置との間で移動可能に保持する保持部材11と、圧接部材12と、複数の付勢スプリング13と、を有している。
【0015】
図7~
図9に示すように、ウェイト部材10は、本体部10hと、本体部10hに形成されたウェイト部材側カム面K1と、本体部10hに形成されかつ付勢スプリング13(
図6参照)を保持する溝部10cと、本体部10hに形成されかつ保持部材11の被摺動面11b(
図13参照)に対して摺動可能な摺動面10dとを有する。ウェイト部材10は、保持部材11に収容されている。ウェイト部材10は、遠心力が付与されない状態では内径側位置(
図14参照)に保持される。ウェイト部材10は、遠心力が付与されることにより付勢スプリング13の付勢力に抗して径方向外側に移動し、外径側位置(
図16参照)に到達する。ウェイト部材10は、内径側位置から外径側位置に移動する過程において、クラッチ部材4(ここでは第2クラッチ部材4b)をプレッシャ部材5に近づく方向(
図2の矢印DR2方向)に移動させる。ウェイト部材10は、ウェイト部材10が内径側位置から外径側位置に移動する過程において圧接部材12を介して駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7とを圧接させるように構成されている。なお、ウェイト部材10は、内径側位置から外径側位置に向かって移動を開始したと同時に圧接部材12を介して駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7とを圧接させる必要はなく、内径側位置から外径側位置に向かってウェイト部材10が所定の距離だけ移動してから圧接部材12を介して駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7とを圧接させてもよい。
【0016】
図14に示すように、ウェイト部材側カム面K1は、後述する圧接部材側カム面K2と接触可能に設けられている。ウェイト部材側カム面K1は、圧接部材12と接触する部分である。
図9に示すように、ウェイト部材10は、ウェイト部材側カム面K1に、第1勾配面10aと、第1勾配面10aよりも出力シャフト3の軸方向に対する勾配角度が大きい第2勾配面10bと、を有する。第1勾配面10aは、第2勾配面10bよりも径方向外側に位置する。第1勾配面10aは、平面である。第2勾配面10bは、平面である。第1勾配面10aの出力シャフト3の軸方向に対する勾配角度αは、第2勾配面10bの出力シャフト3の軸方向に対する勾配角度βよりも小さい。本実施形態では、第1勾配面10aと第2勾配面10bとは連続しているが、曲面を介して接続されていてもよい。このように、遠心クラッチ手段9は、ウェイト部材10のウェイト部材10と圧接部材12とが接触する部分(ここではウェイト部材側カム面K1)に、第1勾配面10aと第2勾配面10bとを有する。エンジン回転数が所定回転数上昇し、ウェイト部材10が径方向に所定距離移動する場合、第2勾配面10bにおける圧接部材12の出力シャフト3の軸方向の移動量は、第1勾配面10aにおける圧接部材12の出力シャフト3の軸方向の移動量よりも小さい。第1勾配面10aにおいて発生するウェイト部材10の推力よりも、第2勾配面10bにおいて発生するウェイト部材10の推力は大きい。第1勾配面10aは、第1領域の一例である。第2勾配面10bは、第2領域の一例である。
【0017】
図2に示すように、保持部材11は、ウェイト部材10を内径側位置と外径側位置との間で移動可能に保持する。
図13に示すように、保持部材11は、円環状の本体部11cと、本体部11cの外周縁から延びる壁部11aと、ウェイト部材10が摺動する被摺動面11bとを有している。壁部11aは、付勢スプリング13の一端と接触する。
【0018】
圧接部材12は、ウェイト部材10と接触可能に設けられている。圧接部材12は、ウェイト部材10が内径側位置(
図14参照)から外径側位置(
図16参照)に移動することにより駆動側クラッチ板6および被動側クラッチ板7を圧接させる方向(
図14の矢印DR2方向)に移動するように構成されている。圧接部材12は、駆動側クラッチ板6および被動側クラッチ板7を圧接可能に構成されている。
図10~
図12に示すように、圧接部材12は、円環状の本体部12dと、本体部12dの周方向に亘って複数形成された圧接部材側カム面K2と、本体部12dのうち圧接部材側カム面K2が形成された面の反対側の面に形成された押圧面12cと、本体部12dの周方向に亘って形成された複数の突起部12eとを有している。圧接部材12は、突起部12eがクラッチハウジング2の切欠き2a(
図4参照)に嵌合することによって、クラッチハウジング2に取り付けられている。圧接部材12は、クラッチハウジング2の軸方向(即ち出力シャフト3の軸方向)に移動可能に設けられている。圧接部材12は、クラッチハウジング2と回転方向に係合し、クラッチハウジング2と共に回転可能に設けられている。
【0019】
図14に示すように、圧接部材側カム面K2は、ウェイト部材側カム面K1と接触可能に設けられている。圧接部材側カム面K2は、ウェイト部材10と接触する部分である。
図12に示すように、圧接部材12は、圧接部材側カム面K2に、第1勾配面12aと、第1勾配面12aよりも出力シャフト3の軸方向に対する勾配角度が大きい第2勾配面12bと、を有する。第1勾配面12aは、第2勾配面12bよりも径方向内側に位置する。第1勾配面12aは、平面である。第2勾配面12bは、平面である。第1勾配面12aの出力シャフト3の軸方向に対する勾配角度αは、第2勾配面12bの出力シャフト3の軸方向に対する勾配角度βよりも小さい。第1勾配面12aは、ウェイト部材側カム面K1の第1勾配面10aと接触可能に設けられている。第2勾配面12bは、ウェイト部材側カム面K1の第2勾配面10bと接触可能に設けられている。本実施形態では、第1勾配面12aと第2勾配面12bとは連続しているが、曲面を介して接続されていてもよい。このように、遠心クラッチ手段9は、圧接部材12のウェイト部材10と圧接部材12とが接触する部分(ここでは圧接部材側カム面K2)に、第1勾配面12aと第2勾配面12bとを有する。エンジン回転数が所定回転数上昇し、ウェイト部材10が径方向に所定距離移動する場合、第2勾配面12bにおける圧接部材12の出力シャフト3の軸方向の移動量は、第1勾配面12aにおける圧接部材12の出力シャフト3の軸方向の移動量よりも小さい。第1勾配面12aにおいて発生するウェイト部材10の推力よりも、第2勾配面12bにおいて発生するウェイト部材10の推力は大きい。第1勾配面12aは、第1領域の一例である。第2勾配面12bは、第2領域の一例である。
【0020】
ウェイト部材10が内径側位置(
図14参照)から外径側位置(
図16参照)に移動する過程において発生するウェイト部材10の推力は、ウェイト部材側カム面K1および圧接部材側カム面K2を介して圧接部材12に伝達される。これにより、圧接部材12は、駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7とを圧接させる方向(
図14の矢印DR2の方向)に移動する。
図14~
図16に示すように、ウェイト部材側カム面K1および圧接部材側カム面K2は、ウェイト部材10が内径側位置(
図14参照)から外径側位置(
図16参照)に移動する過程において、カム面として作用する勾配面を第1勾配面10aおよび第1勾配面12aから第2勾配面10bおよび第2勾配面12bへと移行するように構成されている。ウェイト部材10が内径側位置から外径側位置に移動する過程において、駆動側クラッチ板6および被動側クラッチ板7の圧接が開始する前までは、第1勾配面10aおよび第1勾配面12aがカム面として作用し、駆動側クラッチ板6および被動側クラッチ板7の圧接が開始された後には、第2勾配面10bおよび第2勾配面12bがカム面として作用する。
【0021】
図14に示すように、ウェイト部材10が内径側位置から外径側位置に移動する過程において、駆動側クラッチ板6および被動側クラッチ板7の圧接が開始する前までは、ウェイト部材側カム面K1および圧接部材側カム面K2において、第1勾配面10aおよび第1勾配面12aが相互に接触して摺動する。これにより、ウェイト部材10が内径側位置から外径側位置に移動するときに発生する推力は、第1勾配面10aおよび第1勾配面12aを介して圧接部材12に伝達される。そして、圧接部材12は、駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7とを圧接させる方向(
図14の矢印DR2の方向)に移動する。このとき、圧接部材12に伝達されるウェイト部材10の推力は比較的小さくなるが、圧接部材12の出力シャフト3の軸方向の移動量は比較的大きくなる。
【0022】
そして、
図15に示すように、ウェイト部材10が内径側位置から外径側位置にさらに移動して駆動側クラッチ板6および被動側クラッチ板7の圧接が開始されると、ウェイト部材側カム面K1の第1勾配面10aと第2勾配面10bとの境界部と、圧接部材側カム面K2の第1勾配面12aと第2勾配面12bとの境界部とが相互に接触した状態となる。
【0023】
そして、
図16に示すように、ウェイト部材10が内径側位置から外径側位置にさらに移動すると、ウェイト部材側カム面K1および圧接部材側カム面K2において、駆動側クラッチ板6および被動側クラッチ板7の圧接が開始された後には、第2勾配面10bおよび第2勾配面12bが相互に接触して摺動する。これにより、ウェイト部材10が内径側位置から外径側位置に移動するときに発生する推力は、第2勾配面10bおよび第2勾配面12bを介して圧接部材12に伝達される。そして、圧接部材12は、駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7とを圧接させる方向(
図16の矢印DR2の方向)にさらに移動する。このとき、圧接部材12の出力シャフト3の軸方向の移動量は比較的小さくなるが、圧接部材12に伝達されるウェイト部材10の推力は比較的大きくなる。
【0024】
なお、エンジンEの回転数が上昇する過程で、ウェイト部材10と圧接部材12とは第1勾配面10aおよび第1勾配面12aで相互に接触(即ち第1領域で相互に接触)した後、第2勾配面10bおよび第2勾配面12bで相互に接触(即ち第2領域で相互に接触)するように構成されていてもよい。また、エンジンEの回転数が駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7とが圧接を開始するときの回転数よりも低いときに、ウェイト部材10と圧接部材12とは第1勾配面10aおよび第1勾配面12aで相互に接触(即ち第1領域で相互に接触)した後、第2勾配面10bおよび第2勾配面12bで相互に接触(即ち第2領域で相互に接触)するように構成されていてもよい。エンジンEの回転数が駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7との圧接が完了するときの回転数よりも低いときに、ウェイト部材10と圧接部材12とは第1勾配面10aおよび第1勾配面12aで相互に接触(即ち第1領域で相互に接触)した後、第2勾配面10bおよび第2勾配面12bで相互に接触(即ち第2領域で相互に接触)するように構成されていてもよい。なお、エンジンEの回転数が駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7との圧接が完了したときのエンジンEの回転数よりも高い領域では、駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7との圧接は保たれている。
【0025】
図39は、エンジンEの回転数と圧接部材12の出力シャフト3の軸方向の移動量との関係を示すグラフである。
図39において、横軸はエンジンEの回転数を示し、縦軸は圧接部材12の出力シャフト3の軸方向の移動量を示す。
図40は、エンジンEの回転数とウェイト部材10による推力との関係を示すグラフである。
図40において、横軸はエンジンEの回転数を示し、縦軸はウェイト部材10による推力を示す。
図39および
図40において、回転数EIDはアイドリング状態でのエンジンEの回転数を示し、回転数ECは駆動側クラッチ板6および被動側クラッチ板7の圧接が開始されるとき(ここではカム面として作用する勾配面が第1勾配面10aおよび第1勾配面12aから第2勾配面10bおよび第2勾配面12bへと移行するとき)のエンジンEの回転数を示し、回転数EINはエンジンEの駆動力が駆動輪Tに伝達され始めたときのエンジンEの回転数を示し、回転数ESTは駆動側クラッチ板6および被動側クラッチ板7が完全に圧接されたとき(駆動側クラッチ板6および被動側クラッチ板7の圧接が完了したとき)のエンジンEの回転数を示し、回転数EEはウェイト部材10が外径側位置に到達したときのエンジンEの回転数を示す。
図39および
図40に示すように、エンジンEの回転数が回転数EID~回転数ECのときには、圧接部材12の出力シャフト3の軸方向の移動量LM1は比較的大きく、かつ、ウェイト部材10による推力FM1は比較的小さい。一方、エンジンEの回転数が回転数EC~回転数EEのときには、圧接部材12の出力シャフト3の軸方向の移動量LM2は比較的小さく(移動量LM2<移動量LM1)、かつ、ウェイト部材10による推力FM2は比較的大きい(推力FM2>推力FM1)。
【0026】
以上のように、本実施形態の動力伝達装置Kによると、遠心クラッチ手段9は、ウェイト部材側カム面K1に、第1勾配面10a、12aと、第1勾配面10a、12aよりも出力シャフト3の軸方向に対する勾配角度がそれぞれ大きい第2勾配面10b、12bと、を有する。上記態様によれば、運転状態に応じて、圧接部材12の必要な出力シャフト3の軸方向の移動量およびウェイト部材10による推力を確保することができる。
【0027】
本実施形態の動力伝達装置Kでは、エンジンEの回転数が上昇する過程で、ウェイト部材10と圧接部材12とは第1勾配面10a、12aで相互に接触した後、第2勾配面10b、第2勾配面12bで相互に接触してもよい。上記態様によれば、圧接部材12の軸方向の移動量をまず大きくした後、ウェイト部材10による推力を大きくすることができる。
【0028】
本実施形態の動力伝達装置Kでは、第1勾配面10aと第2勾配面10bとは曲面を介して接続され、第1勾配面12aと第2勾配面12bとは曲面を介して接続されていてもよい。上記態様によれば、第1勾配面10aと第2勾配面10bとは曲面を介して接続され、第1勾配面12aと第2勾配面12bとは曲面を介して接続されているので、ウェイト部材10と圧接部材12との接触部分を第1勾配面10a、12aから第2勾配面10b、12bへとスムーズに移行することができる。
【0029】
本実施形態の動力伝達装置Kでは、エンジンEの回転数が駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7とが圧接を開始するときの回転数よりも低いときに、ウェイト部材10と圧接部材12とは第1勾配面10a、12aで相互に接触した後、第2勾配面10b、12bで相互に接触してもよい。上記態様によれば、駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7とが圧接を開始するときの回転数よりも低い回転数のときに、ウェイト部材10と圧接部材12との接触部分を第1勾配面10a、12aから第2勾配面10b、12bへと移行するようにしたため、駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7とが圧接を開始するまでに圧接部材12の必要な出力シャフト3の軸方向の移動量を確保することができるとともに、駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7とが圧接を開始した後は、ウェイト部材10による必要な推力を確保することができる。
【0030】
本実施形態の動力伝達装置Kでは、エンジンEの回転数が駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7との圧接が完了するときの回転数よりも低いときに、ウェイト部材10と圧接部材12とは第1勾配面10a、12aで相互に接触した後、第2勾配面10b、12bで相互に接触してもよい。上記態様によれば、駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7との圧接が完了するときの回転数よりも低い回転数のときに、ウェイト部材10と圧接部材12との接触部分を第1勾配面10a、12aから第2勾配面10b、12bへと移行するようにしたため、駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7との圧接が完了するまでに圧接部材12の必要な出力シャフト3の軸方向の移動量を確保することができるとともに、駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7との圧接が完了した後は、ウェイト部材10による必要な推力を確保することができる。
【0031】
本実施形態の動力伝達装置Kでは、ウェイト部材10は、保持部材11に対して摺動可能な摺動面10dを有し、ウェイト部材10は、ウェイト部材10と圧接部材12とが接触する部分(例えばウェイト部材側カム面K1)に、第1勾配面10aと第2勾配面10bと、を有し、圧接部材12は、ウェイト部材10と圧接部材12とが接触する部分(例えば圧接部材側カム面K2)に、第1勾配面12aと第2勾配面12bと、を有していてもよい。上記態様によれば、保持部材11に対して摺動可能な摺動面10dを有するウェイト部材10を良好に適用することができる。
【0032】
また、本実施形態の動力伝達装置Kによると、遠心クラッチ手段9は、第1領域としての第1勾配面10a、12aと、第1領域よりも圧接部材12の出力シャフト3の軸方向の移動量が小さい第2領域としての第2勾配面10b、12bと、を有する。上記態様によれば、運転状態に応じて、圧接部材12の必要な出力シャフト3の軸方向の移動量およびウェイト部材10による推力を確保することができる。なお、第2領域は、第1領域よりもウェイト部材10による推力が大きい。
【0033】
本実施形態の動力伝達装置Kでは、エンジンEの回転数が上昇する過程で、ウェイト部材10と圧接部材12とは第1領域としての第1勾配面10a、12aで相互に接触した後、第2領域としての第2勾配面10b、12bで相互に接触してもよい。上記態様によれば、圧接部材12の軸方向の移動量をまず大きくした後、ウェイト部材10による推力を大きくすることができる。
【0034】
本実施形態の動力伝達装置Kでは、第1領域は、平面からなる第1勾配面10a、12aであり、第2領域は、平面からなる第2勾配面10b、12bであり、ウェイト部材10と圧接部材12とは第1勾配面10a、12aおよび第2勾配面10b、12bで相互に接触可能に構成されていてもよい。上記態様によれば、第1領域および第2領域において圧接部材12の移動量およびウェイト部材10による推力をスムーズに変更することができる。
【0035】
<第2実施形態>
図21~23に示すように、第2実施形態に係る動力伝達装置200Kは、ウェイト部材14を有する遠心クラッチ手段209を有している。なお、第1実施形態と同様の構成要素には、同一の符号を付すこととし、詳細な説明を省略する。
【0036】
図21に示すように、遠心クラッチ手段209は、複数のウェイト部材14と、ウェイト部材14を内径側位置と外径側位置との間で移動可能に保持する保持部材11と、圧接部材15と、複数の付勢スプリング13と、を有している。
【0037】
図18~
図20に示すように、ウェイト部材14は、クラッチハウジング2の回転に伴う遠心力により内径側位置(
図21参照)から外径側位置(
図23参照)に移動可能に構成されている。ウェイト部材14は、本体部14hと、保持部材11に対して点接触または転動しつつ移動可能な球状部材14aと、本体部14hに形成されかつ球状部材14aを保持する保持孔14fと、本体部14hに形成されかつ付勢スプリング13を保持する溝部14bとを有する。球状部材14aは、接触部の一例である。
【0038】
圧接部材15は、ウェイト部材14と接触可能に設けられている。圧接部材15は、ウェイト部材14が内径側位置(
図21参照)から外径側位置(
図23参照)に移動することにより駆動側クラッチ板6および被動側クラッチ板7を圧接させる方向(
図21の矢印DR2方向)に移動するように構成されている。圧接部材15は、駆動側クラッチ板6および被動側クラッチ板7を圧接可能に構成されている。
図21に示すように、圧接部材15は、本体部12dの周方向に亘って形成された圧接部材側カム面200K2を有する。
【0039】
図21に示すように、圧接部材側カム面200K2は、球状部材14aと接触可能に設けられている。圧接部材側カム面200K2は、ウェイト部材14と接触する部分である。圧接部材15は、圧接部材側カム面200K2に、第1勾配面15aと、第1勾配面15aよりも出力シャフト3の軸方向に対する勾配角度が大きい第2勾配面15bと、を有する。第1勾配面15aは、第2勾配面15bよりも径方向内側に位置する。第1勾配面15aは、平面である。第2勾配面15bは、曲面である。第1勾配面15aおよび第2勾配面15bは、球状部材14aと接触可能に設けられている。本実施形態では、第1勾配面15aと第2勾配面15bとは連続しているが、曲面を介して接続されていてもよい。エンジン回転数が所定回転数上昇し、ウェイト部材10が径方向に所定距離移動する場合、第2勾配面15bにおける圧接部材15の出力シャフト3の軸方向の移動量は、第1勾配面15aにおける圧接部材15の出力シャフト3の軸方向の移動量よりも小さい。また、エンジン回転数が所定回転数上昇し、ウェイト部材10が径方向に所定距離移動する場合、第2勾配面15bにおいて発生するウェイト部材14の推力は、第1勾配面15aにおいて発生するウェイト部材14の推力よりも大きい。第1勾配面15aは、第1領域の一例である。第2勾配面12bは、第2領域の一例である。
【0040】
ウェイト部材14が内径側位置(
図21参照)から外径側位置(
図23参照)に移動する過程において発生するウェイト部材14の推力は、球状部材14aおよび圧接部材側カム面200K2を介して圧接部材15に伝達される。これにより、圧接部材15は、駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7とを圧接させる方向(
図21の矢印DR2の方向)に移動する。
図21~
図23に示すように、球状部材14aおよび圧接部材側カム面200K2は、ウェイト部材14が内径側位置(
図21参照)から外径側位置(
図23参照)に移動する過程において、球状部材14aに対してカム面として作用する勾配面を第1勾配面15aから第2勾配面15bへと移行するように構成されている。ウェイト部材14が内径側位置から外径側位置に移動する過程において、駆動側クラッチ板6および被動側クラッチ板7の圧接が開始する前までは、第1勾配面15aがカム面として作用し、駆動側クラッチ板6および被動側クラッチ板7の圧接が開始された後には、第2勾配面15bがカム面として作用する。
【0041】
図21に示すように、ウェイト部材14が内径側位置から外径側位置に移動する過程において、駆動側クラッチ板6および被動側クラッチ板7の圧接が開始する前までは、球状部材14aおよび圧接部材側カム面K2において、球状部材14aおよび第1勾配面15aが相互に接触して摺動する。これにより、ウェイト部材14が内径側位置から外径側位置に移動するときに発生する推力は、球状部材14aおよび第1勾配面15aを介して圧接部材15に伝達される。そして、圧接部材15は、駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7とを圧接させる方向(
図21の矢印DR2の方向)に移動する。このとき、圧接部材15に伝達されるウェイト部材14の推力は比較的小さくなるが、圧接部材15の出力シャフト3の軸方向の移動量は比較的大きくなる。
【0042】
そして、
図22に示すように、ウェイト部材14が内径側位置から外径側位置にさらに移動して駆動側クラッチ板6および被動側クラッチ板7の圧接が開始されると、球状部材14aと、圧接部材側カム面200K2の第1勾配面15aと第2勾配面15bとの境界部とが相互に接触した状態となる。
【0043】
そして、
図23に示すように、ウェイト部材14が内径側位置から外径側位置にさらに移動すると、球状部材14aおよび圧接部材側カム面200K2において、駆動側クラッチ板6および被動側クラッチ板7の圧接が開始された後には、球状部材14aおよび第2勾配面15bが相互に接触して摺動する。これにより、ウェイト部材14が内径側位置から外径側位置に移動するときに発生する推力は、球状部材14aおよび第2勾配面15bを介して圧接部材15に伝達される。そして、圧接部材15は、駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7とを圧接させる方向(
図23の矢印DR2の方向)にさらに移動する。このとき、圧接部材15の出力シャフト3の軸方向の移動量は比較的小さくなるが、圧接部材15に伝達されるウェイト部材14の推力は比較的大きくなる。
【0044】
本実施形態の動力伝達装置200Kでは、ウェイト部材14は、保持部材11に対して点接触しつつ移動可能な球状部材14aを有し、圧接部材15は、圧接部材側カム面200K2に、第1勾配面15aと第2勾配面15bと、を有している。上記態様によれば、保持部材11に対して点接触しつつ移動可能な球状部材14aを有するウェイト部材14を良好に適用することができる。
【0045】
<第3実施形態>
図27~29に示すように、第3実施形態に係る動力伝達装置300Kは、ウェイト部材16を有する遠心クラッチ手段309を有している。なお、第1実施形態および第2実施形態と同様の構成要素には、同一の符号を付すこととし、詳細な説明を省略する。
【0046】
図24~
図26に示すように、ウェイト部材16は、クラッチハウジング2の回転に伴う遠心力により内径側位置(
図27参照)から外径側位置(
図29参照)に移動可能に構成されている。ウェイト部材16は、本体部16hと、保持部材11に対して点接触または転動しつつ移動可能な一対の転動部材16a、16bと、本体部16hに形成されかつ転動部材16a、16bを保持する保持孔16fと、本体部16hに形成されかつ付勢スプリング13を保持する溝部16cとを有する。転動部材16aは、圧接部材側カム面200K2と接触可能に設けられている。転動部材16bは、保持部材11と接触可能に設けられている。転動部材16a、16bは、相互に接触するようにして保持孔16fに保持されている。転動部材16a、16bは、接触部の一例である。
【0047】
ウェイト部材16が内径側位置(
図27参照)から外径側位置(
図29参照)に移動する過程において発生するウェイト部材16の推力は、転動部材16a、16bおよび圧接部材側カム面200K2を介して圧接部材15に伝達される。これにより、圧接部材15は、駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7とを圧接させる方向(
図27の矢印DR2の方向)に移動する。
図27~
図29に示すように、転動部材16aおよび圧接部材側カム面200K2は、ウェイト部材16が内径側位置(
図27参照)から外径側位置(
図29参照)に移動する過程において、転動部材16aに対してカム面として作用する勾配面を第1勾配面15aから第2勾配面15bへと移行するように構成されている。ウェイト部材16が内径側位置から外径側位置に移動する過程において、駆動側クラッチ板6および被動側クラッチ板7の圧接が開始する前までは、第1勾配面15aがカム面として作用し、駆動側クラッチ板6および被動側クラッチ板7の圧接が開始された後には、第2勾配面15bがカム面として作用する。なお、第3実施形態に係る作用および効果は第2実施形態に係る作用および効果と同様である。
【0048】
以上、本発明の好適な実施形態について説明した。しかし、上述の実施形態は例示に過ぎず、本発明は他の種々の形態で実施することができる。
【0049】
<第4実施形態>
上述した第1実施形態では、遠心クラッチ手段9は、クラッチハウジング2の開口側(
図2中右側)に配置されていたが、これに限定されない。例えば、第4実施形態に係る動力伝達装置400Kでは、
図30~
図32に示すように、遠心クラッチ手段9は、クラッチハウジング2の底面側(
図30中左側)に配置されていてもよい。遠心クラッチ手段9は、駆動側クラッチ板6および被動側クラッチ板7を挟んでプレッシャ部材5の反対側に配置されている。ここでは、遠心クラッチ手段9は、クラッチ部材4(より詳細には第2クラッチ部材4b)よりも
図30の矢印DR2方向側に配置されている。
【0050】
<第5実施形態>
上述した第2実施形態では、遠心クラッチ手段209は、クラッチハウジング2の開口側(
図21中右側)に配置されていたが、これに限定されない。例えば、第5実施形態に係る動力伝達装置500Kでは、
図33~
図35に示すように、遠心クラッチ手段209は、クラッチハウジング2の底面側(
図33中左側)に配置されていてもよい。遠心クラッチ手段209は、駆動側クラッチ板6および被動側クラッチ板7を挟んでプレッシャ部材5の反対側に配置されている。ここでは、遠心クラッチ手段209は、クラッチ部材4(より詳細には第2クラッチ部材4b)よりも
図33の矢印DR2方向側に配置されている。
【0051】
<第6実施形態>
上述した第3実施形態では、遠心クラッチ手段309は、クラッチハウジング2の開口側(
図27中右側)に配置されていたが、これに限定されない。例えば、第6実施形態に係る動力伝達装置600Kでは、
図36~
図38に示すように、遠心クラッチ手段309は、クラッチハウジング2の底面側(
図36中左側)に配置されていてもよい。遠心クラッチ手段309は、駆動側クラッチ板6および被動側クラッチ板7を挟んでプレッシャ部材5の反対側に配置されている。ここでは、遠心クラッチ手段309は、クラッチ部材4(より詳細には第2クラッチ部材4b)よりも
図36の矢印DR2方向側に配置されている。
【0052】
上述した実施形態では、遠心クラッチ手段9は、ウェイト部材側カム面K1に第1勾配面10aと第2勾配面10bとを有し、かつ、圧接部材側カム面K2に第1勾配面12aと第2勾配面12bとを有していたが、これに限定されない。遠心クラッチ手段9は、ウェイト部材側カム面K1に第1勾配面10aと第2勾配面10bとを有し、かつ、圧接部材側カム面K2に第1勾配面12aと第2勾配面12bとを有していなくてもよい。また、遠心クラッチ手段9は、ウェイト部材側カム面K1に第1勾配面10aと第2勾配面10bとを有しておらず、かつ、圧接部材側カム面K2に第1勾配面12aと第2勾配面12bとを有していてもよい。
【0053】
上述した実施形態では、第1勾配面10a、第2勾配面10b、第1勾配面12a、第2勾配面12bは、それぞれ平面であったが、曲面であってもよい。また、第1勾配面10aおよび第2勾配面10bの少なくとも一方が曲面の場合には、外方に向かって(例えば
図14の矢印DR2方向に向かって)凸形状となることが好ましい。第1勾配面12aおよび第2勾配面12bの少なくとも一方が曲面の場合には、外方に向かって(例えば
図14の矢印DR1方向に向かって)凸形状となることが好ましい。
【0054】
上述した実施形態において、ウェイト部材10は、ウェイト部材側カム面K1に、第1勾配面10aと、第1勾配面10aよりも出力シャフト3の軸方向に対する勾配角度が大きい第2勾配面10bと、を有していたがこれに限定されない。ウェイト部材10は、第1勾配面10aよりも径方向外側に、第1勾配面10aよりも出力シャフト3の軸方向に対する勾配角度が小さい第3勾配面を備えていてもよい。また、ウェイト部材10は、第2勾配面10bよりも径方向内側に、第2勾配面10bよりも出力シャフト3の軸方向に対する勾配角度が大きい第4勾配面を備えていてもよい。
【0055】
上述した実施形態において、圧接部材12は、圧接部材側カム面K2に、第1勾配面12aと、第1勾配面12aよりも出力シャフト3の軸方向に対する勾配角度が大きい第2勾配面12bと、を有していたがこれに限定されない。圧接部材12は、第1勾配面12aよりも径方向内側に、第1勾配面12aよりも出力シャフト3の軸方向に対する勾配角度が小さい第3勾配面を備えていてもよい。また、圧接部材12は、第2勾配面12bよりも径方向外側に、第2勾配面12bよりも出力シャフト3の軸方向に対する勾配角度が大きい第4勾配面を備えていてもよい。
【0056】
上述した実施形態において、圧接部材15は、圧接部材側カム面200K2に、第1勾配面15aと、第1勾配面15aよりも出力シャフト3の軸方向に対する勾配角度が大きい第2勾配面15bと、を有していたがこれに限定されない。圧接部材15は、第1勾配面15aよりも径方向内側に、第1勾配面15aよりも出力シャフト3の軸方向に対する勾配角度が小さい第3勾配面を備えていてもよい。また、圧接部材15は、第2勾配面15bよりも径方向外側に、第2勾配面15bよりも出力シャフト3の軸方向に対する勾配角度が大きい第4勾配面を備えていてもよい。
【0057】
上述した実施形態では、全ての被動側クラッチ板7はクラッチ部材4(例えば第2クラッチ部材4b)に保持されていたが、これに限定されない。例えば、被動側クラッチ板7の一部はクラッチ部材4(例えば第2クラッチ部材4b)に保持され、かつ、被動側クラッチ板7の他の一部はプレッシャ部材5に保持されていてもよい。この場合、被動側クラッチ板7の他の一部は、プレッシャ部材5の軸線方向(即ち出力シャフト3の軸線方向)に沿って移動可能かつプレッシャ部材5と一体的に回転可能に構成されている。
【0058】
上述した各実施形態では、駆動源としてエンジンEを用いていたが、駆動源はエンジンEに限定されず、例えば電動モータ等であってもよい。
【0059】
上述した各実施形態の動力伝達装置は、自動二輪車の他、自動車、3輪又は4輪バギー、或いは汎用機等種々の多板クラッチ型の動力伝達装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0060】
1 入力ギア(入力部材)
2 クラッチハウジング
3 出力シャフト(出力部材)
4 クラッチ部材
4a 第1クラッチ部材
4b 第2クラッチ部材
5 プレッシャ部材
6 駆動側クラッチ板
7 被動側クラッチ板
9 遠心クラッチ手段
10 ウェイト部材
10a 第1勾配面
10b 第2勾配面
11 保持部材
12 圧接部材
12a 第1勾配面
12b 第2勾配面
14 ウェイト部材
14a 球状部材(接触部)
15 圧接部材
15a 第1勾配面
15b 第2勾配面
16 ウェイト部材
16a、16b 転動部材(接触部)
K 動力伝達装置
K1 ウェイト部材側カム面
K2 圧接部材側カム面