(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025173697
(43)【公開日】2025-11-28
(54)【発明の名称】薬液を心筋に送達させる手術方法
(51)【国際特許分類】
A61M 25/00 20060101AFI20251120BHJP
A61B 17/34 20060101ALI20251120BHJP
A61M 25/06 20060101ALI20251120BHJP
A61M 25/10 20130101ALI20251120BHJP
A61M 25/098 20060101ALI20251120BHJP
【FI】
A61M25/00 534
A61B17/34
A61M25/06 556
A61M25/10
A61M25/098
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024079378
(22)【出願日】2024-05-15
(71)【出願人】
【識別番号】390030731
【氏名又は名称】朝日インテック株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】517386996
【氏名又は名称】クオリプス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100160691
【弁理士】
【氏名又は名称】田邊 淳也
(74)【代理人】
【識別番号】100157277
【弁理士】
【氏名又は名称】板倉 幸恵
(72)【発明者】
【氏名】澤 芳樹
(72)【発明者】
【氏名】角辻 暁
(72)【発明者】
【氏名】中澤 学
(72)【発明者】
【氏名】二本松 昌明
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 允祥
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 博
(72)【発明者】
【氏名】水上 光太郎
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 光一
(72)【発明者】
【氏名】参鍋 弘子
【テーマコード(参考)】
4C160
4C267
【Fターム(参考)】
4C160FF49
4C160MM33
4C160NN03
4C160NN09
4C160NN13
4C267AA05
4C267AA09
4C267AA28
4C267AA32
4C267BB02
4C267BB08
4C267BB11
4C267BB16
4C267BB28
4C267BB40
4C267BB63
4C267CC19
4C267GG16
4C267HH11
(57)【要約】 (修正有)
【課題】ヒト心臓への薬物送達を可能とするカテーテルを使用した手術方法を提供する。
【解決手段】薬液を心筋細胞に送達させる手術方法は、ルーメン1Lと、ルーメン1Lと外部とを連通する側面開口OPと、側面開口OPの位置を示す放射線不透過性のマーカMと、を有するカテーテル1を、冠動脈と冠静脈との少なくともいずれか一方に挿入し、側面開口の向きが所定の向きになるように、マーカMを見ながらカテーテル1を回転させ、側面開口OPが所定の向きとなった状態において、穿刺針21を側面開口OPから突き出すことで、治療対象部位としての心筋に穿刺針21を突き刺し、治療用の細胞を含む薬液50を、穿刺針21から心筋に注入する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬液を心筋細胞に送達させる手術方法であって、
ルーメンと、前記ルーメンと外部とを連通する側面開口(OP,OPb)と、前記側面開口(OP,OPb)の位置を示す放射線不透過性のマーカ(M,Mb)と、を有するカテーテル(1,1B)を、冠動脈と冠静脈との少なくともいずれか一方に挿入し、
前記側面開口(OP,OPb)の向きが所定の向きになるように、前記マーカ(M,Mb)を見ながら前記カテーテル(1,1B)を回転させ、
前記側面開口(OP,OPb)が前記所定の向きとなった状態において、穿刺針(21)を前記側面開口(OP,OPb)から突き出すことで、治療対象部位としての心筋に前記穿刺針(21)を突き刺し、
治療用の細胞を含む薬液(50,50A)を、前記穿刺針(21)から前記心筋に注入する、手術方法。
【請求項2】
請求項1に記載の手術方法であって、
前記カテーテル(1,1B)は第1カテーテル(1,1B)であって、前記ルーメンは第1ルーメン(1L)であって、
前記穿刺針(21)は、前記第1カテーテル(1,1B)の前記第1ルーメンに挿入された第2カテーテル(2)であって、第2ルーメン(2L)を有する第2カテーテル(2)の先端に設けられている、手術方法。
【請求項3】
請求項2に記載の手術方法であって、
前記第2カテーテル(2)を前記第1カテーテル(1,1B)に挿入する前に、スタイレットワイヤ(3)を前記第2カテーテル(2)の前記第2ルーメンに挿入し、前記スタイレットワイヤ(3)の先端部を前記第2カテーテル(2)の先端から突き出し、
前記スタイレットワイヤ(3)が挿入された前記第2カテーテル(2)を、前記第1カテーテル(1,1B)の前記第1ルーメンに挿入し、前記第1ルーメン内において、前記第2カテーテル(2)の先端を、前記第1カテーテル(1,1B)の前記側面開口(OP,OPb)の付近までデリバリする、手術方法。
【請求項4】
請求項3に記載の手術方法であって、
前記第2カテーテル(2)のデリバリ後、前記スタイレットワイヤ(3)を前記第2カテーテル(2)から抜去する、手術方法。
【請求項5】
請求項4に記載の手術方法であって、
前記スタイレットワイヤ(3)の抜去後、前記第2カテーテル(2)の前記第2ルーメンに緩衝液(60)を充填する、手術方法。
【請求項6】
請求項5に記載の手術方法であって、
前記緩衝液(60)の充填後、前記第2カテーテル(2)の前記第2ルーメンに前記薬液(50,50A)を注入し、前記第2ルーメン内の前記緩衝液(60)を前記薬液(50,50A)で置換する、手術方法。
【請求項7】
請求項2に記載の手術方法であって、
前記第1カテーテル(1,1B)の前記側面開口(OP,OPb)から前記第2カテーテル(2)の先端部を突き出し、
前記心筋に前記第2カテーテル(2)の前記穿刺針(21)を突き刺して、前記薬液(50,50A)を前記心筋に注入する、手術方法。
【請求項8】
請求項1に記載の手術方法であって、
バルーンカテーテル(7)のバルーン(71)の膨張によって、前記カテーテル(1,1B)を血管内壁に押し付けて位置を固定した状態で、前記薬液(50,50A)を前記心筋に注入する、手術方法。
【請求項9】
請求項8に記載の手術方法であって、
前記バルーンカテーテル(7)の前記バルーン(71)を、血管の延伸方向において、前記カテーテル(1,1B)の前記側面開口(OP,OPb)の付近であって前記側面開口(OP,OPb)よりも先端側と、前記カテーテル(1,1B)の前記側面開口(OP,OPb)の付近であって前記側面開口(OP,OPb)よりも基端側と、のいずれかに配置する、手術方法。
【請求項10】
請求項1に記載の手術方法であって、
前記薬液(50,50A)は、単細胞(52)と、細胞塊(53)と、単細胞あるいは細胞塊の集団(54)と、低分子化合物(54-1)との少なくともいずれかを含み、
前記細胞は、単一細胞種と、複数の細胞種との少なくともいずれか一方を含む、手術方法。
【請求項11】
請求項10に記載の手術方法であって、
前記細胞は、多能性幹細胞と、多能性幹細胞由来細胞と、心筋細胞と、間葉系幹細胞とのいずれかである、手術方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ヒト心臓への薬物送達を可能とするカテーテルを使用した手術方法に関する。
【背景技術】
【0002】
心筋梗塞等により機能が低下した心筋細胞を再生させる再生治療方法が知られている。例えば、特許5572138号公報には、心筋細胞を体外でシート状に作製し、その細胞シートを心臓に張り付けることで、心筋細胞の再生を促す治療方法が開示されている。心臓は絶えず拍動しているため、細胞シートを長時間、安定して心臓に張り付けておくのは難しい。そこで、心筋細胞に対して薬液を注入することで、心筋細胞の再生を促す治療方法が期待されている。この治療方法を、以降「薬液注入治療」とも呼ぶ。薬液注入治療では、心筋細胞の再生を促すための薬液を、冠動脈と冠静脈との少なくともいずれか一方から心筋へと注入する。
【0003】
例えば、特開2023-048291号公報には、穿刺針を突出させるためのルーメンを有し、薬液注入治療で使用可能なカテーテルが開示されている。例えば、特開2004-329487号公報には、針状管体と、針状管体に薬液を供給する薬液供給手段とを有する薬液注入装置が開示されている。
【発明の概要】
【0004】
冠動脈あるいは冠静脈内に挿入されたカテーテルから心筋へと穿刺針を穿刺するためには、カテーテルに対して、穿刺針を突出させるための側面開口を設けることが好ましい。この点、特開2023-048291号公報及び特開2004-329487号公報に記載のデバイスには、カテーテルに側面開口が設けられている。薬液注入治療において、術者は、カテーテルの側面開口が心筋のある向きになるよう、カテーテルを回転させて位置合わせを行ったのち、穿刺針による穿刺を行う。特開2023-048291号公報及び特開2004-329487号公報に記載のデバイスでは、このような側面開口と心筋との位置合わせについて、さらに改善の余地があった。
【0005】
本開示は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、側面開口と心筋との位置合わせを容易とし、薬液注入治療の手技の効率を向上させることを目的とする。
【0006】
本開示の一形態によれば、薬液を心筋細胞に送達させる手術方法が提供される。この手術方法では、ルーメンと、前記ルーメンと外部とを連通する側面開口と、前記側面開口の位置を示す放射線不透過性のマーカと、を有するカテーテルを、冠動脈と冠静脈との少なくともいずれか一方に挿入し、前記側面開口の向きが所定の向きになるように、前記マーカを見ながら前記カテーテルを回転させ、前記側面開口が前記所定の向きとなった状態において、穿刺針を前記側面開口から突き出すことで、治療対象部位としての心筋に前記穿刺針を突き刺し、治療用の細胞を含む薬液を、前記穿刺針から前記心筋に注入する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】医療用システムの構成を例示した説明図である。
【
図2】第1カテーテルの第1シャフトの断面構成を例示した説明図である。
【
図3】
図2のA1-A1線における横断面図である。
【
図4】
図2のA2-A2線における横断面図である。
【
図5】-Z軸方向の側から見たマーカの形状を示す。
【
図6】-Y軸方向の側から見たマーカの形状を示す。
【
図7】+Z軸方向の側から見たマーカの形状を示す。
【
図8】第1カテーテル1のマーカ近傍の拡大図である。
【
図9】
図5に示す向きのマーカのX線画像下における像である。
【
図10】
図6に示す向きのマーカのX線画像下における像である。
【
図11】
図7に示す向きのマーカのX線画像下における像である。
【
図12】X線画像下におけるマーカの形状を示した説明図である。
【
図13】区間SEにおける第1シャフトの横断面図である。
【
図14】第2カテーテルの構成を例示した説明図である。
【
図18】第2カテーテルのコネクタの拡大図である。
【
図20】第2シャフトが取り付けられたコネクタの縦断面図である。
【
図22】薬液注入治療が行われる心臓の様子を示す図である。
【
図23】治療対象部位までデリバリされた第1カテーテルの様子を示す図である。
【
図24】心筋に側面開口を向けた第1カテーテルの様子を示す図である。
【
図25】バルーンカテーテルをデリバリする様子を示す図である。
【
図26】第2カテーテルにスタイレットワイヤを挿通させる様子を示す図である。
【
図27】第2カテーテルをデリバリする様子を示す図である。
【
図28】第2カテーテルに緩衝液を注入する様子を示す図である。
【
図29】第2カテーテルに薬液を注入する様子を示す図である。
【
図31】心筋に薬液を注射する様子を示す図である。
【
図32】第2実施形態の薬液について説明する図である。
【
図33】第3実施形態の第1カテーテルにおいて、-Y軸方向の側から見たマーカの形状を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
<第1実施形態>
図1は、医療用システム1000の構成を例示した説明図である。本実施形態の医療用システム1000は、第1カテーテル1と、第2カテーテル2と、スタイレットワイヤ3と、薬液50と、を備えている。医療用システム1000は、薬液注入治療に使用されるシステムである。薬液注入治療とは、治療用の細胞を含む薬液を、冠動脈と冠静脈との少なくともいずれか一方から心筋へと注射することで、心筋細胞の再生を促す治療方法を意味する。薬液注入治療の対象部位を「治療対象部位」とも呼ぶ。
【0009】
図1では、説明の便宜上、各構成部材の大きさの相対比が実際とは異なる部分を含んでいる。
図1では、各構成部材の一部が誇張されている部分を含んでいる。
図1には、相互に直交するXYZ軸を図示する。X軸は、第1カテーテル1、第2カテーテル2、及びスタイレットワイヤ3の各長手方向に対応する。X軸を軸線方向とも呼ぶ。Y軸は、第1カテーテル1、第2カテーテル2、及びスタイレットワイヤ3の各高さ方向に対応する。Z軸は、第1カテーテル1、第2カテーテル2、及びスタイレットワイヤ3の各幅方向に対応する。
図1の左側を各デバイス及び各構成部材の「先端側」と呼び、
図1の右側を各デバイス及び各構成部材の「基端側」と呼ぶ。
図1の左側は、-X軸方向である。
図1の右側は、+X軸方向である。各デバイス、及び各構成部材の長手方向における両端のうち、先端側に位置する一端を「先端」と呼ぶ。各デバイス、及び各構成部材の長手方向における両端のうち、基端側に位置する他端を「基端」と呼ぶ。先端及びその近傍を「先端部」と呼ぶ。基端及びその近傍を「基端部」と呼ぶ。先端側は生体内部へ挿入され、基端側は医師等の術者により操作される。これらの点は、
図2以降においても共通する。本実施形態において、「同じ」及び「等しい」とは概ね同じであることを意味し、製造誤差等に起因したぶれを許容する。本実施形態において、「一定」とは概ね一定であることをも含み、製造誤差等に起因したぶれを許容する。
【0010】
第1カテーテル1は、第2カテーテル2を治療対象部位までデリバリするためのカテーテルである。第1カテーテル1は、デリバリカテーテルとも呼ばれる。
図1に示すように、第1カテーテル1は、先端チップ11と、第1シャフト12と、マーカMと、カテーテルコネクタ19とを備えている。第1カテーテル1は、唯一の第1ルーメン1Lを有するシングルルーメンカテーテルである。第1カテーテル1は、側面開口OPを有している。
【0011】
先端チップ11は、第1シャフト12の先端部に設けられ、他の部材よりも先行して血管内を移動する。先端チップ11は、基端側から先端側に向かって徐々に縮径した外径を有する円筒形状の部材である。先端チップ11の先端には、先端開口1aが形成されている。先端開口1aは、第1カテーテル1に対して、他のデバイスを挿入させるための開口である。他のデバイスとは、例えば、ワークホースワイヤと呼ばれるデリバリ用のガイドワイヤを例示できる。
【0012】
第1シャフト12は、内部に第1ルーメン1Lを有すると共に、長尺状の外側形状を有する管状体である。第1シャフト12は、先端側シャフト12Dと、基端側シャフト12Pと、を備えている。先端側シャフト12Dの側面には、側面開口OPが設けられている。側面開口OPは、第1カテーテル1の先端側シャフト12Dの側面に形成された貫通孔であって、第1ルーメン1Lと外部とを連通する貫通孔である。側面開口OPは、第1カテーテル1から、第2カテーテル2の先端部を突出させるための開口である。-Y軸方向の側から見た側面開口OPの形状は、略矩形状である。側面開口OPの詳細は後述する。-Y軸方向の側から見た側面開口OPの形状は、略矩形状とは異なる形状であってもよい。異なる形状とは、例えば、円形状、正方形状、多角形状とできる。先端側シャフト12Dのうち、側面開口OPの近傍には、放射線不透過性のマーカMが設けられている。マーカMは、X線画像下において、術者が側面開口OPの向きを確認するための目印である。X線画像はアンギオ画像とも呼ばれる。マーカMの詳細は後述する。先端側シャフト12Dの先端部には、先端チップ11が固定されている。基端側シャフト12Pの基端部には、カテーテルコネクタ19が固定されている。
【0013】
カテーテルコネクタ19は、第1シャフト12の基端部に取り付けられ、術者によるデバイスの把持を容易とする。カテーテルコネクタ19は、一対の羽根が設けられた略円筒形状の部材である。カテーテルコネクタ19の基端には、基端開口1bが形成されている。基端開口1bは、第1カテーテル1に対して、第2カテーテル2や、他のデバイスを挿入するための開口である。他のデバイスとしては、例えば、ワークホースワイヤを例示できる。
【0014】
図1において破線で示すように、先端チップ11、第1シャフト12、及びカテーテルコネクタ19には、第1カテーテル1の長手方向に沿って各部の内部を連通した第1ルーメン1Lが形成されている。第1ルーメン1Lは、第2カテーテル2や、他のデバイスが挿入されるルーメンである。第1ルーメン1Lの内径Φ1Lは、第2カテーテル2の第2シャフト22の外径よりも大きい限りにおいて、任意に定めてよい。第1ルーメン1Lの基端は、基端開口1bから外部に連通している。第1ルーメン1Lの先端は、先端開口1aから外部に連通している。第1ルーメン1Lの先端部は、側面開口OPから外部に連通している。
【0015】
先端チップ11は、柔軟性を有する樹脂材料、例えば、ポリウレタンエラストマーにより形成できる。先端チップ11は、放射線不透過性を有する樹脂材料や金属材料により形成してもよい。例えば、放射線不透過性の樹脂材料を用いる場合、先端チップ11は、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコン樹脂、フッ素樹脂等に対して、三酸化ビスマス、タングステン、硫酸バリウム等の放射線不透過材料を混ぜて形成できる。例えば、放射線不透過性の金属材料を用いる場合、先端チップ11は、金、白金、タングステンの少なくともいずれか一つを用いて形成できる。先端チップ11は、金、白金、タングステンの少なくともいずれか一つを含む合金により形成してもよい。第1シャフト12と、カテーテルコネクタ19とは、例えば、ナイロン樹脂、ポリオレフィン、ポリエステル、熱可塑性樹脂、ポリアミドエラストマー、ポリオレフィンエラストマー、ポリウレタンエラストマー、シリコーンゴム、ラテックスゴム等の公知の材料により形成できる。ナイロン樹脂としては、例えば、ポリアミドを例示できる。ポリオレフィンとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体を例示できる。ポリエステルとしては、例えば、ポリエチレンテレフタラートを例示できる。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリ塩化ビニル、エチレン-酢酸ビニル共重合体、架橋型エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリウレタンを例示できる。
【0016】
第2カテーテル2は、心筋に対して薬液を注射するためのカテーテルである。第2カテーテル2は、針カテーテルとも呼ばれる。
図1に示すように、第2カテーテル2は、穿刺針21と、第2シャフト22と、針マーカ24と、コネクタ29とを備えている。第2カテーテル2は、唯一の第2ルーメン2Lを有するシングルルーメンカテーテルである。第2カテーテル2の先端には、穿刺針21が固定されている。
【0017】
穿刺針21は、第2シャフト22の先端に取り付けられた中空の穿刺針である。穿刺針21は、単に「針」とも呼ばれる。穿刺針21は、基端側から先端側に向かって徐々に縮径した外径を有している。穿刺針21の先端部は、体組織への穿刺を容易にするために鋭利な形状を有している。穿刺針21は、特定の一方向に湾曲している。図示の例では、穿刺針21は、-Y軸方向に湾曲している。穿刺針21の内腔は、第2ルーメン2Lの一部を構成している。穿刺針21の先端には、先端開口2aが形成されている。先端開口2aは、第2カテーテル2のデリバリ時においては、スタイレットワイヤ3を突出させるために用いられ、第2カテーテル2による薬液注入時においては、薬液を吐出させるために用いられる開口である。穿刺針21は、第2シャフト22と一体的に構成されてもよい。
【0018】
第2シャフト22は、内部に第2ルーメン2Lを有すると共に、長尺状の外側形状を有する管状体である。第2シャフト22は、先端側シャフト22Dと、先端側シャフト22Dと、を備えている。先端側シャフト22Dの先端には、放射線不透過性の針マーカ24が設けられている。針マーカ24は、X線画像下において、術者が穿刺針21の位置を確認するための目印である。針マーカ24は、先端側シャフト22Dの全周を囲む円環状である。針マーカ24は、円環状とは異なる任意の形状とされてもよく、省略されてもよい。針マーカ24は、放射線不透過性を有する樹脂材料や金属材料により形成できる。先端側シャフト22Dの先端部には、穿刺針21が固定されている。基端側シャフト22Pの基端部には、コネクタ29が固定されている。
【0019】
コネクタ29は、第2シャフト22の基端部に取り付けられ、術者によるデバイスの把持を容易にする。コネクタ29は、術者が、第2ルーメン2L内に緩衝液や薬液を導入する際にも使用される。コネクタ29は、一対の羽根が設けられた略円筒形状の部材である。コネクタ29の詳細は後述する。コネクタ29の基端には、基端開口2bが形成されている。基端開口2bは、第2カテーテル2に対して、スタイレットワイヤ3や、他のデバイスを挿入するための開口である。他のデバイスとしては、例えば、シリンジを例示できる。コネクタ29は、周知の樹脂材料によって形成できる。
【0020】
図1において破線で示すように、穿刺針21、第2シャフト22、及びコネクタ29には、第2カテーテル2の長手方向に沿って各部の内部を連通した第2ルーメン2Lが形成されている。第2ルーメン2Lは、スタイレットワイヤ3が挿入されるためのルーメンである。第2ルーメン2Lは、緩衝液や、薬液が流通するためのルーメンである。第2ルーメン2Lの内径Φ2Lは、スタイレットワイヤ3の外径Φ3よりも大きい限りにおいて、任意に定めてよい。第2ルーメン2Lの先端は、先端開口2aから外部に連通している。第2ルーメン2Lの基端は、基端開口2bから外部に連通している。
【0021】
スタイレットワイヤ3は、医療用システム1000の使用時において、第1カテーテル1と第2カテーテル2とを保護し、かつ、第2カテーテル2に剛性を付与することによって第2カテーテル2のデリバリを容易にするためのワイヤである。スタイレットワイヤ3は、コアワイヤと、コイルとを備えている。
図1では、図示の便宜上、コアワイヤとコイルとの図示を省略している。
【0022】
コアワイヤは、長尺状の外側形状を有する円柱形状の部材である。コアワイヤは、一定の外径を有する構成とされてもよいし、基端側から先端側に向かって縮径した外径を有する構成とされてもよい。コイルは、素線を螺旋状に巻回して構成されている。コイルは、コアワイヤの先端側の一部分を取り囲むように配置され、コアワイヤに固定されている。コイルは、コアワイヤのうち、先端から基端までの全体を取り囲む配置とされてもよい。コイルの外径Φ3を、スタイレットワイヤ3の外径とする。本実施形態のスタイレットワイヤ3の外径Φ3は、第2カテーテル2の穿刺針21のうち最も小さい内径に対して、所定のクリアランス値を差し引いた値である。穿刺針21のうち最も小さい内径とは、穿刺針21の先端の内径である。換言すれば、第2カテーテル2の穿刺針21の先端は、スタイレットワイヤ3の外径Φ3に対して、所定のクリアランス値を付加した内径を有する。
【0023】
コアワイヤは、例えば、ステンレス合金、超弾性合金、ピアノ線、ニッケル-クロム系合金、コバルト合金、タングステンの少なくともいずれか一つを用いて形成できる。ステンレス合金としては、例えば、SUS302、SUS304、SUS316を例示できる。超弾性合金としては、例えば、ニッケルチタンを例示できる。コアワイヤは、上記以外の公知の材料によって形成してもよい。コイルは、例えば、ステンレス合金、超弾性合金、放射線透過性合金、放射線不透過性合金の少なくともいずれか一つを用いて形成できる。ステンレス合金としては、例えば、SUS304、SUS316を例示できる。超弾性合金としては、例えば、ニッケルチタン合金を例示できる。放射線透過性合金としては、例えば、ピアノ線、ニッケル-クロム系合金、コバルト合金を例示できる。放射線不透過性合金としては、例えば、金、白金、タングステン、これらの元素を含む合金を例示できる。コイルは、上記以外の公知の材料によって形成してもよい。
【0024】
図2は、第1カテーテル1の第1シャフト12の断面構成を例示した説明図である。
図2は、第1シャフト12をXY平面で切った縦断面図である。
図3は、
図2のA1-A1線における横断面図である。
図4は、
図2のA2-A2線における横断面図である。
図2~
図4には、第1カテーテル1の中心軸を軸線Oとして示す。軸線Oは、第1シャフト12の中心を通る軸と一致しており、
図5以降においても共通する。第1シャフト12は、内層13と、外層14と、コイル15と、補強体16と、を備えている。以降、第1カテーテル1の構成な詳細について説明する。
【0025】
内層13は、第1カテーテル1の内側に設けられる長尺の管状体である。内層13は、第1ルーメン1Lを画定している。外層14は、内層13の外側に設けられ、内層13の外周を被覆する長尺の管状体である。内層13及び外層14の各々の先端部は先端チップ11と接合されている。内層13及び外層14の各々の後端部は、カテーテルコネクタ19に接合されている。内層13が画定する第1ルーメン1Lには、第2カテーテル2が挿入される。このため、内層13は、滑り性に優れた樹脂材料で形成されることが好ましい。例えば、内層13は、フッ素系の樹脂、ポリエチレン等によって形成できる。フッ素系の樹脂としては、例えば、PTFE、PFA、FEPを例示できる。PTFEは、ポリテトラフルオロチレンとも呼ばれる。PFAは、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体とも呼ばれる。FEPは、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体とも呼ばれる。内層13は、上記以外の公知の材料によって形成されていてもよい。
【0026】
外層14は、例えば、エラストマー系の樹脂で形成できる。エラストマー系の樹脂としては、例えば、PAE、TPU、TPEEを例示できる。PAEは、ポリアミド系熱可塑性エラストマーとも呼ばれる。TPUは、ポリウレタン系熱可塑性エラストマーとも呼ばれる。TPEEは、ポリエステルエラストマーとも呼ばれる。外層14は、上記以外の公知の材料によって形成されていてもよい。
【0027】
基端側シャフト12Pにおいて、コイル15は、外層14に埋設されつつ、内層13を覆っている。コイル15は、複数本の素線を多条に巻回して形成される多条コイルである。補強体16は、素線を含み、コイル15と同様、外層14に埋設されつつ、コイル15を覆っている。補強体16は、素線がメッシュ状に編み込まれた編組体である。補強体16は、金属補強体である。先端側シャフト12Dには、コイル15は備えられていない。先端側シャフト12Dにおいて、補強体16は、外層14に埋設されつつ、内層13を覆っている。すなわち、補強体16は、基端側シャフト12P及び先端側シャフト12Dのいずれの側面の内部にも埋設されている。
【0028】
コイル15は、例えば、ステンレス合金、超弾性合金、ピアノ線、放射線透過性合金、放射線不透過性合金、上記以外の公知の材料によって形成できる。ステンレス合金としては、例えば、SUS304、SUS316等を例示できる。超弾性合金としては、例えば、ニッケルチタン合金を例示できる。放射線透過性合金としては、例えば、ニッケル-クロム系合金、コバルト合金等を例示できる。放射線不透過性合金としては、例えば、金、白金、タングステン、これらの元素を含む合金等を例示できる。コイル15は、1本の素線を単条に巻回して形成される単条コイルであってもよい。コイル15は、複数本の素線を撚り合せた撚線を単条に巻回して形成される単条撚線コイルであってもよい。コイル15は、複数本の素線を撚り合せた撚線を複数用い、各撚線を多条に巻回して形成される多条撚線コイルであってもよい。
【0029】
補強体16を構成する素線は、金属材料で形成できる。金属材料としては、例えば、ステンレス合金、ニッケルチタン合金、放射線不透過性合金を例示できる。補強体16を構成する素線は、これら以外の公知の金属材料で形成されてもよい。ステンレス合金としては、例えば、SUS304等を例示できる。放射線不透過性合金としては、例えば、金、白金、タングステン、これらの元素を含む合金等を例示できる。
【0030】
図5~
図8は、第1カテーテル1のマーカM近傍の拡大図である。
図5は、-Z軸方向の側から見たマーカMの形状を示す。
図6は、-Y軸方向の側から見たマーカMの形状を示す。
図7は、+Z軸方向の側から見たマーカMの形状を示す。
図8は、+Y軸方向の側から見たマーカMの形状を示す。
図5~
図8では、先端側シャフト12Dの側面に設けられたマーカMをドットハッチングで表す。
図5~
図8では、各図に示す各々の視点から本来見えないマーカMの一部分を、二点鎖線で表す。
【0031】
図5及び
図7では、軸線O及び側面開口OPの開口方向と直交する方向から、マーカMを見ている。以降、
図5及び
図7に示す、軸線O及び側面開口OPの開口方向と直交する方向を「第1方向」とも呼ぶ。
図5及び
図7は、第1の方向の側から見たマーカMの形状を表している。「開口方向」とは、開口が向いている方向を意味する。
図5では、第1方向は-Z軸方向であり、開口方向は-Y軸方向である。
図7では、第1方向は+Z軸方向であり、開口方向は-Y軸方向である。第1方向の側から見たマーカMの形状には、
図5に示すように、側面開口OPが下を向いている形状と、
図7に示すように、側面開口OPが上を向いている形状と、が含まれる。前者を、上向きの第1方向、後者を、下向きの第1方向も呼ぶ。
【0032】
図6は、開口方向の側から見た際のマーカMの形状を表す。開口方向とは、-Y軸方向である。
図8は、開口方向の側の反対側から見たマーカMの形状を表す。開口方向の側の反対側とは、+Y軸方向である。
図6及び
図8では、軸線Oと直交しつつ第1方向と異なる方向から、マーカMを見ている。以降、
図6及び
図8に示す方向を「第2方向」とも呼ぶ。
図6及び
図8に例示する第2方向は、第1方向と直交する方向であり、±Y軸方向である。第2方向は、軸線Oと直交しつつ第1方向と異なる方向である限りにおいて、任意の方向とできる。
【0033】
図5~
図8に示すように、マーカMは、第1マーカ部M1と、第2マーカ部M2と、を含んでいる。
図6に示すように、第1マーカ部M1は、先端側シャフト12Dの側面において、側面開口OPの外縁を囲むように設けられている。
図6に示すように、開口方向の側から見た側面開口OPの形状は、四隅が丸みを帯びた略矩形状である。すなわち、開口方向の側から見た側面開口OPの形状は、角を含まない形状である。
【0034】
第2マーカ部M2は、先端側シャフト12Dの長手方向において側面開口OPが設けられている区間SEの側面のうち、第1マーカ部M1が設けられていない残余領域Rに設けられている。区間SEの側面とは、区間SEにおいて軸線Oを覆っている先端側シャフト12Dの側面のことである。本実施形態では、第2マーカ部M2は、残余領域Rにおいて第1シャフト12の周方向に延びている。周方向とは、軸線O周りを回る方向のことである。本実施形態では、第2マーカ部M2は、残余領域Rにおいて軸線Oに直交する平面であるYZ平面に沿いつつ周方向に延びている。周方向に延びている第2マーカ部M2の両端は、第1マーカ部M1に接続されている。
【0035】
図5及び
図7に示すように、第1方向の側からマーカMを見たとき、開口方向に沿った第2マーカ部M2の長さH2は、開口方向に沿った第1マーカ部M1の長さH1よりも長い。
図5及び
図7では、第1方向の側からマーカMを見たときの視点が示されており、開口方向は-Y軸方向である。
図5及び
図7に示すように、第1シャフト12の長手方向に沿った第1マーカ部M1の長さH3は、第1シャフト12の長手方向に沿った第2マーカ部M2の長さH4よりも長い。
【0036】
マーカMは、放射線不透過性を有する樹脂材料や金属材料により形成できる。例えば、樹脂材料を用いる場合、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコン樹脂、フッ素樹脂等に対して、三酸化ビスマス、タングステン、硫酸バリウム等の放射線不透過材料を混ぜて形成できる。例えば、金属材料を用いる場合、放射線不透過材料である金、白金、タングステン、これらの元素を含む合金等で形成できる。その他の周知の材料を用いてもよく、複数の材料を組み合わせた接合構造体としてもよい。
【0037】
図9~
図12は、X線画像下におけるマーカMの形状を示した説明図である。
図9は、
図5に示す向きのマーカMのX線画像下における像である。
図10は、
図6に示す向きのマーカMのX線画像下における像である。
図11は、
図7に示す向きのマーカMのX線画像下における像である。
図12は、
図8に示す向きのマーカMのX線画像下における像である。
【0038】
図9及び
図11においては、第1方向の側から見て、X線画像下における第1マーカ部M1と第2マーカ部M2との位置関係により、側面開口OPが上側もしくは下側を向いていることが明確に判別できる。具体的には、第2マーカ部M2に対して、第1マーカ部M1が画像中の上側と下側とのうちいずれの側に位置しているかによって、側面開口OPの向きを判別できる。X線画像下において、
図9に示す下向きの第1方向からのマーカMの形状と、
図11に示す上向きの第1方向からのマーカMの形状とは、明確に判別できる。
図10及び
図12においては、第2方向の側から見て、X線画像下における第1マーカ部M1と第2マーカ部M2との位置関係により、側面開口OPが画像中の上側もしくは下側を向いていないことや、側面開口OPが画像中の手前側もしくは奥側のいずれかを向いていることが判別できる。具体的には、第1マーカ部M1の内側に第2マーカ部M2が含まれていることによって、側面開口OPの向きを判別できる。X線画像下において、
図9に示す下向きの第1方向からのマーカMの形状と、
図11に示す上向きの第1方向からのマーカMの形状と、
図10及び
図12に示す第2方向からのマーカMの形状と、は異なる。このため、術者は、第1カテーテル1を回転させて、X線画像下におけるマーカMの形状を変化させることによって、側面開口OPが治療対象部位の側を向くように、容易に調整できる。
【0039】
図13は、区間SEにおける第1シャフト12の横断面図である。
図13は、先端側シャフト12DをYZ平面で切った横断面を示す。
図13に示すように、第1カテーテル1は、さらに、被覆層17を備える。被覆層17は、貫通孔である側面開口OPを画定する第1シャフト12の内側面INを覆っている。被覆層17は、第1シャフト12のうち側面開口OPの周囲の内部に埋設されている補強体16が内側面INから突出するのを抑制している。本実施形態では、被覆層17は、マーカMと接続している。具体的には、被覆層17は、第1マーカ部M1と接続している。被覆層17は、例えば、内層13もしくはマーカMと同じ材料で形成されていてもよいし、エポキシ系接着剤、シアノアクリル系接着剤などの任意の接合剤で形成されていてもよい。被覆層17の形成に用いられる接合材としては、第1シャフト12の側面にマーカMが接合される際に用いられた接合材と同様の接合材であることが好ましい。
【0040】
図14は、第2カテーテル2の構成を例示した説明図である。
図15は、
図14のB1-B1線における横断面図である。
図16は、
図14のB2-B2線における横断面図である。
図17は、
図14のB3-B3線における横断面図である。
図14~
図17には、第2カテーテル2の中心線を軸線O2として示す。軸線O2は、第2シャフト22の中心を通る軸と一致している。以降、第2カテーテル2の構成な詳細について説明する。
【0041】
穿刺針21は、第2カテーテル2の最も先端側に位置する部分である。
図14に示すように、穿刺針21の基端側では、穿刺針21の中心は軸線O2と一致している。穿刺針21の先端側には、特定の一方向に湾曲した湾曲形状が付与されている。特定の一方向とは、図示の例では-Y軸方向である。穿刺針21のうち、湾曲した部分を湾曲部とも呼ぶ。穿刺針21は湾曲部を有するため、穿刺針21の先端側では、穿刺針21の中心は軸線O2に対して傾斜している。穿刺針21は、形状記憶性能を有する金属により形成できる。形状記憶性能を有する金属とは、例えば、ニッケルチタン合金、CuZnAl合金等を例示できる。穿刺針21は、穿刺針の先端から、針マーカ24の先端までの区間S21に設けられている。
【0042】
先端側シャフト22Dは、穿刺針21よりも基端側、換言すれば、穿刺針21と基端側シャフト22Pとの間に位置する部分である。
図16に示すように、先端側シャフト22Dは、コイル221と、チューブ222とを有している。
【0043】
チューブ222は、第2カテーテル2の第2ルーメン2Lの液密性を維持する。チューブ222は、長尺状の外側形状を有する管状体である。チューブ222の先端部は、穿刺針21の基端部に接合されている。チューブ222の基端部は、コネクタ29の先端部に接合されている。接合には、金属はんだや、エポキシ系接着剤、シアノアクリル系接着剤などの接着剤を使用できる。チューブ222は、薬品耐性に優れた樹脂、例えば、ポリイミド樹脂により形成できる。
【0044】
コイル221は、第2カテーテル2の第2シャフト22に対して、所定の剛性と柔軟性とを付与する。コイル221は、第2カテーテル2のデリバリ性を向上させるために設けられている。コイル221は、複数本の素線を多条に巻回して形成される多条コイルである。コイル221は、チューブ222の外周面を取り囲むように配置されている。図示の例では、コイル221の内周面と、チューブ222の外周面とは互いに接触している。コイル221の先端部は、チューブ222と、穿刺針21とにそれぞれ接合されている。コイル221の基端部は、コネクタ29の先端部に接合されている。接合には、金属はんだや、エポキシ系接着剤、シアノアクリル系接着剤などの接着剤を使用できる。2種類以上の手段を併用して接合が実施されてもよい。
【0045】
コイル221は、例えば、ステンレス合金、超弾性合金、放射線透過性合金、放射線不透過性合金の少なくともいずれか一つを用いて形成できる。ステンレス合金としては、例えば、SUS304、SUS316を例示できる。超弾性合金としては、例えば、ニッケルチタン合金を例示できる。放射線透過性合金としては、例えば、ピアノ線、ニッケル-クロム系合金、コバルト合金を例示できる。放射線不透過性合金としては、例えば、金、白金、タングステン、これらの元素を含む合金を例示できる。コイル221は、上記以外の公知の材料によって形成してもよい。コイル221は、1本の素線を単条に巻回して形成される単条コイルであってもよい。コイル221は、複数本の素線を撚り合せた撚線を単条に巻回して形成される単条撚線コイルであってもよい。コイル221は、複数本の素線を撚り合せた撚線を複数用い、各撚線を多条に巻回して形成される多条撚線コイルであってもよい。
図14に示すように、先端側シャフト22Dは、針マーカ24の基端から、先端側シャフト22Dと基端側シャフト22Pとの境界までの区間S22である。
【0046】
基端側シャフト22Pは、先端側シャフト22Dよりも基端側、換言すれば、先端側シャフト22Dとコネクタ29との間に位置する部分である。
図17に示すように、基端側シャフト22Pは、シャフト231と、コイル221と、チューブ222とを有している。コイル221は、
図16で説明したコイル221と同じ部材である。チューブ222は、
図16で説明したチューブ222と同じ部材である。
【0047】
シャフト231は、第2カテーテル2の基端側シャフト22Pに対して所定の剛性と、トルク伝達性とを付与する。シャフト231は、第2カテーテル2のデリバリ性を向上させるために設けられている。シャフト231は、長尺状の外側形状を有する管状体である。シャフト231は、コイル221の外周面を取り囲むように配置されている。図示の例では、シャフト231の内周面と、コイル221の外周面とは互いに接触している。シャフト231の先端部は、コイル221の一部分に接合されている。シャフト231の基端部は、コネクタ29に接合されている。接合には、金属はんだや、エポキシ系接着剤、シアノアクリル系接着剤などの接着剤を使用できる。2種類以上の手段を併用して接合が実施されてもよい。
【0048】
シャフト231は、例えば、ステンレス合金、超弾性合金等、公知の材料のいずれかによって形成できる。ステンレス合金としては、SUS302、SUS304、SUS316等を例示できる。超弾性合金としては、ニッケルチタン合金等を例示できる。
図14に示すように、基端側シャフト22Pは、先端側シャフト22Dと基端側シャフト22Pとの境界から、コネクタ29の先端までの区間S23である。本実施形態の第2カテーテル2では、長手方向における先端側シャフト22Dの長さと、基端側シャフト22Pの長さとは、おおむね等しい。
【0049】
図18は、第2カテーテル2のコネクタ29の拡大図である。
図19は、コネクタ29の縦断面図である。
図20は、第2シャフト22が取り付けられたコネクタ29の縦断面図である。
図18~
図20を用いて、第2カテーテル2のコネクタ29の構成について説明する。
図18に示すように、コネクタ29は、第1本体部294と、第2本体部295と、羽根部296と、第1鍔部297と、第2鍔部298とを備えている。
【0050】
第1本体部294は、コネクタ29の最も先端側に配置されている、円筒状の外側形状を有する部分である。
図18に示すように、第1本体部294の中央部分には、羽根部296が設けられている。羽根部296は、+Y軸方向に突出した羽根と、-Y軸方向に突出した羽根とを有する。第2本体部295は、第1本体部294よりも基端側に配置されている、円筒状の外側形状を有する部分である。第1鍔部297は、第2本体部295の先端に配置された突出部である。
図19に示すように、第1鍔部297は、周方向の外側に向かって隆起した円環状の部分である。第2鍔部298は、第2本体部295の基端に配置された突出部である。
図19に示すように、第2鍔部298は、周方向の外側に向かって隆起した円環状の部分である。
図19の例では、第1本体部294、第2本体部295、羽根部296、第1鍔部297、及び第2鍔部298は、一体的に構成されている。第1本体部294、第2本体部295、羽根部296、第1鍔部297、及び第2鍔部298は、それぞれが個別の部材として形成されてもよい。
【0051】
図19に示すように、コネクタ29の内側には、基端側から先端側に向かって、第1貫通孔TH1と、第2貫通孔TH2と、第3貫通孔TH3とが形成されている。第1貫通孔TH1と、第2貫通孔TH2と、第3貫通孔TH3とはそれぞれ繋がっている。換言すれば、第2貫通孔TH2は、第1貫通孔TH1と繋がっている。第3貫通孔TH3は、第2貫通孔TH2と繋がっている。
【0052】
第1貫通孔TH1は、図示の例では、第1鍔部297の基端部から第2鍔部298の基端までの区間である。コネクタ29のうち、第1貫通孔TH1が形成された部分を、基端部293とも呼ぶ。第1貫通孔TH1の内径は、基端側から先端側に向かって僅かに小さくなっている。第1貫通孔TH1の内径は、基端側から先端側に向かって一定でもよい。第1貫通孔TH1には、第1の医療デバイスが挿入される。第1の医療デバイスとしては、後述する第1ワークホースワイヤ5や、シリンジ8を例示できる。
【0053】
第2貫通孔TH2は、図示の例では、第1本体部294の基端部から第1鍔部297の基端部までの区間である。コネクタ29のうち、第2貫通孔TH2が形成された部分を、中間部292とも呼ぶ。中間部292は、第1部位P1と、第2部位P2とを有している。第1部位P1は、第2貫通孔TH2の内周面において、基端側から先端側に向かって、第2貫通孔TH2の内径が徐々に小さくなる部分である。第2部位P2は、第2貫通孔TH2の内周面において、基端側から先端側に向かって、第2貫通孔TH2の内径が徐々に小さくなる部分である。第2部位P2では、第1部位P1よりも緩やかに内径が縮小している。第1部位P1の先端の内径と、第2部位P2の基端の内径とは等しい。このような第1部位P1と第2部位P2とを有することにより、第2貫通孔TH2は、基端側を向いたラッパ形状を有する。図示の例では、コネクタ29の長手方向において、第2部位P2の長さは、第1部位P1の長さよりも長い。
【0054】
第3貫通孔TH3は、図示の例では、第1本体部294の先端から第1本体部294の基端部までの区間である。コネクタ29のうち、第3貫通孔TH3が形成された部分を、先端部291とも呼ぶ。先端部291は、基端側部位Paと、中間部位Pbと、先端側部位Pcとを有している。基端側部位Paは、第3貫通孔TH3の内周面において、略一定の内径を有する部分である。基端側部位Paの基端の内径と、第2部位P2の先端の内径とは等しい。中間部位Pbは、第3貫通孔TH3の内周面において、基端側部位Paよりも大きな略一定の内径を有する部分である。中間部位Pbと基端側部位Paとの間には、段差が形成されている。先端側部位Pcは、第3貫通孔TH3の内周面において、基端側から先端側に向かって、第3貫通孔TH3の内径が徐々に大きくなる部分である。先端側部位Pcの基端の内径と、中間部位Pbの内径とは等しい。図示の例では、コネクタ29の長手方向において、基端側部位Paの長さが最も短く、先端側部位Pcの長さが最も長い。第3貫通孔TH3には、第2の医療デバイスが挿入される。第2の医療デバイスとしては、
図20で説明する第2シャフト22を例示できる。
【0055】
図19に示すように、コネクタ29の長手方向において、中間部292の長さL292は、先端部291の長さL291よりも短く、かつ、基端部293の長さL293よりも短い。基端部293の長さL293は、先端部291の長さL291よりも短い。基端部293の長さL293は、先端部291の長さL291よりも長くてもよい。基端部293の長さL293と、先端部291の長さL291とは、同じであってもよい。
【0056】
図20に示すように、コネクタ29の第3貫通孔TH3には、第2シャフト22の基端部が挿入された状態で、接合剤28によって固定されている。この結果、第1貫通孔TH1と第2貫通孔TH2とは、第2カテーテル2の第2ルーメン2Lの一部を構成する。
【0057】
図21は、薬液50について説明する図である。
図21の例では、薬液50は、溶媒51に対して、単細胞52と、細胞塊53と、オルガノイド54と、低分子化合物54-1とを含んで構成されている。以降の説明において「細胞」とは、多能性幹細胞と、多能性幹細胞由来細胞と、心筋細胞と、間葉系幹細胞とのいずれかを意味する。多能性幹細胞とは、さまざまな細胞に分化する能力のある細胞を意味する。多能性幹細胞としては、例えば、iPS細胞を例示できる。多能性幹細胞由来細胞は、多能性幹細胞から分化した細胞を意味する。多能性幹細胞由来細胞としては、例えば、iPS細胞由来心筋細胞を例示できる。心筋細胞は、心筋を構成する細胞を意味する。間葉系幹細胞は、生体内に存在する幹細胞であり、骨、軟骨、血管、心筋等の細胞に分化できる能力のある細胞を意味する。間葉系幹細胞は、MSCとも呼ばれる。低分子化合物54-1としては、プロスタグランジンI2受容体作動作用とトロンボキサンA2合成酵素阻害活性を合わせ持つONO-1301及びONO-1301の徐放製剤(YS-1402)が挙げられる。
【0058】
単細胞52は、単一の細胞である。細胞は、単一細胞種であってもよく、複数の細胞種であってもよい。単一細胞種とは、単一種類の細胞を意味する。複数の細胞種とは、複数種類の細胞を意味する。単細胞52が単一細胞種であるとは、薬液50中に含まれる複数の単細胞52が、上述の4種類(多能性幹細胞、多能性幹細胞由来細胞、心筋細胞、間葉系幹細胞)のうち、それぞれ同じ種類の細胞であることを意味する。単細胞52が複数の細胞種であるとは、薬液50中に含まれる複数の単細胞52が、上述の4種類のうちのいずれかであって、異なる種類の細胞であることを意味する。
【0059】
細胞塊53は、細胞同士が凝集して塊になったものを意味する。細胞塊はスフェアとも呼ばれる。細胞塊53は、単一細胞種から構成されてもよく、複数の細胞種から構成されてもよい。細胞塊53が単一細胞種であるとは、上述の4種類のうち、同じ種類の細胞が凝集して細胞塊53が形成されていることを意味する。細胞塊53が複数の細胞種であるとは、上述の4種類のうち、2つ以上の異なる種類の細胞が凝集して細胞塊53が形成されていることを意味する。細胞塊53としては、例えば、心筋細胞スフェアを例示できる。
【0060】
オルガノイド54は、ヒトの臓器や組織を模擬した3次元様構造体を意味する。オルガノイド54は、複数種類の単細胞あるいは細胞塊が、相互作用によって自己組織化することで形成された3次元様立体構造を呈する。オルガノイド54は、単細胞あるいは細胞塊の集団とも言える。オルガノイド54としては、例えば、心筋細胞と、間葉系幹細胞とを含む構成でできる。作業者は、例えば、心筋細胞と間葉系幹細胞とを特定の比率で混合する。作業者は、心筋細胞と間葉系幹細胞との混合体を培養して、組織化させることでオルガノイド54を形成できる。
図21の吹き出し内には、オルガノイド54の拡大図を示す。オルガノイド54の外径Φ54は、約50μm以上、かつ、約200μmである。オルガノイド54は、歪な球状を有する場合が多い。このため、オルガノイド54の外径Φ54としては、オルガノイド54の外径が最も大きい部分の外径を採用する。
【0061】
低分子化合物は、繊維芽細胞や血管平滑筋細胞、血管内皮細胞などに作用して、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)、間質細胞由来因子-1(SDF-1)など様々な保護的血管新生因子の発現を促進するものが好ましく、特に化合物ONO-1301やその徐放製剤YS-1402が適している。
【0062】
溶媒51としては、例えば、生理食塩水や、乳酸リンゲル液を用いることができる。薬液50は、単細胞52と、細胞塊53と、オルガノイド54との少なくともいずれかを含めばよい。すなわち、薬液50は、溶媒51に対して単細胞52のみを含んで構成されてもよい。薬液50は、溶媒51に対して細胞塊53のみを含んで構成されてもよい。薬液50は、溶媒51に対してオルガノイド54のみを含んで構成されてもよい。薬液50は、溶媒51に対して低分子化合物54-1のみを含んで構成されてもよい。
【0063】
薬液50には、上述の構成のほかに、他の物質を添加してもよい。他の物質としては、例えば、ヒト血清アルブミンや、放射線不透過性の成分を例示できる。放射線不透過性の成分としては、造影剤を例示できる。薬液50にヒト血清アルブミンを含む構成とすれば、単細胞52、細胞塊53、オルガノイド54、及び低分子化合物54-1が、第2カテーテル2の内壁に付着することを抑制できるため、細胞や低分子化合物のロスを低減できる。薬液50にヒト血清アルブミンを含む構成とすれば、薬液50が第2ルーメン2L内を移動することに伴う細胞のシェアストレスを低減できる。換言すれば、薬液50が第2ルーメン2L内を移動することに伴う、単細胞52、細胞塊53、及びオルガノイド54へのダメージを低減できる。ヒト血清アルブミンは、HSAとも呼ばれる。薬液50に放射線不透過性の成分を含む構成とすれば、薬液注入治療の手技において術者は、X線画像を用いた注入効果の確認をすることが可能となる。薬液50に対するヒト血清アルブミンの添加量は任意に決定できる。薬液50に対する放射線不透過性の成分の添加量は任意に決定できる。薬液50に対する造影剤の添加量は、単細胞52、細胞塊53、オルガノイド54、及び低分子化合物54-1への影響を考慮して決定されることが好ましい。
【0064】
図22は、薬液注入治療が行われる心臓90の様子を示す図である。以降、
図22~
図31を用いて、薬液注入治療の手術方法について説明する。以降の例では、術者が、冠動脈から心筋にアクセスする場合を例示する。術者は、冠動脈ではなく、冠静脈から心筋にアクセスしてもよい。この薬液注入治療は、経皮的冠動脈インターベンションの手技と同時に行われてもよく、単独で行われてもよい。経皮的冠動脈インターベンションは、PCIとも呼ばれる。
【0065】
術者は、患者に局所麻酔を施した後、手首もしくは足の付け根の動脈からガイディングカテーテル4を挿入する。
図22に示すように、術者は、ガイディングカテーテル4の先端を、左冠動脈94の入口部に挿入する。術者は、ガイディングカテーテル4を用いて左冠動脈94へと造影剤を流し込み、X線画像を取得する。術者は、取得されたX線画像を確認して、左冠動脈94に閉塞や狭窄などの問題がないことを確認する。術者は、
図22に示すように、治療対象部位まで第1ワークホースワイヤ5をデリバリする。第1ワークホースワイヤ5は、ガイディングカテーテル4内のルーメンを通って、左冠動脈94内の治療対象部位までデリバリされる。
【0066】
図23は、治療対象部位までデリバリされた第1カテーテル1の様子を示す図である。
図23では、説明の便宜上、第1カテーテル1の内部にあるデバイスについても、実線で図示している。この点は、
図24以降においても同様である。術者は、体外にある第1ワークホースワイヤ5の基端部を、第1カテーテル1の先端開口1aから第1ルーメン1L内に挿入する。術者は、第1ワークホースワイヤ5に沿って、第1カテーテル1を治療対象部位までデリバリする。このとき、
図23に示すように、第1カテーテル1の側面開口OPと心筋96との位置合わせはされていない。このため、第1カテーテル1の側面開口OPは、任意の方向を向いている。
【0067】
図24は、心筋96に側面開口OPを向けた第1カテーテル1の様子を示す図である。術者は、第1カテーテル1のデリバリ後、第1カテーテル1の側面開口OPと心筋96との位置合わせを行う。具体的には、術者は、X線画像下におけるマーカMの像を見ながら、マーカMの形状を頼りにして、側面開口OPが心筋96の側を向くように、第1カテーテル1を回転させる。この結果、
図24に示すように、第1カテーテル1の側面開口OPと心筋96との位置合わせがされる。
【0068】
図25は、バルーンカテーテル7をデリバリする様子を示す図である。術者は、第1ワークホースワイヤ5とは異なる第2ワークホースワイヤ6を、治療対象部位までデリバリする。術者は、第2ワークホースワイヤ6に沿って、バルーンカテーテル7を治療対象部位までデリバリする。バルーンカテーテル7は、バルーン71と、マーカ72とを有している。バルーン71は、流体の供給によって拡張し、流体の排出によって収縮する膜状部材である。マーカ72は、X線画像下においてバルーン71の位置を把握するための放射線不透過性のマーカである。術者は、X線画像下におけるマーカ72の像を見ながら、バルーン71を、第1位置VP1と、第2位置VP2とのいずれかに配置する。第1位置VP1は、左冠動脈94の延伸方向において、第1カテーテル1の側面開口OPの付近であって、側面開口OPよりも先端側の位置である。第2位置VP2は、左冠動脈94の延伸方向において、第1カテーテル1の側面開口OPの付近であって、側面開口OPよりも基端側の位置である。
図25の例では、バルーン71は、第1位置VP1に配置されている。この時点では、術者は、まだバルーン71を膨らませない。術者は、バルーンカテーテル7による穿刺補助が不要と判断した場合や、カテーテルの並走に対して左冠動脈94の内径が足りないと判断した場合、バルーンカテーテル7の配置手順を省略してもよい。
【0069】
図26は、第2カテーテル2にスタイレットワイヤ3を挿通させる様子を示す図である。
図26では、説明の便宜上、第2カテーテル2の内部にあるデバイスについても、実線で図示している。この点は、
図26以降においても同様である。術者は、スタイレットワイヤ3を、第2カテーテル2の基端開口2bから第2ルーメン2L内に挿入し、第2カテーテル2の先端開口1aから引き出す。この結果、
図26に示すように、スタイレットワイヤ3の先端部は、第2カテーテル2の先端から突き出た状態、すなわち穿刺針21の先端から突き出た状態となる。
図26の状態を、スタイレットワイヤ3の挿入状態とも呼ぶ。第2カテーテル2の先端からのスタイレットワイヤ3の突出長さは、任意に定めてよい。このように術者は、第2カテーテル2を第1カテーテル1に挿入する前に、第2カテーテル2にスタイレットワイヤ3を挿入しておく。
【0070】
図27は、第2カテーテル2をデリバリする様子を示す図である。術者は、スタイレットワイヤ3が挿入された第2カテーテル2を、第1カテーテル1の基端開口1bから、第1ルーメン1L内へと挿入する。術者は、第1カテーテル1の第1ルーメン1L内において、第2カテーテル2を押し進めて、第2カテーテル2の先端が第1カテーテル1の側面開口OPの近傍に位置するまで、第2カテーテル2をデリバリする。図示の例では、第2カテーテル2の先端は、側面開口OPの手前に位置している。術者は、第2カテーテル2の先端位置を、X線画像下における穿刺針21の像によって把握できる。
図27に示すように、第2カテーテル2のデリバリ時には、第2カテーテル2の先端から突出したスタイレットワイヤ3が、第2カテーテル2の穿刺針21を持ち上げる。換言すれば、スタイレットワイヤ3と、第1カテーテル1の内周面12iとの間には、スタイレットワイヤ3の剛性に起因した隙間GPが生じる。隙間GPによって、第1カテーテル1の内周面12iに、第2カテーテル2の穿刺針21が接触することが抑制される。これにより、第2カテーテル2をデリバリする際の、第2カテーテル2の損傷や、第1カテーテル1の損傷を抑制できる。
図27に示すように、第2カテーテル2の穿刺針21の湾曲形状は、スタイレットワイヤ3の挿入と、第1カテーテル1の内周面12iによって、緩やかに矯正されている。
【0071】
図28は、第2カテーテル2に緩衝液60を注入する様子を示す図である。
図28の左側には、左冠動脈94内部における第1カテーテル1及び第2カテーテル2の一部分を図示する。
図28の右側には、体外にある第2カテーテル2のコネクタ29を図示する。第2カテーテル2のデリバリ後、術者は、スタイレットワイヤ3を第2カテーテル2から抜去する。具体的には、術者は、対外にあるスタイレットワイヤ3の基端部を手元側に引き抜くことで、第2カテーテル2内のスタイレットワイヤ3を抜去する。スタイレットワイヤ3の抜去後、術者は、緩衝液60が充填されたシリンジ8aを準備する。
図28に示すように、術者は、第2カテーテル2のコネクタ29の第1貫通孔TH1に対して、シリンジ8aの筒先81を挿入する。術者は、シリンジ8aのプランジャを押し込む。これにより、シリンジ8a内の緩衝液60が、第2カテーテル2の第2ルーメン2Lに供給される。術者は、第2カテーテル2の第2ルーメン2Lが緩衝液60で満たされるまで、緩衝液60の供給を続ける。緩衝液60としては任意の液体を利用できる。緩衝液60としては、例えば、生理食塩水を利用できる。
【0072】
図29は、第2カテーテル2に薬液50を注入する様子を示す図である。
図29の左側には、左冠動脈94内部における第1カテーテル1及び第2カテーテル2の一部分を図示する。
図29の右側には、体外にある第2カテーテル2のコネクタ29を図示する。第2カテーテル2に緩衝液60を充填した後、術者は、シリンジ8aを取り外し、薬液50が充填されたシリンジ8bを準備する。
図29に示すように、術者は、第2カテーテル2のコネクタ29の第1貫通孔TH1に対して、シリンジ8bの筒先81を挿入する。術者は、シリンジ8bのプランジャを押し込む。これにより、シリンジ8b内の薬液50が、第2カテーテル2の第2ルーメン2Lに供給される。第2カテーテル2の第2ルーメン2Lは既に緩衝液60で満たされているため、薬液50の供給に伴って、第2カテーテル2の先端開口2aからは薬液50によって押し出された緩衝液60が排出される。すなわち、第2カテーテル2の第2ルーメン2L内の緩衝液60が、薬液50によって置換される。術者は、第2ルーメン2L内の緩衝液60が全て薬液50で置換され、第2ルーメン2Lが薬液50で満たされるまで、薬液50の供給を続ける。
【0073】
図30は、心筋96を穿刺する様子を示す図である。第2カテーテル2内を薬液50で満たした後、術者は、X線画像下におけるマーカMを確認することで、第1カテーテル1の側面開口OPが心筋96の側に向いていることを再度確認する。確認後、術者は、第1カテーテル1の位置を固定したまま、白抜き矢印の方向へと第2カテーテル2を押し込む。これにより、術者は、第1カテーテル1の側面開口OPから、第2カテーテル2の穿刺針21を突出させ、心筋96に穿刺針21を突き刺すことができる。術者は、穿刺による手元への抵抗感と、X線画像下における穿刺針21の像とを確認しながら、心筋96内の目的位置まで穿刺針21の先端を押し進める。目的位置とは、心筋96内において術者が薬液50の注入を意図する位置である。
【0074】
術者は、穿刺の補助が必要と判断した場合、第2カテーテル2を押し込む前に、バルーン71を拡張してもよい。穿刺の補助が必要な場合とは、心筋96からの抵抗によって心筋96に穿刺針21を突き刺すことが困難だと想定される場合や、心筋96に対する穿刺深さの不足が想定される場合を例示できる。この場合、術者は、バルーンカテーテル7に対して、バルーン71拡張用の流体を供給する。
図30に示すように、流体の供給に伴ってバルーン71が径方向外側に拡張する。第1カテーテル1は、拡張したバルーン71によって、左冠動脈94の血管内壁に押し付けられて、第1カテーテル1の位置が固定される。この結果、術者は、心筋96からの抵抗力がある場合でもスムーズに心筋96を穿刺できる。
【0075】
図31は、心筋96に薬液50を注射する様子を示す図である。
図31の左側には、左冠動脈94内部における第1カテーテル1及び第2カテーテル2の一部分を図示する。
図31の右側には、体外にある第2カテーテル2のコネクタ29を図示する。目的位置まで穿刺針21を突き刺した後、術者は、シリンジ8bのプランジャ82を押し込むことで、心筋96の組織内へと薬液50を注入する。薬液50に放射線不透過性の成分が含まれる場合、術者は、心筋96に対する薬液50の注入の様子をX線画像下で観察しつつ、薬液50を注入できる。
【0076】
薬液50の注入完了後、術者は、第2カテーテル2をゆっくりと手元側に引き寄せる。これにより、心筋96から第2カテーテル2の穿刺針21が引き抜かれる。術者は、第2カテーテル2を手元側へとさらに引き寄せることで、第2カテーテル2の穿刺針21を、第1カテーテル1の第1ルーメン1L内に収容する。このとき、術者は、
図28に示すように、第2カテーテル2の先端を、第1カテーテル1の側面開口OPの手前位置としておくことが好ましい。術者は、バルーンカテーテル7から流体を吸引することで、バルーン71を収縮させ、第1カテーテル1の固定を解除する。
【0077】
術者は、左冠動脈94内で第1カテーテル1を移動させて、
図24で説明した位置合わせ、
図25で説明したバルーンカテーテル7のデリバリ、
図30で説明した心筋96の穿刺、及び、
図31で説明した薬液50の注射を、意図する回数だけ繰り返す。このように、左冠動脈94の異なる位置に第1カテーテル1を移動させて手技を繰り返すことで、心筋96の異なる位置に薬液50を注射できる。術者は、右冠動脈95についても同様に、右冠動脈95を介した心筋96への薬液50の注射をしてもよい。術者は、左冠動脈94に代えて右冠動脈95のみから薬液50の注射をしてもよく、左冠動脈94と右冠動脈95との両方から薬液50の注射をしてもよい。
【0078】
術者は、治療対象部位への薬液50の注射が所定箇所、ならびに薬液50の所定量だけ完了したかを確認する。薬液注入治療の効果を得るためには、所定量の薬液50に含まれる細胞の数は、1患者あたり約1億個以上であることが好ましい。また、薬液注入治療の効果を得るためには、所定量の薬液50に含まれる低分子化合物の量は、1患者あたり0.03~0.3mg/kg体重であることが好ましい。確認後、術者は、ガイディングカテーテル4を除く全てのデバイスを、左冠動脈94から抜去する。術者は、ガイディングカテーテル4を用いて左冠動脈94へと造影剤を流し込み、X線画像を取得する。術者は、X線画像を確認し、左冠動脈94からの血液の漏出がないかを確認する。右冠動脈95を介した薬液50の注射をした場合、術者は、右冠動脈95についても同様に、X線画像を確認し、右冠動脈95からの血液の漏出がないかを確認する。左冠動脈94及び右冠動脈95から血液の漏出がなければ、術者は、ガイディングカテーテル4を抜去して、手技を終了する。
【0079】
以上のように、第1カテーテル1は側面開口OPの位置を示す放射線不透過性のマーカMを有するため、術者は、X線画像下においてマーカMの位置を確認することで、側面開口OPと心筋96の周方向における位置を容易に合わせることができる。その後、術者は、治療用の細胞を含む薬液50を、側面開口OPから突き出した穿刺針21から心筋組織に直接注入するため、薬液50を他の手段によって投与する場合と比べて、薬液50による治療効果を向上できる。この結果、薬液注入治療の手技の効率を向上できる。このような薬液注入治療によれば、外科的な治療方法と比べて患者への身体的負担を小さくでき、治療後のQOLの向上を期待できる。QOLは、Quality Of Lifeとも呼ばれる。
【0080】
薬液注入治療に使用される穿刺針は湾曲形状を有することが多い。これは、冠動脈あるいは冠静脈から心筋へと穿刺針を突き出すことに起因する。このような湾曲形状を有する穿刺針をカテーテルに搭載した場合、カテーテルの中心軸がずれることによって回転制御に劣る結果となる。この方法によれば、術者は、第1カテーテル1を治療対象部位までデリバリした後、第1カテーテル1の第1ルーメン1L内において、第2カテーテル2を治療対象部位までデリバリできる。第1カテーテル1は穿刺針を有さず回転制御に優れているため、術者は、第1カテーテル1をスムーズに治療対象部位までデリバリできる。第2カテーテル2は既に経路が確保された第1カテーテル1内を押し進めるのみであるため、術者は、第2カテーテル2をスムーズに治療対象部位までデリバリできる。この結果、薬液注入治療の手技の効率をより一層向上できる。さらに、別個のデバイスとして構成された第1カテーテル1と第2カテーテル2とを用いることで、マルチルーメンカテーテルを備えたデバイスと比較して、第1カテーテル1及び第2カテーテル2の外径を小さくできる。この結果、冠動脈あるいは冠静脈の細い血管にも挿通することが可能となり、本方法の適用範囲を広げることができる。
【0081】
さらに、第2カテーテル2を第1カテーテル1内に挿入する前に、スタイレットワイヤ3を第2カテーテル2内に挿入し、スタイレットワイヤ3の先端部を第2カテーテル2の先端から突き出した状態とする。このため、第2カテーテル2のデリバリ時において、スタイレットワイヤ3を緩衝材として機能させることができる。具体的には、第2カテーテル2の先端から突出したスタイレットワイヤ3によって、第2カテーテル2の先端にある穿刺針21が、第1カテーテル1の内周面12iに接触することを抑制できる。この結果、第2カテーテル2のデリバリ時における、穿刺針21の損傷、及び、第1カテーテル1の損傷を抑制できる。
【0082】
さらに、第2カテーテル2のデリバリ後、スタイレットワイヤ3を第2カテーテル2から抜去することによって、スタイレットワイヤ3の挿入により緩やかになっていた穿刺針21の湾曲形状を元に戻すことができる。このため術者は、穿刺針21を、第1カテーテル1の側面開口OPから外部へと突出しやすい。
【0083】
さらに、術者は、スタイレットワイヤ3の抜去後、第2カテーテル2に緩衝液60を充填するため、緩衝液60によって、第2カテーテル2の第2ルーメン2L内のエアを除去できる。さらに、術者は、緩衝液60で第2ルーメン2L内を予め湿潤させ、緩衝液60を薬液50で置換することにより、薬液50内の細胞の損傷を抑制できる。
【0084】
さらに、術者は、バルーンカテーテル7を用いて、第1カテーテル1を血管内壁に押し付けるため、穿刺針21による穿刺の際に第1カテーテル1がずれることを抑制できる。穿刺の際の第1カテーテル1のずれとは、第1カテーテル1が心筋96から遠ざかる方向に移動することを意味する。さらに、術者は、バルーンカテーテル7のバルーン71を、側面開口OPの付近であって、側面開口OPとは重複しない位置に配置する。このため、穿刺の際に、バルーン71によって第1カテーテル1を支持しつつ、かつ、バルーン71によって第1カテーテル1の側面開口OPが閉塞されることを抑制できる。
【0085】
さらに、薬液50は、単細胞と、細胞塊と、単細胞あるいは細胞塊の集団と、低分子化合物との少なくともいずれかを含む。また、薬液50中に含まれる治療用の細胞として、多能性幹細胞と、多能性幹細胞由来細胞と、心筋細胞と、間葉系幹細胞とを利用できる。さらに、薬液50にオルガノイドを含む場合は、その治療効果が向上する。加えて、薬液50に含まれる低分子化合物として、プロスタグランジンI2受容体作動作用とトロンボキサンA2合成酵素阻害活性を合わせ持つONO-1301及びONO-1301の徐放製剤(YS-1402)が利用できる。
【0086】
さらに、医療用システム1000は、薬液50と、薬液50を心筋に注射するための穿刺針21とを備えるため、薬液注入治療に用いられるシンプルな医療用システムを提供できる。
【0087】
さらに、医療用システム1000によれば、第2カテーテル2のコネクタ29の中間部292は、基端側から先端側に向かって第2貫通孔TH2の径が小さくなる第1部位P1及び第2部位P2を有している。このため、第2貫通孔TH2内の容量を低減することができ、薬液注入治療の後、第2貫通孔TH2内に残存する薬液50の量を低減できる。この結果、薬液50の無駄を抑制できる。第1部位P1よりも先端側には、基端側から先端側に向かって第1部位よりも緩やかに径が小さくなる第2部位P2を有している。このため、第1の医療デバイスとしてのシリンジ8bから注入された薬液50の、注入時の圧力を分散させることができる。
【0088】
さらに、医療用システム1000によれば、第1カテーテル1のマーカMは、側面開口OPの外縁を囲む第1マーカ部M1と、第1マーカ部M1とは異なる位置に設けられた第2マーカ部M2とを含む。このため、X線画像下において、第1シャフト12の中心軸周りに第1カテーテル1を回転させた際の第1マーカ部M1と第2マーカ部M2との位置関係の変化に伴うマーカMの形状の変化によって、術者は、側面開口OPの向きを容易に把握することができる。この結果、手技の効率を向上させることができる。第2マーカ部M2は、第1マーカ部M1が設けられていない残余領域にあるため、第1シャフト12の長手方向において側面開口OPが設けられている区間の側面において、側面開口OPと第1マーカ部M1との応力差による応力集中によって、第1カテーテル1にキンクが生じることを抑制できる。この結果、手技の安全性を向上させることができる。
【0089】
さらに、医療用システム1000によれば、X線画像下において、第1シャフト12の中心軸及び側面開口OPの開口方向と直交する方向の側から見たマーカMにおいては、開口方向に沿った第1マーカ部M1の長さは比較的短い傾向にあり、視認しにくい場合がある。第1カテーテル1によれば、開口方向に沿った第2マーカ部M2の長さは開口方向に沿った第1マーカ部M1の長さよりも長いことから、術者は、側面開口OPの向きをより容易に把握できる。その結果、術者は、側面開口OPの向きをより容易に所望の向きに調整でき、手技の効率をより一層向上させることができる。
【0090】
さらに、医療用システム1000によれば、第1カテーテル1の側面開口OPの形状は角を含まない形状であるため、第1カテーテル1が冠動脈や冠静脈に挿入されている際に、側面開口OPが血管内壁に引っ掛かることを抑制できる。この結果、血管内壁の損傷を抑制でき、手技の安全性をより一層向上させることができる。
【0091】
さらに、医療用システム1000によれば、第1カテーテル1において、第1シャフト12の長手方向に沿った第1マーカ部M1の長さは、第2マーカ部M2の長さよりも長い。このため、術者は、第1マーカ部M1と第2マーカ部M2とを区別して視認しやすい。さらに、第2マーカ部M2は周方向に延びているため、X線画像下において第1シャフト12の中心軸回りに第1カテーテル1を回転させた際、術者は、側面開口OPの向きをより容易に把握できる。さらに、周方向に延びている第2マーカ部M2の両端は第1マーカ部M1に接続されている。このため、第1シャフト12の長手方向であって、側面開口OPが設けられている区間の側面において、側面開口OPと第1マーカ部M1との応力差による応力集中によって、第1カテーテル1にキンクが生じることをより一層抑制できる。
【0092】
<第2実施形態>
図32は、第2実施形態の薬液50Aについて説明する図である。第2実施形態の医療用システム1000Aは、第1実施形態で説明した構成において、薬液50に代えて薬液50Aを備えている。薬液50Aは、溶媒51に対して、オルガノイド54のみを含んで構成されている。
【0093】
このように、薬液50Aの構成は種々の変更が可能であり、オルガノイド54のみを含んで構成されてもよい。オルガノイド54の構成は、
図21で説明した通りである。薬液50Aは、溶媒51に対して、
図21で説明した単細胞52のみを含んで構成されてもよい。薬液50Aは、溶媒51に対して、
図21で説明した細胞塊53のみを含んで構成されてもよい。薬液50Aは、溶媒51に対して、
図21で説明した低分子化合物54-1のみを含んで構成されてもよい。以上のような第2実施形態においても、上述した第1実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0094】
<第3実施形態>
図33は、第3実施形態の第1カテーテル1Bにおいて、-Y軸方向の側から見たマーカMbの形状を示す図である。第3実施形態の医療用システム1000Bは、第1実施形態で説明した構成において、第1カテーテル1に代えて第1カテーテル1Bを備えている。第1カテーテル1Bは、第1実施形態で説明した構成において、側面開口OPに代えて側面開口OPbを有し、マーカMに代えてマーカMbを有する。
【0095】
図33に示すように、開口方向の側から見た側面開口OPbの形状は、角を含まない形状である。具体的には、開口方向の側から見た側面開口OPbの形状は、四隅が丸みを帯びた略平行四辺形状である。すなわち、開口方向の側から見た側面開口OPbの形状は、軸線Oに対して非対称な形状である。マーカMbは、第1マーカ部Mb1と、第2マーカ部M2と、を含んでいる。第1マーカ部Mb1は、先端側シャフト12Dの側面において、略平行四辺形状の側面開口OPbの外縁を囲んでいる。すなわち、第1マーカ部Mb1は、開口方向の側から側面開口OPbを見たとき、軸線Oに対して非対称な形状である。第2マーカ部M2は、第1実施形態と同様に、残余領域Rにおいて周方向に延びている。周方向に延びている第2マーカ部M2の両端は、第1マーカ部Mb1に接続されている。
【0096】
このように、第1カテーテル1Bの構成は種々の変更が可能であり、開口方向の側から側面開口OPbを見たとき、軸線Oに対して非対称な形状を有する第1マーカ部Mb1を有していてもよい。このような第3実施形態の医療用システム1000Bによっても、上述した第1実施形態と同様の効果を奏することができる。第3実施形態の医療用システム1000Bによれば、X線画像下において、第1カテーテル1Bの開口方向の側から見たマーカMbの形状と、開口方向の側とは反対方向の側から見たマーカMbの形状とが明確に異なるため、術者は、側面開口OPbの向きを容易に把握することができる。この結果、術者は、側面開口OPbの向きをより容易に所望の向きに調整でき、手技の効率をより一層向上させることができる。
【0097】
<本実施形態の変形例>
本開示は上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0098】
[変形例1]
上記第1~第3実施形態では、医療用システム1000,1000A,1000Bの構成の一例を示した。医療用システム1000,1000A,1000Bの構成は種々の変更が可能である。例えば、スタイレットワイヤ3は、省略されてもよい。例えば、薬液50は、省略されてもよい。例えば、上述しない他のデバイスを含んで、医療用システム1000を構成してもよい。他のデバイスとは、例えば、ガイディングカテーテル4や、バルーンカテーテル7、シリンジ8を例示できる。
【0099】
[変形例2]
上記第1~第3実施形態では、第1カテーテル1,1Bの構成の一例を示した。第1カテーテル1,1Bの構成は種々の変更が可能である。例えば、第1シャフト12は、
図2~
図4で説明した構成に限らず、種々の構成を採用できる。例えば、第1シャフト12は、内層13と、外層14と、コイル15と、補強体16と、被覆層17とのうちの少なくとも一部を省略して構成されてもよい。例えば、第1シャフト12は、先端側シャフト12Dと、基端側シャフト12Pとを有しておらず、先端から基端まで同一の構成であってもよい。例えば、第1カテーテル1は、マーカMを有していなくてもよい。例えば、マーカMは、第1マーカ部M1と第2マーカ部M2を有さない、単なる円環形状であってもよい。
【0100】
[変形例3]
上記第1~第3実施形態では、第2カテーテル2の構成の一例を示した。第2カテーテル2の構成は種々の変更が可能である。例えば、スタイレットワイヤ3は、省略されてもよい。例えば、薬液50は、省略されてもよい。例えば、第2シャフト22は、
図15~
図17で説明した構成に限らず、種々の構成を採用できる。例えば、第2シャフト22は、コイル221と、チューブ222と、シャフト223とのうちの少なくとも一部を省略して構成されてもよい。例えば、第2シャフト22は、先端側シャフト22Dと、先端側シャフト22Dとを有しておらず、先端から基端まで同一の構成であってもよい。例えば、第2カテーテル2は、針マーカ24を有していなくてもよい。例えば、第2カテーテル2のコネクタ29は、
図18~
図20で説明した構成に限られない。例えば、コネクタ29の第2貫通孔TH2は、第1部位P1と第2部位P2とを含まなくてもよい。例えば、コネクタ29は、第1カテーテル1のカテーテルコネクタ19と同じ構成であってもよい。
【0101】
[変形例4]
上記第1~第3実施形態では、薬液注入治療の手術方法の一例を示した。薬液注入治療の手術方法は種々の変更が可能である。例えば、術者は、バルーンカテーテル7及び第2ワークホースワイヤ6をデリバリする手順を、省略してもよい。例えば、術者は、第2カテーテル2にスタイレットワイヤ3を挿通させる手順を、省略してもよい。例えば、術者は、第2カテーテル2に緩衝液60を注入する手順を、省略してもよい。例えば、術者は、シリンジ8以外のデバイスを用いて、緩衝液60や薬液50を注入してもよい。例えば、術者は、薬液注入治療の手術方法において、上述しない手順をさらに行ってもよい。例えば、術者は、上述の手順の前において、PCIの手技を行ってもよい。
【0102】
[変形例5]
上記第1~第3実施形態の構成、及び上記変形例1~4の構成は、適宜組み合わせてもよい。例えば、第2実施形態で説明した薬液50Aと、第3実施形態で説明した第1カテーテル1Bとを組み合わせて医療用システム1000を構成してもよい。
【0103】
以上、実施形態、変形例に基づき本態様について説明してきた。上記した態様の実施の形態は、本態様の理解を容易にするためのものであり、本態様を限定するものではない。本態様は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本態様にはその等価物が含まれる。その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することができる。
【手続補正書】
【提出日】2025-06-16
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬液を心筋に送達させる手術方法であって、
ルーメンと、前記ルーメンと外部とを連通する側面開口と、前記側面開口の位置を示す放射線不透過性のマーカと、を有するカテーテルを、冠動脈と冠静脈との少なくともいずれか一方に挿入し、
前記側面開口の向きが、治療対象部位に対して所定の向きになるように、前記マーカを見ながら前記カテーテルを回転させ、
穿刺針を前記側面開口から突き出し、前記治療対象部位の心筋に前記穿刺針を突き刺し、
治療用の細胞または低分子化合物を含む薬液を、前記穿刺針から前記心筋に注入する、手術方法。
【請求項2】
請求項1に記載の手術方法であって、
前記カテーテルは第1カテーテルであって、前記ルーメンは第1ルーメンであって、
前記穿刺針は、前記第1カテーテルの前記第1ルーメンに挿入された第2カテーテルであって、第2ルーメンを有する第2カテーテルの先端に設けられている、手術方法。
【請求項3】
請求項2に記載の手術方法であって、
前記第2カテーテルを前記第1カテーテルに挿入する前に、スタイレットワイヤを前記第2カテーテルの前記第2ルーメンに挿入し、前記スタイレットワイヤの先端部を前記第2カテーテルの先端から突き出し、
前記スタイレットワイヤが挿入された前記第2カテーテルを、前記第1カテーテルの前記第1ルーメンに挿入し、前記第1ルーメン内において、前記第2カテーテルの先端を、前記第1カテーテルの前記側面開口の付近までデリバリする、手術方法。
【請求項4】
請求項3に記載の手術方法であって、
前記第2カテーテルが前記側面開口の付近まで前進した後、前記スタイレットワイヤを前記第2カテーテルから抜去する、手術方法。
【請求項5】
請求項4に記載の手術方法であって、
前記スタイレットワイヤの抜去後、前記第2カテーテルの前記第2ルーメンに緩衝液を充填する、手術方法。
【請求項6】
請求項5に記載の手術方法であって、
前記緩衝液の充填後、前記第2カテーテルの前記第2ルーメンに前記薬液を注入し、前記第2ルーメン内の前記緩衝液を前記薬液で置換する、手術方法。
【請求項7】
請求項2に記載の手術方法であって、
前記第1カテーテルの前記側面開口から前記第2カテーテルの先端部を突き出し、
前記心筋に前記第2カテーテルの前記穿刺針を突き刺して、前記薬液を前記心筋に注入する、手術方法。
【請求項8】
請求項1に記載の手術方法であって、
バルーンカテーテルのバルーンの膨張によって、前記カテーテルを血管内壁に押し付けて位置を固定した状態で、前記薬液を前記心筋に注入する、手術方法。
【請求項9】
請求項8に記載の手術方法であって、
前記バルーンカテーテルの前記バルーンを、血管の延伸方向において、前記カテーテルの前記側面開口の付近であって前記側面開口よりも先端側と、前記カテーテルの前記側面開口の付近であって前記側面開口よりも基端側と、のいずれかに配置する、手術方法。
【請求項10】
請求項1に記載の手術方法であって、
前記薬液は、単細胞と、細胞塊と、単細胞あるいは細胞塊の集団と、低分子化合物との少なくともいずれかを含み、
前記細胞は、単一細胞種と、複数の細胞種との少なくともいずれか一方を含む、手術方法。
【請求項11】
請求項10に記載の手術方法であって、
前記細胞は、多能性幹細胞と、多能性幹細胞由来細胞と、心筋細胞と、間葉系幹細胞とのいずれかである、手術方法。