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特開2025-17202ペースト状重合硬化性組成物の製造方法
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  • 特開-ペースト状重合硬化性組成物の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025017202
(43)【公開日】2025-02-05
(54)【発明の名称】ペースト状重合硬化性組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 6/70 20200101AFI20250129BHJP
   A61K 6/60 20200101ALI20250129BHJP
   A61K 6/64 20200101ALI20250129BHJP
   A61K 6/884 20200101ALI20250129BHJP
   C08F 2/44 20060101ALI20250129BHJP
   C08F 292/00 20060101ALI20250129BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20250129BHJP
   C08L 51/10 20060101ALI20250129BHJP
   C08F 20/00 20060101ALI20250129BHJP
【FI】
A61K6/70
A61K6/60
A61K6/64
A61K6/884
C08F2/44 A
C08F292/00
C08K3/013
C08L51/10
C08F20/00 510
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023120163
(22)【出願日】2023-07-24
(71)【出願人】
【識別番号】391003576
【氏名又は名称】株式会社トクヤマデンタル
(72)【発明者】
【氏名】曽雌 杏南
(72)【発明者】
【氏名】永沢 友康
(72)【発明者】
【氏名】山根 慎太郎
【テーマコード(参考)】
4C089
4J002
4J011
4J026
【Fターム(参考)】
4C089AA01
4C089BA13
4C089BE03
4C089CA03
4C089CA07
4J002BN191
4J002DJ006
4J002FD016
4J002GB01
4J011AA05
4J011BA04
4J011PA13
4J011PA34
4J011PB22
4J011PB30
4J011PC02
4J011PC08
4J011QA13
4J026AC00
4J026BA28
4J026BA29
4J026DB05
4J026DB15
4J026DB30
4J026GA02
(57)【要約】
【課題】 重合性単量体、フィラー及び熱重合開始剤を含む高粘度ペースト状重合硬化性組成物を、従来のバッチ法で混練したときの組成物の特性を損なうことなく、二軸混練機を用いて効率よく製造することができる方法を提供する。
【解決手段】 目的物の粘度とダイラタンシー性が所定の範囲内にあることを確認した上で、バレルの円筒状シリンダ内にスクリュが回転自在に挿入された汎用的な本構造を有する二軸混練機に、フィラーを含む粉体原料及び重合性単量体と熱重合開始剤を含む液体原料を所定の組成となるように供給し、混練部のバレル温度を25℃~45℃とすると共に、シリンダ内径、混練部におけるシリンダ内壁とスクリュと間のクリアランス最小値、及び混練時のスクリュの回転速度を調整して、上記粘度に基づいて所定の式で計算される混練時の二軸混練機内の剪断応力度が10~4500kPa以内となるようにして混練を行う。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種の無機粉粒体を含む粉体原料であって、前記少なくとも1種の無機粉粒体の一部は、樹脂と複合化された粒子によって構成される有機無機複合粉粒体として含まれていてもよい粉体原料、及び重合性単量体を含む液体原料からなり、前記粉体原料及び前記液体原料の少なくとも一方には熱重合開始剤が配合されている原料を準備し、前記粉体原料と前記液体原料とを二軸混練機を用いて混練することにより、粘性流体であるペースト状重合硬化性組成物を製造する方法であって、
粘性流体について、
(1)パラレルプレートを用いた回転粘度計により温度:30℃、回転速度:1rpmの条件で測定される粘度をη(単位:Pa・s)とし、
(2)パラレルプレートを用いた回転粘度計により一定温度、一定回転速度:m(rpm)の条件で測定される粘度トルク:M(単位:Pa・m)と剪断応力:τ(単位:kPa)との間に下記式:
τ={4M/(3πR)}×10
{但し、上記式におけるRは、パラレルプレートの半径(単位:mm)を表す。}
で示される関係がある、トルク測定において、半径:Rが10mmであるパラレルプレートを用いて0.7gの粘性流体試料を1mmの厚さに圧縮して、30℃の温度条件下、回転速度1rpm及び10rpmでトルク測定を行ったときに得られるトルクを、夫々、M及びMとし、これらトルクに基づき前記式で求められる剪断応力を、夫々:τ及びτ10とし、これら剪断応力の比:τ10/τを、前記粘性流体の「ダイラタンシー性指数」としたときに、
製造目的物である前記ペースト状重合硬化性組成物のηは、0.3~8kPa・sであると共にダイラタンシー性指数は、2~35であり、
前記二軸混練機は、
並列に配置された同一又は実質的に同一な2つの「円筒状シリンダ」が一部重複して一体化し、一体化後における円筒軸方向に垂直な断面が、合同又は実質的に合同な2つの円弧が弦を共有するようにして対向して突き合わされた形状となっている「連結円筒状シリンダ」が内部に形成されたバレルと、同一又は実質的に同一な形状を有する1対のスクリュと、を有し、
前記1対のスクリュの一方及び他方が前記「連結円筒状シリンダ」を構成する2つの「円筒状シリンダ」の一方及び他方の内部に夫々回転自在に挿入されることにより、フィードゾーン:FZ、ニーディングゾーン:KZ及びイクストゥルーディングゾーン:EZを形成し、
前記1対のスクリュを同方向に回転させながら、前記筒状シリンダ内部において、前記FZに供給された原料に、前記KZで剪断力を付加して混練し、前記EZを介して外部に押出す、同方向回転二軸混練機であり、
前記混練において、
単位時間に供給される前記粉体原料及び前記液体原料の合計量中における各構成成分の量がペースト状重合硬化性組成物の所定の組成と一致するように前記粉体原料及び前記液体原料の供給速度(単位:g/分)を調整してこれら原料を前記フィードゾーン:FZに供給し、
前記ニーディングゾーン:KZにおけるバレル温度を25℃~45℃とし、
前記ニーディングゾーン:KZにおける、前記円筒状シリンダの内径(直径)をD(単位:mm)とし、前記円筒状シリンダ内壁とスクリュ間のクリアランスの最小値をc(単位:mm)とし、円周率をπとし、これら値に基づいて、式:A={(60・c×10)/(D・π)}(単位:Pa)によって求められる値:Aを装置定数とし、混練時における混練スクリュの回転速度をN(単位:rpm)としたときに、下記式:
10A/η ≦ N ≦ 4500A/η
で示される条件を満足する回転速度:N(単位:rpm)で前記混練スクリュを回転させながら混練を行う、
ことを特徴とするペースト状重合硬化性組成物の製造方法。
【請求項2】
前記混練を行う前に前記ペースト状重合硬化性組成物と同一組成を有する組成物のη及びダイラタンシー性指数が前記範囲内であることを確認する工程を含む、請求項1に記載のペースト状重合硬化性組成物の製造方法。
【請求項3】
前記装置定数:Aが190~260である前記同方向回転二軸混練機を用いて前記混練工程を行う、請求項1に記載のペースト状重合硬化性組成物の製造方法。
【請求項4】
前記同方向回転二軸混練機に供給される原料の総質量(単位:g)を前記同方向回転二軸混練機から押し出される混練物の押出速度(単位:g/分)で除した滞在時間(単位:分)が3分~30分となるようして、前記混練工程を行う、請求項1に記載のペースト状重合硬化性組成物の製造方法。
【請求項5】
前記粉体原料は、走査型電子顕微鏡を用いて測定した平均1次粒子径が0.1~1.0μmである1種又は複数種の無機粉粒体を20質量%以上含み、
単位時間に前記同方向回転二軸混練機内へ供給される前記重合性単量体の量を100質量部としたときに、単位時間に前記同方向回転二軸混練機内へ供給される前記1種又は複数種の無機粉粒体の量が250~700質量部となる範囲内の所定の量となるように、前記粉体原料の供給速度及び前記液体原料供給速度を制御する、
請求項1に記載のペースト状重合硬化性組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペースト状重合硬化性組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
重合性単量体(モノマー)、無機フィラー、及び重合開始剤を主成分として構成される歯科用硬化性組成物並びにその硬化体からなるハイブリッドレジン等の(樹脂と無機フィラーとの)複合材料は、歯科補綴治療用の材料として広く使用されている。たとえば、未硬化状態の上記歯科用硬化性組成物はコンポジットレジン修復用材料や歯科用セメントとして使用され、ハイブリッドレジン等の硬化体は、CAD/CAMシステムを用いてインレイやクラウン等の補綴物を製造するために使用される歯科切削用ミルブランクにおける被切削部の材料として使用されている。
【0003】
上記歯科用硬化性組成物は、通常、プロペラ式の攪拌機等の装置を用いてバッチ(回分)式で製造されており、最終ペーストの粘度によらず、比較的低い剪断応力を長時間かけることで重合性単量体(モノマー)及び重合開始剤を主成分として構成されたマトリックスとなる液状成分中に無機フィラーを均一に分散させていた。そして、このようなバッチ式の調製方法においては、効率化のために、液状成分に対して粉体成分を数回に分けて添加することによって調製した粉末状フィラーが高含量の混練物を希釈用混練母材として先に製造し、これを必要な数に分配し、各分配物に、顔料等や粘度調整に必要な液状モノマーを追加混合して混練することが行われている(特許文献1参照。)。
【0004】
一方、レジンマトリックス中に無機フィラーが高密度で分散した複合材料である「ハイブリッドレジン」(以下、「HR」と略記することもある。)からなる被切削部を有する歯科切削用ミルブランク(以下、「HRミルブランク」ともいう。)の前記被切削部は、型(モールド)を用いた所謂注型重合によって行われることが多い(特許文献2及び3参照)。例えば特許文献2では、HRの原料となる硬化性組成物を、シリンジを用いて熱可塑性樹脂製の型内に上方から注入してから加圧下に熱重合することにより前記被切削部を製造している。また、特許文献3には、型(モールド)として、柱状空洞部を有する筒状体からなり、その内部に充填される流動性ペーストと接触する平坦な接触面を有する押出板が、前記柱状空洞部内を進退自在に嵌挿されたものを用いるとともに、射出装置と連結した充填具を用い、流動性ペーストで押出板を下から押し上げるようにして流動性ペーストを充填することにより、通常では型枠に流し入れることが難しい、流動性の低いペースト(硬化性組成物)の充填が可能となることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013-014690号公報
【特許文献2】特許第5745198号公報
【特許文献3】特許第7266285号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に開示されている方法は、所謂バッチ法(回分法)であるため生産性は高いとは言えず、さらに希釈用混練母材調製過程において粉体成分を数回に分けて添加して混合する必要があるばかりでなく、目的とする粘度に調製する操作が必要であるため、分散に手間と時間を要していた。このため、特に、歯科切削用ミルブランクの被切削部となるハイブリッドレジンの原料となる歯科用硬化性組成物については、その製造が、上記被切削部を注型重合などの方法により量産する際のボトルネックとなることがあった。
【0007】
そこで、本発明は、前記歯科用硬化性組成物を連続法により効率的に製造することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、前記課題を解決するものであり、本発明の第1の形態は、少なくとも1種の無機粉粒体を含む粉体原料であって、前記少なくとも1種の無機粉粒体の一部は、樹脂と複合化された粒子によって構成される有機無機複合粉粒体として含まれていてもよい粉体原料、及び重合性単量体を含む液体原料からなり、前記粉体原料及び前記液体原料の少なくとも一方には熱重合開始剤が配合されている原料を準備し、前記粉体原料と前記液体原料とを二軸混練機を用いて混練することにより、粘性流体であるペースト状重合硬化性組成物を製造する方法であって、
粘性流体について、
(1)パラレルプレートを用いた回転粘度計により温度:30℃、回転速度:1rpmの条件で測定される粘度をη(単位:Pa・s)とし、
(2)パラレルプレートを用いた回転粘度計により一定温度、一定回転速度:m(rpm)の条件で測定される粘度トルク:M(単位:Pa・m)と剪断応力:τ(単位:kPa)との間に下記式:
τ={4M/(3πR)}×10
{但し、上記式におけるRは、パラレルプレートの半径(単位:mm)を表す。}
で示される関係がある、トルク測定において、半径:Rが10mmであるパラレルプレートを用いて0.7gの粘性流体試料を1mmの厚さに圧縮して、30℃の温度条件下、回転速度1rpm及び10rpmでトルク測定を行ったときに得られるトルクを、夫々、M及びMとし、これらトルクに基づき前記式で求められる剪断応力を、夫々:τ及びτ10とし、これら剪断応力の比:τ10/τを、前記粘性流体の「ダイラタンシー性指数」としたときに、
製造目的物である前記ペースト状重合硬化性組成物のηは、0.3~8kPa・sであると共にダイラタンシー性指数は、2~35であり、
前記二軸混練機は、
並列に配置された同一又は実質的に同一な2つの「円筒状シリンダ」が一部重複して一体化し、一体化後における円筒軸方向に垂直な断面が、合同又は実質的に合同な2つの円弧が弦を共有するようにして対向して突き合わされた形状となっている「連結円筒状シリンダ」が内部に形成されたバレルと、同一又は実質的に同一な形状を有する1対のスクリュと、を有し、
前記1対のスクリュの一方及び他方が前記「連結円筒状シリンダ」を構成する2つの「円筒状シリンダ」の一方及び他方の内部に夫々回転自在に挿入されることにより、フィードゾーン:FZ、ニーディングゾーン:KZ及びイクストゥルーディングゾーン:EZを形成し、
前記1対のスクリュを同方向に回転させながら、前記筒状シリンダ内部において、前記FZに供給された原料に、前記KZで剪断力を付加して混練し、前記EZを介して外部に押出す、同方向回転二軸混練機であり、
前記混練において、
単位時間に供給される前記粉体原料及び前記液体原料の合計量中における各構成成分の量がペースト状重合硬化性組成物の所定の組成と一致するように前記粉体原料及び前記液体原料の供給速度(単位:g/分)を調整してこれら原料を前記フィードゾーン:FZに供給し、
前記ニーディングゾーン:KZにおけるバレル温度を25℃~45℃とし、
前記ニーディングゾーン:KZにおける、前記円筒状シリンダの内径(直径)をD(単位:mm)とし、前記円筒状シリンダ内壁とスクリュ間のクリアランスの最小値をc(単位:mm)とし、円周率をπとし、これら値に基づいて、式:A={(60・c×10)/(D・π)}(単位:Pa)によって求められる値:Aを装置定数とし、混練時における混練スクリュの回転速度をN(単位:rpm)としたときに、下記式:
10A/η ≦ N ≦ 4500A/η
で示される条件を満足する回転速度:N(単位:rpm)で前記混練スクリュを回転させながら混練を行う、
ことを特徴とするペースト状重合硬化性組成物の製造方法である。
【0009】
上記形態の製造方法(以下、「本発明の製造方法」ともいう。)においては、前記混練を行う前に前記ペースト状重合硬化性組成物と同一組成を有する組成物のη及びダイラタンシー性指数が前記範囲内であることを確認する工程を含む、ことが好ましい。
【0010】
また、前記装置定数:Aが190~260である前記同方向回転二軸混練機を用いて前記混練工程を行う、ことが好ましい。
【0011】
また、前記同方向回転二軸混練機に供給される原料の総質量(単位:g)を前記同方向回転二軸混練機から押し出される混練物の押出速度(単位:g/分)で除した滞在時間(単位:分)が3分~30分となるようして、前記混練工程を行う、ことが好ましい。
【0012】
更に、前記粉体原料は、走査型電子顕微鏡を用いて測定した平均1次粒子径が0.1~1.0μmである1種又は複数種の無機粉粒体を20質量%以上含み、単位時間に前記同方向回転二軸混練機内へ供給される前記重合性単量体の量を100質量部としたときに、単位時間に前記同方向回転二軸混練機内へ供給される前記1種又は複数種の無機粉粒体の量が250~700質量部となる範囲内の所定の量となるように、前記粉体原料の供給速度及び前記液体原料供給速度を制御する、ことが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の製造方法によれば、歯科切削用ミルブランクの被切削部となるハイブリッドレジンの原料となる歯科用硬化性組成物、特に無機充填材の含有率が高いことにより高強度の硬化体(HR)を得ることができる高粘度の歯科用硬化性組成物を二軸混練機のような連続混練機を用いた連続法により効率よく製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本図は、実施例で同方向回転二軸混練機として用いた装置1及び装置3~5のスクリュセグメントの基本構成を示す図である。
図2】本図は、実施例で同方向回転二軸混練機として用いた装置2のスクリュセグメントの基本構成を示す図である。
図3】本図は、図1及び図2のニーディングゾーンにおけるニーディングディスクの配置状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
1.本発明の製造方法の概要
夫々別々に調製した(モノマーを主要成分とする)液体原料と(無機フィラーを主要成分とする)粉体原料を、二軸混練機のような連続混練機を用いて一度で混練すれば、より効率的に歯科用硬化性組成物となるペースト状重合硬化性組成物を調製できると考えられるが、このような方法で歯科用硬化性組成物を調製した例はあまり知られていない。これは、液体原料と粉体原料の混合割合によっては混練初期に両者が馴染まず、特に塗布性や型への充填性が重要視される用途に使用される低粘度の歯科用硬化性組成物を調製する場合には、混練初期に両原料が分離してしまうことが懸念されるのが一因であると考えられる。
【0016】
特許文献3に記載されているような型への充填方法を採用すれば、高強度の硬化体(HR)を得ることができる高粘度の歯科用硬化性組成物の充填も可能となること、及びこのような歯科用硬化性組成物はモノマー含有率が低いため二軸混練機を用いた場合でも(液体原料の配合量が少ないことに起因して)前記分離の問題が起こり難いと考えられることから、本発明者等は、二軸混練機における一般的な条件を採用した液体原料と粉体原料との混練による高粘度ペースト状重合硬化性組成物の調製について検討を行った。
【0017】
その結果、二軸混練機内でペーストが(混練中に起こる重合により)固化することがあること、このような固化が起こる系においては、混練時にかかる剪断応力を制御しても固化を防止することが困難であること、更にこのような固化を起こすことなく所期のペースト状重合硬化性組成物が調製できることもあるという知見が得られた。
【0018】
このような知見に基づき、検討を行った結果、製造目的物であるペースト状重合硬化性組成物のダイラタンシー性が前記固化に影響を及ぼしていること、ダイラタンシー性及び粘度が特定の範囲であれば二軸混練機によるペースト状重合硬化性組成物の調製が可能であることを見出すと共に、効率的に調製を行うことができる混練条件を見出すに至り、本発明を完成したものである。
【0019】
すなわち、本発明の製造方法は、高強度の硬化体(HR)を得ることができる歯科用硬化性組成物として使用される、熱重合開始剤を含む(粘度:ηが0.3~8kPa・sの範囲である)高粘度のペースト状重合硬化性組成物について、二軸混練機を用いた混練により、混練中に固化を起こさずに混練することができるダイラタンシー性の範囲を見出し、更に上記混練を効率よく行うことができる混練条件を見出した点に特徴を有する。
【0020】
なお、重合性単量体、無機フィラー及び熱重合開始剤を含むペースト状重合硬化性組成物の粘度やダイラタンシー性等の粘弾性特定はその組成によって決まるものであるが、成分(原料)として使用される物質の種類は様々であり、組成から直ちに該組成物がどの程度の粘度やダイラタンシー性を有するかを判断することはできない。そのため、製造目的物であるペースト状重合硬化性組成物の粘弾性特性(該組成物の粘度やダイラタンシー性が所定の範囲内にあるか否か)が不明である場合には、事前にバッチ法により同一組成のペースト状重合硬化性組成物を調製し、該ペースト状重合硬化性組成物についての粘度及びダイラタンシー性指数を確認しておくことが好ましい。なお、組成等から凡その粘弾性特性が予想できる場合には、得られたペースト状重合硬化性組成物について粘弾性特性を測定し、前記条件を満足すること及びスクリュ回転数が前記条件を満足することを事後的に確認してもよい。
【0021】
本発明の製造方法は、歯科用硬化性組成物の製造方法として有用であり、製造目的物であるペースト状重合硬化性組成物の構成成分(原材料)としては従来の歯科用硬化性組成物で使用されているものが特に制限なく使用でき、また使用する同方向回転二軸混練機についても、基本構造は従来知られているものと特に変わる点はなく、プラスチックスの押出等で一般に使用されている装置が使用可能である。以下、これらの点を含めて、本発明について詳しく説明する。
【0022】
なお、本明細書においては特に断らない限り、数値x及びyを用いた「x~y」という表記は「x以上y以下」を意味するものとする。かかる表記において数値yのみに単位を付した場合には、当該単位が数値xにも適用されるものとする。また、本明細書において、「(メタ)アクリレート系」との用語は「アクリレート系」及び「メタクリレート系」の両者を意味する。
【0023】
2.製造目的物であるペースト状重合硬化性組成物について
(1) 粘度及びダイラタンシー性について
本発明の製造方法は、従来、バッチ法で製造されていたペースト状重合硬化性組成物を効率よく製造することを目的とする。このため、製造目的物であるペースト状重合硬化性組成物の多くは既に知られたものであり、その粘弾性特性も事前に確認することができる。本発明では、本発明の製造方法を採用しない場合には、二軸混練機を用いて製造することが困難な粘弾性特性を有するペースト状重合硬化性組成物を製造目的物としている。すなわち、重合性単量体、フィラー及び熱重合開始剤を含む、所定の組成を有するペースト状重合硬化性組成物であって、ダイラタンシー性指数が2~35であり、パラレルプレートを用いた回転粘度計により温度:30℃、回転速度:1rpmの条件で測定される粘度:η(単位:Pa・s)が0.3~8kPa・s範囲内の所定の値を有するペースト状重合硬化性組成物を製造目的物としている。
【0024】
ここで、上記粘度:ηは、パラレルプレートを用いた回転粘度計の試料台の温度を30℃に調節し、試料(予めバッチ法で調製した製造目的物となるペースト状重合硬化性組成物)0.7gをペーストの厚みが1mmとなるように、φ20mmのパラレルプレートで圧接した状態で1分間静置した後、剪断速度を毎分1回転で走査して、測定することにより知ることができる。
【0025】
重合性単量体(モノマー)及び無機粉粒体を主成分とするフィラーを含むペースト状重合硬化性組成物の粘度及びペースト状重合硬化性組成物の硬化体の強度は無機粉粒体の含有量に依存し、含有量が高いほど粘度は高くなり、硬化体強度も高くなる傾向がある。本発明の製造方法では、高強度の硬化体を得ることができるという理由から、前記方法で測定された30℃における粘度:ηが0.3~8kPa・sのものを製造目的物としている。硬化体硬度及び製造効率の観点から、上記粘度は、0.4~6kPa・sであることが好ましく、0.5~4kPa・sであることがさらに好ましい。
【0026】
本発明の製造方法の目的物であるペースト状重合硬化性組成物は、上記粘度:ηが0.3~8kPa・sであることに加えて、特定のダイラタンシー性を有する必要がある。ここで、ダイラタンシー性とは、ゆっくりと負荷をかけた場合は柔らかく流れやすいが、強い負荷をかけた場合は硬く流れ難くなる性状を意味し、以下に定義される「ダイラタンシー性指数」を指標として定量的に表すことができる。
【0027】
すなわち、ダイラタンシー性指数とは、ペースト状組成物からなる試料について回転粘度計で夫々異なる回転速度で測定されたトルク:M(単位:Pa・m)から求められる剪断応力の比として定義されるものであり、本発明では、回転速度1rpmにおける剪断応力:τと回転速度10rpmにおける剪断応力:τ10の比:τ10/τで定義される値を意味する。
【0028】
なお、回転速度m(rpm)で測定したトルク:M(単位:Pa・m)と剪断応力:τ(単位:kPa)との間には、下記式:
τ={4M/(3πR)}×10
{但し、上記式におけるRは、パラレルプレートの半径(単位:mm)を表す。}
で示される関係があるので、1rpmで測定されるトルク:M及び10rpmで測定されるトルク:M10から上記式によりτ及びτ10をそれぞれ求めることができる。本発明では、回転粘度計の試料台の温度を30℃に調節し、試料(予めバッチ法で調製したペースト状重合硬化性組成物)0.7gをペーストの厚みが1mmとなるように、φ20mmのパラレルプレートで圧接した状態で1分間静置した後、剪断速度を1(rpm)及び10(rpm)で走査して、各回転速度におけるトルク:M及びM10に基づき決定されるτ10/τを、ダイラタンシー性指数としている。なお、ダイラタンシー性指数の値が1を越える場合にはダイラタンシー性を有し、数値が大きいほどダイラタンシー性が強いことを意味する。
【0029】
本発明の製造方法では、混練中に重合による固化を起こすことなく効率的な混練を可能とするために、ダイラタンシー性指数が2~35のものを製造目的物とする。効果の顕著性の観点から、製造目的物のダイラタンシー性指数は、3~30であることが好ましく、4~25であることが最も好ましい。
【0030】
(2)ペースト状重合硬化性組成物の原料物質及び組成について
次に、製造目的物であるペースト状重合硬化性組成物の構成成分(原料物質)及び組成について説明する。
【0031】
<重合性単量体>
製造目的物であるペースト状重合硬化性組成物の構成成分である重合性単量体は、(メタ)アクリル化合物などのラジカル重合性単量体、エポキシ化合物やオキセタン化合物等のカチオン重合性単量体等の中から適宜選択して用いることができるが、歯科用重合硬化性組成物を得るためには、(メタ)アクリレート系重合性単量体を使用することが好ましい。(メタ)アクリレート系重合性単量体としては、単官能重合性単量体、多官能重合性単量体の何れであってもよく、また、分子内に酸性基や水酸基を有するものであってもよく、更に芳香族系のものであっても脂肪族系のものであってもよい。好適に使用できる(メタ)アクリレート系重合性単量体を例示すれば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸、N-(メタ)アクリロイルグリシン、p-ビニル安息香酸、2-(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、6-(メタ)アクリロイルオキシエチルナフタレン-1,2,6-トリカルボン酸無水物、13-(メタ)アクリロイルオキシトリデカン-1,1-ジカルボン酸、2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、N-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N、N-(ジヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、2,2-ビス(メタクリロイルオキシフェニル)プロパン、2,2-ビス[(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロピルオキシ)フェニル]プロパン、エチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、1,6-ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)トリメチルヘキサン、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、4,4-ジフェニルメタンジイソシアネート等を挙げることができる。
【0032】
これらの(メタ)アクリレート系重合性単量体は、必要に応じて複数の種類のものを併用しても良い。
【0033】
<フィラー(充填材)>
フィラーとしては、無機フィラー及び/又は有機無機複合フィラーが使用される。ここで無機フィラーとは、(工業的又は商業的に1つのグレードとして入手可能な)単一種の無機粉粒体(無機粒子の集合体)又は複数種の無機粉粒体の混合物からなるものを意味し、有機無機複合フィラーとは、無機粉粒体と樹脂との複合体からな粒子によって構成される有機無機複合粉粒体を意味する。
【0034】
無機フィラー及び有機無機複合フィラーに含まれる無機粒子の材質としては、非晶質シリカ、シリカ-ジルコニア、シリカ-チタニア、シリカ-チタニア-酸化バリウム、シリカ-チタニア-ジルコニア、石英、アルミナ、ガラスなどが好適に使用される。歯科用重合硬化性組成物を得るためには、シリカとジルコニア、またはシリカと酸化バリウムとを主な構成成分とする複合無機酸化物、例えば、シリカ-ジルコニア、シリカ-チタニア-酸化バリウム、シリカ-チタニア-ジルコニアが、高いX線造影性を有するため好ましく使用される。なお、無機粒子の形状は特に限定されないが、球状のものを用いた場合には、得られるペースト状重合硬化性組成物の硬化体が耐摩耗性、表面滑沢性、光沢持続性に特に優れたものとなる。
【0035】
また、有機無機複合フィラーの例としては、前述の無機粉粒体と重合性単量体を混合した後、重合させ、粉砕して得られる粒状の有機無機複合粉粒体が挙げられる。
【0036】
上記無機粒子は、機械的強度や耐水性を向上させるために、シランカップリング剤に代表される表面処理剤で処理されていてもよい。
【0037】
歯科用重合硬化性組成物を得るためには、無機フィラーとなる無機粉粒体及び有機無機フィラーとして含まれる無機粉粒体は、硬化体の耐摩耗性、表面滑沢性、光沢持続性の観点から、平均1次粒子径が0.001~3μmである無機粉粒体、より好ましくは、平均1次粒子径が0.1~1.0μmである無機粉粒体を(有機無機複合フィラーの形態の物を含めて)フィラーの全質量100質量部に対して20質量部以上含むことが好ましく、30質量部以上含むことがより好ましい。また、平均1次粒子径が上記範囲にある無機粉粒体を構成する個々の粒子の形状は球状又は略球状であることが好ましい。
【0038】
なお、このような平均1次粒子径は、走査型電子顕微鏡を用いて求める。走査型電子顕微鏡で粒子を観察し、その単位視野内の粒子30個以上、好ましくは100個以上を無作為に選び、それぞれの一次粒子径(最大径)を計測する。その一次粒子径の合計を選択した粒子の数で除して得られる値を平均1次粒子径とする。具体的には、走査型電子顕微鏡(フィリップス社製、「XL-30S」)で粉体の写真を5000~100000倍の倍率で撮り、画像解析ソフト(「IP-1000PC」、商品名;旭化成エンジニアリング社製)を用いて、撮影した画像の処理を行い、その写真の単位視野内に観察される一次粒子の数:n(30個以上、好ましくは100個以上)および各一次粒の粒子径(最大径):x(iは1~nの自然数を表し、Xは、i番目の粒子の上記粒子径を表す。)を測定し、測定値に基づき式Xの総和をnで除することにより(数平均)一次粒子径を求めることができる。また、1次粒子が球状又は略球状であるとは、上記写真の単位視野内に観察される1次粒子について、その数:n、各1次粒子の最大径を長径:L、該長径に直交する方向の径を短径:Bを求め、(B/L)の総和をnで除した値である平均斉度が0.6以上、好ましくは0.8以上であることを意味する。
【0039】
これらのフィラーの配合量は、使用目的に応じて、重合性単量体と混合したときの硬化体の機械的物性や粘度(操作性)を考慮して適宜決定すればよいが、一般的には重合性単量体100質量部に対して250~700質量部、好ましくは300~600質量部の範囲で用いられる。
【0040】
<熱重合開始剤>
熱重合開始剤としては、前記重合性単量体を熱で重合硬化させる機能を有するものであれば特に限定されず、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、p-クロロベンゾイルパーオキサイド、tert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、tert-ブチルパーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート等の過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物、トリブチルボラン、トリブチルボラン部分酸化物、テトラフェニルホウ酸ナトリウム、テトラキス(p-フロルオロフェニル)ホウ酸ナトリウム、テトラフェニルホウ酸トリエタノールアミン塩等のホウ素化合物、5-ブチルバルビツール酸、1-ベンジル-5-フェニルバルビツール酸等のバルビツール酸類、ベンゼンスルフィン酸ナトリウム、p-トルエンスルフィン酸ナトリウム等のスルフィン酸塩類等が好適に使用できる。これら重合開始剤は単独で用いることもあるが、2種以上を混合して使用してもよい。また、重合方法の異なる複数の開始剤を組み合わせることも可能である。
【0041】
重合開始剤の配合量は目的に応じて有効量を選択すればよいが、重合性単量体100質量部に対して通常0.01~10質量部の割合であり、より好ましくは0.1~5質量部の割合で使用される。
【0042】
<その他の添加剤>
本重合硬化性組成物には、熱重合開始剤以外の重合開始剤、重合禁止剤、紫外線吸収剤、顔料等の着色物質等の他の添加剤を配合することができる。
【0043】
<好適なペースト状重合硬化性組成物>
前記した様に、重合性単量体及び無機粉粒体を含むペースト状重合硬化性組成物の粘度やダイラタンシー性等の粘弾性特定はその組成によって決まるものであるが、組成から直ちに該組成物がどの程度の粘度及びダイラタンシー性を有するかを判断することはできない。しかしながら、(メタ)アクリル化合物系重合性単量体;100質量部、無機粉粒体(有機無機複合フィラーとして含まれる無機粉粒体を含む。):250~700質量部、及び熱重合開始剤0.01~10質量部を含むペースト状重合硬化性組成物であって、前記無機粉粒体は、走査型電子顕微鏡を用いて測定した平均1次粒子径が0.1~1.0μmである1種又は複数種の無機粉粒体を(前記無機粉粒体の総質量を基準として)20質量%以上含むペースト状重合硬化性組成物、中でも上記した「平均1次粒子径が0.1~1.0μmである1種又は複数種の無機粉粒体」が球状又は略球状の無機粒子によって構成されるペースト状重合硬化性組成物は、η=0.3~8kPa・sで且つダイラタンシー性指数=2~35であるという条件を満たす可能性が極めて高い。したがって、このようなペースト状重合硬化性組成物は、本発明の製造方法における製造目的物として好適である。
【0044】
3.本発明の製造方法について
本発明の製造方法では、少なくとも1種の無機粉粒体を含む粉体原料であって、前記少なくとも1種の無機粉粒体の一部は、樹脂と複合化された粒子によって構成される有機無機複合粉粒体として含まれていてもよい粉体原料、及び重合性単量体を含む液体原料からなり、前記粉体原料及び前記重合性単量体の少なくとも一方には熱重合開始剤が配合されている原料を準備し(原料準備工程)、前記粉体原料と前記液体原料とを二軸混練機を用いて混練する(混練工程)ことにより前記(製造目的物である)ペースト状重合硬化性組成物を製造する。
そこで、以下に、本発明の製造方法で用いる各原料、二軸混練機及び混練条件について説明する。
【0045】
(1)原料準備工程
原料準備工程では、粉体原料と液体原料とを準備する。ここで、粉体原料とは、製造目的物であるペースト状重合硬化性組成物のフィラー、すなわち前記した無機フィラー及び/又は有機無機複合フィラーを含む粉粒体からなる原料であり、液体の重合性単量体は原則的に含まず、全く含まないことが好ましい。なお、ここで原則的に含まないとは、粉体性状を損なうような量では含まないという意である。一方、液体原料とは重合性単量体を含む液状の原料であり、フィラー及び非溶解性の材料は含まない。熱重合開始剤は、重合性単量体に不溶な場合には、粉体原料に配合され、溶解する場合には、粉体原料、液体原料のどちらに配合してもよい。
【0046】
これら粉体原料及び液体原料は、夫々所定の供給速度(単位:g/分)であって、単位時間に供給される前記粉体原料及び前記液体原料の合計量中における各構成成分の量がペースト状重合硬化性組成物の所定の組成となるような供給速度で前記フィードゾーン:FZに供給されるものである。このため、同一成分を粉体原料と液体原料とに分けて配合しない場合には、粉体原料中に置ける各成分の量比及び液体原料中に置ける各成分の量比は、(供給速度に拘わらず)夫々はペースト状重合硬化性組成物の所定の組成における量比と同じになるようにすればよい。たとえばペースト状重合硬化性組成物の所定の組成における各成分の質量比が、重合性単量体:フィラー:熱重合開始剤:顔料(任意成分)=α:β:γ:εであり、粉体原料がフィラー及び熱重合開始剤からなり、液体原料が重合性単量体及び顔料からなるときの粉体原料における各成分の質量比はフィラー:熱重合開始剤=β:γとし、液体原料における各成分の質量比は重合性単量体:顔料=α:εとすればよい。このとき、フィラーと重合性単量体の質量比がα:βとなるように供給速度が調整される。一方、同一成分を粉体原料と液体原料とに分けて配合する場合には、粉体原料と液体原料の供給速度比を考慮して夫々の原料中の組成を決定する必要がある。このため、同一成分を粉体原料と液体原料とに分けて配合しないことが好ましい。
【0047】
(2)混練工程
混練工程では、二軸混練機を用いて前記粉体原料及び液体原料を混練するが、本発明の製造方法では、本発明の効果を得るために二軸混練機として同方向回転二軸混練機を用いて特定の混練条件で混練を行う必要がある。以下に、同方向回転二軸混練機及び混練条件について説明する。
【0048】
<同方向回転二軸混練機>
本発明の製造方法では、二軸混練機として同方向回転二軸混練機を使用する。セルフクリーニング性が高い同方向回転二軸混練機を用いることで装置内での固化が起こらず、所望のペーストを排出することが可能となる。
【0049】
本発明の製造方法で使用する同方向回転二軸混練機は、並列に配置された同一又は実質的に同一な2つの「円筒状シリンダ」が一部重複して一体化し、一体化後における円筒軸方向に垂直な断面が、合同又は実質的に合同な2つの円弧が弦を共有するようにして対向して突き合わされた形状となっている「連結円筒状シリンダ」が内部に形成されたバレルと、同一又は実質的に同一な形状を有する1対のスクリュと、を有し、前記1対のスクリュの一方及び他方が前記「連結円筒状シリンダ」を構成する2つの「円筒状シリンダ」の一方及び他方の内部に夫々回転自在に挿入されることにより、フィードゾーン:FZ、ニーディングゾーン:KZ及びイクストゥルーディングゾーン:EZを形成し、前記1対のスクリュを同方向に回転させながら、前記筒状シリンダ内部において、前記FZに供給された原料に、前記KZで剪断力を付加して混練し、前記EZを介して外部に押出すものである。
【0050】
なお、バレルとシリンダは同じものを意味する場合もあるが、本発明ではハウジング部に相当する部分をバレルといい、スクリュが挿入される筒状の部分をシリンダということとする。また、筒状シリンダは上記したように、その断面形状が同径の2つの円をその一部が重なるように、2つの円筒を結合させた、断面瓢箪形のものであり、前記2つの円の中心が2本のスクリュの軸心にそれぞれ合致するようにスクリュが配置されることから、本明細書では、各スクリュが配置される円筒部を円筒状シリンダと言う。厳密には、円筒状シリンダの高さ方向に垂直な断面は、瓢箪形断面を2分したものとなるため(完全な円ではなく)円周上の2つの交点を結ぶ弦と、交点を結ぶ非重複部の弧で囲まれた形状となるが、円筒状として扱うものとし、該円筒状シリンダの内径(直径):Dも上記弧の部分における直径を意味するものとする。
【0051】
このような構造は、同方向回転二軸混練機の構造として一般的なものであり、スクリュの回転は、混練機が有する駆動モータによって行われる。また、原料の供給は定量供給ホッパーや定量ポンプなどの定量供給装置を用い、フィードゾーン:FZに設けられたシリンダ内部に連通する原料供給孔を介して行われる。原料供給孔は、直径20mm以上の円状又は角状の孔であることが好ましい。混練された混練物はイクストゥルーディングゾーン:EZの先端に連通する吐出孔または、バレルの下部に形成されたシリンダ内部から外部に連通する吐出口から装置外部に押し出される。
【0052】
また、前記筒状シリンダの内部に形成される各ゾーンの配置は、FZが最も基端側(上流側)に、EZが最も先端側(下流側)に配置され、KZはその間に配置される。このとき、FZ-KZのユニットが複数含まれる、例えば上流側からFZ-KZ-FZ-KZ-EZのような配置であってもかまわない。
【0053】
さらに、前記1対のスクリュ(混練スクリュと呼ばれることもある)は、同一又は実質的に同一な形状を有し、共に、スクリュには、混練される原料を下流側に送る送り用スクリュセグメントからなる「送り部」と、前記送り部から送られた原料を混練するためのニーディングディスクを含む混練用スクリュセグメントからなる「混練部」と、前記混練部で混練された混練物を吐出孔または、吐出口から装置外部に押し出す押出用スクリュセグメントからなる「押出部」とが、基端部から先端部に向かってこの順に設けられている。そして、前記「送り部」が配置される領域が前記「フィードゾーン:FZ」となり、前記「混練部」が配置される領域が「ニーディングゾーン:KZ」となり、前記「押出部」が配置される領域が「イクストゥルーディングゾーン:EZ」となる。
【0054】
送り部で用いる(下流側に送る)送り用スクリュセグメントはフィラーやマトリックスを滞りなく送液可能であれば特に制限がない。装置内での滞留が少ないため、ねじ状のスクリュがより好ましい。
【0055】
混練部で用いる混練用スクリュセグメントは送り機能が少ないフラットタイプのニーディングディスク及び下流部に順送りに送ることが出来るように斜めにカットの入った傾斜タイプのニーディングディスクを使用することが出来る。特にフラットタイプのニーディングディスクを使用することで混練部の滞留時間が長くなるため剪断応力が強くかかり、マトリックス中にフィラーを分散することが可能となるため、より好ましい。また、ニーディングディスクの形状はシリンダ内壁面とニーディングディスクのクリアランスが最も狭い部分が2点あるレンズ形やシリンダ内壁面とニーディングディスクのクリアランスが最も狭い部分が3点あるおにぎり型は剪断力が高く、セルフクリーニング性が高いためより好ましい。その中でも、ニーディングディスクの構成角度を変更することで剪断力の調整がしやすいレンズ形がより好ましい。レンズ形のニーディング構成の角度として、ニーディングディスク前後での右回りにおける角度の差が30°~150°に設定することが出来る。
【0056】
また、押出用スクリュエレメントは、吐出孔または、吐出口から混練部で混練された混練物を滞りなく送液可能であれば特に制限がない。EZの先端に連通する吐出孔から混練物が押し出される場合は、装置内での滞留が少ないため、ねじ状のスクリュがより好ましく、バレルの下部に形成されたシリンダ内部から外部に連通する吐出口から混練物が押し出される場合は、混練物の送り機能が少なく、スクリュに付着した混練物が摺り切られて吐出することが可能であるため、フラットタイプのニーディングディスク及び下流部に逆送りに送ることが出来るように斜めにカットの入った傾斜タイプのニーディングディスクがより好ましい。
【0057】
送り用スクリュセグメント及び混練用スクリュセグメントはバレルに形成された円筒状シリンダ内部に回転自在に挿入配置されており、一対のスクリュが同方向に同じ回転速度で回転することにより、送り用スクリュセグメントとシリンダの間を原料が通過することで原料を送ることができ、また、混練用スクリュセグメントとシリンダの間及び2本のスクリュ間で剪断がかかることで混練することが可能である。シリンダ(円筒状シリンダ)の内径が小さい場合、単位時間当たりの生産量が低く、生産性が低下し、内径が大きい場合、単位時間当たりの生産量は高くなるものの、生産ロスが増えることから、8~160(mm)であることが好ましく、11~100(mm)であることがより好ましい。また、シリンダ(円筒状シリンダ)の内径Dと長さLの比である、L/D比は、大きい値の場合、装置内滞留時間が長いことから生産ロスが増量し、小さい値の場合は装置内滞留時間が短くなることからフィラーの分散性不良が起こりやすいことから、7.2~40であることが好ましい。また、シリンダ(円筒状シリンダ)とニーディングディスク間のクリアランス最小値cは剪断力の高い0.1~2(mm)であることが好ましく、0.15~1(mm)であることがより好ましい。
【0058】
また、送り用スクリュセグメント長:Lfと混練用スクリュセグメント長:Lの比である、Lf/Lは、0.1~10であることが好ましい。
【0059】
スクリュ及びシリンダ内面の材質は、一般的な金属材料が使用可能であるが、無機粒子による摩耗があることから、高強度の金属を用いることが好ましく、硬質クロムめっき、特殊鋼を熱処理した合金、イオン窒化鋼、タングステンが主な合金である超硬合金を用いることがより好ましい。
【0060】
<混練条件>
混練工程では、前記粉体原料及び前記液体原料を、夫々所定の供給速度(単位:g/分)であって、単位間供給される前記粉体原料及び前記液体原料の合計量中における各構成成分の量がペースト状重合硬化性組成物の所定の組成となるような供給速度で最上流に配置された前記フィードゾーン:FZに供給して混練を行う。具体的には、粉体原料は定量供給ホッパーを用いて供給し、液体原料は定量ポンプを用いて供給する。投入口が詰まることなく安定した配合比の供給が可能であれば、粉体原料と液体原料の供給の順番に関して特に限定はないが、粉体原料の方が定量供給及び定量送り出しがし易く、安定した配合比のペースト状重合硬化性組成物が製造可能であるため、粉体原料を上流側で供給することが好ましい。さらに、粉体原料が液体原料と混合される前に密の状態になり馴染みにくくなる前に混合可能とするため、粉体原料と液体原料の投入間隔が狭いほどより好ましい。各原料の供給速度は、同方向回転二軸混練機に供給される原料の総質量(単位:g)を前記同方向回転二軸混練機から押し出される混練物の押出速度(単位:g/分)で除した滞在時間(単位:分)と、ペースト状重合硬化性組成物及び粉体原料と液体原料の各組成に基づいて決定される。混練物の押出速度は、後述するスクリュの回転速度に依存するが、3分~30分とすることが好ましい。また、前記粉体原料が、走査型電子顕微鏡を用いて測定した平均1次粒子径が0.1~1.0μmである微細無機フィラーを20質量%以上で含む場合には、単位時間に前記同方向回転二軸混練機内へ供給される前記微細無機フィラーの量が250~700質量部となる範囲内の所定の量となるように、前記粉体原料の供給速度及び前記液体原料供給速度を制御することが好ましい。
【0061】
また、混練工程においては、前記ニーディングゾーン:KZのバレル温度を25℃~45℃として混練を行う必要がある。上記温度が25℃未満の場合には結露することによる重合阻害が起こり、混練したペーストの重合硬化性が低下することとなり、45℃を超える場合には混練中に重合硬化が始まり、混練不良となる。このような温度制御はバレル外部を水冷することにより行うことができる。
【0062】
さらに、混練に際しては、混練時におけるスクリュの回転速度:N(単位:rpm)が下記式:
10A/η ≦ N ≦ 4500A/η
で示される条件を満足するようにする必要がある。
【0063】
なお上記条件式において、Aは、下記式:
A={(60・c×10)/(D・π)}(単位:Pa)
によって求められる値(装置定数)を意味し、上記式におけるDは、前記ニーディングゾーン:KZにおける、前記円筒状シリンダ内径(直径)(単位:mm)を意味し、cは、前記ニーディングゾーン:KZにおける、前記円筒状シリンダ内壁とニーディングスクリュ間のクリアランス最小値(単位:mm)を意味し、πは円周率を意味する。
【0064】
なお、上記条件は、前記したように、下記式:
Τ={(π・D・N・η)/(60・c)}×10-3
においてη=ηとして求められる剪断応力度:Τ(単位:kPa)が10~4500kPaとなることと同義である。剪断応力度が低い場合には分散不十分となり安定した充填率のペーストを得ることができず、剪断応力度が高い場合にはペーストが固化してしまうことから上記Τが20~3000kPa、特に30~2500kPaとなるようにすることが好ましい。なお、Τが20~3000kPaの場合における回転数Nは、下記式:
20A/η ≦ N ≦ 3000A/η
で示される条件を満足することになり、
Τが30~2500kPaの場合における回転数Nは、下記式:
30A/η ≦ N ≦ 2500A/η
で示される条件を満足することになる。
【実施例0065】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【0066】
1.原材料について
実施例及び比較例で用いた原材料についてその略号及び物性等を以下に示す。
【0067】
(A) 重合性単量体
・UDMA: 1,6-ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)トリメチルヘキサン
・TEGGMA: トリエチレングリコールジメタアクリレート
・NPG: ネオペンチルグリコールジメタクリレート
・bis-GMA: 2,2-ビス[(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロピルオキシ)フェニル]プロパン。
【0068】
(B) 重合開始剤
・BPO: ベンゾイルパーオキサイド。
【0069】
(C) フィラー(無機粉粒体及び有機無機複合粉粒体)
C1 平均粒子径が12μmである有機無機複合フィラー(平均粒径0.2μm球状シリカジルコニアのγ-メタクリロイロキシプロピルトリメトキシシラン処理物83質量%含有物。有機成分は後述するM1の硬化体である。)
C2 平均粒径0.2μm球状シリカジルコニアのγ-メタクリロイロキシプロピルトリメトキシシラン処理物
C3 平均粒径0.4μm球状シリカジルコニアのγ-メタクリロイロキシプロピルトリメトキシシラン処理物
C4 平均粒径3.0μm不定形シリカジルコニアのγ-メタクリロイロキシプロピルトリメトキシシラン処理物
C5 平均粒径1.0μm不定形シリカジルコニアのγ-メタクリロイロキシプロピルトリメトキシシラン処理物。
【0070】
なお、上記平均粒子径は、走査型電子顕微鏡(フィリップス社製、「XL-30S」)で粉体の写真を5000~100000倍の倍率で撮り、画像解析ソフト(「IP-1000PC」、商品名;旭化成エンジニアリング社製)を用いて、撮影した画像の処理を行い、その写真の単位視野内に観察される粒子の数および一次粒子径(最大径)を測定し、測定値に基づき前記した方法により算出した値である。
【0071】
2.液体原料及び粉体原料
(1)液体原料
実施例及び比較例では、下記組成を有する重合性単量体組成物M1~M3を液体原料として使用した。
・M1: UDMA:70質量部、TEGGMA:30質量部、及びBPO:1.0質量部
・M2: UDMA:60質量部、TEGGMA:20質量部、bis-GMA:20質量部、及びBPO:1.0質量部
・M3: UDMA:50質量部、NPG:50質量部。及びBPO:1.0質量部。
【0072】
(2)粉体原料
実施例及び比較例では、下記組成を有する粉体組成物F1~F6を粉体原料として使用した。
・F1: C1:50質量部及びC2:50質量部
・F2: C2:30質量部及びC4:70質量部
・F3: C2:80質量部及びC5:20質量部
・F4: C2:20質量部及びC2:80質量部
・F5: C5:100質量部
・F6: C3:100質量部。
【0073】
3.混練装置について
実施例及び比較例では、混練装置として、同方向回転二軸混練機である装置1~5を使用した。これら装置1及び装置3~5は、図1及び図3に示すスクリュセグメントの基本構成を有する1対のスクリュを用いた同方向回転二軸混練機であり、装置2は、図2及び図3に示すスクリュセグメントの基本構成を有する1対のスクリュを用いた同方向回転二軸混練機である。何れも粉体原料供給用の定量供給ホッパー及び液体原料供給用定量ポンプを具備し、図において下向き矢印示すFZに粉体原料及び液体原料を(粉体原料を液体原料よりもやや上流側に)供給できるようになっている点では共通しているが、使用するスクリュにおける混練用セグメントのニーディングディスク(混練部エレメント部材)の形状、円筒シリンダの直径(mm):D、円筒シリンダ内壁とニーディングディスク間のクリアランス最小値(mm):cが夫々下表1に示すようなものとなっている。
なお、図1及び図2における「FZ」は送り用スクリュセグメントを、「KZ」は混練用スクリュセグメントを、「EZ」は、押出用スクリュセグメントを、夫々表している。また、図1及び図2における「KZ」の下に表記される30°、60°及び90°の表記は、図3に示されるように、これら表記がされている「KZ」において隣接して配置される(前後2枚の)ニーディングディスクの位相差を表している。また、表1には、{(c×10)/(D・π)}(単位:Pa)によって求められるA値(装置定数)も併せて表記している。
【0074】
【表1】
【0075】
実施例1
(1)製造目的物であるペースト状重合硬化性組成物について
製造目的物であるペースト状重合硬化性組成物をバッチ法で別途調製し、その粘弾性特定の確認と硬化体の評価を行った。具体的には、重合性単量体組成物:M1と粉体組成物:F1とを、F1の組成物全体の質量に占める無機粒子全体の質量の割合(無機充填率)が80質量%になるように、M1:100質量部に対してF1:400質量部を、プラネタリーミキサーを用いて均一になるまで混合し、製造目的物となるペースト状重合硬化性組成物を調製した。次いで、調製された上記性組成物の粘度、ダイラタンシー性指数、及び硬化体の曲げ強さ以下の方法により測定した。
【0076】
(1-1)粘度測定
パラレルプレートを用いた回転粘度計であるModular Compact Rheometer MCR302(Anton Paar製)を用いて、次のようにして温度:30℃、回転速度:1rpmの条件で測定される粘度:η(単位:Pa・s)を測定した。すなわち、先ずアルミ製ディスポーザブル試料台を装置本体に設置後、試料台の温度を30℃に調節した。試料台の温度が安定した後、試料台に試料となるペースト状重合硬化性組成物0.7gを試料台にとり、ペーストの厚みが1mmとなるように、装置本体に接続したパラレルプレート(φ20mm、R=10mm)で圧接する。この状態で1分間静置した後、測定ソフトウェアRheoCompass(Anton Paar製)を用いて、剪断速度を毎分1回転で走査して、熱重合硬化性組成物のペースト粘度η(Pa・s)を得た。その結果、上記粘度ηは0.44kPa・sであった。
【0077】
(1-2)ダイラタンシー性指数測定
上記と同様にして試料をパラレルプレート(φ20mm、R=10mm)で圧してから1分間静置した後に、測定ソフトウェアRheoCompass(Anton Paar製)を用いて、剪断速度を毎分1回転と毎分10回転の走査を行い、1rpmで測定されるトルク:M(単位:Pa・m)及び10rpmで測定されるトルク(単位:Pa・m):M10から下記式:
τ={4M/(3πR)}×10
により、それぞれ対応する剪断応力(単位:kPa)τ及びτ10をそれぞれ求め、得られた値に基づきτ10/τで定義されるダイラタンシー性指数を求めた。その結果、ダイラタンシー性指数は19.0であった。
【0078】
(1-3)硬化体の曲げ強さ測定
混練方法が及ぼす硬化体物性への影響を調べるために、上記ペースト状重合硬化性組成物を真空脱泡し、角柱状のポリプロピレン製の成形型(14×18×150mm)へ気泡を巻き込まないように填入し、上面を平滑化した後、加熱加圧重合器を用いて、窒素加圧下にて圧力0.4MPa、100℃、15時間の条件で加熱加圧重合を行った。成形型から硬化体組成物を取り出し、歯科切削加工用ブランクを得た。得られた歯科用切削加工用レジン材料又は硬化性組成物の硬化体から、1.2mm×4.0mm×18mmの試験片を切り出し、試験片の各面をP2000の耐水研磨紙で仕上げた。作製した試験片を用いて、万能試験機オートグラフ(島津製作所製)を用いて、室温大気中、支点間距離12.0mmクロスヘッドスピード1.0mm/minの条件で、4.0mm×18mmの面に対して三点曲げ試験を行い、曲げ強さ(単位:MPa)を下記式より算出した。
曲げ強さ=3FS/(2bh
なお、上記式におけるFは試験片に加えられた最大荷重(単位:N)を表し、Sは支点間距離(単位:mm)を表し、bは試験直前に測定した試験片の幅(単位:mm)を表し、hは、試験直前に測定した試験片の厚さ(単位:mm)を表す。
試験片各10個について測定を行い、得られた曲げ強さの平均値をバッチ法調製物の曲げ強さ(基準値)としたところ、基準値は、224MPaであった。
【0079】
(2)同方向回転二軸混練機を用いた連続混練法によるペースト状重合硬化性組成物の調製(原料準備工程及び混練工程)
重合性単量体組成物:M1からなる液体原料と粉体組成物:F1からなる粉体原料を準備し、同方向回転二軸混練機である装置1を用いて、充填率が80質量%になるように、供給速度が液体原料:1.00(g/分)及び粉体原料:4.00(g/分)で供給すると共に、スクリュ回転数をN=100rpmとして、装置内滞留時間10分で混練を行ったところ混練は可能であり(ペーストとして吐出され)、ペースト状重合硬化性組成物を得ることができた。混練に際してはKZのバレル外部を30℃で水冷することにより設定し、30℃に温度が安定したことを確認した後に混練を行った。なお、上記N並びに前記η、D、及びcの各値に基づき下記式:
Τ={(π・D・N・η)/(60・c)}×10-3
によって求められる二軸混練機内の剪断応力度:Tは、84.9kPaとなる。
【0080】
(3)連続混練法で得られたペースト状重合硬化性組成物の評価
得られたペースト状重合硬化性組成物中について、吐出ペースト性状評価、粘弾性特性の評価、無機粒子の分散状態評価、無機充填率の評価、および得られたペースト状重合硬化性組成物の硬化体の曲げ強さ測定を行った。具体的な測定方法と結果を以下に示す。
【0081】
(3-1)吐出ペーストの性状評価
連続混練法で得られたペーストの性状を評価した。評価基準を以下に示す。その結果、「1(ペースト状態で吐出する)」であった。
1:ペースト状態で吐出する
2:ペースト状態で吐出するが、ペースト硬さがやや固い
3:ペースト状態で吐出するが、ペースト硬さが固い
4:ペーストが吐出しない。
【0082】
(3-2)粘弾性特性の評価
(1-1)および(1-2)と同様にして上記粘度η及びダイラタンシー性指数の測定を行ったところ、これら値はバッチ法で調製した場合と同等であった。
【0083】
(3-3)無機粒子の分散状態評価
硬化体を走査型電子顕微鏡(SEM)観察して無機粒子の凝集物の数を調べることにより無機粒子の分散状態評価を行った。具体的には、吐出ペーストを真空脱泡し、10mm×12mm×14mmの金型に充填し、填入し、上面を平滑化した後、加熱加圧重合器を用いて、窒素加圧下にて圧力0.4MPa、100℃、15時間の条件で加熱加圧重合を行った。取り出した硬化体から14mm×12mm×1mmの固体試料を切り出し、走査SEM測定用固体試料を作製した。次いで、SEMで上記硬化体試料のフィラー写真を倍率500倍で撮り、その視野内の無機粒子について観察した際にフィラー凝集物(添加している無機粒子より径が大きいもの)の個数を数え、ペースト内に残存する無機粒子の凝集物の数を評価した。その結果、凝集物は観察されなかった(凝集物数は0であった)。
【0084】
(3-4)無機充填率の評価
ムラなく安定した無機充填率のものが得られているかどうかを確認する目的で、混練の吐出開始10分後から2分毎に採取したペースト3点の充填率を測定し、最も充填率が高い値と最も充填率が低い値の差を充填率差(%)として求めたところ、0.1%であった。
なお、充填率の測定は、各吐出ペーストを示差熱-熱重量同時測定装置「TG/DTA6300」(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製)を用いて、以下の手順で行った。すなわち、0.02gの吐出ペーストをアルミパンに入れて試料とした。昇温速度を5℃/min、上限温度500℃、上限温度係留時間90分のスケジュールで加熱を行って、質量減少量を測定した。得られた重合性単量体成分と重合開始剤(有機物成分)の質量減少量を用いて、無機粒子と有機物成分の比率を求め、無機粒子100質量部に対する有機物成分(質量部)を算出した。また示差熱-熱重量同時測定のリファレンスには、0.02gの酸化アルミニウムを用いた。
【0085】
(3-5)曲げ強さ測定
得られたペースト状重合硬化性組成物を用い、(1-3)と同様にして連続法調製物の曲げ強さ(基準値)としたところ、バッチ法調製物の曲げ強さ(基準値)と同等の227MPaであった。
【0086】
実施例2~30及び比較例1~7
(1)製造目的物であるペースト状重合硬化性組成物について
実施例1において使用する重合性単量体組成物の種類、粉体組成物の種類及び無機充填率を表2に示すように変えたものを各実施例及び比較例における製造目的物とした。また、実施例1と同様にしてバッチ法で製造目的物となるペースト状重合硬化性組成物を調製し粘度η及びダイラタンシー性指数、曲げ強さ(基準値)の測定を行った。結果を合わせて表2に示す。
【0087】
【表2】
【0088】
(2)同方向回転二軸混練機を用いた連続混練法によるペースト状重合硬化性組成物の調製(原料準備工程及び混練工程)
実施例1において使用する同方向回転二軸混練機を表3に示すものに変更し、更に使用する液体原料の種類を(表2に示した)製造目的物に対応する重合性単量体組成物及び粉体組成物に変更すると共に、これらを所定の無機充填率となるように供給し、更に混練条件を表3に示すようにして混練を行ったところ、比較例1、3、4、5、7を除いて混練可能(ペーストの吐出が可能)であった。
【0089】
【表3】
【0090】
(3)連続混練法で得られたペースト状重合硬化性組成物の評価
実施例1と同様にして連続混練法で得られたペースト状重合硬化性組成物の評価を行った。結果を、混練の可否結果と合わせても表4に示す。
【0091】
【表4】
【0092】
表4に示されるように、粘度ηが0.3~8kPa・sであり、混練時の二軸混練機内の剪断応力度が10~4500kPa以内であり、ダイラタンシー性指数が2~35である実施例1~30では、バッチ法で調製したペースト状重合硬化性組成物と同等のペースト状重合硬化性組成物が得られている。
【0093】
これに対し、ダイラタンシー性指数が低い組成である比較例1と粘度が高い組成である比較例3、剪断応力度が高い組成である比較例4、逆送り傾斜タイプの混練スクリュセグメントニーディングディスクで構成されている装置5を用いた比較例5は、下流側にペーストを送る際にダイラタンシー性が強いことによる固化が起こり、ペーストとして吐出されなかった。
【0094】
また、ダイラタンシー性指数が低い組成である比較例2では、ペースト内に無機粒子の凝集物が複数残存していることが観察され、また、充填率差が大きいことから安定した混練が出来ていない。さらに、これら比較例では、曲げ強さが基準値と比較して大きく低下している結果となっている。これは、無機粒子の凝集物が複数残存することで無機粒子の凝集物が起点となって破壊が起こり、曲げ強さが低下したものと考えられる。
【0095】
また、15℃より低いバレル温度である比較例6は下流側にペーストとして送られる際に、急激に冷却されることで水分が発生し、ペースト内に水分が含まれ、重合阻害が起こり、曲げ強さにおいて表2に示す曲げ強さ(基準値)より値が大きく低下している結果であった。
【0096】
また、45℃を超えたバレル温度である比較例7は下流側にペーストが送られず、装置内が高温であることにより重合し、ペーストとして吐出されなかった。
図1
図2
図3