(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025017258
(43)【公開日】2025-02-05
(54)【発明の名称】電動弁及び遊星歯車式減速機構
(51)【国際特許分類】
F16K 31/04 20060101AFI20250129BHJP
F16K 31/53 20060101ALI20250129BHJP
F16H 1/46 20060101ALI20250129BHJP
H02K 7/116 20060101ALI20250129BHJP
【FI】
F16K31/04 A
F16K31/53
F16H1/46
H02K7/116
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023120302
(22)【出願日】2023-07-24
(71)【出願人】
【識別番号】391002166
【氏名又は名称】株式会社不二工機
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 貴之
【テーマコード(参考)】
3H062
3H063
3J027
5H607
【Fターム(参考)】
3H062AA02
3H062AA15
3H062BB31
3H062CC02
3H062DD01
3H062EE01
3H062EE06
3H062EE11
3H062HH04
3H063AA01
3H063BB33
3H063DA14
3H063DB36
3H063FF01
3H063GG01
3J027FA36
3J027FB40
3J027FC02
3J027GA01
3J027GB03
3J027GC13
3J027GC24
3J027GD04
3J027GD07
3J027GD08
3J027GD12
3J027GE11
3J027GE14
3J027GE29
5H607AA12
5H607BB01
5H607BB10
5H607BB14
5H607CC03
5H607DD04
5H607EE33
(57)【要約】
【課題】電動弁及び遊星歯車式減速機構において設計の自由度を向上できる新規な技術を提供する。
【解決手段】電動弁は、電動モータと、電動モータの入力回転が入力される第一歯T1と、第一歯T1と対応して設けられ第一歯T1のモジュールとは異なるモジュールを備える第二歯T2と、を備える遊星ギア65と、第二歯T2と噛み合い、入力回転が減速された出力回転を出力する出力ギア66と、を有する、遊星歯車式減速機構(減速機構60)と、出力回転によって弁の開度を制御する弁本体部と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータと、
前記電動モータの入力回転が入力される第一歯と、前記第一歯と対応して設けられ前記第一歯のモジュールとは異なるモジュールを備える第二歯と、を備える遊星ギアと、前記第二歯と噛み合い、前記入力回転が減速された出力回転を出力する出力ギアと、を有する遊星歯車式減速機構と、
前記出力回転によって弁の開度を制御する弁本体部と、
を備える電動弁。
【請求項2】
前記遊星歯車式減速機構は、
前記出力ギアの歯数と異なる歯数を有する固定ギアと、
前記固定ギアと同心に配置され前記入力回転が入力され、前記遊星ギアの前記第一歯と噛み合う太陽ギアと、
を備える、
請求項1に記載の電動弁。
【請求項3】
前記固定ギアの歯底円径は、直径15mm以下である、
請求項2に記載の電動弁。
【請求項4】
内部に弁室が形成されている弁本体と、
前記弁室の壁面の一部に形成され開口を有する弁座と、
前記弁座の前記開口を開閉可能に配置された弁体と、
前記弁体を前記弁座に接離させる弁棒と、
前記弁本体に取り付けられ前記弁本体との間に空間を形成する円筒状のキャンと、
前記キャンの外周部に装着される前記電動モータの励磁装置と、
前記キャンの内部に回転自在に支持され前記励磁装置によって回転駆動される永久磁石型のロータ組立体と、
前記遊星歯車式減速機構からの前記出力回転を前記弁体の前記弁座に対する接離動作に変換して前記弁棒に伝達するねじ機構部と、
を備え、前記弁本体と前記キャンとの間の前記空間に前記ロータ組立体と前記遊星歯車式減速機構とが配置される、
請求項1~3のいずれか一項に記載の電動弁。
【請求項5】
前記出力ギアは、底部と、前記底部の周縁から立ち上がる壁部とを有する有底の筒状部材であり、
前記筒状部材の内側に流体を蓄積可能な貯留空間が形成される、
請求項4に記載の電動弁。
【請求項6】
外部からの入力回転が入力される第一歯と、前記第一歯と対応して設けられ前記第一歯のモジュールとは異なるモジュールを備える第二歯と、を備える遊星ギアと、前記第二歯と噛み合い、前記入力回転が減速された出力回転を出力する出力ギアと、
を有する、遊星歯車式減速機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電動弁及び遊星歯車式減速機構に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1のように、電動モータを介して弁の開閉を行う電動弁として、ロータの入力回転を遊星歯車式減速機構で減速すると共に、弁の開閉を制御するねじ機構部に、減速された出力回転を伝達する型の電動弁が知られている。具体的には特許文献1には、不思議遊星歯車式の差動歯車機構が開示されている。差動歯車機構では、固定ギアの歯数と出力ギアの歯数との間の歯数差に応じて、固定ギアに対して相対的に高い減速比で回転可能である。
【0003】
また、遊星歯車式減速機構の他の例として特許文献2には、電動弁ではないものの、入力軸、出力軸及び固定軸からなる3つの基本軸の全てが装置の中心軸と同じ回転軸心を持つ3K型の遊星歯車装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4936941号公報
【特許文献2】特許第6782494号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、1つの遊星ギアの歯車において、固定ギアに噛み合う部分の歯を「第一歯」と称すると共に、第一歯とは異なる位置で出力ギアに噛み合う部分の歯を「第二歯」と称する。特許文献1及び特許文献2の場合、1つの遊星ギアの歯車において、第一歯のモジュールと第二歯のモジュールとは同じである。
【0006】
このため、遊星ギアの設計だけでなく、遊星ギアと噛み合う太陽ギア、固定ギア及び出力ギア等の他のギア要素を含む設計も、遊星ギアにおける第一歯のモジュールと第二歯のモジュールとを同じに揃えるという条件に制限される。結果、遊星歯車式減速機構の設計の自由度、及び、遊星歯車式減速機構を用いた電動弁の設計の自由度が、全体的に小さくなるという問題がある。
【0007】
上記に鑑み、本開示は、電動弁及び遊星歯車式減速機構において設計の自由度を向上できる新規な技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1態様に係る電動弁は、電動モータと、前記電動モータの入力回転が入力される第一歯と、前記第一歯と対応して設けられ前記第一歯のモジュールとは異なるモジュールを備える第二歯と、を備える遊星ギアと、前記第二歯と噛み合い、前記入力回転が減速された出力回転を出力する出力ギアと、を有する遊星歯車式減速機構と、前記出力回転によって弁の開度を制御する弁本体部と、を備える。
【0009】
第1態様に係る電動弁では、第一歯のモジュールと第二歯のモジュールとを同じに揃えるという条件に制限されることなく遊星歯車式減速機構を設計できるので、電動弁の設計の自由度を向上できる。
【0010】
第2態様は、第1態様に係る電動弁において、前記遊星歯車式減速機構は、前記入力領域に設けられ前記出力ギアの歯数と異なる歯数を有する固定ギアと、前記固定ギアと同心に配置され前記入力回転が入力され、前記遊星ギアの前記第一歯と噛み合う太陽ギアと、を備える。
【0011】
第2態様では、遊星歯車式減速機構の中でも特に、固定ギアと太陽ギアとを備える不思議遊星歯車式減速機構を実現できる。
【0012】
第3態様は、第2態様に係る電動弁において、前記固定ギアの歯底円径は、直径15mm以下である。
【0013】
第3態様では、固定ギアの歯底円径が直径15mm以下である小型の電動弁の設計の自由度を特に向上できる。
【0014】
第4態様は、第1態様~第3態様のいずれかに係る電動弁において、内部に弁室が形成されている弁本体と、前記弁室の壁面の一部に形成され開口を有する弁座と、前記弁座の前記開口を開閉可能に配置された弁体と、前記弁体を前記弁座に接離させる弁棒と、前記弁本体に取り付けられ前記弁本体との間に空間を形成する円筒状のキャンと、前記キャンの外周部に装着される前記電動モータの励磁装置と、前記キャンの内部に回転自在に支持され前記励磁装置によって回転駆動される永久磁石型のロータ組立体と、前記遊星歯車式減速機構からの前記出力回転を前記弁体の前記弁座に対する接離動作に変換して前記弁棒に伝達するねじ機構部と、を備え、前記弁本体と前記キャンとの間の前記空間に前記ロータ組立体と前記遊星歯車式減速機構とが配置される。
【0015】
第4態様では、電動弁の中でも、弁本体とキャンとの間の空間にロータ組立体と遊星歯車式減速機構とが配置される電動弁の設計の自由度を特に向上できる。
【0016】
第5態様は、第1態様~第4態様のいずれかに係る電動弁において、前記出力ギアは、底部と、前記底部の周縁から立ち上がる壁部とを有する有底の筒状部材であり、前記筒状部材の内側に流体を蓄積可能な貯留空間が形成される。
【0017】
ここで、例えば、遊星ギアの第二歯の歯数を第一歯と同じ歯数で構成しつつ第二歯のピッチ円の直径を第一歯のピッチ円の直径より小さくすることによって、第二歯のモジュールを第一歯のモジュールより小さくすると、第二歯に噛み合う出力ギアの歯数を少なくできる。このため、出力ギアの歯数が同じである場合に比べ、出力ギアにおいて隣接する歯と歯との間の溝幅、換言すると隙間が拡がる。第5態様では、隙間が拡がる分、貯留空間に蓄積可能な流体の体積を増大できる。例えば、蓄積される流体が潤滑性流体である場合、貯留空間に保持可能な潤滑性流体の体積が増大するので、電動弁の潤滑性を向上できる。
【0018】
第6態様に係る遊星歯車式減速機構は、外部からの入力回転が入力される第一歯と、前記第一歯と対応して設けられ前記第一歯のモジュールとは異なるモジュールを備える第二歯と、を備える遊星ギアと、前記第二歯と噛み合い、前記入力回転が減速された出力回転を出力する出力ギアと、を有する。
【0019】
第6態様に係る遊星歯車式減速機構では、第1態様に係る電動弁の場合と同様に、第一歯のモジュールと第二歯のモジュールとを同じに揃えるという条件に制限されないので、遊星歯車式減速機構の設計の自由度を向上できる。
【発明の効果】
【0020】
本開示に係る電動弁によれば、電動弁及び遊星歯車式減速機構において設計の自由度を向上できる新規な技術を提供できると共に、この技術を用いた電動弁の組立方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本開示の実施形態に係る電動弁を、回転軸である中心軸を含む面で切断して説明する断面図である。
【
図2】本実施形態に係る電動弁における不思議遊星歯車式減速機構の内部を、一部を切り欠いて説明する斜視図である。
【
図3】本実施形態に係る不思議遊星歯車式減速機構の入力領域を説明する平面図である。
【
図4】本実施形態に係る不思議遊星歯車式減速機構の出力領域を説明する平面図である。
【
図5】本実施形態に係る不思議遊星歯車式減速機構の遊星ギアを説明する斜視図である。
【
図6】本実施形態に係る不思議遊星歯車式減速機構の遊星ギアを説明する正面図である。
【
図7】本実施形態に係る不思議遊星歯車式減速機構の遊星ギアを第二歯の側から見て説明する底面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に本実施形態を説明する。以下の図面の記載において、同一の部分及び類似の部分には、同一の符号又は類似の符号を付している。但し、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各装置や各部材の厚みの比率等は、現実のものとは異なる場合がある。したがって、具体的な厚みや寸法は、以下の説明を参酌して判定すべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている場合がある。また、明細書中に特段の断りが無い限り、本開示の各構成要素の個数は、1つに限定されず、複数存在してもよい。
【0023】
<電動弁の構成>
本実施形態に係る電動弁は、基本的構造として、駆動部と、ギア減速機部としての減速機構と、ねじ機構部と、弁本体部と、を備える。駆動部は、励磁機能で作用すると共に、ステータとロータとから成るモータを備える。駆動部は、電動モータを含む。
【0024】
減速機構は、駆動部による回転駆動力が入力されることによって歯車減速を行うと共に、減速した回転を出力する。すなわち、減速機構では、駆動部から入力された入力回転が減速されることによって出力回転が形成されると共に、出力回転がねじ機構部に出力される。減速機構(減速装置)は、遊星歯車式減速機構(遊星歯車式減速装置)を含む。
【0025】
また、ねじ機構部は、減速機構からの減速回転、すなわち出力回転を、ねじ作用によってねじ軸方向の変位に変換して出力する。弁本体部は、ねじ機構部のねじ軸方向の変位出力によって弁体が弁座に対して接離動作することにより弁の開度を制御する。以下、それぞれの部材を、
図1を参照しつつ説明する。
【0026】
(駆動部)
図1に示すように、本実施形態に係る電動弁1の駆動部は、キャン30と、モータ励磁装置2と、ロータ組立体50と、を有する。
【0027】
(キャン)
キャン30は、弁本体10に固着された気密容器である有頂円筒形状である。キャン30は、非磁性の金属材で作られる有頂円筒形状の圧力容器である。
図1中のキャン30の下端部は、弁本体10に設けられる受け部材20の周縁に突き当てられる。
【0028】
キャン30は、受け部材20を介して弁本体10に固着される。弁本体10は、下部に形成された弁室12と弁室12の底部から下方に向けて延びるオリフィス14を有する。弁本体10には、弁室12の側面に連通する冷媒の配管18Aと、オリフィス14の下端に連通する冷媒の配管18Bとが固着される。キャン30の内部に装備されるロータ組立体50は、モータ励磁装置2のコイル3に駆動信号を供給することにより回転する。
【0029】
(モータ励磁装置)
モータ励磁装置2は、板ばねにより形成された取付具5によって、キャン30の外側に、キャン30に対して着脱自在に嵌合状態で装着される。モータ励磁装置2では、モータのステータを構成するコイル3が、樹脂と一体にモールドされる。モータ励磁装置2は、樹脂モールドと、樹脂モールドの内部に装備されるボビンに巻き付けたコイル3と、コイル3への通電によって励磁されるステータとを有すると共に、コイル3は電気回路4及びリード線を介して外部の電源に接続されて給電を受ける。
図1中の樹脂モールドの符号の付記は、見易さのため省略されている。
【0030】
(軸受、シャフト)
軸受40は、中心に孔41を有する断面ハット形状又は円板形状である。軸受40は、キャン30の頂部の内側に挿入され、キャン30の内側面上に配置される。軸受40の孔41内には、シャフト42が挿入される。ステッピングモータの永久磁石型ロータであるロータ組立体50は、キャン30の内部においてシャフト42によって、回転自在に配設される。
【0031】
(ロータ組立体)
ロータ組立体50は、キャン30内に回転自在に支持される。ロータ組立体50は、モータ励磁装置2によって回転駆動される永久磁石型である。モータ励磁装置2は、電動モータの一例としてのステッピングモータ用の励磁装置である。
【0032】
ロータ組立体50は、磁性材料を含有するプラスチック材料によって有頂円筒形状に形成されると共に、中央に配設される太陽ギア部材54と一体に成型される。太陽ギア部材54には、中心に垂直下方に延びるボス(不図示)が設けられる。ボスは、シャフト42のための貫通孔58を有する。ボスの外側には、減速機構60の一構成要素である太陽ギア56が形成される。
【0033】
(ギアケース)
ギアケース61は、円筒状の部材である。ギアケース61の下部は、ホルダ72の上部に嵌合される。ギアケース61の上部は、固定ギア62の側に向かって折り曲げられる。ギアケース61は、金属等によって作製される。
【0034】
ギアケース61の折り曲げ部分は、樹脂等で作製される固定ギア62の外表面と接触する。本実施形態ではカシメによって、固定ギア62をギアケース61に固着した。すなわち、ギアケース61の折り曲げ部分で固定ギア62を係止している。ギアケース61には、減速機構60が収納される。なお、ギアケース61は、減速機構60に含まれてもよい。
【0035】
(減速機構の動作)
減速機構60においては、ロータ組立体50の太陽ギア56が、入力ギアとして機能する。キャリア64に支持された遊星ギア65は、太陽ギア56と噛み合うと共に、固定ギア62(より正確には、固定ギア62の内周面に形成されたリングギア(固定側内歯車)62A
図2参照)及び出力ギア66(より正確には、出力ギア66の内周面に形成された出力側内歯車66D
図2参照)と噛み合う。キャリア64全体は、出力ギア66上で自由に回転できるように支持される。
【0036】
リングギア62Aと出力側内歯車66Dとは、それぞれの歯数が相違するが、いずれも、遊星ギア65と噛み合うように構成される。これらの噛み合いを実現するために、リングギア62Aと出力側内歯車66Dとのそれぞれの歯車の転位係数は、適切な値に設定されている。遊星ギア65が固定ギア62のリングギア62Aと噛み合いながら自転しつつ公転するとき、歯数の相違に基づいて固定ギア62に対して出力ギア66が回転する。
【0037】
このため、減速機構60では、太陽ギア56からの入力回転が減速されて出力ギア66に出力され、結果、例えば50対1程度の大きな減速比で減速が行われる。このため、ロータ組立体50の回転数は、例えば50分の1に減速されて、出力軸70を介してねじ軸71に伝達される。結果、ねじ軸71は、微少回転数での回転が可能となる。このため、弁の開度の制御を高い分解能によって達成できる。
【0038】
(減速比)
減速機構60において、出力ギア66の出力側内歯車66Dの歯数がリングギア62Aの歯数より多い場合の減速比について説明する。モータ励磁装置2の作動によって太陽ギア56がロータ組立体50と共に時計回り(Clockwise,CW)に一体的に回転すると、太陽ギア56とリングギア62Aとに噛み合っている遊星ギア65は、反時計回り(Counterclockwise,CCW)に回転、換言すると、自転しつつ、太陽ギア56の周囲を公転する。
【0039】
結果、キャリア64は、減速されて時計回り(CW)に回転する。遊星ギア65と噛み合っている出力ギア66は、リングギア62A(
図2参照)と出力側内歯車66D(
図2参照)との間の歯数差に基づいて時計回り(CW)に更に減速されて回転する。減速機構60における、太陽ギア56、遊星ギア65、固定ギア62のリングギア62A、及び出力ギア66の出力側内歯車66Dの歯数をそれぞれZ1,Z2,Z3,Z4としたとき、出力ギア66の出力ギア比、すなわち減速比は、以下の式(1)で表される。
【0040】
減速比=[Z4・(Z1+Z3)]/[Z1・(Z4-Z3)] ・・・(1)
ただし、 Z3≠Z4
【0041】
なお、上記の式(1)は、(Z1・Z4)で右辺の分母及び分子を除することによって、以下の式(2)のようにも表され得る。
減速比=(1+Z3/Z1)/(1-Z3/Z4) ・・・(2)
【0042】
固定ギア62のリングギア62Aの歯数と、出力ギア66の出力側内歯車66Dの歯数との差が少ない程、減速比を大きくすることができる。このため、減速比を大きくしたいときには、例えば遊星ギアの個数が3である場合、[Z4-Z3]=3と設定できる。また、Z3/Z1が大きい程、大きな減速比を得られる。このため、太陽ギア56の歯数Z1を少なくすると共に、必要な減速比を得るためにリングギア62Aの歯数Z3と、出力側内歯車66Dの歯数Z4と、遊星ギア65の歯数Z2とが、それぞれ決定される。
【0043】
例えば、Z1=12、Z2=18、Z3=48、Z4=54と設定されたとき、出力ギア66の出力ギア比は、1/45の大きな減速比となる。1/45の大きな減速比でロータ組立体50の回転がねじ軸71に伝達されるので、弁の開度を微小に、すなわち高分解能で制御することが可能となる。
【0044】
(出力軸)
図1に示すように、出力軸70は、シャフト42を受け入れる有底の第一穴70Aと、第一穴70Aと反対側に形成された第二穴70B(例えば、すり割りやスリット状の溝)とを有する円筒形状の部材である。
図1に示すように、第二穴70Bにねじ軸71の平板状の突起部71Aが挿入されることによって、出力軸70の回転がシャフト42に伝達されるようになる。
【0045】
(配管、ホルダ)
弁本体10には2本の配管18A,18Bが、気密もしくは液密に取り付けられている。弁本体10の上側には、ホルダ72が設けられる。本実施形態に係る電動弁1では、弁本体10とホルダ72とは、同じ部材を用いて一体的に作製されている。なお、本開示では、これに限定されず、弁本体とホルダとは、互いに異なる部材を用いて別々に作製された上で、溶接等によって一体化されてもよい。
【0046】
ホルダ72は、筒状部材である。ホルダ72の外径は、弁本体10の外径より小さいと共に、弁本体10の外縁は、ホルダ72の外縁より径方向における外側に位置する。弁本体10とホルダ72との境界高さには、弁本体10の肩部が形成される。
【0047】
(受け部材)
弁本体10の肩部の上面には、リング状の受け部材20の下面が溶着される。受け部材20の外側の部分は、弁本体10の外縁より外側に位置する。
【0048】
ホルダ72の内側に軸受73が嵌合された状態で、ホルダ72と軸受73とは、圧入やカシメ等により一体化される。ホルダ72の上側にはギアケース61が、嵌合状態で取り付けられる。ねじ軸71の上部には突起部71Aが設けられる。突起部71Aは、減速機構60の出力軸70の第二穴70Bに差し込まれる。ねじ軸71の下部の凹部71Bには、ボール74が固着される。ねじ軸71の回転は、
図1中の中心軸Xと平行であるねじ軸方向に沿った移動に変換されると共に、ボール74を介して弁棒75側へ伝達される。
【0049】
(ねじ機構部)
電動弁1のねじ機構部は、送りねじ機構を用いて、減速機構60の出力軸70の回転を、弁体76を弁座17に対し接離させる直線運動に変換して弁棒75に伝達する。本実施形態のねじ機構部は、ねじ軸71を含む。ねじ軸71は、筒状の軸受73の内面に形成されたねじに螺合する。ねじ機構部では、ねじ軸71が駆動される。
【0050】
なお、軸受は、同じ部材を用いてホルダと一体的に形成されてもよく、軸受とホルダとが一体的に形成される場合は、出力ギア66(出力軸70)は、ホルダ72に直接的に支持される。
【0051】
(弁本体部)
本実施形態の弁本体部は、ねじ軸71、ボール74、ボール受け部材74A、弁棒75及び弁体76を含む。なお、弁本体部には、弁本体10、弁室12及びオリフィス14が含まれてもよい。
【0052】
電動弁1の弁本体部においては、ねじ軸71の移動量は、ボール74及びボール受け部材74Aを介して弁棒75へ伝達され、結果、弁棒75の先端に取り付けられた弁体76が、
図1中の上下方向(中心軸X方向)に沿って直線的に移動する。このため、弁体76とオリフィス14との間の流路面積は制御され、結果、冷媒の流量が調節される。また、ばね受け部材26が、弁棒75と弁本体10とに渡って装着されている。ばね受け部材26は、後述するが、弁体76を上方に付勢する圧縮コイルばね24の下端部を支持する機能と、弁体76が上下動する際の摺動ガイドとしての機能を有する。
【0053】
(弁本体)
弁本体10の内側には弁室12が形成されると共に、弁室12を形成する壁面の一部として弁座17が形成される。弁本体10には、弁室12に通じるオリフィス14が形成される。また、弁本体10には、弁室12に通じる配管18Aと、オリフィス14に通じる配管18Bとが、気密もしくは液密に取り付けられている。
【0054】
(弁棒)
弁室12の内側には、弁体76が配置される。弁体76は、弁座17に対して接離して弁座17に形成される開口を開閉する。すなわち、弁体76は、弁座17の開口を開閉可能である。弁体76を移動させるため、ねじ機構部のねじ軸71に連係される弁棒75が、弁体76に連結される。
【0055】
(ばね受け部材)
ばね受け部材26は、筒状である。
図1に示すように、ばね受け部材26は、小径部26Aと、小径部26Aの上側に位置し小径部26Aより拡径された大径部26Bと、大径部26Bの上端の縁部から水平方向に延びる鍔状部26Cと、を有する。小径部26Aと大径部26Bとの境界には、段差部26Dが形成される。
【0056】
小径部26Aは、弁室12の内側に配置される。大径部26Bの外側面は、弁本体10の内面と接触する。鍔状部26Cの
図1中の下面は、弁本体10の内側で、弁本体10とホルダ72との境界の段差に接触する。
図1中の鍔状部26Cの上面は、軸受73の下面に接触する。鍔状部26Cは、軸受73と弁本体10とに挟まれることによって、弁本体10の内側での位置が固定される。ばね受け部材26の内側には、弁棒75が摺動自在に差し込まれる。
【0057】
図1に示すように、弁棒75の側面の下部は、小径部26Aの内面に接触する。
図1中の弁棒75の側面の上部と大径部26Bの内側面との間には、圧縮コイルばね24が配置されている。
図1中の圧縮コイルばね24の下側の巻端は、小径部26Aと、大径部26Bとの境界の段差部26Dの上面に接触する。
図1中の圧縮コイルばね24の上側の巻端は、弁棒75の上部に設けられた鍔状のばね受け部75Aに接触する。
【0058】
弁棒75の上端部には、ボール74のボール受け部材74Aが、挿入された状態で固定される。
図1に示すように、ボール74の上部には、ねじ軸71が当接する。ボール74は、ねじ機構部により軸方向の推力を弁棒75側へ伝達する。
【0059】
図1中には、減速機構60からの出力回転によって弁棒75が下降すると共に弁体76が最下点に到達することによって、電動弁1が閉弁された状態が例示されている。一方、
図1中に例示された状態から出力回転が逆転すると、圧縮コイルばね24の付勢力によって弁棒75が上昇し、結果、電動弁1が開弁される。
【0060】
(不思議遊星歯車式減速機構)
次に、本実施形態に係る減速機構60を
図2~
図7を参照しつつ、より具体的に説明する。本実施形態に係る減速機構60は、不思議遊星歯車式減速機構である。なお、本開示では、減速機構は、不思議遊星歯車式減速機構に限定されず、他の遊星歯車式減速機構(遊星歯車式減速装置)であってもよい。
【0061】
図2に示すように、本実施形態では、減速機構60は、軸方向に沿って上側の入力領域R1と下側の出力領域R2とに分画できる。入力領域R1には、太陽ギア56と遊星ギア65の第一歯T1と固定ギア62とが配置される。出力領域R2には、遊星ギア65の第二歯T2と出力ギア66とが配置される。
【0062】
入力領域R1では、電動モータとしてのモータ励磁装置2からの入力回転が、遊星ギア65の第一歯T1に噛み合う太陽ギア56に入力される。また、出力領域R2では、出力回転が、遊星ギア65の第二歯T2に噛み合う出力ギア66から出力軸70に出力される。
【0063】
(固定ギア)
固定ギア62は、例えば樹脂を成型加工して作られたリング状である。例えば、固定ギア62の外周部にはフランジ(不図示)が形成されると共に、ギアケース61の上部に固定されるための凹部(不図示)及び凸部(不図示)が、周方向に交互に形成されてもよい。
図2に示すように、固定ギア62の内周側には、リングギア62Aが形成される。
【0064】
固定ギア62は、出力ギア66の歯数と異なる歯数を有する。本実施形態の固定ギア62の歯底円径は、例えば直径15mm以下である。なお、本開示では、固定ギア62の歯底円径はこれに限定されず、任意に設定できる。
【0065】
(太陽ギア)
図2に示すように、太陽ギア56は、固定ギア62と同心に配置される。太陽ギア56には、入力回転が入力される。太陽ギア56は、遊星ギア65の第一歯T1にのみ噛み合う。なお、
図2中では見易さのため、
図1中に例示されたキャリア64の図示は省略されている。
【0066】
(キャリア)
キャリア64は、例えばプラスチックを成型加工して形成されると共に、中心部にシャフト42が貫通する孔をそれぞれ有する一対の円盤を備える。円盤の上面の周縁部には、上方に向けて延びる3本のマストと3つの隔壁とが、周方向において交互に配置されている。キャリア64は、減速機構60を構成する。3つの遊星ギア65は、キャリア64に回転自在に支持される。キャリア64の孔、マスト及び隔壁の図示は、見易さのため省略する。
【0067】
(出力ギア)
図2に示すように、出力ギア66は、底部66Aと、底部66Aの周縁から立ち上がる壁部66Bとを有する、有底の円筒状部材である。底部66Aの中心には出力軸70の円柱部70Cが圧入される孔66Cが形成される。出力ギア66の内周に出力側内歯車66Dが形成されることによって、出力ギア66は、リングギアを構成する。出力ギア66は、出力領域R2に設けられると共に、第二歯T2と噛み合う。
【0068】
(貯留空間)
図4に示すように、有底の円筒状部材である出力ギア66の内側には、流体を蓄積可能な貯留空間Sが形成される。流体は、例えば、電動弁1の使用に伴って弁体76側から出力ギア66に移動する冷媒や、減速機構60に用いられるグリースや潤滑油、冷凍機油等である。特に、太陽ギア56が存在しない第二歯T2の内側の空間は、遊星歯車減速機構が駆動しても他のギアが存在しない空間であり、グリースや潤滑油の貯留に適している。
【0069】
本実施形態では、底部66Aと壁部66Bとには孔等の開口部は設けられておらず、結果、流体が貯留空間Sから外側に漏れることが防止される。有底の出力ギア66が、減速機構60の中で最下段に配置されることによって、内側の貯留空間Sに例えば潤滑性流体等の流体を蓄積できる。
【0070】
(遊星ギア)
遊星ギア65は、入力領域R1に位置するように設けられた複数の第一歯T1と、複数の第一歯T1のそれぞれと対応して出力領域R2に位置するように設けられた複数の第二歯T2と、を備える。
【0071】
図3に示すように、複数の第一歯T1はそれぞれ、平面視で、第一中心線A1を中心に左右対称である。第一中心線A1は、遊星ギア65の自転の中心軸Vと、第一歯T1の第一ピッチ円C1上で周方向における中心とを通って径方向に沿って延びる仮想線である。
【0072】
また、
図4に示すように、複数の第二歯T2はそれぞれ、平面視で、第二中心線A2を中心に左右対称である。第二中心線A2は、遊星ギア65の自転の中心軸Vと、第二歯T2の第二ピッチ円C2上で周方向における中心とを通って径方向に沿って延びる仮想線である。また、
図4中には、出力ギア66の出力側内歯車66Dのピッチ円CT上において、周方向で隣接する歯と歯との間の溝幅GTが例示されている。
【0073】
図5に示すように、遊星ギア65は、筒状部材である。遊星ギア65の中心部には、キャリア64のマストに回転自在に嵌合される孔65Hが形成される。遊星ギア65の外周部には、ギア部として第一歯T1と第二歯T2とが設けられる。図示を省略するが、それぞれのマストに遊星ギア65が嵌合されたキャリア64の上面には、下面側のプレートと同様にプレートの孔を有する一枚のワッシャ状のプレートが被せられる。また、マストと隔壁の頂部の凸部がプレートの孔に圧入されることによって、遊星ギア65が、キャリア64に回転自在に固定される。
【0074】
本実施形態では、第一歯T1と第二歯T2とは、単一の遊星ギア65の中で、例えば金属製の同じ素材を用いて一体成形される。なお、本開示では、第一歯T1と第二歯T2とは、別々に作製された上で互いに一体化されることによって単一の遊星ギアが構成されてもよい。
【0075】
図5及び
図6に示すように、第二歯T2は、第一歯T1のモジュールとは異なるモジュールを備える。換言すると、1つの遊星ギア65は、互いにモジュールが異なる歯が
図6中の上下方向において2段に分けて設けられる部分を有する。
【0076】
図7に示すように、本実施形態の遊星ギア65では、互いに対応する第一中心線A1と第二中心線A2とは、平面視で重なる。すなわち、互いに対応する第一中心線A1と第二中心線A2とは、
図6中の上下方向に沿った遊星ギア65の中心軸Vを含む同一面内で、平行に配置される。また、第二歯T2の歯数は、第一歯T1の歯数と同じである。
【0077】
しかし、
図7に示すように、第二歯T2の第二ピッチ円C2の直径は、第一歯T1の第一ピッチ円C1の直径より小さい。このため、第二歯T2のモジュールは、第一歯T1のモジュールより小さい。また、第二歯T2の全歯たけである第二歯T2たけH2は、第一歯T1の全歯たけである第一歯T1たけH1より低い。また、第二歯T2の第二溝幅G2は、第一歯T1の第一溝幅G1より狭い。溝幅は、周方向で隣接する歯と歯との間に形成される溝の周方向に沿って測った長さである。
【0078】
なお、本実施形態では、ピッチ円の直径のみを変えることによって第一歯T1と第二歯T2とのそれぞれのモジュールを互いに異ならせる場合が例示されたが、本開示ではこれに限定されない。本開示では、歯数のみを変えること、或いは、歯数とピッチ円の直径との両方を変えることによって第一歯T1と第二歯T2とのそれぞれのモジュールを互いに異ならせてもよい。
【0079】
(電動弁の組立方法)
次に、本実施形態に係る電動弁の組立方法を説明する。まず、固定ギア62と、出力ギア66と、遊星ギア65とを組み立てることによって、遊星歯車式の減速機構60を作製する。
【0080】
具体的には、組立者は、例えば組立用の作業台の上に、予め弁本体10を固定した状態で載置する。弁本体10の内側には、出力軸70、ねじ軸71、ホルダ72、軸受73、ボール74、ボール受け部材74A、弁棒75及び弁体76等の減速機構60の下側に位置する部材が組み立てられている。また、出力軸70の第二穴70Bには、ねじ軸71の突起部71Aが噛合されると共に、出力軸70の第一穴70Aには、シャフト42の出力軸70側の端部は差し込まれていない。
【0081】
次に、組立者は、出力ギア66を底部66Aが下側に位置するように配置する。また、組立者は、出力ギア66の孔66Cと出力軸70の第一穴70Aとを同心に配置する。次に、組立者は、固定ギア62を出力ギア66の上側に同心で重ねる。
【0082】
次に、組立者は、キャリア64に支持された遊星ギア65を、第二歯T2の側(
図5中の下側)を先端として、キャリア64ごと固定ギア62の上側から差し込む。遊星ギア65は、
図5に示したように、上側に設けられた第一歯T1と、第一歯T1と対応して下側に設けられた第二歯T2と、を備える。第二歯T2は、第一歯T1と同じ歯数を有すると共に、第二歯T2の第二ピッチ円C2の直径は、第一歯T1の第一ピッチ円C1の直径より小さい。
【0083】
そして、組立者は、第一歯T1を固定ギア62のリングギア62Aに噛み合わせると共に第二歯T2を出力ギア66の出力側内歯車66Dに噛み合わせる。すなわち、一体的に配置された固定ギア62と出力ギア66との内側の空間に、遊星ギア65を差し込むことによって、遊星ギア65と固定ギア62と出力ギア66とを時間的に連続的に噛合させる。
【0084】
なお、本実施形態では、出力ギア66と固定ギア62とを一体化する工程の後、固定ギア62と出力ギア66との内側の空間に遊星ギア65を差し込む工程が実施される場合が例示されたが、本開示では、組立工程の順番は、これに限定されない。本開示では、例えば、出力ギア66に遊星ギア65の第二歯を差し込む工程の後、出力ギア66から突出した遊星ギア65の第一歯に対して固定ギア62を差し込む工程が行われるように、組立工程の順番は適宜変更できる。
【0085】
また、組立者は、太陽ギア部材54を、太陽ギア56がキャリア64の内側で3つの遊星ギア65と噛み合うように固定ギア62の上側から差し込む。上記の一連の工程によって、本実施形態に係る遊星歯車式の減速機構60を作製できる。また、組立者は、作製された遊星歯車式の減速機構60に、上側からシャフト42やキャン30等の他の部材を取り付けることによって、本実施形態に係る電動弁1を組み立てることができる。
【0086】
(作用効果)
本実施形態に係る電動弁1では、第一歯T1のモジュールと第二歯T2のモジュールとが互いに異なる。このため、第一歯のモジュールと第二歯のモジュールとを同じに揃えるという条件に制限されることなく、遊星歯車式減速機構を設計できるので、遊星歯車式減速機構の設計の自由度を向上できる。また、同様に、本実施形態に係る電動弁1の設計の自由度を向上できる。
【0087】
また、本実施形態では、遊星歯車式減速機構の中でも特に、固定ギア62と太陽ギア56とを備える不思議遊星歯車式減速機構を実現できる。
【0088】
また、本実施形態では、固定ギア62の歯底円径が直径15mm以下である小型の電動弁1の設計の自由度を特に向上できる。
【0089】
また、本実施形態では、電動弁1の中でも、弁本体とキャンとの間の空間にロータ組立体と遊星歯車式減速機構とが配置される電動弁1の設計の自由度を特に向上できる。
【0090】
また、本実施形態では、筒状部材の内側に流体を蓄積可能な貯留空間Sが形成される。ここで、例えば、遊星ギア65の第二歯T2の歯数を第一歯と同じ歯数で構成しつつ第二歯T2の第二ピッチ円C2の直径を第一歯T1の第一ピッチ円C1の直径より小さくすることによって第二歯T2のモジュールを第一歯T1のモジュールより小さくすると、第二歯T2に噛み合う出力ギア66の歯数を少なくできる。
【0091】
第二歯T2の直径が小さくなった分、貯留空間Sの体積が増大する。例えば、貯留空間Sに蓄積される流体が潤滑性流体である場合、貯留空間Sに保持可能な潤滑性流体の体積が増大するので、電動弁1の潤滑性を向上できる。
【0092】
また、ここで、例えば比較的小型の遊星歯車式減速機構を組み立てる場合、複数の遊星ギアを1つのキャリアに回転可能に支持させることによって一体化する場合が多い。遊星ギアが回転可能であるため、遊星ギアを出力ギア又は固定ギアに差し込む際、出力ギア又は固定ギアの内歯に対して最も近接する歯の位置が、出力ギア又は固定ギアの内歯と嵌合し難い。換言すると、複数の遊星ギアのそれぞれの歯と、出力ギア又は固定ギアの内歯との間で、歯と溝とがそのままの位置関係では噛み合わない。
【0093】
このため、差し込み時、複数の遊星ギアの一部又はすべてをキャリアに支持された状態で僅かに回転させることによって、出力ギア又は固定ギアの内歯との間で噛み合うように遊星ギアの歯の位置関係を変更する作業が必要になる。
【0094】
特に、遊星ギアにおいて上下2段に分けて設けられる第一歯と第二歯との間でそれぞれの歯数が異なる場合、第一歯のそれぞれと第二歯のそれぞれとは互いに1対1で対応しない。換言すると、第一歯の第一中心線の方向と第二歯と第二中心線の方向とがランダムに配置されるように、第一歯と第二歯との間で相対的な位置関係が異なる歯が多くなる。特に、噛み合いの歯数が互いに素である場合、第一歯と第二歯との間で、すべての歯の相対的な位置関係が異なる。
【0095】
このため、遊星ギアの第一歯と第二歯との間でそれぞれの歯数が異なる場合、キャリアに遊星ギアを支持させた状態で、遊星ギアを出力ギア又は固定ギアに差し込む際、遊星ギアの歯の位置関係を変更する作業の負担が大きい。
【0096】
一方、本実施形態では、第一歯T1と第二歯T2との間で互いにモジュールが異なっても、第一歯T1の歯数と第二歯T2の歯数とは同じである。このため、キャリア64に遊星ギア65を支持させた状態で、遊星ギア65を出力ギア66又は固定ギア62に差し込む際、遊星ギア65の歯の位置関係を変更する作業の負担を、第一歯T1と第二歯T2との間でそれぞれの歯数が異なる場合に比べ、抑制できる。
【0097】
また、本実施形態では、第二歯T2に噛み合う出力ギア66の歯数を少なくできるので、出力ギア66の歯数が同じである場合に比べ、出力ギア66において隣接する歯と歯との間の隙間が拡がる。このため、遊星ギア65を出力ギア66と固定ギア62とに差し込み易い。
【0098】
特に、電動弁が小型であるほど、出力ギア66において隣接する歯と歯との間の隙間も小さくなる傾向があるため、組立の際、遊星ギア65を出力ギア66と固定ギア62とに差し込み難くなる。遊星ギア65の差し込み易さを改善するために例えば遊星ギア65の歯の下部の形状が下側に向かうに従って全歯たけが低くなるように歯の下端を窄める手段も考えられるが、歯の体積が縮小する分、強度の低下すなわち電動弁の耐久性の低下が生じ易い。本実施形態では、歯の体積を縮小させる必要なく遊星ギア65の差し込み易さを改善できる点で有利である。
<その他の実施形態>
【0099】
本開示は上記の開示された実施の形態によって説明されたが、この開示の一部をなす論述及び図面は、本開示を限定するものであると理解すべきではない。本開示は、上記に記載していない様々な実施の形態等を含むと共に、本開示の技術的範囲は、上記の説明から妥当な特許請求の範囲の発明特定事項によってのみ定められるものである。
【符号の説明】
【0100】
1 電動弁
2 モータ励磁装置(電動モータ)
3 コイル
4 電気回路
5 取付具
10 弁本体
12 弁室
14 オリフィス
17 弁座
18A,18B 配管
20 受け部材
24 圧縮コイルばね
26 ばね受け部材
26A 小径部
26B 大径部
26C 鍔状部
26D 段差部
30 キャン
40 軸受
41 孔
42 シャフト
50 ロータ組立体
54 太陽ギア部材
56 太陽ギア
58 貫通孔
60 遊星歯車式減速機構
61 ギアケース
62 固定ギア
62A リングギア
64 キャリア
65 遊星ギア
65H 孔
66 出力ギア
66A 底部
66B 壁部
66C 孔
66D 出力側内歯車
70 出力軸
70A 第一穴
70B 第二穴
70C 円柱部
71 ねじ軸
71A 突起部
71B 凹部
72 ホルダ
73 軸受
74 ボール
74A ボール受け部材
75 弁棒
75A ばね受け部
76 弁体
A1 第一中心線
A2 第二中心線
C1 第一ピッチ円
C2 第二ピッチ円
CT 出力側内歯車のピッチ円
G1 第一溝幅
G2 第二溝幅
GT 出力側内歯車の溝幅
H1 第一歯たけ
H2 第二歯たけ
R1 入力領域
R2 出力領域
S 貯留空間
T1 第一歯
T2 第二歯
V 遊星ギアの中心軸
X 中心軸