(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025016876
(43)【公開日】2025-02-05
(54)【発明の名称】臨床判断支援装置、臨床判断支援システム、臨床判断支援方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G16H 20/00 20180101AFI20250129BHJP
【FI】
G16H20/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023119646
(22)【出願日】2023-07-24
(71)【出願人】
【識別番号】516154233
【氏名又は名称】学校法人医療創生大学
(71)【出願人】
【識別番号】510108951
【氏名又は名称】公立大学法人広島市立大学
(71)【出願人】
【識別番号】516274302
【氏名又は名称】Kenpal株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002055
【氏名又は名称】弁理士法人iRify国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】葛西 好美
(72)【発明者】
【氏名】川口 孝泰
(72)【発明者】
【氏名】高橋 道明
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 嘉章
(72)【発明者】
【氏名】今井 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】飯田 貫
(72)【発明者】
【氏名】小林 一功
【テーマコード(参考)】
5L099
【Fターム(参考)】
5L099AA01
(57)【要約】
【課題】看護ケアに関する状況分類の特定および類似事例を機械学習により判別し、療養者の課題を解決するためのケア内容を提示することで、臨床判断を支援すること。
【解決手段】本発明の臨床判断支援装置は、療養者の属性データ及び看護ケアに関する状況分類データを学習データとして機械学習を行うことで、状況分類判別のための数理モデルを構築する学習部11fと、類似事例及びケア内容に係るデータと数理モデルを記憶する記憶部13と、療養者の属性データの入力を受け付け、数理モデルにより療養者の臨床判断に係る状況分類を判別する分類部11cと、状況分類に対応する類似事例を特定する事例特定部11dと、類似事例に対応するケア内容を特定するケア内容特定部11eとを備えたものである。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
端末装置と通信自在な臨床判断支援装置であって、
療養者の属性データ及び看護ケアに関する状況分類データを学習データとして機械学習を行うことで、状況分類判別のための数理モデルを構築する学習部と、
前記端末装置からの療養者の属性データを受信する受信部と、
少なくとも、類似事例及びケア内容に係るデータと前記数理モデルを記憶する記憶部と、
前記療養者の属性データの入力を受け付け、前記数理モデルにより前記療養者の臨床判断に係る状況分類を判別する分類部と、
前記状況分類に対応する前記類似事例を特定する事例特定部と、
前記類似事例に対応する前記ケア内容を特定するケア内容特定部と、
前記類似事例及び前記ケア内容に係るデータを前記端末装置に送信する送信部と、を備えた臨床判断支援装置。
【請求項2】
前記療養者の属性データとは、療養者の生年月日、性別、主傷病名、同居家族、コントロール困難な症状、状況、療養者及び家族の認知症日常生活自立度、医療管理自立度、療養者及び家族の病状理解の程度、療養者及び家族の意思、意向の不確かさ、家族介護力、及び看護師との信頼関係に係るデータである
請求項1に記載の臨床判断支援装置。
【請求項3】
前記状況分類とは、第1に生命の危険性の高い病状及び状態、第2に療養者及び家族と看護師との関係構築の難しさ、第3に介護者及び家族の介護力不足、第4に療養者及び家族の治療及び療養に関する意思の不明確さ及びずれ、第5に病状及び医療処置管理の自立の難しさ、第6に家族関係への介入の難しさ、第7に看護師による医療及びケア対応の難しさ、第8に他職種との関わりの難しさ、の8分類である
請求項1に記載の臨床判断支援装置。
【請求項4】
前記学習部は、前記類似事例及び前記ケア内容に係るデータを送信した前記看護師の端末装置からのデータのフィードバックを受けて、前記フィードバックに係るデータを学習データとして更に機械学習を行うことで、状況分類判別のための数理モデルを更新する
請求項1に記載の臨床判断支援装置。
【請求項5】
端末装置と、臨床判断支援装置とからなる臨床判断支援システムであって、
前記端末装置は、
療養者の属性データを前記臨床判断支援装置に送信すると共に、前記臨床判断支援装置に、類似事例及びケア内容の提示の要求を行う第1送信部と、
前記臨床判断支援装置からの前記類似事例及びケア内容に係るデータを受信する第1受信部と、
前記類似事例及びケア内容に係るデータに基づく表示を行う表示部と、を備え、
前記臨床判断支援装置は、
療養者の属性データ及び看護ケアに関する状況分類データを学習データとして機械学習を行うことで、状況分類判別のための数理モデルを構築する学習部と、
前記端末装置からの療養者の属性データを受信する第2受信部と、
少なくとも、類似事例及びケア内容に係るデータと前記数理モデルを記憶する記憶部と、
前記療養者の属性データの入力を受け付け、前記数理モデルにより前記療養者の臨床判断に係る状況分類を判別する分類部と、
前記状況分類に対応する前記類似事例を特定する事例特定部と、
前記類似事例に対応する前記ケア内容を特定するケア内容特定部と、
前記類似事例及び前記ケア内容に係るデータを前記端末装置に送信する第2送信部と、を備えた
臨床判断支援システム。
【請求項6】
前記療養者の属性データとは、療養者の生年月日、性別、主傷病名、同居家族、コントロール困難な症状、状況、療養者及び家族の認知症日常生活自立度、医療管理自立度、療養者及び家族の病状理解の程度、療養者及び家族の意思、意向の不確かさ、家族介護力、及び看護師との信頼関係に係るデータである
請求項5に記載の臨床判断支援システム。
【請求項7】
前記状況分類とは、第1に生命の危険性の高い病状及び状態、第2に療養者及び家族と看護師との関係構築の難しさ、第3に介護者及び家族の介護力不足、第4に療養者及び家族の治療及び療養に関する意思の不明確さ及びずれ、第5に病状及び医療処置管理の自立の難しさ、第6に家族関係への介入の難しさ、第7に看護師による医療及びケア対応の難しさ、第8に他職種との関わりの難しさ、の8分類である
請求項5に記載の臨床判断支援システム。
【請求項8】
前記学習部は、前記類似事例及び前記ケア内容に係るデータを送信した前記看護師の端末装置からのデータのフィードバックを受けて、前記フィードバックに係るデータを学習データとして更に機械学習を行うことで、状況分類判別のための数理モデルを更新する
請求項5に記載の臨床判断支援システム。
【請求項9】
端末装置と通信自在な臨床判断支援装置による方法であって、
学習部が、療養者の属性データ及び看護ケアに関する状況分類データを学習データとして機械学習を行うことで、状況分類判別のための数理モデルを構築し、
受信部が、前記端末装置からの療養者の属性データを受信し、
記憶部が、少なくとも、類似事例及びケア内容に係るデータと前記数理モデルを記憶し、
分類部が、前記療養者の属性データの入力を受け付け、前記数理モデルにより前記療養者の臨床判断に係る状況分類を判別し、
事例特定部が、前記状況分類に対応する前記類似事例を特定し、
ケア内容特定部が、前記類似事例に対応する前記ケア内容を特定し、
送信部が、前記類似事例及び前記ケア内容に係るデータを前記端末装置に送信する
臨床判断支援方法。
【請求項10】
類似事例及びケア内容に係るデータと数理モデルとを記憶する記憶部を備え、端末装置と通信自在な臨床判断支援装置を、
療養者の属性データ及び看護ケアに関する状況分類データを学習データとして機械学習を行うことで、状況分類判別のための数理モデルを構築する学習部、
前記端末装置からの療養者の属性データを受信する受信部、
前記療養者の属性データの入力を受け付け、前記数理モデルにより前記療養者の臨床判断に係る状況分類を判別する分類部、
前記状況分類に対応する前記類似事例を特定する事例特定部、
前記類似事例に対応する前記ケア内容を特定するケア内容特定部、及び
前記類似事例及び前記ケア内容に係るデータを前記端末装置に送信する送信部、として機能させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、AI(Artificial Intelligence)技術により導出された訪問看護等に係る根拠データと、訪問看護師等の経験知とを融合させた臨床判断支援のための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、医学分野ではオンライン診療やAIによる医師の診断支援、ウェアラブルデバイスによる日常データの収集等デジタル技術が飛躍的に進歩しつつある。そのような中、看護においては、国外の医療機関での患者の生体データや看護記録からAI技術を用いた患者のリスク検出、音声認識技術を用いた看護記録等の研究が進められている。そして、療養者のアセスメントの作成、管理を支援する各種の技術も提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1では、看護過程をアセスメント・看護診断・計画・実行・評価の段階に分け、各段階に関するデータを管理し、それを表示すると共に各段階に関するデータの入力を受け付け管理する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特に訪問看護においては病院におけるケアに比べて多様な状況への対応が迫られるため、特に経験の少ない看護師にとっては状況判断や意思決定に困難を感じる状況が少なくない。特許文献1では、看護過程の各データを管理することができるが、療養者の課題を解決するためのケア内容を看護師等に提示することは出来ず、訪問看護師の困難感を軽減することが十分でない。
【0006】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、訪問看護師等の臨床判断において困難感が生じたときに、看護ケアに関する状況分類の特定および類似事例を機械学習により判別し、療養者の課題を解決するためのケア内容を提示することで、臨床判断を支援する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の一態様に係る臨床判断支援装置は、端末装置と通信自在な臨床判断支援装置であって、療養者の属性データ及び看護ケアに関する状況分類データを学習データとして機械学習を行うことで、状況分類判別のための数理モデルを構築する学習部と、前記端末装置からの療養者の属性データを受信する受信部と、少なくとも、類似事例及びケア内容に係るデータと前記数理モデルを記憶する記憶部と、前記療養者の属性データの入力を受け付け、前記数理モデルにより前記療養者の臨床判断に係る状況分類を判別する分類部と、前記状況分類に対応する前記類似事例を特定する事例特定部と、前記類似事例に対応する前記ケア内容を特定するケア内容特定部と、前記類似事例及び前記ケア内容に係るデータを前記端末装置に送信する送信部と、を備える。
【0008】
本発明の他の態様に係る臨床判断支援システムは、端末装置と、臨床判断支援装置とからなる臨床判断支援システムであって、前記端末装置は、療養者の属性データを前記臨床判断支援装置に送信すると共に、前記臨床判断支援装置に、類似事例及びケア内容の提示の要求を行う第1送信部と、前記臨床判断支援装置からの前記類似事例及びケア内容に係るデータを受信する第1受信部と、前記類似事例及びケア内容に係るデータに基づく表示を行う表示部と、を備え、前記臨床判断支援装置は、療養者の属性データ及び看護ケアに関する状況分類データを学習データとして機械学習を行うことで、状況分類判別のための数理モデルを構築する学習部と、前記端末装置からの療養者の属性データを受信する第2受信部と、少なくとも、類似事例及びケア内容に係るデータと前記数理モデルを記憶する記憶部と、前記療養者の属性データの入力を受け付け、前記数理モデルにより前記療養者の臨床判断に係る状況分類を判別する分類部と、前記状況分類に対応する前記類似事例を特定する事例特定部と、前記類似事例に対応する前記ケア内容を特定するケア内容特定部と、前記類似事例及び前記ケア内容に係るデータを前記端末装置に送信する第2送信部と、を備える。
【0009】
本発明の他の態様に係る診療判断支援方法は、端末装置と通信自在な臨床判断支援装置による方法であって、学習部が、療養者の属性データ及び看護ケアに関する状況分類データを学習データとして機械学習を行うことで、状況分類判別のための数理モデルを構築し、受信部が、前記端末装置からの療養者の属性データを受信し、記憶部が、少なくとも、類似事例及びケア内容に係るデータと前記数理モデルを記憶し、分類部が、前記療養者の属性データの入力を受け付け、前記数理モデルにより前記療養者の臨床判断に係る状況分類を判別し、事例特定部が、前記状況分類に対応する前記類似事例を特定し、ケア内容特定部が、前記類似事例に対応する前記ケア内容を特定し、送信部が、前記類似事例及び前記ケア内容に係るデータを前記端末装置に送信する。
【0010】
本発明の他の態様に係るプログラムは、類似事例及びケア内容に係るデータと数理モデルとを記憶する記憶部を備え、端末装置と通信自在な臨床判断支援装置を、療養者の属性データ及び看護ケアに関する状況分類データを学習データとして機械学習を行うことで、状況分類判別のための数理モデルを構築する学習部、前記端末装置からの療養者の属性データを受信する受信部、前記療養者の属性データの入力を受け付け、前記数理モデルにより前記療養者の臨床判断に係る状況分類を判別する分類部、前記状況分類に対応する前記類似事例を特定する事例特定部、前記類似事例に対応する前記ケア内容を特定するケア内容特定部、及び前記類似事例及び前記ケア内容に係るデータを前記端末装置に送信する送信部、として機能させる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、訪問看護師等の臨床判断において困難感が生じたときに、看護ケアに関する状況分類の特定および類似事例を機械学習により判別し、療養者の課題を解決するためのケア内容を提示することで、臨床判断を支援する技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態に係る臨床判断支援システムの構成図である。
【
図2】同システムの臨床判断支援装置の構成図である。
【
図4】療養者情報登録に係る処理の流れを示すフローチャートである。
【
図5】看護師への類似事例提示等に係る処理の流れを示すフローチャートである。
【
図8】療養者情報登録画面の表示例を示す図である。
【
図9】療養者情報登録画面の表示例を示す図である。
【
図10】状況分類・類似事例画面の表示例を示す図である。
【
図11】新たな困難登録画面の表示例を示す図である。
【
図12】ケア内容一覧画面の表示例を示す図である。
【
図13】ケア内容解説画面の表示例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施形態について説明する。
【0014】
以下の実施形態では、熟練訪問看護師による類似事例へのアセスメントおよびケア内容を基にして、類似事例やケア内容を提示することにより、療養者や家族の個別的な課題や困難の速やかな発見と解決と共に、訪問看護師のケアの質向上を実現している。また、機械学習の予測性能を高めるために、継続して類似事例やケアに関するデータを収集しビッグデータとして蓄積し、学習に活かすようにしている。以下、詳述する。
【0015】
図1には、本発明の実施形態に係る臨床判断支援システムの構成を示し説明する。
【0016】
同図に示されるように、本発明の実施形態に係る臨床判断支援システムは、サーバ装置等からなる臨床判断支援装置1と、看護師の端末装置2と、療養者の家族の端末装置3とが、インターネット等の通信網4と無線又は有線で通信自在に接続され、構成されている。なお、端末装置2,3としては、ノート型パーソナルコンピュータ、デスクトップ型パーソナルコンピュータ、スマートフォン、タブレット端末等といった各種のものを採用できる。
【0017】
このような構成において、臨床判断支援装置1は、療養者の属性データ及び看護ケアに関する状況分類データを学習データとして機械学習を行うことで、状況分類判別のための数理モデルを構築する。看護師の端末装置2からの療養者の属性データを受信すると、療養者の属性データの入力を受け付け、数理モデルにより療養者の臨床判断に係る状況分類を判別する。そして、看護師の端末装置3から、類似事例及びケア内容の提示の要求を受けると、状況分類に対応する類似事例を特定し、類似事例に対応するケア内容を特定し、類似事例及びケア内容に係るデータを看護師の端末装置3に送信し、これらの表示及び確認を促す。また、臨床判断支援装置1は、類似事例及びケア内容に係るデータを送信した看護師の端末装置3からのデータのフィードバックを受けると、そのフィードバックに係るデータを学習データとして更に機械学習を行うことで、状況分類判別のための数理モデルを更新する。このフィードバックに係るデータは、テキストデータ等を採用することができるが、これには限定されない。
【0018】
図2には、臨床判断支援システムの臨床判断支援装置の構成を示し説明する。
【0019】
同図に示されるように、臨床判断支援装置1は、制御部11と、通信I/F12と、記憶部13とを有する。制御部11と、通信I/F12と、記憶部13とは、バスラインを介して通信可能に接続されている。これら構成に加えて、例えばキーボードやマウス等の操作入力部や、各種表示を行う液晶ディスプレイ等の表示部を有してもよい。通信I/F12は、例えば、NIC等により実現されるもので、インターネット等の通信網4と有線又は無線で接続され、端末装置2、3等との間で通信を行う。
【0020】
記憶部13は、例えば、RAMやフラッシュメモリ等の半導体メモリ素子、HDD、または光ディスク装置等で実現されるもので、制御部11で実行されるプログラムを予め記憶している。また、記憶部13は、療養者情報記憶部14、看護師情報記憶部15、類似事例記憶部16、ケア情報記憶部17、及び学習用記憶部18を有する。
【0021】
療養者情報記憶部14は、療養者IDと紐づけて、療養者の属性データ、登録時に付与された状況分類等を記憶している。より詳細には、療養者の属性データには、例えば、療養者の生年月日、性別、主傷病名、同居家族、コントロール困難な症状、状況、療養者及び家族の認知症日常生活自立度、医療管理自立度、療養者及び家族の病状理解の程度、療養者及び家族の意思、意向の不確かさ、家族介護力、及び看護師との信頼関係に係るデータ等が含まれる。但し、これらには限定されないことは勿論である。
【0022】
ここで、状況分類とは、第1に生命の危険性の高い病状及び状態、第2に療養者及び家族と看護師との関係構築の難しさ、第3に介護者及び家族の介護力不足、第4に療養者及び家族の治療及び療養に関する意思の不明確さ及びずれ、第5に病状及び医療処置管理の自立の難しさ、第6に家族関係への介入の難しさ、第7に看護師による医療及びケア対応の難しさ、第8に他職種との関わりの難しさ、の8分類である。但し、これらには限定されないことは勿論である。
【0023】
看護師情報記憶部15は、看護師IDと紐づけて、看護師の属性データ、看護を担当している療養者の療養者ID等を記憶している。より詳細には、この看護師の属性データには、看護師の氏名、生年月日、性別、訪問看護師経験年数、その他の看護職の経験、その他の看護師の経験年数等のデータが含まれる。
【0024】
類似事例記憶部16は、事例IDと紐づけて、訪問看護等に係る臨床判断に関わる過去の事例情報(類似事例)、対応する状況分類等を記憶している。看護師の端末装置3に提示する類似事例は、担当する療養者に付与された状況分類をキーとして、類似事例記憶部16を参照することで、関連性の高い事例を読み出すことができる。
【0025】
ケア情報記憶部17には、ケアIDと紐づけて、ケア内容及びその詳細、対応する類似事例の事例ID及びその優先度を記憶している。ここで、ケア内容としては、以下のような内容を予め設定している。即ち、第1に病状の対応に伴う生活の影響を最小限にする、第2に急変・トラブルを未然に防ぐ、第3に急変に対応する、第4に在宅療養者・家族の意思決定を支える、第5に在宅療養者・家族との信頼関係を築く、第6に介護を担う家族を支援する、第7に在宅療養継続の可能性を見極める、第8に訪問看護体制を整える、第9に主治医と連携する、第10に多職種と連携する、等である。これらケア内容ごとに、対応する類似事例IDが記憶され、更にこれらケア内容の再分類との対応関係についてスコアリングがなされており、そのスコア値が優先度として併せて記憶されている。
【0026】
このほか、学習用記憶部18は、機械学習により算定された数理モデルのほか、機械学習用の各種データを記憶している。
【0027】
制御部11は、CPUやMPU等で実現される。制御部11は、ASICやFPGA等の集積回路で構成される。制御部11は、記憶部13に記憶されているプログラムを読み出し実行することで、通信部11a、管理部11b、分類部11c、事例特定部11d、ケア内容特定部11e、学習部11f、及び主制御部11g等として機能する。
【0028】
このような構成において、通信部11aは、通信I/F12を介して、看護師の端末装置2からの療養者の属性データを受信する受信部、看護師の端末装置2に類似事例及びケア内容に係るデータ等を送信する送信部として機能する。
【0029】
管理部11bは、看護師の端末装置2からの療養者の属性データ等を受け付けると、療養者IDを付与して、当該療養者IDと紐づけて療養者の属性データ等を療養者情報記憶部14に記憶し、管理する。更に、管理部11bは、看護師の端末装置3からの看護師の属性データ等を受け付けると、看護師IDを付与して、当該看護師IDを紐づけて看護師の属性データ等を看護師情報記憶部15に記憶し管理する。
【0030】
分類部11cは、療養者の属性データの入力を受け付け、記憶部13の学習用記憶部18に記憶されている数理モデルにより療養者の臨床判断に係る状況分類を判別する。この状況分類は、療養者情報記憶部14に併せて記憶される。
【0031】
事例特定部11dは、類似事例記憶部16を参照して、療養者の状況分類に対応する類似事例を特定する。
【0032】
ケア内容特定部11eは、ケア情報記憶部17を参照して、事例特定部11dが特定した類似事例に対応するケア内容を特定する。前述したように、ケア情報記憶部17には、ケアIDと紐づけて、ケア内容とケア内容の詳細、対応する類似事例の事例ID及びその優先度を記憶されている。より詳細には、ケア情報記憶部17には、ケア内容ごとに、対応する類似事例IDが記憶され、更にこれらケア内容の再分類との対応関係についてスコアリングがなされており、そのスコア値が優先度として併せて記憶されている。よって、ケア内容特定部11eは、事例特定部11dが特定した類似事例に対応するケア内容及びその詳細、更には当該ケア内容に対応する類似事例を特定することが可能となるのである。
【0033】
学習部11fは、療養者の属性データ、看護ケアに関する状況分類データ、及び類似事例データを学習データとして機械学習を行うことで、状況分類判別のための数理モデルを構築し、学習用記憶部18に記憶する。更に、学習部11fは、類似事例及びケア内容に係るデータを送信した看護師の端末装置3からのデータのフィードバックを受けて、フィードバックに係るデータを学習データとして更に機械学習を行うことで、状況分類判別のための数理モデルを更新する。このフィードバックのデータとしては、例えば、テキストデータ等を想定しているが、これには限定されないことは勿論である。
【0034】
さらに、学習部11fは、状況分類データと、類似事例データに加えて、ケア内容に係るデータを学習データとして機械学習を行うことで、状況分類と類似事例、ケア内容の対応関係の深さを優先度として算出し、その結果を類似事例記憶部16、ケア情報記憶部17に記憶するようにしてもよい。
【0035】
以上のほか、主制御部11gは、端末装置2,3によるアクセス時の認証など、各種の制御を司るものである。
【0036】
図3には、臨床判断支援システムの端末装置の構成を示し説明する。ここでは、看護師の端末装置2の構成を例示するが、療養者の家族の端末装置3も同様の構成である。
【0037】
同図に示されるように、端末装置2(3)は、制御部21と、通信部I/F22と、表示部23と、操作部24と、記憶部25とを有する。各部21~25は、バスラインを介して通信自在に接続されている。通信I/F22は、例えば、NIC等により実現されるもので、インターネット等の通信網4と有線又は無線で接続され、臨床判断支援装置1等との間で通信を行う。
【0038】
表示部23は、液晶ディスプレイ等により実現されるもので、各種表示を行う。操作部24は、マウスやキーボード等で実現され、ユーザによる各種操作入力を受け付ける。表示部23と操作部24とをタッチパネルとして一体に構成してもよい。記憶部25は、例えば、RAMやフラッシュメモリ等の半導体メモリ素子、HDD、または光ディスク装置等で実現されるもので、制御部21で実行されるプログラムを記憶している。
【0039】
制御部21は、CPUやMPU等で実現されるもので、ASICやFPGA等の集積回路で構成されてよい。制御部21は、記憶部25に記憶されているプログラムを実行することで、通信部21a、表示制御部21b、及び主制御部21cとして機能する。
【0040】
このような構成において、通信部21aは、臨床判断支援装置1に類似事例及びケア内容に係るHTML等の形式のデータを要求する送信部、臨床判断支援装置1からの類似事例及びケア内容に係るHTML等の形式のデータを受信する受信部として機能する。表示制御部21bは、臨床判断支援装置1から送られてきた類似事例及びケア内容に係るHTML等の形式のデータに基づいて、表示部23に表示を行うように制御する。このほか、主制御部21cは、端末装置の各種リクエスト送信など、各種の制御を司る。
【0041】
ここで、看護師の端末装置2から看護師の属性データの登録を行う際には、
図6に示されるような画面が表示部23に表示され、看護師の属性データとして、看護師の氏名、生年月日、性別、訪問看護師経験年数、その他の看護職の経験、その他の看護師の経験年数等のデータが入力された後、登録ボタン押下により、主制御部21cの制御の下、通信部21aがこれら属性データを臨床判断支援装置1に送信し、臨床判断支援装置1側で登録がなされることになる。前述したように、看護師情報記憶部15では、これら属性データに加えて、担当している療養者のIDも記憶されているので、
図7に示されるように、看護師ごとに、担当している療養者一覧を提示することも可能である。
【0042】
以下、
図4のフローチャートを参照して、臨床判断支援システムによる療養者情報登録及び分類に係る処理手順を説明する。
【0043】
看護師の端末装置2は、主制御部21cが、臨床判断支援装置1に対してログイン要求を行う(S1)。臨床判断支援装置1は、このログイン要求を通信部11aが受け付け、主制御部11gが所定の認証を行い(S2)、認証成立の場合には、療養者及び家族の端末装置2に、療養者情報登録画面に係るHTML等の形式のデータを送信する(S3)。療養者及び家族の端末装置2は、このデータを通信部21aが受信し、表示制御部21bの制御の下、表示部23に療養者情報登録画面が表示される(S4)。
【0044】
療養者情報登録画面は、例えば
図8、
図9に示されるように構成されている。同図に示されるように、基本情報として、氏名、生年月日、性別、主傷病名、同居家族、コントロール困難な症状・状況が入力可能であり、療養者・家族状況として、認知症日常生活自立度、医療管理自立度、病状理解の程度、意思・意向の不確かさ、看護師との信頼関係、家族介護力等の特定を選択することができ、そのほか、課題やアセスメントも、例えばテキストデータ等で入力することができるようになっている。
【0045】
看護師の端末装置2では、表示部23のこれら画面において、入力及び選択がなされ、登録(更新)ボタンが選択されると、主制御部21cが、通信部21aを介してこれらを療養者の属性データとして、臨床判断支援装置1に送信する(S5)。
【0046】
臨床判断支援装置1では、通信部11aが属性データを受け付け(S6)、分類部11cが学習用記憶部18に記憶されている数理モデルを参照して、属性データに基づく状況分類を行い(S7)、管理部11bが、療養者情報記憶部14に、療養者IDに紐づけて属性データと状況分類等を登録(更新)し、管理する(S8)。以上で、療養者情報登録及び分類に係る一例の処理を完了する。分類部11cは、療養者情報が更新されるごとに、あるいは所定のタイミングで、状況分類を実施し、適宜、療養者情報記憶部14の状況分類を更新するようにしてもよい。
【0047】
尚、状況分類とは、前述したように、第1に生命の危険性の高い病状及び状態、第2に療養者及び家族と看護師との関係構築の難しさ、第3に介護者及び家族の介護力不足、第4に療養者及び家族の治療及び療養に関する意思の不明確さ及びずれ、第5に病状及び医療処置管理の自立の難しさ、第6に家族関係への介入の難しさ、第7に看護師による医療及びケア対応の難しさ、第8に他職種との関わりの難しさ、の8分類である。但し、これらには限定されないことは勿論である。
【0048】
次に、
図5のフローチャートを参照して、臨床判断支援システムによる看護師への類似事例及びケア内容等の提示に係る処理手順を説明する。
【0049】
看護師の端末装置2は、主制御部21cが、臨床判断支援装置1に対してログイン要求を行う(S11)。臨床判断支援装置1では、ログイン要求を通信部11aが受け付け、主制御部11gが所定の認証を行い(S12)、認証成立の場合には、看護師の端末装置2に療養者一覧画面に係るHTML等の形式のデータを送信する(S13)。看護師の端末装置2は、このデータを通信部21aが受信し、表示制御部21bの制御の下、表示部23に療養者一覧画面が表示される(S14)。
【0050】
続いて、看護師の端末装置2において、療養者一覧の中から一の療養者が選択され、主制御部21cにより、通信部21aを介して、状況分類・類似事例の提示に係る要求がなされると(S15)、臨床判断支援装置1は、通信部11aが状況分類・類似事例の提示に係る要求を受け付ける(S16)。そして、事例特定部11dが、選択された療養者の状況分類を、療養者情報記憶部14を参照して特定した後、当該状況分類に対応する類似事例を、類似事例記憶部16を参照して特定し(S17)、通信部11aを介して、類似事例データ等をHTML等の形式で看護師の端末装置2に送信する(S18)。
【0051】
看護師の端末装置2では、類似事例データ等を通信部21aが受信し、表示制御部21bの制御の下、表示部23に状況分類・類似事例画面を表示する(S19)。
【0052】
この状況分類・類似事例画面は、
図10に示されるように構成されている。同図に示されるように、状況分類・類似事例画面では、スコア(優先度)の高い順に、各状況分類に関わる類似事例が、そのケア内容の更なる提示を選択可能に提示される。即ち、
図10の例では、例えば、生命の危険性の高い病状・状態という状況分類が最もスコアが高いので最上段に提示され、そのケア内容のタイトルが選択可能な態様で提示されている。
【0053】
尚、状況分類・類似事例画面において、提示された困難にあてはまらない類似事例である場合には、
図11に示されるような画面に遷移して、類似事例にあてはまらない理由をテキストデータ等により入力するように促される。このテキストデータは、臨床判断支援装置1に送信され、学習部11fによる数理モデルの更新の際に活用される。
【0054】
続いて、看護師の端末装置2において、状況分類・類似事例画面の中から一のケア内容が選択され、主制御部21cにより、通信部21aを介して、ケア内容一覧の提示に係る要求がなされると(S20)、臨床判断支援装置1は、通信部11aがケア内容一覧の提示に係る要求を受け付ける(S21)。そして、ケア内容特定部11eが、ケア情報記憶部17を参照してケア内容の詳細を特定し(S22)、通信部11aを介して、ケア内容一覧に係るデータ等をHTML等の形式で看護師の端末装置2に送信する(S23)。看護師の端末装置2では、このケア内容一覧に係るデータ等を通信部21aが受信し、表示制御部21bの制御の下、表示部23にケア内容一覧画面を表示する(S24)。
【0055】
このケア内容一覧画面は、
図12に示されるように構成されている。同図に示されるように、優先度の高い順に優先度を付して、ケア内容の詳細が提示される。この例では、「急変に対応する」がケア内容として最も優先度(優先度1)が高いので、画面最上段左付けで提示されている。看護師の端末装置3において、このケア内容一覧画面の中から更に詳細を確認したい項目が選択されると、
図13に示されるようなケア内容解説画面に切り替わり、ケア内容の解説を更に詳細に確認することが可能となっている。以上で、類似事例及びケア内容等の提示に係る一連の処理を完了する。
【0056】
以上説明したように、本発明の実施形態によれば、熟練訪問看護師等の経験知を反映した、訪問看護師のケアに関する臨床判断支援を実現することができる。ここで、臨床判断とは、療養者とその家族の看護問題を把握し、課題解決に向けたケアを決定する過程等をいう。看護ケアの実行や療養者及び家族の課題解決が困難なときに、類似事例等から導き出された最適なアドバイスをすることができるので、臨床判断の最適化、看護師教育、さらには看護の質の向上を図ることが可能となる。
【0057】
すなわち、看護師は端末装置を操作することで、療養者情報を入力することで、状況分類の判別及び提示、類似事例の提示、当該類似事例に対応するケア内容の提示を受けることができるので、類似事例からケア内容を特定して参照すると共に、その後のアンケートの回答という形でのフィードバックを行うことが可能である。臨床判断支援装置側では、このフィードバックを蓄積し、それを学習に用いることで、判断の精度を更に向上させることが可能となるのである。
【0058】
なお、本発明での実施形態では、学習効率の高い既知のデータを能動的に収集し、少ないデータで学習する手法を用いた。そして、高い専門知識を有する訪問看護師の判断過程にある因果関係に関する情報を、数値化、分類化し、AIと訪問看護師の臨床判断を融合させた拡張知能を取り入れた技術としている。
【0059】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることなくその趣旨を逸脱しない範囲で種々の改良・変更が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0060】
1…臨床判断支援装置、2…端末装置(看護師用)、3…端末装置(療養者の家族用)、4…通信網、11…制御部、11a…通信部、11b…管理部、11c…分類部、11d…事例特定部、11e…ケア内容特定部、11f…学習部、11g…主制御部、12…通信I/F、13…記憶部、14…療養者情報記憶部、15…看護師情報記憶部、16…類似事例記憶部、17…ケア情報記憶部、18…学習用記憶部、21…制御部、21a…通信部、21b…表示制御部、21c…主制御部、22…通信I/F、23…表示部、24…操作部、25…記憶部。