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特開2025-17221四季成り性イチゴの栽培方法、四季成り性イチゴの栽培施設
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025017221
(43)【公開日】2025-02-05
(54)【発明の名称】四季成り性イチゴの栽培方法、四季成り性イチゴの栽培施設
(51)【国際特許分類】
   A01G 22/05 20180101AFI20250129BHJP
   A01G 7/00 20060101ALI20250129BHJP
   A01G 31/00 20180101ALI20250129BHJP
【FI】
A01G22/05 A
A01G7/00 601C
A01G31/00 612
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023120213
(22)【出願日】2023-07-24
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】米森 淳
【テーマコード(参考)】
2B022
2B314
【Fターム(参考)】
2B022AA01
2B022AB15
2B022DA05
2B022DA08
2B022DA17
2B022DA20
2B314MA33
2B314MA52
2B314NA24
2B314PB24
2B314PB44
2B314PC04
2B314PC16
2B314PD45
2B314PD51
2B314PD52
2B314PD58
(57)【要約】
【課題】9月、10月において、イチゴの果実を多く収穫でき、且つ冷房装置のランニングコストを抑制できる四季成り性イチゴの栽培方法を提供する。
【解決手段】四季成り性イチゴの栽培方法は、四季成り性イチゴの苗3を、ビニルハウスまたはガラスハウスにより構成された栽培施設1内の培地に5月又は6月上旬に定植し、7月から8月の間の少なくとも一部の期間に、栽培施設1の屋根4aの上面に塗布された遮熱剤により栽培施設1の外部からの熱を遮断し、また、7月から8月の間の少なくとも一部の期間に、細霧冷房装置5aおよび循環扇5bを作動させて栽培施設1内の空気の温度上昇を抑制する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
四季成り性イチゴの苗を、ビニルハウスまたはガラスハウスにより構成された栽培施設に5月又は6月上旬に定植し、
7月から8月の間の少なくとも一部の期間に、前記栽培施設の屋根の上面に塗布された遮熱剤により前記栽培施設の外部からの熱を遮断し、また、
7月から8月の間の少なくとも一部の期間に、細霧冷房装置および循環扇を作動させることにより、前記栽培施設内の空気の温度上昇を抑制する、四季成り性イチゴの栽培方法。
【請求項2】
7月から8月の間の少なくとも一部の期間に、前記栽培施設内で、四季成り性イチゴを栽培する培地中を延びる配管内に、冷却水を供給する、請求項1に記載の四季成り性イチゴの栽培方法。
【請求項3】
前記四季成り性イチゴがよつぼし種である、請求項1または2に記載の四季成り性イチゴの栽培方法。
【請求項4】
ビニルハウスまたはガラスハウスにより構成された四季成り性イチゴの栽培施設であって、
四季成り性イチゴの苗の上方に配置された屋根と、
前記屋根の下方に形成された栽培空間に、霧を噴霧する細霧冷房装置と、
前記栽培空間内の空気を撹拌する循環扇と、を備え、
前記屋根の上面に、外部からの熱を遮断する遮熱剤が塗布された、四季成り性イチゴの栽培施設。
【請求項5】
四季成り性イチゴが植え付けられた培地の中を延びる配管と、
前記配管内に供給する水を冷却するヒートポンプと、
前記ヒートポンプにより冷却された冷却水を前記配管内に供給する圧送ポンプとを備え、
前記圧送ポンプにより前記配管内に供給された前記冷却水が前記ヒートポンプに還流される、請求項4に記載の四季成り性イチゴの栽培施設。
【請求項6】
前記栽培空間の温度を検出する空間温度センサと、
前記細霧冷房装置の作動を制御する制御装置とをさらに備え、
前記制御装置は、前記空間温度センサにより検出された前記栽培空間の温度が予め設定された閾値温度以上であるとき、前記細霧冷房装置を作動させる、請求項4または5に記載の四季成り性イチゴの栽培施設。
【請求項7】
前記培地の温度を検出する培地温度センサと、
前記圧送ポンプの作動を制御する制御装置とをさらに備え、
前記制御装置は、前記培地温度センサにより検出された前記培地の温度が予め設定された閾値温度以上であるとき、前記圧送ポンプを作動させて前記配管内に前記冷却水を供給する、請求項5に記載の四季成り性イチゴの栽培施設。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、9月、10月にイチゴの偽果(以下、便宜上「果実」という。)を多く収穫することが可能な四季成り性イチゴの栽培方法、および四季成り性イチゴの栽培施設に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、一季成り性イチゴにおいては、11月から翌年5月にかけての栽培が広く行われ、冬場から春にかけてイチゴの果実が多く収穫されてきた。
【0003】
一方、一季成り性イチゴは、日照時間が長いと花芽分化を起こさないという性質を有する。そのため、一季成り性イチゴを秋季に収穫するには、日照時間が長い夏場(7月から8月を指す。以下同様)に日照時間を短く制御する必要があった。
【0004】
これに対して、四季成り性イチゴでは、日照時間の長い夏場でも、日照時間を制御することなく、花芽分化を起こすことができる。
【0005】
たとえば、非特許文献1には、四季成り性イチゴの品種の一つである「よつぼし」を、12月から翌年1月にかけて播種し、4月に苗を培地に定植して7月から11月にかけてイチゴの果実の収穫を行った旨が記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】北海道園芸研究談話会報第50号(平成29年3月)「16.種子繁殖型イチゴ‘よつぼし’の北海道における夏秋どり栽培の可能性」木村文彦他4名著
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、非特許文献1に記載のように4月に苗を定植する場合、夏場に過度の暑さと果実への転流でイチゴの株が弱ってしまうという問題がある。加えて、昨今の温暖化により、四季成り性の品種であっても過度な暑さで夏場の花芽分化が抑制されてしまうという不都合が生じる。
【0008】
その結果、非特許文献1の第3図に示されているように、9月から10月、特に、イチゴの果実の市場価格が高騰する10月になると収穫量が大幅に減ってしまうという問題がある。
【0009】
また、夏場にヒートポンプ等の冷房装置を用いて栽培施設内の空気の温度を下げることで、イチゴの株が弱るのを抑制し、花芽分化の促進を図ることも考えられる。しかしながら、その場合には、冷房装置のランニングコストにより採算を取ることが難しくなるという問題が生じる。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、9月と10月において、イチゴの果実を多く収穫でき、且つ冷房装置のランニングコストを抑制できる四季成り性イチゴの栽培方法、および四季成り性イチゴの栽培施設を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様は、以下の態様を包含する。
【0012】
[1]四季成り性イチゴの苗を、ビニルハウスまたはガラスハウスにより構成された栽培施設内の培地に5月又は6月上旬に定植し、7月から8月の間の少なくとも一部の期間に、前記栽培施設の屋根の上面に塗布された遮熱剤により前記栽培施設の外部からの熱を遮断し、また、7月から8月の間の少なくとも一部の期間に、細霧冷房装置および循環扇を作動させて前記栽培施設内の空気の温度上昇を抑制する、四季成り性イチゴの栽培方法。
【0013】
[2]7月から8月の間の少なくとも一部の期間に、前記栽培施設内で、四季成り性イチゴを栽培する培地中を延びる配管内に、冷却水を供給する、[1]に記載の四季成り性イチゴの栽培方法。
【0014】
[3]前記四季成り性イチゴがよつぼし種である、[1]または[2]に記載の四季成り性イチゴの栽培方法。
【0015】
[4]ビニルハウスまたはガラスハウスにより構成された四季成り性イチゴの栽培施設であって、四季成り性イチゴの苗の上方に配置された屋根と、前記屋根の下方に形成された栽培空間に、霧を噴霧する細霧冷房装置と、前記栽培空間内の空気を撹拌する循環扇と、を備え、前記屋根の上面に、外部からの熱を遮断する遮熱剤が塗布された、四季成り性イチゴの栽培施設。
【0016】
[5]四季成り性イチゴが植え付けられた培地の中を延びる配管と、前記配管内に供給する水を冷却するヒートポンプと、前記ヒートポンプにより冷却された冷却水を前記配管内に供給する圧送ポンプとを備え、前記圧送ポンプにより前記配管内に供給された前記冷却水が前記ヒートポンプに還流される、[4]に記載の四季成り性イチゴの栽培施設。
【0017】
[6]前記栽培空間の温度を検出する空間温度センサと、前記細霧冷房装置の作動を制御する制御装置とをさらに備え、前記制御装置は、前記空間温度センサにより検出された前記栽培空間の温度が予め設定された閾値温度以上であるとき、前記細霧冷房装置を作動させる、[4]または[5]に記載の四季成り性イチゴの栽培施設。
【0018】
[7]前記培地の温度を検出する培地温度センサと、前記ヒートポンプの作動を制御する制御装置とをさらに備え、前記制御装置は、前記培地温度センサにより検出された前記培地の温度が予め設定された閾値温度以上であるとき、前記ヒートポンプを作動させて前記配管内に前記冷却水を供給する、[5]に記載の四季成り性イチゴの栽培施設。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、9月、10月において、イチゴの果実を多く収穫でき、且つ冷房装置のランニングコストを抑制できる四季成り性イチゴの栽培方法、および四季成り性イチゴの栽培施設を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の好ましい実施形態にかかる四季成り性イチゴの栽培施設の模式的正面図である。
図2図1に示された栽培施設の制御ブロック図である。
図3図1に示された培地冷却装置の近傍を示す模式的平面図である。
図4】制御装置による栽培空間冷却制御を示すフローチャートである。
図5】制御装置による培地冷却制御を示すフローチャートである。
図6】四季成り性イチゴの定植日と収穫開始日を示すグラフである。
図7】5月と7月に定植したよつぼしの月別収量を示す棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、場合により図面を参照しつつ、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。
【0022】
図1は、本発明の好ましい実施形態にかかる四季成り性イチゴの栽培施設1の模式的正面図であり、図2は、図1に示された栽培施設1の制御ブロック図である。
【0023】
栽培施設1は、施設本体4と、施設本体4内部に配置された栽培ベッド2と、温度センサ群6および日射センサ7と、施設本体4内部の温度を調節する温度調節装置群5と、潅水装置12と、温度調節装置群5の一部および潅水装置12を制御する制御装置8を備えている。
【0024】
施設本体4は、ビニルハウスまたはガラスハウスにより構成され、イチゴの苗3の上方に位置する屋根4a、屋根4aを支持する骨格部材4b、天窓4cおよび側窓4dを備えている。屋根4aの下方には、イチゴの苗3を栽培する栽培空間9が形成されており、かかる栽培空間9に、栽培ベッド2が配置されている。
【0025】
屋根4aの上面(外側の面)には、外部からの熱を遮断する遮熱剤が塗布されている。遮熱剤は、栽培施設1に照射される赤外線または近赤外線のうちの、少なくとも一部を反射するものであればよく、その種類はとくに限定されるものではないが、たとえばマルデンクロー社のReduHeat(登録商標)を好適に用いることができる。なお、遮熱剤は5月から7月頃に屋根4aの上面に塗布され、暑さが和らぐ秋には除去剤を用いて剥がされる。
【0026】
栽培ベッド2の上部には、容器2aが設けられている。容器2aには、イチゴの苗3が植え付けられた培地が収容されている。イチゴを栽培する培地としては、たとえばロックウールやヤシガラ等が好適に用いられるが、これらに限定されるものではない。また、容器2aの素材はとくに限定されるものではないが、本実施形態では発泡スチロールが用いられている。
【0027】
温度センサ群6は、施設本体4内部の温度を検出する。より詳細には、温度センサ群6は、栽培空間9の温度を検出する空間温度センサ6aと、容器2aに収容された培地の温度を検出する培地温度センサ6bを備えている。空間温度センサ6aおよび培地温度センサ6bはそれぞれ制御装置8の入力側に接続されており、温度の検出結果を制御装置8に出力する。
【0028】
日射センサ7は、培地の近傍に照射される日射量を検出する。日射センサ7は制御装置8の入力側に接続されており、日射量の検出結果を制御装置8に出力する。
【0029】
温度調節装置群5は、施設本体4内部のうちの栽培空間9の空気を冷却する細霧冷房装置5aと、栽培空間9の温度ムラを解消する循環扇5bと、容器2aに収容された培地を冷却する培地冷却装置5cと、天窓開閉装置5dと、側窓開閉装置5eを備えている。
【0030】
細霧冷房装置5aは、複数の噴霧ノズル5a2が装着された配管5a1と、噴霧ノズル5a2を通じて栽培空間9に噴霧する水を貯留する貯水タンク(不図示)と、貯水タンクから配管5a1内に水を供給する給水ポンプ5a3を備えている。配管5a1は骨格部材4bに取り付けられている。
【0031】
給水ポンプ5a3は、制御装置8の出力側に接続されており、制御装置8から出力される制御信号に基づき、駆動又は停止する。給水ポンプ5a3が駆動する間、貯水タンクから配管5a1内に水が供給され、複数の噴霧ノズル5a2を通じて栽培空間9に水が噴霧される。その結果、噴霧された水の気化熱により栽培空間9の空気が冷却される。
【0032】
循環扇5bは、空気を圧送する羽根部5b1と、羽根部5b1を回転駆動させる羽根回転モータ5b2を備えている。羽根回転モータ5b2は、制御装置8の出力側に接続されており、制御装置8から出力される制御信号に基づき、図示しないドライバ回路から電圧が印加されることで駆動する。循環扇5bは、羽根回転モータ5b2を用いて羽根部5b1を回転させ、栽培空間9の空気を圧送し撹拌する。なお、循環扇5bは作業者の操作に基づき駆動又は停止する構成であってもよい。
【0033】
培地冷却装置5cは、冷却圧送装置5c1と、冷却圧送装置5c1に接続された配管5c2を備えている。
【0034】
冷却圧送装置5c1は、水を冷却するヒートポンプ部5c1a(本発明の「ヒートポンプ」に相当)と、ヒートポンプ部5c1aにより冷却された冷却水を配管5c2内に圧送する圧送ポンプ部5c1bを備えている。なお、本明細書において、「冷却水」とは、培地の温度よりも低い温度まで冷却された水を指す。
【0035】
配管5c2はステンレスや合金、アルミニウム等の金属により形成することが好ましいが、配管5c2の素材は限定されるものではなく、樹脂製や陶製等であってもよい。
【0036】
天窓開閉装置5dは、天窓4cを開閉する天窓開閉モータ5d1を備えている。天窓開閉モータ5d1は、制御装置8の出力側に接続されており、制御装置8から出力される駆動信号に基づき、図示しないドライバ回路から電圧が印加されることで駆動する。
【0037】
側窓開閉装置5eは、側窓4dを開閉する側窓開閉モータ5e1を備えている。側窓開閉モータ5e1は、制御装置8の出力側に接続されており、制御装置8から出力される駆動信号に基づき、図示しないドライバ回路から電圧が印加されることで駆動する。
【0038】
潅水装置12は、培地の上面を延びる潅水チューブ12aと、貯水タンクから潅水チューブ12aに水を供給する潅水ポンプ12bを備えている。
【0039】
潅水ポンプ12bは、制御装置8の出力側に接続されており、制御装置8から出力される駆動信号に基づき、駆動又は停止するよう構成されている。潅水ポンプ12bが駆動する間、貯水タンクから潅水チューブ12a内に水が供給され、潅水チューブ12aに形成された多数の孔を通じて培地に潅水が行われる。
【0040】
なお、貯水タンクと潅水チューブ12aとの間に配管を設け、かかる配管に液肥混入器を配置し、潅水チューブ12aを通じて培地に液肥を供給できるよう構成してもよい。
【0041】
また、本実施形態においては、貯水タンクを細霧冷房と潅水の両方に用いているが、細霧冷房用と潅水用にそれぞれ貯水タンクを用意してもよい。この場合、潅水用の貯水タンクには、水に代えて培養液を収容し、かかる培養液を培地に供給するよう構成してもよい。
【0042】
制御装置8の入力側には、上述の温度センサ群6および日射センサ7に加え、作業者が種々のデータを制御装置8に入力するための入力手段11が接続されている。作業者は、入力手段11を用いて、種々の制御に用いられる閾値温度を入力し、設定することができる。入力手段11は、たとえばタッチパネルや物理ボタンにより構成されるが、これらに限定されるものではない。
【0043】
制御装置8は、CPU8aおよびメモリ8bを含む周知のマイクロコンピュータとその周辺回路により構成されている。CPU8aは、メモリ8bに格納された各種プログラムを読み出して実行することで、温度調節装置群5の作動を制御する。
【0044】
より詳細には、制御装置8は、細霧冷房装置5aの作動を制御して栽培空間9を冷却する栽培空間冷却制御と、培地冷却装置5cの作動を制御して培地2bを冷却する培地冷却制御と、換気制御と、空気循環制御と、潅水制御を行う。
【0045】
換気制御とは、空間温度センサ6aにより検出された栽培空間9の温度が、入力手段11を用いて予め設定された閾値温度以上のときに、天窓4cおよび側窓4dを開き、閾値温度未満のときに天窓4cおよび側窓4dを閉じる制御をいう。
【0046】
この場合の閾値温度には、たとえば日中の閾値温度として、22℃が、夜間の閾値温度として5℃が好適に設定され得るが、天窓4cおよび側窓4dの開閉の基準となる閾値温度はこれらに限定されるものではない。日中の閾値温度としての22℃という温度は、イチゴの高温障害を防ぐ面で好適である。また、夜間の閾値温度としての5℃という温度は、日中との寒暖差により日没以降に果実への転流を促進する面で好適である。とくに夏場に、施設本体4の内部と外部との間で温度差が大きくなったときに、施設本体4の内部の温められた空気を外部に排出し、比較的温度の低い外気を施設本体4の内部に取り入れることができる。
【0047】
メモリ8bには1年の各日付に紐付けされた日の出時刻および日の入り時刻のデータが格納されている。制御装置8は、当日の日付および翌日の日付から日の入り時刻と日の出時刻のデータを読み出し、日の入り時刻から翌日の日の出時刻までを夜間として、換気制御を行うことができる。なお、このように日の出時刻と日の入り時刻から夜間と日中とを判定するよう構成することは必ずしも必要でない。たとえば日の出時刻と日の入り時刻のデータが予めメモリ8bに格納されていてもよい。この場合には、日の出時刻と日の入り時刻を、入力手段11を用いて変更可能であることが好ましい。
【0048】
空気循環制御とは、空間温度センサ6aにより検出された栽培空間9の温度が、入力手段11を用いて予め設定された閾値温度以上のときに、羽根回転モータ5b2を駆動させて羽根部5b1を回転させ、栽培空間9の空気を循環させる制御をいう。空気循環制御における閾値温度には、たとえば18℃が設定されるが、これに限定されるものではない。
【0049】
潅水制御とは、日射センサ7により検出された培地の近傍の日射量に比例して、1日当たりの潅水回数を増減する制御をいう。日射量が多いほど、潅水回数を多く制御する。
【0050】
以下、培地冷却装置5cについて詳細に説明を加える。
【0051】
図3は、図1に示された培地冷却装置5cの近傍を示す模式的平面図である。
【0052】
配管5c2は、その延在方向における一部が3つの分岐配管5c2a~5c2cに分岐した形状をなしており、両端部5c2d,2c2eは冷却圧送装置5c1に接続されている。以下において、配管5c2の一方側の端部5c2dを「一端部5c2d」といい、他方側の端部5c2eを「他端部5c2e」という。なお、冷却圧送装置5c1に接続された配管の形状はとくに限定されるものではなく、一部が培地2b中に配置されていればよい。
【0053】
3つの分岐配管5c2a~5c2cはそれぞれ、別々の容器2aの正面2a1および背面2a2並びに培地2b中を図1の図面奥行き方向に貫通して延びており、背面2a2を貫通した先で1本に合流している。
【0054】
冷却圧送装置5c1のヒートポンプ部5c1aは、配管5c2の端部5c2eから配管5c2内の水を受け、かかる水を冷却する。この冷却においては、ヒートポンプ部5c1aは、配管5c2から取り込んだ水から、施設本体4の外部の空気に熱を移す熱交換を行う。
【0055】
冷却圧送装置5c1は制御装置8の出力側に接続されている。圧送ポンプ部5c1bは、制御装置8の制御信号に基づき、冷却水を一端部5c2dから配管5c2内へ圧送供給する。なお、ヒートポンプ部5c1aは、水温が予め設定された目標温度以下であるときを除き、常時発揮されているが、圧送ポンプ部5c1bは標準状態でオフされており、制御装置8の制御信号を受けたときにのみ、配管5c2内へ冷却水を供給する。
【0056】
一端部5c2dから配管5c2内へ供給された冷却水は、図3に示される矢印の方向へ移送され、培地2b内を通過する。このとき、培地2bは、冷却水に接触することで冷却された配管5c2により冷却される。
【0057】
こうして培地2b内を通過した水は、配管5c2の他端部5c2eからヒートポンプ部5c1aへと還流され、ヒートポンプ部5c1aで冷却された後、制御装置8の制御信号に基づき、再び一端部5c2dから配管5c2内へと供給される。
【0058】
このように、冷却水を配管5c2とヒートポンプ部5c1aと圧送ポンプ部5c1bとの間で循環させることで、培地2bの冷却にかかるランニングコストを抑えることができる。なお、配管5c2内で水の勢いが弱まり、冷却圧送装置5c1まで水を戻せない場合には、配管5c2に流速を高める圧送ポンプを別途設けてもよい。
【0059】
また、配管5c2内を通過させた水を冷却圧送装置5c1内に循環させることは必ずしも必要でない。冷却圧送装置5c1から配管5c2内に供給した水を冷却圧送装置5c1に循環させない場合には、冷却圧送装置5c1から冷却水を受ける一端部5c2dのみをヒートポンプに接続すればよい。
【0060】
培地冷却装置5cによれば、培地2bの温度を下げることができるから、とくに夏場にイチゴの株の体力を維持し、9月、10月の収穫量の減少を抑制できるとともに、イチゴの根の生長を促進することができる。
【0061】
以下において、栽培空間冷却制御について詳細に説明を加える。
図4は、制御装置8による栽培空間冷却制御を示すフローチャートである。
【0062】
制御装置8は、まず、空間温度センサ6aから栽培空間9の空気の検出温度のデータを取得する(ステップS1)。
【0063】
次いで、制御装置8は、空間温度センサ6aから取得した検出温度が、入力手段11を用いて予め設定された閾値温度以上であるか否かを判定する(ステップS2)。栽培空間冷却制御に用いる閾値温度としては、たとえば22℃が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0064】
判定の結果、検出温度が閾値温度未満である場合、制御装置8は、検出温度が閾値温度以上となるまで空間温度センサ6aからの検出温度の取得と判定とを繰り返す。
【0065】
これに対して、判定の結果、検出温度が閾値温度以上である場合、制御装置8は、給水ポンプ5a3の制御信号を出力し、細霧冷房装置5aを作動させる(ステップS3)。
【0066】
その結果、噴霧ノズル5a2を通じて栽培空間9に水が噴霧され、栽培空間9の空気が冷却される。給水ポンプ5a3の作動時間は2分間となっているが、これに限定されるものではない。
【0067】
その後、制御装置8は、所定の作動時間の経過後に細霧冷房装置5aを作動させる。所定の作動時間の計測には、不図示のソフトウェアタイマーまたはハードウェアタイマーが用いられる。
【0068】
こうして水の噴霧が終了すると、制御装置8は栽培空間冷却制御を終了する。その後、制御装置8は、水の噴霧終了から所定の休止時間をカウントする。そして、休止時間が経過した時点で制御装置8は再び栽培空間冷却制御を開始し、ステップS1で栽培空間9の空気の検出温度を取得する。以降、栽培空間冷却制御と、所定の休止時間のカウントとが繰り返し行われる。
【0069】
ここで、所定の休止時間とは、水の噴霧後、栽培空間9の温度が下がるのを待つため、給水ポンプ5a3の作動を行わない時間である。本実施形態では休止時間は20分に設定されているが、これに限定されるものではない。休止時間を設けることは必ずしも必要でないが、休止時間を設けることで水の消費量を抑えることができる。
【0070】
以上の栽培空間冷却制御によれば、栽培空間9の温度を、およそ施設本体4の外部の気温±2℃の範囲に抑えることができる。したがって、とくに夏場にイチゴの株の体力を維持し、9月、10月の収穫量の減少を抑制できる。
【0071】
加えて、栽培空間冷却制御においては、細霧冷房装置5aを用いて栽培空間9の温度を抑えるため、ヒートポンプ等を用いて栽培空間9の温度を抑える場合に比して、ランニングコストを抑制できる。なお、たとえば夏場の北海道の外気はおよそ15℃から33℃の範囲で推移している。
【0072】
図5は、制御装置8による培地冷却制御を示すフローチャートである。
【0073】
制御装置8は、まず、培地温度センサ6bから培地2bの検出温度のデータを取得する(ステップSS1)。
【0074】
次いで、制御装置8は、培地温度センサ6bから取得した検出温度が、入力手段11を用いて予め設定された閾値温度以上であるか否かを判定する(ステップSS2)。培地冷却制御に用いる閾値温度としては、たとえば18℃が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0075】
判定の結果、検出温度が閾値温度未満である場合、制御装置8は、検出温度が閾値温度以上となるまで空間温度センサ6aからの検出温度の取得と判定とを繰り返す。
【0076】
これに対し、判定の結果、検出温度が閾値温度以上である場合、制御装置8は、冷却圧送装置5c1に制御信号を出力し、圧送ポンプ部5c1bを作動させて、配管5c2と冷却圧送装置5c1の間で冷却水の循環を開始させる(ステップSS3)。その結果、培地2b内を冷却水が通過し、培地2bが冷却される。
【0077】
冷却水の循環が開始された後、制御装置8は、培地温度センサ6bから培地2bの検出温度のデータを取得する(ステップSS4)。
【0078】
次いで、制御装置8は、取得された検出温度が上記の閾値温度未満であるか否かを判定する(ステップSS5)。
【0079】
判定の結果、検出温度が閾値温度以上である場合、制御装置8は、検出温度が閾値温度未満となるまで検出温度の取得と判定とを繰り返す。
【0080】
これに対して、判定の結果、検出温度が閾値温度未満である場合、制御装置8は、冷却圧送装置5c1に制御信号を出力し、圧送ポンプ部5c1bを停止させて、冷却水の循環を停止させる(ステップSS6)。
【0081】
冷却水循環の停止後、制御装置8は培地冷却制御を終了する。その後、制御装置8は、冷却水循環の停止から所定の休止時間をカウントする。そして、休止時間が経過した時点で、制御装置8は再び培地冷却制御を開始し、ステップSS1で培地2bの検出温度を取得する。以降、培地冷却制御と所定の休止時間のカウントとが繰り返し行われる。
【0082】
ここで、休止時間とは、冷却水の循環停止後、培地2bの温度が下がるのを待つため、圧送ポンプ部5c1bを作動させない時間である。本実施形態では休止時間は10分間に設定されているが、これに限定されるものではない。なお、休止時間を設けることは必ずしも必要でないが、休止時間を設けることで圧送ポンプ部5c1bの消費電力を抑えることができる。
【0083】
本実施形態によれば、夏場でも培地2bと栽培空間9を冷却することができるから、夏場にイチゴの株の弱りを抑制でき、9月、10月および11月、12月においてもイチゴの果実を多く収穫することができる。
【0084】
さらに、栽培施設1においては、温度調節装置群5として、細霧冷房装置5a、循環扇5b、培地冷却装置5c、天窓開閉装置5dおよび側窓開閉装置5eを用いていることに加え、遮熱剤が屋根4aの外側の面に塗布されている。このため、ヒートポンプを用いた冷房装置を稼働させる場合に比して、ランニングコストを大幅に抑制できる。
【0085】
[その他の実施形態]
一実施形態において、本発明は、四季成り性イチゴの苗を、ビニルハウスまたはガラスハウスにより構成された栽培施設内の培地に5月又は6月上旬に定植し、7月から8月の間の少なくとも一部の期間にかけて、栽培施設の屋根の上面に塗布された遮熱剤により栽培施設の外部からの熱を遮断し、また、7月から8月の間の少なくとも一部の期間に、細霧冷房装置および循環扇を作動させて栽培施設内の空気の温度上昇を抑制する、四季成り性イチゴの栽培方法を提供する。なお、6月上旬とは、6月1日から6月10日までの期間を指す。
この実施形態においては、7月から8月の間の少なくとも一部の期間に、四季成り性イチゴを栽培する培地中を延びる配管内に、冷却水を供給してもよい。以下に、この実施形態について詳細に説明を進める。なお、日本での栽培を前提に説明を行う。
【0086】
本栽培方法により栽培される四季成り性イチゴの品種はとくに限定されるものではなく、たとえば「よつぼし」、「なつあかり」、「とちひとみ」、「すずあかね」等が挙げられる。これらの中でも、「よつぼし」は他の四季成り性イチゴに比して、甘味や口当たりなどの品質に優れるため、好適に用いることができる。
【0087】
とくに夏場に、細霧冷房装置等により栽培空間の温度を抑えつつ、「よつぼし」等の四季成り性イチゴを5月又は6月下旬に定植し、栽培することで、8月頃から翌年6月頃まで良好な収穫量が期待できる。
【0088】
栽培施設としては、上述の栽培施設1を好適に用いることができるが、ビニルハウスまたはガラスハウスにより構成されていればよく、他の構成はとくに限定されるものではない。
【0089】
たとえば栽培施設内の培地の種類はとくに限定されるものではない。上述の栽培施設1の培地2bを用いることができる他、土壌を培地とした土耕栽培を行ってもよい。
【0090】
培地中に通す配管としては、たとえば上述の配管5c2を用いることができるが、一部が培地中を延びており、且つヒートポンプで生成された冷却水を移送することができればよく、配管の素材や形状等はとくに限定されるものではない。なお、配管はその一部が培地中に配置されていればよく、配管全体を培地中に配置する必要はない。培地中への配管の配置は、苗の定植前に予め行っておくことが好ましいが、定植後であってもよい。
【0091】
冷却水としては、井戸水やヒートポンプで冷却した水を好適に用いることができる。
【0092】
ヒートポンプとしては、たとえば上述の栽培施設1の冷却圧送装置5c1のヒートポンプ部5c1aを好適に用いることができるが、培地中を延びる配管に、冷却水を供給することができればよく、その種類はとくに限定されるものではない。しかしながら、培地中を延びる配管内の水を受け、かかる水を冷却可能なものであることが好ましい。冷却圧送装置5c1の好適な例としては、三菱重工業社のヒートポンプモジュールチラー「Voxcel(登録商標)」が挙げられる。
【0093】
四季成り性イチゴの苗を定植する時期は5月又は6月上旬である。なお、定植とその後の栽培を行う地域としては、夏場の過度な暑さを避ける面で、北海道、東北地方、または標高700m以上の高冷地が望ましいが、これらの地域に限定されるものではない。
【0094】
日本では一般に、一季成り性イチゴにおいては、7月から9月頃にかけて育苗し、場合によっては冷蔵・短日処理を行った後に、9月から10月頃に定植する。この場合、果実の収穫が開始するのは11月から翌年1月頃となり、4月から6月頃まで収穫が行われる。また、四季成り性イチゴにおいては、一般に、3月から5月頃に定植し、6月から7月以降に収穫が行われることが多い。この場合、栽培施設内の温度上昇を抑制することなしに、9月から10月の多量収穫は困難である。
【0095】
これに対し、本実施形態の栽培方法では、四季成り性イチゴの苗を5月又は6月上旬に定植し、後に実施例で詳述するように、定植後、とくに夏場にかけて、苗を栽培する栽培空間9の温度上昇を抑制しつつ、まだ果実への転流が盛んでない状態で栽培を行うことで、9月から10月にかけてイチゴの果実を多く収穫することができる。また、8月から翌年6月頃まで長期間にわたって収穫することができる。なお、5月又は6月上旬に定植し、夏場に温度管理を行うことなく四季成り性イチゴを栽培した場合、収穫時期の遅れや収量低下、果実品質の低下などの問題が生じやすい。
【0096】
栽培施設の上面(詳細には屋根の外側の面)には、夏場の温度上昇を抑制するため、外部からの熱を遮断する遮熱剤を塗布しておくことが望ましい。栽培施設の屋根に遮熱剤を塗布することで、栽培空間の温度上昇を抑制できるとともに、培地の温度上昇も抑制することができる。遮熱剤としては、たとえばマルデンクロー社のReduHeat(登録商標)を好適に用いることができるが、栽培施設に照射される赤外線または近赤外線のうちの、少なくとも一部を反射するものであればよく、その種類はとくに限定されるものではない。
【0097】
遮熱剤により、7月から8月の間の少なくとも一部の期間にかけて栽培施設の外部からの熱を遮断することが好ましい。遮熱剤を塗布する時期はその年の天候にもよるが、遅くとも7月中には塗布しておくことが好ましい。なお、遮熱剤は雨で徐々に剥がれていくため、とくに梅雨入り前に塗布した場合には、梅雨明け後に塗布し直してもよい。
【0098】
また、夏場が過ぎ、気温が低下する10月頃には、遮熱剤を除去剤で剥がすことが望ましい。これにより、10月以降に施設本体内の温度を上昇できるとともに、イチゴの苗の光合成を促進することができる。
【0099】
定植後の栽培においては、培養液を培地に供給するか、または潅水を行いつつ、適宜追肥を行うことが好ましい。追肥においては液肥であってもよく、緩効性肥料であってもよい。
【0100】
7月から8月の間の少なくとも一部の期間(好ましくは6月から9月)には、四季成り性イチゴを栽培する培地中を延びる配管内に、ヒートポンプで冷却した冷却水を供給することが好ましい。
【0101】
このように、夏場の暑いときに培地中を延びる配管内に冷却水を供給することで、冷房にかかるランニングコストを抑えつつ、イチゴの苗の体力を維持することができ、9月から10月、とくに10月の果実の収量低下を抑制できる。
【0102】
なお、培地中を延びる配管内にヒートポンプから供給された水は、ヒートポンプに還流させて冷却し、再び配管内に供給することが好ましい。このように、配管とヒートポンプとの間で水を循環させることで、ランニングコストをより一層抑えることができる。
【0103】
さらに、7月から8月の間の少なくとも一部の期間(好ましくは6月から9月)にかけては、栽培施設内で細霧冷房装置を作動させて栽培施設内の空気の温度上昇の抑制を行うことが好ましい。細霧冷房装置を稼働させることで、ヒートポンプを、栽培空間の冷却用に稼働させる場合に比して、ランニングコストを大幅に抑えることができる。また、細霧冷房装置の稼働と併せて循環扇を作動させ、栽培施設内の温度ムラを解消することで、細霧冷房装置による温度上昇抑制の効果をより一層高めることができる。
なお、7月から8月の間の少なくとも一部の期間に細霧冷房装置および循環扇を作動させるのは、24時間以上にわたって連続して作動させることのみを意味するものではなく、1日のうちの一部の時間に作動させることも含むものとする。たとえば7月から8月のうち、上述の栽培施設1のように、栽培空間の温度が適宜設定される閾値温度以上であるときや、イチゴの苗に高温障害が発生する恐れのあるときなどに適宜作動させることができる。上述のように、培地中の配管内に冷却水を供給することに関しても同様である。
【0104】
本発明は、以上の各実施態様に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に含まれるものであることは言うまでもない。
【0105】
たとえば、図1から図5に示された栽培施設1の実施形態においては、栽培ベッド2を用いた高設栽培が行われているが、土耕栽培であってもよい。土耕栽培の場合には、培地冷却装置の配管が、地面に堆積する培地(土壌)の中を延びることとなる。
【0106】
以上、四季成り性イチゴの栽培施設1および四季成り性イチゴの栽培方法の各実施形態について詳述したが、以下に、四季成り性イチゴの栽培方法の一実施例について説明を加える。
【実施例0107】
本実施例では、四季成り性イチゴの中でも消費者志向面で品質の良い「よつぼし」を5月に定植し、自然日照時間下で栽培した例について詳述する。
【0108】
(栽培環境)
栽培施設は間口8mのビニルハウスである。栽培ベッドに発泡スチロール製容器を設け、かかる容器に防水シートおよび防根シートを敷設し、さらにロックウール培地を充填して高設栽培に供した。栽培ベッドは計7本用意した。
【0109】
(定植)
図6は、四季成り性イチゴの定植日と収穫開始日を示すグラフである。
【0110】
4月上旬に、培地収容用の406個の小空間を有するセルトレイによつぼしの種を播種し、5月19日に上述のロックウール培地に定植を行った。このときのイチゴの苗は、葉数が3枚になっている段階であった。定植にあたっては、株間を20cmとり、2条の千鳥植えとした。栽植密度は6957本/10a、1株あたりの培地量は2.45Lであった。
【0111】
また、よつぼしは、果実の耐暑性が低いことや、暑い環境では花芽分化が安定しないことなどの理由から一季成り性イチゴと同様に冬時期の収穫を見込んで栽培されることが多い。このため、一般的な一季成り性イチゴの定植時期よりやや早めの7月5日によつぼしを定植した対象区も用意した。
【0112】
なお、図6には、参考として3月に定植し、当該実施例と同様の条件下で栽培した場合の収穫開始時期も示されている。一般的に四季成り性イチゴを3月に定植した場合、夏場に果実への転流が盛んとなるため、9月以降収穫量が減少していく。
【0113】
(栽培空間の温度調節)
夏場の栽培中においては、空間温度センサで検出される栽培空間の温度が22℃以上のときに、細霧冷房装置を自動的に作動させた。また、空間温度センサで検出される栽培空間の温度が日中で22℃以上、夜間で5℃以上のときに、天窓および側窓を自動的に開き、22℃未満、夜間で5℃未満のときに、天窓および側窓を自動的に閉じた。また、夏場の間、循環扇は18℃以上で自動的に作動させた。
【0114】
細霧冷房装置、天窓、側窓および循環扇により、夏場はおよそ施設本体の外部の気温±2℃の範囲で推移した。
【0115】
遮熱剤(遮熱塗布剤)として、マルデンクロー社のReduHeat(登録商標)を、7月11日に栽培施設の屋根の上面(外側の面)に塗布した。
【0116】
その後、9月29日には除去剤を用いて遮熱剤を取り除いた。また、気温が下がる11月以降は、天窓および側窓を閉めた状態を維持した。
【0117】
(培地の温度調節)
夏場の栽培中においては、培地温度センサで検出される培地温度が18℃以上のときに、ヒートポンプで冷却した水を、培地中を延びる配管内に自動的に圧送供給し、配管とヒートポンプとの間でかかる水を循環させた。ヒートポンプには、三菱重工業社のヒートポンプモジュールチラー「Voxcel(登録商標)」を使用した。
【0118】
かかるヒートポンプおよび配管を備えた培地冷却装置により、夏場の培地の温度はおよそ18℃~23℃の範囲内であった。
【0119】
また、気温が下がる11月以降には、ヒートポンプにより温水を配管内に供給することで、培地の加温を行った。
【0120】
(潅水)
栽培中の潅水は、OATアグリオ社のOATハウスA処方の培養液を培地に供給し、生育に合わせてEC0.4~0.6mS/cmの範囲で管理した。
【0121】
(栽培結果)
以下の表1は、5月と7月に定植したよつぼしの月別収量を示しており、図7は、5月と7月に定植したよつぼしの月別収量を示す棒グラフである。
【0122】
【表1】
【0123】
対象区である7月に定植したよつぼしの場合、11月5日から果実の収穫が開始され、12月には1株当たり50g以上の収量となった。しかしながら、9月と10月には収穫できなかった。
【0124】
これに対し、5月に定植したよつぼしの場合、8月上旬に50%以上の株で第1花房の出蕾を確認できた。また、8月中旬には90%以上の株で第1花房の出蕾を確認できた。
【0125】
その後、8月18日からイチゴの果実の収穫が始まった。5月の定植から収穫開始までの日数は91日であった。
【0126】
12月までの1株当たりの平均収量は246.6gであり、収穫開始から12月末まで、とくに9月、10月に大きく落ち込むことなく、平均で1株当たり50g以上の安定した収量が得られた。イチゴの果実の市場価格が高騰する9月から12月、とくに最高値が付く10月に多く収穫できたことは、イチゴの生産者にとって非常に有益なことである。
【0127】
5月に定植したよつぼしが12月まで安定した収量が得られたのは、とくに夏場に、温度調節装置群の稼働と遮熱剤により、イチゴの株への負担を大きく軽減できたことと、7月、8月に多くの果実を収穫可能な生長段階になかったことで、よつぼしの株の体力を9月以降まで維持できたことが要因と考えられる。なお、得られたイチゴの果実は、平均で糖度12.6%、酸度0.52%、糖酸比24.0であり、糖度が高く、糖酸比も高いため、非常に良質であった。
【0128】
以上の結果から、四季成り性イチゴを5月に定植し、特に夏場に、温度調節装置群の稼働と遮熱剤により栽培施設内の温度上昇を抑制することで、9月、10月に多くの収量を確保できることが確認できた。
【符号の説明】
【0129】
1:栽培施設 2:栽培ベッド 2a:容器 2b:培地 3:苗 4:施設本体 4a:屋根 4b:骨格部材 4c:天窓 4d:側窓 5:温度調節装置群 5a:細霧冷房装置 5a1:配管 5a2:噴霧ノズル 5a3:給水ポンプ 5b:循環扇 5b1:羽根部 5b2:羽根回転モータ 5c:培地冷却装置 5c1:冷却圧送装置 5c2:配管 5c2a~5c2c:分岐配管 5d:天窓開閉装置 5e:側窓開閉装置 5d1:天窓開閉モータ 5e1:側窓開閉モータ 5e:側窓開閉装置 6:温度センサ群 6a:空間温度センサ 6b:培地温度センサ 7:日射センサ 8:制御装置 9:栽培空間 11:入力手段 12:潅水装置 12a:潅水チューブ 12b:潅水ポンプ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7