IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本精工株式会社の特許一覧

特開2025-16912細胞注入装置、細胞回収補助治具、及び細胞回収方法
<>
  • 特開-細胞注入装置、細胞回収補助治具、及び細胞回収方法 図1
  • 特開-細胞注入装置、細胞回収補助治具、及び細胞回収方法 図2
  • 特開-細胞注入装置、細胞回収補助治具、及び細胞回収方法 図3
  • 特開-細胞注入装置、細胞回収補助治具、及び細胞回収方法 図4
  • 特開-細胞注入装置、細胞回収補助治具、及び細胞回収方法 図5
  • 特開-細胞注入装置、細胞回収補助治具、及び細胞回収方法 図6
  • 特開-細胞注入装置、細胞回収補助治具、及び細胞回収方法 図7
  • 特開-細胞注入装置、細胞回収補助治具、及び細胞回収方法 図8
  • 特開-細胞注入装置、細胞回収補助治具、及び細胞回収方法 図9
  • 特開-細胞注入装置、細胞回収補助治具、及び細胞回収方法 図10
  • 特開-細胞注入装置、細胞回収補助治具、及び細胞回収方法 図11
  • 特開-細胞注入装置、細胞回収補助治具、及び細胞回収方法 図12
  • 特開-細胞注入装置、細胞回収補助治具、及び細胞回収方法 図13
  • 特開-細胞注入装置、細胞回収補助治具、及び細胞回収方法 図14
  • 特開-細胞注入装置、細胞回収補助治具、及び細胞回収方法 図15
  • 特開-細胞注入装置、細胞回収補助治具、及び細胞回収方法 図16
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025016912
(43)【公開日】2025-02-05
(54)【発明の名称】細胞注入装置、細胞回収補助治具、及び細胞回収方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/26 20060101AFI20250129BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20250129BHJP
   C12N 5/071 20100101ALI20250129BHJP
【FI】
C12M1/26
C12M1/34 D
C12N5/071
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023119720
(22)【出願日】2023-07-24
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】植田 裕基
(72)【発明者】
【氏名】古川 秀樹
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA07
4B029BB11
4B029DF05
4B029DG08
4B029FA15
4B029HA06
4B029HA07
4B065AA90X
4B065CA46
(57)【要約】
【課題】作業者の熟練度及び技術によらず、細胞塊の内部に外来細胞を安定して注入することができる細胞注入装置、細胞回収補助治具、及び細胞回収方法を提供する。
【解決手段】細胞注入装置は、細胞Ceを通過させず液体培地Dを通過させる大きさの気泡を有するフィルタ部26を含む細胞回収補助治具24と、複数の細胞Ce及び液体培地Dを先端の開口90aから回収可能かつ吐出可能な注入用ピペット90を備える操作用マニピュレータと、注入用ピペット90の内部圧力を調整可能な注入ポンプと、複数の細胞Ce及び液体培地Dを注入用ピペット90の内部に回収させた後、注入用ピペット90の先端の開口90aをフィルタ部26に押し付けた状態で注入用ピペット90の内部を陽圧にすることでフィルタ部26を介して液体培地Dを排出させ、注入用ピペット90の内部の外来細胞Ceを数珠繋がり状に整列させるコントローラと、を備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞塊を構成する細胞とは異なる細胞を示す外来細胞を複数内包する液体培地が収容される試料保持部材と、
前記外来細胞を通過させず前記液体培地を通過させる大きさの気泡を有するフィルタ部を含む細胞回収補助治具と、
前記細胞塊を保持可能な保持用治具を備える保持用マニピュレータと、
前記細胞塊の内部へ先端を挿入可能であって、複数の前記外来細胞及び前記液体培地を先端の開口から回収可能かつ吐出可能な注入用ピペットを備える操作用マニピュレータと、
前記注入用ピペットと接続して前記注入用ピペットの内部圧力を調整可能な注入ポンプと、
各部を制御するコントローラと、を備え、
前記コントローラは、
前記注入用ピペットの内部を陰圧にすることで複数の前記外来細胞及び前記液体培地を前記注入用ピペットの内部に回収させた後、
前記注入用ピペットの先端の開口を前記フィルタ部に押し付けた状態で前記注入用ピペットの内部を陽圧にすることで前記フィルタ部を介して前記液体培地を排出させ、
前記注入用ピペットの内部の前記外来細胞を数珠繋がり状に整列させる、
細胞注入装置。
【請求項2】
前記注入用ピペットの内部の前記外来細胞を撮像可能な撮像部を更に備え、
前記コントローラは、
前記撮像部の画像データに基づいて、数珠繋がり状に整列された前記外来細胞の中心間距離を取得し、
前記中心間距離が前記外来細胞の直径の平均値の100%以上200%以下になるまで前記フィルタ部を介して前記液体培地を排出させる、
請求項1に記載の細胞注入装置。
【請求項3】
前記注入用ピペットの外形を撮像可能な撮像部を更に備え、
前記コントローラは、
前記注入用ピペットを、前記フィルタ部に対向した所定の準備位置から、前記外来細胞の直径より小さい所定距離ずつ前記フィルタ部に近接させ、
前記撮像部の画像データに基づいて、前記注入用ピペットが所定のたわみ量以上にたわんだか否かを判断し、
所定のたわみ量以上にたわんだ位置から前記所定距離離隔させた位置を、前記注入用ピペットの先端の開口を前記フィルタ部に押し付けた位置とする、
請求項1に記載の細胞注入装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の細胞注入装置が備える前記細胞回収補助治具であって、
一方の面が前記注入用ピペットの開口の外縁形状に沿う板状の前記フィルタ部と、
前記フィルタ部を保持して前記試料保持部材に固定され、前記注入用ピペットの先端が挿入可能な溝部が形成されるフィルタ保持部と、を備える、
細胞回収補助治具。
【請求項5】
細胞塊を構成する細胞とは異なる細胞を示す外来細胞を複数内包する液体培地が収容される試料保持部材と、
前記外来細胞を通過させず前記液体培地を通過させる大きさの気泡を有するフィルタ部を含む細胞回収補助治具と、
前記細胞塊の内部へ先端を挿入可能であって、複数の前記外来細胞及び前記液体培地を先端の開口から回収可能かつ吐出可能な注入用ピペットを備える操作用マニピュレータと、
前記注入用ピペットと接続して前記注入用ピペットの内部圧力を調整可能な注入ポンプと、を備える細胞注入装置において前記外来細胞を回収する細胞回収方法であって、
前記注入用ピペットの内部を陰圧にすることで複数の前記外来細胞及び前記液体培地を前記注入用ピペットの内部に回収させる回収ステップと、
前記注入用ピペットの先端の開口を前記フィルタ部に押し付ける押し付けステップと、
前記押し付けステップの後、前記注入用ピペットの内部を陽圧にすることで前記フィルタ部を介して前記液体培地を排出させる培地排出ステップと、を含む、
細胞回収方法。
【請求項6】
前記細胞注入装置は、前記注入用ピペットの外形を撮像可能な撮像部を更に備え、
前記押し付けステップは、
前記注入用ピペットを、前記フィルタ部に対向した所定の準備位置に移動させるステップと、
前記注入用ピペットを、前記準備位置から前記外来細胞の直径より小さい所定距離ずつ前記フィルタ部に近接させるステップと、
前記注入用ピペットの外形を撮像するステップと、
前記撮像部の画像データに基づいて、前記注入用ピペットが所定のたわみ量以上にたわんだか否かを判断するステップと、
所定のたわみ量以上にたわんだ場合、前記注入用ピペットを、前記所定距離離隔させた位置を前記注入用ピペットの先端の開口を前記フィルタ部に押し付けた位置とするステップと、を含む、
請求項5に記載の細胞回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞注入装置、細胞回収補助治具、及び細胞回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞は、生体内で周りの細胞と密接な相互作用を介して生命活動を担う。このため、細胞を3次元培養することで得られるスフェロイドや、多能性幹細胞を臓器の形成過程を模倣して作成されるオルガノイド等の細胞塊は、細胞の機能をより引き出す形態として注目されている。細胞塊の特徴を生かした研究の一環として、細胞塊の内腔へ細胞を注入する操作が必要とされることがある。この際には、例えば、特許文献1、2等に開示されるようなマイクロマニピュレータを用いて、マイクロピペット内に細胞を回収した状態で細胞塊の内腔へ挿入した後、細胞を吐出させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003-001574号公報
【特許文献2】特開2014-147986号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、現状キャピラリ内部へ細胞を回収するためには、ナノリットルオーダーの微量な流量を正確に制御する必要があり、熟練の手技が必要となっている。しかしながら、細胞注入用のキャピラリのように微小な流路における流体の制御は、粘性の影響やキャピラリ内壁との表面力の影響が大きく、制御性に課題がある。このため、余分な培地が少なからずキャピラリ内部に入ってしまい、その状態で細胞塊内部に細胞を注入すると細胞の他に余剰な培地も細胞塊内部に入り込んでしまい、細胞塊を損傷させる可能性がある。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、作業者の熟練度及び技術によらず、細胞塊の内部に外来細胞を安定して注入することができる細胞注入装置、細胞回収補助治具、及び細胞回収方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る細胞注入装置は、細胞塊を構成する細胞とは異なる細胞を示す外来細胞を複数内包する液体培地が収容される試料保持部材と、前記外来細胞を通過させず前記液体培地を通過させる大きさの気泡を有するフィルタ部を含む細胞回収補助治具と、前記細胞塊を保持可能な保持用治具を備える保持用マニピュレータと、前記細胞塊の内部へ先端を挿入可能であって、複数の前記外来細胞及び前記液体培地を先端の開口から回収可能かつ吐出可能な注入用ピペットを備える操作用マニピュレータと、前記注入用ピペットと接続して前記注入用ピペットの内部圧力を調整可能な注入ポンプと、各部を制御するコントローラと、を備え、前記コントローラは、前記注入用ピペットの内部を陰圧にすることで複数の前記外来細胞及び前記液体培地を前記注入用ピペットの内部に回収させた後、前記注入用ピペットの先端の開口を前記フィルタ部に押し付けた状態で前記注入用ピペットの内部を陽圧にすることで前記フィルタ部を介して前記液体培地を排出させ、前記注入用ピペットの内部の前記外来細胞を数珠繋がり状に整列させる。
【0007】
これにより、注入用ピペットによって細胞塊の内部に外来細胞を注入する前に、余分な液体培地を注入用ピペットの内部から排出することができるので、余分な液体培地を細胞塊の内部に注入することを抑制することができる。また、外来細胞を注入用ピペットに回収した後に液体培地のみ排出することで数珠繋がり状に整列させることができるため、液体培地ごと外来細胞を吸引してもよく、吸引ポンプによって微量な流量を正確に制御する必要がない。また、フィルタ部によって注入用ピペットの開口を閉塞した状態で注入用ピペットの内部を陽圧にすることで、外来細胞を注入用ピペットの内部に残したまま液体培地のみを排出できるため、同様に、吸引ポンプによって微量な流量を正確に制御する必要がない。また、余分な液体培地を排出することで、注入用ピペットの内部で外来細胞が数珠繋がり状に整列されるため、1つずつ外来細胞を吐出させる際の送り量を均一にすることができ、注入ポンプの制御が容易となる。したがって、作業者の熟練度及び技術によらず、細胞塊の内部に外来細胞を安定して注入することができる。
【0008】
本発明の一態様に係る細胞注入装置は、前記注入用ピペットの内部の前記外来細胞を撮像可能な撮像部を更に備え、前記コントローラは、前記撮像部の画像データに基づいて、数珠繋がり状に整列された前記外来細胞の中心間距離を取得し、前記中心間距離が前記外来細胞の直径の平均値の100%以上200%以下になるまで前記フィルタ部を介して前記液体培地を排出させる。
【0009】
これにより、注入用ピペットの内部において定量的に外来細胞を整列させることができるため、1つずつ外来細胞を吐出させる際の送り量を均一にすることができ、注入ポンプの制御が容易となる。
【0010】
本発明の一態様に係る細胞注入装置は、前記注入用ピペットの外形を撮像可能な撮像部を更に備え、前記コントローラは、前記注入用ピペットを、前記フィルタ部に対向した所定の準備位置から、前記外来細胞の直径より小さい所定距離ずつ前記フィルタ部に近接させ、前記撮像部の画像データに基づいて、前記注入用ピペットが所定のたわみ量以上にたわんだか否かを判断し、所定のたわみ量以上にたわんだ位置から前記所定距離離隔させた位置を、前記注入用ピペットの先端の開口を前記フィルタ部に押し付けた位置とする。
【0011】
これにより、注入用ピペットの先端の開口をフィルタ部によって閉塞できたか否かを定量的に判断することができるため、作業者の熟練度及び技術によらず、外来細胞を注入用ピペットの内部に残したまま液体培地のみを排出できる。
【0012】
本発明の一態様に係る細胞回収補助治具は、前記細胞注入装置が備える前記細胞回収補助治具であって、一方の面が前記注入用ピペットの開口の外縁形状に沿う板状の前記フィルタ部と、前記フィルタ部を保持して前記試料保持部材に固定され、前記注入用ピペットの先端が挿入可能な溝部が形成されるフィルタ保持部と、を備える。
【0013】
これにより、注入用ピペットの先端の開口をフィルタ部によって閉塞させる際に、注入用ピペットの先端を溝部に挿入することで、先端がフィルタ部の面方向に予期せずずれることを抑制できる。また、注入用ピペットの開口とフィルタ部との間に僅かな隙間があったとしても、溝部によって外来細胞が予期せず流出することを抑制することができる。このため、安定的に外来細胞を注入用ピペットの内部に残したまま液体培地のみを排出できる。
【0014】
本発明の一態様に係る細胞回収方法は、細胞塊を構成する細胞とは異なる細胞を示す外来細胞を複数内包する液体培地が収容される試料保持部材と、前記外来細胞を通過させず前記液体培地を通過させる大きさの気泡を有するフィルタ部を含む細胞回収補助治具と、前記細胞塊の内部へ先端を挿入可能であって、複数の前記外来細胞及び前記液体培地を先端の開口から回収可能かつ吐出可能な注入用ピペットを備える操作用マニピュレータと、前記注入用ピペットと接続して前記注入用ピペットの内部圧力を調整可能な注入ポンプと、を備える細胞注入装置において前記外来細胞を回収する細胞回収方法であって、前記注入用ピペットの内部を陰圧にすることで複数の前記外来細胞及び前記液体培地を前記注入用ピペットの内部に回収させる回収ステップと、前記注入用ピペットの先端の開口を前記フィルタ部に押し付ける押し付けステップと、前記押し付けステップの後、前記注入用ピペットの内部を陽圧にすることで前記フィルタ部を介して前記液体培地を排出させる培地排出ステップと、を含む。
【0015】
これにより、注入用ピペットによって細胞塊の内部に外来細胞を注入する前に、余分な液体培地を注入用ピペットの内部から排出することができるので、余分な液体培地を細胞塊の内部に注入することを抑制することができる。また、外来細胞を注入用ピペットに回収した後に液体培地のみ排出することで数珠繋がり状に整列させることができるため、液体培地ごと外来細胞を吸引してもよく、吸引ポンプによって微量な流量を正確に制御する必要がない。また、フィルタ部によって注入用ピペットの開口を閉塞した状態で注入用ピペットの内部を陽圧にすることで、外来細胞を注入用ピペットの内部に残したまま液体培地のみを排出できるため、同様に、吸引ポンプによって微量な流量を正確に制御する必要がない。また、余分な液体培地を排出することで、注入用ピペットの内部で外来細胞が数珠繋がり状に整列されるため、1つずつ外来細胞を吐出させる際の送り量を均一にすることができ、注入ポンプの制御が容易となる。したがって、作業者の熟練度及び技術によらず、細胞塊の内部に外来細胞を安定して注入することができる。
【0016】
本発明の一態様に係る細胞回収方法において、前記細胞注入装置は、前記注入用ピペットの外形を撮像可能な撮像部を更に備え、前記押し付けステップは、前記注入用ピペットを、前記フィルタ部に対向した所定の準備位置に移動させるステップと、前記注入用ピペットを、前記準備位置から前記外来細胞の直径より小さい所定距離ずつ前記フィルタ部に近接させるステップと、前記注入用ピペットの外形を撮像するステップと、前記撮像部の画像データに基づいて、前記注入用ピペットが所定のたわみ量以上にたわんだか否かを判断するステップと、所定のたわみ量以上にたわんだ場合、前記注入用ピペットを、前記所定距離離隔させた位置を前記注入用ピペットの先端の開口を前記フィルタ部に押し付けた位置とするステップと、を含む。
【0017】
これにより、注入用ピペットの先端の開口をフィルタ部によって閉塞できたか否かを定量的に判断することができるため、作業者の熟練度及び技術によらず、外来細胞を注入用ピペットの内部に残したまま液体培地のみを排出できる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、作業者の熟練度及び技術によらず、細胞塊の内部に外来細胞を安定して注入することができる細胞注入装置、細胞回収補助治具、及び細胞回収方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、実施形態に係る細胞注入装置の構成例を模式的に示す図である。
図2図2は、図1に示す細胞回収補助治具の構成例を示す模式的な正面図である。
図3図3は、図1に示す細胞回収補助治具の構成例を示す模式的な側面図である。
図4図4は、図1に示す微動機構の一例を示す断面図である。
図5図5は、図1に示す細胞注入装置の制御ブロック図である。
図6図6は、図1に示す細胞注入装置の動作の一例を示すフローチャート図である。
図7図7は、図6に示す動作を説明するための説明図である。
図8図8は、図6に示す動作を説明するための説明図である。
図9図9は、図6に示す動作を説明するための説明図である。
図10図10は、図6に示す動作を説明するための説明図である。
図11図11は、図6に示す動作を説明するための説明図である。
図12図12は、図6に示す動作を説明するための説明図である。
図13図13は、図6に示す動作を説明するための説明図である。
図14図14は、図6に示す動作を説明するための説明図である。
図15図15は、図1に示す細胞注入装置の動作の一例を示すフローチャート図である。
図16図16は、図15に示す第2ピペットの挙動を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明を実施するための形態(実施形態)につき、図面を参照しつつ詳細に説明する。以下の実施形態に記載した内容により本発明が限定されるものではない。また、以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。更に、以下に記載した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【0021】
(実施形態)
[装置の物理構成]
まず、細胞注入装置1の物理構成について、図1から図4までを参照して説明する。図1は、実施形態に係る細胞注入装置1の構成例を模式的に示す図である。図2は、図1に示す細胞回収補助治具24の構成例を示す模式的な正面図である。図3は、図1に示す細胞回収補助治具24の構成例を示す模式的な側面図である。図4は、図1に示す微動機構42の一例を示す断面図である。細胞注入装置1は、顕微鏡観察下で細胞等の微小対象物を操作するためのマニピュレーションシステムであり、本実施形態においてはスフェロイドやオルガノイド等の細胞塊200へ細胞Ceを注入するための装置である。
【0022】
図1において、細胞注入装置1は、顕微鏡ユニット10と、第1マニピュレータ30と、第2マニピュレータ70と、細胞注入装置1を制御するコントローラ(制御装置)100とを備えている。顕微鏡ユニット10の両側に第1マニピュレータ30と第2マニピュレータ70とが分かれて配置されている。なお、実施形態において、水平面内の一方向をX軸方向、水平面内においてX軸方向と交差する方向をY軸方向、X軸方向及びY軸方向のそれぞれと交差する方向(すなわち鉛直方向)をZ軸方向とする。
【0023】
撮像部としての顕微鏡ユニット10は、顕微鏡12と、撮像素子を含むカメラ14と、試料ステージ20と、を備える。顕微鏡ユニット10は、顕微鏡12とカメラ14とが一体構造となっている、例えば、マイクロスコープである。顕微鏡12及びカメラ14は、例えば、試料ステージ20に支持される試料保持部材22の直上に配置され、試料保持部材22に収容された試料(例えば、図7等に示す細胞Ce及び細胞塊200)等を平面視可能である。図1に示す実施形態において、顕微鏡12及びカメラ14の光軸は、試料等に対して垂直方向に入射する。なお、図1に示す実施形態では、顕微鏡12及びカメラ14は、試料保持部材22の上方に配置されているが、試料保持部材22の下方に配置してもよい。また、カメラ14は、顕微鏡12と別体に設けてもよい。
【0024】
顕微鏡ユニット10は、更に、試料保持部材22に向けて光を照射する不図示の光源と、焦点合わせ機構16(図5参照)を備えている。試料保持部材22の試料に光が照射され、試料保持部材22の試料で反射した光が顕微鏡12に入射すると、試料に関する光学像は、顕微鏡12で拡大された後、カメラ14で撮像される。光学像は、焦点合わせ機構16によって、顕微鏡12及びカメラ14のレンズの位置及びレンズ間の距離を調整して顕微鏡12及びカメラ14の焦点合わせを行うことで明瞭に投影される。なお、顕微鏡12の焦点合わせ方向は、実施形態において、Z軸方向である。顕微鏡ユニット10は、カメラ14で撮像された画像を基に試料の観察が可能となっている。
【0025】
試料ステージ20は、顕微鏡12及びカメラ14の下方に配置される台座であり、試料保持部材22を支持可能である。試料ステージ20の載置面は、X軸-Y軸平面に平行なX-Y平面である。試料ステージ20は、例えば、載置面に試料保持部材22を載置する。試料保持部材22は、図1に示す一例では培養ディッシュ(シャーレ)であるが、本実施形態ではウェルプレートでもよい。
【0026】
試料保持部材22には、図2及び図3に示す細胞回収補助治具24が固定して設けられる。細胞回収補助治具24は、後述の第2ピペット90の内部に回収された複数の細胞Ce及び液体培地Dのうち、液体培地Dのみを排出させて、第2ピペット90の内部に細胞Ceを数珠繋がり状に整列させることを補助するための治具である。
【0027】
細胞回収補助治具24は、フィルタ部26と、フィルタ保持部28と、を有する。フィルタ部26は、細胞Ceを通過させず液体培地Dを通過させる大きさの気泡を有する板状に形成される。フィルタ部26は、例えば、5μm以上10μm以下のメッシュサイズを有するナイロンメッシュを含む。
【0028】
フィルタ保持部28は、フィルタ部26を保持するとともに、試料保持部材22に固定される。フィルタ保持部28は、試料保持部材22に固定して設けられている状態において、フィルタ部26の一面がY-Z平面に沿うように、フィルタ部26を保持する。すなわち、フィルタ部26の一面と、第2ピペット90の先端の開口90aの外縁の形状に沿う仮想面とは、平行関係である。
【0029】
フィルタ保持部28は、実施形態において、一対のL字状部材を含む。一方のL字状部材は、フィルタ部26の一面に沿う垂直部と、試料保持部材22の底面に沿う水平部と、を含む。他方のL字状部材は、フィルタ部26の一面とは反対側の面に沿う垂直部と、試料保持部材22の底面に沿う水平部と、を含む。
【0030】
フィルタ保持部28は、垂直部に、第2ピペット90の先端が挿入可能な溝部28aが形成される。溝部28aは、垂直方向(Z軸方向)に沿って形成される。溝部28aの溝幅は、第2ピペット90の先端の径より僅かに大きい。第2ピペット90は、溝部28aの下端近傍(図3に示す押し付け部90b)に先端の開口90aを押し付けることで、安定してフィルタ部26に接触させることができる。
【0031】
図1に示す第1マニピュレータ30は、X-Y軸テーブル32と、Z軸テーブル34と、X-Y軸テーブル32を駆動する駆動装置36と、Z軸テーブル34を駆動する駆動装置38と、第1ピペット保持部材40と、微動機構42と、を備える。第1マニピュレータ30は、X軸-Y軸-Z軸の3軸構成のマニピュレータである。
【0032】
X-Y軸テーブル32は、駆動装置36の駆動により、X軸方向又はY軸方向に移動可能となっている。Z軸テーブル34は、X-Y軸テーブル32上に上下移動可能に配置され、駆動装置38の駆動によりZ軸方向に移動可能になっている。駆動装置36、38は、コントローラ100に電気的に接続されている。
【0033】
第1ピペット保持部材40は、Z軸テーブル34に連結され、先端に毛細管チップである第1ピペット60が取り付けられている。第1ピペット保持部材40は、X-Y軸テーブル32とZ軸テーブル34の移動に従って3次元空間を移動領域として移動し、試料保持部材22に収容された試料を、第1ピペット60を介して保持することができる。
【0034】
すなわち、第1マニピュレータ30は、試料の保持に用いられる保持用マニピュレータであり、第1ピペット60は、試料の保持手段として用いられるホールディングピペットである。試料は、例えば、第1ピペット60と接続されているシリンジポンプ62によって、第1ピペット60の先端にて吸引保持される。第1ピペット60の内部圧力は、シリンジポンプ62から供給される圧力の制御値により制御される。
【0035】
第1ピペット60の口径は、保持対象の試料の直径の1/10以上1/5以下であることが好ましい。例えば、細胞塊200(図7等参照)の直径が200~400μm程度である場合、第1ピペット60として、口径が40μm程度のピペットを使用することが好ましい。なお、試料の保持用治具は、先端の開口60aに吸引保持する第1ピペット60に限定されず、試料を任意の位置に保持できるものであればよい。
【0036】
X-Y軸テーブル32とZ軸テーブル34は、第1ピペット保持部材40を、試料保持部材22に収容された試料等の保持位置まで粗動駆動する粗動機構(3次元移動テーブル)として構成されている。また、Z軸テーブル34と第1ピペット保持部材40との連結部には、ナノポジショナとして微動機構42が備えられている。微動機構42は、第1ピペット保持部材40をその長手方向(軸方向)に移動可能に支持するとともに、第1ピペット保持部材40をその長手方向(軸方向)に沿って微動駆動するように構成される。
【0037】
図4に示すように微動機構42は、第1ピペット保持部材40を駆動対象とする圧電アクチュエータ44を備える。圧電アクチュエータ44は、筒状のハウジング46と、ハウジング46の内部に設けられた転がり軸受48と、中空部材50と、ロックナット52と、スペーサ54と、圧電素子56と、蓋58と、を含む。ハウジング46の軸方向に第1ピペット保持部材40が挿通される。
【0038】
第1ピペット保持部材40は、転がり軸受48を介してハウジング46に支持される。転がり軸受48は、第1ピペット保持部材40を回転可能に支持する。転がり軸受48は、内輪48aと、外輪48bと、内輪48aと外輪48bとの間に設けられたボール48cとを備える。外輪48bがハウジング46の内周面に固定され、内輪48aが中空部材50を介して第1ピペット保持部材40の外周面に固定される。このように、転がり軸受48は、第1ピペット保持部材40を回転自在に支持するようになっている。第1ピペット保持部材40の先端側(図4左側)には第1ピペット60(図1参照)が取り付けられ固定される。
【0039】
中空部材50の軸方向の略中央部には、径方向外方に突出するフランジ部50aが設けられている。転がり軸受48は、実施形態において、フランジ部50aに対して第1ピペット保持部材40の軸方向の先端側及び後端側に1つずつ、内輪間座としてのフランジ部50aを挟んで配置される。ロックナット52は、外周面にねじ加工が施された第1ピペット保持部材40に、内輪48aの先端側及び後端側から螺合されて、転がり軸受48の軸方向の位置を固定している。円環状のスペーサ54は、転がり軸受48と同軸に外輪48bの軸方向後端側に配置される。
【0040】
スペーサ54の軸方向後端側には、円環状の圧電素子56がスペーサ54と略同軸に配置される。圧電素子56はスペーサ54を介して転がり軸受48と接している。圧電素子56は、リード線(図示せず)を介して制御回路としてのコントローラ100に接続されている。圧電素子56は、コントローラ100からの印加電圧に応答して第1ピペット保持部材40の軸方向に沿って伸縮し、第1ピペット保持部材40をその軸方向に沿って微動させるようになっている。
【0041】
圧電素子56の軸方向後端側にはハウジング46の蓋58が配置される。蓋58は、圧電素子56を軸方向に固定するためのもので、第1ピペット保持部材40が挿通する孔部を有する。蓋58は、例えば、ハウジング46の側面に不図示のボルトにより締結されていてもよい。なお、圧電素子56は、棒状又は角柱状としてスペーサ54の周方向に略等配となるように並べても良く、第1ピペット保持部材40を挿通する孔部を有した角筒としても良い。
【0042】
第1ピペット保持部材40が軸方向に沿って微動すると、この微動が第1ピペット60(図1参照)に伝達され、第1ピペット60の位置が微調整されることになる。また、圧電素子56により第1ピペット保持部材40が軸方向に振動すると、第1ピペット60も軸方向に振動する。このように微動機構42により、試料への操作(試料の保持及び移動)の際には、より正確な操作が可能となる。
【0043】
図1に示すように、第2マニピュレータ70は、X-Y軸テーブル72と、Z軸テーブル74と、X-Y軸テーブル72を駆動する駆動装置76と、Z軸テーブル74を駆動する駆動装置78と、第2ピペット保持部材80と、微動機構82と、を備える。第2マニピュレータ70は、X軸-Y軸-Z軸の3軸構成のマニピュレータである。
【0044】
X-Y軸テーブル72は、駆動装置76の駆動により、X軸方向又はY軸方向に移動可能となっている。Z軸テーブル74は、X-Y軸テーブル72上に上下移動可能に配置され、駆動装置78の駆動によりZ軸方向に移動可能になっている。駆動装置76、78は、コントローラ100に接続されている。
【0045】
第2ピペット保持部材80は、Z軸テーブル74に連結され、先端にマイクロピペットである第2ピペット90が取り付けられている。第2ピペット保持部材80は、X-Y軸テーブル72とZ軸テーブル74の移動に従って3次元空間を移動領域として移動し、試料保持部材22に収容された試料を人工操作することが可能である。
【0046】
すなわち、第2マニピュレータ70は、試料の操作(DNA溶液の注入操作や穿孔操作等)に用いられる操作用マニピュレータであり、第2ピペット90は、試料のインジェクション操作手段として用いられるインジェクションピペット(注入用ピペット)である。第2ピペット90は、実施形態において、先端の開口90a(図7等参照)と第2ピペット保持部材80に取り付けられる側の基端部との間に屈曲部を有し、屈曲部より先端側の部分の軸方向がX軸方向と平行となるように配置される。また、第2ピペット90の先端は、開口90aの外縁がY-Z平面に沿う形状に形成される。
【0047】
第2ピペット90は、例えば、第2ピペット90と接続されている注入ポンプ92によって内部が陰圧にされることで、細胞Ce(図7等参照)等を開口90aから内部へ回収する。この際、細胞Ceを複数内包する液体培地Dである細胞懸濁ドロップDsから、細胞Ceを回収するため、第2ピペット90の内部には、細胞Ceとともに液体培地Dまで回収される(図8参照)。
【0048】
第2ピペット90は、例えば、先端の開口90aが細胞回収補助治具24のフィルタ部26(図2及び図3参照)に押し付けられている状態において、注入ポンプ92によって内部が陽圧にされることで、細胞Ceを第2ピペット90の内部に残したまま、フィルタ部26を介して液体培地Dを排出する。第2ピペット90は、例えば、先端が試料(例えば、図7等の細胞塊200)の内部に挿入された状態で、第2ピペット90と接続されている注入ポンプ92によって内部が陽圧にされることで、内部に収容されている細胞Ceが先端の開口90aから吐出されて試料の内部に注入される。
【0049】
第2ピペット90の内部圧力は、注入ポンプ92から供給される圧力の制御値により制御される。第2ピペット90の口径は、細胞Ceの直径以上である。例えば、細胞Ceが癌細胞の場合、直径は10~15μm程度であるため、第2ピペット90として、口径が15μm以上のピペットが使用される。
【0050】
X-Y軸テーブル72とZ軸テーブル74は、第2ピペット保持部材80を、試料保持部材22に収容された試料等の操作位置まで粗動駆動する粗動機構(3次元移動テーブル)として構成されている。また、Z軸テーブル74と第2ピペット保持部材80との連結部には、ナノポジショナとして微動機構82が備えられている。微動機構82は、第2ピペット保持部材80をその長手方向(軸方向)に移動可能に支持するとともに、第2ピペット保持部材80をその長手方向(軸方向)に沿って微動駆動するように構成される。微動機構82の構成は、第1マニピュレータ30の微動機構42と同様の構成であるため、説明を省略する。
【0051】
第2ピペット保持部材80が軸方向に沿って微動すると、この微動が第2ピペット90に伝達され、第2ピペット90の位置が微調整されることになる。また、圧電素子56(図4参照)により第2ピペット保持部材80が軸方向に振動すると、第2ピペット90も軸方向に振動する。このように微動機構82により、試料への操作(細胞Ceの注入操作や穿孔操作等)の際には、より正確な操作が可能となる。
【0052】
なお、上述の微動機構42、82は、試料の固定用の第1マニピュレータ30及び試料の操作用の第2マニピュレータ70のいずれにも設けられるとしているが、操作用の第2マニピュレータ70のみに設けてもよく、省略することも可能である。
【0053】
[システムの制御構成]
次に、コントローラ100による細胞注入装置1の制御について、図5を参照して説明する。図5は、図1に示す細胞注入装置1の制御ブロック図である。
【0054】
コントローラ100は、CPU(Central Processing Unit)等のマイクロプロセッサを有する演算処理装置を含む演算部110、ROM(Read Only Memory)又はRAM(Random Access Memory)等のメモリを有する記憶装置を含む記憶部112、及び入出力インターフェース装置等のハードウェア資源を備える。コントローラ100の機能は、記憶部112に格納された所定のプログラムを演算部110が実行することで実現される。コントローラ100は、演算部110による演算結果に従って、各構成要素に各種機能を実行させる制御信号を出力する。
【0055】
コントローラ100は、顕微鏡ユニット10の焦点合わせ機構16、第1マニピュレータ30の駆動装置36、駆動装置38、圧電素子56、シリンジポンプ62、第2マニピュレータ70の駆動装置76、駆動装置78、圧電素子56、注入ポンプ92を制御し、必要に応じて設けられたドライバやアンプ等を介してそれぞれに制御信号を出力する。
【0056】
コントローラ100は、例えば、駆動装置36、38、76、78にそれぞれ駆動信号VXY、V図1参照)を供給する。駆動装置36、38、76、78は、駆動信号VXY、Vに基づいてX-Y-Z軸方向に駆動する。コントローラ100は、微動機構42、82にナノポジショナ制御信号V図1参照)を供給して、微動機構42、82の制御を行ってもよい。コントローラ100は、例えば、シリンジポンプ62に、第1ピペット60(図1参照)の内部を加圧又は減圧調整するための圧力制御信号VP1を供給する。シリンジポンプ62は、圧力制御信号VP1に基づいて、第1ピペット60の内部を加圧又は減圧する。コントローラ100は、例えば、注入ポンプ92に、第2ピペット90(図1参照)の内部を加圧又は減圧するための圧力制御信号VP2を供給する。この場合、注入ポンプ92は、圧力制御信号VP1に基づいて、第2ピペット90の内部を減圧する。
【0057】
コントローラ100は、情報入力手段としてジョイスティック114と、キーボード、マウス又はタッチパネル等の入力部116と、シリンジポンプインターフェース118と、注入ポンプインターフェース120と、が接続されている。
【0058】
ジョイスティック114は公知のものを用いることができる。ジョイスティック114は、基台114aと、基台114aから直立するハンドル部114bとを備えており、ハンドル部114bを傾斜させるように操作することで駆動装置36、76のX-Y駆動を行うことができ、ハンドル部114bをねじることで駆動装置38、78のZ駆動を行うことができる。ジョイスティック114は、圧電素子56、シリンジポンプ62、注入ポンプ92の各駆動を操作するためのボタン114cを備えていてもよい。
【0059】
また、ジョイスティック114は、例えば、操作する対象のマニピュレータを、第1マニピュレータ30と第2マニピュレータ70とで切り替える切り替えボタンを備えていてもよい。なお、図1に示す例では、1つのジョイスティック114で2つのマニピュレータ(第1マニピュレータ30及び第2マニピュレータ70)を操作する場合の構成を記載しているが、本実施形態の細胞注入装置1は、各々のマニピュレータに対応する2つのジョイスティック114を備えていてもよい。
【0060】
シリンジポンプインターフェース118は、作業者がシリンジポンプ62に対する操作情報を入力するためのポンプ操作情報入力部である。図1に示すように、シリンジポンプインターフェース118は、操作ノブ118aを備えている。シリンジポンプインターフェース118は、操作ノブ118aを回転させることで、回転変位量に対応した制御値によってシリンジポンプ62から供給される圧力を調整することができる。
【0061】
注入ポンプインターフェース120は、作業者が注入ポンプ92に対する操作情報を入力するためのポンプ操作情報入力部である。図1に示すように、注入ポンプインターフェース120は、操作ノブ120aを備えている。注入ポンプインターフェース120は、操作ノブ120aを回転させることで、回転変位量に対応した制御値によって注入ポンプ92から供給される圧力を調整することができる。
【0062】
また、コントローラ100は、液晶パネル等の表示部122が接続される。表示部122にはカメラ14で取得した顕微鏡画像や各種制御用画面が表示されるようになっている。なお、入力部116としてタッチパネルが用いられる場合には、表示部122の表示画面にタッチパネルを重ねて用い、作業者が表示部122の表示画像を確認しつつ入力操作を行うようにしてもよい。
【0063】
図5に示すように、コントローラ100は、更に画像入力部102、画像処理部104、画像出力部106及びを備えている。顕微鏡12を通してカメラ14で撮像した画像信号VPIX図1参照)が画像入力部102に入力される。画像処理部104は、画像入力部102から画像信号を受け取って、画像処理を行う。画像処理部104は、例えば、画像入力部102から受け取った画像信号をグレースケール化して、グレースケール画像に基づいてエッジ抽出処理やパターンマッチングを行う。画像出力部106は、画像処理部104で画像処理された画像情報を表示部122へ出力する。
【0064】
位置検出部108は、カメラ14で撮像された試料の位置や、試料に対して操作を行う第1ピペット60及び第2ピペット90等の治具の位置を、画像処理後の画像情報に基づいて検出することができる。位置検出部108は、画像情報に基づいてカメラ14の撮像領域内における試料及び治具等の有無を検出することができる。画像入力部102、画像処理部104、画像出力部106及び位置検出部108は、演算部110により制御される。
【0065】
コントローラ100は、位置検出部108からの試料及び治具等の有無の情報及び位置情報に基づいて、第1マニピュレータ30及び第2マニピュレータ70を制御してもよい。本実施形態において、コントローラ100は、第1マニピュレータ30及び第2マニピュレータ70を所定のシーケンスで自動的に駆動してもよい。かかるシーケンス駆動は、記憶部112にあらかじめ保存された所定のプログラムによる演算部110の演算結果に基づいて、コントローラ100が順次それぞれに駆動信号を出力することで行われる。
【0066】
[システムの動作]
次に、細胞注入装置1の駆動方法について説明する。図6は、図1に示す細胞注入装置1の動作の一例を示すフローチャート図である。図7から図14までは、図6に示す動作を説明するための説明図である。実施形態において、細胞注入装置1では、第2ピペット90に複数の細胞Ceを回収した後、余分な培地を排出し、1つの細胞塊200に対して1つの細胞Ceを注入する操作を実行する。
【0067】
細胞塊200は、図7から図14までに示す実施形態において、多能性幹細胞を臓器の形成過程を模倣して作成されるオルガノイド、特に管腔構造を有するオルガノイドを想定するが、本実施形態では、管腔構造を有さないオルガノイドや、細胞を3次元培養することで得られるスフェロイドであってもよい。本実施形態において細胞塊200に注入する細胞Ceは、細胞塊200を構成する細胞とは異なる細胞(外来細胞という)である。細胞塊200は、直径が約100μm以上500μm以下であり、細胞Ceは、直径が約10μm以上20μm以下である。
【0068】
なお、例えば、細胞塊200が管腔構造を有するオルガノイドである場合、本実施形態では、管腔構造を有するオルガノイドの内腔に細胞Ceを注入する。また、細胞塊200が管腔構造を有さないオルガノイドやスフェロイドである場合、本実施形態では、管腔構造を有さないオルガノイドやスフェロイドを構成する複数の細胞の間に細胞Ceを注入する。本明細書では、いずれの場合でも、細胞Ce注入する位置を、細胞塊200の「内部」と称する。
【0069】
細胞注入装置1の動作を開始する前に、作業者は、まず、細胞塊200に注入するための細胞Ceが液体培地D内に複数含まれる細胞懸濁ドロップDsと、細胞回収補助治具24が液体培地D内に配置された培地排出用ドロップDmと、細胞塊200が液体培地D内に含まれる細胞注入用ドロップDiと、が収容された試料保持部材22を、試料ステージ20に載置する。この際、細胞回収補助治具24のフィルタ部26の面方向がY-Z平面に平行になるように配置する。なお、培地排出用ドロップDmは、細胞懸濁ドロップDsと兼用であってもよい。すなわち、細胞懸濁ドロップDsの一部分に細胞回収補助治具24を配置して、液体培地Dを排出するための領域として使用してもよい。
【0070】
作業者は、次に、ジョイスティック114を操作して、図1に示すカメラ14の視野内に、第1ピペット60及び第2ピペット90を配置する。ここで、第1ピペット60の先端の高さは試料保持部材22の底面よりわずかに上の位置とする。作業者は、次に、顕微鏡12の焦点合わせ機構16(図5参照)を用いて、焦点を第1ピペット60に合わせる。
【0071】
作業者は、焦点を第1ピペット60に合わせた状態で、焦点が合うように第2ピペット90の高さを調整する。作業者は、次に、試料保持部材22内の細胞懸濁ドロップDs、培地排出用ドロップDm、及び細胞注入用ドロップDiの周辺を、カメラ14の視野と重なるように試料ステージ20を移動させる。
【0072】
図6及び図7に示すように、ステップS1では、細胞懸濁ドロップDsの内部において、先端の開口90aが細胞Ceに近接する位置へ、第2ピペット90を移動させる。具体的には、作業者は、ジョイスティック114を操作して、コントローラ100に第2マニピュレータ70の駆動装置76、78を駆動させ、第2ピペット90の先端が細胞懸濁ドロップDsの内部において細胞Ceに近接する位置へ移動するための駆動信号VXYを供給させる。これにより、第2ピペット90は、先端の開口90aが、細胞Ceの1つに対向する位置に移動する。
【0073】
図6及び図8に示すように、ステップS2では、注入ポンプ92を陰圧に駆動し、第2ピペット90の内部を陰圧にさせて、複数の細胞Ceを回収する。具体的には、作業者は、注入ポンプインターフェース120を操作して、コントローラ100に注入ポンプ92を陰圧に駆動するための圧力制御信号VP2を供給させる。これにより、第2ピペット90の内部が減圧されることで、先端の開口90aから内部に複数の細胞Ceが引き込まれて回収される。この際、第2ピペット90の内部に、複数の細胞Ceとともに液体培地Dが回収されるため、隣接する細胞Ce間の隙間が大きくなる。所定数の細胞Ceを回収した後は、注入ポンプ92の圧力を基準値に戻し、回収した細胞Ceを第2ピペット90の内部に保持させる。
【0074】
図6及び図9に示すように、ステップS3では、培地排出用ドロップDmの内部において、先端の開口90aが細胞回収補助治具24に接触する位置へ、第2ピペット90を移動させる。具体的には、作業者は、ジョイスティック114を操作して、コントローラ100に第2マニピュレータ70の駆動装置76、78を駆動させ、第2ピペット90の先端が培地排出用ドロップDmの内部において細胞回収補助治具24に接触する位置へ移動するための駆動信号VXYを供給させる。
【0075】
この際、細胞回収補助治具24のフィルタ部26がY-Z平面上に配置され、第2ピペット90の軸方向がX軸方向に平行であるため、第2ピペット90は、先端の開口90aが、細胞回収補助治具24のフィルタ部26の面方向に対して垂直方向に押し付けられる位置に移動する。なお、第2ピペット90の先端が接触する位置は、培地排出用ドロップDmに浸漬されているものとする。
【0076】
図6及び図10に示すように、ステップS4では、注入ポンプ92を陽圧に駆動し、第2ピペット90の内部を陽圧にさせて、細胞回収補助治具24を介して液体培地Dを排出させる。具体的には、作業者は、注入ポンプインターフェース120を操作して、コントローラ100に注入ポンプ92を陽圧に駆動するための圧力制御信号VP2を供給させる。これにより、第2ピペット90の内部が加圧されることで、先端の開口90aに向かって内部の複数の細胞Ce及び液体培地Dが送り出される。
【0077】
この際、開口90aに最も近い細胞Ceは、細胞回収補助治具24のフィルタ部26に堰き止められて開口90aより内部に留まる。また、他の細胞Ceは、開口90a側に隣接する細胞Ceに堰き止められて、第2ピペット90の内部に留まる。一方で、液体培地Dは、細胞Ce間及び細胞Ceと第2ピペット90の内周との間を通り、フィルタ部26の目の隙間を通って、細胞回収補助治具24より第2ピペット90とは反対側に排出される。これにより、ステップS2において第2ピペット90の内部に回収された複数の細胞Ceは、数珠繋がり状に整列される。
【0078】
ステップS4では、例えば、顕微鏡12を通してカメラ14で撮像した第2ピペット90の内部の細胞Ceの撮像画像に基づいて、整列した状態の細胞Ceの中心間距離が所定の範囲内となるまで液体培地Dを排出するようにしてもよい。
【0079】
具体的には、まず、細胞Ceが内包される部分の第2ピペット90をカメラ14により撮像し、この画像データを、画像入力部102から画像信号として画像処理部104に送る。画像データは、第2ピペット90の軸方向に直交する方向から撮像したものであることが好ましい。画像処理部104は、第2ピペット90に内包される細胞Ceの位置及び外形が検出できるよう、二値化処理、フィルタ処理、エッジ抽出処理及びパターンマッチングを行う。その処理結果に基づいて位置検出部108は、各々の細胞Ceの中心位置を検出する。
【0080】
更に、演算部110は、各々の細胞Ceの中心位置に基づいて、細胞Ceの中心間距離の平均値を算出し、算出値が所定の範囲内か否かを判断する。このような画像検知を所定周期で実行し、整列した状態の細胞Ceの中心間距離が所定の範囲内となるまで液体培地Dを排出する。所定の範囲内は、例えば、細胞Ceの直径の平均値の100%以上200%以下である。液体培地Dを排出した後は、注入ポンプ92の圧力を基準値に戻し、数珠繋がり状に整列された細胞Ceを第2ピペット90の先端近傍に保持させる。
【0081】
図6及び図11に示すように、ステップS5では、細胞注入用ドロップDiの内部において、先端の開口60a、90aが細胞塊200を挟んで対向する位置へ、第1ピペット60及び第2ピペット90を移動させる。具体的には、作業者は、まず、ジョイスティック114を操作して、コントローラ100に第1マニピュレータ30の駆動装置36、38を駆動させ、第1ピペット60の先端の開口60aが細胞注入用ドロップDiの内部において細胞塊200に近接する位置へ移動するための駆動信号VXYを供給させる。これにより、第1ピペット60は、先端の開口60aが、細胞塊200に対向する位置に移動する。
【0082】
作業者は、次に、ジョイスティック114を操作して、コントローラ100に第2マニピュレータ70の駆動装置76、78を駆動させ、第2ピペット90の先端の開口90aが細胞注入用ドロップDiの内部において第1ピペット60と反対側から細胞塊200に近接する位置へ移動するための駆動信号VXYを供給させる。これにより、第2ピペット90は、先端の開口90aが、細胞塊200に対向する位置に移動する。
【0083】
図6及び図12に示すように、ステップS6では、シリンジポンプ62を陰圧に駆動し、第1ピペット60で細胞塊200を吸引保持させる。具体的には、作業者は、まず、シリンジポンプインターフェース118を操作して、コントローラ100にシリンジポンプ62を陰圧に駆動するための圧力制御信号VP1を供給させる。これにより、第1ピペット60の内部が減圧されて、開口60aから細胞塊200が吸引され、細胞塊200が第1ピペット60の先端に吸引保持される。
【0084】
図6及び図13に示すように、ステップS7では、第2ピペット90を軸方向に移動させ、先端を細胞塊200の内部へ挿入させる。具体的には、作業者は、ジョイスティック114を操作して、コントローラ100に第2マニピュレータ70の駆動装置76、78を駆動させ、第2ピペット90が細胞塊200に向かって前進するための駆動信号VXYを供給させる。これにより、第2ピペット90の先端で細胞塊200が穿孔され、先端の開口90aが細胞塊200の内部へ挿入される。
【0085】
図6及び図14に示すように、ステップS8では、注入ポンプ92を陽圧に駆動し、第2ピペット90の内部を陽圧にさせて、細胞Ceを細胞塊200の内部へ吐出させる。具体的には、作業者は、注入ポンプインターフェース120を操作して、コントローラ100に注入ポンプ92を陽圧に駆動するための圧力制御信号VP2を供給させる。この際、整列した状態の細胞Ceの中心間距離に基づいて、注入ポンプ92の圧力値及び持続時間を決定し、送り量を制御することができる。これにより、第2ピペット90の内部が加圧されることで、内包された細胞Ceが、先端の開口90aを通って細胞塊200の内部へ吐出される。
【0086】
細胞塊200の内部へ細胞Ceを吐出した後、作業者は、コントローラ100に第2マニピュレータ70の駆動装置76、78を駆動させ、第2ピペット90を細胞塊200から抜き、所定の初期位置に移動させるための駆動信号VXY、Vを供給させる。これにより、第2ピペット90は、所定の初期位置に戻る。なお、第2ピペット90による穿孔で開いた細胞塊200の孔は、細胞塊200を構成する細胞が成長することにより数時間~数日程度で閉塞する。
【0087】
また、作業者は、ジョイスティック114を操作して、コントローラ100に第1マニピュレータ30の駆動装置36、38を駆動させ、処理済みの細胞塊200を載置する所定の位置に第1ピペット60が吸引保持する細胞塊200を移動させるための駆動信号VXYを供給させる。これにより、第1ピペット60は、先端が、処理済みの細胞塊200を載置する所定の位置に移動する。
【0088】
作業者は、次に、シリンジポンプインターフェース118を操作して、コントローラ100にシリンジポンプ62を陽圧に駆動するための圧力制御信号VP1を供給させる。これにより、第1ピペット60の内部が加圧されて、細胞塊200への吸引が解除され、細胞塊200が第1ピペット60の先端の開口60aから離れる。作業者は、次に、ジョイスティック114を操作して、コントローラ100に第1マニピュレータ30の駆動装置36、38を駆動させ、第1ピペット60を所定の初期位置に移動させるための駆動信号VXY、Vを供給させる。これにより、第1ピペット60は、所定の初期位置に戻る。
【0089】
次に、細胞注入装置1の駆動方法において、第2ピペット90の先端の開口90aを細胞回収補助治具24のフィルタ部26に押し付ける動作、すなわち図6に示すステップS3について、より詳細に説明する。図15は、図1に示す細胞注入装置1の動作の一例を示すフローチャート図である。図16は、図15に示す第2ピペット90の挙動を説明するための説明図である。
【0090】
図15に示すように、ステップS3-1では、培地排出用ドロップDmの内部において、先端の開口90aが細胞回収補助治具24に対向する所定の準備位置へ、第2ピペット90を移動させる。具体的には、作業者は、ジョイスティック114を操作して、コントローラ100に第2マニピュレータ70の駆動装置76、78を駆動させ、第2ピペット90の先端が培地排出用ドロップDmの内部において細胞回収補助治具24のフィルタ部26に対して、X軸方向に対向する所定の準備位置へ移動するための駆動信号VXYを供給させる。所定の準備位置とフィルタ部26との間の距離は、少なくとも細胞Ceの直径の平均値より大きい。
【0091】
ステップS3-2では、第2ピペット90を細胞回収補助治具24の方向へ微小駆動させる。具体的には、作業者は、ジョイスティック114を操作して、コントローラ100に第2マニピュレータ70の駆動装置76を駆動させ、第2ピペット90がX軸方向に変位(-dX)移動するための駆動信号VXYを供給させる。これにより、第2ピペット90の先端が、フィルタ部26に対してdX接近する。すなわち、第2ピペット90の先端のX座標は、X=X-dXに更新される。変位dXは、細胞Ceの直径の平均値より小さい値に設定される。
【0092】
ステップS3-3では、第2ピペット90の先端を含む所定領域の画像データを取得する。具体的には、コントローラ100は、カメラ14から第2ピペット90の先端を含む所定領域の画像信号VPIXを、画像入力部102を介して取得する。
【0093】
ステップS3-4では、画像処理シーケンスより第2ピペット90の外形を検出する。具体的には、コントローラ100の画像処理部104は、画像入力部102から画像信号を受け取って、画像処理を行う。画像処理部104は、例えば、画像入力部102から受け取った画像信号をグレースケール化して、グレースケール画像に基づいてエッジ抽出処理やパターンマッチングを行う。これにより、第2ピペット90の外形の形状を検出する。
【0094】
ステップS3-5では、第2ピペット90にたわみがあるか否かを判断する。具体的には、コントローラ100の演算部110は、画像データから検出した第2ピペット90の外形の形状に基づいて、第2ピペット90が所定のたわみ量以上にたわんだか否かを判断する。図16に示すように、第2ピペット90は、先端がフィルタ部26に接触した状態から押し付けるように移動すると、両端部がフィルタ部26と第1ピペット保持部材40(図1参照)とに挟まれて、たわみが生じる。
【0095】
演算部110は、例えば、たわんでいない状態の第2ピペット90の外形と、取得した画像データにおける第2ピペット90の外形と、がY軸方向に所定量以上ずれている場合、所定のたわみ量以上にたわんでいると判断する。所定のたわみ量以上にたわんでいないと判断された場合(ステップS3-5;No)、ステップS3-2に戻り、ステップS3-5でYesと判断されるまで、ステップS3-2からステップS3-5までを繰り返し実行する。第2ピペット90が所定のたわみ量以上にたわんでいると判断された場合(ステップS3-5;Yes)、ステップS3-6に移行する。
【0096】
ステップS3-6では、第2ピペット90を細胞回収補助治具24と反対側へ微小駆動させる。具体的には、作業者は、ジョイスティック114を操作して、コントローラ100に第2マニピュレータ70の駆動装置76を駆動させ、第2ピペット90がX軸方向に変位(+dX)移動するための駆動信号VXYを供給させる。これにより、第2ピペット90の先端が、フィルタ部26に対してdX離隔する。すなわち、第2ピペット90の先端のX座標は、X=X+dXに更新される。
【0097】
このように、第2ピペット90を所定距離(dX)ずつフィルタ部26に接近させ、第2ピペット90がたわんだ位置から一段階戻した位置、すなわち所定距離(dX)離隔させた位置を、第2ピペット90の先端の開口90aをフィルタ部26に押し付けた位置とする。ステップS3-6を実行した後は、図15に示す処理を終了し、図6に示すステップS4に移行する。
【0098】
以上説明したように、実施形態の細胞注入装置1は、細胞塊200を構成する細胞とは異なる細胞を示す細胞Ce(外来細胞)を複数内包する液体培地Dが収容される試料保持部材22と、細胞Ceを通過させず液体培地Dを通過させる大きさの気泡を有するフィルタ部26を含む細胞回収補助治具24と、細胞塊200を保持可能な第1ピペット60(保持用治具)を備える第1マニピュレータ30(保持用マニピュレータ)と、細胞塊200の内部へ先端を挿入可能であって、複数の細胞Ce及び液体培地Dを先端の開口90aから回収可能かつ吐出可能な第2ピペット90(注入用ピペット)を備える第2マニピュレータ70(操作用マニピュレータ)と、第2ピペット90と接続して第2ピペット90の内部圧力を調整可能な注入ポンプ92と、各部を制御するコントローラ100と、を備え、コントローラ100は、第2ピペット90の内部を陰圧にすることで複数の細胞Ce及び液体培地Dを第2ピペット90の内部に回収させた後、第2ピペット90の先端の開口90aをフィルタ部26に押し付けた状態で第2ピペット90の内部を陽圧にすることでフィルタ部26を介して液体培地Dを排出させ、第2ピペット90の内部の細胞Ceを数珠繋がり状に整列させる。
【0099】
これによれば、第2ピペット90(注入用ピペット)によって細胞塊200の内部に細胞Ce(外来細胞)を注入する前に、余分な液体培地Dを第2ピペット90の内部から排出することができるので、余分な液体培地Dを細胞塊200の内部に注入することを抑制することができる。また、細胞Ceを第2ピペット90に回収した後に液体培地Dのみ排出することで数珠繋がり状に整列させることができるため、液体培地Dごと細胞Ceを吸引してもよく、注入ポンプ92によって微量な流量を正確に制御する必要がない。また、フィルタ部26によって第2ピペット90の開口90aを閉塞した状態で第2ピペット90の内部を陽圧にすることで、細胞Ceを第2ピペット90の内部に残したまま液体培地Dのみを排出できるため、同様に、注入ポンプ92によって微量な流量を正確に制御する必要がない。また、余分な液体培地Dを排出することで、第2ピペット90の内部で細胞Ceが数珠繋がり状に整列されるため、1つずつ細胞Ceを吐出させる際の送り量を均一にすることができ、注入ポンプ92の制御が容易となる。したがって、作業者の熟練度及び技術によらず、細胞塊200の内部に細胞Ceを安定して注入することができる。
【0100】
また、実施形態の細胞注入装置1は、第2ピペット90(注入用ピペット)の内部の細胞Ce(外来細胞)を撮像可能な顕微鏡ユニット10(撮像部)を更に備え、コントローラ100は、顕微鏡ユニット10の画像データに基づいて、数珠繋がり状に整列された細胞Ceの中心間距離を取得し、中心間距離が細胞Ceの直径の平均値の100%以上200%以下になるまでフィルタ部26を介して液体培地Dを排出させる。
【0101】
これによれば、第2ピペット90(注入用ピペット)の内部において定量的に細胞Ce(外来細胞)を整列させることができるため、1つずつ細胞Ceを吐出させる際の送り量を均一にすることができ、注入ポンプ92の制御が容易となる。
【0102】
また、実施形態の細胞注入装置1は、第2ピペット90(注入用ピペット)の外形を撮像可能な顕微鏡ユニット10(撮像部)を更に備え、コントローラ100は、第2ピペット90を、フィルタ部26に対向した所定の準備位置から、細胞Ce(外来細胞)の直径より小さい所定距離(dX)ずつフィルタ部26に近接させ、顕微鏡ユニット10の画像データに基づいて、第2ピペット90が所定のたわみ量以上にたわんだか否かを判断し、所定のたわみ量以上にたわんだ位置から所定距離離隔させた位置を、第2ピペット90の先端の開口90aをフィルタ部26に押し付けた位置とする。
【0103】
これによれば、第2ピペット90(注入用ピペット)の先端の開口90aをフィルタ部26によって閉塞できたか否かを定量的に判断することができるため、作業者の熟練度及び技術によらず、細胞Ce(外来細胞)を第2ピペット90の内部に残したまま液体培地Dのみを排出できる。
【0104】
また、実施形態の細胞回収補助治具24は、細胞注入装置1が備える細胞回収補助治具24であって、一方の面が第2ピペット90(注入用ピペット)の開口90aの外縁形状に沿う板状のフィルタ部26と、フィルタ部26を保持して試料保持部材22に固定され、第2ピペット90の先端が挿入可能な溝部28aが形成されるフィルタ保持部28と、を備える。
【0105】
これによれば、第2ピペット90(注入用ピペット)の先端の開口90aをフィルタ部26によって閉塞させる際に、第2ピペット90の先端を溝部28aに挿入することで、先端がフィルタ部26の面方向に予期せずずれることを抑制できる。また、第2ピペット90の開口90aとフィルタ部26との間に僅かな隙間があったとしても、溝部28aによって細胞Ce(外来細胞)が予期せず流出することを抑制することができる。このため、安定的に細胞Ceを第2ピペット90の内部に残したまま液体培地Dのみを排出できる。
【0106】
また、実施形態の細胞回収方法は、細胞塊200を構成する細胞とは異なる細胞を示す細胞Ce(外来細胞)を複数内包する液体培地Dが収容される試料保持部材22と、細胞Ceを通過させず液体培地Dを通過させる大きさの気泡を有するフィルタ部26を含む細胞回収補助治具24と、細胞塊200の内部へ先端を挿入可能であって、複数の細胞Ce及び液体培地Dを先端の開口90aから回収可能かつ吐出可能な第2ピペット90(注入用ピペット)を備える第2マニピュレータ70(操作用マニピュレータ)と、第2ピペット90と接続して第2ピペット90の内部圧力を調整可能な注入ポンプ92と、を備える細胞注入装置1において細胞Ceを回収する細胞回収方法であって、第2ピペット90の内部を陰圧にすることで複数の細胞Ce及び液体培地Dを第2ピペット90の内部に回収させる回収ステップ(ステップS2)と、第2ピペット90の先端の開口90aをフィルタ部26に押し付ける押し付けステップ(ステップS3)と、押し付けステップの後、第2ピペット90の内部を陽圧にすることでフィルタ部26を介して液体培地Dを排出させる培地排出ステップ(ステップS4)と、を含む。
【0107】
これによれば、第2ピペット90(注入用ピペット)によって細胞塊200の内部に細胞Ce(外来細胞)を注入する前に、余分な液体培地Dを第2ピペット90の内部から排出することができるので、余分な液体培地Dを細胞塊200の内部に注入することを抑制することができる。また、細胞Ceを第2ピペット90に回収した後に液体培地Dのみ排出することで数珠繋がり状に整列させることができるため、液体培地Dごと細胞Ceを吸引してもよく、注入ポンプ92によって微量な流量を正確に制御する必要がない。また、フィルタ部26によって第2ピペット90の開口90aを閉塞した状態で第2ピペット90の内部を陽圧にすることで、細胞Ceを第2ピペット90の内部に残したまま液体培地Dのみを排出できるため、同様に、注入ポンプ92によって微量な流量を正確に制御する必要がない。また、余分な液体培地Dを排出することで、第2ピペット90の内部で細胞Ceが数珠繋がり状に整列されるため、1つずつ細胞Ceを吐出させる際の送り量を均一にすることができ、注入ポンプ92の制御が容易となる。したがって、作業者の熟練度及び技術によらず、細胞塊200の内部に細胞Ceを安定して注入することができる。
【0108】
また、実施形態の細胞回収方法において、細胞注入装置1は、第2ピペット90(注入用ピペット)の外形を撮像可能な顕微鏡ユニット10(撮像部)を更に備え、押し付けステップ(ステップS3)は、第2ピペット90を、フィルタ部26に対向した所定の準備位置に移動させるステップS3-1と、第2ピペット90を、準備位置から細胞Ce(外来細胞)の直径より小さい所定距離(dX)ずつフィルタ部26に近接させるステップS3-2と、第2ピペット90の外形を撮像するステップS3-3と、顕微鏡ユニット10の画像データに基づいて、第2ピペット90が所定のたわみ量以上にたわんだか否かを判断するステップS3-5と、所定のたわみ量以上にたわんだ場合、第2ピペット90を、所定距離離隔させた位置を第2ピペット90の先端の開口90aをフィルタ部26に押し付けた位置とするステップS3-6と、を含む。
【0109】
これによれば、第2ピペット90(注入用ピペット)の先端の開口90aをフィルタ部26によって閉塞できたか否かを定量的に判断することができるため、作業者の熟練度及び技術によらず、細胞Ce(外来細胞)を第2ピペット90の内部に残したまま液体培地Dのみを排出できる。
【0110】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。即ち、本発明の骨子を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。例えば、細胞回収方法では、多数の細胞Ceを回収するため、細胞注入装置1の細胞回収補助治具24を用いて液体培地Dを流出させる際に、第2ピペット90の内部に回収した複数の細胞Ceのうちフィルタ部26のメッシュサイズ以下の細胞Ceが流出してしまってもよい。
【符号の説明】
【0111】
1 細胞注入装置
10 顕微鏡ユニット
12 顕微鏡
14 カメラ
16 焦点合わせ機構
20 試料ステージ
22 試料保持部材
24 細胞回収補助治具
26 フィルタ部
28 フィルタ保持部
28a 溝部
30 第1マニピュレータ
32 X-Y軸テーブル
34 Z軸テーブル
36、38 駆動装置(第1駆動装置)
40 第1ピペット保持部材
42、82 微動機構
44 圧電アクチュエータ
46 ハウジング
48 転がり軸受
48a 内輪
48b 外輪
48c ボール
50 中空部材
50a フランジ部
52 ロックナット
54 スペーサ
56 圧電素子
58 蓋
60 第1ピペット
60a 開口
62 シリンジポンプ
70 第2マニピュレータ
72 X-Y軸テーブル
74 Z軸テーブル
76、78 駆動装置
80 第2ピペット保持部材
90 第2ピペット
90a 開口
90b 押し付け部
92 注入ポンプ
100 コントローラ(制御装置)
102 画像入力部
104 画像処理部
106 画像出力部
108 位置検出部
110 演算部
112 記憶部
114 ジョイスティック
114a 基台
114b ハンドル部
114c ボタン
116 入力部
118 シリンジポンプインターフェース
120 注入ポンプインターフェース
118a、120a 操作ノブ
122 表示部
200 細胞塊
Ce 細胞(外来細胞)
D 液体培地
Ds 細胞懸濁ドロップ
Dm 培地排出用ドロップ
Di 細胞注入用ドロップ
XY、V 駆動信号
ナノポジショナ制御信号
P1、VP2 圧力制御信号
PIX 画像信号
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16