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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025017087
(43)【公開日】2025-02-05
(54)【発明の名称】保護素子、及びバッテリパック
(51)【国際特許分類】
   H01H 85/02 20060101AFI20250129BHJP
【FI】
H01H85/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023119973
(22)【出願日】2023-07-24
(71)【出願人】
【識別番号】000108410
【氏名又は名称】デクセリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113424
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 信博
(74)【代理人】
【識別番号】100185845
【弁理士】
【氏名又は名称】穂谷野 聡
(72)【発明者】
【氏名】川津 雅巳
(72)【発明者】
【氏名】幸保 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 浩二
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼野 広夢
【テーマコード(参考)】
5G502
【Fターム(参考)】
5G502AA01
5G502AA20
5G502BA08
5G502BB06
5G502BD02
5G502JJ01
(57)【要約】
【課題】ヒューズエレメントの溶断後における絶縁性を向上させることができる保護素子、及びこれを用いたバッテリパックを提供する。
【解決手段】保護素子1は、絶縁基板2と、第1の電極11及び第2の電極12と、第1の電極11と第2の電極12との間に配置された中間電極13と、第1の電極11、第2の電極12及び中間電極13の面上に配置されて、第1の電極11と中間電極12との間及び第2の電極12と中間電極13との間を電気的に接続するヒューズエレメント3と、第1の電極11と中間電極13との間及び/又は第2の電極12と中間電極13との間に設けられ、ヒューズエレメント3の溶融飛散物の付着を抑制する付着防止部5とを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁基板と、
上記絶縁基板に設けられた第1の電極及び第2の電極と、
上記第1の電極と上記第2の電極との間に配置された中間電極と、
上記第1の電極、上記第2の電極及び上記中間電極の面上に配置されて、上記第1の電極と上記中間電極との間及び上記第2の電極と上記中間電極との間を電気的に接続するヒューズエレメントと、
上記第1の電極と上記中間電極との間及び/又は上記第2の電極と上記中間電極との間に設けられ、上記ヒューズエレメントの溶融飛散物の付着を抑制する付着防止部とを備える、
保護素子。
【請求項2】
上記付着防止部は、エポキシ樹脂、フッ素系樹脂又はシリコーン樹脂の硬化物である請求項1に記載の保護素子。
【請求項3】
上記付着防止部は、少なくとも上記第1の電極と上記中間電極との間及び/又は上記第2の電極と上記中間電極との間の全領域に設けられている請求項1又は2に記載の保護素子。
【請求項4】
上記付着防止部は、上記中間電極と接して、又は上記中間電極に重畳して設けられている、請求項1又は2に記載の保護素子。
【請求項5】
上記付着防止部は、上記第1の電極及び/又は上記第2の電極と接して、又は上記第1の電極及び/又は上記第2の電極に重畳して設けられている、請求項1又は2に記載の保護素子。
【請求項6】
上記ヒューズエレメントが溶断した後の絶縁抵抗が1×10Ωより高い請求項1又は2に記載の保護素子。
【請求項7】
上記絶縁基板に設けられた発熱体と、
上記発熱体を被覆する絶縁層を備える、
請求項1又は2に記載の保護素子。
【請求項8】
上記発熱体及び上記絶縁層は、上記絶縁基板の上記ヒューズエレメントが設けられた表面に形成され、
上記中間電極は、上記絶縁層上に積層されている請求項7に記載の保護素子。
【請求項9】
上記発熱体及び上記絶縁層は、上記絶縁基板の上記ヒューズエレメントが設けられた表面と反対側の裏面に形成されている請求項7に記載の保護素子。
【請求項10】
上記発熱体は、上記中間電極と接続されている請求項7に記載の保護素子。
【請求項11】
1つ以上のバッテリセルと、上記バッテリセルの充放電経路上に接続され、該充放電経路を遮断する保護素子とを備え、
上記保護素子は、上記請求項1又は2に記載の保護素子である、
バッテリパック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、電流経路を遮断する保護素子、及びこれを用いたバッテリパックに関する。
【背景技術】
【0002】
充電して繰り返し利用することのできる二次電池の多くは、バッテリパックに加工されてユーザに提供される。特に重量エネルギー密度の高いリチウムイオン二次電池においては、ユーザ及び電子機器の安全を確保するために、一般的に、過充電保護、過放電保護等のいくつもの保護回路をバッテリパックに内蔵し、所定の場合にバッテリパックの出力を遮断する機能を有している。
【0003】
多くのリチウムイオン二次電池を用いた電子装置においては、バッテリパックに内蔵されたFETスイッチを用いて出力のON/OFFを行うことにより、バッテリパックの過充電保護又は過放電保護動作を行う。しかしながら、何らかの原因でFETスイッチが短絡破壊した場合、雷サージ等が印加され、瞬間的な大電流が流れた場合、或いはバッテリセルの寿命によって出力電圧が異常に低下したり、逆に過大異常電圧を出力したりした場合であってもバッテリパックや電子機器は、発火等の事故から保護されなければならない。そこで、このような想定し得るいかなる異常状態においても、バッテリセルの出力を安全に遮断するために、外部からの信号によって電流経路を遮断する機能を有するヒューズ素子からなる保護素子が用いられている。
【0004】
このようなリチウムイオン二次電池等向けの保護回路の保護素子として、保護素子内部に発熱体を有し、この発熱体の発熱によって電流経路上の可溶導体を溶断する構造が用いられている。
【0005】
リチウムイオン二次電池の用途は、近年拡大しており、より大電流の用途、例えば電動ドライバ等の電動工具や、ハイブリッドカー、電気自動車、電動アシスト自転車等の輸送機器、ドローン等への採用が開始されている。これらの用途において、特に起動時等には、数10A~100Aを超えるような大電流が流れる場合がある。このような大電流容量に対応した保護素子の実現が望まれている。
【0006】
このような大電流に対応する保護素子を実現するために、断面積を増大させた可溶導体を用い、この可溶導体の表面に、発熱体を形成した絶縁基板を接続した保護素子が提案されている。
【0007】
図18は、従来の保護素子の一構成例を示す図であり、(A)は平面図、(B)は回路図である。図19は、図18に示す従来の保護素子においてヒューズエレメントが溶断した状態を示す図であり、(A)は平面図、(B)は回路図である。図18に示す保護素子100は、絶縁基板103と、絶縁基板103に設けられた第1の電極101及び第2の電極102と、第1の電極101と第2の電極102との間に配置された中間電極104と、第1の電極101から第2の電極102にかけて配置されて、第1の電極101と中間電極104との間及び第2の電極102と中間電極104との間を電気的に接続するヒューズエレメント105とを備える。
【0008】
絶縁基板103の表面には、発熱体106と、発熱体106を被覆する絶縁層107と、発熱体106への給電端子となる発熱体給電電極108と、中間電極104と接続された発熱体電極109が形成されている。発熱体106は一端が発熱体給電電極108と接続され、他端が発熱体電極109と接続されている。これにより、発熱体106は、発熱体電極109及び中間電極104を介してヒューズエレメント105と接続されている。
【0009】
ヒューズエレメント105は、外部回路と接続された第1、第2の電極101,102及び中間電極104と接続ハンダ等の接合材料により接続されている。
【0010】
リチウムイオンバッテリーの過充電や過電流等の異常が検知されると、外部電源から発熱体106に通電、発熱される。ヒューズエレメント105は、発熱体106の熱により溶融され、溶融導体が中間電極104及び第1、第2の電極101,102上に凝集することにより、第1、第2の電極101,102間の導通が遮断される。
【0011】
また、保護素子100は、使用される電子機器に応じて最大電流と定格電圧が設定されており、設定値以上での電力が印加されると、ヒューズエレメント105が通電により発熱し(ジュール熱)、溶断することによって、第1、第2の電極101,102間の導通を遮断させる。第1の電極101と中間電極104の間、第2の電極102と中間電極104の間は、ヒューズエレメント105単体で存在するため、比較的抵抗値が高く、通電した場合に発熱量も多くなる。このため、過電流が流れた場合、第1の電極101と中間電極104の間、第2の電極102と中間電極104の間においてヒューズエレメント105の融点を超えることで、溶断する。
【0012】
なお、図19に示すように、過電流による自己発熱遮断時には、第1の電極101と中間電極104との間、第2の電極102と中間電極104との間のいずれかだけ溶断することもあり、両方とも溶断することもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特許第3067011号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上述したように、リチウムイオン電池などはモバイル機器用途からEVや蓄電池などの用途への展開が広がっていることから、保護素子としても電流の定格電圧の高電圧化や、電流容量の大容量化への対応が求められている。
【0015】
ここで、電流遮断時において、過電流と電圧の積が電力としてヒューズエレメントの溶断箇所に印加される。このため、電流の定格電圧の高電圧化を図ると、ヒューズエレメントの溶断箇所に印加される電力(エネルギー)も大きくなり、ヒューズエレメントが自己発熱により溶融した状態で温度上昇を続け、さらに沸点に達して爆発的に気化する現象が起こる。図20(A)は、ヒューズエレメント105の溶断部位においてヒューズエレメント105の溶融導体105aが爆発的に気化した状態を模式的に示す平面図である。爆発的に気化したヒューズエレメント105の溶融導体105aの蒸気が飛散し、黒い煤状の物質111が絶縁基板103やヒューズエレメント105に付着する。図20(B)は、ヒューズエレメント105の溶融導体の蒸気が飛散して絶縁基板103や未溶融のヒューズエレメント105に煤状物質111として付着した状態を模式的に示す平面図である。この煤状物質111が導電体となり、溶断したヒューズエレメントの間に導電パス110ができてしまい、絶縁抵抗値が下がる場合がある。
【0016】
そこで、本技術は、ヒューズエレメントの溶断後における絶縁性を向上させることができる保護素子、及びこれを用いたバッテリパックを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上述した課題を解決するために、本技術に係る保護素子は、絶縁基板と、上記絶縁基板に設けられた第1の電極及び第2の電極と、上記第1の電極と上記第2の電極との間に配置された中間電極と、上記第1の電極、上記第2の電極及び上記中間電極の面上に配置されて、上記第1の電極と上記中間電極との間及び上記第2の電極と上記中間電極との間を電気的に接続するヒューズエレメントと、上記第1の電極と上記中間電極との間及び/又は上記第2の電極と上記中間電極との間に設けられ、上記ヒューズエレメントの溶融飛散物の付着を抑制する付着防止部とを備えるものである。
【0018】
また、本技術に係るバッテリパックは、1つ以上のバッテリセルと、上記バッテリセルの充放電経路上に接続され、該充放電経路を遮断する保護素子とを備え、上記保護素子は、上記記載の保護素子である。
【発明の効果】
【0019】
保護素子は、電流遮断時において、ヒューズエレメントが自己発熱により溶融した状態で温度上昇を続け、ヒューズエレメントの溶融導体が沸点に達して爆発的に気化し、溶融導体の蒸気が飛散し、黒い煤状の物質が絶縁基板の表面等に付着する。しかし、本技術によれば、付着防止部上においては煤状物質が海島状に付着するのみとなる。すなわち、第1の電極と中間電極との間の領域及び/又は第2の電極と中間電極との間の領域において煤状物質が連続することなく、導電パスが形成されることを防止することができる。したがって、保護素子は、電流遮断後において第1、第2の電極間の高い絶縁抵抗を維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、本技術が適用された保護素子を示す図であり、(A)はキャップ部材を省略して示す平面図、(B)は(A)のA-A’断面図、(C)は(A)のB-B’断面図である。
図2図2は、保護素子において、電流遮断によりヒューズエレメントが溶断し、第1、第2の電極間の導通が遮断された状態を示す図であり、(A)はキャップ部材を省略して示す平面図、(B)は(A)のB-B’断面図である。
図3図3は、キャップ部材、ヒューズエレメント及び付着防止部を省略して示す、保護素子の平面図である。
図4図4は、付着防止部が、少なくとも第1の電極と中間電極との間の領域及び/又は第2の電極と中間電極との間の領域の全領域に設けられている構成を示す平面図である。
図5図5(A)は付着防止部が中間電極と接して設けられている構成を示す平面図であり、図5(B)は付着防止部が中間電極に重畳して設けられている構成を示す平面図である。
図6図6(A)は付着防止部が第1の電極及び/又は第2の電極と接して設けられている構成を示す平面図であり、図6(B)は付着防止部が第1の電極及び/又は第2の電極に重畳して設けられている構成を示す平面図である。
図7図7は、付着防止部が第1の電極と中間電極との間の領域及び/又は第2の電極と中間電極との間の領域に隙間なく形成されている構成を示す平面図である。
図8図8は、付着防止部の製造工程の一例を示す断面図であり、図8(A)は付着防止部を構成する樹脂材料を塗布する工程を示し、図8(B)は樹脂材料が塗布された状態を示し、図8(C)はヒューズエレメントが搭載され、フラックスが塗布された状態を示す。
図9図9は、ヒューズエレメントの一例を示す断面図である。
図10図10は、ヒューズエレメントが溶断した状態を示す断面図であり、(A)はキャップ部材を省略して示す平面図、(B)は(A)のB-B’断面図である。
図11図11は、バッテリパックの構成例を示す回路図である。
図12図12は、保護素子の回路図である。
図13図13は、変形例に係る保護素子を示す図であり、(A)は、キャップ部材を省略して示す平面図であり、(B)は(A)に示すA-A’断面図であり、(C)は(A)に示すB-B’断面図であり、(D)は底面図である。
図14図14は、メタルマスクを載置した状態を示す平面図である。
図15図15は、第1の電極と中間電極の間、第2の電極と中間電極の間にわたって、それぞれ2枚のヒューズエレメントを並べて搭載した状態を示す平面図である。
図16図16は、付着防止部を設けた実施例サンプルに対して、240A-100Vの電力を印加して電流遮断させた際における電流-時間特性を示すグラフであり、(A)は電力印加前から電流遮断後まで、(B)は電流遮断時付近を拡大して示す。
図17図17は、付着防止部を設けていない比較例サンプルに対して、240A-100Vの電力を印加して電流遮断させた際における電流-時間特性を示すグラフであり、(A)は電力印加前から電流遮断後まで、(B)は電流遮断時付近を拡大して示す。
図18図18は、従来の保護素子の一構成例を示す図であり、(A)は平面図、(B)は回路図である。
図19図19は、図18に示す従来の保護素子においてヒューズエレメントが溶断した状態を示す図であり、(A)は平面図、(B)は回路図である。
図20図20(A)はヒューズエレメントの溶断部位においてヒューズエレメントの溶融導体が爆発的に気化した状態を模式的に示す平面図であり、図20(B)はヒューズエレメントの溶融導体の蒸気が飛散して絶縁基板や未溶融のヒューズエレメントに煤状物質として付着した状態を模式的に示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本技術が適用された保護素子、及びバッテリパックについて、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本技術は、以下の実施形態のみに限定されるものではなく、本技術の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変更が可能であることは勿論である。また、図面は模式的なものであり、各寸法の比率等は現実のものとは異なることがある。具体的な寸法等は以下の説明を参酌して判断すべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0022】
図1は、本技術が適用された保護素子1を示す図であり、(A)はキャップ部材を省略して示す平面図、(B)は(A)のA-A’断面図、(C)は(A)のB-B’断面図である。本技術が適用された保護素子1は、絶縁基板2と、絶縁基板2に設けられた第1の電極11及び第2の電極12と、第1の電極11と第2の電極12との間に配置された中間電極13と、第1の電極11、第2の電極12及び中間電極13の面上に配置されて、第1の電極11と中間電極13との間及び第2の電極12と中間電極13との間を電気的に接続するヒューズエレメント3と、第1の電極11と中間電極13との間及び/又は第2の電極12と中間電極13との間に設けられ、ヒューズエレメント3の溶融飛散物の付着を抑制する付着防止部5とを備える。
【0023】
保護素子1は、使用される電子機器に応じて最大電流と定格電圧が設定されており、設定値以上での電力が印加されると、ヒューズエレメント3が通電により発熱し(ジュール熱)、溶断することによって、第1、第2の電極11,12間の導通を遮断させる。図2は、保護素子1において、電流遮断によりヒューズエレメント3が溶断し、第1、第2の電極11,12間の導通が遮断された状態を示す図であり、(A)はキャップ部材を省略して示す平面図、(B)は(A)のB-B’断面図である。
【0024】
保護素子1は、電流遮断時において、ヒューズエレメント3が自己発熱により溶融した状態で温度上昇を続け、ヒューズエレメント3の溶融導体3aが沸点に達して爆発的に気化し、溶融導体3aの蒸気が飛散し、黒い煤状の物質14が絶縁基板2の表面2a等に付着する。しかし、付着防止部5上においては煤状の物質14が海島状に付着するのみとなる。すなわち、第1の電極11と中間電極13との間の領域10a及び/又は第2の電極12と上記中間電極13との間の領域10bにおいて煤状物質14が連続することなく、導電パスが形成されることを防止することができる。したがって、保護素子1は、電流遮断後において第1、第2の電極11,12間の高い絶縁抵抗を維持できる。
【0025】
以下、保護素子1の各構成について詳細に説明する。図1に示す保護素子1は、絶縁基板2のヒューズエレメント3が設けられた表面2aに発熱体6及び発熱体6を被覆する絶縁層7を備え、過電流による遮断に加え、発熱体6の発熱によってもヒューズエレメント3を溶断し、第1、第2の電極11,12間の導通が遮断される。
【0026】
[絶縁基板]
絶縁基板2は、例えばアルミナ、ガラスセラミックス、ムライト、ジルコニアなどの絶縁性を有する部材によって形成される。その他、絶縁基板2は、ガラスエポキシ基板、フェノール基板等のプリント配線基板に用いられる材料を用いてもよい。なお、本明細書では、絶縁基板2のヒューズエレメント3が搭載される面を表面2aとし、ヒューズエレメント3が搭載される面と反対側の面を裏面2bとする。
【0027】
[第1、第2の電極]
絶縁基板2の表面2aの相対向する両端部には、第1の電極11及び第2の電極12が形成されている。第1の電極11及び第2の電極12は、それぞれ、Ag、Cu又はこれらの合金等の導電パターンによって形成されている。第1の電極11及び第2の電極12は、例えばAgペーストをスクリーン印刷により所定のパターンで印刷した後、所定の温度で焼成することにより形成することができる。
【0028】
第1の電極11は、絶縁基板2の表面2aより、キャスタレーションを介して裏面2bに形成された第1の外部接続電極15と連続されている。また、第2の電極12は、絶縁基板2の表面2aより、キャスタレーションを介して裏面2bに形成された第2の外部接続電極16と連続されている。表面実装タイプの保護素子1においては、保護素子1が外部回路基板に実装されると、第1、第2の外部接続電極15,16が、当該外部回路基板に設けられた接続電極に接続されることにより、ヒューズエレメント3が当該外部回路基板上に形成された電流経路の一部に組み込まれる。
【0029】
第1、第2の電極11,12は、スズベースの各種ソルダーペーストその他の導電接続材料を介してヒューズエレメント3が搭載されることにより、ヒューズエレメント3を介して電気的に接続されている。また、第1、第2の電極11,12は、発熱体6が通電に伴って発熱しヒューズエレメント3が溶断することにより、あるいは図2に示すように、保護素子1に定格を超える大電流が流れヒューズエレメント3が自己発熱(ジュール熱)によって溶断し、接続遮断される。
【0030】
[発熱体]
本技術が適用された保護素子は、絶縁基板2に、発熱によりヒューズエレメント3を溶断する発熱体6と、発熱体6を被覆する絶縁層7を備えることが好ましい。図1図2に示す保護素子1では、絶縁基板2の表面2aに、発熱体6及び絶縁層7が設けられている。
【0031】
発熱体6は、比較的抵抗値が高く通電すると発熱する導電性を有する部材であって、例えばニクロム、W、Mo、Ru等又はこれらを含む材料からなる。発熱体6は、これらの合金あるいは組成物、化合物の粉状体を樹脂バインダ等と混合して、ペースト状にしたものを絶縁基板2上にスクリーン印刷技術を用いてパターン形成して、焼成する等によって形成することができる。一例として、発熱体6は、酸化ルテニウム系ペーストと銀とガラスペーストの混合ペーストを所定の電圧に応じて調整し、絶縁基板2の表面2aの所定の位置に所定の面積で製膜し、その後、適正条件にて焼成処理を行うことにより形成することができる。また、発熱体6の形状は適宜設計できるが、図1に示すように、絶縁基板2の形状に応じて略矩形状とすることが発熱面積を最大化するうえで好ましい。
【0032】
図3は、キャップ部材24、ヒューズエレメント3及び付着防止部5を省略して示す、保護素子1の平面図である。発熱体6は、一端部6aが第1の引出電極17と接続され、他端部6bが第2の引出電極18と接続されている。第1の引出電極17は、絶縁基板2の表面2aの一側縁に形成された発熱体給電電極8から引き出されている。第2の引出電極18は、絶縁基板2の表面2aの他側縁に形成された発熱体電極9から引き出されている。第1の引出電極17は、発熱体給電電極8から発熱体6の一端部6aに沿って引き出され、図1に示す保護素子1では、略矩形状に形成された発熱体6の一側縁に沿って延在されるとともに、当該発熱体6の一側縁が重畳されている。同様に、第2の引出電極18は、発熱体電極9から発熱体6の他端部6bに沿って引き出され、図1に示す保護素子1では、略矩形状に形成された発熱体6の他側縁に沿って延在されるとともに、当該発熱体6の他側縁が重畳されている。
【0033】
[絶縁層]
また、発熱体6、第1の引出電極17及び第2の引出電極18は、絶縁層7に被覆されている。また、絶縁層7上には中間電極13が形成されている。
【0034】
絶縁層7は、発熱体6の保護及び絶縁を図るものである。絶縁層7は発熱体6の熱を効率よく中間電極13やヒューズエレメント3へ伝えるために、厚みが例えば10~40μmと薄く形成されている。絶縁層7は、例えばガラス系のペーストを塗布、焼成することにより形成することができる。
【0035】
発熱体給電電極8及び発熱体電極9は、絶縁基板2の第1、第2の電極11,12が設けられた側縁と異なる相対向する側縁に形成されている。発熱体給電電極8は、発熱体6への給電端子となる電極であり、第1の引出電極17を介して発熱体6の一端部6aと接続されるとともに、キャスタレーションを介して絶縁基板2の裏面2bに形成された第3の外部接続電極19と連続されている(図1(B)参照)。発熱体電極9は、第2の引出電極18を介して発熱体6の他端部6bと接続されるとともに、中間電極13と接続されている。
【0036】
発熱体給電電極8、発熱体電極9、第1、第2の引出電極17,18、及び中間電極13は、第1、第2の電極11,12と同様に、AgやCu等の導電ペーストを印刷、焼成することによって形成することができる。また、絶縁基板2の表面2a上に形成されるこれら各電極を同一の材料により構成することで、一又は複数の印刷工程及び焼成工程で形成することができる。
【0037】
なお、発熱体給電電極8は、第3の外部接続電極19と接続される外部回路基板の電極に設けられた接続用ハンダがリフロー実装等において溶融し、キャスタレーションを介して発熱体給電電極8上に這い上がり、発熱体給電電極8上に濡れ拡がることを防止する規制壁(図示せず)を設けてもよい。第1、第2の電極11,12も同様に、規制壁を設けてもよい。規制壁は、例えばガラスやソルダーレジスト、絶縁性接着剤等ハンダに対する濡れ性を有しない絶縁材料を用いて形成することができ、発熱体給電電極8上や第1、第2の電極11,12上に印刷等により形成することができる。規制壁を設けることにより、溶融した接続用ハンダが発熱体給電電極8や第1、第2の電極11,12まで濡れ広がることを防止し、保護素子1と外部回路基板との接続性を維持することができる。
【0038】
[中間電極]
中間電極13は、発熱体電極9から絶縁層7上にわたって設けられる電極である。中間電極13は、AgやCu等の導電パターンによって形成されている。中間電極13は、一端側が発熱体電極9及び第2の引出電極18を介して発熱体6の他端部6bと接続されている。また、中間電極13は、他端側が第1の電極11と第2の電極12の間の領域において絶縁層7上に延在され、絶縁層7を介して発熱体6に重畳されている。そして、中間電極13は、接続用ハンダ等の接合材料を介して、ヒューズエレメント3が接続されている。
【0039】
ヒューズエレメント3は、第1及び第2の電極11,12間にわたって実装され、発熱体6の通電による発熱、又は定格を超える電流が通電することによって自己発熱(ジュール熱)により溶断し、第1の電極11と第2の電極12との間の電流経路を遮断するものである。ヒューズエレメント3には、酸化を防止し、濡れ性を向上させて、速溶断を図る目的で、フラックス4が塗布されている。保護素子1は、図1に示すように、第1及び第2の電極11,12間にわたって1枚のヒューズエレメント3を実装してもよく、第1の電極11と中間電極13の間、及び第2の電極12と中間電極13との間にそれぞれヒューズエレメント3を実装してもよい。ヒューズエレメント3の構成については、後に詳述する。
【0040】
なお、第1、第2の電極11,12及び中間電極13の表面上には、Ni/Auメッキ、Ni/Pdメッキ、Ni/Pd/Auメッキ等の被膜が、メッキ処理等の公知の手法によりコーティングされていることが好ましい。これにより、保護素子1は、第1、第2の電極11,12及び中間電極13の酸化を防止し、導通抵抗の上昇に伴う定格の変動を防止することができる。また、保護素子1をリフロー実装する場合に、ヒューズエレメント3を接続する接続用ハンダが溶融することにより第1、第2の電極11,12及び中間電極13を溶食(ハンダ食われ)するのを防ぐことができる。
【0041】
[付着防止部]
第1の電極11と中間電極13との間の領域10a及び/又は第2の電極12と中間電極13との間の領域10bには、ヒューズエレメント3の溶融飛散物の付着が抑制された付着防止部5が設けられている。付着防止部5は、例えばエポキシ樹脂、フッ素系樹脂又はシリコーン樹脂、若しくはこれらを組み合わせた樹脂の硬化物などの樹脂コート層により構成される。
【0042】
図2に示すように、付着防止部5は、電流遮断時において、ヒューズエレメント3が自己発熱により溶融した状態で温度上昇を続け、さらに沸点に達して爆発的に気化することにより、ヒューズエレメント3の溶融導体3aの蒸気が飛散した場合にも、煤状物質14が付着防止部5上においては海島状に付着するのみとなる。すなわち、第1の電極11と中間電極13との間の領域10a及び/又は第2の電極12と上記中間電極13との間の領域10bにおいて煤状物質14が連続することなく、導電パスが形成されることを防止することができる。したがって、保護素子1は、電流遮断後の高い絶縁抵抗を維持できる。
【0043】
第1の電極11と第2の電極12との電流経路を遮断する上では、付着防止部5は、第1の電極11と中間電極13との間の領域10a、又は第2の電極12と中間電極13との間の領域10bに設けられていれば良いが、電流遮断後のより高い絶縁抵抗を確保する上では、第1の電極11と中間電極13との間の領域10a及び第2の電極12と中間電極13との間の領域10bに設けられていることが好ましい。
【0044】
図4に示すように、付着防止部5は、少なくとも第1の電極11と中間電極13との間の領域10a及び/又は第2の電極12と中間電極13との間の領域10bの全領域に設けられていることが好ましい。これにより、第1の電極11と中間電極13との間や第2の電極12と中間電極13との間に、煤状物質14が連続して付着することによる導電パスの形成を防止することができる。なお、図1に示すように、付着防止部5は、絶縁基板2の発熱体給電電極8及び発熱体電極9が設けられた対向する側縁間にわたって連続して形成してもよい。これにより発熱体給電電極8及び発熱体電極9と第1の電極11及び第2の電極との間においても、煤状物質14が連続して付着することによる導電パスの形成を防止することができる。
【0045】
図5に示すように、付着防止部5は、中間電極13と接して設けてもよく(図5(A))、中間電極13に重畳して設けてもよい(図5(B))。
【0046】
また、図6示すように、付着防止部5は、第1の電極11及び/又は第2の電極12と接して設けてもよく(図6(A))、又は第1の電極11及び/又は第2の電極12に重畳して設けてもよい(図6(B))。
【0047】
また、図7示すように、付着防止部5は、第1の電極11と中間電極13との間の領域10a及び/又は第2の電極12と中間電極13との間の領域10bに隙間なく形成してもよい。
【0048】
付着防止部5は、ヒューズエレメント3と接触しない厚さに形成されることが好ましい。付着防止部5がヒューズエレメント3に接触する厚さに形成されると、例えばヒューズエレメント3をリフローにより第1、第2の電極11,12及び中間電極13に実装する際、ヒューズエレメント3が付着防止部5によって持ち上げられ所定の搭載位置から移動するおそれがある。これにより、ヒューズエレメント3と第1、第2の電極11,12との接触面積が減少したり、接触面積が不均等になったりするなど、内部抵抗に影響が生じ得る。さらに、ヒューズエレメント3の移動が大きくなると、最悪の場合にはヒューズエレメント3が第1の電極11又は第2の電極12から外れてしまうリスクも生じる。
【0049】
第1の電極11と中間電極13の間、及び第2の電極12と中間電極13との間にそれぞれヒューズエレメント3を実装しようとする場合においては(図15参照)、第1、第2の電極11,12間におけるセルフアライメントも効かず、付着防止部5との接触によるヒューズエレメント3の移動がしやすくなっており、最悪の場合にはヒューズエレメント3が中間電極13から外れてしまうリスクも生じる。
【0050】
そこで、ヒューズエレメント3と接触しない厚さに形成されることが好ましい。例えば、付着防止部5の上面が第1、第2の電極11,12及び中間電極13の上面よりも低くなる厚みで形成することで、ヒューズエレメント3と付着防止部5とが離間し、リフロー実装時等におけるヒューズエレメント3の移動を防止することができる。
【0051】
なお、付着防止部5とヒューズエレメント3とは、対向する全面にわたって離間することが望ましいが、内部抵抗の著しい変動を起こしたり中間電極13との接続が外れたりするような深刻なヒューズエレメント3の移動を伴わない限り、部分的に接触することは問題ない。
【0052】
[付着防止部の形成工程]
付着防止部5は、形成領域に応じた開口部21を有するマスク22を介してエポキシ樹脂等の樹脂材料5aを所定の範囲に塗布、硬化させ、領域10a,10bに樹脂コート層を設けることにより形成することができる(図8参照)。この塗布工法では、付着防止部5の形成領域に対応した開口部21を有するメタルマスクやスクリーンマスク等のマスク22を用意し、このマスク22を付着防止部5の形成領域の周囲に配置して、樹脂材料5aをスキージ23で押圧する。これにより、マスクの開口部領域に樹脂材料5aを印刷することができる。
【0053】
その他、付着防止部5は、形成領域に応じた位置に、ディスペンサーやスプレー等により樹脂材料5aを塗布し、硬化させることにより形成してもよい。
【0054】
付着防止部5を構成する樹脂材料5aの硬化工程は、樹脂材料5aの硬化系に応じて適宜設ければよい。また、樹脂材料5aの硬化方法も、材料に応じて適宜設定することができ、例えばリフロー炉にて所定の時間加熱してもよく、ドライヤーによって加熱乾燥させてもよく、硬化光を照射してもよく、常温で所定の時間静置させることにより硬化させてもよい。
【0055】
また、付着防止部5は、PET等の剥離フィルム表面に樹脂材料5aをフィルム状に形成し、当該材料フィルムの材料面を形成領域に応じた位置に貼付し、加熱ボンダーなどによって剥離フィルム側から加熱押圧することにより樹脂材料5aを形成領域に転着、硬化させることにより形成してもよい。
【0056】
[キャップ部材]
絶縁基板2のヒューズエレメント3が搭載された表面2aがキャップ部材24によって覆われている。キャップ部材24は、保護素子1の内部を保護するとともに、ヒューズエレメント3が溶断する際に発生する溶融物の飛散を防止するものである。
【0057】
キャップ部材24の材料としては、各種エンジニアリングプラスチック、セラミックス等の絶縁性を有する材料を用いることができる。キャップ部材24は、絶縁基板2の表面2a上に設けられ、接着剤によって固着されている。また、キャップ部材24は、ヒューズエレメント3の溶融時に溶融導体3aが球状に膨張し、中間電極13や第1、第2の電極11,12上に凝集するのに十分な内部空間を有する。
【0058】
[保護素子の製造工程]
次いで、保護素子1の製造工程について説明する。保護素子1の製造工程は、絶縁基板2に、発熱体6、第1の電極11、第2の電極12、発熱体給電電極8、発熱体電極9、第1の引出電極17、第2の引出電極18、絶縁層7、中間電極13を形成する工程と、中間電極13と第1の電極11及び/又は第2の電極12との間に付着防止部5を形成する工程と、第1の電極11、中間電極13、及び第2の電極12の間にわたってヒューズエレメント3を接続する工程と、絶縁基板2のヒューズエレメント3が搭載された表面2aにキャップ部材24を接続して基板表面を被覆する工程を有する。
【0059】
上述したように、第1、第2の電極11,12、発熱体給電電極8、発熱体電極9、第1、第2の引出電極17,18は、絶縁基板2の表面2a上に、スクリーン印刷技術等を用いてAgやCu等の導電ペーストを印刷、焼成することによって形成される。
【0060】
また、発熱体6は、ニクロム、W、Mo、Ru等又はこれらを含む材料からなり、これらの合金あるいは組成物、化合物の粉状体を樹脂バインダ等と混合して、ペースト状にしたものを絶縁基板2上にスクリーン印刷技術等を用いてパターン形成して、焼成する等によって形成することができる。発熱体6、第1、第2の引出電極17,18上には、スクリーン印刷技術等を用いてガラス系のペースト等を塗布、焼成することにより絶縁層7が形成される。
【0061】
さらに、スクリーン印刷技術等を用いてAgやCu等の導電ペーストを印刷、焼成することによって、発熱体電極9から絶縁層7上にかけて中間電極13が形成される。
【0062】
図8は付着防止部5の製造工程の一例を示す断面図であり、図8(A)は付着防止部5を構成する樹脂材料5aを塗布する工程を示し、図8(B)は樹脂材料5aが塗布された状態を示し、図8(C)はヒューズエレメント3が搭載され、フラックス4が塗布された状態を示す。
【0063】
図8に示すように、絶縁基板2の表面2a上に、塗布領域に対応した開口部21を有するマスク22(メタルマスクやスクリーンマスク等)を介して付着防止部5を構成する樹脂材料5aを塗布する。この塗布工程では、図8(A)に示すように、スクリーン印刷工法においては、樹脂材料5aの印刷部周囲に、印刷部に対応した開口部21を有するマスク22を配置させ、マスク22表面上をスキージ23が摺動することにより、開口部21に応じた位置及び面積で樹脂材料5aを塗布することができる(図8(B))。樹脂材料5aの印刷後、硬化系に応じた硬化処理が施され、樹脂コート層からなる付着防止部5が形成される。
【0064】
次いで、第1、第2の電極11,12、及び中間電極13に、接続ハンダ等の導電接続材料が印刷され、ヒューズエレメント3が搭載された後、リフロー工程に付される。これにより、ヒューズエレメント3が接続される(図8(C))。その後、絶縁基板2のヒューズエレメント3が搭載された表面2aにキャップ部材24を接続して基板表面を被覆し、保護素子1を得る。
【0065】
[ヒューズエレメント]
次いで、ヒューズエレメント3の詳細な構成について説明する。ヒューズエレメント3は、第1及び第2の電極11,12間にわたって実装され、発熱体6の通電による発熱、又は定格を超える電流が通電することによって自己発熱(ジュール熱)により溶断し、第1の電極11と第2の電極12との間の電流経路を遮断するものである。
【0066】
ヒューズエレメント3は、発熱体6の通電による発熱、又は過電流状態によって溶融する導電性の材料であればよく、例えば、SnAgCu系のPbフリーハンダや、BiPbSn合金、BiPb合金、BiSn合金、SnPb合金、PbIn合金、ZnAl合金、InSn合金、PbAgSn合金等を用いることができる。
【0067】
また、ヒューズエレメント3は、高融点金属と、低融点金属とを含有する構造体であってもよい。例えば、図9に示すように、ヒューズエレメント3は、内層と外層とからなる積層構造体であり、内層として低融点金属層26、低融点金属層26に積層された外層として高融点金属層27を有する。ヒューズエレメント3は、第1、第2の電極11,12及び中間電極13上に接続ハンダ等の導電接続材料を介して接続される。
【0068】
低融点金属層26は、好ましくは、ハンダ又はSnを主成分とする金属であり、「Pbフリーハンダ」と一般的に呼ばれる材料である。低融点金属層26の融点は、必ずしもリフロー炉の温度よりも高い必要はなく、200℃程度で溶融してもよい。高融点金属層27は、低融点金属層26の表面に積層された金属層であり、例えば、Ag若しくはCu又はこれらのうちのいずれかを主成分とする金属であり、第1、第2の電極11,12及び中間電極13とヒューズエレメント3との接続や保護素子1の外部回路基板上への実装をリフローによって行う場合においても溶融しない高い融点を有する。
【0069】
このようなヒューズエレメント3は、低融点金属箔に、高融点金属層をメッキ技術を用いて成膜することによって形成することができ、あるいは、他の周知の積層技術、膜形成技術を用いて形成することもできる。ヒューズエレメント3は、低融点金属層26の全面が高融点金属層27によって被覆された構造としてもよく、相対向する一対の側面を除き被覆された構造であってもよい。また、ヒューズエレメント3は、高融点金属層27を内層とし、低融点金属層26を外層とした被覆構造としてもよい。さらに、下層を低融点金属層26とし上層を高融点金属層27とした2層構造としたり、低融点金属層と高融点金属層とが交互に積層された3層以上の多層構造としたりする等の積層構造や、外層の一部に開口部を設けて内層の一部を露出させる構造など、様々な構成によって形成することができる。
【0070】
ヒューズエレメント3は、低融点金属層26と高融点金属層27との被覆構造や積層構造を備えることによって、リフロー温度が低融点金属層26の溶融温度を超えた場合であっても、ヒューズエレメント3として形状を維持することができ、溶断するに至らない。したがって、第1、第2の電極11,12及び中間電極13とヒューズエレメント3との接続や保護素子1の外部回路基板上への実装を、リフローによって効率よく行うことができ、また、リフローによってもヒューズエレメント3の変形に伴って局所的に抵抗値が高く又は低くなる等により所定の温度で溶断しない、あるいは所定の温度未満で溶断する等の溶断特性の変動を防止することができる。
【0071】
また、ヒューズエレメント3は、所定の定格電流が流れている間は、自己発熱によっても溶断することがない。そして、定格よりも高い値の電流が流れると、自己発熱によって溶融し、第1、第2の電極11,12間の電流経路を遮断する。このとき、上述したように、第1の電極11と中間電極13との間の領域10a及び/又は第2の電極12と中間電極13との間の領域10bには、ヒューズエレメント3の溶融飛散物の付着が抑制された付着防止部5が設けられているため、ヒューズエレメント3の溶融導体3aの蒸気が飛散した場合にも、煤状物質14が付着防止部5上において連続することが無く、導電パスが形成されることを防止することができる。したがって、保護素子1は、電流遮断後の高い絶縁抵抗を維持できる。
【0072】
また、発熱体6が通電され発熱することにより溶融し、第1、第2の電極11,12間の電流経路を遮断する。付着防止部5は、ヒューズエレメント3の溶融導体3aに対してもはじく性質を有し、また、溶融導体3aは中間電極13や第1、第2の電極11,12上に凝集することから、中間電極13と第1、第2の電極11,12との間で溶融導体3aが連続することを防止することができる。したがって、保護素子1は、電流遮断後の高い絶縁抵抗を維持できる。
【0073】
また、ヒューズエレメント3は、発熱体6の発熱又は過電流による自己発熱の際に、先行して溶融した低融点金属層26が高融点金属層27を浸食(ハンダ食われ)することにより、高融点金属層27が溶融温度よりも低い温度で溶解する。したがって、ヒューズエレメント3は、低融点金属層26による高融点金属層27の浸食作用を利用して短時間で溶断することができる。また、ヒューズエレメント3の溶融導体3aは、中間電極13及び第1、第2の電極11,12の物理的な引き込み作用により分断されることから、速やかに、かつ確実に、第1、第2の電極11,12間の電流経路を遮断することができる(図10)。
【0074】
また、ヒューズエレメント3は、内層を低融点金属層26とし、外層を高融点金属層27とする被覆構造ないし積層構造とすることにより、リフロー温度が低融点金属層26の溶融温度を超えた場合であっても、リフロー温度よりも融点が高い高融点金属層27によりヒューズエレメント3の変形が抑えられる。したがって、接続ハンダ等の導電接続材料が溶融した場合にも、ヒューズエレメント3が付着防止部5上で移動し、さらには第1の電極11、第2の電極12又は中間電極13上から外れてしまう事態を防ぐことができる。
【0075】
また、ヒューズエレメント3は、低融点金属層26の体積を、高融点金属層27の体積よりも多く形成するようにしてもよい。ヒューズエレメント3は、過電流による自己発熱又は発熱体6の発熱によって加熱され、低融点金属が溶融することにより高融点金属を溶食し、これにより速やかに溶融、溶断することができる。したがって、ヒューズエレメント3は、低融点金属層26の体積を高融点金属層27の体積よりも多く形成することにより、この溶食作用を促進し、速やかに第1、第2の電極11,12間を遮断することができる。
【0076】
また、内層となる低融点金属層26に高融点金属層27が積層されて構成されたヒューズエレメント3においては、溶断温度を従来の高融点金属からなるチップヒューズ等よりも大幅に低減することができる。したがって、ヒューズエレメント3は、同一サイズのチップヒューズ等に比して、断面積を大きくでき電流定格を大幅に向上させることができる。また、同じ電流定格をもつ従来のチップヒューズよりも小型化、薄型化を図ることができ、速溶断性に優れる。
【0077】
また、ヒューズエレメント3は、保護素子1が組み込まれた電気系統に異常に高い電圧が瞬間的に印加されるサージへの耐性(耐パルス性)を向上することができる。すなわち、ヒューズエレメント3は、例えば100Aの電流が数msec流れたような場合にまで溶断してはならない。この点、極短時間に流れる大電流は導体の表層を流れることから(表皮効果)、ヒューズエレメント3は、外層として抵抗値の低いAgメッキ等の高融点金属層27が設けられているため、サージによって印加された電流を流しやすく、自己発熱による溶断を防止することができる。したがって、ヒューズエレメント3は、従来のハンダ合金からなるヒューズに比して、大幅にサージに対する耐性を向上させることができる。
【0078】
[回路構成例]
このような保護素子1は、図11に示すように、例えばリチウムイオン二次電池のバッテリパック40内の回路に組み込まれて用いられる。バッテリパック40は、例えば、合計4個のリチウムイオン二次電池のバッテリセル41a~41dからなるバッテリスタック45を有する。
【0079】
バッテリパック40は、バッテリスタック45と、バッテリスタック45の充放電を制御する充放電制御回路46と、バッテリスタック45の異常時に充放電経路を遮断する本発明が適用された保護素子1と、各バッテリセル41a~41dの電圧を検出する検出回路47と、検出回路47の検出結果に応じて保護素子1の動作を制御するスイッチ素子となる電流制御素子48とを備える。
【0080】
バッテリスタック45は、過充電及び過放電状態から保護するための制御を要するバッテリセル41a~41dが直列接続されたものであり、バッテリパック40の正極端子40a、負極端子40bを介して、着脱可能に充電装置42に接続され、充電装置42からの充電電圧が印加される。充電装置42により充電されたバッテリパック40は、正極端子40a、負極端子40bをバッテリで動作する電子機器に接続することによって、この電子機器を動作させることができる。
【0081】
充放電制御回路46は、バッテリスタック45と充電装置42との間の電流経路に直列接続された2つの電流制御素子43a、43bと、これらの電流制御素子43a、43bの動作を制御する制御部44とを備える。電流制御素子43a、43bは、たとえば電界効果トランジスタ(以下、FETという。)により構成され、制御部44によりゲート電圧を制御することによって、バッテリスタック45の電流経路の充電方向及び/又は放電方向への導通と遮断とを制御する。制御部44は、検出回路47による検出結果に応じて、バッテリスタック45が過放電又は過充電であるとき、電流経路を遮断するように、電流制御素子43a、43bの動作を制御する。
【0082】
保護素子1は、例えば、バッテリスタック45と充放電制御回路46との間の充放電電流経路上に接続され、その動作が電流制御素子48によって制御される。
【0083】
検出回路47は、各バッテリセル41a~41dと接続され、各バッテリセル41a~41dの電圧値を検出して、各電圧値を充放電制御回路46の制御部44に供給する。また、検出回路47は、いずれか1つのバッテリセル41a~41dが過充電電圧又は過放電電圧になったときに電流制御素子48を制御する制御信号を出力する。
【0084】
電流制御素子48は、たとえばFETにより構成され、検出回路47から出力される検出信号によって、バッテリセル41a~41dの電圧値が所定の過放電又は過充電状態を超える電圧になったとき、保護素子1を動作させて、バッテリスタック45の充放電電流経路を電流制御素子43a、43bのスイッチ動作によらず遮断するように制御する。
【0085】
以上のような構成からなるバッテリパック40に用いられる、本発明が適用された保護素子1は、図12に示すような回路構成を有する。すなわち、保護素子1は、第1の電極11がバッテリスタック45側と接続され、第2の電極12が正極端子40a側と接続され、これによりヒューズエレメント3がバッテリスタック45の充放電経路上に直列に接続される。また、保護素子1は、発熱体6が発熱体給電電極8及び第3の外部接続電極19を介して電流制御素子48と接続されるとともに、発熱体6がバッテリスタック45と接続される。これにより、発熱体6は、一端が発熱体電極9及び中間電極13を介してヒューズエレメント3及びバッテリスタック45の一端と接続され、他端が第3の外部接続電極19を介して電流制御素子48及びバッテリスタック45の他端と接続される。これにより、電流制御素子48によって通電が制御される発熱体6への給電経路が形成される。
【0086】
[保護素子の動作]
発熱体6は、保護素子1が外部回路基板に実装されることにより、第3の外部接続電極19を介して外部回路に形成された電流制御素子48等と接続され、平常時においては通電及び発熱が規制されている。そして、検出回路47がバッテリセル41a~41dのいずれかの異常電圧を検出すると、電流制御素子48へ遮断信号を出力する。すると、電流制御素子48は、発熱体6に通電するよう電流を制御する。発熱体6は、バッテリスタック45から電流が流れることにより発熱を開始する。
【0087】
発熱体6の熱は、発熱体電極9及び中間電極13を経てヒューズエレメント3に伝達され、また、絶縁層7から中間電極13を経てヒューズエレメント3に伝わり、ヒューズエレメント3を溶融させる。ヒューズエレメント3は、溶融導体3aが中間電極13上に凝集し、第1の電極11と第2の電極12との間で溶断される(図10)。これにより、バッテリパック40の充放電経路を遮断することができる。
【0088】
また、保護素子1は、ヒューズエレメント3に定格を超える過電流が通電された場合にも、ヒューズエレメント3が自己発熱により溶融し、第1の電極11と第2の電極12との間で溶断される。これにより、バッテリパック40の充放電経路を遮断することができる。
【0089】
また、保護素子1は、ヒューズエレメント3を高融点金属と低融点金属とを含有させて形成することにより、高融点金属の溶融前に低融点金属が溶融し、溶融した低融点金属による高融点金属の溶食作用を利用して短時間でヒューズエレメント3を溶解させることができる。
【0090】
ヒューズエレメント3が溶断することにより、バッテリスタック45の充放電経路が第1の電極11と第2の電極12の間で遮断する。また、発熱体6は、ヒューズエレメント3が溶断することにより、自身への給電経路も遮断されることから発熱が停止する。
【0091】
本発明に係る保護素子1は、リチウムイオン二次電池のバッテリパックに用いる場合に限らず、電気信号による電流経路の遮断を必要とする様々な用途にももちろん応用可能である。
【0092】
[変形例1]
次いで、本技術が適用された保護素子の変形例について説明する。なお、以下の説明において、上述した保護素子1と同じ構成は同じ符号を付してその詳細を省略することがある。図13は、変形例に係る保護素子50を示す図であり、(A)は、キャップ部材を省略して示す平面図であり、(B)は(A)に示すA-A’断面図であり、(C)は(A)に示すB-B’断面図であり、(D)は底面図である。
【0093】
図13(A)~(D)に示すように、変形例に係る保護素子50は、絶縁基板2の表面2aと反対側の裏面2bに、発熱体6、第1,第2の引出電極17,18及びこれらを被覆する絶縁層7が形成されている。また、絶縁基板2の裏面2bには、発熱体給電電極8、裏面側発熱体電極9b、第1、第2の外部接続電極15,16が形成されている。
【0094】
また、絶縁基板2の表面2aには、第1、第2の電極11,12、中間電極13及び付着防止部5が形成され、これら各電極11,12,13上にヒューズエレメント3が実装されている。また、絶縁基板2の表面2aには、表面側発熱体電極9aが形成され、中間電極13と接続されている。
【0095】
絶縁基板2の表面2aに設けられた第1、第2の電極11,12、及び中間電極13や表面側発熱体電極9a、絶縁基板2の裏面2bに設けられた発熱体6、第1,第2の引出電極17,18、発熱体給電電極8、裏面側発熱体電極9b、及び第1、第2の外部接続電極15,16は、上述した保護素子1と同様の工程によって形成することができる。
【0096】
表面側発熱体電極9aと裏面側発熱体電極9bは、絶縁基板2の側面に形成されたキャスタレーションや絶縁基板2を貫通する導電スルーホール等により電気的に接続されている。すなわち、中間電極13は、表面側発熱体電極9aと裏面側発熱体電極9bを介して発熱体6と電気的及び熱的に接続される。これにより、保護素子50は、発熱体6が絶縁基板2を介して中間電極13を加熱するとともに、熱伝導性に優れる表面側発熱体電極9aと裏面側発熱体電極9bを介して発熱体6の熱が中間電極13に伝わり、ヒューズエレメント3を加熱、溶断することができる。
【0097】
なお、保護素子50では、発熱体給電電極8が外部回路基板の電極と接続される外部接続電極ともなるため、保護素子1に設けた第3の外部接続電極19は設けられていない。
【0098】
保護素子50は、保護素子1と同様に、領域10a,10bに付着防止部5を形成することによって、電流遮断時においても、第1の電極11と中間電極13との間や第2の電極12と中間電極13との間に、煤状物質14が連続して付着することによる導電パスの形成を防止することができる。
【0099】
[変形例2]
また、本技術が適用された保護素子は、発熱体6を備えていない過電流遮断ヒューズとしてもよい。この場合も、保護素子1,50と同様に、領域10a,10bに付着防止部5を形成することによって、電流遮断時において、第1の電極11と中間電極13との間や第2の電極12と中間電極13との間に、煤状物質14が連続して付着することによる導電パスの形成を防止することができる。
【実施例0100】
[第1の実施例]
次いで、本技術の第1の実施例について説明する。第1の実施例では、実施例として付着防止部を形成した保護素子のサンプルと、比較例として付着防止部を形成しない保護素子のサンプルを作製し、第1の電極~第2の電極間に所定の電力を印加してヒューズエレメントの電流遮断試験を行った。そして、電流遮断後に第1の電極~第2の電極間の絶縁抵抗(Ω)を測定、評価した。
【0101】
実施例に係る保護素子サンプルは、セラミック基板上に、Agパターンにより、第1、第2の電極11,12、発熱体給電電極8、発熱体電極9、第1、第2の引出電極17,18、発熱体6を形成し、絶縁層7としてPBフリーガラスを積層させている。
【0102】
実施例に係る保護素子サンプルは、図7に示すように、第1の電極11と中間電極13との間の領域10a及び第2の電極12と中間電極13との間の領域10bに隙間なく樹脂コート層からなる付着防止部5を形成した。樹脂コート層は、メタルマスク22を用いたスクリーン印刷により樹脂材料5a(熱硬化型エポキシ系接着剤:ナミックス社製 AH8455シリーズ)を印刷し、加熱硬化させることにより形成した。硬化条件は100℃、1.5時間とした。
【0103】
メタルマスク22は、厚さは0.06mmのステンレス板を用いた。また、図14に示すように、開口部21は第1の電極11と中間電極13との間の領域10a及び第2の電極12と中間電極13との間の領域10bに応じた幅(0.55mm)かつ少なくとも第1の電極11と中間電極13との間及び第2の電極12と中間電極13との間の全領域配置をカバーする長さ(8.2mm)を有する。また、開口部21の間隔は中間電極13の幅と同じ幅(0.9mm)とした。
【0104】
ヒューズエレメント3として、低融点金属層が高融点金属層に被覆された被覆構造のヒューズエレメントを用いた。付着防止部5の形成後に、第1の電極11と中間電極13の間、第2の電極12と中間電極13の間にわたって、それぞれ2枚のヒューズエレメント3(2.2×1.5mm、0.08mm厚)を並べて搭載した(図15参照)。各電極11~13とヒューズエレメント3とは、ソルダーペースト(千住金属工業社製 M705-GRN360-K2VZH)を用いて接続した。
【0105】
その後、ディスペンサーを用いて、ヒューズエレメント3上にフラックスを塗布し、キャップ部材24をセラミック基板に接着することにより、保護素子のサンプルを得た。
【0106】
比較例に係る保護素子サンプルは、付着防止部5を形成しなかった点を除き、実施例に係る保護素子サンプルと同じものを用いた。
【0107】
実施例及び比較例に係る保護素子に印加する電力は、160A-100V、240A-100Vとした。各印加電力に対する実施例及び比較例のサンプル数は6とした。電流遮断試験及び、電流遮断後の第1の電極~第2の電極間の絶縁抵抗(Ω)の測定に使用した器具は以下の通りである。
電源:高砂製作所,HX0150-300
電子負荷:計測技研,34230
絶縁抵抗計:日置電機,DSM-8104
ケーブル:AWG6
【0108】
電流遮断後の絶縁抵抗値が1.0×10Ω以下の場合は、測定不能とした。測定結果を表1に示す。なお、表1中、ヒューズ抵抗(mΩ)は、溶断前のサンプルにおける第1、第2の電極11,12間の抵抗値である。
【0109】
【表1】
【0110】
表1に示すように、付着防止部無しの比較例では、1つのサンプルを除き、絶縁抵抗が低く測定不能だったが、付着防止部5を設けた実施例では、全てのサンプルで測定できた(1.0×10Ω超)。これより、付着防止部5を設けたことにより、絶縁抵抗が上がっていることがわかる。
【0111】
図16は、付着防止部5を設けた実施例サンプルに対して、240A-100Vの電力を印加して電流遮断させた際における電流-時間特性を示すグラフであり、(A)は電力印加前から電流遮断後まで、(B)は電流遮断時付近を拡大して示す。
【0112】
図17は、付着防止部5を設けていない比較例サンプルに対して、240A-100Vの電力を印加して電流遮断させた際における電流-時間特性を示すグラフであり、(A)は電力印加前から電流遮断後まで、(B)は電流遮断時付近を拡大して示す。
【0113】
付着防止部を設けた実施例では、電流波形が大きく振れた後、直ちに直線的にギザギザと落ちる。比較例では、遮断手前で電流波形が大きく振れる部分があり(矢印)、少し後に電流が曲線的に落ちる。比較例では、電流波形が大きく振れてから(矢印)、最終的に電流が落ちるまでの時間が長い。
【0114】
実施例及び比較例とも、電流遮断時の爆発により、溶けたヒューズエレメントやフラックス、電極の一部などの混合物が飛散してセラミック基板表面に黒い煤状物質が付着する。比較例では、絶縁抵抗が測定された比較例1を除き、全てのサンプルで煤状物質が濃く付着した。これに対して、実施例では、煤状物質は薄く付着したのみであった。絶縁抵抗が低いサンプルほど黒色が濃くなり、電流遮断時の爆発による損傷の度合いも大きかった。
【0115】
比較例では、ヒューズエレメントはもちろん第1、第2の電極、中間電極、絶縁層が吹き飛んでいるように見える。実施例でも、第1、第2の電極や中間電極が一部損傷している部分はあるが,樹脂コート層(付着防止部)はほぼ残っていた。また、実施例では、樹脂コート層の表面から黒い煤状物質が剥がれているように見える部分もあった。
【0116】
表1、図16図17に示す結果及び溶断後の実施例と比較例の各サンプルの観察結果から、実施例と比較例の各サンプルにおける電流遮断時の挙動は以下のように考えられる。
【0117】
付着防止部が設けられていない比較例では、電流遮断時の爆発によりヒューズエレメントの溶融導体などが飛散して電極やガラスの上に煤状物質が付着し、別の導電経路が形成される。この導電経路にも電流が流れるが、ヒューズエレメントよりも抵抗が高いため、印加される電力も高くなる。高い電力により導電経路が発熱され、電極やガラスも溶けて巻きこまれながら爆発し、さらに別の導電経路が再度でき、これにより更なる爆発を誘発するサイクルを繰り返す。この結果、煤状物質が基板表面の全面に濃く付着し、電流遮断後の絶縁抵抗値の低下をもたらしたと考えられる。
【0118】
付着防止部が設けられた実施例では、樹脂コート層において、電流遮断時に発生する煤状物質の付着が抑制され、別の導電経路が発生しにくくされている。このため、別の導電経路ができることによる更なる爆発と導電経路の生成のサイクルが少なくなり、煤状物質の基板表面への付着や、電極の損傷度合いも少なく、電流遮断後において高い絶縁抵抗を奏するものとなったと考えられる。
【0119】
[第2の実施例]
次いで、本技術の第2の実施例について説明する。第2の実施例では、付着防止部5の形成範囲を変えて、溶断前における各サンプルのヒューズ抵抗を測定、評価した。第2の実施例に係る保護素子サンプル及びその製造工程は、上述した第1の実施例に係る実施例サンプルと同様の構成を有するため詳細は省略する。
【0120】
[実施例13]
実施例13として、付着防止部5が第1、第2の電極11,12及び中間電極13のいずれにも接しない保護素子サンプルを形成した(図4参照)。
【0121】
[実施例14]
実施例14として、付着防止部5が第1、第2の電極11,12と重畳する保護素子サンプルを形成した(図6(B)参照)。
【0122】
[実施例15]
実施例15として、付着防止部5が第1、第2の電極11,12及び中間電極13に重畳する保護素子サンプルを形成した。
【0123】
これら実施例13~15に係る保護素子サンプルに対して、電流1Aを通電して、第2の電極11,12間の電圧を計測し、これらからヒューズ抵抗値を算出した。
【0124】
【表2】
【0125】
表2に示すように、付着防止部5を第1、第2の電極11,12及び中間電極13のいずれにも接しないように設けた実施例13が最もヒューズ抵抗値が低くなった。また、実用上問題はないが、付着防止部5を第1、第2の電極11,12及び中間電極13のいずれにも重畳するように設けた実施例15が最もヒューズ抵抗値が高くなった。
【0126】
表2及び実施例13~15に係るサンプルの観察結果から、以下のように考察される。第1、第2の電極11,12や中間電極13に、樹脂材料5aが重なるとその部分がヒューズエレメントと接続できなくなる。そのため、抵抗の低い電極が一部、通電経路から外れてしまい、その結果ヒューズ抵抗が高くなったと考えられる。したがって、ヒューズ抵抗値の低抵抗化を図るためには、第1、第2の電極11,12や中間電極13と付着防止部5を構成する材料は重畳させないことが好ましいといえる。
【符号の説明】
【0127】
1 保護素子、2 絶縁基板、2a 表面、2b 裏面、3 ヒューズエレメント、4 フラックス、5 付着防止部、6 発熱体、7 絶縁層、8 発熱体給電電極、9 発熱体電極、10 領域、11 第1の電極、12 第2の電極、13 中間電極、14 煤状物質、15 第1の外部接続電極、16 第2の外部接続電極、17 第1の引出電極、18 第2の引出電極、19 第3の外部接続電極、21 開口部、22 マスク、23 スキージ、24 キャップ部材、26 低融点金属層、27 高融点金属層、40 バッテリパック、41 バッテリセル、42 充電装置、43 電流制御素子、44 制御部、45 バッテリスタック、46 充放電制御回路、47 検出回路、48 電流制御素子、50 保護素子
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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図10
図11
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