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特開2025-1719デジタル信号の解析方法、及びオーディオ機器の評価方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025001719
(43)【公開日】2025-01-09
(54)【発明の名称】デジタル信号の解析方法、及びオーディオ機器の評価方法
(51)【国際特許分類】
   H03M 1/10 20060101AFI20241226BHJP
【FI】
H03M1/10 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023101354
(22)【出願日】2023-06-21
(71)【出願人】
【識別番号】523233400
【氏名又は名称】梶崎 弘一
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】梶崎 弘一
【テーマコード(参考)】
5J022
【Fターム(参考)】
5J022AA01
5J022AB01
5J022AC03
5J022AC04
5J022AC05
5J022BA00
5J022CA00
5J022CF02
(57)【要約】
【課題】簡易な方法で位相歪みを相殺することができるため、オーディオ機器の評価に有用となる、デジタル信号の解析方法、及びこれを利用したオーディオ機器の評価方法を提供する。
【解決手段】デジタル信号同士を比較して解析するデジタル信号の解析方法であって、デジタル信号DS0をDA変換器1で変換する第1DA変換工程S1と、得られた第1アナログ信号AS1をAD変換器2で変換する第1AD変換工程S2と、得られた第1デジタル信号DS1の時間軸を反転させる反転工程S3と、得られた反転第1デジタル信号RDS1を前記DA変換器4で変換する第2DA変換工程S4と、得られた第2アナログ信号AS2を前記AD変換器5で変換する第2AD変換工程S5と、得られた第2デジタル信号DS2の時間軸を反転させる再反転工程S6と、基準デジタル信号と得られた再反転デジタル信号DS3とを比較する比較工程とを含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
デジタル信号同士を比較して解析するデジタル信号の解析方法であって、
デジタル信号をDA変換器で変換する第1DA変換工程と、
前記第1DA変換工程を経て得られた第1アナログ信号をAD変換器で変換する第1AD変換工程と、
前記第1AD変換工程を経て得られた第1デジタル信号の時間軸を反転させる反転工程と、
前記反転工程を経て得られた反転第1デジタル信号を前記DA変換器で変換する第2DA変換工程と、
前記第2DA変換工程を経て得られた第2アナログ信号を前記AD変換器で変換する第2AD変換工程と、
前記第2AD変換工程を経て得られた第2デジタル信号の時間軸を反転させる再反転工程と、
前記第1DA変換工程を経る前の基準デジタル信号と前記再反転工程を経て得られた再反転デジタル信号とを比較する比較工程と、
を含むデジタル信号の解析方法。
【請求項2】
前記比較工程の前処理工程として、信号の開始位置の不一致を整合させる工程、振幅の不一致を整合させる工程、サンプリング周波数の不一致を整合させる工程、及びサンプリング位相の不一致を整合させる工程からなる群から選択される1種以上の工程を含む、請求項1記載のデジタル信号の解析方法。
【請求項3】
前記比較工程が、前記基準デジタル信号と前記再反転デジタル信号のサンプリング毎の差分を計算する工程を含む、請求項2記載のデジタル信号の解析方法。
【請求項4】
前記第1DA変換工程で得られたアナログ信号を増幅器で増幅する第1増幅工程と、第2DA変換工程で得られたアナログ信号を前記増幅器で増幅する第2増幅工程とを含む、請求項1記載のデジタル信号の解析方法。
【請求項5】
前記第1DA変換工程で得られたアナログ信号を増幅器で増幅してスピーカーから出力しつつ、マイクで収音する第1出力収音工程と、第2DA変換工程で得られたアナログ信号を前記増幅器で増幅して前記スピーカーから出力しつつ、前記マイクで収音する第2出力収音工程と、を含む、請求項1記載のデジタル信号の解析方法。
【請求項6】
請求項1~5いずれか1項に記載のデジタル信号の解析方法により得られる解析結果に基づいて、前記DA変換器、前記AD変換器、前記増幅器、及び前記スピーカーからなる1種以上のオーディオ機器の特性を評価する、オーディオ機器の評価方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デジタル信号同士を比較して解析するデジタル信号の解析方法、及びこれを利用したオーディオ機器の評価方法に関し、特に楽曲を用いたオーディオ機器の特性の評価に有用な技術である。
【背景技術】
【0002】
従来、アンプ(増幅器)等のオーディオ機器の評価には、純音等の基準信号が用いられていた。しかし、基準信号を用いた場合と実際の楽曲を用いた場合とでは、特性の評価結果が異なる傾向があった。このため、実際の楽曲を用いたオーディオ機器の評価方法の実用化が望まれていた。
【0003】
楽曲を用いたオーディオ機器の評価方法としては、例えば、図5に示すように、デジタル信号同士を比較して解析するデジタル信号の解析方法であって、実際の楽曲を含むデジタル信号DS30をDA変換器31で変換するDA変換工程S31と、得られたアナログ信号AS31をAD変換器32で変換するAD変換工程S32と、元のデジタル信号DS30とAD変換後のデジタル信号DS31とを比較する比較工程と、を含むデジタル信号の解析方法を利用して、DA変換器等のオーディオ機器を評価する方法が知られている(非特許文献1等)。
【0004】
また、非特許文献1には、前記比較工程のために、サンプリング周波数やサンプリング位相の不一致を整合させるための技術が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】蘆原郁,大久保洋幸他「超広帯域オーディオの計測」コロナ社2011年発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、DA変換器31やAD変換器32では、周波数毎に位相遅れが相違することによる位相歪みが生じる傾向があり、比較工程においてサンプリング毎の信号レベルの差分を算出しようとすると、位相歪みによって差分が大きくなる。例えば、図6には、楽曲のwaveファイルを用いて、DA変換とAD変換を行なう前と後のデジタル信号を比較した際の波形データと、その差分のグラフが示されているが、位相歪みが生じた結果、振幅が最大300程度の差分波形が生じている。
【0007】
一方、DA変換器31やAD変換器32による位相歪みは大きくなく、通常、音質に影響を与えないため、位相歪みを無くした状態で、これらのオーディオ機器を評価することが望ましい。しかし、図6に示すように、位相歪みの影響が大きいと、例えばインパルス応答性の違いによる波形変化などを検出することが困難となり、図5に示すような解析方法を利用しても、オーディオ機器を正確に評価することができなかった。
【0008】
ところで、位相歪みを無くする方法として、例えばデジタルフィルターを用いて信号処理を行なうことも可能であるが、DA変換器31やAD変換器32毎に信号処理の位相特性を設計する必要があるため、現実的な方法ではなかった。
【0009】
そこで、本発明の目的は、簡易な方法で位相歪みを相殺することができるため、オーディオ機器の評価に有用となる、デジタル信号の解析方法、及びこれを利用したオーディオ機器の評価方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的は、以下の如き本発明によって達成できる。
【0011】
[1] デジタル信号同士を比較して解析するデジタル信号の解析方法であって、
デジタル信号をDA変換器で変換する第1DA変換工程と、
前記第1DA変換工程を経て得られた第1アナログ信号をAD変換器で変換する第1AD変換工程と、
前記第1AD変換工程を経て得られた第1デジタル信号の時間軸を反転させる反転工程と、
前記反転工程を経て得られた反転第1デジタル信号を前記DA変換器で変換する第2DA変換工程と、
前記第2DA変換工程を経て得られた第2アナログ信号を前記AD変換器で変換する第2AD変換工程と、
前記第2AD変換工程を経て得られた第2デジタル信号の時間軸を反転させる再反転工程と、
前記第1DA変換工程を経る前の基準デジタル信号と前記再反転工程を経て得られた再反転デジタル信号とを比較する比較工程と、
を含むデジタル信号の解析方法。
【0012】
本発明のデジタル信号の解析方法によると、第1デジタル信号の時間軸を反転させる反転工程と、反転第1デジタル信号を前記DA変換器で変換する第2DA変換工程と、得られた第2アナログ信号を前記AD変換器で変換する第2AD変換工程とを有するため、第1DA変換工程と第1AD変換工程で生じた位相歪みに対して、第2DA変換工程と第2AD変換工程で逆の位相歪みを生じさせることで、位相歪みを相殺することができる。つまり、第1DA変換工程と第1AD変換工程により位相が遅れた周波数成分を、反転工程により位相が進んだ状態にでき、第2DA変換工程と第2AD変換工程で、位相が進んだ周波数成分の位相を同じ位相特性により遅らせることで、位相が遅れた周波数成分を遅れがない周波数成分とすることができる。
【0013】
また、第2AD変換工程を経て得られた第2デジタル信号は、そのままでは、時間軸が反転した状態であるが、第2デジタル信号の時間軸を反転させる再反転工程によって、第2デジタル信号の時間軸を元に戻すことができる。従って、基準デジタル信号と前記再反転工程を経て得られた再反転デジタル信号とが、時間軸の方向が同じになり、両者を比較工程で比較することで、位相歪みを相殺した状態でデジタル信号同士を比較して解析することができる。そして、これらの工程は、DA変換器やAD変換器毎に信号処理の位相特性を設計する必要がなく、デジタル信号の時間軸を反転させるなどの簡易な工程で実施することができる。その結果、簡易な方法で、位相歪みを相殺することができるため、オーディオ機器の評価に有用となる、デジタル信号の解析方法を提供することができる。
【0014】
[2] 前記比較工程の前処理工程として、信号の開始位置の不一致を整合させる工程、振幅の不一致を整合させる工程、サンプリング周波数の不一致を整合させる工程、及びサンプリング位相の不一致を整合させる工程からなる群から選択される1種以上の工程を含む、[1]に記載のデジタル信号の解析方法。
【0015】
デジタル信号同士を比較して解析する場合、信号の開始位置、振幅、サンプリング周波数、及びサンプリング位相の1種以上が一致しない場合があるが、これらの不一致を整合させる工程により、比較工程においてデジタル信号同士を比較をする際の精度を高めることができる。
【0016】
[3] 前記比較工程が、前記基準デジタル信号と前記再反転デジタル信号のサンプリング毎の差分を計算する工程を含む、[1]又は[2]に記載のデジタル信号の解析方法。
【0017】
楽曲等のデジタル信号にをDA変換器によりアナログ信号に変換する場合、位相歪み以外の原因、例えばデジタルフィルターのインパルス応答性の影響によっても、変換後のアナログ信号に波形変化が生じる。このため、前記基準デジタル信号と前記再反転デジタル信号のサンプリング毎の差分を計算することにより、このような波形変化の程度を計算することができるようになり、オーディオ機器の評価に有用となる。
【0018】
[4] 前記第1DA変換工程で得られたアナログ信号を増幅器で増幅する第1増幅工程と、第2DA変換工程で得られたアナログ信号を前記増幅器で増幅する第2増幅工程とを含む、[1]~[3]の何れかに記載のデジタル信号の解析方法。
【0019】
オーディオ機器の特性を評価する場合、対象として増幅器を用いる場合があり、第1増幅工程と第2増幅工程とを含むことにより、増幅器の特性を評価することができるようになる。
【0020】
[5] 前記第1DA変換工程で得られたアナログ信号を増幅器で増幅してスピーカーから出力しつつ、マイクで収音する第1出力収音工程と、第2DA変換工程で得られたアナログ信号を前記増幅器で増幅して前記スピーカーから出力しつつ、前記マイクで収音する第2出力収音工程と、を含む、[1]~[4]の何れかに記載のデジタル信号の解析方法。
【0021】
オーディオ機器の特性を評価する場合、対象としてスピーカーを用いる場合があり、第1出力収音工程と第2出力収音工程とを含むことにより、スピーカーの特性を評価することができるようになる。
【0022】
[6] [1]~[5]の何れかに記載のデジタル信号の解析方法により得られる解析結果に基づいて、前記DA変換器、前記AD変換器、前記増幅器、及び前記スピーカーからなる1種以上のオーディオ機器の特性を評価する、オーディオ機器の評価方法。
【0023】
[1]~[5]の何れかに記載のデジタル信号の解析方法では、位相歪みが相殺された状態でデジタル信号同士を比較して解析することができる。このため、その解析結果に基づいて、音質に影響しにくい位相歪みによる影響が少ない状態で、DA変換器、AD変換器、増幅器、及びスピーカーからなる1種以上のオーディオ機器の特性を、精度良く評価することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明のデジタル信号の解析方法によると、簡易な方法で、位相歪みを相殺することができるため、オーディオ機器の評価に有用となる、デジタル信号の解析方法を提供することができる。また、本発明のオーディオ機器の評価方法によると、音質に影響しにくい位相歪みによる誤差が少ない状態で、DA変換器、AD変換器、増幅器、及びスピーカーからなる1種以上のオーディオ機器の特性を、精度良く評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明のデジタル信号の解析方法に用いる装置の一例を示すブロック図である。
図2】本発明の解析方法による解析結果の一例である差分グラフを示す図である。
図3】本発明の解析方法による解析結果の一例である歪み率のグラフを示す図である。
図4】本発明のデジタル信号の解析方法に用いる装置の他の例の要部を示すブロック図である。
図5】従来のデジタル信号の解析方法に用いる装置を示すブロック図である。
図6】従来の解析方法による解析結果の一例である差分グラフを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
(デジタル信号の解析方法)
本発明のデジタル信号の解析方法は、デジタル信号同士を比較して解析するものである。本明細書において、「デジタル信号」とは、サンプリング毎に量子化された値を有する信号及びその信号から符号化された信号を指す。デジタル信号としては、サイン波、その複合波、矩形波、その他の基準信号のような周期的な信号、および、音声、楽曲、ノイズ等のような非周期的な信号に対応するデジタル信号を、比較の対象とすることができる。特に、音声、楽曲のような非周期的なデジタル信号を対象とする場合、従来の方法では位相歪みを相殺することが難しいため、本発明が特に有効となる。なお、楽曲等のデジタル信号については、その楽曲等の一部又は全部を使用することができる。
【0027】
これらのデジタル信号は、各種のフォーマットで記録、提供されており、例えば音楽CD、ストリーミングデータ、waveファイルなどが挙げられる。これらのフォーマットはPCM方式が基本となっており、各フォーマットのデータから、サンプリング毎に量子化された値を有するデジタル信号を生成させることができる。例えば、waveファイルの場合、サンプリング毎に符号化されたデータが、チャンネル毎に交互に記録されており、チャンネル毎にデジタル信号を生成させることができる。
【0028】
比較するデジタル信号は、通常、同じサンプリングレートと同じビットレートを有しており、例えば44.1kHz,16bitのようなCD規格の信号や、これよりサンプリングレート又はビットレートの大きいハイレゾ規格の信号を対象とすることができる。
【0029】
本発明のデジタル信号の解析方法は、図1に示すような装置構成により、実施することができる。図1に示す例では、第1DA変換工程S1、第1AD変換工程S2、反転工程S3、第2DA変換工程S4、第2AD変換工程S5、再反転工程S6をこの順で含んでいる。上記のようなデジタル信号は、そのまま第1DA変換工程S1に入力することができるが、信号処理を経たデジタル信号DS0を第1DA変換工程S1に入力することも可能である。例えば、ローパスフィルター、ハイパスフィルター等のデジタル信号処理を行なうことで、可聴帯域外の信号を除去したデジタル信号DS0を、DA変換器1に入力することができる。
【0030】
(第1DA変換工程)
第1DA変換工程S1は、デジタル信号DS0をDA変換器1で変換する工程である。この工程により、アナログ信号を生成させることができる。このアナログ信号は、そのまま第1アナログ信号AS1として、第1AD変換工程S2に使用することができるが、増幅器により電力増幅したアナログ信号や、電力増幅後にレベルを調整したアナログ信号を第1AD変換工程S2に使用することも可能である。
【0031】
DA変換器1としては、DA変換機能を備える各種オーディオ機器を使用することができ、例えばCDプレーヤー、ネットワークプレーヤー、USB-DACなどを用いることができる。
【0032】
例えばCDプレーヤーを用いてCDを再生してアナログ信号を出力する場合、第1DA変換工程S1に供されるデジタル信号DS0は、CDから光学的に読み取られたデータから生成されたPCM信号が復号化されたデジタル信号となる。また、比較工程で使用される基準デジタル信号としては、予め音楽CDから作成されたwaveファイルから生成(復号化)させたデジタル信号を用いることができる。
【0033】
(第1AD変換工程)
第1AD変換工程S2は、前記第1DA変換工程S1を経て得られた第1アナログ信号AS1をAD変換器2で変換する工程である。この工程により、デジタル信号を生成させることができる。但し、その際のサンプリングレートとビットレートは、サンプリングレート等の変換を不要にする観点から、第1DA変換工程S1と同じにすることが好ましい。このデジタル信号は、そのまま第1デジタル信号DS1として、反転工程S3に使用することができるが、各種デジタルフィルターや、サンプリングレート変換器等により信号処理したデジタル信号を反転工程S3に使用することも可能である。
【0034】
AD変換器2としては、AD変換機能を備える各種オーディオ機器を使用することができ、例えばデジタルレコーダー、デジタルオーディオプロセッサー、USB-ADCなどを用いることができる。
【0035】
例えばデジタルレコーダーを用いる場合、生成したデジタル信号は、SDカードなどの記録媒体に所定のフォーマット(例えばwaveファイル)で保存され、これが読み出されて、デジタル信号に変換され、第1デジタル信号DS1として、反転工程S3に使用することができる。なお、第1デジタル信号DS1は、第1アナログ信号AS1の全長の一部に対応するものであってもよい。
【0036】
(反転工程)
反転工程S3は、前記第1AD変換工程S2を経て得られた第1デジタル信号DS1の時間軸を反転させる工程である。この工程により、時間軸が反転したデジタル信号、つまり楽曲の開始と終了が逆になったデジタル信号を生成させることができる。時間軸の反転は、第1デジタル信号DS1の全長の一部又は全部について行なうことが可能であるが、処理を簡易化する観点から、第1デジタル信号DS1の比較を行なう部分の全部の時間軸を反転させることが好ましい。このデジタル信号は、そのまま反転第1デジタル信号RDS1として、第2DA変換工程S4に使用することができるが、各種デジタルフィルターや、サンプリングレート変換器等により信号処理したデジタル信号を第2DA変換工程S4に使用することも可能である。
【0037】
反転工程S3は、デジタル信号処理装置3で行なうことができ、音声、楽曲等のデジタル信号処理が可能な市販のソフトウエアをパソコン上で使用して行なうことができる。この処理は、サンプリング毎に量子化された値を維持しながら、対応するサンプリング時間の時間軸を反転させるという単純な処理である。
【0038】
このような市販のソフトウエアを用いる場合、所定のフォーマット(例えばwaveファイル)で記録された記録媒体のデータが、パソコンの読み取り装置から読み込まれ、第1デジタル信号DS1を生成した後、反転工程S3で時間軸を反転させる処理が行なわれ、時間軸が反転したデジタル信号を所定のフォーマット(例えばwaveファイル)で記録媒体に保存することができる。
【0039】
(第2DA変換工程)
第2DA変換工程S4は、反転工程S3を経て得られた反転第1デジタル信号RDS1をDA変換器4で変換する工程である。ここで、DA変換器4としては、位相特性が同じになるように、通常、第1DA変換工程S1で使用されたDA変換器1と同じものが使用される。この工程により、時間軸が反転したアナログ信号を生成させることができる。このアナログ信号は、そのまま第2アナログ信号AS2として、第2AD変換工程S5に使用することができるが、増幅器により電力増幅したアナログ信号を第2AD変換工程S5に使用することも可能である。
【0040】
DA変換器4として、例えば同じCDプレーヤーを用いる場合、第2DA変換工程S4に供される反転第1デジタル信号RDS1は、CDプレーヤーのデジタル入力端子やUSB端子を介して、所定のフォーマットで入力され、CD再生と同じDA変換機能を利用してDA変換されたアナログ信号が出力される。
【0041】
(増幅工程)
本発明では、前記第1DA変換工程S1で得られたアナログ信号を増幅器で増幅する第1増幅工程と、第2DA変換工程S4で得られたアナログ信号を前記増幅器で増幅する第2増幅工程とを含むことが可能である。第1増幅工程と第2増幅工程とでは、位相特性が同じになるように、通常、同じ増幅器を用いる。
【0042】
増幅工程では、増幅の際のボリュームを調整したり、スピーカーの代替となる負荷抵抗器を用いて出力したり、電力増幅後に可変抵抗器を用いて出力するアナログ信号のレベルを調整してもよい。
【0043】
(第2AD変換工程)
第2AD変換工程S5は、前記第2DA変換工程S4を経て得られた第2アナログ信号AS2をAD変換器5で変換する工程である。ここで、AD変換器5としては、位相特性が同じになるように、通常、第1AD変換工程S2で使用されたAD変換器2と同じものが使用される。
【0044】
この工程により、時間軸が反転したデジタル信号を生成させることができるが、その際のサンプリングレートとビットレートは、第2DA変換工程S4と同じにすることが好ましい。このデジタル信号は、そのまま第2デジタル信号DS2として、再反転工程S6に使用することができるが、各種デジタルフィルター等により信号処理したデジタル信号を再反転工程S6に使用することも可能である。
【0045】
例えばデジタルレコーダーを用いる場合、第1AD変換工程S2と同様に、生成したデジタル信号は、SDカードなどの記録媒体に保存され、これが読み出されて、第2デジタル信号DS2として、再反転工程S6に使用される。
【0046】
(再反転工程)
再反転工程S6は、前記第2AD変換工程S5を経て得られた第2デジタル信号DS2の時間軸を反転させる工程である。この工程により、時間軸が元に戻ったデジタル信号DS3、つまり楽曲の開始と終了が正しい順序になったデジタル信号DS3を生成させることができる。このデジタル信号DS3は、そのまま比較工程に使用することができるが、各種デジタルフィルター等により信号処理したデジタル信号を比較工程に使用することも可能である。
【0047】
再反転工程S6は、デジタル信号処理装置6により行なうことができる。デジタル信号処理装置6は、反転工程S3と同様にして、市販のソフトウエアを使用して構成することができる。再反転工程S6におけるデジタル信号処理は、サンプリング毎に量子化された値を維持しながら、対応するサンプリング時間の時間軸を反転させるという単純な処理である。
【0048】
(比較工程)
比較工程は、前記第1DA変換工程S1を経る前の基準デジタル信号と前記再反転工程S6を経て得られた再反転デジタル信号とを比較する工程である。この比較工程は、例えば2つのデジタル信号に対応するグラフを重ねて表示すること等でも可能であるが、基準デジタル信号と再反転デジタル信号のサンプリング毎の差分を計算する工程を含むことが好ましい。また、図2に示すように、計算した差分をグラフ化することができる。この差分グラフは、音楽CDから作成したwaveファイルより生成した基準デジタル信号(即ち、第1DA変換工程S1を経る前の信号)と、再反転工程S6で処理して得られたwaveファイルより生成した再反転デジタル信号(即ち、再反転工程S6を経て得られた信号)とから、次のようにして作成したものである。
【0049】
waveファイルは、音楽信号が一定のルール(2’sコンプリメントコード)に従って記録されているため、そのデータをプログラムに読み込んで、各サンプル番号に対応する信号レベルを10進数として計算(復号化)することができる。更に、このようなwaveファイルを2つ読み込んで(wave1とwave2)、各サンプル番号に対応する信号レベルの差分を求めることができる。
【0050】
そして、横軸(X軸)にサンプル番号又は時間をとり、縦軸(Y軸)に信号レベル(単位:LSB)をとり、wave1とwave2とを折れ線グラフで並べて表示(波形データ)することができる。wave1とwave2の差分についても、同様に折れ線グラフで、別のグラフに表示(差分グラフ)することができる。この差分グラフから、2つのデジタル信号の違いを可視化することができる。
【0051】
そして、位相歪みを相殺しない従来の解析方法による解析結果は、図6に示す差分グラフのように、振幅の最大値が300程度となるが、本発明による解析結果である図2の差分グラフは、位相歪みが相殺されているため、振幅の最大値が20となっている。これにより、位相歪み(音質への影響が殆どない歪み)を除いた状態で、DA変換とAD変換による波形変化を知ることができる。
【0052】
また、本発明では、比較工程において、計算された差分を一定のサンプリング区間で積算し、これを同じサンプリング区間における基準デジタル信号の絶対値を積算した振幅で除して、歪み率を計算させることもできる。その計算結果をグラフ化したものを図3に示す。
【0053】
但し、比較工程において、信号の開始位置(例えば楽曲の開始位置)、振幅、サンプリング周波数、及びサンプリング位相の1種以上が一致しない場合があり、その場合、前記差分が大きくなり、意図しない状態となる。このため、比較工程の前処理工程として、信号の開始位置の不一致を整合させる工程、振幅の不一致を整合させる工程、サンプリング周波数の不一致を整合させる工程、及びサンプリング位相の不一致を整合させる工程からなる群から選択される1種以上の工程を含むことが好ましい。ここで、「不一致を整合させる」とは、完全に一致させる場合と、完全ではないが一致した状態に近づける場合とを含む意味である。
【0054】
信号の開始位置の不一致を整合させる工程は、一方の信号のサンプリング番号をずらすことで行なうことができ、振幅の不一致を整合させる工程は、一方の信号の量子化された値に所定の係数を掛けて他方の信号の量子化された値に近づけることで行なうことができる。
【0055】
また、サンプリング周波数の不一致を整合させる工程、及びサンプリング位相の不一致を整合させる工程は、非特許文献1に記載された方法などを用いて行なうことが可能である。原理的には、サンプリング周波数の不一致を整合させる工程では、一方の信号の時間軸の大きさを伸縮させる。また、サンプリング位相の不一致を整合させる工程では、原理的には、一方の信号の時間軸の大きさを維持しながら、1未満の単位(例えば小数点3桁の小数)で、時間軸をシフトさせるものである。
【0056】
(他の実施形態)
本発明のデジタル信号の解析方法は、スピーカーからの出力とマイクによる収音を含むことができる。例えば図4に示すように、第1DA変換工程S1で得られたアナログ信号AS11を増幅器11で増幅してスピーカー12から出力しつつ、マイク13で収音する第1出力収音工程S11と、第2DA変換工程で得られたアナログ信号を前記増幅器で増幅して前記スピーカーから出力しつつ、前記マイクで収音する第2出力収音工程(概略同一のため図示省略)と、を含むものでもよい。
【0057】
第2出力収音工程で使用する増幅器、スピーカー、及びマイクは、位相特性が同じになるように、通常、第1出力収音工程S11の増幅器11、スピーカー12、マイク13と同じものがそれぞれ使用される。なお、マイクについては、周波数特性、高調波歪み等の特性ができるだけ良好なものを使用するのが好ましい。
【0058】
例えば、第1出力収音工程S11では、第1DA変換工程S1で得られたアナログ信号AS11が増幅器11で増幅され、増幅されたアナログ信号AS12がスピーカー12に入力される。スピーカー12から出力された音AS13は、マイク13で収音され、得られた第1アナログ信号AS1を出力することができる。第1AD変換工程S2では、第1アナログ信号AS1をAD変換器2で変換して、第1デジタル信号DS1を出力することができる。
【0059】
第2出力収音工程についても、第1出力収音工程S11と同様に実施することができるが、その際に使用されるデジタル信号とアナログ信号とは、いずれも時間軸が反転したものとなる。
【0060】
(オーディオ機器の評価方法)
本発明のオーディオ機器の評価方法は、以上で説明したような本発明のデジタル信号の解析方法により得られる解析結果に基づいて、前記DA変換器、前記AD変換器、前記増幅器、及び前記スピーカーからなる1種以上のオーディオ機器の特性を評価する方法である。デジタル信号の波形変化は、オーディオ機器の周波数特性、高調波歪み特性、ノイズ特性の影響を受けるため、本発明では実際の楽曲等を用いて、これらの特性を評価することができるようになる。
【0061】
例えば、DA変換器のみを変えて、本発明のデジタル信号の解析方法を実施し、これにより得られる解析結果において、例えば差分グラフの振幅や計算された歪み率が異なる場合、その解析結果に基づいて、複数のDA変換器の性能の違いを評価することができる。増幅器を評価する場合は、増幅器のみを変えて、本発明のデジタル信号の解析方法を実施すればよく、スピーカーを評価する場合は、スピーカーのみを変えて、本発明のデジタル信号の解析方法を実施すればよい。
【0062】
なお、フルデジタルアンプのように、DA変換機能と増幅機能を有する機器を用いて、本発明のデジタル信号の解析方法を実施し、同様にして当該機器の特性を評価することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明のデジタル信号の解析方法によると、簡易な方法で、位相歪みを相殺することができるため、オーディオ機器の評価に有用となる、デジタル信号の解析方法を提供することができる。また、本発明のオーディオ機器の評価方法によると、音質に影響しにくい位相歪みによる誤差が少ない状態で、DA変換器、AD変換器、増幅器、及びスピーカーからなる1種以上のオーディオ機器の特性を、精度良く評価することができる。
【符号の説明】
【0064】
1 DA変換器
2 AD変換器
3 デジタル信号処理装置
4 DA変換器
5 AD変換器
6 デジタル信号処理装置
DS0 デジタル信号
AS1 第1アナログ信号
DS1 第1デジタル信号
RDS1 反転第1デジタル信号
AS2 第2アナログ信号
DS2 第2デジタル信号
DS3 再反転デジタル信号
S1 第1DA変換工程
S2 第1AD変換工程
S3 反転工程
S4 第2DA変換工程
S5 第2AD変換工程
S6 再反転工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6