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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025017132
(43)【公開日】2025-02-05
(54)【発明の名称】モータマウント用の筒型防振装置
(51)【国際特許分類】
   F16F 1/387 20060101AFI20250129BHJP
   B60K 5/12 20060101ALI20250129BHJP
【FI】
F16F1/387 F
B60K5/12 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023120034
(22)【出願日】2023-07-24
(71)【出願人】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001966
【氏名又は名称】弁理士法人笠井中根国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100103252
【弁理士】
【氏名又は名称】笠井 美孝
(74)【代理人】
【識別番号】100147717
【弁理士】
【氏名又は名称】中根 美枝
(72)【発明者】
【氏名】松居 宏渉
【テーマコード(参考)】
3D235
3J059
【Fターム(参考)】
3D235AA01
3D235BB23
3D235BB25
3D235CC01
3D235EE04
3D235EE09
3D235EE46
3D235EE47
3J059AA01
3J059AA04
3J059AB11
3J059BA42
3J059BA75
3J059BC06
3J059BD01
3J059DA14
3J059GA20
(57)【要約】
【課題】ゴム脚のサージングによる防振性能の低下を抑えつつ、耐久性を確保し、更に特性チューニングの自由度を大きく得ることができる、新規な構造のモータマウント用の筒型防振装置を提供する。
【解決手段】インナ軸部材12とアウタ筒部材14とがそれらの対向面間を延びる2つのゴム脚16,16によって連結されたモータマウント用の筒型防振装置10であって、2つのゴム脚16,16は、何れも主たる荷重入力時に圧縮側となるインナ軸部材12の下側に配置されて、左右方向で相互に離れた位置で上下方向に延びており、2つのゴム脚16,16が上下方向に連続してインナ軸部材12とアウタ筒部材14との各対向面間を直接に連結する連結ゴム部26,26を備えており、2つのゴム脚16,16には、軸方向に突出するゴム突起28がそれぞれ設けられており、ゴム突起28が連結ゴム部26の左右外端よりも左右内側へ収まる状態で配されている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インナ軸部材とアウタ筒部材とが該インナ軸部材と該アウタ筒部材との対向面間を延びる2つのゴム脚によって連結されたモータマウント用の筒型防振装置であって、
前記2つのゴム脚は、何れも主たる荷重入力時に圧縮側となる該インナ軸部材の下側に配置されて、左右方向で相互に離れた位置で上下方向に延びており、
該2つのゴム脚が上下方向に連続して該インナ軸部材と該アウタ筒部材との各対向面間を直接に連結する連結ゴム部を備えており、
該2つのゴム脚には、軸方向に突出するゴム突起がそれぞれ設けられており、
該ゴム突起が該連結ゴム部の左右外端よりも左右内側へ収まる状態で配されているモータマウント用の筒型防振装置。
【請求項2】
前記ゴム突起の90%以上が前記連結ゴム部上に配置されることで該ゴム突起が実質的に該連結ゴム部上だけに設けられている請求項1に記載のモータマウント用の筒型防振装置。
【請求項3】
前記インナ軸部材は左右両側へ突出する一対のゴム固着部を備えており、
それら一対のゴム固着部に対して前記2つのゴム脚が固着されており、
該インナ軸部材における該一対のゴム固着部の間には、該2つのゴム脚の間へ下向きに突出するストッパ突部が設けられている請求項1又は2に記載のモータマウント用の筒型防振装置。
【請求項4】
前記2つのゴム脚の間には、前記インナ軸部材と前記アウタ筒部材との間で上下方向に突出するストッパゴムが設けられている請求項1又は2に記載のモータマウント用の筒型防振装置。
【請求項5】
前記連結ゴム部の幅寸法が前記ゴム脚の幅寸法の20%以上とされることによって、該ゴム脚において下向きの入力に対する圧縮ばね成分がせん断ばね成分よりも大きくされている請求項1又は2に記載のモータマウント用の筒型防振装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気自動車(BEV)やハイブリッドカー等の電動化車両において電動モータを車両ボデーに防振連結するモータマウントとして用いられるモータマウント用の筒型防振装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
昨今、車両の電動化に伴って、電動モータを車両ボデーに防振連結するモータマウントの開発が進められている。モータマウントとしては、例えば、インナ軸部材とアウタ筒部材とが径方向に延びるゴム脚で相互に連結された筒型防振装置が採用される。モータマウント用の筒型防振装置としては、インナ軸部材の上下両側に各2本のゴム脚を有する4本脚構造が採用されるが、例えば、特開2008-267443号公報(特許文献1)のように、内筒(インナ軸部材)の下方に2本の弾性脚(ゴム脚)を設けた構造も、モータマウントへの適用が検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-267443号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特に内燃機関に比して振動が小さい電動モータを防振支持するモータマウントでは、ゴム脚のサージングに起因する高周波域での振動状態の悪化が問題になり易い。そこで、特許文献1では、弾性脚に対して軸方向の突出するマス突起が設けられており、マス突起の共振によって弾性脚のサージングが抑制されることが開示されている。
【0005】
しかし、特許文献1の筒型防振装置は、弾性脚の内筒への固着面と外筒(アウタ筒部材)への固着面とが、主たる振動入力方向である上下方向の投影において相互に離れており、振動入力時に弾性脚が広範囲でせん断変形を生じることから、弾性脚のばね特性のチューニング自由度等が制限されてしまうおそれがあった。また、せん断変形が支配的となって弾性脚の変形量が大きくなり易いことに加えて、弾性脚の変形時にマス突起の周辺に歪が集中し易く、耐久性を確保しようとすると、特許文献1で特定されているように、マス突起の形成位置が大幅に制限されてしまう。
【0006】
本発明の解決課題は、ゴム脚のサージングによる防振性能の低下を抑制しながら、耐久性を確保し、更に特性チューニングの自由度を大きく得ることができる、新規な構造のモータマウント用の筒型防振装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下、本発明を把握するための好ましい態様について記載するが、以下に記載の各態様は、例示的に記載したものであって、適宜に互いに組み合わせて採用され得るだけでなく、各態様に記載の複数の構成要素についても、可能な限り独立して認識及び採用することができ、適宜に別の態様に記載の何れかの構成要素と組み合わせて採用することもできる。それによって、本発明では、以下に記載の態様に限定されることなく、種々の別態様が実現され得る。
【0008】
第一の態様は、インナ軸部材とアウタ筒部材とが該インナ軸部材と該アウタ筒部材との対向面間を延びる2つのゴム脚によって連結されたモータマウント用の筒型防振装置であって、前記2つのゴム脚は、何れも主たる荷重入力時に圧縮側となる該インナ軸部材の下側に配置されて、左右方向で相互に離れた位置で上下方向に延びており、該2つのゴム脚が上下方向に連続して該インナ軸部材と該アウタ筒部材との各対向面間を直接に連結する連結ゴム部を備えており、該2つのゴム脚には、軸方向に突出するゴム突起がそれぞれ設けられており、該ゴム突起が該連結ゴム部の左右外端よりも左右内側へ収まる状態で配されているものである。
【0009】
本態様に従う構造とされたモータマウント用の筒型防振装置によれば、2つのゴム脚がインナ軸部材の下側だけにあることから、インナ軸部材の上下両側にゴム脚がある場合に比して、2つのゴム脚の自由長やボリュームを確保し易く、例えば耐久性の向上が図られる。また、2つのゴム脚には、上下方向に連続してインナ軸部材とアウタ筒部材との各対向面間を直接に連結する連結ゴム部が設けられており、主たる荷重の入力時に圧縮ばね成分が有利に確保されることから、ばね特性をより大きなチューニング自由度で設定することができ、連結ゴム部の変形量の抑制による更なる耐久性向上等も図られる。
【0010】
各ゴム脚にゴム突起を設けることにより、ゴム突起のマスダンパ作用等によって、ゴム脚の曲げ共振(サージング)による振動状態の悪化を防ぐことができる。ゴム突起はそれぞれ軸方向に突出していることから、例えば、振動入力時のゴム脚の変形に際して、ゴム突起がアウタ筒部材等の他部材に干渉し難い。
【0011】
また、ゴム突起は、インナ軸部材の下方に配されたゴム脚の圧縮領域(インナ軸部材とアウタ筒部材との上下方向の対向面間を直接つなぐことで、上下方向の荷重入力時に圧縮荷重が直接的乃至は支配的に及ぼされる領域)である連結ゴム部において、当該連結ゴム部の左右外端よりも左右内側へ収まる状態で配されている。それゆえ、ゴム突起が連結ゴム部の左右外端よりも左右外側のせん断変形領域(インナ軸部材とアウタ筒部材との上下方向の対向面間を直接つながないために、上下方向の荷重入力時にせん断変形が大きくなる領域)に設けられる場合に比して、振動入力によるゴム脚の弾性変形時にゴム突起の周辺における歪が低減されて、耐久性の向上が図られる。
【0012】
第二の態様は、第一の態様に記載されたモータマウント用の筒型防振装置において、前記ゴム突起の90%以上が前記連結ゴム部上に配置されることで該ゴム突起が実質的に該連結ゴム部上だけに設けられているものである。
【0013】
本態様に従う構造とされたモータマウント用の筒型防振装置によれば、実質的にゴム突起がゴム脚の圧縮領域である連結ゴム部上だけに設けられていることから、ゴム脚の変形に際して、ゴム突起の周辺における歪がより効果的に低減される。
【0014】
第三の態様は、第一又は第二の態様に記載されたモータマウント用の筒型防振装置において、前記インナ軸部材は左右両側へ突出する一対のゴム固着部を備えており、それら一対のゴム固着部に対して前記2つのゴム脚が固着されており、該インナ軸部材における該一対のゴム固着部の間には、該2つのゴム脚の間へ下向きに突出するストッパ突部が設けられているものである。
【0015】
本態様に従う構造とされたモータマウント用の筒型防振装置によれば、インナ軸部材が左右両側へ突出する一対のゴム固着部を備えていることから、2つのゴム脚をインナ軸部材の下側に配置し易くなると共に、連結ゴム部の断面積を確保して圧縮ばね成分を大きく得ることができる。
【0016】
また、左右両側へ突出する一対のゴム固着部に2つのゴム脚の各一方が固着されていることにより、2つのゴム脚の左右間にスペースが確保されており、当該スペースを利用してインナ軸部材には、下方へ突出するストッパ突部が設けられている。これにより、ストッパ突部とアウタ筒部材側との当接によって、インナ軸部材とアウタ筒部材の上下方向での相対変位量を制限するストッパ機構を構成することができる。
【0017】
第四の態様は、第一~第三の何れか1つの態様に記載されたモータマウント用の筒型防振装置において、前記2つのゴム脚の間には、前記インナ軸部材と前記アウタ筒部材との間で上下方向に突出するストッパゴムが設けられているものである。
【0018】
本態様に従う構造とされたモータマウント用の筒型防振装置によれば、ストッパゴムを介したインナ軸部材とアウタ筒部材との間接的な当接によってインナ軸部材のアウタ筒部材に対する下方への相対変位量を制限するストッパ機構を、2つのゴム脚間のスペースを利用して設けることができる。
【0019】
第五の態様は、第一~第四の何れか1つの態様に記載されたモータマウント用の筒型防振装置において、前記連結ゴム部の幅寸法が前記ゴム脚の幅寸法の20%以上とされることによって、該ゴム脚において下向きの入力に対する圧縮ばね成分がせん断ばね成分よりも大きくされているものである。
【0020】
本態様に従う構造とされたモータマウント用の筒型防振装置によれば、ゴム突起が設けられたゴム脚において圧縮ばね成分が支配的となることから、せん断ばね成分が支配的となるゴム脚にゴム突起を設ける場合に比して、ゴム突起の周辺における歪が低減される。
【0021】
また、連結ゴム部の幅寸法がゴム脚の幅寸法に対して十分に大きな割合で設定されていることによって、ゴム脚の軸方向端面におけるゴム突起の配置を大きな自由度で設定することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、モータマウント用の筒型防振装置において、ゴム脚のサージングによる防振性能の低下を抑制しながら、耐久性を確保し、更に特性チューニングの自由度を大きく得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の第一の実施形態としてのモータマウントを示す斜視図
図2図1に示すモータマウントの正面図
図3図2のIII-III断面図
図4図1に示すモータマウントのばね特性を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0025】
図1図2には、本発明に係るモータマウント用の筒型防振装置の第一の実施形態として、車両用のモータマウント10が示されている。モータマウント10は、インナ軸部材12とアウタ筒部材14が2つのゴム脚16,16によって相互に連結された構造を有している。以下の説明において、原則として、上下方向とは図2中の上下方向を、左右方向とは図2中の左右方向を、前後方向とは図2中の軸方向である紙面直交方向を、それぞれ言う。なお、以下の説明における上下方向は、モータマウント10に対する主たる荷重の入力方向であって、後述する車両装着状態での車両上下方向と必ずしも一致しない。同様に、以下の説明における左右方向及び前後方向は、車両の左右方向及び前後方向と必ずしも一致しない。
【0026】
インナ軸部材12は、例えば、鉄やアルミニウム合金等の金属、繊維補強された合成樹脂などで形成された高剛性の部材とされている。インナ軸部材12は、全体として柱状とされており、略一定の断面形状で直線的に延びていることから、例えば押出加工によって簡単に製造することができる。インナ軸部材12の中央部分には、軸方向に貫通する取付用孔18が形成されている。
【0027】
本実施形態のインナ軸部材12は、左右両側へ突出するゴム固着部20,20を備えている。ゴム固着部20は、上面が上下方向と略直交して広がっていると共に、下面が左右外方へ向けて上傾しており、突出先端へ向けて上下方向で幅狭とされている。ゴム固着部20は、突出先端面が軸方向視で湾曲した形状とされており、上下両面と滑らかに連続している。なお、左右両側のゴム固着部20,20は、左右直交平面に対する面対称形状とされている。本実施形態のゴム固着部20は、インナ軸部材12の軸方向全長に亘って連続して設けられているが、例えば、インナ軸部材12の他の部位よりも軸方向長さが短くされていてもよい。
【0028】
インナ軸部材12は、下方へ突出するストッパ突部22を備えている。ストッパ突部22は、インナ軸部材12の左右中央部分において、略一定の左右幅寸法で下方へ向けて突出している。ストッパ突部22の突出先端面は、平面等であってもよいが、本実施形態では、軸方向視で下方へ向けて凸となる湾曲形状とされている。本実施形態のストッパ突部22は、インナ軸部材12の軸方向全長に亘って連続して設けられているが、例えば、インナ軸部材12の他の部位よりも軸方向長さが短くされていてもよい。
【0029】
アウタ筒部材14は、薄肉大径の略円筒形状とされており、軸方向一方の端部には外周へ突出するフランジ状部24が一体形成されている。なお、アウタ筒部材14のフランジ状部24は、例えば、後述する前側緩衝ゴム44によるストッパ機構が不要の場合等には、省略することができる。
【0030】
そして、インナ軸部材12がアウタ筒部材14の内周へ挿入されており、それらインナ軸部材12とアウタ筒部材14の間には、2つのゴム脚16,16が設けられている。2つのゴム脚16,16は、インナ軸部材12とアウタ筒部材14との径方向対向面間を略上下方向に延びており、上端面がインナ軸部材12のゴム固着部20,20の下面に加硫接着されていると共に、下端面がアウタ筒部材14の内周面に加硫接着されている。本実施形態において、ゴム脚16は、ゴム固着部20の下面だけでなく、ストッパ突部22の上部の左右側面にも加硫接着されている。
【0031】
2つのゴム脚16,16は、何れもインナ軸部材12の下側に配置されており、後述する車両装着状態で主たる荷重の入力によってインナ軸部材12がアウタ筒部材14に対して下方へ相対変位する際に、圧縮されるようになっている。また、2つのゴム脚16,16は、左右方向で相互に離れて配置されており、左右方向の相互に離れた位置でそれぞれ上下方向に延びている。2つのゴム脚16,16の間には、インナ軸部材12のストッパ突部22が突出している。2つのゴム脚16,16は、上端がアウタ筒部材14の上下中央よりも上側に位置しており、自由長が大きくされている。
【0032】
ゴム脚16は、図2に一点鎖線で示す上下延伸方向の弾性主軸Eが下方へ向けて左右外方へ傾斜しており、2つのゴム脚16,16が軸方向視においてハの字状をなしている。特に本実施形態では、各ゴム脚16の左右内面と左右外面との何れにおいても、インナ軸部材12側の端部よりもアウタ筒部材14側の端部の方が、上下方向に延びるマウント中心線に対して左右方向で外方に位置している。ゴム脚16は、図1図3に示すように、インナ軸部材12及びアウタ筒部材14に対して軸方向の幅寸法が小さくされており、インナ軸部材12及びアウタ筒部材14の軸方向の中間部分に設けられている。
【0033】
各ゴム脚16は、インナ軸部材12とアウタ筒部材14との対向面間を直接的に連結する連結ゴム部26を備えている。連結ゴム部26は、インナ軸部材12のゴム固着部20とアウタ筒部材14との上下方向の対向面間に位置しており、インナ軸部材12のゴム固着部20とアウタ筒部材14との間で上下方向に連続している。
【0034】
連結ゴム部26の左右幅寸法w1は、ゴム脚16の左右幅寸法W1に対して、好適には20%以上とされており、より好適には40%以上とされている。更に、連結ゴム部26の左右幅寸法w1は、好適には、ゴム脚16の中間部分の左右幅寸法W1´に対して25%以上とされている。また、ゴム脚16の弾性主軸Eと直交する方向でのゴム脚16の幅寸法W2に対して、同方向での連結ゴム部26の幅寸法w2が、好適には20%以上とされており、より好適には40%以上とされている。このように、ゴム脚16における連結ゴム部26の割合が十分に大きく確保されていることによって、ゴム脚16は、インナ軸部材12がアウタ筒部材14に対して下方へ相対変位する下向きの主荷重入力時に、圧縮ばね成分がせん断ばね成分よりも大きくなるようにされている。なお、連結ゴム部26は、図2において二点鎖線で囲まれて図示されている。また、ゴム脚16の左右幅寸法W1は、ゴム脚16のインナ軸部材12おいてアウタ筒部材14への固着端部におけるフィレットサーフェス(フィレットアール)を外れた部分の左右幅寸法を言う。
【0035】
各ゴム脚16には、図1図3に示すように、軸方向に突出するゴム突起28が一体形成されている。ゴム突起28は、略円柱形状とされており、ゴム脚16の軸方向端面の中央部分に突出している。ゴム突起28は、ゴム脚16の延伸方向に延びる弾性主軸E上に配置されている。
【0036】
ゴム突起28は、ゴム脚16における連結ゴム部26の左右外端よりも左右方向の内側に収まる位置に配置されている。要するに、ゴム突起28の左右外端は、連結ゴム部26の左右外端に対して左右外側へ突出することなく、左右方向の同じ位置かより内側に位置している。ゴム突起28は、軸方向の投影面積の60%以上が連結ゴム部26上に位置していることが望ましい。より好適には、ゴム突起28は、軸方向の投影面積の90%以上が連結ゴム部26上に配置されており、実質的に連結ゴム部26上だけに設けられている。本実施形態では、ゴム突起28が連結ゴム部26の左右両端の間に収まっており、全体が連結ゴム部26上に位置している。本実施形態では、ゴム突起28の左右幅寸法(直径r)が、連結ゴム部26の左右幅寸法w1に対して、略同じか僅かに小さくされている。ゴム突起28は、図3に示すように、ゴム脚16の軸方向両側にそれぞれ突出して設けられている。
【0037】
インナ軸部材12の外周面は、図1図3に示すように、ゴム脚16,16と一体形成されたインナゴム層30で覆われている。インナゴム層30は、インナ軸部材12の下面及び左右両側面を覆う部分が略一定の厚さ寸法とされていると共に、上面を覆う部分が厚肉の内側緩衝ゴム32とされている。尤も、インナゴム層30は、全体が略一定の厚さ寸法であってもよいし、複数箇所において厚さ寸法が異なっていてもよい。インナゴム層30はインナ軸部材12よりも軸方向の長さが短くされており、インナ軸部材12の両端部がインナゴム層30よりも軸方向外方へ突出して外部に露出している。
【0038】
アウタ筒部材14の内周面は、ゴム脚16,16と一体形成されたアウタゴム層34で覆われている。アウタゴム層34は、内周へ向けて突出する上側緩衝ゴム36を備えている。上側緩衝ゴム36は、インナ軸部材12の上方及び左右両側方に設けられており、アウタ筒部材14の上部の半周以上に亘って周方向に連続して設けられている。上側緩衝ゴム36は、インナ軸部材12に対して上方及び左右両側方に離隔していると共に、周方向の両端部が2つのゴム脚16,16に対して周方向で離隔しており、上側緩衝ゴム36とインナ軸部材12(インナゴム層30)及び2つのゴム脚16,16との間には、軸方向に貫通する第一のすぐり孔38が形成されている。そして、インナ軸部材12がアウタ筒部材14に対して上方又は左右側方へ大きく相対変位する場合に、インナ軸部材12とアウタ筒部材14が上側緩衝ゴム36を介して当接することで、インナ軸部材12のアウタ筒部材14に対する上方又は左右側方への相対変位量を制限するストッパ機構が構成されるようになっている。
【0039】
また、アウタゴム層34は、ストッパゴムとしての下側緩衝ゴム40を備えている。下側緩衝ゴム40は、インナ軸部材12のストッパ突部22の下方に設けられて、アウタ筒部材14からインナ軸部材12へ向けて上方に突出している。下側緩衝ゴム40は、突出先端へ向けて前後方向及び左右方向で収縮する先細形状とされている。下側緩衝ゴム40は、2つのゴム脚16,16の左右間に位置していると共に、インナ軸部材12のストッパ突部22から下方へ所定のストッパクリアランスだけ離隔しており、下側緩衝ゴム40とインナ軸部材12(インナゴム層30)及び2つのゴム脚16,16との間には、軸方向に貫通する第二のすぐり孔42が形成されている。そして、インナ軸部材12がアウタ筒部材14に対して下方へ大きく相対変位する場合に、インナ軸部材12とアウタ筒部材14が下側緩衝ゴム40を介して当接することで、インナ軸部材12のアウタ筒部材14に対する上方又は左右側方への相対変位量を制限するストッパ機構が構成されるようになっている。
【0040】
なお、ストッパゴムは、例えば、インナ軸部材12のストッパ突部22の突出先端面から下方へ向けて突出するように、インナゴム層30と一体形成されていてもよく、その場合にはアウタ筒部材14(アウタゴム層34)の内周面に対して上方に離隔して配される。また、この場合のストッパゴムは、好適には、下方へ向けて先細となる形状とされる。
【0041】
また、アウタゴム層34には、フランジ状部24に固着される前側緩衝ゴム44が設けられている。前側緩衝ゴム44は、全周に亘って連続して形成されており、フランジ状部24の軸方向外面である前面に固着されて、フランジ状部24から前方へ向けて突出している。前側緩衝ゴム44は、内周端部がアウタ筒部材14よりも内周側に突出しており、内周端部においてアウタゴム層34と一体的に連続している。前側緩衝ゴム44の外周端は、フランジ状部24の外周端よりも内周に位置している。
【0042】
かくの如き構造とされたモータマウント10は、図示しない電動モータを同じく図示しない車両ボデーに対して防振連結する。即ち、モータマウント10は、インナ軸部材12が取付用孔18に挿通されるボルト等を利用して電動モータに取り付けられると共に、アウタ筒部材14が車両ボデーに設けられた図示しない装着孔に圧入される等して車両ボデーに取り付けられる。これにより、モータマウント10が車両に装着されて、電動モータが車両ボデーに対してモータマウント10を介して防振支持される。なお、インナ軸部材12は、電動モータに対して直接的に取り付けられてもよいし、ブラケット等を介して間接的に取り付けられてもよい。同様に、アウタ筒部材14は、車両ボデーに対して直接的に取り付けられてもよいし、ブラケット等を介して間接的に取り付けられてもよい。また、インナ軸部材12が車両ボデー側に取り付けられると共に、アウタ筒部材14が電動モータ側に取り付けられてもよい。
【0043】
モータマウント10の車両装着状態において、インナ軸部材12とアウタ筒部材14の間には、主として上下方向の振動が入力される。かかる振動の入力によって、インナ軸部材12がアウタ筒部材14に対して下方へ変位する際に、インナ軸部材12の下側に配された2つのゴム脚16,16は、上下方向に圧縮されて、圧縮ばね成分がせん断ばね成分よりも支配的となる。特に、インナ軸部材12とアウタ筒部材14の上下方向の対向面間において上下方向に連続して設けられた連結ゴム部26は、上下方向の圧縮荷重の入力に対して、せん断ばね成分が一層小さく、実質的に純圧縮される領域となっている。このよう主たる荷重入力によってインナ軸部材12がアウタ筒部材14に対して下方へ変位する場合に、2つのゴム脚16,16が主に圧縮ばねとして機能することにより、より高動ばね特性を実現し易く、ばね特性の調節自由度を大きく得ることができる。
【0044】
モータマウント10は、2つのゴム脚16,16がインナ軸部材12の下側だけに設けられており、インナ軸部材12の上側には設けられていない。これにより、アウタ筒部材14を大径化することなく、2つのゴム脚16,16の自由長を大きな自由度で設定することができ、またゴムボリュームを大きく確保することも可能になり、ゴム脚16,16のばね特性の設定自由度や耐久性の確保等が実現される。
【0045】
ところで、振動荷重の入力に際して、2つのゴム脚16,16において曲げ弾性変形等が共振状態で生じる場合に、高動ばね化による防振性能への悪化が生じ得る。このようなゴムサージングによる防振性能の低下を防ぐために、モータマウント10は、各ゴム脚16に対して前後両側へ突出するゴム突起28,28が設けられている。即ち、各ゴム脚16にゴム突起28,28が設けられていることによって、ゴム脚16,16のばね特性等への影響を抑えつつ、図4のグラフに示すように、ゴム脚16,16の共振によるばねのピークがゴム突起28のマスダンパ作用等によって低減されて、高動ばね化による防振性能の低下を抑制することができる。特に、電動モータの静粛性がエンジンに比して高く、モータマウント10ではエンジンマウントに比して高周波の振動が問題になり易いことから、1000Hz程度の高周波域においてゴム脚16,16のゴムサージングに起因する防振性能の低下を抑えることで、より優れた静粛性や乗り心地等を提供することができる。なお、図4に示すグラフでは、ゴム突起28を備えた本実施形態に係るモータマウント10のばね特性が実線で示されていると共に、ゴム突起28を持たないモータマウントのばね特性が破線で示されている。
【0046】
ここにおいて、ゴム突起28は、ゴム脚16における連結ゴム部26の左右外端よりも左右内側に収まる状態で配されている。これにより、ゴム突起28は、主たる荷重入力時にせん断変形を生じる連結ゴム部26よりも左右外側のせん断変形領域には設けられておらず、全体がゴム脚16の圧縮変形領域に位置している。その結果、ゴム脚16の大きなせん断変形に起因するゴム突起28の基端部への歪の集中が発生し難く、ゴム突起28とゴム脚16の接続部分で亀裂が発生する等といった耐久性の低下が防止される。
【0047】
ゴム突起28は、軸方向の投影において60%以上が連結ゴム部26上に位置していることが望ましい。より好適には、ゴム突起28は、軸方向の投影において90%以上が連結ゴム部26上に位置しており、実質的に全体が連結ゴム部26上に配置されている。このように、圧縮変形がより支配的な連結ゴム部26上にゴム突起28の略全体が位置するようにすれば、ゴム突起28の基端部における歪の緩和が図られて、ゴム脚16及びゴム突起28の耐久性の更なる向上が図られる。特に本実施形態では、ゴム突起28の幅寸法が連結ゴム部26の幅寸法以下とされており、ゴム突起28の全体が連結ゴム部26の左右両端間に収まっていることから、ゴム突起28の基端部における歪の低減がより効果的に図られている。
【0048】
連結ゴム部26の左右幅寸法w1は、ゴム脚16の左右幅寸法W1に対して、20%以上とされている等、ゴム脚16において圧縮領域である連結ゴム部26の割合が十分に大きく設定されている。これにより、ゴム脚16における圧縮ばね成分がせん断ばね成分よりも大きくされた領域に対してゴム突起28を設け易くなる。特に、連結ゴム部26の左右幅寸法w1が大きくされていることで、連結ゴム部26の左右外端より左右内側に位置するゴム突起28の配置の自由度がより大きくなると共に、ゴム突起28の大きさを十分に大きく設定しながら、ゴム突起28の実質的な全体を連結ゴム部26上に配することも容易となる。
【0049】
モータマウント10は、2つのゴム脚16,16を周方向に外れた部分において、上下の緩衝ゴム36,40が設けられており、インナ軸部材12とアウタ筒部材14の相対変位量を制限する上下左右のストッパ機構が設定されている。これにより、2つのゴム脚16,16の形状や配置の自由度を阻害することなく、インナ軸部材12とアウタ筒部材14の過大な相対変位によるゴム脚16の損傷等を防ぐことができる。
【0050】
さらに、アウタ筒部材14の軸方向端部に設けられたフランジ状部24には、前側緩衝ゴム44が設けられており、フランジ状部24と電動モータ側の部材とが前側緩衝ゴム44を介して当接することにより、インナ軸部材12のアウタ筒部材14に対する後方への相対変位量を制限する後方のストッパ機構が設定されている。これにより、インナ軸部材12とアウタ筒部材14の軸方向での過大な相対変位によるゴム脚16の損傷等も防ぐことができる。
【0051】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、ゴム突起28は、各ゴム脚16に少なくとも1つが設けられていればよい。具体的には、例えば、ゴム突起28は、ゴム脚16の軸方向片側だけに突出して設けられていてもよい。また、2つのゴム脚16,16に設けられるゴム突起28の数や位置を相互に異ならせることもできる。尤も、ゴム突起28を含む2つのゴム脚16,16のバランス等を考慮すれば、好適には、前記実施形態に示したように、2つのゴム脚16,16において相互に同じ数のゴム突起28が対応する位置に設けられる。なお、ゴム脚16に対して3つ以上のゴム突起28を設けることも可能であり、この場合には、2つ以上のゴム突起28がゴム脚16の軸方向一方の面に突出するように設けられる。
【0052】
ゴム突起28の形状は、円柱状に限定されず、例えば、多角柱状や筒状、板状などを含む各種形状が採用され得る。また、ゴム突起28の突出高さや外径等の大きさも特に限定されない。
【0053】
また、ゴム突起28は、ゴム単体で形成される態様に限定されることなく、例えば質量のチューニングなどの目的でゴム突起28やゴム脚16に対して金属等の質量部材を設けた複合構造とすることも可能である。また、ゴム突起28の特性チューニングに際しては、ゴム脚16のサージング抑制が実現されれば良く、例えばマスダンパ作用に加えて又は代えてダイナミックダンパ作用を考慮したり、ゴム脚16のばね特性に対するチューニング作用などを考慮することも可能である。
【0054】
前記実施形態では、ゴム突起28の全体が連結ゴム部26上に位置していたが、ゴム突起28は、例えば、連結ゴム部26の左右内端よりも左右内側に突出する部分を含み得る。なお、ゴム突起28が連結ゴム部26より左右内側へ突出する量は、特に限定されないが、例えば、ゴム突起28の基端部における歪の集中防止を考慮して、以下のように設定されることが望ましい。即ち、2つのゴム脚16,16は、下方へ向けて左右外側へ傾斜するハの字形状とされていることから、主たる荷重入力で上下方向に圧縮されて左右方向に膨出すると、ゴム脚16の下端部とアウタ筒部材14との当接領域が左右内側へ拡張されて、連結ゴム部26の内端が左右内側へ移動し得る。このようなゴム脚16の圧縮状態における連結ゴム部26の左右内端位置に対して、ゴム突起28の左右内端が左右外側に位置するように、ゴム突起28を配置することにより、荷重が入力されていないゴム脚16の連結ゴム部26より左右内側にゴム突起28が位置していても、ゴム突起28の基端部における歪の集中を有効に防ぐことができる。換言すると、一対の連結ゴム部26,26では、静的な分担支持荷重などの主たる荷重入力によってインナ軸部材12がアウタ筒部材14に対して下方へ相対移動すると、連結ゴム部26,26は左右方向に膨らむように弾性変形する。かかる弾性変形により、各連結ゴム部26の左右外面はインナ軸部材12とアウタ筒部材14の上下対向面から外方へ外れて剪断領域を増大させる傾向となる一方、各連結ゴム部26の左右内面はインナ軸部材12とアウタ筒部材14の上下対向面間を直接につなぐ圧縮領域を増やす傾向となる。それゆえ、ゴム突起28は、ゴム脚16の連結ゴム部26よりも左右内側にまで位置していても大きな問題となり難い。
【0055】
ゴム突起28は、ゴム脚16に荷重が入力されていない初期状態において、連結ゴム部26の左右外端より左右内側に位置していることが望ましいが、少なくとも圧縮状態のゴム脚16の連結ゴム部26上に位置していればよい。即ち、モータマウント10の車両等への装着状態では、モータ等の静的な分担支持荷重(静的な主荷重)の入力によってゴム脚16が圧縮状態とされる。これにより、ゴム突起28は、主荷重の入力状態において、ゴム脚16の圧縮領域に配されていることから、ゴム突起28の周囲に対する歪の集中が回避されて、耐久性の確保が図られる。なお、ゴム突起28の左右外端は、インナ軸部材12の左右外端よりも左右内側に位置し、且つ、初期状態のゴム脚16における連結ゴム部26の左右外端より左右外側に位置し得る。
【0056】
インナ軸部材は、例えば、筒状とされてゴム脚16,16に固着される固着筒部と、固着筒部の内周に挿入されて嵌め合わされるインナブラケットとによって構成することもできる。また、インナ軸部材は、断面形状が軸方向で変化していてもよい。また、インナ軸部材は、ゴム固着部20,20やストッパ突部22を備えていなくてもよい。
【0057】
上下と前後と左右との各ストッパ機構は、何れも必須ではなく、1方向又は2方向のストッパ機構だけが設けられていてもよいし、ストッパ機構が設けられていなくてもよい。
【符号の説明】
【0058】
10 モータマウント(モータマウント用の筒型防振装置 第一の実施形態)
12 インナ軸部材
14 アウタ筒部材
16 ゴム脚
18 取付用孔
20 ゴム固着部
22 ストッパ突部
24 フランジ状部
26 連結ゴム部
28 ゴム突起
30 インナゴム層
32 内側緩衝ゴム
34 アウタゴム層
36 上側緩衝ゴム
38 第一のすぐり孔
40 下側緩衝ゴム(ストッパゴム)
42 第二のすぐり孔
44 前側緩衝ゴム
図1
図2
図3
図4