(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025017310
(43)【公開日】2025-02-05
(54)【発明の名称】肌処理装置
(51)【国際特許分類】
A61F 7/00 20060101AFI20250129BHJP
【FI】
A61F7/00 331Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024085671
(22)【出願日】2024-05-27
(31)【優先権主張番号】P 2023119808
(32)【優先日】2023-07-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000114628
【氏名又は名称】ヤーマン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】前田 一憲
【テーマコード(参考)】
4C099
【Fターム(参考)】
4C099AA02
4C099CA02
4C099JA02
4C099LA21
4C099PA01
4C099TA10
(57)【要約】
【課題】 肌面に接触する接触面の温度を周囲の空気温度よりも20度を超える低温に設定でき、肌処理の施術快適性が向上する肌処理装置を提供する。
【解決手段】 肌面に接触させる接触面2aを含むサファイアガラス2と、サファイアガラス2から熱を吸収するように構成したペルチェ素子3とを備え、ペルチェ素子3の吸熱量をサファイアガラス2の表面積で徐算した値が所定の条件を満たすように構成されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物に接触させる接触面を含む接触部材と、前記接触部材から熱を吸収するように構成した熱吸収手段と、前記熱吸収手段で吸収した熱を放熱するように構成した放熱手段とを備え、前記接触部材は、前記接触面に対向する対向面と、前記接触面の一方の端から前記対向面の一方の端までの表面を構成する側面とをさらに備え、前記接触面、前記対向面、前記側面の実質的合計面積をA平方メートルで表し、前記接触面の実質的高さをLメートルで表し、前記熱吸収手段の吸熱量をQcワットで表すとき、(吸熱量Qc/(伝熱面積A×2.51×0.56))0.8×高さL0.2が、20を超えるように構成した、肌処理装置。
【請求項2】
前記接触部材を含んで構成する本体外郭を備え、前記対向面、前記側面の少なくとも一方は、前記本体外郭と断熱手段を介して保持する構成とした、請求項1に記載の肌処理装置。
【請求項3】
前記断熱手段の熱伝導係数は、前記接触部材の熱伝導係数より小さい、請求項2に記載の肌処理装置。
【請求項4】
前記吸熱量Qcワットを発生するときに供給熱量としてQdワットを要する前記熱吸収手段と、前記放熱手段の一部を構成する複数のフィンと、前記フィンに風を当てる送風手段と、前記本体外郭の一部に構成した排気口とを備え、前記フィンの表面積をAF平方メートル、前記フィンの風を流す実質長さをLFメートル、前記排気口から排気される風速をVメートル/秒で表すとき、(Qc+Qd)/(3.86×√(V/LF)×AF)が、10を超えないように構成した、請求項2に記載の肌処理装置。
【請求項5】
前記送風手段は、吸い込み口と吐出口とを備え、前記吐出口は、前記フィンに対向して配置した、請求項4に記載の肌処理装置。
【請求項6】
前記放熱手段は、前記吐出口から吹き出す風を受ける第1の冷却部と、前記吸い込み口に吸込む風を受ける第2の冷却部とを備えた、請求項5に記載の肌処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、脱毛処理等を行う肌処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の肌処理装置として、被施術者(使用者)の肌面に接触する接触面を空気温度よりも低温に設定するものが提案されている。被施術者(使用者)からレーザ等の照射による痛みを緩和する等を目的としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の肌処理装置に比べて、レーザ等の照射による痛み緩和等を更に促進すべく、肌面に接触する接触面の温度を更に低い温度に設定したいという要請がある。
そこで、本開示は、肌面に接触する接触面の温度を周囲の空気温度よりも20度を超える低温に設定でき、肌処理の施術快適性が向上する肌処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
1つの側面では、以下のような解決手段を提供する。
(1)対象物に接触させる接触面を含む接触部材と、前記接触部材から熱を吸収するように構成した熱吸収手段と、前記熱吸収手段で吸収した熱を放熱するように構成した放熱手段とを備え、前記接触部材は、前記接触面に対向する対向面と、前記接触面の一方の端から前記対向面の一方の端までの表面を構成する側面とをさらに備え、前記接触面、前記対向面、前記側面の実質的合計面積をA平方メートルで表し、前記接触面の実質的高さをLメートルで表し、前記熱吸収手段の吸熱量をQcワットで表すとき、(吸熱量Qc/(伝熱面積A×2.51×0.56))0.8×高さL0.2が、20を超えるように構成したことを特徴とする。
(2)上記(1)の構成において、前記接触部材を含んで構成する本体外郭を備え、前記対向面、前記側面の少なくとも一方は、前記本体外郭と断熱手段を介して保持する構成としたことを特徴とする。
(3)上記(2)の構成において、前記断熱手段の熱伝導係数は、前記接触部材の熱伝導係数より小さいことを特徴とする。
(4)上記(1)の構成において、前記吸熱量Qcワットを発生するときに供給熱量としてQdワットを要する前記熱吸収手段と、前記放熱手段の一部を構成する複数のフィンと、前記フィンに風を当てる送風手段と、前記本体外郭の一部に構成した排気口とを備え、前記フィンの表面積をAF平方メートル、前記フィンの風を流す実質長さをLFメートル、前記排気口から排気される風速をVメートル/秒で表すとき、(Qc+Qd)/(3.86×√(V/LF)×AF)が、10を超えないように構成したことを特徴とする。
(5)上記(4)の構成において、前記送風手段は、吸い込み口と吐出口とを備え、前記吐出口は、前記フィンに対向して配置したことを特徴とする。
(6)上記(5)の構成において、前記放熱手段は、前記吐出口から吹き出す風を受ける第1の冷却部と、前記吸い込み口に吸込む風を受ける第2の冷却部とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本開示によれば、肌面に接触する接触面の温度を周囲の空気温度より20度を超える低温に設定でき、肌処理の施術快適性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図2】(a)は本実施形態の脱毛装置の一部破断斜視図、(b)はサファイアガラス及びペルチェ素子の側面図である。
【
図3】(a)はファンとヒートシンクの分解斜視図、(b)は別角度から見たファンとヒートシンクの分解斜視図である。
【
図6】A機の改善案、懸念点、改善の提案をまとめた図である。
【
図7】A機、B機の各部品、組み合わせのサファイアガラス温度に与える影響度合いの評価結果を示す図である。
【
図8】A機、B機の各部品、組み合わせにおけるサファイアガラス温度の低下値を示す図である。
【
図9】ペルチェ素子の電流値に対する吸熱量の特性線図である。
【
図11】ペルチェ素子の電流値に対する放熱量の特性線図である。
【
図12】A機、B機の放熱側の各部の値を示す図である。
【
図14】B機の吸熱側に各種のサーマルパッドを使用した場合の温度差を示す図である。
【
図15】A機、B機の理論計算の技術、パラメータ設計技術、シミュレーションの技術に関する評価を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、添付図面を参照しながら実施の形態について詳細に説明する。
【0009】
図1~
図3に示すように、肌処理装置である脱毛装置1は、接触部材であるサファイアガラス2と、サファイアガラス2から熱を吸収するように構成した熱吸収手段であるペルチェ素子3と、ペルチェ素子3で吸収した熱を放熱するように構成した放熱手段であるヒートシンク4と、ヒートシンク4に風を送る送風手段であるファン5と、レーザ照射部6と、電源部7と、これら部品を収容(サファイアガラス2の一部を除く)する本体外郭10とを備えている。
【0010】
サファイアガラス2は、熱伝導性が高い材料であり、対象物である肌面に接触させる接触面2aを外部に露出させた状態で本体外郭10に収容されている。サファイアガラス2は、扁平直方体であり、接触面2aと、接触面2aに対向する対向面2bと、接触面2aの一方の端から対向面2bの一方の端までの表面を構成する側面2cとを備えている。接触面2a、対向面2b、側面2cの実質的合計面積をA平方メートルで表し、接触面2aの実質的高さをLメートルで表し、吸熱量をQcワットで表すとき、周囲の空気温度(例えば室温)とサファイアガラス2の表面温度との差をサファイアガラス2の表面温度差ΔTsとすると、サファイアガラス2の表面温度差ΔTsは、次の式で表現される。
【0011】
サファイアガラス2の表面温度差ΔTs=(吸熱量Qc/(伝熱面積A×2.51×0.56))0.8×高さL0.2であり、表面温度差ΔTsが20を超えるように構成されている。冷温の下限値としては、低温やけどを防止できる温度(例えばΔTs=50)に設定されている。
【0012】
サファイアガラス2は、その4側面の全てが共に断熱手段である断熱部材11及び密封空気(図示せず)を介して本体外郭10に保持されている。断熱部材11は、例えば発泡スチロール材である。断熱部材11の熱伝導係数は、サファイアガラス2の熱伝導係数より小さく設定されている。
【0013】
ペルチェ素子3は、吸熱量Qcワットを発生するときに供給熱量としてQdワットを要する。ペルチェ素子3の吸熱側と放熱側の各電極には、サーマルパッド(図示せず)がそれぞれ使用されている。
【0014】
ヒートシンク4は、板金銅材より形成するのが好ましい。板金銅材の熱伝導率は、398(W/mk)であり、アルミ材より熱伝導性が良いため機器を小型化できる。ヒートシンク4は、ファン5の下記する吐出口5bから吹き出す風を受ける第1の冷却部4Aと、下記する吸い込み口5a(
図3に示す)に吸い込む風を受ける第2の冷却部4Bとを備えている。第1の冷却部4Aと第2の冷却部4Bは、それぞれ互いに間隔を置いて配置された多数のフィン4aを備え、第1の冷却部4Aと第2の冷却部4Bの間は、互いの風が流通しないように仕切り板4bで仕切られている。
【0015】
ファン5は、風の吸い込み口5a(
図3に示す)と吐出口5b(
図3に示す)とを備えている。吐出口5bは、第1の冷却部4Aのフィン4aに対向して配置されており、第1の冷却部4Aのフィン4aに風を当てるようにして送風する。より詳しくは、風が複数のフィン4aの隙間空間に向かってスムーズに流れ込む配置になっている。
【0016】
フィン4aの表面積をAF平方メートル、フィン4aの風を流す実質長さをLFメートル、下記する排気口10bから排気される風速をVメートル/秒で表し、ペルチェ素子3に発生させる熱量をQc、Qcを発生させるためにペルチェ素子3に供給する熱量をQdで表し、周囲の空気温度とフィン4aの表面温度との差をヒートシンク4の表面温度差ΔThとすると、ヒートシンク4の表面温度差ΔThは、強制対流の熱伝達率の概算式より次の式で表現される。
【0017】
ヒートシンク4の表面温度差ΔTh=(Qc+Qd)/(3.86×√(V/LF)×AF)であり、ΔThが10を超えないように構成されている。
【0018】
本体外郭10は、直方体形状である。本体外郭10の一方の側面部には、ファン5が空気を吸引する複数の吸気口10aと、ファン5が空気を排気する複数の排気口10bが設けられている。本体外郭10の他方の側面部には、レーザ照射部6や電源部7を通った風が排気する複数の排気口10cが設けられている。
【0019】
レーザ照射部6は、レーザ光源、レーザ光源の出力回路部、レーザ光源を囲む反射板等より構成されている。
【0020】
以上説明したように、肌面に接触させる接触面2aを含むサファイアガラス2と、サファイアガラス2から熱を吸収するように構成したペルチェ素子3と、ペルチェ素子3で吸収した熱を放熱するように構成したヒートシンク4とを備え、周囲の空気温度(例えば室温)とサファイアガラス2の表面温度との差であるサファイアガラス2の表面温度差ΔTsが20度を越えるように構成されている。従って、サファイアガラス2の表面温度が周囲の空気温度(例えば室温)より20度を超える低温になるため、サファイアガラス2に接触した被施術者(使用者)が十分な冷感を感じた状態でレーザ照射の施術を受けることになり、肌処理の施術快適性が向上する。
【0021】
吸熱量Qcワットを発生するときに供給熱量としてQdワットを要するペルチェ素子3と、ヒートシンク4の一部を構成する複数のフィン4aと、フィン4aに風を当てるファン5と、本体外郭10の一部に構成した排気口10bとを備え、フィン4aの表面積をAF平方メートル、フィン4aの風を流す実質長さをLFメートル、排気口10bから排気される風速をVメートル/秒で表すとき、(ヒートシンク表面温度-室温)をヒートシンク4の表面温度差ΔThとすると、ΔTh=(Qc+Qd)/(3.86×√(V/LF)×AF)の式となり、ΔThが10を超えないように構成されている。従って、周囲の空気温度(例えば室温)に対してフィン4aの表面温度が10度未満しか高温にならないため、十分な放熱が実現できる。
【0022】
ヒートシンク4は、ファン5の吐出口5bから吹き出す風を受ける第1の冷却部4Aと、吸い込み口5aに吸い込む風を受ける第2の冷却部4Bと備えている。従って、第2の冷却部4Bは、本体外郭10の吸気口10aからファン5の吸い込み口5aまでの風の通路に配置されるため、ヒートシンク4のフィン4aの放熱面積が拡大し、放熱性能が向上する。又、スペースの有効利用にもなる。
【0023】
サファイアガラス2は、全ての側面2cが断熱手段である断熱部材11及び密封空気(符号を付さず)を介して本体外郭10に保持されている。従って、サファイアガラス2の冷熱が本体外郭10に放熱されるのを極力防止できる。この実施の形態では、サファイアガラス2の全ての側面2cが断熱手段である断熱部材11及び密封空気を介して本体外郭10に保持されているが、サファイアガラス2の対向面2b、側面2cの少なくとも一方が本体外郭10に断熱手段を介して保持されるよう構成すればよい。断熱部材11は、例えば発泡スチロールである。
【0024】
なお、断熱部材は発泡スチロールで説明したが、これに限るものではなく、他の発泡樹脂や発砲ゴムなどでもよい。発砲ゴムを接触部材周囲を囲うように用いることで、断熱に加え気密性も向上させることができ、冷却による内部結露の現象を低減することができる。光源はレーザで説明したが、これに限るものではなく、LEDやIPL光源でもよい。特にIPL光源の場合は瞬間的な発光による痛みを、冷却したサファイアガラスで緩和することができるので、IPLの発生エネルギーを大きくして脱毛などの効果を向上させることができる。
【0025】
さらに、接触部材はサファイアガラスで説明したが、これに限るものではなく、一部の光波長をカットするフィルタを備えてもよい。これにより、所望の光効果を得ることができる。説明ではペルチェ素子による冷却について説明したが、これに限るものではなく、熱の向きを正負逆に接続することにより、接触部材を温める、すなわち空気中の熱を銅板のフィンで回収して、ペルチェ素子に吸熱させ、接触部材に放熱することも可能である。これにより、加熱によって血流を増加させるなどの有効な肌処理をすることができる。
【0026】
次に、上記した実施の形態に係る脱毛装置1を提案するに至った実験や理論について説明する。実験機としては、
図4に示すA機と
図5に示すB機を使用した。結論として、サファイアガラス2の表面温度を室温より20度を超える低温とするには、比較評価、理論計算より次の課題解決の必要があることが判明した。
【0027】
対策案1:ペルチェ素子3への電流を増加し、冷却改善して吸熱量を3.2W以上に増やす。
対策案2:サファイアガラス2の伝熱面積を994mm2に減らす。
対策案3:ヒートシンク内風速を7m/s以上に増やし、熱伝達率を60W/m2Kに増やす。
対策案4:ヒートシンク4の材料見直しでペルチェ素子3の放熱側とフィン4aの温度差を5K以下にする。
対策案5:フィン表面積を23,136mm2に増やす。
対策案6:熱伝導率λが高く、厚みdxが薄いサーマルパッドを選定する。
【0028】
以下、このような結論に至った理由を説明する。
【0029】
A機について対策案を検討するに際し、
図6に示す懸念点と改善の提案を行った。
【0030】
A機、B機において、サファイアガラス2の温度比較について実験、設計パラメータごとの寄与度を分析した。その結果として、
図7に示す評価結果と
図8に示すサファイアガラス表面温度低下ΔTの結果が得られた。
【0031】
つまり、サファイアガラス2の表面温度については、ファン5の配置とサファイアガラス2の寸法が大きく影響し、その他は影響が小さい。従って、影響が大きいパラメータを改善することが最も必要であることが判明した。
【0032】
ペルチェ素子3は、A機の方がサファイアガラス2の表面温度が低くなるが、ペルチェ素子3の発熱が小さいことによる。また、部品組み合わせの影響が大きく、単にペルチェ素子3の電流値を変えるだけでは不十分で、同時にサファイアガラス2の寸法、冷却構成も見直す必要があることが判明した。
【0033】
先ず、吸熱側の改善について説明する。
【0034】
周囲の空気温度(例えば室内温度)とサファイアガラス2の表面温度との差をサファイアガラス2の表面温度差ΔTsで示すと、サファイアガラス2の表面温度差ΔTs=(吸熱量Qc/(伝熱面積A×2.51×係数C))0.8×高さL0.2で示される。よって、B機については、対策案1:ペルチェ素子3への電流を増加し、冷却改善して吸熱量を3.2W以上に増やし、対策案2:サファイアガラス2の伝熱面積を994mm2に減らす対策を取る。
【0035】
B機の吸熱量Qcは、
図9に示すグラフより、ペルチェ素子3の電流値を0.9程度にすれば3.2Wが得られる。
【0036】
B機のサファイアガラス2の伝熱面積Aは、ガラス寸法WHD=30×11×15(mm)とすれば、前後左右4面を合計して0.0009944m2(=994mm2)にできる。上記式での高さL(H)は、11mmである。A機のサファイアガラス2の伝熱面積Aは、ガラス寸法WHD=32×32.6×3(mm)であり、前後左右4面を合計して0.002282m2である。上記式での高さL(H)は、32.6である。
【0037】
係数Cの値は、A機、B機共に
図10より0.56である。
【0038】
【0039】
次に、放熱側の改善について説明する。
【0040】
ファン5の風が有効にヒートシンク4に流れておらず、又、ヒートシンク4の表面積が小さいため、これを改善する必要がある。強制対流の熱伝達率の概算式では、熱伝達率=3.86×√(ヒートシンク内風速V/フィン長さLF)で示される。ふくしゃ熱は無視する。よって、B機では、対策案3:ヒートシンク内風速を7m/s以上に増やし、熱伝達率を60W/m2K(実験結果では、59.5W/m2K)に増やす対策を取る。
【0041】
放熱量Qh=熱伝達率×(ヒートシンク表面温度-室温)×表面積で示される。よって、対策案4:ヒートシンク4の材料見直しでペルチェ素子3の放熱側とフィン4aの温度差を5K以下にし、対策案5:フィン表面積を23,136mm2に増やす対策を取る。
【0042】
ここで、フィン4aの表面積をAF平方メートル、フィン4aの風を流す実質長さをLFメートル、排気口10bから排気される風速をVメートル/秒とし、ペルチェ素子3に発生させる熱量をQc、Qcを発生させるためにペルチェ素子3に供給する熱量をQdで表し、(ヒートシンク表面温度-室温)をヒートシンク4の表面温度差ΔThとすると、ΔTh=(Qc+Qd)/(3.86×√(V/LF)×AF)の式となる。ヒートシンク4の表面温度差ΔThの値を小さく設定できれば、放熱性能が良い構造が得られる。
【0043】
ペルチェ素子3に流す電流値は、0.9であるため、
図11より、B機では放熱量Qhが13.8程度になり、A機では放熱量Qhが6.0程度になる。
【0044】
A機では、ヒートシンク4は、寸法15.3mm×18mmのフィン4aが18枚間隔を置いて配置された構造である。A機では、ファン5単品風速の15%しか利用できていない。ヒートシンク4の表面温度は、B機より高くて冷却不十分であった。
【0045】
B機では、ヒートシンク4は、寸法20.5mm×20.9mmのフィン4aが27枚間隔を置いて配置された構造である。B機では、ファン5単品風速の80%を利用できている。ヒートシンク内風速は、A機の6.4倍、熱伝達率は、A機の2.3倍、フィン表面積は、A機の2.3倍、放熱量は、A機の2.3倍であった。
【0046】
これらより、放熱側では
図12に示す結果が得られた。
【0047】
次に、温度勾配、サーマルパッドの選定について説明する。
【0048】
Q:熱通過量(W)、A:断面積、λ:熱伝導率、dx:パッド厚み(距離)とすると、温度差dt=-(Q/A)×(dx/λ)で示される。熱通過量Qは、
図13より、Q=A・λ・(Th-Tc)/dxである。ただし、Thは表面温度、Tcは通過後の温度とする。
【0049】
従って、対策案6:熱伝導率λは高く、厚みdxが薄いサーマルパッドを選定する。B機の吸熱側に、熱伝導率λ:12W/mk又は6W/mk、パッド厚み:1mm又は2mmのものをそれぞれ使用し、その際の温度差dtを測定した。
図14は、その結果である。
【0050】
図14より、熱伝導率λ、パッド厚みdxの異なるサーマルパッドを使用しても、ペルチェ素子3の吸熱量Qc、放熱量Qhはあまり変わらないので、効果は限定的であることが判明した。
【0051】
以上より、
図15に示すように、A機のデータは理論計算、パラメータ設計、シミュレーション技術の活用に疑問があるが、B機のデータは理論計算、パラメータ設計、シミュレーション技術に活用可能であることが判明した。従って、所望の吸熱性能と放熱性能を確保する構造を開発することによって、肌面に接触する接触面の温度を周囲の空気温度(室温)よりも20度を超える低温にできる肌処理装置が実現可能である結論に至った。
【0052】
以上、実施の形態について詳述したが、特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された範囲内において、種々の変形及び変更が可能である。また、前述した実施形態の構成要素を全部又は複数を組み合わせることも可能である。
【0053】
なお、以上の実施形態に関し、さらに以下の付記を開示する。
(付記1)
(1)対象物に接触させる接触面を含む接触部材と、前記接触部材から熱を吸収するように構成した熱吸収手段と、前記熱吸収手段で吸収した熱を放熱するように構成した放熱手段とを備え、前記接触部材は、前記接触面に対向する対向面と、前記接触面の一方の端から前記対向面の一方の端までの表面を構成する側面とをさらに備え、前記接触面、前記対向面、前記側面の実質的合計面積をA平方メートルで表し、前記接触面の実質的高さをLメートルで表し、前記熱吸収手段の吸熱量をQcワットで表すとき、(吸熱量Qc/(伝熱面積A×2.51×0.56))0.8×高さL0.2が、20を超えるように構成したことを特徴とする。
(2)上記(1)の構成において、前記接触部材を含んで構成する本体外郭を備え、前記対向面、前記側面の少なくとも一方は、前記本体外郭と断熱手段を介して保持する構成としたことを特徴とする。
(3)上記(2)の構成において、前記断熱手段の熱伝導係数は、前記接触部材の熱伝導係数より小さいことを特徴とする。
(4)上記(1)の構成において、前記吸熱量Qcワットを発生するときに供給熱量としてQdワットを要する前記熱吸収手段と、前記放熱手段の一部を構成する複数のフィンと、前記フィンに風を当てる送風手段と、前記本体外郭の一部に構成した排気口とを備え、前記フィンの表面積をAF平方メートル、前記フィンの風を流す実質長さをLFメートル、前記排気口から排気される風速をVメートル/秒で表すとき、(Qc+Qd)/(3.86×√(V/LF)×AF)が、10を超えないように構成したことを特徴とする。
(5)上記(4)の構成において、前記送風手段は、吸い込み口と吐出口とを備え、前記吐出口は、前記フィンに対向して配置したことを特徴とする。
(6)上記(5)の構成において、前記放熱手段は、前記吐出口から吹き出す風を受ける第1の冷却部と、前記吸い込み口に吸込む風を受ける第2の冷却部とを備えたことを特徴とする。
【符号の説明】
【0054】
1 脱毛装置
2 サファイアガラス(接触部材)
2a 接触面
2b 対向面
2c 側面
3 ペルチェ素子(熱吸収手段)
4 ヒートシンク(放熱手段)
4A 第1の冷却部
4B 第2の冷却部
4a フィン
5 ファン(送風手段)
5a 吸い込み口
10 本体外郭
10b 排気口