IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025017201
(43)【公開日】2025-02-05
(54)【発明の名称】多胎動物の人工授精方法
(51)【国際特許分類】
   A01K 67/02 20060101AFI20250129BHJP
   C12N 5/076 20100101ALN20250129BHJP
【FI】
A01K67/02
C12N5/076
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023120162
(22)【出願日】2023-07-24
(71)【出願人】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(71)【出願人】
【識別番号】521235486
【氏名又は名称】ルラビオ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100138955
【弁理士】
【氏名又は名称】末次 渉
(72)【発明者】
【氏名】島田 昌之
(72)【発明者】
【氏名】梅原 崇
(72)【発明者】
【氏名】白川 晃久
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065BB19
4B065BC02
4B065CA60
(57)【要約】
【課題】分離工程を要することなく、雄産子比率を高くすることが可能な多胎動物の人工授精方法を提供する。
【解決手段】多胎動物の人工授精方法は、TLR7リガンドを含有し、pHが7.7~7.9の培地にて多胎動物の精子を培養し、培養後12時間以内に多胎動物の人工授精に供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
TLR7リガンドを含有し、pHが7.7~7.9の培地にて多胎動物の精子を培養し、
培養後12時間以内に多胎動物の人工授精に供する、
ことを特徴とする多胎動物の人工授精方法。
【請求項2】
アルブミンを含有する前記培地を用いる、
ことを特徴とする請求項1に記載の多胎動物の人工授精方法。
【請求項3】
ピルビン酸及び乳酸を含有しない前記培地を用いる、
ことを特徴とする請求項1に記載の多胎動物の人工授精方法。
【請求項4】
30分より長く90分より短い時間培養する、
ことを特徴とする請求項1に記載の多胎動物の人工授精方法。
【請求項5】
前記TLR7リガンドがレジキモド、イミキモド、ガーディキモド及びロキソリビンからなる群から選択される1種以上である、
ことを特徴とする請求項1に記載の多胎動物の人工授精方法。
【請求項6】
前記多胎動物が豚である、
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の多胎動物の人工授精方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多胎動物の人工授精方法に関する。
【背景技術】
【0002】
家畜における雌雄産み分け技術は、家畜の効率的な生産に大きく寄与する。たとえば、養豚において、雄は成長が早く、出荷体重に到達するまでの肥育日数が雌と比較して短いため、肉豚生産において雄産子を生誕させることが望まれる場合がある。一方で、無去勢の雄の肉は、脂肪分が低く、雄臭という悪臭を発するため、雌に比べて価値が低い傾向にあることから、雌を選択して生誕させることが望まれる場合もある。
【0003】
このように、家畜産業においては、雌雄産み分け技術の要求は高く、雌雄産み分け技術として、特許文献1などの手法が知られている。特許文献1では、X染色体保有精子にのみToll様受容体7番と8番(TLR7/8)が発現することに着目し、TLR7/8を活性化する薬剤を添加した培地で精子を培養することで、運動性が低下したX染色体保有精子と運動性の良いY染色体保有精子とに分離している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-10094号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、上層のY染色体保有精子と下層のX染色体保有精子とをそれぞれ分離して人工授精に用いているため、分離工程が必要である。
【0006】
本発明は上記事項に鑑みてなされたものであり、その目的は、分離工程を要することなく、雄産子比率を高くすることが可能な多胎動物の人工授精方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る多胎動物の人工授精方法は、
TLR7リガンドを含有し、pHが7.7~7.9の培地にて多胎動物の精子を培養し、
培養後12時間以内に多胎動物の人工授精に供する、
ことを特徴とする。
【0008】
また、アルブミンを含有する前記培地を用いることが好ましい。
【0009】
また、ピルビン酸及び乳酸を含有しない前記培地を用いることが好ましい。
【0010】
また、30分より長く90分より短い時間培養することが好ましい。
【0011】
また、前記TLR7リガンドがレジキモド、イミキモド、ガーディキモド及びロキソリビンからなる群から選択される1種以上であることが好ましい。
【0012】
また、前記多胎動物が豚であってもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、分離工程を要することなく、雄産子比率を高くすることが可能な多胎動物の人工授精方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本実施の形態に係る多胎動物の人工授精方法は、pH7.7~7.9、且つ、TLR7リガンドを含有する培地にて培養した多胎動物の精子について、培養後、12時間以内に人工授精に供することで、生誕させる産子において雄産子の比率を高めることができる。多胎動物として、豚のほか、羊、山羊などが挙げられ、これらの多胎動物に対して適用可能である。
【0015】
本明細書において、X染色体保有精子を「X精子」、Y染色体保有精子を「Y精子」と記す。X精子が卵内に侵入して受精が完了すると、XX染色体を持つ受精卵となるため、雌産子が生誕する。一方、Y精子が卵内に侵入して受精が完了すると、XY受精卵となるため、雄産子が生誕することになる。
【0016】
pH7.7~7.9、且つ、TLR7リガンドを含有する培地で精子を培養することにより、Y精子の精子代謝が高まる。一方、X精子は、上記の培地においては精子代謝が抑制される。
【0017】
上記の培地で精子を培養した後、12時間以内に人工授精に供すると、精子代謝が高まっているY精子が優先して卵内に侵入して受精しやすくなる。このため、XY受精卵の割合が高まり、生誕する産子では、雄産子の割合が高くなる。なお、精子の培養から人工授精までの時間が長くなると、精子代謝の高まったY精子の先体欠損を招いてしまう。このため、Y精子は受性能を失ってしまい、雄産子の割合が低下することになる。
【0018】
TLR7リガンドを含有する培地は、基礎培地にTLR7リガンドを添加することにより調製して用いればよい。基礎培地としては、哺乳動物の精子の培養に通常用い得る培地を使用できる。基礎培地として、例えば、HTF(Human Tubal Fluid)培地(組成:NaCl, KCl, KH2PO4, MgSO4・7H2O, CaCl2・2H2O, NaHCO3, Glucose, Na-pyruvate, Na-lactate, Gentamicin Sulfate salt, Phenol Red)等の胚培養培地を好適に用いることができる。
【0019】
培地に添加されるTLR7リガンドとして、レシキモド(Resiquimod)やイミキモド(Imiquimod)、ガーディキモド(Gardiquimod)、ロキソリビン(Loxoribine)が挙げられる。これらは1種単独でも2種以上含まれていてもよい。
【0020】
基礎培地へのTLR7リガンドの添加量は、用いるTLR7リガンドの種類や用いる精子の動物種により適宜設定すればよく、例えば、3nM~3μMであることが好ましい。
【0021】
また、培地のpHは7.7~7.9であり、pHの調整は、培地にNaOH等のpH調整剤を添加することで行い得る。
【0022】
また、培地は、ピルビン酸、乳酸を含有しないことが好ましい。
【0023】
培養時間は、Y精子が活性化する十分な時間であることが好ましく、例えば、30分から90分であることが好ましい。
【0024】
また、本実施の形態においては、上述のように、上記の培地で精子を培養するものゆえ、多量の精子を処理することが可能である。
【0025】
このように、本実施の形態に係る多胎動物の人工授精方法は、X精子とY精子との分離工程を必要とせず、培養して調製した人工授精用精液をそのまま人工授精に用いている。X精子とY精子との分離工程を行うことなく、培養から12時間以内に人工授精用精液を人工授精に供すればよいため、畜産現場においても容易に行うことが可能である。
【実施例0026】
以下のように、豚の人工授精用精液を調製し、これを豚に種付けして人工授精を行い、生誕した産子の雌雄を検証した。
【0027】
(培地の調製)
表1に示す組成の改変HTF培地を調製した。
【0028】
【表1】
【0029】
(人工授精用精液の調製)
HIRO-SWINE B液(株式会社広島クライオプリザベーションサービス製、HIRO-SWINEは登録商標)で50億/100mLに希釈した豚精液を遠心分離(500G、5分間、室温)した後、上澄みを除去した。
上澄みと同量の改変HTF培地(pH7.8、R848添加(3nM))で豚精子を懸濁し、恒温槽で培養した(60分間、37℃)。
培養後、遠心分離(500G、5分間、室温)して上澄みを除去した後、人工授精用希釈液で懸濁し、人工授精用精液を調製した。
【0030】
(人工授精)
雌豚への種付けは、2箇所の農場(農場A、農場B)において、以下の2通りで行った。
(A)当日種付け(調製後12時間以内に人工授精)
上記の人工授精用精液を午前中に調製し、同日の午後に1回目の種付けを行い、1回目の種付けから半日空けて2回目の種付けを行った。
【0031】
(B)翌日種付け(調製してから12時間経過後に人工授精)
上記の人工授精用精液を午前中に調製し、翌日の午前中に1回目の種付けを行い、1回目の種付けから半日空けて2回目の種付けを行った。
【0032】
なお、農場Aにおいては、当日種付けを3匹に対して行うとともに、翌日種付けを7匹に対して行った。また、農場Bにおいては、当日種付けを3匹に対して行うとともに、翌日種付けを11匹に対して行った。
【0033】
生誕した豚産子の雄比率を表2に示す。
【0034】
【表2】
【0035】
農場Aにおいては、雄産子の割合は、当日種付けでは57%、翌日種付けでは50%であった。また、農場Bにおいては、雄産子の割合は、当日種付けで53%、翌日種付けでは41%であった。
【0036】
いずれの農場においても、当日種付けでの雄産子の割合は50%を超えている。そして、当日種付けでの雄産子の割合は翌日種付けよりも高い結果であった。以上のように、豚の人工授精において、雄産子の割合を高められることが可能であることを立証した。
【産業上の利用可能性】
【0037】
豚等の多胎動物に対して、雄産子の割合を高めることができ、家畜産業等に利用可能である。