(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025017144
(43)【公開日】2025-02-05
(54)【発明の名称】構造体及び耐火ポリマーセメントモルタル
(51)【国際特許分類】
C04B 28/02 20060101AFI20250129BHJP
C04B 24/26 20060101ALI20250129BHJP
C04B 18/08 20060101ALI20250129BHJP
C04B 16/06 20060101ALI20250129BHJP
E04G 23/02 20060101ALI20250129BHJP
C04B 14/02 20060101ALI20250129BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B24/26 C
C04B24/26 F
C04B18/08 Z
C04B16/06 B
E04G23/02 B
C04B14/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023120056
(22)【出願日】2023-07-24
(71)【出願人】
【識別番号】000105648
【氏名又は名称】コニシ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100206151
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 惇志
(74)【代理人】
【識別番号】100218187
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 治子
(74)【代理人】
【識別番号】100227673
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 光起
(74)【代理人】
【識別番号】100231038
【弁理士】
【氏名又は名称】正村 智彦
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 慎祐
(72)【発明者】
【氏名】野村 幸弘
【テーマコード(参考)】
2E176
4G112
【Fターム(参考)】
2E176AA01
2E176BB14
2E176BB15
4G112MD00
4G112PA24
4G112PA27
4G112PB30
4G112PB31
(57)【要約】
【課題】良好な角成形性と耐火性とを両立可能なポリマーセメントモルタル及びこれを含有する構造体を提供する。
【解決手段】コンクリートと、耐火ポリマーセメントモルタル硬化物とを含む構造体であって、前記耐火ポリマーセメントモルタル硬化物が、セメント水和物と、中空性細骨材と、酢酸ビニル、バーサチック酸ビニル、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルからなる群より選ばれる1種以上を重合してなる樹脂と、を含有することを特徴とする構造体。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造物と、耐火ポリマーセメントモルタル硬化物とを含む構造体であって、前記耐火ポリマーセメントモルタル硬化物が、
セメント水和物と、
中空性細骨材と、
酢酸ビニル、バーサチック酸ビニル、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルからなる群より選ばれる1種以上を重合してなる樹脂と、を含有することを特徴とする構造体。
【請求項2】
前記耐火ポリマーセメントモルタル硬化物中の前記中空性細骨材の含有量が10質量%以上50質量%以下である、請求項1に記載の構造体。
【請求項3】
前記耐火ポリマーセメントモルタル硬化物中の前記樹脂の含有量が0.5質量%以上10質量%以下である、請求項1に記載の構造体。
【請求項4】
前記中空性細骨材の平均粒径が75μm以上600μm以下である、請求項1に記載の構造体。
【請求項5】
前記中空性細骨材がフライアッシュバルーンである、請求項1に記載の構造体。
【請求項6】
前記耐火ポリマーセメントモルタル硬化物が、ビニロン繊維をさらに含有する、請求項1に記載の構造体。
【請求項7】
水硬性セメントと、
中空性細骨材と、
酢酸ビニル、バーサチック酸ビニル、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルからなる群より選ばれる1種以上を重合してなる樹脂と、
を含有する耐火ポリマーセメントモルタル組成物。
【請求項8】
請求項7に記載の耐火ポリマーセメントモルタル組成物と、水と、を含有する耐火ポリマーセメントモルタル混合物であり、
フロー値が100mm以上120mm以下である、耐火ポリマーセメントモルタル混合物。
【請求項9】
コンクリート構造物と耐火ポリマーセメントモルタル組成物とを用いて構造体を製造する方法であって、
前記耐火ポリマーセメントモルタル組成物が、
水硬性セメントと、
中空性細骨材と、
酢酸ビニル、バーサチック酸ビニル、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルからなる群より選ばれる1種以上を重合してなる樹脂と、を含有するものであることを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐火ポリマーセメントモルタル組成物、該耐火ポリマーセメントモルタル硬化物を含む構造体及び耐火ポリマーセメントモルタル組成物を使用した構造体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンクリート構造物の断面補修においては、手で充填してコテなどで簡単に角を成型できる角成形性が良好な補修材が求められている。
このような補修材として、特許文献1のように、角成形性を有するポリマーセメントモルタル組成物と水とを混合した混合物が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1記載のポリマーセメントモルタル組成物を用いて形成される硬化物は耐火性を有しておらず用途が限られている。一方で、耐火性を有する硬化物を形成可能なポリマーセメントモルタル組成物も存在するが、このポリマーセメントモルタル組成物と水とを混合して得られた混合物は角成形性が無く作業性が不十分であるという課題があった。
【0005】
本発明は、この課題を解決すべく鋭意検討した発明者が、使用するポリマーの種類とフィラーの種類との組み合わせを特定のものとすることにより、良好な角成形性と耐火性とを両立可能なポリマーセメントモルタル組成物を作製することができることを見出して初めて完成したものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明に係る構造体、耐火ポリマーセメントモルタル組成物及び構造体の製造方法は、以下のようなものである。
[1]コンクリート構造物と、耐火ポリマーセメントモルタル硬化物とを含む構造体であって、前記耐火ポリマーセメントモルタル硬化物が、セメント水和物と、中空性細骨材と、酢酸ビニル、バーサチック酸ビニル、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルからなる群より選ばれる1種以上を重合してなる樹脂と、を含有することを特徴とする構造体。
[2]前記耐火ポリマーセメントモルタル硬化物中の前記中空性細骨材の含有量が10質量%以上50質量%以下である、[1]に記載の構造体。
[3]前記耐火ポリマーセメントモルタル硬化物中の前記樹脂の含有量が0.5質量%以上10質量%以下である、[1]又は[2]に記載の構造体。
[4]前記中空性細骨材の平均粒径が75μm以上600μm以下である、[1]~[3]のいずれかに記載の構造体。
[5]前記中空性細骨材がフライアッシュバルーンである、[1]~[4]のいずれかに記載の構造体。
[6]前記耐火ポリマーセメントモルタルが、ビニロン繊維をさらに含有する、[1]~[5]のいずれかに記載の構造体。
[7]水硬性セメントと、中空性細骨材と、酢酸ビニル、バーサチック酸ビニル、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルからなる群より選ばれる1種以上を重合してなる樹脂と、を含有する耐火ポリマーセメントモルタル組成物。
[8][7]に記載の耐火ポリマーセメントモルタル組成物と、水と、を含有する耐火ポリマーセメントモルタル混合物であり、前記耐火ポリマーセメントモルタルのフロー値が100mm以上120mm以下である、耐火ポリマーセメントモルタル混合物。
[9]コンクリート構造物と耐火ポリマーセメントモルタル組成物とを用いて構造体を製造する方法であって、前記耐火ポリマーセメントモルタル組成物が、水硬性セメントと、中空性細骨材と、酢酸ビニル、バーサチック酸ビニル、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルからなる群より選ばれる1種以上を重合してなる樹脂と、水とを含有するものであることを特徴とする方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、良好な角成形性と耐火性とを両立可能なポリマーセメントモルタル組成物を提供することができる。
このような耐火ポリマーセメントモルタル組成物によれば、耐火性を有するポリマーセメントモルタル組成物でありながら、例えば、コンクリート構造物に形成された凹部や欠損箇所を補修する場合等であっても、型枠を使用せず手できれいに角を形成することができるため、ポリマーセメントモルタル組成物の用途をさらに広げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施形態に係る耐火ポリマーセメントモルタル硬化物を含む構造体の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本実施形態に係る耐火ポリマーセメントモルタル組成物は、例えば、以下のようなものである。
【0010】
本実施形態に係る耐火ポリマーセメントモルタル組成物は、水硬性セメントと、細骨材と、樹脂と、を含有するものであり、この耐火ポリマーセメントモルタル組成物に水を添加し混合することによって耐火ポリマーセメントモルタル混合物を得ることができる。さらにこの耐火ポリマーセメントモルタル混合物中の水硬性セメントと水とが反応し、水硬性セメントが水和することで耐火ポリマーセメントモルタル硬化物が得られる。ここで、耐火とは後述する小型耐火炉による耐爆裂試験において状態I~IIIであることを言う。
【0011】
水硬性セメントは、従来、モルタルを得るのに用いられている公知のものであれば、どのようなものでも用いることができる。例えば、JIS R 5210(ポルトランドセメント)に規定されている普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント等;JIS
R 5211(高炉セメント)に規定されている高炉セメント;JIS R 5212(シリカセメント)に規定されているシリカセメント;JIS R 5213(フライアッシュセメント)に規定されているフライアッシュセメント;JIS R 5214(エコセメント)に規定されているエコセメント、普通エコセメント、速硬エコセメント等;アルミナセメント等を)用いることができる。これら水硬性セメントは単独で用いても良いし、複数種類を混合して用いるものとしても良い。
【0012】
細骨材として、中空性細骨材を含む。中空性細骨材は、例えば、フライアッシュバルーン、シラスバルーン、ガラスバルーン、樹脂バルーン、火山灰土、メサライト、アサノライト等を用いることができる。使用できる中空性細骨材としては、例えば、太平洋セメント株式会社製イースフィアーズSLG、イースフィアーズSL150、イースフィアーズSL300、ポゾスフィアーズ600、昭和化学工業株式会社製ハードライトB04が例示される。
【0013】
細骨材の平均粒径は75μm以上600μm以下であることが好ましい。細骨材の平均粒径は、80μm以上400μm以下であることがより好ましく、100μm以上350μm以下であることがさらに好ましい。
比重の軽い中空性細骨材を用いた方が、耐火ポリマーセメントモルタル組成物の重量が軽くなり、耐火ポリマーセメントモルタル組成物の自重によるダレが生じにくくなるので、中空性細骨材の比重(嵩比重)は、概ね0.6以下のものを用いるのが好ましい。なお、耐火ポリマーセメントモルタル硬化物全体としての比重は1.4未満であることが好ましく、1.1未満であることがより好ましい。
【0014】
耐火ポリマーセメントモルタル組成物中又は耐火ポリマーセメントモルタル硬化物中における細骨材の含有量は、耐火ポリマーセメントモルタル組成物又は耐火ポリマーセメントモルタル硬化物全体を100質量%とした場合に10質量%以上70質量%以下であることが好ましく、20質量%以上60質量%以下であることがより好ましい。
【0015】
耐火ポリマーセメントモルタル組成物中又は耐火ポリマーセメントモルタル硬化物中の細骨材含有量を10質量%以上とすれば、得られた耐火ポリマーセメントモルタル混合物にダレが生じることを抑制することができる。耐火ポリマーセメントモルタル組成物中又は耐火ポリマーセメントモルタル硬化物中の細骨材含有量を70質量%以下とすれば、得られた耐火ポリマーセメントモルタル混合物がパサパサの状態となることを抑えて作業性を向上させることができ、また耐火ポリマーセメントモルタル硬化物において十分な強度を得ることができる。
【0016】
細骨材として中実のものを含むものとしても良いが、細骨材全体に対しての中空性細骨材の含有量が50質量%以上であることが好ましく、65質量%以上であることがさらに好ましく、80%以上であることが特に好ましい。細骨材として中空性細骨材のみを使用するものとしても良い。
耐火ポリマーセメントモルタル組成物中又は耐火ポリマーセメントモルタル硬化物中における中空性細骨材の含有量は、耐火ポリマーセメントモルタル組成物又は耐火ポリマーセメントモルタル硬化物全体を100質量%とした場合に10質量%以上50質量%以下であることが好ましく、20質量%以上45質量%以下であることがより好ましい。
【0017】
樹脂は、酢酸ビニル、バーサチック酸ビニル、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルからなる群より選ばれる1種以上を重合又は共重合してなる重合体を含有する。樹脂として、前述した重合体以外のものを含有するものとしても良いが、前記樹脂が前記重合体からなるものであることが好ましい。
前記重合体の具体例としては、酢酸ビニル・ビニルバーサテート、酢酸ビニル・ビニルバーサテート・アクリル、エチレン酢酸ビニル、アクリル等を挙げることができる。
【0018】
使用できる樹脂としては、例えば、ジャパンコーティングレジン株式会社製モビニールパウダーDM2072P、モビニールパウダーDM201P、モビニールパウダーDM2077P、モビニールパウダーDM1645P、モビニールパウダーDM7000Pが例示される。
【0019】
耐火ポリマーセメントモルタル組成物中又は耐火ポリマーセメントモルタル硬化物中における前記樹脂の含有量は、耐火ポリマーセメントモルタル組成物又は耐火ポリマーセメントモルタル硬化物全体を100質量%とした場合に0.5質量%以上10質量%以下であることが好ましく、1質量%以上10質量%以下であることがより好ましく、2質量%以上6質量%以下であることが特に好ましい。
【0020】
水は、耐火ポリマーセメントモルタル混合物を取り扱いやすくし、かつ水硬性セメントを水和させるために添加されるものであるが、耐火ポリマーセメントモルタル混合物の流動性が大きくなり過ぎることによりダレが発生したり、流動性が低すぎることにより成形性が悪くなったりすることを抑制するために、耐火ポリマーセメントモルタル混合物における水硬性セメントと水との質量比(水/水硬性セメント)を0.3以上0.6以下とすることが好ましい。これらの質量比を0.3以上とすることにより、パサパサで作業性の悪い混合物となることを抑制するだけでなく、水硬性セメントの水和反応に必要な水分量を確保してこれを硬化させた耐火ポリマーセメントモルタル硬化物に必要な物性を与えることができる。また、これらの質量比を0.6以下にすることにより、耐火性ポリマーセメントモルタル混合物のダレを抑制するだけでなく、耐火ポリマーセメントモルタル硬化物に必要な物性を獲得することができる。
【0021】
耐火ポリマーセメントモルタル組成物、混合物及び硬化物は、前述した以外に種々の添加剤を含有するものとしても良い。
前記添加剤としては、保水剤(増粘剤)、化学混和剤、鉱物質混和材、短繊維、消泡剤、遅延剤等を挙げることができる。
【0022】
保水剤としては、メチルセルロース(MC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシエチルメチルセルロース(HEMC)、メチルヒドロキシエチルセルロース(MHEC)、メチルヒドロキシプロピルセルロース(MHPC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)等のセルロース誘導体;変性ポリサッカライド;ヒドロキシプロピルグァーガム誘導体;ポリアクリル酸ソーダ、ポリアクリルアミド、部分スルホン化ポリアクリルアミド等のアクリル系増粘剤;カードラン,ウェランガム,ポリビニルアルコール(PVA) 等の水溶性ポリマー等を単独で又は混合して用いることができる。
【0023】
化学混和剤としては、JIS A 6204(コンクリート用化学混和剤)に規定されているAE剤、減水剤、AE減水剤、高性能減水剤等を用いることができる。
【0024】
鉱物質混和材としては、JIS A 6201(コンクリート用フライアッシュ) に規定されているフライアッシュ;JIS A 6202(コンクリート用高炉スラグ微粉末) に規定されている高炉スラグ微粉末;JIS A 6207(コンクリート用シリカフューム) に規定されているシリカフューム等を用いることができる。
【0025】
短繊維としては、例えば、ビニロン繊維、ナイロン繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維等を挙げることができる。
消泡剤としては、例えば、ポリエーテル系消泡剤、シリコーン系消泡剤、高級アルコール系消泡剤等を挙げることができる。
水硬性セメントの凝固を遅らせる遅延剤としては、例えば、グルコン酸ナトリウム、グルコン酸カリウム、グルコン酸カルシウム、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、クエン酸カルシウム、酒石酸ナトリウム、酒石酸カリウム、酒石酸カルシウム等を挙げることができる。
なお、前述した各添加剤は必須成分ではなく、これらの物質を用いなくても、ダレがなく作業性が良く、十分な耐火性を有する耐火ポリマーセメントモルタル組成物、混合物及び硬化物を得ることができる。
【0026】
本実施形態に係る耐火ポリマーセメントモルタル組成物は、前述した各成分を質量比で、適宜混合すれば得ることができる。混合の順序は、どのようであってもよい。耐火ポリマーセメントモルタル組成物を用いて耐火ポリマーセメントモルタル混合物を調整する方法も特に限られず、例えば、水硬性セメントと細骨材と樹脂とを含有する粉末組成物に水を添加すればよい。樹脂を予め水に溶解又は分散させておいて、水硬性セメントと細骨材を含有する粉末組成物に添加混合して耐火ポリマーセメントモルタル混合物を調整するものとしてもよい。
【0027】
本実施形態に係る耐火ポリマーセメントモルタル組成物及び混合物は、前述したように水硬性セメントと水の一部が水和することによって硬化して水和反応に使用されなかった水が揮発することにより耐火ポリマーセメントモルタル硬化物となり、その強度を発揮するものであり、例えば、
図1に示すように、既設のコンクリート構造物とともに構造体を形成することができるものである。
【0028】
本実施形態に係る耐火ポリマーセメントモルタル組成物及び/又は混合物は、例えば、従来のコンクリート構造物の断面修復用に用いられていたモルタル組成物や混合物と同様の方法で用いることができる。
具体的には、鉄筋コンクリート構造物中のコンクリートのひび割れや欠落等の欠損部に、耐火ポリマーセメントモルタル混合物を充填する。この充填は手で行ってもよいし、コテで行ってもよい。この充填は、例えば、団子状に纏めた耐火ポリマーセメントモルタル混合物を用いて一度に充填しても良いし、耐火ポリマーセメントモルタル混合物を塗り継ぎながら充填してもよい。
【0029】
必要に応じて、コンクリート構造物と耐火ポリマーセメントモルタル混合物及び/又は硬化物との接着性を高めるためにプライマーを予めコンクリート表面に塗布しておき、コンクリート構造物と耐火ポリマーセメントモルタル混合物及び/又は硬化物との間にプライマー層を形成するものとしても良い。プライマーにはエマルジョン系プライマーやエポキシ樹脂系プライマーなどがあり、接着性を高めるためにはエポキシ樹脂系プライマーを使用することが好ましい。
本実施形態に係る耐火ポリマーセメントモルタル組成物は、前述したような鉄筋コンクリート構造物の断面修復用としてだけでなく、コンクリート構造物と耐火ポリマーセメントモルタル硬化物を含有する構造体を新しく製造する場合にも使用できる他、様々な用途に広く利用することができるものである。
【0030】
本実施形態に係る耐火ポリマーセメントモルタル混合物は、流動性が殆ど無く、ダレの生じないものであって、フロー値が100mm以上120mm以下の範囲内であることが好ましく、105mm以上115mm以下の範囲内であることがより好ましい。ここで、フロー値とは、JIS R 5201(セメント物理試験方法)の11に記載されているフロー試験に基づいて得られる値である。なお、ここでは耐火性ポリマーセメントモルタル組成物と水とを混合攪拌して得た後、10分間静置したものを試料として用いて、フロー値を測定した。フロー値が100mmというのは、全く流動性を示さないということである。フロー値が120mmを超えるとダレが生じやすくなる。このフロー値が100mm以上120mm以下の範囲内の耐火性ポリマーセメントモルタル混合物であれば、ほとんど流動性がなく非流動性と表現することができるものである。
【0031】
本実施形態に係る耐火ポリマーセメントモルタル混合物は前述したように殆ど流動性が低いために、手で充填することができ、作業性に優れている。そして、充填した後、耐火ポリマーセメントモルタル混合物の表面をコテや手でならせば良い。本発明に係る耐火ポリマーセメントモルタル混合物は流動性が低いものの、コテや手で容易にならし、かつ角を成形したい場合には、コテや手で整形するだけで簡単できれいに角を出すことも可能である。
【0032】
本発明は前述した実施形態に限られず、本発明の趣旨に反しない限りにおいて、種々の変形や実施形態の組合せを行ってもかまわない。
【実施例0033】
以下に、実施例を挙げて本願発明についてより詳細に説明するが、本願発明はこれらに限られない。
【0034】
<耐火ポリマーセメントモルタル組成物及び混合物の調整>
以下の表1に示す組成のポリマーセメントモルタル組成物を調製し、表1に記載の量の水をさらに添加してポリマーセメントモルタル混合物(供試モルタル)を得た。表1中の組成について特に単位が付されていない数値の単位は全てg(グラム)である。また、表1に使用した各成分の名称やメーカーなどを表2に示す。
【0035】
【0036】
【0037】
表1に記載の実施例及び比較例のポリマーセメントモルタル組成物、この組成物に水を添加混合した混合物(供試モルタル)及びこれを硬化させた硬化物(供試体)について、以下の実験を行うことにより性能を評価し、結果を表1及び表3に記載した。
<(水/水硬性セメント)質量比>
供試モルタル中の水硬性セメントに対する水の質量比を算出した。
【0038】
<硬化物中の細骨材比率・硬化物中の中空性細骨材比率・硬化物中の樹脂比率>
供試モルタルを縦40mm×横40mm×高さ160mmに成形した後、温度20℃、湿度60%の条件で28日間養生を行って、供試体を得た。成形した直後の供試モルタルと28日養生後の供試体の重量を計測し、それらの差が水和反応に使用されずに揮発した水分量とみなし、硬化物中に含まれる水分量を算出した。水以外の粉体成分は組成物と硬化物では変わらないため、算出した硬化物中の水分量を使用して、硬化物全体を100質量%とした場合の細骨材、中空性細骨材、樹脂の各質量%を算出し表1に記載した。
【0039】
<耐爆裂試験(耐火性試験)>
温度20℃、湿度60%の条件で30cm×30cm×6cmのコンクリート平板にエポキシ樹脂系プライマー(ボンド ユニエポ補修用プライマー コニシ株式会社製)を塗布(塗布量:300 g/m2)し、30分養生後、実施例又は比較例の供試モルタルを3cm厚で塗布し、コテで仕上げを行って28日間養生し、供試体を作製した。なお、供試モルタルのコテ仕上げ面から深さ1cmの位置に剥落防止層(メッシュ層)を設置して作製した。この供試体を小型耐火炉内に設置し、ISOの標準加熱曲線に従って一時間加熱した。加熱終了後、炉内温度が200℃以下になってから供試体を炉内から取り出し、損傷状態を観察し以下の基準で状態を分類した。なお、この試験において状態I~IIIである場合には耐火性を有するものと判断できる。なお、この試験は、独立行政法人建築研究所発行している「建築研究報告」のNo.147「鉄筋コンクリート造建築物のかぶり厚さ確保に関する研究」、濱崎仁ら著(2013年)に記載された爆裂性試験に基づいて行われたものである。
状態I:ひび割れは発生するが剥落・爆裂がない状態。
状II:爆裂がなく脱落防止用メッシュより表層のみに部分的な剥落が発生した状態。
状態III:表層のみに部分的な剥落・爆裂が発生した状態。
状態IV:部分的に脱落防止用メッシュより内部が爆裂した状態。
状態V:ほぼ全面的に脱落防止用メッシュより内部が爆裂した状態。
【0040】
<作業性1:手での取り扱いやすさ>
供試モルタルを採取して手でまとめ、コンクリート構造物の欠損部へ充填する際の塗付けやすさを、以下の四段階で評価した。
◎:供試モルタルが手で団子状にまとまり、容易に施工可能であった。
〇:供試モルタルが若干パサつくものの施工可能であった。
△:供試モルタルが若干手について塗付けにくいが、施工可能であった。
×:供試モルタルが手ですくえない。ベチャベチャ手について塗付けられず、施工不能であった。
【0041】
<作業性2:塗継ぎ性>
厚みを付けるために、供試モルタルを複層充填する際の塗継性を、以下の四段階で評価した。
◎:供試モルタルの塗継面で剥離を生じることなく、容易に2層で5cm程度の厚みが付けられた。
〇:供試モルタルに若干の振動や力を加えれば、塗継可能であった。
△:供試モルタルを塗継ぐことができないが、塗継ぎ界面に水やプライマーを塗布することや、振動又は力を加えることで塗継ぎが可能であった。
×:供試モルタルを塗継ぐことができなかった。
【0042】
<作業性3:コテでの取扱い性>
供試モルタルを充填した後、その表面をコテでならすとき、そのならしやすさを、以下の四段階で評価した。
◎:コテに供試モルタルが付着しにくく、容易に均しやすく、且つ、成形が可能であった。
〇:コテに供試モルタルが若干付着するが、コテを軽く清掃すれば、容易に均しやすく、且つ、成形が可能であった。
△:コテに供試モルタルが若干付着し、均し及び成形に手間を要した。
×:コテに供試モルタルが付着し、均し及び成形が困難であった。
【0043】
<作業性4:隅角部の成形及びダレにくさ>
供試モルタルを縦10cm×横10cm×厚さ3cmとなるように、コンクリート平板に塗付けた後、コンクリート平板を垂直に立てて、供試モルタルを温度23度、湿度50%の条件で1日養生させた後、隅角部の成形性と、1日養生後の隅角部の頂点の変位を測定し、以下の四段階でダレ性を評価した。
◎:隅角部の成形性が容易であり、硬化後における隅角部の頂点は、その変位が0mmであった。
〇:隅角部の成形性が容易であり、硬化後における隅角部の頂点は、その変位が2mm以内であった。
△:隅角部の成形は困難であった。(成形可能であったが、手間を要した。)
×:隅角部の成形が不能であった。
【0044】
[フロー値]
供試モルタルをJIS R 5201(セメント物理試験方法)の12に記載されているフロー試験に基づいて計測した。
[曲げ強さ試験及び圧縮強さ試験]
JIS A 1171の記載に準じて、供試体の曲げ強さ及び圧縮強さを測定した。すなわち、供試モルタルを縦40mm×横40mm×高さ160mmに成形した後、20℃で90%の条件で2日間湿空養生を行った。その後、20℃で60%の条件下で26日間乾燥養生を行って、供試体を得た。そして、この供試体の曲げ強さ(N/mm2)及び圧縮強さ(N/mm2)を測定した。
【0045】
[見掛け密度]
供試モルタルを縦40mm×横40mm×高さ160mmに成形した後、20℃で60%の条件で28日間養生を行って、ポリマーセメントモル硬化物(供試体)を得た。この供試体の見掛け密度を、次式を用いて算出した。
見掛け密度(g/cm3)=供試体の質量(g)/供試体の体積(cm3)
【0046】
【0047】
<実施例及び比較例についての考察>
表1の結果から、実施例1~10によれば、中空性細骨材と特定の樹脂とを組み合わせて使用していることにより十分な耐火性を有する硬化物を得ることができたことが分かる。また、表3の結果からこれら実施例に係る耐火ポリマーセメントモルタル混合物によれば十分な角成形性だけでなくその他の作業性についても兼ね備えたものとできたことが分かった。
【0048】
また、表1の実施例1~10においては、(樹脂/水硬化セメント)の質量比が0.1のものを示したが、この質量比を各樹脂の種類について0.05から0.15まで変化させて実験を行った結果、(樹脂/水硬化セメント)の質量比が0.05以上0.15以下の範囲においては高い耐火性を発揮できる硬化物を得られることが確かめられている。より具体的には、樹脂としてDM201P又はDM2077Pを使用した場合には、(樹脂/水硬化セメント)の質量比が0.05以上0.15以下の範囲においていずれも硬化物が高い耐火性を示すことが分かった。樹脂としてDM2072Pを用いた場合には(樹脂/水硬化セメント)の質量比が0.05の場合に0.1以上の場合よりも高い耐火性を示す硬化物が得られることが分かった。樹脂としてDM7000Pを用いた場合には(樹脂/水硬化セメント)の質量比が0.05以上0.10以下の範囲において0.15以上の場合よりも高い耐火性を示す硬化物を得られることが分かった。
【0049】
一方で、細骨材として中空性細骨材を使用しているものの樹脂としてSBRを使用している比較例1や、実施例と同じく酢酸ビニル・ビニルバーサテート・アクリルを使用しているものの細骨材として中実細骨材である砂だけを使用した比較例2においては、耐火性が全く発揮できない結果となった。