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2025-170204水素透過構造体および水素透過構造体の製造方法
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  • -水素透過構造体および水素透過構造体の製造方法 図1
  • -水素透過構造体および水素透過構造体の製造方法 図2
  • -水素透過構造体および水素透過構造体の製造方法 図3
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  • -水素透過構造体および水素透過構造体の製造方法 図5
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025170204
(43)【公開日】2025-11-18
(54)【発明の名称】水素透過構造体および水素透過構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 71/02 20060101AFI20251111BHJP
   B01D 69/10 20060101ALI20251111BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20251111BHJP
   B01D 69/00 20060101ALI20251111BHJP
【FI】
B01D71/02
B01D69/10
B01D69/12
B01D69/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024075025
(22)【出願日】2024-05-06
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】弁理士法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 康雄
(72)【発明者】
【氏名】大西 真司
【テーマコード(参考)】
4D006
【Fターム(参考)】
4D006GA41
4D006MA03
4D006MA06
4D006MA31
4D006MA40
4D006MB06
4D006MC02
4D006MC03
4D006MC09
4D006PA01
4D006PB66
(57)【要約】
【課題】強度の低下を抑制する水素透過構造体および水素透過構造体の製造方法を提供する。
【解決手段】水素透過構造体10は、水素を解離させる水素透過膜20と、水素透過膜20と膜厚方向DTに接続されているとともに、解離した水素が通過する金属酸化膜30と、水素透過膜20とで金属酸化膜30を挟んでいる基材40と、を備え、金属酸化膜30は、ALDを用いてアモルファスの酸化金属で形成されており、基材40には、膜厚方向DTに延びているとともに、金属酸化膜30を通過した水素が再結合し、再結合した水素が通過する貫通穴45が形成されており、貫通穴45は、エッチングを用いて形成されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素透過構造体であって、
水素を解離させる水素透過膜(20)と、
前記水素透過膜と前記水素透過膜の膜厚方向(DT)に接続されているとともに、解離した水素が通過する金属酸化膜(30)と、
前記水素透過膜とで前記金属酸化膜を挟んでいる基材(40)と、
を備え、
前記金属酸化膜は、アモルファスの酸化金属を含み、
前記基材は、前記膜厚方向に延びている貫通穴(45)を有し、
前記金属酸化膜を通過した水素が再結合し、再結合した水素が前記貫通穴を通過する水素透過構造体。
【請求項2】
前記金属酸化膜は、アモルファスのAlを含む請求項1に記載の水素透過構造体。
【請求項3】
前記金属酸化膜は、アモルファスのTiOを含む請求項1に記載の水素透過構造体。
【請求項4】
前記金属酸化膜の膜厚は、10nm以上、160nm以下とされている、請求項1に記載の水素透過構造体。
【請求項5】
前記水素透過膜の膜厚は、20nm以上、100nm以下とされている、請求項1ないし4のいずれか1つに記載の水素透過構造体。
【請求項6】
水素透過構造体の製造方法であって、
水素を解離させる水素透過膜(20)と、
前記水素透過膜と前記水素透過膜の膜厚方向(DT)に接続されているとともに、解離した水素が通過する金属酸化膜(30)と、
前記水素透過膜とで前記金属酸化膜を挟んでいる基材(40)と、
を形成し、
前記金属酸化膜を、ALDを用いてアモルファスの酸化金属で形成し、
前記膜厚方向に延びているとともに、前記金属酸化膜を通過した水素が再結合し、再結合した水素が通過する貫通穴(45)を前記基材に形成し、
前記貫通穴を、エッチングを用いて形成する水素透過構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、水素透過構造体および水素透過構造体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1に記載されているように、水素透過金属膜と、多孔質Niめっき皮膜と、拡散防止層とを備える、金属複合水素透過膜が知られている。多孔質Niめっき皮膜は、界面活性剤を含有するめっき浴を用いた電解めっきによりNiめっき皮膜を形成し、Niめっき皮膜中の界面活性剤を燃焼除去することにより形成されている。拡散防止層は、水素透過金属膜と多孔質Niめっき皮膜との間の界面に設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-39083号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された金属複合水素透過膜では、水素透過金属膜を支持する基材としての多孔質Niめっき皮膜がめっきによって形成されている。めっきでは、比較的大きい膜厚の皮膜を形成することが困難であるため、多孔質Niめっき皮膜の膜厚は、比較的小さい。このため、金属複合水素透過膜の強度は、比較的低くなる。
【0005】
本開示は、強度の低下を抑制する水素透過構造体および水素透過構造体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、水素透過構造体であって、水素を解離させる水素透過膜(20)と、水素透過膜と水素透過膜の膜厚方向(DT)に接続されているとともに、解離した水素が通過する金属酸化膜(30)と、水素透過膜とで金属酸化膜を挟んでいる基材(40)と、を備え、金属酸化膜は、アモルファスの酸化金属を含み、基材は、膜厚方向に延びている貫通穴(45)を有し、金属酸化膜を通過した水素が再結合し、再結合した水素が貫通穴を通過する水素透過構造体である。
【0007】
また、請求項6に記載の発明は、水素透過構造体の製造方法であって、水素を解離させる水素透過膜(20)と、水素透過膜と水素透過膜の膜厚方向(DT)に接続されているとともに、解離した水素が通過する金属酸化膜(30)と、水素透過膜とで金属酸化膜を挟んでいる基材(40)と、を形成し、金属酸化膜を、ALDを用いてアモルファスの酸化金属で形成し、膜厚方向に延びているとともに、金属酸化膜を通過した水素が再結合し、再結合した水素が通過する貫通穴(45)を基材に形成し、貫通穴を、エッチングを用いて形成する水素透過構造体の製造方法である。
【0008】
金属酸化膜がアモルファスの酸化金属を含むことにより、金属酸化膜には、粒界およびクラックが比較的少なくなる。この金属酸化膜によって、基材の貫通穴を、めっきではなくエッチングを用いて形成するとき、エッチング液やエッチングガスが水素透過膜と接触することが抑制される。また、エッチングを用いると、基材の厚みに関係なく、貫通穴を形成することができる。したがって、基材の厚みを十分確保できるため、水素透過構造体の強度の低下が抑制される。
【0009】
なお、各構成要素等に付された括弧付きの参照符号は、その構成要素等と後述する実施形態に記載の具体的な構成要素等との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】一実施形態の水素透過構造体の断面図。
図2】水素透過構造体の製造方法を示すフローチャート。
図3】実施例1-3および比較例1-2における金属酸化膜、金属酸化膜の膜厚および水素透過係数の比率の関係を示した図表。
図4】実施例1-2および比較例1における金属酸化膜の膜厚および水素透過係数の比率の関係をまとめたグラフ。
図5】実施例3および比較例2における金属酸化膜の膜厚および水素透過係数の比率の関係をまとめたグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付し、その説明を省略する。
【0012】
本実施形態の水素透過構造体およびその製造方法では、水素透過構造体の強度の低下が抑制される。具体的には、図1に示すように、水素透過構造体10は、水素透過膜20、金属酸化膜30および基材40を備える。
【0013】
水素透過膜20は、PdまたはPd合金で形成されている。Pdの特性により、水素透過膜20は、混合気体に含まれる水素と接触すると、水素を解離させる。したがって、水素透過膜20は、混合気体から水素のみを選択的に分離する。また、水素透過膜20の膜厚は、20nm以上、100nm以下とされている。なお、Pdは、パラジウムである。さらに、以下では、水素透過膜20の膜厚方向を、単に、膜厚方向DTと記載する。
【0014】
金属酸化膜30は、水素透過膜20と膜厚方向DTに接続されている。また、金属酸化膜30を、解離した水素が通過する。さらに、金属酸化膜30は、アモルファスの酸化金属を含む。酸化金属は、例えば、AlおよびTiO等である。また、金属酸化膜30の膜厚は、10nm以上、160nm以下とされている。なお、Alは、酸化アルミニウムである。TiOは、酸化チタンである。アモルファスは、結晶構造を持たない物質の状態のことであり、非晶質とも呼ばれる。膜の微細構造がアモルファスであるか否かは、例えば、TEM等を用いて検出される。TEMは、Transmission Electron Microscopeの略である。
【0015】
基材40は、金属酸化膜30のうち水素透過膜20とは反対側と、膜厚方向DTに接続されている。よって、基材40は、水素透過膜20とで金属酸化膜30を挟んでいる。さらに、基材40は、金属、樹脂やセラミックス等で板状に形成されている。例えば、基材40は、ステンレス鋼で形成されている。また、基材40は、貫通穴45を有する。
【0016】
貫通穴45は、膜厚方向DTに延びている。さらに、貫通穴45は、膜厚方向DTと直交する方向に間隔を空けて複数並んでいる。したがって、基材40は、多孔質とされている。また、貫通穴45は、基材40のうち金属酸化膜30と接続されている面と、その面とは反対の面とを貫通している。さらに、金属酸化膜30を通過した水素が再結合し、再結合した水素が貫通穴45を通過する。よって、水素透過構造体10は、選択的に水素を透過させる。
【0017】
以上のように、本実施形態の水素透過構造体10は、構成されている。この水素透過構造体10は、例えば、水素エンジンの水素分離等に用いられる。次に、水素透過構造体10の製造方法について、図2のフローチャートを参照して説明する。
【0018】
ステップS100において、板状の基材40が準備される。続いて、ステップS102において、ステップS100にて準備した基材40上に、ALDを用いて、アモルファスの金属酸化膜30が形成される。なお、ALDは、Atomic Layer Depositionの略であって、原子層堆積である。
【0019】
例えば、金属酸化膜30をAlとする場合、所定の温度下にて、Alの原料となるTMAとHOとが交互に導入、排気され、その導入、排気が繰り返し行われる。そして、原子層が1層ずつ堆積される。このとき、形成温度を500℃以下とすることにより、Alは、結晶構造を持たない、すなわち、アモルファスとされる。なお、TMAは、トリメチルアルミニウムである。
【0020】
また、例えば、金属酸化膜30をTiOとする場合、所定の温度下にて、TiOの原料となるTiClとHOとが交互に導入、排気され、その導入、排気が繰り返し行われる。そして、原子層が1層ずつ堆積される。このとき、形成温度を400℃以下とすることにより、TiOは、結晶構造を持たない、すなわち、アモルファスとされる。なお、TiClは、塩化チタンである。
【0021】
続いて、ステップS104において、ステップS102にて形成した金属酸化膜30上に、PVDやCVDを用いて、Pdを含む水素透過膜20が形成される。なお、PVDは、Physical Vapor Depositionの略であって、物理蒸着である。CVDは、Chemical Vapor Depositionの略であって、化学蒸着である。
【0022】
続いて、ステップS106において、エッチングを用いて、基材40に貫通穴45が形成される。具体的には、基材40のうち金属酸化膜30とは反対の面の一部にマスキングをする。基材40の材料がウェットエッチングに適した材料、例えば、金属である場合、基材40のうち金属酸化膜30とは反対の面にエッチング液が塗布されることによって、マスキングされていない基材40の面から基材40の部分が除去される。これにより、基材40に貫通穴45が形成される。また、基材40の材料がドライエッチングに適した材料、例えば、樹脂である場合、基材40のうち金属酸化膜30とは反対の面にエッチングガス等を接触させることによって、マスキングされていない基材40の面から基材40の部分が除去される。これによって、基材40に貫通穴45が形成される。そして、エッチングによる貫通穴45の形成が完了すると、水素透過構造体10が完成する。
【0023】
以上のように、水素透過構造体10は、製造される。次に、上記構成を有する水素透過構造体10の実施例について、比較例と比較して説明する。
【0024】
まず、基材40として厚み100μm程度とした板状のステンレス鋼が準備される。このステンレス鋼で構成された基材40から、上記製造方法を用いて、水素透過構造体10が形成される。このとき、水素透過膜20の膜厚は、20nmとされている。さらに、貫通穴45は、無数に形成されている。
【0025】
図3は、金属酸化膜30の材質および膜厚をそれぞれ変更して水素透過構造体10を形成した場合の水素透過係数の測定結果から算出される比較例に対する水素透過係数の比率を示している。なお、水素透過係数は、JIS規格のJIS_K_7126-1に基づく測定方法で評価している。具体的には、評価したいサンプル品の挟んだ上下両側の空間の圧力を制御できる装置を用いて、上側空間に水素ガスを導入するとともに空間圧力を制御し、下側空間を真空に近い減圧状態として、上側空間から下側空間への水素の透過量が測定される。このような条件において、水素の透過量に、水素透過構造体10の厚さを掛けた値が水素透過係数となる。
【0026】
図3に示すように、比較例1として、金属酸化膜30がアモルファスのAlで膜厚320nmにて形成した場合について、水素透過係数が測定され、水素透過係数の比率が算出された。ここでは、比較例1は、金属酸化膜30がアモルファスのAlで形成された場合の比較基準とされているため、比較例1の水素透過係数の比率は、1.00である。
【0027】
さらに、比較例2として、金属酸化膜30がアモルファスのTiOで膜厚320nmにて形成した場合について、水素透過係数が測定され、水素透過係数の比率が算出された。ここでは、比較例2は、金属酸化膜30がアモルファスのTiOで形成された場合の比較基準とされているため、比較例2の水素透過係数の比率は、1.00である。
【0028】
また、実施例1として、金属酸化膜30がアモルファスのAlで膜厚160nmにて形成した場合について、水素透過係数が測定され、水素透過係数の比率が算出された。この結果、比較例1に対する実施例1の水素透過係数の比率は、9.50であった。
【0029】
さらに、実施例2として、金属酸化膜30がアモルファスのAlで膜厚600nmにて形成した場合について、水素透過係数が測定され、水素透過係数の比率が算出された。この結果、比較例1に対する実施例2の水素透過係数の比率は、0.89であった。
【0030】
また、実施例3として、金属酸化膜30がアモルファスのTiOで膜厚160nmにて形成した場合について、水素透過係数が測定され、水素透過係数の比率が算出された。この結果、比較例2に対する実施例3の水素透過係数の比率は、3.00であった。
【0031】
ここで、水素透過係数は、水素がどれだけ透過するかを示す係数である。このため、水素透過係数の比率が高いほど、水素透過係数が高いとともに水素透過性が高いことを示している。
【0032】
そして、図4に示すように、金属酸化膜30がともにアモルファスのAlとされた比較例1と実施例1を比較すると、比較例1に対する実施例1の水素透過係数の比率は、1.00よりも大きい。したがって、実施例1の水素透過構造体10は、高い水素透過性を発揮していた。
【0033】
さらに、図5に示すように、金属酸化膜30がともにアモルファスのTiOとされた比較例2と実施例3を比較すると、比較例2に対する実施例3の水素透過係数の比率は、1.00よりも大きい。よって、実施例3の水素透過構造体10は、高い水素透過性を発揮していた。
【0034】
以上のように、実施したところ、金属酸化膜30の材質に関係なく、金属酸化膜30の膜厚が160nm以下とされることが好ましいといえる。次に、本実施形態の水素透過構造体10による強度低下抑制について説明する。
【0035】
ここで、特許文献1に記載された金属複合水素透過膜では、水素透過金属膜を支持する基材としての多孔質Niめっき皮膜がめっきによって形成されている。めっきでは、比較的大きい膜厚の皮膜を形成することが困難であるため、多孔質Niめっき皮膜の膜厚は、比較的小さい。このため、金属複合水素透過膜の強度は、比較的低くなる。
【0036】
これに対して、本実施形態の水素透過構造体10は、水素透過膜20と、金属酸化膜30と、貫通穴45を有する基材40と、を備える。また、金属酸化膜30は、水素透過膜20および基材40の間に挟まれているとともに、アモルファスの酸化金属を含む。金属酸化膜30は、アモルファスのAlを含むことが好ましい。または、金属酸化膜30は、アモルファスのTiOを含むことが好ましい。
【0037】
金属酸化膜30がアモルファスの酸化金属を含むことにより、金属酸化膜30には、粒界およびクラックが比較的少なくなる。この金属酸化膜30によって、基材40の貫通穴45を、めっきではなくエッチングを用いて形成するとき、エッチング液やエッチングガスが水素透過膜20と接触することが抑制される。また、エッチングを用いると、基材40の厚みに関係なく、貫通穴45を形成することができる。したがって、基材40の厚みを十分確保できるため、水素透過構造体10の強度の低下が抑制される。
【0038】
また、本実施形態の水素透過構造体10では、以下に記載する効果も奏する。
【0039】
[1]金属酸化膜30は、ALDを用いて形成されている。ALDを用いることにより、ALDと異なる方法、例えば、PVDやCVDで形成された場合と比較して、金属酸化膜30がピンホールレスになりやすくなる。金属酸化膜30がピンホールレスであると、エッチング液やエッチングガスが水素透過膜20と接触することが抑制される。このため、エッチングを用いて、基材40の厚みに関係なく、貫通穴45が形成しやすくなる。したがって、基材40の厚みを十分確保できるため、水素透過構造体10の強度の低下が抑制される。
【0040】
[2]ここで、金属酸化膜30の膜厚が10nm未満であるとき、金属酸化膜30が比較的薄いことから、水素透過膜20側から流れて水素透過膜20を通過した水素以外の気体が、金属酸化膜30を通過しやすくなる。このため、このとき、水素透過構造体10による水素を選択して透過させる機能が低下する。さらに、金属酸化膜30の膜厚が160nmよりも大きくなるとき、金属酸化膜30が比較的厚いことから、水素透過膜20によって解離した水素の移動がしにくくなるため、水素透過構造体10の水素透過性が低下する。
【0041】
これに対して、本実施形態の水素透過構造体10では、金属酸化膜30の膜厚は、10nm以上、160nm以下とされていることが好ましい。
【0042】
これにより、金属酸化膜30の膜厚が過小にならないため、水素透過構造体10による水素を選択して透過させる機能の低下が抑制される。また、金属酸化膜30の膜厚が過大にならないことから、水素透過膜20によって解離した水素の移動がしやすくなる。このため、水素透過構造体10の水素透過性の低下が抑制される。
【0043】
[3]また、ここで、水素透過膜20の膜厚が20nm未満であるとき、水素透過膜20が比較的薄いことから、水素透過膜20による水素の解離が生じにくくなる。このため、このとき、水素透過構造体10による水素を選択して透過させる機能が低下しやすい。さらに、水素透過膜20の材料は、Pd等であることから、比較的高価である。このため、水素透過膜20の膜厚が100nmよりも大きくなるとき、水素透過膜20のコストが増大することから、水素透過構造体10のコストが増大する。
【0044】
これに対して、本実施形態の水素透過構造体10では、水素透過膜20の膜厚は、20nm以上、100nm以下とされていることが好ましい。
【0045】
これにより、水素透過膜20の膜厚が過小にならないため、水素透過構造体10による水素を選択して透過させる機能の低下が抑制される。また、水素透過膜20の膜厚が過大にならないことから、水素透過膜20のコスト増大が抑制されるため、水素透過構造体10のコスト増大が抑制される。
【0046】
(他の実施形態)
本開示は、上記実施形態に限定されるものではなく、上記実施形態に対して、適宜変更が可能である。また、上記各実施形態において、実施形態を構成する要素は、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。
【0047】
上記実施形態では、水素透過膜20は、PdまたはPd合金で形成されている。これに対して、水素透過膜20は、PdまたはPd合金で形成されていることに限定されない。水素透過膜20は、例えば、混合気体から水素のみを選択的に分離可能なV、Nb、TaまたはV-Ti-Ni合金、Nb-Ti-Ni合金、Nb-Ti-Co合金およびTa-Ti-Ni合金等で形成されてもよい。なお、Vは、バナジウムである。Tiは、チタンである。Niは、ニッケルである。Nbは、ニオブである。Coは、コバルトである。Taは、タンタルである。
【0048】
上記実施形態では、ステップS106におけるエッチングが行われるとき、基材40がマスキングされる。これに対して、基材40がマスキングされることに代えて、基材40のうち金属酸化膜30とは反対の面に凹凸が形成され、その凹みから基材40の部分がエッチング液やエッチングガスを用いて除去されることによって、基材40に貫通穴45が形成されてもよい。
【0049】
上記実施形態では、ステップS106において、エッチングを用いて貫通穴45が形成される。これに対して、金属酸化膜30がAlで形成され、かつ、基材40がアルミニウムで形成されている場合には、アルミニウムについての陽極酸化処理であるアルマイトを用いて、貫通穴45が形成されてもよい。
【符号の説明】
【0050】
10 水素透過構造体
20 水素透過膜
30 金属酸化膜
40 基材
45 貫通穴
図1
図2
図3
図4
図5