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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025170719
(43)【公開日】2025-11-19
(54)【発明の名称】光学素子、光学系、および撮像装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 3/00 20060101AFI20251112BHJP
   G02B 3/08 20060101ALI20251112BHJP
   G02B 1/00 20060101ALI20251112BHJP
【FI】
G02B3/00 Z
G02B3/08
G02B1/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024075520
(22)【出願日】2024-05-07
(71)【出願人】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100223941
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 佳子
(74)【代理人】
【識別番号】100159695
【弁理士】
【氏名又は名称】中辻 七朗
(74)【代理人】
【識別番号】100172476
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 一史
(74)【代理人】
【識別番号】100126974
【弁理士】
【氏名又は名称】大朋 靖尚
(72)【発明者】
【氏名】石橋 友彦
(57)【要約】
【課題】 堅牢性の高い構造体を有する光学素子を提供すること。
【解決手段】 同心円状に配置された複数の輪帯を有する光学素子であって、前記複数の輪帯の夫々が生ずる位相差は2nπ(nは整数)であり、前記複数の輪帯のうちの第1の輪帯は、径方向において配置された第1および第2の構造体群を含み、前記第1の構造体群は、径方向において第1の間隔で配置された3以上の構造体からなり、前記第2の構造体群は、径方向において第2の間隔で配置された3以上の構造体からなり、前記第2の間隔は前記第1の間隔よりも小さく、前記第1および第2の構造体群の夫々が生ずる位相差は2nπでないことを特徴とする。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
同心円状に配置された複数の輪帯を有する光学素子であって、
前記複数の輪帯の夫々が生ずる位相差は2nπ(nは整数)であり、
前記複数の輪帯のうちの第1の輪帯は、径方向において配置された第1および第2の構造体群を含み、
前記第1の構造体群は、径方向において第1の間隔で配置された3以上の構造体からなり、
前記第2の構造体群は、径方向において第2の間隔で配置された3以上の構造体からなり、
前記第2の間隔は前記第1の間隔よりも小さく、
前記第1および第2の構造体群の夫々が生ずる位相差は2nπでないことを特徴とする光学素子。
【請求項2】
前記第1および第2の構造体群に含まれる構造体の夫々は、径方向における幅が互いに異なることを特徴とする請求項1に記載の光学素子。
【請求項3】
前記第1の間隔をP1、前記第2の間隔をP2とするとき、
1.2≦P1/P2≦8.0
なる条件式を満足することを特徴とする請求項1に記載の光学素子。
【請求項4】
前記第2の間隔をP2、設計波長をλ0とするとき、
0.10≦P2/λ0≦0.80
なる条件式を満足することを特徴とする請求項1に記載の光学素子。
【請求項5】
前記光学素子のd線に関する実効アッベ数をνdefとするとき、
0.0≦|1/νdef|≦0.1
なる条件式を満足することを特徴とする請求項1に記載の光学素子。
【請求項6】
基板と、該基板の上に形成された下地層とを有し、
前記第1および第2の構造体群に含まれる構造体のうち少なくとも一つは、前記下地層の上に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の光学素子。
【請求項7】
前記第1の構造体群に含まれる構造体の高さの最小値をH1min、前記第2の構造体群に含まれる構造体の高さの最大値をH2maxとするとき、
0.05≦H2max/H1min≦0.95
なる条件式を満足することを特徴とする請求項1に記載の光学素子。
【請求項8】
前記第1の構造体群に含まれる構造体の最小幅をWmin1、前記第2の構造体群に含まれる構造体の最大幅をWmax2とするとき、
0.10≦Wmax2/Wmin1<1.00
なる条件式を満足することを特徴とする請求項1に記載の光学素子。
【請求項9】
前記第1の間隔をP1、前記第2の間隔をP2、前記第1の構造体群に含まれる構造体の最大幅と最小幅の差をΔW1、前記第2の構造体群に含まれる構造体の最大幅と最小幅の差をΔW2とするとき、
0.05≦ΔW1/P1≦0.80
0.05≦ΔW2/P2≦0.80
なる条件式を満足することを特徴とする請求項1に記載の光学素子。
【請求項10】
前記第1の構造体群に含まれる構造体の充填率の最小値をV1min、前記第2の構造体群に含まれる構造体の充填率の最大値をV2maxとするとき、
1.0<V2max/V1min≦4.0
なる条件式を満足することを特徴とする請求項1に記載の光学素子。
【請求項11】
前記第1の輪帯は、前記第1の構造体群が配置された第1の領域と、前記第2の構造体群が配置された第2の領域とを含み、
設計回折次数をn、前記第1の領域と前記第2の領域との境界における規格化位相をEとするとき、
0.05≦E/n≦0.90
なる条件式を満足することを特徴とする請求項1に記載の光学素子。
【請求項12】
前記第1の構造体群および前記第2の構造体群に含まれる構造体の高さの最大値をHmaxとするとき、
0.05≦(P1-P2)/Hmax≦0.60
なる条件式を満足することを特徴とする請求項1に記載の光学素子。
【請求項13】
前記第1の構造体群および前記第2の構造体群は基板の表面上に配置されており、
前記第1の構造体群および前記第2の構造体群に含まれる構造体の高さの最大値をHmax、前記表面に垂直な方向における前記基板の厚さをtとするとき、
0.0<Hmax/t≦0.1
なる条件式を満足することを特徴とする請求項1に記載の光学素子。
【請求項14】
前記第1の構造体群に含まれる構造体の最小幅をWmin1、前記第1の構造体群に含まれる構造体の最大幅をWmax1、前記第2の構造体群に含まれる構造体の最小幅をWmin2、前記第2の構造体群に含まれる構造体の最大幅をWmax2とするとき、
1.05≦Wmax1/Wmin1≦10.00
1.05≦Wmax2/Wmin2≦10.00
なる条件式を満足することを特徴とする請求項1乃至13の何れか一項に記載の光学素子。
【請求項15】
請求項14に記載の光学素子を含む複数の光学素子を有することを特徴とする光学系。
【請求項16】
請求項15に記載の光学系と、該光学系によって形成される像を受光する撮像素子とを有することを特徴とする撮像装置。
【請求項17】
同心円状に配置された複数の輪帯を有する光学素子の製造方法であって、
基板の表面に第1の材料を設ける工程と、
前記第1の材料の上に第2の材料を設ける工程と、
前記第2の材料に型を押し付けることで、前記第1の材料からなる第1および第2の構造体群を形成する工程とを有し、
前記複数の輪帯の夫々が生ずる位相差は2nπ(nは整数)であり、
前記第1および第2の構造体群は、前記複数の輪帯のうちの第1の輪帯に含まれ、かつ径方向において順に配置され、
前記第1の構造体群は、径方向において第1の間隔で配置された3以上の構造体からなり、
前記第2の構造体群は、径方向において第2の間隔で配置された3以上の構造体からなり、
前記第2の間隔は前記第1の間隔よりも小さく、
前記第1および第2の構造体群の夫々が生ずる位相差は2nπではないことを特徴とする光学素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の構造体を有する光学素子に関し、例えばデジタルスチルカメラなどの撮像装置に好適なものである。
【背景技術】
【0002】
近年、メタレンズと呼ばれる、光の回折現象を利用して入射光を集光または発散する作用を持った光学素子が知られている。メタレンズのような光学素子は、基板の上に配置された複数の構造体からなる凹凸構造を有している。このような光学素子として、特許文献1には、周辺部において構造体のピッチを小さくすることで入射光の反射を抑制した光学素子が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-180278号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、メタレンズにおいて構造体のピッチを小さくすると、構造体の幅に対する高さの比率(アスペクト比)が大きくなる。アスペクト比が大きくなると、構造体の堅牢性が損なわれ、外力や温度などの変化によって構造体が変形してしまうおそれがある。
【0005】
本発明の目的は、堅牢性の高い構造体を有する光学素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面としての光学素子は、同心円状に配置された複数の輪帯を有する光学素子であって、前記複数の輪帯の夫々が生ずる位相差は2nπ(nは整数)であり、前記複数の輪帯のうちの第1の輪帯は、径方向において配置された第1および第2の構造体群を含み、前記第1の構造体群は、径方向において第1の間隔で配置された3以上の構造体からなり、前記第2の構造体群は、径方向において第2の間隔で配置された3以上の構造体からなり、前記第2の間隔は前記第1の間隔よりも小さく、前記第1および第2の構造体群の夫々が生ずる位相差は2nπでないことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、堅牢性の高い構造体を有する光学素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施例1乃至9の光学素子の概略図
図2】比較例の光学素子の概略図
図3】実施例1乃至9の充填率の説明図
図4】実施例1乃至9における光学素子の凹凸構造の形状と位相変調量との関係図
図5】比較例における光学素子の凹凸構造の形状と位相変調量との関係図
図6】実施例1乃至9の光学素子の製造方法の概略図
図7】実施例1乃至9におけるオフセット層の概略図
図8】実施例1乃至9における光学素子の径方向における規格化位相の変調量の説明図
図9】実施例1乃至9および比較例における光学素子の径方向における構造体の幅の説明図
図10】実施例6における光学素子の概略図
図11】実施例7における光学素子の概略図
図12】実施例8における光学素子の概略図
図13】実施例9における構造体の形状を示す概略図
図14】実施例1乃至9における光学素子を備えた光学系の概略図
図15】実施例1乃至9における光学素子を備えた撮像装置の概略図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施例について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図面は、便宜的に実際とは異なる縮尺で描かれている場合がある。各図面において、同一の部材については同一の参照番号を付し、重複する説明を省略する。
【0010】
図1(a)~(c)は、光学素子100の概略図である。図1(a)はxz断面における光学素子100の要部拡大図を、図1(b)はxy断面における光学素子100の上面図をそれぞれ示す。図1(c)は、xy断面における光学素子100の全体上面図を示す。各実施例において厚さ方向とは、光学素子100の基板1のz方向と一致する。各実施例において径方向とは、光学素子100の基板1の厚さ方向に垂直な方向(x方向)と一致する。各実施例において周方向とは、光学素子100の基板1の厚さ方向に垂直な方向(y方向)と一致する。なお、光学素子100の全体上面図において、周方向は厳密にはy方向とは異なるが、xz断面における要部拡大図、およびxy断面における上面図においては、便宜的に周方向とy方向は一致するものとする。
【0011】
各実施例に係る光学素子100は、基板1と、基板1の上に形成された凹凸構造2とを有する。凹凸構造2は、基板1の径方向において周期的に配置された複数の構造体21からなる。複数の構造体21は、それぞれ凹または凸のいずれかの形状を有する。光学素子100は、光学素子100の中心に対して周方向に延びるように、径方向に沿って同心円状に配置された第1の輪帯(第iの輪帯)および第2の輪帯(第(i+1)の輪帯)を含む複数の輪帯を有する。複数の輪帯のそれぞれは、光学素子100の径方向に沿って配置された領域1(第1の領域)および領域2(第2の領域)を有する。
【0012】
基板1は、合成石英からなる透明な平板である。なお、基板1は入射する光を反射する平面鏡であってもよく、任意の曲率を有する曲面であっても構わない。また、基板1の材料は、合成石英に限定されるものではなく、無機ガラス、プラスチック等の有機材料、セラミックス、金属等であってもよい。凹凸構造2は、基板1の表面上に形成されており、凹凸構造2を通過する光に位相差を与えることで、集光または発散作用をもたらす。ここで、光学素子100の回折面への入射光の波長である設計波長をλ0とし、回折面から出射して結像に使用される回折光の回折次数である設計回折次数をn(nは整数)とする。各実施例における光学素子100では、設計波長において2nπの位相差を生じる輪帯を同心円状に周期的に配置することにより、所望の位相分布を形成している。このような構成を有することにより、光学素子100は入射光に対して集光や発散といった光学的な作用を有する。
【0013】
凹凸構造2は、基板1の径方向において周期的に配置された凹形状または凸形状を有する複数の構造体21からなる。各実施例に係る光学素子100において、構造体21は、誘電体材料SiまたはTiOからなり、凸円柱形状を有する。なお、構造体21の形状は凸円柱形状に限定されるものではなく、多角形柱、多角形錐、円錐、任意の凹形状、またはこれらの組合せであっても構わない。また、構造体21の材料は、GaN、GaP、GaAs、Si、SiC、Al、SiOなどであっても構わない。
【0014】
複数の構造体21は、領域1に配置された複数の構造体211(第1の構造体群)と、領域2に配置された複数の構造体212(第2の構造体群)とを含む。複数の構造体211および構造体212は、3以上の構造体21からなる。複数の構造体211は、第1の間隔(ピッチ)P1で配置され、複数の構造体212は第2の間隔(ピッチ)P2で配置される。ここで、ピッチとは、領域1および領域2に配置されている構造体21の配置周期であり、輪帯内の構造体21のそれぞれの凹形状または凸形状の中心間の距離によって定義される。
【0015】
構造体211は、基板1の径方向に正方形状に区分けされたセグメント11の中心に配置されている。同様に、構造体212は、基板1の径方向に正方形上に区分けされたセグメント12の中心に配置されている。ここで、セグメントとは、図1(a)および図1(b)中の破線で示すように構造体21の夫々が含まれる領域のことである。各セグメントは、構造体21のピッチを一辺とする矩形を底面とし、基板1の表面位置から構造体21の高さHの位置までの距離を高さとする直方体領域によって規定される。
【0016】
なお、セグメント11およびセグメント12の幅(ピッチ)を入射光の波長よりも小さくした場合、入射光は、セグメント内に占める構造体21の充填率から求められる有効屈折率に応じて位相変調される。例えば、入射光が可視光域(400~700nm)の場合、ピッチ(周期)は400nm未満であることが好ましく、ピッチをさらに小さくすると、不要回折光や反射光を抑制できるためより好ましい。
【0017】
ここで、構造体21の充填率とは、構造体21が含まれるセグメントの体積に対して、構造体21が占める体積の割合である。図2(a)は領域1における構造体211の充填率を、図2(b)は領域2における構造体212の充填率をそれぞれ示す。例えば、セグメント11における充填率は、底面をP1×P1、高さを構造体211の高さHとするセグメント11の体積Vsに占める、構造体211の体積Vpの割合で表される。
【0018】
各実施例に係る光学素子100では、構造体211および構造体212は同じ材料からなる。第iの輪帯(i=1,2,・・・)のそれぞれは、構造体21のピッチが互いに異なる領域1および領域2を有する。構造体21について、基板1の径方向における幅を適切に設定することで、輪帯内で2nπの位相分布を形成している。基板1のz方向に対して垂直な方向において、第iの輪帯の領域1および領域2の光軸からの距離を各々R1i、R2iとする。図1(c)から分かるように、基板1のz方向に対して垂直な方向において、領域1および領域2はR1i<R2iとなるように同心円状に交互に配置されている。なお、第iの輪帯における領域1および領域2の夫々が生じる位相差は2nπではない。
【0019】
図3は、光学素子100に対する比較例として、光学素子全域において構造体21のピッチが等しくなるように構成された光学素子101の概略図である。光学素子101では、輪帯内で2nπの位相分布を形成するために、構造体21の幅W(直径)を変えることでセグメント内における構造体21の充填率を変化させている。すなわち、輪帯内で素子の中心部に近い側から周辺部に近い側に向かって、構造体21の直径を徐々に小さくすることで充填率を減少させ、所望の位相分布を形成している。
【0020】
比較例の光学素子101では、構造体21の直径だけを変化させることで充填率を調整しているため、所望の位相変調量を与えるためには直径を大きく変化させる必要がある。このため、比較例の光学素子101では、輪帯内における構造体21の最小直径が小さくなり、構造体21の幅に対する高さの比率(高さ/幅)であるアスペクト比が大きくなってしまう。特に、構造体21のピッチを小さくした場合にはアスペクト比が顕著に大きくなってしまう。構造体21のアスペクト比が大きく相対的に細長い形状を有する場合には、接触や振動等により外力が加わった場合や、温度や圧力等が加わった場合に、構造体21の形状が変形、傾斜、剥離してしまうおそれがある。そこで、各実施例に係る光学素子100においては、輪帯内でピッチの異なる領域を設けることで、特に位相変調量の小さな領域において構造体21の幅の変化量を低減し、アスペクト比を低減した堅牢性の高い凹凸構造2を構成している。
【0021】
図4は、各実施例に係る光学素子100の構造体21の形状と位相変調量との関係を示す図であり、具体的には構造体21の充填率と位相変調量に関する。図4において、横軸は構造体21の充填率を、縦軸は規格化位相をそれぞれ示す。ここで、規格化位相とは、位相変調量を2πで規格化したものを指す。規格化位相が0から、領域1と領域2との境界における規格化位相Eの範囲では、ピッチが小さい領域2における構造体212の充填率をV2minからV2maxまで変化させている。規格化位相がEからn(回折次数)の範囲では、ピッチの大きい領域1における構造体211の充填率をV1minからV1maxまで変化させている。これにより、規格化位相0~nの位相変調量を得ながら、特に領域2における構造体212のアスペクト比を低減できる。ここで、領域1における構造体211のうち充填率がV1minである構造体21の位相変調量をD1、領域2における構造体212のうち充填率がV2minである構造体21の位相変調量をD2とする。光学素子100の領域1と領域2の境界において、位相変調量がなめらかに変化することが望ましい。即ち、位相変調量D1およびD2について、0.9<D1/D2<1.1なる条件式を満足することが好ましい。
【0022】
図5は、比較例としての光学素子101の構造体21の形状と位相変調量との関係を示す図であり、光学素子全域においてピッチが同じ光学素子101における凸円柱の充填率と位相変調量に関する。図5において、横軸および縦軸はそれぞれ図4と同様である。図5において、比較例1は光学素子100の領域1におけるピッチP1で光学素子全域の構造体21を構成したもの、比較例2は光学素子100の領域2におけるピッチP2で光学素子全域の構造体21を構成したものである。図5において、規格化位相0~nの位相変調量を得るには、図4よりも充填率を大きく変化させる必要があり、特に比較例2では顕著にアスペクト比が大きくなる。これにより、輪帯内でピッチを変更することで、構造体21のアスペクト比を低減できていることが分かる。
【0023】
なお、各実施例に係る光学素子100では、複数の輪帯のうち少なくとも一つの輪帯において、構造体21のピッチを変更していればよい。ただし、複数の輪帯において構造体21のピッチを変更することが好ましく、また、全ての輪帯において構造体21のピッチを変更することがより好ましい。
【0024】
図6(a)~(c)は、光学素子100の製造方法の説明図であり、ナノインプリントリソグラフィで光学素子100を製造する工程を示す。光学素子100は、リソグラフィ技術により製造することができる。図6(a)は型31を示し、電子線やレーザー等で形成した凹凸構造2の凹凸形状を反転させた形状を有する。図6(b)に示すように、基板1の上に膜33(第1の材料)を堆積する。次に、膜33の表面にレジスト材料32(第2の材料)を塗布して、型31を押し付けて紫外線等を照射し、型31の凹凸形状を反転した形状をレジスト材料32に形成する。その後、図6(c)に示されるように、型31を離型させ、膜33にレジスト材料32の凹凸形状が転写するように現像することで、光学素子100の基板1の上に凹凸構造2を形成する。なお各実施例において、凹凸構造2の製造方法は、ナノインプリントリソグラフィに限定されるものではなく、電子線やレーザー等で直接凹凸構造2を形成するなど、他の手法を用いても構わない。
【0025】
図7は、各実施例に係る光学素子100におけるオフセット層34の説明図である。図7に示されるように、図6(c)のように基板1の上に直接凹凸構造2を形成する構成に代えて、図7のように領域1および領域2のどちらか一方または両方にまたがるように配置されるオフセット層34を設けても構わない。なお、オフセット層34を含んで基板1として扱ってもよい。
【0026】
各実施例において、領域1および領域2の構造体21は同じ材料で構成してもよい。図6(b)に示されるように、膜33のように均一な膜厚の材料を準備することは比較的容易である。このため、膜33を基にして領域1および領域2の凹凸構造2を形成する場合、領域1および領域2の構造体21と同じ材料であることが好ましい。
【0027】
以下に、各実施例に係る光学素子100において満足することが好ましい条件式について述べる。
【0028】
領域1に配置された構造体211の最小幅をWmin1、領域2に配置された構造体212の最大幅をWmax2とするとき、各実施例に係る光学素子100は以下の条件式(1)を満足することが好ましい。
0.10≦Wmax2/Wmin1<1.00…(1)
【0029】
条件式(1)は構造体211および構造体212の形状に関する。領域1に配置された構造体211の最小幅Wmin1を相対的に大きくして位相変調量を大きくとることで、領域2に配置された構造体212における位相変調量を大きくすることができる。これにより、特に領域2において構造体212のアスペクト比を低減することが可能となる。
【0030】
条件式(1)の下限を下回ると、相対的に構造体212の最大幅が小さくなる。このとき、領域2において所望の位相変調量を確保するためには、構造体212の幅をより小さくする必要があるため、領域2における構造体212のアスペクト比が大きくなってしまう。また、条件式(1)の上限を上回ると、相対的に構造体212の最大幅が大きくなる。このとき、隣り合う構造体212の夫々の間隔が狭くなり、凹凸構造2を形成することが難しくなる。
【0031】
本実施例において、条件式(1)の下限値は、0.10に代えて、0.15、0.20、0.25、0.30、0.32、0.34、または0.35に設定されることがより好ましい。また、条件式(1)の上限値は、1.00に代えて、0.95、0.90、0.85、0.80、0.78、0.76、0.74、または0.72に設定されることがより好ましい。
【0032】
また、各実施例に係る光学素子100は、以下の条件式(2)を満足することが好ましい。
1.2≦P1/P2≦8.0…(2)
【0033】
条件式(2)は、構造体21のピッチに関する。条件式(2)を満足することで、領域2における構造体212のピッチを小さく構成でき、光学素子の反射回折を抑制することができる。条件式(2)の下限を下回ると、構造体212のピッチが相対的に大きくなり、入射光の波長に対してピッチを十分に小さくすることができず、反射回折を十分に抑制することが難しくなる。条件式(2)の上限を上回ると、構造体212のピッチが相対的に小さくなるため、構造体212のアスペクト比が大きくなってしまう。
【0034】
本実施例において、条件式(2)の下限値は1.2に代えて1.22、1.24、1.26、1.28、1.30、1.32、1.34、1.36、1.38、1.40、1.42、1.44、または1.45に設定されることがより好ましい。また、条件式(2)の上限値は8.0に代えて7.0、6.0、5.0、4.8、4.6、4.4、4.2、または4.0に設定されることがより好ましい。
【0035】
1より大きい自然数をjとするとき、各実施例に係る光学素子100は、以下の条件式(3)を満足することが好ましい。
0.9j≦P1/P2≦1.1j…(3)
【0036】
条件式(3)は、構造体21の配置に関する。本発明に係る光学素子において、構造体212の配置間隔(ピッチ)P2は、構造体211のピッチP1よりも小さい。このため、構造体211および構造体212を基板の径方向に順に配置するにあたっては、構造体212を分割して配置することが好ましい。即ち、構造体211が一つ含まれるセグメント11と同じ大きさのセグメント内に、構造体212が複数個含まれることが好ましい。例えば、分割数をj(jは1より大きい自然数)としたとき、図1に示すような光学素子100においては、分割数jが2となるように構造体211および構造体212を配置している。条件式(3)を満足することで、構造体21を基板1の上に正方形状に区分けして配置する場合に、隙間なく配置することができる。また、P1=j×P2なる条件式を満足することがより好ましい。条件式(3)の下限を下回ると、セグメント11内において構造体212をピッチP2でjの二乗本の構造体を構成した場合、隙間ができてしまい、光学素子内の領域2において構造体が無い空白領域が多く存在してしまう。条件式(3)の上限を上回ると、セグメント11内において、ピッチP2でjの二乗本の構造体212を構成した場合、セグメント11をはみ出してしまい、光学素子内の領域1において構造体21が無い空白領域が多く構成されてしまう。
【0037】
なお、構造体21の配置に関して、P1=j×P2を満足することがより好ましい。
【0038】
本実施例において、条件式(3)の下限値は0.9に代えて0.92、0.94、0.96、0.98、または0.99に設定されることがより好ましい。また、条件式(3)の上限値は1.1に代えて1.08、1.06、1.04、1.02,または1.01に設定されることがより好ましい。
【0039】
構造体211の幅の最大値をWmax1、構造体212の幅の最小値をWmin2とするとき、各実施例に係る光学素子100は、以下の条件式(4)および(5)を満足することが好ましい。
1.05≦Wmax1/Wmin1≦10.00…(4)
1.05≦Wmax2/Wmin2≦10.00…(5)
【0040】
条件式(4)および(5)は、構造体211および構造体212の形状に関する。条件式(4)の下限を下回る、または条件式(5)の上限を上回ると、相対的に領域2における位相変調量が大きくなる。このとき、構造体212の幅を大きく変化させる必要があるため、構造体212のアスペクト比が大きくなってしまう。条件式(4)の上限を上回る、または条件式(5)の下限を下回ると、相対的に領域1における位相変調量が大きくなる。このとき、光学素子全域に対して領域2の占める割合が小さくなるため、反射回折を十分に抑制することが難しくなる。
【0041】
本実施例において、条件式(4)の下限値は1.05に代えて1.06、1.07、1.08、1.09、または1.1に設定されることがより好ましい。また、条件式(5)の下限値は1.05に代えて1.06、1.08、1.10、1.11、1.12、1.13、1.14または1.15に設定されることがより好ましい。条件式(4)および条件式(5)の上限値は10に代えて5.0、4.5、4.0、3.5、3.0、2.6、2.4、2.2、または2.0に設定されることがより好ましい。
【0042】
構造体211の最大幅と最小幅の差をΔW1、構造体212の最大幅と最小幅の差をΔW2とするとき、各実施例に係る光学素子100は、以下の条件式(6)および(7)を満足することが好ましい。
0.05≦ΔW1/P1≦0.80…(6)
0.05≦ΔW2/P2≦0.80…(7)
【0043】
条件式(6)、(7)は、構造体211および構造体212の形状に関する。条件式(6)の下限を下回る、または条件式(7)の上限を上回ると、相対的に領域2における位相変調量が大きくなる。このとき、構造体212の幅を大きく変化させる必要があるため構造体212のアスペクト比が大きくなり、構造体212の堅牢性が損なわれる。条件式(6)の上限を上回る、または条件式(7)の下限を下回ると、相対的に領域1における位相変調量が大きくなり、光学素子全域に対して領域2の占める割合が小さくなり、反射回折を十分に抑制することが難しくなる。
【0044】
本実施例において、条件式(6)の下限値は0.05に代えて0.06、0.07、0.08、0.09、0.10、0.14、0.18または0.20に設定されることがより好ましい。また、条件式(6)の上限値は0.80に代えて0.70、0.60、0.50、0.45または0.40に設定されることがより好ましい。条件式(7)の下限値は0.05に代えて0.06、0.08、0.10、0.14、0.18、0.20、0.24、0.28または0.30に設定されることがより好ましい。また、条件式(7)の上限値は0.80に代えて0.60、0.50、0.46、0.42、0.41、または0.40に設定されることがより好ましい。
【0045】
構造体211の充填率の最小値をV1min、構造体212の充填率の最大値をV2maxとするとき、各実施例に係る光学素子100は、以下の条件式(8)を満足することが好ましい。
1.0<V2max/V1min≦4.0…(8)
【0046】
条件式(8)は、構造体211および構造体212の形状に関する。条件式(8)の下限を下回ると、相対的に領域1における位相変調量が大きくなる。このとき、光学素子全域に対して領域2の占める割合が小さくなり、反射回折を十分に抑制することが難しくなる。条件式(8)の上限を上回ると、相対的に領域2における位相変調量が大きくなる。このとき、構造体212の幅を大きく変化させる必要があるため構造体212のアスペクト比が大きくなり、構造体212の堅牢性が損なわれる。
【0047】
本実施例において、条件式(8)の下限値は1.0に代えて、1.05、1.10、1.15、1.20、1.25、1.30、1.35または1.40に設定されることがより好ましい。また、条件式(8)の上限値は4.0に代えて3.5、3.0、2.8、2.6、2.4、2.2または2.0に設定されることがより好ましい。
【0048】
第1の領域と第2の領域との境界での規格化位相をE、設計回折次数をnとするとき、各実施例に係る光学素子100は、以下の条件式(9)を満足することが好ましい。
0.05≦E/n≦0.90…(9)
【0049】
条件式(9)は領域1および領域2における構造体21の配置に関する。条件式(9)の下限を下回ると、相対的に領域1における位相変調量が大きくなる。このとき、光学素子全域に対して領域2の占める割合が小さくなり、反射回折を十分に抑制することが難しくなる。条件式(9)の上限を上回ると、相対的に領域2における位相変調量が大きくなる。このとき、構造体212の幅を大きく変化させる必要があるため構造体212のアスペクト比が大きくなり、構造体212の堅牢性が損なわれる。
【0050】
本実施例において、条件式(9)の下限値は0.05に代えて0.06、0.08、0.10、0.12、0.13、または0.14に設定されることがより好ましい。また、条件式(9)の上限値は0.90に代えて0.88、0.86、0.84、0.82、0.80、0.78、0.76、0.74、0.72、または0.71に設定されることがより好ましい。
【0051】
規格化位相を算出する際に使用する基準波長(設計波長)をλ0とするとき、各実施例に係る光学素子100は、以下の条件式(10)を満足することが好ましい。
0.10≦P2/λ0≦0.80…(10)
【0052】
条件式(10)は構造体212の構成に関する。条件式(10)の下限を下回ると、構造体212のピッチが相対的に小さくなり、反射回折を抑制することはできるが、アスペクト比が大きくなってしまい製造が困難になる。条件式(10)の上限を上回ると、構造体212のピッチが相対的に大きくなり、入射光の波長に対してピッチを十分に小さくすることができず、反射回折を十分に抑制することが難しくなる。
【0053】
本実施例において、条件式(10)の下限値は0.10に代えて0.12、0.14、0.16、0.18、0.20、0.21、または0.22に設定されることがより好ましい。また、条件式(10)の上限値は0.80に代えて0.70、0.60、0.50、0.45、0.40、0.39、0.38、0.37、または0.36に設定されることがより好ましい。
【0054】
構造体211および構造体212に含まれる構造体の高さの最大値をHmaxとするとき、各実施例に係る光学素子100は、以下の条件式(11)を満足することが好ましい。
0.05≦(P1-P2)/Hmax≦0.60…(11)
【0055】
条件式(11)は構造体211および構造体212の形状に関する。条件式(11)の下限を下回ると、構造体211と構造体212のピッチの差が相対的に小さくなる。このとき、構造体212のピッチが相対的に大きくなり、入射光の波長に対してピッチを十分に小さくすることができず、反射回折を十分に抑制することが難しくなる。条件式(11)の上限を上回ると、構造体211に対して構造体212のピッチが相対的に小さくなるため、構造体212のアスペクト比が大きくなってしまう。なお、構造体211および構造体212の夫々の高さHは一定であることが望ましいが、製造誤差などにより互いに異なる場合がある。この場合には、構造体211および構造体212のうち、最も高い構造体の高さがHmaxとなる。
【0056】
本実施例において、条件式(11)の下限値は0.05に代えて、0.06、0.07、0.08、0.09、または0.10に設定されることがより好ましい。また、条件式(11)の上限値は0.60に代えて、0.50、0.45、0.40、0.35、0.30、0.28、0.26、0.24、または0.22に設定されることがより好ましい。
【0057】
基板1の厚さをtとするとき、各実施例に係る光学素子100は、以下の条件式(12)を満足することが好ましい。
0.0<Hmax/t≦0.1…(12)
【0058】
条件式(12)は、光学素子100の形状に関する。領域2の構造体21の高さHおよび基板1の厚さtはいずれも長さを示す数値であり、0よりも大きい数値になる。このため、条件式(12)の下限を下回ることは無い。条件式(12)の上限を上回ると、構造体21に対して基板の厚さが薄くなるため、光学素子100を保持する際に自重によって光学素子100が変形してしまう。あるいは、光学素子100を製造する際に基板が変形してしまう。
【0059】
本実施例において、条件式(12)の下限値は、0.0に代えて、0.00001、0.00004、0.00008、または0.0001に設定されることが好ましい。また、条件式(12)の上限値は、0.1に代えて、0.05、0.01、0.008、0.005、または0.001に設定されることが好ましい。
【0060】
光学素子にd線(587.6nm)、F線(486.1nm)、C線(656.3nm)の光を入射した時の各波長における屈折力をそれぞれφd、φF、φCとするとき、光学素子の集光および発散作用における実効アッベ数νdefは以下の式で表される。
【0061】
【数1】
【0062】
なお、実効アッベ数とは屈折作用を有する媒質のアッベ数νdに相当するものであり、光学素子の集光および発散作用の波長分散を表す指標である。
【0063】
このとき、各実施例に係る光学素子100は、以下の条件式(13)を満足することが好ましい。
0.00≦|1/νdef|≦0.25…(13)
【0064】
条件式(13)は光学素子100の集光および発散特性の波長分散に関する。条件式(13)の上限を上回るような高分散な集光及び発散作用を有する光学素子を実現する場合には、構造体212のようにピッチの異なる構造体を用いなくても所望の規格化位相の値を実現することができる。しかし、低分散または波長分散が実質的にゼロとなるような、集光および発散作用を有する光学素子を高い集光効率で実現するためには、構造体21の位相変調量の波長分散が様々な値をとることが求められる。つまり、構造体212のようにピッチを変えて凹凸構造を形成することにより、構造体211とは異なる波長分散の凹凸構造を実現する必要がある。
【0065】
本実施例において、条件式(13)の上限値は0.25に代えて、0.20、0.10、0.04、0.02、0.01、または0.005に設定されることがより好ましい。
【0066】
構造体211の高さの最小値をH1min、構造体212の高さの最大値をH2maxとしたとき、各実施例に係る光学素子100は、以下の条件式(14)を満足することが好ましい。
0.05≦H2max/H1min≦0.95…(14)
【0067】
条件式(14)は、構造体211および構造体212の高さに関する。条件式(14)を満足することで、位相変化量が相対的に小さい領域2に配置された構造体212の高さが構造体211の高さと比較して低くなる。このため、構造体212の直径を大きくすることが可能となり、構造体212のアスペクト比を低減することができる。
【0068】
条件式(14)の下限を下回ると、構造体212の高さH2が低くなりすぎるため、構造体212の幅を変化させたときの位相変調量が小さくなる。このとき、所望の位相変調量を得るには、構造体212の幅を大きく変化させる必要があるため、構造体212のアスペクト比が大きくなってしまう。条件式(14)の上限を上回ると、構造体212の高さH2が高くなりすぎる。このとき、所望の位相変調量を得るには、構造体212の幅を構造体211に対して小さくする必要があるため、構造体212のアスペクト比が大きくなってしまう。
【0069】
本実施例において、条件式(14)の下限値は、0.05に代えて、0.10、0.15、0.20、0.24、0.28、0.32、0.34、または0.36に設定されることがより好ましい。また、条件式(14)の上限値は、0.95に代えて、0.90、0.85、0.80、0.76、0.72、0.70、0.68、0.66、0.64、0.62、または0.60に設定されることがより好ましい。
【0070】
なお、構造体211の夫々の高さH1と、構造体212の夫々の高さH2はそれぞれ一定であることが望ましいが、製造誤差などにより互いに高さが異なる場合がある。この場合には、構造体211のうち、最も高い構造体の高さがH1minとなる。同様に、構造体212のうち、最も低い構造体の高さがH2maxとなる。
【0071】
以下に、実施例1乃至9に係る光学素子100の構成について詳細に述べる。
【0072】
実施例1の光学素子は、厚さ0.775mmの合成石英の基板と、Siの凸形状の円柱からなる凹凸構造で構成される。領域1に配置された構造体211および領域2に配置された構造体212は、それぞれ一辺が320nmおよび160nmの正方形状のセグメント毎に配置され、高さは880nmである。凹凸構造の有効径はφ4.0mmで、波長500nmで2πの位相差が周期的に繰り返す輪帯を105輪帯有しており、凹凸構造による焦点距離は40.0mmである。実効アッベ数νdefは-3.452であり、従来の回折光学素子と等しい波長分散を有している。規格化位相が0.405となる位置を輪帯内の領域1および領域2の境界とし、領域1および領域2におけるアスペクト比の最大値は各々5.32、16.31である。ここで、比較例として、光学素子全域において構造体21がピッチP1で配置された比較例11と、光学素子全域において構造体21がピッチP2で配置された比較例12とする。実施例1の光学素子は、比較例11および比較例12のアスペクト比の最大値10.1、46.1と比較してアスペクト比を低減できている。また、第103輪帯(i=103)における波長450nmでの反射率について、実施例1では26.8%であり、比較例の127.9%と比較して、構造による反射回折を抑制できている。
【0073】
実施例2の光学素子は、厚さ0.775mmの合成石英の基板と、Siの凸形状の円柱からなる凹凸構造で構成される。構造体211および構造体212は一辺が320nmおよび160nmの正方形状のセグメント毎に配置され、高さは1000nmである。凹凸構造の有効径はφ2.5mmで、波長587.6nmで2πの位相差が周期的に繰り返す輪帯を67輪帯有しており、凹凸構造による焦点距離は20.0mmであり、実効アッベ数νdefは-3.452で従来の回折光学素子と等しい波長分散を有している。規格化位相が0.356となる位置を輪帯内の領域1および2の境界とし、領域1および2におけるアスペクト比の最大値は各々5.63、18.32である。光学素子全域においてピッチが変化しない比較例21および比較例22のアスペクト比の最大値16.1、68.5と比較してアスペクト比を低減できている。
【0074】
実施例3の光学素子は、厚さ0.775mmの合成石英の基板と、Siの凸形状の円柱からなる凹凸構造で構成される。領域1および領域2の構造体21は一辺が320nmおよび160nmの正方形状のセグメント毎に配置され、高さは1600nmである。凹凸構造の有効径はφ2.5mmで、波長500nmで4πの位相差が周期的に繰り返す輪帯を79輪帯有しており、凹凸構造による焦点距離は10.0mmであり、実効アッベ数νdefは-3.452で従来の回折光学素子と等しい波長分散を有している。規格化位相が0.529となる位置を輪帯内の領域1および2の境界とし、領域1および2におけるアスペクト比の最大値は各々10.31、26.15である。光学素子全域においてピッチが変化しない比較例31および比較例32のアスペクト比の最大値21.37、115と比較してアスペクト比を低減できている。
【0075】
実施例4の光学素子は、厚さ0.775mmの合成石英の基板と、TiOの凸形状の円柱からなる凹凸構造で構成される。領域1および領域2の構造体21は一辺が240nmおよび120nmの正方形状のセグメント毎に配置され、高さは600nmである。凹凸構造の有効径はφ12.0mmで、波長500nmで2πの位相差が周期的に繰り返す輪帯を307輪帯有しており、凹凸構造による焦点距離は117.5mmであり、実効アッベ数νdefは-3.452で従来の回折光学素子と等しい波長分散を有している。規格化位相が0.288となる位置を輪帯内の領域1および2の境界とし、領域1および2におけるアスペクト比の最大値は各々5.26、14.35である。光学素子全域においてピッチが変化しない比較例41および比較例42のアスペクト比の最大値10.27、80.05と比較してアスペクト比を低減できている。
【0076】
実施例5の光学素子は、厚さ0.775mmの合成石英の基板と、Alの凸形状の円柱からなる凹凸構造で構成される。領域1および領域2の構造体21は一辺が300nmおよび150nmの正方形状のセグメント毎に配置され、高さは1400nmである。凹凸構造の有効径はφ7.5mmで、波長500nmで2πの位相差が周期的に繰り返す輪帯を338輪帯有しており、凹凸構造による焦点距離は41.7mmであり、実効アッベ数νdefは-3.452で従来の回折光学素子と等しい波長分散を有している。規格化位相が0.280となる位置を輪帯内の領域1および2の境界とし、領域1および2におけるアスペクト比の最大値は各々9.23、16.43である。光学素子全域においてピッチが変化しない比較例51および比較例52のアスペクト比の最大値11.45、31.65と比較してアスペクト比を低減できている。
【0077】
実施例6乃至8の光学素子は、実施例1の光学素子と比較して、構造体211および構造体212のピッチと、領域1および領域2の配置が異なる。
【0078】
実施例6の光学素子は、図10に示すように、領域2を互いにピッチの異なる領域21と領域22で構成する。実施例6の光学素子の領域1の構造体21は一辺が360nmの正方形状のセグメント毎に配置され、領域21および領域22の構造体21は一辺が180nmおよび120nmの正方形状のセグメント毎に配置される。規格化位相が0.450となる位置を輪帯内の領域1および2の境界とし、更には、規格化位相が0.150となる位置を領域21および22の境界としている。領域1および21、22におけるアスペクト比の最大値は各々4.71、8.62、15.41である。光学素子全域においてピッチが変化しない比較例61、62、63のアスペクト比の最大値7.75、37.13、73.14と比較してアスペクト比を低減できている。
【0079】
実施例7の光学素子は、図11に示すように、領域2においてセグメント11における構造体212の本数が整数ではない。実施例7の光学素子の領域1の構造体21は一辺が360nmおよび240nmの正方形状のセグメント毎に配置されている。規格化位相が0.60となる位置を輪帯内の領域1および2の境界とし、領域1および2におけるアスペクト比の最大値は各々4.31、8.55である。
【0080】
実施例8の光学素子は、図12に示すように、凸形状の四角柱からなる凹凸構造で構成される。領域1の構造体21の高さは880nmである。規格化位相が0.70となる位置を輪帯内の領域1および2の境界とし、領域1および2におけるアスペクト比の最大値は各々4.78、14.09である。
【0081】
実施例9の光学素子は、図13(a)から(f)に示すように、複数の異なる種類の形状を有するSiの構造体21で構成される。図13(a)は凸形状の円柱(type1)を示し、円柱の直径をWとする。図13(b)は凸形状の中空円柱(type2)を示し、円柱の外径をW、円柱の外径と内径の差をW’とする。図13(c)は凹形状の円柱(type3)を示し、円柱の直径をWとする。図13(d)は凸形状の四角柱(type4)を示し、四角柱の辺の長さをWとする。図13(e)は凸形状の十字柱(type5)を示し、十字形状の短辺をW、長辺をW’とする。図13(f)は凸形状の円柱(type6)を示し、図13(a)とはピッチが異なっており、円柱の直径をWとする。領域1および領域2の構造体21はそれぞれ一辺が240nmおよび120nmの正方形状のセグメント毎に配置され、高さは800nmである。凹凸構造の有効径はφ20μmで、波長450nm、550nm、650nmの各々で2πの位相差が周期的に繰り返す輪帯を有しており、凹凸構造による焦点距離は20μmである。実効アッベ数νdefは無限大であり前記の3つの設計波長において略等しい焦点距離を有している。実施例9の光学素子は、中心部に近い側から径方向に向けて42のセグメントで分割されている。一部のセグメントのピッチを小さくすることで、素子に入射した光の反射を低減しつつ、円柱構造だけで構成した光学素子と比較して所望の位相差に近づけることができるため、結像性能が向上する。
【0082】
以下に、実施例の光学素子の夫々に対応する数値実施例1乃至9を示す。
【0083】
凹凸構造による集光および発散作用を示す位相φは、hを光軸と垂直な方向(径方向)の光軸からの高さ、nを回折光の回折次数、λ0を設計波長、Ck(k=1,2,3…)を各次数の位相係数とするとき、以下の式で表される。
【0084】
【数2】
【0085】
d線(587.6nm)、g線(435.8nm)、F線(486.1nm)、C線(656.3nm)、波長500nmにおける屈折率をnd,ng,nC,nF、n500とする。領域1および2における構造体21の幅を各々W1[nm]、W2[nm]、W’[nm]、比較例1および2の構造体21の幅をWref1[nm]、Wref2[nm]とする。
【0086】
数値実施例9について、それぞれの構造体21の形状を、図13におけるtype1乃至6のように表記する。すなわち、構造体21の形状について、凸形状の円柱をtype1と、凸形状の中空円柱をtype2と、凹形状の円柱をtype3と、凸形状の四角柱をtype4と、凸形状の十字柱をtype5と、凸形状の円柱をtype6と表記する。
【0087】
[数値実施例1]
規格化位相 W1 W2 Wref1 Wref2
0.000 53.9 87.0 19.1
0.050 63.9 103.6 41.0
0.100 72.1 116.2 54.2
0.150 79.2 126.3 63.8
0.200 85.5 135.0 71.9
0.250 91.2 142.7 79.1
0.300 96.4 149.7 85.7
0.350 101.2 156.1 91.4
0.405 165.5 106.1 162.8 97.0
0.450 170.6 168.1 101.1
0.500 176.1 173.7 105.4
0.550 181.6 179.1 109.7
0.600 187.0 184.6 113.8
0.650 192.4 190.0 117.8
0.700 197.9 195.4 121.6
0.750 203.5 201.0 125.0
0.800 209.2 206.6 128.2
0.850 215.3 212.5 131.4
0.900 221.7 218.7 135.0
0.950 228.8 225.6 138.7
1.000 236.8 233.0 140.9
【0088】
[数値実施例2]
規格化位相 W1 W2 Wref1 Wref2
0.000 54.6 62.3 14.6
0.050 64.8 90.7 40.7
0.100 73.6 110.2 54.9
0.150 81.4 124.9 64.8
0.200 88.3 137.0 73.4
0.250 94.4 147.6 81.3
0.300 99.8 157.0 88.5
0.356 177.6 105.4 166.6 95.4
0.400 184.0 173.6 100.1
0.450 190.9 181.0 104.9
0.500 197.7 188.2 109.4
0.550 204.5 195.1 113.9
0.600 211.3 201.9 118.3
0.650 218.2 208.7 122.5
0.700 224.9 215.4 126.3
0.750 231.6 222.1 129.6
0.800 238.4 228.8 132.7
0.850 245.5 235.6 135.9
0.900 253.1 242.8 139.8
0.950 261.1 250.3 144.0
1.000 268.8 257.7 145.4
【0089】
[数値実施例3]
規格化位相 W1 W2 Wref1 Wref2
0.000 61.2 74.9 13.9
0.100 70.5 97.7 40.9
0.200 78.5 112.7 55.5
0.300 85.6 123.8 65.4
0.400 91.8 133.1 73.9
0.529 155.2 98.8 143.7 83.7
0.600 160.1 149.1 88.6
0.700 166.5 156.1 94.6
0.800 172.6 162.8 99.9
0.900 178.6 169.1 104.6
1.000 184.6 175.2 109.1
1.100 190.8 181.3 113.6
1.200 197.2 187.5 118.1
1.300 203.7 193.7 122.4
1.400 210.4 200.0 126.3
1.500 217.2 206.5 129.7
1.600 224.4 213.1 132.9
1.700 232.2 220.2 136.2
1.800 241.0 227.8 140.2
1.900 250.8 236.2 144.5
2.000 260.7 245.1 146.1
【0090】
[数値実施例4]
規格化位相 W1 W2 Wref1 Wref2
0.000 41.8 58.4 7.5
0.050 51.1 79.7 30.5
0.100 58.7 90.4 42.9
0.150 65.0 96.7 51.5
0.200 70.4 101.9 58.8
0.250 75.0 106.7 65.3
0.288 114.1 78.2 110.4 69.7
0.350 118.9 115.9 75.6
0.400 122.4 119.8 79.6
0.450 125.8 123.3 83.1
0.500 129.3 126.5 86.5
0.550 133.0 129.8 89.9
0.600 136.9 133.3 93.4
0.650 140.9 137.2 96.5
0.700 144.8 141.3 99.2
0.750 148.6 145.5 101.4
0.800 152.7 149.6 103.5
0.850 158.0 153.9 106.1
0.900 166.2 159.2 109.6
0.950 179.9 167.4 113.3
1.000 202.8 181.6 112.5
【0091】
[数値実施例5]
規格化位相 W1 W2 Wref1 Wref2
0.000 85.2 122.3 44.2
0.050 88.0 126.6 51.2
0.100 90.6 130.5 57.0
0.150 93.1 134.1 62.0
0.200 95.5 137.5 66.6
0.250 97.8 140.6 70.8
0.280 151.8 99.2 142.4 73.1
0.350 155.3 146.4 78.2
0.400 157.7 149.1 81.5
0.450 160.1 151.7 84.5
0.500 162.4 154.2 87.4
0.550 164.7 156.7 90.1
0.600 166.9 159.1 92.7
0.650 169.2 161.4 95.1
0.700 171.4 163.7 97.4
0.750 173.6 166.0 99.6
0.800 175.7 168.2 101.7
0.850 177.9 170.4 103.8
0.900 180.1 172.6 105.7
0.950 182.3 174.8 107.7
1.000 184.5 177.0 109.5
【0092】
[数値実施例6]
規格化位相 W1 W21 W22 Wref1 Wref2 Wref3
0.000 57.1 113.5 23.7 12.0
0.050 62.6 124.0 46.6 30.3
0.100 67.4 132.6 60.9 40.9
0.150 102.1 71.8 140.1 71.3 48.4
0.200 107.6 146.9 80.1 54.9
0.250 112.7 153.2 87.9 60.7
0.300 117.5 159.3 94.9 66.0
0.350 122.1 165.2 101.1 70.6
0.400 126.4 170.9 106.6 74.6
0.450 187.0 130.7 176.6 111.7 78.2
0.500 192.6 182.2 116.4 81.6
0.550 198.4 187.8 121.0 84.9
0.600 204.4 193.5 125.6 88.1
0.650 210.5 199.3 130.0 91.2
0.700 216.8 205.2 134.1 94.0
0.750 223.4 211.3 138.0 96.5
0.800 230.2 217.6 141.7 98.8
0.850 237.5 224.2 145.3 101.2
0.900 245.4 231.2 149.3 104.0
0.950 253.8 238.6 153.4 106.9
1.000 262.8 246.5 156.3 108.0
【0093】
[数値実施例7]
規格化位相 W1 W2 Wref1 Wref2
0.000 102.9 113.5 43.5
0.050 111.6 124.0 66.5
0.100 119.3 132.6 82.2
0.150 126.2 140.1 94.2
0.200 132.6 146.9 104.0
0.250 138.6 153.2 112.6
0.300 144.3 159.3 120.2
0.350 149.8 165.2 127.1
0.400 155.1 170.9 133.4
0.450 160.3 176.6 139.3
0.500 165.4 182.2 145.0
0.550 170.5 187.8 150.4
0.600 204.4 175.6 193.5 155.8
0.650 210.5 199.3 161.0
0.700 216.8 205.2 166.2
0.750 223.4 211.3 171.2
0.800 230.2 217.6 176.2
0.850 237.5 224.2 181.2
0.900 245.4 231.2 186.3
0.950 253.8 238.6 191.6
1.000 262.8 246.5 196.5
【0094】
[数値実施例8]
規格化位相 W1 W2 Wref1 Wref2
0.000 62.5 101.0 32.4
0.050 68.7 109.5 45.0
0.100 74.4 116.6 54.2
0.150 79.5 122.8 61.5
0.200 84.2 128.6 67.9
0.250 88.6 134.0 73.6
0.300 92.7 139.1 78.8
0.350 96.6 144.1 83.6
0.400 100.2 149.0 88.0
0.450 103.8 153.9 92.2
0.500 107.1 158.7 96.0
0.550 110.3 163.6 99.7
0.600 113.5 168.6 103.3
0.650 116.5 173.7 106.7
0.700 184.1 119.5 179.0 109.9
0.750 189.9 184.5 113.1
0.800 196.1 190.4 116.1
0.850 202.8 196.7 119.0
0.900 210.2 203.4 122.0
0.950 218.3 210.9 124.9
1.000 227.2 219.0 127.6
【0095】
[数値実施例9]
セグメント 構造体の形状 ピッチ W W' アスペクト比
1 type1 240 175.2 - 10.1
2 type1 240 175.2 - 10.1
3 type1 240 172.8 - 10.4
4 type1 240 172.8 - 4.6
5 type1 240 170.4 - 4.7
6 type1 240 168.0 - 4.8
7 type1 240 165.6 - 4.8
8 type1 240 163.2 - 4.9
9 type1 240 160.8 - 5.0
10 type4 240 216.0 - 3.7
11 type4 240 216.0 - 3.7
12 type4 240 213.6 - 3.7
13 type3 240 96.0 - 5.6
14 type3 240 110.4 - 6.2
15 type3 240 124.8 - 6.9
16 type3 240 141.6 - 8.1
17 type3 240 156.0 - 9.5
18 type4 240 175.2 - 4.6
19 type4 240 168.0 - 4.8
20 type4 240 158.4 - 5.1
21 type2 240 180.0 72.0 7.4
22 type5 240 128.2 144.0 5.9
23 type3 240 40.8 - 4.0
24 type3 240 216.0 - 33.3
25 type4 240 199.2 - 4.0
26 type5 240 170.9 192.0 4.4
27 type5 240 128.6 192.0 5.0
28 type2 240 208.8 72.0 5.8
29 type6 120 108.0 - 7.4
30 type6 120 103.2 - 7.8
31 type5 240 108.0 144.0 6.3
32 type6 120 91.2 - 8.8
33 type5 240 38.4 192.0 6.9
34 type2 240 120.0 48.0 11.1
35 type1 240 103.2 - 7.8
36 type1 240 86.4 - 9.3
37 type6 120 97.2 - 8.2
38 type6 120 90.0 - 8.9
39 type6 120 81.6 - 9.8
40 type6 120 72.0 - 11.1
41 type6 120 56.4 - 14.2
42 type1 240 48.0 - 16.7
【0096】
各実施例における種々の数値を、以下の表1乃至表3にまとめて示す。
【0097】
【表1】
【0098】
【表2】
【0099】
【表3】
【0100】
[光学系]
次に、各実施例の光学素子を含む光学系の実施例について、図14を用いて説明する。図14において、100は各実施例の光学素子、102は光学素子、OAは光軸、IPは像面、3は各実施例の光学素子を含む光学系である。光学素子102は屈折レンズ、回折光学素子、ミラー、プリズム等で構成され、1つでもよいし複数枚からなっていてもよい。光軸OAに沿って光学素子100および光学素子102が配置され、入射光を撮像面IPへ結像する。光学素子100の像側の面に構造体21を配置することで、集光や発散、偏光といった光学作用を得ている。
【0101】
[撮像装置]
次に、図15を参照して、各実施例の光学素子を含む光学系を撮像光学系として用いたデジタルスチルカメラ(撮像装置)について説明する。図15は、各実施例の光学素子を含む光学系を備えた撮像装置6の説明図である。図15において、4はカメラ本体、3は各実施例に係る光学素子100を含む光学系である。5はカメラ本体4に内蔵され、光学系3によって形成された光学像を受光して光電変換するCCDセンサやCMOSセンサ等の撮像素子(光電変換素子)である。カメラ本体4はクイックリターンミラーを有する所謂一眼レフカメラでもよいし、クイックリターンミラーを有さないいわゆるミラーレスカメラでもよい。このように、各実施例に係る光学素子100を含む光学系をデジタルスチルカメラ等の撮像装置に適用することにより、レンズが小型である撮像装置を得ることができる。
【0102】
なお、本実施形態に係る撮像装置は、カメラ本体4と各実施例の光学素子100を含む光学系3とが一体化されたレンズ一体型カメラを想定しているが、これに留まらずレンズ交換式カメラであってもよい。例えば、光学系3を保持する保持部材が撮像装置としてのカメラ本体4に着脱可能である光学装置(レンズ装置)を採用してもよい。また、各実施例の光学系は、上述した撮像装置に用に限らず、銀塩フィルム用カメラやデジタルビデオカメラ、望遠鏡や双眼鏡、プロジェクタ(投射装置)等の種々の光学機器に適用することができる。
【0103】
以上、本発明の好ましい実施例について説明したが、本発明はこれらの実施例に限定されず、その要旨の範囲内で種々の組合せ、変形および変更が可能である。
【0104】
各実施例に係る光学素子100は、輪帯内において、基板1の中心部から周辺部に向かって構造体21の直径を徐々に小さくすることで、入射光を集光する作用を有している。本発明はこれに留まらず、輪帯内において、基板1の中心部から周辺部に向かって構造体21の直径を徐々に大きくすることで、入射光を発散する作用を有してもよい。また、各実施例において、集光または発散作用を示す光学素子について記載したが、本発明に係る光学素子が示す作用はこれに留まらず、偏光など他の光学的作用を有していてもよい。
【0105】
光学素子100において、構造体21は凹形状を有してもよい。構造体21が凹形状を有することで、光学素子100の表面に反射防止などの表面加工を施すことが容易となる。なお、構造体21が凹形状を有する場合には、構造体21の夫々は、凹部の空間を形成する側面および底面を含む構造体を指す。このとき、構造体の高さは凹部の高さであり、構造体の幅は凹部の幅である。
【0106】
光学素子100において、基板1の上に下地層が形成されていてもよい、構造体212を下地層の上に形成することにより、構造体212の直径を大きくすることが可能となり、構造体212のアスペクト比を低減することができる。なお、構造体212の全てが下地層の上に形成されていてもよく、一部の構造体212のみが下地層の上に形成されていてもよい。
【0107】
光学素子100において、構造体212の高さを、構造体211の高さに対して低くすることが好ましい。輪帯内において、位相変化量が相対的に小さい領域2に配置された、構造体212の高さを低くすることで、構造体212の直径を大きくすることが可能となり、構造体212のアスペクト比を低減することができる。なお、構造体212の全ての高さが低くてもよく、一部の構造体212のみ高さが低くてもよい。
【0108】
各実施例の開示は、以下の構成を含む。
【0109】
(構成1)
同心円状に配置された複数の輪帯を有する光学素子であって、
前記複数の輪帯の夫々が生ずる位相差は2nπ(nは整数)であり、
前記複数の輪帯のうちの第1の輪帯は、径方向において配置された第1および第2の構造体群を含み、
前記第1の構造体群は、径方向において第1の間隔で配置された3以上の構造体からなり、
前記第2の構造体群は、径方向において第2の間隔で配置された3以上の構造体からなり、
前記第2の間隔は前記第1の間隔よりも小さく、
前記第1および第2の構造体群の夫々が生ずる位相差は2nπでないことを特徴とする光学素子。
【0110】
(構成2)
前記第1および第2の構造体群に含まれる構造体の夫々は、径方向における幅が互いに異なることを特徴とする構成1に記載の光学素子。
【0111】
(構成3)
前記第1の間隔をP1、前記第2の間隔をP2とするとき、
1.2≦P1/P2≦8.0
なる条件式を満足することを特徴とする構成1または2に記載の光学素子。
【0112】
(構成4)
前記第2の間隔をP2、設計波長をλ0とするとき、
0.10≦P2/λ0≦0.80
なる条件式を満足することを特徴とする構成1乃至3の何れか一構成に記載の光学素子。
【0113】
(構成5)
前記光学素子のd線に関する実効アッベ数をνdefとするとき、
0.0≦|1/νdef|≦0.1
なる条件式を満足することを特徴とする構成1乃至4の何れか一構成に記載の光学素子。
【0114】
(構成6)
基板と、該基板の上に形成された下地層とを有し、
前記第1および第2の構造体群に含まれる構造体のうち少なくとも一つは、前記下地層の上に配置されていることを特徴とする構成1乃至5の何れか一構成に記載の光学素子。
【0115】
(構成7)
前記第1の構造体群に含まれる構造体の高さの最小値をH1min、前記第2の構造体群に含まれる構造体の高さの最大値をH2maxとするとき、
0.05≦H2max/H1min≦0.95
なる条件式を満足することを特徴とする構成1乃至6の何れか一構成に記載の光学素子。
【0116】
(構成8)
前記第1の構造体群に含まれる構造体の最小幅をWmin1、前記第2の構造体群に含まれる構造体の最大幅をWmax2とするとき、
0.10≦Wmax2/Wmin1<1.00
なる条件式を満足することを特徴とする構成1乃至7の何れか一構成に記載の光学素子。
【0117】
(構成9)
前記第1の間隔をP1、前記第2の間隔をP2、前記第1の構造体群に含まれる構造体の最大幅と最小幅の差をΔW1、前記第2の構造体群に含まれる構造体の最大幅と最小幅の差をΔW2とするとき、
0.05≦ΔW1/P1≦0.80
0.05≦ΔW2/P2≦0.80
なる条件式を満足することを特徴とする構成1乃至8の何れか一構成に記載の光学素子。
【0118】
(構成10)
前記第1の構造体群に含まれる構造体の充填率の最小値をV1min、前記第2の構造体群に含まれる構造体の充填率の最大値をV2maxとするとき、
1.0<V2max/V1min≦4.0
なる条件式を満足することを特徴とする構成1乃至9の何れか一構成に記載の光学素子。
【0119】
(構成11)
前記第1の輪帯は、前記第1の構造体群が配置された第1の領域と、前記第2の構造体群が配置された第2の領域とを含み、
設計回折次数をn、前記第1の領域と前記第2の領域との境界における規格化位相をEとするとき、
0.05≦E/n≦0.90
なる条件式を満足することを特徴とする構成1乃至10の何れか一構成に記載の光学素子。
【0120】
(構成12)
前記第1の構造体群および前記第2の構造体群に含まれる構造体の高さの最大値をHmaxとするとき、
0.05≦(P1-P2)/Hmax≦0.60
なる条件式を満足することを特徴とする構成1乃至11の何れか一構成に記載の光学素子。
【0121】
(構成13)
前記第1の構造体群および前記第2の構造体群は基板の表面上に配置されており、
前記第1の構造体群および前記第2の構造体群に含まれる構造体の高さの最大値をHmax、前記表面に垂直な方向における前記基板の厚さをtとするとき、
0.0<Hmax/t≦0.1
なる条件式を満足することを特徴とする構成1乃至12の何れか一構成に記載の光学素子。
【0122】
(構成14)
前記第1の構造体群に含まれる構造体の最小幅をWmin1、前記第1の構造体群に含まれる構造体の最大幅をWmax1、前記第2の構造体群に含まれる構造体の最小幅をWmin2、前記第2の構造体群に含まれる構造体の最大幅をWmax2とするとき、
1.05≦Wmax1/Wmin1≦10.00
1.05≦Wmax2/Wmin2≦10.00
なる条件式を満足することを特徴とする構成1乃至13の何れか一構成に記載の光学素子。
【0123】
(構成15)
前記第1の構造体群に含まれる構造体のうち最小幅を有する構造体の位相変調量をD1、前記第2の構造体群に含まれる構造体のうち最大幅を有する構造体の位相変調量をD2とするとき、
0.9<D1/D2<1.1
なる条件式を満足することを特徴とする構成1乃至14の何れか一構成に記載の光学素子。
【0124】
(構成16)
前記第1の間隔をP1、前記第2の間隔をP2、1より大きい自然数をjとするとき、
P1=j×P2
なる条件式を満足することを特徴とする構成1乃至15の何れか一構成に記載の光学素子。
【0125】
(構成17)
構成1乃至16の何れか一構成に記載の光学素子を含む複数の光学素子を有することを特徴とする光学系。
【0126】
(構成18)
構成17に記載の光学系と、該光学系によって形成される像を受光する撮像素子とを有することを特徴とする撮像装置。
【0127】
(方法1)
同心円状に配置された複数の輪帯を有する光学素子の製造方法であって、
基板の表面に第1の材料を設ける工程と、
前記第1の材料の上に第2の材料を設ける工程と、
前記第2の材料に型を押し付けることで、前記第1の材料からなる第1および第2の構造体群を形成する工程とを有し、
前記複数の輪帯の夫々が生ずる位相差は2nπ(nは整数)であり、
前記第1および第2の構造体群は、前記複数の輪帯のうちの第1の輪帯に含まれ、かつ径方向において順に配置され、
前記第1の構造体群は、径方向において第1の間隔で配置された3以上の構造体からなり、
前記第2の構造体群は、径方向において第2の間隔で配置された3以上の構造体からなり、
前記第2の間隔は前記第1の間隔よりも小さく、
前記第1および第2の構造体群の夫々が生ずる位相差は2nπではないことを特徴とする光学素子の製造方法。
【符号の説明】
【0128】
100 光学素子
211 第1の構造体群
212 第2の構造体群
P1 第1の間隔
P2 第2の間隔
図1
図2
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