(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025016844
(43)【公開日】2025-02-05
(54)【発明の名称】人工爪組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 8/81 20060101AFI20250129BHJP
A61Q 3/02 20060101ALI20250129BHJP
【FI】
A61K8/81
A61Q3/02
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023119582
(22)【出願日】2023-07-24
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-11-02
(71)【出願人】
【識別番号】518332088
【氏名又は名称】株式会社コンフェスタ
(74)【代理人】
【識別番号】100173679
【弁理士】
【氏名又は名称】備後 元晴
(72)【発明者】
【氏名】森下 利香
(72)【発明者】
【氏名】田中 久生
【テーマコード(参考)】
4C083
【Fターム(参考)】
4C083AD091
4C083AD092
4C083CC28
4C083EE01
4C083EE09
4C083EE10
(57)【要約】
【課題】高温環境下や多湿環境下に置かれることに起因するウレタンアクリレートや(メタ)アクリレートモノマーに例示される化合物の加水分解、特に、リン酸基含有重合性単量体の相溶性のバランスが崩れることに起因するリン酸基含有重合性単量体の変質を抑えた人工爪組成物を提供する。
【解決手段】本発明の人工爪組成物は、(A)分子内に少なくとも1個のラジカル重合性不飽和二重結合を有し、リン原子を有しない化合物と、(B)分子内に少なくとも1個のラジカル重合性不飽和二重結合を有する酸性リン化合物と、(C)ラジカル重合開始剤とを含有し、前記(B)成分は、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートアシッドフォスフェート、ヒドロキシペンチル(メタ)アクリレートアシッドフォスフェート及びヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレートアシッドフォスフェートから選択される1種以上を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)分子内に少なくとも1個のラジカル重合性不飽和二重結合を有し、リン原子を有しない化合物と、
(B)分子内に少なくとも1個のラジカル重合性不飽和二重結合を有する酸性リン化合物と、
(C)ラジカル重合開始剤とを含有し、
前記(B)成分は、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートアシッドフォスフェート、ヒドロキシペンチル(メタ)アクリレートアシッドフォスフェート及びヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレートアシッドフォスフェートから選択される1種以上を含む、
人工爪組成物。
【請求項2】
前記(A)成分は、水酸基を有しない(メタ)アクリレートと、水酸基を有する(メタ)アクリレートとを含む、請求項1に記載の人工爪組成物。
【請求項3】
前記水酸基を有する(メタ)アクリレートは、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート及び/又はヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートを含む、請求項2に記載の人工爪組成物。
【請求項4】
前記水酸基を有する(メタ)アクリレートの含有量は、人工爪組成物100質量部に対して35質量部以下である、請求項2又は3に記載の人工爪組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工爪組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ラジカル重合性不飽和結合を有する化合物を他の共重合可能な単量体と共重合した重合体は皮膜形成性があり、人工爪組成物として用いられる。
【0003】
人工爪組成物に求められる特性として、天然爪と人工爪との接着性、表面の滑らかさや光沢、及び皮膜の耐久性等が挙げられ、例えば、(a)分子内に少なくとも1個のラジカル重合性不飽和二重結合を有する化合物、(b)特定のメタクリレート基を有する酸性リン化合物、及び(c)ラジカル重合開始材を含む人工爪組成物が提案されている(特許文献1参照)。特許文献1に記載の化合物によると、これらの特性を充足する人工爪組成物を提供できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
人工爪組成物は、使用する際に、蓋を開けた状態で筆などを使用して取り出された後、爪の上に塗布される、そのため、施術中の長時間の渡り外気にさらされるため、高温多湿となる夏季には人工爪組成物への吸湿が認められる。この吸湿により、ウレタンアクリレートや(メタ)アクリレートモノマーに例示される化合物の加水分解が生じ、人工爪組成物の低粘度化や、異臭の発生が認められる場合がある。
【0006】
また、人工爪組成物は硬化前の(メタ)アクリレートオリゴマー及びモノマーの混合物として、一般市場に出荷され、中間業者を経由して使用者に提供されるため、人工爪組成物の保管環境を管理することが不可能である。そのため、高温環境下に長時間保管される場合もあり、密閉された容器内においても、原材料の加水分解や硬化(ゲル化)、それに伴う分離や沈殿、性状変化が認められる場合がある。
【0007】
特許文献1に記載の化合物は、酸性リン化合物を含有する。ウレタンアクリレートや(メタ)アクリレートモノマーに例示される化合物の加水分解は、酸性環境下で加速されるため、酸性リン化合物を含む系では特に著しい変化を生じ得る。加水分解の促進においては、低分子量の化合物が生成され、低分子量に由来する皮膚刺激や感作性など、特に健康被害を発生する可能性があり、高温環境下や多湿環境下での性状変化は避けなければならない。
【0008】
また、人工爪組成物は、(メタ)アクリレート基を有する化合物の混合物であり、高温環境下や多湿環境下でのゲル化が発生する場合がある。特に高温多湿環境においては内容成分の化学的硬化反応によりゲル化を生じ、使用できない状態となる場合がある。(b)成分に相当するリン酸基含有重合性単量体は、リン酸基を含有しない重合性単量体に比べて反応性が低いため、人工爪組成物全体の安定化剤としても機能し、人工爪組成物に含まれる各成分が均一に分散している場合は、高温環境下であっても安定している。しかしながら、人工爪組成物主成分系に対する、リン酸基含有重合性単量体の相溶性が低下する場合があり、相溶性が低下すると、リン酸基含有重合性単量体が変質(分離、析出、沈殿)し、それと同時に、人工爪組成物のゲル化が認められ、爪への接着性が低下する場合がある。さらに、変質(分離、析出、沈殿)により硬化物の強度が変化し、多くは脆くなったり、柔らかくなったりする場合が多い。その結果、長期間の接着性を維持できない可能性がある。
【0009】
人工爪組成物の著しい機能低下を引き起こす。疎水性化合物と親水性化合物との混合系である人工爪組成物においては、特定の成分の分離、析出、沈殿等を抑えるように改良することが日々求められており、市場要求の一つである。
【0010】
本発明の目的は、高温環境下や多湿環境下に置かれることに起因するウレタンアクリレートや(メタ)アクリレートモノマーに例示される化合物の加水分解、特に、リン酸基含有重合性単量体の相溶性のバランスが崩れることに起因するリン酸基含有重合性単量体の変質を抑えた人工爪組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
リン酸基含有重合性単量体は、親水性のリン酸基と疎水性の重合性基との間に、スペーサー基が存在する構造を持つ。本発明者らは、スペーサー基に着目し、スペーサー基の特定の長さである場合に、リン酸基含有重合性単量体全体の親疎性のバランスに優れ、高温環境下や多湿環境下にあっても人工爪組成物の相溶性を保つことができることを見出し、本発明を完成させるに至った。具体的に、本発明は以下のものを提供する。
【0012】
第1の特徴に係る発明は、(A)分子内に少なくとも1個のラジカル重合性不飽和二重結合を有し、リン原子を有しない化合物と、(B)分子内に少なくとも1個のラジカル重合性不飽和二重結合を有する酸性リン化合物と、(C)ラジカル重合開始剤とを含有し、前記(B)成分は、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートアシッドフォスフェート、ヒドロキシペンチル(メタ)アクリレートアシッドフォスフェート及びヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレートアシッドフォスフェートから選択される1種以上を含む、人工爪組成物を提供する。
【0013】
第1の特徴に係る発明によると、(B)成分である酸性リン化合物のスペーサー基の鎖長がC4(炭素数:4)からC6(炭素数:6)の範囲内にあり、高温環境下や多湿環境下であっても、特定の成分の分離、析出、沈殿等を抑えた人工爪組成物を提供できる。具体的には、高温多湿の環境下に置かれることに起因する(A)成分及び(B)成分の加水分解、特に、リン酸基含有重合性単量体の相溶性のバランスが崩れることに起因するリン酸基含有重合性単量体の変質を抑えた人工爪組成物を提供できる。これにより、高温多湿となる夏季であっても安定して施術可能な人工爪組成物を提供できる。
【0014】
スペーサー基の鎖長が十分でないと、リン酸基含有重合性単量体全体の親疎性のバランスが親水性に偏り、人工爪組成物が高温環境下や多湿環境下に置かれると、リン酸基含有重合性単量体が分離し、接着性や硬化性に影響する。また、スペーサー基の鎖長が長すぎると、リン酸基含有重合性単量体全体の親疎性のバランスが疎水性に偏り、人工爪組成物が高温環境下や多湿環境下に置かれると、親水性基であるリン酸基による接着機能が著しく低下し、接着性に影響する。
【0015】
第2の特徴に係る発明は、第1の特徴に係る発明であって、前記(A)成分は、水酸基を有しない(メタ)アクリレートと、水酸基を有する(メタ)アクリレートとを含む、人工爪組成物を提供する。
【0016】
第2の特徴に係る発明によると、組成物の親疎性のバランスをよりいっそう適切に保つことができる。
【0017】
第3の特徴に係る発明は、第2の特徴に係る発明であって、前記水酸基を有する(メタ)アクリレートは、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート及び/又はヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートを含む、人工爪組成物を提供する。
【0018】
第3の特徴に係る発明によると、(A)成分において、親水性の水酸基と疎水性の重合性基との間に存在するスペーサー基の炭素数が2又は3である。(B)成分に加え、(A)成分においても親疎性のバランスに優れるため、高温環境下や多湿環境下にあっても人工爪組成物の相溶性をよりいっそう適切に保つことができる。
【0019】
第4の特徴に係る発明は、第2又は第3の特徴に係る発明であって、前記水酸基を有する(メタ)アクリレートの含有量は、人工爪組成物100質量部に対して35質量部以下である、人工爪組成物を提供する。
【0020】
親水性化合物は、時間の経過による硬化物の白濁を抑えることへの一定の効果が期待されるものの、親水性化合物の割合が高いと、硬化物の強度に影響し得る。また、親水性化合物の割合が高いと、天然爪から水分を吸収することに起因するトラブルの原因となり得る。第4の特徴に係る発明によると、水酸基を有する(メタ)アクリレートの含有量が所定範囲内であるため、硬化物の強度が十分であり、時間の経過による硬化物の白濁を抑えることの可能な人工爪組成物を提供できる。また、天然爪から水分を吸収することに起因するトラブルを防止できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によると、高温環境下や多湿環境下に置かれることに起因するウレタンアクリレートや(メタ)アクリレートモノマーに例示される化合物の加水分解、特に、リン酸基含有重合性単量体の相溶性のバランスが崩れることに起因するリン酸基含有重合性単量体の変質を抑えた人工爪組成物を提供できる。これにより、高温多湿となる夏季であっても安定して施術可能な人工爪組成物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための好適な形態の一例について図を参照しながら説明する。なお、これはあくまでも一例であって、本発明の技術的範囲はこれに限られるものではない。
【0023】
<人工爪組成物>
本実施形態に係る人工爪組成物は、(A)成分:分子内に少なくとも1個のラジカル重合性不飽和二重結合を有する化合物と、(B)成分:分子内に少なくとも1個のラジカル重合性不飽和二重結合を有する酸性リン化合物と、(C)成分:ラジカル重合開始剤とを含有する。
【0024】
〔(A)成分:分子内に少なくとも1個のラジカル重合性不飽和二重結合を有し、リン原子を有しない化合物〕
(A)成分の種類は、特に限定されないが、高温環境下や多湿環境下に置かれた後であっても、組成物の親疎性のバランスを保つため、(A)成分は、水酸基を有しない(メタ)アクリレートと、水酸基を有する(メタ)アクリレートとを含むことが好ましい。
【0025】
水酸基を有しない(メタ)アクリレートの例を挙げる。例えば、単官能モノマーとして、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、アミル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート、アルキルフェノールのアルキレンオキサイド付加物の(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、及びベンジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0026】
二官能以上のモノマーとして、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、及びブチレングリコールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0027】
ポリオールのアルキレンオキサイドの(メタ)アクリレートとして、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールエタントリテトラ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、グリセンリトリ(メタ)アクリレート、ジグリセリンテトラ(メタ)アクリレート、及びジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0028】
また、ビスフェノールA、F、S等のビスフェノール類のアルキレンオキサイド変性体のジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールA、F、S等の水添ビスフェノール類のジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールA、F、S等の水添ビスフェノール類のアルキレンオキサイド変性体のジ(メタ)アクリレート、トリスフェノール類のアルキレンオキサイド変性体のジ(メタ)アクリレート等も例示される。
【0029】
また、(メタ)アクリル基とイソボルニル基(イソボルネオ―ルからOHが一つ取れたもの)とが結合したイソボルニル(メタ)アクリレート等も例示される。
【0030】
中でも、(A)成分は、アルキル(メタ)アクリレートモノマー及び/又はイソボルニル(メタ)アクリレートモノマーを含むことが好ましく、アルキルメタクリレートモノマー及び/又はイソボルニルメタクリレートモノマーとを含むことがより好ましい。これにより、より優れた硬度を有する人工爪を形成することができる。
【0031】
また、水酸基を有する(メタ)アクリレートとして、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0032】
また、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のアルキレングリコールのポリラクトネートジ(メタ)アクリレート、グリセリン、ジグリセリン、トリメチロールプロパン、ジトリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール等のポリラクトネート(メタ)アクリレート等の多官能モノマーも例示される。
【0033】
中でも、高温環境下や多湿環境下に置かれた後であっても、(A)成分の親疎性のバランスを保つため、親水性の水酸基と疎水性の重合性基との間のスペーサー基の鎖長がC2(炭素数:2)からC3(炭素数:3)の範囲内にあるものを含むことが好ましい。水酸基を有する(メタ)アクリレートであって、スペーサー基の鎖長がC2からC3の範囲内にある化合物の例として、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートや、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0034】
なお、本実施形態において、「(メタ)アクリレート」の用語は、アクリレート、メタクリレートのどちらでもよいという意味である。(メタ)アクリレートは、アクリレートとメタクリレートの総称であり、アクリロイル基含有重合性モノマーとメタクリロイル基含有重合性モノマーとのいずれも含む。
【0035】
(A)成分は、1種類でなく、2種類以上の混合物であってもよい。また、人工爪組成物は、(A)成分以外に、他の重合性化合物、例えば分子内に少なくとも1個以上の重合性基を有する単量体のオリゴマー又はポリマーを含んでいてもよい。また、酸性基やフルオロ基等の置換基を同一分子内に有していてもよい。
【0036】
複数の(メタ)アクリロイル基を分子中に有するオリゴマーとしては、例えば、複数の単量体が重合して鎖状となった分子鎖構造と、複数の(メタ)アクリロイル基と、を分子中に有する(メタ)アクリレートオリゴマーが挙げられる。なお、(メタ)アクリレートオリゴマーの重量平均分子量は、通常、400以上50,000以下である。
【0037】
(メタ)アクリレートオリゴマーとしては、例えば、複数のウレタン結合を分子鎖中に有するウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー、エポキシドの開環反応によって生じた分子鎖を有するエポキシ(メタ)アクリレートオリゴマー、複数のエステル結合を分子鎖中に有するポリエステル(メタ)アクリレートオリゴマー、複数のエーテル結合を分子鎖中に有するポリエーテル(メタ)アクリレートオリゴマー等が挙げられる。
【0038】
水酸基を有しない(メタ)アクリレート(疎水性の重合性単量体)と水酸基を有する(メタ)アクリレート(親水性の重合性単量体)の質量比は特に限定されないが、(A)成分の親疎性のバランスを保つため、水酸基を有する(メタ)アクリレートの含有量の上限は、人工爪組成物100質量部に対して35質量部以下であることが好ましく、30質量部以下であることがより好ましく、25質量部以下であることがさらに好ましく、20質量部以下であることが特に好ましい。親水性化合物は、時間の経過による硬化物の白濁を抑えることへの一定の効果が期待されるものの、親水性化合物の割合が高いと、硬化物の強度に影響し得る。また、親水性化合物の割合が高いと、天然爪から水分を吸収することに起因するトラブルの原因となり得る。
【0039】
また、(A)成分の親疎性のバランスを保つため、水酸基を有する(メタ)アクリレートの含有量の下限は、人工爪組成物100質量部に対して3質量部以上であることが好ましく、5質量部以上であることがより好ましく、10質量部以上であることがさらに好ましい。
【0040】
(A)成分の含有量は特に制限されないが、人工爪組成物がジェルネイル組成物、すなわち、コーティング(表面側に塗布され、艶出しや保護のために設けられるトップジェル層としてのジェルネイル)や、接着(爪側に設けられ爪との密着性を確保するために設けられるベースジェル層としてのジェルネイル)、着色(トップジェル層とベースジェル層の間に設けられ、発色のためのカラー層としてのジェルネイル)等を用途とする場合、(A)成分の含有量の下限は、人工爪組成物100質量部に対して0.5質量部以上であることが好ましく、10質量部以上であることがより好ましく、30質量部以上であることがさらに好ましく、50質量部以上であることが特に好ましい。また、(A)成分の含有量の上限は、人工爪組成物100質量部に対して90質量部以下であることが好ましく、70質量部以下であることがより好ましい。
【0041】
人工爪組成物がプライマー(爪の表面に塗布し、爪とジェルネイルとの間の密着性を高めるための液剤。ネイルプライマー、ジェルネイル用下地剤等とも称される。)を用途とする場合、(A)成分の含有量の下限は、人工爪組成物100質量部に対して0.5質量部以上であることが好ましく、1質量部以上であることがより好ましく、2質量部以上であることがさらに好ましい。また、(A)成分の含有量の上限は、人工爪組成物100質量部に対して40質量部以下であることが好ましく、20質量部以下であることがより好ましく、10質量部以下であることがさらに好ましく、8質量部以下であることが特に好ましい。
【0042】
〔(B)成分:分子内に少なくとも1個のラジカル重合性不飽和二重結合を有する酸性リン化合物〕
本実施形態において、(B)成分は、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートアシッドフォスフェート、ヒドロキシペンチル(メタ)アクリレートアシッドフォスフェート及びヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレートアシッドフォスフェートから選択される1種以上を含む。
【0043】
本実施形態によると、(A)成分による(メタ)アクリル系化合物の重合反応から得られる高い接着強度と、(B)成分の酸性リン化合物によって得られる基体との高い密着性との両方が得られるため、天然爪と人工爪との良好な接着性が得られる。
【0044】
また、(B)成分は、重合単位を構成する基がブチル基、ペンチル基及びヘキシル基から選択される1種以上を含む(メタ)アクリル酸化合物であるため、重合単位を構成する基にメチル基、エチル基又はプロピル基を含む(メタ)アクリル酸化合物に比べてTgが低い。Tgがより低いことにより、人工爪組成物の硬化物を除去するときの有機溶剤に対する膨潤性が高く、より柔軟になる。これにより、本発明によると、有機溶剤を用いた天然爪からの除去がより容易になる。
【0045】
したがって、本実施形態によると、天然爪と人工爪との良好な接着性と、人工爪を天然爪の爪甲から除去する際の容易な除去性とを両立した人工爪組成物を提供することができる。
【0046】
人工爪組成物において用いられるリン酸基含有重合性単量体は、親水性のリン酸基と疎水性の重合性基との間に、スペーサー基が存在する構造を持つ。スペーサー基の構造によりリン酸基含有重合性単量体全体の親疎性が変化し、人工爪組成物の主成分への相溶性を左右する因子となる。
【0047】
スペーサー基の鎖長が十分でないと、リン酸基含有重合性単量体全体の親疎性のバランスが親水性に偏り、人工爪組成物が高温環境下や多湿環境下に置かれると、リン酸基含有重合性単量体が分離し、接着性や硬化性に影響する。また、スペーサー基の鎖長が長すぎると、リン酸基含有重合性単量体全体の親疎性のバランスが疎水性に偏り、人工爪組成物が高温環境下や多湿環境下に置かれると、親水性基であるリン酸基による接着機能が著しく低下し、接着性に影響する。本発明は、市場要求の最大のポイントである接着性に着目し、スペーサー基の鎖長がC4(炭素数:4)からC6(炭素数:6)の範囲内であるときに顕著な効果をもたらすことを見出したものである。
【0048】
(B)成分の含有量は特に制限されないが、人工爪組成物が上述したコーティング、接着、着色等を用途とする場合、(B)成分の含有量の下限は、人工爪組成物100質量部に対して0.1質量部以上であることが好ましく、0.5質量部以上であることがより好ましく、1質量部以上であることがさらに好ましい。また、(B)成分の含有量の上限は、人工爪組成物100質量部に対して40質量部以下であることが好ましく、20質量部以下であることがより好ましく、10質量部以下であることがさらに好ましく、8質量部以下であることが特に好ましい。
【0049】
人工爪組成物が上述したプライマーを用途とする場合、(B)成分の含有量の下限は、人工爪組成物100質量部に対して0.5質量部以上であることが好ましく、10質量部以上であることがより好ましく、30質量部以上であることがさらに好ましく、50質量部以上であることが特に好ましい。また、(B)成分の含有量の上限は、人工爪組成物100質量部に対して90質量部以下であることが好ましく、70質量部以下であることがより好ましい。
【0050】
(B)成分は、1種類でなく、2種類以上の混合物であってもよい。また、高温環境下や多湿環境下に置かれた後の品質劣化に影響を及ぼさない範囲であれば、(B)成分として、スペーサー基の鎖長がC3(炭素数:3)以下及び/又はC7(炭素数:7)以上の化合物を含んでもよい。
【0051】
〔(C)成分:ラジカル重合開始剤〕
本実施形態に記載の人工爪組成物は、ラジカル重合開始剤を含有する。カチオン重合開始剤の使用は、毒性の問題を生じ得るため好ましくない。
【0052】
ラジカル重合開始剤は、光硬化性であってもよく、熱硬化性であってもよいが、数10秒から数分で人工爪組成物を固められることから、ラジカル重合開始剤は、光硬化性であることが好ましい。
【0053】
[光ラジカル重合開始剤]
人工爪組成物が光硬化性である場合、(C)成分は、光の作用によりラジカル共重合を開始させる能力を有するものであれば特に限定されない。例えば、4-フェノキシジクロロアセトフェノン、4-t-ブチル-ジクロロアセトフェノン、4-t-ブチル-トリクロロアセトフェノン、ジエトキシアセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-フェニル-1-フェニルプロパン-1-オン、1-(4-ドデシルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、1-(4-イソプロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル-(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ケトン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルホリノプロパン-1等のアセトフェノン系開始剤;ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンジルメチルケタール等のベンゾイン系開始剤;ベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸、ベンゾイル安息香酸メチル、4-フェニルベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、アクリル化ベンゾフェノン、4-ベンゾイル-4’-メチルジフェニルサルファイド、3,3’-ジメチル-4-メトキシベンゾフェノン、4,4’-ジメチルアミノベンゾフェノン、4,4’-ジエチルアミノベンゾフェノン、3,3’,4,4’-テトラ(t-ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン等のベンゾフェノン系開始剤;チオキサントン、2-クロロチオキサントン、2-メチルチオキサントン、2,4-ジメチルチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、2,4-ジイソプロピルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、1-クロロ-4-プロポキシチオキサントン、2,4-ジクロロチオキサントン等のチオキサントン系開始剤;α-アシロキシムエステル、メチルフェニルグリオキシレート、ベンジル、9,10-フェナンスレンキノン、カンファーキノン、ジベンゾスベロン、2-エチルアントラキノン、4’,4’’-ジエチルイソフタロフェノン等のケトン系開始剤;2,2’-ビス(2-クロロフェニル)-4,4’,5,5’-テトラフェニル-1,2’-イミダゾール等のイミダゾール系開始剤;2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド等のアシルホスフィンオキサイド系開始剤;カルバゾール系開始剤等が挙げられる。
【0054】
光ラジカル重合開始剤は単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0055】
光ラジカル重合開始剤の含有量は特に限定されるものでないが、人工爪組成物100質量部に対して0.01質量部以上20質量部以下であることが好ましく、0.1質量部以上10質量部以下であることがより好ましい。
【0056】
[熱ラジカル重合開始剤]
人工爪組成物が熱硬化性である場合、(C)成分は、常温熱硬化性を有することが好ましい。
【0057】
常温熱硬化性を有する熱ラジカル重合開始剤として、有機過酸化物及びアゾ化合物のいずれを使用してもよい。有機過酸化物の具体例としては、メチルエチルケトンパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド、メチルシクロヘキサノンパーオキサイド、メチルアセテートパーオキサイド、アセチルアセテートパーオキサイド、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)ブタン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-シクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-2-メチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロドデカン、1,1-ビス(t-ヘキシルパーオキシ)-シクロヘキサン、1,1-ビス(t-ヘキシルパーオキシ)-3、3.5-トリメチルシクロヘキサン、2,2-ビス(4,4-ジ-t-ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、t-ブチルハイドロパーオキサイド、t-ヘキシルハイドロパーオキサイド、1,1,3,3-テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、p-メンタンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、α,α’-ビス(t-ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3、イソブチリルパーオキサイド、3,3,5-トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ステアロイルパーオキサイド、スクシン酸パーオキサイド、m-トルオイルベンゾイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ジ-n-プロピルパーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ビス(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ-2-エトキシエチルパーオキシジカーボネート、ジ-2-エトキシヘキシルパーオキシジカーボネート、ジ-3-メトキシブチルパーオキシジカーボネート、ジ-s-ブチルパーオキシジカーボネート、ジ(3-メチル-3-メトキシブチル)パーオキシジカーボネート、α,α’-ビス(ネオデカノイルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、t-ブチルパーオキシネオデカノエート、t-ヘキシルパーオキシネオデカノエート、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、1-シクロヘキシル-1-メチルエチルパーオキシネオデカノエート、クミルパーオキシネオデカノエート、t-ブチルパーオキシピバレート、t-ヘキシルパーオキシピバレート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ヘキシルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、2,5-ジメチル-2,5-ビス(2-エチルヘキサノイルパーオキシ)ヘキサノエート、1-シクロヘキシル-1-メチルエチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t-ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキシルモノカーボネート、t-ブチルパーオキシアリルモノカーボネート、t-ブチルパーオキシイソブチレート、t-ブチルパーオキシマレート、t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-ヘキシルパーオキシベンゾエート、t-ブチルパーオキシ-m-トルイルベンゾエート、t-ブチルパーオキシラウレート、t-ブチルパーオキシアセテート、ビス(t-ブチルパーオキシ)イソフタレート、2,5-ジメチル-2,5-ビス(m-トルイルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ビス(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t-ブチルトリメチルシリルパーオキサイド、3,3’,4,4’-テトラ(t-ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、2,3-ジメチル-2,3-ジフェニルブタン等が挙げられる。
【0058】
アゾ化合物の具体例として、1-[(1-シアノ-1-メチルエチル)アゾ]ホルムアミド、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチル-4-メトキシバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2-フェニルアゾ-4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)ジヒドロクロリド、2,2-アゾビス(2-メチル-N-フェニルプロピオンアミジン)ジヒドロクロリド、2,2’-アゾビス[N-(4-クロロフェニル)-2-メチルプロピオンアミジン]ジヒドロクロリド、2,2’-アゾビス[N-(4-ヒドロフェニル)-2-メチルプロピオンアミジン]ジヒドロクロリド、2,2’-アゾビス[2-メチル-N-(2-プロペニル)プロピオンアミジン]ジヒドロクロリド、2,2’-アゾビス[N-(2-ヒドロキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン]ジヒドロクロリド、2,2’-アゾビス[2-メチル-N-(フェニルメチル)プロピオンアミジン]ジヒドロクロリド、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジヒドロクロリド、2,2’-アゾビス[2-(5-メチル-2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジヒドロクロリド、2,2’-アゾビス{2-[1-(2-ヒドロキシエチル)-2-イミダゾリン-2-イル]プロパン}ジヒドロクロリド、2,2’-アゾビス[2-(4,5,6,7-テトラヒドロ-1H-1,3-ジアゼピン-2-イル)プロパン]ジヒドロクロリド、2,2’-アゾビス[2-(3,4,5,6-テトラヒドロピリミジンー2-イル)プロパン]ジヒドロクロリド、2,2’-アゾビス[2-(5-ヒドロキシ-3,4,5,6-テトラヒドロピリミジン-2-イル)プロパン]ジヒドロクロリド、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミド)、2,2’-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2’-アゾビス{2-メチル-N-[1,1-ビス(ヒドロキシメチル)-2-ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2,2’-アゾビス{2-メチル-N-[1,1-ビス(ヒドロキシメチル)エチル]プロピオンアミド}、2,2’-アゾビス(2-メチルプロパン)、2,2’-アゾビス(2,4,4-トリメチルペンタン)、ジメチル2,2-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、4,4’-アゾビス(4-シアノペンタン酸)、2,2’-アゾビス[2-(ヒドロキシメチル)プロピオニトリル]等が挙げられる。
【0059】
熱ラジカル重合開始剤は単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0060】
熱ラジカル重合開始剤の含有量は特に限定されるものでないが、人工爪組成物100質量部に対して0.01質量部以上10質量部以下であることが好ましく、0.1質量部以上5質量部以下であることがより好ましい。
【0061】
なお、(C)成分は、熱ラジカル重合開始剤及び光ラジカル重合開始剤の両方を含むものであってもよい。
【0062】
〔各種添加剤〕
本実施形態の人工爪組成物には、必要に応じて、公知の各種添加剤を配合することができる。かかる添加剤の例としては、重合促進剤、重合禁止剤、着色剤、変色防止剤、蛍光剤、紫外線吸収剤、抗菌剤、揮発性有機溶媒等が挙げられる。
【実施例0063】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるもので
はない。
【0064】
<人工爪組成物>
〔使用した成分〕
(A)1分子中に1個以上のラジカル重合性不飽和結合を有するラジカル重合性化合物
[疎水性の重合性単量体]
AH1:ビスHEA(ポリ(1,4-ブタンジオール)-9/IPDI)コポリマー
AH2:イソボルニルメタクリレート
[親水性の重合性単量体]
AP1:2-ヒドロキシエチルメタクリレート
AP2:2-ヒドロキシプロピルメタクリレート
【0065】
(B)リン酸エステル化合物
B1:2-ヒドロキシエチルアクリレートアシッドフォスフェート(比較例)
B2:2-ヒドロキシプロピルアクリレートアシッドフォスフェート(比較例)
B3:4-ヒドロキシブチルアクリレートアシッドフォスフェート(実施例)
B4:6-ヒドロキシヘキシルメタクリレートアシッドフォスフェート(実施例)
【0066】
(C)光重合開始剤
C1:2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド
【0067】
〔人工爪組成物の調整〕
表1及び表2の調整混合に従い、上記A1-A4、B1-B5、C1の成分を電子天秤により計量後、攪拌混合して実施例1~9、比較例1~9に係る人工爪組成物を調製した。
【表1】
【表2】
【0068】
<評価試験>
調製した人工爪組成物それぞれについて、以下に示す手順で安定性の評価、接着性試験及び除去性試験を行った。
【0069】
〔評価試験の手順〕
[高温環境下での安定性の評価]
人工爪組成物中のリン酸基含有重合性単量体の相溶性について評価した。
(安定性の評価及び評価尺度)
調製した人工爪組成物20gを透明ガラス容器(容量:30ml)に充填し遮光状態、50℃環境、7日間静置した。7日間の静置後、内容物の状態を目視確認した。ここで、各成分が均一に混合されており、内容物に沈殿、凝集、析出物等の発生が認められない場合、人工爪組成物として良好な安定性を有し、内容物に沈殿、凝集、析出物等の発生が認めれる場合は人工爪組成物として適さないと判断する。
【0070】
[高温多湿環境下での安定性の評価]
調製した人工爪組成物20gを透明ガラス容器(容量:30ml)に充填し遮光状態とした。ただし容器は密閉せずキャップを除した状態で天面を開放状態として、40℃かつ相対湿度(RH,relative humidity)100%環境下で15時間静置した。静置後、内容物の状態を目視確認した。ここで、各成分が均一に混合されており、内容物に沈殿、凝集、析出物等の発生や、水分の吸収による色調変化などが認められない場合、人工爪組成物として良好な安定性を有し、内容物に沈殿、凝集、析出物等の発生や水分の吸収による色調変化が認めれる場合は人工爪組成物として適さないと判断する。
【0071】
[接着性試験]
接着性試験では、人工爪組成物を被験者の天然爪に塗布して硬化後、一定期間の日常生活を送った後の人工爪組成物の接着性を評価した。接着性試験の詳細な手順を以下に示す。
【0072】
(接着性試験用サンプルの作製)
ジェルネイル用ネイルファイル(爪やすり、粗さ:600グリッド)を使用して、天然爪表面を削り新鮮面を得る。
【0073】
続いて、新鮮面を、エタノールを含侵させたワイプでふき取り、粉塵の除去と油分除去を行う。
【0074】
続いて、粉塵等を除去した新鮮面に人工爪組成物を塗布し、市販ジェルネイル専用LEDライトを使用して硬化させる。
【0075】
続いて、硬化させた人工爪組成物の上から市販トップジェルを塗布し、市販ジェルネイル専用LEDライトを使用して硬化させる。なお、トップジェルは、天然爪に塗布した人工爪組成物等のジェルネイルを用いた美粧の表面に塗布し、良好なツヤを得るためのジェルネイル商材である。
(接着性試験における接着性の評価及び評価尺度)
美粧を天然爪上に施した状態で、被験者は、14日間の日常生活を送る。そして、14日間の日常生活を送った後の天然爪上の人工爪組成物硬化体の状態を表3の尺度で分類したものを接着性試験の評価点とした。
【表3】
【0076】
[除去性試験]
除去性試験では、接着性試験2と同様に人工爪組成物を被験者の天然爪に塗布して硬化後、一定期間の日常生活を送った後の人工爪組成物の除去性を評価した。除去性試験の詳細な手順を以下に示す。
【0077】
(除去性試験用サンプルの作製)
除去性試験用サンプルの作製は、接着性試験と同様である。
【0078】
(除去性試験における除去性の評価及び評価尺度)
除去性試験用サンプルの作製による美粧を天然爪上に施した状態で、被験者は、14日間の日常生活を送る。
【0079】
14日間の日常生活を送った後の天然爪上の人工爪組成物硬化体等の美粧に対し、ジェルネイル用ネイルファイル(爪やすり、粗さ:80グリッド)を用いて最表面のトップジェルを削り落とす。
【0080】
そして、トップジェルを削り落とした人工爪組成物硬化体上に、アセトンを含侵させたワイプを載置し、アルミホイルで指先を包み込む。これにより、アセトンの蒸発が防がれ、アセトンによって人工爪組成物硬化体が膨潤する状態となる。そして、指先を10分間静置した後にアルミホイル及びワイプを除去する。
【0081】
アルミホイル及びワイプを除去した後の人工爪組成物硬化体を天然爪から除去することを試み、その様子を観察する。この観察の結果を表4の尺度で分類したものを除去性試験の評価点(除去性)とした。
【表4】
【0082】
〔評価試験の結果〕
評価試験の結果を表5及び表6に示す。
【表5】
【表6】
【0083】
[安定性]
実施例1~9の人工爪組成物は、いずれも安定性に優れ、50℃環境下で7日間静置しても、内容物に沈殿、凝集、析出物等の発生は、認められなかった。また、40℃100%RH環境下で15時間静置した場合であっても、吸湿によって表面が僅かに白濁したものの、各成分の均一性が保たれ、内容物の変化は認められなかった。
【0084】
それに対し、比較例1~9の人工爪組成物では、(B)成分であるリン酸エステル化合物が分離し、容器底面に沈降していた。特に、40℃100%RH環境下で15時間静置した場合、吸湿により表面が著しく白濁し、明確な色調変化が認められた。(メタ)アクリレート基は疎水性を示し、リン酸基は親水性を示す。一般に、人工爪組成物において用いられるリン酸基含有重合性単量体は、親水性のリン酸基と疎水性の重合性基との間に、スペーサー基が存在する構造を持つ。実施例のスペーサー基であるブチル及びヘキシル基は比較例のスペーサー基であるエチル及びプロピル基よりも炭素数が多く、疎水性が強いため、全体として実施例のB3及びB4の化合物は、比較例のB1及びB2の化合物よりも化合物全体として疎水性に偏っている。そのため、人工爪組成物の主成分である、(A)成分との相溶性が良好であり、高温環境下や高温多湿環境下に置かれた後であっても、経時的な(B)成分の分離等が発生しないと考えられる。また、(B)成分の疎水性が上昇すると、(B)成分自体が酸性化合物として機能せず、接着性の低下が想定されたが、接着性試験により良好な接着性を有していることを確認した。
【0085】
他方、比較例1~9の人工爪組成物では、スペーサー基の鎖長が十分でなく、リン酸基含有重合性単量体全体の親疎性のバランスが親水性に偏り過ぎたために、リン酸基含有重合性単量体が分離したものと考えられる。
【0086】
[接着性]
実施例1~9では、人工爪組成物を調製した直後のサンプルと、50℃環境で7日間静置した後のサンプルとの両方で良好な接着性を示した。それに対し、比較例1~9では、調製直後のサンプルは良好な接着性を示したものの、50℃環境で7日間静置した後のサンプルでは十分な接着性を得られなかった。これは、(A)成分による(メタ)アクリル系化合物の重合反応から得られる高い接着強度と、(B)成分の酸性リン化合物によって得られる基体との高い密着性とのバランスが崩れてしまい、接着界面において基体との十分な密着性が得られなかったためと推察される。
【0087】
[除去性]
実施例1~9の人工爪組成物は、爪甲表面からの硬化物の除去性が良好であり、爪甲表面にダメージを与えることなく除去可能であった。それに対し、比較例1~9の人工爪組成物では、14日以内に天然爪上の人工爪組成物が剥離、脱落したため、除去性を評価することができなかった。
本実施形態に記載の発明によると、高温環境下や多湿環境下に置かれることに起因するウレタンアクリレートや(メタ)アクリレートモノマーに例示される化合物の加水分解、特に、リン酸基含有重合性単量体の相溶性のバランスが崩れることに起因するリン酸基含有重合性単量体の変質を抑えた人工爪組成物を提供できる。これにより、高温多湿となる夏季であっても安定して施術可能な人工爪組成物を提供できる。
前記水酸基を有する(メタ)アクリレートは、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート及び/又はヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートを含む、請求項2に記載の人工爪組成物。