(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025167744
(43)【公開日】2025-11-07
(54)【発明の名称】インクジェット印刷用インク
(51)【国際特許分類】
C09D 11/322 20140101AFI20251030BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20251030BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20251030BHJP
【FI】
C09D11/322
B41M5/00 120
B41M5/00 112
B41J2/01 501
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024072618
(22)【出願日】2024-04-26
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森 和真
【テーマコード(参考)】
2C056
2H186
4J039
【Fターム(参考)】
2C056FC01
2H186AA12
2H186BA08
2H186DA09
2H186DA10
2H186FB11
2H186FB15
2H186FB16
2H186FB17
2H186FB25
2H186FB29
2H186FB48
2H186FB55
4J039AE06
4J039BC10
4J039BC15
4J039BE01
4J039BE22
4J039CA06
4J039EA41
4J039EA44
4J039EA46
4J039FA02
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】
水溶性ポリエステル樹脂を含有するインクジェット印刷用インクの保存安定性や間欠吐出性などのインクジェット適性を改善すること。
【解決手段】
顔料、ポリマー分散剤で分散された水溶性ポリエステル樹脂、及び水を含有するインクジェット印刷用インク。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料、ポリマー分散剤で分散された水溶性ポリエステル樹脂、及び水を含有するインクジェット印刷用インク。
【請求項2】
前記水溶性ポリエステル樹脂がスルホン酸塩基を有する、請求項1に記載のインクジェット印刷用インク。
【請求項3】
前記水溶性ポリエステル樹脂中の前記スルホン酸塩基の含有量が0.4mmol/g以上2.0mmol/g以下である、請求項2に記載のインクジェット印刷用インク。
【請求項4】
前記ポリマー分散剤が架橋されてなる、請求項1に記載のインクジェット印刷用インク。
【請求項5】
前記ポリマー分散剤が、カルボン酸モノマーから誘導される構成単位と疎水性モノマーから誘導される構成単位とを有するポリマーを含有する、請求項1に記載のインクジェット印刷用インク。
【請求項6】
前記カルボン酸モノマーが(メタ)アクリル酸から選ばれる1種以上である、請求項5に記載のインクジェット印刷用インク。
【請求項7】
前記疎水性モノマーがスチレン、ベンジル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレートから選ばれる1種以上である、請求項5に記載のインクジェット印刷用インク。
【請求項8】
前記顔料は、前記顔料が顔料分散剤に含有された顔料含有ポリマー粒子の状態で含有される、請求項7に記載のインクジェット印刷用インク。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載のインクを用いてインクジェット印刷方法で印刷し、前記低吸液性印刷基材に直接または他の層を介して前記インクに由来する印刷層を形成する印刷層形成工程を有する、印刷物の製造方法。
【請求項10】
低吸液性印刷基材、及び請求項1~8のいずれか1項に記載のインクに由来する印刷層を有する印刷物。
【請求項11】
請求項10に記載の印刷物を40℃以上の中性水で処理し、前記印刷層を除去する印刷層除去工程を有する、印刷層除去方法。
【請求項12】
請求項11に記載の印刷層除去方法で前記印刷層が除去されたことを特徴とする低吸液性印刷基材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット印刷用インクに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット印刷方法は、微細なノズルからインク液滴を吐出し、印刷基材に付着させて文字や画像が記録された印刷層を有する印刷物等を得る印刷方法である。この印刷方法は、フルカラー化が容易かつ安価であり、また、普通紙等の高吸液性印刷基材や、合成樹脂フィルム等の低吸液性印刷基材等の様々な印刷基材が使用可能であり、印刷基材に対して非接触である等、数多くの利点がある。印刷物の耐候性や耐水性の観点から、インクジェット印刷方法では、着色剤として顔料を用いるインクが主流となってきている。
【0003】
近年、合成樹脂は、容器、包装袋等と極めて多岐にわたる用途で使用されており、それら容器等の多くは機能的な理由から、全く異なる種類のフィルムやアルミ等の無機物、インキ等から構成されている。特にインキなどによる印刷物は、容器や包装袋にとって一般消費者に向けた情報伝達や製品の物流管理において無くてはならないものであり、容器等の表面に印刷されたり、印刷加工されたりしている。
【0004】
合成樹脂は自然界で分解しにくいこと、省資源、経済性等より一部は分別され回収されており、再生加工されて二次製品として利用されている。しかし、再生に際して印刷等が施された樹脂製品が混入すると再生製品の一部又は全体が着色することがあることから、再生製品の着色は商品価値を著しく低下され、再使用できない場合が多い。また、物性的に致命的な欠点を起こす場合がある。このような印刷等が施された樹脂製品は、回収(再使用のための)されず廃棄されているのが現状である。
【0005】
上記現状に鑑み、印刷された合成樹脂をリサイクルする観点から、合成樹脂製品から印刷層を除去する方法が従来から検討されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記特許文献1に記載の技術では印刷層の除去にアルカリ水溶液を用いる。アルカリ水溶液は人体に対する危険性が高く、取扱に注意を要する。また、印刷物をアルカリ水溶液に浸漬すると基材がアルカリに侵食され、リサイクルが困難になるおそれがある。
【0008】
上記課題に対し、水溶性ポリエステル樹脂等の中性水に溶解する水溶性材料を含有させ、印刷層を中性水で除去できるようにすることが考えられる。しかしながら、水溶性ポリエステル樹脂を含有するインクは保存安定性や間欠吐出性などのインクジェット適性に改善の余地があった。
【0009】
本発明の課題は、水溶性ポリエステル樹脂を含有するインクジェット印刷用インクの保存安定性や間欠吐出性などのインクジェット適性を改善することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、
顔料、ポリマー分散剤で分散された水溶性ポリエステル樹脂、及び水を含有するインクジェット印刷用インクである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、水溶性ポリエステル樹脂を含有するインクジェット印刷用インクの保存安定性や間欠吐出性などのインクジェット適性を改善することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<インクジェット印刷用インク>
本実施形態のインクジェット印刷用インクは、顔料、ポリマー分散剤で分散された水溶性ポリエステル樹脂、及び水を含有する。本実施形態のインクジェット印刷用インクによれば、水溶性ポリエステル樹脂を含有するインクジェット印刷用インクの保存安定性や間欠吐出性などのインクジェット適性を改善することができる。本実施形態のインクジェット印刷用インクがこのような効果を奏する理由は定かではないが、以下のように推測される。
【0013】
水溶性ポリエステル樹脂はポリエステル骨格を持つため、エステル部位が加水分解を受けやすく、インク中での保存安定性が低下する。水溶性ポリエステル樹脂をポリマー分散剤で分散することで、エステル部位と水との接触頻度を低下させ、加水分解を抑制することができる。その結果、インク中での保存安定性を向上させることができると考えられる。また、インクジェットノズルからインクを吐出しないで所定時間が経過する間に、インクジェットノズル近傍でインクが長期間大気に曝露されて該インク中の水分が揮発しても、水溶性ポリエステル樹脂の凝集を抑制することができ、間欠吐出性を向上させることができると考えられる。
【0014】
〔水溶性ポリエステル樹脂〕
前記水溶性ポリエステル樹脂は、親水性基を有するポリエステル樹脂である。本明細書において、「水溶性」とは、40℃の中性水100gに0.01g以上溶解することをいう。前記中性水としては、pH6~8の水又は水溶液が挙げられる。前記中性水としては、具体的には、脱イオン水、純水、水道水、工業用水が挙げられ、入手容易性の観点から脱イオン水又は水道水が好ましい。また、前記中性水は水溶性有機溶媒、界面活性剤などの他の成分を含んでいてもよい。前記中性水に含まれてもよい前記水溶性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、2-プロパノールなどの低級アルコール類、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノターシャリーブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルなどのグリコールエーテル類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類が挙げられる。前記中性水に含まれてもよい前記界面活性剤としては、アルキル硫酸エステル塩、アルキルエーテル硫酸エステル塩、オレフィンスルホン酸塩、アルキルエーテルカルボン酸塩等のアニオン界面活性剤、アルキルトリメチルアンモニウム塩等のカチオン界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、アルキルグリコシド等のノニオン界面活性剤が挙げられる。
【0015】
前記親水性基としては、水への溶解性を付与する観点から、第1級アミノ基、第2級アミノ基、第3級アミノ基、第4級アンモニウム塩基、オキシアルキレン基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、カルボキシル塩基、リン酸基、リン酸塩基、スルホン酸基、及びスルホン酸塩基からなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。これらの中でも同様の観点から、第4級アンモニウム塩基、オキシアルキレン基、カルボキシル塩基、リン酸塩基、及びスルホン酸塩基からなる群より選ばれる1種以上が好ましく、第4級アンモニウム塩基、オキシアルキレン基、及びスルホン酸塩基からなる群より選ばれる1種以上がより好ましく、スルホン酸塩基が更に好ましい。
【0016】
前記スルホン酸塩基は、中性水で印刷層を除去できるようにする観点、及び水溶性ポリエステル樹脂製造時の重合反応の容易さの観点から、-SO3M3(ただし、M3はスルホン酸塩基を構成するスルホン酸基の対イオンを示し、中性水で印刷層を除去できるようにする観点から金属イオン及びアンモニウムイオンからなる群より選ばれる1種又は2種以上が好ましく、金属イオンからなる群より選ばれる1種又は2種以上がより好ましく、アルカリ金属イオン及びアルカリ土類金属イオンからなる群より選ばれる1種又は2種以上が更に好ましく、アルカリ金属イオンからなる群より選ばれる1種又は2種以上が更に好ましく、ナトリウムイオン及びカリウムイオンからなる群より選ばれる1種又は2種以上が更に好ましく、ナトリウムイオンが更に好ましい。)で表されるスルホン酸塩基が好ましい。
【0017】
前記水溶性ポリエステル樹脂中のスルホン酸塩基の含有量は、中性水で印刷層を除去できるようにする観点から、0.4mmol/g以上が好ましく、0.6mmol/g以上がより好ましく、0.7mmol/g以上が更に好ましく、印刷層の耐水性を向上させる観点から、2.0mmol/g以下が好ましく、1.5mmol/g以下がより好ましい。
【0018】
前記水溶性ポリエステル樹脂は、中性水で印刷層を除去できるようにする観点から、前記親水性基を有するモノマーユニット(A)、疎水性ジカルボン酸モノマーユニット(B)、及びジオールモノマーユニット(C)を有する水溶性ポリエステル樹脂が好ましい。本明細書において、「疎水性」とは、モノマーを25℃のイオン交換水100gへ飽和するまで溶解させたときに、その溶解量が10g未満であることをいう。
【0019】
前記水溶性ポリエステル樹脂のモノマーユニットを構成するモノマーユニット(A)をモノマーユニット(A)と称し、当該モノマーユニット(A)を誘導するためのモノマーをモノマー(A)と称する。前記モノマー(A)は、中性水で印刷層を除去できるようにする観点、及び印刷層の耐水性を向上させる観点から、芳香族カルボン酸が好ましく、5-ヒドロキシイソフタル酸、5-アミノイソフタル酸、5-スルホイソフタル酸、2-スルホテレフタル酸、及び4-スルホ-2,6-ナフタレンジカルボン酸からなる群より選ばれる1種又は2種以上がより好ましく、5-スルホイソフタル酸、及び2-スルホテレフタル酸からなる群より選ばれる1種又は2種が更に好ましく、5-スルホイソフタル酸がより更に好ましい。
【0020】
前記水溶性ポリエステル樹脂の全モノマーユニットの物質量の合計に対する前記モノマーユニット(A)の物質量の割合は、中性水で印刷層を除去できるようにする観点から、5mol%以上が好ましく、10mol%以上がより好ましく、12mol%以上が更に好ましい。前記水溶性ポリエステル樹脂の全モノマーユニットの物質量の合計に対する前記モノマーユニット(A)の物質量の割合は、印刷層の耐水性を向上させる観点、から、35mol%以下が好ましく、30mol%以下がより好ましく、20mol%以下が更に好ましい。
【0021】
前記疎水性ジカルボン酸モノマーユニット(B)は親水性基を有さない。前記親水性基は、親水性を示すものであれば特に限定されない。前記親水性基の例としては、第1級アミノ基、第2級アミノ基、第3級アミノ基、第4級アンモニウム塩基、オキシアルキレン基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、カルボキシル塩基、リン酸基、リン酸塩基、スルホン酸基、及びスルホン酸塩基等が例示できる。
【0022】
前記水溶性ポリエステル樹脂が有する前記疎水性ジカルボン酸モノマーユニット(B)を誘導するためのモノマーをモノマー(B)と称する。前記モノマー(B)は、印刷層の耐水性を向上させる観点から、芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸、及び脂環式ジカルボン酸からなる群より選ばれる1種又は2種以上が好ましい。これらの中でも、同様の観点から、テレフタル酸、イソフタル酸、2,5-フランジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸及び1,3-アダマンタンジカルボン酸からなる群より選ばれる1種又は2種以上がより好ましく、テレフタル酸、2,5-フランジカルボン酸、及び2,6-ナフタレンジカルボン酸からなる群より選ばれる1種又は2種以上が更に好ましく、2,6-ナフタレンジカルボン酸が更に好ましい。
【0023】
前記水溶性ポリエステル樹脂中の全モノマーユニットの物質量の合計に対する、前記モノマーユニット(B)の物質量の割合は、及び印刷層の耐水性を向上させる観点から、15mol%以上が好ましく、20mol%以上がより好ましく、30mol%以上が更に好ましい。前記水溶性ポリエステル樹脂中の全モノマーユニットの物質量の合計に対する、前記モノマーユニット(B)の物質量の割合は、中性水で印刷層を除去できるようにする観点から、45mol%以下が好ましく、40mol%以下がより好ましく、38mol%以下が更に好ましい。
【0024】
前記水溶性ポリエステル樹脂が有する前記ジオールモノマーユニット(C)を誘導するためのモノマーをモノマー(C)と称する。前記モノマー(C)としては、脂肪族ジオール、芳香族ジオール等を用いることができるが、水溶性ポリエステル樹脂の製造コストの観点から、脂肪族ジオールが好ましい。前記脂肪族ジオールは、中性水で印刷層を除去できるようにする観点、印刷層の耐水性を向上させる観点から、好ましくはエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコールからなる群より選ばれる1種又は2種以上を含み、より好ましくはエチレングリコール、1,2-プロパンジオール及び1,3-プロパンジオールからなる群より選ばれる1種又は2種以上を含み、更に好ましくはエチレングリコールを含む。
【0025】
前記モノマー(C)がエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、ジエチレングリコール及びジプロピレングリコールからなる群より選ばれる1種又は2種以上を含有する場合、前記水溶性ポリエステル樹脂中の全ジオールモノマーユニット(C)の合計に対する、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、ジエチレングリコール及びジプロピレングリコールそれぞれの由来のモノマーユニットの合計の割合は、中性水で印刷層を除去できるようにする観点から、80mol%以上が好ましく、90mol%以上がより好ましく、95mol%以上が更に好ましく、98mol%以上が更に好ましく、実質的に100mol%が更に好ましく、100mol%が更に好ましい。なお、実質的に100mol%とは、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、ジエチレングリコール、及びジプロピレングリコール以外のジオールから誘導されるモノマーユニットが不可避的に混入する場合を含む意味である。
【0026】
前記水溶性ポリエステル樹脂は、本実施形態の効果を損なわない範囲で、前記モノマーユニット(A)、前記モノマーユニット(B)、及び前記ジオールモノマーユニット(C)以外のモノマーユニットを有していても良い。
【0027】
前記水溶性ポリエステル樹脂の重量平均分子量は、印刷層の耐水性を向上させる観点から、1000以上が好ましく、3000以上がより好ましく、4000以上が更に好ましく、中性水で印刷層を除去できるようにする観点から、80000以下が好ましく、50000以下がより好ましく、30000以下が更に好ましく、20000以下が更に好ましい。なお、本明細書において重量平均分子量は実施例に記載の方法によって測定する。
【0028】
前記水溶性ポリエステル樹脂のガラス転移温度は、印刷層の耐水性を向上させる観点から、50℃以上が好ましく、60℃以上がより好ましく、70℃以上が更に好ましく、80℃以上がより更に好ましい。前記水溶性ポリエステル樹脂のガラス転移温度は、中性水で印刷層を除去できるようにする観点から、180℃以下が好ましく、160℃以下がより好ましく、140℃以下が更に好ましく、120℃以下がより更に好ましい。なお、本明細書においてガラス転移温度は実施例に記載の方法によって測定する。
【0029】
前記水溶性ポリエステル樹脂の製造方法には特に限定はなく、従来公知の水溶性ポリエステル樹脂の製造方法を適用できる。
【0030】
〔ポリマー分散剤〕
前記水溶性ポリエステル樹脂を分散する前記ポリマー分散剤としては、ビニル単量体の付加重合により得られるビニル系樹脂、ポリエステル樹脂等が挙げられる。これらの中でも、顔料の分散安定性、保存安定性等の観点から、ビニル系樹脂が好ましい。前記ポリマー分散剤は、カルボン酸モノマー(D)から誘導される構成単位と疎水性モノマー(E)から誘導される構成単位とを有することが好ましい。
【0031】
カルボン酸モノマー(D)としては、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、及びシトラコン酸から選ばれる1種以上が挙げられるが、好ましくは(メタ)アクリル酸である。「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸及びメタクリル酸から選ばれる少なくとも1種を意味する。
【0032】
前記ポリマー分散剤中における前記カルボン酸モノマー(D)から誘導される構成単位の含有量は、インクの保存安定性の観点、及びインクの間欠吐出安定性の観点から、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは12質量%以上である。前記ポリマー分散剤中における前記カルボン酸モノマー(D)から誘導される構成単位の含有量は、印刷層の脱離性の観点から、好ましくは45質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは35質量%以下である。
【0033】
疎水性モノマー(E)の具体例としては、アルキル(メタ)アクリレート、芳香族基含有モノマー等が挙げられる。アルキル(メタ)アクリレートとしては、炭素数1以上22以下のアルキル基を有するものが好ましく、炭素数6以上18以下のアルキル基を有するものがより好ましい。例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、(イソ)プロピル(メタ)アクリレート、(イソ又はtert-)ブチル(メタ)アクリレート、(イソ)アミル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、(イソ)オクチル(メタ)アクリレート、(イソ)デシル(メタ)アクリレート、(イソ)ドデシル(メタ)アクリレート、(イソ)ステアリル(メタ)アクリレート等が挙げられる。なお、「(イソ又はtert-)」及び「(イソ)」は、これらの基が存在する場合としない場合の双方を意味し、これらの基が存在しない場合には、ノルマルを意味する。芳香族基含有モノマーとしては、ヘテロ原子を含む置換基を有していてもよい、炭素数6以上22以下の芳香族基を有するビニル系モノマーが好ましく、スチレン系モノマー及び芳香族基含有(メタ)アクリレートから選ばれる1種以上がより好ましい。芳香族基含有モノマーの分子量は、500未満が好ましい。スチレン系モノマーとしては、スチレン、2-メチルスチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、及びジビニルベンゼンが好ましく、スチレンがより好ましい。芳香族基含有(メタ)アクリレートとしては、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート等が好ましく、ベンジル(メタ)アクリレートがより好ましい。これらの中では、炭素数1以上18以下、好ましくは炭素数1以上10以下、より好ましくは炭素数1以上8以下のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート、炭素数6以上22以下、好ましくは炭素数6以上18以下の芳香族基を有する芳香族基含有モノマーが好ましく、炭素数1以上4以下のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート、炭素数6以上12以下の芳香族基を有する芳香族基含有モノマーから選ばれる1種以上がより好ましく、アクリル酸エチル、スチレン及びα-メチルスチレンから選ばれる1種以上が更に好ましい。なお、「(メタ)アクリレート」とはアクリレート及びメタクリレートから選ばれる少なくとも1種を意味する。
【0034】
前記ポリマー分散剤中における前記疎水性モノマー(E)から誘導される構成単位の含有量は、樹脂の分散性の観点から、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上、更に好ましくは50質量%以上である。前記ポリマー分散剤中における前記疎水性モノマー(E)から誘導される構成単位の含有量は、インクの保存安定性の観点、及びインクの間欠吐出安定性の観点から、好ましくは95質量%以下、より好ましくは90質量%以下、更に好ましくは88質量%以下である。
【0035】
前記ポリマー分散剤は、更にノニオン性モノマー(F)から誘導される構成単位を有してもよい。前記ノニオン性モノマー(F)は、水や水溶性有機溶剤との親和性が高いモノマーであり、例えば水酸基やポリアルキレングリコール鎖を含むモノマーである。ノニオン性モノマー(F)の具体例としては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート(n=2~30、nはオキシアルキレン基の平均付加モル数を示す。以下同じ)、ポリプロピレングリコール(n=2~30)(メタ)アクリレート、等のポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート;メトキシポリエチレングリコール(n=1~30)(メタ)アクリレート等のアルコキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート;フェノキシ(エチレングリコール-プロピレングリコール共重合)(n=1~30、その中のエチレングリコール:n=1~29)(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの中では、メトキシポリエチレングリコール(n=1~30)(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(n=2~30)(メタ)アクリレートから選ばれる1種以上が好ましい。
【0036】
前記ポリマー分散剤が前記ノニオン性モノマー(F)から誘導される構成単位を有する場合、前記ポリマー分散剤中における前記ノニオン性モノマー(F)から誘導される構成単位の含有量は、インクの保存安定性の観点、及びインクの間欠吐出安定性の観点から、好ましくは2質量%以上、より好ましくは5質量%以上、更に好ましくは10質量%以上である。前記ポリマー分散剤中における前記ノニオン性モノマー(F)から誘導される構成単位の含有量は、印刷層の脱離性の観点から、好ましくは45質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは35質量%以下である。
【0037】
前記ポリマー分散剤が酸基を有する場合、当該酸基の少なくとも一部は、中和剤を用いて中和されていることが好ましい。これにより、中和後に発現する電荷反発力が大きくなり、水系インクにおける前記水溶性ポリエステル樹脂含有ポリマー粒子の凝集を抑制し、前記水溶性ポリエステル樹脂の分散安定性を向上できると考えられる。中和剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、各種アミン等の塩基が挙げられ、好ましくは水酸化ナトリウム及びアンモニアである。中和する場合は、pHが7以上11以下になるように中和することが好ましい。
【0038】
前記ポリマー分散剤は公知の方法で製造することができる。
【0039】
[水溶性ポリエステル樹脂含有ポリマー粒子]
前記水溶性ポリエステル樹脂は、インクの保存安定性を向上させる観点から、前記ポリマー分散剤で分散された前記水溶性ポリエステル樹脂を含有するポリマー粒子(以下、「水溶性ポリエステル樹脂含有ポリマー粒子」ともいう)として含有されるのが好ましい。当該水溶性ポリエステル樹脂含有ポリマー粒子は、前記ポリマー分散剤が前記水溶性ポリエステル樹脂を包含した形態の粒子、前記ポリマー分散剤と前記水溶性ポリエステル樹脂からなる粒子の表面に前記水溶性ポリエステル樹脂の一部が露出している形態の粒子、前記ポリマー分散剤が前記水溶性ポリエステル樹脂の一部に吸着している形態の粒子、及びこれらの混合物を意味する。これらの中では、前記ポリマー分散剤と前記水溶性ポリエステル樹脂からなる粒子の表面に前記水溶性ポリエステル樹脂の一部が露出している形態の粒子、又は前記ポリマー分散剤が前記水溶性ポリエステル樹脂の一部に吸着している形態の粒子がより好ましい。
【0040】
前記水溶性ポリエステル樹脂含有ポリマー粒子は、カルボン酸モノマー(D)、及び疎水性モノマー(E)、並びに必要に応じてノニオン性モノマー(F)を含むモノマー混合物を共重合してなるポリマー分散剤を含む分散体と、前記水溶性ポリエステル樹脂を分散処理することによって製造することができる。当該分散処理は、公知の方法で剪断応力を与えることによって行ってよい。
【0041】
前記ポリマー分散剤は、インクの分散安定性、保存安定性の観点から、架橋されているのが好ましい。前記ポリマー分散剤は、カルボン酸モノマー(D)、及び疎水性モノマー(E)、並びに必要に応じてノニオン性モノマー(F)を含むモノマー混合物を共重合してなる未架橋のポリマー分散剤を含む分散体と、前記水溶性ポリエステル樹脂を含む分散体に架橋剤を添加し、架橋処理することによって架橋することができる。
【0042】
前記架橋剤としては、好ましくは分子中にエポキシ基を2以上有する多官能エポキシ化合物、より好ましくはグリシジルエーテル基を2以上有する化合物、更に好ましくは炭素数3以上4以下の炭化水素基を有する多価アルコールのポリグリシジルエーテル化合物である。当該架橋剤のエポキシ当量は、好ましくは90以上、より好ましくは100以上であり、そして、好ましくは300以下、より好ましくは200以下である。当該架橋剤の好適例としては、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル等のポリグリシジルエーテル等から選ばれる1種以上が挙げられる。
【0043】
前記ポリマー分散剤を架橋する場合、その架橋度は、保存安定性等を向上させる観点から、ポリマー分散剤のカルボキシ基のモル当量数に対する架橋剤の架橋性官能基のモル当量数の比で、好ましくは8モル%以上、より好ましくは10モル%以上であり、そして、好ましくは70モル%以下、より好ましくは50モル%以下である。
【0044】
架橋前の前記ポリマー分散剤の酸価は、インクの保存安定性の観点から、好ましくは100mgKOH/g以上、より好ましくは120mgKOH/g以上、更に好ましくは140mgKOH/g以上、より更に好ましくは160mgKOH/g以上であり、そして、好ましくは350mgKOH/g以下、より好ましくは300mgKOH/g以下、更に好ましくは250mgKOH/g以下である。なお、本明細書において、酸価は実施例に記載の方法で測定する。
【0045】
架橋後の前記ポリマー分散剤の酸価は、インクの保存安定性の観点から、好ましくは50mgKOH/g以上、より好ましくは80mgKOH/g以上、更に好ましくは100mgKOH/g以上、より更に好ましくは120mgKOH/g以上であり、そして、好ましくは300mgKOH/g以下、より好ましくは250mgKOH/g以下、更に好ましくは200mgKOH/g以下である。
【0046】
前記ポリマー分散剤の架橋前の重量平均分子量は、樹脂の分散性の観点及び保存安定性等を向上させる観点から、好ましくは8,000以上、より好ましくは10,000以上、更に好ましくは12,000以上であり、そして、好ましくは100,000未満、より好ましくは50,000以下、更に好ましくは30,000以下、より更に好ましくは20,000以下である。
【0047】
前記水溶性ポリエステル樹脂含有ポリマー粒子の平均粒径は、保存安定性等の観点から、好ましくは20nm以上、より好ましくは40nm以上、更に好ましくは60nm以上であり、そして、好ましくは250nm以下、より好ましくは200nm以下、更に好ましくは150nm以下である。前記水溶性ポリエステル樹脂含有ポリマー粒子の平均粒径は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0048】
〔顔料〕
前記顔料の種類は、無機顔料及び有機顔料のいずれであってもよい。前記顔料はインクジェット印刷用インクに用いられる顔料であれば特に限定なく用いることができる。
【0049】
前記無機顔料としては、例えば、カーボンブラック、金属酸化物等が挙げられ、黒色インキにおいては、カーボンブラックが好ましい。カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、サーマルランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等が挙げられる。白色インキにおいては、二酸化チタン、酸化亜鉛、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム等の金属酸化物等が挙げられる。これらの無機顔料は、チタンカップリング剤、シランカップリング剤、高級脂肪酸金属塩等の公知の疎水化処理剤で表面処理されたものであってもよい。
【0050】
前記有機顔料としては、例えば、アゾ顔料、ジアゾ顔料、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、イソインドリノン顔料、ジオキサジン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、チオインジゴ顔料、アントラキノン顔料、キノフタロン顔料等が挙げられる。
【0051】
前記顔料の色相は特に限定されず、有彩色インキにおいては、イエロー、マゼンタ、シアン、レッド、ブルー、オレンジ、グリーン等の有彩色顔料をいずれも用いることができる。
【0052】
前記インク中の前記顔料の含有量は、中性水で印刷層を除去できるようにする観点から、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、更に好ましくは3質量%以上である。前記インク中の前記顔料の含有量は、耐水性を向上させる観点から、好ましくは9質量%以下、より好ましくは8質量%以下、更に好ましくは7質量%以下である。
【0053】
〔顔料分散剤〕
前記顔料は、前記顔料分散剤で分散されて前記インク中に含有される。前記顔料分散剤は、前記顔料の分散能を有するものであり耐水性を向上させる観点から、好ましくは水不溶性ポリマーである。本明細書において、「水不溶性」とは、40℃の中性水100gに0.01g以上溶解しないことをいう。前記水不溶性ポリマーは、同様の観点から、好ましくは水不溶性ビニル系ポリマー、水不溶性ポリエステル系ポリマー、及び水不溶性ポリウレタン系ポリマーから選ばれる1種又は2種以上を含み、より好ましくは水不溶性ビニル系ポリマー、及び水不溶性ポリエステル系ポリマーから選ばれる1種又は2種以上を含む。
【0054】
〔水不溶性ビニル系ポリマー〕
前記水不溶性ビニル系ポリマーは、印刷層の耐水性を向上させる観点から、イオン性モノマー(G)から誘導される構成単位、及び疎水性モノマー(H)から誘導される構成単位を有することが好ましい。また、前記水不溶性ビニル系ポリマーは、中性水で印刷層を除去できるようにする観点から、ノニオン性モノマー(I)から誘導される構成単位を有することがより好ましい。
【0055】
[イオン性モノマー(G)]
前記イオン性モノマー(G)は、アニオン性モノマー、カチオン性モノマーが挙げられるが、アニオン性モノマーが好ましく、酸基を有するモノマーがより好ましく、カルボキシ基を有するモノマーが更に好ましい。前記イオン性モノマー(G)の具体例としては、特開2018-80255号公報段落0017に記載のものが挙げられる。これらの中では、(メタ)アクリル酸が好ましい。
【0056】
[疎水性モノマー(H)]
前記疎水性モノマー(H)としては、アルキル(メタ)アクリレート、芳香環含有モノマー、マクロモノマーが挙げられ、アルキル(メタ)アクリレート及び芳香環含有モノマーから選ばれる1種又は2種以上が好ましく、芳香環含有モノマーがより好ましい。前記疎水性モノマー(H)の具体例としては、特開2018-80255号公報段落0018~0021に記載のものが挙げられる。これらの中では、スチレン、α-メチルスチレン及びベンジル(メタ)アクリレートから選ばれる1種又は2種以上が好ましい。
【0057】
[ノニオン性モノマー(I)]
前記ノニオン性モノマー(I)としては、ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート、アルコキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシ(エチレングリコール/プロピレングリコール共重合)(メタ)アクリレート等が挙げられる。前記ノニオン性モノマー(I)の具体例としては、特開2018-80255号公報段落0022~0023に記載のものが挙げられる。これらの中では、アルコキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートが好ましく、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートがより好ましい。
【0058】
前記水不溶性ビニル系ポリマーは、特開2018-80255号公報段落0024~0028に記載の方法で製造することができる。
【0059】
〔水不溶性ポリエステル系ポリマー〕
前記水不溶性ポリエステル系ポリマーは、アルコールモノマー(J)から誘導される構成単位、及びカルボン酸モノマー(K)から誘導される構成単位を有し、アルコールモノマー(J)とカルボン酸モノマー(K)とを重縮合することにより得ることができる。
【0060】
[アルコールモノマー(J)]
前記アルコールモノマー(J)は、顔料の分散安定性を向上させ、間欠吐出性、基材密着性を向上させる観点から、芳香族ジオールを含むことが好ましい。前記芳香族ジオールとしては、ビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物が好ましい。このビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物は、ビスフェノールAのプロピレンオキシド付加物及びビスフェノールAのエチレンオキシド付加物が好ましく、ビスフェノールAのプロピレンオキシド付加物がより好ましい。なお、ビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物とは、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンにオキシアルキレン基を付加した構造全体を意味する。
【0061】
前記アルコールモノマー(J)には、前記ビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物以外にエチレングリコール、プロピレングリコール(1,2-プロパンジオール)、グリセリン、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、水素添加ビスフェノールA、ソルビトール、又はそれらのアルキレン(炭素数2以上4以下)オキシド付加物(平均付加モル数1以上16以下)等の他のアルコールが含有されていてもよい。
【0062】
前記アルコールモノマー(J)中における前記ビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物の含有量は、顔料の分散安定性を向上させ、吐出信頼性を向上させる観点から、好ましくは50モル%以上、より好ましくは60モル%以上、更に好ましくは70モル%以上であり、そして、その上限は100モル%以下が好ましい。
【0063】
[カルボン酸モノマー(K)]
前記カルボン酸モノマー(K)には、カルボン酸、その酸無水物及びそのアルキル(炭素数1以上3以下)エステル等が含まれる。前記カルボン酸モノマー(K)としては、芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸、脂環式ジカルボン酸及び3価以上の多価カルボン酸が挙げられる。前記芳香族ジカルボン酸としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸が好ましく、テレフタル酸がより好ましい。前記脂肪族ジカルボン酸としては、不飽和及び飽和の脂肪族ジカルボン酸が挙げられ、不飽和脂肪族ジカルボン酸としては、フマル酸、マレイン酸が好ましく、フマル酸がより好ましい。飽和脂肪族ジカルボン酸としては、アジピン酸、コハク酸が好ましい。前記脂環式ジカルボン酸としては、シクロヘキサンジカルボン酸、デカリンジカルボン酸、テトラヒドロフタル酸が好ましく、3価以上の多価カルボン酸としては、トリメリット酸、ピロメリット酸が好ましい。前記カルボン酸モノマー(K)は、1種又は2種以上を組み合せて用いることができる。
【0064】
前記水不溶性ポリエステル系ポリマーは、特開2022-10817号公報段落0038に記載の方法で製造することができる。
【0065】
前記インク中の前記顔料分散剤の含有量は、定着性の観点から、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1.0質量%以上、更に好ましくは1.5質量%以上であり、そして、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、更に好ましくは4質量%以下、より更に好ましくは3質量%以下である。
【0066】
前記顔料に対する前記顔料分散剤の質量比〔前記顔料分散剤の質量/前記顔料の質量〕は、インク安定性を向上させる観点から、好ましくは0.2/99.8~70/30、より好ましくは1/99~50/50、更に好ましくは10/90~40/60、より更に好ましくは20/80~30/70である。
【0067】
前記顔料は、同様の観点から、当該顔料が前記顔料分散剤に含有された顔料含有ポリマー粒子の状態で前記インクに含有されるのが好ましい。前記顔料含有ポリマー粒子は、前記顔料分散剤が前記顔料を包含する形態、前記顔料分散剤と前記顔料からなる粒子の表面に前記顔料の一部が露出している形態、前記顔料分散剤が前記顔料の一部に吸着している形態等の粒子を含む。前記顔料含有ポリマー粒子に含有される前記顔料分散剤は架橋されていることが好ましい。前記顔料含有ポリマー粒子は、特開2022-10817号公報段落0040~0047に記載の方法で製造することができる。
【0068】
架橋前の前記顔料分散剤の酸価は、中性水で印刷層を除去できるようにする観点から、好ましくは10mgKOH/g以上であり、より好ましくは15mgKOH/g以上、更に好ましくは20mgKOH/g以上である。架橋前の前記顔料分散剤の酸価は、印刷層に由来する顔料によって除去水が着色するのを抑制する観点から、好ましくは140mgKOH/g以下であり、より好ましくは125mgKOH/g以下、更に好ましくは110mgKOH/g以下である。
【0069】
架橋後の前記顔料分散剤の酸価は、中性水で印刷層を除去できるようにする観点から、好ましくは5mgKOH/g以上であり、より好ましくは10mgKOH/g以上、更に好ましくは15mgKOH/g以上である。架橋後の前記顔料分散剤の酸価は、印刷層に由来する顔料によって除去水が着色するのを抑制する観点から、好ましくは100mgKOH/g以下であり、より好ましくは90mgKOH/g以下、更に好ましくは80mgKOH/g以下である。
【0070】
前記顔料分散剤の架橋前の重量平均分子量は、ポリマーで分散させた顔料粒子のインク中における分散安定性を向上させる観点、及びインクの印刷基材への定着強度を向上させる観点から、好ましくは8,000以上、より好ましくは10,000以上、更に好ましくは12,000以上であり、そして、好ましくは100,000未満、より好ましくは80,000以下、更に好ましくは60,000以下、より更に好ましくは50,000以下である。
【0071】
〔水溶性有機溶剤〕
前記インクは、インクの保存安定性を向上させる観点、及びインクの連続吐出性を向上させる観点から、好ましくは水溶性有機溶剤を含有する。本明細書において、水溶性有機溶剤とは、有機溶剤を25℃の水100mLに溶解させたときに、その溶解量が10mL以上である有機溶剤をいう。
【0072】
前記水溶性有機溶剤は、インクの保存安定性を向上させる観点、及びインクの連続吐出性を向上させる観点から、多価アルコール、及び多価アルコールアルキルエーテルからなる群より選ばれる1種又は2種以上が好ましい。
【0073】
前記多価アルコールは、インクの保存安定性を向上させる観点、及びインクの連続吐出性を向上させる観点から、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、及び炭素数4~10のアルキレングリコールからなる群より選ばれる1種又は2種以上が好ましく、プロピレングリコールがより好ましい。
【0074】
前記多価アルコールアルキルエーテルは、エチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、ジエチレングリコール-iso-プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、トリエチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、エチレングリコールモノ-iso-ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ-iso-ブチルエーテル、トリエチレングリコールモノ-iso-ブチルエーテル、トリエチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、及びジエチレングリコールジエチルエーテルからなる群より選ばれる1種又は2種以上が好ましく、ジエチレングリコールモノ-iso-ブチルエーテルがより好ましい。
【0075】
前記インク中の前記水溶性有機溶剤の含有量は、インクの保存安定性を向上させる観点、及びインクの連続吐出性を向上させる観点から、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上、更に好ましくは20質量%以上である。前記インク中の前記水溶性有機溶剤の含有量は、前記と同様の観点から、好ましくは40質量%以下、より好ましくは35質量%以下、更に好ましくは30質量%以下である。
【0076】
〔水〕
前記インク中の水の含有量は、環境負荷低減の観点から、好ましくは40質量%以上、より好ましくは45質量%以上、更に好ましくは50質量%以上である。前記インク中の水の含有量は、前記と同様の観点から、好ましくは80質量%以下、より好ましくは75質量%以下、更に好ましくは70質量%以下である。
【0077】
〔その他の添加剤〕
前記インクは、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、その他の添加剤を含有してもよい。その他の添加剤としては、界面活性剤、定着樹脂、キレート剤、保湿剤、湿潤剤、浸透剤、粘度調整剤、消泡剤、防腐剤、防黴剤、防錆剤等が挙げられる。
【0078】
[界面活性剤]
前記インクは、前記低吸液性基材への濡れ性を向上させる観点から、前記界面活性剤を含有するのが好ましい。前記界面活性剤は、同様の観点から、ノニオン性界面活性剤が好ましく、アセチレングリコール系界面活性剤、及びシリコーン系界面活性剤からなる群より選ばれる1種又は2種以上がより好ましく、前記アセチレングリコール系界面活性剤と前記シリコーン系界面活性剤を併用することが好ましい。
【0079】
前記アセチレングリコール系界面活性剤としては、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール、3,6-ジメチル-4-オクチン-3,6-ジオール、3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3-オール、2,4-ジメチル-5-ヘキシン-3-オール、2,5-ジメチル-3-ヘキシン-2,5-ジオール、2,5,8,11-テトラメチル-6-ドデシン-5,8-ジオール等のアセチレン系ジオール、及びそれらのエチレンオキシド付加物が例示できる。前記アセチレングリコール系界面活性剤の市販品としては、日信化学工業株式会社製の「サーフィノール」シリーズ、「オルフィン」シリーズ、川研ファインケミカル株式会社製の「アセチレノール」シリーズ等が例示できる。
【0080】
前記シリコーン系界面活性剤としては、ジメチルポリシロキサン、ポリエーテル変性シリコーン、アミノ変性シリコーン、カルボキシ変性シリコーン等が例示できる。前記シリコーン系界面活性剤の市販品としては、信越化学工業株式会社製のシリコーン:KFシリーズ等が挙げられる。
【0081】
前記インクが前記界面活性剤を含有する場合、前記インク中の前記界面活性剤の含有量は、中性水で印刷層を除去できるようにする観点、及び印刷層の耐水性を向上させる観点から、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、更に好ましくは1質量%以上である。前記インクが前記界面活性剤を含有する場合、前記インク中の前記界面活性剤の含有量は、前記と同様の観点から、好ましくは3質量%以下、より好ましくは2.5質量%以下、更に好ましくは2質量%以下である。
【0082】
<印刷物の製造方法>
本実施形態の印刷物の製造方法は、前記インクを用いてインクジェット印刷方法で印刷し、前記低吸液性印刷基材に直接または他の層を介して前記インクに由来する印刷層を形成する印刷層形成工程を有する。なお、本明細書において、「低吸液性印刷基材」とは、純水との接触時間100m秒における表面積あたりの吸水量が0g/m2以上10g/m2以下である印刷基材を意味する。また、本明細書において、「印刷」とは文字や画像を記録する印刷や印字を含む。
【0083】
〔印刷層形成工程〕
前記低吸液性印刷基材はインクジェット印刷方法による印刷の対象となるものであれば特に限定されない。また、印刷の対象である前記低吸液性印刷基材の成分も特に限定されず、合成樹脂、金属、ガラス等が挙げられる。前記合成樹脂としては、ナイロン6、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン46、ナイロン66などのナイロン系樹脂の他、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンナフタレート(PBN)、ポリ乳酸(PLA)、ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)などのポリエステル系樹脂、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)などのポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリスチレン系樹脂、エチレン-ビニルアルコール共重合体系樹脂等が例示できる。
【0084】
前記インクを用いてインクジェット印刷方法で印刷する方法は、特に限定されず、公知のインクジェット印刷装置に前記インクを装填し、前記低吸液性印刷基材に直接または他の層を介して前記インクを液滴として吐出させて乾燥させることによって前記印刷層を形成することができる。前記印刷物の製造方法で製造された印刷物は、前記低吸液性印刷基材、及び前記インクに由来する前記印刷層を有する。
【0085】
<印刷層除去方法>
本実施形態の印刷層除去方法は、前記印刷物を40℃以上の中性水で処理し、前記印刷層を除去する印刷層除去工程を有する。
【0086】
前記印刷層除去工程における、印刷物を処理する中性水の温度は、印刷層を効率よく除去する観点から40℃以上が好ましく、50℃以上がより好ましく、60℃以上が更に好ましい。水温の上限、及びリサイクル工程における温度制御の容易性の観点から、100℃以下が好ましく、90℃以下がより好ましく、80℃以下が更に好ましい。
【0087】
前記印刷物を40℃以上の中性水で処理する方法としては特に限定されず、例えば、浸漬洗浄、電解洗浄、スプレー洗浄、スクラブ洗浄、超音波洗浄、蒸気洗浄等が挙げられる。また、前記印刷物に裁断等の処理を施した後、前記中性水で処理してもよい。
【0088】
前記印刷層除去方法により、前記印刷層が除去された低吸液性基材を得ることができる。
【実施例0089】
圧力は、絶対圧力で表記する。「常圧」とは101.3kPaを示す。
【0090】
<測定方法>
〔樹脂及びポリマーの構成モノマー組成〕
Agilent社製NMR、MR400を用いたプロトンNMR測定により求めた。
【0091】
〔重量平均分子量の測定方法〕
ゲル浸透クロマトグラフィー法により求めた。測定試料は、ガラスバイアル中にポリマー0.1gを下記の溶離液10mLと混合し、25℃で10時間、マグネチックスターラーで撹拌し、シリンジフィルター(アドバンテック株式会社製「DISMIC-13HP」、孔径:0.2μm、材質:PTFE)で濾過したものを用いた。測定条件を下記に示す。
・GPC装置:東ソー株式会社製「HLC-8320GPC」
・カラム:東ソー株式会社製「TSKgel SuperAWM-H」、「TSKgel SuperAW3000」、「TSKgel guardcolum Super AW-H」
・溶離液:N,N-ジメチルホルムアミドに、リン酸及びリチウムブロマイドをそれぞれ60mmol/Lと50mmol/Lの濃度となるように溶解した液
・流速:0.5mL/min
・標準物質:分子量既知の単分散ポリスチレンキット、東ソー株式会社製「PStQuick B(F-550、F-80、F-10、F-1、A-1000)」、「PStQuick C(F-288、F-40、F-4、A-5000、A-500)」
【0092】
〔ガラス転移温度(Tg)の測定方法〕
各ポリマー5mgをアルミパンに封入し、DSC装置(日立ハイテクサイエンス社製、DSC8500)を用いて、30℃から250℃まで昇温後―20℃まで冷却し、再度250℃まで昇温を行った。この際、昇温および降温速度は10℃/minとした。再度昇温を行うことで得たDSC曲線に対して、ベースラインシフトよりガラス転移温度Tg(℃)を求めた。
【0093】
〔酸価の測定方法〕
電位差自動滴定装置(京都電子工業株式会社製、電動ビューレット、型番:APB-610)に樹脂をトルエンとアセトン(2:1)を混合した滴定溶剤に溶かし、電位差滴定法により0.1N水酸化カリウム/エタノール溶液で滴定し、滴定曲線上の変曲点を終点とした。水酸化カリウム溶液の終点までの滴定量から酸価(mgKOH/g)を算出した。
【0094】
〔水溶性ポリエステル分散体及び水系インク中の粒子の平均粒径の測定〕
レーザー粒子解析システム「ELS-8000」(大塚電子株式会社製)を用いてキュムラント解析を行い、得られたキュムラント平均粒径を水溶性ポリエステル分散体及び水系インクの平均粒径として測定した。測定試料には、測定する粒子の濃度が5×10-3%(固形分濃度換算)になるよう水で希釈した分散液を用いた。測定条件は、温度25℃、入射光と検出器との角度90°、積算回数100回であり、分散溶媒の屈折率として水の屈折率(1.333)を入力した。
【0095】
〔ポリマーの固形分濃度の測定〕
赤外線水分計「FD-230」(株式会社ケツト科学研究所製)を用いて、測定試料1.0gを乾燥温度150℃、測定モード96(監視時間2.5分/変動幅0.05%)の条件にて乾燥させた後、測定試料の水分(%)を測定し、下記式により固形分濃度を算出した。
固形分濃度(%)=100-測定試料の水分(%)
【0096】
〔顔料水分散体の固形分濃度の測定〕
30mLの軟膏容器にデシケーター中で恒量化した硫酸ナトリウム10.0gを量り取り、そこへサンプル約1.0gを添加して混合した後、正確に秤量し、105℃で2時間保持して揮発分を除去し、更にデシケーター内で更に15分間放置し、質量を測定した。揮発分除去後のサンプルの質量を固形分として、最初のサンプルの質量で除して固形分濃度とした。
【0097】
〔水系インクの32℃粘度の測定〕
E型粘度計「TV-25」(東機産業株式会社製、標準コーンロータ1°34’×R24使用、回転数50rpm)を用いて、32℃にて水系インクの粘度を測定した。
【0098】
<製造例>
〔ポリマー分散剤A1の製造〕
アクリル酸31質量部及びスチレン69質量部を混合しモノマー混合液を調製した。反応容器内に、メチルエチルケトン(MEK)10質量部、2-メルカプトエタノール(重合連鎖移動剤)0.2質量部、及び前記モノマー混合液の10%を入れて混合し、窒素ガス置換を十分に行った。
一方、滴下ロートに、モノマー混合液の残りの90%、前記重合連鎖移動剤0.2質量部、MEK30質量部及びアゾ系ラジカル重合開始剤(2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル、富士フイルム和光純薬株式会社製、商品名:V-65)1.1質量部の混合液を入れ、窒素雰囲気下、反応容器内の前記モノマー混合液を攪拌しながら65℃まで昇温し、滴下ロート中の混合液を3時間かけて滴下した。滴下終了から65℃で2時間経過後、前記重合開始剤0.1質量部をMEK2質量部に溶解した溶液を加え、更に65℃で2時間、70℃で2時間熟成させた後に減圧乾燥してポリマー分散剤A1(酸価:240mgKOH/g、重量平均分子量:13,900)を得た。ポリマー分散剤A1の物性を表1に示す。
【0099】
〔ポリマー分散剤A2~A5の製造〕
表1に示す条件に変えた以外は、ポリマー分散剤A1の製造例と同様にしてポリマー分散剤A2~A5をそれぞれ得た。ポリマー分散剤A2~A5の物性を表1に示す。
【0100】
【0101】
〔水溶性ポリエステル樹脂B1の製造〕
2Lステンレス製セパラブルフラスコ(K字管、撹拌機、窒素導入管付)に表2記載の原料を仕込み、窒素雰囲気下で撹拌しながらマントルヒーターの表面温度を160℃から260℃まで昇温し、その温度で6.5時間攪拌してエステル交換反応を行った。その後、マントルヒーターの表面温度を260℃から290℃まで昇温し、同時に常圧から1.5kPaまで減圧した状態で、1.5時間反応を行った。その後、1.5kPaから1.0kPaまで減圧し、6時間反応を行った。最後に前記ステンレス製セパラブルフラスコに窒素を導入し、常圧に戻して水溶性ポリエステル樹脂B1を得た。水溶性ポリエステル樹脂B1の物性を表2に示す。
【0102】
〔水溶性ポリエステル樹脂B2~B4の製造〕
水溶性ポリエステル樹脂を構成する原料モノマー組成を表2に示す条件に変更した以外は前記水溶性ポリエステル樹脂B1の製造例と同様にして、表2に示す各水溶性ポリエステル樹脂をそれぞれ得た。
【0103】
【0104】
〔水溶性ポリエステル樹脂分散体C1の製造〕
前記ポリマー分散剤A1 10質量部に、当該ポリマー分散剤A1のカルボキシ基を中和する中和剤として5N水酸化ナトリウム水溶液(NaOH固形分:16.9%)4.0質量部を加え中和した(中和剤の使用当量:40モル%)。更にイオン交換水240質量部を加え、その中に水溶性ポリエステル樹脂B1 100質量部を80℃で加熱溶解し、得られた混合物を90℃に保持しながら、超音波ホモジナイザーを用いて30分間分散処理を行った後、室温まで冷却し、マイクロフルイダイザー(Microfluidics社製、商品名)で200MPaの圧力で3パス分散処理して分散物を得た。得られた分散物にイオン交換水を加えて、エポキシ架橋剤(トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ナガセケムテックス株式会社製、商品名:デナコールEX-321、エポキシ価:140g/eq)2.3質量部(架橋度40mol%に相当)を加えて密栓し、スターラーで撹拌しながら80℃で5時間加熱して、水溶性ポリエステル樹脂B1を含有する架橋ポリマー粒子の分散体である水溶性ポリエステル樹脂分散体C1〔(分散体C1の内容物の質量比は、水溶性ポリエステル樹脂:20.0%、ポリマー分散剤:2.2%(分散体C1におけるエポキシ架橋剤由来の成分は0.2%)、水酸化ナトリウム0.14%、残りは水である。)、平均粒径:71nm、架橋後ポリマー分散剤の酸価:144mgKOH/g〕を得た。
【0105】
〔水溶性ポリエステル樹脂分散体C2~C12の製造〕
水溶性ポリエステル樹脂の種類、ポリマー分散剤の種類、水酸化ナトリウムの量、架橋剤の量、架橋剤の種類を表3に示すように変えた以外は、水溶性ポリエステル樹脂分散体C1の製造例と同様にして、水溶性ポリエステル分散体C2~C12をそれぞれ得た。水溶性ポリエステル分散体C2~C12の各物性を表3に示す。なお、水溶性ポリエステル分散体C10は、エポキシ架橋剤を使用していないので、水溶性ポリエステル分散体C10に含まれる水溶性ポリエステル樹脂を含有するポリマー粒子は、架橋構造を有しない。また、表3中のEX-212Lは、エポキシ架橋剤(1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ナガセケムテックス株式会社製、商品名:デナコールEX-212L、エポキシ価:135g/eq)である。
【0106】
【0107】
〔顔料水分散体1の製造〕
[水不溶性ポリマー1(ポリエステル樹脂)の合成]
アルコール成分としてポリオキシプロピレン(2.2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、カルボン酸成分としてフマル酸、エステル化触媒としてジ(2-エチルヘキサン酸)スズ(II)、エステル化助触媒として3,4,5-トリヒドロキシ安息香酸を用いて、210℃で10時間反応させて、水不溶性ポリマー1(ポリエステル樹脂、酸価22mgKOH/g、重量平均分子量13,700、〔カルボン酸成分/アルコール成分〕のモル比:1.04)を得た。
【0108】
[顔料水分散体1の製造]
内容積2Lの容器内で、前記水不溶性ポリマー1 66.7gをMEK198.6gに溶かし、その中に水不溶性ポリマー1の酸価の85モル%が中和されるように5N水酸化ナトリウム水溶液を加えた。さらにイオン交換水390.5gを30分間かけて滴下し、10~15℃でディスパー翼を用いて1,500r/minで15分間撹拌混合を行った。続いて、C.I.ピグメント・ブルー15:3(大日精化工業株式会社製、商品名:CFB6338JC)100gを加え、10~15℃でディスパー翼を用いて、6,500r/minで2時間撹拌混合し、予備分散体を得た。得られた予備分散体を200メッシュ濾過し、イオン交換水を36.1g添加して希釈した後に、マイクロフルイダイザー(Microfluidics社製、高圧ホモジナイザー、商品名:M-110EH-30XP)を用いて、150MPaの圧力で15パス分散処理し、顔料水分散液を得た。得られた顔料水分散液全量を2Lナスフラスコに入れ、固形分濃度15%になるようにイオン交換水を添加し、回転式蒸留装置(東京理化器械株式会社製、ロータリーエバポレーター、商品名:N-1000S)を用いて、回転数50r/minで、32℃に調整した温浴中、0.09MPa(abs)の圧力で3時間保持して、有機溶媒を除去した。更に、温浴を62℃に調整し、圧力を0.07MPa(abs)に下げて固形分濃度25%になるまで濃縮して濃縮物を得た。得られた濃縮物を500mLアングルローターに投入し、高速冷却遠心機(日立工機株式会社製、商品名:himac CR22G、設定温度20℃)を用いて3,660r/minで20分間遠心分離した後、液層部分をメンブランフィルター(商品名:ミニザルトシリンジフィルター)でろ過し、固形分濃度が22%になるように水で希釈し、顔料水分散体1(固形分濃度:22%、顔料:13.2%、ポリマー:8.8%、顔料分散剤の酸価22mgKOH/g)を得た。
【0109】
〔顔料水分散体2の製造〕
[水不溶性ポリマー2(アクリル樹脂)の合成]
メタクリル酸16質量部、スチレン44質量部、スチレンマクロモノマー(東亞合成株式会社製、商品名:AS-6S、数平均分子量6,000、固形分50%)30質量部、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート(日油株式会社、商品名:ブレンマーPME-200)25質量部を混合し、モノマー混合液115質量部を調製した。反応容器内に、MEK18質量部、連鎖移動剤(2-メルカプトエタノール)0.03質量部、及び前記モノマー混合液の10%(11.5質量部)を入れて混合し、窒素ガス置換を十分に行った。一方、モノマー混合液の残りの90%(103.5質量部)と前記連鎖移動剤0.27質量部、MEK42質量部、及び重合開始剤(2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、富士フイルム和光純薬株式会社製、商品名:V-65)3質量部を混合した混合液を滴下ロートに入れ、窒素雰囲気下、反応容器内の混合溶液を攪拌しながら75℃まで昇温し、滴下ロート中の混合溶液を3時間かけて滴下した。その後75℃で2時間経過後、前記重合開始剤3質量部をMEK5質量部に溶解した溶液を加え、更に75℃で2時間、80℃で2時間熟成させ、更にMEK50部を加え、水不溶性ポリマー2(酸価99mgKOH/g、重量平均分子量:50,000)の溶液(固形分濃度:45%)を得た。
【0110】
[顔料水分散体2の製造]
前記水不溶性ポリマー2の溶液95.2質量部をMEK53.7質量部に溶かし、そこに中和剤として5N水酸化ナトリウム水溶液13.7質量部と25%アンモニア水0.5質量部、及びイオン交換水341.8質量部を加え、更にシアン顔料(DIC株式会社製、商品名:Fastogen Blue CA5380 15:3)100質量部を加え、顔料混合液を得た(ポリマー中和度:72モル%)。得られた顔料混合液を、ディスパー翼を用いて7000rpm、20℃の条件下で1時間混合した後、更にマイクロフルイダイザー(Microfluidics社製、高圧ホモジナイザー、商品名:M-140K)を用いて、180MPaの圧力で15パス分散処理した。得られた顔料水分散液を、減圧下60℃でMEKを除去し、更に一部の水を除去し、遠心分離し、液層部分をメンブランフィルター(ザルトリウス社製、商品名:ミニザルトシリンジフィルター、孔径:5μm、材質:酢酸セルロース)でろ過して粗大粒子を除き、顔料水分散体(固形分濃度:22%)を得た。得られた顔料水分散体100質量部に対して、架橋剤(ナガセケムテックス株式会社製、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、商品名:デナコールEX321L、エポキシ当量:130g/eq)0.45質量部(架橋率 30モル%に相当)、イオン交換水15.23質量部を加え、撹拌しながら70℃、3時間の加熱処理を行った(固形分濃度:22%)。室温まで冷却後、液層部分をメンブランフィルター(商品名:ミニザルトシリンジフィルター)でろ過して粗大粒子を除き、顔料水分散体2(固形分濃度:22%、顔料:15.2%、ポリマー:6.8%、顔料分散剤の酸価69mgKOH/g)を得た。
【0111】
<実施例及び比較例>
〔実施例1〕
[水系インク1の調製]
表4に示すインク組成(合計100質量部)となるように、前記顔料水分散体1(固形分濃度:22%、顔料:13.2%、ポリマー:8.8%、顔料分散剤の酸価22.4mgKOH/g)を固形分として8.3質量部、前記水溶性ポリエステル分散体C1(固形分濃度25%)を固形分として2.0質量部、プロピレングリコール(試薬、富士フイルム和光純薬株式会社製)20.0質量部、ジエチレングリコールイソブチルエーテル(試薬、富士フイルム和光純薬株式会社製)5.0部、プロピレングリコール(試薬、富士フイルム和光純薬株式会社製)20.0質量部、シリコーン系界面活性剤(信越化学工業株式会社製「KF-6011」、有効分100%)1.0部、アセチレングリコール系界面活性剤(日信化学工業株式会社製「サーフィノール104-PG50」(2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールのプロピレングリコール溶液、有効分50%))0.5質量部、及びイオン交換水63.2質量部を添加し十分撹拌し、メンブランフィルター(ザルトリウス社製「ミニザルトシリンジフィルター」、孔径:5μm、材質:酢酸セルロース)でろ過して水系インク1(粘度:5.0mPa・s、pH:8.3)を得た。
【0112】
〔実施例2~15及び比較例1~2〕
[水系インク2~13、及び水系インクC1、C2の調製]
表4に示すインク組成に変更した以外は、実施例1と同様にして実施例に係る水系インク2~13、及び比較例に係る水系インクC1、C2を得た。
【0113】
[インクジェット印刷による評価]
温度32℃の環境で、印刷ヘッド(京セラ株式会社製、商品名:KJ4B-HD06MHG-STDV、ピエゾ式)を装備したインクジェット印刷評価装置(株式会社トライテック製)に前記水系インク1~13、水系インクC1、又は水系インクC2を充填した。印刷ヘッド電圧:26V、駆動周波数:30kHz、吐出液滴量:7pL、印刷ヘッド温度:32℃、印刷ヘッド解像度:600dpiに設定した。50℃に加熱した低吸液性印刷基材としてポリエチレンテレフタレートフィルム(フタムラ化学株式会社製「FE2000#25」)(以下、「PET」と表記する)上にDuty100%のベタ画像を印刷した。
【0114】
〔実施例16〕
低吸液性印刷基材をポリプロピレンフィルム(フタムラ化学株式会社製「FOR-AQ#25」)(以下、「OPP」と表記する)に変更した以外は実施例1と同様にしてDuty100%のベタ画像を形成し、印刷物を得た。
【0115】
〔実施例17〕
低吸液性印刷基材をポリエチレンフィルム(フタムラ化学株式会社製「LL-RP2#30」)(以下、「PE」と表記する)に変更した以外は実施例1と同様にしてDuty100%のベタ画像を形成し、印刷物を得た。
【0116】
〔評価〕
[印刷層の脱離性の評価]
各実施例及び比較例で得られた各印刷物を2cm×2cmサイズにカットし、表4に記載の印刷層脱離時の水温(℃)のイオン交換水10mL中に浸漬して、1分間撹拌した後の印刷層の脱離性を観察した。浸漬撹拌後のベタ画像部のインク印刷層残存領域を画像解析で算出し、浸漬撹拌後のベタ画像部に対して、浸漬撹拌前のベタ画像部の印字濃度値の半分の数値となる印字濃度値を閾値として2値化処理して、印刷層残存領域と非残存領域を画像解析で算出し、印刷層非残存領域の面積割合を、印刷層脱離試験後の印刷層除去率(%)として算出し、下記評価基準により評価した。値が大きいほど、印刷層の脱離性に優れ、印刷層除去率が80%以上であれば、実用上問題ない。評価結果を表4に示す。
(評価基準)
A:印刷層除去率95%以上
B:90%以上95%未満
C:80%以上90%未満
D:1%以上80%未満
E:印刷層除去率0%、印刷層の脱離なし
【0117】
[インクの保存安定性の評価]
各実施例及び比較例で得られた各水系インクを、スクリュー管(株式会社マルエム社製)に密栓して70℃に設定した恒温室内にそれぞれ1週間静置した後に平均粒径を測定して「保存後のインクの平均粒径」を求め、下記式から平均粒径増大率を算出した。
平均粒径増大率(%)=〔(保存後の水系インクの平均粒径-保存前の水系インクの平均粒径)/保存前の水系インクの平均粒径〕×100
なお、保存前の水系インクの平均粒径及び保存後の水系インクの平均粒径は前述の「水溶性ポリエステル分散体及び水系インクの平均粒径の測定」に記載の方法によって測定した。値が小さいほど、インクの保存安定性に優れ、平均粒径増大率が15%未満であれば、実用上問題ない。評価結果を表4に示す。
(評価基準)
A:平均粒径増大率が5%未満
B:平均粒径増大率が5%以上10%未満
C:平均粒径増大率が10%以上15%未満
D:平均粒径増大率が15%以上
E:凝集し、測定不可
【0118】
[インクの間欠吐出性の評価]
前記印刷評価装置を用いて、インク100%dutyで20mm×20mmのベタ画像を10枚印刷した後、10分間印刷を行わずに放置した。その後、20mm×20mmのベタ画像を1枚印刷して得られたベタ印刷物の状態から、10分間放置直前のベタ印刷物(すなわち、10枚印刷する命令で得られたベタ印刷物の10枚目の印刷物)の吐出面積に対する10分間放置直後のベタ印刷物(すなわち、放置直後、1枚印刷する命令で得られたベタ印刷物)の吐出面積の割合(下記式による吐出回復率(%))を算出し、間欠吐出性を評価した。本評価では前記フィルムヒーターには通電しなかった。
吐出回復率(%)=(10分間放置直後のベタ印刷物の吐出面積)/(10分間放置直前のベタ印刷物)]×100
値が大きいほど、インクの間欠吐出性に優れ、吐出回復率が85%以上であれば、実用上問題ない。評価結果を表4に示す。
(評価基準)
A:吐出回復率が95%以上
B:吐出回復率が90%以上95%未満
C:吐出回復率が85%以上90%未満
D:吐出回復率が80%以上85%未満
E:吐出回復率が80%未満
【0119】
【0120】
表4から、本発明の実施例に係る水系インクは、比較例で得られた水系インクよりも、印刷層の脱離性、インクの保存安定性、及びインクの間欠吐出性に優れていることが分かる。一方、比較例1から、水系インクがポリマー分散剤で分散された水溶性ポリエステル樹脂を含有していない場合、印刷層の脱離性に劣り、比較例2から、水系インクがポリマー分散剤で分散されていない水溶性ポリエステル樹脂を含有する場合、インクの保存安定性及びインクの間欠吐出性に劣ることが分かる。