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  • 特開-自転車のチェーン駆動機構 図1
  • 特開-自転車のチェーン駆動機構 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025017274
(43)【公開日】2025-02-05
(54)【発明の名称】自転車のチェーン駆動機構
(51)【国際特許分類】
   B62M 9/00 20060101AFI20250129BHJP
   B62M 9/04 20060101ALI20250129BHJP
【FI】
B62M9/00 B
B62M9/04 A
B62M9/00 D
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023120329
(22)【出願日】2023-07-24
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-08-28
(71)【出願人】
【識別番号】396006860
【氏名又は名称】柿見 富雄
(74)【代理人】
【識別番号】100191189
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 哲平
(72)【発明者】
【氏名】柿見 富雄
(57)【要約】      (修正有)
【課題】クランク軸の回転方向が正逆いずれの場合でも、後輪に駆動力を伝達することが可能な自転車のチェーン駆動機構において、公知の外装変速機の使用を選択可能とする。
【解決手段】自転車のクランク軸12と同軸回転し、クランク軸12に作用するトルクを正転方向にのみ伝達する主フリーホイール14、主フリーホイール14と同軸上に並設され、クランク軸12に作用するトルクを逆転方向にのみ伝達する副フリーホイール16、副フリーホイール16の周囲に回転可能に設けられたアイドラー18、自転車の後輪と同軸回転するスプロケット20、クランク軸20の回転方向にかかわらず、主フリーホイール14が副フリーホイール16に対して常に逆向きに相対回転し、スプロケット20が常に正転方向へ回転するように、主フリーホイール14、アイドラー18、副フリーホイール16およびスプロケット20の各々に掛けられたチェーン26を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自転車のクランク軸と同軸回転し、当該クランク軸に作用するトルクを正転方向にのみ伝達する主フリーホイールと、
前記主フリーホイールと同軸上に並設され、前記クランク軸に作用するトルクを逆転方向にのみ伝達する副フリーホイールと、
前記副フリーホイールの周囲に回転可能に設けられたアイドラーと、
前記自転車の後輪と同軸回転するスプロケットと、
前記クランク軸の回転方向にかかわらず、前記主フリーホイールが前記副フリーホイールに対して常に逆向きに相対回転し、前記スプロケットが常に正転方向へ回転するように、前記主フリーホイール、前記アイドラー、前記副フリーホイールおよび前記スプロケットの各々に掛けられたチェーンと、
を備えることを特徴とする、自転車のチェーン駆動機構。
【請求項2】
前記スプロケットの下方にそれぞれ回転可能に設けられたテンションプーリとガイドプーリとを含むリアディレーラを備え、
前記テンションプーリおよび前記ガイドプーリを経由して前記スプロケットに前記チェーンが掛けられている、請求項1に記載の自転車のチェーン駆動機構。
【請求項3】
前記スプロケットは、同軸上に並設された歯数が異なる複数枚のギヤを含み、
前記複数枚のギヤのうちの一つに前記チェーンが掛けられている、請求項2に記載の自転車のチェーン駆動機構。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自転車の駆動機構に関し、特に、チェーンを介して後輪に駆動力を伝達する自転車のチェーン駆動機構に関する。
【背景技術】
【0002】
広く一般に普及している自転車の駆動装置は、クランク機構とチェーン・スプロケット機構を組み合わせた構成のものがほとんどである。この種の駆動装置では、左右のクランクの回転に伴って周回するチェーンを介して後輪に駆動力が伝達される。
【0003】
一般的な自転車は、後輪にフリーホイールが組み込まれており、左右のクランクが正転するときのみ、後輪の車輪軸にトルクが伝達されるように構成されている。一方、特許文献1には、クランクが正転するときは勿論、逆転するときにも、後輪に駆動力が伝達される自転車のチェーン駆動機構が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実全昭56-136877号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された自転車のチェーン駆動機構では、後輪のハブに2個のフリーホイールが設けられている。フリーホイールの下方にはアイドラーが設けられており、このアイドラーを経由して、それぞれのフリーホイールの上側のギヤ部分にチェーンが掛けられている。これにより、クランクの回転に伴ってチェーンが正逆いずれの方向へ周回しても後輪が正転する方向にトルクが作用するようになっている。
【0006】
上記構成からなる自転車のチェーン駆動機構によれば、クランクを正逆どちらの方向へ回転させても自転車を前進させることができるので、上り坂の走行が楽になったり、始動時にペダルの踏み出し位置を気にする必要がなくなったりするなど種々の利点が得られる。ところが、上記構成で変速を行う場合、2個のフリーホイールそれぞれの上側のギヤ部分にチェーンを掛け変える必要があるため、広く一般に普及している公知の外装変速機を使用することができない。
【0007】
上記した課題に鑑み、本発明は、クランク軸の回転方向が正逆いずれの場合でも、後輪に駆動力を伝達することが可能な自転車のチェーン駆動機構において、公知の外装変速機の使用を選択可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明に係る自転車のチェーン駆動機構は、自転車のクランク軸と同軸回転し、当該クランク軸に作用するトルクを正転方向にのみ伝達する主フリーホイールと、前記主フリーホイールと同軸上に並設され、前記クランク軸に作用するトルクを逆転方向にのみ伝達する副フリーホイールと、前記副フリーホイールの周囲に回転可能に設けられたアイドラーと、前記自転車の後輪と同軸回転するスプロケットと、前記クランク軸の回転方向にかかわらず、前記主フリーホイールが前記副フリーホイールに対して常に逆向きに相対回転し、前記スプロケットが常に正転方向へ回転するように、前記主フリーホイール、前記アイドラー、前記副フリーホイールおよび前記スプロケットの各々に掛けられたチェーンと、を備えることを特徴とする。
【0009】
さらに、前記スプロケットの下方にそれぞれ回転可能に設けられたテンションプーリとガイドプーリとを含むリアディレーラを備え、前記テンションプーリおよび前記ガイドプーリを経由して前記スプロケットに前記チェーンが掛けられていることを特徴とする。
【0010】
また、前記スプロケットは、同軸上に並設された歯数が異なる複数枚のギヤを含み、前記複数枚のギヤのうちの一つに前記チェーンが掛けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
上記構成を有する自転車のチェーン駆動機構によれば、クランク軸の回転方向にかかわらず、主フリーホイールが副フリーホイールに対して常に逆向きに相対回転し、スプロケットが常に正転方向へ回転するようにチェーンが掛けられているため、クランク軸が正逆いずれの方向へ回転しても、後輪に駆動力を伝達することができる。このとき、チェーンは常に同じ方向へ周回することとなり、後輪周辺の構成自体は広く一般に普及している既存の自転車と同じであるため、公知の外装変速機の使用を選択することが可能となっている。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施形態に係る自転車のチェーン駆動機構の概略構成を示す側面図である。
図2】実施形態に係る自転車のチェーン駆動機構の主要部分を示す拡大側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る自転車のチェーン駆動機構(以下、単に「駆動機構」という。)の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0014】
実施形態に係る駆動機構10は、一般的な自転車の駆動装置に用いられる基本的な構成部品を一部追加・変更し、その部品を取り付ける態様に工夫を凝らしたものである。なお、図1および図2では、駆動機構10の主要部分を概略的に拡大して示しており、一般的な自転車の駆動装置に用いられる基本的な構成部品の図示は省略している。
【0015】
図1に示すように、駆動機構10は、クランク軸12を含む。クランク軸12は、自転車のフレーム(不図示)下部に固定されるボトムブラケット(不図示)の内部にベアリング(不図示)を介して軸支されている。クランク軸12の左右両端部にはクランク(不図示)がそれぞれ固定されている。左右のクランクぞれぞれの先端部にはペダル(不図示)が軸支されている。また、右側のクランクの基端部には主フリーホイール14および副フリーホイール16が並設されている。
【0016】
主フリーホイール14は、クランク軸12と同軸上に取り付けられている。主フリーホイール14とクランク軸12との間には公知のラチェット機構(不図示)が設けられており、トルクを一方向にのみ伝達するように構成されている。本例では、主フリーホイール14がクランク軸12と正転方向(図1では時計方向)へ同軸回転するときのみ、クランク軸12に作用するトルクが伝達されるように構成されている。
【0017】
主フリーホイール14に隣接して、副フリーホイール16が同軸上に並設されている。副フリーホイール16とクランク軸12との間にも公知のラチェット機構(不図示)が設けられており、トルクを一方向にのみ伝達するように構成されている。本例では、副フリーホイール16がクランク軸12と逆転方向(図1では反時計方向)へ同軸回転するときのみ、クランク軸12に作用するトルクが伝達されるように構成されている。
【0018】
このように、本例では、クランク軸12の軸方向中央側(内側)に主フリーホイール14が、軸方向端部側(外側)に副フリーホイール16が配置されている。なお、本例において、副フリーホイール16には主フリーホイール14よりも小径のものが採用されているが、副フリーホイール16は主フリーホイール14と同径であっても構わない。
【0019】
副フリーホイール16の下方には、アイドラー18が設けられている。アイドラー18は、自転車のフレーム(不図示)下部に回転自在に支持されている。アイドラー18は、クランク軸12とほぼ平行な軸回りに回転するように構成されているが、主フリーホイール14と副フリーホイール16の間隔の大きさ等に応じて、クランク軸12に対して回転軸を適当に傾斜させた形態で取り付けるようにしてもよい。
【0020】
主フリーホイール14および副フリーホイール16の後方には、自転車の後輪(不図示)と同軸回転するスプロケット20が設けられている。後輪の車輪軸とスプロケット20との間には、上記した主フリーホイール14および副フリーホイール16と同様に公知のラチェット機構が設けられており、トルクを一方向にのみ伝達するように構成されている。よって、後輪が前進回転する方向と同じ正転方向(図1では時計方向)へスプロケット20が回転するときのみ、後輪の車輪軸にトルクが伝達されるように構成されている。
【0021】
スプロケット20は、いわゆる多段スプロケットであり、図1では図示を省略しているが、同軸上に並設された歯数が異なる複数枚のギヤを含む。これら複数枚のギヤは、後輪側へ近づくにつれて径が大きいギヤが配置されており、すべてのギヤが一体的に同心回転するように構成されている。
【0022】
スプロケット20の下方には、公知の外装変速機を構成するリアディレーラ(不図示)が設けられている。リアディレーラは、シフター(不図示)の操作によって、変速のためにスプロケット20の各ギヤ間で後述するチェーン26を移動させる。リアディレーラは、テンションプーリ22とガイドプーリ24とを含む。テンションプーリ22とガイドプーリ24は、ディレーラ本体にそれぞれ回転可能に支持されている。
【0023】
上記のとおり、駆動機構10は、駆動側(フロント側)に2つのフリーホイール14,16とアイドラー18、従動側(リア側)にスプロケット20、テンションプーリ22およびガイドプーリ24の合計6つの伝動ギヤを有する構成となっている。これら6つの伝動ギヤの各々には、無端状をしたチェーン26が掛けられている。
【0024】
チェーン26は、以下のような態様の取り回しで、6つの伝動ギヤ各々に掛けられている。このチェーン26の取り回しの態様について、図1および図2を参照しながら具体的に説明する。
【0025】
チェーン26は、主フリーホイール14の上側ギヤ部分から前側ギヤ部分に掛けられてアイドラー18の前側ギヤ部分まで掛け渡され、アイドラー18の後側ギヤ部分まで折り返されている。折り返されたチェーン26は、副フリーホイール16の前側ギヤ部分から上側ギヤ部分に掛けられて、テンションプーリ22の下側ギヤ部分へと掛け渡されている。さらに、テンションプーリ22の上側ギヤ部分まで折り返されたチェーン26は、ガイドプーリ24の前側ギヤ部分を経由してスプロケット20(複数枚のギヤのうちの一つ)の後側ギヤ部分から上側ギヤ部分に掛けられて、主フリーホイール14の上側ギヤ部分へと掛け渡されている。
【0026】
このような取り回しで、上記した6つの伝動ギヤ各々に掛けられたチェーン26は、クランク軸12の回転方向にかかわらず、主フリーホイール14が副フリーホイール16に対して常に逆向きに相対回転し、スプロケット20が常に正転方向へ回転するように、常に同じ方向へ周回移動を繰り返すこととなる。このような駆動装置10の動作について、図面を参照しながら具体的に説明する。
【0027】
まずは、クランク軸12が正転方向へ回転する場合の動きを説明する。
【0028】
クランク軸12が正転方向へ回転すると、主フリーホイール14もクランク軸12と同軸回転する。このとき、クランク軸12に作用するトルクが伝達されるので、主フリーホイール14の上側ギヤ部分より後方にあるチェーン26は前方へ引っ張られ、主フリーホイール14の前側ギヤ部分からアイドラー18側へと移動する。このチェーン26の移動に伴い、アイドラー18は正転方向(時計方向)へ従動回転しながらチェーン26を副フリーホイール16の前側ギヤ部分へ案内する。
【0029】
上記したチェーン26の移動に伴い、副フリーホイール16はクランク軸12の回転方向とは反対の逆転方向へ回転することとなるが、この副フリーホイール16の回転にはクランク軸12に作用するトルクが伝達されない。したがって、この場合、副フリーホイール16は、チェーン26をテンションプーリ22へ案内する第2のアイドラーとして機能することとなる。
【0030】
テンションプーリ22、ガイドプーリ24を経由してスプロケット20へと案内されたチェーン26の移動によって、スプロケット20が正転方向へ従動回転し、その結果、後輪の車輪軸にトルクが伝達されることとなる。そして、チェーン26は、スプロケット20を経由して再び主フリーホイール14側へと移動する。このような一連の流れにより、チェーン26が無端軌道で周回移動を繰り返すこととなる。
【0031】
続いて、クランク軸12が逆転方向へ回転する場合の動きを説明する。
【0032】
クランク軸12が逆転方向へ回転すると、主フリーホイール14にはクランク軸12に作用するトルクが伝達されず、副フリーホイール16がクランク軸12と同軸回転する。このとき、クランク軸12に作用するトルクが伝達されるので、副フリーホイール16に掛けられたチェーン26が引っ張られ、テンションプーリ22側へと移動する。そして、テンションプーリ22、ガイドプーリ24を経由してスプロケット20へと案内されたチェーン26の移動によって、スプロケット20が正転方向へ従動回転し、その結果、後輪の車輪軸にトルクが伝達されることとなる。
【0033】
チェーン26は、その後、スプロケット20から主フリーホイール14の上側ギヤ部分、前側ギヤ部分を経由し、アイドラー18側へと移動する。このチェーン26の移動に伴い、主フリーホイール14はクランク軸12の回転方向とは反対の正転方向へ回転することとなるが、この主フリーホイール14の回転にはクランク軸12に作用するトルクが伝達されない。したがって、この場合、主フリーホイール14は、チェーン26をアイドラー18へ案内する第3のアイドラーとして機能することとなる。
【0034】
アイドラー18へ案内されたチェーン26は、再び副フリーホイール16側へと移動する。このような一連の流れにより、チェーン26が無端軌道で周回移動を繰り返すこととなる。
【0035】
このように、実施形態に係る駆動機構10によれば、クランク軸12の回転方向にかかわらず、主フリーホイール14が副フリーホイール12に対して常に逆向きに相対回転し、スプロケット20が常に正転方向へ回転するようにチェーン26が掛けられているため、クランク軸12が正逆いずれの方向へ回転しても、後輪に駆動力を伝達することができる。このとき、チェーン26は常に同じ方向(図1において矢印で示す方向)へ周回移動することとなるので、後輪周辺の構成自体は広く一般に普及している既存の自転車と同じ形態で、公知の外装変速機の使用を選択することが可能となっているのである。
【0036】
以上、本発明に係る自転車のチェーン駆動機構を実施形態に基づいて説明したが、本発明は、上記した形態に限らないことは勿論であり、例えば、以下のように変形した形態で実施しても構わない。
【0037】
<変形例1>
上記実施形態で説明したチェーンの取り回しの態様は一例にすぎず、別の態様であってもよい。例えば、副フリーホイールの周囲に設ける限り、アイドラーの配置や数は設計変更することが可能である。
【0038】
本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で当業者の知識に基づいて種々なる改良、修正、又は変形を加えた態様でも実施できる。また、同一の作用又は効果が生じる範囲内で、何れかの発明特定事項を他の技術に置換した形態で実施しても良い。
【符号の説明】
【0039】
10 自転車のチェーン駆動機構
12 クランク軸
14 主フリーホイール
16 副フリーホイール
18 アイドラー
20 スプロケット
22 テンションプーリ
24 ガイドプーリ
26 チェーン

図1
図2