(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025017214
(43)【公開日】2025-02-05
(54)【発明の名称】ヘッドアップディスプレイ装置
(51)【国際特許分類】
G02B 27/01 20060101AFI20250129BHJP
B60K 35/23 20240101ALI20250129BHJP
H04N 5/64 20060101ALI20250129BHJP
【FI】
G02B27/01
B60K35/00 A
H04N5/64 501D
H04N5/64 521Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023120188
(22)【出願日】2023-07-24
(71)【出願人】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】弁理士法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 真人
【テーマコード(参考)】
2H199
3D344
【Fターム(参考)】
2H199DA03
2H199DA12
2H199DA15
2H199DA18
2H199DA19
2H199DA30
3D344AA21
3D344AB01
3D344AC25
(57)【要約】
【課題】自動車のウインドシールドを利用したHUDにおいて歪み等のない良好な虚像を形成する。
【解決手段】本発明の一態様は、有人移動体のウインドシールド2に表示光を照射し、該ウインドシールドで反射した光を観察者3の眼4に導入して該観察者の眼前に虚像を形成するHUD装置において、画像を形成する表示部を含み、該画像上の各部位で角度が異なる平行光線束を形成して表示光として出射する画像出射部(画像形成部11、導入光学系12)と、画像出射部から出射された表示光の光線束の平行性を維持しつつ拡大して出射するライトガイド13と、ライトガイドとウインドシールドとの間の光路上に配置され、ライトガイドで平行光線束が拡大された表示光が、ウインドシールドで反射されたあとに平行になるように、該ウインドシールドの反射面の曲面形状に応じて光の透過方向を偏向させる曲面形状を有する補正レンズ14と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有人移動体のウインドシールドに表示光を照射し、該ウインドシールドで反射した光を観察者の眼に導入して該観察者の眼前に虚像を形成するヘッドアップディスプレイ装置において、
画像を形成する表示部を含み、該画像上の各部位で角度が異なる平行光線束を形成して表示光として出射する画像出射部と、
前記画像出射部から出射された表示光の光線束の平行性を維持しつつ拡大して出射するライトガイドと、
前記ライトガイドと前記ウインドシールドとの間の光路上に配置され、前記ライトガイドで平行光線束が拡大された表示光が、前記ウインドシールドで反射されたあとに平行になるように、該ウインドシールドの反射面の曲面形状に応じて光の透過方向を偏向させる曲面形状を有する補正レンズと、
を備えるヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項2】
前記補正レンズは、光の入射面と出射面との少なくともいずれか一方の面が自由曲面形状である、請求項1に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項3】
車両用のヘッドアップディスプレイ装置であって、前記補正レンズの少なくともいずれか一方の面は非軸対称性の自由曲面形状である、請求項2に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項4】
前記補正レンズは、外部から前記ウインドシールドを透過して到来する外景光に対する反射光が、観察者の眼に到達しないような配置角度である又は曲面形状である、請求項1に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項5】
前記補正レンズは、前記画像出射部及び前記ライトガイドを内装する筐体の一部であるカバーを兼ねる、請求項1に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘッドアップディスプレイ(以下「HUD」と略すことがある)装置に関する。
【背景技術】
【0002】
HUDは、航空機や自動車などの有人移動体において操縦者等の観察者が前方の外景を注視しながら、計器情報などの各種の情報を視認するための装置である。
非特許文献1には、HUD筐体内部の小型ディスプレイの映像の情報を有する表示光を、複数のミラー及びウインドシールドに反射させて観察者の眼に導くHUDが記載されている。
【0003】
こうしたHUDで表示させたい情報の量の増加に伴って、HUDによる表示には大画面化が要請されている。一方で、大画面化に伴って光学系のサイズが大きくなり、HUD筐体が機内や車体内の配置スペースに収まらないという課題がある。その解決策の一つとして、非特許文献1に記載されているような、平板状であって光束を拡大可能な光学部材であるライトガイドを用いた方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】田中、有田、「ヘッドアップディスプレイ(HUD)の小型化に貢献するライトガイド技術」、島津評論、株式会社島津製作所、Vol.79、No.3・4(2022)、2023年3月20日発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ライトガイドには幾つかの方式があるが、基本的には、表示光を平板状の基板の内部に導いて、該基板の両面の間で反射させながら基板内部を伝搬させつつ、屈折、反射、回折等の光学作用を利用して、表示光の一部を基板の外部に取り出す。非特許文献1に記載された航空機用HUDでは、略水平に配置されたライトガイドによって光線束が拡大された表示光が、観察者の眼前に、その上部が手前側(観察者側)に倒れるように斜めに配置されたコンバイナに反射されて観察者の眼に届くように構成されている。
【0007】
こうした航空機用のHUDでは、表示光による虚像を観察者の眼前に良好に形成することができる。一方、自動車用のHUDでは、専用のコンバイナを用いることなく、該HUDを搭載する自動車のウインドシールドで表示光を反射させて観察者の眼に導く構成が、大画面化やコスト削減等の観点から望まれている。しかしながら、上記の航空機用HUDで採用したライトガイドを含む虚像光学系をこうした自動車用HUDに採用した場合、観察者の視点の位置によって、眼前に形成される虚像が大きく歪む、或いは虚像が観測される位置が大きくずれるといった問題が生じ、視認性が低下するという課題がある。
【0008】
本発明はこうした課題を解決するためになされたものであり、その主たる目的は、観察者の視点の位置の違いによるHUD表示の歪みや位置ずれ等を軽減し、良好な表示画像を観察者に提供することができるヘッドアップディスプレイ装置を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るヘッドアップディスプレイ装置の一態様は、有人移動体のウインドシールドに表示光を照射し、該ウインドシールドで反射した光を観察者の眼に導入して該観察者の眼前に虚像を形成するヘッドアップディスプレイ装置において、
画像を形成する表示部を含み、該画像上の各部位で角度が異なる平行光線束を形成して表示光として出射する画像出射部と、
前記画像出射部から出射された表示光の光線束の平行性を維持しつつ拡大して出射するライトガイドと、
前記ライトガイドと前記ウインドシールドとの間の光路上に配置され、前記ライトガイドで平行光線束が拡大された表示光が、前記ウインドシールドで反射されたあとに平行になるように、該ウインドシールドの反射面の曲面形状に応じて光の透過方向を偏向させる曲面形状を有する補正レンズと、
を備える。
【発明の効果】
【0010】
一般に、光線束を拡大するライトガイドでは、表示部で形成された画像上の或る1点における画像情報を含む表示光は、そのライトガイドの基板の内部で平行性を維持した状態で伝搬され、該基板から外部へと出射する際にも光線束の平行性が保たれる。一方、例えば自動車のウインドシールドは、通常、比較的複雑な曲面形状を有しており、その反射面に平行に入射する光線束は反射後に平行とはならずに進行方向がばらついてしまう。これが、観察者の視点が移動したときにHUD表示が大きく歪んだり位置がずれたりする主たる要因である。
【0011】
これに対し、本発明に係るヘッドアップディスプレイ装置の上記態様では、補正レンズの作用によって、ウインドシールドの反射面の形状に拘わらず、ウインドシールドで反射したあと、各視野の光線束の平行度合いは高くなり、その拡がり度合いはほぼ一様になる。そのため、本発明に係るヘッドアップディスプレイ装置の上記態様によれば、観察者の視点の位置が移動してもHUD表示の歪みや位置ずれの発生を防止し、視認性の良好なHUD表示を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態であるHUDシステムにおける光学系の概略構成図。
【
図2】本実施形態のHUDシステムで用いられるライトガイドの概略構造と光路の一例を示す図。
【
図3】補正レンズを用いずに平面形状のコンバイナ及びウインドシールドに画像を投影した場合の光路の一例を示す図。
【
図4】本実施形態のHUDシステムにおける光路の一例を示す図。
【
図5】本実施形態のHUDシステムにおけるウインドシールドと観察者の位置関係を示す上面視平面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一実施形態であるHUDシステムについて、添付の図面を参照しつつ説明する。
図1は、本実施形態のHUDシステムにおける光学系の概略構成図である。
図2は、
図1中のライトガイドの概略構造及び光路の一例を示す図である。
【0014】
本実施例のHUDシステム1は、典型的には自動車を運転する観察者3の眼前に、外景に重ねて、運転に必要である各種の計器情報などを含む虚像を形成するものである。観察者3の眼前には自動車のフロントガラスに相当するウインドシールド2が存在し、HUDシステム1はその下方に配置される。ウインドシールド2は、虚像を形成するために必要な構成要素であるが、ウインドシールド2自体は本実施形態におけるHUDシステム1には含まれない。
【0015】
図1に示すように、HUDシステム1は、画像形成部11、導入光学系12、ライトガイド13、及び補正レンズ14、を筐体10内に備える。
【0016】
画像形成部11は表示する対象の2次元画像(静止画又は動画)を形成するものであり、例えば光源部と表示素子とを含む。表示素子は例えば透過型液晶表示素子であり、光源部は透過型液晶表示素子に対するバックライト光源である。但し、画像形成部11の構成はこれに限らない。
【0017】
例えば表示素子としては、反射型液晶表示素子や有機ELディスプレイ、マイクロLEDディスプレイ、或いは、DMD(デジタルマイクロミラーデバイス)、MEMSミラー、プロジェクタなどを用いることもできる。表示素子として反射型液晶表示素子やDMDが使用される場合、光源部としては該液晶表示素子やDMDを前面側から照明するものを用いる。また表示素子として有機ELディスプレイやマイクロLEDディスプレイなどの自己発光型の表示素子が使用される場合には、該表示素子に光源部が内蔵されている。また表示素子として角度が走査されるMEMSミラーが使用される場合には、光源部として該MEMSミラーに向けて細径のレーザ光を照射するレーザ光源を用いる。
【0018】
導入光学系12は1以上のミラー又はレンズなどから成り、画像形成部11に含まれる表示素子の表示面上の各点(画素)から拡がるように射出された表示光を、その点毎に角度が相違する、それぞれ略平行な光線束に変換するコリメート光学系である。
【0019】
ライトガイド13は、略平行に入射した光線束を拡大して略平行な光線束として出射する光学部材である。こうした作用を有するライトガイド13には様々な方式、形態のものが知られている。一例としては非特許文献1の
図7に記載されている、平板状の透明な基板の内部の入射側にミラー面が、出射側に多数のビームスプリッタ面が形成されたライトガイドがある。この構成のライトガイドでは、外部から基板に入射した光線束は入射側のミラー面で反射されて全反射条件となり、基板の一対の対向面で全反射を繰り返しながら基板内部を伝搬する。伝搬した光線束がビームスプリッタ面に到達すると、光線束の一部は反射されて基板から出射し、残りの光線束はそのビームスプリッタ面を透過して基板内部をさらに伝搬する。複数のビームスプリッタ面において、光線束の一部の反射及び残りの光線束の透過を繰り返すことで、入射した光線束は拡大されてライトガイドから出射する。
【0020】
本実施形態のHUDシステムでは、ライトガイド13として上記構成のものではなく、
図2に示したような、特許文献1に記載された方式のものを利用する。即ち、このライトガイド13は、平板状であって内部にその平板の一面に対して所定の角度で傾斜した反射面1311が形成されている透明な第1基板131と、一方が平坦面1322、他方が断面三角波形状の凹凸面1321である透明な第2基板132と、を有する。第1基板131の一方の平坦面1313と第2基板132の平坦面1322とは、光学コーディング等による面状のビームスプリッタ133を間に挟んで密着されている。反射面1311の角度は、該反射面1311で反射された光束が、第1基板131と外部(空気)との境界において全反射条件を満たす角度となるように決められている。
【0021】
図2中に示すように、導入光学系12から第1基板131に導入された光線束は、反射面1311で一旦反射される。その後、光線束は、第1基板131の対向する平坦面1313、1312で全反射を繰り返しながら該基板131内部を伝搬する。そして、その光線束がビームスプリッタ133に到達すると、その光線束の一部は該ビームスプリッタ133を透過し、凹凸面1321から外部へと出射する。残りの光線束はビームスプリッタ133で反射されて第1基板131内部を通り、平坦面1312で反射したあと再びビームスプリッタ133に到達する。これを繰り返すことで、光線束は拡大されてライトガイド13から斜め方向に出射する。
勿論、ライトガイド13は特許文献1にも記載されているように適宜に変形可能であるし、ここで述べた以外の、例えばホログラムを用いて基板から光線束を取り出す構成のライトガイドを用いることもできる。
【0022】
補正レンズ14は1つのレンズ又は複数のレンズを組み合わせた光学部材であり、詳しくは後述するが、レンズの入射面に入射した光線束の方向をその入射面上の各点において偏向させ得るものである。
【0023】
本実施形態のHUDシステム1における画像表示のための光路について説明する。
画像形成部11における表示素子の表示面上に形成された画像を情報として含む表示光は該表示面から射出される。その表示面上の一つの点から様々な方向に出射される表示光は、導入光学系12において平行光化される。また、表示面上の互いに異なる点から出射される光は、導入光学系12において互いに異なる方向に平行光化される。従って、導入光学系12からライトガイド13に導入される表示光は、それぞれが画像形成部11の表示面上に形成される画像の異なる部位の情報を含み、異なる角度で以てライトガイド13に入射する平行光束の集合である。ライトガイド13は、平行に入射する光線束をその平行性を保ちつつ拡大して射出する。
【0024】
図2では、表示面上の或る一点から出射した表示光の光路を示しているが、表示面上の異なる点から出射した表示光が拡大されてライトガイド13から出射する光線束は、
図2に示した光線束とは異なる方向に向く平行線束である。HUDでは、この光線の平行性を維持したまま観察者の眼まで到達させることが、表示光による虚像を外景に重ねて良好に表示する上で重要である。
【0025】
図3(a)は、補正レンズ14を設けず、反射面が平坦であるコンバイナ5である場合に、観察者3の眼4に届く光線束を模式的に示した光路図である。図示するように、ライトガイド13から出射した平行線束はコンバイナ5に当たり、その平行性を維持したまま反射して観察者3の眼4に向かう。この場合、虚像の焦点は理論上、無限遠方になる。
【0026】
これに対し、ウインドシールド2は、
図1に示すように、その縦断面形状の少なくとも一部が湾曲形状である。その形状は自動車の車種等によって異なり、断面形状もかなり複雑な場合があり得る。また、
図5に上面視平面図で示すように、一般的な自動車では、ウインドシールド2は横断面形状も軸Sを中心とする対称の湾曲形状であり、しかも観察者(運転者)3はその軸Sから外れた位置に座している。そのため、観察者3の正面に位置するウインドシールド2の横断面形状は、非軸対称の湾曲面状である。このように、ウインドシールド2において、HUDシステム1から出射される表示光を反射する面の形状はかなり複雑である。
【0027】
図3(b)は、補正レンズ14を設けず、反射面が上記ウインドシールド2である場合の、観察者3の眼4に届く光線束を模式的に示した光路の一例である。図示するように、ウインドシールド2の反射面は曲面であり、しかもその曲率は一定でないため、HUDシステム1から平行線束が到来したとしても反射光は平行線束にはならずに進行方向がばらつき、その進行方向やばらつきの程度も反射面上の位置によって異なる。そのため、観察者3から見た虚像には歪みが生じるとともに、観察者3の眼4の位置が高さ方向にずれると、虚像の位置が上下に移動することになる。
【0028】
本実施形態のHUDシステム1において、補正レンズ14は、その補正レンズ14の入射面に平行に入射した光線束が補正レンズ14を経てウインドシールド2で反射したあとに平行になるように、ウインドシールド2へ向かう光線束の方向をそれぞれ曲げる、つまり偏向させる機能を有する。
図4は、本実施形態のHUDシステム1において観察者3の眼4に届く光線束を模式的に示した光路の一例である。ライトガイド13から出射する光線束は
図3の場合と同じであり、観察者3の眼4に向かう光線束は
図3(A)の場合と同等になる。
【0029】
このように光線束を偏向させるために、補正レンズ14の入射面又は出射面の少なくともいずれか一方の面は、ウインドシールド2の反射面の形状に応じた自由曲面形状を有する。即ち、いずれか一方の面は自由曲面形状であり、他方の面は自由曲面形状であるほか、平面状、球面状、トーリック面状、シリンドリカル面状等、多様な形状を採り得る。自由曲面形状である面の形状は、ウインドシールド2の反射面の形状に対応して設計される。
【0030】
また、
図5に示したように、ウインドシールド2の反射面の形状は通常、非軸対称の曲面であるから、補正レンズ14の上記自由曲面も非軸対称自由曲面である。また、ウインドシールド2の反射面(車内に向いた面)は通常、凹面形状であるから、補正レンズ14の上記自由曲面は、負の光学パワーを有する形状つまり凹面形状である。上述したように、一般にウインドシールド2の形状は自動車の車種等によって異なる。従って、このHUDシステム1が搭載される自動車の車種等に応じて、使用する補正レンズ14はその入射面及び/又は出射面の曲面の形状が異なるものに変更され得る。言い換えれば、筐体10内に配置される補正レンズ14以外の構成要素を共通とし、補正レンズ14のみを交換することで、様々な車種の自動車に対応することが可能であり得る。
【0031】
補正レンズ14の作用によって、ウインドシールド2で反射された表示光は平行な光線束として観察者3の眼4に到達する。これによって、画像形成部11の表示面に形成された画像は、歪みや視点に依存する位置の移動が生じることなく、良好な虚像として観察者3の眼前に表示される。また、観察者3の前方の外景等の前方視野情報による外景光はウインドシールド2を透過して観察者3の眼4に到達する。これにより、観察者3は前方視野情報も視認することができる。
【0032】
本実施形態のHUDシステム1では、補正レンズ14は筐体10の一部を構成する。即ち、従来のHUDでは、筐体内部から外部へと表示光を取り出すために筐体10の一部が透明(又は半透明な)カバーとなっていたが、このHUDシステム1では、カバーに代えて補正レンズ14が装着されている。従って、補正レンズ14が例えば塵埃等が筐体10内部に侵入することを防止し、内部に配置された各種部材を保護する機能を果たす。
【0033】
筐体10の外側に露出している補正レンズ14の出射面は、外側から到来した光を反射させる。この反射光が観察者3の眼4に到達すると、観察者3が眩しく感じ、外景等の視認性の低下をもたらす。そこで、ウインドシールド2を通して車外から車内へと入射して来る光に対する補正レンズ14の出射面での反射光が、観察者3の眼4が位置する方向に向かわないように、補正レンズ14の出射面の形状や補正レンズ14の配置(向き)を定めるようにすることが好ましい。
【0034】
即ち、本実施形態のHUDシステム1では、補正レンズ14の入射面及び又は出射面の形状、並びに補正レンズ14の配置は、まず該補正レンズ14を透過して出射する表示光がウインドシールド2で反射したあとに平行光線束になるようにすることが最も重要であり、併せて、ウインドシールド2を通して車外から車内へと入射して来る光に対する補正レンズ14の出射面での反射光が、観察者3の眼4が位置する方向に向かわないようにすることが好ましい。
【0035】
なお、上記実施形態はHUDシステムを一般の自動車に搭載して使用することを前提としていたが、自動車以外の各種車両やそれ以外の、人間が運転又は操縦する各種の移動体に本発明に係るヘッドアップディスプレイ装置を利用可能であることは当然である。
そうした場合、
図5に示したように観察者3が軸Sから外れた位置に居るのではなく、軸S上に位置していることもある。その場合には、補正レンズの入射面及び/又は出射面の形状は軸対称自由曲面とし得ることは当然である。
【0036】
また、上記実施形態はあくまでも本発明の一例にすぎず、本発明の趣旨の範囲で適宜変形、修正、追加等を行っても本願特許請求の範囲に包含されることは当然である。
【0037】
[種々の態様]
上述した例示的な実施形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0038】
(第1項)本発明に係るHUD装置の一態様は、有人移動体のウインドシールドに表示光を照射し、該ウインドシールドで反射した光を観察者の眼に導入して該観察者の眼前に虚像を形成するHUD装置において、
画像を形成する表示部を含み、該画像上の各部位で角度が異なる平行光線束を形成して表示光として出射する画像出射部と、
前記画像出射部から出射された表示光の光線束の平行性を維持しつつ拡大して出射するライトガイドと、
前記ライトガイドと前記ウインドシールドとの間の光路上に配置され、前記ライトガイドで平行光線束が拡大された表示光が、前記ウインドシールドで反射されたあとに平行になるように、該ウインドシールドの反射面の曲面形状に応じて光の透過方向を偏向させる曲面形状を有する補正レンズと、
を備える。
【0039】
(第2項)第1項に記載のHUD装置において、前記補正レンズは、光の入射面と出射面との少なくともいずれか一方の面が自由曲面形状であるものとすることができる。
【0040】
第1項及び第2項に記載のHUD装置では、補正レンズの作用によって、ウインドシールドの反射面の形状に拘わらず、ウインドシールドで反射したあと、各視野の光線束の平行度合いは高くなり、その拡がり度合いはほぼ一様になる。そのため、第1項及び第2項に記載のHUD装置によれば、観察者の視点の位置が移動してもHUD表示の歪みの発生や表示位置の移動を防止し、視認性の良好なHUD表示を提供することができる。
【0041】
(第3項)第2項に記載のHUD装置は、車両用のHUD装置であって、前記補正レンズの少なくともいずれか一方の面は非軸対称性の自由曲面形状であるものとすることができる。
【0042】
第3項に記載のHUD装置によれば、自動車の運転者の眼前に表示される虚像の視認性を向上させることができる。
【0043】
(第4項)第1項乃至第3項のいずれか1項に記載のHUD装置において、前記補正レンズは、外部から前記ウインドシールドを透過して到来する外景光に対する反射光が、観察者の眼に到達しないような配置角度である又は曲面形状であるものとすることができる。
【0044】
第4項に記載のHUD装置によれば、補正レンズでの反射光により観察者が感じる眩しさを軽減することができる。それによって、外景及びそれに重ねて表示される虚像の視認性を向上させることができる。
【0045】
(第5項)第1項乃至第3項のいずれか1項に記載のHUD装置において、前記補正レンズは、前記画像出射部及び前記ライトガイドを内装する筐体の一部であるカバーを兼ねるものとすることができる。
【0046】
第5項に記載のHUD装置によれば、筐体内に収容する光学部材の数を少なくし、筐体のサイズを小形にすることができる。
【符号の説明】
【0047】
1…HUDシステム
10…筐体
11…画像形成部
12…導入光学系
13…ライトガイド
131…第1基板
1311…反射面
1312、1313…平坦面
132…第2基板
1321…凹凸面
1322…平坦面
133…ビームスプリッタ
14…補正レンズ
2…ウインドシールド
3…観察者
4…眼