(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025171362
(43)【公開日】2025-11-20
(54)【発明の名称】フィルタ装置及びマルチプレクサ
(51)【国際特許分類】
H03H 9/145 20060101AFI20251113BHJP
【FI】
H03H9/145 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024076607
(22)【出願日】2024-05-09
(71)【出願人】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】弁理士法人大阪フロント特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高田 俊明
【テーマコード(参考)】
5J097
【Fターム(参考)】
5J097AA24
5J097BB15
5J097CC05
5J097DD05
5J097DD07
(57)【要約】 (修正有)
【課題】耐電力性を高くするフィルタ装置及びマルチプレクサを提供する。
【解決手段】…マルチプレクサ10は、入力端子3及び出力端子4と、複数の直列腕共振子S1~S5と、少なくとも1個の並列腕共振子P1~P4と、を備える。各共振子は、複数の電極指を有するIDT電極が設けられ、隣り合う電極指同士が重なる領域の交叉領域を有する。複数の直列腕共振子のうち、回路構成上最も入力端子3側に配置されている直列腕共振子S1におけるIDT電極のデューティ比の平均値が、他の全ての直列腕共振子におけるIDT電極のデューティ比の平均値よりも小さい。交叉領域の電極指直交方向に沿う寸法を交叉幅とし、交叉幅を複数の電極指の本数により割った値を縦横比としたときに、複数の直列腕共振子のうち、回路構成上最も入力端子3側に配置されている直列腕共振子S1における縦横比が、他の全ての直列腕共振子における縦横比を平均した値よりも小さい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力端子及び出力端子と、
複数の直列腕共振子と、
少なくとも1個の並列腕共振子と、
を備え、
各前記直列腕共振子及び前記並列腕共振子が、圧電性基板上にIDT電極が設けられていることにより構成されている弾性波共振子であり、各前記IDT電極が複数の電極指を有し、
各前記IDT電極において、前記複数の電極指が延びる方向が電極指延伸方向、前記電極指延伸方向と直交する方向が電極指直交方向であり、各前記直列腕共振子及び前記並列腕共振子が、前記電極指直交方向から見たときに、隣り合う前記電極指同士が重なり合っている領域である交叉領域を有し、
前記複数の直列腕共振子のうち、回路構成上最も前記入力端子側に配置されている前記直列腕共振子における前記IDT電極のデューティ比の平均値が、他の全ての前記直列腕共振子における前記IDT電極のデューティ比の平均値を平均した値よりも小さく、
前記交叉領域の前記電極指直交方向に沿う寸法を交叉幅とし、前記交叉幅を前記複数の電極指の本数により割った値を縦横比としたときに、前記複数の直列腕共振子のうち、回路構成上最も前記入力端子側に配置されている前記直列腕共振子における前記縦横比が、他の全ての前記直列腕共振子における前記縦横比を平均した値よりも小さい、フィルタ装置。
【請求項2】
全ての前記直列腕共振子及び全ての前記並列腕共振子のうち、前記直列腕共振子のみが、回路構成上最も前記入力端子側に配置されている、請求項1に記載のフィルタ装置。
【請求項3】
前記圧電性基板上に複数のバンプが設けられており、
前記複数の直列腕共振子のうち、回路構成上最も前記入力端子側に配置されている前記直列腕共振子の前記IDT電極が、2つの前記バンプの間に配置されている、請求項1または2に記載のフィルタ装置。
【請求項4】
前記圧電性基板が主面を有し、該主面の形状が矩形であり、該主面が1対の長辺及び1対の短辺を有し、該主面に複数の前記IDT電極が設けられており、
前記複数の直列腕共振子のうち、回路構成上最も前記入力端子側に配置されている前記直列腕共振子の前記IDT電極が、他の全ての前記IDT電極よりも、前記圧電性基板の前記主面における一方の前記短辺側に位置している、請求項1または2に記載のフィルタ装置。
【請求項5】
前記複数の直列腕共振子のうち、回路構成上最も前記入力端子側に配置されている前記直列腕共振子と、該直列腕共振子の前記電極指延伸方向において隣接している前記弾性波共振子が、全ての前記直列腕共振子のうち前記縦横比が最も大きい前記直列腕共振子以外の前記弾性波共振子である、請求項1または2に記載のフィルタ装置。
【請求項6】
前記複数の直列腕共振子のうち、回路構成上最も前記入力端子側に配置されている前記直列腕共振子における前記縦横比が、全ての前記直列腕共振子における前記縦横比のうち最も小さい、請求項1または2に記載のフィルタ装置。
【請求項7】
前記複数の直列腕共振子のうち、回路構成上最も前記入力端子側に配置されている前記直列腕共振子における前記IDT電極の前記複数の電極指の本数が、全ての前記直列腕共振子における前記IDT電極の前記複数の電極指の本数のうち最も多く、
前記複数の直列腕共振子のうち、回路構成上最も前記入力端子側に配置されている前記直列腕共振子における前記交叉幅が、全ての前記直列腕共振子における前記交叉幅のうち最も狭い、請求項1または2に記載のフィルタ装置。
【請求項8】
前記複数の直列腕共振子のうち、回路構成上最も前記入力端子側に配置されている前記直列腕共振子における前記IDT電極を、前記電極指直交方向において3分割したときにおける中央の領域におけるデューティ比の平均値が、両端の領域におけるデューティ比の平均値よりも小さい、請求項1または2に記載のフィルタ装置。
【請求項9】
前記複数の直列腕共振子のうち、回路構成上最も前記入力端子側に配置されている前記直列腕共振子における前記IDT電極を、前記電極指直交方向において3分割したときにおける中央の領域における電極指ピッチの平均値が、両端の領域における電極指ピッチの平均値よりも小さい、請求項1または2に記載のフィルタ装置。
【請求項10】
少なくとも1個の送信フィルタを含む複数のフィルタ装置を備え、
前記複数のフィルタ装置のうち少なくとも1個の前記送信フィルタ装置が、請求項1または2に記載のフィルタ装置である、マルチプレクサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性波共振子を含むフィルタ装置及びマルチプレクサに関する。
【0002】
従来、弾性波共振子を含むフィルタ装置が、携帯電話機のフィルタなどとして広く用いられている。下記の特許文献1においては、ラダー型フィルタの一例が開示されている。このラダー型フィルタにおいては、複数の直列腕共振子のうち最も静電容量が小さい直列腕共振子におけるIDT(Interdigital Transducer)電極のデューティ比が、複数の直列腕共振子におけるIDT電極のデューティ比のうち最も小さい。複数の直列腕共振子のうち最も静電容量が小さい直列腕共振子におけるIDT電極の電極指ピッチが、複数の直列腕共振子におけるIDT電極の電極指ピッチのうち最も広い。
【0003】
特許文献1には、直列腕共振子におけるIDT電極のデューティ比を小さくすることによって、該直列腕共振子の消費電力を小さくすることができる旨が記載されている。この作用を用いることにより、直列腕共振子の静電容量を大きくせずとも耐電力性を高くし得るとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のラダー型フィルタのように、直列腕共振子におけるIDT電極のデューティ比を小さくしただけでは、IDT電極の中央部から外部に、熱を十分に放出することができないおそれがある。この場合、直列腕共振子が局所的に破損することがある。そのため、ラダー型フィルタ全体として、あるいは、該ラダー型フィルタを含むマルチプレクサ全体として、耐電力性が不十分となるおそれがある。
【0006】
本発明の目的は、耐電力性を高くすることができる、フィルタ装置及びマルチプレクサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るフィルタ装置は、入力端子及び出力端子と、複数の直列腕共振子と、少なくとも1個の並列腕共振子とを備え、各前記直列腕共振子及び前記並列腕共振子が、圧電性基板上にIDT電極が設けられていることにより構成されている弾性波共振子であり、各前記IDT電極が複数の電極指を有し、各前記IDT電極において、前記複数の電極指が延びる方向が電極指延伸方向、前記電極指延伸方向と直交する方向が電極指直交方向であり、各前記直列腕共振子及び前記並列腕共振子が、前記電極指直交方向から見たときに、隣り合う前記電極指同士が重なり合っている領域である交叉領域を有し、前記複数の直列腕共振子のうち、回路構成上最も前記入力端子側に配置されている前記直列腕共振子における前記IDT電極のデューティ比の平均値が、他の全ての前記直列腕共振子における前記IDT電極のデューティ比の平均値を平均した値よりも小さく、前記交叉領域の前記電極指直交方向に沿う寸法を交叉幅とし、前記交叉幅を前記複数の電極指の本数により割った値を縦横比としたときに、前記複数の直列腕共振子のうち、回路構成上最も前記入力端子側に配置されている前記直列腕共振子における前記縦横比が、他の全ての前記直列腕共振子における前記縦横比を平均した値よりも小さい。
【0008】
本発明に係るマルチプレクサは、少なくとも1個の送信フィルタを含む複数のフィルタ装置を備え、前記複数のフィルタ装置のうち少なくとも1個の前記送信フィルタ装置が、本発明に従い構成されているフィルタ装置である。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るフィルタ装置及びマルチプレクサによれば、耐電力性を高くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係るマルチプレクサの回路図である。
【
図2】本発明の第1の実施形態に係るマルチプレクサにおける電極構成を示す略図的平面図である。
【
図3】本発明の第1の実施形態においての、第1のフィルタ装置における直列腕共振子の模式的平面図である。
【
図4】比較例のマルチプレクサにおける電極構成を示す略図的平面図である。
【
図5】本発明の第1の実施形態に係るマルチプレクサに電力を印加した際の、マルチプレクサの温度分布を示す図である。
【
図6】比較例のマルチプレクサに電力を印加した際の、マルチプレクサの温度分布を示す図である。
【
図7】本発明の第1の実施形態及び比較例においての、第1のフィルタ装置における減衰量周波数特性を示す図である。
【
図8】第1の実施形態においての、複数の直列腕共振子のうち、回路構成上最も入力端子側に配置されている直列腕共振子のIDT電極における、デューティ比及び電極指ピッチの分布を示す図である。
【
図9】本発明の第2の実施形態においての、第1のフィルタ装置における直列腕共振子の模式的平面図である。
【
図10】本発明の第2の実施形態においての、複数の直列腕共振子のうち、回路構成上最も入力端子側に配置されている直列腕共振子のIDT電極における、デューティ比及び規格化電極指ピッチの分布を示す図である。
【
図11】本発明の第3の実施形態においての、第1のフィルタ装置における直列腕共振子の模式的平面図である。
【
図12】本発明の第3の実施形態においての、複数の直列腕共振子のうち、回路構成上最も入力端子側に配置されている直列腕共振子のIDT電極における、デューティ比及び規格化電極指ピッチの分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しつつ、本発明の具体的な実施形態を説明することにより、本発明を明らかにする。
【0012】
なお、本明細書に記載の各実施形態は、例示的なものであり、異なる実施形態間において、構成の部分的な置換または組み合わせが可能であることを指摘しておく。
【0013】
図1は、本発明の第1の実施形態に係るマルチプレクサの回路図である。
【0014】
本実施形態のマルチプレクサ10はデュプレクサである。マルチプレクサ10は、共通接続端子2と、第1のフィルタ装置1A及び第2のフィルタ装置1Bと、インダクタL1とを有する。第1のフィルタ装置1Aは、本発明の一実施形態に係るフィルタ装置である。第1のフィルタ装置1A及び第2のフィルタ装置1Bは共通接続端子2に共通接続されている。共通接続端子2は、本実施形態においてはアンテナ端子である。アンテナ端子はアンテナに接続される。
【0015】
共通接続端子2及び基準電位の間に、インダクタL1が接続されている。インダクタL1はインピーダンス調整用のインダクタである。なお、インダクタL1は必ずしも設けられていなくともよい。
【0016】
第1のフィルタ装置1AはBand12の送信フィルタである。すなわち、第1のフィルタ装置1Aの通過帯域は699MHz~716MHzである。第2のフィルタ装置1BはBand12の受信フィルタである。すなわち、第2のフィルタ装置1Bの通過帯域は729MHz~746MHzである。もっとも、第1のフィルタ装置1A及び第2のフィルタ装置1Bの通過帯域は上記に限定されない。
【0017】
なお、第1のフィルタ装置1A及び第2のフィルタ装置1Bはそれぞれ、送信フィルタであってもよく、受信フィルタであってもよい。例えば、第1のフィルタ装置1A及び第2のフィルタ装置1Bの双方が送信フィルタであってもよく、あるいは受信フィルタであってもよい。
【0018】
なお、本発明に係るマルチプレクサはデュプレクサに限定されない。よって、本発明に係るマルチプレクサにおけるフィルタ装置の個数は2個に限定されない。本発明に係るマルチプレクサは、例えば、トリプレクサやクアッドプレクサなどであってもよい。本発明に係るマルチプレクサにおける複数のフィルタ装置のうち、少なくとも1個のフィルタ装置が、本発明に係るフィルタ装置であればよい。
【0019】
以下において、本実施形態のマルチプレクサ10の具体的な構成を説明する。マルチプレクサ10における第1のフィルタ装置1Aは、入力端子3及び出力端子4と、複数の共振子と、基準電位端子5と、インダクタL2とを有する。基準電位端子5は基準電位に接続される端子である。
【0020】
第1のフィルタ装置1Aはラダー型フィルタである。第1のフィルタ装置1Aの複数の共振子は、複数の直列腕共振子及び複数の並列腕共振子を含む。本実施形態では、第1のフィルタ装置1Aの全ての共振子は弾性波共振子である。
【0021】
第1のフィルタ装置1Aの複数の直列腕共振子は、具体的には、直列腕共振子S1、直列腕共振子S2、直列腕共振子S3、直列腕共振子S4及び直列腕共振子S5である。複数の直列腕共振子は、入力端子3及び出力端子4の間に互いに直列に接続されている。より具体的には、回路構成上、入力端子3側から、直列腕共振子S1、直列腕共振子S2、直列腕共振子S3、直列腕共振子S4及び直列腕共振子S5がこの順序において配置されている。入力端子3及び直列腕共振子S1の間に、インダクタL2が接続されている。
【0022】
第1のフィルタ装置1Aの複数の並列腕共振子は、具体的には、並列腕共振子P1、並列腕共振子P2、並列腕共振子P3及び並列腕共振子P4である。直列腕共振子S1及び直列腕共振子S2の間の接続点と基準電位端子5との間に、並列腕共振子P1が接続されている。直列腕共振子S2及び直列腕共振子S3の間の接続点と基準電位端子5との間に、並列腕共振子P2が接続されている。直列腕共振子S3及び直列腕共振子S4の間の接続点と基準電位端子5との間に、並列腕共振子P3が接続されている。直列腕共振子S4及び直列腕共振子S5の間の接続点と基準電位端子5との間に、並列腕共振子P4が接続されている。なお、並列腕共振子P2、並列腕共振子P3及び並列腕共振子P4は、同じ基準電位端子5に共通接続されている。
【0023】
第1のフィルタ装置1Aにおいては、全ての共振子のうち、直列腕共振子S1が、回路構成上最も入力端子3側に配置されている。もっとも、第1のフィルタ装置1Aの回路構成は上記に限定されない。インダクタL2は設けられていなくともよい。本発明に係るフィルタ装置としての第1のフィルタ装置1Aは、複数の直列腕共振子と、少なくとも1個の並列腕共振子とを有していればよい。
【0024】
マルチプレクサ10の第2のフィルタ装置1Bは、入力端子13及び出力端子14と、複数の共振子と、複数の基準電位端子5とを有する。第2のフィルタ装置1Bの複数の共振子は、具体的には、直列腕共振子S11と、縦結合共振子型弾性波フィルタ6である。縦結合共振子型弾性波フィルタ6の段数は2段である。縦結合共振子型弾性波フィルタ6の各段は5個のIDT電極を含む。もっとも、縦結合共振子型弾性波フィルタ6における段数及びIDT電極の個数は上記に限定されない。
【0025】
縦結合共振子型弾性波フィルタ6は、入力端子13及び出力端子14の間に接続されている。入力端子13及び縦結合共振子型弾性波フィルタ6の間に、直列腕共振子S11が接続されている。なお、第2のフィルタ装置1Bの回路構成は上記に限定されない。
【0026】
図2は、第1の実施形態に係るマルチプレクサにおける電極構成を示す略図的平面図である。
図2においては、弾性波共振子を、矩形に2本の対角線を加えた略図により示す。
図2では、縦結合共振子型弾性波フィルタ6の各段を、1つの矩形に2本の対角線を加えた略図により示す。
図2以外の略図的平面図においても同様である。
【0027】
マルチプレクサ10は圧電性基板7を有する。圧電性基板とは、圧電性を有する基板である。本実施形態では、圧電性基板7は、圧電材料のみからなる基板である。圧電材料としては、例えば、タンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウム、酸化亜鉛、窒化アルミニウム、水晶、またはPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)などを用いることができる。本実施形態においては、圧電材料として、ニオブ酸リチウムが用いられている。なお、圧電性基板7は、圧電体層を含む積層基板であってもよい。
【0028】
本実施形態では、第1のフィルタ装置1Aの全ての共振子は、同じ圧電性基板7を共有している。第2のフィルタ装置1Bの全ての共振子は、同じ圧電性基板7を共有している。そして、第1のフィルタ装置1Aの全ての共振子及び第2のフィルタ装置1Bの全ての共振子は、同じ圧電性基板7を共有している。なお、例えば、第1のフィルタ装置1A及び第2のフィルタ装置1Bが、別個の圧電性基板7を有していてもよい。
【0029】
マルチプレクサ10の共通接続端子2、第1のフィルタ装置1Aの入力端子3、第2のフィルタ装置1Bの出力端子14、及び複数の基準電位端子5は、圧電性基板7上に設けられた電極パッドである。他方、第1のフィルタ装置1Aの出力端子4及び第2のフィルタ装置1Bの入力端子13は、配線として構成されている。出力端子4及び入力端子13は、共通接続端子2に接続されている。なお、各端子は、電極パッドとして構成されていてもよく、配線として構成されていてもよい。
【0030】
マルチプレクサ10は複数のバンプ8を有する。複数のバンプ8は圧電性基板7上に設けられている。各バンプ8は、具体的には、電極パッド上に設けられている。より具体的には、各バンプ8は、共通接続端子2上、入力端子3上、出力端子14上及び基準電位端子5上に設けられている。複数のバンプ8は、外部に電気的に接続される。
【0031】
第1のフィルタ装置1Aの複数の共振子、及び第2のフィルタ装置1Bの複数の共振子はそれぞれ、圧電性基板7上にIDT電極が設けられていることにより構成されている。第1のフィルタ装置1Aの複数の直列腕共振子及び複数の並列腕共振子、並びに第2のフィルタ装置1Bの直列腕共振子S11はそれぞれ、1個のIDT電極を有する弾性波共振子である。他方、第2のフィルタ装置1Bの縦結合共振子型弾性波フィルタ6は複数のIDT電極を有する。以下において、弾性波共振子の具体的な構成を示す。
【0032】
図3は、第1の実施形態においての、第1のフィルタ装置における直列腕共振子の模式的平面図である。
図3においては、直列腕共振子S1に接続されている配線などを省略している。
【0033】
直列腕共振子S1のIDT電極9は、1対のバスバーと、複数の電極指とを有する。1対のバスバーは、具体的には、第1のバスバー16及び第2のバスバー17である。第1のバスバー16及び第2のバスバー17は互いに対向している。複数の電極指は、具体的には、複数の第1の電極指18及び複数の第2の電極指19である。複数の第1の電極指18の一端はそれぞれ、第1のバスバー16に接続されている。複数の第2の電極指19の一端はそれぞれ、第2のバスバー17に接続されている。複数の第1の電極指18及び複数の第2の電極指19は互いに間挿し合っている。第1の電極指18及び第2の電極指19は、互いに異なる電位に接続される。IDT電極9は、単層の金属膜からなっていてもよく、あるいは、積層金属膜からなっていてもよい。
【0034】
以下においては、第1の電極指18及び第2の電極指19をまとめて、単に電極指と記載することがある。第1のバスバー16及び第2のバスバー17をまとめて、単にバスバーと記載することがある。IDT電極9において、複数の電極指が延びる方向を電極指延伸方向とし、電極指延伸方向と直交する方向を電極指直交方向とする。
【0035】
直列腕共振子S1は交叉領域Aを有する。具体的には、交叉領域Aは、電極指直交方向から見たときに、隣り合う電極指同士が重なり合っている領域である。IDT電極9に交流電圧を印加することにより、交叉領域Aにおいて弾性波が励振される。
【0036】
直列腕共振子S1は1対の反射器12A及び反射器12Bを有する。反射器12A及び反射器12Bは、電極指直交方向においてIDT電極9を挟み互いに対向するように、圧電性基板7上に設けられている。反射器12Aは、1対の反射器バスバー12a及び反射器バスバー12b並びに複数の反射器電極指12cを有する。反射器12Aにおいては、複数の反射器電極指12cの両端が、1対の反射器バスバー12a及び反射器バスバー12bにより短絡されている。反射器12Bも、反射器12Aと同様に構成されている。
【0037】
直列腕共振子S1以外の各直列腕共振子及び各並列腕共振子も、直列腕共振子S1と同様に、IDT電極及び1対の反射器を有し、交叉領域を有する。本実施形態では、全ての直列腕共振子及び全ての並列腕共振子において、電極指延伸方向及び電極指直交方向は同じである。
【0038】
ここで、交叉領域の電極指直交方向に沿う寸法を交叉幅[μm]とする。交叉幅[μm]を電極指の本数[本]により割った値を縦横比[μm/本]とする。本実施形態では、各直列腕共振子のIDT電極は、いわゆる正規型のIDT電極である。すなわち、各IDT電極において交叉幅は一定である。
【0039】
第1のフィルタ装置1Aにおける複数の直列腕共振子は、縦横比[μm/本]が異なる直列腕共振子を含む。以下においては、縦横比[μm/本]の比較に際し、複数の直列腕共振子における縦横比[μm/本]を平均した値を用いることもある。当該値は、言い換えれば、複数の直列腕共振子における縦横比[μm/本]の合計を、複数の直列腕共振子の個数により割った値である。
【0040】
第1のフィルタ装置1Aにおける複数の直列腕共振子は、デューティ比が異なる直列腕共振子を含む。デューティ比とは、IDT電極の複数の電極指が設けられている領域においてのメタライゼーション比である。具体的には、デューティ比は、複数の電極指が設けられている領域においての、電極指直交方向に延びる1波長分の仮想線上における、金属により覆われている部分の割合いである。ここでいう金属とは、電極指を構成している金属を指す。
【0041】
デューティ比を算出するに際しては、IDT電極の電極指ピッチにより規定される波長を基準とすればよい。該波長をλとする。なお、電極指ピッチとは、互いに異なる電位に接続され、かつ隣り合う電極指同士の、電極指直交方向における中心間距離である。具体的には、
図3に示すIDT電極9の電極指ピッチは、第1の電極指18及び第2の電極指19の中心間距離である。例えば、電極指ピッチをpとしたときに、λ=2pである。
【0042】
本実施形態では、各直列腕共振子において、IDT電極のデューティ比及び電極指ピッチは一定である。なお、各直列腕共振子において、IDT電極のデューティ比や電極指ピッチは一定ではなくともよい。そのため、本明細書においては、直列腕共振子同士のパラメータを比較する際、IDT電極のデューティ比の平均値を用いることがある。あるいは、複数の直列腕共振子におけるIDT電極のデューティ比の平均値を平均した値を用いることもある。当該値は、言い換えれば、複数の直列腕共振子におけるIDT電極のデューティ比の平均値の合計を、複数の直列腕共振子の個数により割った値である。
【0043】
本実施形態の特徴は、以下の1)及び2)の構成を有することにある。1)直列腕共振子S1におけるIDT電極9のデューティ比の平均値が、他の全ての直列腕共振子におけるIDT電極のデューティ比の平均値を平均した値よりも小さいこと。2)直列腕共振子S1における縦横比[μm/本]が、他の全ての直列腕共振子における縦横比[μm/本]を平均した値よりも小さいこと。それによって、直列腕共振子S1の耐電力性を高くすることができ、第1のフィルタ装置1A全体としての耐電力性を高くすることができる。これにより、マルチプレクサ10全体としての耐電力性を高くすることもできる。
【0044】
第1のフィルタ装置1A全体としての耐電力性を高くすることができる効果の詳細を、第1の実施形態及び比較例を比較することにより、以下において示す。
【0045】
図4は、比較例のマルチプレクサにおける電極構成を示す略図的平面図である。
【0046】
比較例は、上記2)の構成を有しない点において、第1の実施形態と異なる。比較例における回路構成は、第1の実施形態における回路構成と同じである。もっとも、比較例においては、複数の直列腕共振子のうち、回路構成上最も入力端子側に配置されている直列腕共振子S1における縦横比[μm/本]が、他の全ての直列腕共振子における縦横比[μm/本]を平均した値よりも大きい。
【0047】
第1の実施形態及び比較例において、電力を印加した際の温度分布を比較した。当該温度分布は、具体的には、入力端子3から29dBmの電力を、716MHzにおいて印加した際の温度分布である。この周波数は、第1の実施形態における第1のフィルタ装置1A、及び比較例における第1のフィルタ装置101Aの通過帯域において、最も高い周波数である。そのため、電力を716MHzにおいて印加する場合、第1のフィルタ装置1A及び第1のフィルタ装置101Aにおいて最も耐電力性が低くなる。
【0048】
当該比較においての、第1の実施形態における第1のフィルタ装置1Aの設計パラメータは表1の通りとした。比較例における第1のフィルタ装置101Aの設計パラメータは表2の通りとした。なお、表1及び表2における符号S1~S5は、第1のフィルタ装置における各直列腕共振子の符号に相当する。
【0049】
【0050】
【0051】
図5は、第1の実施形態に係るマルチプレクサに電力を印加した際の、マルチプレクサの温度分布を示す図である。
図6は、比較例のマルチプレクサに電力を印加した際の、マルチプレクサの温度分布を示す図である。
【0052】
図5及び
図6に示すように、第1の実施形態においては、比較例よりも、最高温度が低くなっていることがわかる。具体的には、比較例においては、直列腕共振子S1の中央付近において特に温度が高くなっている。比較例の直列腕共振子S1の最高温度は、135.2°である。比較例の直列腕共振子S3の温度も、他の弾性波共振子と比較して高くなっている。一方で、第1の実施形態においては、複数の弾性波共振子のうち、直列腕共振子S3の温度が最も高い。第1の実施形態における直列腕共振子S3の最高温度は127.3℃である。第1の実施形態における直列腕共振子S1の温度も、他の弾性波共振子と比較して高くなっているが、127.3℃未満である。
【0053】
第1の実施形態及び比較例においては、回路構成上、複数の弾性波共振子のうち直列腕共振子S1が最も入力端子3側に配置されている。そのため、入力端子3から電力が印加された際、直列腕共振子S1に特に大きな電力が印加されることとなる。よって、複数の弾性波共振子のうち、直列腕共振子S1において特に発熱し易い。なお、弾性波共振子のIDT電極に電力が印加された際には、IDT電極の中央付近において励振の強度が高い。これらのことから、直列腕共振子S1におけるIDT電極の中央付近において、特に発熱し易い。
【0054】
表2に示すように、比較例の直列腕共振子S1においては、縦横比[μm/本]が比較的大きい。そのため、直列腕共振子S1における交叉幅が相対的に広い。この場合には、IDT電極における熱が、該IDT電極の中央から外部に放出され難い。この結果、
図6に示すように、直列腕共振子S1の温度が特に高くなる。
【0055】
これに対して、表1に示すように、第1の実施形態においては、直列腕共振子S1の縦横比[μm/本]が小さく、交叉幅が相対的に狭い。これにより、IDT電極9の中央付近において生じた熱が、1対のバスバーに到達し易い。そして、熱が、1対のバスバーから外部に放出され易い。加えて、直列腕共振子S1では、電極指の本数が相対的に多い。そのため、直列腕共振子S1におけるIDT電極9の電極指直交方向に沿う寸法が相対的に大きい。これにより、励振の強度が高い部分を、電極指直交方向において分散させることができ、発熱し易い部分を該方向において分散させることができる。これらの相乗効果により、直列腕共振子S1におけるIDT電極9の温度上昇を抑制することができる。
【0056】
一般に、IDT電極の温度が高くなるほど、ストレスマイグレーションが生じ易くなる。この結果、IDT電極が破損し易くなる。もっとも、上記のように、第1の実施形態においては、電力の印加による、直列腕共振子S1におけるIDT電極9の温度上昇は抑制される。それによって、直列腕共振子S1の耐電力性を高くすることができ、第1のフィルタ装置1A全体としての耐電力性を高くすることができる。これにより、マルチプレクサ10全体としての耐電力性を高くすることもできる。
【0057】
さらに、第1の実施形態における第1のフィルタ装置1Aと、比較例における第1のフィルタ装置101Aとにおいて、減衰量周波数特性を比較した。当該比較においては、第1の実施形態における第1のフィルタ装置1A、及び比較例における第1のフィルタ装置101Aの設計パラメータは、上記の表1及び表2の通りとした。
【0058】
図7は、第1の実施形態及び比較例においての、第1のフィルタ装置における減衰量周波数特性を示す図である。
【0059】
図7に示すように、第1の実施形態における第1のフィルタ装置1A、及び比較例における第1のフィルタ装置101Aにおける通過帯域は699MHz~716MHzである。第1の実施形態において、比較例よりも、通過帯域における挿入損失が小さくなっていることがわかる。なお、第1の実施形態では、通過帯域における挿入損失の最大値は1.56dBである。比較例では、通過帯域における挿入損失の最大値は1.66dBである。よって、第1の実施形態においては、比較例よりも、通過帯域における挿入損失の最大値は小さい。
【0060】
第1の実施形態では、直列腕共振子S1の縦横比[μm/本]が小さい。そのため、直列腕共振子S1における交叉幅が相対的に狭く、かつ電極指の本数が相対的に多い。それによって、直列腕共振子S1の電気抵抗を低くすることができ、挿入損失を小さくすることができる。
【0061】
以下において、第1の実施形態における好ましい構成を示す。
【0062】
図1に示すように、全ての直列腕共振子及び全ての並列腕共振子のうち、直列腕共振子S1のみが、回路構成上最も入力端子3側に配置されていることが好ましい。例えば、全ての直列腕共振子及び全ての並列腕共振子のうち、直列腕共振子S1及び並列腕共振子が、回路構成上最も入力端子3側に配置されている場合、該並列腕共振子に大きな電力が印加される。加えて、該並列腕共振子の一方端は入力電位に接続され、他方端は基準電位に接続される。そのため、該並列腕共振子における一方端側と、他方端側との間の電位差が特に大きい。よって、該並列腕共振子に対する負荷が大きい。
【0063】
これに対して、本実施形態においては、全ての直列腕共振子及び全ての並列腕共振子のうち、直列腕共振子S1のみが、回路構成上最も入力端子3側に配置されている。それによって、全ての並列腕共振子に対する負荷を小さくすることができる。もっとも、本発明においては、全ての直列腕共振子及び全ての並列腕共振子のうち、直列腕共振子S1及び並列腕共振子が、回路構成上最も入力端子3側に配置されていても構わない。この場合においても、第1の実施形態と同様に、直列腕共振子S1の耐電力性を高くする効果を得ることができる。よって、第1のフィルタ装置1A全体として、及びマルチプレクサ10全体として、耐電力性を高くする効果を得ることができる。
【0064】
図2に示すように、複数の直列腕共振子のうち、回路構成上最も入力端子3側に配置されている直列腕共振子S1のIDT電極9が、2つのバンプ8の間に配置されていることが好ましい。これにより、直列腕共振子S1のIDT電極9から2つのバンプ8に、熱を伝搬させ易い。それによって、バンプ8を介してマルチプレクサ10の外部に、熱を放出し易い。従って、直列腕共振子S1におけるIDT電極9の温度上昇を効果的に抑制することができる。
【0065】
直列腕共振子S1と、直列腕共振子S1の電極指延伸方向において隣接している弾性波共振子が、全ての直列腕共振子のうち縦横比[μm/本]が最も大きい直列腕共振子以外の弾性波共振子であることが好ましい。具体的には、本実施形態では、直列腕共振子S1と、直列腕共振子S1の電極指延伸方向において隣接している弾性波共振子は、並列腕共振子P1及び直列腕共振子S2である。他方、全ての弾性波共振子のうち縦横比[μm/本]が最も大きい弾性波共振子は、直列腕共振子S3である。
【0066】
弾性波共振子の縦横比[μm/本]が大きい場合には、該弾性波共振子の放熱性が低い。そのため、全ての弾性波共振子のうち縦横比[μm/本]が最も大きい弾性波共振子以外の弾性波共振子においては、放熱性は比較的高く、該弾性波共振子におけるIDT電極の温度は比較的低い。そして、該直列腕共振子が、直列腕共振子S1と隣接している場合には、直列腕共振子S1におけるIDT電極9からの熱の放出が阻害され難い。よって、複数の直列腕共振子のうち、回路構成上最も入力端子3側に配置されている直列腕共振子S1のIDT電極9の温度上昇を、より確実に抑制することができる。
【0067】
直列腕共振子S1と、直列腕共振子S1の電極指延伸方向において隣接している弾性波共振子が、全ての直列腕共振子のうち縦横比[μm/本]が最も大きい直列腕共振子以外の弾性波共振子であることがより好ましい。具体的には、本実施形態においては、全ての直列腕共振子のうち縦横比[μm/本]が最も大きい直列腕共振子は、直列腕共振子S3である。
【0068】
並列腕共振子は基準電位端子5に接続される。そのため、並列腕共振子からは、基準電位端子5を介してマルチプレクサ10の外部に熱を放出し易い。一方で、直列腕共振子においては、放熱性が低くなりがちである。よって、全ての直列腕共振子のうち縦横比[μm/本]が最も大きい直列腕共振子S3におけるIDT電極の温度は、特に高くなりがちである。他方、直列腕共振子S3以外の弾性波共振子におけるIDT電極の温度は、比較的低い。
【0069】
このことから、直列腕共振子S1と、直列腕共振子S1の電極指延伸方向において隣接している弾性波共振子が、直列腕共振子S3以外の弾性波共振子である場合には、直列腕共振子S1におけるIDT電極9からの熱の放出が阻害され難い。従って、複数の直列腕共振子のうち、回路構成上最も入力端子3側に配置されている直列腕共振子S1のIDT電極9の温度上昇を、より一層確実に抑制することができる。
【0070】
直列腕共振子S1における縦横比[μm/本]が、全ての直列腕共振子における縦横比[μm/本]のうち最も小さいことが好ましい。それによって、直列腕共振子S1におけるIDT電極9の温度上昇をより一層抑制することができる。
【0071】
直列腕共振子S1におけるIDT電極9の複数の電極指の本数が、全ての直列腕共振子におけるIDT電極の複数の電極指の本数のうち最も多いことが好ましい。この場合には、直列腕共振子S1の縦横比[μm/本]をより確実に小さくすることができる。直列腕共振子S1における交叉幅が、全ての直列腕共振子における交叉幅のうち最も狭いことが好ましい。この場合にも、直列腕共振子S1の縦横比[μm/本]をより確実に小さくすることができる。
【0072】
図2に示すように、圧電性基板7は主面7aを有する。主面7aに、マルチプレクサ10の複数の共振子における複数のIDT電極や複数の反射器が設けられている。主面7aの形状は矩形である。そのため、主面7aは1対の長辺7b及び長辺7c、並びに1対の短辺7d及び短辺7eを有する。
【0073】
複数の直列腕共振子のうち、回路構成上最も入力端子3側に配置されている直列腕共振子S1のIDT電極9が、他の全てのIDT電極よりも、圧電性基板7の主面7aにおける一方の短辺7d側に位置していることが好ましい。この場合には、直列腕共振子S1のIDT電極9は、直列腕共振子S1の電極指延伸方向における一方側のみにおいて、他のIDT電極と隣接する。IDT電極は、電力を印加した際に熱源となる。上記の構成によれば、直列腕共振子S1におけるIDT電極9が隣接する熱源を減らすことができる。それによって、直列腕共振子S1におけるIDT電極9の温度上昇を効果的に抑制することができる。
【0074】
ところで、
図1に示す直列腕共振子S1は、例えば、2個以上の分割型の直列腕共振子のうちの1個であってもよい。この場合には、直列腕共振子S1及び直列腕共振子S2の間に、直列腕共振子S1以外の上記分割型の直列腕共振子が接続されている。すなわち、上記分割型の直列腕共振子を含む全ての直列腕共振子のうち、直列腕共振子S1が、回路構成上最も入力端子3側に配置されている。
【0075】
そして、直列腕共振子S1におけるIDT電極9のデューティ比の平均値が、上記分割型の直列腕共振子を含む他の全ての直列腕共振子におけるIDT電極のデューティ比の平均値を平均した値よりも小さければよい。直列腕共振子S1における縦横比[μm/本]が、上記分割型の直列腕共振子を含む他の全ての直列腕共振子における縦横比[μm/本]を平均した値よりも小さければよい。それによって、直列腕共振子S1の耐電力性を高くすることができる。
【0076】
図8は、第1の実施形態においての、複数の直列腕共振子のうち、回路構成上最も入力端子側に配置されている直列腕共振子のIDT電極における、デューティ比及び電極指ピッチの分布を示す図である。
図8における横軸は、直列腕共振子S1におけるIDT電極9の、電極指の配置に基づく位置を示す。具体的には、該横軸の数値は、IDT電極9の電極指直交方向における一方端から並ぶ、何本目の電極指が配置された位置であるかを示している。
【0077】
一方で、
図8における左側の縦軸は、IDT電極9における各位置の規格化電極指ピッチを示す。本明細書において、規格化電極指ピッチとは、IDT電極9における各位置の電極指ピッチを、IDT電極9における電極指ピッチの平均値により規格化した値である。後述する
図10及び
図12における横軸及び縦軸も、
図8と同様である。
【0078】
第1の実施形態においては、直列腕共振子S1におけるIDT電極9の電極指ピッチは一定である。そのため、IDT電極9の全体にわたり、規格化電極指ピッチは1である。IDT電極9のデューティ比は一定である。具体的には、IDT電極9のデューティ比は0.45である。なお、IDT電極9のデューティ比は上記に限定されない。
【0079】
本発明においては、IDT電極9のデューティ比及び電極指ピッチは一定ではなくともよい。この例を、第2の実施形態及び第3の実施形態により示す。なお、第2の実施形態及び第3の実施形態における回路構成は、第1の実施形態の回路構成と同様である。よって、第2の実施形態及び第3の実施形態の説明においては、直列腕共振子S1及びそのIDT電極9以外の符号は、第1の実施形態の説明に用いた符号を援用することとする。
【0080】
図9は、第2の実施形態においての、第1のフィルタ装置における直列腕共振子の模式的平面図である。
図9においては、直列腕共振子に接続されている配線などを省略している。後述する
図11においても同様である。
【0081】
直列腕共振子S21は、複数の直列腕共振子のうち、回路構成上最も入力端子3側に配置されている直列腕共振子である。本実施形態は、直列腕共振子S21におけるIDT電極29のデューティ比が一定でない点において、第1の実施形態と異なる。上記の点以外においては、本実施形態のマルチプレクサは第1の実施形態のマルチプレクサ10と同様の構成を有する。すなわち、本実施形態においては、IDT電極29の電極指ピッチは一定である。
【0082】
直列腕共振子S21におけるIDT電極29は、第1の領域B1、第2の領域B2及び第3の領域B3を有する。これらの領域は、IDT電極29を電極指直交方向において3分割した領域である。より具体的には、第2の領域B2は、IDT電極29の、電極指直交方向における中央の領域である。第1の領域B1及び第3の領域B3は、IDT電極29の、電極指直交方向における両端の領域である。
【0083】
なお、第2の実施形態以外の本発明における形態においても、直列腕共振子S21のIDT電極29に相当するIDT電極は、第1の領域B1、第2の領域B2及び第3の領域B3を有することを指摘しておく。例えば、
図3に示す第1の実施形態においては、直列腕共振子S1のIDT電極9が、上記各領域を有する。
【0084】
図9に戻り、第2の実施形態のIDT電極29においては、第1の領域B1、第2の領域B2及び第3の領域B3の電極指直交方向に沿う寸法はほぼ同じである。なお、これに限定されるものではない。例えば、第1の領域B1の電極指直交方向に沿う寸法は、IDT電極29の電極指直交方向に沿う寸法の20%以上、40%以下であってもよい。第2の領域B2及び第3の領域B3の電極指直交方向に沿う寸法も同様である。
【0085】
図10は、第2の実施形態においての、複数の直列腕共振子のうち、回路構成上最も入力端子側に配置されている直列腕共振子のIDT電極における、デューティ比及び電極指ピッチの分布を示す図である。
【0086】
直列腕共振子S21におけるIDT電極29の第1の領域B1、第2の領域B2及び第3の領域B3のそれぞれにおいては、デューティ比は一定である。もっとも、各領域において、デューティ比は一定ではなくともよい。そのため、以下においては、IDT電極29の領域同士のデューティ比を比較する際、デューティ比の平均値を用いることがある。
【0087】
IDT電極29においては、第2の領域B2におけるデューティ比の平均値が、第1の領域B1におけるデューティ比の平均値、及び第3の領域B3におけるデューティ比の平均値よりも小さい。より詳細には、第2の領域B2におけるデューティ比の平均値は0.4である。第1の領域B1におけるデューティ比の平均値、及び第3の領域B3におけるデューティ比の平均値はいずれも0.475である。なお、各領域におけるデューティ比の平均値は上記に限定されない。
【0088】
第2の実施形態においては、直列腕共振子S21の耐電力性を効果的に高くすることができる。この理由を以下において説明する。
【0089】
IDT電極29に電力を印加した際、第2の領域B2における励振の強度は、第1の領域B1及び第3の領域B3における励振の強度よりも高い。よって、第1の領域B1、第2の領域B2及び第3の領域B3のうち、第2の領域B2において発熱し易い。これに起因して、第1の領域B1、第2の領域B2及び第3の領域B3のうち、第2の領域B2においてストレスマイグレーションが生じ易い。
【0090】
これに対して、第2の領域B2においては、デューティ比の平均値が、第1の領域B1におけるデューティ比の平均値、及び第3の領域B3におけるデューティ比の平均値よりも小さい。そのため、第2の領域B2においては、電極指間の電極指直交方向における距離が長い。それによって、ストレスマイグレーションにより、一部の電極指が損傷したとしても、電極指間の短絡を抑制することができる。従って、直列腕共振子S21の耐電力性を効果的に高くすることができる。これにより、第1のフィルタ装置全体として、及びマルチプレクサ全体としての耐電力性を効果的に高くすることができる。
【0091】
第1の領域B1、第2の領域B2及び第3の領域B3の電極指直交方向に沿う寸法がほぼ同じであることが好ましい。あるいは、第1の領域B1、第2の領域B2及び第3の領域B3に含まれる電極指の本数がほぼ同じであることが好ましい。それによって、直列腕共振子S21の耐電力性を好適に高くすることができる。
【0092】
図11は、第3の実施形態においての、第1のフィルタ装置における直列腕共振子の模式的平面図である。
【0093】
直列腕共振子S31は、複数の直列腕共振子のうち、回路構成上最も入力端子3側に配置されている直列腕共振子である。本実施形態は、直列腕共振子S31におけるIDT電極39の電極指ピッチが一定でない点において第1の実施形態と異なる。上記の点以外においては、本実施形態のマルチプレクサは第1の実施形態のマルチプレクサ10と同様の構成を有する。すなわち、本実施形態においては、IDT電極39のデューティ比は一定である。
【0094】
IDT電極39においては、第1の領域B1、第2の領域B2及び第3の領域B3に含まれる電極指の本数は、ほぼ同じである。
【0095】
図12は、第3の実施形態においての、複数の直列腕共振子のうち、回路構成上最も入力端子側に配置されている直列腕共振子のIDT電極における、デューティ比及び規格化電極指ピッチの分布を示す図である。
【0096】
直列腕共振子S31におけるIDT電極39の第1の領域B1、第2の領域B2及び第3の領域B3のそれぞれにおいては、電極指ピッチは一定である。もっとも、各領域において、電極指ピッチは一定ではなくともよい。そのため、以下においては、IDT電極39の領域同士の電極指ピッチを比較する際、電極指ピッチの平均値を用いることがある。なお、
図12においては、電極指ピッチの大きさの指標として、規格化電極指ピッチを用いている。以下においては、IDT電極39の領域同士の電極指ピッチを比較する際、規格化電極指ピッチの平均値を用いることもある。
【0097】
IDT電極39においては、第2の領域B2の電極指ピッチの平均値が、第1の領域B1の電極指ピッチの平均値、及び第3の領域B3の電極指ピッチの平均値よりも小さい。より詳細には、第2の領域B2における規格化電極指ピッチの平均値は0.99である。第1の領域B1における規格化電極指ピッチの平均値、及び第3の領域B3における規格化電極指ピッチの平均値はいずれも1.005である。なお、各領域における規格化電極指ピッチの平均値は上記に限定されない。
【0098】
本実施形態においては、直列腕共振子S31の耐電力性を効果的に高くすることができる。この理由を以下において説明する。
【0099】
まず、弾性波共振子におけるIDT電極において電極指ピッチが狭いほど、該弾性波共振子の共振周波数は高い。本実施形態の直列腕共振子S31では、IDT電極39の第2の領域B2における電極指ピッチの平均値が、第1の領域B1における電極指ピッチの平均値、及び第3の領域B3における電極指ピッチの平均値よりも小さい。そのため、第2の領域B2における共振周波数は、直列腕共振子S31における共振周波数の平均値よりも高い。よって、第2の領域B2における共振周波数及び反共振周波数の中間の周波数は、直列腕共振子S31における共振周波数の平均値及び反共振周波数の中間の周波数よりも高い。
【0100】
なお、共振周波数及び反共振周波数の中間の周波数の値は、共振周波数及び反共振周波数の平均値である。同様に、共振周波数の平均値及び反共振周波数の中間の周波数の値は、共振周波数の平均値及び反共振周波数を平均した値である。以下においては、共振周波数及び反共振周波数の中間の周波数や、共振周波数の平均値及び反共振周波数の中間の周波数を、中間周波数と記載することがある。
【0101】
弾性波共振子においては、電力を印加される周波数が、共振周波数及び反共振周波数の中間の周波数付近である場合、耐電力性が特に低い。これは、共振周波数及び反共振周波数の中間の周波数付近において、励振の強度が特に大きくなるためである。
【0102】
ここで、フィルタ装置の直列腕共振子に電力が印加される周波数は、反共振周波数よりも共振周波数に近い。すなわち、本実施形態の直列腕共振子S31に電力が印加される周波数は、反共振周波数よりも共振周波数の平均値の周波数に近い。言い換えれば、直列腕共振子S31に電力が印加される周波数は、直列腕共振子S31全体における中間周波数よりも低い。
【0103】
一方で、直列腕共振子S31のIDT電極39においての第2の領域B2における中間周波数は、直列腕共振子S31全体における中間周波数よりも高い。よって、第2の領域B2においては、中間周波数を、電力が印加される周波数から効果的に遠ざけることができる。よって、第2の領域B2において、励振の強度が高くなることを抑制できる。
【0104】
他方、第1の領域B1における電極指ピッチの平均値は、第2の領域B2における電極指ピッチの平均値よりも大きい。そのため、第1の領域B1における共振周波数は、直列腕共振子S31における共振周波数の平均値よりも低い。よって、第1の領域B1における中間周波数は、直列腕共振子S31全体における中間周波数よりも低い。このことから、第1の領域B1においては、電力が印加される周波数に中間周波数が近づき易く、励振の強度は高くなり易い。第3の領域B3においても同様である。
【0105】
もっとも、第1の領域B1はIDT電極39の中央には位置していない。そのため、第1の領域B1では、励振の強度は高くはなく、発熱し難い。よって、第1の領域B1においては、電極指ピッチに起因して励振の強度が高くなっても、耐電力性は低くなり難い。第3の領域B3においても同様である。一方で、IDT電極39の中央に位置している第2の領域B2においては、上記のように、励振の強度が高くなることを抑制できる。それによって、第2の領域B2における発熱を抑制することができ、耐電力性を高くすることができる。
【0106】
以上のように、直列腕共振子S31のIDT電極39内における耐電力性を均等に近づけることができ、直列腕共振子S31の耐電力性を効果的に高くすることができる。これにより、第1のフィルタ装置全体として、及びマルチプレクサ全体としての耐電力性を効果的に高くすることができる。
【0107】
なお、直列腕共振子S31は、本実施形態及び上記第2の実施形態の双方の構成を有していてもよい。
【0108】
第1の領域B1、第2の領域B2及び第3の領域B3の電極指直交方向に沿う寸法がほぼ同じであることが好ましい。あるいは、第1の領域B1、第2の領域B2及び第3の領域B3に含まれる電極指の本数がほぼ同じであることが好ましい。それによって、直列腕共振子S31の耐電力性を好適に高くすることができる。
【0109】
以下において、本発明に係るフィルタ装置及びマルチプレクサの形態の例をまとめて記載する。
【0110】
<1>入力端子及び出力端子と、複数の直列腕共振子と、少なくとも1個の並列腕共振子と、を備え、各前記直列腕共振子及び前記並列腕共振子が、圧電性基板上にIDT電極が設けられていることにより構成されている弾性波共振子であり、各前記IDT電極が複数の電極指を有し、各前記IDT電極において、前記複数の電極指が延びる方向が電極指延伸方向、前記電極指延伸方向と直交する方向が電極指直交方向であり、各前記直列腕共振子及び前記並列腕共振子が、前記電極指直交方向から見たときに、隣り合う前記電極指同士が重なり合っている領域である交叉領域を有し、前記複数の直列腕共振子のうち、回路構成上最も前記入力端子側に配置されている前記直列腕共振子における前記IDT電極のデューティ比の平均値が、他の全ての前記直列腕共振子における前記IDT電極のデューティ比の平均値を平均した値よりも小さく、前記交叉領域の前記電極指直交方向に沿う寸法を交叉幅とし、前記交叉幅を前記複数の電極指の本数により割った値を縦横比としたときに、前記複数の直列腕共振子のうち、回路構成上最も前記入力端子側に配置されている前記直列腕共振子における前記縦横比が、他の全ての前記直列腕共振子における前記縦横比を平均した値よりも小さい、フィルタ装置。
【0111】
<2>全ての前記直列腕共振子及び全ての前記並列腕共振子のうち、前記直列腕共振子のみが、回路構成上最も前記入力端子側に配置されている、<1>に記載のフィルタ装置。
【0112】
<3>前記圧電性基板上に複数のバンプが設けられており、前記複数の直列腕共振子のうち、回路構成上最も前記入力端子側に配置されている前記直列腕共振子の前記IDT電極が、2つの前記バンプの間に配置されている、<1>または<2>に記載のフィルタ装置。
【0113】
<4>前記圧電性基板が主面を有し、該主面の形状が矩形であり、該主面が1対の長辺及び1対の短辺を有し、該主面に複数の前記IDT電極が設けられており、前記複数の直列腕共振子のうち、回路構成上最も前記入力端子側に配置されている前記直列腕共振子の前記IDT電極が、他の全ての前記IDT電極よりも、前記圧電性基板の前記主面における一方の前記短辺側に位置している、<1>~<3>のいずれか1つに記載のフィルタ装置。
【0114】
<5>前記複数の直列腕共振子のうち、回路構成上最も前記入力端子側に配置されている前記直列腕共振子と、該直列腕共振子の前記電極指延伸方向において隣接している前記弾性波共振子が、全ての前記直列腕共振子のうち前記縦横比が最も大きい前記直列腕共振子以外の前記弾性波共振子である、<1>~<4>のいずれか1つに記載のフィルタ装置。
【0115】
<6>前記複数の直列腕共振子のうち、回路構成上最も前記入力端子側に配置されている前記直列腕共振子における前記縦横比が、全ての前記直列腕共振子における前記縦横比のうち最も小さい、<1>~<5>のいずれか1つに記載のフィルタ装置。
【0116】
<7>前記複数の直列腕共振子のうち、回路構成上最も前記入力端子側に配置されている前記直列腕共振子における前記IDT電極の前記複数の電極指の本数が、全ての前記直列腕共振子における前記IDT電極の前記複数の電極指の本数のうち最も多く、前記複数の直列腕共振子のうち、回路構成上最も前記入力端子側に配置されている前記直列腕共振子における前記交叉幅が、全ての前記直列腕共振子における前記交叉幅のうち最も狭い、<1>~<6>のいずれか1つに記載のフィルタ装置。
【0117】
<8>前記複数の直列腕共振子のうち、回路構成上最も前記入力端子側に配置されている前記直列腕共振子における前記IDT電極を、前記電極指直交方向において3分割したときにおける中央の領域におけるデューティ比の平均値が、両端の領域におけるデューティ比の平均値よりも小さい、<1>~<7>のいずれか1つに記載のフィルタ装置。
【0118】
<9>前記複数の直列腕共振子のうち、回路構成上最も前記入力端子側に配置されている前記直列腕共振子における前記IDT電極を、前記電極指直交方向において3分割したときにおける中央の領域における電極指ピッチの平均値が、両端の領域における電極指ピッチの平均値よりも小さい、<1>~<8>のいずれか1つに記載のフィルタ装置。
【0119】
<10>少なくとも1個の送信フィルタを含む複数のフィルタ装置を備え、前記複数のフィルタ装置のうち少なくとも1個の前記送信フィルタ装置が、<1>~<9>のいずれか1つに記載のフィルタ装置である、マルチプレクサ。
【符号の説明】
【0120】
1A,1B…第1,第2のフィルタ装置
2…共通接続端子
3…入力端子
4…出力端子
5…基準電位端子
6…縦結合共振子型弾性波フィルタ
7…圧電性基板
7a…主面
7b,7c…長辺
7d,7e…短辺
8…バンプ
9…IDT電極
10…マルチプレクサ
12A,12B…反射器
12a,12b…反射器バスバー
12c…反射器電極指
13…入力端子
14…出力端子
16,17…第1,第2のバスバー
18,19…第1,第2の電極指
29,39…IDT電極
101A…第1のフィルタ装置
A…交叉領域
B1~B3…第1~第3の領域
L1,L2…インダクタ
P1~P4…並列腕共振子
S1~S5,S11,S21,S31…直列腕共振子