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  • 特開-車両の制御装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025016955
(43)【公開日】2025-02-05
(54)【発明の名称】車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 29/02 20060101AFI20250129BHJP
   F02D 45/00 20060101ALI20250129BHJP
   G01M 17/007 20060101ALI20250129BHJP
【FI】
F02D29/02 L
F02D45/00 362
G01M17/007 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023119783
(22)【出願日】2023-07-24
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083998
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 丈夫
(74)【代理人】
【識別番号】100096644
【弁理士】
【氏名又は名称】中本 菊彦
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 克也
【テーマコード(参考)】
3G093
3G384
【Fターム(参考)】
3G093AA01
3G093DA01
3G093DA04
3G093EA03
3G384CA05
3G384DA10
3G384DA33
3G384DA42
3G384FA57Z
(57)【要約】
【課題】エンジンの回転数変動の原因の推定やその対策などを容易に行うことを可能にする。
【解決手段】内燃機関の回転数の変動幅を監視するコントローラは、内燃機関の回転数の変動幅が基準範囲を超えたことを検出する回転変動検出部(ステップS3)と、内燃機関の燃料の供給と、内燃機関もしくは伝動機構の潤滑油の供給とのいずれかを含む保守措置が行われたことおよびその保守措置の実行時期情報を検出する保守措置検出部(ステップS5,S7)と、内燃機関の回転数の変動幅が基準範囲を超えたことが回転変動検出部によって検出された場合に、その検出の直前に行われた保守措置の内容と、保守措置の実行時期情報を記憶するとともにその記憶内容を外部に出力できる記憶部(ステップS6,S8)とを備えている
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関と、前記内燃機関が出力した動力を伝達する歯車式の伝動機構とを搭載し、前記内燃機関の回転数の変動幅が予め定めた基準範囲を超えた場合に、前記内燃機関の運転点を変更する車両の制御装置であって、
前記内燃機関の回転数の変動幅を監視するコントローラを備え、
前記コントローラは、
前記内燃機関の回転数の変動幅が前記基準範囲を超えたことを検出する回転変動検出部と、
前記内燃機関の燃料の供給と、前記内燃機関もしくは前記伝動機構の潤滑油の供給とのいずれかを含む保守措置が行われたことおよびその保守措置の実行時期情報を検出する保守措置検出部と、
前記内燃機関の回転数の変動幅が前記基準範囲を超えたことが前記回転変動検出部によって検出された場合に、その検出の直前に行われた前記保守措置の内容と、前記保守措置の実行時期情報を記憶するとともにその記憶内容を外部に出力できる記憶部とを備えている
ことを特徴とする車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動力源として車両に搭載されている内燃機関(以下、エンジンと記す。)の回転数の変動を検出するとともに、検出した回転数の変動に対する対策を採る装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジンは、燃料と空気との混合気を間欠的に燃焼させて動力を出力するから、その出力トルクや回転数は不可避的に間欠的に変化する。そのため、エンジンの出力側にダンパを設けて出力トルクや回転数の変動を抑制している。一方、ばねダンパを設ければ、エンジンとばねダンパとで振動系を構成するから、ばね特性が不適切であれば、エンジン回転数の変動が共振によって却って増大してしまう可能性がある。このような不都合を解消する装置として、特許文献1には、エンジンの動力が伝達される回転要素にスプリングを介してモータを連結することによりダイナミックダンパを構成し、エンジンの回転変動に起因する歯打ち音を抑制する歯打ち音抑制制御の実施態様を、そのダイナミックダンパのばね特性に基づいて、切り替えるように構成した装置が記載されている。
【0003】
歯打ち音抑制制御は、エンジンの出力側に連結されている変速機などの歯車式伝動機構における歯面の離隔・接触による異音(歯打ち音あるいはガラ音)を低減させるための制御であり、エンジンの回転数と出力トルクとで決まる運転点を、回転数変動に起因する歯打ち音が許容範囲内となるように、変更する制御である。特許文献1に記載されている装置では、ダイナミックダンパの温度や出力側部材の回転挙動あるいはダイナミックダンパの経時変化などに基づいて、ばね特性の変化やばね特性を取得し、そのばね特性に基づいて歯打ち音抑制制御の実施形態を決定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-51708号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された装置は、歯打ち音抑制制御の実施形態を、ダイナミックダンパのばね特性に適合させるように構成された装置と言うことができる。このような構成の装置であれば、ばね特性の変化が検出された場合には有効であるが、そのような変化を生じさせる原因もしくは要因を知ることができない。そのため、特許文献1に記載された装置では、エンジンの回転数変動を生じさせている原因を抜本的に取り除くことができない場合があり、その点で未だ改善の余地がある。
【0006】
本発明は、上記の技術的課題に着目してなされたものであって、エンジンの回転数変動の原因の推定やその対策などを容易に行うことを可能にする車両の制御装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記の目的を達成するために、内燃機関と、前記内燃機関が出力した動力を伝達する歯車式の伝動機構とを搭載し、前記内燃機関の回転数の変動幅が予め定めた基準範囲を超えた場合に、前記内燃機関の運転点を変更する車両の制御装置であって、前記内燃機関の回転数の変動幅を監視するコントローラを備え、前記コントローラは、前記内燃機関の回転数の変動幅が前記基準範囲を超えたことを検出する回転変動検出部と、前記内燃機関の燃料の供給と、前記内燃機関もしくは前記伝動機構の潤滑油の供給とのいずれかを含む保守措置が行われたことおよびその保守措置の実行時期情報を検出する保守措置検出部と、前記内燃機関の回転数の変動幅が前記基準範囲を超えたことが前記回転変動検出部によって検出された場合に、その検出の直前に行われた前記保守措置の内容と、前記保守措置の実行時期情報を記憶するとともにその記憶内容を外部に出力できる記憶部とを備えていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、内燃機関の回転数の変動幅が予め定めた基準範囲を超えた場合に、その直前に実行された保守措置の内容と実行時期情報とが記憶される。その内燃機関の回転数の変動幅の検出は、暖機が完了した後のアイドリング運転時など、所定の安定運転条件が成立している場合に行われる。また、回転数の変動幅は、予め定めた所定の時間幅の間における内燃機関の回転数の最大値(極大値)と最小値(極小値)との差として求めることができる。内燃機関の回転数の変動幅が所定の基準範囲を超えたことが検出されると、その検出の直前に行われた保守措置の内容およびその実行時期情報が記憶されるので、その記憶されている保守措置が、内燃機関の回転数の変動幅を増大させた原因と考えられる。そして、記憶されている保守措置の内容と、その実行時期情報が外部に出力できるので、前記原因を取り除くなど、内燃機関の回転数の変動幅を増大させた原因に対する対策を採ることが可能になる。ひいては、内燃機関の回転数の変動幅の再度の増大や、内燃機関あるいは伝動機構の故障もしくは耐久性の低下を回避あるいは抑制することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態におけるエンジンと伝動機構としての変速機とを示す模式図である。
図2】等パワー線および最適燃費線ならびに歯打ち音抑制動作線を示す線図である。
図3】本発明の実施形態におけるコントローラの機能的構成を示すブロック図である。
図4】本発明の実施形態で実行される制御を説明するためのフローチャートである。
図5】暖機時間についての判断基準として定めてある所定範囲を模式的に示す線図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
つぎに、本発明を図に示す実施形態に基づいて説明する。なお、以下に説明する実施形態は本発明を具体化した場合の一例に過ぎないのであって、本発明を限定するものではない。
【0011】
本発明が対象とする車両は、内燃機関およびその内燃機関が出力した動力を伝達する歯車式の伝動機構とを搭載した車両である。内燃機関は、燃料と空気との混合気を燃焼させて機械的な動力を出力する動力機関であり、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンがその例である。以下、内燃機関をエンジンと記す。車両は、この種のエンジンのみを駆動力源としていてもよいが、それに限らず、電動機(モータ)と共に駆動力源を構成しているいわゆるハイブリッド車両(HEV、PHV)であってもよい。伝動機構は、トルクを伝達する部材の少なくとも一部が歯車によって構成された機構であり、その典型的な例が有段変速機であり、あるいはエンジンが出力した動力を分割する遊星歯車機構からなる動力分割機構である。
【0012】
図1にエンジン(ENG)1とその出力側に連結した変速機(T/M)2とを模式的に示してあり、エンジン1は、燃料タンク3から汲み上げた燃料(例えばガソリン)を空気と混合してシリンダ(図示せず)に供給し、あるいは燃料をシリンダの内部に直接噴霧するように構成されている。燃料タンク3の燃料が減少したこともしくは給油する必要があることを運転者(ドライバ)に知らせるために、燃料タンク3内の燃料の残量を検出する燃料センサ4が設けられている。この燃料センサ4は、従来の車両に採用されているものと同様のセンサであってよい。
【0013】
燃料と空気との混合気は、所定の温度の範囲で適正に燃焼するだけでなく、エンジン1の温度が過度に高くなると強度上あるいは耐久性上の問題も生じるので、エンジン1は水冷されている。その冷却のための冷却水の温度をエンジン温度として検出する水温センサ5が設けられている。
【0014】
エンジン1の運転点は、吸入空気量(もしくはスロットル開度)に応じて変化する出力トルクと出力回転数(エンジン回転数)とを決まる。エンジン1を要求に応じた運転点で動作させるために、エンジン回転数を検出する回転数センサ6が設けられている。
【0015】
エンジン1には、ピストン(図示せず)とシリンダとの接触部、クランクシャフト(図示せず)の軸受部、吸排気バルブやこれらを駆動するシャフト(それぞれ図示せず)など、潤滑を要する箇所が多々あり、そのためにオイルパン7に貯留した潤滑油(図示せず)を各潤滑部に適宜に供給するように構成されている。その潤滑油は、エンジン1を運転することにより次第に消費するから、その量が不足した場合に警告を行うためにオイルセンサ8が設けられている。なお、潤滑油は、次第に劣化するので、定期的に、もしくは所定の走行距離ごとに交換するのが一般的である。
【0016】
変速機2は、有段式および無段式の変速機のいずれであってもよいが、少なくとも一部に歯車が設けられていてその歯車でトルクを伝達する。駆動側の歯車から従動側の歯車に常にトルクが伝達されていれば、歯面同士は互いに接触した状態を維持するが、例えば駆動側の歯車の回転数が何らかの要因で大小に変動すると、互いに接触していた歯同士が瞬間的に離隔し、かつその直後に再度、歯同士が接触する。このような歯同士の離隔と接触とが生じると、その接触の際の衝撃で音が発生し、これが歯打ち音あるいはガラ音として知られている異音である。変速機2はこのような歯車の歯同士の接触ならびにそれに伴う摺動が生じ、それ以外にも回転部分などの潤滑を要する箇所が多々ある。そのために、変速機2はエンジン1と同様に潤滑油によって潤滑されている。その潤滑油の量が適正範囲に入っていることを検出するためのセンサが設けられている。そのセンサは、前述したエンジン1のオイルセンサ8で共用してもよい。
【0017】
さらに、エンジン1や変速機2における潤滑油は、温度がある程度高くなることにより(すなわち暖機することにより)粘度が下がって、本来の潤滑機能を果たす。また、温度が高すぎると、潤滑機能が低下するだけでなく、耐久性が低下する。そのために、潤滑油の温度を検出する油温センサ9が設けられている。
【0018】
エンジン1は、アクセル開度などで代表される駆動要求を充足する範囲で、燃費が良好になるように出力トルクや回転数が制御される。例えば、2モータ式のハイブリッド車や無段変速機を搭載した車両では、スロットル開度や変速比が駆動要求を充足するように自動的に制御される。すなわち、アクセル開度が増大した場合には、スロットル開度を増大させるとともに、伝動機構による変速比を回転数の増大に応じて低下させてエンジン回転数の増大を抑制する。図2は、縦軸にエンジントルクTe、横軸にエンジン回転数Neを採って、等パワー線Piと最適燃費線Ofcとを示しており、車両が定常的に走行する場合には、駆動要求に基づいて定まる等パワー線Piと最適燃費線Ofcとの交点で表される運転点(出力トルクおよびエンジン回転数)でエンジン1が運転される。
【0019】
このようなエンジン制御は、マイクロコンピュータを主体として構成されたエンジンコントローラ(以下、単にコントローラと記す)によって実行される。そのコントローラには、アクセル開度や車速などの車両の走行状態を示すデータが入力され、また図2に例示する最適燃費線などの制御データが予め記憶されており、これらのデータに基づいて演算を行って、スロットル開度(出力トルク)や変速比(エンジン回転数)を制御するように構成されている。
【0020】
一方、エンジン1は燃料と空気との混合気を間欠的に燃焼させて動力を発生するから、その出力トルクや回転数は不可避的に変動する。そのため、ダンパ(図示せず)を設けて、出力トルクや回転数の変動を許容範囲に抑制している。しかしながら、不安定な燃焼や摩擦の増大などの何らかの要因で、回転数の変動幅が基準範囲を超える場合がある。そのような場合、変速機2などの伝動機構を構成している歯車において、歯打ち音(ガラ音)が発生することがあるので、歯打ち音を回避もしくは抑制するための歯打ち音抑制制御を実行する。この制御は、エンジントルクTeを低下させかつエンジン回転数Neを増大させる制御であり、エンジン回転数変動が大きいほど、エンジントルクTeの低下量を大きくしかつエンジン回転数Neの増大量を大きくする。図2に歯打ち音抑制制御で採用する歯打ち音抑制動作線Liを模式的に併記してある。なおここで、エンジン回転数の変動幅(変動量)は、予め定めた時間内でのエンジン回転数の最大値(極大値)と最小値(極小値)との差ΔNepreであってよい。図2に示す例では、エンジン回転数の変動幅が大きいほど、歯打ち音抑制動作線Liを低トルク・高回転数側に設定してある。これは、実験やシミュレーションなどに基づいて予め求めておくことができる。また、歯打ち音抑制制御は、上述したコントローラによって実行することができる。
【0021】
本発明の実施形態は、エンジン回転数の変動幅が大きくなって上述した歯打ち音抑制制御を実行した場合、あるいは歯打ち音抑制制御の実行が予測された場合に、その原因を推定する制御を実行するように構成されている。その制御は、上述したコントローラによって実行するように構成することができる。歯打ち音の発生原因(もしくは発生要因)を検出あるいは推定する制御を行うためのコントローラ10の機能的構成を図3にブロック図で示してある。エンジン1の回転数は、加速要求や暖機などによって変化するので、その状態では意図しない原因あるいは要因による回転数の変動を検出することができない。そのため、エンジン1の回転数が安定するいわゆる安定条件が成立していることを判定する必要があり、したがってコントローラ10はいわゆる安定条件の成立を判定する制御条件判定部10aを備えている。ここで、その安定条件は、例えばエンジン1の暖機が終了していること、ならびにアイドリング運転中であることなどである。
【0022】
コントローラ10は、安定条件が成立している状態でエンジン1の回転数の変動幅を検出する回転変動検出部10bを備えている。コントローラ10には前述した回転数センサ6からエンジン回転数が常時入力されており、回転変動検出部10bは、そのデータに基づいて、所定の時間内でのエンジン回転数の最大値(極大値)と最小値(極小値)との差ΔNepreを求め、かつその回転数差ΔNepreが予め定めた所定値以上か否かを判断する。その所定値は、上述した歯打ち音を生じさせる可能性のある回転数差として実験やシミュレーションなどによって予め求めておくことができる。
【0023】
エンジン回転数の変動幅が上記の所定値を超えた場合、あるいは超えることが予測された場合、その直前に実行された保守措置を検出する保守措置検出部10cがコントローラ10に備えられている。保守措置は、エンジン1の安定的な運転を可能にするために行う措置であって、燃料タンク3に対する新たな燃料の追加供給や、エンジン1や変速機2の潤滑油の交換もしくは追加供給などである。すなわち、追加供給された燃料(例えばガソリン)がエンジン1に適合しないものである場合には、燃焼が不安定になって回転変動が悪化する。また、潤滑油が純正以外のものであれば、潤滑不良になって回転変動が悪化したり、暖機時間が想定される所定の時間より長くなり、あるいは反対に短くなることがある。なお、これらの保守措置の実行は、燃料センサ4によって検出された残量の増加やオイルセンサ8で検出した油量の増加などに基づいて検出することができる。
【0024】
検出した保守措置の内容と、その保守措置が実行された時期情報(タイムスタンプ)とを記憶し、また外部に出力できる記憶部10dが、コントローラ10に設けられている。その実行時期情報は、日付および時分であってよく、あるいは日付と時、もしくは日付のみ、さらにはオドメータなどで記録されている走行距離など、適宜であってよい。日時は、車両に一般的に備えられているタイマやカレンダから取得すればよい。そして、記憶部10dは、その記憶内容を定期的に、もしくは要求があった場合に、音声や文字もしくは画像などによって外部に出力できるように構成されている。
【0025】
図4に上記のコントローラ10によって実行される本発明による制御の一例をフローチャートで示してある。図4に示すルーチンは、エンジン1が始動された状態で、もしくはハイブリッド車ではレディースイッチがオンの状態で、所定の短時間ごとに繰り返し実行される。先ず、上述した安定条件が成立しているか否かが判断される(ステップS1)。ここで安定条件は、暖機が終了していること、およびアイドリング状態であることであり、暖機の終了は、前述した水温センサ5や油温センサ9で検出した温度に基づいて判断でき、アイドリング状態はアクセル開度に基づいて判断できる。
【0026】
ステップS1での判断結果が「ノー」の場合には、特には制御を行うことなくリターンする。これとは反対にステップS1での判断結果が「イエス」の場合には、エンジン回転数変動ΔNepreを取得する(ステップS2)。その取得したエンジン回転数変動ΔNepreが所定値以上か否かが判断される(ステップS3)。エンジン回転数変動ΔNepreは、所定時間内のエンジン回転数の最大値(極大値)と最小値(極小値)との差であってエンジン回転数の変動幅と同義であり、また所定値はエンジン回転数の変動幅の範囲と同義であり、したがってこのステップS3の判断の結果が「ノー」の場合には、エンジン1の回転数の変動は想定範囲内もしくは基準範囲内であり、エンジン1は正常に動作していることになるから、特に制御を行うことなくリターンする。
【0027】
これとは反対にステップS3での判断結果が「イエス」の場合には、エンジン回転数の変動幅が大きくなっており、あるいは大きくなることが推定されるので、エンジン1の運転点を変更する(ステップS4)。すなわち、エンジン回転数変動ΔNepreの大きさに基づいて図2に示す歯打ち音抑制動作線Liを選択し、その時点の等パワー線Piと歯打ち音抑制動作線Liとの交点で表される運転点に、エンジン1の運転点を変更する。その運転点の変更は、エンジントルクとエンジン回転数とを等パワー線Piに沿って変化させ、等パワー線Piと歯打ち音抑制動作線Liとの交点である運転点のエンジントルクおよびエンジン回転数に設定することにより行う。
【0028】
ついで、燃料残量が前回トリップ時より所定量以上増加したか否かが判断される(ステップS5)。すなわち、エンジン回転数の変動が悪化したことの判断が成立した時点の直前に、燃料が追加供給されたか否かが判断される。これは、前述した保守措置が実行されたか否かの判断である。ステップS5の判断の結果が「イエス」の場合には、保守措置である給油とその実行時期の情報とを記憶する(ステップS6)。これは、エンジン回転数の変動要因が直前に行った給油にあるものと推定し、その変動要因に対する対策を事後的に採ることができるようにするためである。
【0029】
上記のステップS5の判断結果が「ノー」の場合およびステップS6の制御を実行した後に、エンジン1あるいは変速機2の暖機時間が所定範囲内か否かが判断される(ステップS7)。その判断の基準となる所定範囲は、一例として図5に示すとおりであり、外気温に応じて上限時間と下限時間とを予め定めた時間幅である。暖機時間は、エンジン1を始動後、エンジン1の温度(水温センサ5の検出値)が所定の温度に達するまでの時間であり、外気温が高いほど、暖機が進行しやすいから、その時間幅を決めている上下時間と下限時間とは、外気温が高いほど短くなっている。そして、暖機が早期に進行したり、反対に遅延した場合には潤滑油が純正以外であることが原因(要因)となっていることが考えられるので、ステップS7の判断を行っている。
【0030】
ステップS7の判断結果が「ノー」の場合すなわち暖機時間が所定範囲を外れている場合には、保守措置である潤滑油の追加供給とその実行時期の情報とを記憶し(ステップS8)、その後リターンする。これは、エンジン回転数の変動要因が直前に行った潤滑油の追加供給もしくは交換にあるものと推定し、その変動要因に対する対策を事後的に採ることができるようにするためである。
【0031】
これに対してステップS7の判断結果が「イエス」の場合すなわち暖機時間が所定範囲内に入っていてこの点での異常がない場合には、この判断を行った実行時期の情報と、回転変動の悪化原因(悪化要因)が不明であることとを記憶し(ステップS9)、その後リターンする。
【0032】
上述したステップS6やステップS8での記憶内容は、音声や文字あるいは画像によって外部に出力できるので、エンジン回転数の変動が悪化し、歯打ち音が生じたり、その可能性が推定された場合には、その悪化の原因(もしくは要因)を、記憶内容の外部への出力によって知ることができる。その結果、上記の実施形態によれば、エンジン回転数の変動が生じる都度、もしくはその推定が生じる都度、歯打ち音抑制制御を実行するだけでなく、その発生原因を取り除くなどの対策を採って、エンジン回転数変動が再度悪化するなどの事態を解消することができる。
【符号の説明】
【0033】
1 エンジン
2 変速機
3 燃料タンク
4 燃料センサ
5 水温センサ
6 回転数センサ
7 オイルパン
8 オイルセンサ
9 油温センサ
10 コントローラ
10a 制御条件判定部
10b 回転変動検出部
10c 保守措置検出部
10d 記憶部
Li 歯打ち音抑制動作線
Ne エンジン回転数
Ofc 最適燃費線
Pi 等パワー線
Te エンジントルク
図1
図2
図3
図4
図5