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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025017259
(43)【公開日】2025-02-05
(54)【発明の名称】電動弁及び遊星歯車式減速機構
(51)【国際特許分類】
   F16K 31/04 20060101AFI20250129BHJP
   F16K 31/53 20060101ALI20250129BHJP
   F16H 1/46 20060101ALI20250129BHJP
   H02K 7/116 20060101ALI20250129BHJP
【FI】
F16K31/04 A
F16K31/53
F16H1/46
H02K7/116
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023120303
(22)【出願日】2023-07-24
(71)【出願人】
【識別番号】391002166
【氏名又は名称】株式会社不二工機
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 貴之
【テーマコード(参考)】
3H062
3H063
3J027
5H607
【Fターム(参考)】
3H062AA02
3H062AA15
3H062BB33
3H062CC02
3H062DD01
3H062EE01
3H062EE06
3H062EE11
3H062HH04
3H063AA01
3H063BB50
3H063DA14
3H063DB36
3H063FF01
3H063GG01
3J027FA36
3J027FB40
3J027FC02
3J027GA01
3J027GB03
3J027GC13
3J027GC24
3J027GD04
3J027GD07
3J027GD08
3J027GD12
3J027GE11
3J027GE14
3J027GE29
5H607AA12
5H607BB01
5H607BB10
5H607BB14
5H607CC03
5H607DD02
5H607DD04
5H607EE33
(57)【要約】
【課題】電動弁及び遊星歯車式減速機構において減速比を増大できる新規な技術を提供する。
【解決手段】n個(n:2以上の自然数)の遊星ギア(第一遊星ギア65A,第二遊星ギア65B,第三遊星ギア65C)において、1つの遊星ギアにおける第一歯T1と第二歯T2との間には予め設定された位相差(第一位相差D1,第二位相差D2)が形成され、周方向において隣接する遊星ギアのうち一方の遊星ギアの位相差と他方の遊星ギアの位相差との間の差は、(1/n)・(第二歯T2のピッチ幅P)である。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータと、
前記電動モータの入力回転が入力される第一歯と、前記第一歯と対応して設けられた第二歯と、を備えるn個(n:2以上の自然数)の遊星ギアと、前記第二歯と噛み合い、前記入力回転が減速された出力回転を出力する出力ギアと、を有する、遊星歯車式減速機構と、
前記出力回転によって弁の開度を制御する弁本体部と、を備え、
前記n個の前記遊星ギアにおいて、
前記第一歯の第一ピッチ円の直径と前記第二歯の第二ピッチ円の直径とは同じであり、
前記第一歯の歯数と前記第二歯の歯数とは同じであり、
1つの前記遊星ギアにおける前記第一歯と前記第二歯との間には予め設定された位相差が形成され、周方向において隣接する前記遊星ギアのうち一方の前記遊星ギアの前記位相差と他方の前記遊星ギアの前記位相差との間の差は、(1/n)・(第二歯のピッチ幅)である、
電動弁。
【請求項2】
前記遊星歯車式減速機構は、
前記出力ギアの歯数と異なる歯数を有する固定ギアと、
前記固定ギアと同心に配置され前記入力回転が入力され、前記遊星ギアの前記第一歯と噛み合う太陽ギアと、
を備える、
請求項1に記載の電動弁。
【請求項3】
前記固定ギアの歯底円径は、直径15mm以下である、
請求項2に記載の電動弁。
【請求項4】
内部に弁室が形成されている弁本体と、
前記弁室の壁面の一部に形成され開口を有する弁座と、
前記弁座の前記開口を開閉可能に配置された弁体と、
前記弁体を前記弁座に接離させる弁棒と、
前記弁本体に取り付けられ前記弁本体との間に空間を形成する円筒状のキャンと、
前記キャンの外周部に装着される前記電動モータの励磁装置と、
前記キャンの内部に回転自在に支持され前記励磁装置によって回転駆動される永久磁石型のロータ組立体と、
前記遊星歯車式減速機構からの前記出力回転を前記弁体の前記弁座に対する接離動作に変換して前記弁棒に伝達するねじ機構部と、
を備え、前記弁本体と前記キャンとの間の前記空間に前記ロータ組立体と前記遊星歯車式減速機構とが配置される、
請求項1~3のいずれか一項に記載の電動弁。
【請求項5】
外部からの入力回転が入力される第一歯と、前記第一歯と対応して設けられた第二歯とをそれぞれ備えるn個(n:2以上の自然数)の遊星ギアと、前記第二歯と噛み合い、前記入力回転が減速された出力回転を出力する出力ギアと、を有し、
前記n個の前記遊星ギアにおいて、
前記第一歯の第一ピッチ円の直径と前記第二歯の第二ピッチ円の直径とは同じであり、
前記第一歯の歯数と前記第二歯の歯数とは同じであり、
1つの前記遊星ギアにおける前記第一歯と前記第二歯との間には予め設定された位相差が形成され、周方向において隣接する前記遊星ギアのうち一方の前記遊星ギアの前記位相差と他方の前記遊星ギアの前記位相差との間の差は、(1/n)・(第二歯のピッチ幅)である、
遊星歯車式減速機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電動弁及び遊星歯車式減速機構に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1のように、電動モータを介して弁の開閉を行う電動弁として、ロータの入力回転を遊星歯車式減速機構で減速すると共に、弁の開閉を制御するねじ機構部に、減速された出力回転を伝達する型の電動弁が知られている。具体的には特許文献1には、不思議遊星歯車式の差動歯車機構が開示されている。差動歯車機構では、固定ギアの歯数と出力ギアの歯数との間の歯数差に応じて、固定ギアに対して相対的に高い減速比で回転可能である。
【0003】
また、遊星歯車式減速機構の他の例として特許文献2には電動弁ではないものの、入力軸、出力軸及び固定軸からなる3つの基本軸の全てが装置の中心軸と同じ回転軸心を持つ3K型の遊星歯車装置が、開示されている。遊星歯車式減速機構では、固定ギアの歯数と出力ギアの歯数との間の歯数差が小さい程、より大きな減速比を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4936941号公報
【特許文献2】特許第6782494号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本明細書では、1つの遊星ギアの歯車において、固定ギアに噛み合う部分の歯を「第一歯」と称すると共に、第一歯とは異なる位置で出力ギアに噛み合う部分の歯を「第二歯」と称する。特許文献1及び特許文献2の場合、1つの遊星ギアの歯車において、第一歯の歯数と第二歯の歯数とは同じである。
【0006】
また、本明細書では、遊星ギアの歯車において、平面視で、遊星ギアの自転の中心軸と、歯のピッチ円上で周方向における中心とを通って径方向に沿って延びる仮想線を、歯の中心線と称する。また、遊星ギアと対応する出力側内歯車において、平面視で、遊星歯車式減速機構の回転の中心軸と、歯と歯との間の溝のピッチ円上で周方向における中心とを通って径方向に沿って延びる仮想線を、溝の中心線と称する。
【0007】
また、平面視で、第一歯の中心線と第二歯の中心線とが重なる状態を「同じ位相である」又は「位相差が形成されない」と称すると共に、第一歯の中心線と第二歯の中心線とがずれた状態を「位相が異なる」又は「位相差が形成される」と称する。
【0008】
ここで、n個の遊星ギアの歯と、n個の遊星ギアのそれぞれと噛み合う出力側内歯車の溝と、について考える。nは、2以上の自然数である。n個の遊星ギアのすべての噛み合い位置で、遊星ギアの歯の中心線と出力側内歯車の溝の中心線とが重なる状態は、出力側内歯車の溝の個数、すなわち出力側内歯車の歯数が、nの整数倍の値(n・k)である場合である。kは、自然数である。このため、差動歯車機構では、固定ギアの歯数と出力ギアの歯数との間の歯数差の最小値をn個より小さくすることはできない。
【0009】
この点、特許文献1及び特許文献2においても、歯数差をn個より小さくすることは検討されておらず、結果、減速比の増大を図ることはできない。
【0010】
上記に鑑み、本開示は、電動弁及び遊星歯車式減速機構において、減速比を増大できる新規な技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1態様に係る電動弁は、電動モータと、前記電動モータの入力回転が入力される第一歯と、前記第一歯と対応して設けられた第二歯と、を備えるn個(n:2以上の自然数)の遊星ギアと、前記第二歯と噛み合い、前記入力回転が減速された出力回転を出力する出力ギアと、を有する、遊星歯車式減速機構と、前記出力回転によって弁の開度を制御する弁本体部と、を備え、前記n個の前記遊星ギアにおいて、前記第一歯の第一ピッチ円の直径と前記第二歯の第二ピッチ円の直径とは同じであり、前記第一歯の歯数と前記第二歯の歯数とは同じであり、1つの前記遊星ギアにおける前記第一歯と前記第二歯との間には予め設定された位相差が形成され、周方向において隣接する前記遊星ギアのうち一方の前記遊星ギアの前記位相差と他方の前記遊星ギアの前記位相差との間の差は、(1/n)・(第二歯のピッチ幅)である。
【0012】
ここで、固定ギアの歯数と出力ギアの歯数との間の歯数差が1つである場合、第二歯の噛み合い位置で、第二歯の中心線と出力ギアの溝の中心線との間の位相差は、遊星ギアが周方向に沿って配置された順に従って、(1/n)・(出力ギアのピッチ幅)ずつ大きくなる。
【0013】
第1態様に係る電動弁では、n個の遊星ギアにおける、それぞれの遊星ギアの位相差の和は、出力ギアのピッチ幅1つ分の距離に対応するように予め形成される。このため、第一歯と噛み合う固定ギアの歯数と第二歯と噛み合う出力ギアの歯数との間の歯数差の最小値を、1つに設定可能になる。このため、歯数差をn個より小さくすることができ、結果、遊星歯車式減速機構の減速比を増大できる。
【0014】
第2態様は、第1態様に係る電動弁において、前記遊星歯車式減速機構は、前記出力ギアの歯数と異なる歯数を有する固定ギアと、前記固定ギアと同心に配置され前記入力回転が入力され、前記遊星ギアの前記第一歯と噛み合う太陽ギアと、を備える。
【0015】
第2態様では、遊星歯車式減速機構の中でも特に、固定ギアと太陽ギアとを備える不思議遊星歯車式減速機構を実現できる。
【0016】
第3態様は、第2態様に係る電動弁において、前記固定ギアの歯底円径は、直径15mm以下である。
【0017】
第3態様では、固定ギアの歯底円径が直径15mm以下である小型の電動弁の設計の自由度を特に向上できる。
【0018】
第4態様は、第1態様~第3態様のいずれかに係る電動弁において、内部に弁室が形成されている弁本体と、前記弁室の壁面の一部に形成され開口を有する弁座と、前記弁座の前記開口を開閉可能に配置された弁体と、前記弁体を前記弁座に接離させる弁棒と、前記弁本体に取り付けられ前記弁本体との間に空間を形成する円筒状のキャンと、前記キャンの外周部に装着される前記電動モータの励磁装置と、前記キャンの内部に回転自在に支持され前記励磁装置によって回転駆動される永久磁石型のロータ組立体と、前記遊星歯車式減速機構からの前記出力回転を前記弁体の前記弁座に対する接離動作に変換して前記弁棒に伝達するねじ機構部と、を備え、前記弁本体と前記キャンとの間の前記空間に前記ロータ組立体と前記遊星歯車式減速機構とが配置される。
【0019】
第4態様では、電動弁の中でも、弁本体とキャンとの間の空間にロータ組立体と遊星歯車式減速機構とが配置される電動弁の設計の自由度を特に向上できる。
【0020】
第5態様に係る遊星歯車式減速機構は、外部からの入力回転が入力される第一歯と、前記第一歯と対応して設けられた第二歯とをそれぞれ備えるn個(n:2以上の自然数)の遊星ギアと、前記第二歯と噛み合い、前記入力回転が減速された出力回転を出力する出力ギアと、を有し、前記n個の前記遊星ギアにおいて、前記第一歯の第一ピッチ円の直径と前記第二歯の第二ピッチ円の直径とは同じであり、前記第一歯の歯数と前記第二歯の歯数とは同じであり、1つの前記遊星ギアにおける前記第一歯と前記第二歯との間には予め設定された位相差が形成され、周方向において隣接する前記遊星ギアのうち一方の前記遊星ギアの前記位相差と他方の前記遊星ギアの前記位相差との間の差は、(1/n)・(第二歯のピッチ幅)である。
【0021】
第5態様に係る遊星歯車式減速機構では、第1態様に係る電動弁の場合と同様に、減速比を増大できる。
【発明の効果】
【0022】
本開示に係る電動弁によれば、電動弁及び遊星歯車式減速機構において減速比を増大できる新規な技術を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本開示の実施形態に係る電動弁を、回転軸である中心軸を含む面で切断して説明する断面図である。
図2】本実施形態に係る電動弁における不思議遊星歯車式減速機構の内部を、一部を切り欠いて説明する斜視図である。
図3】本実施形態に係る不思議遊星歯車式減速機構の入力領域を説明する平面図である。
図4】本実施形態に係る不思議遊星歯車式減速機構の出力領域を説明する平面図である。
図5】本実施形態に係る不思議遊星歯車式減速機構の遊星ギアを説明する斜視図である。
図6】本実施形態に係る不思議遊星歯車式減速機構の遊星ギアを説明する平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に本実施形態を説明する。以下の図面の記載において、同一の部分及び類似の部分には、同一の符号又は類似の符号を付している。但し、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各装置や各部材の厚みの比率等は、現実のものとは異なる場合がある。したがって、具体的な厚みや寸法は、以下の説明を参酌して判定すべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている場合がある。また、明細書中に特段の断りが無い限り、本開示の各構成要素の個数は、1つに限定されず、複数存在してもよい。
【0025】
<電動弁の構成>
本実施形態に係る電動弁は、基本的構造として、駆動部と、ギア減速機部としての減速機構と、ねじ機構部と、弁本体部と、を備える。駆動部は、励磁機能で作用すると共に、ステータとロータとから成るモータを備える。駆動部は、電動モータを含む。
【0026】
減速機構は、駆動部による回転駆動力が入力されることによって歯車減速を行うと共に、減速した回転を出力する。すなわち、減速機構では、駆動部から入力された入力回転が減速されることによって出力回転が形成されると共に、出力回転がねじ機構部に出力される。減速機構(減速装置)は、遊星歯車式減速機構(遊星歯車式減速装置)を含む。
【0027】
また、ねじ機構部は、減速機構からの減速回転、すなわち出力回転を、ねじ作用によってねじ軸方向の変位に変換して出力する。弁本体部は、ねじ機構部のねじ軸方向の変位出力によって弁体が弁座に対して接離動作することにより弁の開度を制御する。以下、それぞれの部材を、図1を参照しつつ説明する。
【0028】
(駆動部)
図1に示すように、本実施形態に係る電動弁1の駆動部は、キャン30と、モータ励磁装置2と、ロータ組立体50と、を有する。
【0029】
(キャン)
キャン30は、弁本体10に固着された気密容器である有頂円筒形状である。キャン30は、非磁性の金属材で作られる有頂円筒形状の圧力容器である。図1中のキャン30の下端部は、弁本体10に設けられる受け部材20の周縁に突き当てられる。
【0030】
キャン30は、受け部材20を介して弁本体10に固着される。弁本体10は、下部に形成された弁室12と弁室12の底部から下方に向けて延びるオリフィス14を有する。弁本体10には、弁室12の側面に連通する冷媒の配管18Aと、オリフィス14の下端に連通する冷媒の配管18Bとが固着される。キャン30の内部に装備されるロータ組立体50は、モータ励磁装置2のコイル3に駆動信号を供給することにより回転する。
【0031】
(モータ励磁装置)
モータ励磁装置2は、板ばねにより形成された取付具5によって、キャン30の外側に、キャン30に対して着脱自在に嵌合状態で装着される。モータ励磁装置2では、モータのステータを構成するコイル3が、樹脂と一体にモールドされる。モータ励磁装置2は、樹脂モールドと、樹脂モールドの内部に装備されるボビンに巻き付けたコイル3と、コイル3への通電によって励磁されるステータとを有すると共に、コイル3は電気回路4及びリード線を介して外部の電源に接続されて給電を受ける。図1中の樹脂モールドの符号の付記は、見易さのため省略されている。
【0032】
(軸受、シャフト)
軸受40は、中心に孔41を有する断面ハット形状又は円板形状である。軸受40は、キャン30の頂部の内側に挿入され、キャン30の内側面上に配置される。軸受40の孔41内には、シャフト42が挿入される。ステッピングモータの永久磁石型ロータであるロータ組立体50は、キャン30の内部においてシャフト42によって、回転自在に配設される。
【0033】
(ロータ組立体)
ロータ組立体50は、キャン30内に回転自在に支持される。ロータ組立体50は、モータ励磁装置2によって回転駆動される永久磁石型である。モータ励磁装置2は、電動モータの一例としてのステッピングモータ用の励磁装置である。
【0034】
ロータ組立体50は、磁性材料を含有するプラスチック材料によって有頂円筒形状に形成されると共に、中央に配設される太陽ギア部材54と一体に成型される。太陽ギア部材54には、中心に垂直下方に延びるボス(不図示)が設けられる。ボスは、シャフト42のための貫通孔58を有する。ボスの外側には、減速機構60の一構成要素である太陽ギア56が形成される。
【0035】
(ギアケース)
ギアケース61は、円筒状の部材である。ギアケース61の下部は、ホルダ72の上部に嵌合される。ギアケース61の上部は、固定ギア62の側に向かって折り曲げられる。ギアケース61は、金属等によって作製される。
【0036】
ギアケース61の折り曲げ部分は、樹脂等で作製される固定ギア62の外表面と接触する。本実施形態ではカシメによって、固定ギア62をギアケース61に固着した。すなわち、ギアケース61の折り曲げ部分で固定ギア62を係止している。ギアケース61には、減速機構60が収納される。なお、ギアケース61は、減速機構60に含まれてもよい。
【0037】
(減速機構の動作)
減速機構60においては、ロータ組立体50の太陽ギア56が、入力ギアとして機能する。キャリア64に支持された遊星ギアは、太陽ギア56と噛み合うと共に、固定ギア62(より正確には、固定ギア62の内周面に形成されたリングギア62A(固定側内歯車) 図2参照)及び出力ギア66(より正確には、出力ギア66の内周面に形成された出力側内歯車66D 図2参照)と噛み合う。図1の断面図中には、第一遊星ギア65Aと第二遊星ギア65Bとが例示されている。キャリア64全体は、出力ギア66上で自由に回転できるように支持される。
【0038】
リングギア62Aと出力側内歯車66Dとは、それぞれの歯数が相違するが、いずれも、第一遊星ギア65A,第二遊星ギア65B及び第三遊星ギア65Cと噛み合うように構成される。これらの噛み合いを実現するために、リングギア62Aと出力側内歯車66Dとのそれぞれの歯車の転位係数は、適切な値に設定されている。第一遊星ギア65A,第二遊星ギア65B,第三遊星ギア65Cが固定ギア62のリングギア62Aと噛み合いながら自転しつつ公転するとき、歯数の相違に基づいて固定ギア62に対して出力ギア66が回転する。
【0039】
このため、減速機構60では、太陽ギア56からの入力回転が減速されて出力ギア66に出力され、結果、例えば50対1程度の大きな減速比で減速が行われる。このため、ロータ組立体50の回転数は、例えば50分の1に減速されて、出力軸70を介してねじ軸71に伝達される。結果、ねじ軸71は、微少回転数での回転が可能となる。このため、弁の開度の制御を高い分解能によって達成できる。
【0040】
(減速比)
減速機構60において、出力ギア66の出力側内歯車66Dの歯数がリングギア62Aの歯数より多い場合の減速比について説明する。モータ励磁装置2の作動によって太陽ギア56がロータ組立体50と共に時計回り(Clockwise,CW)に一体的に回転すると、太陽ギア56とリングギア62Aとに噛み合っている第一遊星ギア65A,第二遊星ギア65B,第三遊星ギア65Cは、反時計回り(Counterclockwise,CCW)に回転、換言すると、自転しつつ、太陽ギア56の周囲を公転する。
【0041】
結果、キャリア64は、減速されて時計回り(CW)に回転する。第一遊星ギア65A,第二遊星ギア65B,第三遊星ギア65Cと噛み合っている出力ギア66(図2参照)は、リングギア62A(図2参照)と出力側内歯車66Dとの間の歯数差に基づいて時計回り(CW)に更に減速されて回転する。減速機構60における、太陽ギア56、遊星ギア(第一遊星ギア65A,第二遊星ギア65B,第三遊星ギア65C)、固定ギア62のリングギア62A、及び出力ギア66の出力側内歯車66Dの歯数をそれぞれZ1,Z2,Z3,Z4としたとき、出力ギア66の出力ギア比、すなわち、減速比は以下の式(1)で表される。
【0042】

減速比=[Z4・(Z1+Z3)]/[Z1・(Z4-Z3)] ・・・(1)
ただし、 Z3≠Z4
【0043】
なお、上記の式(1)は、(Z1・Z4)で右辺の分母及び分子を除することによって、以下の式(2)のようにも表され得る。

減速比=(1+Z3/Z1)/(1-Z3/Z4) ・・・(2)
【0044】
固定ギア62のリングギア62Aの歯数と、出力ギア66の出力側内歯車66Dの歯数との差が少ない程、減速比を大きくすることができる。このため、減速比を大きくしたいときには、例えば遊星ギアの個数が3である場合には、[Z4-Z3]=3と設定できる。また、Z3/Z1が大きい程、大きな減速比を得られる。このため、太陽ギア56の歯数Z1を少なくすると共に、必要な減速比を得るためにリングギア62Aの歯数Z3と、出力側内歯車66Dの歯数Z4と、遊星ギア(第一遊星ギア65A,第二遊星ギア65B,第三遊星ギア65C)の歯数Z2とが、それぞれ決定される。
【0045】
例えば、Z1=12、Z2=18、Z3=48、Z4=54と設定されたとき、出力ギア66の出力ギア比は、1/45の大きな減速比となる。1/45の大きな減速比でロータ組立体50の回転がねじ軸71に伝達されるので、弁の開度を微小に、すなわち高分解能で制御することが可能となる。
【0046】
(出力軸)
図1に示すように、出力軸70は、シャフト42を受け入れる有底の第一穴70Aと、第一穴70Aと反対側に形成された第二穴70B(例えば、すり割りやスリット状の溝)とを有する円筒形状の部材である。図1に示すように、第二穴70Bにねじ軸71の平板状の突起部71Aが挿入されることによって、出力軸70の回転がシャフト42に伝達されるようになる。
【0047】
(配管、ホルダ)
弁本体10には2本の配管18A,18Bが、気密もしくは液密に取り付けられている。弁本体10の上側には、ホルダ72が設けられる。本実施形態に係る電動弁1では、弁本体10とホルダ72とは、同じ部材を用いて一体的に作製されている。なお、本開示では、これに限定されず、弁本体とホルダとは、互いに異なる部材を用いて別々に作製された上で、溶接等によって一体化されてもよい。
【0048】
ホルダ72は、筒状部材である。ホルダ72の外径は、弁本体10の外径より小さいと共に、弁本体10の外縁は、ホルダ72の外縁より径方向における外側に位置する。弁本体10とホルダ72との境界高さには、弁本体10の肩部が形成される。
【0049】
(受け部材)
弁本体10の肩部の上面には、リング状の受け部材20の下面が溶着される。受け部材20の外側の部分は、弁本体10の外縁より外側に位置する。
【0050】
ホルダ72の内側に軸受73が嵌合された状態で、ホルダ72と軸受73とは、圧入やカシメ等により一体化される。ホルダ72の上側にはギアケース61が、嵌合状態で取り付けられる。ねじ軸71の上部には突起部71Aが設けられる。突起部71Aは、減速機構60の出力軸70の第二穴70Bに差し込まれる。ねじ軸71の下部の凹部71Bには、ボール74が固着される。ねじ軸71の回転は、図1中の中心軸Xと平行であるねじ軸方向に沿った移動に変換されると共に、ボール74を介して弁棒75側へ伝達される。
【0051】
(ねじ機構部)
電動弁1のねじ機構部は、送りねじ機構を用いて、減速機構60の出力軸70の回転を、弁体76を弁座17に対し接離させる直線運動に変換して弁棒75に伝達する。本実施形態のねじ機構部は、ねじ軸71を含む。ねじ軸71は、筒状の軸受73の内面に形成されたねじに螺合する。ねじ機構部では、ねじ軸71が駆動される。
【0052】
なお、軸受は、同じ部材を用いてホルダと一体的に形成されてもよく、軸受とホルダとが一体的に形成される場合は、出力ギア66(出力軸70)は、ホルダ72に直接的に支持される。
【0053】
(弁本体部)
本実施形態の弁本体部は、ねじ軸71、ボール74、ボール受け部材74A、弁棒75及び弁体76を含む。なお、弁本体部には、弁本体10、弁室12及びオリフィス14が含まれてもよい。
【0054】
電動弁1の弁本体部においては、ねじ軸71の移動量は、ボール74及びボール受け部材74Aを介して弁棒75へ伝達され、結果、弁棒75の先端に取り付けられた弁体76が、図1中の上下方向(中心軸X方向)に沿って直線的に移動する。このため、弁体76とオリフィス14との間の流路面積は制御され、結果、冷媒の流量が調節される。また、ばね受け部材26が、弁棒75と弁本体10とに渡って装着されている。ばね受け部材26は、後述するが、弁体76を上方に付勢する圧縮コイルばね24の下端部を支持する機能と、弁体76が上下動する際の摺動ガイドとしての機能を有する。
【0055】
(弁本体)
弁本体10の内側には弁室12が形成されると共に、弁室12を形成する壁面の一部として弁座17が形成される。弁本体10には、弁室12に通じるオリフィス14が形成される。また、弁本体10には、弁室12に通じる配管18Aと、オリフィス14に通じる配管18Bとが、気密もしくは液密に取り付けられている。
【0056】
(弁棒)
弁室12の内側には、弁体76が配置される。弁体76は、弁座17に対して接離して弁座17に形成される開口を開閉する。すなわち、弁体76は、弁座17の開口を開閉可能である。弁体76を移動させるため、ねじ機構部のねじ軸71に連係される弁棒75が、弁体76に連結される。
【0057】
(ばね受け部材)
ばね受け部材26は、筒状である。図1に示すように、ばね受け部材26は、小径部26Aと、小径部26Aの上側に位置し小径部26Aより拡径された大径部26Bと、大径部26Bの上端の縁部から水平方向に延びる鍔状部26Cと、を有する。小径部26Aと大径部26Bとの境界には、段差部26Dが形成される。
【0058】
小径部26Aは、弁室12の内側に配置される。大径部26Bの外側面は、弁本体10の内面と接触する。鍔状部26Cの図1中の下面は、弁本体10の内側で、弁本体10とホルダ72との境界の段差に接触する。図1中の鍔状部26Cの上面は、軸受73の下面に接触する。鍔状部26Cは、軸受73と弁本体10とに挟まれることによって、弁本体10の内側での位置が固定される。ばね受け部材26の内側には、弁棒75が摺動自在に差し込まれる。
【0059】
図1に示すように、弁棒75の側面の下部は、小径部26Aの内面に接触する。図1中の弁棒75の側面の上部と大径部26Bの内側面との間には、圧縮コイルばね24が配置されている。図1中の圧縮コイルばね24の下側の巻端は、小径部26Aと、大径部26Bとの境界の段差部26Dの上面に接触する。図1中の圧縮コイルばね24の上側の巻端は、弁棒75の上部に設けられた鍔状のばね受け部75Aに接触する。
【0060】
弁棒75の上端部には、ボール74のボール受け部材74Aが、挿入された状態で固定される。図1に示すように、ボール74の上部には、ねじ軸71が当接する。ボール74は、ねじ機構部により軸方向の推力を弁棒75側へ伝達する。
【0061】
図1中には、減速機構60からの出力回転によって弁棒75が下降すると共に弁体76が最下点に到達することによって、電動弁1が閉弁された状態が例示されている。一方、図1中に例示された状態から出力回転が逆転すると、圧縮コイルばね24の付勢力によって弁棒75が上昇し、結果、電動弁1が開弁される。
【0062】
(不思議遊星歯車式減速機構)
次に、本実施形態に係る減速機構60を図2図7を参照しつつ、より具体的に説明する。本実施形態に係る減速機構60は、不思議遊星歯車式減速機構である。なお、本開示では、減速機構は、不思議遊星歯車式減速機構に限定されず、他の遊星歯車式減速機構(遊星歯車式減速装置)であってもよい。
【0063】
図2に示すように、本実施形態では、減速機構60は、軸方向に沿って上側の入力領域R1と下側の出力領域R2とに分画できる。入力領域R1には、太陽ギア56と、第一遊星ギア65A,第二遊星ギア65B,第三遊星ギア65Cのそれぞれの第一歯T1と、固定ギア62とが配置される。出力領域R2には、第一遊星ギア65A,第二遊星ギア65B,第三遊星ギア65Cのそれぞれの第二歯T2と出力ギア66とが配置される。
【0064】
入力領域R1では、電動モータとしてのモータ励磁装置2からの入力回転が、第一遊星ギア65A,第二遊星ギア65B,第三遊星ギア65Cのそれぞれの第一歯T1に噛み合う太陽ギア56に入力される。また、出力領域R2では、出力回転が、第一遊星ギア65A,第二遊星ギア65B,第三遊星ギア65Cのそれぞれの第二歯T2に噛み合う出力ギア66から出力軸70に出力される。
【0065】
(固定ギア)
固定ギア62は、例えば樹脂を成型加工して作られたリング状である。例えば、固定ギア62の外周部にはフランジ(不図示)が形成されると共に、ギアケース61の上部に固定されるための凹部(不図示)及び凸部(不図示)が、周方向に交互に形成されてもよい。図2に示すように、固定ギア62の内周側には、リングギア62Aが形成される。
【0066】
固定ギア62は、出力ギア66の歯数と異なる歯数を有する。本実施形態の固定ギア62の歯底円径は、例えば直径15mm以下である。なお、本開示では、固定ギア62の歯底円径はこれに限定されず、任意に設定できる。
【0067】
(太陽ギア)
図2に示すように、太陽ギア56は、固定ギア62と同心に配置される。太陽ギア56には、入力回転が入力される。太陽ギア56は、第一遊星ギア65A,第二遊星ギア65B,第三遊星ギア65Cのそれぞれの第一歯T1にのみ噛み合う。なお、図2中では見易さのため、図1中に例示されたキャリア64の図示は省略されている。
【0068】
(キャリア)
図6に示すように、キャリア64は、例えばプラスチックを成型加工して形成されると共に、中心部にシャフト42が貫通する孔64Aをそれぞれ有する一対の円盤を備える。円盤の上面の周縁部には上方に向けて延びる3本のマスト64Bと3つの隔壁64Cとが、周方向において交互に配置されている。キャリア64は、減速機構60を構成する。3つの第一遊星ギア65A,第二遊星ギア65B,第三遊星ギア65Cは、キャリア64に回転自在に支持される。
【0069】
(出力ギア)
図2に示すように、出力ギア66は、底部66Aと、底部66Aの周縁から立ち上がる壁部66Bとを有する、有底の円筒状部材である。底部66Aの中心には出力軸70の円柱部70Cが圧入される孔66Cが形成される。出力ギア66の内周に出力側内歯車66Dが形成されることによって、出力ギア66は、リングギアを構成する。出力ギア66は、出力領域R2に設けられると共に、第二歯T2と噛み合う。
【0070】
(遊星ギア)
図2に示すように、第一遊星ギア65A,第二遊星ギア65B,第三遊星ギア65Cは、入力領域R1に位置するように設けられた複数の第一歯T1と、複数の第一歯T1のそれぞれと対応して出力領域R2に位置するように設けられた複数の第二歯T2と、を備える。
【0071】
図3に示すように、複数の第一歯T1はそれぞれ、平面視で、第一中心線A1を中心に左右対称である。図6に示すように、第一中心線A1は、第一遊星ギア65A,第二遊星ギア65B,第三遊星ギア65Cのそれぞれの自転の中心軸Vと、第一歯T1の第一ピッチ円C1上で周方向における中心とを通って径方向に沿って延びる仮想線である。
【0072】
また、図4に示すように、複数の第二歯T2はそれぞれ、平面視で、第二中心線A2を中心に左右対称である。図6に示すように、第二中心線A2は、第一遊星ギア65A,第二遊星ギア65B,第三遊星ギア65Cのそれぞれの自転の中心軸Vと、第二歯T2の第二ピッチ円C2上で周方向における中心とを通って径方向に沿って延びる仮想線である。
【0073】
図5に示すように、第一遊星ギア65A,第二遊星ギア65B,第三遊星ギア65Cは、筒状部材である。第一遊星ギア65A,第二遊星ギア65B,第三遊星ギア65Cの中心部には、キャリア64のマスト64Bに回転自在に嵌合される孔65Hが形成される。第一遊星ギア65A,第二遊星ギア65B,第三遊星ギア65Cの外周部には、ギア部として第一歯T1と第二歯T2とが設けられる。
【0074】
図6に示すように、それぞれのマスト64Bに第一遊星ギア65A,第二遊星ギア65B,第三遊星ギア65Cが嵌合されたキャリア64の上面には、下面側のプレート64Dと同様にプレートの孔64Aを有する一枚のワッシャ状のプレートが被せられる。また、マスト64Bと隔壁64Cの頂部の凸部がプレートの孔に圧入されることによって、第一遊星ギア65A,第二遊星ギア65B,第三遊星ギア65Cが、キャリア64に回転自在に固定される。
【0075】
本実施形態では、第一歯T1と第二歯T2とは、単一の遊星ギアの中で、例えば金属製の同じ素材を用いて一体成形される。なお、本開示では、第一歯T1と第二歯T2とは、別々に作製された上で互いに一体化されることによって単一の遊星ギアが構成されてもよい。
【0076】
図5及び図6に示すように、本実施形態では、3個の第一遊星ギア65A,第二遊星ギア65B,第三遊星ギア65Cにおいて、第一歯T1の第一ピッチ円C1の直径と第二歯T2の第二ピッチ円C2の直径とは同じである。また、第一歯T1の歯数と第二歯T2の歯数とは同じである。このため、第一遊星ギア65Aのピッチ幅Pと、第二遊星ギア65Bのピッチ幅Pと、第三遊星ギア65Cのピッチ幅Pとは、同じである。
【0077】
しかし、本実施形態では、第一遊星ギア65A,第二遊星ギア65B,第三遊星ギア65Cのそれぞれの1つの遊星ギアにおける第一中心線A1と第二中心線A2との間には、位相差が形成される。すなわち、第一歯T1と第二歯T2との間には、予め設定された位相差が形成される。また、周方向において隣接する第一遊星ギア65A,第二遊星ギア65B,第三遊星ギア65Cのうち、一方の遊星ギアの位相差と他方の遊星ギアの位相差との間の差は、(1/3)・(第二歯T2のピッチ幅P)である。
【0078】
具体的には、第一遊星ギア65Aには、位相差が0(ゼロ)である。また、第二遊星ギア65Bには、第一位相差D1が形成されると共に、第三遊星ギア65Cには、第二位相差D2が形成される。第一位相差D1は、(1/3)・(第二歯T2のピッチ幅P)である。また、第二位相差D2は、(2/3)・(第二歯T2のピッチ幅P)である。
【0079】
換言すると、第二遊星ギア65Bと第三遊星ギア65Cとでは、1つの遊星ギアの中で、歯先の向きが互いに異なる部分が図5中の上下方向において2段に分けて設けられる。また、本開示における、周方向において隣接する遊星ギアのうち一方の遊星ギアの位相差と他方の遊星ギアの位相差との間の差は、周方向において隣接する2つの遊星ギアのそれぞれの位相差のうち、位相差が相手方より大きい値から相手方より小さい値を減じたときの値を意味する。
【0080】
なお、遊星ギアの個数nについて、本実施形態では、n=3の場合が例示的に説明されたが、本開示では、nの値はこれに限定されない。nの値が2以上の任意の自然数である場合でも、本開示を適用できる。n個の遊星ギアでは、周方向において隣接する第一遊星ギア65A,第二遊星ギア65B,第三遊星ギア65Cの間におけるそれぞれの差は、(1/n)・(第二歯T2のピッチ幅P)に設定される。
【0081】
また、位相差について、本実施形態では、第一遊星ギア65Aの位相差が0(ゼロ)、第二遊星ギア65Bの第一位相差D1が(1/3)・(第二歯T2のピッチ幅P)、及び第三遊星ギア65Cの第二位相差D2が(2/3)・(第二歯T2のピッチ幅P)に、それぞれ設定された場合が例示された。しかし、本開示では、位相差の設定はこれに限定されず、適宜変更できる。
【0082】
例えば、遊星ギアの個数が3つである場合、第一遊星ギア65Aの位相差が(1/6)・(第二歯T2のピッチ幅P)、第二遊星ギア65Bの位相差が(3/6)・(第二歯T2のピッチ幅P)、及び第三遊星ギア65Cの位相差が(5/6)・(第二歯T2のピッチ幅P)にそれぞれ設定されてもよい。周方向において隣接する第一遊星ギア65A,第二遊星ギア65B,第三遊星ギア65Cの間におけるそれぞれの差は、(1/3)・(第二歯T2のピッチ幅P)である。
【0083】
(作用効果)
本実施形態に係る電動弁1では、3個の第一遊星ギア65A,第二遊星ギア65B,第三遊星ギア65Cにおいて、第一歯T1の第一ピッチ円C1の直径と第二歯T2の第二ピッチ円C2の直径とは、同じである。また、第一歯T1の歯数と第二歯T2の歯数とは同じである。また、第二遊星ギア65Bと第三遊星ギア65Cとのそれぞれの1つの遊星ギアにおける第一歯T1と第二歯T2との間には予め設定された位相差が形成される。また、周方向において隣接する第一遊星ギア65A,第二遊星ギア65B,第三遊星ギア65Cのうち一方の遊星ギアの位相差と他方の遊星ギアの位相差との間の差は、(1/n)・(第二歯T2のピッチ幅P)である。
【0084】
ここで、固定ギア62の歯数と出力ギア66の歯数との間の歯数差が1つである場合、第二歯T2の噛み合い位置で、第二歯T2の第二中心線A2と出力ギア66の溝の中心線との間の位相差は、第一遊星ギア65A,第二遊星ギア65B,第三遊星ギア65Cが周方向に沿って配置された順に従って、(1/3)・(出力ギアのピッチ幅)ずつ大きくなる。
【0085】
本実施形態では、3個の第一遊星ギア65A,第二遊星ギア65B,第三遊星ギア65Cにおける、第一遊星ギア65A,第二遊星ギア65B,第三遊星ギア65Cのそれぞれの第二歯T2の第二中心線A2と出力ギア66の溝の中心線との位相差の和は、出力ギア66のピッチ幅1つ分の距離に対応するように予め形成される。このため、第一歯T1と噛み合う固定ギア62の歯数と第二歯T2と噛み合う出力ギア66の歯数との間の歯数差の最小値を、1つに設定可能になる。このため、歯数差をn個より小さくすることができ、結果、遊星歯車式減速機構の減速比を増大できる。また、同様に、本実施形態に係る電動弁1の減速比を増大できる。
【0086】
なお、上記の式(1)又は式(2)から分かるように、固定ギア62の歯数と出力ギア66の歯数との間の歯数差を小さくする手段とは別に、固定ギア62と出力ギア66とのうち一方の歯数を増やす手段によって、減速比を増大させる技術も考えられる。ここで、比較的小型の電動弁の場合、固定ギア62と出力ギア66との外形の寸法は制限される場合が多い。このため、歯数を増やそうとすると、1つ当りの歯の寸法の小型化が必要になる。
【0087】
しかし、1つ当りの歯の寸法を小型化すると、歯の耐久性を確保することが難しくなる。本実施形態では、減速比を増大できることに加え、固定ギア62と出力ギア66との歯数を増やすことなく電動弁の小型化を図ることができる点で有利である。
【0088】
また、本実施形態では、遊星歯車式減速機構の中でも特に、固定ギア62と太陽ギア56とを備える不思議遊星歯車式減速機構を実現できる。
【0089】
また、本実施形態では、固定ギア62の歯底円径が直径15mm以下である小型の電動弁1の設計の自由度を特に向上できる。
【0090】
また、本実施形態では、電動弁1の中でも、弁本体とキャンとの間の空間にロータ組立体と遊星歯車式減速機構とが配置される電動弁1の設計の自由度を特に向上できる。
<その他の実施形態>
【0091】
本開示は上記の開示された実施の形態によって説明したが、この開示の一部をなす論述及び図面は、本開示を限定するものであると理解すべきではない。本開示は、上記に記載していない様々な実施の形態等を含むと共に、本開示の技術的範囲は、上記の説明から妥当な特許請求の範囲の発明特定事項によってのみ定められるものである。
【符号の説明】
【0092】
1 電動弁
2 モータ励磁装置(電動モータ)
3 コイル
4 電気回路
5 取付具
10 弁本体
12 弁室
14 オリフィス
17 弁座
18A,18B 配管
20 受け部材
24 圧縮コイルばね
26 ばね受け部材
26A 小径部
26B 大径部
26C 鍔状部
26D 段差部
30 キャン
40 軸受
41 孔
42 シャフト
50 ロータ組立体
54 太陽ギア部材
56 太陽ギア
58 貫通孔
60 遊星歯車式減速機構
61 ギアケース
62 固定ギア
62A リングギア
64 キャリア
64A 孔
64B マスト
64C 隔壁
64D プレート
65A 第一遊星ギア
65B 第二遊星ギア
65C 第三遊星ギア
65H 孔
66 出力ギア
66A 底部
66B 壁部
66C 孔
66D 出力側内歯車
70 出力軸
70A 第一穴
70B 第二穴
70C 円柱部
71 ねじ軸
71A 突起部
71B 凹部
72 ホルダ
73 軸受
74 ボール
74A ボール受け部材
75 弁棒
75A ばね受け部
76 弁体
A1 第一中心線
A2 第二中心線
C1 第一ピッチ円
C2 第二ピッチ円
D1 第一位相差
D2 第二位相差
P ピッチ幅
R1 入力領域
R2 出力領域
T1 第一歯
T2 第二歯
V 遊星ギアの中心軸
X 中心軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6