(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025016812
(43)【公開日】2025-02-05
(54)【発明の名称】免疫系の異常に関連する疾患、障害または症状を処置するための医薬組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 38/17 20060101AFI20250129BHJP
A61P 17/02 20060101ALI20250129BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20250129BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20250129BHJP
A61P 37/08 20060101ALI20250129BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20250129BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20250129BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20250129BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20250129BHJP
C07K 14/705 20060101ALI20250129BHJP
C07K 7/06 20060101ALI20250129BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20250129BHJP
【FI】
A61K38/17
A61P17/02 ZNA
A61P37/02
A61P37/06
A61P37/08
A61P29/00
A61K45/00
A61K48/00
C12N15/12
C07K14/705
C07K7/06
C12Q1/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】25
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021204371
(22)【出願日】2021-12-16
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】517001077
【氏名又は名称】レグセル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100118371
【弁理士】
【氏名又は名称】▲駒▼谷 剛志
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】大崎 一直
(72)【発明者】
【氏名】坂口 志文
【テーマコード(参考)】
4B063
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA05
4B063QA18
4B063QA20
4B063QQ08
4B063QQ61
4B063QQ79
4B063QR41
4B063QR48
4B063QR77
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4C084AA17
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4C084MA52
4C084MA55
4C084MA66
4C084NA14
4C084ZA891
4C084ZA892
4C084ZB021
4C084ZB022
4C084ZB071
4C084ZB072
4C084ZB081
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4C084ZB111
4C084ZB112
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4C084ZB132
4C084ZB332
4C084ZB352
4C084ZC751
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA50
4H045EA20
4H045EA22
4H045EA50
4H045EA54
4H045FA74
(57)【要約】
【課題】 安全な免疫制御法を提供すること。
【解決手段】 創傷、または創傷を伴う疾患、障害もしくは症状を治療または予防するための、CTLA-4もしくはそれをコードする核酸、またはその機能的等価物、またはそれらの少なくとも1つを誘導する因子を含む医薬組成物。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
創傷、または創傷を伴う疾患、障害もしくは症状を治療または予防するための、CTLA-4もしくはそれをコードする核酸、またはその機能的等価物、またはそれらの少なくとも1つを誘導する因子を含む医薬組成物。
【請求項2】
前記CTLA-4が分泌型CTLA-4、及び膜型CTLA-4からなる群より選択される少なくとも1つを含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記CTLA-4が分泌型CTLA-4を含む、請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
局所的に投与される、請求項1~3のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
全身投与される、請求項1~3のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
抗生物質、抗真菌薬、または抗ウイルス薬と組み合わせて投与される、請求項1~5のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
創傷、または創傷を伴う疾患、障害もしくは症状を治療または予防するための、CTLA-4と抗生物質とを含む組み合わせ物。
【請求項8】
疾患、障害または症状を治療または予防するための、分泌型CTLA-4もしくはそれをコードする核酸、またはその機能的等価物、またはそれらの少なくとも1つを誘導する因子を含む医薬組成物。
【請求項9】
前記機能的等価物が、CTLA-4遺伝子のExon2にコードされるMYPPPYモチーフ領域を含むタンパク質またはペプチド、及び該タンパク質またはペプチドの二量体または多量体を含む、請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記機能的等価物は、CTLA-4遺伝子のExon1にコードされるシグナル配列が、同種または異種由来の他のシグナル配列に置換されて発現されたタンパク質を含む、請求項8または9に記載の医薬組成物。
【請求項11】
局所的に投与される、請求項8~10のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項12】
全身投与される、請求項8~10のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項13】
抗生物質、抗真菌薬、または抗ウイルス薬と組み合わせて投与される、請求項8~12のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項14】
免疫系の異常に関連する疾患、障害または症状を治療または予防するための、分泌型CTLA-4もしくはそれをコードする核酸、またはその機能的等価物、またはそれらの少なくとも1つを誘導する因子を含む医薬組成物。
【請求項15】
前記免疫系の異常に関連する疾患、障害または症状は、炎症を伴う免疫系疾患を含む、請求項14に記載の医薬組成物。
【請求項16】
前記免疫系の異常に関連する疾患、障害または症状は、自己免疫疾患および/もしくはアレルギー、あるいはそれらに関連する疾患、障害または症状を含む、請求項14または15に記載の医薬組成物。
【請求項17】
前記免疫系の異常に関連する疾患、障害または症状は、自己免疫疾患に関連する疾患、障害または症状を含む、請求項14~16のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項18】
前記免疫系の異常に関連する疾患、障害または症状は、アレルギーに関連する疾患、障害または症状を含む、請求項14~16のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項19】
前記機能的等価物は、CTLA-4遺伝子のExon2にコードされるMYPPPYモチーフ領域を含むタンパク質またはペプチド、及び該タンパク質またはペプチドの二量体または多量体を含む、請求項14~18のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項20】
前記機能的等価物は、CTLA-4遺伝子のExon1にコードされるシグナル配列が、同種または異種由来の他のシグナル配列に置換されて発現されたタンパク質を含む、請求項14~19のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項21】
局所的に投与される、請求項14~20のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項22】
全身投与される、請求項14~20のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項23】
抗生物質、抗真菌薬、または抗ウイルス薬と組み合わせて投与される、請求項14~22のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項24】
創傷、または創傷を伴う疾患、障害もしくは症状を治療または予防するための物質をスクリーニングする方法であって、
細胞を候補物質と接触させる工程と、
該細胞中、または該細胞表面におけるCTLA-4の発現量を測定する工程と、
該候補物質との接触前と比較して、該細胞中、または該細胞表面におけるCTLA-4の量またはレベルを増加させる該候補物質を選択する工程と
を含む、方法。
【請求項25】
免疫系の異常に関連する疾患、障害または症状を治療または予防するための物質をスクリーニングする方法であって、
細胞を候補物質と接触させる工程と、
該細胞中、または該細胞外における分泌型CTLA-4の発現量を測定する工程と、
該候補物質との接触前と比較して、該細胞中、または該細胞外における分泌型CTLA-4の量またはレベルを増加させる該候補物質を選択する工程と
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、免疫系の異常に関連する疾患、障害または症状を処置するための医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞傷害性Tリンパ球抗原4(CTLA-4)は、免疫系において重要な負の制御分子である。恒常的なCTLA-4の高発現は制御性T細胞(Treg)の特徴である。Tregが有害な免疫応答を抑制し、免疫恒常性を維持するためにはCTLA-4が必要である。また活性化エフェクターT細胞もCTLA-4を発現し、免疫応答が過剰にならないようフィードバック機構が働いている。
【0003】
CTLA-4には、共刺激分子であるCD80/86に結合できる2つのスプライシングバリアントが存在することが知られ、1つは、エクソン3によってコードされる膜貫通ドメインを有し、細胞膜中に係留されるmCTLA-4である。もう1つは、分泌のためにエクソン3を持たないsCTLA-4である。しかしながら、CTLA-4に関するほとんどの研究では免疫恒常性における各CTLA-4バリアントの役割を区別していない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、生体内における分泌型CTLA-4の作用の発見に基づき、CTLA-4やそれをコードする核酸、またはその機能的等価物、またはそれらの少なくとも1つを誘導する因子を含む医薬組成物が、免疫制御に関連することを見出した。
【0005】
CTLA-4、特に分泌型CTLA-4を用いることで、炎症下でM2型マクロファージを誘導することができ、創傷治癒などを促進することができる。またM2型マクロファージは免疫を負に制御するサイトカインや分子を発現し、炎症を抑え、さらには組織の修復およびリモデリングを達成し得る。
【0006】
したがって、本開示は以下を提供する。
(項目1)
創傷、または創傷を伴う疾患、障害もしくは症状を治療または予防するための、CTLA-4もしくはそれをコードする核酸、またはその機能的等価物、またはそれらの少なくとも1つを誘導する因子を含む医薬組成物。
(項目2)
前記CTLA-4が分泌型CTLA-4、及び膜型CTLA-4からなる群より選択される少なくとも1つを含む、項目1に記載の医薬組成物。
(項目3)
前記CTLA-4が分泌型CTLA-4を含む、上記項目のいずれか一項に記載の医薬組成物。
(項目4)
局所的に投与される、上記項目のいずれか一項に記載の医薬組成物。
(項目5)
全身投与される、上記項目のいずれか一項に記載の医薬組成物。
(項目6)
抗生物質、抗真菌薬、または抗ウイルス薬と組み合わせて投与される、上記項目のいずれか一項に記載の医薬組成物。
(項目7)
創傷、または創傷を伴う疾患、障害もしくは症状を治療または予防するための、CTLA-4と抗生物質とを含む組み合わせ物。
(項目D1)
疾患、障害または症状を治療または予防するための、分泌型CTLA-4もしくはそれをコードする核酸、またはその機能的等価物、またはそれらの少なくとも1つを誘導する因子を含む医薬組成物。
(項目D2)
前記機能的等価物が、CTLA-4遺伝子のExon2にコードされるMYPPPYモチーフ領域を含むタンパク質またはペプチド、及び該タンパク質またはペプチドの二量体または多量体を含む、上記項目に記載の医薬組成物。
(項目D3)
前記機能的等価物は、CTLA-4遺伝子のExon1にコードされるシグナル配列が、同種または異種由来の他のシグナル配列に置換されて発現されたタンパク質を含む、上記項目のいずれか一項に記載の医薬組成物。
(項目D4)
局所的に投与される、上記項目のいずれか一項に記載の医薬組成物。
(項目D5)
全身投与される、上記項目のいずれか一項に記載の医薬組成物。
(項目D6)
抗生物質、抗真菌薬、または抗ウイルス薬と組み合わせて投与される、上記項目のいずれか一項に記載の医薬組成物。
(項目A1)
免疫系の異常に関連する疾患、障害または症状を治療または予防するための、分泌型CTLA-4もしくはそれをコードする核酸、またはその機能的等価物、またはそれらの少なくとも1つを誘導する因子を含む医薬組成物。
(項目A2)
前記免疫系の異常に関連する疾患、障害または症状は、炎症を伴う免疫系疾患を含む、上記項目に記載の医薬組成物。
(項目A3)
前記免疫系の異常に関連する疾患、障害または症状は、自己免疫疾患および/もしくはアレルギー、あるいはそれらに関連する疾患、障害または症状を含む、上記項目のいずれか一項に記載の医薬組成物。
(項目A4)
前記免疫系の異常に関連する疾患、障害または症状は、自己免疫疾患に関連する疾患、障害または症状を含む、上記項目のいずれか一項に記載の医薬組成物。
(項目A5)
前記免疫系の異常に関連する疾患、障害または症状は、アレルギーに関連する疾患、障害または症状を含む、上記項目のいずれか一項に記載の医薬組成物。
(項目A6)
前記機能的等価物は、CTLA-4遺伝子のExon2にコードされるMYPPPYモチーフ領域を含むタンパク質またはペプチド、及び該タンパク質またはペプチドの二量体または多量体を含む、上記項目のいずれか一項に記載の医薬組成物。
(項目A7)
前記機能的等価物は、CTLA-4遺伝子のExon1にコードされるシグナル配列が、同種または異種由来の他のシグナル配列に置換されて発現されたタンパク質を含む、上記項目のいずれか一項に記載の医薬組成物。
(項目A8)
局所的に投与される、上記項目のいずれか一項に記載の医薬組成物。
(項目A9)
全身投与される、上記項目のいずれか一項に記載の医薬組成物。
(項目A10)
抗生物質、抗真菌薬、または抗ウイルス薬と組み合わせて投与される、上記項目のいずれか一項に記載の医薬組成物。
(項目B1)
創傷、または創傷を伴う疾患、障害もしくは症状を治療または予防するための物質をスクリーニングする方法であって、
細胞を候補物質と接触させる工程と、
該細胞中、または該細胞表面におけるCTLA-4の発現量を測定する工程と、
該候補物質との接触前と比較して、該細胞中、または該細胞表面におけるCTLA-4の量またはレベルを増加させる該候補物質を選択する工程と
を含む、方法。
(項目C1)
免疫系の異常に関連する疾患、障害または症状を治療または予防するための物質をスクリーニングする方法であって、
細胞を候補物質と接触させる工程と、
該細胞中、または該細胞外における分泌型CTLA-4の発現量を測定する工程と、
該候補物質との接触前と比較して、該細胞中、または該細胞外における分泌型CTLA-4の量またはレベルを増加させる該候補物質を選択する工程と
を含む、方法。
【0007】
本開示において、上記の1つまたは複数の特徴は、明示された組み合わせに加え、さらに組み合わせて提供され得ることが意図される。なお、本開示のさらなる実施形態および利点は、必要に応じて以下の詳細な説明を読んで理解すれば、当業者に認識される。
【0008】
なお、上記した以外の本開示の特徴及び顕著な作用・効果は、以下の発明の実施形態の項及び図面を参照することで、当業者にとって明確となる。
【発明の効果】
【0009】
本開示は、創傷、または創傷を伴う疾患、障害もしくは症状を治療または予防するための、CTLA-4もしくはそれをコードする核酸、またはその機能的等価物、またはそれらの少なくとも1つを誘導する因子を含む医薬組成物を提供することができる。本開示の医薬組成物は、免疫制御に関わるため、免疫系の異常に関連する疾患の治療とともに、自己免疫疾患などで破壊された組織の修復やリモデリングも期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1A】8週齢野生型Balb/cマウスのナイーブもしくはエフェクターCD4+T細胞におけるsCTLA-4およびmCTLA-4 mRNA発現。
【
図1B】ヒトエフェクターTregにおけるsCTLA-4の増加。CD4+CD45RA+CD25+細胞(ナイーブTreg)、CD4+CD45RA-CD25
high+細胞(エフェクターTreg:CD25
highの<1%)およびCD4+CD45RA-CD25
int+細胞(Foxp3+非Treg)におけるヒトsCTLA-4のmRNA発現を測定した。
【
図1C】OVA/CFAで免疫したDEREG DO11.10マウスから免疫後0、7、14および21日目に単離したCD4+Foxp3+(GFP+)細胞におけるsCTLA-4およびmCTLA-4のmRNA発現。
【
図1D】慢性創傷マウスから単離したTregにおけるsCTLA-4の増加。群飼中の喧嘩により偶発的に負傷したDEREG雄マウスの体表リンパ節から単離したFoxp3+(GFP+)CD4+T細胞におけるsCTLA-4およびmCTLA-4のmRNA発現を測定した。
【
図1E】S+M-マウスにおけるCTLA-4遺伝子座の模式図。エクソン3の前側のスプライシングアクセプター部位(86bp)を欠失させたベクターを設計した。ES細胞にエレクトロポレーションを行って相同組換えを誘導し、キメラマウスを作製した後、そのマウスをFLP1リコンビナーゼ遺伝子を有するFLPeRマウスと交配させ、neoカセットを欠失させた。その子孫がS+M-ノックインマウスである。sCTLA-4(S)+mCTLA-4(M)+野生型マウス、S+M-マウスおよびS-M-マウスのCTLA-4遺伝子座の模式図も示した。
【
図1F】PMA/イオノマイシン/モネンシンで4時間刺激した後のCD4+T細胞におけるCTLA-4およびFoxp3の共染色。
【
図1G】S+M-マウスにおける血中循環CTLA-4タンパク質の増加。
【
図1H】S+M-マウスのCTLA_4 mRNAではexon3がスキップされる。3週齢マウスの脾臓細胞およびリンパ球におけるCD4+T細胞のsCTLA-4(exon2-4ジャンクションを挟んだプライマーを用いた)およびmCTLA-4(exon3-4またはexon2-3ジャンクションを挟んだプライマーを用いた)のRNA発現を測定した。
【
図1I】3週齢の雄S+M+マウス、S+M-マウスおよびS-M-マウス、ならびにそれらのマウスの体重。
【
図1J】S+M-マウスおよびS-M-マウスの脾臓およびリンパ節の肥大。
【
図1K】抗dsDNA IgG抗体(抗核抗体)の血清中濃度。
【
図1M】S+M-マウス、S-M-マウス、S-M+マウスおよびS+M+マウスの生存曲線。S+M-マウスとS-M-マウスとの間の統計的有意性をログランク検定によって得た(P<0.0001)。
【
図2A】脾臓CD11b+細胞、CD11c+細胞、B220+細胞におけるCD80+サブセットもしくはCD86+サブセットの割合。
【
図2B】単離した脾臓CD11b+細胞におけるIL-4、IL-6およびIL-10のmRNA発現。
【
図2C】F4/80+CD11b+腹腔マクロファージを24時間培養した上清中のIL-10濃度。
【
図2E】F4/80+CD11b+腹腔マクロファージのRNA-seq。全転写物解析による多次元スケーリングプロット(PCoA)を示した。
【
図2F】生物学的プロセスに関する遺伝子オントロジー(GO)解析(1)。図に示したマウスから単離したMφ群比較において最も濃縮されたGOタームの上位セットを示す。
【
図2G】生物学的プロセスに関する遺伝子オントロジー(GO)解析(2)。図に示したマウスから単離したMφ群比較において最も濃縮されたGOタームの上位セットを示す。
【
図2H】生物学的プロセスに関する遺伝子オントロジー(GO)解析(3)。図に示したマウスから単離したMφ群比較において最も濃縮されたGOタームの上位セットを示す。
【
図2I】野生型S+M+マウス腹腔マクロファージの遺伝子発現量を基準としたS+M-マウスおよびS-M-マウスの腹腔マクロファージの遺伝子発現量比(Log fold change)のヒートマップ。S+M-対S-M-で、有意差P<0.001の発現変化を示す遺伝子リストを示した。
【
図2J】腹腔マクロファージにおけるM1/M2関連遺伝子の相対的なFPKM値を、色分けしたマトリックスによって示す。
【
図2K】マクロファージにおいてIL-4およびIL-13によって誘導される典型的な遺伝子の発現比較。
【
図3B】PMA/イオノマイシン/モネンシンで5時間刺激したFoxp3-CD4+血球中のIL-5産生細胞の割合。
【
図3C】PMA/イオノマイシン/モネンシンで5時間刺激したFoxp3-CD4+血球中のIL-4産生細胞の割合。
【
図3E】脾臓に浸潤した好酸球のSiglec-F発現。
【
図3F】脾臓から単離した好酸球におけるIL-4のmRNA発現。
【
図3G】エオタキシン(CCL11)およびCCL22の血清中濃度。
【
図3H】腹腔マクロファージにおけるCCL24発現レベル。
【
図3I】S+M-マウスの肺胞マクロファージにおけるCD206発現の増加。
【
図3J】IL-4およびIL-10で24時間培養したS-M-マウスの脾臓マクロファージのCD80 MFIおよびCD206 MFI。
【
図3K】S+M-マウスでは、血清IL-33は増加していなかった。
【
図3L】S+M-マウスでは、血清TSLPは増加していなかった。
【
図3M】S+M-マウスの血液において、自然リンパ球(ILC)は増加していなかった。
【
図3N】S+M-マウスの腸間膜において、自然リンパ球(ILC)は増加していなかった。
【
図3O】S+M-マウスのCD45+血球において、好塩基球およびc-Kit+細胞は増加していなかった。
【
図4A】CD80/86ブロッキング抗体の存在下におけるTh2およびTh1の分化。抗CD80 mAbおよび抗CD86 mAbを用いて、ナイーブT細胞を抗CD3 mAbおよびT細胞枯渇脾臓細胞(主に抗原提示細胞)でTh2条件もしくはTh1条件で3日間刺激した後、PMA/イオノマイシン/モネンシンで5時間刺激し、Th2もしくはTh1の分化の割合を調べた。
【
図4B】Th2またはTh1の分化の割合を、CD80またはCD86をブロックしない条件を100%として算出した。
【
図4C】sCTLA-4組換えタンパク質の存在下におけるTh2およびTh1の分化。sCTLA-4 WT(野生型)、sCTLA-4 Y139A(変異型)またはCTLA-4 Igを用いて、ナイーブT細胞を抗CD3 mAbおよびT細胞枯渇脾臓細胞(主に抗原提示細胞)で3日間刺激した後、PMA/イオノマイシン/モネンシンで5時間刺激し、Th2もしくはTh1の分化の割合を調べた。
【
図4D】Th2細胞またはTh1細胞の分化の割合を、CTLA-4 Y139A(陰性対照)を用いた条件を100%として算出した。
【
図4E】sCTLA-4 WTおよびCTLA-4 IgによるTh1分化に対する抑制効果の用量反応曲線。Th1の分化の割合を、CTLA-4 Y139A(陰性対照)を用いた条件を100%として算出した。sCTLA-4 Y139Aと比較して、*はP<0.05を示し、***はP<0.001を示し、****はP<0.0001を示す。
【
図4F】sCTLA-4 WTおよびCTLA-4 IgによるTh2分化に対する抑制効果の用量反応曲線。Th2の分化の割合を、CTLA-4 Y139A(陰性対照)を用いた条件を100%として算出した。sCTLA-4 Y139Aと比較して、*はP<0.05を示し、***はP<0.001を示し、****はP<0.0001を示す。
【
図4G】sCTLA-4 WT(5μg/mL)、sCTLA-4 Y139A(5μg/mL)、CTLA-4 Ig(5μg/mL)またはIL-4(10ng/mL)で24時間培養した後のRAW264.7細胞におけるCD206、Arg1およびiNOSのmRNA発現。
【
図5A】図に示す各リンパ節由来のCD4+T細胞におけるsCTLA-4およびmCTLA-4のmRNA発現。
【
図5B】S+M-マウス、S-M-マウスおよびS+M+マウスの大腸。
【
図5E】腸間膜リンパ節のFoxp3-CD4+T細胞におけるIFNγ産生細胞およびIL-17A産生細胞。
【
図5F】大腸から単離したCD45+Siglec-F-Ly6G-CD11b+F4/80+マクロファージにおけるCD206、Fizz1、iNOSおよびIL-6のmRNA発現。
【
図5G】sCTLA-4による大腸炎の抑制。6週齢の複合免疫不全マウス(C.B17/Icr-scid)に、CD45.1コンジェニックマウスから単離したCD45RB
highナイーブT細胞を単独(黒丸)または3週齢のDEREG S+M-(白丸)、DEREG S-M-(白三角形)もしくはDEREG S+M+マウス(白四角形)から単離したFoxp3+(GFP+)CD4+Tregとともに静脈内投与した。細胞養子移入の日(Day0)の体重を100%として算出した。
【
図5H】
図5Gに記載したように養子細胞移入したC.B17/Icr-scidマウスの8週間後の大腸ヘマトキシリン・エオジン染色切片。
【
図5I】大腸炎を組織学的にスコア化した。データにはクラスカル・ウォリス検定およびDunnの多重比較検定を適用した。
【
図5J】sCTLA-4による腫瘍免疫の抑制。C57BL/6マウスに、野生型sCTLA-4(sCTLA-4 WT)、Y139A変異体sCTLA-4(sCTLA-4 Y139A)またはCTLA-4 Igを産生するB16F10黒色腫細胞を皮下投与した。腫瘍の長辺と短辺を1日おきに測定した。腫瘍の面積を、2つの直径を用いて算出した。濃い太字で示した線は、点線で示した個々の腫瘍(n数は凡例に示してある)の平均増殖曲線を示す。sCTLA-4 WT B16F10とsCTLA-4 Y139A B16F10との間の統計的有意性を、接種後6日目、8日目、11日目、13日目および15日目において示した(*はP<0.0005を示す)。
【
図5K】sCTLA-4による腫瘍免疫の抑制はT細胞への作用である。ヌードマウスに、野生型sCTLA-4(sCTLA-4 WT)、Y139A変異体sCTLA-4(sCTLA-4 Y139A)またはCTLA-4 Igを産生するB16F10黒色腫細胞を皮下投与した。腫瘍の長辺と短辺を1日おきに測定した。腫瘍の面積を、2つの直径を用いて算出した。濃い太字で示した線は、点線で示した個々の腫瘍(n=5)の平均増殖曲線を示す。
【
図5L】接種後12日目の腫瘍の細胞抽出物中のIFNγの濃度。データにはクラスカル・ウォリス検定およびその後のDunnの検定を適用した。
【
図5M】sCTLA-4による腫瘍M2マクロファージ分化の促進。接種後12日目のB16F10黒色腫浸潤マクロファージにおけるCD206発現。
【
図6A】S-M+マウスにおける大腸菌人工染色体(BAC)CTLA-4遺伝子座の模式図。BACベクター(RP23-146J17)を改変し、exon3とexon4の間のイントロンを欠失させた。BACトランスジェニックマウスをS-M-マウスと交配させ、S-M+マウスを作製した。
【
図6B】S-M+マウスおよびS+M+マウスのCD4+T細胞におけるCTLA-4およびFoxp3の共染色。
【
図6C】6週齢S-M+マウスのCD4+T細胞においてsCTLA-4は発現していないが、mCTLA-4は発現する。
【
図6D】8、16および24週齢マウスの脾臓(Sp)またはリンパ節(Ln)のCD8+T細胞におけるCD44およびCD62Lの共染色。代表的なフローサイトメトリーのデータは、24週齢マウスのCD8+T細胞を示す。
【
図6E】24週齢マウスの脾臓またはリンパ節のCD4+T細胞におけるCD44およびCD62Lの共染色。
【
図6F】30週齢雌S-M+マウスおよび野生型対照(S+M+)マウス。
【
図6H】脾臓(Sp)、腸間膜または体表リンパ節(Ln)における細胞総数。
【
図6I】S-M+マウスおよび対照(S+M+)マウスの脂肪組織(それぞれn=10)および肺(それぞれn=6)のヘマトキシリン・エオジン染色の代表切片。
【
図6J】抗dsDNA IgG抗体(抗核抗体)、抗胃壁細胞IgG抗体、IL-6およびTNF-αの血清中濃度。データにはマン・ホイットニー検定を適用した。
【
図6K】CD11b+F4/80+腹腔マクロファージにおけるiNOS(Nos2)およびIL-6のmRNA発現。
【
図6L】脾臓、腸間膜リンパ節、または体表リンパ節のCD8+T細胞をPMA/イオノマイシン/モネンシンで5時間刺激後、IFNγおよびEomesを共染色した。
【
図6M】脾臓、腸間膜リンパ節、または体表リンパ節のCD4+T細胞をPMA/イオノマイシン/モネンシンで5時間刺激後、IFNγおよびIL-17Aを共染色した。
【
図6N】sCTLA-4は創傷治癒に重要な役割を果たす。6mmの生検パンチを用いて12週齢のS-M+マウスおよびS+M+マウスの背部の皮膚に1匹あたり2箇所創傷した(それぞれn=8のマウスを用いた)。創傷後1日目(d1)、3日目(d3)、5日目(d5)の各マウス背部の2箇所の創傷面積(mm
2)の平均値を画像から測定した。
【
図6O】sCTLA-4は創傷後の再上皮化プロセスに重要な役割を果たす。5日目(d5)の創傷皮膚切片においてK14+表皮基底角化細胞(緑色)とDAPI(青色)を免疫蛍光染色で可視化した。創傷治癒において傷端から創傷下に遊走したK14+表皮角化細胞が増殖し傷をふさいだ長さ(Epi tongue length)によって、再上皮化を定量した。矢印は、再上皮化の徴候をまだ示していない時点(1日目)の傷端を示す。
【
図6P】30週齢マウスを用いた創傷治癒の外部観察。6mmの生検パンチを用いて30週齢のS-M+マウス(自己免疫の病態を示す)およびS+M+マウスの背部の皮膚に1匹あたり2箇所創傷した(それぞれn=8)。創傷後1日目(d1)、3日目(d3)、5日目(d5)の各マウス背部の2箇所の創傷面積(mm
2)の平均値を画像から測定した。
【
図6Q】30週齢マウスを用いた再上皮化プロセスの定量。5日目(d5)の創傷皮膚切片においてK14+表皮基底角化細胞(緑色)とDAPI(青色)を免疫蛍光染色で可視化し、Epi tongue lengthによって再上皮化を定量した。矢印は、再上皮化の徴候をまだ示していない時点(1日目)の傷端を示す。
【
図6R】IFNγ産生T細胞による炎症で創傷治癒が遅延する。12週齢S-M+マウスを用いた
図6Nと30週齢S-M+マウス(1型自己免疫の病態を示す)を用いた
図6Pの創傷治癒の程度を比較した。
【
図7A】30週齢マウスにおけるIgEの血清中濃度。データにはマン・ホイットニー検定を適用した。
【
図7B】S-M+マウスのパイエル板および腸間膜リンパ節において、濾胞性ヘルパーT細胞(Tfh:Bcl-6+CXCR5+Foxp3-CD44+CD4+B220-(
図7B)、もしくはPD-1+CXCR5+Foxp3-CD44+CD4+B220-)が増加していた(
図7C)。
【
図7C】S-M+マウスのパイエル板および腸間膜リンパ節において、濾胞性ヘルパーT細胞(Tfh:Bcl-6+CXCR5+Foxp3-CD44+CD4+B220-(
図7B)、もしくはPD-1+CXCR5+Foxp3-CD44+CD4+B220-)が増加していた(
図7C)。
【
図7D】sCTLA-4は、健康なマウスにおいてアレルギー病態の進行を抑制する。肺におけるOVA誘発性喘息実験は図に示したスキームで行った。まだ自己免疫病態を示していない健康な8週齢のS-M+においてアレルギー反応性GATA3+Th2の有意な増加が見られた。
【
図7E】自己免疫病態を示していない健康な8週齢のS-M+においてアレルギー反応性GATA3+Th2の有意な増加が見られた。
【
図7F】肺CD11c-I-A/I-E-CD24+Siglec-F+好酸球の割合。
【
図7G】肺胞マクロファージ(CD11c+Siglec-F+CD11b
intCD64+)におけるCD206とCD71の共染色。各々の発現を蛍光強度の中央値で定量した(
図7H、I)。
【
図7H】CD206の発現を蛍光強度の中央値で定量した。
【
図7I】CD71の発現を蛍光強度の中央値で定量した。
【
図7J】sCTLA-4はアレルギーによる組織へのリンパ球の浸潤を抑制する。肺組織のヘマトキシリン・エオジン染色を示した。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示を最良の形態を示しながら説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。従って、単数形の冠詞(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」など)は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本開示の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0012】
以下に本明細書において特に使用される用語の定義および/または基本的技術内容を適宜説明する。
【0013】
本明細書において、「約」とは、後に続く数値の±10%を意味する。例えば、「約20」は、「18~22」を含むものとする。数値の範囲は、両端点の間の全ての数値および両端点の数値を含む。範囲に関する「約」は、その範囲の両端点に適用される。したがって、例えば、「約20~30」は、「18~33」を含むものとする。
【0014】
本明細書において、アミノ酸残基は以下の略号で表される。
AlaまたはA:アラニン
ArgまたはR:アルギニン
AsnまたはN:アスパラギン
AspまたはD:アスパラギン酸
CysまたはC:システイン
GlnまたはQ:グルタミン
GluまたはE:グルタミン酸
GlyまたはG:グリシン
HisまたはH:ヒスチジン
IleまたはI:イソロイシン
LeuまたはL:ロイシン
LysまたはK:リジン
MetまたはM:メチオニン
PheまたはF:フェニルアラニン
ProまたはP:プロリン
SerまたはS:セリン
ThrまたはT:スレオニン
TrpまたはW:トリプトファン
TyrまたはY:チロシン
ValまたはV:バリン
【0015】
本明細書において、「CTLA-4」とは、細胞傷害性Tリンパ球関連タンパク質4を指す。CTLA-4ヌクレオチドおよびポリペプチド配列は、本分野において周知である。例示的なヒトCTLA-4アミノ酸配列は、NCBI参照番号CCDS42803やCCDS2362(ID:CCDS42803はヒト分泌型CTLA-4を、ID:CCDS2362はヒト膜型CTLA-4をそれぞれ表し、一般に単にCTLA-4と称する場合には膜型を指す)に記載され、例示的なマウスCTLA-4アミノ酸配列は、NCBI参照番号CCDS69893やCCDS14993(ID:CCDS69893はマウス分泌型CTLA-4を、ID:CCDS14993はマウス膜型CTLA-4をそれぞれ表す)に記載されている。
【0016】
本明細書において、「膜型CTLA-4」とは、CTLA-4のスプライシングバリアントの1つであり、エクソン1~4を有し、エクソン3によってコードされる膜貫通ドメインによって細胞膜中に係留されるCTLA-4をいう。
【0017】
本明細書において、「分泌型CTLA-4」とは、CTLA-4のスプライシングバリアントの1つであり、エクソン1、2、4が連結され、翻訳されたものをいう。分泌型CTLA-4は、エクソン3によってコードされる膜貫通ドメインを欠損しているため、細胞外に分泌される。
【0018】
本明細書において「創傷」とは、擦過傷、裂傷、切創、挫傷、潰瘍、褥瘡、糖尿病性潰瘍、熱傷、炎症、細胞壊死等、何らかの要因によって組織表面が欠損した状態を示す。前記組織には、例えば、皮膚や粘膜が含まれる。また、前記皮膚には、表皮、真皮、及び皮下組織が含まれる。前記粘膜には、上皮(若しくは、粘膜上皮)、粘膜固有層、及び粘膜下層が含まれる。
【0019】
本明細書において「創傷を伴う疾患、障害もしくは症状」とは、創傷そのものや、創傷に関連して生じる任意の疾患、障害もしくは症状を指す。したがって、「創傷を伴う疾患、障害もしくは症状」には、擦過傷、裂傷、切創、挫傷、潰瘍、褥瘡、糖尿病性潰瘍、熱傷、炎症、細胞壊死などの創傷や、限局性強皮症、乾癬、天疱瘡、類天疱瘡、妊娠性疱疹、線状IgA水疱性皮膚症、後天性表皮水疱症、アトピー性皮膚炎などの皮膚炎を含む。
【0020】
本明細書において「免疫系の異常に関連する疾患、障害または症状」とは、免疫系の異常に起因する任意の疾患、障害または症状を指す。したがって、免疫系の異常に関連する疾患、障害または症状は、自己免疫疾患および/もしくはアレルギー、あるいはそれらに関連する疾患、障害または症状を含むことができ、自己免疫疾患としては本明細書の他の箇所に記載される自己免疫疾患を含むことができる。
【0021】
本明細書において、「アレルギー」とは、ある抗原に感作されている生体に、再びその抗原が入った場合に起こる過敏反応、またはその過敏反応を示す状態をいう。抗原と接触した場合、あるいは当該抗原を摂取した場合に、アレルギー反応を生じ得る。したがって、本明細書において、「アレルギー、あるいはそれらに関連する疾患、障害または症状」には、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、花粉症、アレルギー性結膜炎、アレルギー性胃腸炎、気管支喘息、小児喘息、食物アレルギー、薬物アレルギー、蕁麻疹などが含まれる。
【0022】
本明細書において、「自己免疫疾患」とは、本来外部から侵入した病原微生物等の異物を認識し排除する役割を果たすべき自然免疫系もしくは獲得免疫系に異常が生じ、自己の細胞や組織を構成する成分を異物として認識することで自己抗体や自己反応性のリンパ球が恒常的に過剰に産生され、全身的あるいは臓器特異的にサイトカインの産生などを伴った炎症が生じ組織障害に至る疾患の総称をいう。したがって、本明細書において、「自己免疫疾患に関連する疾患、障害または症状」には、例えば、ベーチェット病、全身性エリテマトーデス、多発性硬化症(全身性強皮症、進行性全身性硬化症)、強皮症、多発性筋炎、皮膚筋炎、結節性動脈周囲炎(結節性多発動脈炎、顕微鏡的多発血管炎)、大動脈炎症候群(高安動脈炎)、悪性関節リウマチ、関節リウマチ、若年性特発性関節炎、ウェゲナー肉芽腫症、混合性結合組織病、シェーグレン症候群、成人スティル病、アレルギー性肉芽腫性血管炎、過敏性血管炎、コーガン症候群、RS3PE、側頭動脈炎、リウマチ性多発筋痛症、線維筋痛症、抗リン脂質抗体症候群、好酸球性筋膜炎、IgG4関連疾患(例えば、原発性硬化性胆管炎、自己免疫性膵炎など)、ギラン・バレー症候群、重症筋無力症、慢性萎縮性胃炎、自己免疫性肝炎、原発性胆汁性肝硬変、大動脈炎症候群、グッドパスチャー症候群、急速進行性糸球体腎炎、巨赤芽球性貧血、自己免疫性溶血性貧血、自己免疫性好中球減少症、特発性血小板減少性紫斑病、バセドウ病(甲状腺機能亢進症)、橋本病、自己免疫性副腎機能不全、原発性甲状腺機能低下症、特発性アジソン病(慢性副腎皮質機能低下症)、I型糖尿病、緩徐進行性I型糖尿病(成人潜在性自己免疫性糖尿病)、慢性円板状エリテマトーデス、限局性強皮症、乾癬、乾癬性関節炎、天疱瘡、類天疱瘡、妊娠性疱疹、線状IgA水疱性皮膚症、後天性表皮水疱症、円形脱毛症、白斑、尋常性白斑、アトピー性皮膚炎、視神経脊髄炎、慢性炎症性脱髄性多発神経炎、サルコイドーシス、水疱性類天疱瘡、巨細胞性動脈炎、筋委縮性側索硬化症、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症、原田病、自己免疫性視神経症、特発性無精子症、習慣性流産、自己免疫性腸炎、炎症性腸疾患(例えば、潰瘍性大腸炎、クローン病)、セリアック病、IBD、IBS、肥満細胞症、及びIFNγ産生型CD4陽性ヘルパーT細胞の増殖を伴う自己免疫疾患などが含まれる。
【0023】
本明細書において、「炎症」とは、免疫系細胞の反応の結果引き起こされる病理学上の変化を示す。「炎症」には、各種の刺激、損傷、感染等によって引き起こされる様々な反応機序が含まれる。炎症が惹起されているかは、公知の炎症マーカーを用いて特定できる。炎症マーカーとしては、例えば、IL-2、IL-6、TNF-α、IL-1β、iNOS、INF-γ、COX-2、NF-κB等が知られている。
【0024】
本明細書で使用されるとき、「処置する」、「治療する」、「処置」または「治療」は、疾患を有する対象において、疾患の原因を軽減または除去すること、その進行を遅延または停止させること、その症状を軽減、緩和、改善または除去すること、および/または、その症状の悪化を抑制することを意味する。
【0025】
本明細書において「機能的等価物」とは、対象となるもとの実体に対して、目的となる機能が同じであるが構造が異なる任意のものをいう。したがって、「CTLA-4もしくはそれをコードする核酸、またはその機能的等価物」という場合は、CTLA-4もしくはそれをコードする核酸自体のほか、CTLA-4もしくはそれをコードする核酸のフラグメント、変異体または改変体(例えば、アミノ酸配列改変体等)であって、創傷、または創傷を伴う疾患、障害もしくは症状の治療または予防作用を1つ以上有するもの、ならびに、作用する時点においてCTLA-4もしくはそれをコードする核酸自体またはこのCTLA-4もしくはそれをコードする核酸のフラグメント、変異体もしくは改変体に変化することができるもの(例えば、CTLA-4もしくはそれをコードする核酸自体またはCTLA-4もしくはそれをコードする核酸のフラグメント、変異体もしくは改変体をコードする核酸、およびその核酸を含むベクター、細胞等を含む)が包含されることが理解される。「CTLA-4もしくはそれをコードする核酸、またはその機能的等価物」としては、CTLA-4およびそのフラグメントからなる群より選択される少なくとも1つの因子が代表例として挙げられる。本開示において、CTLA-4もしくはそれをコードする核酸の機能的等価物は、格別に言及していなくても、CTLA-4もしくはそれをコードする核酸と同様に用いられうることが理解される。
【0026】
本明細書において「フラグメント」とは、全長のポリペプチドまたはポリヌクレオチド(長さがn)に対して、1~n-1までの配列長を有するポリペプチドまたはポリヌクレオチドをいう。フラグメントの長さは、その目的に応じて、適宜変更することができ、例えば、その長さの下限としては、ポリペプチドの場合、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、40、50およびそれ以上のアミノ酸が挙げられ、ここの具体的に列挙していない整数で表される長さ(例えば、11など)もまた、下限として適切であり得る。また、ポリヌクレオチドの場合、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、40、50、75、100およびそれ以上のヌクレオチドが挙げられ、ここの具体的に列挙していない整数で表される長さ(例えば、11など)もまた、下限として適切であり得る。本明細書において、このようなCTLA-4は、その活性、例えば、増殖抑制または維持の因子として機能する場合、そのフラグメント自体も本発明の範囲内に入ることが理解される。本発明に従って、用語「活性」は、本明細書において、最も広い意味での分子の機能を指す。活性は、限定を意図するものではないが、概して、分子の生物学的機能、生化学的機能、物理的機能または化学的機能を含む。活性は、例えば、酵素活性、他の分子と相互作用する能力、および他の分子の機能を活性化するか、促進するか、安定化するか、阻害するか、抑制するか、または不安定化する能力、安定性、特定の細胞内位置に局在する能力を含む。適用可能な場合、この用語はまた、最も広い意味でのタンパク質複合体の機能にも関する。本明細書において「生物学的機能」とは、ある遺伝子またはそれに関する核酸分子もしくはポリペプチドについて言及するとき、その遺伝子、核酸分子またはポリペプチドが生体内において有し得る特定の機能をいい、これには、例えば、特異的な抗体の生成、酵素活性、抵抗性の付与等を挙げることができるがそれらに限定されない。本明細書において、生物学的機能は、「生物学的活性」によって発揮され得る。本明細書において「生物学的活性」とは、ある因子(例えば、ポリヌクレオチド、タンパク質など)が、生体内において有し得る活性のことをいい、種々の機能(例えば、転写促進活性)を発揮する活性が包含され、例えば、ある分子との相互作用によって別の分子が活性化または不活化される活性も包含される。2つの因子が相互作用する場合、その生物学的活性は、その二分子との間の結合およびそれによって生じる生物学的変化、例えば、一つの分子を抗体を用いて沈降させたときに他の分子も共沈するとき、2分子は結合していると考えられる。従って、そのような共沈を見ることが一つの判断手法として挙げられる。例えば、ある因子が酵素である場合、その生物学的活性は、その酵素活性を包含する。別の例では、ある因子がリガンドである場合、そのリガンドが対応するレセプターへの結合を包含する。そのような生物学的活性は、当該分野において周知の技術によって測定することができる。従って、「活性」は、結合(直接的または間接的のいずれか)を示すかまたは明らかにするか;応答に影響する(すなわち、いくらかの曝露または刺激に応答する測定可能な影響を有する)、種々の測定可能な指標をいい、例えば、本発明のポリペプチドまたはポリヌクレオチドに直接結合する化合物の親和性、または例えば、いくつかの刺激後または事象後の上流または下流のタンパク質の量あるいは他の類似の機能の尺度が挙げられる。
【0027】
本明細書で使用される「機能的に活性な」は、本発明のポリペプチド、フラグメントまたは誘導体が関連する態様に従って、生物学的活性などの、タンパク質の構造的機能、制御機能、または生化学的機能を有する、ポリペプチド、フラグメントまたは誘導体を指す。
【0028】
本明細書において、CTLA-4の「フラグメント」とは、CTLA-4の任意のフラグメントを指し、本発明において使用される因子としては、CTLA-4全長のみならず、CTLA-4のフラグメントも、その機能、特に創傷、または創傷を伴う疾患、障害もしくは症状を治療または予防する限り使用されうることが理解される。したがって本発明において使用されるCTLA-4のフラグメントは、通常、CTLA-4の機能を少なくとも1つ有する。そのような機能としては、特に創傷、または創傷を伴う疾患、障害もしくは症状を治療または予防する機能が含まれうる。
【0029】
本明細書において「薬剤」、「剤」または「因子」(いずれも英語ではagentに相当する)は、広義には、交換可能に使用され、意図する目的を達成することができる限りどのような物質または他の要素(例えば、光、放射能、熱、電気などのエネルギー)でもあってもよい。そのような物質としては、例えば、タンパク質、ポリペプチド、オリゴペプチド、ペプチド、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、ヌクレオチド、核酸(例えば、cDNA、ゲノムDNAのようなDNA、mRNAのようなRNAを含む)、ポリサッカリド、オリゴサッカリド、脂質、有機低分子(例えば、ホルモン、リガンド、情報伝達物質、有機低分子、コンビナトリアルケミストリで合成された分子、医薬品として利用され得る低分子(例えば、低分子リガンドなど)など)、これらの複合分子が挙げられるがそれらに限定されない。ポリヌクレオチドに対して特異的な因子としては、代表的には、そのポリヌクレオチドの配列に対して一定の配列相同性を(例えば、70%以上の配列同一性)もって相補性を有するポリヌクレオチド、プロモーター領域に結合する転写因子のようなポリペプチドなどが挙げられるがそれらに限定されない。ポリペプチドに対して特異的な因子としては、代表的には、そのポリペプチドに対して特異的に指向された抗体またはその誘導体あるいはその類似物(例えば、単鎖抗体)、そのポリペプチドがレセプターまたはリガンドである場合の特異的なリガンドまたはレセプター、そのポリペプチドが酵素である場合、その基質などが挙げられるがそれらに限定されない。
【0030】
本明細書において「誘導する因子」とは、CTLA-4もしくはそれをコードする核酸、またはその機能的等価物を発現し、転写し、翻訳し、または分化誘導などすることにより、CTLA-4もしくはそれをコードする核酸、またはその機能的等価物の産生を促進する因子をいう。
【0031】
本明細書において遺伝子、ポリヌクレオチド、ポリペプチドなどの「発現」とは、その遺伝子などがインビボで一定の作用を受けて、別の形態になることをいう。好ましくは、遺伝子、ポリヌクレオチドなどが、転写および翻訳されて、ポリペプチドの形態になることをいうが、転写されてmRNAが作製されることもまた発現の一態様である。本明細書において「発現量」は、このような「発現」の任意の量を指す。したがって、本明細書において「発現産物」とは、このようなポリペプチドもしくはタンパク質、またはmRNAを含む。より好ましくは、そのようなポリペプチドの形態は、翻訳後プロセシングを受けたものであり得る。例えば、CTLA-4の発現レベルまたは発現量は、任意の方法によって決定することができる。具体的には、CTLA-4のmRNAの量、CTLA-4タンパク質の量、そして、CTLA-4タンパク質の生物学的な活性を評価することによって、CTLA-4の発現レベルを知ることができる。このような測定値はコンパニオン診断において使用し得る。、CTLA-4のmRNAやタンパク質の量は、本明細書の他の箇所に詳述したような方法あるいは他の当該分野において公知の方法によって決定することができる。
【0032】
(好ましい実施形態)
以下に本開示の好ましい実施形態を説明する。以下に提供される実施形態は、本開示のよりよい理解のために提供されるものであり、本開示の範囲は以下の記載に限定されるべきでない。したがって、当業者は、本明細書中の記載を参酌して、本開示の範囲内で適宜改変を行うことができることは明らかである。また、本開示の以下の実施形態は単独でも使用されあるいはそれらを組み合わせて使用することができる。
【0033】
[組成物]
本開示の一局面において、創傷、または創傷を伴う疾患、障害もしくは症状を治療または予防するための、CTLA-4もしくはそれをコードする核酸、またはその機能的等価物、またはそれらの少なくとも1つを誘導する因子を含む医薬組成物が提供される。
【0034】
本開示の他の局面において、疾患、障害または症状を治療または予防するための、分泌型CTLA-4もしくはそれをコードする核酸、またはその機能的等価物、またはそれらの少なくとも1つを誘導する因子を含む医薬組成物が提供される。
【0035】
さらに本開示の他の局面において、免疫系の異常に関連する疾患、障害または症状を治療または予防するための、分泌型CTLA-4もしくはそれをコードする核酸、またはその機能的等価物、またはそれらの少なくとも1つを誘導する因子を含む医薬組成物が提供される。
【0036】
CTLA-4は制御性T細胞において恒常的に発現しており、免疫を負に制御する分子である。そのため、制御性T細胞の機能不全、もしくはCTLA-4分子が欠損することにより、致死の自己免疫疾患を引き起こすことから、CTLA-4は免疫恒常性の維持に必須の分子として知られる。TregにおいてCTLA-4エクソン2とエクソン3の両方を発生工学的に破壊すると、Treg欠損scurfyマウスに類似した全身性リンパ球増殖およびIgE・IgGの過剰産生を伴う致死的な自己免疫疾患が生じる。また、ヒトにおけるCTLA-4ハプロ不全は自己免疫疾患の特徴を示す。分泌型CTLA-4(sCTLA-4、S)と膜型CTLA-4(mCTLA-4、M)の機能または発現にネガティブな影響を与える一塩基多型は関節リウマチ、グレーブス病および1型糖尿病などの自己免疫疾患のリスクに関連している。そして、多くのヒトの慢性自己免疫疾患ではsCTLA-4の血清中濃度が上昇し、T細胞上のmCTLA-4発現も増加する。これらの知見は、sCTLA-4とmCTLA-4がともにTreg介在性の自己寛容および免疫抑制に重要な分子であることを示唆している。
【0037】
CTLA-4はそのリガンドであるCD80/CD86と相互作用し、直接および間接的にCD80/86分子の発現を減少させ、過剰な免疫応答を妨げる。例えば、CTLA-4を高発現しているTregは、抗原提示細胞(APC)上のCD80/86分子を引き抜き、物理的にAPC上のCD80/86を減少させる。APC上のCD80の減少は、APC上のフリーのPD-L1(普段はCD80とシス結合しPD-L1の働きは抑制されている)を増加させ、PD-1を発現したT細胞の活性を妨げる。また、CTLA-4はCD28と比較しCD80/86分子に優位に競合結合でき、T細胞活性化のための共刺激(CD28とCD80/86分子の相互作用)を阻害する。CTLA-4のエクソン2は進化的に保存されたMYPPPYモチーフを含み、MYPPPYモチーフはCD80/86との結合および相互作用の安定化に重要である。エクソン2を有するCTLA-4スプライシングバリアントは2つ存在する。1つは、エクソン3によってコードされる膜貫通ドメインを有し、細胞膜中に係留されるmCTLA-4である。もう1つは、分泌のためにエクソン3を持たないsCTLA-4である。
【0038】
上記のとおり、CTLA-4分子が欠損することにより、致死の自己免疫疾患を引き起こすことから、CTLA-4は免疫恒常性の維持に必須の分子として知られており、分泌型CTLA-4についても、その機能や発現を減少させるような一塩基多型は、グレーブス病や1型糖尿病などの自己免疫疾患のリスクに関連することが知られている。本実施例においても、マウスにおける分泌型CTLA-4の欠損が加齢に伴って1型免疫の制御異常を引き起こし、前臨床的な自己免疫がもたらされることが示されており、また創傷の治癒の遅延など、炎症の修復において重要な働きを果たしていることが示されている(
図6A~R)。
【0039】
現在までのCTLA-4に関するほとんどの研究では免疫恒常性における各CTLA-4バリアントの役割を区別していない。抗sCTLA-4特異的抗体またはsCTLA-4に対するsiRNAによってsCTLA-4の機能や発現を低下させると、T細胞のリコール応答が促進されたり、がん転移が減少すること、NODマウスにおいて1型糖尿病に対する感受性が増加することなどが示されている。しかしながら、sCTLA-4のブロッキングおよびノックダウン解析のみではインビボでのsCTLA-4とmCTLA-4の役割を理解するのに十分ではなく、例えばmCTLA-4非存在下でのsCTLA-4の具体的な機能に関しては全く示せていない。
【0040】
上記のとおり、細胞傷害性Tリンパ球抗原4(CTLA-4)は免疫を負に制御する分子であり、特に制御性T細胞(Treg)において恒常的に高発現している。CTLA-4のエクソン2は進化的に保存されたMYPPPYモチーフを含んでおり、MYPPPYモチーフはCD80/86との結合および相互作用の安定化に重要である。
【0041】
CTLA-4には2つのスプライシングバリアント(膜型CTLA-4(mCTLA-4)および分泌型CTLA-4(sCTLA-4))が存在する。mCTLA-4はエクソン1~4を有し、エクソン3によってコードされる膜貫通ドメインによって細胞膜中に係留されている。sCTLA-4はエクソン3を欠損しており、細胞外に分泌される。
【0042】
したがって、本開示の一実施形態において、本開示の医薬組成物に含まれるCTLA-4は、分泌型CTLA-4、及び膜型CTLA-4からなる群より選択される少なくとも1つを含むことができる。好ましくは、本開示の医薬組成物に含まれるCTLA-4は、分泌型CTLA-4を含むものである。
【0043】
また、本開示の一実施形態において、CTLA-4の機能的等価物には、CTLA-4遺伝子のExon2にコードされるMYPPPYモチーフ領域を含むタンパク質またはペプチド、そのようなタンパク質またはペプチドの二量体または多量体、またはCTLA-4遺伝子のExon1にコードされるシグナル配列が、同種または異種由来の他のシグナル配列に置換されて発現されたタンパク質が含まれる。
【0044】
代表的なヒトsCTLA-4のアミノ酸配列は、NCBI参照番号CCDS42803に開示されている。また、代表的なマウスsCTLA-4のアミノ酸配列は、NCBI参照番号CCDS69893に開示されている。本願のsCTLA-4はヒトまたはマウス由来のタンパク質であってもよく、他の哺乳動物(例えば、ラット、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、サル、イヌ、ネコ、トリなど)由来のタンパク質であってもよい。
【0045】
ある実施形態において、sCTLA-4は、NCBI参照番号CCDS42803で特定されるアミノ酸配列、またはNCBI参照番号CCDS42803で特定されるアミノ酸配列において1個または複数個のアミノ酸残基が欠失、置換、付加および/または挿入されたアミノ酸配列を含むか、前記アミノ酸配列からなる。この実施形態における「1個または複数個」とは、好ましくは1~20個、より好ましくは1~15個、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9または10個を意味する。他の実施形態において、sCTLA-4は、NCBI参照番号CCDS42803で特定されるアミノ酸配列と約70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むか、前記アミノ酸配列からなる。さらなる実施形態において、sCTLA-4は、MYPPPYモチーフを含む。
【0046】
上述したアミノ酸の置換は、保存的アミノ酸置換であってもよく、非保存的アミノ酸置換であってもよい。本明細書において、保存的アミノ酸置換とは、生じる分子の生理学的活性を変化させることなく一般的になされ得る範囲、すなわち保存的置換の範囲で認められるもの(Watson et al., Molecular Biology of the Geneなど)である。例えば、アスパラギン酸およびグルタミン酸(酸性アミノ酸);リジン、アルギニンおよびヒスチジン(塩基性アミノ酸);アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニンおよびトリプトファン(非極性アミノ酸);グリシン、アスパラギン、グルタミン、システイン、セリン、トレオニンおよびチロシン(非荷電極性アミノ酸);フェニルアラニン、トリプトファンおよびチロシン(芳香族アミノ酸)といった、側鎖に類似性のあるアミノ酸同士で起こる置換を挙げることができる。同様に、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリンおよびトレオニン(脂肪族アミノ酸);セリンおよびトレオニン(脂肪族-ヒドロキシアミノ酸);アスパラギンおよびグルタミン(アミド型アミノ酸);システインおよびメチオニン(含硫アミノ酸)といった分類をすることができる。sCTLA-4は、上記配列に基づき一般に周知の方法で製造すれば良い。
【0047】
本明細書で用いる場合、「配列同一性」とは、二以上の配列(塩基配列又はアミノ酸配列)が、配列の一致度が最大となるように、ギャップおよび挿入を考慮してアラインメントされる場合の、二以上の配列における対応する位置での同一の塩基又はアミノ酸のパーセンテージを意味する。同一性を決定する方法は、アラインメントされる配列間に最大の一致度を与えるように設計される。二つの配列間の同一性を決定する方法は、限定するものではないが、BLASTP、BLASTN、FASTA等が挙げられる。また、DNASIS(日立ソフトウェアエンジニアリング(株)製)、GENETYX((株)ジェネティクス製)を用いて決定することもできる。あるいは、短鎖ペプチドであれば、単純に配列を比較して決定することもできる。当業者であれば、上述のような方法で、配列間の同一性を決定することができる。
【0048】
本開示の組成物は、医薬上許容される担体および/または添加剤をさらに含んでも良い。本開示において、「医薬上許容される担体」は、sCTLA-4と組み合わせた場合にその成分の生物学的活性を保持し得る任意の物質が含まれる。例えば、安定剤、溶解補助剤、懸濁化剤、乳化剤、無痛化剤、緩衝剤、保存剤、pH調整剤および抗酸化剤などが挙げられる。
【0049】
一実施形態において、本開示の組成物は、抗生物質、抗真菌薬、または抗ウイルス薬と組み合わせて投与されることができる。抗生物質、抗真菌薬、または抗ウイルス薬としては、本分野に公知の種々のものを用いることができる。また本開示の一局面において、創傷、または創傷を伴う疾患、障害もしくは症状を治療または予防するための、CTLA-4と抗生物質とを含む組み合わせ物が開示される。
【0050】
本開示の組成物の投与経路は、経口投与または非経口投与を含み、特に限定されない。適用部位や対象とする疾患に応じて公知の各種投与形態を採用できる。例えば、非経口投与は、全身投与でも局所投与でもよく、より具体的には、例えば、気管内投与、髄腔内投与、くも膜下腔投与、頭蓋内投与、静脈内投与、動脈内投与、門脈内投与、皮内投与、皮下投与、筋肉内投与、腹腔内投与、鼻腔内投与、口腔内投与等が挙げられる。
【0051】
剤形としては、顆粒剤、細粒剤、粉剤、被覆錠剤、錠剤、坐剤、散剤、カプセル剤、マイクロカプセル剤、チュアブル剤、液剤、懸濁剤、乳濁液などが挙げられる。活性物質の放出を延長する剤形を採用してもよい。注射または点滴用の剤形としては、水性および非水性の注射溶液(抗酸化剤、緩衝液、静菌剤、等張化剤等を含んでもよい);ならびに水性および非水性の注射懸濁液(懸濁剤、増粘剤等を含んでもよい)が挙げられる。これらの剤形は、密閉したアンプルやバイアル中に液体として提供されてもよく、凍結乾燥物として提供され、使用直前に滅菌液体(例えば、注射用水)を加えて調製してもよい。注射溶液または懸濁液を、粉末、顆粒または錠剤から調製してもよい。
【0052】
これらの剤形は、常法により製剤化することによって製造される。さらに製剤上の必要に応じて、医薬的に許容し得る各種の製剤用物質を配合することができる。製剤用物質は製剤の剤形により適宜選択することができるが、例えば、緩衝化剤、界面活性剤、安定化剤、防腐剤、賦形剤、希釈剤、添加剤、崩壊剤、結合剤、被覆剤、潤滑剤、滑沢剤、風味剤、甘味剤、可溶化剤等が挙げられる。
【0053】
本開示の組成物の投与量および投与回数は、有効量の有効成分が対象に投与されるように、投与対象の動物種、投与対象の健康状態、年齢、体重、投与経路、投与形態等に応じて当業者が適宜設定できる。ある状況での有効量は、日常的な実験によって容易に決定することができ、通常の臨床医の技術および判断の範囲内である。例えば、成人1日あたりの投与量は約0.01~約1,000mg/kg体重、約0.01~約100mg/kg体重、約0.1~約10mg/kg体重、または約1~約10mg/kg体重であり得るが、これに限定はされない。
【0054】
本開示の組成物は、1種以上のさらなる有効成分、特に自己免疫疾患、創傷またはアレルギーの処置のための有効成分と併用できる。成分を「併用する」ことは、全成分を含有する投与剤形の使用および各成分を別個に含有する投与剤形の組合せの使用のみならず、それらが自己免疫疾患、創傷またはアレルギーの処置のために使用される限り、各成分を同時に、連続的に、または、いずれかの成分を遅延して投与することも意味する。
【0055】
一実施形態において、自己免疫疾患に関連する疾患、障害または症状には、例えば、ベーチェット病、全身性エリテマトーデス、多発性硬化症(全身性強皮症、進行性全身性硬化症)、強皮症、多発性筋炎、皮膚筋炎、結節性動脈周囲炎(結節性多発動脈炎、顕微鏡的多発血管炎)、大動脈炎症候群(高安動脈炎)、悪性関節リウマチ、関節リウマチ、若年性特発性関節炎、ウェゲナー肉芽腫症、混合性結合組織病、シェーグレン症候群、成人スティル病、アレルギー性肉芽腫性血管炎、過敏性血管炎、コーガン症候群、RS3PE、側頭動脈炎、リウマチ性多発筋痛症、線維筋痛症、抗リン脂質抗体症候群、好酸球性筋膜炎、IgG4関連疾患(例えば、原発性硬化性胆管炎、自己免疫性膵炎など)、ギラン・バレー症候群、重症筋無力症、慢性萎縮性胃炎、自己免疫性肝炎、原発性胆汁性肝硬変、大動脈炎症候群、グッドパスチャー症候群、急速進行性糸球体腎炎、巨赤芽球性貧血、自己免疫性溶血性貧血、自己免疫性好中球減少症、特発性血小板減少性紫斑病、バセドウ病(甲状腺機能亢進症)、橋本病、自己免疫性副腎機能不全、原発性甲状腺機能低下症、特発性アジソン病(慢性副腎皮質機能低下症)、I型糖尿病、緩徐進行性I型糖尿病(成人潜在性自己免疫性糖尿病)、慢性円板状エリテマトーデス、限局性強皮症、乾癬、乾癬性関節炎、天疱瘡、類天疱瘡、妊娠性疱疹、線状IgA水疱性皮膚症、後天性表皮水疱症、円形脱毛症、白斑、尋常性白斑、アトピー性皮膚炎、視神経脊髄炎、慢性炎症性脱髄性多発神経炎、サルコイドーシス、水疱性類天疱瘡、巨細胞性動脈炎、筋委縮性側索硬化症、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症、原田病、自己免疫性視神経症、特発性無精子症、習慣性流産、自己免疫性腸炎、炎症性腸疾患(例えば、潰瘍性大腸炎、クローン病)、セリアック病、IBD、IBS、肥満細胞症、及び包括的な病態としてIFNγ産生型CD4陽性ヘルパーT細胞の増殖を伴う自己免疫疾患などが含まれる。ある実施態様では、自己免疫疾患は、自己免疫性腸炎である。
【0056】
一実施形態において、創傷には、表皮、真皮、皮下組織、上皮(若しくは、粘膜上皮)、粘膜固有層、及び粘膜下層などの皮膚や粘膜組織において、擦過傷、裂傷、切創、挫傷、潰瘍、褥瘡、糖尿病性潰瘍、熱傷、炎症、細胞壊死等、何らかの要因によって組織表面が欠損した状態を含む。
【0057】
一実施形態において、アレルギーに関連する疾患、障害または症状には、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、花粉症、アレルギー性結膜炎、アレルギー性胃腸炎、気管支喘息、小児喘息、食物アレルギー、薬物アレルギー、蕁麻疹などが含まれる。
【0058】
上記のとおり、CTLA-4は免疫恒常性の維持に必須の分子として知られていることから、本開示の一実施形態において、創傷、または創傷を伴う疾患、障害もしくは症状、免疫系の異常に関連する疾患、障害または症状、自己免疫疾患に関連する疾患、障害または症状、アレルギーに関連する疾患、障害または症状はいずれも、膜型および/または分泌型CTLA-4の異常に関連する疾患、障害または症状ということができる。CD4陽性T細胞がの分化・活性化のために受け取るシグナルには、必須のシグナル1(TCR)とシグナル2(CD28)があり、CTLA-4はシグナル2を妨げる分子となるため、本開示の一実施形態において、本開示の医薬組成物の治療または予防対象となり得る疾患、障害または症状は、CD4陽性T細胞のエフェクター分化・活性化が抑制されない状態、つまりCD4陽性T細胞のエフェクター分化・活性化が恒常的に起こる疾患、障害または症状とすることができる。またIFNγ産生型CD4陽性ヘルパーT細胞の分化・活性化には、他のタイプのエフェクターT細胞よりもシグナル2の要求性が高いため、CD4陽性T細胞のエフェクター分化・活性化が抑制されない疾患、障害または症状は、IFNγ産生型CD4陽性ヘルパーT細胞の分化・活性化が抑制されない(つまり、恒常的に起こる)疾患、障害または症状ということもできる。IFNγ産生型CD4陽性ヘルパーT細胞の分化・活性化が抑制されない場合には、自己免疫性腸炎などが生じ、また創傷治癒の遅延も生じる。
【0059】
本願の組成物の投与対象としては、動物、典型的には哺乳動物(例えば、ヒト、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ネコ、イヌ、ウシ、ヒツジ、サルなど)が挙げられるが、ヒトが特に好ましい。
【0060】
[スクリーニング方法]
本開示の一局面において、創傷、または創傷を伴う疾患、障害もしくは症状を治療または予防するための物質をスクリーニングする方法であって、細胞を候補物質と接触させる工程と、該細胞中、または該細胞表面におけるCTLA-4の発現量を測定する工程と、該候補物質との接触前と比較して、該細胞中、または該細胞表面におけるCTLA-4の量またはレベルを増加させる該候補物質を選択する工程とを含む、方法が提供される。
【0061】
また本開示の他の局面において、免疫系の異常に関連する疾患、障害または症状を治療または予防するための物質をスクリーニングする方法であって、細胞を候補物質と接触させる工程と、該細胞中、または該細胞外における分泌型CTLA-4の発現量を測定する工程と、該候補物質との接触前と比較して、該細胞中、または該細胞外における分泌型CTLA-4の量またはレベルを増加させる該候補物質を選択する工程とを含む、方法が提供される。
【0062】
一実施形態において、「候補物質」には、タンパク質、アミノ酸、核酸、脂質、糖質、低分子化合物、無機化合物などのあらゆる物質が包含される。候補物質は、典型的には、精製または単離されているものを使用できるが、未精製または未単離の粗精製品であっても混合物であってもよい。候補物質は、化合物ライブラリー、核酸ライブラリー、ランダムペプチドライブラリーなどの形態で提供されてもよく、また、天然物として提供されてもよい。
【0063】
本開示の一実施形態の方法において、細胞を候補物質と接触させる場合には、細胞は膜型、または分泌型CTLA-4を発現できる限り特に限定されないが、例えば制御性T細胞である。候補物質は、例えば細胞を含む培養培地に添加され得る。
【0064】
候補物質の標的との接触は、例えば、上記の培地や各種緩衝液(例えば、HEPES緩衝液、リン酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水、トリス塩酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、酢酸緩衝液など)の中に被検物質を添加して、細胞を一定時間インキュベートすることにより実施することができる。添加される被検物質の濃度は化合物の種類(溶解度、毒性等)により異なるが、例えば、約0.1nM~約100μMの範囲で適宜選択される。インキュベート時間としては、例えば、約10分~約24時間が挙げられる。
【0065】
本開示の一実施形態の方法において、細胞中、または細胞表面におけるCTLA-4の発現量を測定する。この場合、測定されるCTLA-4は膜型CTLA-4である。他の実施形態において、細胞中、または細胞外における分泌型CTLA-4の発現量を測定することもできる。細胞中、細胞外、または細胞表面のCTLA-4の発現量は、細胞中、細胞外、または細胞表面のCTLA-4の遺伝子量および/またはタンパク質量であってもよい。CTLA-4の遺伝子量および/またはタンパク質量は周知の方法によって測定することができる。CTLA-4の遺伝子量は、例えばRT-PCR法、ノーザンプロット法、in situハイブリダイゼーション法などによって測定できる。また、CTLA-4のタンパク質量は、ELISA法、ウエスタンブロット法などにより測定できる。
【0066】
本開示の一実施形態の方法において、候補物質との接触前と比較して、該細胞中、または該細胞表面におけるCTLA-4の量またはレベルを増加させる該候補物質を選択することができる。他の実施形態において、候補物質との接触前と比較して、該細胞中、または該細胞外における分泌型CTLA-4の量またはレベルを増加させる該候補物質を選択することができる。ある態様において、CTLA-4の発現量を測定する工程において測定した細胞中の膜型、または分泌型CTLA-4の発現量を対照の膜型、または分泌型CTLA-4の発現量と比較することもできる。対照は、例えば候補物質を接触させていない細胞または候補物質を接触させる前の細胞であってもよい。細胞中、細胞外、または細胞表面の膜型、または分泌型CTLA-4の発現量が対照の膜型、または分泌型CTLA-4の発現量と比較して増加していた場合、その候補物質を、膜型、または分泌型CTLA-4の発現を誘導または促進する物質として選択することができる。選択された候補物質は、創傷、または創傷を伴う疾患、障害もしくは症状、または免疫系の異常に関連する疾患、障害または症状を予防または治療するための物質として使用できる。
【0067】
(一般技術)
本明細書において用いられる分子生物学的手法、生化学的手法、微生物学的手法は、当該分野において周知であり慣用されるものであり、例えば、Sambrook J. et al.(1989). Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harborおよびその3rd Ed.(2001); Ausubel, F.M.(1987).Current Protocols in Molecular Biology, Greene Pub. Associates and Wiley-Interscience; Ausubel, F.M.(1989). Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology, Greene Pub. Associates and Wiley-Interscience; Innis, M.A.(1990).PCR Protocols: A Guide to Methods and Applications, Academic Press; Ausubel, F.M.(1992).Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology, Greene Pub. Associates; Ausubel, F.M. (1995).Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology, Greene Pub. Associates; Innis, M.A. et al.(1995).PCR Strategies, Academic Press; Ausubel, F.M.(1999).Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology, Wiley, and annual updates; Sninsky, J.J. et al.(1999). PCR Applications: Protocols for Functional Genomics, Academic Press、別冊実験医学「遺伝子導入&発現解析実験法」羊土社、1997などに記載されており、これらは本明細書において関連する部分(全部であり得る)が参考として援用される。
【0068】
人工的に合成した遺伝子を作製するためのDNA合成技術および核酸化学については、例えばGeneArt、GenScript、Integrated DNA Technologies(IDT)などの遺伝子合成やフラグメント合成サービスを用いることもでき、その他、例えば、Gait, M.J.(1985). Oligonucleotide Synthesis: A Practical Approach, IRL Press; Gait, M.J.(1990). Oligonucleotide Synthesis: A Practical Approach, IRL Press; Eckstein, F.(1991). Oligonucleotides and Analogues: A Practical Approach, IRL Press; Adams, R.L. et al.(1992). The Biochemistry of the Nucleic Acids, Chapman & Hall; Shabarova, Z. et al.(1994).Advanced Organic Chemistry of Nucleic Acids, Weinheim; Blackburn, G.M. et al.(1996). Nucleic Acids in Chemistry and Biology, Oxford University Press; Hermanson, G.T.(I996). Bioconjugate Techniques, Academic Pressなどに記載されており、これらは本明細書において関連する部分が参考として援用される。
【0069】
本明細書において「または」は、文章中に列挙されている事項の「少なくとも1つ以上」を採用できるときに使用される。「もしくは」も同様である。本明細書において「2つの値」の「範囲内」と明記した場合、その範囲には2つの値自体も含む。
本明細書において引用された、科学文献、特許、特許出願などの参考文献は、その全体が、各々具体的に記載されたのと同じ程度に本明細書において参考として援用される。
【0070】
以上、本開示を、理解の容易のために好ましい実施形態を示して説明してきた。以下に、実施例に基づいて本開示を説明するが、上述の説明および以下の実施例は、例示の目的のみに提供され、本開示を限定する目的で提供したのではない。従って、本開示の範囲は、本明細書に具体的に記載された実施形態にも実施例にも限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例0071】
[試料および方法]
マウス
雌性5~6週齢のC.B17/Icr-scidマウス、6~8週齢のBALB/cAJclマウス、BALB/cAJcl-nu/nuマウス、およびC57BL/6JJclマウスをCLEA Japanから購入した。CTLA-4 full KO(exon2とexon3の欠損)、CD45.1、RAG2 KO、FLPeR、およびDEREGマウスは以前に報告されている(Waterhouse, P. et al. Lymphoproliferative Disorders with Early Lethality in Mice Deficient in Ctla-4. Science 270, 985-988 (1995).;Farley, F., Soriano, P., Steffen, L. & Dymecki, S. Widespread recombinase expression using FLPeR (Flipper) mice. genesis 28, 106-110 (2000).;Lahl, K. et al. Selective depletion of Foxp3+ regulatory T cells induces a scurfy-like disease. The Journal of Experimental Medicine 204, 57-63 (2007).)。sCTLA-4ノックインマウスを標準的な分子的手法で作製した。簡潔に述べると、Balb/c-I ES細胞(B. Ledermannから受領した;Noben-Trauth, Kohler, Burki & Ledermann. Efficient targeting of the IL-4 gene in a BALB/c embryonic stem cell line. Transgenic research 5, 487-91 (1996).)に、CTLA-4遺伝子座のエクソン3の前側のスプライシングアクセプター部位(86bp)を除去した改変CTLA-4標的化ベクター(RP23-146J17)を遺伝子導入した。標的化ベクターを、ファージに基づく大腸菌相同組換えシステムを用いて作製した。BAC(sCTLA-4-mCTLA-4+)トランスジェニック(Tg)マウスを、エクソン3とエクソン4を結合させたCTLA-4 BAC導入遺伝子によって作製し、S-M-マウスと交配させた。特に記載がない限り、すべてのマウスをBALB/cバックグラウンドに10回以上戻し交配した。すべてのマウスを特定の病原体が存在しない条件下で維持し、大阪大学免疫学フロンティア研究センターまたは京都大学ウイルス・再生医科学研究所によって承認された動物福祉のガイドラインに従って処置した。sCTLA-4ノックインマウス(S+M-マウス)およびCTLA-4 full KOマウス(S-M-マウス)を3週齢で使用し、BAC Tg CTLA-4 full KOマウス(S-M+マウス)を30~32週齢で使用した。
【0072】
抗体
以下の抗体をフローサイトメトリー分析およびインビトロでの実験に使用し、BD Biosciences、BioLegend、eBioscienceから入手した:抗mCD3(145-2C11)、抗mCD28(37.51)、抗mCD4(RM4-5)、抗mCD8(53-6.7)、抗mCD25(PC61)、抗mGITR(DTA-1)、抗mFR4(TH6)、抗mTCRβ(H57-597)、抗mCTLA-4(UC10-4F10-11)、抗mPD1(RPM1-30)、抗mCD44(IM7)、抗mCD69(H1.2F3)、抗mCD103(2E7)、抗mCD62L(MEL-14)、抗mCD45RB(C363.16A)、抗mCD223(C9B7W)、抗mCD90.2(53-2.1)、抗mCD80(16-10A1)、抗mCD86(PO3.1)、抗mLy6C(HK1.4)、抗mLy6G(1A8)、抗mGr-1(RB6-8C5)、抗TER119(TER119)、抗Siglec-F(E50-2440)、抗mCD41(MWReg30)、抗mCD117(2B8)、抗CD200R3(Ba13)、抗mCD24(M1/69)、抗mFcεRIα(MAR-1)、抗mCD49b(DX5)、抗h/mCD11b(M1/70)、抗mCD11c(N418またはHL3)、抗mCX3CR1(2A9-1)、抗mF4/80(BM8)、抗mCD206(C068C2)、抗mCD68(FA-11)、抗mCD64(X54-5/7.1)、抗mCD71(RI7217)、抗I-A/I-E(M5/114.15.2)、抗mCD45(30-F11)、抗mCD45.1(A20)、抗mCD45.2(104)、抗mCD45R/B220(RA3-6B2)、抗mCD19(1D3)、抗mCXCR5(L138D7)、抗mBcl-6(K112-91)、抗CD38(90)、抗h/mGL-7(GL-7)、抗mIgD(11-26c.2a)、抗mIgM(ll/41)、抗mCD138(281-2)、抗mCD16/32(2.4G2)、抗mIL-2(JES6-5H4)、抗mIFNγ(XMG1.2)、抗mIL-4(BVD4-1D11)、抗mIL-5(TRFK5)、抗mIL-17A(TC11-18H10.1)、抗mIL-10(JES5-16E3)、抗mFoxp3(FJK-16s)、抗mGata-3(TWAJ)、抗mT-bet(O4-46)、抗mHelios(22F6)、抗mEomes(Dan11mag)、抗hCD25(M-A251)、抗hCD4 (RPA-T4)、抗hCD45RA(HI100)、抗h/mKi-67(B56)、および抗バキュロウイルスgp64(AcV1)。抗iNOS mAb(4E5、Abcam)を、Zenon Alexa Fluor 488 Mouse IgG1 Labeling Kit(molecular probes)で標識した。マウスCD4+ T細胞をインビトロで活性化するために、抗CD3(0.5μg/mL)および抗CD28(1μg/mL)または抗CD3/CD28 Dynabeads(Invitrogen)を用いた。sCTLA-4特異的アミノ酸のペプチド(NH2-AKEKKSSYNRGLCENAPNRARM-COOH;配列番号1)を用いてモノクローナル抗体を作製するために、抗sCTLA-4特異的アミノ酸抗体を標準的な手法により作製した。
【0073】
細胞培養
マウスT細胞を、10%FCS(Gibco)、ペニシリン-ストレプトマイシン(Gibco)および50μM 2-メルカプトエタノールを添加したRPMI-1640培地中で培養した。T細胞を、100U/mlヒトIL-2(Imunase35、Shionogi)の存在下においてT細胞を枯渇させ、マイトマイシンC(KYOWA KIRIN)で処理した脾細胞を伴って抗CD3/CD28 Dynabeads(invitrogen)または抗CD3抗体により活性化した。21日齢のsCTLA-4 KI(S+M-)、CTLA-4 full KO(S-M-)および同腹の対照(S+M+)から調製した脾細胞またはリンパ球を、Golgistop(Monensin、BD bioscience)の存在下において25ng/mL PMA(Sigma-Aldrich)および1μMイオノマイシン(Sigma-Aldrich)で5時間刺激した。細胞を、サイトカインの染色のためにCytofix/CytopermおよびPerm/Wash(BD Biosciences)で固定および透過処理し、Foxp3の染色のためにFoxp3/Transcription Factor Staining Buffer Set(eBioscience)で固定および透過処理し、Foxp3とサイトカインの共染色のためにTranscription Factor Buffer Set(BD Biosciences)で固定および透過処理した。マウスマクロファージを、HydroCell 24 Multi-well plate(CellSeed)を用いて10ng/mL IL-4および10ng/mL IL-10の存在下で培養した。B16F10黒色腫細胞を、10%FCSおよびペニシリン-ストレプトマイシンを添加したDMEM中で培養した。Sf9細胞を、10%FCS、ペニシリン-ストレプトマイシンおよび0.1%プルロニックF-68(Gibco)を添加したTrichoplusia ni Medium-Formulation Hink(TNM-FH)中で27℃において130rpmで振盪させた振盪フラスコを用いて培養した。High Five細胞(BTI-TN-5B1-4)を、ペニシリン-ストレプトマイシン、10U/mLヘパリンおよび18mM L-グルタミンを添加したExpress Five SFM(Thermo Fisher Scientific)中で27℃において130rpmで振盪させた振盪フラスコを用いて培養した。
【0074】
ELISA
IFNγ、IL-4、TNF-αおよびIL-6を、eBioscienceから入手したELISAキットを用いて測定した。IL-3、IL-10およびTSLPを、Biolegendから入手したELISAキットを用いて測定した。CTLA-4、IL-33およびM-CSFを、R&D Systemsから入手したELISAキットを用いて測定した。IL-5およびIL-17Aを、Bio-Rad Laboratoriesから入手したBio-plexキットを用いて測定した。血清抗体を、Mouse Isotyping 6plex KitおよびMouse IgE FlowCytomix Simplex kit(eBioscience)によって測定した。エオタキシン(CCL11)、CCL17、CCL22およびCXCL13を、Biolegendから入手したLEGENDplexキットを用いて測定した。抗マウスdsDNA IgGおよび抗マウスIgEを、Sibayagiから入手したELISAキットを用いて測定した。抗胃壁抗体を以前に記載されたように決定した(Wing, K. et al. CTLA-4 control over Foxp3+ regulatory T cell function. Science 322, 271-5 (2008).)。B16F10黒色腫からの全タンパク質を、Complete mini EDTA-free(Roche)とともにM-PER哺乳類タンパク質抽出試薬(Thermo Scientific)を用いて回収した。細胞抽出物を4℃において18000×gで10分間遠心分離し、上清を回収した。溶解物中のタンパク質濃度を、Pierce BCA Protein Assay Kit(Thermo Scientific)により決定した。腫瘍溶解物中のIFNγ(pg/全タンパク質のmg)の濃度を、ELISAにより定量した。腹腔マクロファージ中のIL-10産生を、インビトロでの細胞培養の24時間後にELISAにより測定した。
【0075】
定量的リアルタイムPCR(qPCR)
全RNAをRNeasy mini kit(QIAGEN)により抽出した。cDNAをSuperScriptIII(life technologies)により合成した。リアルタイムPCRを、TaqMan遺伝子発現マスターミックス(life technologies)およびTaqMan遺伝子発現アッセイ(life technologies)を用いたStepOnePlusリアルタイムPCRシステム(life technologies)により、またはLightCycler480プローブマスター(Roche)およびユニバーサルプローブライブラリープローブ(Roche)を用いたLightCycler480システム(Roche)により実施した。転写物をHPRT1レベルに正規化した。アッセイ番号は以下である:Hprt、Mm01545399_m1;Il10、Mm00439614_m1;Ifng、Mm01168134_m1;Il4、Mm00445259_m1;Il17a、Mm00439618_m1;Il6、Mm00446190_m1;Ebi3、mm00469294_m1;Tgfb1、Mm03024053_m1;Nos2、Mm00440502_m1;Mrc1、Mm00485148_m1;Retnla、Mm00445109_m1;Arg1、Mm00475988_m1。sCTLA-4およびmCTLA-4のプライマー配列は以下である:マウスsCTLA-4;フォワード:5’-cgcagatttatgtcattgctaaag - 3’(配列番号2);リバース:5’- aaacggcctttcagttgatg - 3’(配列番号3);TaqManプローブ(FAMNFQ-MGB):5’- aagaagtcctcttacaacagg - 3’(配列番号4):マウスmCTLA-4;フォワード:5’-ggcaacgggacgcaga - 3’(配列番号5);リバース:5’- cccaagctaactgcgacaagg - 3’(配列番号6);TaqManプローブ(FAMNFQ-MGB):5’- ttatgtcattgatccagaacc - 3’(配列番号7):ヒトsCTLA-4;フォワード:5’-ggacacgggactctacatctg - 3’(配列番号8);リバース:5’- aagagggcttcttttctttagca - 3’(配列番号9);ユニバーサルプローブライブラリープローブ#39(Roche):ヒトmCTLA-4;フォワード:5’-ataggcaacggaacccagat - 3’(配列番号10);リバース:5’- cccgaactaactgctgcaa - 3’(配列番号11);ユニバーサルプローブライブラリープローブ#69(Roche):ヒトHPRT1;フォワード:5’-gaccagtcaacaggggacat - 3’(配列番号12);リバース:5’- gtgtcaattatatcttccacaatcaag - 3’(配列番号13);ユニバーサルプローブライブラリープローブ#22(Roche)。
【0076】
プラスミド
マウスmCTLA-4 cDNAをBaldb/c CD4+CD25+ T細胞からクローニングした。sCTLA-4 cDNAを作製するために、mCTLA-4 cDNAをpCMV-Tag4Aベクター(Agilent Technologies)にサブクローニングし、exon3欠失コンストラクトをKOD Plus Mutagenesis Kit(TOYOBO)により作製した。Y139A(139番目のチロシン>アラニン)変異体sCTLA-4を、MYPPPYモチーフ(ATGTACCCACCGCCATAC(配列番号14) → ATGTACCCACCGCCAGCC(配列番号15))に変異を導入することにより作製した。レトロウイルス遺伝子導入のために、野生型sCTLA-4、Y139A変異体sCTLA-4およびCTLA-4 Ig(pME18S-mCTLA4/WT-hIgG、T. Saito, RIKEN Center for Integrative Medical Sciences, Kanagawa, Japanから受領した)をpMCsIgレトロウイルスベクター(T. Kitamura, The Institute of Medical Sciences, The University of Tokyo, Tokyo, Japanから受領した)にサブクローニングし、pMCsIg-sCTLA-4、pMCsIg-sCTLA-4 Y139AおよびpMCsIg-CTLA-4 Igを作製した。組換えバキュロウイルスを作製するために、pCMV-Tag4A内のFLAGタグ付きWT sCTLA-4およびY139A sCTLA-4をpFastBacベクター(Thermo Fisher Scientific)にサブクローニングし、pFastBac-sCTLA-4-FLAGおよびpFastBac-sCTLA-4 Y139A-FLAGを作製した。
【0077】
sCTLA-4またはCTLA-4 Igを発現するB16F10黒色腫
レトロウイルスコンストラクトの遺伝子導入を、以前に記載されているように実施した(Zhong, S., Malecek, K., Perez-Garcia, A. & Krogsgaard, M. Retroviral Transduction of T-cell Receptors in Mouse T-cells. J Vis Exp Jove 2307 (2010). doi:10.3791/2307)。B16F10細胞は接着細胞であるが、スピンイノキュレーションのプロトコルを用いて8μg/mLポリブレン(Millipore)により32℃で1000×gにおいて90分間形質導入を行った。レトロウイルスを形質導入した後、GFP+形質導入細胞をBD FACSARIA IIによって2回選別および濃縮した。タンパク質の発現を、FACSおよびELISAによって評価した。
【0078】
sCTLA-4の発現および精製
組換えバキュロウイルスを、Bac-to-Bacバキュロウイルス発現システム(Thermo Fisher Scientific)を用いて作製した。High Five細胞(BTI-TN-5B1-4)にバキュロウイルスを感染させ、FLAGタグ付きWT sCTLA-4およびY139A変異sCTLA-4を産生させた。培養上清中のFLAGタグ付きWT sCTLA-4(配列番号16、CCDS69893)またはY139A sCTLA-4を抗FLAG M2アフィニティーゲル(Sigma-Aldrich)により精製し、洗浄緩衝液(リン酸緩衝生理食塩水、0.05% Tween-20)で洗浄し、溶出緩衝液(リン酸緩衝生理食塩水、160μg/mL 3xFLAGペプチド(Sigma-Aldrich))で溶出し、Slide-A-Lyzer G2 Dialysis Cassettes(Thermo Fisher Scientific)を用いてリン酸緩衝生理食塩水で透析した。sCTLA-4の濃度をELISAおよびCBB染色により概算した。
【0079】
細胞移植および腫瘍接種
6週齢のC.B17/Icr-scidマウスに、CD45.1コンジェニックマウスから精製した4×105個のCD4+CD25-CD45RBhigh細胞を単独または3週齢のDEREG S+M-マウスもしくはDEREG S-M-マウス由来の3×105個のCD4+Foxp3+(GFP+)細胞とともに静脈内投与した。腫瘍の実験では、1×106個のB16F10メラニン細胞をC57BL/6マウスに皮下接種した。
【0080】
粘膜固有層細胞の単離
大腸粘膜固有層リンパ球および骨髄細胞を、以前に記載されている方法を用いて単離した(Weigmann, B. et al. Isolation and subsequent analysis of murine lamina propria mononuclear cells from colonic tissue. Nature Protocols 2, 2307-2311 (2007).)。酵素処理により単細胞懸濁した後、CD45+Siglec-F-Ly6G-CD11b+F4/80+大腸マクロファージをFACSソートし(純度>99%)、mRNAの測定を行った。
【0081】
組織学的分析
大腸の組織学的分析を以前に記載されているように実施した(Yamaguchi, T. et al. Construction of self-recognizing regulatory T cells from conventional T cells by controlling CTLA-4 and IL-2 expression. Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 110, E2116-25 (2013).)。肺切片のヘマトキシリン・エオジン(HE)染色をBZ-X700顕微鏡(KEYENCE)により観察した。肺全体の面積およびリンパ球が浸潤した面積(細胞病巣:>1000μm2)をBZ-Xアナライザーソフトウェア(KEYENCE)により算出および定量した。
【0082】
RNA seq
全RNAを、単離したCD11bhigh+F4/80high+腹腔マクロファージからmiRNeasy Mini Kit(QIAGEN)を用いて抽出した。FACSソート後のマクロファージの純度は>99%であった。TruSeq RNA Sample Prep Kit(Illumina)により調製したcDNAライブラリーを、HiSeq 2000(Illumina)を用いて配列決定した。リード配列をTopHatにより参照ゲノム(mm10)にマッピングした。すべての試料からの全体的なリードマッピング率は>94%であった。発現レベルおよび統計的有意性を、Cufflinksのパッケージに含まれているCuffdiffにより算出および検定した。出力ファイルを、R環境のCummeRbundおよびgplotsパッケージにより可視化した。遺伝子オントロジー(GO)濃縮分析のために、各遺伝子のリードカウントをHTSeqのスクリプトであるhtseq-countにより算出し、発現変動解析をBioconductorのedgeRパッケージにより実施した。発現変動遺伝子のリストを評価するために、ErmineJソフトウェアの過剰出現分析(overrepresentation analysis;ORA)法を用いた。
【0083】
喘息モデル
アレルゲンの抗原感作、投与および分析を、以前に記載されているように実施した(Reddy, A., Lakshmi, S. & Reddy, R. Murine Model of Allergen Induced Asthma. Journal of Visualized Experiments e3771 (2012). doi:10.3791/3771;Misharin, A., Morales-Nebreda, L., Mutlu, G., Budinger, S. & Perlman, H. Flow Cytometric Analysis of Macrophages and Dendritic Cell Subsets in the Mouse Lung. American journal of respiratory cell and molecular biology 49, 130522202035005 (2013).)。簡潔に述べると、マウスに、2mgのアルハイドロゲルアジュバント(InvivoGen)中に乳化させた40μgのグレードVのオボアルブミン(Sigma-Aldrich)を0日目と7日目に2回腹腔内(i.p.)投与した。14、16、18および20日目にマウスの気管を外科的に露出させ、50μL 0.1%オボアルブミンをマイクロシリンジにより気管内(i.t.)に注入した。22日目にマウスを屠殺し、肺をPBSで灌流した。肺組織切片を酵素液(1mg/mLヒアルロニダーゼ(Sigma-Aldrich)、0.05mg/mLリベラーゼTM(Roche)、および0.1mg/mL DNase I(Roche))で処理した後、gentleMACS Dissociator(Miltenyi Biotec)によって単細胞懸濁液を得た。
【0084】
オボアルブミンによるDO11.10マウスの免疫
8~12週齢のDEREG DO11.10 TCRトランスジェニックマウスの腋窩/上腕リンパ節または鼠径リンパ節に近い背部の4点に、フロイント完全アジュバントH37 Ra(BD Difco)と2mg/mLのグレードVのオボアルブミン(Sigma-Aldrich)の1:1エマルジョンを50μL皮下注射した。0、7、14および21日目に、qPCRによるsCTLA-4およびmCTLA-4 mRNAの定量のために、CD4+Foxp3+(GFP+)Tregを流入領域リンパ節から単離した(純度>99%)。
【0085】
創傷治癒モデルおよび再上皮化の免疫蛍光
皮膚の切除および創傷治癒の定量を以前に記載されているように行った(Keyes, B. et al. Impaired Epidermal to Dendritic T Cell Signaling Slows Wound Repair in Aged Skin. Cell 167, 1323-1338.e14 (2016).)。簡潔に述べると、剪毛した背部の皮膚にエタノールで消毒し、6mm生検パンチ(kai medical)によって2組の創傷を生成した。創傷後1、3および5日目に、2組の傷の平均創傷面積(mm2)を定規と共に撮影し、ImageJソフトウェアバージョン1.53a(National Institutes of Health)を用いて面積を算出した。創傷5日後に、背部皮膚組織を免疫染色のために採取し、4%パラホルムアルデヒドで4℃において48時間固定後、パラフィン包埋し、創傷領域の長軸について薄片(5μm)を作製した。再水和し、10mMクエン酸ナトリウム(pH6.0)中において121℃で5分間蒸気滅菌することにより抗原賦活化し、精製抗ケラチン14抗体(Poly9060、ニワトリポリクローナルIgY、1:500、BioLegend)で染色し、その後Alexa Fluor Plus 488と結合した吸着処理済み抗ニワトリIgY二次抗体(ヤギポリクローナルIgG、1:1000、Thermo Fisher Scientific)およびDAPIで染色した。創傷下の再上皮化の画像をBZ-X700顕微鏡(KEYENCE)で撮影し、創縁から移動したK14+表皮角化細胞層の長さをImageJソフトウェアで定量した。
【0086】
統計分析
すべての図において、各データ点はランダムに選択された異なる個体動物、独立して実施された実験、または別々の動物から単離されたmRNAの定量で測定された値を表す。特に記載がない限り、データをGraphPad Prism version 7.0d(GraphPad software)を用いて一元配置分散分析により分析し、次いで適用可能な場合には、複数群についてHolm-Sidak多重比較検定または2群について対応のない両側t検定を行った。複数群のノンパラメトリック検定を行う場合は、クラスカル・ウォリス検定およびDunnの多重比較検定を適用した。2群のノンパラメトリックなマン・ホイットニー検定またはログランク検定によって統計分析を行った場合、各図面の説明に記載した。P値>0.05をNS(有意でない)とみなした。
【0087】
[結果]
sCTLA-4は免疫調節の役割を有する
CD44
highCD62L
lowエフェクターTregは、CD44
lowCD62L
highナイーブTregまたは従来のCD44
highCD62L
lowエフェクターT細胞(Tconv)と比較してsCTLA-4の発現が2倍以上に増加していた(
図1A)。この結果と一致して、ヒトCD4+CD45RA-CD25
high(<1%)エフェクターTregは、CD4+CD45RA+CD25+ナイーブTregと比較して生体内でのsCTLA-4 mRNAの発現が最も高かった(
図1B)。sCTLA-4とmCTLA-4の長期的な動態を調べるために、DEREG DO11.10 TCRトランスジェニック(Tg)マウスをOVA抗原で免疫し、CD4+ T細胞をインビボで刺激した。Treg中のsCTLA-4は免疫7日後に減少したが、免疫21日後にはsCTLA-4の量は増加し、定常レベルを上回った(
図1C)。この結果は、sCTLA-4が炎症の後期に必要とされ得ることを示唆している。さらに、喧嘩により皮膚に慢性的な傷を有する雄マウスは、無傷の雄マウスと比較してsCTLA-4およびmCTLA-4を高発現していた(
図1D)。これらの結果から、炎症条件において活性化TregがsCTLA-4の転写・発現を一時的に停止させた後に、sCTLA-4を増加させていることを示唆している。
【0088】
炎症状況におけるsCTLA-4の生体での機能を評価するためにsCTLA-4+ mCTLA-4-マウス(S+M-マウス)を作製した(
図1E)。簡潔に述べると、内在性CTLA-4遺伝子座のエクソン3の上流にあるスプライシングアクセプター部位を欠損させた。S+M-マウスはタンパク質レベルおよびmRNAレベルにおいてmCTLA-4を欠失したが、sCTLA-4を発現していた(
図1F~1H)。予想されたように、mCTLA-4の欠損は、sCTLA-4の存在下においても体重減少、脾臓およびリンパ節の肥大、ならびに自己抗体(抗dsDNA IgG抗体および抗胃壁細胞抗体など)の血清中濃度の上昇を伴う致死的な自己免疫疾患を引き起こした(
図1I~1L)。sCTLA-4は従来のS-M-マウスにおいて観察される自己免疫疾患を防ぐことが出来なかったが、自己免疫病に伴う体重減少やリンパ球の増加を有意に抑制し、生存期間を有意に延長させた(
図1M)。
【0089】
以上から、sCTLA-4はmCTLA-4の欠損により引き起こされる自己免疫の重篤な表現型を緩和できるが、免疫恒常性の維持にはmCTLA-4が重要な役割を果たしていると結論付けた。これはsCTLA-4が炎症状況において重要であるが、mCTLA-4とは異なる機序で働いていることを示唆している。
【0090】
sCTLA-4はM2マクロファージの分化を促進する
mCTLA-4とsCTLA-4がCD80/86分子と相互作用するMYPPPYモチーフをexon2に有していることを考慮して、抗原提示細胞(CD11b+、CD11c+、およびB220+細胞など)がCD80/86を発現する割合を評価した。強い炎症を有しているにもかかわらず、S+M-マウスのCD80+CD11b+細胞は増加していなかったが、S-M-マウスのCD80+CD11b+細胞は炎症により増加していた(
図2A)。対照的に、CD11c+またはB220+細胞のCD80+またはCD86+サブセットにおいてはS+M-マウスとS-M-マウスとの間に有意な差はなかったが、S+M-マウスのCD86+B220+細胞は増加していた(
図2A)。sCTLA-4がCD11b+細胞の表現型に影響を与えるか否かを調べるために、脾臓および腹腔内のCD11b+細胞のサイトカイン発現レベルをqPCRにより測定した。S+M-マウスの脾臓CD11b+細胞はIL-4を最も高く発現していたが、S-M-マウスの脾臓CD11b+細胞はIL-6を最も高く発現していた(
図2B)。また、S+M-マウスから単離されたCD11b+F4/80+腹腔マクロファージ(腹腔内CD11b+細胞の主な集団である)は、S-M-マウスから単離されたCD11b+F4/80+腹腔マクロファージよりも高いIL-10産生を示した(
図2C)。この結果は、sCTLA-4が単球・マクロファージ・顆粒球を主としたCD11b+細胞の表現型の変化に関与していることを示唆している。さらに、S+M-マウスは、血清IL-10のレベルが1.5倍高かった(
図2D)。以上から、S+M-マウスとS-M-マウスは、ともにリンパ球の過剰増殖および自己抗体を含む抗体産生を伴う自己免疫疾患を発症していたが、S+M-マウスのCD11b+サブセットの表現型は、CD80、IL4、IL-6およびIL-10の発現に関してS-M-マウスとは異なっていた。
【0091】
sCTLA-4の有無で、CD11b+マクロファージのトランスクリプトーム(全転写物)に違いがあるかRNA-seq解析を行った。主座標分析(PCoA)と遺伝子オントロジー(GO)分析により、S+M-マウスのマクロファージが、例えば貪食、創傷治癒、細胞走化性および血管新生に関して、S-M-マウスのマクロファージとは異なる遺伝子発現プロファイルを有していることが確認された(
図2E~2H)。S+M-とS-M-マウスのマクロファージとの間で有意な差を示す発現変動遺伝子は、M1マクロファージまたはM2マクロファージの働きや性質に重要な遺伝子を数多く含んでいた(
図2I)。次に、M1/M2マクロファージを規定する確立されたマーカーを選択し、これらの遺伝子を比較した。S+M-マウスのマクロファージは、M2マーカーとしてよく知られているMrc1(CD206をコードしている)、Retnla(Fizz1)、Arg1およびYm1を高レベルで発現しており、S-M-マウスのマクロファージは、M1マーカーとして知られるNOS2(iNOS)、Il6およびTnfを高レベルで発現していた(
図2J)。また、Mrc1やRetnla以外にもマクロファージにおいてIL-4やIL-13によって制御される典型的な遺伝子であるFcgr2b、Mgl2、Clec7a、およびIgf1は、すべてS+M-マウスのマクロファージにおいて有意に発現が高かった(
図2K)。
【0092】
以上から、炎症状況におけるsCTLA-4の存在は、CD11b+細胞の表現型に直接的または間接的に影響を与え、マクロファージをM2様の表現型に分化させた。
【0093】
sCTLA-4は炎症状態においてTh2と好酸球の循環を増加させる
IL-4は生体外および生体内でM2マクロファージを誘導するのに重要なサイトカインであるため、S+M-マウスのTh2サイトカイン発現を調べた。高い血中濃度のIL-5およびIL-4がS+M-マウスにおいて検出され(
図3A)、血中のIL-4/IL-5産生CD4+T細胞がS+M-マウスで有意に増加していた(
図3B~3C)。対照的に、S-M-マウスの血中ではIL-4/IL-5産生CD4+T細胞の頻度が著しく低かった。IL-5は好酸球の分化、遊走およびエフェクター機能に関与しているため、血中の好酸球の割合を評価した。好酸球は、S-M-マウスよりもS+M-マウスの血中において有意に多く遊走していた(
図3D)。好酸球はTh2サイトカイン刺激に応答して成熟し、活性化に伴いより多くのIL-4およびシグネチャー遺伝子であるSiglec-Fを発現する。Siglec-Fはアポトーシスを誘導し、負のフィードバック様式で好酸球の過剰増加を抑制する。S+M-マウスの組織浸潤性成熟好酸球ではSiglec-Fが増加しており、S-M-マウスの2倍以上IL-4を発現していた(
図3Eおよび3F)。というよりむしろ、S-M-マウスの好酸球では、S+M-マウスおよびS+M+野生型マウスの好酸球と比較してIL-4産生能が低下していた。S+M-マウスにおいてIL-4/IL-5産生CD4+T細胞および循環好酸球が増加していることは、エオタキシン(CCL11)、CCL22およびCCL24(これらはTh2サイトカインにより増加し、Th1サイトカインにより減少する)のレベルがS-M-マウスと比較してS+M-マウスにおいて有意に高かったという観察結果と一致する(
図3Gおよび3H)。この結果は、炎症下のTh2サイトカインの増加とTh1サイトカインの抑制により、Th2、IL-4産生好酸球および更なるTh2サイトカインの循環が増加することを示唆している。次いで、Th2や好酸球が集積しやすい肺の肺胞マクロファージの表現型を評価した。S+M-マウスの肺胞マクロファージではCD206の発現が有意に増加しており、M2様の表現型を示していた。この結果から、S+M-マウスでは、腹腔だけでなく、肺においてもM2マクロファージへの分化偏向が見られた(
図3I)。
【0094】
S+M-とS-M-マウスのマクロファージの表現型の差異が、単にTh2サイトカインの発現の差異によるものであるのか否かを調べた。S-M-マウスから単離した脾臓マクロファージをインビトロにおいてIL-4およびIL-10で処理すると、マクロファージのCD80が減少し、CD206が増加した(
図3J)。この結果は、S+M-マウスから単離したCD11b+細胞がCD80
lowおよびCD206
highの表現型を示した観察結果と一致する。最後に、IL-4/IL-5を過剰産生するILC2(2型自然リンパ球)、好塩基球またはマスト細胞が、S+M-マウスにおいて増加していた可能性を排除するために、これらの細胞の2型免疫応答を促進するIL33/TSLP血中濃度と細胞の割合について評価した。血清IL-33およびTSLPはS+M-マウスおよびS-M-マウスの両方において抑制され(
図3Kおよび3L)、S+M-マウスの血中および腸間膜中のLin-CD45+CD90+ ILC(自然リンパ球の共通マーカー)の割合は減少しており(
図3Mおよび3N:S+M-マウスのGATA3+ILC細胞は検出できなかった)、S+M-マウスの好塩基球またはc-kit+細胞は増加していなかった(
図3O)
【0095】
これらのデータは、炎症下でIL-4/IL-5産生Th2細胞の増加およびIL-4high浸潤性好酸球の増加が、マクロファージの表現型変化に影響を与えることを示唆している。
【0096】
sCTLA-4はTh1とTh2の分化偏向に作用する
sCTLA-4によって制御される利用可能なCD80/86分子の量が、Th1およびTh2の分化に影響を与えるか否かを評価した。まずは、CD80/86共刺激の一方または両方を阻害する抗体を用いると、Th1分化はフリーのCD80/86分子の数に大きく依存していたが、Th2の分化は依存しないことが分かった(
図4Aおよび4B)。面白いことに、CD86をブロックすることによってTh2の分化が有意に促進された(
図4B)。sCTLA-4が生体内においてTh1とTh2の割合を変化させているという仮説に基づいて、Th細胞分化におけるsCTLA-4の生理的役割を明らかにするために、野生型のsCTLA-4組換えタンパク質およびCD80/86に結合できない変異型sCTLA-4 Y139A組換えタンパク質を作製した。抗CD80/86抗体と同様に、インビトロでの組換えsCTLA-4の添加はTh1分化を用量依存的に阻害し、逆に高い濃度では有意にTh2分化を促進した(
図4C~4F)。以上から、sCTLA-4は抗CD80/86抗体と同様の機能を有しており、sCTLA-4によるCD80/86分子のブロックはTh1分化を抑制する。また、sCTLA-4は、十分なTCR刺激下ではTh2分化に影響しないどころか、Th2分化を促進することが示唆された。最後に、S+M-マウスで増加したsCTLA-4が単球/マクロファージを直接作用してM2マクロファージに分化させた可能性を排除するために、単球/マクロファージ細胞株RAW264.7をsCTLA-4で処理した。その結果、sCTLA-4自体は、IL-4およびIL-10とは異なり、M2マクロファージの分化に有意な影響を与えなかった(
図4G)。
【0097】
以上から、sCTLA-4はTCRの刺激が十分であってもTh1分化を抑制し、Th2分化を促進する機能を有しており、M2マクロファージの分化を間接的に促進すると結論付けた。
【0098】
sCTLA-4は腸内および腫瘍環境においてTh1炎症を妨げる
腸間膜リンパ節およびパイエル板中のCD4+T細胞は健常状態において他の体表リンパ節(鼠径リンパ節など)と比較してsCTLA-4を2倍以上発現していた(
図5A)。さらに、sCTLA-4を欠損したS-M-マウスは、S+M-マウスと比較して3週齢において大腸が有意に短く、体重が著しく減少しており、大腸組織にリンパ球浸潤性の小病巣が発生していた(
図5B~Dおよび
図1I)。このことから、sCTLA-4が生体内で腸間膜リンパ節中のTh1細胞および大腸マクロファージの分化制御に影響を与えているか否かを調べた。S-M-マウスの腸間膜リンパ節中のTh1細胞およびTh17細胞の数は、sCTLA-4の欠失により有意に増加していた(
図5E)。さらに、S-M-マウスから単離した大腸マクロファージは、IFNγ産生Th1の増加に伴ってiNOSおよびIL-6が高発現しており(これはM1様の表現型を示している)、S+M-マウスから単離した大腸マクロファージではCD206およびFizz1が高く発現していた(これはM2様の表現型を示している)(
図5F)。この結果から、同じmCTLA-4欠損により生じた自己免疫病マウスでも、sCTLA-4を有していると、腸管でのTh1やM1マクロファージの分化が抑制されることが示唆された。また、S+M-マウスでは、腹腔や肺だけでなく、腸管においてもM2マクロファージへの分化偏向が起きていることが分かった。
【0099】
CD45RB
highCD4+ T細胞をSCIDマウスに養子移入することで誘導される炎症性腸疾患(IBD)はエフェクターTh1細胞の分化が関与している。S+M- TregまたはS-M- Treg(両者の差異はsCTLA-4の有無)を、CD45RB
highナイーブCD4+ T細胞とともにSCIDマウスに移入することで、sCTLA-4の生体内でのTh1抑制機能を検証した。S+M- Tregの同時移入ではマウスを大腸炎の発症から保護できたが、S-M- Tregの同時移入は、大腸炎を抑制できなかった(
図5G~I)。このS-M- Tregの同時移入マウスは著しい体重減少、顕著な大腸上皮細胞過形成および大腸炎疾患スコアの上昇を示した(
図5G~5I)。次に、野生型sCTLA-4または変異型sCTLA-4 Y139Aを分泌するB16F10黒色腫細胞株を作製した。sCTLA-4 Y139Aを分泌するB16F10黒色腫株はCD80/86分子をブロックする能力を持たない。これらのB16F10黒色腫細胞株をC57BL/6J野生型マウスに皮下投与し、sCTLA-4が、IFNγ依存的抗腫瘍免疫に影響を与えるか評価した。腫瘍微小環境でTregにより分泌されるsCTLA-4を模倣したsCTLA-4産生黒色腫は、ヌードマウス(T細胞欠損マウス)を用いた試験と同様に、急速な腫瘍増殖を示した(
図5Jおよび5K)。この結果は、sCTLA-4産生黒色腫がT細胞依存的抗腫瘍免疫を抑制したことを示唆している。この結果と一致して、腫瘍環境中のsCTLA-4はIFNγ産生を有意に抑制していたことが分かった(
図5L)。IFNγの抑制は、腫瘍組織中のCD206
high M2様腫瘍マクロファージ(TAM)の顕著な増加を伴っていた(
図5M)。
【0100】
以上から、生体内炎症環境におけるsCTLA-4のTh1阻害は、M2マクロファージの分化を促進していた。
【0101】
sCTLA-4は健常状態においてIFNγ産生T細胞の自発的な分化および自己抗体の産生を防ぐ
より健常状態に近い状態におけるsCTLA-4の機能を調べるために、S-M+(sCTLA-4 KO)マウスを作製した(
図6A)。このマウスは、mCTLA-4のみ(mCTLA-4 mRNAおよびタンパク質)を野生型マウスと同じレベルで発現する(
図6Bおよび6C)。CD44+CD8+エフェクター・メモリー型T細胞の割合は、脾臓およびリンパ節において齢とともに徐々に増加し、24週齢では8週齢の2倍以上となり(
図6D)、CD44+CD4+エフェクター・メモリー型T細胞の割合はリンパ節で増加していたことから(
図6E)、30週齢において野生型マウスと比較することにした。mCTLA-4を欠損したマウスと比較して、S-M+マウスは正常な外観を示し、30週齢においても脾臓およびリンパ節の肥大を示さなかった(
図6F~6H)。しかし、30週齢S-M+マウスは脂肪組織に異所性リンパ節構造を示し、肺組織に白血球浸潤が認められた(
図6I)。また、S-M+マウスでは、30週齢において自己抗体である抗dsDNA IgG、抗胃壁細胞IgG、IL-6およびTNF-αのレベルがS+M+マウスよりも著しく高かった(
図6J)。さらに、S-M+マウスの腹腔から単離したマクロファージは、iNOSおよびIL-6を有意に高発現していた(
図6K)。この結果は、S-M+マウスの腹腔マクロファージがM1様の表現型を有していることを示している。上述の観察と一致するように、sCTLA-4の欠損は、脾臓、腸間膜リンパ節および体表リンパ節におけるIFNγ産生CD8+ Eomes+エフェクター/メモリーT細胞およびIFNγ産生CD4+ Th1細胞の顕著な増加をもたらした(
図6Lおよび6M)。この結果は、sCTLA-4の欠損が加齢に伴って1型免疫の制御異常を引き起こし、前臨床的な自己免疫をもたらすことを示唆している。
【0102】
炎症促進性のM1から炎症抑制性のM2マクロファージの表現型移行を阻害すると、組織修復に好ましくない結果となる。このため、炎症時の1型免疫(Th1、M1型)の抑制および2型免疫(Th2、M2型)の促進に対するsCTLA-4の寄与が、皮膚切除創傷モデルを用いた創傷治癒プロセスを促進できるか評価した。12週齢S-M+マウスは、創傷後1、3および5日目においてS+M+対照マウスと比較して創傷閉鎖が一貫して遅延していた(
図6N)。外傷の観察と一致するように、12週齢S-M+マウスでは、創傷下の(表皮基底層に位置する)K14+ケラチノサイトの遊走を伴う再上皮化プロセスが有意に障害されていた(
図6O)。一方、sCTLA-4を有する対照マウスでは、創傷は創傷後5日目には再上皮化によりほとんど閉鎖していた(
図6Nおよび6O)。自己免疫を伴う30週齢のS-M+マウスと、S+M+マウスの比較によっても同様の観察を得て、sCTLA-4の組織修復プロセスへの重要性を確認した(
図6Pおよび6Q)。上述しているとおり、30週齢のS-M+マウスではTh1およびIFNγ+CD8+細胞が著しく増加していたため、12週齢と30週齢のS-M+マウスの創傷閉鎖をさらに比較した。創傷後1日目および3日目の創傷部に大きな差はなかったが、5日目では12週齢のS-M+マウスと比較して30週齢のS-M+マウスにおいて創傷閉鎖が有意に遅延していた(
図6R)。これらの結果から、sCTLA-4は炎症の終焉に重要な組織修復およびリモデリングを促進していた。
【0103】
以上から、S-M+マウスのデータおよび皮膚創傷後の創傷閉鎖および再上皮化プロセスのsCTLA-4による促進は、sCTLA-4がTh1分化の抑制およびマクロファージ分化の偏向(M1→M2)に作用していると言う結論を支持している。
【0104】
sCTLA-4は、Tfhとアレルゲン反応性Th2の分化およびIgEの産生を抑制する
S-M+マウスでは、IgEの値が高レベルであった(
図7A)が、S-M+マウスのリンパ節にIL-4産生Th2細胞は検出されなかった(データは示していない)。Th2ではなくTfh細胞由来のIL-4がIgEのクラススイッチに重要であることが報告されている。また、Tfhは、分化のためにCD80/86要求性が高いことが報告されている。そこで、sCTLA-4が生体内でTfh分化に影響を与えているのか否かを調べた。sCTLA-4の欠損は、パイエル板および腸間膜リンパ節におけるBcl6+PD1+CXCR5+Tfh細胞の割合を増加させ、腸間膜リンパ節におけるCD38-GL7+IgD-IgM-胚中心(GC)B細胞の割合を増加させた(
図7Bおよび7C)。この結果は、sCTLA-4が健常状態でパイエル板および腸間膜リンパ節において高レベルで発現していることを考慮すると、sCTLA-4はTfh細胞の分化制御に重要な役割を果たしていることが示唆される(
図5A)。
【0105】
sCTLA-4は炎症状態ではTh1分化を抑制することでTh2分化を促進し、健常状態ではTh1やTfh細胞の自発的な分化と増加を抑制していた。アレルゲン反応性Th2細胞に依存する喘息実験モデルを用いてsCTLA-4がアレルギーの進行に抑制的に働くか否か調べた。8週齢の健常な(IFNγ+産生T細胞が増加していない)S-M+マウスまたはS+M+マウスをOVAとアジュバント混合物の腹腔内投与(i.p.)により感作し、次にOVA溶液を外科的気管内注入(i.t.)し、OVA反応性Th2細胞を刺激することで喘息を誘導した。S-M+マウスは、S+M+マウスと比較して肺組織により多くのTh2細胞、好酸球およびM2肺胞マクロファージを有していた(
図7D~7G)。これは、健常状態下の早期炎症において、sCTLA-4がのTh2分化の促進物ではなく、アレルゲン反応性ナイーブT細胞の活性化閾値(Th2への分化を抑制する力)として機能していることを示唆している。重要なことは、M2マクロファージの分化は、sCTLA-4の非存在下においても、Th2および好酸球の増加により促進されていた(
図7F)。これらの結果により、非炎症状態でCD80/86の量が少ない場合(健常状態では抗原提示細胞の数も少なくCD80/86の発現も低い)、sCTLA-4はCD80/86を十分にブロックでき、Th2細胞の分化をも妨げることが分かった。これはsCTLA-4を有するS+M+マウスで観察されたように、sCTLA-4はアレルギーの発症を遅延もしくは抑制出来ることを示唆する。
【0106】
結論として、sCTLA-4は非炎症状態および炎症状態の両方においてナイーブT細胞およびエフェクターT細胞の活性化閾値を上昇させ、ヘルパーT細胞とマクロファージの分化偏向のバランスを調節する。健常状態において自己免疫およびアレルギーを抑制し、炎症状態において Th2・M2マクロファージ分化および組織修復/リモデリングを促進することで炎症を軽減または鎮静化する。
【0107】
本明細書に記載の通り、sCTLA-4はCD80/86を介したナイーブT細胞のエフェクターT細胞への分化を制限し、炎症時の持続的な共刺激(CD28-CD80/86相互作用)を妨げることにより、ヘルパーT細胞の分化偏向を調節するという特有の能力を有する。また、sCTLA-4が炎症状態におけるM2マクロファージの分化に重要な役割を果たしており、炎症の鎮静化に関与することも実証された。さらに、sCTLA-4が豊富な腫瘍環境では大量のM2腫瘍マクロファージとともに腫瘍増殖が促進されたが、健常な状態ではsCTLA-4はリンパ組織における自発的な自己抗体産生ならびにTh1、Tfh、Th17およびTh2の異常分化を妨げた。これらの結果は、sCTLA-4の機能障害または過剰産生が自己免疫疾患、腫瘍およびアレルギーなどの様々な病態に幅広く関与することを示している。これらの知見は、sCTLA-4組換えタンパク質もしくは阻害物質が治療物質として有用であることを支持する。
【0108】
(炎症性腸疾患の治療)
IBDなどの炎症性腸疾患を、SCIDマウスにCD45RB高陽性のナイーブT細胞を養子移入することで誘導する。観察期間中、リコンビナント分泌型CTLA-4を定期的に腹腔投与し、炎症性腸疾患の進行や程度を複数のパラメーターで測定する。体重は週ごとに測定する。観察期間が終わった後、大腸を病理組織学的に解析し、病理スコアで分泌型CTLA-4の効果を評価する。また同時に、腸管リンパ節におけるIFNγ産生型CD4陽性ヘルパーT細胞の増殖がどの程度あったかをFACSにより測定し、分泌型CTLA-4の効果を評価する。分泌型CTLA-4の効果が見られた場合、体重減少の抑制、病理スコアの低下、そしてIFNγ産生型CD4陽性ヘルパーT細胞の増殖抑制が見られる。
【0109】
(アレルギー疾患の治療)
喘息アレルギー疾患を、マウスに卵白アルブミンを用い、感作・誘導する。観察期間中、リコンビナント分泌型CTLA-4を定期的に腹腔投与し、最終的なアレルギーの進行や程度を複数のパラメーターで測定する。分泌型CTLA-4が、Th2分化や好酸球の集積を遅らせるか評価するために、肺組織懸濁液や気管支肺胞洗浄液のFACS解析、および肺の病理組織学的解析を行う。分泌型CTLA-4の効果が見られた場合、上記のTh2分化や好酸球の集積が抑制される。
【0110】
(創傷治癒)
マウスの背部に生検パンチを用い、傷を作成する。観察期間中、リコンビナント分泌型CTLA-4を定期的に創傷部位に塗布または腹腔投与し、創傷治癒の進行や程度を複数のパラメーターで測定する。傷の大きさは、毎日測定する。加えて創傷後の再上皮化プロセスを、K14+表皮基底角化細胞がどれだけ創傷部位を覆ったかによって再上皮化を定量する。分泌型CTLA-4の効果が見られた場合、創傷治癒が促進され、創傷部位がより早く小さくなることに加えて、再上皮化プロセスも促進される。
【0111】
(注記)
以上のように、本開示の好ましい実施形態を用いて本開示を例示してきたが、本開示は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願及び他の文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
本開示の医薬組成物は様々な自己免疫疾患、アレルギー、創傷などの炎症性疾患の治療や予防のために用いることができる。また本開示の医薬組成物は、生体に適用した場合にも、副作用がなく、安全に免疫抑制を誘導することができ、医療分野への応用が期待できる。