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特開2025-1741船舶の操舵制御装置および方法、並びに船舶
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025001741
(43)【公開日】2025-01-09
(54)【発明の名称】船舶の操舵制御装置および方法、並びに船舶
(51)【国際特許分類】
   B63H 25/02 20060101AFI20241226BHJP
   B63H 25/04 20060101ALI20241226BHJP
   B63H 25/42 20060101ALI20241226BHJP
【FI】
B63H25/02 B
B63H25/04 D
B63H25/42 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023101381
(22)【出願日】2023-06-21
(71)【出願人】
【識別番号】000010076
【氏名又は名称】ヤマハ発動機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125254
【弁理士】
【氏名又は名称】別役 重尚
(74)【代理人】
【識別番号】100118278
【弁理士】
【氏名又は名称】村松 聡
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 琢真
(57)【要約】
【課題】常に、ステアリングの回転操作により自動操船モードを解除できるようにする。
【解決手段】ステアリングホイール18の回転可能角度は、第1の角度位置θLと第2の角度位置θRとの間に規制されている。コントローラ30は、通常操船モードにおいて自動操船モードの開始指示が取得されたことに応じて自動操船モードへ移行すると共に、自動操船モードにおいてステアリングホイール18の回転角度が閾値角度THを超えて変化したことに応じて通常操船モードへ移行する。コントローラ30は、通常操船モードにおいて、ステアリング角度と第1の角度位置θLとの差が第1の所定差より小さい場合、または、ステアリング角度と第2の角度位置θRとの差が第2の所定差より小さい場合は、自動操船モードの開始指示がされたとしても自動操船モードへ切り替えない。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
左回転方向における回転可能角度が第1の角度位置に規制され且つ右回転方向における回転可能角度が第2の角度位置に規制されたステアリングと、
前記ステアリングの回転角度位置を取得する第1の取得部と、
前記ステアリングの回転操作によらずに自動で操船する自動操船モードの開始指示を取得する第2の取得部と、
通常操船モードにおいて前記開始指示が取得されたことに応じて前記自動操船モードへ移行すると共に、前記自動操船モードにおいて前記ステアリングの回転角度が閾値角度を超えて変化したことに応じて前記通常操船モードへ移行するよう制御する制御部と、を有し、
前記制御部は、前記通常操船モードにおいて、前記第1の取得部により取得された前記ステアリングの回転角度位置と前記第1の角度位置との差が第1の所定差より小さい場合、または、取得された前記ステアリングの回転角度位置と前記第2の角度位置との差が第2の所定差より小さい場合は、前記第2の取得部により前記開始指示が取得されたとしても前記自動操船モードへ移行しない、船舶の操舵制御装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記開始指示が取得された場合において前記自動操船モードへ移行しない場合は、その旨を報知する、請求項1に記載の船舶の操舵制御装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記自動操船モードへ移行しない旨を報知する際、前記第1の角度位置と前記第2の角度位置との間にある中立位置へ前記ステアリングを戻すよう報知する、請求項2に記載の船舶の操舵制御装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記中立位置へ前記ステアリングを戻すよう報知した後、所定時間内に、取得された前記ステアリングの回転角度位置と前記第1の角度位置との差が前記第1の所定差以上で且つ、取得された前記ステアリングの回転角度位置と前記第2の角度位置との差が前記第2の所定差以上となった場合は、前記自動操船モードへ移行する、請求項3に記載の船舶の操舵制御装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記第1の所定差および前記第2の所定差を、船速または前記船舶を推進する推進機における駆動源の回転数の少なくとも一方に基づいて決定する、請求項1に記載の船舶の操舵制御装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記自動操船モードへ移行した場合は、その旨を報知する、請求項1に記載の船舶の操舵制御装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記自動操船モードへ移行した旨を報知する際、前記第1の角度位置と前記第2の角度位置との間にある中立位置へ前記ステアリングを戻すよう報知する、請求項6に記載の船舶の操舵制御装置。
【請求項8】
前記ステアリングの回転操作に対して負荷を発生させる負荷発生部を有し、
前記制御部は、前記自動操船モードへ移行した後、前記第1の角度位置と前記第2の角度位置との間にある中立位置を基準とした所定範囲に前記ステアリングが位置する場合は、前記ステアリングが前記所定範囲に位置しない場合に比べて、前記ステアリングの回転操作に対する負荷が大きくなるよう前記負荷発生部を制御する、請求項1に記載の船舶の操舵制御装置。
【請求項9】
前記ステアリングの回転操作に対して負荷を発生させる負荷発生部を有し、
前記制御部は、前記自動操船モードへ移行した後、前記第1の角度位置と前記第2の角度位置との間にある中立位置を基準とした所定範囲から遠ざかる方向へ前記ステアリングが回転操作される場合は、前記所定範囲に近づく方向へ前記ステアリングが回転操作される場合に比べて、発生する負荷が大きくなるよう前記負荷発生部を制御する、請求項1に記載の船舶の操舵制御装置。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか1項に記載の船舶の操舵制御装置を備える、船舶。
【請求項11】
左回転方向における回転可能角度が第1の角度位置に規制され且つ右回転方向における回転可能角度が第2の角度位置に規制されたステアリングを備える船舶の操舵制御方法であって、
前記ステアリングの回転角度位置を取得し、
前記ステアリングの回転操作によらずに自動で操船する自動操船モードの開始指示を取得し、
通常操船モードにおいて前記開始指示が取得されたことに応じて前記自動操船モードへ移行すると共に、前記自動操船モードにおいて前記ステアリングの回転角度が閾値角度を超えて変化したことに応じて前記通常操船モードへ移行するよう制御し、
前記通常操船モードにおいて、取得された前記ステアリングの回転角度位置と前記第1の角度位置との差が第1の所定差より小さい場合、または、取得された前記ステアリングの回転角度位置と前記第2の角度位置との差が第2の所定差より小さい場合は、前記開始指示が取得されたとしても前記自動操船モードへ移行しない、船舶の操舵制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶の操舵制御装置および方法、並びに船舶に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶において、ステアリング操作によらずに進路を自動制御するなどの自動操船モードを有するものがある。一般に、開始指示の入力により自動操船モードへ移行する。一方、自動操船モードの解除に関して特許文献1、2に開示されている。特許文献1では、船速またはエンジン回転数が所定値より高い場合に自動操船モードが解除される。また、特許文献2では、所定回転以上のステアリングの回転操作があると自動操船モードが解除される。
【0003】
一方、ステアリングの回転可能角度が規制されている船舶がある。このような船舶において、自動操船モードがステアリングの回転操作により解除されるよう構成することが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平01-141198号公報
【特許文献2】特開2015-66979号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ステアリングの回転角度位置が一方の回転規制位置付近にある状態で自動操船モードへ移行した後に、操船者が、自動操船モードの解除を意図して同じ回転方向へステアリングを回転操作する場合が考えられる。この場合、ステアリングは上記一方の回転規制位置を超えて回転することがない。従って、ステアリングを回転操作しようとしても回転せず、意図通りに自動操船モードが解除されないケースが生じる可能性がある。
【0006】
本発明は、常に、ステアリングの回転操作により自動操船モードを解除することができる船舶の操舵制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の一態様による船舶の操舵制御装置は、左回転方向における回転可能角度が第1の角度位置に規制され且つ右回転方向における回転可能角度が第2の角度位置に規制されたステアリングと、前記ステアリングの回転角度位置を取得する第1の取得部と、前記ステアリングの回転操作によらずに自動で操船する自動操船モードの開始指示を取得する第2の取得部と、通常操船モードにおいて前記開始指示が取得されたことに応じて前記自動操船モードへ移行すると共に、前記自動操船モードにおいて前記ステアリングの回転角度が閾値角度を超えて変化したことに応じて前記通常操船モードへ移行するよう制御する制御部と、を有し、前記制御部は、前記通常操船モードにおいて、前記第1の取得部により取得された前記ステアリングの回転角度位置と前記第1の角度位置との差が第1の所定差より小さい場合、または、取得された前記ステアリングの回転角度位置と前記第2の角度位置との差が第2の所定差より小さい場合は、前記第2の取得部により前記開始指示が取得されたとしても前記自動操船モードへ移行しない。
【0008】
この構成によれば、ステアリングは、左回転方向における回転可能角度が第1の角度位置に規制され且つ右回転方向における回転可能角度が第2の角度位置に規制されている。通常操船モードにおいて自動操船モードの開始指示が取得されたことに応じて前記自動操船モードへ移行すると共に、前記自動操船モードにおいて前記ステアリングの回転角度が閾値角度を超えて変化したことに応じて前記通常操船モードへ移行するよう制御される。前記通常操船モードにおいて、取得された前記ステアリングの回転角度位置と前記第1の角度位置との差が第1の所定差より小さい場合、または、取得された前記ステアリングの回転角度位置と前記第2の角度位置との差が第2の所定差より小さい場合は、前記第2の取得部により前記開始指示が取得されたとしても前記自動操船モードへ移行されない。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、常に、ステアリングの回転操作により自動操船モードを解除することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】操舵制御装置が適用される船舶の上面図である。
図2】操船システムのブロック図である。
図3】ステアリングホイールをほぼ正面から見た図である。
図4】操船モードの遷移を示すタイミングチャートである。
図5】通常操船モード中の制御を実現するための第1の機能ブロック、APモードから通常操船モードに復帰する復帰処理を実現するための第2の機能ブロックを示す図である。
図6】モード切り替え処理のフローチャートである。
図7】APモード中処理のフローチャートである。
図8】通常操船モード復帰処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
【0012】
図1は、本発明の一実施形態に係る操舵制御装置が適用される船舶の上面図である。この船舶11は、船体13と、船体13を推進させる推進機としての複数(例えば一対)の船外機15(15A、15B)とを備えている。船体13の操船席付近には、中央ユニット10、ステアリングホイール18、リモコンユニット12が備えられる。
【0013】
以下の説明において、前後左右上下の各方向は、船体13の前後左右上下の各方向を意味する。例えば、図1に示すように、船体13の前後方向に延びる中心線C1は、船舶11の重心Gを通過する。前後方向は、中心線C1に平行な方向である。前方は、図1の中心線C1に沿って上方に向かう方向である。後方は、図1の中心線C1に沿って下方に向かう方向である。左右方向については、船体13を後方から見た場合を基準とする。鉛直方向は、前後方向及び左右方向に垂直な方向である。
【0014】
2つの船外機15は、船体13の船尾に並べて取り付けられている。2つの船外機15を区別するときには、左舷に配置されたものを「船外機15A」、右舷に配置されたものを「船外機15B」と呼称する。船外機15A、15Bはそれぞれ、取付ユニット14(14A、14B)を介して船体13に取り付けられている。船外機15A、15Bはそれぞれ、駆動源であるエンジン16(16A、16B)を有する。
【0015】
船外機15は各々、対応するエンジン16の駆動力によって回転されるプロペラ(不図示)によって推進力を得る。取付ユニット14やエンジン16等についても、船外機15A、15Bに対応して区別するときは、それぞれ取付ユニット14A、14Bやエンジン16A、16Bと呼称する。
【0016】
リモコンユニット12は2つのスロットルレバーを含み、エンジン16A、16Bの出力の調整、及び前後進の切換のために操作される。各スロットルレバーは、それぞれゼロ操作位置から前進方向と後進方向とに操作可能である。
【0017】
船外機15A、15Bの構成は互いに共通であるので、1つの船外機15について説明する。船外機15は、船外機本体を船体13に取り付ける取付ユニット14と、転舵軸(図示せず)とを備えている。転舵軸は船外機本体に設けられ、取付ユニット14により支持されている。船外機本体は、転舵軸を中心として左右に転舵可能に構成されている。船外機本体は、転舵軸および取付ユニット14を介して、船体13の後部に取り付けられている。ステアリングホイール18が操作されることによって、船外機本体は回動中心C2を中心に左右(R1方向)に回動する。これにより、船舶11が操舵される。また、船外機本体は、取付ユニット14を介して、チルト軸(不図示)を中心に回動自在である。
【0018】
図2は、船舶11における操船システムのブロック図である。この操船システムは、本実施形態の操舵制御装置を含む。
【0019】
操船システムは、コントローラ30、エンジン16A、16Bのほか、回転角度センサ31、転舵角センサ32、各種センサ33、各種操作子34、負荷発生部35、表示部36、転舵アクチュエータ37を有する。
【0020】
コントローラ30は、CPU38、ROM39、RAM40および不図示のタイマを含む。ROM39は制御プログラムを格納している。CPU38は、ROM39に格納された制御プログラムをRAM40に展開して実行することにより、各種の制御処理を実現する。RAM40は、CPU38が制御プログラムを実行する際のワークエリアを提供する。
【0021】
転舵アクチュエータ37は、船外機15A、15Bに対応して設けられる。転舵アクチュエータ37は、回動中心C2(図1)まわりに、対応する船外機15を船体13に対して回動させる。従って、転舵駆動部としての転舵アクチュエータ37は、対応する船外機15の転舵角を変化させる。回動中心C2を中心とする船外機15A、15Bのそれぞれの回動によって、船体13の中心線C1に対して推進力が作用する方向を変化させることができる。
【0022】
転舵角センサ32は、船外機15A、15Bに対応して設けられ、対応する船外機15A、15Bの実転舵角を検出する。なお、コントローラ30は、実転舵角を、転舵アクチュエータ37へ出力された転舵指令値から取得してもよい。
【0023】
回転角度センサ31は、ステアリングホイール18の回転角度位置を検出する。各種センサ33は、スロットル開度センサ、スロットルセンサ、エンジン回転数センサ、船体速度センサ、船体加速度センサ、方位センサ、距離センサ、姿勢センサ、位置センサ、GPSセンサなどを含む。回転角度センサ31および各種センサ56による検出信号はコントローラ30に供給される。スロットル開度センサ、エンジン回転数センサは、対応する船外機15に設けられる。船体速度センサ、船体加速度センサ、方位センサ、距離センサ、姿勢センサ、位置センサは、例えば、中央ユニット10に含まれるか、または中央ユニット10の付近に配置される。
【0024】
エンジン回転数センサは、対応するエンジン16の単位時間当たりの回転数を検出する。スロットル開度センサは、不図示のスロットルバルブの開度を検出する。船体速度センサ、船体加速度センサはそれぞれ、船舶11(船体13)の航行の速度(船速)、加速度を検出する。姿勢センサは、例えば、ジャイロセンサおよび磁気方位センサ等を含む。なお、船速や船体加速度は、GPSセンサで受信されるGPS信号から取得されてもよい。
【0025】
各種操作子34は、操船に関する操作をするための操作子のほか、各種設定を行うための設定操作子、各種指示を入力するための入力操作子を含む。各種操作子34は、中央ユニット10に含まれるか、または中央ユニット10の付近に配置され、その一部はステアリングホイール18に配置されてもよい。各種操作子34は操船者によって操作され、その操作信号がコントローラ30に供給される。
【0026】
なお、コントローラ30は、回転角度センサ31、転舵角センサ32、各種センサ33、各種操作子34等とは、所定の通信を確立して情報をやりとりしてもよい。表示部36は、各種情報を表示する。
【0027】
負荷発生部35は、一例としてステアリングホイール18の回転操作に対して負荷を発生させる電磁ブレーキである。例えば、電磁ブレーキが非通電状態であるときは、ステアリングホイール18の回転トルクに対して回転負荷は非常に小さいかまたはゼロとなり、電磁ブレーキが通電状態にあるときは、大きな回転負荷が作用する。なお、負荷発生部35は、ステアリングホイール18の回転操作に対して負荷を発生させる構成であればよく、他の構成を採用してもよい。
【0028】
なお、このほか、船外機15をチルト軸まわりに回動させるパワートリム&チルト機構(PTT機構)や、タブ本体を駆動するトリムタブアクチュエータ等を備えてもよい。
【0029】
なお、コントローラ30は、各船外機15に設けられる船外機ECU(図示せず)を介して、各エンジン16を制御してもよい。なお、上記したセンサの全てを備えることは必須でない。
【0030】
図3は、ステアリングホイール18をほぼ正面から見た図である。ステアリングホイール18は、中央部44と、環状のホイール部43と、3つのスポーク部(第1のスポーク部45、第2のスポーク部46、第3のスポーク部47)と、を有する。ステアリングホイール18は、ステアリング軸42の軸線である回転支点C0回りに回転可能に船体13に支持されている。
【0031】
回転支点C0の軸線方向からみて、スポーク部47の幅方向中心位置と回転支点C0とを通る仮想直線を仮想直線L0とする。ステアリングホイール18の回転可能角度は有限であり、回転範囲には中立位置の概念が存在する。図3ではステアリングホイール18は中立位置にある。中立位置では、ホイール部43における仮想直線L0上の点P0が、正面から見て回転支点C0の真上に位置する。中立位置は、船体13を直進させるときのステアリングホイール18の回転位置である。
【0032】
ステアリングホイール18は、中立位置から左に角度θ11、右に角度θ12だけ回転可能である。角度θ11、θ12は共に135°である。すなわち、ステアリングホイール18の回転可能角度θ10は、中立位置を基準として、左回転方向における回転端位置である第1の角度位置θLに規制され且つ、右回転方向における回転端位置である第2の角度位置θRに規制されている。一例として、中立位置の角度位置をゼロとすれば、第1の角度位置θLは-135°であり、第2の角度位置θRは+135°である。
【0033】
「移行禁止範囲」および「移行可能範囲」の意義については図4以降で後述する。第1の角度位置θLから右回転方向に第1の所定差までの回転範囲を移行禁止範囲θ13とする。第2の角度位置θRから左回転方向に第2の所定差までの回転範囲を移行禁止範囲θ15とする。一例として、第1の所定差、第2の所定差は共に45°であるとする。従って、移行禁止範囲θ13、θ15は共に、回転可能角度θ10の端位置から中立方向へ45°の範囲である。角度θ14および角度θ16の範囲が移行可能範囲である。角度θ14、角度θ16は共に90°であり、従って移行可能範囲は180°である。
【0034】
なお、θ10~θ16値は例示した値に限定されない。また、θ11値とθ12値、θ13値とθ15値、θ14値とθ16値とは、それぞれ互いに異なる値であってもよい。
【0035】
ステアリングホイール18は、複数のスイッチを備える。例えば、ステアリングホイール18の表面に、切替スイッチ59、左スイッチ53および右スイッチ54が配置されている。これらのスイッチは各種操作子34(図2)に含まれる。
【0036】
ここで、操船モードについて説明する。操船モードには、大別して「通常操船モード」と「自動操船モード」とがある。以下、自動操船モードを「APモード」と称する。切替スイッチ59が押下操作される度に操船モードが切り替わる。
【0037】
通常操船モードは、ステアリングホイール18の回転操作等に応じて操船するモードである。例えば、通常操船モードにおいては、コントローラ30は、リモコンユニット12におけるスロットルレバーの操作量や操作方向、さらにはステアリングホイール18の回転角度位置に応じて、エンジン16L、16Rの回転速度や回転方向、転舵アクチュエータ37による転舵角を制御する。
【0038】
APモードは、ステアリングホイール18の回転操作によらずに自動で操船するモードである。例えば、APモードには、一定の進路を保持する進路保持走行、一定の方位を保持する方位保持走行のほか、横移動、斜め移動、その場回頭など、複数種類のモードがある。APモードの種類は各種操作子34における設定操作子や入力操作子の操作に応じて指定される。コントローラ30は、2つの船外機15の転舵角、シフト位置、エンジン回転数などを制御することで、指定された種類のAPモードを実現する。
【0039】
なお、APモード中に各種操作子34のうち所定の操作子が操作されると所定の動作が実行されてもよい。例えば、コントローラ30は、左スイッチ53または右スイッチ54が操作されると、船体13を一時的に左または右に横移動させるよう制御してもよい。
【0040】
図4は、操船モードの遷移を示すタイミングチャートである。横軸に時間軸(Time)をとり、縦軸にはステアリングホイール18の回転角度位置(以下、ステアリング角度と略称することがある)と、船外機15A、15Bの実転舵角と、をとっている。なお、ここでは指示された方位へ直進することを想定するため、船外機15A、15Bの実転舵角(実線)は互いに共通とする。ステアリング角度は点線で示されている。
【0041】
コントローラ30は、通常操船モード中に切替スイッチ59が操作される等によってAPモードの開始指示が取得されたことに応じて、操船モードをAPモードへ切り替える。コントローラ30は、APモード中において、APモードの解除が指示されたことに応じて、通常操船モード復帰処理(復帰制御)を開始する。APモードの解除の態様は1つ以上あるが、そのうち代表的な態様は、ステアリング角度を、閾値角度TH(例えば、±10°)を超えて変化させることである。ステアリング角度が閾値角度THを超えて変化した場合は、手動での操船を再開する意思があると考えられるからである。
【0042】
ここで、コントローラ30は、通常操船モード中にAPモードの開始が指示された場合において、ステアリング角度が移行可能範囲(角度θ14および角度θ16)にあればAPモードへ切り替え、ステアリング角度が移行禁止範囲θ13、θ15にあればAPモードへ切り替えない。
【0043】
仮に、ステアリング角度が移行禁止範囲θ13、θ15にある場合でもAPモードへ切り替えたとする。この場合、ステアリング角度がAPモードへの切り替え時のままの状態で操船者が手動での操船を再開しようと意図しても、ステアリング角度を、閾値角度THを超えて変化させることができないケースが生じる可能性がある。例えば、ステアリング角度が左回転端位置付近にあるときには、ステアリングホイール18を左方向へさらに回転させる余地が少ない。このようなケースを抑制するために、移行禁止範囲θ13、θ15が設けられている。
【0044】
図4に示す時点T0では、システムの始動によって、通常操船モードが開始される。時点T1でAPモードの開始が指示されたことに応じて、APモードの開始が試みられる。ステアリング角度が移行可能範囲にある等の、APモードへの移行条件が満たされればAPモードへ切り替わる。なお、APモードへの移行条件の判定を含むAPモードの開始に関する処理の詳細については主に図6で説明する。
【0045】
APモード中の処理については主に図7で説明する。APモード中においては、指示された方位へ船体13が直進するようになると、実転舵角はゼロに収束する。APモード中においては、ステアリングホイール18を中立位置へ戻すよう報知される。これに応答して操船者がステアリングホイール18を中立位置へ戻すと、ステアリング角度は実転舵角と理想的には一致する(時点T2)。
【0046】
時点T3で、APモードの解除が指示される。この時点で、何らかの理由により、ステアリング角度が実転舵角と一致せず、両者間に乖離がある場合がある。コントローラ30は、ステアリング角度と実転舵角との間に所定以上の差がある場合に、乖離があると判定する。乖離がある場合は、コントローラ30は、乖離を低減させてから通常操船モードを開始する。この間(時点T3~T6)の制御処理が、通常操船モードへの「復帰処理」である(主に図8で説明する)。
【0047】
この復帰処理において、コントローラ30は、ステアリングホイール18が回転停止中である(ステアリング角度が前回取得時から所定角度を超えて変化していない)場合、コントローラ30は「停止中制御(第1の制御)」を実行する。
【0048】
概略を説明すると、停止中制御では、コントローラ30は、ステアリング角度に対応する転舵角と実転舵角との乖離が小さくなるように転舵アクチュエータ37を制御する。ここで、「ステアリング角度に対応する転舵角」は、仮に通常操船モードであった場合に、現在のステアリングホイール18の回転角度位置によって定まる指令上の転舵角のことである。通常操船モード開始時における乖離が小さくなることで、ステアリング操作上の違和感を抑制することができる。例えば、時点T5~時点T6においては停止中制御が適用されており、時点T6で乖離が解消されている。従って、APモード中に乖離を小さくするような回転操作を必要とすることなく、通常操船モード開始時におけるステアリング操作上の違和感が抑制される。
【0049】
一方、復帰処理において、コントローラ30は、ステアリングホイール18が回転中である(ステアリング角度が前回取得時から所定角度を超えて変化した)場合、「回転中制御(第2の制御)」を実行する。
【0050】
回転中制御においては、ステアリングホイール18の回転方向と実転舵角との関係によって、ステアリングホイール18の回転量に対応する実転舵角の変化量が補正される。例えば、コントローラ30は、ステアリング角度に対応する転舵角が実転舵角に近づく方向へステアリングホイール18が回転している場合は、ステアリングホイール18の回転量に対応する転舵角をより小さい値に補正した値だけ実転舵角を変化させる。時点T4~時点T5においてはこの制御が適用されており、ステアリング角度に対応する転舵角の変化よりも実転舵角の変化の方が小さくなっている。両者の変化の方向は共通である。
【0051】
一方、コントローラ30は、回転中制御においてステアリング角度に対応する転舵角が実転舵角から遠ざかる方向へステアリングホイール18が回転している場合は、ステアリングホイール18の回転量に対応する転舵角をより大きい値に補正した値だけ実転舵角を変化させる。時点T3~時点T4においてはこの制御が適用されており、ステアリング角度に対応する転舵角の変化よりも実転舵角の変化の方が大きくなっている。両者の変化の方向は共通である。
【0052】
このように、回転中制御によれば、APモード中にステアリングホイール18の回転操作がなされても、乖離が小さくなっていくので、通常操船モード開始時におけるステアリング操作上の違和感を抑制することができる。
【0053】
図5(a)は、通常操船モード中の制御を実現するための第1の機能ブロックを示す図である。図5(b)は、APモードから通常操船モードに復帰する復帰処理を実現するための第2の機能ブロックを示す図である。なお、図5(a)、(b)に示す機能ブロックの両方を備えることは必須でなく、実現を所望する制御に応じて備えればよい。
【0054】
第1の機能ブロック(図5(a))は、機能部として、第1の取得部61、第2の取得部62、制御部63を含む。第2の機能ブロック(図5(b))は、機能部として、第1の取得部64、第2の取得部65、判定部66、制御部67を含む。第1の機能ブロックおよび第2の機能ブロックの各機能部は、主として、構成要素31~37およびエンジン16とコントローラ30との協働により実現される。
【0055】
まず、第1の機能ブロック(図5(a))において、第1の取得部61の機能は、主に回転角度センサ31およびコントローラ30により実現される。第1の取得部61は、回転角度センサ31から、ステアリングホイール18の回転角度位置(ステアリング角度)を取得する。
【0056】
第2の取得部62の機能は、主に切替スイッチ59およびコントローラ30により実現される。第2の取得部62は、切替スイッチ59の操作信号から、APモードの開始指示を取得する。
【0057】
制御部63の機能は、主にコントローラ30により実現される。制御部63は、通常操船モードにおいてAPモードの開始指示が取得されたことに応じてAPモードへ移行すると共に、APモードにおいてステアリング角度が閾値角度THを超えて変化したことに応じて通常操船モードへ移行するよう制御する。さらに制御部63は、通常操船モードにおいて、ステアリング角度が移行禁止範囲θ13、θ15にある場合はAPモードへ切り替えない。すなわち制御部63は、取得されたステアリング角度と第1の角度位置θLとの差が第1の所定差より小さい場合、または、取得されたステアリング角度と第2の角度位置θRとの差が第2の所定差より小さい場合は、APモードの開始指示がされたとしてもAPモードへ切り替えない。
【0058】
次に、第2の機能ブロック(図5(b))において、第1の取得部64の機能は第1の取得部61の機能と同様である。第2の取得部65の機能は第2の取得部62の機能と同様である。
【0059】
判定部66の機能は、主にコントローラ30により実現される。判定部66は、第1の取得部64により取得されたステアリングホイール18の回転角度位置(ステアリング角度)に基づいて、ステアリングホイール18の回転が停止中であるか否かを判定する。
【0060】
制御部67の機能は、主にコントローラ30により実現される。制御部67は、上記復帰処理において、ステアリングホイール18の回転が停止中であるか否かと、ステアリングホイール18の回転方向と実転舵角との関係とに基づいて、上記停止中制御または上記回転中制御を実行する。
【0061】
図6は、モード切り替え処理のフローチャートである。この処理は、CPU38が、ROM39に格納されたプログラムをRAM40に展開して実行することにより実現される。この処理は、例えば、操船システムが起動されると開始される。
【0062】
図7は、図6のステップS107で実行されるAPモード中処理のフローチャートである。図8は、図7のステップS207で実行される通常操船モード復帰処理のフローチャートである。図4も併せて参照しつつモード切り替え処理を説明する。
【0063】
図6のモード切り替え処理が開始された直後は、初期化が実行され、操船モードは通常操船モードに設定される(図4の時点T0)。また、情報の取得や指示の出力を可能にするために、センサ類や操作子類との通信が確立される。
【0064】
ステップS101では、コントローラ30は、その他の処理を実行する。ここでは、コントローラ30は、タイマによる計時をスタートさせたり、通信が遮断されている場合は通信を確立する等の処理を実行したりする。また、コントローラ30は、強制終了の指示が入力された場合は、図6のモード切り替え処理を終了させてもよい。
【0065】
ステップS102では、コントローラ30は、第1の所定時間(例えば、1秒)未満の通信遮断の継続状態から復帰した状態か否かを判別する。例えば、回転角度センサ31からのステアリングホイール18の回転角度位置の検出結果(ステアリング角度)を取得できないかまたは転舵角センサ32からの実転舵角を取得できない状態となった後、第1の所定時間(1秒)の経過前に、これら両者を取得できる状態へ復帰した場合は、Yesと判別される。このような状況においては、ステアリング角度と実転舵角との乖離が生じている可能性がある。そこでコントローラ30は、復帰処理を実行するため、図7のステップS207(図8の通常操船モード復帰処理)へ移行する(時点T3)。なお、コントローラ30は、通信断線状態が継続する等によって、実転舵角やステアリング角度を取得できない状態が第1の所定時間以上継続した場合は、エラーを報知すると共に停船させてもよい。
【0066】
一方、第1の所定時間未満の通信遮断の継続状態から復帰した状態に該当しない場合は、コントローラ30は、ステップS103に進む。ステップS103では、コントローラ30は、切替スイッチ59からの操作信号を受信する等によってAPモードの開始指示が取得されたか否かを判別する。コントローラ30は、APモードの開始指示が取得されない場合は、ステップS101に戻り、APモードの開始指示が取得された場合は、ステップS104に進む。
【0067】
ステップS104では、コントローラ30は、移行禁止範囲θ13、θ15を決定する。一例として、コントローラ30は、各種センサ33の船体速度センサにより検出された船速または各種センサ33のエンジン回転数センサにより検出されたエンジン回転数の少なくとも一方に基づいて、第1の角度位置θLからの上記第1の所定差および第2の角度位置θRからの上記第2の所定差を決定する。これにより移行禁止範囲θ13、θ15が定まる。例えば、船速が速いほど移行禁止範囲θ13、θ15は広く、エンジン回転数が速いほど移行禁止範囲θ13、θ15は広くなる。
【0068】
なお、本実施形態では移行禁止範囲θ13、θ15を動的に変化させたが、これらを固定値としてもよい。この場合、ステップS104の処理を省略してもよい。
【0069】
ステップS105では、コントローラ30は、APモードへの移行条件が成立するか否かを判別する。例えば、APモードへの移行条件は、現在のステアリング角度が移行禁止範囲θ13、θ15に属さず、移行可能範囲に属することである。なお、これに加えて、各種センサ33の姿勢センサからの検出信号によって取得されるヨーレートが所定以内であることを移行条件としてもよい。
【0070】
コントローラ30は、APモードへの移行条件が成立しない場合は、ステップS108に進み、報知処理を実行する。この報知処理は、例えば、表示部36を用いたメッセージの表示、不図示のLEDを用いた点灯表示、不図示の音発生器を用いた音声メッセージ、の少なくとも1つにより実行されてもよい(以下でも同様)。この報知処理では、例えば、コントローラ30は、APモードへ移行できない旨を報知する。さらに、ステアリングホイール18を中立位置へ戻すよう報知してもよい。ステアリングホイール18を中立位置へ戻す報知に応答して、操船者がステアリングホイール18を中立位置の方向へ回転操作することで、ステアリング角度が移行禁止範囲θ13、θ15から外れて移行可能範囲に属するようになる可能性がある。
【0071】
ステップS109では、コントローラ30は、最初のステップS108での報知処理の開始から第2の所定時間が経過したか否かを判別する。コントローラ30は、当該第2の所定時間が経過していない場合はステップS105に戻り、当該第2の所定時間が経過した場合はステップS110に進む。
【0072】
ステップS110では、第2の所定時間が経過してもAPモードへの移行条件が成立しなかったので、コントローラ30は、報知処理を実行してから、ステップS101に戻る。この報知処理では、コントローラ30は、APモードへ移行できなかった旨を報知する。さらに、ステアリングホイール18を中立位置へ戻すよう報知してもよい。ステアリングホイール18を中立位置へ戻す報知に応答して、操船者がステアリングホイール18を中立位置の方向へ回転操作することで、ステアリング角度が移行禁止範囲θ13、θ15から外れて移行可能範囲に属するようになる可能性がある。この場合、再開されたステップS101以降の処理において、操船者が再度、APモード開始を指示すれば、APモードへ移行できる可能性がある。
【0073】
ステップS105での判別の結果、コントローラ30は、APモードへの移行条件が成立する場合は、ステップS106へ進む。また、ステップS105、S108、S109のループ中にAPモードへの移行条件が成立すれば、コントローラ30は、ステップS105からステップS106へ移行する。例えば、操船者がステアリングホイール18を中立位置の方向へ回転操作することで、ステアリング角度が移行可能範囲に属するようになると、ステップS106に移行できる。この場合、操船者は、APモード開始を再度指示することなく、APモードへ移行させることができる。なお、ステップS108、S109を設けることは必須でない。
【0074】
ステップS106では、コントローラ30は、APモードを開始する(時点T1)。ステップS107では、コントローラ30は、APモード中処理(図7)を実行する(時点T1~時点T3)。ステップS107の後、コントローラ30は、ステップS101に戻る。
【0075】
図7のステップS201では、コントローラ30は、報知処理を開始する。この報知処理では、コントローラ30は、例えば、APモードへ移行した旨を報知する。さらに、ステアリングホイール18を中立位置へ戻すよう報知してもよい。
【0076】
ステップS202では、コントローラ30は、その他の処理を実行する。ここでは、コントローラ30は、ステアリング角度等の各種検出値を取得したり、タイマによる計時をスタートさせたりする。コントローラ30は、今回取得したステアリング角度を基準位置として設定・更新する。その他の処理ではまた、コントローラ30は、通信が遮断されている場合は通信を確立する等の処理を実行する。なお、通信遮断状態が第1の所定時間以上継続した場合は、エラーを報知すると共に停船させてもよい。また、コントローラ30は、強制終了の指示が入力された場合は、モード切り替え処理(図6)を終了させてもよい。
【0077】
ステップS203では、コントローラ30は、APモード解除条件が成立するか否かを判別する。上述したように、APモード解除条件の1つには、ステアリング角度が閾値角度THを超えて変化したことが含まれる。このほか、APモード解除条件の1つには、切替スイッチ59が操作されたこと(APモード中の再度押し)が含まれる。従って、ステップS202で設定した基準位置からステアリング角度が閾値角度THを超えて変化した場合や、切替スイッチ59が押された場合は、APモード解除条件が成立する。このようなケースでは、手動操船の意思があると考えられるからである。このほか、左スイッチ53、右スイッチ54等、他の操作子の操作もAPモード解除条件の1つに含めてもよい。
【0078】
コントローラ30は、APモード解除条件が成立する場合は、ステップS207に進み(時点T3)、通常操船モード復帰処理(図8)を実行してから、APモード中処理(図7)を終了させる。一方、APモード解除条件が成立しない場合は、コントローラ30は、ステップS204に進む。
【0079】
なお、上述したように、APモード解除条件が成立する前に操船者がステアリングホイール18を中立位置へ戻した場合は、通常操船モードへ復帰した時点でのステアリング角度と実転舵角との乖離が小さくなることが期待される。これにより、通常操船モードへの復帰時に急激な転舵角の変更が生じないようにし、違和感を抑制することができる。さらには、ステアリングホイール18が中立位置にあることで、ステアリングホイール18上の操作子の現在位置がわかりやすくなるので、APモード中にスイッチ類の操作がしやすくなる。例えば、左スイッチ53、右スイッチ54は、それぞれ本来の左、右に位置するので、操作しやすい。
【0080】
ステップS204では、コントローラ30は、最後に取得したステアリング角度が中立範囲(所定範囲)に属するか否かを判別する。ここで、中立範囲は、中立位置から所定角度範囲(例えば、±10°)であり、予め定め得られている。そして、最後に取得したステアリング角度が中立範囲に属する場合は、コントローラ30は、ステップS205に進み、ステップS201で開始していた報知処理を停止させる。これは、ステアリング角度が中立範囲に位置すれば、通常操船モードに復帰した時点でのステアリング角度と実転舵角との乖離が小さいと考えられるからである。
【0081】
ステップS206では、コントローラ30は、双方向への負荷をオンにする。具体的には、コントローラ30は、負荷発生部35を駆動して、回転方向を問わず、ステアリングホイール18の回転操作に対して負荷(フリクション)を発生させる。これにより、中立範囲にあるステアリングホイール18を左右いずれの方向に回転させる場合にも負荷が作用するので、中立範囲に留まらせるよう操船者に触覚的に促す効果がある。なお、APモード処理から抜ける際には双方向への負荷は解除される。ステップS206の後、コントローラ30は、ステップS202に戻る。
【0082】
なお、ステップS206では、ステアリング角度が中立範囲に属しない場合に比べて負荷が大きくなるよう制御すればよい。従って、ステアリング角度が中立範囲に属しない場合の負荷はゼロより大きくてもよい。
【0083】
ステップS204での判別の結果、最後に取得したステアリング角度が中立範囲に属しない場合は、コントローラ30は、ステップS208に進む。ステップS208では、コントローラ30は、中立範囲から遠ざかる方向へのステアリング回転操作があったか否かを判別する。これは、ステアリング角度の前回取得値と今回取得値とから判別される。そして、コントローラ30は、中立範囲から遠ざかる方向へのステアリング回転操作があった場合は、ステップS209に進み、コントローラ30は、中立範囲から遠ざかる方向へのステアリング回転操作がない場合は、ステップS210に進む。
【0084】
ステップS209では、コントローラ30は、負荷をオンにする。具体的には、コントローラ30は、負荷発生部35を駆動して、中立範囲から遠ざかる方向へのステアリングホイール18の回転操作に対して負荷を発生させる。一方、ステップS210では、コントローラ30は、負荷をオフにする。従って、ステアリングホイール18の回転操作に対して負荷を発生させない。このような、いわゆる片方向ブレーキの処理により、ステアリングホイール18を中立範囲に留まらせるよう操船者に触覚的に促す効果がある。
【0085】
なお、中立範囲から遠ざかる方向へステアリング回転操作された場合に、中立範囲に近づく方向へステアリング回転操作される場合に比べて、負荷が大きくなるよう制御すればよい。従って、中立範囲に近づく方向へステアリング回転操作される場合の負荷はゼロより大きくてもよい。
【0086】
ステップS209、S210の後、コントローラ30は、ステップS202に戻る。
【0087】
図8のステップS301では、コントローラ30は、その他の処理を実行する。ここでは、コントローラ30は、実転舵角等の各種検出値を取得したり、タイマによる計時をスタートさせたりする。また、コントローラ30は、後述するステップS304でステアリングホイール18が回転停止中であるか否かの判別に用いるステアリング角度の取得期間を確保するために、一定の時間を待機する。また、コントローラ30は、通信が遮断されている場合は通信を確立する等の処理を実行する。なお、通信遮断状態が第1の所定時間以上継続した場合は、エラーを報知すると共に停船させてもよい。また、コントローラ30は、強制終了の指示が入力された場合は、モード切り替え処理(図6)を終了させてもよい。
【0088】
ステップS302では、コントローラ30は、ステアリング角度を取得する。ステップS303では、コントローラ30は、取得したステアリング角度と実転舵角との間に乖離がある(所定以上の差がある)か否かを判別する。そして、乖離がある場合は、コントローラ30は、ステップS304に進む。
【0089】
ステップS304では、コントローラ30は、ステアリングホイール18が回転停止中であるか否かを判別する。これは、ステアリング角度の前回値と今回値とから判別され、両者の差が所定角度差未満であれば回転停止中と判別される。そしてコントローラ30は、ステアリングホイール18が回転停止中である場合は、ステップS305に進み、ステアリングホイール18が回転停止中でない場合は、ステップS306に進む。
【0090】
ステップS305では、上述したように、コントローラ30は、停止中制御(第1の制御)を実行する(時点T5~T6)。停止中制御には次に説明する2つの手法が考えられ、いずれか1つが採用される。なお、いずれの手法を採用するかは、操船者が決定できるようにしてもよい。
【0091】
まず、停止中制御の第1の手法では、コントローラ30は、乖離が小さくなるように転舵アクチュエータ37を制御する際の、船外機15の転舵角の時間当たりの変化量Δを、乖離の量に基づいて決定する。例えば、乖離の量が大きいほど、船外機15の転舵角を速く変化させる。また、その際、コントローラ30は、目標時間内(例えば、10秒)に乖離がなくなるように変化量Δを決定してもよい。このように変化量Δを決定することで、適切な速さで、しかも、目標時間内に違和感を解消することができる。
【0092】
停止中制御の第2の手法では、コントローラ30は、船速またはエンジン回転数の少なくとも一方に基づいて変化量Δを決定する。例えば、船速等が速いほど、変化量Δを小さい値に設定する。これにより、回転操作を必要とすることなく、通常操船モードへの復帰時に急激な転舵角の変更が生じないようにすることができ、通常操船モードへの移行を円滑化することができる。
【0093】
なお、コントローラ30は、目標時間を定めずに、変化量Δを、乖離の量、船速またはエンジン回転数の少なくとも1つに基づいて決定してもよい。
【0094】
ステップS306では、上述したように、コントローラ30は、回転中制御(第2の制御)を実行する(時点T3~T5)。コントローラ30は、ステアリング角度に対応する転舵角が実転舵角から遠ざかる/近づく方向へステアリングホイール18が回転している場合は、ステアリングホイール18の回転量に対応する転舵角をより大きい/小さい値に補正した値だけ実転舵角を変化させる。
【0095】
なお、ステアリングホイール18の回転量に対応する転舵角を補正する補正割合は、固定値でもよい。あるいは、補正割合を、乖離の量、船速またはエンジン回転数の少なくとも1つに基づいて決定してもよい。これにより、ステアリングホイール18が回転操作された場合であっても乖離が小さくなっていくので、通常操船モードへの復帰時に急激な転舵角の変更が生じないようにすることができ、通常操船モードへの移行を円滑化することができる。
【0096】
ステップS305、S306の後、コントローラ30は、ステップS301に戻る。
【0097】
ステップS303での判別の結果、取得したステアリング角度と実転舵角との間に乖離がない場合は、ステップS307に進む。ステップS307では、コントローラ30は、通常操船モードを開始する(時点T6)。従って、ステップS304を経てステップS307に移行した場合は、乖離を低減させる制御により乖離が解消された後に通常操船モードが開始される。従って、通常操船モード開始時におけるステアリング操作上の違和感を抑制することができる。
【0098】
コントローラ30は、通常操船モードを開始した場合、ステップS308では、その旨を報知する。これにより、通常操船モードへの復帰を知らせることができる。ステップS308の後、コントローラ30は、通常操船モード復帰処理(図8)を終了する。
【0099】
なお、通常操船モード復帰処理によれば、停止中制御の開始後、乖離がなくなる前にステアリングホイール18が回転中となった場合は、停止中制御が終了されると共に回転中制御が実行される(S305後のS304→S306)。一方、回転中制御の開始後、乖離がなくなる前にステアリングホイール18が回転停止中となった場合は、回転中制御が終了されると共に停止中制御が実行される(S306後のS304→S305)。従って、ステアリングホイール18の回転と回転停止が繰り返された場合であっても、乖離の解消により、通常操船モード開始時におけるステアリング操作上の違和感を抑制することができる。
【0100】
本実施形態によれば、ステアリングホイール18は、左回転方向における回転可能角度が第1の角度位置θLに規制され且つ右回転方向における回転可能角度が第2の角度位置θRに規制されている。コントローラ30は、APモードにおいてステアリング角度が閾値角度THを超えて変化したことに応じて通常操船モードへ移行するよう制御する(S207)。通常操船モード中において、ステアリング角度が移行可能範囲(角度θ14および角度θ16)にある場合はAPモードへ切り替え、ステアリング角度が移行禁止範囲θ13、θ15にある場合はAPモードへ切り替えない(S105)。これにより、APモードにおいては、閾値角度THを超える回転操作が確保される。よって、APモードにおいては常に、ステアリングホイール18の回転操作によりAPモードを解除することができる。
【0101】
また、APモードの開始指示が取得された場合において、AP移行条件が成立せずAPモードへ移行しない場合は、その旨が報知される(S108、S110)ので、操船者にAPモードへ移行できないことを知らせることができる。その際、ステアリングホイール18を中立位置へステアリングを戻すよう報知し、その後、第2の所定時間内にAP移行条件が成立すれば、APモードへ移行する。従って、第2の所定時間内にステアリングホイール18を移行可能範囲へ位置させれば、再度の開始指示がなくてもAPモードへ移行させることができる(S109→S105→S106)。
【0102】
また、船速またはエンジン回転数の少なくとも一方に基づいて移行禁止範囲が決定されるので(S104)、APモードへの移行を円滑化することができる。
【0103】
また、APモードへ移行した旨を報知する際、ステアリングホイール18を中立位置へ戻すよう報知するので(S201)、ステアリング角度に対応する転舵角と船外機15の実転舵角との乖離が小さくなることが期待できる。そのため、通常操船モードへの復帰時におけるステアリング操作上の違和感を抑制することができる。しかも、ステアリングホイール18上に配置された操作子をAPモード中に操作しやすくなる。
【0104】
また、APモード中は、ステアリングホイール18が中立範囲に位置する場合は中立範囲に位置しない場合に比べて、回転操作に対する負荷が大きくなるよう制御されるので(S206)、ステアリングホイール18を中立範囲に維持させやすい。
【0105】
また、APモード中は、ステアリングホイール18が中立範囲から遠ざかる方向へ回転操作される場合は、中立範囲に近づく方向へ回転操作される場合に比べて、発生する負荷が大きくなる(S209、S210)。これにより、ステアリングホイール18を中立範囲へ戻すことを触覚的に促すことができる。
【0106】
本実施形態によればまた、APモードから通常操船モードへ移行させる復帰処理において、ステアリングホイール18が回転停止中である場合は、ステアリング角度に対応する転舵角と船外機15の実転舵角との乖離が小さくなるように転舵アクチュエータ37が制御される(停止中制御(第1の制御);S305)。
【0107】
これにより、ステアリング操作がなされなくても、通常操船モードへの復帰時には乖離が小さくなっているので、APモードの解除後におけるステアリング操作上の違和感を抑制することができる。
【0108】
また、停止中制御(S305)において、船外機15の転舵角の時間当たりの変化量Δを乖離の量に基づいて決定することで、違和感を適切な速さで解消することができる。しかも、目標時間内に乖離がなくなるように変化量Δを決定することで、目標時間内に違和感を解消することができる。
【0109】
あるいは、停止中制御(S305)において、変化量Δを、船速またはエンジン回転数の少なくとも一方に基づいて決定することで、通常操船モードへの移行を円滑化することができる。
【0110】
また、通常操船モード復帰処理(図8)の開始後、乖離がなくなったら当該復帰処理を終了すると共に通常操船モードを開始するので(S307)、通常操船モード開始時の違和感を抑制することができる。
【0111】
また、通常操船モードを開始した場合、その旨を報知することで(S308)、通常操船モードへの復帰を知らせることができる。
【0112】
また、コントローラ30は、ステアリングホイール18が回転停止中でない場合は、回転中制御(第2の制御;S306)を実行する。回転中制御においては、コントローラ30は、ステアリング角度に対応する転舵角が実転舵角から遠ざかる/近づく方向へステアリングホイール18が回転している場合は、ステアリングホイール18の回転量に対応する転舵角をより大きい/小さい値に補正した値だけ実転舵角を変化させる。これにより、通常操船モードへの移行を円滑化することができる。
【0113】
また、通常操船モード復帰処理において、ステアリングホイール18の回転と回転停止が繰り返された場合であっても、停止中制御と回転中制御とが切り替わり、乖離が適切に解消される(S304~S306)。これにより、通常操船モード開始時におけるステアリング操作上の違和感を抑制することができる。
【0114】
また、APモードの解除が指示されたこと、または、ステアリング角度が閾値角度THを超えて変化したことに応じて、通常操船モード復帰処理(図8)が開始される(S203→S207)。従って、手動操船の意思があり、且つ乖離が生じている可能性がある状況で復帰処理を開始し、乖離を低減させることができる。
【0115】
また、通常操船モード中にステアリング角度または実転舵角を取得できない状態となった後、第1の所定時間の経過前に両者を取得できる状態へ復帰したことに応じて、通常操船モード復帰処理(図8)が開始される(S102→S207)。これにより、乖離が生じている可能性がある状況で復帰処理を開始し、乖離を低減させることができる。
【0116】
以上、本発明をその好適な実施形態に基づいて詳述してきたが、本発明はこれら特定の実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の様々な形態も本発明に含まれる。
【0117】
本発明は、上記した実施形態の1以上の機能を実現するプログラムをネットワークや非一過性の記憶媒体を介してシステムや装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータの1以上のプロセッサがプログラムを読み出して実行する処理でも実現可能である。以上のプログラムおよび以上のプログラムを記憶する記憶媒体は、本発明を構成する。また、本発明は、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現可能である。
【0118】
なお、推進機は、動力としてエンジンを有するものに限定されず、電動機を用いたものであってもよい。
【0119】
なお、本発明の対象となる船舶は、船内機や船内外機を備える船舶、あるいはジェットボートであってもよい。
【符号の説明】
【0120】
18 ステアリングホイール、 30 コントローラ、 31 回転角度センサ、 59 切替スイッチ、 61 第1の取得部、 62 第2の取得部、 63 制御部、 θL 第1の角度位置、 θR 第2の角度位置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8