(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025172219
(43)【公開日】2025-11-20
(54)【発明の名称】窒化珪素質焼結体、ベアリング用転動体、窒化珪素質素球、及びベアリング
(51)【国際特許分類】
C04B 35/596 20060101AFI20251113BHJP
F16C 33/12 20060101ALI20251113BHJP
【FI】
C04B35/596
F16C33/12 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2025156576
(22)【出願日】2025-09-19
(62)【分割の表示】P 2024575004の分割
【原出願日】2024-02-01
(31)【優先権主張番号】P 2023014185
(32)【優先日】2023-02-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】313004414
【氏名又は名称】株式会社燃焼合成
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松尾 優作
(72)【発明者】
【氏名】宮坂 聡史
(72)【発明者】
【氏名】古川 智己
(72)【発明者】
【氏名】横山 悠太
(72)【発明者】
【氏名】高浪 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】小川 修平
(72)【発明者】
【氏名】田山 京子
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 孟
(72)【発明者】
【氏名】鏡 好晴
(72)【発明者】
【氏名】原田 和人
(57)【要約】
【課題】加工性が良好な窒化珪素質焼結体、窒化珪素質素球、及びベアリング用転動体、並びにこれを用いるベアリングを提供する。
【解決手段】Mg、Ca及びYからなる群より選択される少なくとも1種の金属Mの総含有率が0.2~8.0質量%、Alの含有率が4.0~12.0質量%、Oの含有率が4.0~12.0質量%であり、破壊靭性値が5.0~10.0MPa・m
1/2である、窒化珪素質焼結体。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mg、Ca及びYからなる群より選択される少なくとも1種の金属Mの総含有率が0.2~8.0質量%、Alの含有率が4.0~12.0質量%、Oの含有率が4.0~12.0質量%であり、破壊靭性値が5.0~10.0MPa・m1/2である、窒化珪素質焼結体。
【請求項2】
母相と粒界相とを有し、前記粒界相における前記金属Mの総含有率が、2.0~40.0質量%である、請求項1に記載の窒化珪素質焼結体。
【請求項3】
前記母相における前記金属Mの総含有率が、2.0~10質量%である、請求項2に記載の窒化珪素質焼結体。
【請求項4】
前記金属MがCaである、請求項1又は2に記載の窒化珪素質焼結体。
【請求項5】
固溶体状のSiAlONである、請求項1又は2に記載の窒化珪素質焼結体。
【請求項6】
ラマン分光スペクトルにおいて、177~197cm-1におけるピーク強度の最小値に対する、170~190cm-1におけるピーク強度の最大値の比が、1.0~3.0である、請求項1又は2に記載の窒化珪素質焼結体。
【請求項7】
ラマン分光スペクトルにおいて、185~210cm-1にあるβ相に帰属するピークが、187~199cm-1の間に存在する、請求項1又は2に記載の窒化珪素質焼結体。
【請求項8】
熱伝導率が5~15W/(m・K)である、請求項1又は2に記載の窒化珪素質焼結体。
【請求項9】
密度が、3.10~3.20g/cm3である、請求項1又は2に記載の窒化珪素質焼結体。
【請求項10】
X線回折スペクトルにおけるα相(210)、α相(201)、β相(101)、及びβ相(120)に相当するそれぞれのピークの高さから求める、(β(101)+β(120))/(α(210)+α(201)+β(101)+β(120))×100で表されるβ相の割合が、5~100%である、請求項1又は2に記載の窒化珪素質焼結体。
【請求項11】
前記窒化珪素質焼結体の断面の単位面積5mm×5mmの領域について光学顕微鏡により10~200倍の明視野で観察したときに、長径が10μm以上のポアが確認されない、請求項1又は2に記載の窒化珪素質焼結体。
【請求項12】
前記窒化珪素質焼結体の断面の単位面積5mm×5mmの領域について光学顕微鏡により10~200倍の暗視野で観察したときに、長径が25μm以上のスノーフレークが確認されない、請求項1又は2に記載の窒化珪素質焼結体。
【請求項13】
前記窒化珪素質焼結体の断面において焼結体表面から内側に250μm以内の領域を光学顕微鏡により10~200倍の暗視野で観察したときに、長径が50μm以上のスノーフレークが確認されない、請求項1又は2に記載の窒化珪素質焼結体。
【請求項14】
耐摩耗性部材用である、請求項1又は2に記載の窒化珪素質焼結体。
【請求項15】
請求項1又は2に記載の窒化珪素質焼結体から構成され、直径の最大値と最小値との差が100μm以下で、帯状の凸部高さが50μm以下の球体である窒化珪素質素球。
【請求項16】
請求項1又は2に記載の窒化珪素質焼結体の鏡面加工物で構成される、ベアリング用転動体。
【請求項17】
請求項16に記載のベアリング用転動体を備えるベアリング。
【請求項18】
電気自動車用である、請求項17に記載のベアリング。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化珪素質焼結体、ベアリング用転動体、窒化珪素質素球、及びベアリングに関する。
【背景技術】
【0002】
窒化珪素焼結体は、機械的強度及び耐摩耗性に優れるため、耐摩耗性部材、ガスタービン翼、エンジン部品などに用いられている。なかでも高い耐摩耗性が要求されるベアリング部材に用いる窒化珪素焼結体としては、例えば、原料としての窒化珪素にY2O3、Al2O3等を焼結助剤として添加して焼成し、粒界相を生成させて、焼結体の緻密化及び高強度化を図っている。このように緻密な焼結体を得るには、Y2O3などの希土類元素を含む焼結助剤を使用している。
【0003】
また、焼結助剤としてAlNを添加して、SiAlONと呼ばれる窒化珪素の固溶体を形成させ耐摩耗性を高めることも行われている。しかしながら、AlNは耐水性が低いため、この方法では水ではなく有機溶媒を用いてスラリーを調製し造粒することから、コストが高くなり、SiAlONの生成量も少ない。
【0004】
そこで、燃焼合成法により合成されたβSiAlONを原料として用い、これを焼結させることが提案されている。例えば、特許文献1には、燃焼合成法により合成されたβSiAlON粉末に焼結助剤として酸化アルミニウム及び酸化イットリウムを添加して一段焼結処理してなり、最大ポアサイズ、接触面積率、及び結晶粒子の平均粒径を特定の範囲とする窒化ケイ素質焼結体が開示されている。得られる窒化ケイ素質焼結体は、結晶粒径が小さくて破壊の基点となる欠陥が殆ど存在せず、一段の加熱処理で製造されると特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、先行文献1に記載の窒化ケイ素質焼結体は、破壊靭性が低く、これは、βSiAlON粉末を用いるため液相焼結時にα相からβ相に転移するとき母相同士の絡み合い構造が少ないためと考えられる。
窒化珪素質焼結体は、電気自動車など適用分野が拡大しており、特にベアリング用転動体向けは、素球から精密球に加工する際の加工代の低減が求められている。そこで、本開示の一実施形態では、欠陥の少ない窒化珪素質焼結体、及びベアリング用転動体、並びにこれを用いるベアリングの提供を目的とする。本開示の他の一実施形態では、加工性が良好な窒化珪素質焼結体、窒化珪素質素球、及びベアリング用転動体、並びにこれを用いるベアリングの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を達成するための具体的手段は以下の通りである。
<1> Mg、Ca及びYからなる群より選択される少なくとも1種の金属Mの総含有率が0.2~8.0質量%、Alの含有率が4.0~12.0質量%、Oの含有率が4.0~12.0質量%であり、破壊靭性値が5.0~10.0MPa・m1/2である、窒化珪素質焼結体。
<2> 母相と粒界相とを有し、前記粒界相における前記金属Mの総含有率が、2.0~40.0質量%である、<1>に記載の窒化珪素質焼結体。
<3> 前記母相における前記金属Mの総含有率が、2.0~10質量%である、<2>に記載の窒化珪素質焼結体。
<4> 前記金属MがCaである、<1>~<3>のいずれか1つに記載の窒化珪素質焼結体。
<5> 固溶体状のSiAlONである、<1>~<4>のいずれか1つに記載の窒化珪素質焼結体。
<6> ラマン分光スペクトルにおいて、177~197cm-1におけるピーク強度の最小値に対する、170~190cm-1におけるピーク強度の最大値の比が、1~2.5である、<1>~<5>のいずれか1つに記載の窒化珪素質焼結体。
<7> ラマン分光スペクトルにおいて、185~210cm-1にあるβ相に帰属するピークが、187~199cm-1の間に存在する、<1>~<6>のいずれか1つに記載の窒化珪素質焼結体。
<8> 熱伝導率が5~15W/(m・K)である、<1>~<7>のいずれか1つに記載の窒化珪素質焼結体。
<9> 密度が、3.10~3.20g/cm3である、<1>~<8>のいずれか1つに記載の窒化珪素質焼結体。
<10> X線回折スペクトルにおけるα相(210)、α相(201)、β相(101)、及びβ相(120)に相当するそれぞれのピークの高さから求める、(β(101)+β(120))/(α(210)+α(201)+β(101)+β(120))×100で表されるβ相の割合が、5~100%である、<1>~<9>のいずれか1つに記載の窒化珪素質焼結体。
<11> 前記窒化珪素質焼結体の断面の単位面積5mm×5mmの領域について光学顕微鏡により10~200倍の明視野で観察したときに、長径が10μm以上のポアが確認されない、<1>~<10>のいずれか1つに記載の窒化珪素質焼結体。
<12> 前記窒化珪素質焼結体の断面の単位面積5mm×5mmの領域について光学顕微鏡により10~200倍の暗視野で観察したときに、長径が25μm以上のスノーフレークが確認されない、<1>~<11>のいずれか1つに記載の窒化珪素質焼結体。
<13> 前記窒化珪素質焼結体の断面において焼結体表面から内側に250μm以内の領域を光学顕微鏡により10~200倍の暗視野で観察したときに、長径が50μm以上のスノーフレークが確認されない、<1>~<12>のいずれか1つに記載の窒化珪素質焼結体。
<14> 耐摩耗性部材用である、<1>~<13>のいずれか1つに記載の窒化珪素質焼結体。
<15> <1>~<14>のいずれか1つに記載の窒化珪素質焼結体から構成され、直径の最大値と最小値との差が100μm以下で、帯状の凸部高さが50μm以下の球体である窒化珪素質素球。
<16> <1>~<14>のいずれか1つに記載の窒化珪素質焼結体の鏡面加工物で構成される、ベアリング用転動体。
<17> <16>に記載のベアリング用転動体を備えるベアリング。
<18> 電気自動車用である、<17>に記載のベアリング。
【発明の効果】
【0008】
本開示の一実施形態によれば、欠陥の少ない窒化珪素質焼結体、窒化珪素質素球、及びベアリング用転動体、並びにこれを用いるベアリングが提供される。本開示の他の一実施形態によれば、加工性が良好な窒化珪素質焼結体、窒化珪素質素球、及びベアリング用転動体、並びにこれを用いるベアリングが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】原料組成物を球状に金型成形した場合の、凸部を有する成形物の概略図である。
【
図2】(A)は例2の球体の窒化珪素質焼結体断面、(B)は例6の球体の窒化珪素質焼結体断面であり、それぞれ鏡面加工してから球体の表面近傍の断面を10倍の光学顕微鏡で観察した像(暗視野)である。
【
図3】(A)は例2の窒化珪素質焼結体の断面、(B)は例6の窒化珪素質焼結体の断面であり、それぞれ鏡面加工してから25000倍の走査型電子顕微鏡で観察した像である。
【
図4】例2の窒化珪素質焼結体のXRD測定スペクトルである。
【
図5】(A)は例2、(B)は例6の窒化珪素質焼結体のラマン分光スペクトルである。
【
図6】例6、例11、例15、例18、及び例26の窒化珪素質焼結体のラマン分光スペクトルである。
【
図9】スラスト転動試験後の例15及び例28の窒化珪素質焼結体の表面をレーザー顕微鏡で観察した像である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示に係る実施形態について詳細に説明する。但し、本開示は以下の実施形態に限定されるものではない。
本開示において数値範囲を示す「~」とは、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。特段の定めがない限り、以下本開示において「~」は、同様の意味で使用される。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において図面を参照して実施形態を説明する場合、当該実施形態の構成は図面に示された構成に限定されない。また、各図における部材の大きさは概念的なものであり、部材間の大きさの相対的な関係はこれに限定されない。
【0011】
本開示においてビッカース硬度は、ビッカース硬度計を用いてJIS R1610:2003に準拠して測定する。
本開示において破壊靭性は、JIS R 1607:1995に規定される圧子圧入法(IF法)により測定して、新原らの式で算出する。
本開示においてヤング率は、JIS R1602:1995に準拠して静的撓み法により測定する。
本開示において密度はアルキメデス法で測定する。
【0012】
本開示において圧砕強度は、テンシロン試験機を用いてJIS B1501:2009に基づく方法で測定する。圧砕強度の値は、10個の試料を測定したときの平均値とする。圧砕強度のワイブル係数は、10個の試料を測定したときの値とする。
本開示において熱膨張係数は、JIS R1618:2002に準拠して、熱機械分析(TMA)測定機にて測定する。
本開示において3点曲げ強度は、3mm×4mm×40mmの試験片を作製し、スパン(支点間距離)30mm、荷重の印加速度0.5mm/minの条件で測定する。3点曲げ強度の値は、10個の試験片を測定したときの平均値とする。3点曲げ強度のワイブル係数は、10個の試験片を測定したときの値とする。
【0013】
本開示においてX線回折(XRD)法による測定は、X線回折装置(例えば、株式会社リガク製「Smart lab」、検出器「D/teXUltra」、X線解析ソフトウェア「PDXL2」)を用いて、下記の条件で行う。
出力:45kV-200mA、走査範囲:10°-60°、光学系:集中法、入射ソーラースリット:5°、長手制限スリット:10mm、受光スリット1:8mm、受光スリット2:13mm、受光平行スリット:5.0°、アッテネータ開放、走査速度:5°/min、ステップ幅:0.005°
【0014】
本開示において窒化珪素質焼結体の元素分析は、電子線プローブマイクロアナライザー(EPMA)装置(例えば、日本電子株式会社製「JXA-8500F」及び標準試料)を用いて、下記条件にて実施する。測定試料は、表面にカーボンコート(30nm、10フラッシュ)後、分析に供する。
加速電圧:15keV、プローブ電流:30nA、ビーム径:30μm、
【0015】
本開示において窒化珪素質焼結体の粒界相におけるMg、Ca及びYの含有率は、エネルギー分散型X線分光法(EDS)により、EDSアナライザー(例えば、Thermo Fisher Scientific社製、Noran system 6、検出器:Thermo Fisher Scientific社製Ultradry)を用いて、下記条件にて求める。
ライン分析太さ:1、ポイント数:100、ポイント取得間隔50nm、とし、取得したネットカウントは前後1点を含む3点で移動平均に換算する。換算データの最大値が1、最小値が0となるように規格化し、SiとOの交差する点を相の境界と定義して、境界より粒界相側に150nm内部の5点について測定し、得られた値の平均値を求める。
本開示において窒化珪素質焼結体の母相におけるMg、Ca及びYの含有率は、粒界相におけるMg、Ca及びYの含有率と同様の方法で求め、但し、境界より母相側に150nm内部の点で得られた値の平均値を求める。
【0016】
本開示において窒化珪素質焼結体中の窒素量及び酸素量は、不活性ガス融解-赤外吸収法に準ずる酸素分析計により測定する。
【0017】
本開示においてポアの長径は、光学顕微鏡の明視野(BF)で観察し計測して求める。具体的には、窒化珪素質焼結体の断面を鏡面加工し、鏡面加工した断面の表層から2mm以上内部における単位面積5mm×5mmの領域について、明視野(BF)で10~20倍に拡大して欠陥部分の位置を確認し、その欠陥部分を100~200倍に拡大してポアの長径を測定する。1つのポアにおいて、最も長くなる径を長径として測定する。ポアと気孔は同義であり、深さを伴う欠陥として確認される。
上記の拡大、観察及び測定の操作を繰り返し、単位面積5mm×5mmの領域において長径が10μm以上のポアがあるかを確認する。大きさが5mm×5mmに満たない試料の場合は、合計で単位面積5mm×5mmとなるよう複数個の試料を観察する。
【0018】
本開示においてスノーフレークの長径は、光学顕微鏡の暗視野(DF)で観察し計測して求める。具体的には、焼結体の断面を鏡面加工し、鏡面加工した断面の任意の単位面積5×5mmの領域について、暗視野(DF)で10~20倍に拡大して欠陥部分の位置を確認し、その欠陥部分を100~200倍に拡大してスノーフレークの長径を測定する。1つのスノーフレークにおいて、最も長くなる径を長径として測定する。
上記の拡大、観察及び測定の操作を繰り返し、単位面積5mm×5mmの領域において長径が50μm以上又は25μm以上のスノーフレークがあるかを確認する。大きさが5mm×5mmに満たない試料の場合は、合計で単位面積5mm×5mmとなるよう複数個の試料を観察する。
なお、「スノーフレーク」とは白斑状の欠陥であり、例えば、
図2(A)(B)のように光学顕微鏡の暗視野(DF)画像で確認できる。
図2の(B)に示される窒化珪素質焼結体では、スノーフレークは外周付近に不定形の白斑として現れている。スノーフレークは、窒化珪素質焼結体の断面を鏡面加工したサンプルの任意の箇所、及び焼結体の外周部に相当する外表面から内側に250μm以内の表層領域において観察する。
【0019】
本開示においてラマン分光スペクトルは、ラマン分光装置(例えば、堀場製作所社製LabRAM HR Evolution)を用いて、下記の条件で行う。
測定条件:露光時間1秒、積算10回、減光フィルター100%(パワー30mW)、共焦点ホール15μm、レーザー波長:532nm、回折格子刻線数1200、対物レンズ100倍(NA=0.6)
【0020】
研削レートは、15mm角-5mm厚さに加工した試料について、#200ダイヤモンドメタル砥石を1.55kg/cm2の一定圧で押し込んで測定する。
【0021】
算術平均表面粗さRaは、JIS B0601:2013に準拠して測定し、表面粗さ測定装置(例えば、サーフコム測定機)を用いて、走査速度1mm/s、走査距離3mmにて測定する。
【0022】
体積抵抗率は、φ20mm、厚み2mmで加工して、JIS C2141:1992に準拠して直流3端子法にて測定する。
【0023】
比熱容量は、DSC(示差走査熱量法)により測定する。サンプルは、φ6mm×t 0.75mmを使用する。
熱拡散率は、レーザーフラッシュ法により測定する。サンプルは、φ10mm×t2.0mmを使用する。
熱伝導率λは、上記した比熱容量Cp、密度ρ、及び熱拡散率αから式:λ=Cp×ρ×αにより求める。
【0024】
研磨レートは、
図7に概略を示すカロテストにて測定する研磨痕深さを指標とする。研磨痕が深いほど、研磨レートが速いことになる。カロテストとしては、例えば、アントンパール社製のカロテストが用いられる。
窒化珪素質焼結体を切り出し、評価面を鏡面加工した厚さ2mmのサンプル10を定盤20に貼り付け、直径30mmの鋼球30(精密ボール、例えば、ツバキナカシマ社製、SUJ2球(JIS等級G60))をサンプルに当てて下記スラリーを滴下しながら下記条件にて回転軸40上で回転させ、サンプル10に形成された窪み(研磨痕)の深さをレーザー顕微鏡によって測定する。3回測定を行い、その平均値を求める。
・ステージ角度:25°
・回転数:1000rpm
・加工時間:60sec
・スラリー:0.2μmダイヤ砥粒
・スラリー量:初回3滴、以降10秒ごとに1滴
【0025】
スラスト転動試験を用いた疲労試験は、下記条件にて行う。
試験機:スラスト転動疲労試験機(例えば、富士試験機製作所製)、
図8にスラスト転動試験装置の概略図を示す。
最大ヘルツ圧:5.2GPa
主軸回転数:1200rpm
球形・個数:φ3/8インチ、6個
環境:油潤滑(例えば、JX日鉱日赤 クリセフオイルF8)
試験片:SUJ2製平板
停止条件:10
8回転到達したとき、又は剥離発生による振動が増加したとき、但し、目視にて転動体に剥離が発生していなければ、SUJ2製平板を交換して、試験を継続する。
スラスト転動試験では、停止したときの回転数を測定する。
【0026】
<窒化珪素質焼結体>
本開示の第1の窒化珪素質焼結体は、Alを3.0質量%以上、Oを3.0質量%以上含み、X線回析スペクトルにおけるα相(210)、α相(201)、β相(101)、及びβ相(120)に相当するそれぞれのピークの高さから求める、(β(101)+β(120))/(α(210)+α(201)+β(101)+β(120))×100で表されるβ相の割合が、5~100%である。上記構成を有する第1の窒化珪素質焼結体は、焼成による表面変質層が少ない。
【0027】
窒化珪素質焼結体の焼結組成としては、一般に、窒化珪素-酸化アルミニウム系、窒化珪素-希土類酸化物-酸化アルミニウム-酸化チタニウム系等が知られている。焼結体を緻密化して高強度化するために、希土類酸化物等の焼結助剤が用いられている。焼結助剤は、焼結の際にSi-希土類元素-Al-O-N等からなる粒界相を生成させる。
【0028】
しかしながら焼結助剤を用いると、焼結の際に焼結助剤に含まれる酸素の一部が蒸発し、ガスが発生する。ガスが窒化珪素質焼結体中に残存すると、スノーフレークと呼ばれる白斑状の欠陥が生じる。スノーフレークはガスに起因する領域であるため、周囲よりも密度が疎となっている。
【0029】
これに対して、本開示の第1の窒化珪素質焼結体は上記構成であることでスノーフレークが発生しにくい。
【0030】
なお、スノーフレーク、欠陥等の欠陥を有する窒化珪素質焼結体は、熱間静水圧プレス(HIP)処理により欠陥を埋める作業を要し製造コストが高くなる。また、このような欠陥は窒化珪素質焼結体の表層付近に発生しやすいため、表層付近の研削作業を要し製造コストが高くなる。
【0031】
本開示の第1の窒化珪素質焼結体は、下記<1>の構成を有し、さらに下記<2>~<12>の構成を有することが好ましい。
<1> Alを3.0質量%以上、Oを3.0質量%以上含み、X線回折スペクトルにおけるα相(210)、α相(201)、β相(101)、及びβ相(120)に相当するそれぞれのピークの高さから求める、(β(101)+β(120))/(α(210)+α(201)+β(101)+β(120))×100で表されるβ相の割合が、5~100%である、窒化珪素質焼結体。
<2> Mg、Ca及びYの少なくとも1つを1質量%以上含む、<1>に記載の窒化珪素質焼結体。
<3> Caを1質量%以上含む、<1>又は<2>に記載の窒化珪素質焼結体。
<4> 前記窒化珪素質焼結体の断面の単位面積5mm×5mmの領域について光学顕
微鏡により10~200倍の明視野で観察したときに、長径が30μm以上の欠陥が確認されない、<1>~<3>のいずれか1項に記載の窒化珪素質焼結体。
<5> 前記窒化珪素質焼結体の断面の単位面積5mm×5mmの領域について光学顕微鏡により10~200倍の暗視野で観察したときに、長径が50μm以上のスノーフレークが確認されない、<1>~<4>のいずれか1項に記載の窒化珪素質焼結体。
<6> 前記窒化珪素質焼結体の焼結体断面において焼結体表面から内側に250μm以内の領域を光学顕微鏡により10~200倍の暗視野で観察したときに、長径が50μm以上のスノーフレークが存在しない<1>~<5>のいずれか1項に記載の窒化珪素質焼結体。
<7> 前記窒化珪素質焼結体の焼結体断面において焼結体表面から内側に250μm以内の領域を光学顕微鏡により10~200倍の暗視野で観察したときに、長径が50μm以上のスノーフレークを有する焼成変質層が存在しない<1>~<6>のいずれか1項に記載の窒化珪素質焼結体。
<8> 破壊靭性値が5.0MPa・m1/2以上である、<1>~<7>のいずれか1項に記載の窒化珪素質焼結体。
<9> ヤング率が270GPa以上である、<1>~<8>のいずれか1項に記載の窒化珪素質焼結体。
<10> 固溶体状のSiAlONである、<1>~<9>のいずれか1項に記載の窒化珪素質焼結体。
<11> 直径10mmの球形状の前記窒化珪素質焼結体の圧砕強度が15kN以上であり、前記圧砕強度のワイブル係数が7以上である、<1>~<10>のいずれか1項に記載の窒化珪素質焼結体。
<12> ラマン分光スペクトルにおいて、177±2cm-1、192±5cm-1、及び219±3cm-1にβ相に相当するピークが存在する、<1>~<11>のいずれか1項に記載の窒化珪素質焼結体。
【0032】
第1の窒化珪素質焼結体は、Alを3.0質量%以上含む。第1の窒化珪素質焼結体におけるAlの含有率は、3.5質量%以上が好ましく、4.0質量%以上が好ましく、4.5質量%以上が好ましく、5.0質量%以上が好ましく、5.5質量%以上が好ましく、6.0質量%が好ましい。
破壊靭性の向上の観点から、第1の窒化珪素質焼結体におけるAlの含有率は、15質量%以下が好ましく、14質量%以下が好ましく、12質量%以下が好ましく、11質量%以下が好ましく、10質量%以下が好ましく、9.0質量%以下が好ましく、8.5質量%以下が好ましく、8.0質量%以下が好ましく、7.5質量%以下が好ましく、7.0質量%以下が好ましい。
【0033】
第1の窒化珪素質焼結体は、Oを3.0質量%以上含む。第1の窒化珪素質焼結体におけるOの含有率は、3.5質量%以上が好ましく、4.0質量%以上が好ましく、4.5質量%以上が好ましく、5.0質量%以上が好ましく、5.5質量%以上が好ましく、6.0質量%が好ましい。
破壊靭性の向上の観点から、第1の窒化珪素質焼結体におけるOの含有率は、15質量%以下が好ましく、14質量%以下が好ましく、12質量%以下が好ましく、11質量%以下が好ましく、10質量%以下が好ましく、9.0質量%以下が好ましく、8.5質量%以下が好ましく、8.0質量%以下が好ましく、7.5質量%以下が好ましく、7.0質量%以下が好ましい。
【0034】
第1の窒化珪素質焼結体におけるSiの含有率は、30質量%以上が好ましく、40質量%以上が好ましく、42質量%以上が好ましく、43質量%以上が好ましく、44質量%以上が好ましく、45以上が好ましい。
第1の窒化珪素質焼結体におけるSiの含有率は、60質量%以下が好ましく、58質量%以下が好ましく、56質量%以下が好ましく、54質量%以下が好ましく、52質量%以下が好ましく、50質量%以下が好ましく、49質量%以下が好ましく、48質量%以下が好ましく、47質量%以下が好ましく、46質量%以下が好ましい。
【0035】
第1の窒化珪素質焼結体におけるNの含有率は、25質量%以上が好ましく、27質量%以上が好ましく、29質量%以上が好ましく、31質量%以上が好ましく、33質量%以上が好ましく、34質量%が好ましい。
第1の窒化珪素質焼結体におけるNの含有率は、45質量%以下が好ましく、43質量%以下が好ましく、42質量%以下が好ましく、41質量%以下が好ましく、質量40%以下が好ましく、39質量%以下が好ましく、38質量%以下が好ましく、37質量%以下が好ましく、36質量%以下が好ましく、35質量%以下が好ましい。
【0036】
第1の窒化珪素質焼結体は、X線回折スペクトルにおけるα相(210)、α相(201)、β相(101)、及びβ相(120)に相当するそれぞれのピークの高さから求めるα相とβ相との総量に対するβ相の割合が、5~100%である。
以下、上記におけるα相とβ相との総量に対するβ相の割合:β相/(α相+β相)×100をβ率(%)ともいう。また、α相とβ相との総量に対するα相の割合:α相/(α相+β相)×100をα率(%)ともいう。
【0037】
本開示では、X線回折スペクトルにおいてα相を表す主要ピークとして、α相(210)及びα相(201)に相当するピークを用い、β相を表す主要ピークとして、β相(101)及びβ相(120)に相当するピークを用いる。X線回折スペクトルにおいてα相(210)に相当するピークは2θ=30.5~32°に現れ、α相(201)に相当するピークは2θ=35~36°に現れ、β相(101)に相当するピークは2θ=33~34°に現れ、β相(120)に相当するピークは2θ=36~37°に現れる。
【0038】
本開示において、β率は下記式から求める。
β率=(β(101)+β(120))/(α(210)+α(201)+β(101)+β(120))×100
上記式において、α(201)は、2θ=30.5~32°の範囲でのピーク高さの最大値であり、α210)は2θ=35~36°の範囲でのピーク高さの最大値であり、β(101)は2θ=33~34°の範囲でのピーク高さの最大値であり、β(120)は2θ=36~37°の範囲でのピーク高さの最大値である。2θ=32~35°の平均値をベースラインとする。
【0039】
第1の窒化珪素質焼結体のβ率は5%以上であり、10%以上が好ましく、20%以上が好ましく、30%以上が好ましく、40%以上が好ましく、50%以上が好ましく、60%以上が好ましい。また、β率は100%以下であり、95%以下が好ましく、90%以下が好ましく、85%以下が好ましく、80%以下が好ましく、75%以下が好ましく、70%以下が好ましい。
【0040】
第1の窒化珪素質焼結体は、Mg、Ca及びYの少なくとも1つを1質量%以上含むことが好ましい。
第1の窒化珪素質焼結体はMgを含んでいても、含んでいなくてもよい。第1の窒化珪素質焼結体がMgを含む場合、第1の窒化珪素質焼結体におけるMgの含有率は、0.1質量%が好ましく、0.5質量%以上が好ましく、1.0質量%以上が好ましく、1.5質量%以上が好ましく、2.0質量%以上が好ましく、2.5質量%以上が好ましい。また、第1の窒化珪素質焼結体におけるMgの含有率は、6.0質量%以下が好ましく、5.0質量%以下が好ましく、4.0質量%以下が好ましく、3.0質量%以下が好ましい。
第1の窒化珪素質焼結体はCaを含んでいても、含んでいなくてもよいが、粒界焼結を促進させる観点からCaを含むことが好ましい。第1の窒化珪素質焼結体がCaを含む場合、第1の窒化珪素質焼結体におけるCaの含有率は、1.0質量%以上が好ましく、1.5質量%以上がより好ましく、2.0質量%以上がさらに好ましく、2.5質量%以上が好ましい。また、第1の窒化珪素質焼結体におけるCaの含有率は、強度の観点から、10質量%以下が好ましく、9.0質量%以下が好ましく、8.0質量%以下が好ましく、7.0質量%以下が好ましく、6.0質量%以下が好ましく、5.0質量%以下が好ましく、4.0質量%以下が好ましく、3.0質量%以下が好ましい。本開示の第1の窒化珪素質焼結体は、Caを1.0質量%以上含むことが好ましい。
第1の窒化珪素質焼結体はYを含んでいても、含んでいなくてもよい。第1の窒化珪素質焼結体がYを含む場合、第1の窒化珪素質焼結体におけるYの含有率は、1.0質量%以上であってもよく、1.5質量%以上であってもよく、2.0質量%以上であってもよく、2.5質量%以上であってもよい。また、第1の窒化珪素質焼結体におけるYの含有率は、10質量%以下であってもよく、9.0質量%以下であってもよく、8.0質量%以下であってもよく、7.0質量%以下であってもよく、6.0質量%以下であってもよく5.0質量%以下であってもよく、4.0質量%以下であってもよく、3.0質量%以下であってもよい。
【0041】
第1の窒化珪素質焼結体は、Mg、Ca及びYの総量が、1.0質量%以上が好ましく、1.5質量%以上であってもよく、2.0質量%以上であってもよく、2.5質量%以上であってもよく、3.0質量%以上であってもよい。また、Mg、Ca及びYの総量が、10質量%以下であってもよく、9.0質量%以下であってもよく、8.0質量%以下であってもよく、7.0質量%以下であってもよく、6.0質量%以下であってもよく、5.0質量%以下であってもよく、4.0質量%以下であってもよく3.5質量%以下であってもよい。
【0042】
第1の窒化珪素質焼結体は、酸窒化物のSiAlONがより好ましい。SiAlONは、窒化珪素(Si3N4)のNにOが部分置換し、SiにAlが部分置換した構造とされている。SiAlONにはα相を呈するαSiAlONとβ相を呈するβSiAlONとが存在する。αSiAlONは、結晶格子内部に金属原子M(M=Li、Mg、Ca、Y、La等)が入った構造となるとされている。βSiAlONは、結晶格子内部に金属原子Mが存在しない。
【0043】
本開示の第1の窒化珪素質焼結体は、ラマン分光スペクトルにおいて、177±2cm
-1(177cm
-1付近ともいう)、192±5cm
-1(192cm
-1付近ともいう)、219±3cm
-1(219cm
-1付近ともいう)にβ相に相当するピークが存在することが好ましく、177cm
-1付近及び192cm
-1付近のピークはブロードであることが好ましい。
図5(A)に、本開示の第1の窒化珪素質焼結体の一例のラマンスペクトル(後述の実施例で説明する例2)を示す。
図5(B)に、従来の窒化珪素焼結体(後述の実施例で説明する例6)の一例のラマンスペクトルを示す。
図5(A)に示すように、本開示の第1の窒化珪素質焼結体は、177cm
-1付近、192cm
-1付近、219cm
-1付近にピークを有する。これらのピークは窒化珪素質焼結体のβ相に対応する。
図5(A)に示すラマンスペクトルでは、177cm
-1付近及び192cm
-1付近のピークはブロードであり、第1の窒化珪素質焼結体が固溶体状であることを示している。これは、AlとО(酸素)が多く固溶して結晶性が低いことが示唆される。
これに対し、
図5(B)に示すように、従来の窒化珪素焼結体は、180cm
-1、200cm
-1、223cm
-1にβ相に相当するシャープなピークが存在する。
図5(B)に示すラマンスペクトルでは、これらのピークがシャープであることから、窒化珪素質焼結体が固溶体状ではないことを示している。
【0044】
ラマン分光スペクトルにおける177cm-1付近及び192cm-1付近のピークがブロードであるかは、177~197cm-1におけるピーク強度の最小値に対する、170~190cm-1におけるピーク強度の最大値の比から確認する。当該比が1.0~3.0であれば、固溶体状とみなせる。当該比は、1.0以上が好ましく、1.1以上が好ましく、1.2以上が好ましく、1.3以上が好ましく、1.4以上が好ましく、1.5以上が好ましい。当該比は、4以下が好ましく、3.5以下が好ましく、3.0以下が好ましく、2.5以下が好ましく、2.0以下が好ましく、1.9以下が好ましく、1.8以下が好ましい。
【0045】
図5(A)に示すラマンスペクトルは、第2の窒化珪素質焼結体の一例のラマンスペクトル(後述の実施例で説明する例2)であり、170~190cm
-1にピークトップを有するピークは、177~197cm
-1の最小値との比が1.26であることから、ブロードなピークであるといえ、固溶体状であることを示している。
これに対し、
図5(B)に示す窒化珪素質焼結体は、170~190cm
-1にピークトップを有するピークは、177~197cm
-1の最小値との差が3.0超えていることから、シャープなピークであるといえ、固溶体状ではないことを示している。
【0046】
第1の窒化珪素質焼結体としては、固溶体状のSiAlONが好ましい。本開示において固溶体状であるかは、上述の通りラマンスペクトルによって確認するが、走査型電子顕微鏡(SEM、例えば、日立ハイテクノロジーズ社製、IM4000plus)にて追加的に確認してもよい。例えば、
図3に示すように、(B)で表される窒化珪素質焼結体は、母相と粒界相とが明確に分離していることが確認されるが、(A)で表される焼結体では、母相と粒界相とが明確に分離しておらず固溶体状であることが確認できる。第1の窒化珪素質焼結体が固溶体状であると、機械的強度が低い粒界相領域が低減されるため、機械的強度が向上する。また、粒界相が少ないと、スノーフレークの発生がより抑制される傾向にある。
なお、従来の窒化珪素焼結体は、原料としてのαSi
3N
4にAl
2O
3、Y
2O
3等の焼結助剤を加えて焼成して得ている。αSi
3N
4単独では高温でも固溶しないため、焼結助剤に由来する粒界相がαSi
3N
4の粒界を埋めている。母相と粒界相が明確に分離している従来の窒化珪素焼結体では、緻密な焼結体を得るためには十分な量の焼結助剤を要する。この粒界相は、耐摩耗性を低下し得るスノーフレークの原因となりやすいことから、粒界相は必要以上に存在しないことが好ましい。
また、従来の窒化珪素焼結体は、過剰な量のO(酸素)を含むと結晶粒が成長して粒界の欠陥が増え、強度低下につながることから、Oの含有率は3質量%未満となっている。
【0047】
本開示の第1の窒化珪素質焼結体は、長径が30μm以上のポアが発生しにくく、単位面積5×5mmの領域について光学顕微鏡により10~200倍の明視野で観察したときに、長径が30μm以上のポアが確認されないことが好ましい。
ポアの最大長径は、30μm以下が好ましく、25μm以下が好ましく、20μm以下が好ましく、15μm以下が好ましく、12μm以下が好ましく、10μm以下が好ましい。
【0048】
本開示の第1の窒化珪素質焼結体は、長径が50μm以上のスノーフレークが発生しにくく、単位面積5×5mmの領域について光学顕微鏡により10~200倍の暗視野で観察したときに、長径が25μm以上のスノーフレークが確認されないことが好ましい。
第1の窒化珪素質焼結体のスノーフレークの最大長径は、50μm以下が好ましく、40μm以下が好ましく、30μm以下が好ましく、20μm以下が好ましく、15μm以下が好ましく、12μm以下が好ましく、10μm以下が好ましい。
【0049】
一般に窒化珪素質焼結体は、特に表面近傍においてスノーフレークが発生しやすい。しかし本開示の第1の窒化珪素質焼結体は、表面近傍においてもスノーフレークが発生しにくいため、スノーフレークを除去するための表面切削量(研削代)が低減され、製造コストが抑えられる。第1の窒化珪素質焼結体は、表面から内側に250μm以内の領域(外周部ともいう)を光学顕微鏡により10~200倍の暗視野で観察したときに、拡大画像内に、長径が50μm以上のスノーフレークが存在しないことが好ましい。
第1の窒化珪素質焼結体の外周部におけるスノーフレークの最大長径は、50μm以下が好ましく、40μm以下が好ましく、30μm以下が好ましく、20μm以下が好ましい。
【0050】
本開示の第1の窒化珪素質焼結体は、表面から内側に250μm以内の領域(外周部ともいう)に、焼成変質層が無いことが好ましい。焼成変質層とは、表面加工前の焼結体表面から内側に250μm以内の領域を、光学顕微鏡により10~200倍の暗視野で観察したときに、長径50μm以上のスノーフレークが存在する領域と定義する。
【0051】
第1の窒化珪素質焼結体の破壊靭性値は、5.0MPa・m1/2以上が好ましく、5.2MPa・m1/2以上が好ましく、5.4MPa・m1/2以上が好ましく、5.6MPa・m1/2以上が好ましく、5.8MPa・m1/2以上が好ましく、6.0MPa・m1/2以上が好ましく、6.3MPa・m1/2以上が好ましく、6.5MPa・m1/2以上が好ましく、7.0MPa・m1/2以上が好ましい。
第1の破壊靭性値の上限値は特に制限されないが、10.0MPa・m1/2以下であってもよく、9.0MPa・m1/2以下であってもよく、8.0MPa・m1/2以下であってもよく、7.5以下であってもよい。
【0052】
第1の窒化珪素質焼結体のヤング率は、270GPa以上が好ましく、280GPa以上が好ましく、290GPa以上が好ましく、300GPa以上が好ましい。ヤング率の上限値は特に制限されないが、350GPa以下であってもよく、340GPa以下であってもよく、330GPa以下であってもよく、320GPa以下であってもよく、315GPa以下であってもよく、310GPa以下であってもよい。
【0053】
第1の窒化珪素質焼結体の密度は、3.00g/cm3以上が好ましく、3.05g/cm3以上が好ましく、3.10g/cm3以上が好ましく、3.15g/cm3以上が好ましく、3.17g/cm3以上が好ましく、3.19g/cm3以上が好ましい。密度の上限値は、3.40g/cm3以下が好ましく、3.30g/cm3以下がより好ましく、3.25g/cm3以下がさらに好ましく、3.20g/cm3以下が特に好ましく、3.19g/cm3以下であってもよく、3.18g/cm3以下であってもよく、3.17g/cm3以下であってもよく、3.16g/cm3以下であってもよい。
【0054】
第1の窒化珪素質焼結体の熱膨張係数は、3.5ppm以下が好ましく、3.4pm以下が好ましく、3.3ppm以下が好ましく、3.2ppm以下が好ましく、3.1ppm以下が好ましく、3.0ppm以下が好ましい。熱膨張係数の下限値は特に制限されないが、2.5ppm以上であってもよく、2.6ppm以上であってもよく、2.7ppm以上であってもよく、2.8ppm以上であってもよく、2.9以上であってもよい。
【0055】
第1の窒化珪素質焼結体は絶縁体が好ましく、体積抵抗率は、室温(25℃)で1×1010Ω・cm以上が好ましく、1×1011Ω・cm以上が好ましく、1×1012Ω・cm以上が好ましく、1×1013Ω・cm以上が好ましく、1×1014Ω・cm以上が好ましく、1×1015Ω・cm以上が好ましく、1×1016Ω・cm以上が最も好ましい。
【0056】
第1の窒化珪素質焼結体は、断熱性能が高い方が好ましく、熱伝導率は、50W/(m・K)以下が好ましく、40W/(m・K)以下が好ましく、30W/(m・K)以下が好ましく、25W/(m・K)以下が好ましく、20W/(m・K)以下が好ましく、15W/(m・K)以下が好ましく、10W/(m・K)以下が好ましい。例えば、ベアリング用の転動体に使われる場合、高速回転では外輪と内輪との摩擦抵抗により転動体の温度が上昇しやすい。そのため、摩擦抵抗による温度上昇を抑える観点から、転動体の熱伝導率は小さいことが好ましく、これにより熱変形による摩擦量増加の抑制も期待される。第1の窒化珪素質焼結体は、熱伝導率が低くできる傾向にある。
【0057】
第1の窒化珪素質焼結体のビッカース硬度は、1300GPa以上が好ましく、1350GPa以上が好ましく、1370GPa以上が好ましく、1400GPa以上が好ましく、1420GPa以上が好ましく、1450GPa以上が好ましい。ビッカース硬度の上限値は特に制限されないが、2000GPa以下であってもよく、1900GPa以下であってもよく、1800GPa以下であってもよく、1700GPa以下であってもよく、1600GPa以下であってもよく、1550GPa以下であってもよい。
【0058】
第1の窒化珪素質焼結体は、直径10mmの球を形成したときの圧砕強度が15kN以上であって、前記圧砕強度のワイブル係数が7以上であることが好ましい。
第1の窒化珪素質焼結体の前記圧砕強度は15kN以上が好ましく、16kN以上が好ましく、17kN以上が好ましく、18kN以上が好ましく、19kN以上が好ましく、20kN以上が好ましい。前記圧砕強度の上限値は特に制限されないが、40kN以下であってもよく、35kNa以下であってもよく、30kN以下であってもよく、28kN以下であってもよく、25kN以下であってもよく、24kN以下であってもよい。
また、第1の窒化珪素質焼結体の圧砕強度のワイブル係数は7以上が好ましく、8以上が好ましく、9以上が好ましく、11以上が好ましく、12以上が好ましく、13以上が好ましい。圧砕強度のワイブル係数の上限値は特に制限されないが、40以下であってもよく、30以下であってもよく、25以下であってもよく、20以下であってもよく、18以下であってもよく、15以下であってもよい。
【0059】
第1の窒化珪素質焼結体の3点曲げ強度は、500MPa・m1/2以上が好ましく、600MPa・m1/2以上が好ましく、700MPa・m1/2以上が好ましく、750MPa・m1/2以上が好ましく、800MPa・m1/2以上が好ましく、850MPa・m1/2以上が好ましい。3点曲げ強度の上限値は特に制限されないが、1200MPa・m1/2以下であってもよく、1100MPa・m1/2以下であってもよく、1050MPa・m1/2以下であってもよく、1000MPa・m1/2以下であってもよく、980MPa・m1/2以下であってもよく、930MPa・m1/2以下であってもよい。
また、第1の窒化珪素質焼結体の3点曲げ強度のワイブル係数は5以上が好ましく、6以上が好ましく、7以上が好ましく、8以上が好ましく、9以上が好ましく、10以上が好ましい。3点曲げ強度のワイブル係数の上限値は特に制限されないが、15以下であってもよく、14以下であってもよく、13以下であってもよく、12以下であってもよく、11以下であってもよい。
【0060】
<第2の窒化珪素質焼結体>
本開示の第2の窒化珪素質焼結体は、Mg、Ca及びYからなる群より選択される少なくとも1種の金属Mの総含有率が0.2~8.0質量%、Alの含有率が4.0~12.0質量%、Oの含有率が4.0~12.0質量%であり、破壊靭性値が5.0~10.0MPa・m1/2である。上記構成を有する第2の窒化珪素質焼結体は、加工性に優れるという特徴を有する。
【0061】
第2の窒化珪素質焼結体は、金属Mの総含有率が0.2質量%以上であり、0.5質量%以上が好ましく、1.0質量%以上がより好ましく、1.5質量%以上がより好ましく、2.0質量%以上がさらに好ましい。また、第2の窒化珪素質焼結体は、金属Mの総含有率が、8.0質量%以下であり、7.5質量%以下が好ましく、7.0質量%以下が好ましく、6.5質量%以下が好ましく、6.0質量%以下が好ましく、5.5質量%以下が好ましく、5.0質量%以下が好ましく、4.5質量%以下が好ましく、4.0質量%以下が好ましく、3.5質量%以下が好ましく、3.0質量%以下が好ましい。
【0062】
第2の窒化珪素質焼結体は、破壊靭性の向上と密度が小さい観点から、金属MがCaであることが好ましい。
第2の窒化珪素質焼結体がCaを含む場合、第2の窒化珪素質焼結体におけるCaの含有率は、0.2質量%以上が好ましく、0.5質量%以上が好ましく、1.0質量%以上が好ましく、1.5質量%以上であってもよく、2.0質量%以上であってもよく、2.5質量%以上であってもよく、3.0質量%以上であってもよく、3.5質量%以上であってもよい。また、第2の窒化珪素質焼結体におけるCaの含有率は、強度の観点から、8.0質量%以下であり、7.5質量%以下であってもよく、7.0質量%以下であってもよく、6.5質量%以下であってもよく、6.0質量%以下であってもよく、5.5質量%以下であってもよく、5.0質量%以下であってもよく、4.5質量%以下であってもよく、4.0質量%以下であってもよく、3.5質量%以下であってもよい。
【0063】
第2の窒化珪素質焼結体はMgを含んでいても、含んでいなくてもよい。第2の窒化珪素質焼結体がMgを含む場合、第2の窒化珪素質焼結体におけるMgの含有率は、0.1質量%であってもよく、0.5質量%以上であってもよく、1.0質量%以上であってもよく、1.5質量%以上であってもよく、2.0質量%以上であってもよく、2.5質量%以上であってもよい。また、第2の窒化珪素質焼結体におけるMgの含有率は、8.0質量%以下であり、7.5質量%以下であってもよく、7.0質量%以下であってもよく、6.5質量%以下であってもよく、6.0質量%以下であってもよく、5.5質量%以下であってもよく、5.0質量%以下であってもよく、4.5質量%以下であってもよく、4.0質量%以下であってもよく、3.5質量%以下であってもよい。
【0064】
第2の窒化珪素質焼結体はYを含んでいても、含んでいなくてもよい。第2の窒化珪素質焼結体がYを含む場合、第2の窒化珪素質焼結体におけるYの含有率は、1.0質量%以上であってもよく、1.5質量%以上であってもよく、2.0質量%以上であってもよく、2.5質量%以上であってもよい。また、第2の窒化珪素質焼結体におけるYの含有率は、8.0質量%以下であり、7.5質量%以下であってもよく、7.0質量%以下であってもよく、6.5質量%以下であってもよく、6.0質量%以下であってもよく、5.5質量%以下であってもよく、5.0質量%以下であってもよく、4.5質量%以下であってもよく、4.0質量%以下であってもよく、3.5質量%以下であってもよい。
【0065】
第2の窒化珪素質焼結体は、Alの含有率が4.0質量%以上であり、焼結性の観点から、4.5質量%以上が好ましく、5.0質量%以上が好ましく、5.5質量%以上が好ましく、6.0質量%以上が好ましく、6.5質量%以上が好ましく、7.0質量%以上が好ましい。第2の窒化珪素質焼結体は、Alの総含有率が、12.0質量%以下であり、11.5質量%以下が好ましく、11.0質量%以下が好ましく、10.5質量%以下が好ましく、10.0質量%以下が好ましく、9.5質量%以下が好ましく、9.0質量%以下が好ましく、9.5質量%以下が好ましく、9.0質量%以下が好ましく、8.5質量%以下が好ましく、8.0質量%以下が好ましく、7.5質量%以下が好ましい。
【0066】
第2の窒化珪素質焼結体は、Oの含有率が4.0質量%以上であり、加工性の観点から、4.5質量%以上が好ましく、5.0質量%以上がより好ましく、5.5質量%以上が好ましく、6.0質量%以上がより好ましく、6.5質量%以上がさらに好ましい。第2の窒化珪素質焼結体は、Oの総含有率が、12.0質量%以下であり、破壊靭性の向上の観点から、11.0質量%以下が好ましく、10.0質量%以下が好ましく、9.0質量%以下が好ましく、8.0質量%以下が好ましく、7.0質量%以下が好ましい。
【0067】
第2の窒化珪素質焼結体におけるSiの含有率及びNの含有率は、第1の窒化珪素質焼結におけるSiの含有率及びNの含有率と同様である。
【0068】
第2の窒化珪素質焼結体の破壊靭性値は、5.0MPa・m1/2以上であり、5.2MPa・m1/2以上が好ましく、5.4MPa・m1/2以上が好ましく、5.6MPa・m1/2以上が好ましく、5.8MPa・m1/2以上が好ましく、6.0MPa・m1/2以上が好ましく、6.3MPa・m1/2以上が好ましく、6.5MPa・m1/2以上が好ましく、7.0MPa・m1/2以上が好ましい。
【0069】
第2の窒化珪素質焼結体の破壊靭性値の上限値は、10.0MPa・m1/2以下であり、9.0MPa・m1/2以下であってもよく、8.0MPa・m1/2以下であってもよく、7.5以下であってもよい。
【0070】
粒界相における金属Mの総含有率は、破壊靭性の向上の観点から、2.0~40.0質量%が好ましく、2.0~30.0質量%がより好ましい。
粒界相における金属Mの総含有率は、3.0質量%以上であってもよく、4.0質量%以上であってもよく、5.0質量%以上であってもよく、6.0質量%以上であってもよく、7.0質量%以上であってもよく、8.0質量%以上であってもよく、9.0質量%以上であってもよく、10.0質量%以上であってもよく、11.0質量%以上であってもよい
粒界相における金属Mの総含有率は、25.0質量%以下であってもよく、20.0質量%以下であってもよく、18.0質量%以下であってもよく、17.0質量%以下であってもよく、16.0質量%以下であってもよく、15.0質量%以下であってもよく、14.0質量%以下であってもよく、13.0質量%以下であってもよく、12.0質量%以下であってもよい。
【0071】
母相における金属Mの総含有率は、破壊靭性の向上の観点から、2.0~10.0質量%が好ましく、2.0~8.0質量%がより好ましい。
母相における金属Mの総含有率は、2.5質量%以上であってもよく、3.0質量%以上であってもよく、3.5質量%以上であってもよく、4.0質量%以上であってもよい。
母相における金属Mの総含有率は、7質量%以下であってもよく、6.5質量%以下であってもよく、6.0質量%以下であってもよく、5.5質量%以下であってもよく、5.0質量%以下であってもよく、4.5質量%以下であってもよく、4.0質量%以下であってもよい。
【0072】
第2の窒化珪素質焼結体は、固溶体状のSiAlONがより好ましい。SiAlONは、第1の窒化珪素質焼結体で説明したものと同義である。固溶体状についても、第1の窒化珪素質焼結体で説明したものと同義である。
【0073】
第2の窒化珪素質焼結体は、ラマン分光スペクトルにおいて、177~197cm-1におけるピーク強度の最小値に対する、170~190cm-1におけるピーク強度の最大値の比は、1.0~3.0が好ましく、この範囲であればSiAlON粒子同士が十分に固溶する。当該比は、1.0以上が好ましく、1.1以上が好ましく、1.2以上が好ましく、1.3以上が好ましく、1.4以上が好ましく、1.5以上が好ましい。当該比は、3.0以下が好ましく、2.5以下が好ましく、2.0以下が好ましく、1.9以下が好ましく、1.8以下が好ましい。
【0074】
ラマン分光スペクトルにおいて、185~210cm-1にあるβ相に帰属するピークが、187~199cm-1の間に存在することが好ましい。
【0075】
第2の窒化珪素質焼結体の熱伝導率は、5~15W/(m・K)が好ましい。第2の窒化珪素質焼結体の熱伝導率は、6W/(m・K)以上であってもよく、7W/(m・K)以上であってもよい。また、第2の窒化珪素質焼結体の熱伝導率は、14W/(m・K)以下であってもよく、13W/(m・K)以下であってもよく、12W/(m・K)以下であってもよい。
【0076】
第2の窒化珪素質焼結体の密度は、3.10~3.20g/cm3が好ましい。
第2の窒化珪素質焼結体の密度は、3.11g/cm3以上であってもよく、3.12g/cm3以上であってもよく、3.13g/cm3以上であってもよい。また、第2の窒化珪素質焼結体の密度は、3.19g/cm3以下であってもよく、3.18g/cm3以下であってもよく、3.17g/cm3以下であってもよく、3.16g/cm3以下であってもよい。
【0077】
第2の窒化珪素質焼結体は、X線回折スペクトルにおけるα相(210)、α相(201)、β相(101)、及びβ相(120)に相当するそれぞれのピークの高さから求めるα相とβ相との総量に対するβ相の割合が、5~100%が好ましい。
第2の窒化珪素質焼結体におけるβ率(%)及びα率(%)は、第1の窒化珪素質焼結体におけるβ率(%)及びα率(%)とそれぞれ同様である。
【0078】
第2の窒化珪素質焼結体は、長径が10μm以上のポアが発生しにくく、単位面積5×5mmの領域について光学顕微鏡により10~200倍の明視野で観察したときに、長径が10μm以上の欠陥が確認されないことが好ましい。
欠陥の最大長径は、10μm未満が好ましく、9μm以下が好ましく、8μm以下が好ましく7μm未満が好ましく、6μm以下が好ましく、5μm以下が好ましい。
【0079】
第2の窒化珪素質焼結体は、長径が25μm以上のスノーフレークが発生しにくく、単位面積5×5mmの領域について光学顕微鏡により10~200倍の暗視野で観察したときに、長径が25μm以上のスノーフレークが確認されないことが好ましい。
第2の窒化珪素質焼結体のスノーフレークの最大長径は、20μm以下が好ましく、15μmが好ましく、10μm以下が好ましい。
【0080】
第2の窒化珪素質焼結体は、表面から内側に250μm以内の領域(外周部ともいう)を光学顕微鏡により10~200倍の暗視野で観察したときに、拡大画像内に、長径が50μm以上のスノーフレークが確認されないことが好ましい。
第2の窒化珪素質焼結体の外周部におけるスノーフレークの最大長径は、50μm以下が好ましく、40μm以下が好ましく、30μm以下が好ましく、20μm以下が好ましい。
【0081】
第2の窒化珪素質焼結体は、加工性の観点から、カロテストで測定する研磨レートの指標としての研磨痕の深さは、3.6μm以上が好ましく、3.7μm以上が好ましく、3.8μm以上が好ましく、3.9μm以上が好ましく、4.0μm以上が好ましく、4.1μm以上が好ましく、4.2μm以上がより好ましく、4.3μm以上がさらに好ましく、4.4μm以上が好ましく、4.5μm以上がより好ましく4.6μm以上がさらに好ましい。
第2の窒化珪素質焼結体は、耐摩耗性の観点から、カロテストで測定する研磨痕の深さが、8.0μm以下が好ましく、7.0μm以下が好ましく、6.0μm以下が好ましく、5.0μm以下が好ましく、4.9以下が好ましく、4.8μm以下が好ましく、4.7μm以下が好ましい。
【0082】
第2の窒化珪素質焼結体のヤング率、熱膨張係数、体積抵抗率、ビッカース硬度、圧砕強度、圧砕強度のワイブル係数、3点曲げ強度、及び3点曲げ強度のワイブル係数は、第1の窒化珪素質焼結体のヤング率、熱膨張係数、体積抵抗率、ビッカース硬度、圧砕強度、圧砕強度のワイブル係数、3点曲げ強度、及び3点曲げ強度のワイブル係数とそれぞれ同様である。
【0083】
<用途>
第1の窒化珪素質焼結体及び第2の窒化珪素質焼結体(以下、第1の窒化珪素質焼結体及び第2の窒化珪素質焼結体を総称して、窒化珪素質焼結体ともいう。)は、耐摩耗性部材の用途に好適に用いられ、例えば、ベアリング用転動体として用いられる。
【0084】
<窒化珪素質焼結体の製造方法>
第1の窒化珪素質焼結体の製造方法は、Alを3質量%以上、Oを3質量%以上含み、β率が5~100%の焼結体が得られれば、その製造方法は特に制限されない。
第2の窒化珪素質焼結体の製造方法は、Mg、Ca及びYからなる群より選択される少なくとも1種の金属Mの総含有率が0.2~8.0質量%、Alの含有率が4.0~12.0質量%、Oの含有率が4.0~12.0質量%であり、破壊靭性値が5.0~10.0MPa・m1/2の焼結体が得られれば、その製造方法は特に制限されない。
【0085】
窒化珪素質焼結体の製造方法の一例としては、原料としての窒化珪素質材を含む原料組成物を調製し、造粒し、成形し、加圧し、脱脂し、焼成することが挙げられる。原料組成物に加える添加剤としては、例えば、焼結助剤、バインダ、溶媒、焼結促進剤等が挙げられる。焼成以外のプロセスについては適宜省略してもよい。また、分級など上記以外のプロセスを適宜追加してもよい。
窒化珪素質焼結体の製造方法の他の一例としては、原料としての窒化珪素質材を単独で焼成することが挙げられるが、成形した窒化珪素質焼結体を得る場合には、原料組成物を調製して用いることが好ましい。
【0086】
原料としての窒化珪素質材としては、αSi3N4、βSi3N4、M-αSiAlON、βSiAlONが挙げられ、焼結性の観点からは、αSi3N4及びM-αSiAlONが好ましく、加水分解性が低い又は無く、水などの酸素を含む溶媒が使用できる観点から、βSiAlON又はM-αSiAlONが好ましい。液相焼成時に粒状のα相結晶から針状のβ相結晶に転移することによる破壊靭性向上の観点から、原料としての窒化珪素質材としては、M-αSiAlONが好ましい。また、焼結助剤の使用を省略でき、固溶状の焼結体となって均質的で緻密な窒化珪素質焼結体が得られる観点からも、原料としての窒化珪素質材としては、M-αSiAlONが好ましい。M-αSiAlONとは、結晶格子内部に金属原子M(M=Li、Mg、Ca、Y、La等)が存在するαSiAlONであり、液相焼成時にβSiAlONに転移する際に、金属元素がSi、Al、Oなどと粒界相を形成することで均一で緻密な焼結体が得られる。原料としての窒化珪素質材は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0087】
M-αSiAlONは、市販品を用いても、製造したものを用いてもよい。M-αSiAlONは、αSi3N4、AlN、Al2O3、及び金属M又は金属Mを含む化合物の混合物を焼成して得られる。または、M-αSiAlONは、所定の元素を所定の比率に混合した原料粉末を用いて、燃焼合成法により合成される。
【0088】
M-αSiAlON中の金属原子Mは、焼結における焼結助剤としての機能を発揮する場合がある。そのため、M-αSiAlONにおける金属原子Mの含有率は、0.5質量%以上が好ましく、1.0質量%以上が好ましく、1.5質量%以上が好ましく、2.0質量%以上が好ましく、2.5質量%が好ましい。
また、M-αSiAlONにおける金属原子Mの含有率は、M-αSiAlON以外の結晶相の析出を抑える観点から、9.0質量%が好ましく、8.0質量%以下が好ましく、7.0質量%以下が好ましく、6.0質量%以下が好ましく、5.5質量%以下が好ましく、5質量%以下が好ましく、4.5質量%以下が好ましく、4.0質量%以下が好ましい。
【0089】
M-αSiAlONはα相が多いほど好ましい。α相のSiAlONはβ相のSiAl
ONに比べて焼結性に優れる。M-αSiAlONのα率は、81%以上が好ましく、82%以上が好ましく、83%以上が好ましく、84%以上が好ましく、85%以上が好ましく、86%以上が好ましく、87%以上が好ましく、88%以上が好ましく、89%以上が好ましく、90%以上が好ましく、91%以上が好ましく、92%以上が好ましく、93%以上が好ましく、94%以上が好ましく、95%以上が好ましく、96%以上が好ましく、97%以上が好ましく、98%以上が好ましく、99%以上が好ましく、単相(100%)が好ましい。
【0090】
α率は下記式から求める。
α率=(α(210)+α(201))/(α(210)+α(201)+β(101)+β(120))×100
上記式において、α(201)、α(210)、β(101)及びβ(120)は、β率におけるα(201)、α(210)、β(101)及びβ(120)とそれぞれ同義である。
【0091】
焼結助剤としては、Li、Mg、Ca、Y、La等を含む化合物が挙げられ、具体的には、Al2O3、Y2O3、AlN、MgAl2O4等が挙げられる。
バインダとしては、有機物系が挙げられる。
溶媒としては、水、アルコール、炭化水素系等が挙げられる。なお、従来の窒化珪素焼結体は、原料としてαSi3N4を用いるが、溶媒として水のような酸素原子を有するものを用いると、Si3N4に酸素原子が入り込み、最終物である窒化珪素焼結体の特性に影響を与えることがある。そのため、従来の窒化珪素焼結体を製造する場合には、溶媒を適切に選択することが好ましい。他方、SiAlONは構成元素として酸素原子がすでに含まれているため、原料としてSiAlONを用いる場合に水を用いても最終物の特性への影響が低く、製造プロセスの選択肢が広くなる。
【0092】
焼結促進剤としては、Ti、Hf、Zr、W、Mo、Nb、Cr等を含む化合物が挙げられ、これらの酸化物、炭化物、窒化物、珪化物、硼化物等が挙げられる。焼結促進剤の元素は、結晶組織において分散性を高めて、窒化珪素質焼結体の機械的強度を向上させる機能を奏する場合もある。焼結促進剤は、Ti又はMoを含む化合物が好ましい。Ti又はMoを含む化合物は、窒化珪素質焼結体を黒色系に着色し不透明性を付与する遮光剤としても機能する。
【0093】
焼結助剤を用いる場合には、焼結促進剤の添加の効果を奏させる観点からは、焼結促進剤の添加量は、酸化物換算で、窒化珪素質材に対して、0.1質量%以上が好ましく、0.2質量%以上が好ましく、0.3質量%以上が好ましく、0.4質量%以上が好ましく、0.5質量%以上が好ましい。また、機械的強度をより高める観点からは、焼結促進剤の添加量は、酸化物換算で、窒化珪素質材に対して、5質量%以下が好ましく、3質量%以下が好ましく、2質量%以下が好ましく、1質量%以下が好ましい。
【0094】
原料組成物は、焼結のための焼成前に、所望の形状に成形してもよい。成形法としては、一軸プレス法、金型プレス法、ドクターブレード法、ラバープレス法、冷間等方圧加(CIP)法のような公知の成形法が適用できる。成形物は、CIP等によってさらに加圧してもよい。そして、成形物は焼成前に脱脂してもよい。
【0095】
上型と下型の金型を用いて球状に成形する場合には、金型の設計上、上型と下型の間に緩みを持たせて閉じることが多く、この場合に得られる成形物は、金型の緩み部分に由来する凸部を有する。例えば、上型の半球と下型の半球の金型を用いた場合には、
図1に示すような成形物が得られる。この凸部を除去する場合、焼成前に削ることが好ましく、成形物をCIP処理する場合には、CIP処理後かつ焼成前に削ることが好ましい。焼成前に脱脂を行う場合には、脱脂前に凸部を削ることが好ましい。
【0096】
焼成前の帯取り加工を行う場合、帯状の凸部の高さは、500μm以下が好ましく、40μm以下が好ましく、30μm以下が好ましく、20μm以下が好ましく、10μm以下が好ましく、ゼロであることが最も好ましい。
【0097】
なお、成形する前に造粒し、造粒物を用いて成形してもよい。造粒の方法は特に限定されず、例えば、スプレードライ等が挙げられる。
【0098】
脱脂は、非酸化性及び酸化性のいずれの雰囲気で実施してもよい。非酸化性雰囲気中で脱脂する場合には、550~800℃の温度が好ましく、空気等の酸化性中で脱脂する場合には、400~650℃の温度が好ましい。これらの温度での加熱時間は、1~2時間が好ましい。
【0099】
窒化珪素質材又は成形物は、減圧下で加熱することが好ましく、0.01Pa以下の真空中で加熱することが好ましい。真空中での加熱温度は、1200~1500℃が好ましく、この加熱温度での保持時間は、1~10時間が好ましい。
【0100】
減圧又は真空下での加熱後、窒素ガス、アルゴンガスなどの不活性ガス雰囲気中で焼結することが好ましい。常圧焼結、加圧焼結のいずれであってもよく、焼結温度は1600~1850℃が好ましい。焼結温度を1600℃以上とすると、焼結体の緻密化が十分となって欠陥率が低くなり、機械的強度がより向上し、ベアリング用転動体としたときに転がり寿命が向上する。焼結温度を1850℃以下とすると、所望の組成の焼結体が得られやすくなる。
加圧焼結法としては、雰囲気加圧焼結法、ホットプレス法、熱間静水圧プレス(HIP)法など各種の加圧焼結法が用いられる。
【0101】
α相は、焼成時に表面に存在する酸素によってβ相に相変異する。M-αSiAlONはβSiAlONに相変異する際、格子内に取り込まれている金属原子Mが格子内から格子外の粒界面に移動し、結晶粒同士を固溶させる。このため、M-αSiAlONを焼結した焼結体は、例えば、
図3(A)に示されるように、均一的で緻密化する。
【0102】
焼結後、得られた窒化珪素質焼結体に対して300気圧以上の非酸化性雰囲気中で温度1600℃~1850℃で熱間静水圧プレス(HIP)処理を施すことが好ましい。熱間静水圧プレス(HIP)処理を施すことにより、疲労破壊の起点となる欠陥が低減でき、ベアリング用転動体としたときに摺動特性及び転がり寿命特性がさらに向上する。
【0103】
<窒化珪素質素球>
本開示の窒化珪素質素球は、本開示の窒化珪素質焼結体から構成されていればよい。本開示の窒化珪素質素球の一例として、直径の最大値と最小値との差が100μm以下で、帯状の凸部高さが50μm以下の球体が挙げられる。本開示の第2の窒化珪素質焼結体は加工性に優れるため、素球の状態でも直径の最大値と最小値との差が100μm以下で、帯状の凸部高さが50μm以下の球体を得ることが可能である。
本開示の一例としての窒化珪素質素球における凸部の高さは、50μm以下であり、40μm以下が好ましく、30μm以下がより好ましく20μm以下が好ましく、10μm以下がさらに好ましく、ゼロであることが特に好ましい。
本開示の一例としての窒化珪素質素球は、直径の最大値と最小値との差が、100μm以下であり、90μm以下が好ましく、80μm以下が好ましく、70μm以下が好ましく、60μm以下が好ましく、50μm以下が好ましい。
【0104】
<ベアリング用転動体>
本開示のベアリング用転動体は、本開示の窒化珪素質焼結体から構成される。ベアリング用転動体は、本開示の窒化珪素質焼結体を鏡面加工等することにより得られる。算術平均表面粗さRaを0.5μm以下にできれば、鏡面加工の方法はいずれであってもよい。
ベアリング用転動体の算術平均表面粗さRaは0.5μm以下が好ましく、0.4μm以下が好ましく、0.3μm以下が好ましく、0.2μm以下が好ましく、0.1μm以下が好ましく、0.08μm以下が好ましく、0.06μm以下が好ましく、0.05μm以下が好ましい。
【0105】
鏡面加工に先立って表層を切削してもよいが、本開示の窒化珪素質焼結体は、従来の窒化珪素質焼結体に比べて、スノーフレーク、気孔等の欠陥が表層に少ないため、表層の切削を省略してもよい。あるいは、表層の切削量を少なくしてもよい。
【0106】
<ベアリング>
本開示のベアリングは、本開示のベアリング用転動体を備える。本開示のベアリング用転動体は欠陥が少ない窒化珪素質焼結体、又は加工性がよい窒化珪素質焼結体を用いるため、電気自動車用のベアリングとしても好適である。
【実施例0107】
以下、実施例を用いて本発明を説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。
例1~5、10~27が実施例であり、例6~9、28が比較例である。
【0108】
表1~5に記載の原料及び焼結助剤を準備した。原料として用いたCa-αSiAlON及びY-αSiAlONは燃焼合成法により合成され、α率は表1~5に示すとおりであった。また、例6~9で原料として用いたαSi3N4は直接窒化法により合成されたデンカ社製、商品名9FWSであり、平均粒子径(D50)が0.7μmであり、α率が91%である。
【0109】
表1~5に記載の配合の原料及び焼結助に溶媒を加えて48時間混合してスラリーを得た。表1~5中、空欄の成分は配合していないことを意味する。例5は、焼結助剤及び溶媒を加えず、原料に有機バインダを加えて混合物を得た。このスラリー又は混合物をスプレードライし、造粒紛を得た。
【0110】
得られた造粒紛を金型に入れ、成形圧力でプレス成形し、60mm×50mm×厚さ10mmの直方体、又は直径13.5mmの球体に成形したのち、CIP処理を行った。
【0111】
得られた成形物を空気雰囲気下で600℃1時間加熱して脱脂処理を行った後、10-2Pa以下の真空下で常温から昇温して1400℃で2時間保持し、さらに0.6MPaの窒素ガス雰囲気下、1750℃で4時間又は5時間加圧焼結し、焼結体を得た。
【0112】
さらに、例2、6、8~27については、得られた焼結体に対して窒素ガス雰囲気中で圧力100MPaにて1650℃~1800℃で1時間加熱する熱間静水圧プレス(HIP)処理を施した。
【0113】
なお、例3については、上記脱脂処理を行った後、上記の加圧焼結に代えて、ホットプレス機により窒素ガス雰囲気下で40MPa加圧しながら1800℃2時間焼成し、焼結体を得た。
例28は、市販されている窒化珪素球(株式会社ツバキ・ナカシマ製)である。
得られた窒化珪素質焼結体はEPMA(日本電子株式会社製「JXA-8500F」及び標準試料)にて組成を分析し、その結果を表1~5に示す。
【0114】
また、得られた窒化珪素質焼結体について、上記の測定方法にて物性等の評価を行った。結果を表1~5に示す。
なお、NDは未測定を表す。母相及び粒界相の金属M含有率における空欄は、検出限界以下であったことを示す。
【0115】
表1~5における「ラマンピーク強度比」の項目は、ラマン分光スペクトルにおいて、177~197cm-1におけるピーク強度の最小値に対する、170~190cm-1におけるピーク強度の最大値の比を表す。
表1~5における「ラマンピーク位置」の項目は、ラマン分光スペクトルにおいて、177~197cm-1におけるピークトップの位置を表す。
表1~5における「焼成変質層の有無」の項目は、焼結体表面から内側に250μm以内の領域に50μm以上のスノーフレークが確認された場合を「有」、確認されない場合を「無」とする。
【0116】
なお、X線回折測定では、株式会社リガク製、Smart labを用い、検出器として株式会社リガク製、D/teXUltraを用い、X線解析ソフトウェアとして株式会社リガク製、PDXL2を用いた。
窒化珪素質焼結体の元素分析は、電子線プローブマイクロアナライザー(EPMA)装置として日本電子株式会社製「JXA-8500F」を用い、日本電子株式会社製の標準試料を用いた。粉体の元素分析は、株式会社リガク社製 ZSX PrimusIIを用いた。
ラマン分光スペクトル測定は、堀場製作所社製LabRAM HR Evolutionを用いた。
研磨レートの測定は、アントンパール社製のカロテストを用いた。
走査型電子顕微鏡(SEM)は、日立ハイテクノロジーズ社製のSU6600を用い、加速電圧:6kV、プローブ電流:Medium、エミッション電流:29μA、引き出し電圧:1.70kV、検出器条件:反射電子、サプレッサ電圧:300V、WD:15mm、Cコート:約24nmで実施した。
EDSアナライザーは、Thermo Fisher Scientific社製のNoran system 6を用い、検出器:Thermo Fisher Scientific社製Ultradry、Map解像度:512×384、Mapピクセルサイズ:0.01μm、倍率:25000倍、カーネルサイズ:5×5、Minimum Valid Intensity:高、フィルターフィットタイプ:高精度、定量ピークの分離の方法:スタンダードなしフィルター法、補正の方法:プローザ(Phi-Rho-Z)で実施した。
スラスト転動試験は、富士試験機製作所製の装置を用いた。
【0117】
【0118】
【0119】
【0120】
【0121】
【0122】
図2(A)(B)に、例2及び6の窒化珪素質焼結体の断面を暗視野にて10倍で確認したときの光学顕微鏡写真を示す。例2を
図2(A)、例6を
図2(B)に示す。例2の窒化珪素質焼結体は均質であったが、例6の窒化珪素質焼結体は外周部にスノーフレークなどの欠陥が確認された。
【0123】
図3(A)(B)に、例2及び6の窒化珪素質焼結体の断面を鏡面加工し25000倍の走査型電子顕微鏡で観察したときの写真を示す。例2を
図3(A)、例6を
図3(B)に示す。
【0124】
図4に、例2で得られた窒化珪素質焼結体のXRDスペクトルを示す。
●を付したピーク(2θ=30.5~32°)は、α(201)を表すピークであり、▲を付したピーク(2θ=33~34°)は、β(101)を表すピークであり、▼を付したピーク(2θ=35~36°)は、α(210)を表すピークであり、■を付したピーク(2θ=36~37°)は、β(120)を表すピークである。
【0125】
図5(A)(B)及び
図6に、ラマン分光スペクトルを示す。
図5(A)は例2、
図5(B)は例6で得られた窒化珪素質焼結体のラマン分光スペクトルである。
図6には例6、例11、例15、例18及び例26で得られた窒化珪素質焼結体のラマン分光スペクトルを示す。
【0126】
表1~5の結果から、Mg、Ca及びYからなる群より選択される少なくとも1種の金属Mの総含有率が0.2~8.0質量%、Alの含有率が4.0~12.0質量%、Oの含有率が4.0~12.0質量%であり、破壊靭性値が5.0~10.0MPa・m1/2である、例1~5、10~27の窒化珪素質焼結体は、例6~9、28に比べて、カロテストによる研磨レートが高く、加工性に優れることがわかる。
【0127】
例10、15、及び28の窒化珪素質焼結体について、スラスト転動試験を実施した。対照サンプルとして、ベアリングの転動体として用いられる、高炭素クロム鋼(SUJ2)でも同様の試験を実施した。
SUJ2球は、6900万回転で振動増加により試験機が停止し、転動体と試験片にフレーキング(剥離)が確認されたため、試験を終了した。
例10の窒化珪素質焼結体では、4500万回転で振動が増加し、試験が終了した。試験後の窒化珪素質焼結体を観察したところ、6個の内1個にてフレーキングが確認され、残りの5個に目立った摩耗はなかった。例10の窒化珪素質焼結体は、上記方法での光学顕微鏡による断面観察において、最大12μmのポアを確認しており、ポアを起点にフレーキングが発生したと推定される。
例15及び例28の窒化珪素質焼結体では、1億回転まで振動が増加することがなかった。試験終了後に窒化珪素質焼結体の外観を観察したところ、例15、例28ともに目視では目立った摩耗は確認されなかった。スラスト転動試験後の例15及び例28の窒化珪素質焼結体の表面をレーザー顕微鏡にて観察した結果を
図9に示す。例28は、レーザー顕微鏡で観察すると直径80μm、深さ0.5μm程度の微小な剥離の集合体が存在した。一方、例15は、レーザー顕微鏡観察で摩耗が確認されず、ベアリング球向けの転動体として高い摩耗性が確認された。例15は、優れた耐摩耗性を有しながら、加工性に優れることがわかった。