(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025001694
(43)【公開日】2025-01-09
(54)【発明の名称】加工穴径予測システム、加工穴径予測方法
(51)【国際特許分類】
B23Q 17/20 20060101AFI20241226BHJP
B23Q 17/09 20060101ALI20241226BHJP
B23Q 17/00 20060101ALI20241226BHJP
【FI】
B23Q17/20 A
B23Q17/09 A
B23Q17/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023101307
(22)【出願日】2023-06-21
(71)【出願人】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】福岡 信彦
(72)【発明者】
【氏名】渡部 将太
(72)【発明者】
【氏名】小森 千末
【テーマコード(参考)】
3C029
【Fターム(参考)】
3C029BB04
3C029CC03
3C029FF01
3C029FF05
(57)【要約】 (修正有)
【課題】ボーリングツールを用いた仕上げ穴加工において、加工穴径を高精度に予測し、予測値を表示部に表示する加工穴径予測システムを提供する。
【解決手段】被削材の加工中に加工装置の主軸を回転させる駆動部の電流値を測定して測定信号を出力する測定部と、測定信号を記憶する測定信号記憶部と、被削材の加工に用いる工具の工具径測定値を記憶する工具径情報記憶部と、測定信号において対象加工工程の信号を判定する信号処理部と、対象加工工程の信号と判定された信号により加工負荷の反映値を算出し、算出した加工負荷の反映値により加工穴の工具径からの変化量予測値を算出する変化量算出部と、変化量算出部で算出された加工穴の工具径からの変化量予測値と、工具径情報記憶部に記憶された工具径測定値とを加算して加工穴径予測値を算出する加工穴径算出部と、加工穴径算出部で算出した加工穴径予測値を表示する表示部と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工装置による被削材の加工中に前記加工装置の主軸を回転させる駆動部の電流値を測定して測定信号を出力する測定部と、
前記測定信号を記憶する測定信号記憶部と、
前記被削材の加工に用いる工具の工具径測定値を記憶する工具径情報記憶部と、
前記測定信号において対象加工工程の信号を判定する信号処理部と、
前記対象加工工程の信号と判定された信号により加工負荷の反映値を算出し、算出した加工負荷の反映値により加工穴の工具径からの変化量予測値を算出する変化量算出部と、
前記変化量算出部で算出された加工穴の工具径からの変化量予測値と、前記工具径情報記憶部に記憶された工具径測定値とを加算して加工穴径予測値を算出する加工穴径算出部と、
前記加工穴径算出部で算出した加工穴径予測値を表示する表示部と、
を備えることを特徴とする加工穴径予測システム。
【請求項2】
請求項1に記載の加工穴径予測システムであって、
前記工具は、工具径が調整可能なボーリングツールであり、
加工装置による被削材の加工前に前記工具径を調整して、当該調整した工具径測定値を前記工具径情報記憶部に入力することを特徴とする加工穴径予測システム。
【請求項3】
請求項1に記載の加工穴径予測システムであって、
前記測定信号は、主軸モータ電流であり、
前記測定信号における加工負荷の反映値は、主軸空転時の平均値と穴加工中の平均値との差分であることを特徴とする加工穴径予測システム。
【請求項4】
請求項1に記載の加工穴径予測システムであって、
前記加工穴の工具径からの変化量予測値は、前記測定信号における加工負荷の反映値と工具径からの変化量測定値から予め導出した予測式を用いて算出することを特徴とする加工穴径予測システム。
【請求項5】
請求項1に記載の加工穴径予測システムであって、
予め設定した寸法範囲から前記加工穴径予測値が外れた場合、前記表示部に警告灯を点灯することを特徴とする加工穴径予測システム。
【請求項6】
請求項1に記載の加工穴径予測システムであって、
前記表示部に、複数の穴深さに対応する加工寸法予測値を表示することを特徴とする加工穴径予測システム。
【請求項7】
加工装置による被削材の加工後の加工穴径を予測する加工穴径予測方法であって、
(a)加工装置による被削材の加工中に前記加工装置の主軸を回転させる駆動部の電流値を測定して測定信号を求めるステップと、
(b)前記(a)ステップで求めた測定信号において対象加工工程の信号を判定するステップと、
(c)前記(b)ステップにおいて対象加工工程の信号と判定された信号により加工負荷の反映値を算出し、当該算出した加工負荷の反映値により加工穴の工具径からの変化量予測値を算出するステップと、
(d)前記(c)ステップで算出した加工穴の工具径からの変化量予測値と、被削材の加工に用いる工具の工具径測定値とを加算して加工穴径予測値を算出するステップと、
(e)前記(d)ステップで算出した加工穴径予測値を表示するステップと、
を有することを特徴とする加工穴径予測方法。
【請求項8】
請求項7に記載の加工穴径予測方法であって、
前記工具は、工具径が調整可能なボーリングツールであり、
(f)加工装置による被削材の加工前に前記工具径を調整して、当該調整した工具径測定値を入力するステップをさらに有することを特徴とする加工穴径予測方法。
【請求項9】
請求項7に記載の加工穴径予測方法であって、
前記測定信号は、主軸モータ電流であり、
前記(c)ステップにおける加工負荷の反映値は、主軸空転時の平均値と穴加工中の平均値との差分であることを特徴とする加工穴径予測方法。
【請求項10】
請求項7に記載の加工穴径予測方法であって、
前記(c)ステップにおける加工穴の工具径からの変化量予測値は、前記測定信号における加工負荷の反映値と工具径からの変化量測定値から予め導出した予測式を用いて算出することを特徴とする加工穴径予測方法。
【請求項11】
請求項7に記載の加工穴径予測方法であって、
予め設定した寸法範囲から前記加工穴径予測値が外れた場合、表示部に警告灯を点灯することを特徴とする加工穴径予測方法。
【請求項12】
請求項7に記載の加工穴径予測方法であって、
前記(e)ステップにおいて、複数の穴深さに対応する加工寸法予測値を表示することを特徴とする加工穴径予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工装置による被削材の加工後の加工穴径を予測する加工穴径予測システムの構成とその方法に係り、特に、ボーリングツールを有する加工装置に適用して有効な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
マシニングセンタ等の加工装置において、高精度な穴の仕上げ加工にはボーリングツールが用いられる。ボーリングツールでは、工具の中心に対して刃先を半径方向に移動して工具径を調整する。ボーリングツールの工具径は、加工装置の機外でツールプリセッタ等を用いて調整する。
【0003】
仕上げ加工前の荒加工では、加工寸法公差範囲が大きく、荒加工後の穴径はばらつきが大きい。これにより、仕上げ穴加工では調整した工具径に対してばらつきを生じる。そのため、仕上げ加工後には接触式の内径マイクロメータ等を用いて穴径を測定し、寸法公差範囲内であるかを確認する必要がある。また、その際に測定器の接触により加工面に傷が付き、加工不良となる場合がある。
【0004】
加工装置を用いた切削加工後の加工面形状予測装置として、例えば特許文献1のような技術が知られている。特許文献1には、「加工中の加工機における工具の位置座標値を取得する座標値取得部と、加工中に前記加工機の駆動軸における加工負荷を取得する加工負荷取得部と、加工負荷により工具が変形する変形量を算出し、変形量と位置座標値から加工面形状を予測する予測処理部とを有する加工面形状予測装置」が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1では、工具の剛性を求めて加工負荷による工具の変形量を算出して加工面形状を予測する。
【0007】
しかしながら、ボーリングツールは、工具径調整のために刃先の移動機能があり、複数の部品で構成されている。そのため、ボーリングツール自体の剛性を高精度に求めることが難しく、取得した加工負荷から工具の剛性を用いて工具の変形量を高精度に算出することができず、加工面形状予測値は、実測値との誤差が大きくなる可能性が高い。
【0008】
算出した予測値と実測値との差が大きい場合には、結局、接触式の内径マイクロメータ等を用いて穴径を測定して寸法を確認する必要がある。したがって、ボーリングツールを用いた仕上げ穴加工において、高精度に加工後の穴径を予測することが課題となる。
【0009】
そこで、本発明の目的は、加工装置によるボーリングツールを用いた仕上げ穴加工において、加工穴径を高精度に予測し、その予測値を表示部に表示する加工穴径予測システム及び加工穴径予測方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明は、加工装置による被削材の加工中に前記加工装置の主軸を回転させる駆動部の電流値を測定して測定信号を出力する測定部と、前記測定信号を記憶する測定信号記憶部と、前記被削材の加工に用いる工具の工具径測定値を記憶する工具径情報記憶部と、前記測定信号において対象加工工程の信号を判定する信号処理部と、前記対象加工工程の信号と判定された信号により加工負荷の反映値を算出し、算出した加工負荷の反映値により加工穴の工具径からの変化量予測値を算出する変化量算出部と、前記変化量算出部で算出された加工穴の工具径からの変化量予測値と、前記工具径情報記憶部に記憶された工具径測定値とを加算して加工穴径予測値を算出する加工穴径算出部と、前記加工穴径算出部で算出した加工穴径予測値を表示する表示部と、を備えることを特徴とする。
【0011】
また、本発明は、加工装置による被削材の加工後の加工穴径を予測する加工穴径予測方法であって、(a)加工装置による被削材の加工中に前記加工装置の主軸を回転させる駆動部の電流値を測定して測定信号を求めるステップと、(b)前記(a)ステップで求めた測定信号において対象加工工程の信号を判定するステップと、(c)前記(b)ステップにおいて対象加工工程の信号と判定された信号により加工負荷の反映値を算出し、当該算出した加工負荷の反映値により加工穴の工具径からの変化量予測値を算出するステップと、(d)前記(c)ステップで算出した加工穴の工具径からの変化量予測値と、被削材の加工に用いる工具の工具径測定値とを加算して加工穴径予測値を算出するステップと、(e)前記(d)ステップで算出した加工穴径予測値を表示するステップと、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、加工装置によるボーリングツールを用いた仕上げ穴加工において、加工穴径を高精度に予測し、その予測値を表示部に表示する加工穴径予測システム及び加工穴径予測方法を実現することができる。
【0013】
これにより、仕上げ穴加工後の手作業による接触式の測定器を用いた測定工程が不要になり、生産性の向上が図れる。また、接触式の測定器による加工面への傷の発生がなくなるため、不良率の低減が可能となる。
【0014】
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施例1に係る加工穴径予測システムの概略構成を示す図である。
【
図2】本発明の実施例1に係る加工穴径予測方法を示すフローチャートである。
【
図3】仕上げ穴加工における主軸モータ電流の時間変化を示す図である。
【
図4】仕上げ穴加工における主軸モータ電流の実効値の時間変化を示す図である。
【
図6】仕上げ穴加工における主軸モータ電流ΔIと加工穴の工具径からの変化量の関係を示す図である。
【
図7】
図1の表示部の表示例(GUI画面)を示す図である。
【
図8】
図1の表示部の表示例(GUI画面)を示す図である。
【
図9】
図1の表示部の表示例(GUI画面)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を用いて本発明の実施例を説明する。なお、各図面において同一の構成については同一の符号を付し、重複する部分についてはその詳細な説明は省略する。
【実施例0017】
図1から
図9を参照して、本発明の実施例1に係る加工穴径予測システム及び加工穴径予測方法について説明する。
【0018】
本実施例では、ボーリングツールを用いた被削材の仕上げ穴加工を行う加工装置において、加工中の主軸モータ電流を測定し、取得した主軸モータ電流により加工した穴の工具径からの変化量予測値を算出し、工具径測定値と加算して加工穴径予測値を求め、その結果を表示部に表示する加工穴径予測システムの例を説明する。
【0019】
図1は、本実施例の加工穴径予測システムの構成を模式的かつ例示的に示した図である。
図1には、加工装置4に加工穴径予測システム1が取り付けられた例を示している。また、
図1に示す加工プロセスは、被削材7にボーリングツール5により仕上げ穴加工する例である。加工装置4は、NCプログラム(Numerical Control)で制御が可能なNCフライス盤やマシニングセンタ等である。
【0020】
加工装置4では、ボーリングツール5を主軸6に固定し、主軸モータ8で主軸6を回転させ、ボーリングツール5と被削材7を相対的に移動する手段(図示せず)で移動して接触させることで被削材7に所望の寸法の穴を加工する。このとき、NCプログラムが記憶されたNC装置10からの指令により、サーボアンプ9が主軸モータ8に入力する電流値を制御する。これにより、指令通りの回転数で主軸モータ8を回転させる。ボーリングツール5は、工具中心に対して刃先を半径方向に移動して工具径を調整する機能を有する刃先交換式のボーリングツール等である。
【0021】
加工穴径予測システム1は、主要な構成として、測定部14と、加工穴径予測システム本体15とを備えている。
【0022】
加工穴径予測システム本体15は、汎用の計算機上に構成することができる。そのハードウェア構成は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)等により構成される演算部2、ROM(Read Only Memory)、HDD(Hard Disk Drive)、フラッシュメモリ等を用いたSSD(Solid State Drive)等により構成される記憶部3、キーボードやマウス等の入力デバイスにより構成される入力部11、LCD(Liquid Crystal Display)、有機ELディスプレイ等の表示装置、各種出力装置等により構成される表示部12、NIC(Network Interface Card)、入出力インターフェース機器等により構成される通信部13等を備える。
【0023】
通信部13は、有線ネットワーク若しくは無線ネットワーク、または個別の専用ケーブルやUSB(Universal Serial Bus)ケーブル等を介して加工装置4のサーボアンプ9と主軸モータ8の間の電流値を測定する測定部14と接続されている。測定部14は、電流センサやAD変換器等から構成される。
【0024】
演算部2は、記憶部3に記憶されている測定プログラム31と信号処理プログラム32と変化量算出プログラム33と加工穴径算出プログラム34を、RAMへロードしてCPUで実行することにより各機能部を実現する。演算部2は、測定制御部21、測定信号処理部22、変化量予測値算出部23、加工穴径予測値算出部24を有する。
【0025】
記憶部3は、測定プログラム31、信号処理プログラム32、変化量算出プログラム33、加工穴径算出プログラム34と、工具径情報35、測定信号36、穴加工測定信号37、変化量予測値38、加工穴径予測値39の各情報を記憶する記憶領域を有する。
【0026】
図1の加工穴径予測システム1で行われる処理フローを、
図2のフローチャートの例に沿って説明する。
【0027】
先ず、ステップS01では、加工穴径予測システム1の稼働を開始する。表示部12に表示した加工穴径予測システム1のGUI画面の稼働開始ボタン(
図7を用いて後述する)を押すことで、加工穴径予測システム1の稼働が開始する。
【0028】
次に、ステップS02では、主軸サーボモータ電流(以後、主軸モータ電流と呼ぶ)を取得する。記憶部3の測定プログラム31を実行し、演算部2の測定制御部21にてサーボアンプ9と主軸モータ8の間から主軸モータ電流を継続して取得し、通信部13を介して記憶部3の測定信号36に記憶する。
【0029】
次に、ステップS03では,記憶部3の信号処理プログラム32を実行し、演算部2の測定信号処理部22にて測定信号36に記憶された主軸モータ電流の信号が仕上げ穴加工の信号であるか否かを判定する。仕上げ穴加工のデータと判定した場合(Yes)には、記憶部3の穴加工測定信号37に記憶する。仕上げ穴加工のデータ判定は、仕上げ穴加工の加工時間が他の加工工程の加工時間と異なる場合には、加工開始から終了までの経過時間(加工時間)にて判定する。また、仕上げ穴加工が他の工具とは回転数や工具の刃数が異なり、主軸モータ電流に仕上げ穴加工特有の周波数成分が表れる場合には、周波数解析にて判定しても良い。一方、仕上げ穴加工のデータでないと判定した場合(No)には、ステップS02に戻り、ステップS02以降の処理を繰り返す。
【0030】
次に、ステップS04では、主軸モータ電流により加工した穴(以後、加工穴と呼ぶ)の工具径からの変化量予測値を算出する。記憶部3の変化量算出プログラム33を実行し、演算部2の変化量予測値算出部23にて穴加工測定信号37に記憶された仕上げ穴加工の主軸モータ電流において、後述する加工負荷の反映値を算出し、さらに、後述する予め導出した主軸モータ電流による変化量予測式を用いて加工穴の工具径からの変化量予測値を算出する。算出した変化量予測値は、記憶部3の変化量予測値38に記憶する。
【0031】
次に、ステップS05では、記憶部3の加工穴径算出プログラム34を実行し、演算部2の加工穴径予測値算出部24にて記憶部3の工具径情報35に記憶された工具径測定値と、変化量予測値38に記憶された加工穴の工具径からの変化量予測値とを加算して加工穴径予測値を算出する。算出した加工穴径予測値は、記憶部3の加工穴径予測値39に記憶する。
【0032】
最後に、ステップS06では、加工穴径予測値39に記憶された加工穴径予測値を、表示部12に出力して表示する。その後、ステップS02に戻り、ステップS02以降の処理を繰り返す。
【0033】
なお、工具径情報35には、加工穴径予測システム1を稼働する前に、入力部11にてボーリングツール5の工具径設定時に測定した工具径測定値を入力する。
【0034】
図3は、仕上げ穴加工における主軸モータ電流の時間変化を示す図である。
【0035】
図2のステップS03で、演算部2の測定信号処理部22にて仕上げ穴加工の信号と判定され、記憶部3の穴加工測定信号37に記憶された信号データである。1枚刃のΦ200mmボーリングツール5を用いて、深さ40mmの穴をステンレス製の被削材7に仕上げ加工した例である。加工条件は、主軸回転数110min
-1、送り速度130mm/min、径切込み量0.11mmであり、ボーリングツール5の工具径測定値はΦ200.021mmである。また、測定条件は、サンプリング時間0.001秒である。
【0036】
図3に示す主軸モータ電流の波形では、加工時間約5秒と加工時間約218秒に大きな振幅が見られる。振幅40は主軸6の回転開始時のモータ始動用の電流であり、振幅41は主軸6の回転停止時のモータ停止用の電流である。したがって、振幅40と振幅41の間が仕上げ穴加工の主軸モータ電流の信号データである。
【0037】
図4は、仕上げ穴加工における主軸モータ電流の実行値の時間変化を示す図である。
【0038】
これは、
図3に示す主軸モータ電流の実効値である。
図2のステップS03で、演算部2の測定信号処理部22にて仕上げ穴加工の信号と判定するのに用いたデータである。実効値は0.2秒間隔で算出している。
【0039】
図4に示す主軸モータ電流の実効値の波形では、加工時間約5秒で主軸6の回転開始により急増し、その後、約20Aで一定となっている。そして、加工時間約30秒で増加した後はほぼ一定となり、加工時間約218秒で回転停止により一旦急増した後、約2Aまで減少している。
【0040】
主軸回転開始時の振幅43から加工時間約30秒の増加ポイント45までの範囲46は、主軸6が空転している状態である。増加ポイント45でボーリングツール5が被削材7に接触して加工が開始すると、主軸6に負荷が発生するため、主軸モータ8を一定回転数で回転させる制御がサーボアンプ9から働いて測定部14で検出される電流値が増大する。増加ポイント45から主軸回転停止時の振幅44の直前までの範囲47が、仕上げ穴加工の主軸モータ電流の実効値データである。
【0041】
図2に示したステップS03の演算部2の測定信号処理部22における仕上げ穴加工の信号判定処理を
図3と
図4を用いて説明する。
【0042】
測定信号処理部22では、先ず、測定信号36に記憶された主軸モータ電流の信号の実効値を任意の間隔で算出する。ここでは、前述した通り0.2秒間隔で算出した。そして、算出した実効値がしきい値42を超えた場合に主軸6が回転したと判定し、その後で主軸モータ電流の実効値がしきい値42より小さくなった場合に、主軸6の回転が停止して加工が終了したと判定する。
【0043】
主軸6の回転開始から停止までの経過時間を加工時間とし、加工時間が仕上げ穴加工判定時間範囲内である場合には、仕上げ加工の信号と判定する。ここでは、加工時間が215秒~225秒の場合に仕上げ穴加工の信号と判定した。その後、仕上げ穴加工の信号と判定した場合には、記憶部3の穴加工測定信号37に記憶する。ここでは、仕上げ穴加工の信号と判定した場合には、加工時間の前後5秒間のデータを加えて、主軸モータ電流の測定信号(生データ)と、主軸モータ電流の実効値データを穴加工測定信号37に記憶した。
【0044】
図5は、仕上げ穴加工における主軸モータ電流の実行値の時間変化を、縦軸を拡大して示す図である。これは、
図4において縦軸を20~23Aに拡大したものである。また、
図2に示したステップS04において、演算部2の変化量予測値算出部23にて加工穴の工具径からの変化量を予測するのに用いるデータである。
【0045】
加工穴の工具径からの変化量予測には、主軸空転範囲46の平均値と仕上げ穴加工範囲47の平均値との差分50を用いた。以後、この差分50を主軸モータ電流ΔIと称する。主軸モータ電流ΔIが加工負荷の反映値である。加工装置4は、設置されている環境の温度変化等の影響により、空転時の主軸モータ電流が変動する場合がある。このように、空転時の主軸モータ電流と、加工中の主軸モータ電流との差分を求めることで、外乱の影響を抑制して、仕上げ穴加工中の加工負荷が高精度に反映されたデータを用いることができる。
【0046】
図6は、仕上げ穴加工における主軸モータ電流ΔIと穴加工径の工具径からの変化量の関係を示す図である。これは、荒加工において、荒加工の穴径範囲の最大値から最小値を3段階に振って、仕上げ加工した際の主軸モータ電流ΔIと、加工穴の工具径からの変化量の関係を示す測定結果である。以後、加工穴の工具径からの変化量をΔDと称する。
【0047】
ここでは、荒加工の穴径寸法範囲はΦ199.85±0.1mmであるため、荒加工の穴径をΦ199.75、Φ199.85mm、Φ199.95mmに加工した。また、加工穴の工具径からの変化量ΔDは、仕上げ加工後に内径マイクロメータで測定した穴径と、ボーリングツールの工具径測定値との差を示す。なお、加工後の穴径は、穴深さ3カ所(10mm、20mm、30mm)で直交方向(2方向)にて測定した合計6点の平均値である。また、ボーリングツール5の工具径測定値はΦ200.024mmであった。
【0048】
図6において、近似曲線51は、主軸モータ電流ΔIと加工穴の工具径からの変化量ΔDにて、最小二乗法により求めた回帰直線であり、下記の近似式(1)となる。
【0049】
ΔD=0.0455×ΔI-0.0068・・・(1)
この近似式(1)の決定係数は0.94であり、主軸モータ電流ΔIを説明変数として、目的変数である加工穴の工具径からの変化量ΔDを良く説明できていると言える。したがって、この近似式(1)を主軸モータ電流ΔIによる加工穴の工具径からの変化量ΔDの予測式に用いた。
【0050】
なお、予測式(1)は、工具形状や被削材7の材質、加工条件等が異なる場合には、その都度導出する必要がある。ここでは、荒加工の穴径を調整して径切込み量を変えて、試験的に主軸モータ電流ΔIによる加工穴の工具径からの変化量ΔDの予測式を求めたが、製品加工にて寸法検査結果と、それに対応する工具径及び主軸モータ電流のデータを蓄積して求めることもできる。また、導出した予測式は、導出した後でデータを蓄積して修正しても構わない。また、最小二乗法による回帰分析により予測式を導出したが、主軸モータ電流ΔIにて加工穴の工具径からの変化量ΔDを高精度に予測できれば、別の分析手法から導出しても構わない。
【0051】
また、
図6では、主軸モータ電流ΔIが大きいほど、加工穴の工具径からの変化量ΔDが大きくなる傾向である。この結果は、荒加工の穴径が小さく、仕上げ穴加工の径切込み量が大きい条件の方が、仕上げ加工後の穴径が大きくなることを示している。これは、使用したボーリングツール5の切込み角が90度以上であり、加工中に工具の切れ刃に生じる切削力の背分力が被削材方向に向かって生じるためである。加工負荷が大きくなるほど、被削材7に向かって工具が引っ張られる力が大きくなり加工した穴径が大きくなる傾向となる。
【0052】
一方、切込み角が90度未満の場合には、加工中に工具の切れ刃に生じる切削力の背分力が工具側に向かって生じるため、加工負荷が大きくなるほど工具には被削材7から離れる方向の力が作用し穴径が小さくなる傾向となる。そのため、前述したように、工具形状が変わる場合には、予測式を新たに導出する必要がある。
【0053】
次に、加工穴径予測システム1の表示部12に表示する操作画面を、構成図の例を用いて説明する。
【0054】
図7は、
図1に示す加工穴径予測システム1において表示部12のGUI(Graphical User Interface)画面の構成図の例である。
【0055】
GUI画面101は、加工穴径予測システム1の稼働を開始するための稼働開始ボタン102、稼働を終了するための稼働中断ボタン103、ボーリングツール5の工具径測定値を入力する工具径入力部104、加工穴径予測値表示部105、工具径からの変化量予測値表示部106を備える。穴加工中に取得した主軸モータ電流を用いて予測した工具径からの変化量予測値を変化量予測値表示部106に、加工穴径予測値を加工穴径予測値表示部105にそれぞれ表示する。
【0056】
図7には、Φ200mmボーリングツール5を用いて仕上げ加工した結果の一例を表示している。これは、
図3~
図5で示した主軸モータ電流の加工穴径予測結果である。加工穴径予測値がΦ200.051mmであるのに対して、加工穴径の実測値はΦ200.056mmであり、誤差は-0.005mmであった。この仕上げ穴加工ではΦ200.00~Φ200.10mm(φ200.05±0.05mm)が加工寸法公差範囲である。穴径の予測精度(誤差)は、穴径の公差範囲0.10mmに対して±10%以下(±0.01mm以下)であり、加工穴径の寸法検査に使用可能である。
【0057】
したがって、加工後に加工穴径予測システム1により加工穴径が確認できるため、仕上げ加工後の手作業による検査工程の代替とすることができ、検査工程の省略が可能となる。また、接触式の測定器により生じる可能性のある加工面への傷の発生もなくなるため、加工不良の発生率を低減することができる。
【0058】
図8は、加工穴径予測システム1の表示部12に表示するGUI画面の別の例である。GUI画面110には、
図7の構成に加えて、さらに穴径予測値警告ライト111を備える。主軸モータ電流を用いて予測した加工穴径予測値が、加工寸法公差の±70%を超えた場合に、穴径予測値警告ライト111が点灯する。
【0059】
図8には、Φ200mmボーリングツール5を用いて仕上げ加工した結果の一例を表示している。ここで、加工した穴の仕上げ加工の寸法公差は、
図7と同様に200.00~Φ200.10m(φ200.05±0.05mm)である。ここでは、加工穴径予測値がΦ200.085mm(公差+70%)以上、または、Φ200.015mm(公差-70%)以下の場合に、穴径予測値警告ライト111が点灯する設定とした。
【0060】
図8では、加工穴径がΦ200.087mmと予測されため、穴径予測値警告ライト111が点灯している。この仕上げ穴加工の実測値はΦ200.083mmであり、予測誤差は+0.004mmであった。仕上げ加工の穴径が大きくなったのは、荒加工の穴径をΦ199.69mmに小さく加工し、仕上げ加工の加工負荷を大きくしたためである。
【0061】
製品加工において、同様に仕上げ加工の穴径予測値が公差範囲の限界近くになった場合には、荒加工の加工寸法が公差範囲から外れている可能性があるため、荒加工工具や加工条件の見直し、あるいは、仕上げ加工用のボーリングツール5の工具径設定の確認等を促すことができる。よって、仕上げ穴加工の寸法安定化を図ることができる。なお、警告する寸法公差範囲は、ここでは±70%を超えた場合としたが任意に設定することができる。
【0062】
図9は、加工穴径予測システム1の表示部12に表示するGUI画面のさらに別の例である。GUI画面121では、複数の穴深さの加工穴径予測値の表示部122a~122cとその平均値の表示部122d、工具径からの変化量予測値の表示部123a~123cとその平均値の表示部123dを備える。
【0063】
主軸モータ電流ΔIにおいて、穴深さ10mmは5~15mm、穴深さ20mmは15~25mm、穴深さ30mmは25~35mmに対応するデータを抽出して平均値を求め、各穴深さの加工穴の工具径からの変化量予測値を算出し、工具径と加算して、各穴深さの加工穴径予測値を求めた。
【0064】
図9には、Φ200mmボーリングツール5を用いて仕上げ加工した結果の一例を表示している。これは、
図3~
図5で示した主軸モータ電流において、各穴深さの加工穴径予測値とその平均値である。各穴深さの予測値と実測値の差は、-0.005~-0.006mmであった。この加工穴径予測値は、加工穴の工具径からの変化量ΔDの予測式(1)を用いて算出しており、主軸モータ電流ΔIにて穴深さに対応するデータを用いて平均値を求めることで、穴深さ毎に高精度に加工穴径の予測が可能である。
【0065】
本実施例によれば、加工装置4にてボーリングツール5を用いた仕上げ穴加工において、取得した主軸モータ電流により、自動で加工した穴の工具径からの変化量を予測して、工具径測定値と加算することで高精度に加工穴径の予測値を求め、さらに、その結果が表示部に表示されるため、加工後に加工寸法を確認することができる。
【0066】
これにより、仕上げ加工後の手作業による検査工程の代替とすることができ、検査工程の省略が可能となる。また、接触式の測定器により生じる可能性がある加工面への傷の発生もなくなるため、加工不良の発生率低減の効果が得られる。
【0067】
なお、本実施例では、測定部14により主軸モータ電流を測定する例を示したが、加工機によっては、イーサネット(登録商標)回線にてPC(パーソナルコンピュータ)を接続して計測用アプリケーションにより主軸モータ電流が取得できる。すなわち、
図1の加工穴径予測システム本体15の演算部2の中に測定部14の機能を有する構成としても問題ない。
【0068】
また、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
1…加工穴径予測システム、2…演算部、3…記憶部、4…加工装置、5…ボーリングツール、6…主軸、7…被削材、8…主軸モータ、9…サーボアンプ、10…NC装置、11…入力部、12…表示部、13…通信部、14…測定部、15…加工穴径予測システム本体、21…測定制御部、22…測定信号処理部、23…変化量予測値算出部、24…加工穴径予測値算出部、31…測定プログラム、32…信号処理プログラム、33…変化量算出プログラム、34…加工穴径算出プログラム、35…工具径情報、36…測定信号、37…穴加工測定信号、38…変形量予測値、39…加工穴径予測値、40…主軸回転開始時の振幅、41…主軸回転停止時の振幅、42…しきい値、43…主軸回転開始時の振幅、44…主軸回転停止時の振幅、45…増加ポイント、46…主軸空転範囲、47…仕上げ穴加工範囲、50…主軸モータ電流ΔI、51…近似曲線、101,110,121…GUI画面、102…稼働開始ボタン、103…稼働中断ボタン、104…工具径入力部、105…加工穴径予測値表示部、106…工具径からの変化量予測値表示部、111…穴径予測値警告ライト、122,122a~122d…加工穴径予測値表示部、123,123a~123d…工具径からの変化量予測値表示部。