(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025017386
(43)【公開日】2025-02-06
(54)【発明の名称】ポリカーボネート樹脂、硬化性樹脂組成物および硬化物
(51)【国際特許分類】
C08G 64/06 20060101AFI20250130BHJP
C08L 63/00 20060101ALI20250130BHJP
C08L 69/00 20060101ALI20250130BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20250130BHJP
【FI】
C08G64/06
C08L63/00 A
C08L69/00
H05K1/03 610H
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023120359
(22)【出願日】2023-07-25
(71)【出願人】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】常守 秀幸
【テーマコード(参考)】
4J002
4J029
【Fターム(参考)】
4J002CD05X
4J002CG01W
4J002EL136
4J002FD146
4J002GQ01
4J002HA03
4J029AA10
4J029AB01
4J029AC01
4J029AC02
4J029AD01
4J029AD03
4J029AD07
4J029AE01
4J029BB12B
4J029BB12C
4J029FA07
4J029HA01
4J029HC01
4J029JA091
4J029JA201
4J029JF031
4J029KA01
4J029KB12
4J029KD01
4J029KD03
4J029KE03
4J029KE06
4J029KH04
4J029KH06
4J029KH08
(57)【要約】 (修正有)
【課題】低誘電率、低誘電正接を示し耐熱性に優れるポリカーボネート樹脂、および該ポリカーボネート樹脂を含む低誘電率、低誘電正接を示し透明性に優れ寸法安定性の良好な硬化性樹脂組成物および該硬化性樹脂組成物を硬化した硬化物を提供する。
【解決手段】下記式(1)で表される構成単位(A)を含有し、全構成単位における構成単位(A)の割合が70モル%以上であり、且つ、下記(a)~(b)を満たすことを特徴とするポリカーボネート樹脂。
(a)ポリカーボネート樹脂のゲル浸透クロマトグラフィー法により測定された重量平均分子量が5,000~15,000の範囲であること、(b)ポリカーボネート樹脂の空洞共振器摂動法に準拠して測定した周波数10GHzの比誘電率が2.30~2.70の範囲であり、誘電正接が0.0001~0.0030の範囲であること
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される構成単位(A)を含有し、全構成単位における構成単位(A)の割合が70モル%以上であり、且つ、下記(a)~(b)を満たすことを特徴とするポリカーボネート樹脂。
(a)ポリカーボネート樹脂のゲル浸透クロマトグラフィー法により測定された重量平均分子量が5,000~15,000の範囲であること、
(b)ポリカーボネート樹脂の空洞共振器摂動法に準拠して測定した周波数10GHzの比誘電率が2.30~2.70の範囲であり、誘電正接が0.0001~0.0030の範囲であること
【化1】
(式(1)中、R
1及びR
2は、夫々独立して、置換若しくは無置換の炭素原子数1~6のアルキル基、置換若しくは無置換の炭素原子数6~20のシクロアルキル基、又は、置換若しくは無置換の炭素原子数6~20のアリール基を示し、R
3及びR
4は、夫々独立して、水素原子、置換若しくは無置換の炭素原子数1~6のアルキル基、置換若しくは無置換の炭素原子数6~20のシクロアルキル基、又は、置換若しくは無置換の炭素原子数6~20のアリール基を示し、Xは、単結合、置換若しくは無置換の炭素原子数1~20のアルキレン基、置換若しくは無置換の炭素原子数2~20のアルキリデン基、置換若しくは無置換の硫黄原子、又は、酸素原子を示す。)
【請求項2】
前記式(1)のXが、下記式(2)からなる群より選ばれる少なくとも一つの基である請求項1に記載のポリカーボネート樹脂。
【化2】
(R
5及びR
6は、それぞれ独立に、水素原子、置換若しくは無置換の炭素原子数1~20のアルキル基、又は、置換若しくは無置換の炭素原子数6~20のアリール基を示し、Zは、置換若しくは無置換の炭素原子数4~12のアルキレン基を示す。)
【請求項3】
ポリカーボネート樹脂の全構成単位における構成単位(A)の割合が80モル%以上である請求項1に記載のポリカーボネート樹脂。
【請求項4】
前記式(1)のR1及びR2が、それぞれメチル基、イソプロピル基、ターシャリーブチル基、シクロヘキシル基及びフェニル基からなる群より選ばれる少なくとも1つの基であり、R3及びR4が、それぞれ水素原子またはメチル基である請求項1に記載のポリカーボネート樹脂。
【請求項5】
ポリカーボネート樹脂が、前記式(1)で表される構成単位(A)を誘導するジヒドロキシ化合物と塩化カルボニルとの界面重縮合法により製造されたポリカーボネート樹脂である請求項1に記載のポリカーボネート樹脂。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂およびエポキシ樹脂を含む硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
プリント配線基板の絶縁層形成用の硬化性樹脂組成物である、請求項6に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項8】
請求項6に記載の硬化性樹脂組成物を硬化した硬化物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低誘電率、低誘電正接を示し耐熱性に優れるポリカーボネート樹脂に関する。また、本発明は、ポリカーボネート樹脂を硬化剤として使用した低誘電率、低誘電正接を示し透明性に優れ寸法安定性の良好な硬化性樹脂組成物および該硬化性樹脂組成物を硬化した硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
音声通話として使用されていた携帯電話に代表される移動体無線通信サービスは、通信・情報処理技術の発展により、インターネットへのアクセス手段として利用されている。また、人同士の通信から機械やモノ同士の通信が、制御、センシング、モニタリングを目的に本格的に運用が開始されようとしている。ネットワークトラフィックの大幅な増大に対応すべく、次世代無線通信規格5Gシステム(以下、5Gという)の運用が始まっている。これまでの通信システム(例えば、4GLTE)では2.5GHz以下の低周波数帯が利用されてきたが、5Gでは6GHz以上の高周波数帯を利用する。したがって、今後の5G対応デバイスは、高周波信号対応が求められる。例えば、プリント配線基板(以下、PCBという)の高周波対策として、低伝送損失化が挙げられる。ここでいう伝送損失とは、PCBを構成する導体(例えば、銅回路)に由来する導体損失と、誘電体(回路周りの絶縁材料)由来の誘電体損失のことを示す。前者の対策は、導体表面を平滑化することが挙げられるが改善効果としては大きな改善は見込めないと言える。そのため、後者の対策が重要であり、具体的には誘電体損失は、電流の周波数と、回路周りの絶縁材料の誘電率、誘電正接に依存するため、絶縁材料の低誘電化が求められている。加えて、従来の基板材料と同等の加工性、物性(例えば、耐熱性、接着性、絶縁特性等)を兼ね備える絶縁材料の必要とされている。
【0003】
PCBの種類は、モバイルプロセッサなどのチップ直下にくるパッケージ基板、そのパッケージ基板を実装するメインボード用リジット基板、LCDドライバやカメラモジュール・フィルムアンテナとして使用されるフレキシブルプリント基板に分けられる。これらの絶縁材料には熱硬化性樹脂が用いられており、樹脂組成としては、(i)エポキシ樹脂、マレイミド樹脂などの熱硬化、架橋成分、(ii)難燃性や耐熱性、低線膨張係数を付与するためのフィラー成分、(iii)柔軟性、接着性向上のために使用されるポリマーによって構成される。PCBの絶縁材料に使用されるポリマーには、一般的に耐熱性、接着性、加工性、柔軟性、相溶性が必須となる。従来のPCB向けポリマーには、カルボキシル変性アクリロニトリル・ブタジエン共重合ゴム、アクリルポリマー、ウレタンポリマーなどが使用されてきた。しかしながら、高周波用途で必要となる低誘電特性を兼ね備えているものは無く、新規材料が求められているのが現状である。
【0004】
そこで、低誘電化、及び柔軟性、接着性向上を目的にポリカーボネート樹脂を所定量含む硬化性樹脂組成物が検討されている。例えば、特許文献1、2には、エポキシ樹脂、硬化剤、ポリカーボネート樹脂、および無機充填材を含む樹脂組成物が開示されている。しかしながら、硬化性樹脂組成物にポリカーボネート樹脂を添加しても硬化時に不相溶となるため、ポリカーボネート樹脂の添加効果が発現しにくく添加量に制限があることが課題である。また、特許文献3、4、5にアリル基含有脂肪族ポリカーボネート樹脂を硬化性樹脂組成物に添加する方法が開示されている。しかしながら、アリル基を含有することで硬化性樹脂組成物の相溶性は向上するが、脂肪族ジオールを共重合することにより、誘電正接が高くなることが課題である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-35056号公報
【特許文献2】特開2022-133793号公報
【特許文献3】特開2019-89965号公報
【特許文献4】特開2019-89966号公報
【特許文献5】特開2019-89967号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、低誘電率、低誘電正接を示し耐熱性に優れるポリカーボネート樹脂を提供することである。また、本発明の目的は、該ポリカーボネート樹脂を含む低誘電率、低誘電正接を示し透明性に優れ寸法安定性の良好な硬化性樹脂組成物および該硬化性樹脂組成物を硬化した硬化物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究を積み重ねた結果、驚くべきことに特定の構造単位を含むポリカーボネート樹脂を用いることにより、上記目的を達成することを見出した。かかる知見に基づき検討を進めた結果、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明によれば、下記(構成1)~(構成8)が提供される。
(構成1)
下記式(1)で表される構成単位(A)を含有し、全構成単位における構成単位(A)の割合が70モル%以上であり、且つ、下記(a)~(b)を満たすことを特徴とするポリカーボネート樹脂。
(a)ポリカーボネート樹脂のゲル浸透クロマトグラフィー法により測定された重量平均分子量が5,000~15,000の範囲であること、
(b)ポリカーボネート樹脂の空洞共振器摂動法に準拠して測定した周波数10GHzの比誘電率が2.30~2.70の範囲であり、誘電正接が0.0001~0.0030の範囲であること、
【0009】
【化1】
(式(1)中、R
1及びR
2は、夫々独立して、置換若しくは無置換の炭素原子数1~6のアルキル基、置換若しくは無置換の炭素原子数6~20のシクロアルキル基、又は、置換若しくは無置換の炭素原子数6~20のアリール基を示し、R
3及びR
4は、夫々独立して、水素原子、置換若しくは無置換の炭素原子数1~6のアルキル基、置換若しくは無置換の炭素原子数6~20のシクロアルキル基、又は、置換若しくは無置換の炭素原子数6~20のアリール基を示し、Xは、単結合、置換若しくは無置換の炭素原子数1~20のアルキレン基、置換若しくは無置換の炭素原子数2~20のアルキリデン基、置換若しくは無置換の硫黄原子、又は、酸素原子を示す。)
【0010】
(構成2)
前記式(1)のXが、下記式(2)からなる群より選ばれる少なくとも一つの基である構成1に記載のポリカーボネート樹脂。
【0011】
【化2】
(R
5及びR
6は、それぞれ独立に、水素原子、置換若しくは無置換の炭素原子数1~20のアルキル基、又は、置換若しくは無置換の炭素原子数6~20のアリール基を示し、Zは、置換若しくは無置換の炭素原子数4~12のアルキレン基を示す。)
【0012】
(構成3)
ポリカーボネート樹脂の全構成単位における構成単位(A)の割合が80モル%以上である構成1または2に記載のポリカーボネート樹脂。
(構成4)
前記式(1)のR1及びR2が、それぞれメチル基、イソプロピル基、ターシャリーブチル基、シクロヘキシル基及びフェニル基からなる群より選ばれる少なくとも1つの基であり、R3及びR4が、それぞれ水素原子またはメチル基である構成1~3のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂。
(構成5)
ポリカーボネート樹脂が、前記式(1)で表される構成単位(A)を誘導するジヒドロキシ化合物と塩化カルボニルとの界面重縮合法により製造されたポリカーボネート樹脂である構成1~4のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂。
(構成6)
構成1~5のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂およびエポキシ樹脂を含む硬化性樹脂組成物。
(構成7)
プリント配線基板の絶縁層形成用の硬化性樹脂組成物である、構成6に記載の硬化性樹脂組成物。
(構成8)
構成6に記載の硬化性樹脂組成物を硬化した硬化物。
【発明の効果】
【0013】
本発明のポリカーボネート樹脂は、低誘電率、低誘電正接を示し、耐熱性に優れる。また、該ポリカーボネート樹脂を硬化剤として使用した硬化性樹脂組成物および該硬化性樹脂組成物を硬化した硬化物は、低誘電率、低誘電正接を示し、透明性に優れ、寸法安定性が良好となる。かかる硬化性樹脂組成物および硬化物は、高機能性高分子材料として極めて有用であり、電気的、熱的に優れた材料として、プリント配線板の層間絶縁層、半導体封止剤、電気絶縁材料、銅張り積層板用樹脂、レジスト、電子部品の封止用樹脂、液晶のカラーフィルター用樹脂、塗料、各種コーティング剤、接着剤、ビルドアップ積層板材料、繊維強化プラスチック(FRP)材料等の幅広い用途に使用できる。したがって、その奏する産業上の効果は格別である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<ポリカーボネート樹脂>
本発明のポリカーボネート樹脂は、下記式(1)で表される構成単位(A)を含有する。
【0015】
【0016】
ここで、式(1)において、R1及びR2は、夫々独立して、置換若しくは無置換の炭素原子数1~6のアルキル基、置換若しくは無置換の炭素原子数6~20のシクロアルキル基、又は、置換若しくは無置換の炭素原子数6~20のアリール基を示し、R3及びR4は、夫々独立して、水素原子、置換若しくは無置換の炭素原子数1~6のアルキル基、置換若しくは無置換の炭素原子数6~20のシクロアルキル基、又は、置換若しくは無置換の炭素原子数6~20のアリール基を示す。
【0017】
R1及びR2の、置換若しくは無置換の炭素原子数1~6のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、sec-ペンチル基、n-ヘキシル基等が挙げられる。置換若しくは無置換の炭素原子数6~20のシクロアルキル基としては、例えば、シクロヘキシル基、シクロへプチル基、シクロオクチル基等が挙げられる。置換若しくは無置換の炭素原子数6~20のアリール基としては、例えば、フェニル基、ベンジル基、トリル基、4-メチルフェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
【0018】
これらの中でも、R1及びR2は、それぞれメチル基、イソプロピル基、tert-ブチル基、シクロヘキシル基又はフェニル基が好ましく、メチル基、tert-ブチル基がより好ましく、特にメチル基が好ましい。
【0019】
R3及びR4の、置換若しくは無置換の炭素原子数1~6のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、sec-ペンチル基、n-ヘキシル基等が挙げられる。置換若しくは無置換の炭素原子数6~20のシクロアルキル基としては、シクロヘキシル基、シクロへプチル基、シクロオクチル基等が挙げられる。置換若しくは無置換の炭素原子数6~20のアリール基としては、例えば、フェニル基、ベンジル基、トリル基、4-メチルフェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
【0020】
これらの中でも、R3及びR4は、それぞれ水素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基又は4-メチルフェニル基が好ましく、特に水素原子又はメチル基が好ましい。ここで、式(1)におけるR1、R2、R3、R4の結合位置は、それぞれのフェニル環上のXに対して2位,3位,5位及び6位から選ばれる任意の位置であり、好ましくは3位、5位である。
【0021】
式(1)において、Xは、単結合、置換若しくは無置換の炭素原子数1~20のアルキレン基、置換若しくは無置換の炭素原子数2~20のアルキリデン基、置換若しくは無置換の硫黄原子、又は酸素原子を示す。置換若しくは無置換の硫黄原子としては、例えば、-S-、-SO2-が挙げられる。また、置換若しくは無置換の炭素原子数1~20のアルキレン基、または置換若しくは無置換のアルキリデン基は、好ましくは下記式(2)からなる群より選ばれる少なくとも一つの基である。
【0022】
【化4】
(R
5及びR
6は、それぞれ独立に、水素原子、置換若しくは無置換の炭素原子数1~20のアルキル基、又は置換若しくは無置換の炭素原子数6~20のアリール基を示し、Zは、置換若しくは無置換の炭素原子数4~12のアルキレン基を示す。)
【0023】
R5及びR6の、置換若しくは無置換の炭素原子数1~20のアルキル基としては例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、sec-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基等が挙げられる。置換若しくは無置換の炭素原子数6~20のアリール基としては、例えば、フェニル基、ベンジル基、トリル基、4-メチルフェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
これらの中でも、R5及びR6は、それぞれメチル基、エチル基、n-プロピル基又は4-メチルフェニル基が好ましく、特にメチル基が好ましい。
【0024】
Zは式(1)において、2個のフェニル基を結合する炭素と結合して、置換若しくは無置換の二価の炭素環を形成する。二価の炭素環としては、例えば、シクロペンチリデン基、シキロヘキシリデン基、シクロヘプチリデン基、シクロドデシリデン基又はアダマンチリデン基等のシクロアルキリデン基(好ましくは炭素原子数5~8)が挙げられ、置換されたものとしては、これらのメチル置換基、エチル置換基を有するもの等が挙げられる。これらの中でも、シクロヘキシリデン基、シクロヘキシリデン基のメチル置換体が好ましい。
【0025】
本発明のポリカーボネート樹脂は、式(1)で表される構成単位(A)を含有することが必要となる。ポリカーボネート樹脂の全構成単位における構成単位(A)の割合が70モル%以上であり、好ましくは80モル%以上であり、より好ましくは90モル%以上であり、さらに好ましくは95モル%以上である。式(1)の構成単位(A)が70モル%未満となると、誘電特性が劣るため好ましくない。
【0026】
本発明で使用されるポリカーボネート樹脂は、通常、ジヒドロキシ化合物と、カルボニル化合物とを反応させて得ることができる。反応の方法としては界面重縮合法、溶融エステル交換法、カーボネートプレポリマーの固相エステル交換法、および環状カーボネート化合物の開環重合法などを挙げることができる。界面重縮合の場合は通常一価フェノール類の末端停止剤が使用される。また、3官能成分を重合させた分岐ポリカーボネートであってもよく、更に脂肪族ジカルボン酸や芳香族ジカルボン酸、並びにビニル系単量体を共重合させた共重合ポリカーボネートであってもよい。
【0027】
本発明のポリカーボネート樹脂は、通常のポリカーボネート樹脂を製造するそれ自体公知の反応手段、例えばジヒドロキシ化合物にホスゲンや炭酸ジエステル等のカルボニル化合物を反応させる方法により製造される。次にこれらの製造方法について基本的な手段を簡単に説明する。
【0028】
カルボニル化合物として例えば塩化カルボニル(ホスゲン)を使用する反応では、通常酸結合剤および溶媒の存在下に反応を行う。酸結合剤としては例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物またはピリジン等のアミン化合物が用いられる。溶媒としては例えば塩化メチレン、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素が用いられる。また反応促進のために例えば第三級アミンまたは第四級アンモニウム塩等の触媒を用いることもできる。その際、反応温度は通常0~40℃であり、反応時間は数分~5時間である。
【0029】
本発明のポリカーボネート樹脂は、重合反応において、末端停止剤として使用される、下記式(3)で表されるモノヒドロキシ化合物に由来する末端構造(B)を含有することが好ましい。
【0030】
【0031】
式(3)中、R7は水素原子、炭素原子数1~9の直鎖または分岐のアルキル基、炭素原子数1~10の直鎖または分岐のアルコキシ基、または炭素原子数1~20の直鎖または分岐のフェニル置換アルキル基であり、R8は炭素原子数3~20のアリル基である。ここで、式(3)におけるR8の結合位置は、それぞれのフェニル環上のOH基に対して選ばれる任意の位置であり、好ましくはオルト位である。
【0032】
前記モノヒドロキシ化合物の具体例としては、例えば2-アリルフェノール、カビコール、オイゲノール等が挙げられる。また、これらは単独または二種以上組み合わせて用いてもよい。
【0033】
これらモノヒドロキシ化合物に由来する末端構造は、得られたポリカーボネート樹脂を構成する全末端構造に対して好ましくは10モル%以上であり、より好ましくは30モル%以上であり、さらに好ましくは50モル%以上である。
【0034】
また、本発明のポリカーボネート樹脂は、末端停止剤として、通常使用される単官能フェノール類を併用することができる。殊にカーボネート前駆物質としてホスゲンを使用する反応の場合、単官能フェノール類は末端停止剤として分子量調節のために一般的に使用され、また得られたポリカーボネート樹脂は、末端が単官能フェノール類に基づく基によって封鎖されているので、そうでないものと比べて熱安定性に優れている。
【0035】
かかる単官能フェノール類としては、ポリカーボネート樹脂の末端停止剤として使用されるものであればよく、一般的にはフェノールあるいは低級アルキル置換フェノールであって、下記式(4)で表される単官能フェノール類を示すことができる。
【0036】
【0037】
式(4)中、Aは炭素原子数1~9の直鎖または分岐のアルキル基あるいはアリールアルキル基であり、rは1~5の整数であり、好ましくは1~3の整数である。
【0038】
前記単官能フェノール類の具体例としては、例えばフェノール、p-tert-ブチルフェノール、p-クミルフェノールおよびイソオクチルフェノールが挙げられる。
また、他の単官能フェノール類としては、長鎖のアルキル基あるいは脂肪族エステル基を置換基として有するフェノール類または安息香酸クロライド類、もしくは長鎖のアルキルカルボン酸クロライド類を使用することができ、これらを用いてポリカーボネート重合体の末端を封鎖すると、これらは末端停止剤または分子量調節剤として機能するのみならず、樹脂の溶融流動性が改良され、成形加工が容易になるばかりでなく、成形品としての物性、特に樹脂の吸水率を低くする効果があり、また、成形品の複屈折が低減される効果もあり好ましく使用される。なかでも、下記式(5)および下記式(6)で表される長鎖のアルキル基を置換基として有するフェノール類が好ましく使用される。
【0039】
【0040】
式(6)中、Zは-R-O-、-R-CO-O-または-R-O-CO-であり、ここでRは単結合または炭素原子数1~10、好ましくは炭素原子数1~5の二価の脂肪族炭化水素基を示し、nは10~50の整数を示す。
【0041】
前記式(5)の置換フェノール類としてはnが10~30、特にnが10~26のものが好ましく、その具体例としては例えばデシルフェノール、ドデシルフェノール、テトラデシルフェノール、ヘキサデシルフェノール、オクタデシルフェノール、エイコシルフェノール、ドコシルフェノールおよびトリアコンチルフェノール等を挙げることができる。
【0042】
また、前記式(6)の置換フェノール類としてはZが-R-CO-O-であり、Rが単結合である化合物が適当であり、nが10~30、特にnが10~26のものが好適であって、その具体例としては例えばヒドロキシ安息香酸デシル、ヒドロキシ安息香酸ドデシル、ヒドロキシ安息香酸テトラデシル、ヒドロキシ安息香酸ヘキサデシル、ヒドロキシ安息香酸エイコシル、ヒドロキシ安息香酸ドコシルおよびヒドロキシ安息香酸トリアコンチルが挙げられる。
【0043】
これらの単官能フェノール類は、得られたポリカーボネート樹脂の全末端に対して90モル%以下の範囲で使用することができる。また、単官能フェノール類は単独でまたは2種以上混合して使用してもよい。
【0044】
また、ポリカーボネート樹脂の全構成単位に対する末端OH基当量は、50ppm以上が好ましく、80ppm以上がより好ましく、100ppm以上がさらに好ましい。上記下限以上であると硬化剤としての効果が高くなる。また、末端OH基当量は、1,000ppm以下が好ましく、700ppm以下がより好ましく、500ppm以下がさらに好ましい。上記上限以下であると熱安定性に優れる。
【0045】
本発明のポリカーボネート樹脂において、全構成単位における構成単位(A)の割合が70モル%以上含有するが、他のジヒドロキシ成分やジオール成分に由来する構造単位(C)を本発明の効果を損なわない範囲内で、例えば全構成単位の30モル%以下、好ましくは20モル%以下、より好ましくは10モル%以下の範囲で含有していても特に差支えない。
【0046】
かかるジヒドロキシ成分としては、例えばハイドロキノン、レゾルシノール、4,4’-ビフェノール、4,4’-ビス(2,6-ジメチル)ジフェノール、2,4’-ジヒドロキシジフェニルメタン、ビス(2-ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキシルメタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-2-クロロフェニル)エタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルプロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)デカン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、4,4’-(p-フェニレンジイソプロピリデン)ジフェノール、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-4-イソプロピルシクロヘキサン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエ-テル、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルエ-テル、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、2,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルフィド等が挙げられる。これらは単独または2種以上を混合して使用できる。
【0047】
また、ジオール成分としては、例えば、イソソルビド:1,4:3,6-ジアンヒドロ-D-ソルビトール、トリシクロデカンジメタノール(TCDDM)、4,8-ビス(ヒドロキシメチル)トリシクロデカン、テトラメチルシクロブタンジオール(TMCBD)、2,2,4,4-テトラメチルシクロブタン-1,3-ジオール、混合異性体、シス/トランス-1,4-シクロヘキサンジメタノール(CHDM)、シス/トランス-1,4-ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサン、シクロヘクス-1,4-イルエンジメタノール、トランス-1,4-シクロヘキサンジメタノール(tCHDM)、トランス-1,4-ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサン、シス-1,4-シクロヘキサンジメタノール(cCHDM)、シス-1,4-ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサン、シス-1,2-シクロヘキサンジメタノール、1,1’-ビ(シクロヘキシル)-4,4’-ジオール、スピログリコール、ジシクロヘキシル-4,4’-ジオール、4,4’-ジヒドロキシビシクロヘキシル、及びポリ(エチレングリコール)が挙げられる。
【0048】
(ポリカーボネート樹脂の特性)
本発明のポリカーボネート樹脂の数平均分子量および重量平均分子量は、標準ポリスチレンを基準としたゲル浸透クロマトグラフィー法により測定することができる。本発明のポリカーボネート樹脂の重量平均分子量は、5,000~15,000の範囲であり、6,000~14,000の範囲が好ましく、7,000~12,500の範囲がより好ましく、8,000~11,000の範囲がさらに好ましい。この範囲内であればエポキシ樹脂硬化剤との相溶性が良好となり、硬化後の樹脂組成物における強度が向上する。
【0049】
本発明のポリカーボネート樹脂のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは100~150℃、より好ましくは110~140℃、さらに好ましくは115~135℃の範囲である。Tgが上記範囲内であると耐熱性や加工性に優れていて好ましい。ガラス転移温度(Tg)はティー・エイ・インスツルメント・ジャパン(株)製2910型DSCを使用し、昇温速度20℃/minにて測定する。
【0050】
本発明に使用されるポリカーボネート樹脂は、空洞共振器を用いた摂動法で測定した周波数10GHzの比誘電率が2.30~2.70の範囲であり、好ましくは2.40~2.66の範囲である。また、同法で測定した周波数10GHzの誘電正接が0.0001~0.0030の範囲であり、好ましくは0.0005~0.0025の範囲である。比誘電率および誘電正接が上記範囲内であれば、絶縁材料の誘電損失が少なくなるため好ましい。
【0051】
(硬化性樹脂組成物および硬化物)
本発明に使用されるポリカーボネート樹脂は、エポキシ樹脂を硬化させるための硬化剤として用いることができる。エポキシ樹脂の硬化は、加熱により行うことができる。
また、本発明のポリカーボネート樹脂を用いてエポキシ樹脂を硬化させた硬化物は、エポキシ樹脂を用いているために、高ガラス転移温度、高熱分解温度、低熱線膨張率を示す。
【0052】
本発明の硬化性樹脂組成物は、本発明のポリカーボネート樹脂を含有する。ポリカーボネート樹脂は、耐衝撃性に優れるため、機械的強度に優れる。そのため、硬化物の靱性を高める作用を発揮する。
【0053】
ポリカーボネート樹脂成分の含有量としては、硬化性樹脂組成物の樹脂成分を100質量%とした場合、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは1質量%以上、さらに好ましくは2質量%以上である。上限は、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下である。ポリカーボネート樹脂成分の含有量を上記範囲内とすることにより、硬化物の靱性を良好にできる。
【0054】
また、本発明のポリカーボネート樹脂を用いていることから、エポキシ樹脂をフェノールノボラック樹脂で硬化させた硬化物に比べて、本発明の硬化性樹脂組成物から得られる硬化物は、より低誘電率で低誘電正接を有する硬化物となる。
【0055】
さらに、本発明のポリカーボネート樹脂は、一般的にエポキシ化合物を溶解させるために用いられているような溶剤に対する溶解性に優れる。したがって、本発明のポリカーボネート樹脂およびエポキシ樹脂が共に溶剤に溶解した樹脂ワニスを得ることができる。
前記の溶剤としては、メチルエチルケトンのような極性のあるものが一般的である。
【0056】
本発明の硬化性樹脂組成物および硬化物の用途としては、特に制限はない。例えば公知の熱硬化性成形材料の用途と同様であってよく、例えば封止材料、フィルム材料、積層材料等が挙げられる。より具体的な用途の例としては、プリント配線板の層間絶縁層、半導体封止材料、電子部品の封止用樹脂材料、電気絶縁材料、銅張り積層板用樹脂材料、ビルドアップ積層板材料、レジスト材料、液晶のカラーフィルター用樹脂材料、塗料、各種コーティング剤、接着剤、繊維強化プラスチック(FRP)材料等が挙げられる。
【0057】
(比誘電率、誘電正接)
本発明における硬化性樹脂組成物は、空洞共振器を用いた摂動法で測定した周波数10GHzの比誘電率が好ましくは2.60~2.90の範囲であり、より好ましくは2.70~2.85の範囲である。また、同法で測定した周波数10GHzの誘電正接が好ましくは0.005~0.025の範囲であり、より好ましくは0.010~0.023の範囲である。比誘電率および誘電正接が上記範囲内であれば、絶縁材料の誘電損失が少なくなるため好ましい。
【0058】
(線膨張係数:CTE)
本発明における硬化性樹脂組成物の線膨張係数(CTE)は、好ましくは40~65ppm/℃、より好ましくは45~62ppm/℃、さらに好ましくは50~60ppm/℃の範囲である。CTEが上記範囲内であると熱による寸法変化が小さく、好ましい。線膨張係数(CTE)はNETZSCH社製線膨張係数測定装置「TMA4000SE」を用い、昇温速度2℃/分で、30℃における線膨張係数を測定する。
【0059】
<エポキシ樹脂>
本発明の硬化性樹脂組成物は、本発明のポリカーボネート樹脂およびエポキシ樹脂を含むことができる。本発明のポリカーボネート樹脂は、フェノール性水酸基を有するため、エポキシ樹脂を硬化させるための硬化剤(エポキシ樹脂硬化剤)としても用いることができる。エポキシ樹脂の硬化は、加熱により行うことができる。
【0060】
本発明のポリカーボネート樹脂を用いてエポキシ樹脂を硬化させる際には、以下の(1)~(2)の反応が生じて硬化していると考えられる。
(1)エポキシ基と水酸基との反応
(2)エポキシ基同士の反応
【0061】
エポキシ樹脂としては、例えば、ビキシレノール型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールAF型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、トリスフェノール型エポキシ樹脂、ナフトールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、tert-ブチル-カテコール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ナフトール型エポキシ樹脂、アントラセン型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、線状脂肪族エポキシ樹脂、ブタジエン構造を有するエポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、複素環式エポキシ樹脂、スピロ環含有エポキシ樹脂、シクロヘキサン型エポキシ樹脂、シクロヘキサンジメタノール型エポキシ樹脂、ナフチレンエーテル型エポキシ樹脂、トリメチロール型エポキシ樹脂、テトラフェニルエタン型エポキシ樹脂等が挙げられる。エポキシ樹脂は1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0062】
<溶剤>
溶剤としては、本発明の硬化性樹脂組成物に含まれる成分(本発明のポリカーボネート樹脂、エポキシ樹脂、必要に応じて他のエポキシ硬化剤や硬化促進剤等)を溶解するものであれば特に制限はない。溶剤として典型的には、極性溶剤が用いられる。極性溶剤としては、例えばアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルアミルケトン、イソホロン、ジイソブチルケトン、ジアセトンアルコール、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン、メタノール、エタノール、ブタノール、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルセロソルブ、エチルジグリコールアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、テトラヒドロフラン等が挙げられる。これらの溶剤はいずれか1種を単独で用いてもよく2種以上を組合せて用いてもよい。前記の中でも、ケトン系溶剤が好ましく、メチルエチルケトンがより好ましい。
【0063】
<硬化反応触媒>
硬化反応触媒(硬化促進剤)としては、例えば、イミダゾール化合物、リン系化合物、第3級アミン、有機酸金属塩、ルイス酸、アミン錯塩等が挙げられる。イミダゾール化合物としては、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-メチルイミダゾール、2-エチルイミダゾール、2,4-ジメチルイミダゾール、2-ウンデシルイミダゾール、2-ヘプタデシルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール、1-ビニル-2-メチルイミダゾール、1-プロピル-2-メチルイミダゾール、2-イソプロピルイミダゾール、1-シアノメチル-2-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾール、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール等が挙げられる。例えば、リン系化合物としては、トリフェニルホスフィン、トリス-2,6-ジメトキシフェニルホスフィン、トリ-p-トリルホスフィン、亜リン酸トリフェニル等が挙げられる。第3級アミンとしては、2-ジメチルアミノメチルフェノール、ベンジルジメチルアミン、α-メチルベンジルジメチルアミン、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7等が挙げられる。
【0064】
硬化性樹脂組成物がエポキシ樹脂を含む場合、硬化反応触媒として、イミダゾール化合物が好ましく用いられる。
【0065】
<無機充填材>
本発明の硬化性樹脂組成物は、無機充填材を含有することができる。無機充填材により、硬化性樹脂組成物の硬化物の線膨張率を小さくすることができる。
【0066】
無機充填材の材料は無機化合物であれば特に限定されないが、例えば、シリカ、アルミナ、ガラス、コーディエライト、シリコン酸化物、硫酸バリウム、炭酸バリウム、タルク、クレー、雲母粉、酸化亜鉛、ハイドロタルサイト、ベーマイト、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化マンガン、ホウ酸アルミニウム、炭酸ストロンチウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、チタン酸マグネシウム、チタン酸ビスマス、酸化チタン、酸化ジルコニウム、チタン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸バリウム、ジルコン酸バリウム、ジルコン酸カルシウム、リン酸ジルコニウム、及びリン酸タングステン酸ジルコニウム等が挙げられる。これらの中でもシリカが特に好適である。シリカとしては、例えば、無定形シリカ、溶融シリカ、結晶シリカ、合成シリカ、中空シリカ等が挙げられる。またシリカとしては球状シリカが好ましい。無機充填材は1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0067】
無機充填材の平均粒径は、通常5μm以下であり、好ましくは2.5μm以下、より好ましくは1.5μm以下、さらに好ましくは1μm以下である。平均粒径の下限は、特に限定されないが、1nm(0.001μm)以上、又は5nm以上、又は10nm以上等とし得る。無機充填材の平均粒径はミー(Mie)散乱理論に基づくレーザー回折・散乱法により測定することができる。
【0068】
無機充填材は、表面処理剤で処理されていることが好ましく、フッ素含有シランカップリング剤、アミノシラン系カップリング剤、エポキシシラン系カップリング剤、メルカプトシラン系カップリング剤、シラン系カップリング剤、アルコキシシラン化合物、オルガノシラザン化合物、チタネート系カップリング剤等の1種以上の表面処理剤で処理されていることがより好ましく、アミノシラン系シランカップリング剤で処理されていることがさらに好ましい。表面処理剤は、他の成分、例えば樹脂と反応する官能基、例えばエポキシ基、アミノ基又はメルカプト基を有することが好ましく、当該官能基が末端基に結合していることがより好ましい。
【0069】
無機充填材成分の含有量は、硬化性樹脂組成物を硬化させた硬化物の平均線膨張係数を小さくする観点、及び、誘電性能を向上させる観点から、硬化性樹脂組成物中の不揮発分を100重量部とした場合、好ましくは45重量部以上、より好ましくは50重量部以上、さらに好ましくは60重量部以上である。上限は、特に限定されないが、好ましくは85重量部以下であり、より好ましくは80重量部以下、さらに好ましくは75重量部以下である。
【0070】
<難燃剤>
本発明の硬化性樹脂組成物は、難燃剤を含有することができる。難燃剤としては、例えば、ホスファゼン化合物、有機リン系難燃剤、有機系窒素含有リン化合物、窒素化合物、シリコーン系難燃剤、金属水酸化物等が挙げられる。難燃剤は1種単独で用いてもよく、又は2種以上を併用してもよい。
【0071】
硬化性樹脂組成物が難燃剤を含有する場合、難燃剤の含有量は、硬化性樹脂組成物中の不揮発分を100重量部とした場合、好ましくは0.3重量部以上、より好ましくは0.5重量部以上、さらに好ましくは0.7重量部以上である。これにより、硬化性樹脂組成物及びその硬化物に顕著な難燃性を付与することができる。上限は、好ましくは5重量部以下、より好ましくは4重量部以下、さらに好ましくは3重量部以下である。
【0072】
<任意の添加剤>
本発明の硬化性樹脂組成物は、必要に応じて、他の添加剤を含んでいてもよく、斯かる他の添加剤としては、例えば、他の熱可塑性樹脂、有機充填材、有機銅化合物、有機亜鉛化合物及び有機コバルト化合物等の有機金属化合物、並びに増粘剤、消泡剤、レベリング剤、密着性付与剤、及び着色剤等の樹脂添加剤等が挙げられる。
【0073】
熱可塑性樹脂としては、例えばフェノキシ樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエステル樹脂等が挙げられる。但し、ここでいう熱可塑性樹脂は本発明のポリカーボネート樹脂を含まない。
【0074】
有機充填材としては、プリント配線板の絶縁層を形成するに際し使用し得る任意の有機充填材を使用してよく、例えば、ゴム粒子、ポリアミド微粒子、シリコーン粒子等が挙げられる。
【実施例0075】
以下、実施例をあげて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。以下の実施例、および比較例において、各特性の測定法は次のとおりである。
【0076】
(ポリマー評価)
(1)重量平均分子量(Mw)
得られたポリカーボネート樹脂を測定試料として用い、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により重量平均分子量Mwを測定し、ポリスチレン換算法にて求めた。検量線は分子量既知の標準ポリスチレン(東ソーPSオリゴマーキットA-500~F-128までの12タイプ)を使用し、作成した。測定は、東ソー社製「HLC-8220GPC」を用い、カラムは東ソー社製「TSK-gel SuperHZ4000/3000/2000」の3本を使用した。サンプルはポリカーボネート共重合体10mgをクロロホルム(内標トルエン0.05%含有)5mLに溶解し、ミリポア社製「マイレクスLG4」を用いてろ過を行ったものを使用した。測定は40℃、流速0.35mL/minで実施した。溶離液には和光純薬工業社製高速液体クロマトグラフ用クロロホルムを用いた。
【0077】
(2)OH基当量
得られたポリカーボネート樹脂を測定試料として用い、日本電子社製JNM-AL400(共鳴周波数400MHz)を用いて常温の1H-NMRスペクトルを測定し、各化合物に由来する構造単位に基づくシグナル強度比よりポリマー中のOH基当量を算出した。
ポリマー量 40mg
溶媒 重クロロホルム0.6mL
積算回数:256回
【0078】
(3)ガラス転移温度
得られたポリカーボネート樹脂を測定試料として用い、TAインスツルメント社製の熱分析システムDSC-2910を使用して、JIS K7121に従い窒素雰囲気下(窒素流量:40ml/min)、昇温速度:20℃/minの条件下で測定した。
【0079】
(4)比誘電率および誘電正接
得られたポリカーボネート樹脂を塩化メチレンに溶解した溶液から、溶媒を除去して得られた樹脂フィルムを試料とし、誘電率計(アンリツ社ネットワークアナライザーMS46122B、AET社空洞共振器10GHz用)を用いて、周波数10GHzの比誘電率および誘電正接を測定した。
【0080】
(硬化性樹脂組成物および硬化物の作製およびその評価)
エポキシ樹脂として三菱ケミカル社製のjER828(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量184g/eq)を10g、得られたポリカーボネート樹脂4.6gとをメチルエチルケトン25gに溶解し、エポキシ硬化材として、新日本理化社製のリカシッドMH-700を8.6g、エポキシ硬化促進剤として、四国化成工業製のキュアゾール2E4MZとを0.05gを加え、樹脂ワニス(硬化性樹脂組成物)を得た。
【0081】
セロファンフィルムを貼り付けたガラス板を準備し、セロファンフィルム上に樹脂ワニスを垂らして、バーコータ―を用いて幅200mmとなるように塗布した。
塗布後、室温で10分間風乾し、熱風循環式オーブンに入れて、100℃で2時間と150℃で5時間をかけて硬化させた。セロファンフィルムから剥がし、樹脂フィルム(硬化物)を得た。
(1)外観
得られた樹脂ワニスの外観(透明性)を目視で評価した。
(2)線膨張係数
樹脂フィルム5mm角の試験片を切り出した。NETZSCH社製線膨張係数測定装置「TMA4000SE」を用い、昇温速度2℃/分で、30℃における線膨張係数を測定した。
(3)比誘電率および誘電正接
樹脂フィルムを試料とし、誘電率計(アンリツ社ネットワークアナライザーMS46122B、AET社空洞共振器10GHz用)を用いて、周波数10GHzの比誘電率および誘電正接を測定した。
【0082】
[実施例1]
温度計、撹拌機および還流冷却器の付いた反応器に、25%水酸化ナトリウム水溶液210部およびイオン交換水411部を仕込み、これに2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン(ビスフェノールC;表中BPCと表記する、本州化学工業製S-BOC)96部、及びハイドロサルファイトナトリウム0.2部(富士フイルム和光純薬製)を溶解した後、塩化メチレン部413部を加え、撹拌下、15~25℃でホスゲン50部を約75分かけて吹き込んだ。ホスゲンの吹き込み終了後、25%水酸化ナトリウム水溶液210部およびp-tert-ブチルフェノール8.4部(DIC製)を加え、撹拌を再開、乳化後トリエチルアミン(東京化成工業製)2.6部を加え、さらに26~33℃で1時間撹拌して反応を終了した。
【0083】
反応終了後生成物を塩化メチレンで希釈して水洗した後、塩酸酸性にして水洗し、さらに水相の導電率がイオン交換水とほぼ同じになるまで水洗を繰り返し、ポリカーボネート樹脂の塩化メチレン溶液を得た。次いで、この溶液を目開き0.3μmのフィルターに通過させ、さらに軸受け部に異物取り出し口を有する隔離室付きニーダー中の温水に滴下、塩化メチレンを留去しながらポリカーボネート樹脂をフレーク化し、引続き該含液フレークを粉砕・乾燥してパウダーを得た。各特性を測定し、表1に結果を記載した。
【0084】
[実施例2]
温度計、撹拌機および還流冷却器の付いた反応器に、25%水酸化ナトリウム水溶液209部およびイオン交換水242部を仕込み、これにビスフェノールCを11部、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-tert-ブチルフェニル)プロパン(表中BP-OTBPAと表記する、本州化学工業製)129部、及びハイドロサルファイトナトリウム0.3部を溶解した後、塩化メチレン部1073部、テトラブチルアンモニウムブロミド(東京化成工業製)7部、p-tert-ブチルフェノール7.6部を加え、撹拌下、15~25℃でホスゲン50部を約75分かけて吹き込んだ。ホスゲンの吹き込み終了後、撹拌を再開、トリエチルアミン2.1部を加え、さらに26~33℃で1時間撹拌して反応を終了した。
【0085】
反応終了後生成物を塩化メチレンで希釈して水洗した後、塩酸酸性にして水洗し、さらに水相の導電率がイオン交換水とほぼ同じになるまで水洗を繰り返し、ポリカーボネート樹脂の塩化メチレン溶液を得た。次いで、この溶液を目開き0.3μmのフィルターに通過させ、さらに軸受け部に異物取り出し口を有する隔離室付きニーダー中の温水に滴下、塩化メチレンを留去しながらポリカーボネート樹脂をフレーク化し、引続き該含液フレークを粉砕・乾燥してパウダーを得た。各特性を測定し、表1に結果を記載した。
【0086】
[実施例3]
ビスフェノールCの代わりに1,1―ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン26部(表中BP-TMCと表記する、本州化学工業製)を用い、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-tert-ブチルフェニル)プロパン(表中BP-OTBPAと表記する、本州化学工業製)を115部とした以外は実施例2と同様の操作を行い、ポリカーボネート樹脂パウダーを得た。各特性を測定し、表1に結果を記載した。
【0087】
[実施例4]
p-tert-ブチルフェノール5.7部とした以外は実施例3と同様の操作を行い、ポリカーボネート樹脂パウダーを得た。各特性を測定し、表1に結果を記載した。
【0088】
[比較例1]
p-tert-ブチルフェノール1.7部とした以外は、実施例1と同様の操作を行い、ポリカーボネート樹脂パウダーを得た。各特性を測定し、表2に結果を記載した。
【0089】
[比較例2]
p-tert-ブチルフェノール2.0部とした以外は、実施例3と同様の操作を行い、ポリカーボネート樹脂パウダーを得た。各特性を測定し、表2に結果を記載した。
【0090】
[比較例3]
ビスフェノールCの代わりにビスフェノールA(表中BPAと表記する、新日鉄住金化学製)を108部とした以外は実施例1と同様の操作を行い、ポリカーボネート樹脂パウダーを得た。各特性を測定し、表2に結果を記載した。
【0091】
[比較例4]
ポリカーボネート樹脂を添加せずに樹脂フィルム作成した。各特性を測定し、表2に結果を記載した。
【0092】
【0093】
本発明のポリカーボネート樹脂は、低誘電率、低誘電正接を示し、耐熱性に優れ、また、該ポリカーボネート樹脂を硬化剤として使用した硬化性樹脂組成物および該硬化性樹脂組成物を硬化した硬化物は、低誘電率、低誘電正接を示し、透明性に優れ、寸法安定性が良好となることから、かかる硬化性樹脂組成物および硬化物は、高機能性高分子材料として極めて有用であり、電気的、熱的に優れた材料として、プリント配線板の層間絶縁層、半導体封止剤、電気絶縁材料、銅張り積層板用樹脂、レジスト、電子部品の封止用樹脂、液晶のカラーフィルター用樹脂、塗料、各種コーティング剤、接着剤、ビルドアップ積層板材料、繊維強化プラスチック(FRP)材料等の幅広い用途に使用できる。